(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20220628BHJP
H01L 21/20 20060101ALI20220628BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20220628BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20220628BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20220628BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
H01L29/78 652C
H01L21/20
H01L21/265 V
H01L29/78 652H
H01L29/78 652J
H01L29/78 652T
H01L29/78 653A
H01L29/78 655A
H01L29/78 658A
H01L29/78 658E
H01L29/78 658G
(21)【出願番号】P 2018053157
(22)【出願日】2018-03-20
【審査請求日】2021-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 巨裕
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 優
(72)【発明者】
【氏名】副島 成雅
【審査官】上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-152488(JP,A)
【文献】特開2006-179598(JP,A)
【文献】特開2016-192541(JP,A)
【文献】特開2012-164707(JP,A)
【文献】特開2015-141921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 29/12
H01L 29/739
H01L 21/336
H01L 21/265
H01L 21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反転型の半導体素子を備える炭化珪素半導体装置であって、
炭化珪素で構成された第1または第2導電型の基板(1)と、
前記基板の上に形成され、前記基板よりも低不純物濃度とされた第1導電型の炭化珪素からなる低濃度層(2)と、
前記低濃度層の上に形成された第2導電型の炭化珪素からなる第2導電型のディープ層(3)と、
前記低濃度層上に形成され、前記ディープ層に挟まれて配置された第1導電型のJFET部(2a)と、
前記JFET部と前記ディープ層との間に配置され、前記JFET部よりも第1導電型不純物濃度が高濃度とされた空乏層調整層(20)と、
前記ディープ層と前記JFET部および前記空乏層調整層の上に形成された第2導電型のベース領域(6)と、
前記ベース領域の上に形成され、前記低濃度層よりも高濃度の第1導電型の炭化珪素からなるソース領域(7)と、
前記ソース領域および前記ベース領域を貫通して前記JFET部に達すると共に一方向を長手方向とするライン状のゲートトレンチ(9)内において、前記ベース領域の一部をチャネル領域として、該チャネル領域上に形成されたゲート絶縁膜(10)と、前記ゲート絶縁膜上に形成されたゲート電極(11)と、を有してなるトレンチゲート構造と、
前記ゲート電極および前記ゲート絶縁膜を覆うと共にコンタクトホールが形成された層間絶縁膜(12)と、
前記コンタクトホールを通じて、前記ソース領域に電気的に接続されたソース電極(13)と、
前記基板の裏面側に形成されたドレイン電極(14)と、を有し、
前記ゲート電極に対してゲート電圧を印加することで前記チャネル領域を形成すると共に、前記ドレイン電極に対してドレイン電圧として通常作動時の電圧を印加することで、前記ソース領域および前記JFET部を介して、前記ソース電極および前記ドレイン電極の間に電流を流す反転型の半導体素子を備え、
前記JFET部は、前記トレンチゲート構造と対応する位置に形成されていると共に前記ゲートトレンチの長手方向に沿って延設され、前記基板側よりも前記トレンチゲート構造側において幅が広くされており、
前記ドレイン電圧として前記通常作動時の電圧が印加されているときには、前記ディープ層から伸びる空乏層の伸び量が前記空乏層調整層にてストップされ、前記ドレイン電圧として前記通常作動時よりも高い電圧が印加されると、前記JFET部のうち前記基板側の位置において、前記空乏層により前記JFET部がピンチオフさせられる炭化珪素半導体装置。
【請求項2】
最も前記ベース領域側における前記JFET部および該JFET部の両側に位置している前記空乏層調整層を合わせた幅が前記トレンチゲート構造の幅よりも0.2μm以上大きくされている請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項3】
前記空乏層調整層は、前記ディープ層と前記低濃度層との間にも形成されている請求項1または2に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項4】
前記JFET部の第1導電型不純物濃度が前記低濃度層の第1導電型不純物濃度よりも低くされている請求項1ないし3のいずれか1つに記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項5】
前記JFET部の表層部には、該JFET部よりも第1導電型不純物濃度が高くされた第1導電型の電流分散層(4)が備えられている請求項1ないし4のいずれか1つに記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項6】
反転型の半導体素子を備えた炭化珪素半導体装置の製造方法であって、
炭化珪素で構成された第1または第2導電型の基板(1)を用意することと、
前記基板の上に、前記基板よりも低不純物濃度の第1導電型の炭化珪素からなる低濃度層(2)を形成することと、
前記低濃度層の上に、第2導電型の炭化珪素からなる第2導電型のディープ層(3)と、前記ディープ層に挟まれて配置される第1導電型のJFET部(2a)と、前記JFET部と前記ディープ層との間に配置され、前記JFET部よりも第1導電型不純物濃度が高濃度とされる空乏層調整層(20)と、を形成することと、
前記ディープ層と前記JFET部および前記空乏層調整層の上に、第2導電型の炭化珪素からなるベース領域(6)を形成することと、
前記ベース領域の上に、前記低濃度層よりも高濃度の第1導電型の炭化珪素からなるソース領域(7)を形成することと、
