(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】シート状物の欠陥検査装置及び製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/892 20060101AFI20220628BHJP
G01N 21/894 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
G01N21/892 A
G01N21/894 A
(21)【出願番号】P 2018152786
(22)【出願日】2018-08-14
【審査請求日】2021-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】坂野 賀津士
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-047615(JP,A)
【文献】特開2011-209112(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0190362(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/84-21/958
G01B 11/00-11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状物の欠陥検査装置であって,
前記シート状物の一方面側に配置され,当該シート状物の表面を撮影して当該シート状物の画像を得る撮影装置と,
前記シート状物の少なくとも
前記一方面側に配置され,当該シート状物の表面上における前記撮影装置の撮影範囲を照明する一又は複数の光源と,
前記シート状物の他方面側で,前記撮影装置の撮影範囲と少なくとも部分的に重なる位置に配置され,前記光源からの照射光を乱反射する乱反射部材と,を備え
,
前記光源から照射されて前記シート状物の表面で反射した光が前記撮影装置に導入されるとともに,前記光源から照射されて前記シート状物に形成された穴を通過し前記乱反射部材にて乱反射された光が前記撮影装置に導入されるように構成されている
欠陥検査装置。
【請求項2】
前記乱反射部材は,前記シート状物と平行に形成された平面部を含み,
前記平面部は,前記シート状物から一定間隔離れた位置に配置されている
請求項1に記載の欠陥検査装置。
【請求項3】
前記乱反射部材の平面部に付着する塵芥を除去する除去手段をさらに備える
請求項2に記載の欠陥検査装置。
【請求項4】
シート状物の欠陥検査装置であって,
前記シート状物の一方面側に配置され,当該シート状物の表面を撮影して当該シート状物の画像を得る撮影装置と,
前記シート状物の少なくとも前記一方面側に配置され,当該シート状物の表面上における前記撮影装置の撮影範囲を照明する一又は複数の光源と,
前記シート状物の他方面側で,前記撮影装置の撮影範囲と少なくとも部分的に重なる位置に配置され,前記光源からの照射光を乱反射する乱反射部材と,を備え,
前記乱反射部材は,前記シート状物と接触する曲面部を含む
欠陥検査装置。
【請求項5】
シート状物を得る工程と,
前記シート状物の欠陥の有無を,請求項1から請求項4のいずれかに記載の欠陥検査装置を用いて検査する工程と,を含む,
シート状物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,衛生用紙などのシート状物の欠陥検査装置や,それを用いたシート状物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から,例えばトイレットペーパーやティッシュペーパーのような家庭用の衛生用紙に関し,その製造過程で生じた欠陥(穴や,汚れ,スジ,異物等)を検査する手法として,衛生用紙の原紙をローラなどによって高速で搬送しつつ,その搬送中に紙面をカメラで撮影することにより,紙面上に生じた欠陥を検出することが知られている。
【0003】
例えば紙・フィルム等のようなシート状物の被検査体の欠陥検査技術に関し,特許文献1には,被検査体に照明光を当てて表面上に影を作り,この影内における正反射または乱反射の像を暗視野感度領域においてカメラで撮像し,得られた撮像画像の画像信号を画像処理して欠陥を検出する装置が開示されている。このように,照明から照射され紙面上で反射した反射光をカメラで検出する検査手法は,「反射方式」とも呼ばれる。
【0004】
