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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/12 20060101AFI20220628BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20220628BHJP
   B60C 11/13 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
B60C11/12 A
B60C11/12 D
B60C11/03 100A
B60C11/03 100C
B60C11/13 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017251291
(22)【出願日】2017-12-27
(65)【公開番号】P2019116194
(43)【公開日】2019-07-18
【審査請求日】2020-11-17
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】阪口 哲也
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-201200(JP,A)
【文献】特開2013-133084(JP,A)
【文献】特開2001-239809(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0175799(US,A1)
【文献】特開2001-191734(JP,A)
【文献】特開2010-042695(JP,A)
【文献】特開2000-118207(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/12
B60C 11/03
B60C 11/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部に、タイヤ周方向にのびる主溝と、前記主溝によって区分される複数の陸部とを具えたタイヤであって、
少なくとも1つの陸部は、
前記陸部の内部で実質的に密閉され、かつ長さ方向の両端部が前記陸部の内部で途切れる空洞部と、
前記空洞部と前記主溝とを連通する連通部とを有する消音手段を具えており、
前記消音手段は、前記空洞部から前記陸部の踏み面までのびる第1サイプを有し、
前記第1サイプは、前記空洞部の前記長さ方向に沿ってのび、
前記長さ方向が、タイヤ周方向である、
タイヤ。
【請求項2】
前記消音手段は、前記トレッド部が路面と接地する接地範囲内に1以上配される請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記連通部は、前記陸部の内部を通って前記空洞部と前記主溝とを連通するとともに前記長さ方向と直角な断面積が前記空洞部の長さ方向と直角な断面積よりも小な小孔状の連通孔からなり、かつ前記消音手段は、前記連通孔から前記陸部の踏み面までのびる第2サイプを有する請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記連通部は、前記陸部の踏み面に設けられる細溝状の連通溝からなる請求項1~3の何れかに記載のタイヤ。
【請求項5】
前記空洞部の容積V(mm )と、前記連通部の前記長さ方向と直角な断面積S(mm )と、前記連通部の長さL(mm)とが下記式(1)を充足する請求項1~4の何れかに記載のタイヤ。
5.0×10-5≦S/(V×L)≦3.0×10-3 ---(1)
【請求項6】
前記空洞部の容積Vは、20~4000mm の範囲である請求項1~5の何れかに記載のタイヤ。
【請求項7】
前記連通部の断面積Sは1.5~20mm の範囲である請求項1~6の何れかに記載のタイヤ。
【請求項8】
前記連通部の長さLは2~50mmの範囲である請求項1~7の何れかに記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ周方向にのびる主溝によって生じる気柱共鳴音を低減しうるタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
車外騒音の原因の一つとして、タイヤ周方向にのびる主溝から生じる気柱共鳴音が知られている。この気柱共鳴音は、走行時、トレッド部に配される前記主溝と路面とによって囲まれる管の内部空気が共鳴することで発生する。この気柱共鳴音はピークの音圧レベルが高く、又1000Hz前後の耳障りな周波数の音域を含むため、タイヤ騒音の大きな部分を占めている。
