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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】衛生機器
(51)【国際特許分類】
   E03D 11/02 20060101AFI20220628BHJP
   E03D 9/08 20060101ALI20220628BHJP
   G01V 3/12 20060101ALI20220628BHJP
   G01S 13/56 20060101ALI20220628BHJP
   A47K 13/24 20060101ALN20220628BHJP
【FI】
E03D11/02 Z
E03D9/08 Z
G01V3/12 A
G01S13/56
A47K13/24
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017186123
(22)【出願日】2017-09-27
(65)【公開番号】P2019060152
(43)【公開日】2019-04-18
【審査請求日】2020-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(72)【発明者】
【氏名】轟木 健太郎
【審査官】広瀬 杏奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-216945(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0307562(US,A1)
【文献】特開2017-143913(JP,A)
【文献】特開2011-212176(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03D 11/00-13/00
E03D 9/00- 9/16
G01V 3/12
G01S 13/56
A47K 13/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射した電波の反射波によって検知対象に関する情報を取得する電波センサと、前記電波センサから出力される第1信号と第2信号とを含む検知信号に基づいて器具の動作を制御する制御部とを備える衛生機器において、
前記制御部は、それぞれ位相が異なる前記第1信号と前記第2信号を元に位相角を演算する位相角演算部と、
前記検知対象の有無を判定する判定部と、を備え、
前記判定部は、前記位相角演算部により算出された前記位相角に所定の角度の変化が生じる期間における前記第1信号と前記第2信号の少なくとも1つ以上の信号振幅値に基づいて検知対象の有無を判定することを特徴とする衛生機器
【請求項2】
請求項1に記載の衛生機器において、前記制御部は前記信号振幅値と前記位相角の変化量とを記憶し、前記判定部は記憶された前記信号振幅値と前記位相角の変化量とに基づいて前記検知対象の有無を判定することを特徴とする衛生機器
【請求項3】
請求項1または2に記載の衛生機器において、前記判定部は、検知対象有りと判定した以降の前記信号振幅値に基づいて前記検知対象の退去を判定することを特徴とする衛生機器
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の衛生機器において、前記判定部は、前記位相角の変化量が記憶された閾値よりも大きい場合に前記検知対象の有無を判定する判定部を備えることを特徴とする衛生機器
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の衛生機器において、前記制御部は、前記第1信号と前記第2信号の低周波数成分を除去するハイパスフィルターを備え、前記ハイパスフィルターの出力に基づいて位相角を演算する位相角演算部を備えることを特徴とする衛生機器
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の衛生機器において、前記電波センサは、最大感度方向を水平よりも上向きまたは下向きとすることを特徴とする衛生機器
【請求項7】
請求項1または6のいずれか1項に記載の衛生機器において、前記位相角が所定の角度の変化する度に、その回数を積算した位相角積算値の変化量を前記検知対象の有無の判定に用い、前記検知対象が前記電波センサに近づくときに前記位相角積算値を加算し、前記検知対象が前記電波センサから離れるときに前記位相角積算値を減算することを特徴とする衛生機器
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の衛生機器において、前記位相角の前記所定の角度の変化は、1周期であることを特徴とする衛生機器
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の衛生機器において、前記位相角に所定の角度変化が生じない場合は、前記検知対象の有無を判定しないことを特徴とする衛生機器
