(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】光モジュール、及び制御方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/01 20060101AFI20220628BHJP
H04B 10/67 20130101ALI20220628BHJP
H04B 10/075 20130101ALI20220628BHJP
【FI】
G02F1/01 B
H04B10/67
H04B10/075
(21)【出願番号】P 2018108664
(22)【出願日】2018-06-06
【審査請求日】2021-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】309015134
【氏名又は名称】富士通オプティカルコンポーネンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】戸田 帆志彦
(72)【発明者】
【氏名】石井 俊雄
【審査官】野口 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-105221(JP,A)
【文献】特開2002-208893(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0133649(US,A1)
【文献】特開平05-257186(JP,A)
【文献】特開2002-365678(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0277053(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第101141219(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
1/21-7/00
H04B 10/00-10/90
H04J 14/00-14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の波長が多重された光信号を増幅する光増幅器と、
前記光増幅器により増幅された前記光信号から、前記複数の波長を分離する分波器と、
前記光増幅器の入力側で前記光信号をモニタする第1の光検出器と、
前記分波器の出力側で、前記複数の波長のそれぞれをモニタする第2の光検出器と、
前記第1の光検出器の
第1のモニタパワーと、前記第2の光検出器の
第2のモニタパワーに基づいて、前記分波器のフィルタ中心波長を制御する制御回路と、
を有
し、
前記制御回路は、前記フィルタ中心波長の制御により、前記第1のモニタパワーの変動量が第1の閾値よりも小さくなったときに、前記第2のモニタパワーの最新の測定値に基づいて、前記フィルタ中心波長を調整することを特徴とする光モジュール。
【請求項2】
前記光増幅器と前記分波器は同一の基板に実装されていることを特徴とする請求項1に記載の光モジュール。
【請求項3】
前記分波器は、シリコン光導波路で形成されるフィルタ素子を有し、
前記制御回路は、前記シリコン光導波路の屈折率を制御して前記フィルタ中心波長を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の光モジュール。
【請求項4】
前記光増幅器の入力側に配置され、前記光信号の帯域を大まかに分割する波長フィルタ、
をさらに有し、
前記光増幅器は、分割された前記帯域の信号光成分のそれぞれに設けられることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の光モジュール。
【請求項5】
前記第1の光検出器は、前記波長フィルタの入力側に接続されることを特徴とする請求項4に記載の光モジュール。
【請求項6】
前記制御回路は、前記フィルタ中心波長を第1方向へ所定量シフトさせて前記第1のモニタパワーの変動量を測定し、前記第1のモニタパワーの変動量が第1の閾値に達するか前記第1の閾値を超えたときに、前記フィルタ中心波長を前記第1方向と逆方向の第2方向にシフトさせて前回の中心波長位置に戻すことを特徴とする請求項1に記載の光モジュール。
【請求項7】
複数の波長が多重された光信号を増幅する光増幅器と、前記光増幅器により増幅された前記光信号から前記複数の波長を分離する分波器とを有する光モジュールの制御方法において、
前記光増幅器の入力側で前記光信号をモニタして第1のモニタパワーを測定し、
前記分波器の出力側で、前記複数の波長のそれぞれをモニタして第2のモニタパワーを測定し、
前記第1のモニタパワーと前記第2のモニタパワーに基づいて、前記分波器のフィルタ中心波長を調整
し、
前記フィルタ中心波長の調整は、前記第1のモニタパワーの変動量が第1の閾値よりも小さくなったときに、前記第2のモニタパワーの最新の測定値に基づいて、前記フィルタ中心波長を調整することを特徴とする制御方法。
【請求項8】
前記フィルタ中心波長の調整は、前記フィルタ中心波長を第1方向へ所定量シフトさせて前記第1のモニタパワーの変動量を測定し、前記第1のモニタパワーの変動量が第1の閾値に達するか前記第1の閾値を超えたときに、前記フィルタ中心波長を
前記第1方向と逆方向の第2方向にシフトさせて前回の中心波長位置に戻
すことを特徴とする請求項
7に記載の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光モジュール、及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報通信量の増大により、400Gbpsイーサネット(400GE)に対応した光モジュールの開発が進められている。400GEの規格の一つには、4値パルス振幅変調(PAM4)の波長多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)方式により、ビットレートを増やしているものもある。400GEの現在のターゲットは、主に短距離である2Km、10Kmであるが、10Kmを超える40Kmといった長距離の光通信についても規格化の議論が始まろうとしている。長距離化では、100Gbpsイーサネットの40Km伝送の標準規格であるER4規格と同様に、光アンプを利用して、ダイナミックレンジを確保する方式も検討され得る。
