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特許7095283剥離層形成剤および、フレキシブル電子デバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】剥離層形成剤および、フレキシブル電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20220628BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20220628BHJP
   H01L 23/14 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
C09K3/00 R
H05K1/03 670Z
H01L23/14 R
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018000208
(22)【出願日】2018-01-04
(65)【公開番号】P2019119802
(43)【公開日】2019-07-22
【審査請求日】2020-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】林 美唯妃
(72)【発明者】
【氏名】山下 全広
(72)【発明者】
【氏名】奥山 哲雄
(72)【発明者】
【氏名】市村 俊介
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-080784(JP,A)
【文献】国際公開第2016/031746(WO,A1)
【文献】特開2017-126728(JP,A)
【文献】特開2011-011455(JP,A)
【文献】特開2014-100702(JP,A)
【文献】特開平04-234436(JP,A)
【文献】特開2019-119126(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/00
H05K 1/03
C08J 7/04-7/06
B32B 1/00-43/00
B29B 7/00-15/06
B29C 31/00-71/02
H01L 31/04-31/06
H02S 10/00-99/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板上に剥離層を介して形成されたポリイミド有する積層体の、ポリイミド層上に電子デバイスを形成した後に、ガラス基板からポリイミド層ごと電子デバイスを剥離するフレキシブル電子デバイスの製造方法に用いられる剥離層形成剤であって、少なくとも以下に示す化学構造を有するシランカップリング剤のみを含むことを特徴とする剥離層形成剤。
【化1】
(式中、Aはアミノプロピル基を示す。R、Rはメチル基を示す。nは1を示す。)
【請求項2】
ガラス基板の少なくとも片方の面に請求項1に示す剥離層形成剤を用いて剥離層を形成する工程、
前記剥離層の上にポリイミド溶液またはポリイミド前駆体溶液を塗布し加熱することによりポリイミド層を形成する工程、
ポリイミド層上に電子デバイスを形成する工程、
電子デバイスをポリイミド層毎ガラス基板から剥離する工程、
を含む事を特徴とするフレキシブル電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機基板を一次的な仮支持基板として用い、無機基板上に高分子層を形成し、該高分子層上に電子デバイスを形成し、高分子層毎電子デバイスを剥離してフレキシブル電子デバイスを製造する方法において、無機基板と高分子層との間の接着性を保持し、ならびに剥離時には容易に剥離可能とするために、無機基板と高分子フィルムとの間に形成される剥離層を得るための剥離層形成剤に関する。
【0002】
近年、半導体素子、MEMS素子、ディスプレイ素子など機能素子の軽量化、小型・薄型化、フレキシビリティ化を目的として、高分子フィルム上にこれらの素子を形成する技術開発が活発に行われている。すなわち、情報通信機器(放送機器、移動体無線、携帯通信機器等)、レーダーや高速情報処理装置などといった電子部品の基材の材料としては、従来、耐熱性を有し且つ情報通信機器の信号帯域の高周波数化(GHz帯に達する)にも対応し得るセラミックが用いられていたが、セラミックはフレキシブルではなく薄型化もしにくいので、適用可能な分野が限定されるという欠点があったため、最近は高分子フィルムが基板として用いられている。
【0003】
半導体素子、MEMS素子、ディスプレイ素子などの機能素子を高分子フィルム表面に形成するにあたっては、高分子フィルムの特性であるフレキシビリティを利用した、いわゆるロール・ツー・ロールプロセスにて加工することが理想とされている。しかしながら、半導体産業、MEMS産業、ディスプレイ産業等の業界では、これまでウエハベースまたはガラス基板ベース等のリジッドな平面基板を対象としたプロセス技術が構築されてきた。そこで、既存インフラを利用して機能素子を高分子フィルム上に形成するために、高分子フィルムを、例えばガラス板、セラミック板、シリコンウエハ、金属板などの無機物からなるリジッドな支持体に貼り合わせ、その上に所望の素子を形成した後に支持体から剥離するというプロセスが用いられている。
