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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-24
(45)【発行日】2022-07-04
(54)【発明の名称】赤色微細化有機顔料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09C 3/04 20060101AFI20220627BHJP
   C09C 3/10 20060101ALI20220627BHJP
【FI】
C09C3/04
C09C3/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021093350
(22)【出願日】2021-06-03
【審査請求日】2021-06-04
(73)【特許権者】
【識別番号】592093730
【氏名又は名称】日本ピグメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074734
【弁理士】
【氏名又は名称】中里 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100073483
【弁理士】
【氏名又は名称】八鍬 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100164286
【弁理士】
【氏名又は名称】中里 卓夫
(72)【発明者】
【氏名】久保田 明日華
(72)【発明者】
【氏名】道尻 歩
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-208758(JP,A)
【文献】特開2016-56258(JP,A)
【文献】特開平9-157374(JP,A)
【文献】特開2002-309135(JP,A)
【文献】特開2009-179789(JP,A)
【文献】特開2009-280741(JP,A)
【文献】特開2007-31539(JP,A)
【文献】特開2012-25920(JP,A)
【文献】特開2016-194650(JP,A)
【文献】特開2017-10028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 3/04
C09C 3/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソルベントソルトミリング法を用いてDPP系顔料を微細化する赤色微細化有機顔料の製造方法において、
DPP系顔料、スルホン酸基含有DPP系顔料誘導体、塩とグリコール系溶剤を含めて混練する時に、グリシジルフタルイミドを添加した状態で混錬することを特徴とする赤色微細化有機顔料の製造方法。
【請求項2】
前記混練を行って微細化した後、当該混練を行った容器内で、連続して、樹脂溶液、顔料分散剤溶液および溶剤からなる処理溶液を混合して混練することで、微細化後の顔料の表面を処理した表面処理顔料を得ることを特徴とする請求項1に記載の赤色微細化有機顔料の製造方法。
【請求項3】
前記処理溶液は、ブロックポリマー型アクリル系分散剤およびカルボキシル基含有樹脂を、加温混合または超音波を加え混合撹拌して相互に吸着させた処理溶液であり、前記表面処理顔料は、微細化後の前記顔料に前記処理溶液を混合して混練することで、微細化後の前記顔料と前記処理溶液とを相互に部分的に吸着させ、微細化後の前記顔料の表面が均一となるように加飾したものであることを特徴とする、請求項2に記載の赤色微細化有機顔料の製造方法。
【請求項4】
竪型の混練機を使用して前記混錬を行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の赤色微細化有機顔料の製造方法。
【請求項5】
前記グリシジルフタルイミドは、DPP系顔料特有の粘着性を軽減し、混練物の微細化を促進するために添加することを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の赤色微細化有機顔料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主にカラーフィルタおよびCMOSイメージセンサ用分散体に用いられる微細化有機顔料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶画面に用いられているカラーフィルタは赤色、緑色、青色等のカラーレジスト溶液を塗布、露光、現像する事で構成されている。このカラーレジスト組成物を調製する場合に、有機顔料は分散溶液に加工され、レジスト組成物の原材料として用いられている。
【0003】
カラーフィルタに使用される顔料には、色純度、輝度、コントラスト、着色力等の特性が求められている。この顔料特性を向上させるための方法として、顔料の一次粒子径が均一であり、且つできるだけ小さくなることが必要であるとされている。このため、顔料をさらに微細化することが必要となる。
【0004】
顔料の微細化で多く採用されている方法は、粗製顔料粒子を、水溶性無機塩、水溶性有機溶剤等の存在下で、ニーダー、トリミックス、スーパーミキサー等の加工機で機械的に摩砕して微細化し、水洗により無機塩と有機溶剤を除去するソルベントソルトミリング法が広く採用されている。
【0005】
当該ソルベントソルトミリング法(以後、ソルトミリングと称する。)では顔料をこのような加工機により混練し、微細化後、水洗濾過を繰返し、濾過脱水しケーキを得た後、箱型乾燥機等で乾燥して、乾燥後ハンマーミル等で粉砕し篩を通過させ粉末顔料を得る。