また,特許文献1及び特許文献2には,検出された欠陥の種別を判別する機能を備えた欠陥検査装置が開示されている。例えば,これらの特許文献では,撮影画像を所定数の画素行列からなるブロック(格子)に切り分けて,各ブロック内の濃度情報(つまり明度情報)に基いて検出された欠陥の種別(穴や汚れなど)を判別することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-21003号公報
【文献】特開平08-145907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで,特許文献1に記載の欠陥検査装置ように,検査対象となるシート状物の一方面側に撮影装置と光源を配置する「反射方式」の装置では,シート状物に付着した汚れとシート状物に生じた穴とが,例えば
図7に示すような状態で映り込むこととなる。すなわち,シート状物がほぼ白色のものであることを想定したときに,汚れ(機械油が付着したシミなど)はシート状物よりも明度の低い暗色に写り,また穴も汚れと同程度の暗色か又はそれよりも明度の低い暗色で写ることとなる。このように,シート状物の撮影画像に汚れや穴が含まれている場合に,これらはいずれもほぼ白色のシート状物よりも明度が低いものとなる。このため,反射方式にてシート状物に生じた欠陥の種類を判別するためには,特許文献1や特許文献2に示されるように,欠陥の明度を解析するための複雑なアルゴリズムが必要になるという問題があった。
【0007】
そこで,本発明は,簡単な構成及びアルゴリズムでシート状物に生じた欠陥の種別を判別することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者は,上記した従来技術の問題を解決する手段について鋭意検討した結果,シート状物の一方面側に撮影装置と光源が配置された「反射方式」の欠陥検査装置において,シート状物の他方面側に光源からの照射光を乱反射する乱反射部材を設けることにより,シート状物に生じた欠陥(特に穴とそれ以外の欠陥)を簡単に判別できるようになるという知見を得た。そして,本発明者は,上記知見に基づけば従来技術の問題を解決できることに想到し,本発明を完成させた。具体的に説明すると,本発明は以下の構成・工程を有する。
【0009】
本発明の第1の側面は,シート状物の欠陥検査装置に関する。本発明に係る欠陥検査装置は,撮影装置と,一又は複数の光源と,乱反射部材とを備える。撮影装置は,シート状物の一方面側に配置され,当該シート状物の表面を撮影して当該シート状物の画像を得る。光源は,シート状物の少なくとも一方面側に配置され,当該シート状物の表面上における撮影装置の撮影範囲を照明する。乱反射部材は,シート状物の他方面側で,撮影装置の撮影範囲と少なくとも部分的に重なる位置に配置されており,光源からの照射光を乱反射する。なお,「乱反射」とは,反射面に達した光がランダムな方向に反射する現象である。つまり,乱反射された光には,入射角と反射角が異なる光が含まれる。このため,「乱反射」は,光の入射角と反射角が等しくなる鏡面反射や,入射した光が再び入射方向へ帰る再帰反射とは区別される。このように,シート状物の裏面側に乱反射部材を設置しておくことで,撮影装置によるシート状物の検査エリアのどこに欠点(特に穴)があっても,光源から照射された光が穴を通過して乱反射部材に到達し,そこで乱反射して再度カメラに入射するようになる。このため,乱反射部材が必要とされる。
【0010】
上記構成のように,本発明では,例えばシート状物の表面側に光源と撮影装置を配置し,その裏面側に乱反射部材を配置しておく。これにより,シート状物に穴が生じている場合に,光源からの照射光は,シート状物の穴を抜けて乱反射部材に到達し,そこで乱反射して撮影装置に導かれることとなる。そうすると,撮影装置で取得した撮影画像には,穴がシート状物の紙面の正常な明度範囲よりも高い明度で写り込むようになる。他方,シート状物に穴以外の欠陥,例えば汚れや異物が付着している場合に,撮影装置で取得した撮影画像には,その欠陥がシート状物の紙面の正常は明度範囲よりも低い明度で写り込む。このため,欠陥検査装置では,撮影画像を解析して,紙面自体の正常な明度範囲と紙面上に生じている欠陥の明度とを比較することで,その欠陥が穴であるのか,それ以外の欠陥(汚れや異物等)であるのかを簡単に判別することができる。また,シート状物が衛生用紙である場合を想定すると,撮影装置と衛生用紙の間には,衛生用紙の製造過程で生じた紙粉が浮遊しており,撮影画像には紙粉やその影が写り込む場合がある。この紙粉やその影は撮影画像中において低い明度で写ることとなるが,衛生用紙の穴は上記のとおり明るい明度で写る。このため,上記構成によれば,紙粉やその影の影響によって誤作動が生じることを回避しつつ,シート状物(衛生用紙)に生じた穴をより確実に検出することが可能となる。
