(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-24
(45)【発行日】2022-07-04
(54)【発明の名称】熱処理装置
(51)【国際特許分類】
C21D 1/64 20060101AFI20220627BHJP
C21D 1/00 20060101ALI20220627BHJP
C21D 1/18 20060101ALI20220627BHJP
【FI】
C21D1/64
C21D1/00 121
C21D1/18 U
(21)【出願番号】P 2021068458
(22)【出願日】2021-04-14
(62)【分割の表示】P 2016174684の分割
【原出願日】2016-09-07
【審査請求日】2021-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000167200
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトサーモシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 康規
(72)【発明者】
【氏名】速水 良昭
(72)【発明者】
【氏名】藤山 周秀
(72)【発明者】
【氏名】中田 綾香
【審査官】岡田 眞理
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-087359(JP,A)
【文献】中国実用新案第201793643(CN,U)
【文献】米国特許第02639047(US,A)
【文献】特開2013-091814(JP,A)
【文献】特開2009-132958(JP,A)
【文献】特開2016-017190(JP,A)
【文献】中国実用新案第202865279(CN,U)
【文献】中国実用新案第205223302(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/00-1/84
C21D 9/00-9/44
C21D 9/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却液を貯留する液槽と、
液槽内で冷却液を循環させる循環装置とを備え、
前記循環装置は、
前記液槽内のワーク投入領域の側方において下方から上方への冷却液の流れを生成する流れ生成手段と、
前記流れ生成手段を外側から囲み、当該流れ生成手段による冷却液の流れを案内する案内部材と、
前記案内部材の上端から流出した冷却液の流れを前記ワーク投入領域へ向かう方向の流れに整流する整流部材とを備え、
前記流れ生成手段はスクリューであり、
前記整流部材は、前記スクリューによる前記冷却液の旋回流を前記ワーク投入領域へ向かう方向の流れに整流する第2整流部を備え、
前記第2整流部は、前記案内部材の上方に配置されるとともに、平面視で円弧形状に形成されかつ当該円弧形状の弦に相当する部分を開口部とする第2整流面を有し、前記開口部が前記ワーク投入領域に向けて配置され、
前記整流部材は、前記案内部材の上端から流出した冷却液の上下方向の流れを前記ワーク投入領域へ向く水平な流れに整流する第1整流部を備えている、熱処理装置。
【請求項2】
前記第1整流部は、前記案内部材の上方に配置され、前記ワーク投入領域に近い側が高く、ワーク投入領域から離れた側が低くなるように傾斜した第1整流面を有している、請求項1に記載の熱処理装置。
【請求項3】
前記案内部材が、前記ワーク投入領域の側方に並列して複数設けられており、
前記スクリューは、前記各案内部材の内部に設けられるとともに互いに同一方向に回転駆動され、
前記各案内部材の上方に配置された前記第2整流部は、互いに前記開口部を異なる方向に向けて配置されている、請求項1又は請求項2に記載の熱処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の焼入処理等に用いられる熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部品等のワークの焼入処理に用いられる熱処理装置として、例えば下記特許文献1に記載されるように、冷却油を貯留する油槽と、ワークが収容されたバスケットを油槽内のワーク投入領域と油槽の上方位置との間で上下に昇降させる昇降装置と、油槽内で冷却油を循環させる循環装置と、を備えたものが知られている。