【0003】
図1は、WDM方式の受信フロントエンドの模式図である。受信器内に可変光減衰器(VOA:Variable Optical Attenuator)と半導体光アンプ(SOA:Semiconductor Optical Amplifier)を備える。小電力信号の受信時はSOAで一括して増幅し、大電力信号の受信時はVOAで一括して減衰させ、分波後に、フォトダイオード(PD)等の受光素子で各波長の光を受光してダイナミックレンジを確保する。
【0004】
WDMシステムでは、一般的に光フィルタを用いて分波している。SOAで受信信号光を一括増幅すると、
図1の状態(A)及び(B)に示すように、ASE(Amplified Spontaneous Emission:自然放射増幅)光が増大し、状態(C)のように受光感度が低下する。
【0005】
受光素子へのASE(Amplified Spontaneous Emission:自然放射増幅)光の漏れ込みを適応的に抑制する構成が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光雑音による受信感度の低下は、多値変調の多値数が増えると一層深刻になる。多値変調の場合、二値変調に比べて信号対雑音比が低下し、ASE雑音が受信感度の低下に与える影響が大きくなる。たとえばLAN-WDM用の分波器または波長フィルタでは、入力光の波長レンジをカバーするために6~7nm程度の帯域幅を有し、ASE雑音を十分に除去することができない(
図1の状態(C)参照)。CWDM(Coarse-WDM)では伝送波長の間隔がさらに広く、分波器の帯域幅が30nm程度になる場合もあり、ASE雑音カット機能がいっそう劣る。
【0008】
狭帯域の波長フィルタを使用することでASE雑音を低減することができるが、規格で決まる波長レンジ全体をカバーできないことから、波長変動が起きると信号光が透過域からはずれて、通信が成立しなくなるおそれがある。
【0009】
本発明は、ASE雑音による受信感度の劣化を低減することのできる光モジュールと制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一つの態様では、光モジュールは、
複数の波長が多重された光信号を増幅する光増幅器と、
前記光増幅器により増幅された前記光信号から、前記複数の波長を分離する分波器と、
前記光増幅器の入力側で前記光信号をモニタする第1の光検出器と、
前記分波器の出力側で、前記複数の波長のそれぞれをモニタする第2の光検出器と、
前記第1の光検出器の出力と、前記第2の光検出器の出力に基づいて、前記分波器のフィルタ中心波長を制御する制御回路と、
を有する。
【発明の効果】
【0011】
光通信の受信フロントエンドで、ASE雑音による受信感度の劣化を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一般的なWDM方式の受信フロントエンドの模式図である。
【
図2】第1実施形態の光モジュールの概略図である。
【
図3】波長分離プラットフォームを有する光モジュールの構成例を示す図である。
【
図4】起動時の初期中心波長の制御フローを示す図である。
【
図5】
図4のフローでモニタ結果の記録例を示す図である。
【
図6】起動時の初期中心波長の制御フローの別の例を示す図である。
【
図7】運用中の波長可変フィルタの制御の概念図である。
【
図8】
図7の制御概念の具体例を示すフローチャートである。
【
図9】
図8の短波長側へのシフト制御(S134)の詳細なフローを示す図である。
【
図10】
図8の長波長側へのシフト制御(S137)の詳細なフローを示す図である。
【
図11】運用中の波長可変フィルタの別の制御例の概念図である。
【
図12】
図11の制御概念の具体例を示すフローチャートである。
【
図13】第2実施形態の光モジュールの概略図である。
【
図14】パッケージ化した光モジュールの例を示す図である。
【
図16】リング型フィルタのバリエーションを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施形態では、SOAの前段での受信光のモニタ結果と、光増幅及び分波後の各波長の光のモニタ結果とに基づいて、分波器の通過帯域の中心波長を調整することで、ASE雑音による受信感度の劣化を低減する。
【0014】
また、SOAと分波器を同じプラットフォームに実装することで小型の光モジュールを実現する。
【0015】
<第1実施形態>
図2は、第1実施形態の光モジュール10の概略図である。光モジュール10は、たとえば光アンプ内蔵の小型の光受信モジュールである。光モジュール10は、波長分離プラットフォーム13、制御IC(Integrated Circuit:集積回路)20、PD12、及びPD16-1~16-mを有する。
【0016】
波長分離プラットフォーム13は、同一基板上に実装されたSOA14と、分波器(図中「光Demux」と表記)15を有する。PD12は、SOA14の前段で入射光の一部を分岐して、入射光の強度をモニタする。PD16-1~16-m(適宜、「PD16」と総称する)は、分波器15の出力に光学的に接続されて、各波長(λ0~λm-1)の光をモニタする。
【0017】
波長分離プラットフォーム13の前段に、VOA11が設けられていてもよい。VOA11は、大電力の光信号が受信されたときに、受信光の強度を光モジュール10の最小受信感度を超える光強度に減衰する。光信号は、たとえば複数波長の光が多重されたWDM信号である。必要に応じてVOA11で適切なレベルに減衰されたWDM信号の一部は、SOA14の前段で分岐されてPD12で受光され、PDinが検出される。モニタ用の光成分を除くWDM主信号は、SOA14により一括増幅され、伝送路での光損失が補償される。
【0018】
光増幅後に、信号光は分波器15によって各波長成分に分波される。分波器15の各出力光の一部が取り出されて、PD16-1~16-mによる検出され、各波長でPDfilterが得られる。各波長のモニタ用の光成分を除く主信号光は、光スイッチ、光トランスポンダ等に供給される。
【0019】
