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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 13/74 20060101AFI20220628BHJP
   F16D 65/28 20060101ALI20220628BHJP
   F16D 121/24 20120101ALN20220628BHJP
   F16D 125/40 20120101ALN20220628BHJP
   F16D 125/60 20120101ALN20220628BHJP
【FI】
B60T13/74 H
F16D65/28
F16D121:24
F16D125:40
F16D125:60
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018184522
(22)【出願日】2018-09-28
(65)【公開番号】P2020051598
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小溝 陽平
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/153964(WO,A1)
【文献】特開2014-025542(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 13/74
F16D 65/28
F16D 121/24
F16D 125/40
F16D 125/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
制動部材を制動状態とする制動位置と前記制動部材を非制動状態とする非制動位置との間で前記制動部材を動かす作動部材と、
前記モータのロータと連動して回転し前記作動部材が通る貫通穴が設けられた回転部材と、当該回転部材の回転に応じて直動し前記作動部材を前記制動位置と前記非制動位置との間で動かし前記作動部材とは別体である直動部材と、を有した運動変換機構と、
前記直動部材の直動方向における前記作動部材の前記制動位置側から前記非制動位置側への移動を制限する当接部と、
前記作動部材が前記当接部および前記直動部材から離間した状態で前記貫通穴の外部において前記直動方向との交差方向への前記作動部材の移動を制限する制限部と、
を備え、
前記作動部材の前記制限部と面する第一部位と前記制限部との間の前記交差方向における第一隙間が、前記作動部材の前記貫通穴を通る第二部位と前記貫通穴の内面との間の前記交差方向における第二隙間よりも小さい、ブレーキ装置。
【請求項2】
前記第一部位および前記制限部のうち少なくとも一方に、他方と面する緩衝部材が設けられた、請求項1に記載のブレーキ装置。
【請求項3】
前記制限部は、前記作動部材を移動可能に収容するハウジングの一部である、請求項1または2に記載のブレーキ装置。
【請求項4】
前記作動部材は、ケーブルと、当該ケーブルに固定された固定部材と、を有し、
前記第一隙間は、前記固定部材の前記第一部位と前記制限部との間の隙間である、請求項1~3のうちいずれか一つに記載のブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータの出力シャフトと連動して回転する回転部材と、当該回転部材の回転に応じて直動する直動部材と、を有した回転直動変換機構を備え、当該直動部材によってケーブルを引くことによりブレーキシューを動かして制動するブレーキ装置が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6184873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種のブレーキ装置において、他の部品と干渉することによりケーブルに摩耗が生じるのは好ましくない。
【0005】
そこで、本開示の課題の一つは、例えば、ケーブルのような作動部材の摩耗が生じ難いなど、より不都合の少ない新規な構成を有したブレーキ装置を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のブレーキ装置は、例えば、モータと、制動部材を制動状態とする制動位置と上記制動部材を非制動状態とする非制動位置との間で上記制動部材を動かす作動部材と、上記モータのロータと連動して回転し上記作動部材が通る貫通穴が設けられた回転部材と、当該回転部材の回転に応じて直動し上記作動部材を上記制動位置と上記非制動位置との間で動かし上記作動部材とは別体である直動部材と、を有した運動変換機構と、上記直動部材の直動方向における上記作動部材の上記制動位置側から上記非制動位置側への移動を制限する当接部と、上記作動部材が上記当接部および上記直動部材から離間した状態で上記貫通穴の外部において上記直動方向との交差方向への上記作動部材の移動を制限する制限部と、を備え、上記作動部材の上記制限部と面する第一部位と上記制限部との間の上記交差方向における第一隙間が、上記作動部材の上記貫通穴を通る第二部位と上記貫通穴の内面との間の上記交差方向における第二隙間よりも小さい。
