(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】エンジンの排気浄化制御装置
(51)【国際特許分類】
F01N 3/36 20060101AFI20220628BHJP
F01N 3/08 20060101ALI20220628BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20220628BHJP
F01N 3/20 20060101ALI20220628BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20220628BHJP
F02D 41/04 20060101ALI20220628BHJP
F02D 41/30 20060101ALI20220628BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
F01N3/36 C
F01N3/08 B
F01N3/08 A
F01N3/28 301E
F01N3/20 E
F01N3/24 C
F02D41/04
F02D41/30
B01D53/94 222
B01D53/94 280
(21)【出願番号】P 2018016380
(22)【出願日】2018-02-01
【審査請求日】2021-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】西村 博幸
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 知浩
(72)【発明者】
【氏名】菅野 雅信
【審査官】齊藤 彬
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-214734(JP,A)
【文献】特開2010-265873(JP,A)
【文献】特開2003-206785(JP,A)
【文献】特開2008-008206(JP,A)
【文献】特開2013-124643(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0312392(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0023909(US,A1)
【文献】特表2017-505711(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102010005813(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00
3/02
3/04- 3/38
9/00-11/00
F02D 41/04
45/00
B01D 53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒が形成されたエンジン本体と、当該エンジン本体から排出された排気が流通する排気通路とを備え
、車両に搭載されたエンジンに適用される排気浄化制御装置であって、
前記気筒内に燃料を噴射可能な燃料噴射手段と、
前記排気通路に設けられて、低温時にHCを吸着し高温時にHCを放出するHC吸着材と、HCを酸化可能な酸化触媒とを含む第1浄化触媒と、
前記排気通路に設けられて、排気中のNOxを吸蔵可能なNOx触媒を含む第2浄化触媒と、
前記NOx触媒を昇温しつつ再生するNOx触媒再生手段と、
前記HC吸着材に吸着されたHCである吸着HCの量が予め設定された基準量以上であるか否かを判定するとともに、前記吸着HCの量が前記基準量以上になったと判定すると
膨張行程の前半に前記燃料噴射手段によって気筒内に燃料を噴射させて当該燃料を気筒内で燃焼させる吸着HC放出制御を実施して前記第1浄化触媒を昇温するHC制御手段とを備え
、
前記HC制御手段は、車速が0付近に設定された判定車速未満の場合は前記吸着HC放出制御を禁止する、ことを特徴とするエンジンの排気浄化制御装置。
【請求項2】
請求項
1に記載のエンジンの排気浄化制御装置において、
前記HC制御手段は、前記NOx触媒の温度が高いときの方が低いときよりも前記基準量を小さい値に設定する、ことを特徴とするエンジンの排気浄化制御装置。
【請求項3】
請求項
2に記載のエンジンの排気浄化制御装置において、
前記HC制御手段は、前記NOx触媒の温度が所定の温度未満のときは、前記基準量を前記NOx触媒の温度によらず一定の値に設定する、ことを特徴とするエンジンの排気浄化制御装置。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載のエンジンの排気浄化制御装置において、
前記NOx触媒はSOxを吸蔵可能であり、
前記NOx触媒を昇温させて当該NOx触媒に吸蔵されたSOxを当該NOx触媒から離脱させるS被毒解消手段を、さらに備える、ことを特徴とするエンジンの排気浄化制御装置。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のエンジンの排気浄化制御装置において、
前記排気通路の前記第2
浄化触媒の下流側の部分に設けられて、排気中のNOxをアンモニアを用いて浄化するSCR触媒を、さらに備える、ことを特徴とするエンジンの排気浄化制御装置。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載のエンジンの排気浄化制御装置において、
前記第1浄化触媒と第2浄化触媒とは共通の装置からなり、
前記HC吸着材、前記酸化触媒および前記NOx触媒は、共通の担体に担持されている、ことを特徴とするエンジンの排気浄化制御装置。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載のエンジンの排気浄化制御装置において、
エンジンの運転状態に基づいて推定される気筒内から排気通路に排出される単位時間あたりのHCの量と、排気ガスの状態に応じて設定される吸着可能率と、に基づいて推定される単位時間あたりにHC吸着材に吸着されるHCの量が積算されることで、前記吸着HCの量が推定される、ことを特徴とするエンジンの排気浄化制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気筒が形成されたエンジン本体と、当該エンジン本体から排出された排気が流通する排気通路とを備えたエンジンの排気浄化制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン本体から排出される排気を浄化するために、排気通路に触媒装置を設けることが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、排気中のHC等を酸化可能な酸化触媒と、排気中のHCを低温時にHCを吸着し高温時にHCを放出するHC吸着材とが排気通路に設けられたエンジンが開示されている。
【0004】
このエンジンでは、冷間始動時等であって酸化触媒が十分に活性化していないときでも、HC吸着材にHCを一時的に吸着させておくことができる。そして、HC吸着材や酸化触媒の温度が高くなったときに、HC吸着材からHCを放出させてこのHCを酸化触媒によって酸化させることができる。従って、エンジンの外部に排出されるHCの量を少なく抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、NOxのエンジン外部への排出を抑制するために排気通路にNOxを吸蔵可能なNOx触媒を設けるとともに、NOx触媒を昇温しつつNOx触媒に吸蔵されているNOxを離脱させる制御を実施するエンジンにおいて、単純に、前記のように構成されたHC吸着材および酸化触媒をNOx触媒とともに排気通路に配置すると、NOx触媒の浄化性能が低下するおそれがある。具体的には、NOx触媒からNOxを離脱させる制御を実施した時に、NOx触媒に加えてHC吸着材の温度も昇温されてしまう。この結果、HC吸着材から多量のHCが放出される。そして、このHCが酸化触媒で酸化反応することで、NOx触媒の温度がさらに上昇し、NOx触媒の性能が低下するおそれがある。
