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特許70951193Dプリンターを使用してシリコーンエラストマー物品を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-24
(45)【発行日】2022-07-04
(54)【発明の名称】3Dプリンターを使用してシリコーンエラストマー物品を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/106 20170101AFI20220627BHJP
   B29C 64/295 20170101ALI20220627BHJP
   B29C 64/30 20170101ALI20220627BHJP
   B29C 64/35 20170101ALI20220627BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20220627BHJP
   B33Y 40/00 20200101ALI20220627BHJP
   B33Y 40/20 20200101ALI20220627BHJP
【FI】
B29C64/106
B29C64/295
B29C64/30
B29C64/35
B33Y10/00
B33Y40/00
B33Y40/20
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020563474
(86)(22)【出願日】2019-05-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-02
(86)【国際出願番号】 EP2019061736
(87)【国際公開番号】W WO2019215190
(87)【国際公開日】2019-11-14
【審査請求日】2020-12-25
(31)【優先権主張番号】18305570.6
(32)【優先日】2018-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507421304
【氏名又は名称】エルケム・シリコーンズ・フランス・エスアエス
【氏名又は名称原語表記】ELKEM SILICONES France SAS
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(73)【特許権者】
【識別番号】503161615
【氏名又は名称】ウニベルシテ クロード ベルナール リヨン 1
(73)【特許権者】
【識別番号】520328442
【氏名又は名称】アンスティチュ・ナシオナル・デ・シアンス・サプリケ・リヨン
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・マルケット
(72)【発明者】
【氏名】エドウィン-ジョフレイ・クルティアル
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-マルク・フランセ
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-533367(JP,A)
【文献】国際公開第2016/179242(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0057682(US,A1)
【文献】特表2018-521710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/10,64/106,64/20,64/295,
64/30,64/35,64/40
B33Y 10/00,30/00,40/00,40/20,
50/00,70/00,80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンエラストマー物品を製造する方法であって、次の工程:
1)水と少なくとも20質量%の少なくとも1種のポロキサマーとを含む組成物Cを容器内に用意する工程と、
2)組成物Cを含む容器を、必要とされる温度T1に置いて、ゲルを形成する工程と、
3)架橋性シリコーン組成物Xを、必要とされる温度T1で、3Dプリンターを用いて、2)で得られたゲルの中に印刷する工程と、
4)任意選択により、容器内で、印刷された組成物Xを、任意選択により加熱することによって、部分的に又は全体的に架橋させてシリコーンエラストマー物品を得る工程と、
5)任意選択により、工程4)で得られた容器を、組成物Cのゾル-ゲル転移温度より低い温度T3に置く工程と、
6)シリコーンエラストマー物品を回収する工程と、
7)任意選択により、得られたシリコーンエラストマー物品を、組成物Cのゾル-ゲル転移温度より低い温度T3で、洗浄する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
次の工程:
1)水と少なくとも20質量%の少なくとも1種のポロキサマーとを含む組成物Cを容器内に用意する工程と、
2)組成物Cを含む容器を、必要とされる温度T1に置いて、ゲルを形成する工程と、
3)架橋性シリコーン組成物Xを、必要とされる温度T1で、3Dプリンターを用いて、2)で得られたゲルの中に印刷する工程と、
4)容器内で、印刷された組成物Xを、任意選択により加熱することによって、部分的に又は全体的に架橋させてシリコーンエラストマー物品を得る工程と、
5)任意選択により、工程4)で得られた容器を、組成物Cのゾル-ゲル転移温度より低い温度T3に置く工程と、
6)シリコーンエラストマー物品を回収する工程と、
7)任意選択により、得られたシリコーンエラストマー物品を、組成物Cのゾル-ゲル転移温度より低い温度T3で、洗浄する工程と
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ポロキサマーが、ポリ(プロピレンオキシド)ブロック及びポリ(エチレンオキシド)ブロックからなるコポリマーである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ポロキサマーが、中央ポリ(プロピレンオキシド)ブロック及び2つの末端ポリ(エチレンオキシド)ブロックからなるトリブロックコポリマーである、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ポロキサマーが、ポロキサマーの総質量に基づいて25~90質量%のポリ(エチレンオキシド)単位を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ポロキサマーが、中央ポリ(プロピレンオキシド)ブロック及び2つの末端ポリ(エチレンオキシド)ブロックからなるトリブロックコポリマーであり、2つのポリ(エチレンオキシド)ブロックが各々、100+/-10個の反復単位を含み、ポリ(プロピレンオキシド)ブロックが55+/-10個の反復単位を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
組成物Cが、20~40質量%の少なくとも1種のポロキサマーを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
組成物Cが、
基、
酸、及び
官能化シラ
らなる群から選択される1種又は複数の化合物を更に含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
T1が、25~50℃の間に含まれ、かつ/又は
T3が、15℃より低
請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程5と工程6が入れ替えられている、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程5の後に、組成物Cを回収し、工程1に再循環させる、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
組成物Cが、組成物Cの総質量に基づいて21.5~22.5質量%のポロキサマーを含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
架橋性組成物Xが、1000mPa.秒~1000000mPa.秒の間に含まれる粘度を有する、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
架橋工程4が、30~90℃の間の温度で加熱することによって行われる、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
3Dプリンターでシリコーンエラストマー物品を製造するための制約環境での、請求項1から14のいずれか一項に規定の組成物Cの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3Dプリンターを使用してシリコーンエラストマー物品を製造する方法に関する。本発明はまた、この方法によって得ることが可能なシリコーンエラストマー物品に関する。
【背景技術】
【0002】
3D印刷では、重力、並びに印刷に使用する組成物の流動学的及び機械的性質が、特に、複雑な物品の製造に多大な影響を及ぼす。とりわけ、低粘度のシリコーン組成物(<100000mPa.秒)は、「地球の」重力を有する標準的な大気中で単純な及び複雑なオブジェクトを印刷することができない。実際に、これらのシリコーンの流動学的及び機械的性質によって、使用者は印刷中にオブジェクトを保持することができない。更に、大気圧及び表面張力によって、フィラメントの押出が困難になる。中粘度又は高粘度(100000mPa.秒超)を有するシリコーン配合物の場合、印刷適性は、流動学的及び機械的性質に依存する。しかし、複雑な形状を有する物品(すなわち、60°超の突出部、ブリッジ、又は5c超の高さを有する物品)を印刷することはできない。
【0003】
US20180057682は、ジブロックコポリマーであるポリスチレン-ブロック エチレン/プロピレン(SEP)と、トリブロックコポリマーであるポリスチレン-ブロック エチレン/ブチレン-ポリチレン(SEBS)とを鉱油中でブレンドすることによって得られる有機ミクロゲルの、3D印刷用の支持材としての使用を開示している。この有機ミクロゲルの流動学的性質は、シリコーン構造物の3D印刷におけるその使用を容易にするために、ジャミング転移を利用して調節することができる。硬化した部分は、有機ミクロゲル支持材を溶媒(メタノール)及び界面活性剤溶液で連続的に洗浄することによって有機ミクロゲル支持材から取り出すことが必要である。この支持材は、再生利用可能ではないと思われる。
【0004】