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の態様は、一般的な衛生機器に関し、特にトイレ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トイレ空間における検知対象を検知するために、電波センサを備えたトイレ装置がある。特許文献1では、トイレ装置に設けられた電波センサを用いて、信号の位相差情報から検知対象の動きを検知する技術と、信号強度から検知対象の有無を検知する技術と、を組み合わせた検知制御が開示されている。具体的には、トイレ室の出入り口がトイレ装置の正面にある場合は、位相差情報に基づいて人体の動きと有無を判定し、出入り口がトイレ装置の側面にある場合は、信号強度に基づいて人体の有無を判定する。
【0003】
ここで、特許文献1では、位相差情報に基づいて検知対象の動きを検知する技術として、1周期の波が生じるのは(すなわち、ドップラ信号の位相が2π変化するのは)使用者がλ/2移動(λ:送信波の波長)することに等しいということに基づいて、ドップラ信号の波数をカウントして使用者の移動距離を検知することが開示されている。さらに移動方向の情報と組み合わせることによって、使用者の移動距離を正確に検知することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4482301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、トイレ装置の使用者が立小便を行う場合は、立った姿勢のままでほぼ静止する。このように、トイレ室内の使用者の使用態様によっては、大きな信号強度が得られない場合がある。そこで、特許文献1は、トイレ装置の便座が開かれている場合は電波センサの感度を高めることによって、使用者を検知できるとしている。
【0006】
しかし、感度を高めると、トイレ室の周りの使用する意図が無い人を電波センサが検知してしまい、使用者がトイレ室から退室したにも関わらず、人体が有るものと検知された状態が続いてしまう可能性がある。
例えば、電波センサによって人体有りの状態から人体無しの検知がなされた場合に、トイレ装置が便器を洗浄したり便蓋を閉じたりする場合、人体有りの検知が続いてしまうと、これらの動作が行われない。
【0007】
本発明は、かかる課題の認識に基づいてなされたものであり、衛生機器を使用する意図が有る人体を、より高精度に検知できる衛生機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、放射した電波の反射波によって検知対象に関する情報を取得する電波センサと、電波センサから出力される第1信号と第2信号とを含む検知信号に基づいて器具の動作を制御する制御部とを備える衛生機器において、制御部は、それぞれ位相が異なる第1信号と第2信号を元に位相角を演算する位相角演算部と、検知対象の有無を判定する判定部と、を備え、判定部は、位相角演算部により算出された位相角に所定の角度の変化が生じる期間における第1信号と第2信号の少なくとも1つ以上の信号振幅値に基づいて検知対象の有無を判定するものである。
【0009】
例えば、第1信号と第2信号から求める検知信号の位相角が2π変化する期間では1周期の波が得られるので、この期間の信号振幅値を計測すると、反射波の強度に相応する値となる。
よって、このように構成された第1の発明によれば、所定の位相角の変化は使用者の所定の移動量を示すものであるため、所定の位相角の変化が生じる期間における信号振幅値を求めることで、その信号振幅値は反射波の強度を反映するものとなり、使用者の接近・離反及び位置を精度良く検知判定することができる。また、使用者の動きが少なく、位相角に所定の角度変化が生じない場合は検知対象の有無を判定しないので、誤って検知対象無しと判定することは無い。
【0010】
また、第2の発明は、第1の発明に記載の衛生機器において、制御部は信号振幅値と前記位相角の変化量とを記憶し、判定部は記憶された信号振幅値と位相角の変化量とに基づいて検知対象の有無を判定するものである。
【0011】
ここで、使用者がλ/2移動(λ:送信波の波長)すると、位相角が2π変化するという関係より、位相角の変化は使用者の位置を表す。
よって、このように構成された第2の発明によれば、予め判定部に信号振幅値と位相角の変化量の関係における検知者状況を記憶させ、算出した信号振幅値と位相角の変化量とを記憶した数値と比較することで使用者の検知判定を精度よく行うことができる。使用者が衛生機器に接近する場合や衛生機器から立去る場合には電波センサに近いほど反射波の強度が大きいという特徴的な関係が見られるので、精度良く判定できるようになる。
【0012】