SOA14の前段のPD12の出力と、分波器15の後段の各PD16の出力は、制御IC20の入力に接続される。制御IC20は、たとえばCPU等のプロセッサとメモリで実現される。あるいはメモリ内蔵のFPGA(Field Programmable Gate Array)等のロジックデバイスで実現されてもよい。
【0020】
制御IC20は、第1のパワー検出部21、第2のパワー検出部22、演算部23、制御部24、及びメモリ25を有する。第1のパワー検出部21は、PD12でモニタされたモニタ光のパワーを検出する。第2のパワー検出部22は、増幅及び分波後にPD16-1~16-mでモニタされた各モニタ光のパワーを検出する。
【0021】
演算部23は、第1のパワー検出部21の検出結果と、第2のパワー検出部22の検出結果に基づいて、分波器15、すなわち光フィルタの各通過帯域の制御量を計算する。制御部24は、演算部23の出力に基づいて、光フィルタの各通過帯域の中心波長が、入力受信光に含まれる各波長に一致または近づくように、分波器15の透過特性を制御する。メモリ25は、分波器15の透過特性の制御に用いられるパラメータ、または制御により得られるデータを保存する。
【0022】
SOA14の前段でのモニタ光と、分波後のモニタ光に基づいて分波器15の各通過帯域の中心波長を制御することで、一括増幅されて広帯域のASE雑音を含む光信号から、各波長の光を狭帯域で切り出すことができる。
【0023】
分波器15の透過特性の制御に、波長フィルタ透過後の光強度のみを用いると、波長フィルタの調整時に伝送路の変動・外乱などの影響で入力光が低下したときに、フィルタ調整における波長ずれと誤判断されて、チューニングを誤る場合がある。実施形態では、光増幅前の光強度も用いることで、波長可変フィルタのチューニングの誤動作を防止し、かつ受信感度の劣化を防止して、一括増幅された信号光から各波長の光を正しく分離する。
【0024】
図3は、波長分離プラットフォーム13Aの構成例を示す図である。光モジュール10Aの波長分離プラットフォーム13Aは、たとえば基板131上にシリコンフォトニクス技術で形成された分波器15と、基板131に実装されたSOA14を有する。SOA14は、基板131に形成された溝またはテラスに配置され、SOA14の利得導波路と、基板131に形成された光導波路が光学的に接続されている。基板131の下方で、SOA14に対応する位置にTEC(Thermoelectric cooler:熱電冷却器)18が配置され、SOA14の動作温度が一定に維持される。
【0025】
シリコン(Si)光導波路で形成される分波器15は、複数のリング共振器17-1~17-4を有し、リング共振器17-1~17-4のそれぞれにヒータ19-1~19-4が設けられている。リング共振器17-1~17-4は、フィルタ素子の一例である。ヒータ19-1~19-4の温度を制御することで、リング共振器17-1~17-4を形成する光導波路の屈折率を変化させて、共振波長を制御する。
【0026】
図3では、波長λ
0~λ
3の4波長の分波器15を示しているが、この例に限定されず、適切な数と配置でリング共振器17を設けることで、m波長(mは2以上の整数)の光を分離することができる。
【0027】
SOA14の前段のPD12で入力光信号の一部がモニタされ、モニタ結果が第1のパワー検出部21に供給される。分波器15の後段のPD16-1~16-4の各々で各波長成分の強度がモニタされ、モニタ結果が第2のパワー検出部22に供給される。演算部23は、第1のパワー検出部21と第2のパワー検出部22の検出結果に基づいて、各リング共振器17-1~17-4の制御量を計算し、制御部24Aがリング共振器17-1~17-4の共振周波数を制御する。
【0028】
より具体的には、制御部24Aは、リング共振器17-1~17-4に設けられたヒータ19-1~19-4の温度(または印加電圧)を制御してリング共振器17-1~17-4を形成する光導波路の屈折率を調整し、分波器15の各通過帯域の中心を、ターゲットの波長に一致または近接させる。
【0029】
SOA14に前段に配置されるPD12を用いることで、外乱等による入力光の強度低下の影響を抑制した波長制御が可能である。また、SOA14と分波器15の光接続にシリコン(Si)光導波路を用いることで、レンズ、ファイバ保持機構等の部品を省略することができる。
【0030】
リング共振器17-1~17-4は、たとえば直径が数μm程度であるため、フィルタ部(すなわち分波器15)の構成が、誘電体多層膜を用いたミリオーダーサイズのDemux構成と比較して、小型化することができる。また、SOA14と分波器15を実装する波長分離プラットフォーム13Aの光軸方向のサイズを、10ミリ~10数ミリを低減することができる。TEC18による温度制御領域として光軸方向に数ミリ~5ミリ程度の領域を確保する場合でも、ミクロンオーダーのリング共振器を複数配置して分波器15または波長フィルタを形成することで、SOA内蔵の波長分離プラットフォーム13Aのサイズを小さくすることができる。
【0031】
図3の分波器15はさらに、効率良く波長分離できるというメリットを有する。一般にSOA14の増幅特性として、帯域の両端(λ
0とλ
3)よりも中央部分(λ
1とλ
2)での利得が高くなる。SOA14の利得帯域の両端に近い波長成分を、利得帯域の中央付近の波長成分よりも伝搬損失の少ない光路で取出すことで、SOA14の利得特性に合わせた波長分離を行うことができる。
【0032】
たとえば、SOA14で増幅された光の一部が光導波路151からリング共振器17-1に結合し、リング共振器17-1の周長等によって決まる波長λ3の光が光導波路155からPD16-4に入射する。光導波路151を直進した光の一部が、リング共振器17-2に結合し、リング共振器17-2の周長等によって決まる波長λ0の光が光導波路152からPD16-1に入射する。λ0とλ3をPDリング共振器17-3とリング共振器17-4についても同様であり、波長λ2の光が光導波路154からPD16-3に入射し、波長λ1の光が光導波路153からPD16-2に入射する。
【0033】
分波器15の帯域の両端側の波長から順に光損失の少ない状態で取出されるように、リング共振器17-1~17-4を設計し、配置することができる。
【0034】
<制御フロー>
次に、光モジュール10または10A(以下、単に「光モジュール10」とする)の制御フローを説明する。光モジュール10の制御として、