【0004】
ところで、高分子フィルムと無機物からなる支持体とを貼り合わせた積層体に所望の機能素子を形成するプロセスにおいては、該積層体は高温に曝されることが多い。例えば、ポリシリコンの形成においては200~500℃程度の温度域での工程が必要である。また、低温ポリシリコン薄膜トランジスタの作製においては脱水素化のために450℃程度の加熱が必要になる場合があり、水素化アモルファスシリコン薄膜の作製においては200~300℃程度の温度がフィルムに加わる場合がある。したがって、積層体を構成する高分子フィルムには耐熱性が求められるが、現実問題としてかかる高温域にて実用に耐える高分子フィルムは限られている。また、支持体への高分子フィルムの貼り合わせには一般に粘着剤や接着剤を用いることが考えられるが、その際の高分子フィルムと支持体との接合面(すなわち貼り合せ用の接着剤や粘着剤)にも耐熱性が求められる。しかし、通常の貼り合せ用の接着剤や粘着剤は十分な耐熱性を有していないため、機能素子の形成温度が高い場合には接着剤や粘着剤による貼り合わせは適用できない。
【0005】
高分子フィルムを無機基板に貼り付ける耐熱接着手段がないため、かかる用途においては、高分子溶液または高分子の前駆体溶液を無機基板上に塗布して支持体上で乾燥・硬化させてフィルム化し、当該用途に使用する技術が知られている。しかしながら、かかる手段により得られる高分子フィルムは、脆く裂けやすいため、高分子フィルム表面に形成された機能素子は支持体から剥離する際に破壊してしまう場合が多い。特に支持体から大面積のフィルムを剥離するのは極めて難しく、およそ工業的に成り立つ歩留まりを得ることはできない。
このような事情に鑑み、機能素子を形成するための高分子フィルムと支持体との積層体として、耐熱性に優れ強靭で薄膜化が可能なポリイミドフィルムを、シランカップリング剤を介して無機物からなる支持体(無機層)に貼り合わせてなる積層体が提案されている(特許文献1~3)。
【0006】
ところで、高分子フィルムは元来、柔軟な素材であり、多少の伸縮や曲げ伸ばしを行ってもよい。一方で、高分子フィルム上に形成された機能素子は、多くの場合、無機物からなる導電体、半導体を所定のパターンにて組み合わせた微細な構造を有しており、微小な伸縮や曲げ伸ばしといったストレスによって、その構造は破壊され、電子デバイスとしての特性は損なわれてしまう。かかるストレスは、無機基板から高分子フィルムを機能素子ごと剥離するときに生じやすい。そのため、特許文献1~3に記載の積層体では、高分子フィルムを支持体から剥離する際に機能素子の構造が破壊されるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許5152104
【文献】特許5304490
【文献】特許5531781
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
さらに、これら従来の技術では、デバイス製作に420℃以上、好ましくは460℃以上、なお好ましくは505℃以上の高温が用いられた場合に、ポリイミド層と無機基板の接着性が上がってしまい、剥離時にポリイミド層(フレキシブル基板)に大きなテンションが加わり、デバイスが破損するリスクが高くなるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
[1] 無機基板上に剥離層を介して形成された高分子層上を有する積層体の、高分子層上に電子デバイスを形成した後に、無機基板から高分子層ごと電子デバイスを剥離するフレキシブル電子デバイスの製造方法に用いられる剥離層形成剤であって、少なくとも以下に示す化学構造を有するシランカップリング剤を含むことを特徴とする剥離層形成剤。
【化1】


(式中、Aは置換基を有していても良い1価の有機基を示す。R、Rは炭素数1~6のアルキル基、フェニル基、それらの置換体から選択される少なくとも1種の置換基を示す。nは1または2の整数を示す。)
[2] 前記化1におけるAがアミノ基を有する有機基であることを特徴とする[1]に記載の剥離層形成剤。
[3] 無機基板の少なくとも片方の面に[1]に示す剥離層形成剤を用いて剥離層を形成する工程、
前記剥離層の上に高分子溶液または高分子前駆体溶液を塗布し加熱することにより高分子層を形成する工程、
高分子層上に電子デバイスを形成する工程、
電子デバイスを高分子層毎無機基板から剥離する工程、
を含む事を特徴とするフレキシブル電子デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の効果は、特定の剥離層を形成することにより、高温処理時の剥離強度を、特許請求の範囲に記載した数値内に導くことができ、結果として加工工程中の剥離事故を防止し、同時にデバイス形成後には容易にデバイスを高分子層と共に無機基板から剥離することを可能とすることを実現した点にある。
かかる剥離強度の変化パターンを導く具体的な手段については、以下に詳しく説明を行うが、基本的には高分子層と無機基板との間に形成する剥離層として、化1の構造をもつシランカップリング剤を含む剥離層形成材を用いることで実現される。