【0011】
本発明に係る欠陥検査装置において,乱反射部材は,シート状物と平行に形成された平面部を含むものであってもよい。この場合に,平面部は,シート状物から一定間隔で離れた位置に配置されていることとしてもよい。なお,乱反射部材をシート状物に対して非接触で配置する場合,乱反射部材とシート状物の距離は近いことが好ましく,例えば20cm以内又は10cm以内とすることが好ましく,5cm以内であることが特に好ましい。このように,乱反射部材をシート状物に対して非接触とすることで,乱反射部材を配置しやすくなる。また,乱反射部材とシート状物の接触によって静電気が発生することや,シート状物にシワが形成されることを回避できる。
【0012】
本発明に係る欠陥検査装置は,乱反射部材の平面部に付着する塵芥(例えば紙粉など)を除去する除去手段をさらに備えることが好ましい。シート状物と乱反射部材との間に一定の間隔が空いている場合,その平面部に塵芥が付着するおそれがある。平面部に塵芥が堆積すると,乱反射した光の強度が弱くなり,撮影画像中における明度が低下する可能性がある。そこで,乱反射部材の平面部から塵芥を除去する除去手段を設けることで,このような問題を回避することができる。
【0013】
本発明に係る欠陥検査装置において,乱反射部材は,シート状物と接触する曲面部を含むものであってもよい。このように,乱反射部材をシート状物に接触した状態で配置することで,例えばシート状物に穴が形成されている場合に,光源から照射された光がシート状物の穴を通じて確実に乱反射部材に到達して乱反射するようになる。これにより穴の検出精度が向上する。さらに,乱反射部材とシート状物が常に接触していることで,乱反射部材の反射面に紙粉等が堆積しにくくなるため,反射面が常にきれいな状態に保たれ,反射光の強度が維持される。
【0014】
本発明の第2の側面は,シート状物の製造方法に関する。本発明に係る製造方法は,シート状物を得る工程と,シート状物の欠陥の有無を検査する工程とを含む。検査工程では,前述した第1の側面に係る欠陥検査装置を用いて,シート状物の欠陥の有無を検査する。特に,シート状物に欠陥が発生している場合に,その欠陥がシート状物に生じた穴であるのか,あるいはそれ以外の欠陥(汚れや異物の付着等)であるのかを判別することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば,簡単な構成及びアルゴリズムでシート状物に生じた欠陥の種別を判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】
図2は,第1の実施形態に係る欠陥検査装置の構成例を示している。
【
図3】
図3は,欠陥検査装置の機能構成例を示したブロック図である。
【
図4】
図4は,画像解析装置における欠陥検出処理の一例を示したフロー図である。
【
図5】
図5は,本発明に係る欠陥検査装置で取得した撮影画像の一例を模式的に示している。
【
図6】
図6は,第2の実施形態に係る欠陥検査装置の構成例を示している。
【
図7】
図7は,従来の「反射方式」の欠陥検査装置で取得した撮影画像の一例を模式的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下,図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜変更したものも含む。
なお,本願明細書において,「A~B」というときは「A以上B以下」であることを意味する。
【0018】
本発明は,シート状物の欠陥検査装置や,その欠陥検査装置を用いてシート状物を製造する方法に関する。シート状物の例としては,紙製やプラスチック製のものを挙げることができる。特に,シート状物は,ティシュペーパーやトイレットペーパーとして利用される家庭用の衛生用紙であることが好ましい。「衛生用紙」とは,JISの「紙・板紙及びパルプ用語」(JISP 0001)で定義された「衛生用紙」を意味する。「衛生用紙」には,タオル,生理用紙,ティシュペーパー,トイレットペーパー,ちり紙が含まれる。本発明によって製造される衛生用紙は,坪量が10~25g/m2の範囲にある薄葉紙であることが好ましい。また,本発明の衛生用紙は,1枚からなる1プライの製品であってもよいし,2枚又は3枚以上を重ね合わせた2プライ又は3プライ以上の製品であってもおよい。以下では,シート状物として,1プライの衛生用紙を例に挙げて説明を行う。