前記ソース領域および前記ベース領域を貫通して前記JFET部に達すると共に一方向を長手方向とするライン状のゲートトレンチ(9)を形成したのち、前記ゲートトレンチ内において、前記ベース領域の一部をチャネル領域として、該チャネル領域上にゲート絶縁膜(10)を形成し、さらに前記ゲート絶縁膜上にゲート電極(11)を形成することでトレンチゲート構造を形成することと、
前記ゲート電極および前記ゲート絶縁膜を覆う層間絶縁膜(12)を形成することと、
前記層間絶縁膜にコンタクトホールを形成することと、
前記コンタクトホールを通じて、前記ソース領域に電気的に接続されるソース電極(13)を形成することと、
前記基板の裏面側にドレイン電極(14)を形成することと、を行うことにより、
前記ゲート電極に対してゲート電圧を印加することで前記チャネル領域を形成すると共に、前記ドレイン電極に対してドレイン電圧として通常作動時の電圧を印加することで、前記ソース領域および前記JFET部を介して、前記ソース電極および前記ドレイン電極の間に電流を流す反転型の半導体素子を形成し、
前記ディープ層と前記JFET部および前記空乏層調整層を形成することでは、
前記JFET部を、前記トレンチゲート構造と対応する位置に形成すると共に前記ゲートトレンチの長手方向に沿って延設し、さらに、前記基板側よりも前記トレンチゲート構造側において幅を広くし、
前記JFET部および前記空乏層調整層のうちの前記基板側の位置での幅を、前記ドレイン電圧として前記通常作動時の電圧が印加されているときには、前記ディープ層から伸びる空乏層の伸び量が前記空乏層調整層にてストップされ、前記ドレイン電圧として前記通常作動時よりも高い電圧が印加されると前記空乏層により前記JFET部がピンチオフさせられる幅とする炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記ディープ層と前記JFET部および前記空乏層調整層を形成することは、
前記低濃度層の上に前記JFET部を構成する第1導電型の炭化珪素層を形成することと、
前記炭化珪素層のうち前記ディープ層の形成予定領域を開口させるトレンチ(2b)を形成することと、
前記トレンチの内壁面に第1導電型を斜めイオン注入することで前記空乏層調整層を形成することと、
前記空乏層調整層が形成された後の前記トレンチ内を第2導電型の炭化珪素層で埋め込むことで前記ディープ層を形成することと、を含んでいる請求項6に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記ディープ層と前記JFET部および前記空乏層調整層を形成することは、
前記低濃度層の上に前記ディープ層を構成する第2導電型の炭化珪素層を形成することと、
前記炭化珪素層のうち前記JFET部の形成予定領域を開口させるトレンチ(3a)を形成することと、
前記トレンチの内壁面に第1導電型を斜めイオン注入することで前記空乏層調整層を形成することと、
前記空乏層調整層が形成された後の前記トレンチ内を第1導電型の炭化珪素層で埋め込むことで前記JFET部を形成することと、を含んでいる請求項6に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレンチゲート構造を有する炭化珪素(以下、SiCという)半導体装置およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高い電界破壊強度が得られるパワーデバイスの素材としてSiCが注目されている。SiC半導体装置は、電界破壊強度が強いため、大電流の制御を行うことができる。そのため、ハイブリットカー用のモーターの制御への活用が期待されている。
【0003】
SiC半導体装置において、より大電流を流すには、チャネル密度を高くすることが有効であり、チャネル密度を高くできる構造として、トレンチゲート構造を有するSiC半導体装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このようなSiC半導体装置において、オン抵抗値の低減はスイッチング損失の低減などを図るために必要であるが、負荷短絡時に半導体素子に流れる電流値は、半導体素子のオン抵抗値に反比例して大きくなる。すなわち、オン抵抗値の小さい半導体素子ほど、負荷短絡時の飽和電流が大きな電流値となる。その結果、自己発熱による半導体素子の破損が発生し易くなるので、負荷短絡時におけるSiC半導体装置の耐量が低下することになる。このように、オン抵抗値の低減と負荷短絡時におけるSiC半導体装置の耐量向上はトレードオフの関係を有しているが、このトレードオフの関係の改善、つまり低オン抵抗値と低飽和電流の両立が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、トレンチゲート構造のMOSFETを有するSiC半導体装置について、低オン抵抗値と低飽和電流の両立が図れる構造について検討を行った。その結果、トレンチゲートよりも深いp型ディープ層をトレンチゲートの両側に配置し、隣り合うp型ディープ層の間にJFET部を構成すると共に、通常作動時よりもドレイン電圧が高くなった時にJFET部がピンチオフされる構造を見出した。
【0007】
例えば、n+型基板の上にn-型ドリフト層とp型ベース領域およびn+型ソース領域を順に形成し、p型ベース領域およびn+型ソース領域を貫通してn-型ドリフト層に達するトレンチ内にゲート電極を備えたトレンチゲート構造とする。また、n-型ドリフト層内においてp型ベース領域の底部からn+型基板に伸びるように、トレンチゲート構造の両側にp型ディープ層を形成し、さらにp型ディープ層の少なくとも側面にn-型ドリフト層よりも高濃度なn型調整層を備えた構造とする。
【0008】
このような構造においては、n-型ドリフト層のうち隣り合うp型ディープ層の間に配置された部分によってJFET部が構成される。そして、通常作動時のドレイン電圧が印加されたときには、p型ディープ層からの空乏層の伸び量がn型調整層内に留まることで、JFET部およびn型調整層のうち空乏層が伸びていない部分にて電流経路が確保されて電流が流される。このため、オン抵抗の低減を図ることができる。
【0009】
一方、負荷短絡時等に通常作動時よりもドレイン電圧が高くなると、p型ディープ層から伸びる空乏層がn型調整層から更にJFET部に伸び、JFET部が完全空乏化されてピンチオフされる。したがって、飽和電流を抑制することが可能となり、オン抵抗の低減との両立を図ることが可能となる。
【0010】
しかしながら、通常作動時よりもドレイン電圧が高くなったときにJFET部およびn型調整層がピンチオフされるように、JFET部およびn型調整層の幅や不純物濃度を規定しなければならない。このため、JFET部およびn型調整層の幅をあまり大きくすることができない。これにより、n-型ドリフト層に対してp型ディープ層を形成する際とトレンチゲート構造を構成するためのトレンチを形成する際にマスクずれが発生したときに、トレンチゲート構造の側面がp型ディープ層と重なることがあることが判った。このような構造になると、トレンチゲート構造の一方の側面においてチャネルが形成できず、電流が流せなくなるため、オン抵抗の低減が図れなくなるという課題が生じる。