【0003】
そこで、下記の特許文献1には、気柱共鳴音を低減するために、陸部に、サイプと、このサイプ底部に設けられかつ一端が主溝に連通する幅広部である消音室とを具えた空気入りタイヤが提案されている。このタイヤでは、消音室がヘルムホルツ型の共鳴器を構成し、気柱共鳴音のエネルギを吸収して気柱共鳴音を低減している。
【0004】
しかし、上記提案では、消音室が小径なネック部を介することなく主溝に直接導通している。そのためエネルギの吸収効果が不充分であり、気柱共鳴音(車外騒音)の低減のために、さらなる改善が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-126842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、主溝に起因する気柱共鳴音をさらに減じ、車外騒音性能を向上しうるタイヤを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、トレッド部に、タイヤ周方向にのびる主溝と、前記主溝によって区分される複数の陸部とを具えたタイヤであって、
少なくとも1つの陸部は、
前記陸部の内部で実質的に密閉され、かつ長さ方向の両端部が前記陸部の内部で途切れる空洞部と、
前記空洞部と前記主溝とを連通する連通部とを有する消音手段を具える。
【0008】
本発明に係る前記タイヤでは、前記空洞部は、タイヤ周方向にのびるのが好ましい。
【0009】
本発明に係る前記タイヤでは、前記消音手段は、トレッド部が路面と接地する接地範囲内に1以上配されるのが好ましい。
【0010】
本発明に係る前記タイヤでは、前記消音手段は、前記空洞部から前記陸部の踏み面までのびる第1サイプを有するのが好ましい。
【0011】
本発明に係る前記タイヤでは、前記連通部は、前記陸部の内部を通って前記空洞部と前記主溝とを連通するとともに長さ方向と直角な断面積が前記空洞部の長さ方向と直角な断面積よりも小な小孔状の連通孔からなり、かつ前記消音手段は、前記連通孔から前記陸部の踏み面までのびる第2サイプを有するのが好ましい。
【0012】
本発明に係る前記タイヤでは、前記連通部は、前記陸部の踏み面に設けられる細溝状の連通溝からなることも好ましい。
【0013】
本発明に係る前記タイヤでは、前記空洞部の容積V(mm)と、前記連通部の長さ方向と直角な断面積S(mm)と、前記連通部の長さL(mm)とが下記式(1)を充足するのが好ましい。
5.0×10-5≦S/(V×L)≦3.0×10-3 ---(1)
【0014】
本発明に係る前記タイヤでは、前記空洞部の容積Vは、20~4000mmの範囲であるのが好ましい。
【0015】
本発明に係る前記タイヤでは、前記連通部の断面積Sは1.5~20mmの範囲であるのが好ましい。
【0016】
本発明に係る前記タイヤでは、前記連通部の長さLは2~50mmの範囲であるのが好ましい。
【0017】
本明細書において、「サイプ」は、例えば幅0.8mm以下の切れ込み状をなし、接地時に壁面間が閉塞するものを意味する。
【0018】
前記「接地範囲」とは、正規リムにリム組みしかつ正規内圧を充填した基準状態のタイヤに正規荷重を負荷した時に、トレッド部が路面と接地する接地部分の領域範囲を意味する。
【0019】
なお前記「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば標準リム、TRAであれば "Design Rim" 、或いはETRTOであれば "Measuring Rim"を意味する。前記「正規内圧」とは、前記規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE"を意味するが、乗用車用タイヤの場合には180kPaとする。前記「正規荷重」とは、前記規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY"である。
【0020】
本明細書では、特に断りがない限り、タイヤの各部の寸法等は、前記基準状態(無負荷)で特定される値とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明は叙上の如く、少なくとも1つの陸部が、1以上の消音手段を具える。この消音手段は、陸部の内部で実質的に密閉されかつ長さ方向両端部が陸部の内部で途切れる空洞部、及びこの空洞部と前記主溝とを連通する連通部を有する。そして前記空洞部と連通部とがヘルムホルツ型の共鳴器を構成し、主溝による気柱共鳴音を低減しうる。しかも上記共鳴器では、空洞部が、断面積が小な連通部を介して主溝と導通する。そのため空洞部が直接主溝で開口する場合に比して、エネルギの吸収効果が増し、気柱共鳴音の消音効果を高めることができる。
