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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 15/00 20060101AFI20220628BHJP
   B60C 9/02 20060101ALI20220628BHJP
   B60C 15/04 20060101ALI20220628BHJP
   B60C 15/06 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
B60C15/00 C
B60C9/02 A
B60C15/00 G
B60C15/04 C
B60C15/06 B
B60C15/06 N
B60C15/06 Q
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018097172
(22)【出願日】2018-05-21
(65)【公開番号】P2019202578
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】笹谷 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】長安 政明
(72)【発明者】
【氏名】竹森 諒平
(72)【発明者】
【氏名】丹野 篤
(72)【発明者】
【氏名】甲田 啓
(72)【発明者】
【氏名】松田 淳
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-507515(JP,A)
【文献】特開2000-351306(JP,A)
【文献】特開2010-000996(JP,A)
【文献】特開2006-116792(JP,A)
【文献】特開2010-000901(JP,A)
【文献】特開昭59-023705(JP,A)
【文献】特開2013-052720(JP,A)
【文献】特開2008-222053(JP,A)
【文献】特開2002-283814(JP,A)
【文献】特開平06-010227(JP,A)
【文献】特開2008-155728(JP,A)
【文献】特開平10-035231(JP,A)
【文献】特開平04-066309(JP,A)
【文献】米国特許第05779829(US,A)
【文献】米国特許第06530411(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、前記トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備えた空気入りタイヤにおいて、
前記一対のビード部のそれぞれに設けられたビードコアと、前記ビードコアよりもタイヤ径方向外側に配置されたフィラー層と、前記フィラー層に隣接する位置に配置されたコード補強層と、前記一対のビード部間に装架された第一カーカス層とを備え、且つ、前記第一カーカス層と前記コード補強層と前記フィラー層のタイヤ幅方向外側であって少なくとも前記フィラー層のタイヤ径方向外端と重複する位置に、前記第一カーカス層と前記コード補強層と前記フィラー層のタイヤ幅方向外側に沿ってタイヤ径方向に延在するゴム補強層を備え、
前記ビードコアは、タイヤ周方向に巻回された少なくとも1本のビードワイヤからなり、子午線断面において前記ビードワイヤの複数の周回部分がタイヤ幅方向に並ぶ少なくとも1つの列とタイヤ径方向に重なる複数の層を形成しており、子午線断面における前記ビードワイヤの複数の周回部分の共通接線によって形成された多角形を前記ビードコアの外郭形状としたとき、前記外郭形状はタイヤ径方向外側に単一の頂点Qを有し、この頂点Qを挟む2辺が成す内角θ1が鋭角であり、且つ、前記外郭形状はタイヤ径方向内側に前記頂点Qに対向する位置でタイヤ幅方向に延在する底辺を有しており、
前記第一カーカス層は、前記トレッド部から各サイドウォール部を経て各ビード部に至る本体部と、各ビード部において前記ビードコアの周縁に沿って屈曲しながら折り返された折り返し部とを有し、前記折り返し部は前記ビードコアと前記フィラー層との間を通って前記本体部と前記フィラー層との間の位置で終端し、
前記コード補強層は、ゴム中に複数本の補強コードが埋設されて構成され、前記フィラー層のタイヤ径方向外端と重複するように前記第一カーカス層および前記フィラー層に沿ってタイヤ径方向に延在することを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記コード補強層が前記フィラー層のタイヤ幅方向外側に配置されたことを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記コード補強層が前記フィラー層のタイヤ幅方向内側に配置されたことを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記ゴム補強層全体の長さα2と、前記ゴム補強層の前記フィラー層と重複する部分の長さα1とが、0≦α1/α2≦0.75の関係を満たすことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記コード補強層全体の長さβ2と、前記フィラー層のタイヤ径方向外端よりもタイヤ径方向外側に延在する前記コード補強層の部分の長さβ1とが、0.15≦β1/β2≦0.75の関係を満たすことを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記第一カーカス層の他に、前記一対のビード部間に装架された第二カーカス層を備え、前記第二カーカス層は、前記第一カーカス層の外周側に配置されて前記第一カーカス層に沿って前記トレッド部から各サイドウォール部を経て各ビード部に至り、前記フィラー層のタイヤ幅方向外側を通って前記ビードコアのタイヤ径方向内側に巻き込まれていることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記第一カーカス層および前記第二カーカス層を構成するカーカスコードがそれぞれタイヤ径方向に対して傾斜して配列されており、前記トレッド部のタイヤ幅方向中央位置で測定される前記カーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度がそれぞれ80°~88°であり、前記第一カーカス層と前記第二カーカス層との層間で前記カーカスコードどうしが交差することを特徴とする請求項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記ビードワイヤの少なくとも一部が俵積み状に積層されていることを特徴とする請求