【0011】
本発明は上記点に鑑みて、低オン抵抗値と低飽和電流を両立しつつ、ディープ層とトレンチゲート構造とが重ならない構造のSiC半導体装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、請求項1に記載のSiC半導体装置は、SiCで構成された第1または第2導電型の基板(1)と、基板の上に形成され、基板よりも低不純物濃度とされた第1導電型のSiCからなる低濃度層(2)と、低濃度層の上に形成された第2導電型のSiCからなる第2導電型のディープ層(3)と、低濃度層上に形成され、ディープ層に挟まれて配置された第1導電型のJFET部(2a)と、JFET部とディープ層との間に配置され、JFET部よりも第1導電型不純物濃度が高濃度とされた空乏層調整層(20)と、ディープ層とJFET部および空乏層調整層の上に形成された第2導電型のベース領域(6)と、ベース領域の上に形成され、低濃度層よりも高濃度の第1導電型のSiCからなるソース領域(7)と、ソース領域およびベース領域を貫通してJFET部に達すると共に一方向を長手方向とするライン状のゲートトレンチ(9)内において、ベース領域の一部をチャネル領域として、該チャネル領域上に形成されたゲート絶縁膜(10)と、ゲート絶縁膜上に形成されたゲート電極(11)と、を有してなるトレンチゲート構造と、ゲート電極およびゲート絶縁膜を覆うと共にコンタクトホールが形成された層間絶縁膜(12)と、コンタクトホールを通じて、ソース領域に電気的に接続されたソース電極(13)と、基板の裏面側に形成されたドレイン電極(14)と、を有している。そして、ゲート電極に対してゲート電圧を印加することでチャネル領域を形成すると共に、ドレイン電極に対してドレイン電圧として通常作動時の電圧を印加することで、ソース領域およびJFET部を介して、ソース電極およびドレイン電極の間に電流を流す反転型の半導体素子が構成されている。
【0013】
このような構成において、JFET部は、トレンチゲートと対応する位置に形成されていると共にゲートトレンチの長手方向に沿って延設され、基板側よりもトレンチゲート側において幅が広くされており、ドレイン電圧として通常作動時の電圧が印加されているときには、ディープ層から伸びる空乏層の伸び量が空乏層調整層にてストップされ、ドレイン電圧として通常作動時よりも高い電圧が印加されると、JFET部のうち基板側の位置において、空乏層によりJFET部がピンチオフさせられる。
【0014】
このように、JFET部のうち基板側の部分よりもベース領域側の部分の方の幅を広げている。このため、ゲートトレンチを形成する際にマスクずれが発生しても、ゲートトレンチがJFET部内に位置するようにでき、ディープ層と重ならないようにできる。したがって、トレンチゲート構造の両側面において的確にチャネル領域が形成されるようにでき、オン抵抗の低減が図れなくなることを防止することができる。
【0015】
また、JFET部の側面をテーパ状とし、JFET部のうちの基板側の部分の幅を狭くしているため、ドレイン電圧が通常作動時の電圧よりも高くなったときにJFET部が即座にピンチオフされるようにするようにできる。このため、低飽和電流を維持することができ、負荷短絡等によるSiC半導体装置の耐量を向上することが可能となる。
【0016】
したがって、低オン抵抗値と低飽和電流を両立しつつ、ディープ層とトレンチゲート構造とが重ならない構造のSiC半導体装置とすることが可能となる。
【0017】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1実施形態にかかるSiC半導体装置の断面図である。
【
図2A】
図1に示すSiC半導体装置の通常作動時の様子を示した断面図である。
【
図2B】
図1に示すSiC半導体装置の負荷短絡時の様子を示した断面図である。
【
図3】マスクずれが発生した場合のSiC半導体装置の断面図である。
【
図4A】
図1に示すSiC半導体装置の製造工程中の断面図である。
【
図4B】
図4Aに続くSiC半導体装置の製造工程中の断面図である。
【
図4C】
図4Bに続くSiC半導体装置の製造工程中の断面図である。
【
図4D】
図4Cに続くSiC半導体装置の製造工程中の断面図である。
【
図4E】
図4Dに続くSiC半導体装置の製造工程中の断面図である。
【
図4F】
図4Eに続くSiC半導体装置の製造工程中の断面図である。
【
図5】第2実施形態にかかるSiC半導体装置の断面図である。
【
図6A】
図5に示すSiC半導体装置の製造工程中の断面図である。
【
図6B】
図6Aに続くSiC半導体装置の製造工程中の断面図である。
【
図6C】
図6Bに続くSiC半導体装置の製造工程中の断面図である。
【
図6D】
図6Cに続くSiC半導体装置の製造工程中の断面図である。
【
図6E】
図6Dに続くSiC半導体装置の製造工程中の断面図である。
【
図6F】
図6Eに続くSiC半導体装置の製造工程中の断面図である。
【
図6G】
図6Fに続くSiC半導体装置の製造工程中の断面図である。
【
図6H】
図6Gに続くSiC半導体装置の製造工程中の断面図である。
【
図7】第3実施形態にかかるSiC半導体装置の断面図である。
【
図8】第4実施形態にかかるSiC半導体装置の断面図である。
【
図9A】
図8に示すSiC半導体装置の製造工程中の断面図である。
【
図9B】
図9Aに続くSiC半導体装置の製造工程中の断面図である。
【
図9C】
図9Bに続くSiC半導体装置の製造工程中の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0020】
(第1実施形態)
第1実施形態について説明する。本実施形態にかかるSiC半導体装置は、
図1に示すように、半導体素子として縦型MOSFETが形成されたものである。縦型MOSFETは、SiC半導体装置のうちのセル領域に形成されており、そのセル領域を囲むように外周耐圧構造が形成されることでSiC半導体装置が構成されているが、ここでは縦型MOSFETのみ図示してある。なお、以下の説明では、
図1の左右方向を幅方向とし、上下方向を厚み方向もしくは深さ方向として説明を行う。
【0021】
SiC半導体装置は、半導体基板としてSiCからなるn+型基板1が用いて形成されている。n+型基板1は、所定のオフ角を有するオフ基板で構成されている。例えば、n+型基板1は、主表面の面方位が(0001)Si面とされ、<11-20>方向がオフ方向とされる。なお、オフ方向とは、「成長面の法線ベクトルを(0001)面に投影したベクトルに平行な方向」のことを言う。n+型基板1のn型不純物濃度については濃いほど良いが、例えば1×1018~3×1019/cm3とされ、ここではリン濃度を5×1018/cm3としている。また、n+型基板1の厚みについては、例えば10~500μmとされ、ここでは100μmとしている。