【0003】
循環装置は、油槽内で冷却油を循環させることによってワークの表面に積極的に冷却油を接触させ、ワークを急冷させる。特許文献1記載の循環装置は、例えば
図10に示すように、冷却油の循環路を形成するダクト131と、ダクト131の内部に配置され冷却油の循環流を生成するスクリュー141とを備えている。ダクト131は、油槽111内のワーク投入領域Rを挟んで当該ワーク投入領域Rの左右両側に上下方向に沿って配置された一対の縦管部131Aと、ワーク投入領域Rの下方に一端が配置され他端が縦管部131Aの下端開口に接続された曲管部131Bとを備えている。そして、縦管部131A内に配置されたスクリュー141を作動させることによって、ワーク投入領域R下方の冷却油が曲管部131Bの一端131B1から吸い込まれ、曲管部131Bを通過して縦管部131A内を下方から上方へ向けて流動する。そして、縦管部131Aの上端から流出した冷却油は、その後ワーク投入領域Rの上方へ流れ、ワーク投入領域Rを上方から下方へ通過し、再び曲管部131Bの一端131B1から吸い込まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図10に示す焼入装置においては、ダクト131を介して油槽111内で冷却油を循環させるため、ワーク投入領域Rに投入されたワークを冷却することができる。しかし、縦管部131Aの上端から流出した直後の冷却油は、一部がワーク投入領域R以外の方向(点線矢印a参照)にも流れるため、その分だけワーク投入領域Rを上方から下方へ通過する冷却油の流速が低下する可能性がある。
【0006】
ワーク投入領域Rを通過する冷却油の流速を高めることは、熱処理後のワークの品質を向上させるために有効である。したがって、本発明は、ワーク投入領域を流れる冷却液の流速をより高め、熱処理後のワークの品質を向上させることができる熱処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
冷却液を貯留する液槽と、
液槽内で冷却液を循環させる循環装置とを備え、
前記循環装置は、
前記液槽内のワーク投入領域の側方において下方から上方への冷却液の流れを生成する流れ生成手段と、
前記流れ生成手段を外側から囲み、当該流れ生成手段による冷却液の流れを案内する案内部材と、
前記案内部材の上端から流出した冷却液の流れを前記ワーク投入領域へ向く流れに整流する整流部材とを備えている。
【0008】
この構成によれば、案内部材の上端から流出する冷却液を積極的にワーク投入領域へ向けて流すことができ、ワーク投入領域に流入する冷却液の流速の低下を抑制することができる。これにより、熱処理が促進されて品質のバラツキも少なくなり、熱処理後のワークの品質を向上させることができる。
【0009】
前記整流部材は、前記案内部材の上端から流出した冷却液の上下方向の流れを前記ワーク投入領域へ向く水平方向の流れに整流する第1整流部を備えていることが好ましい。
また、前記第1整流部は、前記案内部材の上方に配置され、前記ワーク投入領域に近い側が高く、ワーク投入領域から離れた側が低くなるように傾斜した第1整流面を有していることが好ましい。
このような構成によって、案内部材から上方へ流出した冷却液を整流面に当てることによって、好適に冷却液の流れをワーク投入領域へ向く方向の流れに整流することができる。
【0010】
前記流れ生成手段はスクリューであり、前記整流部材は、前記スクリューによる前記冷却液の旋回流を前記ワーク投入領域へ向く流れに整流する第2整流部を備えていることが好ましい。
また、第2整流部は、前記案内部材の上方に配置されるとともに、平面視で円弧形状に形成されかつ当該円弧形状の弦に相当する部分を開口部とする第2整流面を有し、前記開口部が前記ワーク投入領域に向けて配置されていることが好ましい。