項1~のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビード部の構造を改善してタイヤ重量の軽減を図った空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、カーカス層の端部への応力集中に起因する故障を防止し、且つ、サイドウォール部におけるピンチカットの発生を抑制することを可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な空気入りタイヤのビード部には、ビードコアとそのタイヤ径方向外側にビードフィラーが設けられて、これらビードコアおよびビードフィラーの周囲にカーカス層が折り返されている。このような構造の従来のタイヤにおいて、カーカス層の折り返された端部がビードフィラーの近傍に配置されると、タイヤがリム組された際に、カーカス層の端部がリムフランジの近傍に位置することになり、カーカス層の端部に応力が集中して故障が発生する虞れがあった。
【0003】
一方で、近年、タイヤ重量の軽減が強く求められており、ビードコアの形状を工夫して、ビードフィラーを使用しないタイヤが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。このようなタイヤでは、従来のビードフィラーを有さずに特定の形状のビードコアが用いられているため、ビード部からサイドウォール部に亘る領域を薄肉化することができ、タイヤ重量の軽減を図ることができる。また、カーカス層の端部は、トレッド部からサイドウォール部を経てビード部に至るカーカス層の本体部に沿った位置に配置されるので、従来のタイヤに比べれば応力集中による故障も防止することができると推測される。
【0004】
しかしながら、この構造であっても、カーカス層の端部はビード部やサイドウォール部の外表面の近傍に配置されるため、応力集中による故障を必ずしも充分に防止することはできなかった。また、サイドウォール部の薄肉化に伴って、耐ピンチカット性も充分に確保することが難しくなるという問題があった。そのため、ビード部の構造(ビードコアの形状)によってタイヤ重量の軽減を図るにあたって、カーカス層の端部への応力集中に起因する故障や、サイドウォール部におけるピンチカットの発生を抑制するための更なる対策が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015‐020741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ビード部の構造を改善してタイヤ重量を軽減しながら、カーカス層の端部への応力集中に起因する故障を防止し、且つ、サイドウォール部におけるピンチカットの発生を抑制することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、前記トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備えた空気入りタイヤにおいて、前記一対のビード部のそれぞれに設けられたビードコアと、前記ビードコアよりもタイヤ径方向外側に配置されたフィラー層と、前記フィラー層に隣接する位置に配置されたコード補強層と、前記一対のビード部間に装架された第一カーカス層とを備え、且つ、前記第一カーカス層と前記コード補強層と前記フィラー層のタイヤ幅方向外側であって少なくとも前記フィラー層のタイヤ径方向外端と重複する位置に、前記第一カーカス層と前記コード補強層と前記フィラー層のタイヤ幅方向外側に沿ってタイヤ径方向に延在するゴム補強層を備え、前記ビードコアは、タイヤ周方向に巻回された少なくとも1本のビードワイヤからなり、子午線断面において前記ビードワイヤの複数の周回部分がタイヤ幅方向に並ぶ少なくとも1つの列とタイヤ径方向に重なる複数の層を形成しており、子午線断面における前記ビードワイヤの複数の周回部分の共通接線によって形成された多角形を前記ビードコアの外郭形状としたとき、前記外郭形状はタイヤ径方向外側に単一の頂点Qを有し、この頂点Qを挟む2辺が成す内角θ1が鋭角であり、且つ、前記外郭形状はタイヤ径方向内側に前記頂点Qに対向する位置でタイヤ幅方向に延在する底辺を有しており、前記第一カーカス層は、前記トレッド部から各サイドウォール部を経て各ビード部に至る本体部と、各ビード部において前記ビードコアの周縁に沿って屈曲しながら折り返された折り返し部とを有し、前記折り返し部は前記ビードコアと前記フィラー層との間を通って前記本体部と前記フィラー層との間の位置で終端し、前記コード補強層は、ゴム中に複数本の補強コードが埋設されて構成され、前記フィラー層のタイヤ径方向外端と重複するように前記第一カーカス層および前記フィラー層に沿ってタイヤ径方向に延在することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、ビードコアが上述の構造を有するため、外郭形状の頂点側ではビードワイヤの巻き数が減少する一方で、外郭形状の底辺側ではビードワイヤの巻き数が充分に確保されるので、ビードコアとして充分な性能を維持してタイヤの耐久性を確保しながら、ビードワイヤの使用量を低減してタイヤ重量の軽減を図ることができる。