【0007】
このような構成によれば、例えば、第一隙間が第二隙間よりも小さいため、作動部材が回転部材の貫通穴の内面と接触する前に作動部材と制限部とが接触する。よって、作動部材と回転部材とが接触することにより作動部材が摩耗するのが、抑制されうる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態のブレーキ装置の車両後方から見た例示的かつ模式的な背面図である。
図2図2は、実施形態のブレーキ装置の一部の例示的かつ模式的な断面図であって、非制動状態での図である。
図3図3は、実施形態の第1変形例のブレーキ装置の一部の例示的かつ模式的な断面図である。
図4図4は、実施形態の第2変形例のブレーキ装置の一部の例示的かつ模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の例示的な実施形態および変形例が開示される。以下に示される実施形態および変形例の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、一例である。本発明は、以下の実施形態および変形例に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも一つを得ることが可能である。
【0010】
以下の実施形態および変形例には、同様の構成要素が含まれている。よって、以下では、同様の構成要素には共通の符号が付与されるとともに、重複する説明が省略される場合がある。また、本明細書において、序数は、部品や部位等を区別するために便宜上付与されており、優先順位や順番を示すものではない。
【0011】
また、各図中、回転部材141の回転中心Axの軸方向であってケーブル150の端部150aが制動部材に近付く方向が矢印D1で示され、回転中心Axの軸方向であってケーブル150の端部150aが制動部材から離れる方向が矢印D2で示されている。また、以下では、特に言い換えない限り、回転中心Axの軸方向が単に軸方向と称され、回転中心Axの径方向が単に径方向と称され、回転中心Axの周方向が単に周方向と称される。また、矢印Yは、車幅方向外方を示し、矢印Zは、車両上方を示している。
【0012】
[第1実施形態]
図1は、車両用のブレーキ装置2の車両後方からの背面図である。図1に示されるように、ブレーキ装置2は、円筒状のホイール1の周壁1aの内側に収容されている。ブレーキ装置2は、所謂ドラムブレーキである。ブレーキ装置2は、前後に離間した二つのブレーキシュー3を備えている。二つのブレーキシュー3は、円筒状のドラムロータ(不図示)の内周面に沿って円弧状に伸びている。ドラムロータは、車幅方向(方向Y)に沿う回転中心C回りに、ホイール1と一体に回転する。ブレーキ装置2は、二つのブレーキシュー3を、円筒状のドラムロータの内周面に接触するよう移動させる。これにより、ブレーキシュー3とドラムロータとの摩擦によって、ドラムロータひいてはホイール1が制動される。ブレーキシュー3は、制動部材の一例である。
【0013】
ブレーキ装置2は、ブレーキシュー3を動かすアクチュエータとして、油圧によって動作するホイールシリンダ(不図示)と、通電によって作動するモータ120と、を備えている。ホイールシリンダおよびモータ120は、それぞれ、二つのブレーキシュー3を動かすことができる。ホイールシリンダは、例えば、走行中の制動に用いられ、モータ120は、例えば、駐車時の制動に用いられる。すなわち、ブレーキ装置2は、電動パーキングブレーキの一例である。なお、モータ120は、走行中の制動に用いられてもよい。
【0014】
ブレーキ装置2は、円盤状のバッキングプレート4を備えている。バッキングプレート4は、ホイール1の回転中心Cと交差した姿勢で設けられる。すなわち、バッキングプレート4は、回転中心Cと交差する方向に略沿って、具体的には回転中心Cと直交する方向に略沿って、広がっている。ブレーキ装置2の構成部品は、バッキングプレート4の車幅方向の外側および内側の双方に設けられている。バッキングプレート4は、ブレーキ装置2の各構成部品を直接的または間接的に支持する。すなわち、バッキングプレート4は、支持部材の一例である。また、バッキングプレート4は、車体との不図示の接続部材と接続される。接続部材は、例えば、サスペンションの一部(例えば、アーム、リンク、取付部材等)である。なお、ブレーキ装置2は、駆動輪および非駆動輪のいずれにも用いることができる。