【0007】
本発明は、前記のような事情に鑑みてなされたものであり、HCの排出量を少なく抑えつつNOx触媒の浄化性能を高く維持できるエンジンの排気浄化制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は、気筒が形成されたエンジン本体と、当該エンジン本体から排出された排気が流通する排気通路とを備え、車両に搭載されたエンジンに適用される排気浄化制御装置であって、前記気筒内に燃料を噴射可能な燃料噴射手段と、前記排気通路に設けられて、低温時にHCを吸着し高温時にHCを放出するHC吸着材と、HCを酸化可能な酸化触媒とを含む第1浄化触媒と、前記排気通路に設けられて、排気中のNOxを吸蔵可能なNOx触媒を含む第2浄化触媒と、前記NOx触媒を昇温しつつ再生するNOx触媒再生手段と、前記HC吸着材に吸着されたHCである吸着HCの量が予め設定された基準量以上であるか否かを判定するとともに、前記吸着HCの量が前記基準量以上になったと判定すると膨張行程の前半に前記燃料噴射手段によって気筒内に燃料を噴射させて当該燃料を気筒内で燃焼させる吸着HC放出制御を実施して前記第1浄化触媒を昇温するHC制御手段とを備え、前記HC制御手段は、車速が0付近に設定された判定車速未満の場合は前記吸着HC放出制御を禁止する、ことを特徴とするエンジンの排気浄化制御装置を提供する(請求項1)。
【0009】
この装置によれば、排気通路に、HC吸着材と酸化触媒とを含む第1浄化触媒と、NOx触媒を含む第2浄化触媒とが設けられているため、NOxおよびHCの排気通路外部への排出を抑制できる。
【0010】
しかも、この装置では、HC吸着材に吸着されているHCである吸着HCの量が基準量以上になると第1浄化触媒が昇温されるため、第1浄化触媒に含まれるHC吸着材に吸着されているHCの量をほぼ常時少ない量に抑えることができる。そのため、NOx触媒がその再生時に昇温され、これに伴い排気通路内の温度ひいては第1浄化触媒およびHC吸着材の温度が高くなっても、多量のHCがHC吸着材から放出されるのを防止できる。従って、放出された多量のHCが酸化触媒の作用によって酸化反応することで排気通路内の温度が上昇してNOx触媒の温度が過度に高くなるのを回避することができ、NOx触媒の浄化性能を高く維持できる。
【0012】
また、本発明では、前記HC制御手段は、前記吸着HCの量が前記基準量以上になったと判定すると、膨張行程の前半に前記燃料噴射手段によって気筒内に燃料を噴射させて当該燃料を気筒内で燃焼させる吸着HC放出制御を実施し、これにより第1浄化触媒を昇温する。従って、気筒内に燃料を噴射する燃料噴射手段を利用して、容易に排気ガスの温度ひいては第1浄化触媒の温度を高めてHC吸着材からHCを放出させることができる。
【0013】
前記構成において、前記HC制御手段は、前記NOx触媒の温度が高いときの方が低いときよりも前記基準量を小さい値に設定する、のが好ましい(請求項2)。
【0014】
この構成では、NOx触媒の温度が既にある程度高いときには、前記基準量が小さい値とされて比較的少量のHCがHC吸着材に溜まった時点でHC吸着材からHCが放出される。そのため、NOx触媒の温度が既に高い状態でその再生が行われた時に、HC吸着材から放出されたHCの酸化反応に起因するNOx触媒の昇温量を少なく抑えることができ、NOx触媒の温度が過度に高くなるのを防止できる。そして、NOx触媒の温度が低いときには、前記基準量が大きい値とされてHC吸着材に比較的多量のHCが溜まるまでHC吸着材が昇温されない。そのため、この昇温のための制御の実施機会を少なく抑えることができる。
【0015】
前記構成において、前記HC制御手段は、前記NOx触媒の温度が所定の温度未満のときは、前記基準量を前記NOx触媒の温度によらず一定の値に設定する、のが好ましい(請求項3)。
【0016】
このようにすれば、NOx触媒の温度が所定の温度未満と低いときに、HC吸着材を昇温のための制御の実施機会が過剰に多くなるのを回避することができる。
【0017】
前記構成において、前記NOx触媒はSOxを吸蔵可能であり、前記NOx触媒を昇温させて当該NOx触媒に吸蔵されたSOxを当該NOx触媒から離脱させるS被毒解消手段を、さらに備える、のが好ましい(請求項4)。
【0018】
この構成によれば、SOxの排気通路の外部への排出が抑制されるとともに、S被毒解消手段によってNOx触媒が昇温するときにも、NOx触媒の温度が過度に高くなるのを抑制することができる。具体的には、S被毒解消制御時は、NOx触媒再生制御時よりもNOx触媒が高温化する。そのため、放出された多量のHCの酸化反応によるNOx触媒の温度が特に高くなってNOx触媒の還元剤がシンタリングし、これにより、SOxが還元剤と反応しにくくなってNOx触媒の浄化性能が低下する。これに対して、前記のように、本発明によれば、HC吸着材から多量のHCが放出されるのを抑制できるため、S被毒解消制御時のNOx触媒の浄化性能の低下を防ぐことができる。
【0019】
前記構成において、前記排気通路の前記第2触媒装置の下流側の部分に設けられて、排気中のNOxをアンモニアを用いて浄化するSCR触媒を、さらに備える、のが好ましい(請求項5)。
【0020】
この構成によれば、第1浄化触媒が昇温された際にNOx触媒が昇温し、これによって、NOx触媒からNOxが離脱した場合であっても、SCR触媒によってこのNOxを浄化することができる。従って、NOxの排気通路外部への排出をより確実に防止できる。
【0021】
前記構成において、前記第1浄化触媒と第2浄化触媒とは共通の装置からなり、前記HC吸着材、前記酸化触媒および前記NOx触媒は、共通の担体に担持されている、のが好ましい(請求項6)。
【0022】
この構成によれば、浄化装置を小型化することができる。
【0023】
前記吸着HCの量を推定する構成としては、エンジンの運転状態に基づいて推定される気筒内から排気通路に排出される単位時間あたりのHCの量と、排気ガスの状態に応じて設定される吸着可能率と、に基づいて推定される単位時間あたりにHC吸着材に吸着されるHCの量を積算することで、前記吸着HCの量を推定する構成が挙げられる(請求項7)。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、HCの排出量を少なく抑えつつNOx触媒の浄化性能を高く維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施形態に係るエンジンの排気浄化制御装置が適用されたエンジンシステムの概略構成図である。
【
図3】エンジンシステムの制御系を示すブロック図である。
【
図4】DeNOx制御が実施される領域を示した図である。
【
図5】DeNOx制御の流れを示したフローチャートである。
【
図6】DeSOx制御実施時のポスト噴射量の時間変化、および、排気の空気過剰率の時間変化を模式的に示した図である。
【
図7】吸着HC放出制御の流れを示したフローチャートである。
【
図8】NOx触媒の温度と放出基準量との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係るエンジンの排気浄化制御装置について説明する。
【0027】
(1)全体構成
図1は、本実施形態のエンジンの排気浄化制御装置が適用されたエンジンシステム100の概略構成図である。
【0028】
