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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】経口組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/00 20060101AFI20220628BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20220628BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220628BHJP
   A61K 31/734 20060101ALI20220628BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20220628BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20220628BHJP
   A23L 33/175 20160101ALI20220628BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20220628BHJP
   A23L 33/16 20160101ALI20220628BHJP
【FI】
A61K33/00
A61P3/04
A61P43/00 121
A61K31/734
A61K9/14
A61K47/18
A23L33/175
A23L33/10
A23L33/16
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018016248
(22)【出願日】2018-02-01
(65)【公開番号】P2018127448
(43)【公開日】2018-08-16
【審査請求日】2021-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2017020027
(32)【優先日】2017-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤原 健太
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 貴則
(72)【発明者】
【氏名】藤原 将平
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】特表平02-502908(JP,A)
【文献】特表2009-530254(JP,A)
【文献】特開2000-189108(JP,A)
【文献】特開2009-106217(JP,A)
【文献】Journal of Controlled Release,1986年,Vol.3,pp.167-175
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 33/00
A61K 31/00
A61K 47/00
A61K 9/00
A23L 33/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)アルギン酸又はその塩、B)炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウムから選ばれる少なくとも1種の発泡剤、並びにC)トレオニン、アラニン、ロイシン、セリン、アスパラギン酸、アスパラギン酸ナトリウム及びグルタミン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸若しくはその塩を含有し、以下のi)~iii)を満たす経口組成物。
i)アミノ酸若しくはその塩を、A)アルギン酸又はその塩1質量部に対して0.05質量部~1質量部、かつ、B)発泡剤1質量部に対して0.05質量部~1質量部含有する
ii)アルギン酸又はその塩の含有量が、経口組成物全体に対して、0.05~50質量%である
iii)B)発泡剤の含有量が、A)アルギン酸又はその塩1質量部に対して、0.06~15質量部である
【請求項2】
固形製剤の形態である請求項1に記載の経口組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、A)アルギン酸又はその塩とB)炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウムから選ばれる少なくとも1種の発泡剤を配合した経口組成物に関し、医薬品、医薬部外品及び食品等の分野において利用され得る。
【背景技術】
【0002】
肥満はメタボリックシンドロームに至る深刻な社会問題である。肥満を予防するための有効な手段としては、食事摂取量を制限してのダイエットが挙げられるが、これによって生じる空腹感のため、長続きしないというのが実状であった。そこで、空腹感を解消するために、香料又は香料化合物を主成分とする空腹感緩和剤(特許文献1参照)、シリアル食品(特許文献2参照)、可食性リンタンパクと金属の炭酸塩を含有する食品組成物(特許文献3参照)、ゲル形成成分を含む胃内ラフト組成物を用いる方法(特許文献4参照)、あるいは水性の酸と接触した際に非毒性ガスを生成し得る発泡剤を含む胃内ラフト組成物を用いる方法(特許文献5参照)等が提供されている。
【0003】
通常、胃内ラフト組成物を形成させる場合には、ペクチンやアルギン酸等のゲル形成成分が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-7427号公報
【文献】特許4791102号公報
【文献】特開2010-94085号公報
【文献】特許5079713号公報
【文献】特表2005-507409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、アルギン酸又はその塩と、炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウムから選ばれる少なくとも1種の発泡剤とを組み合わせると、これらを含有する組成物においてデンプンのりを連想させる特有の異風味(以下、場合により「特有の異風味」という。)が増強し、服用性に悪影響を与えるという課題があることを見出した。
【0006】