【0015】
電動アクチュエータ100は、バッキングプレート4の車幅方向の内側の面4aからブレーキシュー3とは反対側に突出した状態で、当該バッキングプレート4に固定されている。電動アクチュエータ100は、ハウジング110、モータ120、減速機構130、運動変換機構140、ケーブル150(図2)、および制御装置(不図示)を備えている。
【0016】
ハウジング110は、例えば、鉄やアルミニウム合金のような金属材料や、プラスチックのような合成樹脂材料によって作られうる。ハウジング110は、複数の部品が一体化されることにより構成されている。
【0017】
モータ120は、例えば、ステータや、ロータ、コイル、磁石、出力シャフト等(いずれも不図示)を有する。出力シャフトは、ロータの一部である。モータ120は、制御装置によって制御され、ロータおよび出力シャフトを回転させる。モータ120は、アクチュエータとも称されうる。
【0018】
減速機構130は、ハウジング110に回転可能に支持された複数のギヤを含み、出力シャフトと連動して回転する。
【0019】
図2は、電動アクチュエータ100の一部の制動状態での断面図である。電動アクチュエータ100は、ケーブル150を介して、ブレーキシュー3を引き、非制動状態であるブレーキシュー3を制動状態にする。ケーブル150は、バッキングプレート4に設けられた貫通孔(不図示)を貫通している。ケーブル150は、作動部材の一例である。図2に示されるように、ケーブル150は、非制動位置Prと制動位置Pbとの間で移動可能に設けられている。非制動位置Prは、リリース位置とも称されうる。非制動位置Prは、制動位置Pbから方向D1(図2の下方)へ離間し、制動位置Pbは、非制動位置Prから方向D2(図2の上方)へ離間している。方向D1,D2は、ケーブル150およびケーブルエンド151の移動方向である。
【0020】
運動変換機構140は、回転部材141、直動部材142、および回り止め部材143を有している。
【0021】
回転部材141は、周壁141aと、フランジ141bと、を有している。周壁141aの形状は、回転中心Axを中心とした円筒状である。周壁141aの内側には、軸方向に沿った貫通穴141cが設けられている。
【0022】
フランジ141bの形状は、円環状かつ板状である。フランジ141bは、周壁141aから径方向外方に張り出している。フランジ141bの外周には、減速機構130の第三ギヤ133が設けられている。モータ120のロータおよび出力シャフトの回転は、減速機構130を介して、回転部材141に伝達される。回転部材141は、モータ120のロータと連動して回転する。なお、減速機構130は、回転伝達機構とも称されうる。
【0023】
周壁141aは、フランジ141bから方向D2に延びる第一延部141a1と、フランジ141bから方向D1に延びる第二延部141a2と、を有している。第一延部141a1の長さは、第二延部141a2の長さよりも長い。
【0024】
第一延部141a1の外周には、雄ねじ141dが設けられている。雄ねじ141dの中心は、回転中心Axである。回転中心Axは、軸心とも称されうる。
【0025】
第二延部141a2の外周と、ベース112の貫通孔112aの内周との間には、例えばスライドブッシュやころ軸受けのようなラジアルベアリング161が設けられている。また、フランジ141bの方向D1の端面141b1とベース112の方向D2の端面112bとの間には、例えばころ軸受けのようなスラストベアリング162が設けられている。回転部材141は、これらラジアルベアリング161およびスラストベアリング162を介して、ベース112に、回転中心Ax回りに回転可能に支持されている。回転部材141は、減速機構130の第二ギヤ132と第三ギヤ133との噛み合いにより、第二ギヤ132によって回転駆動される。
【0026】
第三ギヤ133は、例えばプラスチックのような合成樹脂材料で構成され、周壁141aおよびフランジ141bのうち第三ギヤ133を除くディスク141b2は、例えば鉄やアルミニウム合金のような金属材料により作られうる。本実施形態では、一例として、鉄が用いられている。この場合、回転部材141は、例えばインサート成形によって構成されうる。なお、回転部材141は、第三ギヤ133も含めて、金属材料によって一体に構成されてもよい。
【0027】