また、第3の発明は、第1または第2の発明の衛生機器において、判定部は、検知対象有りと判定した以降の信号振幅値に基づいて検知対象の退去を判定するものである。
【0013】
ここで、信号振幅値を検知するセンサの感度は使用環境、体格、製造ばらつき、によって変動してしまい、信号振幅値を固定の閾値と比較して検知判定すると誤った判定をしてしまう恐れがある。
しかし、このように構成された第3の発明によれば、上記の構成では実際の使用者による信号振幅値に基づいて判定するので、衛生機器に接近した際の信号振幅値と使用中、及び、退去の際の信号振幅値に相関があることより、精度良く退去を判定することができる。
【0014】
また、第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明の衛生機器において、前記判定部は、前記位相角の変化量が記憶された閾値よりも大きい場合に前記検知対象の有無を判定するものである。
【0015】
このように構成された第4の発明によれば、位相角の変化量は使用者の移動量を反映した値となるので、使用者の移動距離も判定に用いられることになる。センサの感度指向性において感度が高い方向では使用者の距離による信号振幅値の変化が乏しく、使用環境や製造ばらつきに伴うセンサ感度のバラツキを考慮すると、信号振幅値だけでは十分な判定性能が得られない可能性があるが、位相角の変化量での判定を併用することによって所定の距離の移動がある場合には判定されることになるので判定精度を向上することができる。
【0016】
また、第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明の衛生機器において、前記制御部は、前記第1信号と前記第2信号の低周波数成分を除去するハイパスフィルターを備え、前記ハイパスフィルターの出力に基づいて位相角を演算する位相角演算部を備えるものである。
【0017】
前記第1信号と前記第2信号は、センサの部品の特性のばらつきや、検知対象以外での反射波の位相の違いによって出力電圧に違いがあり、この影響を受けて位相角の算出精度が低下してしまう。
しかし、このように構成された第5の本発明によれば、ハイパスフィルターによって背景の電位(ノイズ)を除去することで、検知対象の移動に伴う信号を基に位相角や信号振幅値を演算するので、より正確に判定することができる。
【0018】
また、第6の発明は、第1乃至第5のいずれかの発明の衛生機器において、前記電波センサは、最大感度方向を水平よりも上向きまたは下向きとするものである。
【0019】
このように構成された第6の発明によれば、検知すべき機器の使用位置の検知対象と、検知すべきでない遠方の検知対象とで、信号振幅値の差がつき易くなるので、判定精度が向上する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、衛生機器を使用する意図が有る人体を、より高精度に検知できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施形態に係るトイレ装置が設けられた便器を表す斜視図である。
図2】本実施形態に係るトイレ装置の要部構成を表わすブロック図である。
図3】本実施形態に係る人体検知部の要部構成を表わすブロック図である。
図4】人体検知部に検知対象が接近した場合の人体検知部の内部の信号の推移を示す図である。
図5】人体検知部に検知対象が接近した場合の人体検知部の内部の信号の推移を示す図である。
図6】位相角演算部での演算の概念を示す図である。
図7】本実施形態に係るトイレ装置が使用される際の様子を表す側面図である。
図8】制御部で得られる信号を示す図である。
図9】センサと人体との距離Lとセンサの信号振幅値Vとの関係を示す図である。
図10】位相角積算値Sθと振幅値V2πとの関係を示す図である。
図11】使用者が、トイレ装置を使用する際の振幅値V2πの推移と、人体が無いと検知する条件の閾値の設定方法を示す図である。
図12】使用者が、トイレ装置を使用する際の信号の推移と、位相角の変化に基づいて検知判定する例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0023】
図1は、本実施形態に係るトイレ装置が設けられた便器を表す斜視図である。
図2は、本実施形態に係るトイレ装置の要部構成を表わすブロック図である。
【0024】
図1に表すように、本実施形態に係るトイレ装置1は、洋式腰掛便器(以下説明の便宜上、単に「便器」と称する)6に付設される。トイレ装置1は、便座2と、便蓋3と、本体部4と、を備える。本体部4は、便器6の上に載置され、便座2と便蓋3とは、本体部4に対して開閉自在にそれぞれ軸支されている。
【0025】
以降では、実施形態の説明のために前後方向を用いるが、この方向は、便座2に座った使用者から見たものである。
【0026】