エンジンシステム100は、4ストロークのエンジン本体1と、エンジン本体1に空気(吸気)を導入するための吸気通路20と、エンジン本体1から外部に排気を排出するための排気通路40と、第1ターボ過給機51と、第2ターボ過給機52とを備えている。このエンジンシステム100は車両に設けられ、エンジン本体1は車両の駆動源として用いられる。エンジン本体1は、例えば、ディーゼルエンジンであり、
図1の紙面に直交する方向に並ぶ4つの気筒2を有する。
【0029】
エンジン本体1は、気筒2が内部に形成されたシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上面に設けられたシリンダヘッド4と、気筒2に往復摺動可能に挿入されたピストン5とを有している。ピストン5の上方には燃焼室6が区画されている。
【0030】
ピストン5はクランク軸7と連結されており、ピストン5の往復運動に応じてクランク軸7はその中心軸回りに回転する。
【0031】
シリンダヘッド4には、燃焼室6内(気筒2内)に燃料を噴射するインジェクタ(燃料噴射手段)10と、燃焼室6内の燃料と空気の混合気を昇温するためのグロープラグ11とが、各気筒2につきそれぞれ1組ずつ設けられている。
【0032】
図1に示した例では、インジェクタ10は、燃焼室6の天井面の中央に、燃焼室6を上方から臨むように設けられている。また、グロープラグ11は、通電されることで発熱する発熱部を先端に有しており、この発熱部が、インジェクタ10の先端部分の近傍に位置するように燃焼室6の天井面に取り付けられている。例えば、インジェクタ10は、その先端に複数の噴口を備え、グロープラグ11は、その発熱部がインジェクタ10の複数の噴口からの複数の噴霧の間に位置して燃料の噴霧と直接接触しないように、配置されている。
【0033】
インジェクタ10は、主としてエンジントルクを得るために実施される噴射であって圧縮上死点付近で燃焼する燃料を燃焼室6内に噴射するメイン噴射と、メイン噴射よりも遅角側であって燃焼してもその燃焼エネルギーがエンジントルクにほとんど寄与しない時期に燃焼室6内に燃料を噴射するポスト噴射とを実施できるようになっている。
【0034】
シリンダヘッド4には、吸気通路20から供給される空気を各燃焼室6(各気筒2)に導入するための吸気ポートと、吸気ポートを開閉する吸気弁12と、各燃焼室6(各気筒2)で生成された排気を排気通路40に導出するための排気ポートと、排気ポートを開閉する排気弁13とが設けられている。
【0035】
吸気通路20には、上流側から順に、エアクリーナ21、第1ターボ過給機51のコンプレッサ51a(以下、適宜、第1コンプレッサ51aという)、第2ターボ過給機52のコンプレッサ52a(以下、適宜、第2コンプレッサ52aという)、インタークーラ22、スロットルバルブ23、サージタンク24が設けられている。また、吸気通路20には、第2コンプレッサ52aをバイパスする吸気側バイパス通路25と、これを開閉する吸気側バイパスバルブ26とが設けられている。吸気側バイパスバルブ26は、駆動装置(不図示)によって全閉の状態と全開の状態とに切り替えられる。
【0036】
排気通路40には、上流側から順に、第2ターボ過給機52のタービン52b(以下、適宜、第2タービン52bという)、第1ターボ過給機51のタービン51b(以下、適宜、第1タービン51bという)、複合触媒装置148、DPF(Diesel Particulate Filter)44、尿素インジェクタ45、SCR(Selective Catalytic Reduction)触媒46、スリップ触媒47、が設けられている。
【0037】
DPF44は、排気中のPM(Particulate Matter、微粒子状物質)を捕集する。DPF44に捕集されたPMは、高温に晒され且つ酸素の供給を受けることで燃焼し、DPF44から除去される。
【0038】
尿素インジェクタ45は、DPF44の下流側の排気通路40中に尿素を噴射する装置である。尿素インジェクタ45は、尿素が貯留された尿素タンク(不図示)に接続されており、この尿素タンクから供給される尿素を排気通路40中に噴射する。
【0039】
SCR触媒46は、アンモニアを用いて排気中のNOxを選択的に還元する触媒装置である。尿素インジェクタ45から噴射された尿素はSCR触媒46にて加水分解されてアンモニアとなる。SCR触媒46は、この尿素から生成されたアンモニアを吸着する。また、後述するように、NOx触媒41からアンモニアが放出される場合があり、SCR触媒46は、NOx触媒41から放出されたアンモニアも吸着する。そして、SCR触媒46は、吸着したアンモニアを排気中のNOxと反応させることでNOxを還元する。SCR触媒46は、例えば、アンモニアによってNOxを還元する触媒金属(Fe、Ti、Ce、W等)がアンモニアをトラップするゼオライトに担持されることで形成された触媒成分が、ハニカム担体のセル壁に担持されることで形成される。
【0040】
スリップ触媒47は、SCR触媒46から排出された未反応のアンモニアを酸化させて浄化する。つまり、SCR触媒46が吸着可能なアンモニアの量には限界があり、スリップ触媒47は、SCR触媒46をすり抜けたアンモニアを浄化する。
【0041】
複合触媒装置148は、NOxを浄化するNOx触媒41と、酸化触媒(DOC: Diesel Oxidation Catalyst)42と、HC吸着材43とを含む。
【0042】
このように、本実施形態では、NOx触媒41を含む浄化装置(第2浄化触媒)と、酸触媒42とHC吸着材43とを含む浄化装置(第1浄化触媒)が共通の装置として構成されており、共通の担体にこれらNOx触媒41と酸化触媒42とHC吸着材43とが担持されている。
【0043】
酸化触媒42は、排気中の酸素を用いて炭化水素(HC)すなわち未燃燃料や一酸化炭素(CO)などを酸化して水と二酸化炭素に変化させる。酸化触媒42で生じるこの酸化反応は発熱反応であり、酸化触媒42で酸化反応が生じると排気の温度は高められる。
【0044】
HC吸着材43は、排気中のHCを所定の温度未満で吸着し、吸着しているHCである吸着HCをこの所定の温度以上で放出するものである。HC吸着材43は、多数の細孔が形成されたゼオライトからなる結晶であり、HC吸着材43の温度が低いときにはHCはこれら細孔に吸着され、HC吸着材43の温度が高くなると吸着HCは振動して細孔から飛び出す。
【0045】
HC吸着材43が設けられていることで、本実施形態では、エンジンの冷間始動時に排気通路40の外部に放出されるHCを少なく抑えることができる。具体的には、エンジンの冷間始動時は、HC吸着材43も低温に抑えられているため、エンジン本体1から排出されたHCをHC吸着材43に吸着させることができ、外部へのHCの排出を抑制できる。このようにしてHC吸着材43に吸着されたHCは、エンジン本体1が通常運転されて排気の温度が高められ、これに伴いHC吸着材43が高温になると、HC吸着材43から放出される。HC吸着材43から放出されたHCは、酸化触媒42にて酸化され、H2O、CO2等として外部に排出される。酸化触媒42は、白金やパラジウム等の触媒金属からなる。
【0046】
NOx触媒41は、NOx吸蔵還元型触媒(NSC:NOx Storage Catalyst)であり、排気の空燃比(A/F、A:排気ガスに含まれる燃料(H)に対するA:排気ガスに含まれる空気(酸素)の割合)が理論空燃比よりも大きいリーンな状態(排気の空気過剰率λがλ>1の状態)において排気中のNOxを吸蔵し、この吸蔵したNOxを、排気の空燃比が理論空燃比近傍である状態(λ≒1)あるいは理論空燃比よりも小さいリッチな状態(λ<1)、つまり、NOx触媒41を通過する排気が未燃のHCやCOを多量に含む還元雰囲気下において還元する。
【0047】