化1のシランカップリング剤においては、n=0を満たすシランカップリング剤を用いると、高温熱処理後に剥離層からガスが発生しやすく、ブリスターが大量に発生し易く、表面状態が平滑な積層体を形成することが困難であった。しかし、n=1または2の整数を満たすシランカップリング剤を含む剥離層形成材を用いると、構造中のアルコキシ基が少ないために、高温熱処理時に美反応のアルコキシ基から脱アルコール反応を生じて発生するアルコール量が減少し、ブリスターの少ない、表面状態がより平滑な基板が形成できることが分かった。
【0011】
結果として、500℃以上の高温処理時後に積層体から高分子層を容易に剥離することが可能な特性を維持したまま、より精密なデバイスの製造ができるようになったことで、生産性が大幅に向上した。
【0012】
本発明の剥離層形成剤を用いた無機基板と高分子層を有する積層体を用いれば、フレキシブルプリント配線板、TABテープ、COF、誘電体素子、半導体素子、MEMS素子、ディスプレイ素子、発光素子、光電変換素子、圧電変換素子、熱電変換素子、電磁誘導素子、プリントコイル、プリントアンテナ、バイオセンサー、それらの複合素子等の電子デバイス、電子機械デバイス、能動素子、受動素子などを、高分子層上に形成したフレキシブル電子デバイスの製造を高収率にて実現可能となる。本発明は特にフレキシブルディスプレイデバイスのバックパネルとなるTFTアレイを作製する上で有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明においてシランカップリング剤とは、剥離層形成剤の主成分であり、無機基板と高分子層との間に物理的ないし化学的に介在し、両者間の接着力を所定範囲に制御する機能を有する。
シランカップリング剤は、特に限定されるものではないが、化1のシランカップリング剤の好ましい具体例としては、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルジメトキシメチルシラン、(3-アミノプロピル)ジメチルメトキシシラン、3-アミノプロピルジエトキシメチルシラン、3-アミノプロピル)ジメチルエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシランなどが挙げられ、アミノ基をもつシランカップリング剤がより好ましい。
【0014】
本発明で用いることのできるシランカップリング剤としては、前記のほかに、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、2-(3,4-エポキシシクロへキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、トリス-(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、クロロメチルフェネチルトリメトキシシラン、クロロメチルトリメトキシシラン、アミノフェニルトリメトキシシラン、アミノフェネチルトリメトキシシラン、アミノフェニルアミノメチルフェネチルトリメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリクロロシラン、2-シアノエチルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリクロロシラン、デシルトリクロロシラン、ジアセトキシジメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジメトキシメチルフェニルシラン、ドデシルリクロロシラン、ドデシルトリメトキシラン、エチルトリクロロシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、n-オクチルトリクロロシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、n-オクチルトリメトキシシラン、トリエトキシエチルシラン、トリエトキシメチルシラン、トリメトキシメチルシラン、トリメトキシフェニルシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ペンチルトリクロロシラン、トリアセトキシメチルシラン、トリクロロヘキシルシラン、トリクロロメチルシラン、トリクロロオクタデシルシラン、トリクロロプロピルシラン、トリクロロテトラデシルシラン、トリメトキシプロピルシラン、アリルトリクロロシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、ジメトキシメチルビニルシラン、トリクロロビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、トリクロロ-2-シアノエチルシラン、ジエトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)メチルシラン、3-グリシジルオキシプロピル(ジメトキシ)メチルシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランなどを使用することもできる。
【0015】