【0006】
以上の方法に準じ、カラーフィルタでは微細化された赤、黄、緑、青、紫色の顔料が単独または混合して用いられる。一般的に、ソルトミリングの混練で顔料の微細化が進んでいくに従いドウ(調製した混練物を指す。英語:DOUGH)が初めより硬くなった状態で終了する。
【0007】
赤色として用いられるジケトピロロピロール系顔料(以後、DPP系顔料と称する。)は、ソルトミリングの混練で微細化が進むにつれ、凝集または結晶成長が起き粘性が上昇することで混練に大きなエネルギーが必要になる。そこで、このような特性にあわせて、微細化をよりよく進めるために顔料誘導体を添加し混練することが検討されている(特許文献1参照)。
【0008】
DPP系顔料は、>NHとC=Oを対照に含む構造となっているために、水素結合により結晶成長し易い性質があり、DPP系顔料単独でソルトミリングを行うと、一次粒子の粉砕よりも結晶成長の方が進み、粒子径が大きくなるという問題や、製造工程上でソルトミリング処理途中のドウの粘着性が非常に強いという問題があり、ソルトミリング処理には向かない顔料とされてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2001-220520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、小ロット多品種に対応し清掃が容易で不純物が混入し難い竪型混練機であるトリミックスを用いて、コントラストに優れた表面処理微細化有機顔料を提供することにある。
【0011】
一般的に顔料のソルトミリングにはニーダーが用いられることが多い。しかし、生産量が少ない場合にはトリミックスなどが用いられることがある。また、トリミックスは竪型構造であり、軸シール部が上部にあってドウと接しない事で機掃の容易さと不純物の混入の少なさでメリットがある。
【0012】
DPP系顔料のソルトミリングにおいて、トリミックスにより従来の製造処方に基づいて混練を行うと微細化の進行と共にドウが強い粘着性を示し、急激に硬い塊になり混練ができない程の硬さになる。また、これを防ぐためにドウを柔らかくすると迫り上がりが発生してブレードより上に移動し軸シール部を汚染し、容器内上部に固着し容易に剥がれないことなどが起き混練が充分にできなくなる。
【0013】
DPP系顔料の混練時のドウは表面が粘着性を示しゴムを混練しているような特異的な性質を示す。他の例として例えばフタロシアニン系顔料などはこのような現象は発生しない。この特異的な性質の原因は、顔料の板状結晶間の水素結合により発生していると考えられる。混練が進むとともに粘着性が強く起きており、その傾向はC.I.Pigment Red 291よりもC.I.Pigment Red 254の方が強い。
【0014】
この現象は加圧や加温でDPP系顔料表面の分子が水素結合によって結びつき易く、微粒子の場合は微粒子間で凝集固化してしまう傾向があると考えられる。この仮定が正しいとすればDPP系顔料を混練し微細化する場合には、微細化直後の粒子の安定性も配合処方上考慮する必要がある。そのために、DPP系顔料表面の粘着性に対処する事がDPP系顔料のトリミックスによるソルトミリングで重要なことであり、その対処方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述の課題を解決するため、本発明は、ソルベントソルトミリング法を用いてDPP系顔料を微細化する赤色微細化有機顔料の製造方法において、DPP系顔料、スルホン酸基含有DPP系顔料誘導体、塩とグリコール系溶剤を含めて混練する時に、グリシジルフタルイミドを添加した状態で混錬することを特徴とする。
また、上記の製造方法において、前記混練を行って微細化した後、当該混練を行った容器内で、連続して、樹脂溶液、顔料分散剤溶液および溶剤からなる処理溶液を混合して混練することで、微細化後の顔料の表面を処理した表面処理顔料を得ることを特徴とする。
上記の製造方法において、前記処理溶液は、ブロックポリマー型アクリル系分散剤およびカルボキシル基含有樹脂を、加温混合または超音波を加え混合撹拌して相互に吸着させた処理溶液であり、前記表面処理顔料は、微細化後の前記顔料に前記処理溶液を混合して混練することで、微細化後の前記顔料と前記処理溶液とを相互に部分的に吸着させ、微細化後の前記顔料の表面が均一となるように加飾したものであることを特徴とする。
また、上記製造方法において、竪型の混練機を使用して前記混錬を行うことを特徴とする。
上記製造方法において、前記グリシジルフタルイミドは、DPP系顔料特有の粘着性を軽減し、混練物の微細化を促進するために添加することを特徴とする。
【0016】
換言すると、上述の課題を解決するため、以下の成分を含有するカラーフィルタ用微細化処理有機顔料を提供する。
(イ) C.I.Pigment Red 254、C.I.Pigment Red 2
91で示される顔料
(ロ) グリシジルフタルイミド
(ハ) スルホン酸基含有ジケトピロロピロール系顔料誘導体(以後、スルホン酸基含有DPP系顔料誘導体と称する。)
(ニ) 高いTg値の酸価を有するアクリル樹脂
(ホ) ブロックポリマー型アクリル樹脂系分散剤
【0017】
また、成分(ロ)、(ハ)は成分(イ)のソルベントソルトミリングの微細化時に用い、成分(ニ)、(ホ)の混合品はソルベントソルトミリングによる微細化終了後に混練物に添加し、引き続き混練を行って混合物を得ることを特徴とするソルベントソルトミリングの方法を提供する。