【0022】
n+型基板1の主表面上にSiCからなるn-型低濃度層2が形成されている。n-型低濃度層2は、n+型基板1から離れた位置において幅狭とされたJFET部2aと連結されている。なお、本明細書では、便宜上、n-型低濃度層2およびJFET部2aという別々の構成として説明しているが、これら各n型層はドリフト層として機能する部分となる。JFET部2aは、n-型低濃度層2と同じ不純物濃度で構成されていても良いし、異なる不純物濃度で構成されていても良い。
【0023】
n-型低濃度層2のn型不純物濃度については、例えば5×1015~2×1016/cm3、ここではリン濃度を8.0×1015/cm3としている。n-型低濃度層2の厚みについては、例えば6~15μm、ここでは12μmで構成している。また、JFET部2aのn型不純物濃度については、ここではn-型低濃度層2と同じにしている。JFET部2aの厚みについては、例えば1.0~5.0μmとされ、ここでは2.0μmとしている。
【0024】
また、JFET部2aは、後述するトレンチゲート構造の長手方向に沿って延設された短冊状とされ、JFET部2aの側面がテーパ状とされることで断面形状が台形とされている。具体的には、JFET部2aの幅が、n+型基板1の厚み方向において変化しており、n+型基板1側においてその反対側と比較して幅が狭くなるようにJFET部2aの側面がテーパ状とされている。
【0025】
JFET部2aの幅のうち、n+型基板1側の幅については、後述するように、ピンチオフ条件や飽和電流の抑制を考慮して設定される。さらに、JFET部2aを埋込成長によって形成する場合には埋め込み性、p型ディープ層3を埋込成長によって形成する場合には埋め込み前にJFET部2aが倒れることなく立つように、JFET部2aの幅のうち、n+型基板1側の幅を設定している。JFET部2aのうちn+型基板1と反対側の幅については、後述するトレンチゲート構造の幅よりも大きくされ、かつ、n+型ソース領域7とp+型コンタクト領域8との境界位置よりもJFET部2aの端部がトレンチゲート構造側に位置するよう設定される。本実施形態では、1セル分の幅を例えば2.0μmとしている。この場合、JFET部2aのうちn+型基板1側の幅は例えば0.3~0.7μmとされ、ここでは0.4μmとしている。また、JFET部2aのうちn+型基板1と反対側の幅は例えば0.6~1.6μmとされ、ここでは例えば0.6μmとしている。
【0026】
JFET部2aの両側には、SiCからなるp型ディープ層3が形成されており、JFET部2aとp型ディープ層3との間には高濃度n型層20が形成されている。p型ディープ層3は、概ねJFET部2aと同じ厚みで構成される。また、p型ディープ層3のp型不純物濃度は、例えば1×10
17~2×10
18/cm
3とされ、ここではアルミニウム濃度を5.0×10
17/cm
3としている。また、p型ディープ層3については、JFET部2aと逆の関係、すなわちn
+型基板1側においてその反対側と比較して幅が広くなるように、p型ディープ層3の側面がテーパ状とされていて断面形状が台形とされている。ここでは1セル分の幅を2.0μmとして、p型ディープ層3のうちn
+型基板1側の幅を1.5μm、n
+型基板1と反対側の幅を1.3μmとしている。なお、
図1では、p型ディープ層3が左右半分ずつしか描かれていないが、隣り合うセルにおいてp型ディープ層3が繋がることで断面形状が台形になる。
【0027】
高濃度n型層20は、少なくともJFET部2aとp型ディープ層3との間に形成されるものであり、本実施形態では、p型ディープ層3のうちの底面側つまりn-型低濃度層2との境界位置にも形成されている。この高濃度n型層20は、空乏層調整層として機能するものであり、JFET部2aよりもn型不純物濃度が高くされている。高濃度n型層20のn型不純物濃度や幅については、通常作動時におけるp型ディープ層3からの空乏層の伸び量に基づいて決められる。高濃度n型層20のn型不純物濃度については、例えば3×1017~1×1019/cm3とされ、ここではリン濃度を1.0×1018/cm3としている。また高濃度n型層20の厚みについては、例えば0.03~0.2μmとされ、ここでは0.05μmとしている。
【0028】
また、JFET部2aや高濃度n型層20およびp型ディープ層3の上には、SiCからなるp型ベース領域6が形成されている。さらにp型ベース領域6の上には、SiCからなるn+型ソース領域7およびp+型コンタクト領域8が形成されている。n+型ソース領域7は、p型ベース領域6のうちJFET部2aと対応する部分の上に形成されている。p+型コンタクト領域8は、p型ベース領域6を後述するソース電極13に電気的に接続するための領域であり、p型ベース領域6のうちp型ディープ層3と対応する部分の上に形成されている。
【0029】
p型ベース領域6は、p型ディープ層3よりも厚みが薄く、かつ、p型不純物濃度が低くされている。p型ベース領域6のp型不純物濃度については、例えば5×1016~4×1017/cm3され、ここではアルミニウム濃度を2.0×1017/cm3としている。p型ベース領域6の厚みについては、例えば0.3~1.5μmとされ、ここでは0.8μmとされている。
【0030】
n+型ソース領域7は、n型不純物濃度がJFET部2aよりも高濃度とされている。n+型ソース領域7のn型不純物濃度については、例えば5×1018~3×1020/cm3とされ、ここではアルミニウム濃度を1.0×1020/cm3としている。n+型ソース領域7の厚みについては、例えば0.2~0.6μmとされ、ここでは0.4μmとしている。
【0031】
p+型コンタクト領域8は、p型不純物濃度がp型ベース領域6よりも高濃度とされている。p+型コンタクト領域8のp型不純物濃度については、例えば5×1018~3×1020/cm3とされ、ここではアルミニウム濃度を1.0×1020/cm3としている。p+型コンタクト領域8の厚みについては、例えば0.2~0.7μmとされ、ここでは0.4μmとしている。
【0032】
また、p型ベース領域6およびn+型ソース領域7を貫通してJFET部2aに達するように、例えば幅が0.4~1.2μm、深さが0.7~3.0μmのゲートトレンチ9が形成されている。ここでは、ゲートトレンチ9の幅を0.4μmとしており、深さを2.0μmとしている。このゲートトレンチ9の側面と接するように上述したp型ベース領域6およびn+型ソース領域7が配置されている。
【0033】