本発明の剥離層形成剤は、これらシランカップリング剤を0.3質量%以上100%含む事が好ましい。剥離層形成剤に於けるシランカップリング剤以外の成分は好ましくは希釈溶剤である。かかる希釈溶剤は、高分子層形成に用いる溶剤と非相溶な溶剤を用いる事が好ましい。
<剥離層の形成方法>
本発明における剥離層の形成方法としては、剥離層形成剤を塗布する液相方法や剥離層形成剤を蒸着するなどの気相方法を用いることが出来る。剥離層はは高分子層、無機基板のいずれの表面に行っても良く、両方の表面に行っても良い。が、本発明では無機基板の表面に剥離層を形成し、その後に高分子溶液ないし高分子前駆体溶液を塗布し、加熱乾燥などにより高分子層を形成する方法を好ましく用いる事ができる。
剥離層形成剤を塗布する方法としては、主成分であるシランカップリング剤と希釈溶媒であるアルコールなどの混合物である剥離層形成剤を用いて、スピンコート法、カーテンコート法、ディップコート法、スリットダイコート法、グラビアコート法、バーコート法、コンマコート法、アプリケーター法、スクリーン印刷法、スプレーコート法等の従来公知の溶液の塗布手段を適宜用いることができる。剥離層形成剤を塗布する方法を用いた場合、塗布後に速やかに乾燥し、さらに100℃±30℃程度で数十秒~10分程度の熱処理を行うことが好ましい。熱処理により、剥離層形成剤と被塗布面の表面とが化学反応により結合される。
【0016】
また、剥離層を蒸着法のような気相法によって形成することもでき、具体的には、基材を剥離層形成剤の蒸気、すなわち実質的に気体状態の剥離層形成剤に暴露して形成する。剥離層形成剤の蒸気は、液体状態の剥離層形成剤を40℃~剥離層形成剤の沸点程度までの温度に加温することによって得ることが出来る。剥離層形成剤の沸点は、化学構造によって異なるが、概ね100℃~250℃の範囲である。ただし200℃以上の加熱は、剥離層形成剤の有機基側の副反応を招く恐れがあるため好ましくない。
剥離層形成剤を加温する環境は、加圧下、常圧下、減圧下のいずれでも構わないが、剥離層形成剤の気化を促進する場合には常圧下ないし減圧下が好ましい。多くの剥離層形成剤は可燃性液体であるため、密閉容器内にて、好ましくは容器内を不活性ガスで置換した後に気化作業を行うことが好ましい。
基材を剥離層形成剤に暴露する時間は特に制限されないが、20時間以内が好ましく、より好ましくは60分以内、さらに好ましくは15分以内、最も好ましくは5分以内である。
基材を剥離層形成剤に暴露する間の基材の温度は、剥離層形成剤の種類と、求める剥離層形成剤層の厚さにより-50℃~200℃の間の適正な温度に制御することが好ましい。
なお剥離層形成剤処理前の基材表面を短波長UV/オゾン照射などの手段により清浄化したり液体洗浄剤で清浄化するのが好ましい。
【0017】
<無機基板>
本発明においては高分子層の支持体として無機基板を用いる。また、高分子層上に電子デバイスを形成して、フレキシブル電子デバイスを製造する場合においても、無機基板は高分子層材料を仮支持するために用いられる。
無機基板としては無機物からなる基板として用いることのできる板状のものであればよく、例えば、ガラス板、セラミック板、半導体ウエハ、金属等を主体としているもの、および、これらガラス板、セラミック板、半導体ウエハ、金属の複合体として、これらを積層したもの、これらが分散されているもの、これらの繊維が含有されているものなどが挙げられる。
【0018】
前記ガラス板としては、石英ガラス、高ケイ酸ガラス(96%シリカ)、ソーダ石灰ガラス、鉛ガラス、アルミノホウケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス(パイレックス(登録商標))、ホウケイ酸ガラス(無アルカリ)、ホウケイ酸ガラス(マイクロシート)、アルミノケイ酸塩ガラス等が含まれる。これらの中でも、線膨張係数が5ppm/K以下のものが望ましく、市販品であれば、液晶用ガラスであるコーニング社製の「コーニング(登録商標)7059」や「コーニング(登録商標)1737」、「EAGLE」、旭硝子社製の「AN100」、日本電気硝子社製の「OA10」、SCHOTT社製の「AF32」などが望ましい。
【0019】
前記半導体ウエハとしては、特に限定されないが、シリコンウエハ、ゲルマニウム、シリコン-ゲルマニウム、ガリウム-ヒ素、アルミニウム-ガリウム-インジウム、窒素-リン-ヒ素-アンチモン、SiC、InP(インジウム燐)、InGaAs、GaInNAs、LT、LN、ZnO(酸化亜鉛)やCdTe(カドミウムテルル)、ZnSe(セレン化亜鉛)などのウエハが挙げられる。本発明で好ましく用いられるウエハはシリコンウエハであり、特に好ましくは8インチ以上のサイズの鏡面研磨シリコンウエハである。
【0020】
前記金属としては、W、Mo、Pt、Fe、Ni、Auといった単一元素金属や、インコネル、モネル、ニモニック、炭素銅、Fe-Ni系インバー合金、スーパーインバー合金、といった合金等が含まれる。また、これら金属に、他の金属層、セラミック層を付加してなる多層金属板も含まれる。この場合、付加層との全体の線膨張係数(CTE)が低ければ、主金属層にCu、Alなども用いられる。付加金属層として使用される金属としては、高分子層との密着性を強固にするもの、拡散がないこと、耐薬品性や耐熱性が良いこと等の特性を有するものであれば限定されるものではないが、Cr、Ni、TiN、Mo含有Cuなどが好適な例として挙げられる。