Hinton等(Science Advances、2015年、第1巻、第8号)によって、3種の異なるゲル:Carbopol 940、ETD 2020、及びUltrez 30(Lubrizol社)(これらは架橋酸性アクリルポリマーである)を使用してシリコーン3D物体を印刷する方法も開示されている。Carbopol 940は、最良の表面形態を与える。しかし、Carbopol 940は、正確なpH及び塩の制御を必要とし、これによって様々なタイプのシリコーンを印刷することが制限されるおそれがある。刊行物の表題に反して、ゲルは、それ以上は使用されないと思われる。これは、15分後に印刷されたシリコーンオブジェクトを取り出すために、Carbopol 940はPBS(ポリブタジエン/スチレン)溶液で希釈されるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】US20180057682
【非特許文献】
【0006】
【文献】Hinton等(Science Advances、2015年、第1巻、第8号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
よって、3Dプリンターを使用してシリコーンエラストマー物品を製造する方法であって、多種多様のシリコーンエラストマーを扱うことができる方法を提供する必要性が存在する。
【0008】
よって、本発明の第1の目的は、3Dプリンターを使用してシリコーンエラストマー物品を製造する方法であって、多種多様なシリコーン組成物で使用することができる方法を提供することである。
【0009】
本発明の別の目的は、複雑な形状の物品、すなわち、60°超の突出部、ブリッジ、又は5cm超の高さを有する物品の製造を可能にする、物品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
全てのこれらの目的は、シリコーンエラストマー物品を製造する方法であって、次の工程:
1)水と少なくとも20質量%の少なくとも1種のポロキサマーとを含む組成物Cを容器内に用意する工程と、
2)組成物Cを含む容器を、必要とされる温度T1に置いて、ゲルを形成する工程と、
3)架橋性シリコーン組成物Xを、必要とされる温度T1で、3Dプリンターを用いて、2)で得られたゲルの中に印刷する工程と、
4)任意選択により、容器内で、印刷された組成物Xを、任意選択により加熱することによって、部分的に又は全体的に架橋させてシリコーンエラストマー物品を得る工程と、
5)任意選択により、工程4)で得られた容器を、組成物Cのゾル-ゲル転移温度より低い温度T3に置く工程と、
6)シリコーンエラストマー物品を回収する工程と、
7)任意選択により、得られたシリコーンエラストマー物品を、組成物Cのゾル-ゲル転移温度より低い温度T3で、例えば水で、洗浄する工程と
を含む、方法に関する本発明によって実現される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ポロキサマーは、シリコーンエラストマーと非相溶性でなければならない。すなわち、ポロキサマーとシリコーンエラストマーとの間には相互貫入がない。これによって、有利なことに、製造されるシリコーン物品の良好な表面粗さ、すなわち、100nm未満の粗さを得ることが可能になる。
【0012】
更に、ポロキサマーは、物品のシリコーン表面を汚染することなく除去されなければならない。
【0013】
本発明によれば、ポロキサマーは、ポリ(プロピレンオキシド)ポリ(エチレンオキシド)ブロックコポリマーとも命名される、ポリ(プロピレンオキシド)(PO)及びポリ(エチレンオキシド)(EO)ブロックからなるコポリマーである。好ましくは、本発明によるポロキサマーは、ポリ(エチレンオキシド)ポリ(プロピレンオキシド)ポリ(エチレンオキシド)ブロックコポリマーとも命名される、中央POブロック及び2つの末端EOブロックからなるトリブロックコポリマーであり、すなわち、本発明によるポロキサマーは、好ましくは、EO-PO-EOトリブロックコポリマータイプのものである。
【0014】
ポロキサマーの重要な特性は、ゾル-ゲル転移温度プロセスで水を有するゲルを形成することである。ゾル-ゲル転移温度で、組成物の流動学的性質は、液体様の状態から固体様の状態に変化する。ポロキサマーの水溶液は、低温では液体であり、温度をより高くすると熱可逆性プロセスでゲルを形成する。これらの系で起こる転移は、ポロキサマー及びその濃度に依存する。本発明において、温度T1は、組成物Cがゲルを形成する温度に相当し、温度T3は、それを下回ると工程2で組成物Cによって形成されたゲルが液化する温度である。好ましくは、本発明において、ポロキサマー組成物Cは、周囲温度、すなわち、20~30℃の間の温度では固体であり、それより低い温度、すなわち、15℃を下回る温度では液体である。好ましくは、本発明において、ポロキサマーは、ポリ(プロピレンオキシド)(PO)及びポリ(エチレンオキシド)(EO)ブロックからなる。好ましくは、本発明のポロキサマーは、中央POブロック及び2つの末端EOブロックからなるトリブロックコポリマーであり、ポロキサマーの総質量に基づいて25~90質量%のEO単位、好ましくはポロキサマーの総質量に基づいて30~80質量%のEO単位、好ましくはポロキサマーの総質量に基づいて50~75質量%のEO単位を含む。
【0015】
より好ましくは、本発明によるポロキサマーは、中央POブロック及び2つの末端EOブロックからなるトリブロックコポリマーであり、2つのEOブロックは各々、20~300個の間の反復単位、好ましくは50~150個の間の反復単位を含み、POブロックは、10~100個の間の反復単位、好ましくは30~70個の間の反復単位を含む。
【0016】
有利には、本発明のポロキサマーは、70質量%+/-2質量%のEO単位を有する、中央POブロック及び2つの末端EOブロックからなるトリブロックコポリマーである。
【0017】
好ましい実施形態では、本発明によるポロキサマーは、中央POブロック及び2つの末端EOブロックからなるトリブロックコポリマーであり、2つのEOブロックは各々100+/-10個の反復単位を含み、POブロックは55+/-10個の反復単位を含む。そのようなポロキサマーは、例えば、BASF社によってPluronic F127(登録商標)という名称で販売されている。
【0018】
更に、ポロキサマー、とりわけPluronic F127(登録商標)は生体適合性であり、よって生物学的及び医療用途のための物品を調製するのに使用することができる。
【0019】
いかなる理論にも拘束されるものではないが、組成物Cから形成されたゲルは、低粘度の架橋組成物Xを印刷して更にシリコーンエラストマー物品を得ることを可能にする、制約環境としての機能を果たす。実際に、組成物Cから形成されたゲルは、印刷中に架橋組成物Xに一定の圧力を加え、それによって材料のいかなる下垂も生じないようにすることができる。加えられる圧力は、ビンガム流体の降伏応力パラメータを使用する流動学的特性評価(せん断速度に応じたせん断応力)で測定されてもよく、降伏応力の範囲は、好ましくは1~10kPaの間である。
【0020】
有利には、組成物Cから形成されたゲルは、自己回復性である。これによって、有利には、ゲルが同時に印刷構造を支持しながら、印刷ノズルが繰返しゲルの同じ領域を通過することが可能になる。
【0021】
好ましくは、組成物Cは、20~40質量%、より好ましくは20~30質量%、更により好ましくは20~25質量%の少なくとも1種のポロキサマー、好ましくは上記のもの等の少なくとも1種のポロキサマーを含む。有利には、組成物Cは、組成物Cの総質量に基づいて21.5~22.5質量%のポロキサマーを含む。
【0022】
有利には、本発明の方法によって得られたシリコーンエラストマー物品の表面の官能化をもたらすために、組成物Cは、
- 塩基、例えば、NaOH、
- 酸、例えば、酢酸、
- 官能化シラン、例えば、アミノ、エポキシ、ヒドロキシ、ポリエーテル(とりわけpH4~5の間に含まれるpHで安定な)基で官能化されたシラン
のうちから選択される1種又は複数の化合物を更に含むことができる。
【0023】
工程1において、組成物Cは、ゲルの形成を可能にする温度T1に置かなければならない。当業者であれば、その一般知識及び使用するポロキサマーに基づいて、温度範囲を決定することができる。好ましくは、T1は、20~50℃の間、好ましくは25~50℃の間、より好ましくは25~40℃の間、例えば25~35℃の間、更により好ましくは28~32℃の間に含まれる。
【0024】
本発明による方法において、組成物Xは、好ましくは1000mPa.秒~1000000mPa.秒の間に含まれる粘度を有する架橋性シリコーン組成物である。本発明による方法は、50000mPa.秒未満、好ましくは10000mPa.秒未満、例えば1000~5000mPa.秒の間に含まれる粘度を有する架橋性シリコーン組成物Xを印刷するように、とりわけ適合されている。
【0025】
本発明の記載において考察される全ての粘度は、25℃での「ニュートン」動的粘度の大きさ、すなわち、Brookfield粘度計を用いて、測定される粘度が速度勾配に依存しない程度に十分に低いせん断速度勾配でそれ自体公知の方式で測定される動的粘度に相当する。
【0026】
架橋性シリコーン組成物Xは、付加反応又は重縮合反応を通して架橋可能なシリコーン組成物であり得る。
【0027】
一実施形態では、架橋性シリコーン組成物Xは、付加反応を通して架橋可能なシリコーン組成物である。この実施形態では、組成物Xは、
(A)ケイ素原子に結合した少なくとも2つのC2~C6アルケニル基を1分子当たりに含む、少なくとも1種のオルガノポリシロキサン化合物A、
(B)同一の又は異なるケイ素原子に結合した少なくとも2つの水素原子を1分子当たりに含む、少なくとも1種のオルガノハイドロジェンポリシロキサン(organohydrogenopolysiloxane)化合物B、
(C)白金族からの少なくとも1種の金属又は化合物からなる、少なくとも1種の触媒Cat、
(D)任意選択により充填剤D、及び
(F)任意選択により架橋抑制剤F
を含む。
【0028】
オルガノポリシロキサンA
特に有利な態様によれば、ケイ素原子に結合した少なくとも2つのC2~C6アルケニル基を1分子当たりに含むオルガノポリシロキサンAは、以下を含む:
(i)同一であっても異なっていてもよい、次式を有する少なくとも2つのシロキシル単位(A.1):
【0029】
【化1】
【0030】
(式中、
- a=1又は2、b=0、1、又は2、a+b=1、2、又は3であり、
- 記号Wは、同一であっても異なっていてもよく、直鎖状又は分枝状C2~C6アルケニル基を表し,
- 記号Zは、同一であっても異なっていてもよく、1~30個の炭素原子を含有する一価炭化水素系の基を表し、好ましくは、1~8個の炭素原子を含有するアルキル基及び6~12個の間の炭素原子を含有するアリール基によって形成される群から選択され、更により優先的には、メチル、エチル、プロピル、3,3,3-トリフルオロプロピル、キシリル、トリル、及びフェニル基によって形成される群から選択される)、
(ii)及び任意選択により、次式を有する少なくとも1つのシロキシル単位:
【0031】
【化2】
【0032】
(式中、
- a=0、1、2、又は3であり、
- 記号Z1は、同一であっても異なっていてもよく、1~30個の炭素原子を含有する一価炭化水素系の基を表し、好ましくは1~8個の炭素原子を含有するアルキル基及び6~12個の間の炭素原子を含有するアリール基によって形成される群から選択され、更により優先的には、メチル、エチル、プロピル、3,3,3-トリフルオロプロピル、キシリル、トリル、及びフェニル基によって形成される群から選択される)。
【0033】
有利には、Z及びZ1は、メチル及びフェニル基によって形成される群から選択され、Wは、次の一覧:ビニル、プロペニル、3-ブテニル、5-ヘキセニル、9-デセニル、10-ウンデセニル、5,9-デカジエニル、及び6-11-ドデカジエニルから選択され、好ましくは、Wはビニルである。
【0034】
好ましい実施形態では、式(A.1)において、a=1、及びa+b=2又は3であり、式(A.2)において、c=2又は3である。
【0035】
これらのオルガノポリシロキサンAは、直鎖状、分枝状、又は環状構造を有してもよい。それらの重合度は、好ましくは2~5000の間である。
【0036】
それらが直鎖状ポリマーであるとき、それらは、シロキシル単位W2SiO2/2、WZSiO2/2、及びZ1 2SiO2/2によって形成される群から選択されるシロキシル単位D、並びにシロキシル単位W3SiO1/2、WZ2SiO1/2、W2ZSiO1/2、及びZ1 3SiO1/2によって形成される群から選択されるシロキシル単位Mから本質的に形成される。記号W、Z、及びZ1は上記の通りである。
【0037】
末端単位Mの例として、トリメチルシロキシ、ジメチルフェニルシロキシ、ジメチルビニルシロキシ、又はジメチルヘキセニルシロキシ基を挙げることができる。
【0038】
単位Dの例として、ジメチルシロキシ、メチルフェニルシロキシ、メチルビニルシロキシ、メチルブテニルシロキシ、メチルヘキセニルシロキシ、メチルデセニルシロキシ、又はメチルデカジエニルシロキシ基を挙げることができる。
【0039】
前記オルガノポリシロキサンAは、25℃で約10~1000000mPa.秒、一般的には25℃で約1000~120000mPa.秒の動的粘度を有する油であってもよい。
【0040】
それらが環状オルガノポリシロキサンであるとき、それらは、次式:W2SiO2/2、Z2SiO2/2、又はWZSiO2/2を有するシロキシル単位Dから形成され、これらは、ジアルキルシロキシ、アルキルアリールシロキシ、アルキルビニルシロキシ、又はアルキルシロキシタイプのものであってもよい。そのようなシロキシル単位の例は既に上で述べている。前記環状オルガノポリシロキサンAは、25℃で約1~5000mPa.秒の粘度を有する。
【0041】
好ましくは、オルガノポリシロキサン化合物Aは、0.001~30%の間、好ましくは0.01~10%の間のSi-ビニル単位の質量含有率を有する。
【0042】
オルガノハイドロジェンポリシロキサンB
好ましい実施形態によれば、オルガノハイドロジェンポリシロキサン化合物Bは、同一の又は異なるケイ素原子に結合した少なくとも2つの水素原子を1分子当たりに含有する、好ましくは同一の又は異なるケイ素原子に直接結合した少なくとも3個の水素原子を1分子当たりに含有するオルガノポリシロキサンである。
【0043】
有利には、オルガノハイドロジェンポリシロキサン化合物Bは、以下を含むオルガノポリシロキサンである:
(i)次式を有する少なくとも2つのシロキシル単位、好ましくは少なくとも3つのシロキシル単位:
【0044】
【化3】
【0045】
(式中、
- d=1又は2、e=0、1、又は2、d+e=1、2、又は3、
- 記号Z3は、同一であっても異なっていてもよく、1~30個の炭素原子を含有する一価炭化水素系の基を表し、好ましくは、1~8個の炭素原子を含有するアルキル基及び6~12個の間の炭素原子を含有するアリール基によって形成される群から選択され、更により優先的には、メチル、エチル、プロピル、3,3,3-トリフルオロプロピル、キシリル、トリル、及びフェニル基によって形成される群から選択される)、及び
(ii)任意選択により、次式を有する少なくとも1つのシロキシル単位:
【0046】
【化4】
【0047】
(式中、
- c=0、1、2、又は3、
- 記号Z2は、同一であっても異なっていてもよく、1~30個の炭素原子を含有する一価炭化水素系の基を表し、好ましくは、1~8個の炭素原子を含有するアルキル基及び6~12個の間の炭素原子を含有するアリール基によって形成される基から選択され、更により優先的には、メチル、エチル、プロピル、3,3,3-トリフルオロプロピル、キシリル、トリル、及びフェニル基によって形成される基から選択される)。
【0048】
オルガノハイドロジェンポリシロキサン化合物Bは、式(B.1)のシロキシル単位だけから形成されても、式(B.2)の単位も含んでもよい。それは、直鎖状、分枝状、又は環状構造を有してもよい。重合度は、好ましくは2以上である。より一般的には、それは5000未満である。
【0049】
式(B.1)のシロキシル単位の例は、とりわけ次の単位:H(CH3)2SiO1/2、HCH3SiO2/2、及びH(C6H5)SiO2/2である。
【0050】
それらが直鎖状ポリマーであるとき、それらは、
- 次式Z2 2SiO2/2又はZ3HSiO2/2を有する単位から選択されるシロキシル単位D、及び
- 次式Z2 3SiO1/2又はZ3 2HSiO1/2を有する単位から選択されるシロキシル単位M
から本質的に形成され、記号Z2及びZ3は上記の通りである。
【0051】
これらの直鎖状オルガノポリシロキサンは、25℃で約1~100000mPa.秒、一般的には25℃で約10~5000mPa.秒の動的粘度を有する油であってもよいし、又は25℃で約1000000mPa.秒以上の粘度を有する高粘度の油であってもよい。
【0052】
それらが環状オルガノポリシロキサンであるとき、それらは、次式Z2 2SiO2/2及びZ3HSiO2/2を有するシロキシル単位Dから形成され、これらは、ジアルキルシロキシ若しくはアルキルアリールシロキシタイプのものであっても、又は単位Z3HSiO2/2だけのものであってもよい。それらはこのとき約1~5000mPa.秒の粘度を有する。
【0053】
直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン化合物Bの例は、ヒドロゲノジメチルシリル末端基を有するジメチルポリシロキサン、トリメチルシリル末端基を有するジメチルヒドロゲノメチルポリシロキサン、ヒドロゲノジメチルシリル末端基を有するジメチルヒドロゲノメチルポリシロキサン、トリメチルシリル末端基を有するヒドロゲノメチルポリシロキサン、及び環状ヒドロゲノメチルポリシロキサンである。
【0054】
一般式(B.3)に相当するオリゴマー及びポリマーは、オルガノハイドロジェンポリシロキサン化合物Bとしてとりわけ好ましい:
【0055】
【化5】
【0056】
(式中、
- x及びyは、0~200の間の範囲の整数であり、
- 記号R1は、同一であっても異なっていてもよく、互いに独立に以下を表す:
・ 少なくとも1種のハロゲン、好ましくはフッ素で任意選択により置換されている、1~8個の炭素原子を含有する直鎖状又は分枝状アルキル基であって、好ましくはメチル、エチル、プロピル、オクチル、及び3,3,3-トリフルオロプロピルであるアルキル基、
・ 5~8個の間の環状炭素原子を含有するシクロアルキル基、
・ 6~12個の間の炭素原子を含有するアリール基、又は
・ 5~14個の間の炭素原子を含有するアルキル部分と、6~12個の間の炭素原子を含有するアリール部分とを有するアラルキル基)。
【0057】
次の化合物は、オルガノハイドロジェンポリシロキサン化合物Bとして本発明に特に適している:
【0058】
【化6】
【0059】
(a、b、c、d、及びeは以下に定義される:
- 式S1のポリマーでは、
- 0≦a≦150、好ましくは0≦a≦100、より詳細には0≦a≦20であり、
- 1≦b≦90、好ましくは10≦b≦80、より詳細には30≦b≦70であり、
- 式S2のポリマーでは、0≦c≦15であり、
- 式S3のポリマーでは、5≦d≦200、好ましくは20≦d≦100であり、2≦e≦90、好ましくは10≦e≦70である)。
【0060】
特に、本発明での使用に適したオルガノハイドロジェンポリシロキサン化合物Bは、a=0である式S1の化合物である。
【0061】
好ましくは、オルガノハイドロジェンポリシロキサン化合物Bは、0.2~91%の間、好ましくは0.2~50%の間のSiH単位の質量含有率を有する。
【0062】
ある実施形態では、オルガノハイドロジェンポリシロキサン化合物Bは、分枝状ポリマーである。前記分枝状オルガノハイドロジェンポリシロキサン化合物Bは、
a)式R3SiO1/2のシロキシル単位M、式R2SiO2/2のシロキシル単位D、式RSiO3/2のシロキシル単位T、及び式SiO4/2のシロキシル単位Q(式中、Rは、1~20個の炭素原子又は水素原子を有する一価炭化水素基を示す)から選択される少なくとも2つの異なるシロキシル単位を含むが、
b)これらのシロキシル単位の少なくとも1つはシロキシル単位T又はQであり、シロキシル単位M、D、又はTの少なくとも1つはSi-H基を含有することを条件とする。
【0063】
よって、好ましい一実施形態によれば、分枝状オルガノハイドロジェンポリシロキサン化合物Bは、次の群から選択することができる:
- 次のものから本質的に形成される、式M'Qのオルガノポリシロキサン樹脂:
(a)式R2HSiO1/2の一価シロキシル単位M'、及び
(b)式SiO4/2の四価シロキシル単位Q、並びに
- 次の単位から基本的に構成される、式MD'Qのオルガノポリシロキサン樹脂:
(a)式RHSiO2/2の二価シロキシル単位D'、
(b)式R3SiO1/2の一価シロキシル単位M、及び
(c)式SiO4/2の四価シロキシル単位Q
(式中、Rは、1~20個の炭素原子を有する一価ヒドロカルビルを表し、好ましくは、1~12個、より好ましくは1~8個の炭素原子を有する、一価脂肪族又は芳香族ヒドロカルビルを表す)。
【0064】
更なる実施形態として、少なくとも1種の直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン化合物Bと少なくとも1種の分枝状オルガノハイドロジェンポリシロキサン化合物Bとの混合物を使用することができる。この場合、直鎖状及び分枝状オルガノハイドロジェンポリシロキサン化合物Bは、広範な任意の割合で混合することができ、混合の割合は、硬度及びSi-Hのアルケニル基に対する比率等、所望の製品特性に応じて調整されてもよい。
【0065】