ゲートトレンチ9の幅については任意であるが、下限値については、異方性エッチングの実現性と後述するゲート電極11の埋め込み性などを考慮して設定してあり、上限値については電流効率とJFET部2aの幅およびマスクずれを考慮して設定してある。
【0034】
ゲートトレンチ9を形成する際に見込まれるマスクずれの最大値については装置毎に決まっているが、例えば目標位置を中心として幅方向に最大0.1μmの範囲でずれることが見込まれる。このため、最もp型ベース領域6側におけるJFET部2aおよびその両側に配置された高濃度n型層20を合わせた幅の方がゲートトレンチ9の幅よりも0.1×2μm以上大きくなるようにしてある。例えば、上記したようにJFET部2aのうちn+型基板1と反対側の幅が0.6μm、高濃度n型層20の幅が0.05μmとされる場合、p型ベース領域6側におけるJFET部2aおよびその両側に配置された高濃度n型層20を合わせた幅が0.7μmとなる。この場合、ゲートトレンチ9の幅を0.7μmよりも0.2μm以上小さくなるようにしており、上記したように例えば0.4μmとしている。
【0035】
ゲートトレンチ9は、
図1の紙面左右方向を幅方向、紙面法線方向を長手方向、紙面上下方向を深さ方向とするライン状のレイアウトで形成されている。また、
図1には1本しか示していないが、ゲートトレンチ9は、複数本が紙面左右方向に等間隔に配置され、それぞれp型ディープ層3の間に挟まれるように配置されていてストライプ状とされている。例えば、ゲートトレンチ9のピッチとなるセルピッチ、つまり隣り合うゲートトレンチ9の配置間隔の半分となるハーフセルピッチは、例えば2.0μmとされている。
【0036】
また、p型ベース領域6のうちゲートトレンチ9の側面に位置している部分を、縦型MOSFETの作動時にn+型ソース領域7とJFET部2aとの間を繋ぐチャネル領域として、チャネル領域を含むゲートトレンチ9の内壁面にゲート絶縁膜10が形成されている。ゲート絶縁膜10は酸化膜などによって構成され、例えば75nmとされている。そして、ゲート絶縁膜10の表面にはドープドPoly-Siにて構成されたゲート電極11が形成されており、これらゲート絶縁膜10およびゲート電極11によってゲートトレンチ9内が埋め尽くされている。
【0037】
また、n+型ソース領域7およびp+型コンタクト領域8の表面には、層間絶縁膜12を介してソース電極13などが形成されおり、図示しないが、ゲート電極11の表面には、ゲート配線層が形成されている。ソース電極13やゲート配線層は、複数の金属、例えばNi/Al等にて構成されている。そして、複数の金属のうち少なくともn型SiC、具体的にはn+型ソース領域7やn型ドープの場合のゲート電極11と接触する部分はn型SiCとオーミック接触可能な金属で構成されている。また、複数の金属のうち少なくともp型SiC、具体的にはp+型コンタクト領域8と接触する部分はp型SiCとオーミック接触可能な金属で構成されている。なお、ソース電極13は、層間絶縁膜12上に形成されることで電気的に絶縁されている。そして、層間絶縁膜12に形成されたコンタクトホールを通じて、ソース電極13はn+型ソース領域7およびp+型コンタクト領域8と電気的に接触させられている。
【0038】
さらに、n+型基板1の裏面側にはn+型基板1と電気的に接続されたドレイン電極14が形成されている。このような構造により、nチャネルタイプの反転型のトレンチゲート構造の縦型MOSFETが構成されている。このような縦型MOSFETが複数セル配置されることでセル領域が構成されている。そして、このような縦型MOSFETが形成されたセル領域を囲むように図示しないガードリングなどによる外周耐圧構造が構成されることでSiC半導体装置が構成されている。
【0039】
このように構成される縦型MOSFETを有するSiC半導体装置は、以下のように動作する。
【0040】
まず、ゲート電極11にゲート電圧Vgを印加する前の状態では、p型ベース領域6にチャネル領域が形成されない。したがって、ドレイン電極14に通常作動時に印加される正の電圧、例えば2Vを印加したとしても、p型ベース領域6内に到達することはできず、ソース電極13とドレイン電極14との間に電流が流れない。このため、本実施形態のSiC半導体装置は、ゲート電圧Vgを印加していないときには、ドレイン-ソース間に電流が流れないノーマリオフ型の半導体素子となる。
【0041】
また、オフ時に、ゲート電圧Vgが0V、ソース電圧Vsが0Vの際に、通常作動時よりも高いドレイン電圧Vd、例えば1200Vが印加されると、p型ベース領域6およびp型ディープ層3とn-型低濃度層2およびJFET部2aとの間より空乏層が伸びる。また、p型ベース領域6のp型不純物濃度を2.0×1017/cm3と高濃度にしているため、空乏層はほとんどJFET部2a側に伸び、p型ベース領域6がパンチスルーすることは無い。このため、このときには縦型MOSFETに電流は流れない。
【0042】
また、隣り合うp型ディープ層3は空乏層で繋がるので、トレンチゲート構造にはほとんど電界が掛からない。この場合、最大でも電界強度が1MV/cm未満となる。このため、トレンチゲート構造が破壊されないだけでなく、ゲート寿命において高い信頼性を得ることが可能となっている。
【0043】
次に、ソース電圧Vsを0V、ドレイン電圧Vdを例えば1~2Vとした状態で、ゲート電極11に対して例えば20Vのゲート電圧Vgを印加すると、縦型MOSFETがオンさせられる。すなわち、ゲート電圧が印加されることによってゲートトレンチ9に接する部分のp型ベース領域6にチャネル領域が形成されるため、縦型MOSFETは、ドレイン-ソース間に電流を流すという動作を行う。
【0044】
より詳しくは、ソース電極13からn+型ソース領域7を通じて注入された電子はチャネル領域を通ってトレンチゲート構造の底部、つまりJFET部2aや高濃度n型層20に至る。このとき、ドレイン電圧Vdが2Vであり、さらに、JFET部2aとp型ディープ層3との間に高濃度n型層20を配置していることから、この高濃度n型層20が空乏層調整層として機能することで、次の作動を行うことになる。
【0045】
具体的には、
図2Aの一点鎖線で示すように、ドレイン電圧Vdが例えば2Vのように通常作動時に印加される電圧である場合には、p型ディープ層3側から高濃度n型層20へ伸びる空乏層は、高濃度n型層20の厚みよりも小さい幅しか伸びない。つまり、高濃度n型層20が空乏層の伸びをストップする層として機能する。このため、JFET部2a内への空乏層の伸びが抑制され、JFET部2a内の電流経路が狭くなること無く、電流を流すことが可能となる。したがって、低オン抵抗を図ることが可能となる。
【0046】
