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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】燃料電池電極触媒
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/90 20060101AFI20220628BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20220628BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20220628BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20220628BHJP
【FI】
H01M4/90 X
H01M4/92
H01M4/86 M
H01M8/10 101
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018052307
(22)【出願日】2018-03-20
(65)【公開番号】P2019164938
(43)【公開日】2019-09-26
【審査請求日】2021-03-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「固体高分子形燃料電池利用高度化技術開発事業/普及拡大化基盤技術開発/先進低白金化技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】上高 雄二
(72)【発明者】
【氏名】森本 友
(72)【発明者】
【氏名】田口 昇
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-130847(JP,A)
【文献】特開2009-129903(JP,A)
【文献】特開2006-134613(JP,A)
【文献】特開2010-218923(JP,A)
【文献】特開2017-004957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/90
H01M 4/92
H01M 4/86
H01M 8/10
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えた燃料電池電極触媒。
(1)前記燃料電池電極触媒は、金属元素Mを含む層状岩塩型白金含有複合酸化物(MPtO2)を含む。
(2)前記金属元素Mは、Coからなる。
(3)前記層状岩塩型白金含有複合酸化物は、表面の一部がメタル白金層からなる。
(4)前記燃料電池電極触媒は、電気化学的有効比表面積(ECSA)÷BET比表面積×100(%)で定義される前記メタル白金層の被覆率が10%以上100%未満である。
【請求項2】
カソード材料として用いられる請求項1に記載の燃料電池電極触媒。
【請求項3】
アノード材料として用いられる請求項1に記載の燃料電池電極触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池電極触媒に関し、さらに詳しくは、金属元素Mを含む層状岩塩型白金含有複合酸化物(MPtO2)を含む燃料電池電極触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池の触媒層には、通常、触媒粒子を担持した担体(電極触媒)と、固体高分子電解質(触媒層アイオノマ)との混合物が用いられている。また、触媒粒子には、通常、白金又は白金合金が用いられている。
一般に、触媒粒子の担持量が多くなるほど、電極触媒の性能は向上する。しかし、白金又は白金合金は高価であるため、白金の使用量が多くなるほど、燃料電池のコストが上昇する。燃料電池を低コスト化するためには、触媒層全体に含まれる白金量を低減する必要がある。また、燃料電池における白金使用量を低減するには、少ない白金量で高い性能を示す電極触媒が必要である。
【0003】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、非特許文献1には、MxPt34型(M=Li、Na、Mg、Ca、Zn、Cd、Co、及びNi)の白金金属酸化物(Platinum Metal Oxides)の合成方法が開示されている。
同文献には、LixPt34、CoxPt34、及びNixPt34は、高い酸素還元活性と、Pt34電極と同等のボルタンメトリック特性とを持つ点が記載されている。