【0022】
又共鳴器では、断面積が小な連通部を介するため、空洞部が直接主溝に開口する場合に比して空洞部が変形し難く、陸部の剛性低下を低く抑えることができる。
【0023】
又、トレッドが摩耗して空洞部が表面に露出するまでの期間は、空洞部の容積が変化しない。そのため消音性能を持続することができる。又、空洞部が露出する摩耗中期以降においては、消音性能は発揮されなくなるが、この摩耗中期以降では、主溝の溝容積自体が減じて気柱共鳴音が小さくなっているため消音の必要性が低く、特に車外騒音の問題は生じない。
【0024】
又空洞部が露出する摩耗中期以降は、この空洞部が新たなトレッド溝として機能するため、摩耗進行に伴うウエット性能の低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態のタイヤのトレッド部の展開図である。
図2】陸部の一部を示す拡大平面図である。
図3】消音手段を概念的に示す斜視図である。
図4】消音手段を示す図2のA-A断面図である。
図5】(A)、(B)は消音手段の作用を説明する概念図である。
図6】(A)は消音手段において第1サイプが三次元サイプである場合を示す斜視図、(B)は消音手段において連通部が連通溝である場合を示す斜視図である。
図7】本発明のタイヤの他の例を示すトレッド部の展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態を示すタイヤ1のトレッド部2の展開図である。本例では、タイヤ1が、乗用車用の空気入りタイヤである場合が示される。しかし、例えば重荷重車用等の空気入りタイヤであっても良く、さらにはタイヤ内部に加圧空気が充填されない非空気入りタイヤ(例えばエアーレスタイヤ)等の様々なタイヤとして構成することができる。
【0027】
図1に示すように、タイヤ1のトレッド部2は、タイヤ周方向に連続してのびる少なくとも1本の主溝3を具える。これにより、トレッド部2は複数の陸部4に区分される。
【0028】
本例では、主溝3が、タイヤ赤道Cの両側に配されるセンタ主溝3C、3Cと、トレッド端Te側に配されるショルダー主溝3S、3Sとから構成される場合が示される。これにより、本例のトレッド部2は、センタ主溝3C、3C間のセンタ陸部4C、センタ主溝3Cとショルダー主溝3Sとの間のミドル陸部4M、及びショルダー主溝3Sとトレッド端Teとの間のショルダー陸部4Sに区分される。
【0029】
しかしこれに限定されるものではなく、主溝3として、例えばセンタ主溝3Cとショルダー主溝3Sとの間にミドル主溝(図示省略)が配される構造、及びセンタ主溝3Cがタイヤ赤道C上に配される構造など、種々の構造が採用しうる。
【0030】
主溝3として、タイヤ周方向に直線状にのびるストレート溝、及びジグザグ状(波状を含む)にのびるジグザグ溝などが適宜採用しうる。しかし、本発明の作用効果による利点をより高く得るという観点からは、ストレート溝が好ましい。なお主溝3の溝巾W3、及び溝深さD3(図4に示す)は、慣例に従って種々定めることができる。
【0031】
複数の陸部4のうちの少なく一つの陸部は、1以上の消音手段5を具える。本例では、ミドル陸部4M、4Mに、それぞれ1以上の消音手段5が配され、各センタ主溝3Cに起因する気柱共鳴音の低減が図られる。
【0032】
本例では、ミドル陸部4M、4M、及びセンタ陸部4Cは、タイヤ周方向に連続してのびるリブ体として形成される。このようにリブ体(陸部)によって挟まれた主溝の場合、ブロック列(陸部)よって挟まれた主溝に比して気柱共鳴音が大となる。そのため、本発明の作用効果の利点をより高く得ることができる。
【0033】
図2、3に示すように、消音手段5は、空洞部10と連通部11とを具える。
【0034】
空洞部10は、ミドル陸部4Mの内部で実質的に密閉され、かつ長さ方向の両端部がミドル陸部4Mの内部で途切れる。空洞部10は、断面略一定の筒状をなし、ミドル陸部4Mの内部を通って直線状にのびる。しかし空洞部10としては、長さ方向にジグザグ状にのびても良い。
【0035】