【0019】
衛生用紙の製造方法は,基本的に,原料パルプ繊維の懸濁液である抄紙原料(パルプスラリー)を得る調製工程と,抄紙原料から原料パルプ繊維を抄いて繊維ウェブを形成し乾燥させる抄紙工程を含む。
【0020】
調整工程では,衛生用紙の原料となる抄紙原料(パルプスラリー)を調整する。抄紙原料は,パルプを主原料としている。原料パルプとしては,例えば,広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)や針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)等のクラフトパルプ(KP); サルファイトパルプ(SP)やソーダパルプ(AP)等の化学パルプ; セミケミカルパルプ(SCP)やケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ; 砕木パルプ(GP)やサーモメカニカルパルプ(TMP,BCTMP)等の機械パルプ; あるいは,楮,三椏,麻,ケナフ等を原料とする非木材パルプ,コットンリンターやコットンリントなどの綿系パルプ,古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。抄紙原料は,薄葉紙の用途や要求される性能に応じて,1種類の原料パルプを使用してもよく,又は複数種類の原料パルプを任意の比率で使用してもよい。原料パルプは,未叩解パルプであってもよく,全体または一部が叩解されていてもよい。
【0021】
調整工程で調整された抄紙原料は,抄紙工程において抄紙され衛生用紙となる。抄紙工程は,抄紙機100を利用して行うことができる。
図1に示されるように,抄紙機1000は,ワイヤパート110,プレスパート120,ドライパート130,カレンダパート140,及びリールパート150を含む。
【0022】
ワイヤパート110は,パルプスラリーに含まれる水分を搾水し,薄層状の湿紙を形成する部分である。ワイヤパート110は,抄き網を環状の無限軌道ベルトに構成した一対の上下2枚のワイヤ111と,パルプスラリーを2枚のワイヤ111の間に噴き付けるヘッドボックス112とを備える。ヘッドボックス112は,ワイヤ111のニップ部に向かってパルプスラリーを薄く噴き付ける。パルプスラリーに含まれる水分は,フォーミングロール113からの圧力で相互に圧着される2枚のワイヤ111の網目から搾水される。ワイヤ111は,駆動ロールとして機能するフォーミングロール113とドライブロール14によって走行させる。フォーミングロール113及びドライブロール114はワイヤ111と当接するように配置されており,フォーミングロール113及びドライブロール114の回転力がワイヤ111に伝達されることでワイヤ111に推進力が付与されている。
【0023】
プレスパート120は,ワイヤパート110で形成された薄層状の湿紙の水分を更に除去する部分である。プレスパート120は,フェルトを環状の無限軌道ベルトに構成したドライヤフェルト121と,このドライヤフェルト121に当接してドライヤフェルトの走行とともに回転する、複数のフェルトロール122とを備える。プレスパート120においては,ワイヤパート110ら送り込まれた湿紙をドライヤフェルト121の表面に載置し,繊維状のドライヤフェルト121を透過させて湿紙に含まれる水分を更に除去する。
【0024】
ドライパート130は,プレスパート120で水分の除去された湿紙を更に乾燥する部分である。ドライパート130は,加熱可能な円柱状のヤンキードライヤ131と,熱風の噴射口を有するフード132とを備える。ドライパート130においては,内部に蒸気を吹き込み加熱状態としたヤンキードライヤ131の外周面に湿紙を圧着させ,更にフード132内部に設置された噴射口からヤンキードライヤ131の外周側に熱風を噴き付けることによって湿紙を乾燥させる。また,ヤンキードライヤシリンダ131の表面に形成された乾燥した原紙をドクターブレード133によりクレープを付けながら引き剥がす。原紙のクレープ率は,例えば15~45%又は20~38%とすることが好ましい。なお,なお,クレープ率とは,[(ヤンキードライヤの周速)-(リールドラムの周速))/(ヤンキードライヤの周速)]×100(%)で算出される値である。
【0025】