本発明は上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、アルギン酸又はその塩と、炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウムから選ばれる少なくとも1種の発泡剤を配合することにより生じる特有の異風味を低減させた経口組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、A)アルギン酸又はその塩とB)炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウムから選ばれる少なくとも1種の発泡剤を含有する組成物に、C)カフェイン及び/又は分子内に環状構造を有しないアミノ酸若しくはその塩を添加することで、A)アルギン酸又はその塩、及びB)炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウムから選ばれる少なくとも1種の発泡剤を配合することによって生じる特有の異風味が低減することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
かかる知見により得られた本発明の態様は次のとおりである。
(1)A)アルギン酸又はその塩、B)炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウムから選ばれる少なくとも1種の発泡剤、及びC)カフェイン及び/又は分子内に環状構造を有しないアミノ酸若しくはその塩を含有する経口組成物。
(2)カフェイン及び/又は分子内に環状構造を有しないアミノ酸若しくはその塩を、A)アルギン酸又はその塩1質量部に対して0.05質量部~1質量部、かつ、B)発泡剤1質量部に対して0.05質量部~1質量部含有する(1)に記載の経口組成物。
(3)分子内に環状構造を有しないアミノ酸若しくはその塩が、トレオニン、アラニン、ロイシン、セリン、アスパラギン酸、アスパラギン酸ナトリウム及びグルタミン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である(1)又は(2)に記載の経口組成物。
(4)固形製剤の形態である(1)~(3)のいずれかに記載の経口組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、A)アルギン酸又はその塩とB)炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウムから選ばれる少なくとも1種の発泡剤とを配合することにより生じる特有の異風味が低減された経口組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明におけるアルギン酸は、昆布やワカメなどの海藻に含まれる多糖類の塩であり、増粘安定剤として広く利用されている。アルギン酸はマンヌロン酸とグルロン酸が直鎖重合した構造で、アルギン酸の塩としてはナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩などが市販されている。本発明では、何れのアルギン酸又はその塩を用いてもよいが、溶解性の点でアルギン酸ナトリウム又はアルギン酸カリウムが好ましい。アルギン酸又はその塩の含有量は、特に限定されないが、経口組成物全体に対して、通常、0.05~90質量%、好ましくは0.05~80質量%、より好ましくは0.05~50質量%である。また、経口用固形製剤の形態では、経口用固形製剤全体に対して、通常、5~90質量%、好ましくは5~80質量%、より好ましくは5~50質量%である。
【0011】
本発明における発泡剤は、酸と反応して気体成分を生成するアルカリ金属塩であり、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられ、特に、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムが好ましい。いずれも由来・製法等について特に制限はなく、天然物から精製して得られるもののみならず、合成品を利用することもできる。B)発泡剤の含有量(上記のうち2種以上の混合物である場合にはそれらの合計含有量)は、特に限定されないが、A)アルギン酸又はその塩1質量部に対して、好ましくは0.03~20質量部、より好ましくは0.06~15質量部である。
【0012】
本発明の経口組成物は、C)カフェイン及び/又は分子内に環状構造を有しないアミノ酸若しくはその塩(以下、場合により「C)成分」という)をさらに含有する。C)成分としては、これらのうちの1種を単独であってもよく、2種以上の混合物であってもよい。
【0013】
「カフェイン」は、プリン塩基の1種であるキサンチンの誘導体であり、例えば、緑茶や紅茶、コーヒーといった飲料に含まれることが知られている。本発明においてカフェインの由来・製法等について特に制限はなく、天然物から精製して得られるもののみならず、合成品を利用することもできる。カフェインの含有量は、特に限定されないが、A)アルギン酸又はその塩1質量部に対して、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01~10質量部、さらに好ましくは0.05~5質量部、特に好ましくは0.05~1質量部、B)発泡剤1質量部に対して、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01~10質量部、さらに好ましくは0.05~5質量部、特に好ましくは0.05~1質量部である。キサンチン誘導体の含有量が上記下限未満であるとA)アルギン酸又はその塩とB)発泡剤とを配合することにより生じる特有の異風味の低減効果が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えるとカフェイン特有の風味が強くなって経口組成物の風味が損なわれる傾向にある。
【0014】
「分子内に環状構造を有しないアミノ酸若しくはその塩(以下、場合により「アミノ酸類」という)」は、アミノ基及びカルボキシル基両方の官能基を持ち、且つ分子内に環状構造を有しない化合物並びにその塩である。本発明においてアミノ酸類の由来・製法等について特に制限はなく、天然物から精製して得られるもののみならず、合成品を利用することもできる。本発明におけるアミノ酸類としては、例えば、トレオニン、アラニン、ロイシン、セリン、アスパラギン酸、アスパラギン酸ナトリウム、グルタミン酸ナトリウムが挙げられ、これらのうちの1種を単独であっても2種以上の混合物であってもよい。アミノ酸類の含有量(混合物である場合にはそれらの合計含有量)は、特に限定されないが、A)アルギン酸又はその塩1質量部に対して、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01~10質量部、さらに好ましくは0.05~5質量部、特に好ましくは0.05~1質量部、B)発泡剤1質量部に対して、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01質量部~10質量部、さらに好ましくは0.05~5質量部、特に好ましくは0.05~1質量部である。アミノ酸類の含有量が上記下限未満であるとA)アルギン酸又はその塩とB)発泡剤とを配合することにより生じる特有の異風味の低減効果が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えるとアミノ酸類特有の風味が強くなって経口組成物の風味が損なわれる傾向にある。