(1)起動時の中心波長の初期位置の制御と、
(2)運用中の波長変動に追従させる制御と、
がある。
【0035】
起動時の中心波長の制御はさらに、(1-a)波長帯域をすべてスイープしてモニタ光のパワーが最大となる波長位置を検索する方法と、(1-b)帯域の端部から順にモニタして極大値で波長検索を終了する方法がある。
【0036】
<起動時の制御>
図4は、起動時の中心波長設定の制御フローである。この制御法は、上述した全帯域スイープの方法(1-a)であり、制御IC20によって実行される。
図4では、ひとつのフィルタ出力に着目して説明を行うが、すべてのフィルタ出力に対して同じ制御が行われる。たとえば、リング共振器17-1~17-m、またはヒータ19-1~19-mに対して同じ制御が行われる。この場合の制御は時分割制御であってもよいし、順次制御であってもよい。
【0037】
まず、ヒータ温度Theatを初期温度T0にセットする(S101)。繰り返し数をi=1に設定し(S102)、初期温度T0でSOA14の入力側のPD12の光強度(P0in)を測定し、メモリ25に記録する(S103)。
【0038】
次に、ヒータ温度TheatをΔTだけ高くして(S104)、SOA14の入射側のPD12の受光量(P1in)と、分波器15の出力側のPD16の受光量(Pifilter)を測定して、測定結果をメモリ25に記録する(S105)。温度増加のステップサイズΔは、適宜設定することができる。
【0039】
SOA14の入力側での今回のモニタ結果P1inと前回のモニタ結果P0inの差分、すなわち変化量が所定の閾値α未満であるか否かを判断する(S106)。入力側でのモニタ光の変化量が閾値α未満のとき、すなわち|P0in-P1in|<αが満たされる場合は(S106でYes)、更新後の温度Ti(T+ΔT)での各波長のモニタ光の光強度(Pifilter)を温度Tiとともにメモリ25に記録する(S108)。
【0040】
現在のヒータ温度Tが上限値Tlimitに達したか否かを判断し(S109)、上限値に達していない場合は(S109でNo)、iをインクリメントして(S110)、上限値に達するまで、ステップS103~S109を繰り返す。
【0041】
ヒータ温度が上限値に達して全温度範囲のスイープが終わると(S109でYes)、得られた測定記録から、光強度が最大となる温度Tmaxを選択し(S111)、ヒータ温度をTmaxに設定して(S112)、処理を終了する。
【0042】
一方、SOA14の入力側のモニタ光の強度が閾値αを超えて変動したときは(S106でNo)、ヒータ19の温度を1ステップ前に戻し(Theat=T-ΔT)(S107)、ステップS103に戻って入力側モニタ光の強度(P0in)を再度測定し、記録する。SOA14の入力側のモニタ光の強度変動が閾値α未満に収まるまで、ステップS103~S107を繰り返す。
【0043】
ステップS101~S110までのフローは、全温度範囲をスイープするためのプロセスAであり、S111~S112は、スイープ結果から最適なヒータ温度を選択するプロセスBである。この処理を、分離する波長ごとに、すなわちヒータ19またはリング共振器17ごとに行って、分波器15の各通過帯域の中心波長を最適な波長に設定する。
【0044】
プロセスAでは、外乱等の影響をモニタしており、SOA14への入射光の強度が許容範囲以上に変化したときは、入射光の強度変動が許容範囲内に収まるまで、フィルタ中心波長のチューニングを保留し、直前の設定温度で分波器15の出力光のモニタ結果の測定と記録を繰り返す。これにより、起動時に波長可変フィルタのチューニングの誤動作を防止することができる。
【0045】
図5は、ステップS108でのメモリ25への測定結果の記録の例を示す。SOA14への入射光の強度変動が許容範囲内にあることを前提として、分波器15の各波長のモニター光の強度(Pi
filter)を、ヒータ19の設定温度(T
i)と対応付けて記録する。光強度Pi
filterが最大になる温度を選択することで、外乱の影響を排除して、分波器15の通過帯域の中心波長をターゲットの波長に合わせ込むことができる。
【0046】
図6は、起動時の中心波長位置の制御のうち、極大値で中心波長を決定する(1-b)の方法を示す。
【0047】
まず、ヒータ温度Theatを初期温度T0にセットする(S121)。分波器15の出力側のPD16により、初期温度T0でモニタ光の強度Pmfilterを測定し、メモリ25に記録する(S123)。また、初期温度T0で、SOA14の入力側のPD12で入射光の強度(P0in)を測定し、メモリ25に記録する(S124)。
【0048】
次に、ヒータ温度TheatをΔTだけ高くしてTheat=T+ΔTに設定する(S125)。更新後の温度で、SOA14の入力側のPD12によるモニタ光の強度(P1in)と、分波器15の出力側のPD16によるモニタ光の強度(Pm’filter)を測定し、測定結果をメモリ25に記録する(S126)。温度増加のステップサイズΔは、適宜設定することができる。
【0049】
SOA14の入力側での今回のモニタ結果P1inと前回のモニタ結果P0inの差分または変化量が所定の閾値α未満であるか否かを判断する(S128)。入力側でのモニタ光の変化量が閾値α以上のとき、すなわち|P0in-P1in|<αが満たされない場合は(S128でNo)、外乱の影響が大きいと判断される。この場合は、ヒータ温度TheatをΔTだけもとに戻して(S129)、外乱の影響が許容範囲内におさまるまで、ステップS124~S128を繰り返す。
【0050】
入力側でのモニタ光の変化量が閾値α未満のとき、すなわち|P0in-P1in|<αが満たされる場合は(S128でYes)、外乱の影響は許容範囲内と判断され、分波器15の出力側でのモニタ光の変化の判断(S130)に移行する。
【0051】
ステップS130では、分波器15の出力側のPD16での今回のモニタ結果Pm’filterが前回のモニタ結果Pmfilterよりも閾値Pthを超えて低下したか否かが判断される。今回のモニタ光パワーが前回のパワーと比較して閾値Pthを超えて低下していない場合は(S130でNo)、帯域の中心波長がターゲットの波長に近づいているか、その近傍にあることを意味する。この場合は、今回のモニタ光パワーPm’filterを温度Theatと対応付けてPmとしてメモリに保存する(S131)。