直動部材142は、側壁142aと、フランジ142bと、を有している。側壁142aは、回転部材141に対して径方向外方に配置され、軸方向に延びている。側壁142aは、回転中心Axおよび回転部材141を取り囲んでおり、側壁142aの形状は、回転中心Axを中心とした円筒状である。側壁142aは、周壁とも称されうる。側壁142aの内部には、軸方向に沿った貫通孔142cが設けられている。回転部材141は、貫通孔142c内を軸方向に貫通している。
【0028】
フランジ142bの形状は、多角形状かつ板状である。フランジ142bは、側壁142aから径方向外方に張り出している。
【0029】
側壁142aは、フランジ142bから方向D2に延びる第一延部142a1と、フランジ142bから方向D1に延びる第二延部142a2と、を有している。第一延部142a1の長さは、第二延部142a2の長さよりも長い。
【0030】
貫通孔142cの内面には、回転部材141の雄ねじ141dと噛み合う雌ねじ142dが設けられている。雌ねじ142dは、貫通孔142cの方向D1の端部に隣接して設けられている。雌ねじ142dは、貫通孔142cの方向D1の端部からフランジ142bと径方向に並ぶ位置に至るまでの区間に設けられており、貫通孔142cの方向D2の端部には設けられていない。また、フランジ142bは、軸方向に延びる回り止め部材143によって囲まれている。
【0031】
回り止め部材143は、側壁143aを有している。側壁143aは、フランジ142bに対して径方向外方に配置され、軸方向に延びている。側壁143aは、回転中心Axおよび回転部材141の周囲を取り囲んでおり、側壁143aの形状は、管状である。側壁143aは、周壁とも称されうる。
【0032】
回り止め部材143は、例えばカバー111やベース112のようなハウジング110に固定されている。よって、回り止め部材143は、ハウジング110の一部であると言うことができる。また、フランジ142bの外面142b1と側壁143aの内面143a1との間には、互いに平行な状態において微小な隙間が設けられており、外面142b1および内面143a1ともに、周方向と交差した方向に延びている。
【0033】
したがって、外面142b1の回転中心Ax回りの回転が内面143a1によって制限され、これにより、直動部材142の回転が回り止め部材143によって制限される。他方、外面142b1および内面143a1ともに、軸方向に延びているため、内面143a1は外面142b1の軸方向への移動に対する障害にはならない。すなわち、回り止め部材143は、直動部材142の回転中心Ax回りの回転を禁止しながら、直動部材142を軸方向(直動方向)に沿って案内することができる。内面143a1は、ガイド部とも称されうる。
【0034】
回り止め部材143の方向D2の端部には、側壁143aから径方向内方に突出した底壁143bが設けられている。底壁143bには、軸方向に貫通する貫通孔143b1が設けられている。底壁143bは、円環状かつ板状の形状を有しており、内向きフランジとも称されうる。貫通孔143b1の内縁は、直動部材142の側壁142aよりも、径方向外方に配置されている。
【0035】
ケーブル150は、回転部材141の貫通穴141cを貫通し、軸方向に延びている。軸方向の一端(不図示)は、ブレーキシュー3を作動させる可動部材と結合されている。また、軸方向の他端としての端部150a(図2では上端)には、ケーブルエンド151が結合されている。ケーブルエンド151は、筒状部151aとフランジ151bとを有している。筒状部151aが外側から加締められることにより、ケーブルエンド151はケーブル150に固定されている。フランジ151bは、直動部材142の側壁142aおよび回り止め部材143の底壁143bよりも、径方向外方に張り出している。ケーブル150およびケーブルエンド151は、例えば金属材料により作られうる。ケーブルエンド151は、ケーブル150とともに、作動部材の一例である。また、ケーブルエンド151は、固定部材の一例である。
【0036】
ケーブルエンド151と直動部材142とは、一体化されておらず、軸方向に離間可能に構成されている。ここで、ケーブル150は、不図示のばね等の復帰部材(付勢部材、弾性部材)によって、制動部材が制動状態となる方向(方向D1、図2では下方)に引かれている。電動アクチュエータ100は、ケーブル150の移動範囲(ブレーキの使用範囲)において、復帰部材による付勢力がケーブル150に常時作用するよう、構成されている。ただし、ブレーキ装置2の構成上、復帰部材による付勢力は、制動状態から非制動状態に近付くにつれて小さくなる。また、制動状態では、ケーブル150には、ドラムブレーキの剛性に応じた張力が生じる。このような構成において、直動部材142とケーブル150との間では、ケーブルエンド151を介して力が伝達される。よって、ケーブルエンド151は、伝達部材(第一伝達部材)とも称されうる。