このような構成によって、案内部材から上方へ流出し、スクリューによって旋回流とされた冷却液を、第2整流面に沿って流れさせつつ開口部からワーク投入領域へ向かう方向に整流することができる。
【0011】
前記案内部材は、前記ワーク投入領域の側方に複数並列して設けられており、
前記スクリューは、前記各案内部材の内部に設けられるとともに互いに同一方向に回転駆動され、
前記各案内部材の上方に配置された前記第2整流部は、互いに前記開口部を異なる方向に向けて配置されていることが好ましい。
このような構成によって、複数の案内部材から流出する冷却液を、それぞれ旋回流の方向に応じてワーク投入領域に向けて適切に整流することができる。
【0012】
前記案内部材は、前記ワーク投入領域を挟んで当該ワーク投入領域の両側方に設けられていてもよい。
このような構成によって、液槽内の冷却液をワーク投入領域の両側において液槽内の冷却を循環させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の熱処理装置によれば、ワーク投入領域を通過する冷却液の流速を高めることができ、熱処理後のワークの品質を向上させることできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1の実施形態に係る熱処理装置を概略的に示す正面断面図である。
【
図2】熱処理装置の油槽及びその内部を説明する平面図である。
【
図3】熱処理装置の油槽及びその内部を説明する斜視図である。
【
図6】比較例に係る熱処理装置の油槽及びその内部を説明する平面図である。
【
図7】第2の実施形態に係る熱処理装置の油槽及びその内部を説明する平面図である。
【
図8】第3の実施形態に係る熱処理装置の油槽及びその内部を説明する平面図である。
【
図9】変形例に係る熱処理装置の整流部材を示す斜視図である。
【
図10】従来の熱処理装置を示す正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る熱処理装置を概略的に示す正面図である。
図2は、熱処理装置の油槽及びその内部を説明する平面図、
図3は、同斜視図である。
なお、以下の説明においては、
図1の左右方向を熱処理装置の左右方向とし、
図1の紙面貫通方向を熱処理装置の前後方向とする。
【0016】
本実施形態の熱処理装置10は、所定の温度に加熱された金属部品等のワークを冷却油(冷却液)Eに浸漬して急冷する焼入装置である。熱処理装置10は、油槽(液槽)11と、循環装置13とを備えている。
【0017】
(油槽の構成)
油槽11は、平面視で矩形状の底壁部11aと、底壁部11aの4辺から上方に立ち上がる側壁部11b、11c、11d、11eとを有し、上方が開放している。底壁部11aは、左右方向に長い長方形状に形成されている。したがって、油槽11は、前後方向の奥行きよりも左右方向の幅の方が大きい略直方体形状に形成されている。油槽11内には、ワークを冷却するための冷却油Eが貯留される。また、油槽11内には、ワークを投入するためのワーク投入領域Rが、左右方向及び前後方向の略中央部に設定されている。このワーク投入領域Rに、ワークを収容したバスケット15が投入される。また、油槽11内には、冷却油Eの温度を調整するヒーター16(
図2参照)が設けられている。
【0018】
図1に示すように、ワークを収容したバスケット15は、図示しない昇降装置によって油槽11の内部と油槽11の上方位置との間で上下方向に昇降する。下降したバスケット15は、前述のワーク投入領域Rに位置付けられる。バスケット15は、平面視矩形状の網状トレイからなり、内外に冷却油Eを流通させることができる構造となっている。このバスケット15に、焼入温度に加熱したワークが多数収容される。バスケット15は、複数枚が上下方向に積み重ねられた状態で昇降枠21に支持される。図示例では5枚のバスケット15が上下方向に積み重ねられている。
【0019】
昇降枠21は、図示しない駆動装置によって昇降駆動される。また、昇降枠21は、図示しないガイド部材によって昇降が案内される。