さらに、高濃度n型層20のうち空乏層が伸びていない部分についても電流経路として機能する。そして、高濃度n型層20がJFET部2aよりもn型不純物濃度が高濃度になっており、低抵抗となっていることから、高濃度n型層20が電流経路として機能することで、JFET部2aのみが電流経路となる場合よりも更に低オン抵抗とすることが可能となる。
【0047】
ここで、負荷短絡等が発生すると、ドレイン電圧Vdが例えば750Vに上昇するなど、通常作動時の電圧よりも高くなる。このとき、ゲート電圧Vgとして20Vが印加されているため、チャネル領域が形成された状態となっている。そのため、ソース電極13から注入された電子は、n+型ソース領域7およびチャネル領域を通ってトレンチゲート構造の底部に達する。
【0048】
しかしながら、ドレイン電圧Vdが通常作動時の電圧よりも高くなっているため、p型ディープ層3側から高濃度n型層20へ伸びる空乏層が高濃度n型層20の厚みよりも伸びる。これにより、
図2Bの一点鎖線で示したように、n
-型低濃度層2に入り込むように空乏層が広がり、JFET部2a内、特にJFET部2aのうちのn
+型基板1側の部分が即座にピンチオフされる。このため、JFET部2aおよびn
-型低濃度層2で大きな抵抗が掛かることになり、トレンチゲート構造の底部に達した電子がn
+型基板1に辿り着き難くなる。したがって、電流が流れないようにでき、低飽和電流を維持することができて、負荷短絡等によるSiC半導体装置の耐量を向上することが可能となる。
【0049】
したがって、低オン抵抗値と低飽和電流を両立することができるSiC半導体装置とすることが可能となる。
【0050】
なお、高濃度n型層20の厚みおよびn型不純物濃度に基づいてドレイン電圧Vdと空乏層の幅との関係が決まる。このため、通常作動時のドレイン電圧Vdよりも少し高い電圧となったときにJFET部2aがピンチオフされるように、高濃度n型層20やJFET部2aの厚みおよびn型不純物濃度を設定している。これにより、低いドレイン電圧VdでもJFET部2aをピンチオフすることが可能となる。
【0051】
シミュレーションにより、本実施形態の構造の縦型MOSFETを有するSiC半導体装置について、オン抵抗や飽和電流について調べた。具体的には、
図1に示すように、トレンチゲート構造とJFET部2aそれぞれの幅方向の中心位置が同一線上となる場合、つまりゲートトレンチ9を形成する際にマスクずれが無かった場合について調べた。また、
図3に示すように、トレンチゲート構造とJFET部2aそれぞれの幅方向の中心位置がずれた場合、ここではゲートトレンチ9を形成する際にマスクずれが最大値になった場合についても調べた。オン抵抗については、ゲート電圧を20V、ソース電圧Vsを0V、ドレイン電圧Vdを2Vとして調べた。また、飽和電流については、ゲート電圧を20V、ソース電圧Vsを0V、ドレイン電圧Vdを750Vとして調べた。
【0052】
その結果、
図1の構造の場合、オン抵抗は1.89mΩ・cm
2となり、飽和電流は4593A/cm
2となった。また、
図3の構造の場合、オン抵抗は1.91mΩ・cm
2となり、飽和電流は4383A/cm
2となった。すなわち、マスクずれの有無にかかわらず、同様の低オン抵抗と低飽和電流とすることができていた。
【0053】
したがって、本実施形態の構造とすることで、トレンチゲート構造を構成するためのゲートトレンチ9の形成時にマスクずれが生じたとしても、低オン抵抗値と低飽和電流を両立することができるSiC半導体装置にできる。
【0054】
なお、本実施形態の場合、高濃度n型層20をn-型低濃度層2とp型ディープ層3との境界位置にも形成している。このため、p型ディープ層3からn-型低濃度層2側に伸びる空乏層の伸び量も抑制され、JFET部2a側に空乏層が広がることで電流経路が狭まることが抑制されるため、よりオン抵抗の低減を図ることが可能となる。
【0055】
また、JFET部2aや高濃度n型層20などのn型不純物濃度や厚みの一例を示したが、これらについては一例を示したに過ぎない。例えば、JFET部2aや高濃度n型層20については、所望のピンチオフ条件を満たすようにn型不純物濃度や幅を設定すれば良い。
【0056】
例えば、JFET部2aについては、例えば半導体素子の耐圧の10%でピンチオフする条件として設計することができる。その場合、JFET部2aのn型不純物濃度をNd1、幅をW1、ピンチオフ電圧をVp1、素電荷をq1、誘電率をε1として次の数式1を満たすようにn型不純物濃度Nd1、幅W1を設計する。
【0057】
(数1)Vp1=(q1×Nd1×W12)/2ε1<半導体素子の耐圧の10%
一方、高濃度n型層20については、例えば半導体素子の耐圧の0.1%でピンチオフしない条件として設計することができる。その場合、高濃度n型層20のn型不純物濃度をNd2、p型ディープ層3の側面上での厚みをW2、ピンチオフ電圧をVp2、素電荷をq2、誘電率をε2として次の数式2を満たすようにn型不純物濃度Nd2、厚みW2を設計する。
【0058】
(数2)Vp2=(q2×Nd2×W22)/2ε2>半導体素子の耐圧の0.1%
このように、要求されるピンチオフ条件に基づいて、JFET部2aや高濃度n型層20のn型不純物濃度や幅を設定すれば良い。
【0059】
次に、本実施形態にかかるnチャネルタイプの反転型のトレンチゲート構造の縦型MOSFETを備えたSiC半導体装置の製造方法について、
図4A~
図4Fに示す製造工程中の断面図を参照して説明する。
【0060】
〔
図4Aに示す工程〕
まず、半導体基板として、n
+型基板1を用意する。そして、エピタキシャル成長により、n
+型基板1の主表面上にSiCからなるn
-型低濃度層2を形成する。本実施形態の場合、JFET部2aをn
-型低濃度層2と同じ不純物濃度としているため、JFET部2aを構成するためのn型のSiC層として、JFET部2aの厚み分を加えた厚みでn
-型低濃度層2をエピタキシャル成長させている。
【0061】
〔
図4Bに示す工程〕
図示しないマスクによってJFET部2aの形成予定領域を覆いつつエッチングを行うことで、p型ディープ層3の形成予定領域が開口するトレンチ2bを形成する。このとき、例えばボッシュプロセスによってトレンチ2bを形成することができ、トレンチ2bの入口から底部に掛けて徐々にトレンチ2bの幅が広がるように、横方向エッチングが縦方向エッチングよりも優位となる条件でエッチングが行われるようにしている。
【0062】
〔
図4Cに示す工程〕
エッチング時に使用したマスクをそのまま用いて、もしくは新たにマスクを形成して、n型不純物として例えばリンを斜めイオン注入することで、トレンチ2bの内壁面にn型不純物をドープする。斜めイオン注入については、同じ角度で継続的に行ってもよいが、n型不純物がよりトレンチ2bの奥まで届くようにしつつ、トレンチ2bの側面に確実に注入されるように、角度を変化させながら行うようにすると好ましい。これにより、n型不純物がドープされた領域に高濃度n型層20が形成されると共に、n