【0052】
ステップS124~S131は、PD16による今回のモニタ光強度が閾値Pthを超えて大きく減少するまで(S130でYes)、繰り返される。PD16の今回のモニタ光の強度が閾値Pthを超えて大きく低下したときは、Theatをパワーが極大となったときに記録した温度Tmaxに設定し(S132)、処理を終了する。
【0053】
この方法でも、外乱等の影響を考慮して、分波器15の通過帯域の中心波長を最適位置に制御することができる。
【0054】
<運用中の追従制御>
図7は、運用中の波長変動に追従させる制御(2)の概念図である。
図7の(a)の初期状態では、透過光の波長が、波長フィルタの通過帯域の中心から長波長側にシフトしている。逆にいうと、波長フィルタの中心波長が信号波長よりも短波長側にずれている。起動時に分波器15の透過特性を各波長に合わせ込む制御を行った場合でも、温度変化による光源波長の変動、光分波器15の透過特性の変動等によって、波長フィルタの中心波長と信号波長がずれる場合がある。そこで、運用中に信号光の波長ずれに追従して光分波器15の透過特性を制御することで、狭帯域フィルタを実現する。
【0055】
初期状態(a)からの制御の方向は、未知である。そこで、処理(b)のように、波長フィルタの通過帯域の中心波長を、一方向、たとえば短波長側に移動する。中心波長の移動は、たとえばリング共振器17に設けられたヒータ19の温度を制御することで実現可能である。
【0056】
ヒータ19の温度を一定間隔で上昇して波長フィルタの中心波長を短波長側にシフトさせて、フィルタ透過光(分波器15の出力光)のパワーをモニタする。
【0057】
処理(c)で、モニタの結果、フィルタ透過光の強度が低下したため、その方向への制御を停止して制御の方向を変える。フィルタ透過光の強度の低下は、フィルタの中心波長が透過光の波長からずれる方向に移動していることを意味するからである。
【0058】
処理(d)において、ヒータ温度を上げることで、波長フィルタの中心波長を長波長側へ移動させて、モニタ光の強度を測定する。処理(e)で、フィルタ透過後のモニタ光の強度が低下したため、この方向への制御を停止する。制御の方向を変えることで、帯域の中心波長が透過光の波長に収束していく。処理(f)で、記録した強度の中で最大強度となった温度をヒータ温度として設定する。
【0059】
図8は、
図7の制御の概念を具体的に表わすフローチャートである。このフローも、制御IC20によって、すべてのフィルタ出力に対して行われる。まず、初期状態で分波器15の後段の着目するPD16のモニタ光強度を取得し、これをP0
filterとして記録する(S131)。また、このときの波長フィルタの波長位置iを初期位置(i=0)とする(S132)。
【0060】
波長位置iを1段階、短波長側のi-1に設定して(S133)、フィルタ中心波長を短波長側にシフトさせる制御を行う(S134)。ステップS134の処理の詳細は、
図9を参照して後述する。
【0061】
フィルタ中心波長のシフト後にPD16のモニタ光強度Pifilterを取得し、P0filter-Pifilter>βの条件が満たされるか否かを判断する(S135)。この条件が満たされない場合は(S135でNo)、今回のモニタ強度Pifilterがはじめのモニタ強度P0filterと比較して閾値βを超えるほど低下していないことを意味する。この場合は、同じ方向にステップS133~S135を繰り返す。フィルタ透過光の変動の判断に用いる閾値βは、閾値αと同じであっても異なっていてもよい。
【0062】
ステップS135でP0
filter-Pi
filter>βの条件が満たされる場合は、モニタ光の強度が初期値に比べ許容以上に低下したことになり、制御を逆方向、すなわちi=i+1に切り替えて(S136)、フィルタ中心波長を長波長側にシフトさせる制御を行う(S137)。ステップS137の処理の詳細は、
図10を参照して後述する。
【0063】
長波長側へのフィルタ中心波長のシフト後に、PD16のモニタ光強度Pifilterを取得し、P0filter-Pifilter>βの条件が満たされるか否かを判断する(S138)。条件が満たされない場合は(S138でNo)、同じ制御方向でステップS136~S138を繰り返す。
【0064】
ステップS138でP0filter-Pifilter>βの条件が満たされる場合は、反対方向でもモニタ光の強度が急激に低下したことを意味する。この場合、得られた測定値の中から、光強度が最大となる温度(Tmax)を探索し(S139)、ヒータ温度TheatをTmaxに設定して(S140)、処理を終了する。
【0065】
ステップS131~S138は、フィルタ中心波長を最適位置に設定するための測定値の取得プロセスである。ステップS139~S140は、モニタ光強度が最大となるフィルタ中心波長の設定プロセスである。
【0066】
図9は、
図8のステップS134(短波長側へのシフト)の詳細フローである。SOA14の入力側でPD12によるモニタ光の強度P0
inを測定し、メモリ25に記録する(S1341)。
【0067】
次に、着目しているリング共振器17のヒータ温度TheatをΔTだけ低くして(S1342)、更新後の温度で、PD12によるモニタ光の強度(P1in)と、分波器15の出力側のPD16のモニタ光強度(Pifilter)を取得し、ヒータ温度と対応付けて記録する(S1343)。
【0068】
SOA14の入力側での今回のモニタ結果P1
inと前回のモニタ結果P0
inの差分または変化量が所定の閾値α未満であるか否かを判断する(S1344)。|P0
in-P1
in|<αが満たされる場合(S1344でYes)、外乱の影響がないか、無視しえる程度なので、PD16のモニタ光の強度Pi
filterを温度Tiと対応付けて記録し(S1346)、
図8のステップS135へ進む。
【0069】
ステップS1344で|P0in-P1in|<αが満たされない場合は、外乱の影響が大きいので、ヒータ温度をΔTだけ上げて元の温度に戻し、ステップS1341~S1344を繰り返し、外乱の影響が収まったところで(S1344でYes)、測定した透過モニタ光の強度と温度を記録する(S1346)。