本発明の文脈において、オルガノポリシロキサンAの割合及びオルガノハイドロジェンポリシロキサンBの割合は、オルガノハイドロジェンポリシロキサンB中のケイ素に結合した水素原子(Si-H)の、オルガノポリシロキサンA中のケイ素に結合したアルケニル基(Si-CH=CH2)に対するモル比が、0.2~20の間、好ましくは0.5~15の間、より優先的には0.5~10の間、更により優先的には0.5~5の間であるような割合である。
【0066】
触媒Cat
白金族からの少なくとも1種の金属又は化合物からなる触媒Catは、よく知られている。白金族の金属は、プラチノイドという名称で知られているものであり、この用語は、白金の他に、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、及びイリジウムも合わせて含む。白金及びロジウム化合物が、好ましくは使用される。米国特許第3159601(A)号、米国特許第3159602(A)号、米国特許第3220972(A)号、及び欧州特許第0057459(A)号、欧州特許第0188978(A)号、及び欧州特許第0190530(A)号に記載される白金と有機生成物との錯体、並びに米国特許第3419593(A)号、米国特許第3715334(A)号、米国特許第3377432(A)号、及び米国特許第3814730(A)号に記載される白金とビニルオルガノシロキサンとの錯体が、特に使用されてもよい。具体例は、白金金属粉末、塩化白金酸、塩化白金酸とβ-ジケトンとの錯体、塩化白金酸とオレフィンとの錯体、塩化白金酸と1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサンとの錯体、上述の触媒を含有するシリコーン樹脂粉末の錯体、ロジウム化合物、例えば、式:RhCl(Ph3P)3、RhCl3[S(C4H9)2]3等によって表されるもの;テトラキス(トリフェニル)パラジウム、パラジウム黒とトリフェニルホスフィンとの混合物等である。
【0067】
白金触媒は、室温で十分に迅速な架橋を可能にするために、好ましくは触媒的に十分な量で使用されるべきである。典型的には、Pt金属の量に基づいて、全シリコーン組成物に対して、1~200質量ppm、好ましくは1~100質量ppm、より好ましくは1~50質量ppmの触媒が使用される。
【0068】
充填剤D
十分に高い機械的強度を可能にするために、付加架橋シリコーン組成物は、例えば、シリカ微粒子等の充填剤を、補強充填剤Dとして含むことができる。沈降シリカ及びヒュームドシリカ、並びにそれらの混合物を使用することができる。これらの積極的補強充填剤の比表面積は、BET法によって決定されたときに、少なくとも50m2/g、好ましくは100~400m2/gの範囲内であるべきである。この種の積極的補強充填剤は、シリコーンゴムの分野内で非常によく知られている材料である。前述のシリカ充填剤は、親水性の特性を有していてもよく、又は公知のプロセスによって疎水化されていてもよい。
【0069】
好ましい実施形態では、シリカ補強充填剤は、BET法によって決定されたときに少なくとも50m2/g、好ましくは100~400m2/gの範囲内の比表面積を有するヒュームドシリカである。ヒュームドシリカは、未処理の形態でそのまま使用されてもよいが、好ましくは疎水性の表面処理に供される。疎水性表面処理されたヒュームドシリカを使用する場合、予め疎水性表面処理に供されたヒュームドシリカを使用してもよいし、又はヒュームドシリカをオルガノポリシロキサンAと混合する間に表面処理剤を添加して、ヒュームドシリカがその場で処理されるようにしてもよい。
【0070】
表面処理剤は、アルキルアルコキシシラン、アルキルクロロシラン、アルキルシラザン、シランカップリング剤、チタネート系処理剤、及び脂肪酸エステル等の、従来から使用されている薬剤のいずれかから選択されてもよく、単一の処理剤を使用しても、又は2種以上の処理剤の組み合わせを使用してもよく、それらを同時に使用しても、又は異なるタイミングで使用してもよい。
【0071】
付加架橋シリコーン組成物中のシリカ補強充填剤Dの量は、全組成物の5質量%~40質量%、好ましくは10質量%~35質量%の範囲内である。この配合量が5質量%未満であれば、適切なエラストマー強度を得ることができないおそれがあり、その一方で、配合量が40質量%を超えるならば、実際の配合プロセスが困難になるおそれがある。
【0072】
本発明によるシリコーン組成物は、標準的な半補強若しくはパッキング充填剤(packing filler)、ヒドロキシル官能性シリコーン樹脂、顔料、又は接着促進剤のような他の充填剤も含んでもよい。
【0073】
半補強又はパッキング無機充填剤として含まれてもよい非ケイ質無機物は、カーボンブラック、二酸化チタン、酸化アルミニウム、アルミナ水和物、炭酸カルシウム、石英粉末、珪藻土、酸化亜鉛、マイカ、タルク、酸化鉄、硫酸バリウム、及び消石灰からなる群から選択することができる。
【0074】
シリコーン樹脂は、Q:SiO2/2及びT:R1SiO3/2である、少なくとも1つのT及び/又は1つのQシロキシ単位を含むオルガノポリシロキサンを示す。ヒドロキシル官能性シリコーン樹脂はよく知られており、MQ(OH)、MDT(OH)、又はDT(OH)樹脂から選択することができ、ここで、M:R1R2R3SiO1/2、D:R1R2SiO2/2、Q(OH):(OH)SiO3/2、及びT(OH):(OH)R1SiO2/2であり、R1、R2、及びR3基は互いに独立に、
- 1つ又は複数のハロゲン原子によって任意選択により置換されている、1~8個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状アルキル基、及び
- 6から14個の炭素原子を含有する、アリール又はアルキルアリール基
から選択される。
【0075】
好ましくは、ヒドロキシル官能性シリコーン樹脂は、MQ(OH)樹脂である。
【0076】
架橋抑制剤F
架橋抑制剤は、周囲温度での組成物の硬化を遅らせるために、付加架橋シリコーン組成物に汎用される。架橋抑制剤Fは、次の化合物から選択されてもよい:
- アセチレン系アルコール、
- 任意選択により環状形態であってもよい、少なくとも1つのアルケニルで置換されているオルガノポリシロキサン、テトラメチルビニルシクロテトラシロキサンが特に好ましい、
- ピリジン、
- 有機ホスフィン及びホスファイト、
- 不飽和アミド、並びに
- マレイン酸アルキル又はアルケニル。
【0077】
これらのアセチレン系アルコール(FR-B-1 528 464及びFR-A-2 372 874を参照されたい)は、好ましいヒドロシリル化反応熱遮断剤のうちの1つであり、次式を有する:
(R')(R")(OH)C-C≡CH
(式中、R'は、直鎖状若しくは分枝状アルキル基、又はフェニル基であり;-R"は、H、又は直鎖状若しくは分枝状アルキル基、又はフェニル基であり;R'基とR"基と三重結合に対してα位の炭素原子とが環を形成していることもある)。
【0078】
R'及びR"に含有される炭素原子の総数は、少なくとも5であり、好ましくは9~20である。前記アセチレン系アルコールの場合、挙げることができる例には、
- 1-エチニル-1-シクロヘキサノール、
- 3-メチル-1-ドデシン-3-オール、
- 3,7,11-トリメチル-1-ドデシン-3-オール、
- 1,1-ジフェニル-2-プロピン-1-オール、
- 3-エチル-6-エチル-1-ノニン-3-オール、
- 2-メチル-3-ブチン-2-オール、
- 3-メチル-1-ペンタデシン-3-オール、及び
- マレイン酸ジアリル又はマレイン酸ジアリルの誘導体
が含まれる。
【0079】
好ましい実施形態では、架橋抑制剤は、1-エチニル-1-シクロヘキサノールである。
【0080】
より長い可使時間、すなわち「ポットライフ」を得るために、抑制剤の分量は、所望の「ポットライフ」に達するように調整される。本シリコーン組成物中の触媒抑制剤の濃度は、周囲温度での組成物の硬化を遅らせるのに十分である。この濃度は、使用する特定の抑制剤、ヒドロシリル化触媒の性質及び濃度、並びにオルガノハイドロジェンポリシロキサンの性質に応じて大きく変動することとなる。ある場合には、白金族金属1モル当たり抑制剤1モル程度の低い抑制剤濃度で、満足できる貯蔵安定性及び硬化速度が得られるであろう。他の場合には、白金族金属1モル当たり抑制剤最大500モル以上の抑制剤濃度が必要となることもある。所与のシリコーン組成物中の抑制剤の最適な濃度は、日常的な実験作業によって容易に決定することができる。
【0081】
有利には、付加架橋シリコーン組成物中の架橋抑制剤Fの量は、シリコーン組成物の総質量に対して0,01質量%~0,2質量%、好ましくは0,03質量%~0,15質量%の範囲内である。
【0082】
抑制剤の使用は、ノズルの先端でのシリコーン組成物の早期硬化、及びその後の印刷層の変形を回避するのに効果的である。
【0083】
任意選択により、シリコーン組成物Xは、チキソトロープ剤を更に含むことができる。チキソトロープ剤は、オルガノポリシロキサン-ポリオキシアルキレンコポリマーFであり得る。
【0084】
ポリジオルガノシロキサン-ポリエーテルコポリマー又はポリアルキレンオキシド変性ポリメチルシロキサンとしても知られる、オルガノポリシロキサン-ポリオキシアルキレンコポリマーFは、酸化アルキレン鎖配列を持つシロキシル単位を含有するオルガノポリシロキサンである。好ましくは、オルガノポリシロキサン-ポリオキシアルキレンコポリマーFは、エチレンオキシド鎖配列及び/又はプロピレンオキシド鎖配列を持つシロキシル単位を含有するオルガノポリシロキサンである。
【0085】
好ましい実施形態では、オルガノポリシロキサン-ポリオキシアルキレンコポリマーFは、式(F-1)の単位を含むシロキシルを含有するオルガノポリシロキサンである:
[R1 aZbSiO(4-a-b)/2]n (F-1)
(式中、
各々のR1は独立に、1~30個の炭素原子を含有する炭化水素系の基から選択され、好ましくは、1~8個の炭素原子を含有するアルキル基及び6~12個の間の炭素原子を含有するアリール基によって形成される群から選択され、
各々のZは、-R2-(OCpH2p)q(OCrH2r)S-OR3基であり、
nは、2より大きい整数であり、
a及びbは独立に、0、1、2、又は3であり、a+b=0、1、2、又は3であり、
R2は、2~20個の炭素原子を有する二価炭化水素基又は直接結合であり、
R3は、水素原子、又はR1に関して定義した通りの基であり、
p及びrは独立に、1~6の整数であり、
q及びsは独立に、0又は1<q+s<400であるような整数であり、
オルガノポリシロキサン-ポリオキシアルキレンコポリマーFの各々の分子は、少なくとも1つのZ基を含有する)。
【0086】
好ましい実施形態では、上の式(F-1)において、
nは、2より大きい整数であり、a+b=0、1、2、又は3であり、
a及びbは独立に、0、1、2、又は3であり、
R1は、1~8個の炭素原子を含有するアルキル基であり、最も好ましくは、R1はメチル基であり、
R2は、2~6個の炭素原子を有する二価炭化水素基又は直接結合であり、