昇降枠21は、左右一対の側板25と、一対の側板25の上端部間に架設された上部枠26と、側板25の下端部間に架設された下部枠27とを備えている。側板25は、側面視で四角形状に形成されている。側板25の前端及び後端は、それぞれ油槽11の前側の側壁部11bと後側の側壁部11cとの近傍にまで至っている。したがって、側板25は、油槽11の内部を、ワーク投入領域Rと、その左右外側の領域とに区画している。
【0020】
上部枠26は、一対の側板25の前後方向の略中央部に架設されている。一対の側板25の間で上部枠26の前後両側は上下方向に開放され、冷却油Eが通過可能となっている。
下部枠27は、バスケット15を下方から支持した状態でバスケット15を前後方向に搬送する搬送装置により構成されている。この搬送装置27は、
図1及び
図2に示すように、一対の側板25の前部側と後部側とに架設された前後一対の軸27aと、各軸27aに取り付けられた左右一対のスプロケット27bと、前後に対応するスプロケット27bに巻き掛けられた搬送チェーン27cとを備えている。一方の軸27aは、図示しない駆動装置によって回転駆動される。
【0021】
バスケット15は、左右の搬送チェーン27c上に載置されることによって昇降枠21に支持される。搬送チェーン27cは、昇降枠21が上昇位置にあるときに回走されることによって、熱処理装置10の外部から昇降枠21内にバスケット15を受け入れ、又は、焼入終了後にバスケット15を昇降枠21から外部へ排出するように構成されている。
側板25及び搬送チェーン27cの左右方向の各間であって前後の軸27aの間は上下方向に開放され、冷却油Eが通過可能となっている。
【0022】
(循環装置の構成)
図1及び
図3に示すように、循環装置13は、ダクト31~34と、スクリュー(流れ生成手段)41とを備えている。ダクト31~34は、油槽11内の前部側に配置された左右一対の第1ダクト31及び第2ダクト32と、油槽11内の後部側に配置された左右一対の第3ダクト33及び第4ダクト34とからなる。第1ダクト31と第2ダクト32とは、ワーク投入領域Rを挟んでその左右両側に対向して配置されている。第3ダクト33と第4ダクト34とは、ワーク投入領域Rを挟んでその左右両側に対向して配置されている。つまり、ワーク投入領域Rを挟む左右一対のダクトが前後に二対設けられている。第1ダクト31と第3ダクト33とは前後に並設して配置され、第2ダクト32と第4ダクト34とは前後に並設して配置されている。
【0023】
第1~第4ダクト31~34は、それぞれ縦管部31A~34Aと、曲管部31B~34Bとを備えている。各縦管部31A~34Aは、円筒形状に形成され、筒軸心が上下方向に沿って配置されている。
図2及び
図3に示すように、第1ダクト31の縦管部(第1縦管部)31Aは、油槽11の前部左側のコーナー部に沿って配置され、第2ダクト32の縦管部(第2縦管部)32Aは、油槽11の前部右側のコーナー部に沿って配置されている。第3ダクト33の縦管部(第3縦管部)31Aは、油槽11の後部左側のコーナー部に沿って配置され、第4ダクト34の縦管部(第4縦管部)34Aは、油槽11の後部右側のコーナー部に沿って配置されている。
【0024】
図1及び
図3に示すように、第1~第4ダクト31~34の曲管部(第1~第4曲管部)31B~34Bは、それぞれ正面視で略L字形状に屈曲されている。第1~第4曲管部31B~34Bは、それぞれ一端が第1~第4縦管部31A~34Aの下端部に接続され、他端がワーク投入領域Rの下方に臨んでいる。第1~第4曲管部31B~34Bの他端は、冷却油Eの吸込口35とされる。各曲管部31B~34Bの吸込口35は、ワーク投入領域Rに配置された昇降枠21の側板25の直下近傍に配置されている。なお、前後に並ぶ第1曲管部31Bと第3曲管部33Bとは一体的に接続されていてもよく、第2曲管部32Bと第4曲管部34Bとは一体的に接続されていてもよい。
【0025】
スクリュー41は、第1~第4縦管部31A~34Aの内部にそれぞれ配置されている。各スクリュー41は、
図4に示すように、上下方向に沿って配置された回転軸42と、回転軸42に取り付けられた翼部43とを備えている。本実施形態の翼部43は、3枚一組の羽根43aによって構成され、回転軸42の上下2箇所に設けられている。