【0018】
上記に関し付言すると、本発明によるトリミックスを用いてDPP系顔料のソルトミリングの微細化を実施する場合に、スルホン酸基含有DPP系顔料誘導体を加え、微細化時の粘着防止と混練促進のためにエポキシ単量体のグリシジルフタルイミドを加える。微細化終了後に、ブロックポリマー型アクリル樹脂系分散剤およびカルボキシル基含有アクリル樹脂の加温混合処理溶液をDPP系顔料の微細化物に添加し、追加の混練により顔料の表面を均一に加飾する。
【発明の効果】
【0019】
DPP系顔料がスルホン酸基含有DPP系顔料誘導体の効果で微細化する過程で、グリシジルフタルイミドを用いることによってDPP系顔料表面の粘着性が抑えられ、トリミックスによる微細化が容易に進行するようになり、従来よりもさらに微細化できるようになる。また、微細化後の表面処理により洗浄乾燥後の乾燥凝集が少ない微細化処理顔料を得ることができる。
【0020】
本発明により、竪型の混練機を用いてDPP系顔料の微細化を行う時に、過大なトルク負荷が無く、かつ微細化、乾燥凝集などに効果のあるカラーフィルタ向けDPP系顔料の加工方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本実施形態では、竪型の混練機を用いて、DPP系顔料、グリシジルフタルイミド、スルホン酸基含有DPP系顔料誘導体、高いTg値の酸価を有するアクリル樹脂、ブロックポリマー型アクリル樹脂系分散剤を含むことを特徴とするカラーフィルタ用微細化処理有機顔料の製造方法について説明する。
【0022】
次に各材料や使用する機器について説明する。
(竪型混練機)
本実施形態の混練機について説明する。本実施形態においては、ソルトミリングは一般的にニーダーを使用して行う。ブレードにはシグマ型を使用する。一般のニーダーと異なっているのは混練容器内に適切に溶接のビードを設けているのが特徴であり、これによってドウの滑りを防止している。通常容量は2000リッター以上であり、通常容量の50%仕込みとして1000kgが処理される。設備として大型であり清掃が容易ではない。
このため色替えは簡単ではないため色別に使用されることが多い。
【0023】
なお、本実施形態では、株式会社井上製作所製のトリミックス(登録商標)を混練機として用いるものとする。その特徴は、竪型で軸シール部が上部にあることから設備の維持管理が容易であること、清掃がブレード部と移動式の容器なので容易であり、また容器は交換式のためスペアータンクを用意することにより品種別に使用することができる。このため多品種の生産に向いている。
【0024】
(DPP系顔料)
カラーフィルタ用微細化処理有機顔料組成物中の顔料(A)は、下記化学式(1)、または化学式(2)を含む。
【化1】
【0025】
DPP系顔料の具体例をカラーインデックスナンバーで示すと、C.I.Pigment RED 254、C.I.Pigment RED 291が挙げられる。
DPP系顔料のその他のREDとして、C.I.Pigment.Red 255、Red264が挙げられる。また、その他の色としてはOrange 71がある。
【0026】
(グリシジルフタルイミド)
グリシジルフタルイミドはフタルイミド基またはフタルイミドメチル基を有するエポキシ化合物である。構造を化学式(3)に示す。
【化2】
【0027】
主に、このようなモノエポキシ化合物はエポキシ樹脂の希釈剤用途や添加用途の部類に入り、たとえば粘度低下や密着性改善による強度向上などに用いられる。
【0028】
これらの化合物はモノエポキシタイプ(1分子中にグリシジル基が1つ)やジエポキシタイプ(1分子中にグリシジル基が2つ)などがあるが、ソルトミリングによる顔料粒子表面の改善と用途を考慮すると粒子間の架橋を起こすものは好ましくなく、架橋しないモノエポキシタイプがより好ましい。
【0029】
モノエポキシタイプとしては次のようなものがあり、使用目的により選定される。理由については後述するが、今回はこの中からグリシジルフタルイミドを選定した。
【0030】
グリシジルエーテルでアルキル含有を有する脂肪族、芳香族の化合物の例として、グリシジルメチルエーテル、グリシジルラウリルエーテル、エチルグリシジルエーテル、グリシジルフェニルエーテル、グリシジルイソプロピルエーテル、グリシジルプロパルジルエーテル、グリシジル2-メトキシフェニルエーテル、アリルグリシジルエーテル、tert-ブチルグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールグリシジルラウリルエーテル、2-エチルへキシルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、プロピレンオキサイド、1,2-ブチレンオキサイド、1,2-エポキシペンタン、1,2-エポキシヘプタン、1,2-エポキシオクタン、1,2-エポキシデカン、1,2-エポキシドデカン、1,2-エポキシテトラデカン、1,2-エポキシヘキサデカン、1,2-エポキシオクタデカン、1,2-エポキシエイコサン、グリシジルステアレートがある。
【0031】
特殊用途に用いられる化合物の例としては、2,4-ジブロモフェニルグリシジルエーテル、4-グリシジルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシルフリーラジカル、グリシジルフタルイミド、グリシジル4-tert-ブチルベンゾエート、4-tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル、4