-型低濃度層2のうちトレンチ2bの間に位置している高濃度n型層20以外の部分によってJFET部2aが形成される。
【0063】
〔
図4Dに示す工程〕
イオン注入時に用いたマスクをそのまま用いて、もしくは新たにマスクを形成し、JFET部2aおよび高濃度n型層20の先端を覆った状態でp型SiCをエピタキシャル成長させる。これにより、トレンチ2b内にp型SiCが選択的にエピタキシャル成長させられ、p型ディープ層3が構成される。
【0064】
〔
図4Eに示す工程〕
続いて、JFET部2aおよび高濃度n型層20の先端を覆っているマスクを除去し、必要に応じてCMP(chemical mechanical polishing)などを行うことでJFET部2aや高濃度n型層20およびp型ディープ層3の表面の平坦化を行う。その後、これらの表面にp型SiCをエピタキシャル成長させることでp型ベース領域6を形成する。
【0065】
〔
図4Fに示す工程〕
図示しないマスクを用いて、p型ベース領域6の表層部にn型不純物として例えばリンをイオン注入することでn
+型ソース領域7を形成すると共に、p型不純物として例えばアルミニウムをイオン注入することでp
+型コンタクト領域8を形成する。
【0066】
さらに、n+型ソース領域7などの上に図示しないマスクを形成したのち、マスクのうちのゲートトレンチ9の形成予定領域を開口させる。そして、マスクを用いてRIE(Reactive Ion Etching)などの異方性エッチングを行うことで、ゲートトレンチ9を形成する。
【0067】
このとき、マスクずれによって、ゲートトレンチ9の形成位置がずれることがある。例えば、JFET部2aの中心位置に対してゲートトレンチ9の中心位置が最大で0.1μmずれることが見込まれる。
【0068】
しかしながら、JFET部2aのうちn+型基板1側の部分よりもp型ベース領域6側の部分の方の幅を広げているため、ゲートトレンチ9がJFET部2a内に位置するようにでき、p型ディープ層3と重ならないようにできる。
【0069】
その後、マスクを除去してから例えば熱酸化を行うことによって、ゲート絶縁膜10を形成し、ゲート絶縁膜10によってゲートトレンチ9の内壁面上およびn+型ソース領域7の表面上を覆う。そして、p型不純物もしくはn型不純物がドープされたPoly-Siをデポジションした後、これをエッチバックし、少なくともゲートトレンチ9内にPoly-Siを残すことでゲート電極11を形成する。
【0070】
この後の工程については図示しないが、ゲート電極11およびゲート絶縁膜10の表面を覆うように、例えば酸化膜などによって構成される層間絶縁膜12を形成する。また、層間絶縁膜12の表面上に図示しないマスクを形成したのち、マスクのうちp+型コンタクト領域8と対応する部分およびその近傍を開口させる。この後、マスクを用いて層間絶縁膜12をパターニングすることでp+型コンタクト領域8およびn+型ソース領域7を露出させるコンタクトホールを形成する。
【0071】
さらに、層間絶縁膜12の表面上に例えば複数の金属の積層構造により構成される電極材料を形成したのち、電極材料をパターニングすることでソース電極13などを形成したのち、n+型基板1の裏面側にドレイン電極14を形成する。これにより、本実施形態にかかるSiC半導体装置が完成する。
【0072】
以上説明したように、本実施形態のSiC半導体装置では、JFET部2aのうちn+型基板1側の部分よりもp型ベース領域6側の部分の方の幅を広げている。このため、ゲートトレンチ9を形成する際にマスクずれが発生しても、ゲートトレンチ9がJFET部2a内に位置するようにでき、p型ディープ層3と重ならないようにできる。したがって、トレンチゲート構造の両側面において的確にチャネル領域が形成されるようにでき、オン抵抗の低減が図れなくなることを防止することができる。
【0073】
また、JFET部2aの側面をテーパ状とし、JFET部2aのうちのn+型基板1側の部分の幅を狭くしている。このため、ドレイン電圧Vdが通常作動時の電圧よりも高くなったときにJFET部2aが即座にピンチオフされるようにすることで、低飽和電流を維持することができ、負荷短絡等によるSiC半導体装置の耐量を向上することが可能となる。
【0074】
したがって、低オン抵抗値と低飽和電流を両立しつつ、p型ディープ層3とトレンチゲート構造とが重ならない構造のSiC半導体装置とすることが可能となる。
【0075】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して製造方法を変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0076】
本実施形態では、第1実施形態に対して、JFET部2aおよびp型ディープ層3と高濃度n型層20の形成方法を変更している。このため、
図5に示すように、本実施形態では、第1実施形態のSiC半導体装置に対して、p型ディープ層3とn
-型低濃度層2との境界位置に高濃度n型層20が備えられていない構造とされている。
【0077】
図6A~
図6Hを用いて、本実施形態にかかるSiC半導体装置の製造方法について説明する。
【0078】
まず、
図6Aに示す工程として、エピタキシャル成長により、n
+型基板1の主表面上にSiCからなるn
-型低濃度層2を形成する。この工程については、
図4Aと同様であるが、n
-型低濃度層2の厚みについては、JFET部2aの厚みを考慮に入れない厚みとする。
【0079】
次に、
図6Bに示す工程として、n
-型低濃度層2の表面にp型ディープ層3を構成するためのp型SiC層をエピタキシャル成長させる。そして、
図6Cに示す工程として、図示しないマスクによってp型SiC層のうち最終的にp型ディープ層3として残す部分の表面を覆った後、エッチングすることでJFET部2aの形成予定領域にトレンチ3aを形成する。このとき、トレンチ3aの入口側が底部側よりも幅が広くなるようにする。さらに、
図6Dに示す工程として、トレンチ3aの内壁面にn型不純物を斜めイオン注入することで高濃度n型層20を形成し、
図6Eに示す工程として、エッチングにより高濃度n型層20のうちトレンチ3aの底部に形成された部分を除去する。その後は、
図6F~
図6H等において、第1実施形態で説明した
図4Eや
図4Fおよびその後の工程を行う。これにより、
図5に示す本実施形態のSiC半導体装置が完成する。
【0080】
このように、p型ディープ層3に対してトレンチ3aを形成すると共にトレンチ3a内壁にn型不純物をイオン注入することで高濃度n型層20を形成し、さらにトレンチ3a内を埋め込むようにJFET部2aを形成することもできる。このような製造方法としても、第1実施形態と同様に、低オン抵抗と低飽和電流を両立することができるSiC半導体装置を製造できる。また、本実施形態の場合、トレンチ3aの入口側の方が底部側よりも幅が広くなっているため、トレンチ3a内に埋込性良くJFET部2aをエピタキシャル成長させることができる。