また、この形状のビードコアに沿って第一カーカス層が屈曲しながら折り返されるので、第一カーカス層の本体部と折り返し部とで囲まれた閉鎖領域内には実質的にビードコアのみが存在するようになり、ビードコア近傍のゴム量を削減してタイヤ重量を軽減することもできる。更に、第一カーカス層が屈曲しながら折り返されるにあたって、ビードコアが前述の単一の頂点を有する形状であるため、第一カーカス層が急激に屈曲して耐久性等に影響が出ることを回避することもできる。これに加えて、第一カーカス層の折り返し部が本体部とフィラー層に挟まれているので、第一カーカス層の端部への応力集中に起因する故障を防止することができ、例えば荷重耐久性を向上することができる。また、フィラー層のタイヤ径方向外端と重複するように第一カーカス層および前記フィラー層に沿ってコード補強層を設けているのでピンチカットを防止し、耐ピンチカット性を高めることができる。
【0009】
本発明では、コード補強層がフィラー層のタイヤ幅方向外側に配置された仕様にすることもできる。或いは、コード補強層がフィラー層のタイヤ幅方向内側に配置された仕様にすることもできる。いずれの仕様であっても、フィラー層のタイヤ径方向外端を含む領域をコード補強層で効果的に補強することができ、耐ピンチカット性を向上するには有利になる。
【0010】
本発明では、上述のように、第一カーカス層とコード補強層とフィラー層のタイヤ幅方向外側であって少なくともフィラー層のタイヤ径方向外端と重複する位置に、第一カーカス層とコード補強層とフィラー層のタイヤ幅方向外側に沿ってタイヤ径方向に延在するゴム補強層を設ける。このようなゴム補強層を設けることで、フィラー層のタイヤ径方向外端を含む領域を補強することができ、耐ピンチカット性を向上するには有利になる。
【0011】
このとき、ゴム補強層全体の長さα2と、ゴム補強層のフィラー層と重複する部分の長さα1とが、0≦α1/α2≦0.75の関係を満たすことが好ましい。これにより、ゴム補強層を適切な範囲に適度な量だけ設けることができ、タイヤ重量を軽減しながら耐ピンチカット性を向上するには有利になる。尚、α1/α2=0(即ち、α1=0)とは、ゴム補強層のタイヤ径方向内側端部とフィラー層のタイヤ径方向外側端部のタイヤ径方向の位置が一致している場合である。
【0012】
本発明では、コード補強層全体の長さβ2と、フィラー層のタイヤ径方向外端よりもタイヤ径方向外側に延在するコード補強層の部分の長さβ1とが、0.15≦β1/β2≦0.75の関係を満たすことが好ましい。これにより、コード補強層を適切な範囲に適度な量だけ設けることができ、タイヤ重量を軽減しながら耐ピンチカット性を向上するには有利になる。
【0013】
本発明では、第一カーカス層の他に、一対のビード部間に装架された第二カーカス層を備え、第二カーカス層は、第一カーカス層の外周側に配置されて第一カーカス層に沿ってトレッド部から各サイドウォール部を経て各ビード部に至り、フィラー層のタイヤ幅方向外側を通ってビードコアのタイヤ径方向内側に巻き込まれていることが好ましい。このように第二カーカス層を追加することで、サイドウォール部を補強して耐ピンチカット性を高めることができる。また、第二カーカス層によって第一カーカス層とフィラー層とが覆われるので、これによってもピンチカットを防止することができる。
【0014】
このとき、第一カーカス層および第二カーカス層を構成するカーカスコードがそれぞれタイヤ径方向に対して傾斜して配列されており、トレッド部のタイヤ幅方向中央位置で測定されるカーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度がそれぞれ80°~88°であり、第一カーカス層と第二カーカス層との層間でカーカスコードどうしが交差することが好ましい。このようにカーカスコードを交差させることで、2層のカーカス層によってサイドウォール部を効率的に補強することができ、耐ピンチカット性を向上するには有利になる。
【0016】
本発明では、ビードワイヤの少なくとも一部が俵積み状に積層されていることが好ましい。これにより、ビードワイヤが密に配されてビードワイヤの充填率が高まり、ビードコアの構造が最適化されるので、ビード部の剛性や耐圧性能を良好に確保して走行性能を維持しながら、タイヤ重量を軽減し、これら性能をバランスよく発揮するには有利になる。
【0017】
本発明において、各種寸法は、タイヤを正規リムにリム組みして、正規内圧を充填した状態で測定する。「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRAであれば“Design Rim”、或いはETRTOであれば“Measuring Rim”とする。「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRE OAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”であるが、タイヤが乗用車用である場合には180kPaとする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの子午線半断面図である。
図2】本発明の別の実施形態からなる空気入りタイヤの子午線半断面図である。
図3】本発明の別の実施形態からなる空気入りタイヤのビード部を示す断面図である。
図4】本発明の別の実施形態からなる空気入りタイヤのビード部を示す断面図である。
図5】本発明の別の実施形態からなるビードコアの模式図である。
図6】本発明の別の実施形態からなるビードコアの模式図である。
図7】本発明の別の実施形態からなる空気入りタイヤのビード部を示す断面図である。
図8】本発明の別の実施形態からなる空気入りタイヤのビード部を示す断面図である。