図2に表すように、トイレ装置1は、本体部4の内部に設けられた人体検知部10と、被制御部20と、をさらに備える。人体検知部10は、電波センサ11と、制御部12と、を有する。
【0027】
電波センサ11は、マイクロ波又はミリ波などの高周波の電波をトイレ装置1の前方の水平よりも25度上向きに放射し(図示しない)、放射した電波の検知対象(人体)からの反射波を受信する。反射波には、検知対象の状態に関する情報が含まれている。電波センサ11は、放射した電波と反射波とに基づく検知信号を制御部12に出力する。制御部12は、例えば、マイコンなどを含む回路である。そして、制御部12は、検知信号に基づいて人体の有無を検知し、検知結果に基づき、被制御部20に対して制御信号を出力する。
【0028】
なお、ここで述べた例に限らず、電波センサ11で検知信号に基づいて人体の有無を検知し、その検知結果を制御部12に出力するような構成とすることも可能である。
すなわち、人体検知部10は、電波を放射して検知信号を得て、その検知信号に基づいて人体の有無を検知し、その検知結果に基づいて被制御部20に対して制御信号を出力するものであれば、その詳細な構成は適宜変更することが可能である。
【0029】
被制御部20は、例えば、ノズルユニット21、便座開閉ユニット22と、便蓋開閉ユニット23と、便器洗浄ユニット24と、脱臭ユニット25と、温風ユニット26と、便座暖房ユニット27と、を含む。
【0030】
ノズルユニット21は、本体部4の内部に収納された洗浄ノズルと、洗浄ノズルを駆動させるための駆動ユニットと、を有する。駆動ユニットは、洗浄ノズルを便器6のボウル6a内に進出させたり、ボウル6aから後退させたりする。例えば、ノズルユニット21は、制御部12からの制御信号を受信すると、駆動ユニットによって洗浄ノズルをボウル6a内に進出させ、使用者の局部に向けて洗浄ノズルから洗浄水を吐出する。
【0031】
便座開閉ユニット22は、制御部12からの制御信号に基づいて、便座2を、開けたり(上げたり)、閉じたり(下げたり)する。便蓋開閉ユニット23は、制御部12からの制御信号に基づいて、便蓋3を、開けたり(上げたり)、閉じたり(下げたり)する。便器洗浄ユニット24は、制御部12からの制御信号に基づいて便器6のボウル6a内の洗浄を行う。脱臭ユニット25は、制御部12からの制御信号に基づいて、トイレ室内の空気をフィルタや触媒などに通すことで臭気成分を低減させる。温風ユニット26は、制御部12からの制御信号に基づき、便座2に座った使用者の「おしり」などに向けて温風を吹き付けて乾燥させる。便座暖房ユニット27は、制御部12からの制御信号に基づき、便座2の着座面を加熱して温める。
【0032】
なお、被制御部20に含まれる上述した構成要素は一例である。被制御部20は、上述した構成要素の一部のみを含むものであってもよい。あるいは、被制御部20は、制御信号に基づいて動作する他の構成要素を含んでいてもよい。
【0033】
また、制御部12は、リモコンなどの操作部5から入力された信号や、便座2に設けられた着座検知センサなどの信号に基づいて、被制御部20の少なくとも一部の要素を動作させることも可能である。または、ここでは、電波センサ11の検知結果に基づいて被制御部20に対して制御信号を出力する制御部と、操作部5などの入力に基づいて被制御部20に対して制御信号を出力する制御部と、が同一のものである場合について説明しているが、これらの制御部は、別々に設けられていてもよい。
【0034】
人体検知部10のより詳細な構成と、検知対象の移動に伴う内部の信号について図3から図6を元に説明する。
図3は、本実施形態に係る人体検知部の要部構成を表わすブロック図である。
図4図5は、人体検知部に検知対象が接近した場合の人体検知部の内部の信号の推移を示す図である。
図6は、位相角演算部での演算の概念を示す図である。
【0035】
電波センサ11には高周波信号を生成する発振器31と、送信部32(アンテナ)と、受信部33(アンテナ)と、ミキサ部34a、34bと、位相シフト手段35と、を有する。電波センサ11は、Ich信号とQch信号とを含む検知信号S0を出力するセンサである。この例では、送信側のアンテナと受信側のアンテナとは別々に設けられている。但し、送信側のアンテナと受信側のアンテナとを共通としてもよい。
【0036】
発振器31に接続された送信部32から、高周波、マイクロ波あるはミリ波などの10kHz~100GHzの周波数帯の電波が放射される。例えば、10.50~10.55GHzまたは24.05~24.25GHzの周波数を有する送信波T1が、トイレ装置の前方に向けて放射される。受信部33は、人体などの検知対象からの反射波T2を受信する。
【0037】
送信波の一部(信号Sig1)及び受信波の一部(信号Sig2)は、ミキサ部34aに入力されて合成される。これにより、Ich信号が出力される。
【0038】