カレンダパート140は,ドライパート130で乾燥させた原紙に対してカレンダー加工を施す部分である。カレンダパート140は,カレンダロール141と受けロール142を備える。カレンダパート140においては,原紙をカレンダロール141と受けロール142の間に挟みこんで押圧することで,原紙表面の平滑化,組織の緻密化,紙厚の均一化,及び光沢の付与等を行う。カレンダロール141や受けロール142の種類は特に限定されないが,例えば金属製のものを好適に用いることができる。
【0026】
リールパート150は,カレンダー加工を施した原紙を巻き取る部分である。リールパート150は,リールドラム151を備える。リールパート150においては,リールドラム151に巻芯152を固定した上で,原紙を巻芯152に巻き付け,リールドラム151を回転させることで原紙を巻芯152に巻き取る。これにより,原紙がロール状に巻取られた原反ロールを得ることができる。
【0027】
本実施形態では,抄紙機100のカレンダパート140とリールパート150の間に,欠陥検査装置200が備え付けられている。欠陥検査装置200は,衛生用紙の原紙の一面側に紙面と対面するように設置された撮影装置211(カメラ)と,この撮影装置211と有線又は無線で接続された画像解析装置220を備える。さらに,欠陥検査装置200は,撮影装置211とともに衛生用紙の原紙の一方面側に配置された複数の光源212,213と,衛生用紙の原紙の他方面側に配置された乱反射部材214を備える。抄紙機100は,カレンダパート140からリールパート150の間,特に撮影装置211と原紙が対面している部分において,この原紙を一定速度で一定方向に向かって搬送している。また,原紙の一方面側は光源212,213によって照明されており,紙面上で反射した光が撮影装置211に導入される。このように,撮影装置211は,光源212,213からの照射光のうち原紙の紙面で反射した光を撮像することで,撮影画像を取得する。撮影装置211によって取得された衛生用紙の撮影画像は,画像解析装置220に入力され,この画像解析装置220において衛生用紙の紙面上に欠陥が生じているかどうかの解析が実行される。また,画像解析装置220は,撮影画像に含まれる紙面上の欠陥の種別を判定する処理を行う。
【0028】
図2は,第1の実施形態に係る欠陥検査装置200について,撮影装置211,光源212,213,及び乱反射部材214の配置例を示している。
図2に示されるように,衛生用紙Sの表面側(一方面側)に,撮影装置211及び複数の光源212,213が配置され,衛生用紙の裏面側(他方面側)に,乱反射部材214が配置される。また,
図2では,衛生用紙S上に生じた欠陥を符号Dで示している。欠陥の例としては,穴や,汚れ,スジ,異物等など,衛生用紙の販売に適さない品質上の欠陥を挙げられる。
【0029】
撮影装置211は,静止画又は動画の画像データを取得するためのカメラである。撮影装置211によって取得された画像データは,画像解析装置220(
図3参照)へと送信され欠陥検出のための所定の画像解析が行われる。カメラは,例えば,レンズ,メカシャッター,シャッタードライバ,CCDイメージセンサユニットやCMOSイメージセンサユニットといった光電変換素子,光電変換素子から電荷量を読み出し画像データを生成するデジタルシグナルプロセッサ(DSP),ICメモリなどで実現される。なお,カメラは,静止画を撮影するものであってもよいし,所定のフレームレートの動画を撮影するものであってもよい。
【0030】
撮影装置211は,その撮像面(レンズ)が積層シートの紙面に対してほぼ平行に配置されることが好ましい。このため,撮影装置211の撮像面から垂直に直線を引くと,その直線は紙面に対してほぼ垂直に交差する。これにより,撮影装置211によって積層シートの紙面を歪みなく撮影することができる。
図2では,撮影装置211の撮影範囲を破線で示している。
【0031】
光源212,213は,撮影装置211によって撮影される衛生用紙Sの撮影範囲を照明するライトである。光源212,213は,白色光を照射するものであることが好ましい。光源212,213の例としては,蛍光灯,LED(発光ダイオード),OLED(有機発光ダイオード),ランプ,アーク灯,白熱電球などが挙げられる。また,光源212,213は,スポット光源,平行光源(面光源),又は点光源を採用することができるが,その照明範囲(スッポットサイズ)や光軸を制御しやすいスポット光源を採用することが最も好ましい。スポット光源を利用すれば,光源から限定された方向と範囲に光を照射することができる。