図9】本発明の別の実施形態からなる空気入りタイヤのビード部を示す断面図である。
図10】従来例のビード構造を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
図1,2に示すように、本発明の空気入りタイヤは、トレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。図1において、符号CLはタイヤ赤道を示す。尚、図1は子午線断面図であるため描写されないが、トレッド部1、サイドウォール部2、ビード部3は、それぞれタイヤ周方向に延在して環状を成しており、これにより空気入りタイヤのトロイダル状の基本構造が構成される。また、子午線断面図における他のタイヤ構成部材についても、特に断りがない限り、タイヤ周方向に延在して環状を成している。
【0021】
図示の例では、左右一対のビード部3の間に2層のカーカス層(第一カーカス層41、第二カーカス層42)が装架されている。第一カーカス層41は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コード(カーカスコード)を含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りに車両内側から外側に折り返されている。以降の説明では、トレッド部1から各サイドウォール部2を経て各ビード部3に至る第一カーカス層41の部分を本体部41A、各ビード部3においてビードコア5の廻りに折り返されて各サイドウォール部2側に向かって延在する第一カーカス層41の部分を41Bという。第二カーカス層42は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コード(カーカスコード)を含み、第一カーカス層41の外周側に配置されて第一カーカス層41に沿ってトレッド部1から各サイドウォール部2を経て各ビード部3に至り、後述のフィラー層6のタイヤ幅方向外側を通ってビードコアのタイヤ径方向内側に巻き込まれている。第二カーカス層42は、主として耐ピンチカット性を高めるために任意で追加可能な部材であり、本発明では、図3,4に示すように、第一カーカス層41のみを設けた構造にすることもできる。図3は、カーカス層が1層のみ(第一カーカス層41のみ)であること以外は基本的に図1と同じ構造であり、図4は、カーカス層が1層のみ(第一カーカス層41のみ)であること以外は基本的に図2と同じ構造である。
【0022】
ビードコア5は、タイヤ周方向に巻回された少なくとも1本のビードワイヤ5Aからなり、ビードワイヤ5Aの複数の周回部分がタイヤ幅方向に並ぶ少なくとも1つの列とタイヤ径方向に重なる複数の層を形成している。本発明では、子午線断面において上記のようにビードワイヤ5Aの複数の周回部分が列と層を形成していれば、単一のビードワイヤ5Aを連続的に巻回した所謂一本巻き構造であっても、複数本のビードワイヤ5Aを引き揃えた状態で巻回した所謂層巻き構造であってもよい。図1~4の例では、タイヤ径方向最内側から順に4列の周回部分を含む層、3列の周回部分を含む層、2列の周回部分を含む層、1列の周回部分を含む層の計4層が積層された構造を有する。尚、以降の説明では、この構造を「4+3+2+1構造」という。同様に、以降の説明では、ビードワイヤ5Aの積層構造を、各層に含まれる列の数をタイヤ径方向最内側の層から順に「+」で繋いだ同様の形式で表現する。
【0023】
更に、図1~4の例のビードコア5では、ビードワイヤ5Aが直列積みで積層されている。「直列積み」とは、タイヤ径方向に隣接する周回部分どうしが、周回部分の各層(タイヤ幅方向)に対して垂直に積層された構造である。これに対して、図5に示すように、ビードワイヤ5Aを俵積み状に積層してビードコア5を形成することもできる。「俵積み」とは、互いに接している3つの周回部分の中心が略正三角形を形成する積み方であり、六方充填配置と呼称されることもある充填率の高い積層構造である。尚、図5の例のビードコア5は、3+4+3+2+1構造を有している。これら構造を比較すると、俵積みの方が、ビードワイヤ5Aが密に配されてビードワイヤ5Aの充填率が高まり、ビードコア5の構造が最適化されるので、ビード部3の剛性や耐圧性能を良好に確保して走行性能を維持しながら、タイヤ重量を軽減し、これら性能をバランスよく発揮するには有利である。
【0024】
各ビードコア5について、子午線断面におけるビードワイヤ5Aの複数の周回部分の共通接線によって形成された多角形をビードコア5の外郭形状(図中の破線)とすると、この外郭形状はタイヤ径方向外側に単一の頂点Qを有すると共に、タイヤ径方向内側にこの頂点Qと対向する位置でタイヤは幅方向に伸びる底辺を有している。例えば、図5の例のビードコア5は、上述の3+4+3+2+1構造を有するため五角形の外郭形状を有している。本発明では、頂点Qを挟む2辺が成す内角θ1が必ず鋭角(好ましくは60°±20°)であり、ビードコア5全体としては最大幅となる部位からタイヤ径方向外側に向かって徐々に幅が狭まる先細り形状を有している(以下、この形状を指して「外径側楔形状」という場合がある)。尚、図1~4のビードコア5の外郭形状は、ビードトウ側に直角が配置された直角三角形状である。
【0025】
第一カーカス層41は、上記のようにビードコア5の廻りに折り返されるものであるが、本発明のビードコア5は上述のように特殊な形状(外径側楔形状)を有するため、第一カーカス層41はビードコア5の周縁に沿って屈曲する。例えば、図1~4の例では、ビードコア5が上述の設定を満たす結果、断面形状が略直角三角形状になっているため、その周縁に沿って延在する第一カーカス層41も略直角三角形状に屈曲している。更に、第一カーカス層41の折り返し部41Bのビードコア5のタイヤ径方向外側端よりもタイヤ径方向外側の部分は、第一カーカス層41の本体部41Aに接触しながら第一カーカス層41の本体部41Aに沿って各サイドウォール部2側に向かって延在している。その結果、第一カーカス層41の本体部41Aと折り返し部41Bとによって、ビードコア5を囲む閉鎖領域が形成されている。