また、受信波の一部(信号Sig3)は、位相シフト手段35に入力される。位相シフト手段35は、信号Sig3の位相をずらして、信号Sig4を出力する。位相シフト手段35の一例としては、受信波をミキサ部34bへ伝える配線の長さや配置を変更する方法が挙げられる。信号Sig4と信号Sig3との位相差は、例えば60°以上120°以下であり、できるだけ90°に近いことが望ましい。この例では、信号Sig4と信号Sig3との位相差は、90°(π/2、4分の1波長)である。送信波の一部(信号Sig5)及び信号Sig4は、ミキサ部34bに入力されて合成される。これにより、Qch信号が出力される。
【0039】
制御部12にはIch信号とQch信号が入力され、それぞれハイパスフィルター36a、36bで低周波数信号が除去され、増幅回路37a、37bで増幅されて信号Si,Sqとなり、位相角演算部38と、判定部39に入力される。
【0040】
図4は、人体検知部10に検知対象が接近した場合の信号Si,及び、信号Sqの推移を示したものである。Si,Sqともに、ハイパスフィルターの基準電圧V0を中心として上下に振動する波形であり、また、Sq信号の位相は、Si信号の位相に対して90°ずれている。そこで、位相角演算部38において、信号Si,及び、信号Sqより信号S0の位相を求めることができる。
【0041】
先ず、信号Siの電圧値から基準電圧V0を差し引いた電圧をVi、信号Sqから基準電圧V0を差し引いた電圧をVqとすると、Vi、Vqは図5に示すようになる。例えば、時刻t1での位相θ1は、図6に示すように横軸にViの値、縦軸にVqの値をプロットすると、点Pの極座標の偏角であり、下記の演算で求めることができる。
θ1=tan-1(Vq1/Vi1) (1)
よって、適宜、位相角の演算を行えばその変化を認識することもできる。
【0042】
このようにして判定部39は、例えば、極座標上でθが0から1回転する期間(点Qから点Rまで)を認識できる。この期間は、図5における時刻t2からt3までの1周期であり、制御部39は、この期間中のVi,Vqの振幅値(極大値と極小値の差分)V2πを演算する。これは、検知対象での反射量を反映したものとなる。
【0043】
また、位相の変化は検知対象の移動に伴って生じるものである。電波センサの出力信号は送信波と受信波の干渉で生じるものであるので、電波センサが放射する電波の波長をλとすと、位相が2π変化することは送信波と受信波の位相がλ変化することなので、検知対象がλ/2移動することに相当する。例えば、電波センサ11が放射する電波の周波数が24GHz程度の場合には、λ/2は、6.2mm程度である。したがって、位相の変化を求めることにより、検知対象の移動距離を算出することができる。
【0044】
尚、位相角の演算は上記の方法に限るものではなく、例えば、Vqが負から正に転じるか、正から負に転じるかと、そのときにViが正か負かを調べることで検知対象が接近したか離反したかを判定しながら半周期の経過、即ち、位相角がπ変化したことを認識できる。
【0045】
また、振幅値を求める期間は上記のように2πでも良いし、位相角の変化としてさらに大きくなる期間をとっても良い。
振幅値については上記の例ではt2からt3の期間中でVi,Vqの両者を含めた最大値と最小値の差としたが、Vi,Vqそれぞれで最大値と最小値の差を求めてその平均値としても良いし、Vi,Vqのいずれか一方を用いても良い。
【0046】
次に、図7および図8を参照しつつ、トイレ装置が使用される際の様子と、このときの制御部12内部の信号の関係について説明する。
図7は、実施形態に係るトイレ装置が使用される際の様子を表す側面図である。
図8は、図7の使用態様において制御部で得られる信号を例示する図である。
【0047】
図8は、横軸に時間、縦軸に位相角積算値Sθ、及び、振幅値V2πを示している。
ここで、位相角積算値Sθは、位相角演算部38が出力する位相角が2π変化する度に、判定部39においてその回数を積算していったものである。なお、ここでは、検知対象がドップラーセンサ410に近づくときに加算し、検知対象がドップラーセンサ410から離れるときに減算する。
【0048】
まず、図7(a)に表すように、使用者が、ドアDRを通ってトイレ室TRに入室する。使用者は、電波センサ11に接近する方向に大きく動くため、図8の期間P1に表されるように、Sθが増加するとともに、移動に伴ってその振幅値V2πがが大きくなっていく。このとき、例えば、t4で振幅値V2πが閾値VON_thを超えると、人体検知部10によって、トイレ室TR内に人体が有ることが検知され、制御部12の制御信号を受けて便蓋3が開けられる。
【0049】
次に、図7(b)に表すように、例えば使用者が便座2を開け、立小便を行う。このとき、使用者はほとんど動かない。このため、図8の期間P2に表されるように、Sθの変化は少ない。ただし、使用者の体は、微かながら動いているため、この微小な動きに伴って位相に2πの変化があった場合には振幅値V2πが演算される。この際、使用者は電波センサ11から近い位置に居る為、その振幅値は大きな値として求められる。