p=2及びr=3であり、
qは、1~40の間、最も好ましくは5~30の間に含まれ、
sは、1~40の間、最も好ましくは5~30の間に含まれ、
R3は、水素原子又は1~8個の炭素原子を含有するアルキル基であり、最も好ましくは、R3は水素原子である。
【0087】
最も好ましい実施形態では、オルガノポリシロキサン-ポリオキシアルキレンコポリマーFは、1~200に含まれる、好ましくは50~150の間のシロキシル単位(F-1)の総数、及び2~25の間に含まれる、好ましくは3~15の間のZ基の総数を含有するオルガノポリシロキサンである。
【0088】
本発明の方法に使用することができるオルガノポリシロキサン-ポリオキシアルキレンコポリマーFの例は、式(F-2)に相当する
Ra 3SiO[Ra 2SiO]t[RaSi(Rb-(OCH2CH2)x(OC3H6)y-ORc)O]rSiRa 3 (F-2)
(式中、
各々のRaは独立に、1~8個の炭素原子を含有するアルキル基から選択され、好ましくはRaはメチル基であり、
各々のRbは、2~6個の炭素原子を有する二価炭化水素基又は直接結合であり、好ましくはRbはプロピル基であり、
x及びyは独立に、1~40、好ましくは5~30、最も好ましくは10~30に含まれる整数であり、
tは、1~200、好ましくは25~150に含まれ、
rは、2~25、好ましくは3~15に含まれ、
Rcは、H又はアルキル基、優先的にはH又はCH3基である)。
【0089】
有利には、ある実施形態では、オルガノポリシロキサン-ポリオキシアルキレンコポリマーFは、
Me3SiO[Me2SiO]75[MeSi((CH2)3-(OCH2CH2)22(OCH2CH(CH3))22-OH)O]7SiMe3
である。
【0090】
ポリジオルガノシロキサン-ポリオキシアルキレンコポリマーを調製する方法は、当技術分野でよく知られている。例えば、ポリジオルガノシロキサン-ポリオキシアルキレンコポリマーは、ヒドロシリル化反応を使用して、例えば、ケイ素に結合した水素原子を含有するポリジオルガノシロキサンを、脂肪族不飽和を有する基を含有するポリオキシアルキレンと白金族触媒の存在下で反応させることによって、調製することができる。
【0091】
付加架橋シリコーン組成物中のオルガノポリシロキサン-ポリオキシアルキレンコポリマーFの量は、シリコーン組成物の総質量に対して、少なくとも0.3質量%、好ましくは少なくとも0.4質量%、最も好ましくは0.6質量%~4質量%の範囲内、更に最も好ましくは、0.6質量%~3質量%である。
【0092】
好ましい実施形態では、本発明の架橋性シリコーン組成物Xは、シリコーン組成物100質量%当たり、
- 55~80質量%の少なくとも1種のオルガノポリシロキサン化合物A、
- 0.1~5質量%の少なくとも1種のオルガノハイドロジェンポリシロキサン化合物B、
- 0~20質量%の少なくとも1種の充填剤、好ましくは補強シリカ充填剤D、
- 0.002~0.01質量%の白金、及び
- 0.01~0.2質量%の少なくとも1種の架橋抑制剤E
を含む。
【0093】
組成物は、単一の液中に成分A~Eを含む1液型組成物、或いは2種以上の液中にこれらの成分を含む多液型組成物であり得るが、成分B及びCatは同じ液中に存在しないことを条件とする。例えば、多液型組成物は、成分Aの一部及び成分Catの全部を含有する第1液と、成分Aの残部と成分Bの全部とを含有する第2液とを含むことができる。ある種の実施形態では、成分Aは第1液中にあり、成分Bは第1液とは別の第2液中にあり、成分Catは、第1液、第2液、及び/又は第1及び第2液とは別の第3液中にある。成分D及びEは、成分B又はCatの少なくとも一方と共にそれぞれの液(又は複数の液)中に存在してもよく、及び/又は別の液(又は複数の液)中に存在することができる。
【0094】
1液型組成物は、典型的には、主要成分と任意の任意選択による成分とを前述の割合で、周囲温度で組み合わせることによって調製される。様々な成分の添加の順序は重要ではないが、組成物をすぐに使用しようとする場合、ヒドロシリル化触媒は、組成物の早期硬化を防止するために、典型的には、約30℃を下回る温度で最後に添加される。
【0095】
また、多液型組成物は、各々の液中にある成分を組み合わせることによって調製することができる。組み合わせは、特定のデバイス中で、バッチ式又は連続式プロセスで、ブレンド又は撹拌等の当技術分野で理解される技法のいずれかによって遂行することができる。特定のデバイスは、成分の粘度及び最終組成物の粘度によって決定される。
【0096】
ある種の実施形態では、シリコーン組成物が多液型シリコーン組成物であるとき、多液型シリコーン組成物の別々の液は、分注印刷ノズル、例えば、二重分注印刷ノズル内で、印刷前及び/又は印刷中に混合されてもよい。或いは、別々の液を、印刷の直前に組み合わせてもよい。
【0097】
別の実施形態では、架橋性シリコーン組成物Xは、当業者によく知られている重縮合反応を通して架橋可能なシリコーン組成物である。この実施形態では、組成物Xは、
- OH基及び加水分解性基からなる群から選択される少なくとも2つの基を含む、少なくとも1種のオルガノポリシロキサンG、
- 重縮合触媒、
- 任意選択により、少なくとも1種の架橋剤H、並びに
- 任意選択により、前に開示した充填剤D
を含む。
【0098】
好ましくは、オルガノポリシロキサンGは、ヒドロキシ、アルコキシ(alcoxy)、アルコキシ-アルキレン-オキシ、アミノ、アミド、アシルアミノ、アミノキシ、イミノキシ、ケチミノキシ(cetiminoxy)、アシルオキシ、及びエノキシ基からなる群の中から選択される少なくとも2つの基を含む。
【0099】
有利には、ポリオルガノシロキサンGは、以下を含む:
(i)少なくとも2つの式(V)のシロキシル単位:
【0100】
【化7】
【0101】
(式中、
- R1は、同一であるか又は異なっており、1~30個の炭素原子を含む一価炭化水素基を表し、
- Yは、同一であるか又は異なっており、各々、加水分解性及び縮合性基又はヒドロキシ基を表し、好ましくは、ヒドロキシ、アルコキシ、アルコキシ-アルキレン-オキシ、アミノ、アミド、アシルアミノ、アミノキシ、イミノキシ、ケチミノキシ、アシルオキシ、イミノキシ、ケチミノキシ、及びエノキシ基からなる群の中から選択され、
- gは、0、1、又は2、hは、1、2、又は3、g+hの合計は、1、2、又は3である)、及び
(ii)任意選択により、1つ又は複数の式(VI)のシロキシル単位:
【0102】
【化8】
【0103】
(式中、
- R2は、同一であるか又は異なっており、1つ又は複数のハロゲン原子、又はアミノ、エーテル、エステル、エポキシ、メルカプト、若しくはシアノ基によって任意選択により置換されている、1~30個の炭素原子を含む一価炭化水素基を表し、
- iは、0、1、2、又は3である)。
【0104】
アルコキシタイプの加水分解性及び縮合性基Yの例として、1~8個の炭素原子を有する基、例えば、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソ-プロポキシ、n-ブトキシ、イソ-ブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ、2-メトキシエトキシ、ヘキシルオキシ、又はオクチルオキシを挙げることができる。
【0105】
アルコキシ-アルキレン-オキシタイプの加水分解性及び縮合性基Yの例として、メトキシ-エチレン-オキシを挙げることができる。
【0106】
アミノタイプの加水分解性及び縮合性基Yの例として、メチルアミノ、ジメチルアミノ、エチルアミノ、ジエチルアミノ、n-ブチルアミノ、sec-ブチルアミノ、又はシクロヘキシルアミノを挙げることができる。
【0107】
アミドタイプの加水分解性及び縮合性基Yの例として、N-メチル-アセトアミドを挙げることができる。
【0108】
アシルアミノタイプの加水分解性及び縮合性基Yの例として、ベンゾイル-アミノを挙げることができる。
【0109】
アミノキシタイプの加水分解性及び縮合性基Yの例として、ジメチルアミノキシ、ジエチルアミノキシ、ジオクチルアミノキシ、又はジフェニルアミノキシを挙げることができる。
【0110】
イミノキシ、特にケチミノキシタイプの加水分解性及び縮合性基Yの例として、次のオキシム:アセトフェノン-オキシム、アセトン-オキシム、ベンゾフェノン-オキシム、メチル-エチル-ケトキシム(cetoxime)、ジ-イソプロピルケトキシム、又はメチルイソブチル-ケトキシムから誘導される基を挙げることができる。
【0111】
アシルオキシタイプの加水分解性及び縮合性基Yの例として、アセトキシを挙げることができる。
【0112】
エノキシタイプの加水分解性及び縮合性基Yの例として、2-プロペノキシを挙げることができる。
【0113】
オルガノポリシロキサンGの粘度は一般に、25℃で50mPa.秒~1000000mPa.秒の間に含まれる。
【0114】
好ましくは、オルガノポリシロキサンGは、式(VII)のものである:
【0115】
YjR3 3-jSi-O-(SiR3 2-O)p-SiR3 3-jYj (VII)
【0116】
(式中、
- Yは、同一であるか又は異なっており、各々、加水分解性及び縮合性基又はヒドロキシ基を表し、好ましくは、ヒドロキシ、アルコキシ、アルコキシ-アルキレン-オキシ、アミノ、アミド、アシルアミノ、アミノキシ、イミノキシ、ケチミノキシ、アシルオキシ、及びエノキシからなる群の中から選択され、
- R3は、同一であるか又は異なっており、1~30個の炭素原子を含み、1つ又は複数のハロゲン原子、又はアミノ、エーテル、エステル、エポキシ、メルカプト、若しくはシアノ基によって任意選択により置換されている一価炭化水素基を表し、
- jは、1、2、又は3であり、好ましくは2又は3であり、Yがヒドロキシル基のとき、j=1であり、
- pは、1以上の整数であり、好ましくは、pは、整数1~2000の間に含まれる整数である)。
【0117】
式(V)、(VI)、及び(VII)において、R1、R2、及びR3は、好ましくは、以下である:
- 1つ若しくは複数のアリール若しくはシクロアルキル基によって、1つ若しくは複数のハロゲン原子によって、又はアミノ、エーテル、エステル、エポキシ、メルカプト、シアノ、若しくは(ポリ)グリコール基によって任意選択により置換されている、1~20個の炭素原子を含むアルキル基。例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、エチル-2ヘキシル、オクチル、デシル、トリフルオロ-3,3,3プロピル、トリフルオロ-4,4,4ブチル、ペンタフルオロ-4,4,4,3,3ブチル、
- 5~13個の炭素原子を含むシクロアルキル及びハロゲノシクロアルキル基、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル、メチルシクロヘキシル、プロピルシクロヘキシル、ジフルオロ-2,3シクロブチル、ジフルオロ-3,4メチル-5シクロヘプチル、