詳細には、NOx触媒41は、酸化還元剤としてのプラチナ(Pt)等の貴金属と、Ba(バリウム)等の塩基性物質からなりNOxを吸着する吸蔵材とを有している。排気の空燃比が理論空燃比よりも高いリーンな状態(λ>1)では、排気中のNOが酸化還元剤により酸化されて、NO2となり、その後、NO2が硝酸塩の形で吸蔵材に吸蔵される。例えば、吸蔵材がBaのときは、NOx触媒41は、Ba(NO3)2等の形でNOxを吸蔵する。一方、NOx触媒41にHCやCO等の還元剤が供給されると、硝酸塩が還元されてNO2が生成される。つまり、吸蔵材からNOxが離脱される。さらに、この離脱したNO2がHCやCOと反応することでNO2は還元されてN2となり、NOx触媒41から排出される。
【0048】
ここで、NOx触媒41に多量のHCが導入されたとき、吸蔵材に吸蔵されているNOxは主としてN2に変換されるが、NOxの一部(NOxに含まれるN(窒素)の一部)は排気中のHCと反応してNH3となる。そして、生成されたNH3すなわちアンモニアが、NOx触媒41から放出される。
【0049】
なお、本実施形態では、排気通路40に別途空気や燃料を供給する装置が設けられておらず、排気の空燃比と燃焼室6内の混合気の空燃比とは対応する。つまり、燃焼室6内の混合気の空燃比が理論空燃比よりも高いときは、排気の空燃比も理論空燃比よりも高くなり、燃焼室6内の混合気の空燃比が理論空燃比近傍あるいは理論空燃比よりも低いときは、排気の空燃比も理論空燃比近傍であるいは理論空燃比よりも低くなる。
【0050】
図2は、複合触媒装置148の一例であってこれを部分的に拡大して示した図である。複合触媒装置148は、例えば、コージェライト製のハニカム構造体からなる担体48aを含み、この担体48aに形成された貫通孔の壁面に、酸化触媒42が担持され、この酸化触媒42の表面にNOx触媒41とHC吸着材43とがコーティングされている。
【0051】
NOx触媒41には、NOxに加えてSOxも吸蔵(吸着)される。具体的には、排気の空燃比が理論空燃比よりも大きいリーンな状態(λ>1)において、排気中のSOxは、NOx触媒41に含まれる酸化還元剤により酸化されつつ、NOx触媒41の吸蔵材に吸蔵される。NOx触媒41に吸蔵されたSOxは、排気の空燃比が理論空燃比近傍である状態(λ≒1)あるいは理論空燃比よりも小さいリッチな状態(λ<1)において還元する。
【0052】
SCR触媒46とNOx触媒41とは、いずれもNOxを浄化可能であるが、これらは浄化率(NOx吸蔵率)が高くなる温度が互いに異なっており、SCR触媒46のNOx浄化率(NOx吸蔵率)は排気の温度が比較的高温のときに高くなり、NOx触媒41のNOx浄化率は排気の温度が比較的低温のときに高くなる。
【0053】
排気通路40には、第2タービン52bをバイパスする排気側バイパス通路48と、これを開閉する排気側バイパスバルブ49と、第1タービン51bをバイパスするウエストゲート通路53と、これを開閉するウエストゲートバルブ54とが設けられている。これら排気側バイパスバルブ49とウエストゲートバルブ54とは、それぞれ、駆動装置(不図示)によって全閉と全開の状態に切り替えられるとともに、これらの間の任意の開度に変更される。
【0054】
本実施形態によるエンジンシステム100は、排気の一部を吸気に還流させるEGR装置55を有する。EGR装置55は、排気通路40のうち排気側バイパス通路48の上流端よりも上流側の部分と、吸気通路20のうちスロットルバルブ23とサージタンク24との間の部分とを接続するEGR通路56と、これを開閉する第1EGRバルブ57と、EGR通路56を通過する排気を冷却するEGRクーラー58とを有する。また、EGR装置55は、EGRクーラー58をバイパスするEGRクーラバイパス通路59と、これを開閉する第2EGRバルブ60とを有する。
【0055】
(2)制御系
図3を用いて、エンジンシステムの制御系について説明する。本実施形態のエンジンシステム100は、主として、車両に搭載されたPCM(制御手段、パワートレイン制御モジュール)200によって制御される。PCM200は、CPU、ROM、RAM、I/F等から構成されるマイクロプロセッサである。
【0056】
PCM200には、各種センサからの情報が入力される。例えば、PCM200は、クランク軸7の回転数つまりエンジン回転数を検出する回転数センサSN1、エアクリーナ21付近に設けられて吸気通路20を流通する吸気(空気)の量である吸入空気量を検出するエアフローセンサSN2、サージタンク24に設けられてターボ過給機51、52によって過給された後のサージタンク24内の吸気の圧力つまり過給圧を検出する吸気圧センサSN3、排気通路40のうち第1ターボ過給機51と複合触媒装置148との間の部分の酸素濃度を検出する排気O2センサSN4、NOx触媒41の直上流側に設けられた第1排気温度センサSN5、SCR46の直上流側に設けられた第2排気温度センサSN6等と電気的に接続されており、これらのセンサSN1~SN6からの入力信号を受け付ける。また、車両には、運転者により操作されるアクセルペダル(不図示)の開度であるアクセル開度を検出するアクセル開度センサSN7や、車速を検出する車速センサSN8等が設けられており、これらのセンサSN7、SN8による検出信号もPCM200に入力される。PCM200は、各センサ(SN1~SN8等)からの入力信号に基づいて種々の演算等を実行して、インジェクタ10等を制御する。
【0057】
(2-1)通常制御
後述するDeNOx制御、DeSOx制御、吸着HC放出制御、およびDPF再生制御を実施しない通常運転時に実施する通常制御では、燃費性能を高めるべく、燃焼室6内の混合気の空燃比(以下、単に、混合気の空燃比という場合がある)が理論空燃比よりもリーンにされる。つまり、混合気の空気過剰率λがλ>1にされる。例えば、通常制御では、混合気の空気過剰率λはλ=1.7程度とされる。通常制御では、ポスト噴射は停止されてメイン噴射のみが実施される。
【0058】
通常制御では、PCM200は、まず、アクセル開度センサSN7で検出されたアクセル開度と回転数センサSN1で検出されたエンジン回転数等に基づいて、エンジンに要求されるトルクである要求エンジントルク(エンジン負荷)を算出する。次に、PCM200は、この要求エンジントルクとエンジン回転数等から、メイン噴射の噴射量の目標値である目標メイン噴射量を、要求エンジントルクが実現される量に設定する。そして、PCM200は、この目標メイン噴射量の燃料がメイン噴射によって燃焼室6内に噴射されるように、インジェクタ10を駆動する。
【0059】
通常制御では、グロープラグ11の作動は停止される。また、通常制御では、第1EGRバルブ57、第2EGRバルブ60、吸気側バイパスバルブ26、排気側バイパスバルブ49、ウエストゲートバルブ54は、それぞれ、エンジン本体1の運転状態、例えば、エンジン回転数とエンジン負荷等に応じて、EGRガスの量および過給圧がそれぞれ適切な値になるように制御される。
【0060】
(2-2)DeNOx制御
次に、NOx触媒41に吸蔵されたNOx(以下、適宜、吸蔵NOxという)をNOx触媒41から離脱および還元させて排出させてNOx触媒41を再生するための制御であるDeNOx制御について説明する。
【0061】
PCM200は、吸蔵NOxの量が予め設定された第1基準吸蔵NOx量以上になるという条件を含む条件が成立すると、DeNOx制御を実施する。
【0062】
本実施形態では、NOx触媒41を昇温しつつ、ポスト噴射を実施して混合気および排気の空燃比を理論空燃比近傍あるいはこれ以下に設定された空燃比まで低下させ、これによりNOx触媒41からNOxを還元しつつ排出させる。つまり、PCM200は、DeNOx制御として、インジェクタ10にメイン噴射に加えてポスト噴射を行わせて、排気の空燃比を、理論空燃比近傍あるいはこれよりも低い値に設定されたDeNOx制御空燃比であって、NOx触媒41においてNOxを還元および排出できる値にする。本実施形態では、DeNOx空燃比は、DeNOx空燃比を理論空燃比で割ることで得られる値(DeNOx空燃比/理論空燃比)であって、DeNOx空燃比に対応する空気過剰率λが0.96~1.04程度となる値に設定されている。つまり、DeNOx制御では、排気の空気過剰率λが0.96~1.04程度とされる。