【0021】
前記無機基板の平面部分は、充分に平坦である事が望ましい。具体的には、表面粗さのP-V値が50nm以下、より好ましくは20nm以下、さらに好ましくは5nm以下である。これより粗いと、高分子層層と無機基板との剥離強度が不充分となる場合がある。
前記無機基板の厚さは特に制限されないが、取り扱い性の観点より10mm以下の厚さが好ましく、3mm以下がより好ましく、1.3mm以下がさらに好ましい。厚さの下限については特に制限されないが、好ましくは0.07mm以上、より好ましくは0.15mm以上、さらに好ましくは0.3mm以上である。
【0022】
前記無機基板の面積は、高分子層積層体やフレキシブル電子デバイスの生産効率・コストの観点より、大面積であることが好ましい。具体的には、1000cm2以上であることが好ましく、1500cm2以上であることがより好ましく、2000cm2以上であることがさらに好ましい。
【0023】
本発明における高分子層としては、ポリイミド・ポリアミドイミド・ポリエーテルイミド・フッ素化ポリイミドといった芳香族ポリイミド、脂環族ポリイミドなどのポリイミド系樹脂、ポリエチレン・ポリプロピレン・ポリエチレンテレフタレート・ポリブチレンテレフタレート・ポリエチレン-2,6-ナフタレートといった全芳香族ポリエステル、半芳香族ポリエステルなどの共重合ポリエステル、ポリメチルメタクリレートに代表される共重合(メタ)アクリレート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルケトン、酢酸セルロース、硝酸セルロース、芳香族ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリフェノール、ポリアリレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリスチレン等の層を例示できる。
ただし、本発明は450℃以上の熱処理を伴うプロセスに用いられることが大前提であるため、例示された高分子層の中から実際に適用できる物は限られる。本発明に好ましく用いられる高分子層は、所謂スーパーエンジニアリングプラスチックを用いた層であり、好ましくは芳香族ポリイミド層であり、芳香族アミド層であり、芳香族アミドイミド層であり、芳香族ベンゾオキサゾール層であり、芳香族ベンゾチアゾール層であり、芳香族ベンゾイミダゾール層である。
【0024】
以下にポリイミド系樹脂層についての詳細を説明する。一般にポリイミド系樹脂層は、溶媒中でジアミン類とテトラカルボン酸類とを反応させて得られるポリアミド酸(ポリイミド前駆体)溶液を、ポリイミド層作製用支持体に塗布、乾燥してグリーン層(以下では「ポリアミド酸層」ともいう)となし、さらにポリイミド層作製用支持体上で、あるいは該支持体から剥がした状態でグリーン層を高温熱処理して脱水閉環反応を行わせることによって得られる。
【0025】
ポリアミド酸を構成するジアミン類としては、特に制限はなく、ポリイミド合成に通常用いられる芳香族ジアミン類、脂肪族ジアミン類、脂環式ジアミン類等を用いることができる。耐熱性の観点からは、芳香族ジアミン類が好ましく、芳香族ジアミン類の中では、ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類がより好ましい。ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類を用いると、高い耐熱性とともに、高弾性率、低熱収縮性、低線膨張係数を発現させることが可能になる。ジアミン類は、単独で用いてもよいし二種以上を併用してもよい。
【0026】
ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類としては、特に限定はなく、例えば、5-アミノ-2-(p-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、6-アミノ-2-(p-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、5-アミノ-2-(m-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、6-アミノ-2-(m-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、2,2’-p-フェニレンビス(5-アミノベンゾオキサゾール)、2,2’-p-フェニレンビス(6-アミノベンゾオキサゾール)、1-(5-アミノベンゾオキサゾロ)-4-(6-アミノベンゾオキサゾロ)ベンゼン、2,6-(4,4’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:5,4-d’]ビスオキサゾール、2,6-(4,4’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:4,5-d’]ビスオキサゾール、2,6-(3,4’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:5,4-d’]ビスオキサゾール、2,6-(3,4’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:4,5-d’]ビスオキサゾール、2,6-(3,3’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:5,4-d’]ビスオキサゾール、2,6-(3,3’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:4,5-d’]ビスオキサゾール等が挙げられる。