- 6~13個の炭素原子を含むアリール及びハロゲノアリール単核(mononuclear)、例えば、フェニル、トリル、キシリル、クロロフェニル、ジクロロフェニル、トリクロロフェニル、或いは
- 2~8個の炭素原子を含むアルケニル基、例えば、ビニル、アリル、及びブテン-2イル。
【0118】
特定の実施形態では、Gが式(VII)のもので、Yがヒドロキシルタイプのものであるとき、dは好ましくは1である。この場合、末端シラノール基を有するポリ(ジメチルシロキサン)(「アルファ-オメガ」位とも呼ばれる)を使用することが好ましい。
【0119】
オルガノポリシロキサンGはまた、縮合性又は加水分解性である少なくとも1つのヒドロキシ又はアルコキシ基を持つオルガノポリシロキサン樹脂であって、式M、D、T、及びQ
- M=(R0)3SiO1/2
- D=(R0)2SiO2/2
- T=R0SiO3/2、及び
- Q=SiO4/2
[式中、R0は、1~40個の炭素原子、好ましくは1~20個の炭素原を含む一価炭化水素基、又は基-OR'''(R'''は、H、又は1~40個の炭素原子、好ましくは1~20個の炭素原子を含むアルキル基である)を表す]
の群の中から選択される少なくとも2つの異なるシロキシル単位を含むものからなる群から選択することができるが、ただし、樹脂は、少なくとも1つのモチーフT又はQ単位を含む。
【0120】
前記樹脂は、好ましくは、樹脂の質量に対して0.1~10質量%の間に含まれるヒドロキシ又はアルコキシ置換基の質量含有率を有し、好ましくは、樹脂の質量に対して0.2~5質量%の間に含まれるヒドロキシ又はアルコキシ置換基の質量含有率を有する。
【0121】
該オルガノポリシロキサン樹脂は、一般に、ケイ素原子当たり約0.001~1.5個のOH基及び/又はアルコキシルを有する。これらのオルガノポリシロキサン樹脂は一般に、式(R19)3SiCl、(R19)2Si(Cl)2、R19Si(Cl)3、又はSi(Cl)4のもの等のクロロシランの共加水分解及び共縮合によって調製され、R19基は、同一であるか又は異なっており、C1~C6の直鎖状又は分枝状アルキル、フェニル、及びトリフルオロ-3,3,3プロピルからなる群に含まれる。例えば、R19は、メチル、エチル、イソプロピル、tert-ブチル、及びn-ヘキシルである。
【0122】
樹脂の例は、T(OH)、DT(OH)、DQ(OH)、DT(OH)、MQ(OH)、MDT(OH)、MDQ(OH)タイプ又は混合物のケイ酸樹脂である。
【0123】
この第2の実施形態において、重縮合反応を通して架橋可能なシリコーン組成物は、そのような架橋剤Hを更に含むことができる。それは、好ましくは、ケイ素原子に連結する2超の加水分解性及び縮合性基を1分子当たりに持つオルガノケイ素化合物である。そのような作用剤は、当業者によく知られており、市販されている。
【0124】
架橋剤Hは、好ましくはケイ素化合物であって、その各々の分子が少なくとも3つの加水分解性及び縮合性Y基を含む化合物であり、前記作用剤Hは、式(VIII)を有する:
【0125】
R4 (4-k)SiYk (VIII)
【0126】
(式中、
- R4基は、同一であるか又は異なっており、C1~C30の一価炭化水素基を表し、
- Yは、同一であるか又は異なっており、アルコキシ、アルコキシ-アルキレン-オキシ、アミノ、アミド、アシルアミノ、アミノキシ、イミノキシ、ケチミノキシ、アシルオキシ、又はエノキシ基からなる群の中から選択され、好ましくは、Yは、アルコキシ、アシルオキシ、エノキシ、ケチミノキシ、又はオキシム基であり、
- k=2、3、又は4、好ましくは、k=3又は4である)。
【0127】
Y基の例は、上でGについて、Yが加水分解性及び縮合性基であるときに挙げたものと同じである。
【0128】
架橋剤Hの他の例は、式(IX)のアルコキシシラン及びシランの部分加水分解生成物である:
【0129】
R5 lSi(OR6)(4-l) (IX)
【0130】
(式中、
- R6は、同一であるか又は異なっており、1~8個の炭素原子を含むアルキル基、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、エチル-2ヘキシル、オクチル、及びデシル、C3~C6のオキシアルキレン基を表し、
- R5は、同一であるか又は異なっており、飽和又は不飽和の、直鎖状又は分枝状脂肪族炭化水素基、炭素環基、飽和若しくは不飽和及び/又は芳香族の単環又は多環を表し、
- lは、0、1、又は2である)。
【0131】
架橋剤Hのうち、有機基が1~4個の炭素原子を有するアルキル基である、アルコキシシラン、ケチミノキシシラン、アルキルシリケート、及びアルキルポリシリケートが好ましい。
【0132】
好ましくは、次の架橋剤Hが、単独で又は混合物で使用される:
○ エチルポリシリケート及びn-プロピルポリシリケート、
○ アルコキシシラン、例えば、ジアルコキシシラン、例えば、ジアルキルジアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、例えば、アルキルトリアルコキシシラン、及びテトラアルコキシシラン、好ましくは、プロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、1,2-ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン、テトラ-イソプロポキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、並びに次式:CH2=CHSi(OCH2CH2OCH3)3、Si(OC2H4OCH3)4、及びCH3Si(OC2H4OCH3)3のもの、
○ アシルオキシシラン、例えば、次のアセトキシシラン:テトラアセトキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、エチルトリアセトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、プロピルトリアセトキシシラン、ブチルトリアセトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、オクチルトリアセトキシシラン、ジメチルジアセトキシシラン、フェニルメチルジアセトキシシラン、ビニルメチルジアセトキシシラン、ジフェニルジアセトキシシラン、及びテトラアセトキシシラン、
○ アルコキシ及びアセトキシ基を含むシラン、例えば:メチルジアセトキシメトキシシラン、メチルアセトキシジメトキシシラン、ビニルジアセトキシメトキシシラン、ビニルアセトキシジメトキシシラン、メチルジアセトキシエトキシシラン、及びメチルアセトキシジエトキシシラン、
○ メチルトリス(メチルエチル-ケトキシモ(cetoximo))シラン、3-シアノプロピルトリメトキシシラン、3-シアノプロピル-トリエトキシシラン、3-(グリシジルオキシ)プロピルトリエトキシシラン、ビニルトリス(メチルエチルセトキシモ)シラン、テトラキス(メチルエチルセトキシモ)シラン。
【0133】
一般に、0.1~60質量部の架橋剤Hが、100質量部のポリオルガノシロキサンGに使用される。好ましくは、0.5~15質量部の架橋剤Hが、100質量部のポリオルガノシロキサンGに使用される。
【0134】
架橋性シリコーン組成物X(重縮合又は重付加のいずれかによる)は、シリコーン組成物に一般的な機能性添加剤を更に含むことができる。次の機能的分類の添加剤を挙げることができる:
- 接着促進剤、
- ケイ素樹脂、
- チキソトロープ剤、
- 着色剤、並びに
- 耐熱性、耐油性、及び耐火性のための添加剤、例えば、金属酸化物。
【0135】
重縮合触媒は、スズ、亜鉛、鉄、ジルコニウム、ビスマス、若しくはチタン誘導体、又は、例えばEP2268743及びEP2222688に開示されるようなアミン若しくはグアニジンとしての有機化合物であり得る。スズから誘導される縮合触媒として、モノカルボン酸スズ及びジカルボン酸スズのもの、例えば、2-エチルヘキサン酸スズ、ジブチルスズジラウレート、又はジブチルスズジアセテートが使用されてもよい(Nollによる著作、「Chemistry and Technology of Silicone」、337頁、Academic Press、1968年、第2版、又は欧州特許第147323号若しくは欧州特許第235049号を参照されたい)。他の可能な金属誘導体には、キレート、例えば、ジブチルスズアセトアセテート、スルホネート、アルコレート等が含まれる。
【0136】
接着促進剤は、シリコーン組成物に多用されている。有利なことに、本発明による方法では、以下からなる群の中から選択される1種又は複数の接着促進剤を使用することができる:
- 少なくとも1つのC2~C6アルケニル基を1分子当たりに含む、アルコキシル化オルガノシラン、
- 少なくとも1つのエポキシ基を含む、オルガノシリケート化合物、
- 金属M及び/又は次式の金属アルコキシドのキレート:
M(OJ)n
(式中、Mは、Ti、Zr、Ge、Li、Mn、Fe、Al、及びMg、又はそれらの混合物からなる群の中から選択され、
n=Mの原子価、及びJ=C1~C8の直鎖状又は分枝状アルキルである)。
【0137】
好ましくは、Mは、Ti、Zr、Ge、Li、又はMnからなる群の中から選択され、より好ましくは、Mはチタンである。例えば、ブトキシタイプのアルコキシ基と結合させることが可能である。
【0138】
ケイ素樹脂は、よく知られており、市販されている分枝状オルガノポリシロキサンである。ケイ素樹脂は、それらの構造において、式R3SiO1/2(M単位)、R2SiO2/2(D単位)、RSiO3/2(T単位)、及びSiO4/2(Q単位)のもののうちから選択される少なくとも2つの異なる単位を呈し、これらの単位の少なくとも1つは、T又はQ単位である。
【0139】
R基は、同一であるか又は異なっており、アルキル(C1~C6の直鎖状又は分枝状アルキル)、ヒドロキシル、フェニル、トリフルオロ-3,3,3プロピルからなる群の中から選択される。アルキル基は、例えば、メチル、エチル、イソプロピル、tert-ブチル、及びn-ヘキシルである。
【0140】
分枝状オリゴマー又はオルガノポリシロキサンポリマーの例として、MQ樹脂、MDQ樹脂、TD樹脂、及びMDT樹脂を挙げることができ、ヒドロキシル官能基は、M、D、及び/又はT単位が持つことができる。特によく適した樹脂の例として、0.2~10質量%のヒドロキシル基を有するヒドロキシル化MDQ樹脂を挙げることができる。
【0141】
工程3において、架橋性シリコーン組成物Xは、上で定義したような温度T1で印刷される。温度T1は、制約環境を保つために、3D印刷プロセスの間を通して維持されるべきである。
【0142】
印刷は、好ましくは3Dプリンターで層毎に実施される。有利には、3Dプリンターは、押出3Dプリンターである。
【0143】