【0063】
ここで、ポスト噴射が実施されると、NOx触媒41は昇温される。具体的には、後述するように、本実施形態では、燃料が燃焼室6内で燃焼するタイミングでポスト噴射を実施するアクティブDeNOx制御と、燃料が燃焼室6内で燃焼しないタイミングでポスト噴射を実施するパッシブDeNOx制御とを実施する。ポスト噴射された燃料を燃焼室6内で燃焼させると、NOx触媒41に流入する排気の温度は上昇し、これによりNOx触媒41は昇温される。また、ポスト噴射された燃料を燃焼室6内で燃焼させずに排出した場合には、この未燃燃料が酸化触媒42にて酸化することで排気の温度は高められ、これによりNOx触媒41は昇温される。
【0064】
このように、本実施形態では、ポスト噴射を実施するインジェクタ10およびインジェクタ10を制御するPCM200が、主として、NOx触媒41を昇温しつつ再生するNOx触媒再生手段として機能する。
【0065】
本実施形態では、DeNOx制御を、
図4に示す第1領域R1と第2領域R2とでのみ実施する。第1領域R1は、エンジン回転数が予め設定された第1基準回転数N1以上且つ予め設定された第2基準回転数N2(>N1)以下で、エンジン負荷が予め設定された第1基準負荷Tq1以上且つ予め設定された第2基準負荷Tq2(>Tq1)以下の領域である。第2領域R2は、第1領域R1よりもエンジン負荷が高い領域であって、エンジン負荷が予め設定された第3基準負荷Tq3(>Tq2)以上となる領域である。
【0066】
PCM200は、第1領域R1では、ポスト噴射された燃料が燃焼室6内で燃焼するタイミングでポスト噴射を実施するアクティブDeNOx制御を実施する。このポスト噴射の実施タイミングは予め設定されており、例えば、膨張行程の前半であって、圧縮上死点後30~70°CAの間の時期とされる。本実施形態では、アクティブDeNOx制御の実施時に、ポスト噴射された燃料の燃焼を促進するためにグロープラグ11を通電して混合気を加熱する。
【0067】
アクティブDeNOx制御では、ポスト噴射された燃料の燃焼を促進しつつこの燃焼によって生成される煤の量を少なく抑えるために、EGRガスを燃焼室6に導入しつつ第1EGRバルブ57および第2EGRバルブ60の開度を通常運転時よりも小さく(閉じ側に)する。つまり、これらEGRバルブ57、60の開度を、仮にアクティブDeNOx制御を実施しなかったとしたときの開度よりも小さくする。例えば、アクティブDeNOx制御では、第1EGRバルブ60は全閉とされ、第2EGRバルブ57は開弁されるもののその開度が通常運転時よりも小さくされる。
【0068】
一方、PCM200は、第2領域R2では、ポスト噴射された燃料が燃焼室6内で燃焼しないタイミングでポスト噴射を実施するパッシブDeNOx制御を実施する。このポスト噴射の実施タイミングは予め設定されており、例えば、膨張行程の後半であって、圧縮上死点後110°CA程度とされる。パッシブDeNOx制御では、未燃燃料に起因するデポジットによってEGRクーラー58等が閉塞するのを回避するべく、第1EGRバルブ57および第2EGRバルブ60は全閉にされる。
【0069】
アクティブDeNOx制御を第1領域R1で、パッシブDeNOx制御を第2領域R2で実施するのは、次の理由による。
【0070】
燃焼室6内で燃料が燃焼しないタイミングでポスト噴射を実施するパッシブDeNOx制御では、ポスト噴射された燃料が燃焼しないため、この燃料に起因する煤の発生は抑制されるが、未燃燃料に起因するデポジットが発生しやすい。また、未燃燃料がピストン5とシリンダブロック3との隙間からエンジンオイルに混入してオイル希釈が生じやすい。一方、燃焼室6内で燃料が燃焼するタイミングでポスト噴射を実施するアクティブDeNOx制御では、デポジットの発生やオイル希釈は抑制されるものの、煤が増大しやすい。
【0071】
ここで、エンジン負荷が非常に高いときはメイン噴射の噴射量が多く、メイン噴射のみによっても混合気の空燃比が比較的小さくされる。そのため、エンジン負荷が非常に高いときは、メイン噴射の実施のみによっても煤が生じやすい。従って、このときに、さらにポスト噴射に起因する煤が生じると、車両から排出される煤の量が過大になるおそれがある。また、エンジン負荷が非常に高いときは、前記のようにメイン噴射のみによっても混合気の空燃比が比較的小さく抑えられることで、混合気および排気の空燃比を理論空燃比近傍(または理論空燃比よりも低い値)まで低下させるのに必要なポスト噴射の噴射量は少なく抑えられる。そのため、ポスト噴射を燃焼室6内で燃料が燃焼しないタイミングで実施しても、発生するデポジットの量およびエンジンオイルに混入する燃料の量を少なくすることができる。
【0072】
これより、本実施形態では、エンジン負荷が非常に高い第2領域では、パッシブDeNOx制御を実施する。
【0073】
一方、エンジン負荷が比較的低いときは、前記のエンジン負荷が非常に高いときとは反対に、メイン噴射の実施のみでは煤が生じ難い。また、混合気および排気の空燃比を理論空燃比近傍(または理論空燃比よりも低い値)まで低下させるのに必要なポスト噴射の噴射量が多くなりやすく、ポスト噴射を燃焼室6内で燃料が燃焼しないタイミングで実施すると、発生するデポジットの量およびエンジンオイルに混入する燃料の量が多くなりやすい。
【0074】
これより、本実施形態では、エンジン負荷が低い領域では、アクティブDeNOx制御を実施する。
【0075】
ただし、エンジン負荷が非常に低い、あるいは、エンジン回転数が低い領域では、排気の温度が低いことに伴ってNOx触媒41の温度が吸蔵NOxを還元できる温度よりも低くなりやすい。また、エンジン負荷が第2領域R2よりは低いが十分に低くない場合、および、エンジン負荷は低いがエンジン回転数が高いために燃料と空気の混合が不十分になって煤が生じやすい場合は、ポスト噴射を燃料が燃焼室6で燃焼するタイミングで実施すると煤が比較的多くなり、ポスト噴射を燃料が燃焼室6で燃焼しないタイミングで実施するとデポジットの量およびエンジンオイルに混入する量が比較的多くなる。
【0076】
これより、本実施形態では、第2領域R2よりもエンジン負荷が低い領域のうち、エンジン負荷およびエンジン回転数のいずれもが低すぎず且つ高すぎない第1領域R1でのみ、アクティブDeNOx制御を実施する。
【0077】
図5のフローチャートを用いて、DeNOx制御の流れを説明する。
【0078】
まず、PCM200は、ステップS10にて、車両における各種情報を読み込む。PCM200は、少なくとも、NOx触媒41の温度であるNOx触媒温度、SCR触媒46の温度であるSCR温度、NOx触媒41に吸蔵されているNOxの量であるNOx吸蔵量を読み込む。NOx触媒温度は、例えば、第1排気温度センサSN5の検出値に基づいて推定される。なお、これに代えて、NOx触媒41とDPF44の間に温度センサを設け、この温度センサの検出値に基づいてNOx触媒温度を推定してもよい。また、SCR温度は、第2排気温度センサSN6の検出値に基づいて推定される。また、NOx吸蔵量は、エンジン回転数、エンジン負荷、排気の流量および排気の温度等に基づいて排気中のNOx量が推定されて、このNOx量が積算されていくことで推定される。
【0079】
次に、PCM200は、ステップS11にて、SCR温度が予め設定されたSCR判定温度未満か否かを判定する。SCR判定温度は、SCR触媒46がNOxを浄化可能なSCR触媒41の温度の下限値である。
【0080】
ステップS11の判定がNOであってSCR温度がSCR判定温度以上のときは、SCR触媒46でNOxを浄化させればよいので、PCM200は、DeNOx制御を実施せずに処理を終了する(ステップS10に戻る)。