-グリシジルオキシカルバゾールがある。
【0032】
シランカップリング剤の用途として使用される化合物の例として、グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、グリシジルオキシプロピル(ジメトキシ)メチルシラン、8-(グリシジルオキシ)-n-オクチルトリメトキシシラン、トリエトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)シラン、ヘプタメチル-3-(3-グリシジルオキシプロピル)トリシロキサン、ジエトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)メチルシランがある。
【0033】
脂環式エポキシ類に分類されるエポキシ化合物の例として、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、1,2-エポキシシクロヘキサン、2,3-エポキシノルボルナン、3,4-エポキシテトラヒドロフラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルアクリレート、1,
2-エポキシシクロペンタン、スチレンオキサイドが挙げられる。
【0034】
また、4級アンモニウム塩の例としては、グリシジルトリメチルアンモニウムクロライドが挙げられる。
【0035】
二重結合含有エポキシ化合物の例としては、1,3-ブタジェンモノエポキシド、1,2-エポキシ-5-ヘキセン、1,2-エポキシ-9-デセン、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレートがある。
【0036】
フッ素含有エポキシ化合物の例としては、ノナフルオロペンチルオキシラン、トリデカフルオロペンチルオキシラン、ヘプタデカフルオロペンチルオキシランが挙げられる。
【0037】
さらに、モノエポキシの選定の理由は、DPP系顔料の粘着性の発現が-NH基に由来する可能性の点からである。二級アミノ基であるとイソシアネート基かエポキシ基との反応を想定するが混練のドウの配合から見てPEGなどの水酸基が有るとイソシアネート基の反応はエポキシ基より非常に速いことからイソシアネート基は使用できない。エポキシ基であればアミノ基が優先的に反応する可能性が高い。また、モノエポキシ基であれば反応時に架橋して高分子化する事が無いなどの点から選択された。
【0038】
モノエポキシを有し、且つフタルイミド基を有するグリシジルフタルイミドを選定した理由は、微細粒子維持の点からである。一般的な顔料誘導体では、官能基の種類の分類で酸基、塩基そしてフタルイミドメチル基がある。フタルイミドメチル基の立体構造により顔料結晶の成長を阻害もしくは結晶に影響を与える効果があるといわれている。
【0039】
顔料におけるフタルイミドの使用例としてはフタルイミドメチル変性フタロシアニン顔料誘導体が代表的なもので、主に銅フタロシアニン顔料の結晶系をε型に変えるときに種(ε型銅フタロシアニンの純度が高いもの)とともに使用される。アシッドペースティングにより銅フタロシアニンとフタルイミドメチル変性フタロシアニン顔料誘導体の混合物を析出させ洗浄乾燥粉砕したものと、種となるε型銅フタロシアニン顔料を混合しソルトミリングすることでε型銅フタロシアニン顔料が得られるが、ε結晶への転換時に顔料結晶成長を抑制する効果がフタルイミドメチル基の効果と考えられる。
【0040】
また、フタルイミドメチル変性フタロシアニン顔料誘導体と同様な反応条件でフタルイミドメチル変性ジケトピロロピロール系顔料誘導体を作ることができる。合成は20%発煙硫酸中に顔料を溶解し、次に、パラフォルムアルデヒド、フタルイミドを、顔料分子量を基準として必要な当量比で計算後投入し、80℃で8時間程度加温する事で合成できる。その後洗浄・乾燥・粉砕する事で得られる。
このような誘導体は微細化と結晶成長防止の目的を持つがあくまで顔料にある芳香環に付加した構造となっている。この方法によるフタルイミド基は結晶を構成する水素結合のNH基とは別に側鎖として存在するため混練時の粘着性防止には関与しない。結晶成長が起こりうる場合に結晶成長点に作用すれば有効な添加剤である。
【0041】
本実施形態ではソルトミリングにより微細化されたDPP系顔料の表面にある分子の-NH基に直接フタルイミド基を反応させることで、顔料粒子を安定化させる効果を出すものである。これにより、本実施形態で使用するモノエポキシは、微細化した顔料の粒子径保持を考慮し、フタルイミド基を持つN-グリシジルフタルイミド(グリシジルフタルイミド 略号GPI)とした。
【0042】
(スルホン酸基含有DPP系顔料誘導体)
スルホン酸基含有DPP系顔料誘導体について示す。スルホン酸基含有DPP系顔料誘導体は、主にDPP系顔料のスルホン化物が用いられる。顔料誘導体をミルベース溶液の分散に使用する分類では酸性、塩基性、4級アンモニウム塩、レーキに分けることができる。本実施形態の塩と湿潤剤を用いたソルトミリングでは、湿潤剤とのぬれ性の点から極性のある酸性を選択し、顔料処理後の顔料表面の設定からスルホン酸基のある誘導体を選定した。
【0043】
この選択によりスルホン酸基含有DPP系顔料誘導体が使用されるが、顔料誘導体の場合には官能基数が問題となる。一般的に溶液状態にあるMB溶液では官能基数が平均1.5個以下であることが望ましい。1.5個以上では溶液の粘度が上がる傾向がある。本実施形態のDPP系顔料の混練では顔料表面のスルホン酸基濃度を効果的に上げるために、官能基を1.5個以上のものを使用する。