【0015】
「経口組成物」は、例えば、医薬品、医薬部外品、食品などに幅広く利用することができる経口組成物であり、例えば、医薬品製剤、医薬部外品製剤、特定保健用食品、栄養機能食品、特別用途食品、機能性表示食品、健康補助食品(サプリメント)、又は食品用製剤であり得る。
【0016】
経口組成物は、本発明の効果を損なわない範囲でその他の成分を配合できる。例えば、ビタミン類、ミネラル類、生薬、生薬抽出物、ローヤルゼリー、デキストリン等を適宜配合することができる。また、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、流動化剤、分散剤、コーティング剤等を配合し、さらに必要に応じて、抗酸化剤、着色剤、香料、矯味剤、保存剤、pH調整剤等を配合することができる。
【0017】
本発明の経口組成物の形態は特に制限されず、通常使用され得る任意の剤形をとることができる。例えば、錠剤(素錠、口腔内速崩壊錠、咀嚼可能錠、発泡錠、トローチ剤、ドロップ剤などを含む)、散剤、顆粒剤、ドライシロップ剤、固形発泡飲料、粉末飲料などの固形製剤(経口用固形製剤)、又はドリンク剤、飲料、濃縮飲料等の経口用液体製剤として提供することができる。これらの中でも本発明の経口組成物の形態としては、固形製剤であることが好ましい。
【0018】
本発明の経口組成物は、当該技術分野における慣用の方法をそのまま又は適宜応用して製造することができる。例えば、アルギン酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の発泡剤、カフェイン等のC)成分及び任意の賦形剤を混合・造粒した後、圧縮成形することで錠剤とすることができ、また、アルギン酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の発泡剤及びカフェイン等のC)成分を保存剤やpH調整剤等とともに精製水に溶解させることで、ドリンク剤を調製することができる。
【実施例
【0019】
以下に、実施例、比較例及び参考例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下に限定されるものではない。
(実施例1~10及び比較例1~3)
表1及び表2に記載の組成となるように各成分を秤量・混合し、実施例1~10及び比較例1~3の経口組成物(混合粉体)を調製した。
試験例1
得られた各混合粉体の全量をそれぞれ精製水200mlに溶解させて溶液を調製し、比較例2及び実施例1~9については比較例1をコントロールとして、実施例10については比較例3をコントロールとして、経口組成物の風味を下記の評価基準1に従って評価した。評価は3名で行い、個々の評価結果の平均値を算出した上で、表記基準1に従って結果を示した。
【0020】
【表1】
【0021】
【表2】
【0022】
評価基準1
+3:でんぷん糊を連想させる風味を著しく改善した
+2:でんぷん糊を連想させる風味を改善した
+1:でんぷん糊を連想させる風味をやや改善した
0 :変化なし
-1:でんぷん糊を連想させる風味がやや増強した
-2:でんぷん糊を連想させる風味が増強した
-3:でんぷん糊を連想させる風味が著しく増強した
【0023】
表記基準1
(平均値)≧+2 :++
+2 >(平均値)≧+1 :+
+1 >(平均値)>-1 :±
-1 ≧(平均値)>-2 :-
-2 ≧(平均値) :--
【0024】
表1及び表2の結果より、比較例1及び比較例3(コントロール)に比べて、トレオニン、アラニン、ロイシンなどの分子内に環状構造を有しないアミノ酸やカフェインを含む実施例1~10においては、でんぷん糊を連想させるような風味(特有の異風味)が低減し、風味の改善効果が認められた。一方、比較例2に示すように、プロリンといった分子内に環状構造を有するアミノ酸では、異風味がより増強した。
【0025】
(参考例)
表3及び表4に記載の組成となるように各成分を秤量・混合し、参考例1~7の経口組成物(混合粉体)を調製した。
試験例2
得られた各混合粉体の全量それぞれを精製水200mlに溶解させて溶液を調製し、下記の評価基準2に従って経口組成物の風味を評価した。評価は3名で行い、個々の評価結果の平均値を算出した。結果を表3及び表4に示す。
【0026】
【表3】
【0027】
【表4】
【0028】
評価基準2
7:でんぷん糊を連想させる風味を非常に強く感じる
6:でんぷん糊を連想させる風味を強く感じる
5:でんぷん糊を連想させる風味をやや強く感じる
4:でんぷん糊を連想させる風味を感じる
3:でんぷん糊を連想させる風味をやや弱く感じる
2:でんぷん糊を連想させる風味を弱く感じる
1:でんぷん糊を連想させる風味が非常に弱い(ほぼ感じない)
【0029】
アルギン酸ナトリウムのみを配合した参考例1に比べ、アルギン酸ナトリウムに炭酸水素ナトリウムや炭酸水素カリウムを組み合わせた参考例2~5は、でんぷん糊を連想させる風味(特有の異風味)が増強することが認められた。また、アルギン酸カリウムについても同様に、アルギン酸カリウムのみを配合した参考例6に比べ、アルギン酸カリウムに炭酸水素ナトリウムを組み合わせた参考例7は、でんぷん糊を連想させる風味(特有の異風味)が増強することが認められた。
【0030】
以上により、A)アルギン酸又はその塩とB)炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウムから選ばれる少なくとも1種の発泡剤とを配合することにより生じる特有の異風味は、C)カフェイン及び/又は分子内に環状構造を有しないアミノ酸を添加することで低減されることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明により、A)アルギン酸又はその塩とB)炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウムから選ばれる少なくとも1種の発泡剤を配合することにより生じる特有の異風味を抑えた経口組成物を提供することが可能となった。よって、本発明を肥満予防のためのダイエットを志向した医薬品、医薬部外品及び食品として提供することにより、これらの産業の発達が期待される。