本例の空洞部10は、タイヤ周方向にのびる。これにより、空洞部10に起因するミドル陸部4Mの剛性低下を抑え、ドライ走行性能を維持しながら空洞部10を形成することができる。なお前記「タイヤ周方向にのびる」には、タイヤ周方向線に対して5度以下の角度で傾斜する場合も含まれる。本例では、複数の空洞部10が、タイヤ周方向線上、特にはミドル陸部4Mの巾中心線(図示省略)上に一列に配列した場合が示される。
【0036】
連通部11は、空洞部10と主溝3(本例ではセンタ主溝3C)とを連通する。本例の連通部11は、ミドル陸部4Mの内部を通って空洞部10と主溝3(本例ではセンタ主溝3C)とを導通する小孔状の連通孔13からなる。この連通孔13は、断面略一定の筒状をなし、その長さ方向と直角な断面積Sは、空洞部10の長さ方向と直角な断面積S0よりも小である。本例では、連通孔13の断面形状が略円形状の場合が示されるが、例えば多角形状及び楕円形状なども適宜採用しうる。
【0037】
本例の消音手段5は、第1サイプ8と第2サイプ9を含む。
【0038】
第1サイプ8は、空洞部10からミドル陸部4Mの踏み面4sまでのびる。具体的には、第1サイプ8は、踏み面4sに設けられ、空洞部10に沿って空洞部10上をのびる。従って、空洞部10は、第1サイプ8の底部に連なって形成される。
【0039】
この第1サイプ8は、接地時には、壁面が閉塞し、これにより、空洞部10は密閉される。即ち、空洞部10が「実質的に密閉」されるには、接地時に、壁面が閉塞して空洞部10が密閉される場合が含まれる。なお接地時に壁面間が閉塞しない溝の場合、「実質的に密閉」されるに含まれない。
【0040】
第2サイプ9は、前記連通孔13からミドル陸部4Mの踏み面4sまでのびる。具体的には、第2サイプ9は、踏み面4sに設けられ、連通孔13に沿って連通孔13上をのびる。従って、連通孔13は、第2サイプ9の底部に連なって形成される。本例では、第2サイプ9は、主溝3(本例ではセンタ主溝3C)から第1サイプ8までのび、第2サイプ9の一端がセンタ主溝3Cで開口し、かつ他端が第1サイプ8とT字状に交差している。本例では、第1サイプ8及び第2サイプ9として平面状のストレートサイプ(一次元サイプ)が採用される。第2サイプ9と第1サイプ8との交差角度αが小さすぎると、交差部で強度が低下し、ゴム欠け等が生じやすい。そのため交差角度αは、30度以上さらには40度以上が好ましい。
【0041】
このような消音手段5においては、接地時、第1サイプ8の壁面、及び第2サイプ9の壁面がそれぞれ閉塞する。これにより、接地時、空洞部10と連通部11とは、センタ主溝3Cでのみ開口する一端開口のヘルムホルツ型の共鳴器Hを形成しうる。
【0042】
図5(A)、(B)に示すように、共鳴器Hでは、連通部11の空気K1が質量、空洞部10の空気K2がバネの役割をして振動系を構成する。そして共鳴器Hの固有振動数fと同じ周波数の音が入射したとき、共鳴が生じ、空気K1の粘着摩擦により音のエネルギが吸収される。
【0043】
従って、センタ主溝3Cによる気柱共鳴音のうち、低減させたい周波数に合わせて共鳴器Hの固有振動数を設定することで、気柱共鳴音のうち特に低減させたい周波数の音を減じることができ、ノイズ性能を向上しうる。
【0044】
このような消音手段5は、トレッド部2が路面と接地する接地範囲内に1以上配される。本例では、各ミドル陸部4Mにおいて、それぞれ消音手段5が接地範囲内に1以上配される。これにより、タイヤ転動中、各ミドル陸部4Mにおいて、接地範囲内に1以上の消音手段5が絶えず存在し、各センタ主溝3Cからの気柱共鳴音を低減しうる。
【0045】
ここで、共鳴器Hの固有振動数fは、次式(2)で示される。式中、cは音速(m/s)、Sは連通部11の長さ方向と直角な断面積(mm)、Vは空洞部10の容積(mm)、Lは連通部11の長さ(mm)、δは開口端補正である。従って、断面積S(mm)、容積V(mm)、長さL(mm)により、固有振動数fを自在に調整しうる。なお開口端補正δは微少であり、無視することもできる。
f=c/2π×√{S/(V×(L+δ))} ---(2)
【0046】
前記共鳴器Hでは、前記断面積S(mm)、容積V(mm)、長さL(mm)とが、次式(1)を充足することが好ましい。
5.0×10-5≦S/(V×L)≦3.0×10-3 ---(1)
【0047】
この場合、共鳴器Hの固有振動数fを、おおよそ3.8×10~2.96×10Hzの範囲に設定しうる。特には、S/(V×L)を2.2×10-4~4.9×10-4の範囲とすることで、固有振動数fを、耳障りな1000Hz前後(例えば800~1200Hz)に設定することができる。