【0044】
本発明の評価で分散溶液を作成する場合には、スルホン酸基含有DPP系顔料誘導体の付加している官能基数は1.5個以下を用いる。この場合では、官能基数が2.0個に近い程分散溶液の粘度が上昇するからである。
スルホン酸基含有DPP系顔料誘導体の合成の方法については(1)20%発煙硫酸を使用し80℃で5時間撹拌した後、冷水中に注加しその後、0.05%HCL酸析により反応物を得て、濾過・乾燥・粉砕で得る方法と、(2)顔料をクロルスルホン酸に加温溶解しスルホン化物を得たまま次に塩化チオニルを用いて酸塩化物の官能基数を決め、反応物を得たのち加水分解させ0.05%HCL酸析にてスルホン酸基含有DPP系顔料誘導体を得る方法がある。(2)の方法の方が官能基数を決定し易く、出来た誘導体の色調が明るい傾向がある。
また、官能基数の測定は、顔料をアルコールで湿潤した後、水中に懸濁させ1/10Nの塩酸標準液で滴定するか、顔料を水中に懸濁後1/10N-KOHを過剰に入れて可溶化させ、1/10塩酸標準液で逆滴定する事で行うことが出来る。
【0045】
本実施形態におけるDPP系顔料の微細化は、スルホン酸基含有DPP系顔料誘導体の濃度に準じて上昇する傾向がある。このために、スルホン酸基含有DPP系顔料誘導体を多く使用するが、Y値が低下する。このため、スルホン酸基含有DPP系顔料誘導体の使用量をできるだけ増やさずDPP系顔料表面のスルホン酸基濃度を維持するため官能基数を増やすことが好ましい。
顔料表面の設定でスルホン酸基が選ばれているため、以後の顔料表面処理及びMB溶液の分散においても塩基性の吸着鎖を持つ顔料分散剤の使用が好ましい。
【0046】
本実施形態のカラーフィルタ用顔料組成物中のスルホン酸基含有DPP系顔料誘導体は、下記化学式(4)、化学式(5)を含む。
【0047】
【化3】
【化4】
【0048】
(高いTg値の酸価を有するアクリル樹脂、ブロックポリマー型アクリル樹脂系分散剤)
本実施形態のDPP系微細化処理顔料は混練微細化後、高いTg値の酸価を有するアクリル樹脂(以後、アルカリ可溶型アクリル樹脂と称する。)およびAB2元ブロックポリマー型アクリル樹脂系分散剤(以後、アクリル樹脂系分散剤または分散剤と称する。)の吸着物を混合し、顔料表面を処理する。顔料の表面処理の主な目的は、微細に分散された粒子の表面に吸着し安定する粒子形状を維持することにある。本実施形態の微細化顔料を得られた後の洗浄・濾過後のケーキ乾燥での乾燥物の硬くなる凝集を減らすことも含まれる。
【0049】
アクリル樹脂系分散剤の使用は、顔料表面のスルホン酸基に吸着させ部分的な疎水性を出すことで洗浄濾過を容易にすることと、ミルベースとして処理する場合に顔料が分散し易くすることも含まれる。
【0050】
本実施形態においてアルカリ可溶型アクリル樹脂およびアクリル樹脂系分散剤の吸着物を使用する目的は、次のとおりである。すなわち、微細化顔料にそれぞれ別個に添加された場合に不均一に顔料表面に吸着する可能性がある。これを防止するためにアルカリ可溶型アクリル樹脂中のカルボキシル基と分散剤中のアミノ基の吸着を行ってから、顔料表面にあるスルホン酸基と部分的に吸着させる。これにより分散剤の吸着基は樹脂および顔料と吸着することになり分散剤の添加の理由ともなる。
【0051】
この場合、高Tgアルカリ可溶型アクリル樹脂およびアクリル系分散剤の吸着物の比率はモル比で1~2:1が好ましい。また、顔料に加える高Tgアルカリ可溶型アクリル樹脂およびアクリル系分散剤の吸着物の添加量は10%から30%が好ましく、15%から25%がより好ましい。
【0052】
高Tgアルカリ可溶型アクリル樹脂については次の通りである。
【0053】
高Tg値の酸価を有するアクリル系樹脂はミルベース製造に使用され、この場合は分散用樹脂と称される。顔料分散用樹脂から選択されたものを用いる。Tg値が60℃以上であり、且つ乾燥後の状態が非粘着性であることを選定基準としている。また、アルカリ性溶液による現像工程があるため多くは酸価100以上を有する。
【0054】
高Tgアルカリ可溶型アクリル樹脂は乾燥時に非粘着であることが望ましい。また、樹脂はネガタイプの露光現像を行うため、アルカリ溶液への溶解性が必要となることから酸価を有する。さらに必要に応じて二重結合を有する場合もある。
【0055】
分散用樹脂の具体例としては綜研化学株式会社製のフォレット(登録商標)ZAHシリーズ、昭和電工株式会社製のリポキシ(登録商標)のSPC-2000シリーズ、SPC-3000シリーズなどが挙げられる。
【0056】
次に、分散剤について説明する。分散剤はエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂の3つの高分子の樹脂系(ポリマー系)に分けることができる。
【0057】
使用するアクリル樹脂系分散剤は2元ブロックポリマーで、安定鎖と吸着鎖の2つからなる。ここでは、安定鎖をA、吸着鎖をBとして説明する。Bブロックの吸着基は3級アミノ基がベースとなっており顔料表面に吸着する。A部の安定鎖はBブロックの吸着基が吸着した後に溶剤中に伸び、分散された顔料を個々に溶剤中に安定化して分散状態を保つ働きをする。これらのブロックポリマーは各種のリビング重合によって合成される。また、安定鎖は目的によって3級アミノ基の1/3程度が塩化ベンジルなどの4級化剤で4級アンモニウム塩化される。
【0058】
