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特許7095310Sm-Fe-N系磁石材料及びSm-Fe-N系ボンド磁石
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】Sm-Fe-N系磁石材料及びSm-Fe-N系ボンド磁石
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/059 20060101AFI20220628BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20220628BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20220628BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20220628BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
H01F1/059 160
H01F41/02 G
B22F1/00 Y
B22F3/00 C
C22C38/00 303D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018034276
(22)【出願日】2018-02-28
(65)【公開番号】P2019149498
(43)【公開日】2019-09-05
【審査請求日】2020-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂崎 巌
【審査官】森岡 俊行
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-167915(JP,A)
【文献】特開2002-057017(JP,A)
【文献】特表2016-526298(JP,A)
【文献】特開2018-46222(JP,A)
【文献】特開平4-354105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/059
H01F 41/02
B22F 1/00
B22F 3/00
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Smを7.0~12原子%、
Hf及びZrから成る群から選ばれる1種又は2種の元素を0.1~1.5原子%、
Cを0.06~0.5原子%、
Nを10~20原子%、
Coを0~35原子%、
含有し、
残部がFeである
ことを特徴とするSm-Fe-N系磁石材料。
【請求項2】
前記Cを0.06~0.09原子%含有することを特徴とする請求項1に記載のSm-Fe-N系磁石材料。
【請求項3】
着磁後に120℃の温度に1時間保持したうえで室温まで冷却したときの百分率で表した減磁率から、着磁後に120℃の温度に2000時間保持したうえで室温まで冷却したときの百分率で表した減磁率を減じて得られる値の絶対値が1.8~2.2であることを特徴とする請求項1又は2に記載のSm-Fe-N系磁石材料。
【請求項4】
さらに、Alを0.1~0.5原子%含有することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のSm-Fe-N系磁石材料。
【請求項5】
さらに、Siを0.15~0.5原子%含有することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のSm-Fe-N系磁石材料。
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載のSm-Fe-N系磁石材料の粉末とバインダから成ることを特徴とするSm-Fe-N系ボンド磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Sm-Fe-N(サマリウム-鉄-窒素)系磁石、及び、小型、薄肉、あるいは複雑な形状であることを要する用途に好適に用いられる等方性のSm-Fe-N系ボンド磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、強力な磁力(最大エネルギー積)を要する用途向けの永久磁石には、主にNd-Fe-B(ネオジム-鉄-硼素)系磁石が用いられているが、Nd-Fe-B系磁石を凌ぐ特性を有する磁石として、Sm、Fe、及びNから成るSm-Fe-N系磁石が知られている(特許文献1、非特許文献1)。ここでFeの一部はCo(コバルト)で置換されていてもよい。Sm-Fe-N系磁石は、Nd-Fe-B系磁石と同程度の飽和磁気分極を有し、且つ、Nd-Fe-B系磁石よりも異方性磁界及びキュリー温度が高いうえに、酸化し難く錆が生じ難いという特長を有する。