【0050】
その後、図7(c)に表すように、使用者が、ドアDRを通ってトイレ室TRから退室する。使用者は、電波センサ11から離反する方向に大きく動くため、図8の期間P3に表されるように、SθはP1の期間とは反対方向に減少するとともに、移動に伴って振幅値V2πが小さくなりt5で閾値VOFF_thを下回ると、人体検知部10によって、トイレ室TR内に人体が無いと検知される。そして、制御部12によって、便器洗浄ユニット24が駆動されて便器6が洗浄されたり、便座開閉ユニット22や便蓋開閉ユニット23が駆動されて便座2および便蓋3が閉じられたりする。
【0051】
このように、図8に表すように、使用者が立小便をしている期間P2においても2πの位相変化がある期間での振幅値V2πは使用者の位置を反映したものであるので的確に使用者を検知できている
【0052】
判定部39において、位相角積算値Sθと振幅値V2πの関係性を人体の検知判定の条件に加えることもできる。 センサと人体との距離Lとセンサの信号振幅値Vとの関係は図9に示すように、信号振幅Vが距離Lに反比例している。そこで、位相角積算値Sθは使用者の移動距離と相関があるので、P1の期間における位相角積算値Sθと振幅値V2πとの関係は図10のようになる。判定部39は、予めトイレ装置の使用時における所定の角度範囲のSθとV2πとの関係を取得して記憶してあり、これと比較することで人体の有無を判定する。
【0053】
判定方法は、曲線の微分係数を求めて比較判定しても良いし、種々のパターン識別識別手法を用いても良い。ここで、V2πの値をこの区間内の最大値で割るなどして正規化した値で判定しても良い。センサの感度は、体形、使用環境、製造公差等の影響を受けて変動するので少なからずその影響を受けるが、こうすることによって、その影響を抑えることも可能となる。
これらの判定は使用者の立去り時にも同様にして適用できる。以上のように、機器の使用時の位置と振幅値との関係性の特徴に基づいて判定することによって、さらに判定精度を向上させることができる。
【0054】
制御部12において、人体が無いと検知する条件の閾値を適宜変更することによって、さらに精度を向上することができる。図11は、使用者が、トイレ装置を使用する際の振幅値V2πの推移と、人体が無いと検知する条件の閾値の設定方法を示す図である。ここで、振幅値V2πの最大値をVmaxとして常時記憶しておき(Maxホールド)、閾値を最大値に所定の係数kを乗じたものとする。図11において、V2πがVmax×kを下回るt6の時点で人体が無いと検知されることになる。センサの感度は、体形、使用環境、製造公差等の影響を受けて変動するので固定の閾値では検知位置が本来の設計上の狙いの位置と異なる場合があるが、こうすることによって、その影響を抑えることが可能となる。
【0055】
制御部12における使用者の有無の判定条件に位相角積算値Sθの変化量を加えることによって、さらに精度を向上することができる。図12は、使用者が、トイレ装置を使用する際の信号の推移と、位相角の変化に基づいて検知判定する例を示す図である。
環境の影響を受けて、センサの感度が低い場合の例を示している。使用者が、ドアDRを通ってトイレ室TRに入室する期間P1において、振幅値V2πは大きくなっていくものの、閾値VON_thには至っていない。一方、Sθが増加してゆき、時刻t7で閾値SθON_th、を上回りトイレ室TR内に人体が有ることが検知される。センサの感度は、体形、使用環境、製造公差等の影響を受けて変動するがこの構成によってその影響を排除できる。
【0056】
以上、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、衛生機器としてトイレ装置に限定されるわけではなく、小便器や手洗い器に用いることができる。
また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0057】
1 トイレ装置、 2 便座、 3 便蓋、 4 本体部、 5 操作部、 6 便器、 6a ボウル、 10 人体検知部、 11 電波センサ、 12 制御部、 20 被制御部、 21 ノズルユニット、 22 便座開閉ユニット、 23 便蓋開閉ユニット、 24 便器洗浄ユニット、 25 脱臭ユニット、 26 温風ユニット、 27 便座暖房ユニット、 31 発振器、 32 送信部、 33 受信部、 34 ミキサ部、 35 位相シフト手段、 36 ハイパスフィルター、 37 増幅回路、 38 位相角演算部、 39 判定部 、 DR ドア、 TR トイレ室
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