【0004】
また、非特許文献2には、ニッケル-白金酸化物ブロンズ(NixPt34、x=0.4~0.5)の合成法及びその物性(サイクリックボルタンメトリー、X線回折、X線光電子分光(XPS)、X線吸収微細構造(XAFS))が開示されている。
同文献には、ニッケル-白金酸化物ブロンズは、熱酸中における溶解度が低く、メタル白金(metallic platinum)に近い触媒活性を示すため、カソード触媒として使用可能である点が記載されている。
【0005】
燃料電池において、カソード用触媒には、一般に、白金が用いられている。また、白金は、一般に、カーボン担体表面に担持された状態で用いられている。しかし、白金は、高価であるため、燃料電池を低コスト化するために白金使用量の低減が求められている。
【0006】
一方、非特許文献1、2には、白金ブロンズをカソード用触媒として使用可能である点が記載されている。しかし、これらの文献においては、白金ブロンズ表面(すなわち、酸化物表面)のみの酸素還元及び水電解性能の評価(すなわち、メタル白金が生成しない0.6Vより高い電位での評価)が行われているだけであり、メタル化した表面の活性を評価していない。また、白金ブロンズ表面(酸化物表面)の酸素還元活性は、白金に比べて低い。そのため、車載用などの高い出力が求められるデバイスにおいて白金ブロンズを触媒として使用する場合、多量の触媒が必要となる。さらに、非特許文献1、2では、白金ブロンズの耐久性についても評価されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】R.D.Shannon et al., Inorg. Chem., 21, 3372(1982)
【文献】D.A.Tryk et al., Proceeding of the Symposium on Electrode Materials and Processed for Energy Conversion and Strage, 408-417(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、層状岩塩型白金含有複合酸化物を含む新規な燃料電池電極触媒を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、安価であり、かつ、耐久性に優れた燃料電池電極触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係る燃料電池電極触媒は、以下の構成を備えていることを要旨とする。
(1)前記燃料電池電極触媒は、金属元素Mを含む層状岩塩型白金含有複合酸化物(MPtO2)を含む。
(2)前記金属元素Mは、Coからなる。
(3)前記層状岩塩型白金含有複合酸化物は、表面の一部がメタル白金層からなる。
(4)前記燃料電池電極触媒は、電気化学的有効比表面積(ECSA)÷BET比表面積×100(%)で定義される前記メタル白金層の被覆率が10%以上100%未満である。
【発明の効果】
【0010】
層状岩塩型白金複合酸化物は、電位サイクルの付与、あるいは、還元剤処理により、表層が還元され、部分的に白金メタル化する。メタル化した部分は、酸素還元活性、及び水素酸化活性を示す。また、層状岩塩型白金含有複合酸化物は、酸素発生活性を示す。そのため、層状岩塩型白金含有複合酸化物を燃料電池のアノードに用いた場合、アノード水素欠時に酸素発生反応が進行することで高電位にならず、カーボン担体の腐食が進行しない。さらに、層状岩塩型白金含有複合酸化物は、王水に溶けないため、強酸条件でも溶出せず、高い電位にさらされても劣化しない。
さらに、層状岩塩型白金含有複合酸化物は、組成がMPtO2であり、白金ブロンズ(MPt34)に比べて、式量当たりの白金含有量が低い。そのため、同じ大きさの微粒子を作製できた場合、白金使用量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】CoPtO2の結晶構造の模式図である。
図2】王水処理前後の試料(実施例1)のXRDパターンである。
図3】単離後のCoPtO2(実施例1)のSEM像である。
図4】CoPtO2(実施例1)、カーボンブラック(比較例1)、及びPtO2(比較例2)の電気伝導率である。
【0012】
図5】CoPtO2(実施例1)、及びPt/Vulcan(登録商標)(比較例3)のコンディショニング時のサイクリックボルタモグラムである。
図6】CoPtO2(実施例1)、及びCo-Ptブロンズ(比較例4)の酸素雰囲気でのサイクリックボルタモグラムである。