【0070】
図10は、
図8のステップS137(長波長側へのシフト)の詳細フローである。SOA14の入力側でPD12によるモニタ光の強度P0
inを測定し、記録する(S1371)。次に、着目しているリング共振器17のヒータ温度T
heatをΔTだけ上げて(S1372)、更新後の温度で、PD12によるモニタ光の強度(P1
in)と、分波器15の出力側のPD16のモニタ光強度(Pi
filter)を取得し、ヒータ温度と対応付けて記録する(S1373)。
【0071】
SOA14の入力側での今回のモニタ結果P1
inと前回のモニタ結果P0
inの差分または変化量が所定の閾値α未満であるか(|P0
in-P1
in|<αが満たされるか否か)を判断する(S1374)。S1374の条件が満たされない場合は、外乱の影響が大きいのでヒータ温度をΔTだけ下げて元の温度に戻し、ステップS1371~S1374を繰りかえす。|P0
in-P1
in|<αが満たされる場合は(S1374でYes)、PD16のモニタ光の強度Pi
filterを温度Tiと対応付けて記録し(S1376)、
図8のステップS138へ進む。
【0072】
このように、波長フィルタの中心波長を変動させる際に、SOA14への入射光の強度またはパワーをモニタして、波長シフトの前後で入射光に大きな強度変化がある場合は、そのような外乱の影響が収まってから波長制御を行う。これにより波長フィルタの通過帯域を狭くしてASE光雑音を低減し、かつ光通信の品質を維持することができる。
【0073】
図11は、運用中の波長フィルタ制御の別の例の概念図である。この方式は、透過光の強度をモニタしながら、波長フィルタの中心波長を、初期位置からΔλずつ長波長側または短波長側に振って、モニタ強度が増大する方向を選択することで、フィルタ中心波長を透過光の波長に近づける。
【0074】
図11の(a)の初期状態では、透過光の波長が、波長フィルタの通過帯域の中心から長波長側にシフトしている。逆にいうと、波長フィルタの中心波長が透過光の波長よりも短波長側にずれている。
【0075】
初期状態(a)からの制御の方向は未知であるため、処理(b)のように、波長フィルタの通過帯域の中心波長をΔλだけいずれかの方向、たとえば短波長側に移動する。処理(c)で、モニタの結果、フィルタ透過光の強度が低下したため、波長フィルタの中心波長を、Δλだけ長波長側にシフトさせてもとの波長位置に戻す。
【0076】
処理(d)で、今度は、波長フィルタの中心波長をΔλだけ長波長側にシフトさせる。処理(e)で、モニタの結果、モニタ光の強度が増加したので調整を終了する。
図11の処理は、たとえば運用中に一定時間間ごとに行って、波長フィルタの中心波長を波長ずれに追従させる。
【0077】
図12は、
図11の制御の概念を具体的に表わすフローチャートである。このフローは制御IC20によって、すべてのフィルタ出力に対して行われる。まず、SOA14の前段のPD12のモニタ光強度と、分波器15の後段のPD16のモニタ光強度を取得し、それぞれP0
inとP0
filterとして記録する(S151)。
【0078】
着目している波長フィルタ(この例ではリング共振器17)の中心波長をΔλだけ短波長側にシフトさせる。これは、たとえば、リング共振器17に設けられているヒータ19の温度をΔTだけ下げることで実現される(S152)。更新後のヒータ温度TheatはT-ΔTで表される。
【0079】
更新後の温度でSOA14への入射光の強度を測定してP1inを記録し(S153)、入射光が|P0in-P1in|<αの条件を満たすか否かを判断する(S154)。条件が満たされない場合は(S154でNo)、今回の入射光の強度が閾値α以上に大きく変動していることを意味する。この場合は、ヒータ温度をΔTだけ上げて、波長フィルタの中心波長をもとの波長位置に戻し(S155)、S154の条件が満たされるまで、S151~S154を繰り返す。
【0080】
ステップS154で|P0in-P1in|<αの条件が満たされる場合は、外乱の影響が無視できる程度なので、更新後の温度で(Δλのシフト後)、フィルタ透過光の強度を測定し、P1filterを記録する(S156)。
【0081】
Δλのシフト後の透過光の強度P1filterがシフト前の透過光の強度P0filterから減少したか否か、すなわちP1filter<P0filterが満たされるか否かを判断する(S157)。この条件が満たされる場合は(S157でYes)、ヒータ温度をΔTだけ上げて、波長フィルタの中心波長をもとの波長位置に戻してから(S158)、ステップS159へ進む。ステップS157で透過光のモニタ強度が低下していない場合は(S157でNo)、直接ステップS159へ進む。
【0082】
ステップS159で、PD12とPD16のモニタ光強度を取得し、それぞれP0inとP0filterとして記録する。着目している波長フィルタの中心波長を、Δλだけ逆方向、すなわち長波長側にシフトさせる。これは、たとえば、リング共振器17に設けられているヒータ19の温度をΔTだけ上げることで実現される(S160)。
【0083】
更新後の温度でSOA14への入射光の強度を測定してP1inを取得し、入射光が|P0in-P1in|<αの条件を満たすか否かを判断する(S162)。条件が満たされない場合は(S162でNo)、入射光の強度が閾値α以上に大きく変動していることを意味し、ヒータ温度をΔTだけ下げて、波長フィルタの中心波長をもとの波長位置に戻す(S163)。ステップS162の条件が満たされるまで、S159~S162を繰り返す。
【0084】
ステップS162で|P0in-P1in|<αの条件が満たされる場合は、外乱の影響が無視できる程度なので、更新後の温度でフィルタ透過光の強度P1filterを取得し(S164)、P1filter<P0filterが満たされるか否かを判断する(S165)。この条件が満たされる場合は(S165でYes)、ヒータ温度をΔTだけ下げて、波長フィルタの中心波長をもとの波長位置に戻してから(S166)、次の処理サイクルまで待機する(S167)。ステップS165で透過光のモニタ強度が低下していない場合は、そのままステップS167へ進んで、次の処理サイクルまで(時間tだけ)、待機する。
【0085】