分散剤の具体例としては、エステル樹脂系としてアジスパーPBシリーズ(味の素ファインテクノ株式会社製)、ウレタン樹脂系としてBYK-160シリーズ(ビックケミー・ジャパン株式会社製)、アクリル樹脂系としてTERPLUS分散剤のD1000、D1200シリーズ(大塚化学株式会社製)、BYK-LP N6919、BYK-LP N21116(ビックケミー・ジャパン株式会社製)などが挙げられる。
【0059】
また、この用途における溶剤は使用量が少ないが水処理に影響を与えないものが好ましい。プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の溶剤で不揮発分20~30%に調製して混合溶解することが好ましい。
【0060】
(ソルトミリングで使用の塩)
ソルトミリング用に使用する塩について示す。ソルトミリングに使用される塩は芒硝、食塩などが用いられるが、本実施形態では食塩(塩化ナトリウム)を用いる。塩化ナトリウムでは精製塩と焼塩に分けられるが、本実施形態では微細化を目的とするので硬度の有る焼塩を用いる。食塩は粉砕の仕方によって粒子の形が異なり、また焼塩の場合は精製塩より固くなっている。本実施形態においては顔料粗粒を早期に粉砕し、同時に微細化を進めるために粒度平均45μmと粒度平均10μmの塩化ナトリウムを7:3の割合で混合して用いた。
【0061】
焼塩の具体例としては、45μmとしてナクルUM(ナイカイ塩業株式会社製)、10 μmとしてオシオミクロンT-0(赤穂化成株式会社製)などが挙げられる。
【0062】
(ソルトミリングで使用する湿潤剤)
ソルベントソルトミリングをする際に湿潤剤として一般的にグリコール系溶剤(化学式(6))が用いられることが多く、種類として「PEG300」、「DEG」、「EG」などから選択される。本実施形態に使用する湿潤剤の構造を下記化学式(6)に示す。
【化5】
【0063】
微細化処理顔料の混練では「PEG300」、「DEG」などが粘性の点で使用し易い。また、混練後の水洗における水処理時のグリコール系溶剤の分解に対応するために使用するグリコール系溶剤が限定される場合もある。このようなことから、本実施形態ではPEG300を使用した。
【0064】
(ソルトミリングの条件について)
ソルトミリング用の配合は顔料及び顔料誘導体を1として、塩を10とした。顔料と塩の比率において、生産効率の点からは塩が少ない方が良く、微細化の点からは塩が多い方が良い。この比率は混練機や混練の目的により種々変化する。
【0065】
スルホン酸基含有DPP系顔料誘導体の添加量は多い程、コントラストが向上する。しかし添加量が多い場合には色純度のY値が低下するため、DPP系顔料のスルホン酸含有DPP系顔料誘導体の添加量は1%から20%が好ましく、2.5%から17.5%がより好ましい。
【0066】
さらに、本実施形態でDPP系顔料からスルホン酸基含有DPP系顔料誘導体分を差し引いたものが、グリシジルフタルイミドの加飾対象となる。この点で60%以上のDPP系顔料が対象となる。しかし、グリシジルフタルイミドをDPP系顔料に付加するということはDPP系顔料に無色の構造を付加することであるため、着色率を低下させ、顔料の機能を低下させるものである。
【0067】
このため適切な範囲に収める必要がある。概略で顔料とグリシジルフタルイミドのモル比を2:1として計算すると、DPP系顔料(スルホン酸基含有DPP系顔料誘導体を含む)にグリシジルフタルイミドを使用する場合には重量比で1%から20%が好ましく、2.5%から17.5%がより好ましい。
【0068】
トリミックスによるソルトミリングにおいて、混練条件は回転数、温度、時間、仕込み量で示される。本実施形態では回転数を基本仕様の50%とした。この場合のブレード、回転数を次に示す。
・回転数は表示目盛5を基準として使用するがドウの状態により適時変更する。
・混練時間は表示目盛5を1として相対比に応じて混練時間を調整する。例えば、表示目盛5で1時間混練の場合には表示目盛1に変更すると1hr/0.5になるので2時間混練する。
【0069】
【表1】
【0070】
混練時の温度設定であるが、通常微細化だけの場合では、常時冷却で10℃から25℃に保たれて混練される。本実施形態では混練による解砕時のDPP系顔料の反応性の点で25℃から35℃が好ましい。
【0071】
ソルトミリング中のドウの粘着性が顔料の微細化が進行するとともに増加するが、グリシジルフタルイミドの添加によって抑えられる。このためトリミックスによるソルトミリングによる混練での粘着の負荷が減るために適度な定回転で指定時間または迫り上がり(混練中のドウが混練ブレード上部に溜まる事を指す。)が起きない範囲で回転数を上げ、時間短縮により微細化を進めることができる。
【0072】
このグリシジルフタルイミドの添加による再凝集防止は顔料が塗膜となった後の高温硬化条件下においても、フタルイミド基による顔料粒子表面非粘着の効果により顔料粒子同士の熱融着による顔料凝集を防止する。
【0073】
DPP系顔料誘導体においてもメチレン結合形成によってフタルイミドメチル基を付加することができる。
本実施形態では、混練により新しく発生した活性なDPP骨格のNH部に、グリシジルフタルイミドのエポキシ基が付加し、フタルイミド基が顔料表面に加飾することによって、混練時の顔料の粘着性を低減する事を特徴とする。側鎖芳香環に付加させた場合のフタルイミドメチル基とは異なった挙動を示す特性は混練時に付加したものである。
【0074】
本実施形態によるグリシジルフタルイミドがDPP系顔料のNH基の粘着発生挙動に直接作用することを実施例にて示す。同時に顔料表面におけるグリシジルフタルイミドの吸着による効果を示し、この実施形態によって他の混練機の使用を否定するものではない。