【0003】
一般に、焼結磁石或いはボンド磁石の原料として使用される粉末は、磁気的には等方性磁石粉末と異方性磁石粉末に分類される。ここで等方性磁石粉末とは、個々の粉末粒子が多数の微細な結晶粒で構成されており、且つ、それぞれの結晶粒の磁化容易方向が無秩序になっているものをいう。一方、異方性磁石粉末とは、個々の粉末粒子が1つの単結晶になっているか、個々の粉末粒子が多数の微細な結晶粒で構成されていたとしても、それぞれの結晶粒の磁化容易方向が特定の方向に揃っているものをいう。Sm-Fe-N系の粉末には、主に、準安定でありTbCu7型と呼ばれる六方晶の結晶構造が主相である等方性粉末(例えば特許文献2)と、安定相でありTh2Zn17型と呼ばれる菱面体晶の結晶構造が主相である異方性粉末がある。等方性粉末は液体急冷法等により得られる。
【0004】
Sm-Fe-N系磁石を構成する結晶は、温度が約500℃を超えると分解してしまう。そのため、Sm-Fe-N系磁石は、製造時に1000℃前後の温度まで昇温する必要がある焼結磁石にすることができず、ボンド磁石として用いられている。一般にボンド磁石は、磁石粉末とバインダを混合したコンパウンドを圧縮成形機や射出成形機等で成形することにより製造される。このため、磁束密度の大きさはバインダや空隙が存在する分だけ焼結磁石より劣るものの、小型、薄肉、あるいは複雑な形状のものを容易に得ることができるという特長を有する。また、TbCu7型の等方性磁石粉末から作製される等方性のSm-Fe-N系ボンド磁石は、Th2Zn17型の異方性磁石粉末から作製される異方性のSm-Fe-N系ボンド磁石と比較すると、最大エネルギー積は小さいものの、成形時に磁場を印加する必要がないため、生産性が高く、また、着磁パターンの自由度が高いという利点がある。このような等方性のボンド磁石の特長と上述のSm-Fe-N系磁石の特長(キュリー温度が高いうえに、酸化し難く錆が生じ難いこと)を利用して、等方性のSm-Fe-N系ボンド磁石は、厳しい環境下で使用される自動車向けのモータ等に使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-057017号公報
【文献】特表2013-531359号公報
【文献】特開平06-172936号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】大松澤 亮、村重 公敏、入山 恭彦 著、「超急冷法により作製したSmFeNの構造と磁気特性」、電気製鋼、大同特殊鋼株式会社発行、第73巻第4号第235~242頁、2002年10月発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
Sm-Fe-N系等方性(TbCu7型)磁石の粉末は、前述のように液体急冷法を用いて作製することができる。この液体急冷法では、Sm-Fe系粉末の原料を加熱溶解して得られる溶融合金を噴射ノズルから、回転する冷却体に噴射して急冷することによりSm-Fe系粉末を作製する。このSm-Fe系粉末を窒化することにより、Sm-Fe-N系等方性磁石粉末が得られる。ここで、得られるSm-Fe-N系等方性磁石粉末の結晶粒径が小さい方が、交換相互作用の効果により高い最大エネルギー積(BH)maxが得られることから、より急速に冷却することが求められる。また、より急速に冷却するためには、噴射ノズルの孔から噴射する溶湯の流量を抑える必要があり、孔径は小さい方が望ましい。実際には、例えば、内径が2mm以下の噴射ノズルが用いられている。このように内径が小さい噴射ノズルを用いると、溶湯中に例えば酸化サマリウム(Sm2O3)等の微小な介在物が僅かに存在しても噴射ノズルが閉塞してしまい、歩留が低下するという問題が生じていた。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、製造時の歩留が高いSm-Fe-N系磁石材料、及び該Sm-Fe-N系磁石材料を用いたSm-Fe-N系ボンド磁石を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係るSm-Fe-N系磁石材料は、