この方法により、光モジュール10の運用中に、分波器15の透過特性を信号光の波長変動に追従させることができ、帯域幅が1~3nmの狭帯域フィルタを実現できる。波長フィルタを狭帯域化してASE雑音を低減し、かつ光通信の品質劣化を抑制することができる。
【0086】
<第2実施形態>
図13は、第2実施形態の光モジュール10Bの模式図である。光モジュール10Bでは、光増幅の前に受信光を短波長側と長波長側に分割し、それぞれ増幅特性の異なるSOA14-1とSOA14-2に入射する。各SOAへ入射する波長数が半分になり、狭帯域のSOA14-1、14-2を用いることができる。
【0087】
光モジュール10Bは、波長分離プラットフォーム13B、制御IC20、PD12、及びPD16-1~16-m(この例では、m=4)を有する。波長分離プラットフォーム13Bの前段に、VOA11(
図2参照)が配置されていてもよい。
【0088】
波長分離プラットフォーム13Bは、同一基板上に実装された波長フィルタ31と、SOA14-1及びSOA14-2と、分波器15を有する。分波器15を第1の波長フィルタ、波長フィルタ31を第2の波長フィルタと呼んでもよい。波長フィルタ31と、SOA14-1、及びSOA14-2は、TEC18によって温度制御されている。
【0089】
波長フィルタ31は、たとえば、入射光に含まれる波長(
図13の例ではλ0、λ1、λ2、λ3)のうち、短波長側の波長成分(たとえばλ0とλ1)をSOA14-1に出力し、長波長側の波長成分(たとえばλ2とλ3)をSOA14-2に出力する。
図13の例では、波長フィルタ31としてリング共振器の配列を用いているが、この例に限定されず、アレイ導波路グレーティング(AWG)で形成してもよい。
【0090】
SOA14-1で一括増幅された波長成分は、光導波路161を伝搬し、リング共振器17-1で波長λ0が選択され、光導波路163からPD16-1に入射する。光導波路161を直進してリング共振器17-2で選択された波長λ1は、光導波路164からPD16-2に入射する。
【0091】
SOA14-2で一括増幅された波長成分は、光導波路162を伝搬し、リング共振器17-4で波長λ3が選択され、光導波路166からPD16-4に入射する。光導波路162を直進してリング共振器17-3で選択された波長λ2は、光導波路165からPD16-3に入射する。
【0092】
PD16-1~16-4で受光された光は、それぞれ制御IC20Bでパワー検出される。一方、波長分離プラットフォーム18の入力側で入射光の一部が分岐されてPD12で受光される。PD12の出力PDinは、制御IC20Bでパワー検出され、分波器15の各通過帯域の中心波長の制御に用いられる。
【0093】
第1実施形態と同様に、起動時と運用時の双方で、PD12の出力がフィルタ通過帯域の中心波長の制御に用いられる。すなわち、入射光に対する外乱の影響を低減して、波長フィルタの中心波長を波長変動に正確に追従させる。分波器15の各リング共振器17の通過帯域幅を1nm程度に設定した場合でも、波長追従制御の誤判断や、信号波長が帯域外にずれることによる通信不通を防止することができる。
【0094】
図13Bの構成により、SOA14-1、14-2で増幅できる利得帯域幅が小さい場合でも、複数のSOA14を用いることで広い波長域でWDMを行うことができる。第1実施形態の構成と比べて、SOA14の前段に第2の波長フィルタ31を挿入しても、シリコンフォトニクス技術で作製される波長フィルタ31のサイズは小さく、光モジュール10Bのサイズに対する影響は少ない。
【0095】
なお、入射光の波長帯を大まかに分離する第2の波長フィルタ31は、複数のリング共振器の配列に限定されず、アレイ導波路グレーティング(AWG)を用いてもよい。第1段階でのラフな波長分割は、2分割に限定されず、3分割、4分割等であってもよい。ラフな分割数に対応する数のSOAを用いて、複数の波長が含まれる光成分をそれぞれ一括増幅する。
【0096】
入射光に含まれる波長数は4波長に限定されず、任意の多重数(m波長)のWDM信号を取り扱うことができる。たとえば、16波長のWDM信号を、4つのグループにラフ分割して4つのSOA14で各光成分をそれぞれ一括増幅したあとに、SOA14に光学的に接続される分波器15で各波長の光を分離してもよい。
【0097】
<他の光モジュールの例>
図14は、パッケージ化された光モジュール10Cの概略図である。光モジュール10Cにおいて、SOA14が内蔵された波長分離プラットフォーム13と、複数のPD16と、SOA14への入射光をモニタするPD12と、制御IC20と、TIA(トランスインピーダンスアンプ)を含む電気回路52が、パッケージ51内に配置されている。
【0098】
波長分離プラットフォーム13は、シリコンフォトニクス技術で形成された分波器15とSOA14を同一基板に実装しており、レンズレスで小型化が可能である。複数のPD16と電気回路52、及び制御IC20を収容するスペースの光軸方向の長さを5mm程度としても、レセプタクル53を含む光モジュール13Cの全長Lを20mm以下に抑えることができる。
【0099】
上述したフィルタ中心波長の可変制御により、分波器15の透過帯域幅を3nm、1nm程度に設計することができ、一括増幅により発生するASE光雑音を十分に除去することができる。
【0100】
図15は、実施形態の効果を示す図である。実施形態のフィルタ中心波長の制御により分波器15の帯域幅を1nm~3nmに狭くすることができ、入射光を一括増幅する際に生じるASE光雑音を低減することができる。
【0101】
図15の左図は、誘電体多層膜とミラーを組み合わせた従来の分波器(DEMUX)のビットエラーレート(BER)を示す。従来の分波器の帯域幅(BW)は7nm程度である。中央は、フィルタ帯域幅を3nmに設計した実施形態の分波器15のBER、右図はフィルタ帯域幅を1nmに設計した実施形態の分波器15のBERである。
【0102】
同じOSNR(光信号対雑音比)の入射信号光に対して、帯域幅を狭くすることでBERを低減できることがわかる。現在のOSNRの実用領域は17~18dBであり、帯域幅が7nmの従来のフィルタでは、BERに対するマージンがほとんどない。帯域幅を3nmにすることで、OSNRが18dBの受信光信号に対して、BERを従来構成から1桁小さくすることができ、帯域幅を1nmにすることで、BERを従来構成から2桁小さくすることができる。