図1に示すように、回転軸42は、油槽11内の冷却油Eよりも上方に延び、油槽11の上部に設けられた機枠14に固定されたモータ44に接続され、モータ44によって回転駆動される。
【0026】
図2及び
図4に示すように、スクリュー41は、矢印b方向(反時計回り)に回転することによって、
図1に示すように、縦管部31A~34A内に下方から上方へ向かう冷却油Eの流れを生成する。この冷却油Eの流れによって、ワーク投入領域Rの下方における冷却油Eが曲管部31B~34Bの吸込口35から吸い込まれ、縦管部31A~34Aの上端から流出する。縦管部31A~34Aは、スクリュー41を外側から囲い、下方から上方への冷却油Eの流れを案内する案内部材として機能する。そして縦管部31A~34Aの上端から流出した冷却油Eは、ワーク投入領域Rの上方から下方に向かって流れ、再び曲管部31B~34Bの吸込口35から吸い込まれる。このような作用によって油槽11内で冷却油Eが循環し、ワーク投入領域Rに配置されたワークが適切に冷却される。
【0027】
循環装置13は、各ダクト31~34の縦管部31A~34Aの上端から流出した冷却油Eの流れをワーク投入領域Rへ向く方向に整流する整流部材50を備えている。
図5は、整流部材50を示す斜視図である。本実施形態の整流部材50は、各縦管部31A~34Aの上方に配置され、第1整流部51と第2整流部52とを備えている。
【0028】
第2整流部52は、円弧状に湾曲された板材であり、縦管部31A~34Aの上端から上方へ延長する形態で設けられている。本実施形態の第2整流部52は、半円弧形状に形成されている。第2整流部52は、円弧形状の弦gに相当する部分が開口部52aとなり、当該開口部52aが、ワーク投入領域Rに向くように配置されている。また、第2整流部52の円弧状の内面は、冷却油Eの流れを整流する第2整流面52bとされている。
【0029】
図2に示すように、第2縦管部32A及び第3縦管部33Aに対応して設けられた第2整流部52は、開口部52aがワーク投入領域Rに正対するように、すなわち開口部52aが左右方向に向くように配置されている。
第1縦管部31Aに対応して設けられた整流部材50の第2整流部52は、ワーク投入領域Rに正対する方向(右方向)に対してやや後側、例えば約45°後側に傾いた方向に向いている。逆に、第4縦管部34Aに対応して設けられた整流部材50の第2整流部52は、ワーク投入領域Rに正対する方向(左方向)に対してやや前側、例えば約45°前側に傾いた方向に向いている。スクリュー41の回転方向bとの関係では、第1及び第4縦管部31A、34Aに対応する第2整流部52は、開口部52aがスクリュー41の回転方向bの先方側に傾斜している。
【0030】
図5に示すように、第1整流部51は、第2整流部52の内部に設けられている。第1整流部51は、略半円形(半楕円形)の板材であり、第2整流部52の開口部52a側が高く開口部52aから離れるほど低くなるように傾斜して設けられている。第1整流部51は、上下方向(又は水平方向)に対して約45°の角度で傾斜している。第1整流部51は、縦管部31A~34Aの上端開口の略半分を上方から覆うように配置されている。第1整流部51の下面は、冷却油Eの流れを整流する第1整流面51bとされている。
【0031】
図1に示すように、第1~第4縦管部31A~34A内を流れる冷却油Eは、その上端から上方へ向けて流出し、第1整流部51の第1整流面51bに当たる。これにより、冷却油Eの流れが、上方向から水平方向に整流される。したがって、縦管部31A~34Aから流出した冷却油Eを、ワーク投入領域Rに向けて積極的に導くことができ、ワーク投入領域Rへ流れる冷却油Eの流速の低下を抑制することができる。
【0032】
図2に示すように、第1~第4縦管部31A~34A内を流れる冷却油Eは、スクリュー41の回転によって旋回しながら上昇し、縦管部31A~34Aの上端から流出する。冷却油Eは第2整流部52の円弧内に流入し、第2整流面52bに沿って旋回しつつ、開口部52aから流出する。第2整流部52の開口部52aは、ワーク投入領域Rに向けられているので、当該開口部52aから流出した冷却油Eはワーク投入領域Rに向けて流れる。したがって、ワーク投入領域Rへ流れる冷却油Eの流速の低下を抑制することができる。