図7】CoPtO2(実施例1)、Co-Ptブロンズ(比較例4)、及びPt/Vulcan(登録商標)(比較例3)の電気化学的有効比表面積(ECSA)、重量活性(MA)、及び比活性(SA)である。
図8】CoPtO2(実施例1)及びグラッシーカーボン(GC)の不活性雰囲気でのサイクリックボルタモグラムである。
【0013】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 燃料電池電極触媒]
本発明に係る燃料電池電極触媒は、以下の構成を備えている。
(1)前記燃料電池電極触媒は、金属元素Mを含む層状岩塩型白金含有複合酸化物(MPtO2)を含む。
(2)前記金属元素Mは、Co、Mn、及びNiからなる群から選ばれるいずれか1種以上の元素からなる。
(3)前記層状岩塩型白金含有複合酸化物は、表面の一部がメタル白金層からなる。
【0014】
[1.1. 層状岩塩型白金含有複合酸化物]
「層状岩塩型白金含有複合酸化物」とは、白金、酸素、及び、第三成分として金属元素Mのイオンを含む複合金属酸化物をいう。
層状岩塩型白金含有複合酸化物の組成式は、一般にMPtO2で表される。層状岩塩型白金含有複合酸化物の空間群はR3mであり、白金原子が3aサイト、酸素原子が8eサイト、金属元素Mが3bサイトに位置する。図1に、層状岩塩型白金含有複合酸化物の一種であるCoPtO2の結晶構造の模式図を示す。
【0015】
本発明に係る燃料電池電極触媒は、層状岩塩型白金含有複合酸化物のみからなるものでも良く、あるいは、層状岩塩型白金含有複合酸化物を適切な担体(例えば、カーボン担体、導電性酸化物担体、金属担体)の表面に担持したものでも良い。さらに、層状岩塩型白金含有複合酸化物は、単独で用いても良く、あるいは、他の材料と併用しても良い。
【0016】
[1.2. 金属元素M]
金属元素Mは、Co、Mn、又はNiからなる。層状岩塩型白金含有複合酸化物には、これらのいずれか1種の金属元素Mが含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。金属元素Mは、特に、Coが好ましい。
これらの金属元素Mを含む層状岩塩型白金含有複合酸化物は、いずれも、表面の一部がメタル白金化することによって白金メタル並みの酸素還元活性を示す。また、アノード触媒、あるいは、水電解触媒としても使用することができる。
【0017】
[1.3. 表面状態]
合成直後のMPtO2の表面は、酸化物の状態になっていると考えられる。しかし、MPtO2を所定の条件下で処理すると、MPtO2が還元され、表面の一部がメタル白金層となる。但し、理由の詳細は不明であるが、長時間処理しても、MPtO2の表面全面がメタル白金層となることはない。
MPtO2の表面積に対するメタル白金層の面積の割合は、金属元素Mの種類や処理条件により異なる。メタル白金層の被覆率=電気化学的有効比表面積(ECSA)÷BET比表面積×100(%)と定義すると、被覆率は、10~40%、あるいは、それ以上となる。
【0018】
MPtO2の表面が還元されることにより生成するメタル白金層の厚みは、極めて薄い。そのため、MPtO2に対してX線回折測定を行った場合、白金に由来するピークは認められない。一方、XPS測定を行うと、メタル白金層の厚みを見積もることができる。
【0019】
[1.4. 用途]
本発明に係る燃料電池電極触媒は、種々の燃料電池のカソード材料及びアノード材料の双方に使用することができる。本発明が適用可能な燃料電池としては、例えば、固体高分子形燃料電池、アルカリ形燃料電池、リン酸形燃料電池などがある。
【0020】
[2. 燃料電池電極触媒の製造方法]
[2.1. 層状岩塩型白金含有複合酸化物の製造]
層状岩塩型白金含有複合酸化物は、
(a)白金源に対して所定量の金属元素Mの原料を添加し、
(b)原料混合物を所定の条件下で固相反応させ、
(c)必要に応じて、得られた反応物から副生したメタル白金を除去する
ことにより得られる。
【0021】
[2.1.1. 配合工程]
まず、白金源に対して所定量の金属元素Mの原料(以下、「金属源」ともいう)を添加する(配合工程)。
白金源は、層状岩塩型白金含有複合酸化物を合成可能なものである限りにおいて、特に限定されない、白金源としては、例えば、
(a)酸化白金(PtO2)、
(b)白金の硝酸塩、クロロ錯体、アンミン塩、ヒドロキシ錯体
などがある。
【0022】
金属源は、層状岩塩型白金含有複合酸化物を合成可能なものである限りにおいて、特に限定されない。金属源としては、例えば、