図2では,各光源212,213の照明範囲を破線で示し,各光源212,213の光軸を一点鎖線で示している。なお,「光軸」とは,光源の発光部分の中心を通り,発光面に対して垂直な直線を意味する。
図2等で示した例では,各光源212,213としては,光軸を中心として照明範囲(直径)がテーパー状に広がるスポット光源が採用されている。なお,スポット光源としては,照明範囲が無限遠に同一のものを用いることもできる。
【0032】
図2に示されるように,各光源212,213は,撮影装置211の撮影範囲を含む範囲を照明するように配置されている。すなわち,本実施形態において,撮影装置211は,衛生用紙Sの表面を撮影し,各光源212,213は,撮影装置211が撮影している衛生用紙Sの一部の表面を照明する。このため,光源212,213から照射されて衛生用紙Sの表面で反射した光が撮影装置211に導入されるようになっている。このようにして,撮影装置211は,「光反射方式」で衛生用紙Sの撮影画像を取得する。
【0033】
また,
図2に示されるように,衛生用紙Sの長手方向断面視において,各光源212,213から射出された光の光軸は,衛生用紙Sの紙面に対して所定角度θで傾斜している。主光源212,213の光軸の傾斜角度θは,例えば30度~90度,35度~85度,又は45度~80度であることが好ましい。なお,
図2に示した例では,第1の光源212と第2の光源213の光軸の傾斜角度を等角としているが,それぞれの光源の光軸の傾斜角度は異なっていてもよい。
【0034】
また,衛生用紙Sの長手方向断面視において,第1の光源212と第2の光源213は,撮影装置211を挟むように配置されている。すなわち,撮影装置211は,衛生用紙の搬送方向において,第1の光源212と第2の光源213の間に位置している。また,撮影装置211は,各光源212,213よりも高い位置に設置される。すなわち,撮影装置211から衛生用紙Sの紙面までの距離は,各光源212,213から衛生用紙Sの紙面までの距離よりも離れていることとなる。
【0035】
このように,「光反射方式」で衛生用紙Sの紙面を撮影する場合,上記のように複数の光源212,213を配置することで,衛生用紙Sの紙面と撮影装置211の間に存在する浮遊物(例えば紙粉)を複数の方向から照らすことができるため,紙面上に投影される浮遊物の影の色を薄くすることができる。これにより,撮影装置211によって取得した撮影画像を解析して,紙面上に付着した欠陥をより明確に検出することができる。
【0036】
図2に示されるように,乱反射部材214は,撮影装置211と光源212,213とは反対面側に配置される。乱反射部材214は,光源212,213からの照射光を乱反射して,その反射光の一部を撮影装置211の撮像面に導入するために配置される。乱反射部材214としては,例えば光源212,213からの光が照射される面(反射面)に微細な凹凸が形成されており,入射した光をランダムな方向に反射するものを用いればよい。乱反射部材214は,公知の反射板を適宜用いることができる。本実施形態では,乱反射部材214として,衛生用紙Sの紙面と平行な面を有する板状の部材が用いられている。
【0037】
具体的に説明すると,衛生用紙Sに形成された欠陥Dが,その表面から裏面まで貫通する穴である場合,各光源212,213からの照射光がこの穴を通じて乱反射部材214の反射面に到達する。照射光が乱反射部材214にて乱反射すると,少なくともその一部は,衛生用紙Sの穴を再び通り,撮影装置211の撮像面に導入されることとなる。このようにして,乱反射部材214の反射光が衛生用紙Sの穴を通じて撮影装置211が導入されることで,撮影装置211の撮影画像には,衛生用紙Sの穴が明度の高い領域として写ることとなる。
【0038】
また,
図2に示した実施形態において,乱反射部材214は,衛生用紙Sの紙面に対して平行に形成された平面部を含み,この平面部は,シート状物から一定間隔Gだけ離れた位置に位置している。乱反射部材214の平面部と衛生用紙Sの紙面の間の間隔Gは,乱反射部材214が衛生用紙の搬送を阻害しない程度になるべく近い間隔であることが好ましい。具体的に説明すると,