【0033】
前述したように、第1及び第4縦管部31A,34Aに対応して設けられた整流部材50の第2整流部52は、開口部52aがワーク投入領域Rに正対する方向よりも前後方向に傾けて配置されている。これは、スクリュー41の回転による冷却油Eの旋回流を考慮したものである。以下、詳細に説明する。
【0034】
図6は、比較例に係る熱処理装置の油槽及びその内部を説明する平面図である。この比較例における熱処理装置は、第1及び第4縦管部31A、34Aに対応して設けられた整流部材50の第2整流部52の開口部52aが、ワーク投入領域Rに正対するように配置されている。
【0035】
図6において、各縦管部31A~34Aから流出し、第2整流部52に流入した冷却油Eは、第2整流部52の内面に沿って旋回しつつ開口部52aから流出するため、開口部52aからの流出方向は、開口部52aの正面方向よりも若干傾いた方向となる。具体的には、第2縦管部32Aから流出する冷却油Eは、スクリュー41の回転によって開口部52aの正面方向(左方向)よりもやや後側に傾いた方向、言い換えると、ワーク投入領域Rの平面中央部(油槽11の平面中央部)P側へ傾いた方向に流れる(実線矢印B参照)。
【0036】
同様に、第3縦管部33Aから流出する冷却油Eは、スクリュー41の回転によって開口部52aの正面方向(右方向)よりもやや前側に傾いた方向、言い換えると、ワーク投入領域Rの平面中央部(油槽11の平面中央部)P側へ傾いた方向に流れる(実線矢印C参照)。したがって、これらの第2整流部52の開口部52aから流出する冷却油Eは、ワーク投入領域Rに直接的に向かって流れるため、流速の低下が好適に抑制される。
【0037】
これに対して、第1縦管部31Aから流出する冷却油Eは、スクリュー41の回転によって開口部52aの正面方向(右方向)よりもやや前側に傾いた方向、言い換えると、油槽11の前壁部11bに向かう方向に流れる(点線矢印A’参照)。そのため、冷却油Eは、前壁部11bに当たることによって流速が低下し、ワーク投入領域Rを通過する冷却油Eの流速の低下にも繋がる。
【0038】
同様に、第4縦管部34Aから流出する冷却油Eは、スクリュー41の回転によって開口部52aの正面方向(左方向)よりもやや後側に傾いた方向、言い換えると、油槽11の後壁部11cに向かう方向に流れる(点線矢印D’参照)。そのため、冷却油Eは、後壁部11cに当たることによって流速が低下し、ワーク投入領域Rを通過する冷却油Eの流速の低下にも繋がる。
【0039】
図2に示す本実施形態の場合、第2縦管部32A及び第3縦管部33Aに対応して設けられる整流部材50の第2整流部52は、
図6に示す比較例と同様であり、第2整流部52の開口部52aから流出した冷却油Eは、好適にワーク投入領域Rに向けて流れることになる(実線矢印B,C参照)。
これに対して、第1縦管部31Aに対応して設けられる整流部材50の第2整流部52は、比較例とは異なり、開口部52aがやや後側に傾けて設けられているので、冷却油Eは、直接的に前壁部11bに向けて流れるのではなく、ワーク投入領域Rの平面中央部Pに向けて流れるようになっている(実線矢印A参照)。
【0040】
同様に、第4縦管部34Aに対応して設けられる整流部材50の第2整流部52も、比較例とは異なり、開口部52aがやや前側に傾けて設けられているので、冷却油Eは、直接的に後壁部11cに向けて流れるのではなく、ワーク投入領域Rの平面中央部Pに向けて流れるようになっている(実線矢印D参照)。
【0041】
したがって、本実施形態においては、第2及び第3縦管部32A,33Aから流出する冷却油Eだけでなく、第1及び第4縦管部31A,34Aから流出する冷却油Eも、確実にワーク投入領域Rに向くように流れが整流されるため、ワーク投入領域Rに流入する冷却油Eの流速の低下を好適に抑制し、ワーク投入領域Rに配置されたワークを通過する冷却油Eの流速も可及的に高めることができる。したがって、ワークの熱処理性能を高め、ワークの品質を向上させることができる。