【0026】
本発明のビード部3では、ビードコア5よりもタイヤ径方向外側であって第一カーカス層41のタイヤ幅方向外側にフィラー層6が設けられる。本発明では、上述のビードコア5の形状によってタイヤ重量の軽量化が達成できるので、フィラー層6を有していても、一般的な形状のビードコアを備えた従来の空気入りタイヤよりはタイヤ重量を軽減できる。また、フィラー層6は、従来のビードフィラーと異なり、ビードコア5と共にカーカス層の本体部と折り返し部との間に挟まれることでビード部3の剛性を高めるものではなく、主としてビードコア5の周縁に沿って折り返された第一カーカス層の41の折り返し部の端部を覆って、応力集中を抑制するための層である。そのため、従来のビードフィラーよりも使用量を抑えることもでき、それによって更なるタイヤ重量の軽減を図ることも可能である。フィラー層6は、第一カーカス層41のタイヤ幅方向外側に配置されるので、第一カーカス層41の折り返し部41Bはビードコア5とフィラー層6との間を通って本体部41Aとフィラー層6との間の位置で終端することになる。また、第二カーカス層42は、上述のように第一カーカス層41に沿ってトレッド部1から各サイドウォール部2を経て各ビード部3に至り、このフィラー層6のタイヤ幅方向外側を通り、フィラー層6の耐幅方向外側の外縁に沿って延在して、ビードコア5のタイヤ径方向内側に巻き込まれている。
【0027】
フィラー層6に隣接する位置には、ゴム中にコードが埋設されて構成されたコード補強層7が設けられる。図1,3の例では、フィラー層6のタイヤ径方向外側に沿うようにコード補強層7が設けられ、図2,4の例では、フィラー層6のタイヤ径方向内側に沿うようにコード補強層7が設けられる。いずれの場合も、コード補強層7は、少なくともフィラー層6のタイヤ径方向外端と重複する位置で、隣接するタイヤ構成部材に沿ってタイヤ径方向に延在するように設けられる。コード補強層7を構成するコードとしては、例えばナイロン、スチール、ケブラーを用いることができる。
【0028】
トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(図示の例では2層)のベルト層8が埋設されている。各ベルト層8は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含む。この補強コードは層間で補強コードどうしが互いに交差するように配列されている。これらベルト層8において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。更に、ベルト層8の外周側にはベルト補強層9が設けられている。特に、図示の例では、ベルト層8の全幅を覆う所謂フルカバー層が設けられている。ベルト補強層9は、タイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含む。ベルト補強層9において、有機繊維コードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°~5°に設定されている。
【0029】
本発明では、ビードコア5が上述のように特殊な形状(外径側楔形状)を有するため、外郭形状の頂点Q側ではビードワイヤ5Aの巻き数が減少する一方で、外郭形状の底辺側ではビードワイヤの巻き数が充分に確保されるので、ビードコア5として充分な性能を維持してタイヤの耐久性を確保しながら、ビードワイヤ5Aの使用量を低減してタイヤ重量の軽減を図ることができる。また、この形状のビードコア5に沿って第一カーカス層41が屈曲しながら折り返されるので、第一カーカス層41の本体部41Aと折り返し部41Bとで囲まれた閉鎖領域内には実質的にビードコア5のみが存在するようになり、ビードコア5近傍のゴム量を削減してタイヤ重量を軽減することもできる。更に、第一カーカス層41が屈曲しながら折り返されるにあたって、ビードコア5が前述の単一の頂点を有する形状であるため、第一カーカス層41が急激に屈曲して耐久性等に影響が出ることを回避することもできる。これに加えて、第一カーカス層41の折り返し部41Bは本体部41Aとフィラー層6に挟まれているので、第一カーカス層41の端部への応力集中に起因する故障を防止することができる。また、フィラー層6のタイヤ径方向外端と重複するように第一カーカス層41およびフィラー層6に沿ってコード補強層7を設けているのでピンチカットを防止し、耐ピンチカット性を高めることができる。
【0030】
上述の構造において、内角θ1が鈍角であると、カーカス層4をビードコア5の廻りに適切に折り返すためには、ビードコア5のタイヤ径方向外側に従来のビードフィラーやそれに類するゴム部材を追加配置する必要が生じるため、タイヤ重量を効果的に低減することが難しくなる。第一カーカス層41(本体部41Aおよび折り返し部41B)、ビードコア5、フィラー層6、コード補強層7の配置が上述の位置関係を満たさないと、ビード部3の構造を良好にすることができず、カーカス層の端部への応力集中を充分に防止することができず、また、耐ピンチカット性を充分に高めることができない。尚、図4のようにフィラー層6のタイヤ径方向内側にコード補強層7が設けられて、第二カーカス層42が設けられていない場合であっても、縁石等の段差に乗り上げた際にフィラー層6のタイヤ径方向外端にかかる負荷をコード補強層7によって抑えることができ、このフィラー層6のタイヤ径方向外端を起点としたピンチカットを防止することができる。
【0031】