【0037】
モータ120を制御する制御装置は、例えばECU(electronic control unit)である。制御装置の一部は、ソフトウエアを実行するcentral processing unit(CPU)やコントローラのようなハードウエアによって構成されてもよいし、制御装置は、全体的にハードウエアによって構成されてもよい。制御装置は、制御部とも称されうる。
【0038】
このような構成において、モータ120の出力シャフトの回転が、減速機構130を介して回転部材141に伝達され、回転部材141が回転すると、回転部材141の雄ねじ141dと直動部材142の雌ねじ142dとの噛み合い、および回り止め部材143の内面143a1による直動部材142の外面142b1の回転の制限により、直動部材142が軸方向に移動する。よって、ケーブル150は、直動部材142の移動に伴い、軸方向に沿って制動位置Pbと非制動位置Prとの間で移動する。
【0039】
制御装置によって制御されたモータ120の出力シャフトの一方向(以下、制動回転方向と称する)への回転により、ケーブル150は方向D2へ移動し、制動部材が制動状態となると、ケーブル150の張力が増大し、これにより、モータ120の回転負荷が増大し、ひいては、モータ120の駆動電流が増大する。そこで、制御装置は、例えば、モータ120の駆動電流が閾値を超えたことにより、ケーブル150が制動位置Pbに到達したことを検出し、その時点で駆動電流のモータ120への供給を停止する。これにより、出力シャフトの回転が停止し、ケーブル150は制動位置Pbに位置する。
【0040】
制御装置によって制御されたモータ120の出力シャフトの他方向(以下、リリース回転方向と称する)への回転により、ケーブル150は制動位置Pbから方向D1へ移動し、ケーブルエンド151が回り止め部材143の底壁143bと当接する非制動位置Prまで移動する。この状態では、制動部材は、回転部材(不図示、例えばブレーキドラム)から離間し、電動アクチュエータ100による電気的な制動状態は解除されている。底壁143bは、ケーブルエンド151が底壁143bを超えて、非制動位置Prよりも制動位置Pbとは反対側へ、すなわち方向D1へ移動するのを制限する。回り止め部材143は、ストッパの一例である。また、底壁143bは、ケーブル150を非制動位置Prに位置決めする位置決め部とも称され、回り止め部材143は、移動制限部材とも称されうる。
【0041】
また、上述したように、本実施形態では、ケーブルエンド151と直動部材142とは一体化されておらず、軸方向に離間可能である。このため、ケーブル150が非制動位置Prに配置された状態からモータ120の出力シャフトがリリース回転方向へさらに回転すると、雄ねじ141dと雌ねじ142dとの噛み合いおよび回り止め部材143による直動部材142の回り止めにより、直動部材142はケーブルエンド151から方向D1へ離間する。すなわち、ケーブル150が非制動位置Prに配置され、モータ120の作動が停止した状態で、直動部材142とケーブルエンド151との間には、軸方向に隙間gができる。
【0042】
制御装置は、ケーブル150が制動位置Pbにある状態からモータ120を回転させた時間(回転時間)や、出力シャフトの回転回数を計測することにより、直動部材142がケーブルエンド151から方向D1に離間した状態となる位置でモータ120の作動を停止する。この際、回転時間や回転回数は、停止した直動部材142と当該直動部材142から方向D1に離れた他の部材(例えば、第二ギヤ132や回転部材141のフランジ141b等)との間により確実に隙間があくよう、言い換えると他の部材と接触したり干渉したりしないよう、設定される。
【0043】
また、図2に示されるように、電動アクチュエータ100は、コイルスプリング171を備えている。コイルスプリング171は、ケーブルエンド151から方向D2に離間したカバー111の底壁111a(壁)とケーブルエンド151のフランジ151bとの間に介在し、その巻回中心が回転中心Axに沿う姿勢で配置され、ハウジング110に対してケーブルエンド151を方向D1へ付勢している。コイルスプリング171は、弾性的に圧縮された状態で組み込まれるとともにその作動範囲において圧縮された状態で用いられる所謂圧縮ばねである。コイルスプリング171は、ケーブル150およびケーブルエンド151が非制動位置Prにある状態および制動位置Pbにある状態の双方において、カバー111(ハウジング110)に対してケーブルエンド151を方向D1へ付勢している。なお、コイルスプリング171は、方向D1へ向かうにつれて直径が漸減する台形ばねや、方向D2へ向かうにつれて直径が漸減する台形ばねであってもよい。コイルスプリング171は、第一付勢部材とも称されうる。