【0042】
特に、本実施形態のように、ワーク投入領域Rの左右各側において、2つの縦管部31A~34Aが前後に並設して設けられている場合、双方の縦管部31A~34Aが油槽11の前後方向の中心から前後に偏心した位置に配置され、油槽11の前後の側壁部11b,11cに接近する。そして、全てのスクリュー41が同一方向に回転する場合、いずれかの縦管部31A、34Aから流出する冷却油Eは、当該側壁部11b,11cに向けて流れることになる。したがって、ワーク投入領域Rの左右各側に2つの縦管部31A~34Aが前後に並設して設けられている場合は、本実施形態のような整流部材50の第2整流部52を備えることが非常に有効となる。
【0043】
ダクト31~34は、ワーク投入領域Rの左右両側に配置されたものが前後二対設けられているので、油槽11内全体の冷却油Eを万遍なく循環させることができる。
スクリュー41及び整流部材50は、第1~第4ダクト31~34のいずれにおいても同一形状のものを使用することができるので、部品の種類を低減することができる。
【0044】
なお、縦管部31A~34Aから流出する冷却油Eをワーク投入領域Rに流入させるために、縦管部31A~34Aの上端からワーク投入領域Rの上方に到る範囲でダクトを設けることも考えられるが、この場合、冷却油Eは、ワーク投入領域Rの上方と下方との間でほぼ閉じた系の中を循環することとなるため、油槽11全体の冷却油Eがワーク投入領域Rに流入し難くなる。そのため、ダクトの外部のヒーター16によって温度調整された冷却油Eをワーク投入領域Rに流入させ難くなる。したがって、本実施形態のように、縦管部31A~34Aの上方に整流部材50を設け、縦管部31A~34Aから流出した冷却油Eを整流部材50によりワーク投入領域Rに向かう方向へ整流することによって油槽11内の冷却油E全体を効果的に冷却のために利用することができる。
【0045】
(実施形態の有効性の検証)
本出願の発明者は、本実施形態の有効性を検証するため、以下に示すような解析をコンピュータを用いて行った。解析モデルは、上述した実施形態(
図2参照)のように第1及び第4縦管部31A,34Aに対応する整流部材50の第2整流部52の開口部52aをワーク投入領域Rの平面中央部P側へ45°傾けたもの(実施例モデル)と、
図6に示すように、第1~第4縦管部31A~34Aに対応する全ての整流部材50の第2整流部52の開口部52aをワーク投入領域Rに正対させたもの(比較例モデル)とした。その結果を次の表1~表3に示す。
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
表1は、ワーク投入領域Rに配置された各段のバスケット15を通過する冷却油Eの流速を比較したものであり、表2は、同じく各段のバスケット15を通過する冷却油Eの流量を比較したものである。表3は、第1~第4ダクト31~34の吸込口35における冷却油Eの流量を比較したものである。
【0050】
表1及び表2の結果から明らかなように、比較例モデルに比べて実施例モデルの方が、バスケット15を流れる冷却油Eの流速及び流量が増大した。具体的に、実施例モデルは、比較例モデルよりも平均して20%程度流速及び流量が増大した。また、第1~第4ダクト31~34に吸い込まれる冷却油Eの流量も、比較例モデルに比べて実施例モデルの方が増大した。具体的に、実施例モデルは、比較例モデルよりもトータルで10%程度流量が増大した。したがって、上記実施形態のような整流部材50の配置が有効であることがわかった。
【0051】
[第2実施形態]
図7は、第2の実施形態に係る熱処理装置の油槽及びその内部を説明する平面図である。
本実施形態では、ワーク投入領域Rの左右両側に一対のダクト(第1ダクト61、第2ダクト62)が設けられている。各ダクト61,62は、油槽11の前後方向の略中央に位置している。各ダクト61,62の縦管部61A,62A内に配置されたスクリュー41は、互いに同一方向に回転する。このダクトの構成以外は、第1の実施形態と同様である。
【0052】