図2では,衛生用紙Sが存在しないことを想定した場合に,撮影装置211による乱反射部材214の平面部上の撮影範囲を符号Pで示し,また,第1の光源212と第2の光源213からの照射光が乱反射部材214の平面部上で重なる範囲を符号Lで示している。このとき,衛生用紙Sの搬送方向(図の左右方向)において,照射光が重なる範囲Lの長さは,撮影範囲Pの長さに対して,80%以上又は90%以上であることが好ましく,100%以上であることが特に好ましい。つまり,範囲Lの長さは撮影範囲Pの長さ以上(L≧P)であることが特に好ましい。このような条件を満たすように,乱反射部材214と衛生用紙Sの間隔Gを設定すればよい。例えば間隔Gは,1cm~20cm又は2~10cmとすることが好ましい。このように,乱反射部材214の平面部上において,光源212,213からの照射光が重なる範囲を撮影装置211によって撮影することで,各光源212,213からの反射光がそれぞれ撮影装置211に導入されることとなる。このため,撮影装置211に導入される反射光の強度が強くなり,撮影画像に写る衛生用紙Sの穴の明度がより高くなる。
【0039】
また,図示は省略するが,欠陥検査装置200は,乱反射部材214の平面部に付着する塵芥(例えば紙粉など)を除去する除去手段をさらに備えていてもよい。除去手段としては,衛生用紙の紙面と乱反射部材214の平面部の間に連続的又は断続的に空気を送り込む送風装置や,乱反射部材214の平面部を自動又は手動で拭掃するブラシやワイパーを用いることができる。衛生用紙と乱反射部材214との間に間隔が空いている場合,その平面部に塵芥が堆積して乱反射した光の強度が弱くなる恐れがある。そこで,除去手段を設けて,乱反射部材214の平面部から連続的又は定期的に塵芥を除去することで,撮影部211に導入される反射光の光強度を維持することができる。
【0040】
図3は,撮影装置211に接続された画像解析装置220の機能構成例を示している。画像解析装置220は,前述した構成によって撮影装置211によって取得された衛生用紙の画像を解析して,当該衛生用紙の欠陥の有無を検査する。画像解析装置220には一般的なコンピュータを用いればよい。画像解析装置220は,撮影装置用のインターフェースを備えており,撮影装置211が取得した画像データが入力される。画像解析装置220は,制御演算部221,記憶部222,操作部223,及び表示部224を備える。制御演算部221は,各要素222~224を制御するとともに,記憶部222に記憶されている欠陥検査用のコンピュータプログラムに従って,撮影装置211から取得した画像データの画像解析処理を行う。制御演算部221は,CPU又はGPUといったプロセッサにより実現できる。記憶部222は,HDD又はSDDといった不揮発性メモリや,RAM又はDRAMといった揮発性メモリにより実現できる。操作部223は,マウス,キーボード,タッチパネル,マイクなどの入力装置により構成され,人による操作情報を受け付ける。表示部224は,液晶ディスプレイや有機ELディスプレイのような表示装置であって,撮影装置211から取得した画像データを表示することとしてもよい。なお,表示部224は,操作部223と一体となってタッチパネルディスプレイを構成していてもよい。
【0041】
画像解析装置220の制御演算部221は,基本的に,撮影装置211によって取得された撮影画像を解析して,衛生用紙の表面上に欠陥があるか否かを判断する。例えば,画像解析装置220は,衛生用紙の画像データの画素又は画素群ごとに明度(濃度)を測定し,正常な明度範囲よりも暗い部分又は明るい部分があったときに,その画像データの衛生用紙に欠陥があると判断する。例えば,衛生用紙に異物が付着している場合,その異物部分については明度が暗く表れる。また,衛生用紙に穴が開いている場合,乱反射部材214を用いた反射方式によって取得した画像データでは,その穴部分については明度が明るく表れる。このように,制御演算部221は画像データの明度に異常が発生している部位を,衛生用紙の欠陥部位であると判断する。
【0042】
図4は,画像解析装置220による欠陥検出処理のフローの一例を示している。また,
図5は,撮影装置211によって取得された衛生用紙の紙面の画像であって,紙面上に穴と汚れなど異物が存在するものを模式的に示している。
図4に示されるように,まず撮影装置211から画像解析装置220に撮影画像が入力される(ステップS1)。画像解析装置220は,撮影画像を解析して紙面上に欠陥が存在するか否かを判断する(ステップS2)。前述したとおり,紙面上の欠陥は,撮影画像における明度が,通常の紙面の明度範囲から逸脱している傾向にある。このため,画像解析装置220は,撮影画像の明度に基いて欠陥の有無を判断する。そして,撮影画像中に明度の異常な箇所が存在しなければ,正常と判断する(ステップS3)。他方で,撮影画像中に,一定の閾値を超えて明度が高い箇所又は明度が低い箇所が存在する場合には,画像解析装置220は紙面上に欠陥が存在していると判断し,その欠陥の種類を判別する処理(ステップS4)へと進む。