有利には、温度T1を一定に維持するために、容器及び3Dプリンターは、温度調節された筐体内に入れられる。
【0144】
3D印刷は一般に、コンピュータによって生成される(例えば、コンピュータ援用設計(CAD))データソースから物理的オブジェクトを製作するために使用される多数の関連技術を伴っている。「3Dプリンター」は、「3D印刷に使用される機械」として定義され、「3D印刷」は、印刷ヘッド、ノズル、又は別のプリンター技術を使用して材料を堆積させることによるオブジェクトの製作」として定義される。
【0145】
「印刷」は、印刷ヘッド、ノズル、又は別のプリンター技術を使用して、材料、本明細書では架橋性シリコーン組成物X、を堆積させることとして定義される。
【0146】
この開示において、「3D若しくは三次元の物品、オブジェクト、又は部品」とは、上で開示する通りの付加製造又は3D印刷によって得られる物品、オブジェクト、又は部品を意味する。
【0147】
一般に、全ての3D印刷プロセスは共通の開始点を有しており、これは、コンピュータによって生成される、オブジェクトを記述することができるデータソース又はプログラムである。コンピュータによって生成されるデータソース又はプログラムは、実際の又は仮想のオブジェクトに基づくことができる。例えば、実際のオブジェクトは、3Dスキャナを使用してスキャンすることができ、スキャンデータを使用して、コンピュータによって生成されるデータソース又はプログラムを作製することができる。或いは、コンピュータによって生成されるデータソース又はプログラムは、コンピュータ援用設計ソフトウェアを使用して設計されてもよい。
【0148】
コンピュータによって生成されるデータソース又はプログラムは、典型的には、標準テッセレーション言語(STL)ファイル形式に変形されるが、他のファイル形式も使用することができ、又はSTLに加えて使用することができる。該ファイルは一般に3D印刷ソフトウェアに読み込まれ、該ソフトウェアはファイル及び任意選択によりユーザからの入力を受け取って、それを数百、数千、又は更には数百万の「スライス」に分割する。3D印刷ソフトウェアは、典型的には、各々のスライスを造形するために3Dプリンターによって読み取られるGコードの形態であり得る機械語命令を出力する。機械語命令は3Dプリンターに転送され、3Dプリンターは、次いで機械語命令の形態のこのスライス情報に基づいて、層毎にオブジェクトを造形する。これらのスライスの厚さは変動し得る。
【0149】
押出3Dプリンターは、製造プロセス中に材料がノズル、シリンジ、又はオリフィスを通して押出される3Dプリンターである。材料押出は一般に、ノズル、シリンジ、又はオリフィスを通して材料を押出してオブジェクトの一断面を印刷することによって機能し、それを各々の後続する層について繰り返すことができる。押出された材料は、材料が硬化する間にその下の層に結合する。
【0150】
好ましい一実施形態では、三次元のシリコーンエラストマー物品を製造する方法は、押出3Dプリンターを使用する。架橋性シリコーン組成物Xは、ノズルを通して押出される。ノズルは、付加架橋シリコーン組成物の分注を助けるために加熱されてもよい。
【0151】
ノズルを通して分注しようとするシリコーン組成物Xは、カートリッジ様システムから供給されてもよい。カートリッジは、1つ又は複数の関連流体リザーバーを有する、1つ又は複数ノズルを含んでもよい。スタティックミキサー及び1つだけのノズルを有する同軸2カートリッジシステムを使用することも可能である。圧力は、分注しようとする流体、関連ノズルの平均径、及び印刷速度に適合したものになろう。
【0152】
ノズル押出中に発生する高せん断速度のため、架橋シリコーン組成物Xの粘度は大幅に低下し、それによって微細な層の印刷が可能になる。
【0153】
カートリッジの圧力は、1(大気圧)~28バール、好ましくは1~10バール、最も好ましくは2~8バールに変動させることができると思われる。そのような圧力に耐えるように、アルミニウムカートリッジを使用する適合した機器を使用するべきである。
【0154】
ノズル及び/又は造形プラットフォームは、X-Y(水平面)内を移動してオブジェクトの断面を完成させ、1層が完成したら、その後Z軸(垂直)平面内を移動する。ノズルは、10μm前後の高いXYZ移動精度を有する。X、Y作業面で各々の層を印刷した後、ノズルは、次の層をX、Y作業面で施すことができるのに十分な距離だけZ方向に移動する。このようにして、3D物品になるオブジェクトは、底部から上に向かって1回に1層ずつ造形される。
【0155】
ノズルの平均径は、層の厚さに関連する。ある実施形態では、層の直径は、50~2000μm、好ましくは100~800μm、最も好ましくは100~500μmに含まれる。
【0156】
有利には、印刷速度は、良好な精度と製造速度との間の最良の折り合いをつけるために、1~50mm/秒の間、好ましくは5~30mm/秒の間に含まれる。
【0157】
本発明の方法の工程4は任意選択であり、とりわけ、架橋性シリコーン組成物X、温度T1、及び印刷されるオブジェクトのタイプに依存する。上で述べたように、架橋性シリコーン組成物Xは、付加反応を通して、又は重縮合反応を通して架橋可能なシリコーン組成物であり得る。当業者には、架橋性シリコーン組成物Xに応じて、架橋工程の反応速度が変動し得ることが公知である。3D印刷の分野の当業者に公知であるように、架橋は印刷工程が始まると直ちに始まり、その反応速度は組成物の性質に依存する。その目的は、形成された物品を、何も変形させずにその形状を保ちながら回収できるようにすることである。よって、場合によっては、工程3の終了時に、物品は、回収するのに十分な強度があることがあり、架橋は、必要であれば後で終了させることができる。工程4が実施されるとき、架橋は、物品を何も変形させずにその形状を保ちながら回収することが可能であれば、部分的であっても全体的であってもよい。好ましくは、工程4は任意選択ではない。
【0158】
架橋工程4は、使用する架橋性シリコーン組成物Xの機能において、当業者に公知の任意の方法によって行うことができる。よって、架橋工程は、シリコーン組成物Xが架橋されるまで数分又は数時間T1で待つことによって、又は温度T2で加熱することによって行うことができる。温度T2は、使用する架橋性シリコーン組成物Xに依存する。この温度は、使用する架橋性シリコーン組成物Xに関するその一般知識及び情報に基づいて、とりわけデータシートによって与えられる情報に基づいて、当業者が決定することができる。好ましくは、T2は、30~90℃の間、好ましくは40~70℃の間に含まれる。
【0159】
本発明による方法の工程5は、組成物Cから形成されたゲルを液化し、それによって少量のゲルしか有していないシリコーンエラストマー物品を工程6で回収することを可能にする。この工程によって、有利なことに、組成物Cの大部分を回収することができ、次いでそれを再循環させることができる。よって、温度T3は、当業者が組成物Cに基づいて決定することができる。好ましくは、T3は、15℃より低く、好ましくは0~15℃の間、好ましくは0~10℃の間に含まれる。
【0160】
好ましくは、本発明による方法において、
- T1は、25~50℃の間、好ましくは25~40℃の間、例えば25~35℃の間、より好ましくは28~32℃の間に含まれ、及び/又は
- T3は、15℃より低く、好ましくは0~15℃の間、好ましくは0~10℃の間に含まれる。
【0161】
特定の実施形態では、工程5は存在しない。
【0162】
好ましくは、工程5が存在しないとき、次に工程7が実施されて、工程6で回収されたシリコーンエラストマー物品の周囲の全てのゲルが除去される。
【0163】
工程5と6とは、入れ替えることができる。実際に、シリコーンエラストマー物品を取り出し、次いで物品上に残留するゲルを液化するために組成物Cのゾル-ゲル転移温度より低い温度T3に置くことができる。
【0164】
有利には、工程5及び7の後に、組成物Cを回収し、工程1に再循環させる。組成物Cは、少なくとも30回そのように再利用することができる。
【0165】
有利には、本発明によるポロキサマーを使用すると、本発明の方法において水以外の任意の溶媒を使用することを回避することができる。したがって、本発明の方法はまた、好ましくは、水以外の溶媒使用しないことを特徴とする。これは、とりわけ得られた物品の生物学的及び医療用途には非常に興味深い。
【0166】
上で述べたように、工程4の後に得られた架橋性シリコーン組成物Xは、部分的に架橋することができる。こうした場合、更なる架橋工程が、工程6又は7の後、プロセスの終了時に実施される。この更なる架橋工程は、使用する架橋性シリコーン組成物Xに応じて、当業者に公知の任意の手段で実施することができる。それは、例えば、加熱によって、例えば100~250℃の間で、又はUV照射下で、水銀アークランプでは50~240W/cmの間で、若しくは15mW/cm2より高い照射量を有するLEDで、実施することができる。
【0167】
任意選択により、得られた物品は、様々なポストプロセッシングレジームに供されてもよい。ある実施形態では、該方法は、三次元シリコーン物品を加熱する工程を更に含む。加熱を使用して、硬化を促進することができる。別の実施形態では、該方法は、三次元シリコーン物品を更に照射する工程を更に含む。更なる照射を使用して、硬化を促進することができる。別の実施形態では、該方法は、三次元シリコーン物品の加熱及び照射の両方の工程を更に含む。任意選択による、ポストプロセッシング工程は、印刷された物品の表面の品質を大幅に改善することができる。研磨は、モデルの視覚的に異質な層を低減する又は除去するための一般的な方法である。エラストマー物品の表面への熱又はUV硬化性RTV又はLSRシリコーン組成物の噴霧又は塗布を使用して、適度に滑らかな表面形態を得ることができる。レーザーでの表面処理も行うことができる。
【0168】
医療用途の場合、最終エラストマー物品の滅菌は、例えば、乾燥雰囲気中又はオートクレーブ中での蒸気での加熱(例えば、100℃より高い温度でオブジェクトを加熱することによって)、ガンマ線下、エチレンオキシドでの滅菌、電子ビームでの滅菌によって、得ることができる。
【0169】
本発明はまた、本発明による方法によって得られた又は得ることが可能なシリコーンエラストマー物品に関する。該物品は、単純な又は複雑な幾何学的形状を有する任意の物品であり得る。それは、例えば、心臓、腰部、腎臓、前立腺等の解剖学的モデル(機能的又は非機能的)、外科医及び教育界用のモデル、又は矯正装具若しくは人工補装具若しくは更には長期インプラント等の異なる部類のインプラント(補聴器、ステント、咽頭インプラント等)であり得る。
【0170】
本発明はまた、3Dプリンターでシリコーンエラストマー物品を製造するための制約環境での、本発明による組成物Cの使用に関する。
【0171】
本発明をこれから次の非限定的な実施例によって開示する。
【実施例
【0172】
工程1及び2:組成物Cの調製