縦管部61A,62Aに対応して設けられた整流部材50は、第2整流部52の開口部52aが、ワーク投入領域Rに正対する方向(左右方向)よりもやや前後方向(スクリュー41の回転方向bの先方側)へ傾けて設けられている。具体的には、第1縦管部61Aに対応して設けられた整流部材50の第2整流部52は、開口部52aがやや後側に傾いた状態で設けられ、第2縦管部62Aに対応して設けられた整流部材50の第2整流部52は、開口部52aがやや前側に傾いた状態で設けられている。
【0053】
そのため、各縦管部61A,62Aの上端から流出する冷却油Eは、旋回流の影響によりワーク投入領域Rの平面中央部Pに向けて流れ、ワーク投入領域Rに流入する冷却油Eの流速の低下を抑制することができる。
【0054】
[第3の実施形態]
図8は、第3の実施形態に係る熱処理装置の油槽及びその内部を説明する平面図である。
本実施形態の熱処理装置10は、ワーク投入領域Rの左右片側(右側)のみに2つのダクト(第1ダクト71、第2ダクト72)が並列して設けられている。各ダクト71,72の縦管部71A,72A内に配置されたスクリュー41は、互いに同一方向に回転する。その他の構成は、第1の実施形態と同様である。
【0055】
第1縦管部71Aに対応して設けられた整流部材50は、第2整流部52の開口部52aがワーク投入領域Rに正対する方向(左方向)に向いている。第2縦管部72Aに対応して設けられた整流部材50は、第2整流部52の開口部52aが、ワーク投入領域Rに正対する方向(左方向)よりもややスクリュー41の回転方向の先方側(前側)へ傾いている。具体的には、第2縦管部72Aに対応して設けられた整流部材50の第2整流部52は、開口部52aがやや前側に傾いた状態で設けられている。
【0056】
そのため、各縦管部71A,72Aの上端から流出する冷却油Eは、旋回流の影響によりワーク投入領域Rの平面中央部Pに向けて流れ、ワーク投入領域Rに流入する冷却油Eの流速の低下を抑制することができる。
【0057】
本発明の熱処理装置は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において適宜変更することができる。
例えば、スクリュー41は、回転軸42に1つの翼部43を備えたものであってもよいし、3つ以上の翼部43を備えたものであってもよい。
【0058】
整流部材50は、例えば、変形例を示す
図9のように、ダクトの縦管部31A~34Aと一体に形成されていてもよい。また、第2整流部52は、円弧状に湾曲した板材によって形成されていたが、円弧状の第2整流面52bを有するブロック等によって形成されていてもよい。また、第2整流部52は、平坦な板材の組合せによって平面視で多角形状に形成されていてもよい。
【0059】
上記実施形態では、第1整流部51の上下方向の傾斜角度、及び第2整流部52の水平方向の傾斜角度が約45°とされていたが、これらの傾斜角度は、ダクトとワーク投入領域との相対位置の関係等に応じて適宜変更することができる。
案内部材は、必ずしもダクトの形態でなくてもよく、例えば、油槽11の内部を仕切る仕切り板を設け、この仕切り板と油槽11の内壁とによって冷却油Eの流れを案内する構成であってもよい。
流れ生成手段は、スクリュー以外の構成であってもよい。
【0060】
冷却液は、水等の油以外の液体であってもよい。
油槽11は、バッチ炉(図示せず)によって加熱したワークを急冷するために用いてもよく、または、連続炉(図示せず)によって加熱したワークを急冷するために用いてもよい。
【符号の説明】
【0061】
10 :熱処理装置
11 :油槽(液槽)
13 :循環装置
31 :第1ダクト
31A :第1縦管部
32 :第2ダクト
32A :第2縦管部
33 :第3ダクト
33A :第3縦管部
34 :第4ダクト
34A :第4縦管部
41 :スクリュー
50 :整流部材
51 :第1整流部
51b :第1整流面
52 :第2整流部
52a :開口部
52b :第2整流面
61 :第1ダクト
61A :第1縦管部
62 :第2ダクト
62A :第2縦管部
71 :第1ダクト
71A :第1縦管部
72 :第2ダクト
72A :第2縦管部
R :ワーク投入領域