【0048】
第1サイプ8の底部に空洞部10を設けることにより、従来的な構造のタイヤ加硫金型を用いて、第1サイプ8と空洞部10とを容易に形成できる。即ち、タイヤ加硫金型において、第1サイプ形成用のブレード本体の先端に、空洞部形成用の柱状体を一体に取り付けたブレードを用いることで、加硫時、第1サイプ8と空洞部10とを同時に形成できる。同様に、第2サイプ形成用のブレード本体の先端に、連通孔形成用の柱状体を一体に取り付けたブレードを用いることで、従来的な構造のタイヤ加硫金型を用いて、第2サイプ9と連通孔13とを同時に形成できる。
【0049】
なお第1サイプ8と第2サイプ9とがT字状に交差した場合、ミドル陸部4Mの剛性が低下傾向となる。そのために、図6(A)に示すように、特に第1サイプ8として三次元サイプ12を採用するのが好ましい。三次元サイプ12は、ジグザグ部分を含み、このジグザグ部分は、踏み面4sと平行な水平断面においては長さ方向に沿ってジグザグ状(波状も含まれる)にのび、かつ長さ方向と直角な垂直断面においては深さ方向に沿ってジグザグ状(波状も含まれる)にのびる。このような三次元サイプ12は、サイプの壁面が3次元的に凹凸を繰り返す立体曲面をなす。この三次元サイプ12は、接地時、壁面の凹凸同士が三次元方向に噛み合い、ミドル陸部4Mの剛性を高く維持することができる。特に、三次元サイプ12として、壁面が平行四辺形を組み合わせた所謂ミウラ折り構造の場合、噛み合いが密かつ強固となる。そのため、空洞部10の密閉性を高めて消音性能を向上させる点でも好ましい。
【0050】
図2に示すように、連通部11が空洞部10と連結する接続位置Pから、空洞部10の長さ方向一端までの距離Lbは、空洞部10の長さLaの0.1~0.9倍であるのが好ましい。このように接続位置Pを空洞部10の端部から離すことで、ミドル陸部4Mの剛性低下を抑えることができる。又空洞部10の変形が抑えられるため、消音効果の向上にも貢献できる。このような観点から、前記距離Lbは、長さLaの0.2~0.8倍の範囲、さらには0.3~0.7倍の範囲がより好ましい。
【0051】
又消音手段5では、トレッドが摩耗して空洞部10が表面に露出するまでの期間は、空洞部10の容積Vが変化しない。そのため、共鳴器Hの固有振動数fが変化せず、消音性能を持続することができる。又、空洞部10が露出する摩耗中期以降においては、消音性能は発揮されなくなるが、この摩耗中期以降では、主溝3の溝容積自体が減じて消音の必要性が低くなるため、特に車外騒音の問題は生じない。
【0052】
又空洞部10が露出する摩耗中期以降は、この空洞部10が新たなトレッド溝として機能するため、摩耗進行に伴うウエット性能の低下を抑えることができる。
【0053】
図4に示すように、ミドル陸部4Mの剛性維持と、空洞部10の密閉性維持とのためには、踏み面4sから空洞部10までのサイプ深さHsが2mm以上、さらには3mm以上が好ましい。なおサイプ深さHsの上限は、摩耗中期以降において空洞部10を露出させる観点から、主溝3の溝深さD3の0.35~0.65倍の範囲が好ましい。
【0054】
又本例では、前記陸部4は、消音手段を有する第1の陸部(本例ではミドル陸部4M)と、消音手段5を有さない第2の陸部(本例ではセンタ陸部4Cとショルダー陸部4S)とに区分される。そしてトレッドゴムにおいて、第1の陸部のゴムの複素弾性率E1を、第2の陸部のゴムの複素弾性率E2よりも大に設定するのが好ましい。なおトレッドゴムが複数層(例えばキャップゴムとベースゴムなど)で形成される場合には、複素弾性率E1、E2は、タイヤ半径方向の最外層のゴム(例えばキャップゴム)における複素弾性率として定義される。
【0055】
これにより、共鳴器Hの大きさ、及び形成数などに影響されることなく、第1の陸部の剛性低下を抑制できる。そのためには、複素弾性率E1と複素弾性率E2との差ΔEが5.0MPa以上が好ましい。なお差ΔEの上限は、20MPa以下が好ましく、20MPaを超えると、ノイズ低減効果が減少する。
【0056】
複素弾性率Eは、JIS-K6394の規定に準じて、次に示される条件で「粘弾性スペクトロメータ」を用いて測定した値である。
・初期歪み(10%)、
・振幅(±1%)、
・周波数(10Hz)、
・変形モード(引張)、
・測定温度(70℃)。
【0057】
ここで、空洞部10の容積V、連通部11の断面積S、連通部11の長さLは、所望の固有振動数fを得るために、適宜設定される。しかし、共鳴器Hは陸部4の内部に形成する必要があるため、容積V、断面積S、長さLには制約がある。