コード補強層7は少なくともフィラー層6のタイヤ径方向外端と重複する位置に設ければよいが、コード補強層7全体の長さβ2と、フィラー層6のタイヤ径方向外端よりもタイヤ径方向外側に延在するコード補強層10の部分の長さβ1とが、0.15≦β1/β2≦0.75の関係を満たすことが好ましい。尚、長さβ1,β2は、それぞれタイヤ径方向に沿った長さである。このように長さβ1,β2を設定することで、コード補強層7を適切な範囲に適度な量だけ設けることができ、タイヤ重量を軽減しながら耐ピンチカット性を向上するには有利になる。これら長さの関係が0.15>β1/β2であると、コード補強層7がフィラー層6のタイヤ径方向外端を超えて延在する部分が少なくなり、適切な範囲を充分に被覆できないため、コード補強層7によって耐ピンチカット性を向上する効果が限定的になる。これら長さの関係がβ1/β2>0.75であると、コード補強層7とフィラー層6とが充分に重複せず、適切な範囲を充分に被覆できないため、コード補強層7によって耐ピンチカット性を向上する効果が限定的になる。
【0032】
各ビードコア5は、図5に示すように、ビードコア5の最大幅をW0、タイヤ径方向最内側の層の幅をW1、タイヤ径方向最外側の層の幅をW2とすると、これら幅がW1>W2かつW2≦0.5×W0の関係を満たしているとよい。また、ビードコア5を構成する複数の層のうち最大幅W0となる層がビードコア5のタイヤ径方向中心位置よりもタイヤ径方向内側に位置しているとよい。尚、幅W0~W2はいずれも、図示のように、各層のタイヤ幅方向両外側の周回部分のタイヤ幅方向外側端間のタイヤ幅方向に沿った長さである。幅W0、W1、W2が上述の関係を満たさないとビードコア5の形状が不適当になりビード部3の形状を安定させることができない。特に、W1≦W2やW2>0.5×W0という関係であると、ビードコア5の上端の幅が大きくなるため、リムフランジが当接する部位の近傍の剛性が高まってリムフランジが当接する部位を支点とした回転力に起因するリム外れを抑制することが難しくなり耐リム外れ性が低下する。
【0033】
ビードコア5の具体的な形状は、上述の関係を満たしていれば、特に限定されない。例えば、図4に示す形状を採用することができる。図6の例は、いずれも上述の関係を満たすので、本発明の「外径楔形状」に該当するものである。詳述すると、図6(a)は俵積みの5+4+3+2+1構造を有し、図6(b)は俵積みの4+5+4+3+2+1構造を有し、図6(c)は俵積みの3+4+4+3+2+1構造を有し、図6(d)はタイヤ径方向最内側から2番目の層とそのタイヤ径方向内側に隣接する層とが俵積みではなく直列積みになった3+4+4+3+2+1構造を有する。
【0034】
このような様々な形状のビードコア5のなかでも、外郭形状の底辺の両端に位置する角部の内角θ2が好ましくは90°以上、より好ましくは100°以上150°以下であるとよい。即ち、図6の例の中では、図6(b)~(d)の構造が好ましい。このように内角θ2を設定することで、加硫時にビードワイヤ5Aの配列が乱れることを防止して加硫後のビードコア5の形状を良好にすることができ、優れた剛性を確保しながらタイヤ重量を軽減するには有利になる。内角θ2が90°未満であるとビードワイヤ5Aの巻き数を充分に減少することができずタイヤ重量の軽減効果が低下する。また、内角θ2が90°未満であると外郭形状の底辺の両端に位置するビードワイヤ5Aが加硫時のゴム流れの影響を受け易くなり、加硫後のビードコア5の形状を良好に維持することが難しくなる。
【0035】
図6に示したいずれの構造も、少なくとも一部が俵積み状に積層されているため、全体が直列積みで積層された構造のビードワイヤよりも、ビードワイヤ5Aを密に配してビードワイヤ5Aの充填率を高めることができる。その結果、ビード部3の剛性や耐圧性能を良好に確保して走行性能を維持しながら、タイヤ重量を軽減し、これら性能をバランスよく発揮することができる。ビードワイヤ5Aの充填率に着目すると、図6(a)~(c)のようにすべてのビードワイヤ5Aが俵積み状に積層されることが好ましい。
【0036】
また、ビードコア5の形状に関して、ビードコア5全体の形状の安定性を高めるには、ビードコア5全体の形状をビードコア5のタイヤ幅方向中心に対して線対称にすることが好ましい。この観点からは、図6(a),(b),(d)のような形状が好ましい。
【0037】
これら様々なビードコア5の形状は、上述の様々な観点に基づいて、空気入りタイヤ全体の構造や重視する特性等を考慮して適宜選択することができる。
【0038】
ビードワイヤ5A自体の構造については特に限定されないが、タイヤ重量の軽減と耐リム外れ性の向上を両立すること鑑みると、平均直径を好ましくは0.8mm~1.8mm、より好ましくは1.0mm~1.6mm、更に好ましくは1.1mm~1.5mmにするとよい。また、ビードワイヤ5Aの総断面積(各ビードコア5の子午線断面に含まれるビードワイヤ5Aの周回部分の断面積の総和)を好ましくは10mm2 ~50mm2 、より好ましくは15mm2 ~48mm2 、更に好ましくは20mm2 ~45mm2 にするとよい。ビードワイヤ5Aの平均直径が0.8mmよりも小さいと耐リム外れ性を向上する効果が限定的になり、ビードワイヤ5Aの平均直径が1.8mmよりも大きいとタイヤ重量を軽減する効果が限定的になる。ビードワイヤ5Aの総断面積が10mm2 よりも小さいと耐リム外れ性を向上する効果が限定的になり、ビードワイヤ5Aの総断面積が50mm2 よりも大きいとタイヤ重量を軽減する効果が限定的になる。
【0039】