(a)硝酸塩、フッ化物塩、塩化物塩、臭化物塩、ヨウ化物塩、炭酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩、硫酸塩、ホウ酸塩などの無機アニオンとの塩、
(b)酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩などの有機アニオンとの塩、
などがある。
金属源の添加量は、目的とする層状岩塩型白金含有複合酸化物が得られるように、最適な添加量を選択する。
【0023】
[2.1.2. 反応工程]
次に、原料混合物を所定の条件下で固相反応させる(反応工程)。反応条件は、層状岩塩型白金含有複合酸化物の組成や原料の種類に応じて最適な条件を選択する。反応温度は、層状岩塩型白金含有複合酸化物の組成等にもよるが、通常、600~700℃である。反応時間は、通常、数分~数時間程度である。原料混合物を所定の条件下で熱処理すると、層状岩塩型白金含有複合酸化物が生成すると同時に、メタル白金が副生する。
【0024】
[2.1.3. 精製工程]
次に、必要に応じて、得られた反応物から副成したメタル白金を除去する(精製工程)。メタル白金の除去は、王水処理により行うのが好ましい。所定の条件下で王水処理を行うと、反応物から層状岩塩型白金含有複合酸化物を単離することができる。
【0025】
[2.2. 電極触媒の製造]
得られた層状岩塩型白金含有複合酸化物粉末は、単独で用いても良く、あるいは、他の材料と組み合わせて用いても良い。
また、層状岩塩型白金含有複合酸化物粉末は、適切な基材表面に塗布した状態で使用しても良く、あるいは、固化させた状態で使用しても良い。
【0026】
[3. 作用]
層状岩塩型白金複合酸化物は、電位サイクルの付与、あるいは、還元剤処理により、表層が還元され、部分的に白金メタル化する。メタル化した部分は、酸素還元活性、及び水素酸化活性を示す。また、層状岩塩型白金含有複合酸化物は、酸素発生活性を示す。そのため、層状岩塩型白金含有複合酸化物を燃料電池のアノードに用いた場合、アノード水素欠時に酸素発生反応が進行することで高電位にならず、カーボン担体の腐食が進行しない。さらに、層状岩塩型白金含有複合酸化物は、王水に溶けないため、強酸条件でも溶出せず、高い電位にさらされても劣化しない。
さらに、層状岩塩型白金含有複合酸化物は、組成がMPtO2であり、白金ブロンズ(MPt34)に比べて、式量当たりの白金含有量が低い。そのため、同じ大きさの微粒子を作製できた場合、白金使用量を低減することができる。
【0027】
層状岩塩型白金複合酸化物は、それ自身の酸素還元活性は低いが、電位サイクル処理や、ギ酸やアルコールなどの還元剤による化学処理を施すことにより、表面の一部が白金メタル化され、その部分が活性点となり、白金メタル並みの酸素還元活性を示す。このため、カソード触媒として使用することができる。
一方、水素雰囲気では水素酸化反応が進行するため、アノード触媒として使用することができる。また、層状岩塩型白金複合酸化物は、水電解(酸素発生)活性を示すため、アノードでの異常電位抑制効果がある。さらに、層状岩塩型白金複合酸化物は、燃料電池環境(電位変動及び高電位)に対して高い耐久性を示す。
【実施例
【0028】
(実施例1、比較例1~4)
[1. 試料の作製]
[1.1. 実施例1]
硝酸白金(Pt(NO3)2)と硝酸コバルト(Co(NO3)2・6H2O)とをモル比で1:1になるように秤量し、乳鉢で混合した。
次に、混合物を、空気通気下(1L/min)、650℃で5時間熱処理した。さらに、得られた反応物(CoPtO2とメタル白金の混合物)を熱王水に30分間浸漬し、上澄み液を除去することでメタル白金を除去した。
【0029】
[1.2. 比較例1~4]
比較として、
(a)カーボンブラック(BET比表面積:220m2/g)(比較例1)、
(b)PtO2粉末(BET比表面積:104±9m2/g)(比較例2)、
(c)Pt/Vulcan(登録商標)(COパルス比表面積:158m2/g)(比較例3)、及び、
(d)Co-Ptブロンズ(BET比表面積:18.8±0.4m2/g)(比較例4)
を試験に供した。
【0030】
[2. 評価]
[2.1. 合成直後のCoPtO2のXRD測定及びSEM観察]
図2に、王水処理前後の試料(実施例1)のXRDパターンを示す。図2より、王水処理により白金メタルが除去され、CoPtO2が単離されたことが確認できる。
図3に、単離後のCoPtO2(実施例1)のSEM像を示す。図3より、CoPtO2は、100~200nm程度の板状であることが確認できる。