Smを7.0~12原子%、
Hf及びZrから成る群から選ばれる1種又は2種の元素を0.1~1.5原子%、
Cを0.05~0.5原子%、
Nを10~20原子%、
Coを0~35原子%(従って、Coを含有しなくてもよい)、
含有し、
残部がFeである
ことを特徴とする。
【0010】
本発明に係るSm-Fe-N系磁石材料は、Sm-Fe-N系磁石を構成する元素であるSm、Fe、Co(前述の通り、Feの一部を置換する元素)及びNに加えて、Hf及びZrから成る群から選ばれる1種又は2種の元素、並びにC(炭素)を含有する。このうちHf及びZrは、それらを含有させることによってTbCu7型構造を有する相の割合を増加させることができる元素として知られている(例えば特許文献3参照)。本発明では、Sm-Fe-N系磁石材料にCを0.05~0.5原子%含有させることで、以下の理由により、合金粉末作製時に噴射ノズルが閉塞し難くなり、それにより歩留を高くすることができる。
【0011】
前述のように、窒化する前のSm-Fe系粉末を液体急冷法で製造する際には、Sm-Fe系原料を加熱溶解し、その溶湯を噴射ノズルから、回転する冷却体に噴射することで急冷するが、その際に溶湯中に酸化サマリウム(Sm2O3)等の微小な介在物が噴射ノズルの小さな孔(例えば直径2mm)の内部に堆積して噴射ノズルを閉塞させ、歩留低下の原因となっていた。本発明者は、Cを添加することによって、このような介在物による噴射ノズルの閉塞を抑制し、歩留が向上することを見出した。このように噴射ノズルの閉塞が抑制される原理は、Cの添加によって溶融合金の表面張力が減少し、それにより溶湯内でSm2O3等の微小な介在物が凝集し難く且つ分散し易くなることで、噴射ノズルの孔内またはその付近に介在物が堆積することが抑制されることによると推定される。以上のように、C添加によって、Sm2O3等の微小な介在物による噴射ノズルの閉塞を抑制し、それにより、高い歩留でSm-Fe-N系磁石材料を製造することができる。
【0012】
上記の効果に加えて、Cは、溶湯中で脱酸をする効果も奏する。
【0013】
Sm-Fe-N系磁石材料中のCの含有率が低過ぎると、製造時に、介在物が凝集し難くなる効果を奏するほどに溶湯の表面張力を小さくすることができない。そのため、本発明に係るSm-Fe-N系磁石材料では、Cの含有率は0.05原子%以上とする。
【0014】
一方、Sm-Fe-N系磁石材料中のCの含有率が高過ぎると、残留磁束密度や最大エネルギー積等の磁気特性が低下する原因となる。そのため、本発明に係るSm-Fe-N系磁石材料では、Cの含有率は0.5原子%以下とする。
【0015】
本発明に係るSm-Fe-N系磁石材料はさらに、Alを0.1~0.5原子%含有することが望ましい。これにより、高温(例えば、自動車用モータの使用中に到達し得る200℃程度の温度)の環境下において磁束密度の低下(熱減磁)を抑えて安定化し、高温環境下で長時間使用するのに適した磁石が得られる。なお、本発明に係るSm-Fe-N系磁石材料は、積極的にはAlを添加しない場合であっても、Alを不可避的不純物として0.1原子%未満含有していてもよい。
【0016】
また、本発明に係るSm-Fe-N系磁石材料はさらに、Siを0.15~0.5原子%含有することが望ましい。これにより、Alを0.1~0.5原子%含有する場合と同様に、高温の環境下において熱減磁を抑えて安定化し、高温環境下で長時間使用するのに適した磁石が得られる。なお、本発明に係るSm-Fe-N系磁石材料は、積極的にSiを添加しない場合であっても、Siを0.15原子%未満含有していてもよい。また、本発明に係るSm-Fe-N系磁石材料は、Si及びAlの双方をそれぞれ上記範囲内の量だけ含有していてもよいし、SiとAlのいずれか一方のみを上記範囲内の量だけ含有していてもよい。