【0044】
さらに、電動アクチュエータ100は、回転部材141と方向D1に隣接したガイド部材113と、当該ガイド部材113と方向D1に隣接したリング172と、を有している。ガイド部材113は、環状の形状を有し、ベース112の貫通孔112aの内側でケーブル150をガイドする。ガイド部材113は、例えば、エラストマや合成樹脂材料によって作られる。また、リング172は、エラストマのような弾性材料によって構成され、ガイド部材113とベース112の段差面112cとの間に軸方向に介在し、軸方向に弾性的に圧縮された状態で組み込まれ、ベース112(ハウジング110)に対してガイド部材113ひいては回転部材141を方向D2へ付勢し、回転部材141を直動部材142または回り止め部材143(ハウジング110)に押し付けている。リング172は、第二付勢部材とも称されうる。なお、リング172に替えて、例えば、皿ばねやコイルスプリングのような、エラストマとは異なる形態の第二付勢部材が設けられてもよい。
【0045】
ところで、電動アクチュエータ100では、ケーブル150が非制動位置Prに配置された状態でより確実にブレーキシュー3を非制動状態とすることを目的として、例えば、ケーブル150の長さに寸法公差等を考慮した余裕を設定する、言い換えるとケーブル150の長さを長めに設定することがある。この場合、ブレーキシュー3が制動状態から非制動状態に至った際に、上述したケーブル150の長さの余裕によって、ケーブルエンド151が底壁143bに着座(当接)する位置に到達できず、底壁143bから離間した状態となることがある。例えば、ケーブルエンド151は、図2中に実線で示された位置に位置する。ケーブルエンド151は、直動部材142から離間した状態にあっては、不安定となり、ケーブルエンド151およびケーブル150が直動部材142から回転中心Axの径方向に外れることがある。この場合に、ケーブル150が回転部材141に設けられた貫通穴141cの内周面141c1と接触すると、ケーブル150の外周面150bが損傷したり摩耗したりすることが懸念されるため、例えば、ケーブル150をより強度の高い部材で構成したり外周面150bに表面処理を施したりするなど、対策が必要となる場合がある。なお、回転中心Axの径方向は、方向D1,D2(移動方向)の交差方向の一例である。底壁143bは、当接部の一例である。
【0046】
そこで、本実施形態では、図2に示されるように、カバー111に、回転中心Axを中心とする有底円筒状の筒状壁111bが設けられている。筒状壁111bは、方向D1,D2に沿って延び、方向D1に向けて開放され、ケーブルエンド151を収容している。筒状壁111bの内周面111b1は、ケーブルエンド151のフランジ151bの円筒面状あるいは外側半分のトーラス状の外縁151cと面し、ケーブルエンド151が方向D1,D2との交差方向へ移動するのを制限している。このような構成において、内周面111b1と外縁151cとの間の回転中心Axの径方向の隙間δ1が、ケーブル150と回転部材141の貫通穴141cの内周面141c1との間の回転中心Axの径方向の隙間d2よりも小さく設定されている。すなわち、筒状壁111bの内周面111b1の直径をd11、外縁151cの直径をd12、貫通穴141cの内周面141c1の直径をd21、ケーブル150の外周面150bの直径をd22としたとき、隙間δ1と隙間δ2との間には以下の式(1)が成り立つ。
δ1<δ2 ・・・(1)
ここに、δ1=d11-d12、δ2=d21-d22である。隙間δ1は、第一隙間の一例であり、隙間δ2は、第二隙間の一例である。また、ケーブルエンド151の外縁151cは、第一部位の一例であり、ケーブル150(のうち回転部材141の貫通穴141c内に位置する部位)の外周面150bは、第二部位の一例であり、筒状壁111bおよびその内周面111b1は、制限部180の一例であり、回転部材141の貫通穴141cの内周面141c1は、内面の一例である。また、外縁151cは、外周面あるいは外縁とも称されうる。
【0047】
以上のように、本実施形態では、隙間δ1(第一隙間)が隙間δ2(第二隙間)よりも小さいため、ケーブル150(作動部材)が回転部材141の貫通穴141cの内周面141c1と接触する前にケーブルエンド151(作動部材)と筒状壁111bの内周面111b1とが接触する。このような構成によれば、ケーブル150と回転部材141とが接触することによりケーブル150が摩耗するのが、抑制されうる。