上述のように、本発明では、第一カーカス層41の本体部41Aと折り返し部41Bとによって形成された閉鎖領域には、実質的にビードコア5のみが存在しており、従来の空気入りタイヤで用いられるようなビードフィラーまたはそれに類するタイヤ構成部材(ビードコア5のタイヤ径方向外側に配置されて第一カーカス層41の本体部41Aと折り返し部41Bとによって包み込まれてビード部3からサイドウォール部2にかけての剛性を高める部材)は配置されない。即ち、ビードワイヤ5Aを被覆するインシュレーションゴムや、ビードコア5と第一カーカス層41との間に形成される僅かな隙間を埋めるゴムは存在しても、従来の空気入りタイヤのような大きな体積を有するビードフィラーは用いられない。このような実質的なビードフィラーレス構造によって、フィラー層6を有していてもタイヤ重量を効果的に軽減することができる。このとき、子午線断面における閉鎖領域の面積Aに対する閉鎖領域内に存在するゴムの総面積aの比率(a/A×100%)を閉鎖領域のゴム占有率とすると、このゴム占有率が好ましくは15%以下、より好ましくは0.1%~15%であることが好ましい。閉鎖領域のゴム占有率が15%よりも大きいと、実質的に従来の空気入りタイヤのビードフィラーが存在する場合と同等になり、タイヤ重量の軽減効果を更に高めることは難しくなる。尚、ビードコア5に関して通常用いられるゴム(ビードワイヤ5Aを被覆するインシュレーションゴム等)を考慮すると、閉鎖領域のゴム占有率は基本的に0.1%未満になることはない。
【0040】
本発明では、上述のように少なくとも第一カーカス層41を有していればよいが、好ましくは第一カーカス層41および第二カーカス層42の2層を設けるとよい。このように2層のカーカス層(第一カーカス層41および第二カーカス層42)を設ける場合、これらカーカス層を構成するカーカスコードをタイヤ径方向に対して傾斜して配列し、第一カーカス層41と第二カーカス層42との層間でカーカスコードどうしを交差させることが好ましい。具体的には、トレッド部のタイヤ幅方向中央位置で測定されるカーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度をそれぞれ好ましくは80°~88°にするとよい。このようにカーカスコードを傾斜させることで、第一カーカス層41と第二カーカス層42の交差構造によってサイドウォール部2を効率的に補強することができ、耐ピンチカット性を向上するには有利になる。カーカスコードの傾斜角度が80°未満であると、カーカスコードがタイヤ径方向に対して極度に傾斜するためタイヤの基本構造を維持することが難しくなる。カーカスコードの傾斜角度が88°を超えると、カーカスコードをタイヤ径方向に対して傾斜させない場合と実質的な差がなくなるため、カーカス層を交差させることによる効果が得られなくなる。
【0041】
第一カーカス層41の折り返し部41Bは、上述のように本体部41Aとフィラー層6との間の位置で終端する。言い換えると、第一カーカス層41の折り返し部41Bの端部は、フィラー層6のタイヤ径方向外端よりもタイヤ径方向内側に位置する。その際、フィラー層6のタイヤ径方向外端から折り返し部41Bの端部までのタイヤ径方向に沿った長さhが、フィラー層6のタイヤ径方向に沿った長さHの好ましくは25%~50%であるとよい。これにより、折り返し部41Bの終端位置を最適化することができ、折り返し部41Bの端部における応力集中を抑制し、且つ、耐ピンチカット性を向上することができる。
【0042】
本発明では、上述の構造によってタイヤ重量を充分に軽減しているので、上述の構造による軽量化の効果を相殺せずにタイヤ重量の軽減効果を維持できる範囲であれば、ピンチカットを防止するための補強部材を追加することもできる。
【0043】
例えば、図7~9の例のように、第一カーカス層41とフィラー層6とコード補強層7のタイヤ幅方向外側であって少なくともフィラー層6のタイヤ径方向外端と重複する位置に、第一カーカス層41とフィラー層6とコード補強層7のタイヤ幅方向外側に沿ってタイヤ径方向に延在するゴム補強層10を設けることもできる。図7は、第二カーカス層42を有さない図3,4の構造に対してゴム補強層10が追加された例であり、図7(a)では、コード補強層7がフィラー層6のタイヤ幅方向外側に配置され、図7(b)では、コード補強層7がフィラー層6のタイヤ幅方向内側に配置される。図8は、第二カーカス層42を備えた図1,2の構造に対してゴム補強層10が追加された例であり、ゴム補強層10は第二カーカス層42よりもタイヤ幅方向外側に配置され、図8(a)では、コード補強層7がフィラー層6のタイヤ幅方向外側に配置され、図8(b)では、コード補強層7がフィラー層6のタイヤ幅方向内側に配置される。図9は、第二カーカス層42を備えた図1,2の構造に対してゴム補強層10が追加された例であり、ゴム補強層10は第二カーカス層42よりもタイヤ幅方向内側(フィラー層6および第一カーカス層41と第二カーカス層42との間)に配置され、図9(a)では、コード補強層7がフィラー層6のタイヤ幅方向外側に配置され、図9(b)では、コード補強層7がフィラー層6のタイヤ幅方向内側に配置される。
【0044】
このようにゴム補強層10を設けることで、図7~9のいずれの態様であっても、フィラー層6のタイヤ径方向外端を含む領域を補強することができ、耐ピンチカット性を向上するには有利になる。尚、ゴム補強層10は、コード補強層7(ゴム中にコードが埋設された補強層)と異なり、ゴムのみで構成された補強層である。ゴム補強層10を構成するゴムは、フィラー層6を構成するゴムの硬度と同程度とよい。具体的には、フィラー層6を構成するゴムの硬度、ゴム補強層10を構成するゴムの硬度は例えば65~100であるとよい。
【0045】
このようにゴム補強層10を設ける場合、ゴム補強層10全体の長さα2と、ゴム補強層10のフィラー層6と重複する部分の長さα1とが、好ましくは0≦α1/α2≦0.75、より好ましくは0.05≦α1/α2≦0.75の関係を満たすとよい。尚、長さα1,α2は、それぞれタイヤ径方向に沿った長さである。このように長さα1,α2を設定することで、ゴム補強層10を適切な範囲に適度な量だけ設けることができ、タイヤ重量を軽減しながら耐ピンチカット性を向上するには有利になる。これら長さの関係が0.01>α1/α2であると、ゴム補強層10とフィラー層6とが充分に重複せず、適切な範囲を充分に被覆できないため、ゴム補強層10によって耐ピンチカット性を向上する効果が限定的になる。これら長さの関係がα1/α2>0.75であると、ゴム補強層10がフィラー層6のタイヤ径方向外端を超えて延在する部分が少なくなり、適切な範囲を充分に被覆できないため、ゴム補強層10によって耐ピンチカット性を向上する効果が限定的になる。