【0027】
上述したベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類以外の芳香族ジアミン類としては、例えば、m-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、m-アミノベンジルアミン、p-アミノベンジルアミン、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’-ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホキシド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、および前記芳香族ジアミンの芳香環上の水素原子の一部もしくは全てが、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルキル基またはアルコキシル基、シアノ基、またはアルキル基またはアルコキシル基の水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子で置換された炭素数1~3のハロゲン化アルキル基またはアルコキシル基で置換された芳香族ジアミン等が挙げられる。
【0028】
前記脂肪族ジアミン類としては、例えば、1,2-ジアミノエタン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,8-ジアミノオクタン等が挙げられる。
前記脂環式ジアミン類としては、例えば、1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-メチレンビス(2,6-ジメチルシクロヘキシルアミン)等が挙げられる。
芳香族ジアミン類以外のジアミン(脂肪族ジアミン類および脂環式ジアミン類)の合計量は、全ジアミン類の20質量%以下が好ましく、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。換言すれば、芳香族ジアミン類は全ジアミン類の80質量%以上が好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。
【0029】
ポリアミド酸を構成するテトラカルボン酸類としては、ポリイミド合成に通常用いられる芳香族テトラカルボン酸類(その酸無水物を含む)、脂肪族テトラカルボン酸類(その酸無水物を含む)、脂環族テトラカルボン酸類(その酸無水物を含む)を用いることができる。中でも、芳香族テトラカルボン酸無水物類、脂環族テトラカルボン酸無水物類が好ましく、耐熱性の観点からは芳香族テトラカルボン酸無水物類がより好ましく、光透過性の観点からは脂環族テトラカルボン酸類がより好ましい。これらが酸無水物である場合、分子内に無水物構造は1個であってもよいし2個であってもよいが、好ましくは2個の無水物構造を有するもの(二無水物)がよい。テトラカルボン酸類は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0030】
脂環族テトラカルボン酸類としては、例えば、シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ビシクロヘキシルテトラカルボン酸等の脂環族テトラカルボン酸、およびこれらの酸無水物が挙げられる。これらの中でも、2個の無水物構造を有する二無水物(例えば、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物等)が好適である。なお、脂環族テトラカルボン酸類は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
脂環式テトラカルボン酸類は、透明性を重視する場合には、例えば、全テトラカルボン酸類の80質量%以上が好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。
【0031】
芳香族テトラカルボン酸類としては、特に限定されないが、ピロメリット酸残基(すなわちピロメリット酸由来の構造を有するもの)であることが好ましく、その酸無水物であることがより好ましい。このような芳香族テトラカルボン酸類としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4'-オキシジフタル酸二無水物、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