【0081】
なお、ここではトレンチ3aの底部に形成された高濃度n型層20について除去するようにしているが、除去しないでも良い。高濃度n型層20を残すようにすると、通常作動時にn-型低濃度層2のうちのJFET部2aとの境界位置側においてp型ディープ層3から伸びる空乏層の伸び量を抑制でき、電流経路が狭まることを抑制できるため、より低オン抵抗を図ることができる。
【0082】
(第3実施形態)
第3実施形態について説明する。本実施形態は、第1、第2実施形態に対してn-型低濃度層2とJFET部2aのn型不純物濃度を異ならせたものであり、その他については第1、第2実施形態と同様であるため、第1、第2実施形態と異なる部分についてのみ説明する。なお、ここでは第1実施形態の構造に本実施形態を適用する場合について説明するが、第2実施形態の構造についても同様に適用できる。
【0083】
図7に示すように、本実施形態では、JFET部2aのn型不純物をn
-型低濃度層2のn型不純物濃度よりも低くしてある。例えば、JFET部2aのn型不純物濃度を1×10
15/cm
3としてある。
【0084】
このような構成とする場合、オフ時の動作については第1実施形態のSiC半導体装置と同様であるが、オン時の動作については次のようになる。
【0085】
すなわち、オン時にも第1実施形態のSiC半導体装置と同様の動作が行われることで電流経路が形成されるが、JFET部2aのn型不純物濃度が低くされることで、JFET部2aの抵抗値が高くなる。このため、負荷短絡等によってドレイン電圧Vdが例えば750Vに上昇しても、JFET部2aでの抵抗値が大きくなっている分、飽和電流を低下させることができる。ゲート電圧を20V、ソース電圧Vsを0V、ドレイン電圧Vdを750Vとしてシミュレーションを行った結果、オン抵抗が1.91mΩ・cm2となったが、飽和電流は2500A/cm2に低下していた。このような構成は、飽和電流をより低下させたい場合に有効である。
【0086】
なお、本実施形態のSiC半導体装置の製造方法については第1、第2実施形態と同様であり、JFET部2aを形成する際のエピタキシャル成長において、n型不純物濃度を低下させるだけで良い。
【0087】
(第4実施形態)
第4実施形態について説明する。本実施形態は、第1~第3実施形態に対してよりオン抵抗の低減を図ったものであり、その他については第1~第3実施形態と同様であるため、第1~第3実施形態と異なる部分についてのみ説明する。なお、ここでは第2実施形態の構造に本実施形態を適用する場合について説明するが、第1、第3実施形態の構造についても同様に適用できる。
【0088】
図8に示すように、本実施形態では、JFET部2aの表層部にn型電流分散層4を形成している。
【0089】
n型電流分散層4は、チャネル領域を通じて流れる電流が幅方向に拡散できるようにする層であり、JFET部2aよりも高濃度とされている。n型電流分散層4は、例えばn型不純物濃度が1×1018~1×1020/cm3とされ、ここでは1×1019/cm3としている。n型電流分散層4の厚みについては、例えば0.2~0.6μmとされ、ここでは0.4μmとしている。
【0090】
このように、n型電流分散層4を形成することで、JFET部2aのみで構成する場合より抵抗値を低減できるのに加えて、より幅方向に電流を拡散できることから、さらにオン抵抗の低減を図ることが可能となる。ゲート電圧を20V、ソース電圧Vsを0V、ドレイン電圧Vdを2Vとしてシミュレーションを行った結果、オン抵抗が1.80mΩ・cm2となった。また、この条件でドレイン電圧Vdを750Vに変更すると、飽和電流は4839A/cm2であった。このような構成は、飽和電流が第1実施形態よりも若干高くなるものの、オン抵抗をより低下させたい場合に有効である。
【0091】
なお、本実施形態にかかるSiC半導体装置の製造方法は、基本的には第1~第3実施形態と同様であり、JFET部2aの上にそのままn型電流分散層4をエピタキシャル成長させるだけで良い。例えば、第2実施形態の構造とする場合、
図6A~
図6Eと同様の工程を行ったのち、
図9Aに示すようにJFET部2aを選択的にエピタキシャル成長させる際に、トレンチ3a内を埋め込んでしまう前に、n型不純物濃度を高めてn型電流分散層4を形成する。この後は、
図9Bや
図9C等において、第1実施形態で説明した
図4Eや
図4Fおよびその後の工程を行う。これにより、
図8に示す本実施形態のSiC半導体装置が完成する。
【0092】
(他の実施形態)
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
【0093】
例えば、上記各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。
【0094】
また、JFET部2aの幅は深さ方向の全域において一定の傾斜のテーパ状である必要は無く、傾斜角度が変化していても構わない。
【0095】
また、各部の不純物濃度は一定でなくても良い。例えば、p型ディープ層3がドレイン電極14に近づくほどp型不純物濃度が低く、ソース電極13に近づくほどp型不純物濃度が高くなるような不純物濃度勾配を有した構造であっても良い。
【0096】
同様に、上記各実施形態で説明したSiC半導体装置を構成する各部の寸法や不純物濃度については一例を示したに過ぎない。各部の寸法や不純物濃度については、JFET部2aのピンチオフ条件等に基づいて、適宜設定すれば良い。
【0097】
一例を示すと、ハーフセルピッチを広くすることなど、ハーフセルピッチを変えることができ、例えば3μmとすることができる。また、p型ディープ層3の厚みを薄くして不純物濃度を濃くする構成にできる。ただし、ここで挙げたものも一例であり、他の寸法、不純物濃度とすることもできる。
【0098】
また、上記第1実施形態等では、第1導電型をn型、第2導電型をp型としたnチャネルタイプの縦型MOSFETを例に挙げて説明したが、各構成要素の導電型を反転させたpチャネルタイプの縦型MOSFETとしても良い。また、上記説明では、半導体素子として縦型MOSFETを例に挙げて説明したが、同様の構造のIGBTに対しても本発明を適用することができる。IGBTは、上記各実施形態に対してn+型基板1の導電型をn型からp型に変更するだけであり、その他の構造や製造方法に関しては上記各実施形態と同様である。
【符号の説明】
【0099】
2 n-型低濃度層
2a JFET部
3 p型ディープ層
4 n型電流分散層
6 p型ベース領域
7 n+型ソース領域
10 ゲート絶縁膜
11 ゲート電極
13 ソース電極
14 ドレイン電極