【0058】
例えば空洞部10の容積Vが大きすぎると、トレッド部2の剛性低下、加硫後の脱型性に問題が生じ、また小さすぎると消音効果の低下を招く。又連通部11の断面積Sが大きすぎると、連通部11の空気K1が振動する際の粘着摩擦が小さくなって消音効果が減じる。逆に断面積Sが小さすぎると、共鳴器Hとして十分に機能しなくなる。又連通部11の長さLが長すぎると剛性及び消音効果が低下し、逆に短すぎても消音効果が低下する。このような観点から、空洞部10の容積Vは、20~4000mmの範囲が好ましい。又連通部11の断面積Sは、1.5~20mmの範囲が好ましい。又連通部11の長さLは、2~50mmの範囲が好ましい。
【0059】
図6(B)に、連通部11の他の実施例を示す。本例の連通部11は、踏み面4sに設けられる細溝状の連通溝14から形成される。この連通溝14は、ストレート溝であって、主溝3(本例ではセンタ主溝3C)から第1サイプ8まで略一定の溝幅を有してのびる。連通溝14の長さ方向と直角な断面積Sは、前記空洞部10の長さ方向と直角な断面積S0よりも小である。連通溝14は、第1サイプ8よりも深い溝深さを有し、従って、溝底側では主溝3(本例ではセンタ主溝3C)と空洞部10とを導通する。この連通溝14は、第1サイプ8よりも幅広の細溝状をなし、接地時には溝壁面間が閉塞せず溝壁面間に隙間が確保される。連通溝14の溝巾W14は特に規制されないが、3.0mm以下、さらには2.0mm以下が好ましい。
【0060】
図7に、タイヤ1の他の実施例を示す。本例のタイヤ1では、各陸部4が、この陸部4を横切る横溝6により、タイヤ周方向に並ぶ複数のブロック7に区分される。そして、例えばミドル陸部4Mに配されるブロック7の少なくとも一つに、消音手段5が形成される。本例では、空洞部10及び第1サイプ8が、タイヤ周方向線に対して、例えば45~90度の角度で傾斜する。また第1サイプ8は、ミドル陸部4M(ブロック7)を横切り、その両端部は主溝3C、3Sで開口している。図1中の符号15は、サイプであり、センタ陸部4C、ミドル陸部4M、ショルダー陸部4Eに形成され、前記第1サイプ8と協働して、タイヤ1のウエット性能、及び氷上性能を向上させる。前記サイプ15として、三次元サイプ12が好適に採用しうるが、深さ方向には直線状にのびる二次元サイプ、或いはフラットサイプも採用しうる。
【0061】
本例では、ミドル陸部4Mに消音手段5を設けているが、これに限定されるものではなく、任意の単数或いは複数の陸部4に消音手段5を設けることができる。
【0062】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例
【0063】
図1に示すトレッドパターンを有し、かつ表1に示す消音手段を具える空気入りタイヤ(215/60R16)を試作し、車外騒音性能、及びウエット性能をテストした。各タイヤとも、表1に記載以外は実質的に同仕様である。
【0064】
(1)車外騒音性能:
新品時のタイヤを以下の条件で車両の全輪に装着し、テストコース(ISO路面)を速度80km/hにてエンジンオフで走行させ、走行中心線から7.5mを隔てて、かつ路面から高さ1.2mの位置に設置したマイクロホンにより通過騒音の最大レベルdB(A)を測定した。結果は、比較例1を100とする評点で表示し、数値が大きいほど低騒音であり車外騒音性能に優れている。
リム:16×6J
内圧:230kPa
車両:乗用車(排気量1800cc、FF車)
【0065】
(2)ウエット性能:
インサイドドラム試験機を用い、50%摩耗時のタイヤを以下の条件で走行させたときのハイドロプレーニング現象の発生速度を測定した。結果は、比較例1を100とする評点で表示し、数値が大きいほどウエット性能に優れている。
リム:16×6J
内圧:230kPa
荷重:4.8kN
水深:水深5.0mm
【0066】
【表1】
【0067】
表の如く、実施例のタイヤは、主溝に起因する気柱共鳴音を減じて車外騒音性能を向上しうるのが確認できる。又実施例のタイヤは、50%摩耗時以降においてウエット性能を向上しうるのが確認できる。
【符号の説明】
【0068】
1 タイヤ
2 トレッド部
3 主溝
4 陸部
5 消音手段
8 第1サイプ
9 第2サイプ
10 空洞部
11 連通部
12 三次元サイプ
13 連通孔
14 連通溝
C タイヤ赤道
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7