芳香族テトラカルボン酸類は、耐熱性を重視する場合には、例えば、全テトラカルボン酸類の80質量%以上が好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。
【0032】
本発明の高分子層の厚さは1μm~100μmが好ましく、より好ましくは3μm~90μmであり、さらに好ましくは24μm~80μmである。
【0033】
本発明の高分子層の100℃~500℃の間の平均のCTEは、好ましくは、-5ppm/℃~+30ppm/℃であり、より好ましくは-5ppm/℃~+15ppm/℃であり、さらに好ましくは1ppm/℃~+10ppm/℃である。CTEが前記範囲であると、一般的な支持体(無機基板)との線膨張係数の差を小さく保つことができ、熱を加えるプロセスに供しても高分子層と無機基板とが剥がれることを回避できる。ここにCTEとは温度に対して可逆的な伸縮を表すファクターである。
【0034】
本発明における高分子層の厚さ斑は、20%以下であることが好ましく、より好ましくは12%以下、さらに好ましくは7%以下、特に好ましくは4%以下である。厚さ斑が20%を超えると、狭小部へ適用し難くなる傾向がある。なお、層の厚さ斑は、例えば接触式の膜厚計にて被測定層から無作為に10点程度の位置を抽出して層厚を測定し、下記式に基づき求めることができる。
層の厚さ斑(%)
=100×(最大層厚-最小層厚)÷平均層厚
【0035】
無機基板上に形成された剥離層上へ、高分子層を形成する方法としては、高分子の溶液や高分子前駆体溶液の塗布し、加熱乾燥などの手段により高分子層とする方法が好ましい。
塗布の方法としては、例えば、スピンコート、ドクターブレード、アプリケーター、コンマコーター、スクリーン印刷法、スリットコート、リバースコート、ディップコート、カーテンコート、スリットダイコート等従来公知の溶液の塗布手段を適宜用いることができる。
例えば、ポリイミド系樹脂層は、溶媒中でジアミン類とテトラカルボン酸類とを反応させて得られるポリアミド酸(ポリイミド前駆体)溶液を無機基板に所定の厚さとなるように塗布し、乾燥した後に、高温熱処理して脱水閉環反応を行わせる熱イミド化法又は無水酢酸等を脱水剤とし、ピリジン等を触媒として用いる化学イミド化法を行うことによって得ることができる。
【0036】
以上により得られる、無機基板と高分子層が剥離層形成剤層を介して積層されてなる積層体において、該積層体を200℃1時間熱処理した際の無機基板と高分子層の90度剥離強度は0.05N/cm以上が好ましく、さらに好ましくは0.1N/cm以上である。0.05N/cm以下であると、剥離強度が低すぎることによりデバイス形成前や形成中に層がガラスから剥がれる可能性が高い。また、該積層体を500℃1時間熱処理した際の無機基板と高分子層の90度剥離強度は0.50N/cm以下が好ましく、より好ましくは0.3N/cm以下、さらに好ましくは0.2N/cm以下である。剥離強度が0.50N/cmを越えると、形成後のデバイスを破壊せずに剥離することが困難になる。
【0037】
<フレキシブル電子デバイスの製造方法>
本発明の積層体を用いると、既存の電子デバイス製造用の設備、プロセスを用いて積層体の高分子層上に電子デバイスを形成し、積層体から高分子層ごと剥離することで、フレキシブルな電子デバイスを作製することができる。
本発明における電子デバイスとは、電気配線を担う片面、両面、あるいは多層構造を有する配線基板、トランジスタ、ダイオードなどの能動素子や、抵抗、キャパシタ、インダクタなどの受動デバイスを含む電子回路、他、圧力、温度、光、湿度などをセンシングするセンサー素子、バイオセンサー素子、発光素子、液晶表示、電気泳動表示、自発光表示などの画像表示素子、無線、有線による通信素子、演算素子、記憶素子、MEMS素子、太陽電池、薄膜トランジスタなどをいう。
【0038】
本発明のデバイス構造体の製造方法においては、上述した方法で作製された積層体の高分子層上にデバイスを形成した後、前記積層体の無機基板から電子デバイスを高分子層ごと剥離する。
その際に、前記積層体の高分子層に切り込みを入れて該高分子層を前記無機基板から剥離することが好ましい。
前記積層体の易剥離部の高分子層に切り込みを入れる方法としては、刃物などの切削具によって高分子層を切断する方法や、レーザーと積層体を相対的にスキャンさせることにより高分子層を切断する方法、ウォータージェットと積層体を相対的にスキャンさせることにより高分子層を切断する方法、半導体チップのダイシング装置により若干ガラス層まで切り込みつつ高分子層を切断する方法などがあるが、特に方法は限定されるものではない。例えば、上述した方法を採用するにあたり、切削具に超音波を重畳させたり、往復動作や上下動作などを付け加えて切削性能を向上させる等の手法を適宜採用することもできる。
【0039】
デバイス付きの高分子層を無機基板から剥離する方法としては、特に制限されないが、ピンセットなどで端から捲る方法、高分子層の切り込み部分の1辺に粘着テープを貼着させた後にそのテープ部分から捲る方法、高分子層の切り込み部分の1辺を真空吸着した後にその部分から捲る方法等が採用できる。なお、剥離の際に、高分子層の切り込み部分に曲率が小さい曲がりが生じると、その部分のデバイスに応力が加わることになりデバイスを破壊するおそれがあるため、極力曲率の大きな状態で剥がすことが望ましい。例えば、曲率の大きなロールに巻き取りながら捲るか、あるいは曲率の大きなロールが剥離部分に位置するような構成の機械を使って捲ることが望ましい。