【0031】
[2.2. BET比表面積]
実施例1で得られたCoPtO2について、窒素吸着測定によりBET比表面積を求めた。得られたCoPtO2のBET比表面積は、15.2±0.9m2/gであった。
【0032】
[2.3. 電気伝導率]
各粉末を圧縮成形し、プレス圧を変えながら抵抗を測定した。得られた抵抗値から電気伝導率を算出した。図4に、CoPtO2(実施例1)、カーボンブラック(比較例1)、及びPtO2(比較例2)の電気伝導率を示す。図4より、CoPtO2は、カーボンブラック並みの電気伝導度を示すことがわかった。
【0033】
[2.4. 酸素還元活性、及び水電解活性の評価]
単離後のCoPtO2粉末をアセトンに分散させた後、グラッシーカーボン(GC)電極表面に塗布して乾燥させた。これを作用極として電気化学測定を行い、酸素還元(ORR)活性を評価した。参照極は可逆水素電極(RHE)、対極は金メッシュ、電解液は0.1Mの過塩素酸とし、液温は30℃とした。
【0034】
白金の有効表面積は、不活性雰囲気でのサイクリックボルタモグラムより、水素の吸着波の電気量と脱着波の電気量との平均から求めた。酸素還元活性は、酸素雰囲気で電極を400rpmで回転させながら評価し、0.9Vでの電流値を白金有効面積で規格化した値を活性の指標とした。比較試料には、白金担持カーボンの代表例として、Pt/Vulcan(登録商標)を用いた。
【0035】
[2.4.1. コンディショニング時のサイクリックボルタモグラム]
電位サイクルによるコンディショニング(0.05~1.2V、500mV/sec、200cycle、Ar雰囲気)を実施した。図5に、CoPtO2(実施例1)、及びPt/Vulcan(登録商標)(比較例3)のコンディショニング時のサイクリックボルタモグラムを示す。
CoPtO2では、電位サイクルを繰り返すとメタル白金と同様の形状(水素吸脱着波及び白金の酸化還元波が見られる)のサイクリックボルタモグラムに変化した。これは、表面にメタル白金が生成したことを示している。CoPtO2のコンディショニング前のORR活性は小さかったが、コンディショニング後はPt/Vulcanと同様のボルタモグラムとなった。
【0036】
[2.4.2. 酸素雰囲気でのサイクリックボルタモグラム]
酸素雰囲気でのサイクリックボルタモグラム(0.05~1.0V、10mV/sec、1cycle、飽和酸素雰囲気)を実施した。なお、活性値は、アノード掃引時(0.05→1.0V)の0.9Vの電流値から求めた。図6に、CoPtO2(実施例1)、及びCo-Ptブロンズ(比較例4)の酸素雰囲気でのサイクリックボルタモグラムを示す。図6より、
(a)電位サイクルにより活性が向上すること、及び、
(b)その結果、Co-Ptブロンズと同等の活性を示すこと、
が分かる。
【0037】
[2.4.3. ECSA、MA、SA]
図7に、CoPtO2(実施例1)、Co-Ptブロンズ(比較例4)、及びPt/Vulcan(登録商標)(比較例3)の電気化学的有効比表面積(ECSA)、重量活性(MA)、及び比活性(SA)を示す。CoPtO2は、触媒としての粒子径が大きいため、ECSA及び重量活性(MA)はPt/Vulcanより小さいが、比活性(SA)はPt/Vulcanと同等であった。また、CoPtO2は、Co-Ptブロンズに比べて式量当たりのPt量が少ないにもかかわらず、Co-Ptブロンズとほぼ同等の特性を示した。
【0038】
[2.4.4. 不活性雰囲気でのサイクリックボルタモグラム]
不活性雰囲気でのサイクリックボルタモグラム(0.05~1.0V、50mV/sec、5cycle、Ar飽和雰囲気)を実施した。なお、ECSAは、5サイクル目のボルタモグラムの水素吸脱着域(0.05~0.4V)の電流値から求めた。図8に、CoPtO2(実施例1)及びグラッシーカーボン(GC)の不活性雰囲気でのサイクリックボルタモグラムを示す。高電位まで電位を掃引(0.05~1.7V、50mV/sec、Ar雰囲気)したところ、1.5Vから大きな電流が流れた。図8より、CoPtO2は、水電解酸素発生活性を示すことがわかった。
【0039】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明に係る燃料電池電極触媒は、固体高分子形燃料電池、アルカリ形燃料電池、リン酸形燃料電池などの燃料電池のアノード材料及びカソード材料として用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8