【0017】
また、本発明に係るSm-Fe-N系磁石材料は、不可避的不純物としてO(酸素)及びH(水素)をそれぞれ最大で0.3原子%、Cr(クロム)、並びにNi(ニッケル)及びCu(銅)をそれぞれ最大で0.1原子%含有し得る。
【0018】
上記の各元素の含有率は、C、Al及びSiの含有率の下限値ではパーセンテージ(百分率)で小数点以下第二位までの精度で、Sm、N及びCoの含有率の上限値及び下限値では有効数字二桁の精度で、C及びSiの含有率の上限値並びにそれ以外の元素の含有率の上限値及び下限値では小数点以下第一位までの精度で規定している。それらの数値よりも高精度に含有率を測定することができる場合には、有効数字よりも1桁下の桁で四捨五入した値が上記範囲内に含まれていれば、本発明の要件を満たす。例えば、Cの含有率が小数点以下第三位までの精度で測定され、その測定値が0.045原子%である場合には、該測定値を小数点以下第三位で四捨五入した「0.05原子%」が0.05~0.5原子%の範囲内に含まれることから、Cの含有率の要件を満たすこととなる。
【0019】
本発明に係るSm-Fe-N系ボンド磁石は、本発明に係る上記Sm-Fe-N系磁石材料の粉末とバインダから成る。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、製造時の歩留が高いSm-Fe-N系磁石材料、及び該Sm-Fe-N系磁石材料を用いたSm-Fe-N系ボンド磁石を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態であるSm-Fe-N系磁石材料の製造方法を示す図。
図2】実施例及び比較例の試料におけるCの含有量と、実験で得られた回収率の関係を示すグラフ。
図3】実施例及び比較例の試料におけるCの含有量と、実験で得られた残留磁束密度Br及び最大エネルギー積(BH)maxの関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1図3を用いて、本発明に係るSm-Fe-N系磁石材料及びSm-Fe-N系ボンド磁石の実施形態を説明する。
【0023】
本実施形態のSm-Fe-N系磁石材料は、Smを7.0~12原子%、Hf及びZrから成る群から選ばれる1種又は2種の元素(以下、「元素T」とする)を0.1~1.5原子%、Cを0.05~0.5原子%、Nを10~20原子%、Coを0~35原子%、残部としてFeを含有している。このSm-Fe-N系磁石材料は、例えば以下の方法により製造することができる。
【0024】
まず、Sm、T、Co(Coの含有率が0原子%の場合を除く)及びFeの各元素の単体である金属原料又はそれら元素のうちの2種以上から成る合金原料、並びにCとして黒鉛を、作製しようとするSm-Fe-N系磁石材料を窒化する前のSm-Fe系粉末の組成となるように、各元素の歩留も考慮して配合し、加熱溶解することにより、溶湯11を作製する(図1(a))。次に、この溶湯11を、噴射ノズル12から高速回転しているロール13の表面に噴射することにより急冷し、ロール13への衝突時に形成される薄帯(リボン)を、回収容器16までの間に設けられた金属製の衝突部材14に当てることで粉砕することにより、粉末15として回収容器16に回収する(図1(b))。この粉末15を、不活性雰囲気下であって700℃~800℃の範囲内の温度で熱処理する(図1(c))ことにより、熱処理前に若干含まれていたアモルファス相を結晶化し、材料の結晶性を高める。なお、この操作は、次の窒化処理後における保磁力をより高くするために行う。
【0025】
その後、この粉末15を、窒素原子を有する分子を含むガス中で加熱する(図1(d))ことにより、該粉末15を窒化する。このようなガスとして、アンモニアと水素の混合ガスを好適に用いることができる。窒化処理中の加熱温度や圧力は、使用するガスによるが、一例では、アンモニアと水素の容積比が1:3であるガスを用いる場合には加熱温度を450℃程度とし、圧力は例えば管状炉17中に前記ガスを流しながら処理を行うことでほぼ大気圧(大気圧よりもわずかに加圧)とする。ここで窒化処理の時間を調整することにより、粉末中のNの含有率が10~20原子%となるようにする。なお、粉末15の量が多い場合には、均一化のため、及び反応の効率を良くするために、回転式の加熱炉で粉末15を撹拌しながら窒化を実施する。以上の操作により、粉末状のSm-Fe-N系磁石材料10が得られる(図1(e))。