【0103】
本発明は、上述した特定の実施例に限定されず、多様な変形例が可能である。たとえば分波器15のフィルタ中心波長は、ヒータ方式の制御に替えて、電流注入によるキャリア効果を利用した屈折率変化により制御してもよい。
【0104】
実施形態では、図示の便宜上、
図16(A)のように一つのリング共振器17でリング型フィルタを形成していたら、
図16(B)のように、複数のリング共振器17a、17bを用いてリング型フィルタを形成してもよい。
【0105】
PD12とPD16を、たとえばゲルマニウム(Ge)の選択成長により、波長分離プラットフォーム13に形成してもよい。受光素子としてGe-PDを用いる場合は、第2実施形態(
図13)の構成で、波長フィルタ31とSOA14-1の間、及び波長フィルタ31とSOA14-2の間から光導波路を分岐させて、Ge-PDでSOA14-1と14-2への入射光をモニタする構成としてもよい。
【0106】
入射光における外乱の影響の判断と、透過光のモニタパワーの変動の判断に、それぞれ個別に閾値αと閾値βを設定することができるので、フィルタ透過光をモニタするPD16として化合物半導体のPDアレイを用い、SOA14-1及び14-2への入射光をモニタするPD12をGe-PDとしてもよい。
【0107】
以上の説明に対し、以下の付記を呈示する。
(付記1)
複数の波長が多重された光信号を増幅する光増幅器と、
前記光増幅器により増幅された前記光信号から、前記複数の波長を分離する分波器と、
前記光増幅器の入力側で前記光信号をモニタする第1の光検出器と、
前記分波器の出力側で、前記複数の波長のそれぞれをモニタする第2の光検出器と、
前記第1の光検出器の出力と、前記第2の光検出器の出力に基づいて、前記分波器のフィルタ中心波長を制御する制御回路と、
を有することを特徴とする光モジュール。
(付記2)
前記光増幅器と前記分波器は同一の基板に実装されていることを特徴とする付記1に記載の光モジュール。
(付記3)
前記分波器は、シリコン光導波路で形成されるフィルタ素子を有し、
前記制御回路は、前記シリコン光導波路の屈折率を制御して前記フィルタ中心波長を制御することを特徴とする付記1または2に記載の光モジュール。
(付記4)
前記光増幅器の入力側に配置され、前記光信号の帯域を大まかに分割する波長フィルタ、
をさらに有し、
前記光増幅器は、分割された前記帯域の信号光成分のそれぞれに設けられることを特徴とする付記1~3のいずれかに記載の光モジュール。
(付記5)
前記第1の光検出器は、前記波長フィルタの入力側に接続されることを特徴とする付記4に記載の光モジュール。
(付記6)
前記第1の光検出器は、前記波長フィルタと前記光増幅器の間に接続されることを特徴とする付記4に記載の光モジュール。
(付記7)
前記第1の光検出器は、前記光増幅器及び前記分波器と同じ基板に実装されていることを特徴とする付記6に記載の光モジュール。
(付記8)
前記第1の光検出器はゲルマニウムフォトダイオードであることを特徴とする付記7に記載の光モジュール。
(付記9)
複数の波長が多重された光信号を増幅する光増幅器と、前記光増幅器により増幅された前記光信号から前記複数の波長を分離する分波器とを有する光モジュールの制御方法において、
前記光増幅器の入力側で前記光信号をモニタして第1のモニタパワーを測定し、
前記分波器の出力側で、前記複数の波長のそれぞれをモニタして第2のモニタパワーを測定し、
前記第1のモニタパワーと前記第2のモニタパワーに基づいて、前記分波器のフィルタ中心波長を調整することを特徴とする制御方法。
(付記10)
前記第1のモニタパワーの変動量が第1の閾値に達するか前記第1の閾値を超えたときに、前記フィルタ中心波長を従前の波長位置に戻し、前記第1のモニタパワーの前記変動量が前記第1の閾値よりも小さくなったときに、前記第2のモニタパワーの最新の測定値に基づいて、前記フィルタ中心波長を調整する、
ことを特徴とする付記9に記載の制御方法。
(付記11)
前記フィルタ中心波長は、前記分波器の共振器に設けられるヒータの温度を制御することによって調整され、
前記第1のモニタパワーの前記変動量が前記第1の閾値に達するか前記第1の閾値を超えたときは、前記ヒータの温度を従前の温度に戻し、前記第1のモニタパワーの前記変動量が前記第1の閾値よりも小さくなったときに、前記第2のモニタパワーの最新の測定値に基づいて、前記ヒータの温度を制御することを特徴とする付記10に記載の制御方法。
(付記12)
前記フィルタ中心波長の制御は前記光モジュールの起動時に行われ、
前記フィルタ中心波長は、フィルタ帯域全体をスイープして、前記第2のモニタパワーが最大となる波長に設定されることを特徴とする付記9~11のいずれかに記載の制御方法。
(付記13)
前記フィルタ中心波長の制御は前記光モジュールの起動時に行われ、
前記フィルタ中心波長は、フィルタ帯域の端部からスイープして前記第2のモニタパワーが極大となる波長に設定されることを特徴とする付記9~11のいずれかに記載の制御方法。
(付記14)
前記フィルタ中心波長の制御は、前記光モジュールの運用中に行われ、
前記フィルタ中心波長の位置を初期位置から短波長側と長波長側に所定のステップサイズでシフトさせ、前記第2のモニタパワーが最大となる波長位置に設定されることを特徴とする付記9~11のいずれかに記載の制御方法。
(付記15)
前記フィルタ中心波長の制御は、前記光モジュールの運用中に行われ、
前記フィルタ中心波長の位置を初期位置から短波長側と長波長側に所定のステップサイズでシフトさせ、前記第2のモニタパワーの今回の測定値が前回の測定よりも小さくなったときに前回の波長位置に戻して一定時間、待機することを特徴とする付記9~11のいずれかに記載の制御方法。
【符号の説明】
【0108】
10、10A~10C 光モジュール
12 PD(第1の光検出器)
13 波長分離プラットフォーム
14、14-1、14-2 SOA
15 分波器
16、16-1~16-m PD(第2の光検出器)
17、17-1~17-4 リング共振器(フィルタ素子)
19、19-1~19-4 ヒータ
20 制御IC(制御回路)
21 パワー検出部
22 パワー検出部
23 演算部
24、24A 制御部
25 メモリ
51 パッケージ
52 電気回路