組成物C1:21.75質量%のPluronic F127(登録商標)(BASF社)を水に溶解させた。この組成物を、30℃(T1)に置いた容器に入れてゲルを形成する。
組成物C2:21.75質量%のPluronic F127(登録商標)(BASF社)を10M NaOH水溶液(pH>8)に溶解させた。この組成物を、30℃(T1)に置いた容器に入れてゲルを形成する。
【0173】
架橋性シリコーン組成物Xの調製
組成物X1(25℃で粘度2000mPa.秒/せん断0.5秒-1)の調製:
組成物X1は、次の通りの第1のA液と第2のB液とを含む二成分組成物である:
- A液
- 両端がMe2ViSiO1/2単位によってブロックされ、600mPa.秒の粘度を有する、28.57部のジメチルポリシロキサン油
- 両端がMe2ViSiO1/2単位によってブロックされ、100000mPa.秒の粘度を有する、5部のジメチルポリシロキサン
- BET法によって測定したときに200m2/gの比表面積を有する、ヘキサメチルジシラザンで処理された、6.42部のヒュームドシリカ
- 両端がMe3SiO1/2単位によってブロックされ、50mPa.秒の粘度を有する、10部のジメチルシロキサン油
- A液において組成物のPt含有率が10ppmになるようにビニル油で希釈された、Karstedt触媒として公知の、有機金属錯体の形態に白金金属10質量%で導入された、白金金属
- B液:
- 両端がMe2ViSiO1/2単位によってブロックされ、600mPa.秒の粘度を有する、17.57部のジメチルポリシロキサン油
- 両端がMe2ViSiO1/2単位によってブロックされ、100000mPa.秒の粘度を有する、5部のジメチルポリシロキサン
- BET法によって測定したときに200m2/gの比表面積を有する、ヘキサメチルジシラザンで処理された、6.42部のヒュームドシリカ
- 両端がMe3SiO1/2単位によってブロックされ、50mPa.秒の粘度を有する、10部のジメチルシロキサン油
- 鎖中及び鎖末端にSi-H基を含み、およそ18,75%モルのSi-H基を含有する、11部のオルガノハイドロジェンポリシロキサン
- 0.005部のテトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン
【0174】
組成物X2(粘度>150000mPa.秒;25℃ せん断0.5秒-1)の調製:
組成物X2は、次の通りに調製される一成分組成物である。
第1の基剤を、以下を混合することによって調製する:
- 両端がMe2ViSiO1/2単位によってブロックされ、60000mPa.秒の粘度を有する、29部のジメチルポリシロキサン油
- 両端がMe2ViSiO1/2単位によってブロックされ、100000mPa.秒の粘度を有する、29部のジメチルポリシロキサン
- BET法によって測定したときに300m2/gの比表面積を有する、26部のヒュームドシリカ、及び
- 7部のヘキサメチルジシラザン。
この第1の基剤を撹拌しながら70℃で1時間加熱し、次いで脱揮し、冷却し、基剤として保管する。
【0175】
次いで45部のこの基剤にスピードミキサー中で以下を添加することによって、A液組成物を調製する:
- ビニル油で希釈された、Karstedt触媒として公知の、有機金属錯体の形態に白金金属10質量%で導入された、白金金属
- 3部:鎖中及び鎖末端にビニル基を有し、1000mPa.秒の粘度を有するジメチルポリシロキサン油
- 鎖中及び鎖末端にビニル基を有し、400mPa.秒の粘度を有する、2部のジメチルポリシロキサン油
得られたA液組成物を、スピードミキサー中で1分間1000回転/分で混合する。このA液組成物のPt含有率は5ppmである。
【0176】
次いで45部の基剤にスピードミキサー中で以下を添加することによって、B液を調製する:
- Si-H基を含む、1.3部のオルガノハイドロジェンポリシロキサンM'Q樹脂
- Si-H基を鎖中及び鎖末端に含み、およそ20質量%のSi-H基を含有する、0.5部のオルガノハイドロジェンポリシロキサン
- ビニル基を鎖中及び鎖末端に有し、400mPa.秒の粘度を有する、1.5部のジメチルポリシロキサン油
- 1.6部:ビニル基を鎖中及び鎖末端に有し、1000mPa.秒の粘度を有する、ジメチルポリシロキサン油、並びに
- 架橋抑制剤としての、0.08部のエチニル-1-シクロヘキサノール-1
得られたB液を、スピードミキサー中で1分間1000回転/分で混合する。
【0177】
次いで50部のA液と50部のB液とをスピードミキサー中で1分間1000回転/分で混合することによって、組成物X2を得る。この組成物X2の25℃での浴寿命は、24時間より長く、48時間より短い。
【0178】
組成物X3(粘度>150000mPa.秒;25℃ せん断0.5秒-1)の調製:
組成物X3は一成分組成物であり、周囲温度で以下を混合することによって調製する:
- 両端がMe2(OH)SiO1/2単位によってブロックされ、80000mPa.秒の粘度を有する、76.5部のジメチルポリシロキサン油
- Me3SiO1/2 4%;Me2SiO2/2 70%;MeSiO3/2 26%のモル比を有する、9.2部のMDT樹脂
- BET法によって測定したときに55m2/gの比表面積を有する、10.7部のヒュームドシリカ
- 架橋剤としての、2.9部のメチルトリアセトキシシラン
- 架橋剤としての、0.7部のエチルトリアセトキシシラン
- 触媒としての、0.0036部のチタネートテトラブトキシド。
【0179】
(実施例1)
組成物C1及び組成物X1で実施した工程3、4、6、及び7
工程3:
粘度2000mPa.秒を有する組成物X1のA液及びB液を、Nordson EFD社製のダブルカートリッジEqualizer(商標)(二成分系、浴寿命はA液と及びB液との混合後、20℃で20分)によって、スタティックミキサー及びノズルを通して、400μmのストランド直径で、0.1~5ml/秒の間の速度で、30℃のミクロゲルの組成物C1中に押出して、層毎に3D物品を生成する。
工程4:
印刷後に、容器を60℃に2時間置くことによってシリコーン組成物X1を架橋させる。
工程6:
次いでシリコーンエラストマー物品を組成物C1から取り出す。
工程7:
回収したシリコーンエラストマー物品を10℃の冷水で5分間洗浄する。
【0180】
3D印刷されたシリコーンエラストマー物品の機械的性質は、組成物X1から得られる成形されたシリコーン物品に要求される機械的性質に良好に合致する。
【0181】
ダンベル形試料を調製する。
【0182】
ASTM-D2240/CによるショアA硬度は3である。そのような物品は、歯科用途に使用することができる。
【0183】
(実施例2)
組成物C1及び組成物X2で実施した工程3~7
工程3:
粘度>150000mPa.秒を有する組成物X2を、シングルカートリッジUltimus V Nordson EFD機器(一成分系)によって、0.01~1ml/秒の間の流量でノズルを通して、400μmのストランド直径で、30℃の組成物C1中に押出して、3D物品を層毎に生成する。
工程4:
印刷後に、容器を70℃に1時間置くことによってシリコーン組成物X2を架橋させる。
工程5:
30℃でゲルを形成する組成物C1は、ゲルを液化するために10℃に置く。得られた液化ゲルは、性質を失うことなく本発明による別の印刷プロセスに使用される。
工程6:
次いでシリコーンエラストマー物品を組成物C1から取り出す。
工程7:
回収したシリコーンエラストマー物品を10℃の冷水で5分間洗浄する。
追加架橋工程
次いでオブジェクトを120℃で2時間更に架橋する。
【0184】
印刷されたオブジェクトの機械的性質は、組成物X2から得られる成形されたオブジェクトに要求される機械的性質に良好に合致する。
【0185】
ダンベル形試料を調製し(本発明による印刷プロセスによって得られた試料、及び同じ組成物X2で成形によって得られた成形オブジェクト)、2mmの厚さのフィルムの機械的性質(NF T 46002)に関して得られた結果は次の通りである:
硬度 ASTM D2240:印刷試料 50/射出成形試料 50
引張り強さ ASTM-D412:印刷試料 7.6MPa/射出成形試料 8.4MPa
伸び ASTM-D412:印刷試料 490%/射出成形試料 530%
弾性率100% ASTM-D412:印刷試料 2.3MPa/射出成形試料 2.3MPa
【0186】
(実施例3)
組成物C1及び組成物X3で実施した工程3、6、及び7
工程3:
粘度>150000mPa.秒を有する組成物X3を、0.1~5ml/秒の間の流量でノズルを通して、400μmのストランド直径で、30℃の組成物C1中に押出して(Ultimus Nordson)、3D物品を層毎に生成する。
工程6:
印刷後に、シリコーンエラストマー物品を組成物C1から取り出す。
工程7:
回収したシリコーンエラストマー物品を10℃の冷水で5分間洗浄する。
【0187】
印刷されたオブジェクトの機械的性質(室温で48時間後)は、組成物X3から得られる成形されたオブジェクトに要求される機械的性質に良好に合致する。
【0188】
本発明によってダンベル形試料を調製し、組成物X3から得られる成形オブジェクトも調製する。2mmの厚さのフィルムの温度23℃及び相対湿度50%での機械的性質(NF T 46002)(ダンベル形試料)は次の通りである:
引張り強さ ASTM-D412:印刷試料 1.8MPa/成形試料 1.9MPa
破断点伸び ASTM-D412:印刷試料 600%/成形試料 500%
弾性率100% ASTM-D412:印刷試料 0.45MPa/成形試料 0.5MPa
ショアA硬度(ISO 868):印刷試料 20/成形試料 23
【0189】
(実施例4)
組成物C2及び組成物X2で実施した工程3、4、6、及び7
工程3:
粘度>150000mPa.秒を有する組成物X2を、シングルカートリッジUltimus V Nordson EFD機器(一成分系)によって、0.01~1ml/秒の間の流量でノズルを通して、400μmのストランド直径で、30℃の組成物C2中に押出して、3D物品を層毎に生成する。
工程4:
工程3)で得られた印刷された組成物X2を、30℃の組成物C2中で10~24時間放置する。
工程6
印刷後に、シリコーンエラストマー物品を組成物C2から取り出す。
工程7
回収したシリコーンエラストマー物品を10℃の冷水で5分間洗浄する。
【0190】
(実施例5)
組成物C2及び組成物X2で実施した工程3、6、及び7
工程3
粘度>150000mPa.秒を有する組成物X2を、シングルカートリッジUltimus V Nordson EFD機器(一成分系)によって、0.01~1ml/秒の間の流量でノズルを通して、400μmのストランド直径で、30℃の組成物C2中に押出して、3D物品を層毎に生成する。
工程6
印刷後に、シリコーンエラストマー物品を組成物C2から取り出す。
工程7
回収したシリコーンエラストマー物品を10℃の冷水で5分間洗浄する。