【0026】
上述のように、一般にSm-Fe-N系磁石材料には主相がTh2Zn17型の結晶構造であるものと、主相がTbCu7型の結晶構造であるものがあるが、本実施形態のSm-Fe-N系磁石材料10では元素Tを0.1~1.5原子%含有させ、液体急冷法によって急冷することにより、主相がTbCu7型の結晶構造である等方性のSm-Fe-N系磁石材料が得られる。
【0027】
本実施形態のSm-Fe-N系磁石材料10では、その製造時に、Cを含有する溶湯11を作製することにより、溶湯11の表面張力が小さくなる。そのため、溶湯11中に僅かに生成されるSm2O3等の微小な介在物は、溶湯11内で凝集し難くなり、溶湯11の全体に分散する。これにより、噴射ノズル12の孔内又はその付近に介在物が堆積して噴射ノズル12が閉塞することを抑制することができる。
【0028】
本実施形態のSm-Fe-N系磁石材料10において、さらにSiを0.15~0.5原子%、及び/又はAlを0.1~0.5原子%含有することが望ましい。これにより、高温環境下において磁束密度の低下(熱減磁)を抑えることができる。ここで、SiとAlの双方を上記含有率で含有することで、より良好に熱減磁を抑えることができる。
【0029】
本実施形態のSm-Fe-N系ボンド磁石は、上記方法により作製されたSm-Fe-N系磁石材料10である粉末にバインダを混合して圧縮成形又は射出成形をすることにより製造することができる。バインダには、圧縮成形ではエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を、射出成形ではナイロンやポリフェニレンスルファイド(PPS)樹脂等の熱可塑性樹脂を、それぞれ用いることができる。例えば、本実施形態のSm-Fe-N系磁石材料10である粉末にエポキシ樹脂を2質量%混合し、圧縮成形を行うことにより本実施形態のSm-Fe-N系ボンド磁石が得られる。
【実施例
【0030】
以下、実際にSm-Fe-N系磁石材料及びそれを用いたSm-Fe-N系ボンド磁石を作製した実験の結果を示す。この実験ではまず、Sm, T(Zr, Hf), C, N, Co, Fe, Al及びSiを後掲の表1に挙げた比で含有するSm-Fe-N系磁石材料の粉末を上述の方法で作製した。実施例1~16は、Sm, T, C, N, Co及びFeが本発明の要件を満たす含有率で含まれ、Al及びSiが上述の望ましい添加要件又は不純物として許容される範囲内の含有率で含まれている。そのうち実施例13~16は、Alの含有率が上述の望ましい添加要件である0.1~0.5原子%の範囲内にある。また、実施例2~5及び16は、Siの含有率が上述の望ましい添加要件である0.15~0.5原子%の範囲内にある。一方、比較例1~4は、Cの含有率が本発明の要件である0.05~0.5原子%よりも小さくなっている(表1中に「C不足」と表記)。また、比較例5は、Cの含有率が本発明の要件よりも大きくなっている(表1中に「C過剰」と表記)。
【0031】
これらSm-Fe-N系磁石材料の窒化前の粉末を液体急冷法で作製した際に、使用した原料のうちSm-Fe系材料の粉末として回収することができた量を質量比で求め、表1に回収率(歩留)として質量百分率で表した。作製過程において噴射ノズル12の孔内又はその付近に介在物が堆積し、噴射ノズル12が閉塞すると、それ以降、溶湯11を噴射ノズル12から噴射することができなくなるため、回収率は低下することとなる。
【0032】
上記のように得られた実施例1~16及び比較例1~5のSm-Fe-N系磁石材料の粉末にそれぞれ、2質量%のエポキシ樹脂を加えて圧縮成形後、硬化処理を行うことにより、Sm-Fe-N系ボンド磁石を作製した。作製した各Sm-Fe-N系ボンド磁石につき、磁気特性として、残留磁束密度Br、保磁力iHc及び最大エネルギー積(BH)maxを測定した。
【0033】
作製したSm-Fe-N系磁石材料の組成及び回収率、並びにSm-Fe-N系ボンド磁石の磁気特性を測定した結果を表1に示す。