【0048】
また、本実施形態では、直動部材142とケーブルエンド151とが離間可能に構成されている。このような構成によれば、例えば、ケーブルエンド151ひいてはケーブル150の非制動位置Prを、直動部材142の位置によらず設定することができる。
【0049】
また、本実施形態では、制限部180としての筒状壁111bの内周面111b1は、ケーブルエンド151(作動部材)を移動可能に収容するカバー111(ハウジング110)の一部である。このような構成によれば、例えば、ハウジング110以外に制限部を設けた構成に比べて、電動アクチュエータ100(ブレーキ装置2)をより小型に構成することができたり、あるいは電動アクチュエータ100の製造の手間やコストをより低減できたりといった、メリットが得られる。
【0050】
また、本実施形態では、隙間δ1(第一隙間)は、ケーブルエンド151(固定部材)と筒状壁111bの内周面111b1(制限部180)との間の隙間である。このような構成によれば、隙間δ1(第一隙間)が、ケーブルエンド151の形状等のスペックによってより容易にあるいはより精度良く設定されやすい。なお、制限部180は、ハウジング110以外に設けられてもよい。具体的には、例えば、回り止め部材143の側壁143aを底壁143bの位置よりも更に方向D2側に延長して、当該延長部分の内周面を制限部としてもよい。
【0051】
[第1変形例]
図3は、第1変形例の電動アクチュエータ100A(ブレーキ装置2)のケーブル150、ケーブルエンド151、およびハウジング110を示す図2と同じ位置での断面図である。図3に示されるように、本変形例では、ケーブルエンド151のフランジ151bに、外縁151cを覆う緩衝部材181が設けられており、当該緩衝部材181が、筒状壁111bの内周面111b1と面している。緩衝部材181は、例えば、比較的耐摩耗性の高い合成樹脂材料によって作られる。
【0052】
本変形例によれば、ケーブルエンド151(作動部材)および内周面111b1(制限部180)のうち少なくとも一方の摩耗が、抑制される。
【0053】
[第2変形例]
図4は、第3変形例の電動アクチュエータ100B(ブレーキ装置2)のケーブル150、ケーブルエンド151、およびハウジング110を示す図2と同じ位置での断面図である。図4に示されるように、本変形例では、筒状壁111bの内周面111b1上の、ケーブルエンド151のフランジ151bの外縁151cと面する部位に、緩衝部材182が設けられており、当該緩衝部材182の内周面182aが、ケーブルエンド151の外縁151cと面している。緩衝部材182は、例えば、比較的耐摩耗性の高い合成樹脂材料によって作られる。本変形例では、内周面182aが制限部180の一例である。
【0054】
本変形例によっても、ケーブルエンド151(作動部材)および内周面111b1のうち少なくとも一方の摩耗や、両者の衝突による異音の発生が、抑制される。
【0055】
以上、本発明の実施形態および変形例が例示されたが、上記実施形態および変形例は一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態および変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、等のスペック(構造や、種類、方向、形式、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数、配置、位置、材質等)は、適宜に変更して実施することができる。
【0056】
例えば、作動部材は、ケーブルのような引張部材には限定されず、ロッドのような押圧部材であってもよい。また、ケーブルエンド(作動部材)や、ハウジングの形状等のスペックは、適宜に変更することが可能である。また、緩衝部材は、作動部材および制限部の双方に設けられてもよい。
【符号の説明】
【0057】
2…ブレーキ装置、3…ブレーキシュー(制動部材)、111…カバー(ハウジング)、111b1…内周面(制限部)、120…モータ、140…運動変換機構、141…回転部材、141c…貫通穴、141c1…内周面(内面)、142…直動部材、143b…底壁(当接部)、150…ケーブル(作動部材)、150b…外周面(第二部位)、151…ケーブルエンド(作動部材、固定部材)、151c…外縁(第一部位)、180…制限部、181,182…緩衝部材、Pb…制動位置、Pr…非制動位置、δ1…隙間(第一隙間)、δ2…隙間(第二隙間)。
図1
図2
図3
図4