【0081】
一方、ステップS11の判定がYESであってSCR温度がSCR判定温度未満のときは、ステップS12に進む。ステップS12では、PCM200は、NOx触媒温度が予め設定されたNOx触媒判定温度以上であるか否かを判定する。NOx触媒判定温度は、NOx触媒41がNOxを還元可能(NOx触媒41からNOxが離脱可能)なNOx触媒41の温度の下限値である。
【0082】
ステップS12の判定がNOであってNOx触媒温度がNOx触媒判定温度未満のときは、DeNOx制御を実施してもNOxを還元できない。従って、ステップS12の判定がNOのときは、DeNOx制御を実施せずに処理を終了する(ステップS10に戻る)。
【0083】
一方、ステップS12の判定がYESであってNOx触媒温度がNOx触媒判定温度以上のときは、ステップS13に進む。
【0084】
ステップS13では、PCM200は、第1領域R1でエンジンが運転されており、且つ、NOx触媒41のNOx吸蔵量が予め設定された第1吸蔵量判定値以上であるという条件が成立しているか否かを判定する。本実施形態では、第1吸蔵量判定値は、NOx触媒41が吸蔵可能なNOxの量の最大値付近の値(例えば、最大値の2/3程度の値)に設定されている。なお、この第1吸蔵量判定値は、アクティブDeNOx制御が前回実施されてからの走行距離等に応じて変更されてもよい。
【0085】
ステップS13の判定がYESであって、第1領域R1でエンジンが運転されており、且つ、NOx触媒41のNOx吸蔵量が第1吸蔵量判定値以上のときは、PCM200は、ステップS14に進み、アクティブDeNOx制御を実施する。
【0086】
ステップS14の後は、ステップS15に進み、PCM200は、NOx触媒41のNOx吸蔵量が予め設定された第2吸蔵量判定値以下になったか否かを判定する。第2吸蔵量判定値は、第1吸蔵量判定値よりも小さい値に設定されており、例えば0付近の値とされている。
【0087】
ステップS15の判定がNOであってNOx触媒41のNOx吸蔵量が第2吸蔵量判定値よりも大きいときは、ステップ14に戻る。一方、ステップS15の判定がYESであってNOx触媒41のNOx吸蔵量が第2吸蔵量判定値以下になると、処理を終了する(アクティブDeNOx制御を停止し、ステップS10に戻る)。つまり、本実施形態では、アクティブDeNOx制御は、基本的に、NOx触媒41のNOx吸蔵量が第2吸蔵量判定値以下の値に低下するまで継続して実施される。ただし、図示は省略したが、NOx触媒41のNOx吸蔵量がまだ第2吸蔵量判定値以下の値に低下していないときであっても、ステップS11の判定がNOになる、あるいは、ステップS12の判定がNOになると、アクティブDeNOx制御は停止される。また、エンジンの運転領域が第1領域R1を外れたときも、アクティブDeNOx制御は停止される。
【0088】
ステップS13に戻り、ステップS13の判定がNOであって、第1領域R1でエンジンが運転されていない、あるいは、NOx触媒41のNOx吸蔵量が第1吸蔵量判定値未満であるときは、ステップS16に進む。
【0089】
ステップS16では、PCM200は、第2領域R2でエンジンが運転されており、且つ、NOx触媒41のNOx吸蔵量が予め設定された第3吸蔵量判定値以上であるという条件が成立しているか否かを判定する。第3吸蔵量判定値は、第1吸蔵量判定値よりも小さい値に設定されている。例えば、第3吸蔵量判定値は、NOx触媒41が吸蔵可能なNOxの量の最大値の1/3程度の値に設定されている。
【0090】
ステップS16の判定がYESであって、第2領域R2でエンジンが運転されており、且つ、NOx触媒41のNOx吸蔵量が第3吸蔵量判定値以上のときは、PCM200は、ステップS17に進み、パッシブDeNOx制御を実施する。なお、この例に代えて、ステップS16の判定がYESであっても、パッシブDeNOx制御の実行頻度が高いときにはパッシブDeNOx制御を実施しないように構成してもよい。また、ステップS16の判定がYESであっても、ポスト噴射の噴射量が所定量未満と少なくなってポスト噴射の実施によるNOxの還元効果が少ないとわかっているときは(ポスト噴射の実施によるオイル希釈の問題の方が大きくなるときは)、パッシブDeNOx制御を実施しないように構成してもよい。
【0091】
ステップS17の後は、ステップS18に進み、PCM200は、NOx触媒41のNOx吸蔵量が予め設定された第4吸蔵量判定値以下になったか否かを判定する。第4吸蔵量判定値は、第3吸蔵量判定値よりも小さい値に設定されており、例えば0付近の値とされている。
【0092】
ステップS18の判定がNOであってNOx触媒41のNOx吸蔵量が第4吸蔵量判定値よりも大きいときは、ステップ17に戻る。一方、ステップS18の判定がYESであってNOx触媒41のNOx吸蔵量が第4吸蔵量判定値以下になると、処理を終了する(パッシブDeNOx制御を停止し、ステップS10に戻る)。つまり、本実施形態では、パッシブDeNOx制御は、基本的に、NOx触媒41のNOx吸蔵量が第4吸蔵量判定値以下の値に低下するまで継続して実施される。ただし、図示は省略したが、NOx触媒41のNOx吸蔵量がまだ第4吸蔵量判定値以下の値に低下していないときであっても、ステップS11の判定がNOになる、あるいは、ステップS12の判定がNOになると、パッシブDeNOx制御は停止される。また、エンジンの運転領域が第2領域R2を外れたときも、パッシブDeNOx制御は停止される。
【0093】
一方、ステップS16の判定がNOであって、第2領域R2でエンジンが運転されていない、あるいは、NOx触媒41のNOx吸蔵量が第3吸蔵量判定値未満のときは、DeNOx制御を実施せずに処理を終了する(ステップS10に戻る)。
【0094】
(2-3)DeSOx制御
NOx触媒41に吸蔵されたSOx(以下、適宜、吸蔵SOxという)を還元して除去するための制御であるDeSOx制御について次に説明する。
【0095】
吸蔵SOxは、前記のように、排気の空燃比が理論空燃比近傍である状態(λ≒1)あるいは理論空燃比よりも小さいリッチな状態(λ<1)において還元される。これに伴い、DeSOx制御でも、混合気の空燃比を理論空燃比近傍である状態(λ≒1)あるいは理論空燃比よりも小さいリッチな状態(λ<1)にするべく、メイン噴射に加えてポスト噴射を実施する。
【0096】
ただし、SOxはNOxに比べて結合力が強いため、吸蔵SOxを還元するためには、DeNOx制御時よりもNOx触媒41の温度をより高温(600℃程度)にする必要がある。
【0097】
そこで、本実施形態では、DeSOx制御として、
図6に示すように、DeNOx制御と同様にポスト噴射を行って排気の空燃比を理論空燃比近傍あるいはこれよりも小さくするリッチステップS_rと、排気の空燃比を理論空燃比よりもリーンとしつつポスト噴射を行って酸化触媒42に空気と未燃の燃料とを供給してこれらを酸化触媒42で酸化させるリーンステップS_lとを、交互に実施し、酸化触媒42での酸化反応によってNOx触媒41の温度を高温にしながらNOx触媒41内の空燃比を理論空燃比近傍あるいはこれよりも小さくする。
図6は、DeSOx制御実施時のポスト噴射量の時間変化、および、排気の空気過剰率の時間変化を模式的に示した図である。
【0098】
リッチステップS_rでは、アクティブDeNOx制御と同様に、ポスト噴射された燃料が燃焼室6内で燃焼するタイミング(膨張行程の前半であって、例えば、圧縮上死点後30~70°CA)でポスト噴射を実施する。また、本実施形態では、リッチステップD_rにおいて、排気の空気過剰率λをλ=0.94~1.06程度とする。