【0075】
(実施例)
以下、各実施例や比較例について説明するが、本実施形態はこれによって限定されるものではない。なお、実施例および比較例中、部とは重量部を、%とは重量%を示す。
また、実施例中の配合または組成上の表記に関し、その内容や意味合いを以下の表2に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
(実施例1:グリシジルフタルイミド配合)
C.I.Pigment Red 254の顔料を用いてソルベントソルトミリングを実施した。試験条件を以下に示す。
・混練機はトリミックスTX-15を使用。混練物の温度調整はジャケット付き容器で行う。
・混練の回転数は表示目盛の5を標準設定とする。
【0078】
実施例1の混練物の配合、および本混錬時のタイムチャートを以下に例示する。
【表3】
【0079】
【表4】
【0080】
(比較例1:グリシジルフタルイミド未配合)
上記の実施例1に対する比較例(比較例1)を説明する。ここでは、C.I.Pigment Red 254の顔料を用いて実施例1と同様な条件でソルベントソルトミリングを実施した。比較例1の混練物の配合を示す。
【0081】
【表5】
【0082】
【表6】
稼働時に負荷が少ない場合は、アンメーターの指示は4.4アンペアを示している。混練中に混練物による負荷が増加すると電流値も増加する。通常の粘着性のない混練では配合に準じて電流値が徐々に変動して振れ幅が一定の値を示すが、混練物と容器の間で粘着が発生し、粘着と剥離を繰り返すとアンメーターの振れ幅が非常に大きくなり混練設備に振動が生じる。この振れた時の最大の電流値が6.0Aを超えた場合は、最大値が5.5Aになるように1桁の数字を目安に回転数を下げることで検討を実施した。分散が不足と考えられた場合には10Aまで許容した。設備としては15Aの電流値が限界であるが最大10Aまでの使用基準を設けており、10Aに達した場合には終了した。
【0083】
竪型のトリミックスにおいて混練配合が不適切な場合にドウが容器上部に移動し、ブレードと容器間の剪断を受けない。この状態を「迫り上がり」と呼ぶ。
【0084】
この状態では、食塩を添加しドウを硬くすることで発生を抑えることができる。PEG300の添加でドウを柔らかくすると迫り上がりが発生する。この迫り上がりを防止するために食塩を添加し混練すると負荷電流値が上昇する。DPP系顔料のドウでは配合調製でドウを硬くすると粘着力が強いままに急激に硬度が増す傾向があり、迫り上がりを起こしたものは容器上部に貼り付き容易に取り出せないものとなるのがDPP系顔料の特徴である。
【0085】
グリシジルフタルイミドを配合した実施例1、およびグリシジルフタルイミドを配合しなかった比較例1で得られた結果を次表に示す。
【0086】
【表7】
【0087】
ドウの状態を迫り上がりと混練状態から確認したところ、フタルイミドの添加により実施例1の配合物が一定で長時間の混練ができる。それに比べて比較例1の配合物では混練状態が難しくアンメーターの上昇で混練回転数を下げて混練するが電流値の振幅が大きい。このことはドウの粘着が大きいことを示す。
【0088】
次に、表面処理に関し、検討した実施例2、比較例2、および実施例3を示す。
【0089】
(実施例2:グリシジルフタルイミド未配合、処理剤に顔料分散剤溶液を含めるケース)
混練した顔料の表面処理を行って表面処理顔料を得る。表面処理として使用する処理剤(処理溶液)の調製を次に示す。この実施例2では、表8に示すように、ブロックポリマー型アクリル系分散剤(顔料分散剤溶液)としてBYK-LP N6919を用い、カルボキシル基含有樹脂(樹脂溶液)としてフォレット ZAH-115を用いた。また、溶剤としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを用いた。
【表8】
溶液の調製は、500mlの内蓋付きPEボトルに仕込み、超音波洗浄器(ASU CLEANER アズワン製)で30分処理し、混合する。すなわちこの処理は、加温混合または超音波を加え混合撹拌する処理となる。
この混合は分散剤と分散用樹脂がそれぞれ個別に顔料表面へ吸着する事を避けるため、事前に混合吸着させる事で分散剤と分散用樹脂をポリマーレベルで配合比通りに対応させ、それを顔料表面に吸着させるために行う。
【0090】
トリミックス容器に処理溶液を104g投入し、次に、比較例1(グリシジルフタルイミド未配合)で得られた混練物2.0kgを計量し、トリミックスの容器に仕込んで追加混練で表面処理を行った。処理条件を以下に示す。
【表9】
【0091】
(比較例2:グリシジルフタルイミド未配合、処理剤に顔料分散剤溶液を含めないケース)
トリミックス容器にフォレットZAH-115を45.7g投入し、次に、比較例1(グリシジルフタルイミド未配合)で得られた混練物2.0kg計量し、トリミックス容器に仕込む。追加混練で表面処理を行った。処理条件を次表に示す。
【表10】
【0092】
(実施例3:グリシジルフタルイミド配合、処理剤に顔料分散剤溶液を含めるケース)
トリミックス容器に実施例2と同様の処理溶液106gを投入し、次いで実施例1(グリシジルフタルイミド配合)で得られた混練物2.0kg計量しトリミックス容器に仕込む。これにより表面処理を行った。
処理条件を次表に示す。
【表11】
【0093】
ソルトミリング処理したDPP系顔料の混練物を水洗、濾過を繰り返し、電気伝導度が50から100μS/cmで洗浄を終了した後に、80℃で一昼夜乾燥を行う。その後、顔料をさらに粉砕し、分散体の配合に使用できる粒径とした。