【0043】
次に,画像解析装置220は,撮影画像内の欠陥の明度が,紙面の通常の明度範囲よりも高いか否かを判断する(ステップS4)。すなわち,
図5に示されるように,衛生用紙の紙面上に穴が形成されている場合,その穴が形成された領域は明度が高くなる。これは,前述したように,衛生用紙の裏面に乱反射部材214が配置されているためである。他方で,衛生用紙の紙面上に汚れ等の異物が付着している場合,その異物が付着した領域は明度が低くなる。このように,紙面の通常の明度と比較して,それよりも明度が高い欠陥を穴と判断し(ステップS5),それよりも明度が低い欠陥を異物(穴以外の欠陥)と判断することができる(ステップS6)。例えば,紙面の明度と同程度の明度範囲を正常とし,その正常な明度範囲を上回る明度の欠陥を穴と判断し,正常な明度範囲を下回る明度の欠陥を異物(穴以外の欠陥)と判断すればよい。
【0044】
図7に示したように,従来の反射方式(衛生用紙の裏面側に乱反射部材が配置されていない場合)で撮影した撮影画像では,穴やその他の異物が紙面よりも低い明度で写り込むこととなる。このため,紙面上の欠陥が穴であるか異物であるかを判別するためには,欠陥の明度(濃度)を解析するための複雑なアルゴリズムが必要となっていた。これに対して,
図5に示すように,乱反射部材を用いた本発明の方式によれば,紙面上の穴が紙面より高い明度で表れ,それ以外の異物等の欠陥が紙面より低い明度で表れる。このため,
図6に示したフローのように,欠陥の明度を紙面の正常な明度範囲と比較するだけの簡単なアルゴリズムで,欠陥の種類を判別することが可能になる。
【0045】
図6は,第2の実施形態に係る欠陥検査装置200を示している。第2の実施形態については,前述した第1の実施形態と同様の構成については説明を省略し,異なる構成について説明する。
【0046】
第2の実施形態では,乱反射部材214として,衛生用紙の搬送方向の断面が曲面状に形成された曲面部を含むものが用いられている。また,乱反射部材214の曲面部は,衛生用紙の裏面に接触している。このため,衛生用紙は,その一部が常に乱反射部材214の曲面部に接しながら長手方向に搬送されることとなる。なお,曲面部を有する乱反射部材214は,
図6に示されるように断面が円弧状の板状部材であってもよいし,断面円形状の部材や,断面半円形状の部材,又は断面円筒形状の部材であってもよい。
【0047】
また,第2の実施形態では,複数の光源212,213がそれぞれ,衛生用紙と乱反射部材214の接触部位を照明するように配置されている。また,撮影装置211も同様に,衛生用紙と乱反射部材214の接触部位を撮影するように配置されている。これにより,撮影装置211は,「反射方式」で衛生用紙と乱反射部材214の接触部位の撮影画像を取得することができる。
【0048】
図6に示されるように,衛生用紙の紙面上に生じた欠陥Dが穴である場合,衛生用紙と乱反射部材214が密着しているため,各光源212,213から照射された光は,確実に穴を通って乱反射部材214に達し,その反射光が撮影装置211に導入されることとなる。このため,第2の実施形態によれば,紙面上に生じた穴をより確実に検出することができる。さらに,乱反射部材214と衛生用紙が常に接触していることで,乱反射部材214の反射面に紙粉等が堆積しにくくなる。これにより,乱反射部材214の反射面が常にきれいな状態に保たれ,反射光の強度が維持される。
【0049】
以上,本願明細書では,本発明の内容を表現するために,図面を参照しながら本発明の実施形態の説明を行った。ただし,本発明は,上記実施形態に限定されるものではなく,本願明細書に記載された事項に基づいて当業者が自明な変更形態や改良形態を包含するものである。
【符号の説明】
【0050】
100…抄紙機 110…ワイヤパート
111…ワイヤ 112…ヘッドボックス
113…フォーミングロール 114…ドライブロール
120…プレスパート 121…ドライヤフェルト
122…フェルトロール 130…ドライパート
131…ヤンキードライヤ 132…フード
133…ドクターブレード 140…カレンダパート
141…カレンダロール 142…受けロール
150…リールパート 151…リールドラム
152…巻芯 200…欠陥検査装置
211…撮影装置 212…第1の光源
213…第2の光源 214…乱反射部材
220…画像解析装置 221…制御演算部
222…記憶部 223…操作部
224…表示部