図6の例ではリッチステップS_rにて排気の空燃比を理論空燃比(空気過剰率λ=1)としている。このとき、スロットルバルブ23、排気側バイパスバルブ49およびウエストゲートバルブ54は、それぞれ、吸入空気量が通常運転時よりも減少するように制御される。また、リッチステップS_rでは、第1EGRバルブ57を全閉にする一方、第2EGRバルブ60を開弁させ且つ第2EGRバルブ60の開度を通常運転時よりも小さくする。
【0099】
一方、リーンステップS_lでは、ポスト噴射された燃料が燃焼室6内で燃焼しないタイミング(膨張行程の後半であって、例えば、圧縮上死点後110°CA)でポスト噴射を実施する。また、本実施形態では、リーンステップS_lにおいて、排気の空気過剰率λをλ=1.2~1.4程度とする。なお、リーンステップS_lでは、第1EGRバルブ57および第2EGRバルブ60を全閉にする。このリーンステップS_lにより、ポスト噴射された燃料を酸化触媒で反応させて、NOx触媒41の温度をSOxを脱離可能な温度に維持できる。
【0100】
なお、DeSOx制御は、NOx触媒温度がNOx触媒判定温度以上のときに実施される。
【0101】
このように、本実施形態では、ポスト噴射の実施によってNOx触媒41からSOxを離脱させるように構成されており、ポスト噴射を実施するインジェクタ10およびインジェクタ10を制御するPCM200が、主として、NOx触媒41を昇温させてNOx触媒41に吸蔵されたSOxをNOx触媒41から離脱させるS被毒解消手段として機能する。
【0102】
(2-4)吸着HC放出制御
ここで、仮にDeNOx制御またはDeSOx制御の実施時にHC吸着材43からHCが多量に放出されると、DeNOx制御またはDeSOx制御によって昇温されたNOx触媒41が、放出されたHCの酸化触媒42での酸化反応によって、さらに昇温されてしまう。特に、本実施形態では、酸化触媒42、HC吸着材43およびNOx触媒41は、共通の担体43aに担持されているため、HCの酸化触媒42での酸化反応によってNOx触媒41が過度に昇温されやすい。
【0103】
NOx触媒41の温度が過剰に高くなると、NOx触媒41のNOx浄化性能およびSOx浄化性能(NOxやSOxを吸蔵し且つ吸蔵したこれらNOxやSOxを還元して排出する性能)が低下する。具体的には、温度が過剰に高くなると、NOx触媒41に含まれるBa(バリウム)等の金属触媒の粒子が焼結するシンタリングが生じ、金属触媒の活性が低下してしまう。
【0104】
そこで、本実施形態では、DeNOx制御またはDeSOx制御の実施時に、HC吸着材43に吸着されているHCの量が少なく抑えられているように、HC吸着材43に吸着されているHCの量が放出基準量以上になると、HC吸着材43から強制的にHCを放出させる吸着HC放出制御を実施する。
【0105】
本実施形態では、吸着HC放出制御として、膨張行程の前半(圧縮上死点から圧縮上死点後90°CAまでの間)にポスト噴射を実施して、噴射された燃料を燃焼室6で燃焼させるという制御を行う。このようにポスト噴射を実施すれば、排気の温度を高めることができる。そして、排気の温度が高くなると排気が導入されるHC吸着材43の温度も高くなり、HC吸着材43からHCが放出されていく。
【0106】
図7は、吸着HC放出制御の流れを示したフローチャートであり、この図を用いて吸着HC放出制御の詳細を説明する。
【0107】
まず、ステップS20にて、PCM200は、車両における各種情報を読み込む。PCM200は、少なくとも、NOx触媒温度および車速を読み込む。
【0108】
次に、ステップS21にて、PCM200は、HC吸着材43に吸着されているHCである吸着HCの量(以下、吸着HC量という)を推定する。吸着HC量は、例えば、特開2015-068280号公報に開示されている手順によって推定することができる。
【0109】
具体的には、PCM200は、エンジンの運転状態(エンジン負荷とエンジン回転数)に基づいて、燃焼室6から排気通路40に排出される単位時間あたりのHCの量であるHC排出量を推定する。また、PCM200は、排気の状態(排気の温度、排気の圧力、排気流量)に基づいて、HC吸着材43が、供給されたHCの総量に対して実際に吸着できるHCの量の割合である吸着可能率を算出する。そして、PCM200は、HC排出量と吸着可能率とから、HC吸着材43が実際に吸着できたと考えられる単位時間あたりのHCの量を算出し、この算出値を積算することで、吸着HC量を推定する。
【0110】
次に、ステップS22にて、PCM200は、放出基準量(基準量)を設定する。放出基準量は、HC吸着材43が吸着可能なHCの最大量(最大吸着量)よりも小さい量であって、この最大量の2/3程度の量よりも小さい量に設定されている。本実施形態では、放出基準量は、
図8に示すように、NOx触媒温度が高いときの方が小さい値となるように設定される。具体的には、NOx触媒温度が所定温度T_NOx1未満では放出基準量はNOx触媒温度によらず一定値とされる。例えば、NOx触媒温度が所定温度T_NOx1未満では放出基準量は前記の最大吸着量の2/3程度とされる。また、放出基準量は、車両の走行に伴ってNOx触媒41の温度がとりうる最大の温度において、前記の最大吸着量の1/3程度の量あるいは1/3よりも小さい量となるように設定されている。そして、NOx触媒温度が所定温度T_NOx1以上では、放出基準量はNOx触媒温度に比例して小さい値とされる。
【0111】
PCM200には、NOx触媒温度と放出基準量との関係がマップで記憶されており、PCM200は、現時点でのNOx触媒温度に対応する値をこのマップから抽出する。
【0112】
ステップS22の後は、ステップS23に進む。ステップS23では、PCM200は、ステップS21で推定した吸着HC量が、ステップS22で設定した放出基準量以上であるか否かを判定する。
【0113】
ステップS23の判定がNOであって吸着HC量が放出基準量未満の場合は、PCM200は、処理を終了する(ステップS20に戻る)。
【0114】
一方、ステップS23の判定がYESであって推定した吸着HC量が放出基準量以上の場合は、PCM200は、ステップS24に進む。
【0115】
ステップS24では、PCM200は、車速が予め設定された判定車速より高い、且つ、メイン噴射が実施される、という条件が成立しているか否かを判定する。判定車速は、例えば、0あるいは0付近の値に設定されている。
【0116】
ステップS24の判定がNOであって、車速が判定車速未満であって停車あるいはほぼ停車しているとき、あるいは、メイン噴射が停止されるとき(いわゆる燃料カット時)は、そのまま処理を終了する(ステップS20に戻る)。
【0117】
一方、ステップS24の判定がYESであって、車速が判定車速より高く、且つ、メイン噴射が実施されるときは、ステップS25に進む。
【0118】
ステップS25では、PCM200は、ポスト噴射を実施する。また、PCM200は、このポスト噴射を、ポスト噴射によって燃焼室6に噴射された燃料が燃焼室6内で燃焼するタイミングで実施する。
【0119】
ステップS25の後は、ステップS26に進む。ステップS26では、吸着HC量が予め設定された終了基準量未満であるか否かを判定する。終了基準量は放出基準量よりも小さい値に設定されている。例えば、終了基準量は0付近の値に設定されている。
【0120】
ステップS26の判定がYESであって吸着HC量が終了基準量まで低下していれば、処理を終了する(ステップS20に戻る)。一方、ステップS26の判定がNOであって吸着HC量が終了基準量まで低下していなければ、ステップS24に戻る。
【0121】