【0046】
上述の各部の構造は適宜組み合わせて採用することができる。いずれにしても、上述の構造を有する空気入りタイヤでは、ビード部3の構造が改善されるので、カーカス層の端部への応力集中に起因する故障や、サイドウォール部2におけるピンチカットの発生を効果的に抑制しながらタイヤ重量を軽減することができる。
【実施例
【0047】
タイヤサイズが205/55R16であり、図1に示す基本構造を有し、ビードコアの構造、カーカス層の枚数、カーカス層を構成するカーカスコードのタイヤ周方向に対する角度、ビードフィラーの有無、フィラー層の有無、ゴム補強層の有無、ゴム補強層のフィラー層と重複する部分の長さα1とゴム補強層全体の長さα2との比α1/α2、コード補強層の有無、コード補強層の位置、フィラー層のタイヤ径方向外端よりもタイヤ径方向外側に延在するコード補強層の部分の長さβ1とコード補強層全体の長さβ2との比β1/β2、第一カーカス層の本体部と折り返し部とで形成された閉鎖領域の面積に対する閉鎖領域内に存在するゴムの総面積の比率(ゴム占有率)を表1~3のように設定して、従来例1、比較例1~2、実施例1~29の32種類の空気入りタイヤを作製した(尚、ゴム補強層を備えない実施例1~12および19~27は参考例である)
【0048】
表1~3の「ビードコア構造」の欄については、対応する図面の番号を示した。尚、従来例1は、従来の一般的なビードコアを用いた例であり、ビードコアは図10に示すように直列積みに積層された5+5+5+5構造を有する。また、この「ビードコア構造」の欄に関して、カーカス層、フィラー層、コード補強層、ゴム補強層の配置について該当する図面が存在する場合は、その図面の番号を示した。例えば、ゴム補強層を有する実施例13~18では、ゴム補強層が第二カーカス層よりもタイヤ幅方向内側に配置されるため、対応する図番(図9(a)または図9(b))を示し、実施例28~29では、ゴム補強層が第二カーカス層よりもタイヤ幅方向外側に配置されるため、対応する図番(図8(a)または図8(b))を示した。
【0049】
表1~3の「カーカス角度」の欄について、2層のカーカス層(第一カーカス層および第二カーカス層)を有する実施例2~29では各層の数値を併記した。尚、カーカスコードがタイヤ幅方向に対して傾斜しており、カーカス角度が90°以外である実施例19~29では、いずれも層間でカーカスコードが交差している。
【0050】
表1~3の「コード補強層の位置」の欄は、コード補強層がフィラー層のタイヤ幅方向内側または外側のいずれに配置されるかを示し、コード補強層がフィラー層のタイヤ幅方向内側に配置される場合を「内側」、タイヤ幅方向外側に配置される場合を「外側」と表示した。
【0051】
これら空気入りタイヤについて、下記の評価方法により、タイヤ質量、荷重耐久性、耐ピンチカット性を評価し、その結果を表1~3に併せて示した。
【0052】
タイヤ質量
各試験タイヤについて5本の質量を測定し、その平均値を求めた。評価結果は、従来例1の値を100とする指数にて示した。この指数値が小さいほどタイヤ質量が小さいことを意味する。
【0053】
荷重耐久性
各試験タイヤをリムサイズ16×6.5のホイールに組み付けて、空気圧300kPaを充填して、JIS D4230の耐久性能試験に準拠して、室内ドラム試験機(ドラム径:1707mm)を用いて、周辺温度38±3℃、走行速度81km/hの条件で、負荷荷重をJATMA規定の最大荷重の85%から4時間毎に15%ずつ増加させて、タイヤが破壊するまでの走行距離を測定した。尚、負荷荷重がJATMA規定の最大荷重の280%に達した場合は、それを最終荷重として故障するまで走行させた。評価結果は、従来例1の測定値を100とする指数で示した。この指数値が大きいほど荷重耐久性が優れていることを意味する。
【0054】
耐ピンチカット性
各試験タイヤをリムサイズ16×6.5のホイールに組み付けて、空気圧200kPaを充填し、排気量2.0Lの試験車両に装着し、速度10km/h~高さ110mmの縁石に対して30°の角度で進入させて、この縁石を乗り越したときのタイヤサイドウォール部の損傷の程度(損傷の長さおよび深さ)を評価した。評価結果は、測定値の逆数を用い、従来例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど、損傷の長さおよび深さが小さく、耐ピンチカット性が良好であることを意味する。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
表1~3から明らかなように、実施例1~29はいずれも、従来例1に対して、タイヤ質量を軽量に維持しながら、荷重耐久性および耐ピンチカット性を向上した。尚、実施例2~29は、タイヤ重量が従来例1と同程度になっているが、実施例2~29と同様に2層のカーカス層を備えた比較例1と比較すれば充分にタイヤ重量を軽減できている。比較例1は、2層のカーカス層を有するが、ビードコアが従来の5+5+5+5構造であるため、荷重耐久性および耐ピンチカット性を向上できても、タイヤ質量が大幅に増加した。比較例2は、コード補強層を備えないため、耐ピンチカット性が悪化した。
【符号の説明】
【0059】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
41 第一カーカス層
41A 本体部
41B 折り返し部
42 第二カーカス層
5 ビードコア
6 フィラー層
7 コード補強層
8 ベルト層
9 ベルト補強層
10 ゴム補強層
CL タイヤ赤道
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10