【0094】
分散体の作成においては、実施例2、比較例2および実施例3の顔料粉砕物を用意した。
次表の配合表の組成となるように、混合撹拌した後、サンドミル(ジルコニアビーズ径:0.3mm、充填率:60%)で適切な粒径まで循環により練肉し、赤色顔料分散組成物A~Cを得た。
【表12】
【0095】
[顔料分散液の評価]
(平均粒子径)
赤色顔料分散組成物A~Cについて、平均粒子径(D50)を粒度分布系LB-550(株式会社堀場製作所製)で、それぞれ測定し、結果を表12に示した。
【0096】
[塗膜形成用の顔料分散液組成物]
赤色顔料分散体A~Cに分散用樹脂溶液および溶剤を加え、固形分を20%に調整し均一に撹拌した後、シリンジ濾過を行って塗膜形成用溶液A-1、B-1、C-1を作成した。
【0097】
[顔料分散液の色特性評価]
塗膜形成用溶液A-1、B-1、C-1を、スピンコーターを用いてガラス基板上に塗布した。その後90℃オーブンで5分間加熱乾燥し、冷却し、評価用基板を得た。次いで各評価用基板を色純度x=0.656での輝度Yを分光光度計(ビデオジェット・エックスライト社製CE-7000A)で、コントラストをコントラスト計(壷坂電機製 CT-01)で、それぞれ測定し、結果を表13に示した。
【0098】
(評価基準)
以下、同様の試験においては、同様の評価基準とする。
○:3000以上
△:2000以上3000未満
×:2000未満
【0099】
(実験結果のまとめ)
実施例1(表4)と比較例1(表6)の混練の比較で明らかにアンメーターの数値が安定化しており、ドウの混練とともに発生する新しい活性面にグリシジルフタルイミドが作用し表面粘着性が抑えられている事が分かる。
【0100】
A-1、B-1、C-1による評価および結果を次表に示す。
【表13】
A-1とB-1は顔料の表面処理の差を確認したもので、アクリル樹脂と分散剤の表面処理剤でコントラストの向上が認められた。また、C-1はA-1にグリシジルフタルイミドを使用した場合の結果でありコントラストの向上がそれぞれに認められる。
この結果から、コントラストの向上は顔料粒子の安定に依存するので、表面処理剤とグリシジルフタルイミドのそれぞれによる顔料表面への関与した結果であり、グリシジルフタルイミドは混練の改善だけではなく物性へも影響を与える事を示す。
【0101】
(実施例1の添加手法)
最後に、上記の実施例1に関し、各材料の添加手法について言及する。上記の実施例1については、以下のように添加および混錬を行ってもよい。
(STEP1) 規定量に達しない量のソルトミリング用の食塩A、B、規定量のDPP系顔料、規定量のスルホン酸基含有DPP系顔料誘導体、規定量のグリシジルフタルイミドを、この順で静かに仕込み、さらに規定量に達しない量のグリコール系溶剤(PEG300)を静かに仕込む。このときに仕込む食塩A、食塩B、グリコール系溶剤は、それぞれ例えば規定量の半分とする。尚、ここでの「規定量」は、例えば表3に示した量であってもよい。食塩が多く入るとドウが固く(粘度が高く)なり、各材料と混ざりにくくなる。よって、このSTEP1の初期段階では、各材料を混合しやすくするため、食塩を減らしている。
(STEP2) 回転ダイヤルの表示目盛を低速(表示目盛1)に設定して5分程度予練りを行う(第1の予練り)。
(STEP3) 残余分のグリコール系溶剤を仕込んで規定量とし、回転ダイヤルの表示目盛を低速(表示目盛1)のままにして更に45分程度予練りを行う(第2の予練り)。
(STEP4) 残余分の食塩A、食塩Bを仕込んで規定量とし、回転ダイヤルの表示目盛を高速(表示目盛5)に設定して10時間以上の本練り(表4の「本混錬」相当)を行う。
【0102】
尚、食塩、グリコール系溶剤について、ここでは半分の量ずつ分散して仕込んでいるが、態様はこれに限定されない。予練りの段階で徐々に配合量が増加していくように分散して仕込んでいき、本練りの最終的な段階で規定量となっていればよい。また本練りの際、迫り上がりの状況に応じて回転ダイヤルを調整し、速度を変化させるのは、上記の実施例1と同様である。
【0103】
(本実施形態による効果)
本実施形態により、DPP系顔料特有の表面粘着性が抑制されることが判った。この方法の採用によりDPP系顔料のような混練時に粘着を示す顔料などが容易にソルトミリングをすることが可能となる。また、この方法と併用してアクリル樹脂系バインダーおよびアクリル樹脂系分散剤の吸着物を顔料の表面に処理することでコントラストが上昇する。
【0104】
本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他の様々な形で実施することができる。そのため、前述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。更に、特許請求の範囲の均等範囲に属する全ての変形、様々な改良、代替および改質は、すべて本発明の範囲内のものである。

【要約】
【課題】竪型の混練機を用いてDPP系顔料の微細化を行う際に、過大なトルク負荷が無く、かつ微細化、乾燥凝集などに効果のあるカラーフィルタ向けDPP系顔料の加工方法を提供する。
【解決手段】ソルベントソルトミリング法を用いてDPP系顔料を微細化する赤色微細化有機顔料の製造方法において、DPP系顔料、スルホン酸基含有DPP系顔料誘導体、塩とグリコール系溶剤を含めて混練する時に、グリシジルフタルイミドを添加した状態で混錬することを特徴とする。
【選択図】なし