また、剥離する部分に予め別の補強基材を貼りつけて、補強基材ごと剥離する方法も有用である。剥離するフレキシブル電子デバイスが、表示デバイスのバックプレーンである場合、あらかじめ表示デバイスのフロントプレーンを貼りつけて、無機基板上で一体化した後に両者を同時に剥がし、フレキシブルな表示デバイスを得ることも可能である。
【0040】
<90度剥離強度>
積層体の剥離強度は、90度剥離法に従って測定した。
無機基板に対して高分子層(ポリイミド層)が90度折れ曲がる側として、N=5の測定を行い平均値を測定値とした。
装置名 ; 剥離試験機…日本計測システム社、JSV-H1000
測定温度 ; 室温
剥離速度 ; 100mm/min
雰囲気 ; 大気
測定サンプル幅 ; 1cm
<気泡(ブリスター)数>
500℃熱処理をした積層体の中心部で3cm×3cmの領域を指定し、その領域内にある気泡数を層貼付面と反対側から目視で確認した。
【0041】
〔高分子前駆体溶液の製造例〕
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた反応容器内を窒素置換した後、5-アミノ-2-(p-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール(DAMBO)223質量部と、N,N-ジメチルアセトアミド4416質量部とを加えて完全に溶解させ、次いで、ピロメリット酸二無水物(PMDA)217質量部とを加え、25℃の反応温度で24時間攪拌して、粘調なポリアミド酸溶液V1を得た。
【0042】
<基材への剥離層形成例1>
無機基板としてガラス基材を用い、剥離層形成剤として3-アミノプロピルジメトキシメチルシラン(東京化成工業社製、以下SM2)を1質量%含むにイソプロパノール溶液を用いた。
スピンコーター(ジャパンクリエイト社製、MSC-500S)にガラス基板を設置して、回転数を2000rpmまで上げて10秒間回転させ、剥離層形成剤を塗布し、次に、110℃に加熱したホットプレートに、剥離層形成剤が塗布された無機基板を剥離層形成剤塗布面が上になるように載せ、約1分間加熱して、剥離層形成向無機基板G1を得た。
【0043】
<基材への剥離層形成例2(気相塗布法)>
剥離層形成剤として3-アミノプロピルジメトキシメチルシラン(東京化成工業社製、以下SM2)100%の原液を、チャンバーに接続した吸引瓶に満たし40℃の水浴上に静置した。吸引瓶の上方からは計装エアーを導入できる状態にして密閉することで、チャンバー内に剥離層形成剤の蒸気を導入できる状態にした。
次いで、チャンバー内にUVオゾン処理を行ったガラス基板を処理面を上にして水平に保持し、チャンバーを閉じた。次いで計装エアーを25L/minで導入し、チャンバー内を剥離層形成剤蒸気で満たした状態で3分間保持して無機基板を剥離層形成剤蒸気に暴露し、チャンバーから取り出して110℃に加熱したホットプレートに、剥離層形成剤暴露面が上になるように載せ、約1分間加熱して、剥離層形成無機基板G2を得た。
【0044】
(実施例1)
得られた剥離層形成無機基板G1の剥離層上にポリアミド酸溶液V1をアプリケーターを用いて、最終的なポリイミド層の厚さが6μmとなるように塗布し、真空乾燥機で残存溶剤率が35%以下になるまで乾燥した後に、イナートオーブンにて250℃にて7分、450℃にて7分熱処理を行い、ガラス/剥離層/ポリイミド層からなる積層体を得た。
得られた積層体の初期90度剥離力は0.18N/cmであった。
次いで得られた積層体を窒素中にて500℃にて1時間処理し、その後の90度剥離強度を測定した。結果0.15N/cmであった。また500℃処理後もブリスターはほとんど観察されなかった。
【0045】
(実施例2)
剥離層形成実基板G2を用い、ポリアミド酸溶液V1をアプリケーターを用いて、最終的なポリイミド層厚が18μmとなるように塗布し、真空乾燥機で残存溶剤率が35%以下になるまで乾燥した後に、イナートオーブンにて250℃にて10分、450℃にて10分熱処理を行い、ガラス/剥離層/ポリイミド層からなる積層体を得た。
得られた積層体の初期90度剥離力は0.15N/cmであった。
次いで得られた積層体を窒素中にて500℃にて1時間処理し、その後の90度剥離強度を測定した。結果0.08N/cmであった。また500℃処理後もブリスターはほとんど観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の剥離層形成剤を用いて得られる高分子層/剥離層/無機基板の積層体は、高分子層上に電子デバイスを形成した後に、電子デバイスが載置された高分子層を無機基板から容易に剥離することが可能である。
特に、LTPS(低温ポリシリコン)のような500℃近い高温での熱処理が必要な電子デバイスを作製する場合でも、電子デバイス付き高分子層を無機基板から容易に剥離できる特徴を有するため、高性能なフレキシブルディスプレイや各種センサーの作製に有効である。