【表1】
【0034】
表1及び図2に示すように、Cの含有率が本発明の範囲内である実施例1~16及びそれよりもCの含有率が高い比較例5ではいずれも90%台又は80%台の回収率でSm-Fe-N系磁石材料の粉末を得ることができた。それに対して、Cの含有率が本発明の範囲よりも低い比較例1~4では回収率が60%台又は70%に留まった。これら回収率のデータより、Sm-Fe-N系磁石材料にCを添加することにより、回収率を高くすることができ、歩留が向上することが確認された。
【0035】
一方、作製されたSm-Fe-N系ボンド磁石の磁気特性のうち特に、残留磁束密度Br及び最大エネルギー積(BH)maxは、表1及び図3に示すように、Cの含有率が本発明の範囲内よりも高い比較例5では、実施例1~16よりも低くなった。そのため、Sm-Fe-N系磁石材料中のCの含有率は、本発明の範囲である0.05~0.5原子%とすることが妥当である。なお、保磁力iHcに関しては、実施例と比較例の間で有意な差異は見られない。
【0036】
次に、Siの含有率が0.15~0.5原子%の範囲内にある実施例3~5、Alの含有率が0.1~0.5原子%の範囲内にある実施例14及び15、SiとAlの双方の含有率がそれぞれ上記範囲内にある実施例16、並びにSiとAlの双方の含有率がそれぞれ上記範囲よりも小さい実施例1及び比較例1につき、不可逆減磁率を測定した結果を説明する。ここでまず、不可逆減磁率について説明する。一般に、着磁後の磁石は、温度が高くなるほど磁束密度が低下する。そして、一旦温度が高くなってから室温に戻ったとき、磁束密度は一部回復するものの、完全には元に戻らない。このような室温から加熱した時の磁束密度の低下を「熱減磁」といい、熱減磁のうち室温に戻ったときに磁束密度が回復する分を「可逆減磁」、回復しない分を「不可逆減磁」という。この実験では、実施例1、3~5、14~16及び比較例1のSm-Fe-N系ボンド磁石を着磁した後にそれらSm-Fe-N系ボンド磁石の磁束φ0を測定し、その後に120℃の炉内に後述の保持時間だけ保持したうえで室温まで冷却したときにそれらSm-Fe-N系ボンド磁石の磁束φTを測定し、((φT0)/φ0)×100=ΔMTで不可逆減磁率を求めた。
【0037】
ここでは、前記保持時間を1時間とした実験と、前記保持時間を2000時間とした実験を行った。一般に、磁石の磁束は、温度上昇と共に大きく減少し、所定の温度に到達して該温度が保持されている期間には緩やかに減少する。この初期の大きな磁束の減少は予め見越して磁石を選択するのが通常であるため、高温下で安定した特性を得るためには、初期の大きな減少後の所定温度が保持されている期間での磁束の緩やかな減少時における減少率ができるだけ小さい方が望ましい。そこでこの実験では、保持時間を2000時間とした実験で得られた減磁率ΔM2000から、保持時間を1時間とした実験で得られた減磁率(これを初期減磁率という)ΔM1を減じた(ΔM2000-ΔM1)で評価する。(ΔM2000-ΔM1)はその定義により負の値となるが、絶対値が小さいほど、高温下で安定した特性が得られることを意味する。
【0038】
不可逆減磁率の実験結果を表2に示す。
【表2】
【0039】
この結果より、Siの含有率が0.15~0.5原子%の範囲内、及び/又はAlの含有率が0.1~0.5原子%の範囲内である実施例3~5、14~16の方が、それよりもSi及び/又はAlの含有率の低い実施例1及び比較例1よりも(ΔM2000-ΔM1)の絶対値が小さく、高温下で安定した特性が得られることが明らかになった。なお、高温下で安定した特性を得るためには、不可逆減磁率(ΔM2000-ΔM1)の範囲は-2.2%~-1.8%が適しており、実施例3~5、14~16はいずれもこの範囲内に含まれる。そして、より、高温下で安定した特性を得るためには、不可逆減磁率(ΔM2000-ΔM1)の範囲は-2.0%~-1.8%が適しており、実施例16はこの範囲内に含まれる。
【0040】
本発明は上記の実施形態には限定されず、本発明の趣旨の範囲内で変更が可能である。
【符号の説明】
【0041】
10…Sm-Fe-N系磁石材料
11…溶湯
12…噴射ノズル
13…ロール
14…衝突部材
15…粉末
16…回収容器
17…管状炉
図1
図2
図3