このように、本実施形態では、吸着HC放出制御として、燃料が燃焼するタイミングでポスト噴射を実施する制御を行う。また、吸着HC放出制御(ポスト噴射の実施)は、吸着HC量が放出基準量以上になることでその開始が許可され、吸着HC量が終了基準量未満になるまで継続して実施される。ただし、吸着HC放出制御は、車速が判定車速以上、且つ、メイン噴射が実施されているときにのみ実施されるようになっており、車速が判定車速未満、あるいは、メイン噴射が停止すると、吸着HC放出制御は中断される。なお、本実施形態では、吸着HC放出制御の実施時であって吸着HC量が終了基準量未満に低下していないときであっても、DeNOx制御あるいはDeSOx制御を実施する要求があれば、DeNOx制御あるいはDeSOx制御を優先して実施する。
【0122】
このように、本実施形態では、吸着HC量が判定基準量以上か否かをPCM200が判定し、この判定がYESになるとPCM200がインジェクタ10にポスト噴射を実施させ、これによりHC吸着材43を昇温するように構成されており、ポスト噴射を実施するインジェクタ10およびPCM200が、主として、HC吸着材43に吸着されたHCである吸着HCの量が判定基準量以上であるか否かを判定するとともに、吸着HCの量が判定基準量以上になったと判定すると複合触媒装置(第1浄化触媒)48を昇温するHC制御手段として機能する。
【0123】
ここで、吸着HC放出制御の実施によってHC吸着材43から放出されたHCは酸化触媒42にて酸化反応し、浄化された状態で排出される。一方、このHCの酸化反応によって排気の温度は高められる。また、吸着HC放出制御を実施すると前記のようにHC吸着材43は昇温される。そのため、吸着HC放出制御の実施に伴ってNOx触媒41の温度が高くなりNOx触媒41からNOxが離脱するおそれがあるが、本実施形態では、前記のように、複合触媒装置148の下流側にSCR触媒46が設けられているため、NOx触媒41から離脱したNOxをSCR触媒46にて浄化することができる。
【0124】
(2-5)DPF再生制御
DPF44に捕集されたPMを除去してDPF44の浄化能力を再生するための制御であるDPF再生制御について簡単に説明する。
【0125】
DPF再生制御は、酸化触媒42の温度が酸化反応が可能な温度であり、且つ、DPF44に捕集されているPMの量が所定値以上になると開始されてこのPMの量が所定値以下になると停止される。DPF再生制御では、混合気の空燃比を理論空燃比よりも高くしつつ、ポスト噴射を、噴射された燃料が燃焼室6で燃焼しないタイミングで実施する。これにより、酸化触媒42での未燃燃料と空気との酸化反応量が増大されて排気の温度ひいてはDPF44の温度が高められ、DPF44に捕集されているPMが燃焼除去される。
【0126】
(3)作用等
以上のように、本実施形態では、排気通路40に低温時にHCを吸着し高温時にHCを放出するHC吸着材43が設けられている。そのため、エンジンの冷間始動時に、エンジン本体1から排出されるHCをHC吸着材43で吸着することができ、HCの排気通路40の外部への排出を抑制できる。また、排気通路40に、酸化触媒42およびNOx触媒41が設けられており、HC、CO、NOxの排気通路40の外部への排出も抑制できる。
【0127】
また、HC吸着材43がNOx触媒41および酸化触媒42と一体に設けられており、これらをコンパクトに排気通路40に配置することができる。
【0128】
また、DeNOx制御およびDeSOx制御が実施されるため、NOx触媒41の浄化性能を高く維持することができる。
【0129】
しかも、本実施形態では、HC吸着材43に吸着されているHCの量すなわち吸着HCの量が予め設定された放出基準量以上であるか否かが判定され、吸着HCの量が放出基準量以上になったと判定されると、吸着HC放出制御が実施されて、ポスト噴射が、その噴射燃料が燃焼室6内で燃焼するように実施される。そして、これにより、HC吸着材43が昇温される。そのため、HC吸着材43に吸着されているHCの量をほぼ常に少ない量(少なくとも放出基準量よりも少ない量)に維持することができ、DeNOx制御またはDeSOx制御の実施時に、HC吸着材43から多量のHCが放出されるのを抑制できる。従って、DeNOx制御またはDeSOx制御の実施時にHC吸着材43から多量のHCが放出されることで、NOx触媒41がシンタリングしてその浄化性能が悪化するのを抑制できる。
【0130】
特に、本実施形態では、吸着HCの量が放出基準量よりも小さい0付近の値等に設定された終了基準量に低下するまで、このポスト噴射が基本的に継続して実施される。そのため、DeNOx制御またはDeSOx制御の実施時点での吸着HC量をより確実に少なく抑えることができる。
【0131】
また、本実施形態では、放出基準量が、NOx触媒41の温度が高いときの方が低いときよりも小さい値とされる。そのため、NOx触媒41の温度が高く、シンタリングが生じる温度までの余裕が少ないときには、比較的少量のHCがHC吸着材に溜まった時点でHC吸着材43からHCが放出される。従って、HC吸着材43に吸着されたHCの酸化反応に起因するNOx触媒41のさらなる昇温量を小さく抑えることができ、シンタリングの発生をより確実に防止できる。一方で、NOx触媒41の温度が低いときには、HC吸着材43に比較的多量のHCが溜まるまでHC吸着材43が昇温されない。そのため、HC吸着材43を昇温するためにポスト噴射を実施する機会を少なく抑えることができ、燃費性能の悪化を抑制できる。
【0132】
また、本実施形態では、HC吸着材43を含む複合触媒装置148の下流側にSCR触媒46が設けられている。そのため、吸着HC放出制御の実施によってHC吸着材43が昇温され、これに伴ってNOx触媒41が昇温してNOx触媒41からNOxが離脱した場合であっても、SCR触媒46によってこのNOxを浄化することができる。従って、NOxの排気通路40の外部への排出をより確実に防止できる。
【0133】
(4)変形例
前記実施形態では、排気通路40の複合触媒装置148の下流側にSCR触媒46を設けた場合について説明したが、SCR触媒46は省略可能である。ただし、SCR触媒46を設けておけば、前記のように、複合触媒装置148のNOx触媒41からNOxが放出されても、これをSCR触媒46で浄化することができる。
【0134】
また、前記放出基準量は、燃焼室6から排出されるNOx(いわゆるLow NOx)が多いほど大きい値となるように設定されてもよい。具体的には、燃焼室6から排出されるNOxを、エンジンの運転状態(エンジン負荷とエンジン回転数等)から推定し、このNOxの排出量が多いほど放出基準量が小さくなるように放出基準量を補正する。このようにすれば、燃焼室6から排出されるNOxの量が多い運転状態でDeNOx制御やDeSOx制御が実施されたときにNOx触媒41の温度上昇を効果的に抑制して、NOx触媒41の劣化を確実に抑制できる。具体的には、DeNOx制御やDeSOx制御の実施時には、NOx触媒41において、燃焼室6から排出されたNOxと未燃燃料とが反応してアンモニアが生成されて、このアンモニアが酸化触媒42の作用等を受けて酸化反応する場合があり、この反応熱によってもNOx触媒41は昇温される。そのため、前記のように、燃焼室6から排出されるNOxの量が多い運転状態において放出基準量を小さくしてHC吸着材43に吸着されているHCの量を少なく抑えておけば、この運転状態においてDeNOx制御やDeSOx制御が実施されたときに、HCの酸化反応と前記のアンモニアの酸化反応とによってNOx触媒41の温度が過度に高くなるのを防止することができる。
【0135】
また、前記実施形態では、NOx触媒41、酸化触媒42、HC吸着材43が全て同じ担体48aに担持されている場合について説明したが、これらをそれぞれ異なる担体48aに担持させてもよい。
【符号の説明】
【0136】
1 エンジン本体
10 インジェクタ(燃料噴射手段)
41 NOx触媒
42 酸化触媒
43 HC吸着材
47 SCR触媒
48 複合触媒装置(第1浄化触媒、第2浄化触媒)
48a 担体
200 PCM