(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】誘電体組成物および電子部品
(51)【国際特許分類】
C04B 35/468 20060101AFI20220628BHJP
H01B 3/12 20060101ALI20220628BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
C04B35/468
H01B3/12 303
H01G4/30 515
H01G4/30 516
H01G4/30 544
H01G4/30 201L
H01G4/30 201D
(21)【出願番号】P 2018224067
(22)【出願日】2018-11-29
【審査請求日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】201810293042.7
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】劉 海龍
(72)【発明者】
【氏名】梁 麗苹
(72)【発明者】
【氏名】大津 大輔
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103058651(CN,A)
【文献】特開2017-178658(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103482975(CN,A)
【文献】特開2007-161538(JP,A)
【文献】特開2007-246347(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/468
H01B 3/12
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムおよびチタン酸ビスマスカルシウムを主成分とし、副成分を含む誘電体組成物であって、
主成分組成において、チタン酸バリウムの含有量をBaTiO
3換算でaモル%、チタン酸ストロンチウムの含有量をSrTiO
3換算でbモル%、チタン酸ビスマスカルシウムをCaBi
4Ti
4O
15換算でcモル%とし、a+b+c=100とした場合において、
前記a、bおよびcが下記範囲内の値であり、
50≦a≦83
12≦b≦49.5
0.5≦c≦5
主成分100重量%に対して、第1副成分として、マンガンを含む化合物、鉄を含む化合物およびクロムを含む化合物からなる群から選択される少なくとも1種を、それぞれMnCO
3、Fe
2O
3およびCr
2O
3換算で合計0.2重量%以上3重量%以下の割合で含み、
主成分100重量%に対して、第2副成分として、ニオブを含む化合物をNb
2O
5換算で、0.1重量%以上3重量%以下の割合で含む誘電体組成物。
【請求項2】
前記主成分組成におけるa、bおよびcが
65≦a≦78
17.5≦b≦34
1.0≦c≦4.5
の範囲内の値である請求項1に記載の誘電体組成物。
【請求項3】
第1副成分の合計重量(MnCO
3+Fe
2O
3+Cr
2O
3)に対する第2副成分の重量比、Nb
2O
5/(MnCO
3+Fe
2O
3+Cr
2O
3)が0.3以上2未満である請求項1に記載の誘電体組成物。
【請求項4】
第1副成分の合計重量(MnCO
3+Fe
2O
3+Cr
2O
3)に対する第2副成分の重量比、Nb
2O
5/(MnCO
3+Fe
2O
3+Cr
2O
3)が0.3以上2未満である請求項1に記載の誘電体組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の誘電体組成物からなる電子部品。
【請求項6】
電極としてCu電極を備える請求項5に記載の電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体組成物および電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、急速に進む電気機器の高性能化に伴い、電気回路の小型化、複雑化もまた急速に進んでいる。そのため電子部品にもより一層の小型化、高性能化が求められている。すなわち、良好な温度特性を維持しつつ、小型化においても静電容量を維持するために誘電率が高く低損失で、動作時の発熱が小さく、さらに高電圧下で使用するために直流破壊電圧が高い誘電体組成物および電子部品が求められている。
【0003】
上記の要求に応えるため、引用文献1には、PbTiO3-SrTiO3-Bi2Ti3O9系の誘電体組成物が記載されている。しかし、当該誘電体組成物は鉛を含むため環境負荷の観点から問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、実質的に鉛を使用しないにもかかわらず、高誘電率でありながら温度特性がよく、さらには誘電損失および発熱性が低く、直流破壊電圧が高い誘電体組成物、および当該誘電体組成物からなる電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明に係る誘電体組成物は、
チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムおよびチタン酸ビスマスカルシウムを主成分とし、副成分を含み、
主成分組成において、チタン酸バリウムの含有量をBaTiO3換算でaモル%、チタン酸ストロンチウムの含有量をSrTiO3換算でbモル%、チタン酸ビスマスカルシウムをCaBi4Ti4O15換算でcモル%とし、a+b+c=100とした場合において、
前記a、bおよびcが下記範囲内の値であり、
50≦a≦83
12≦b≦49.5
0.5≦c≦5
主成分100重量%に対して、第1副成分として、マンガンを含む化合物、鉄を含む化合物およびクロムを含む化合物からなる群から選択される少なくとも1種を、それぞれMnCO3、Fe2O3およびCr2O3換算で合計0.2重量%以上3重量%以下の割合で含み、
主成分100重量%に対して、第2副成分として、ニオブを含む化合物をNb2O5換算で、0.1重量%以上3重量%以下の割合で含むことを特徴としている。
【0007】
また、本発明に係る誘電体組成物は、より好ましくは、
前記主成分組成におけるa、bおよびcが
65≦a≦78
17.5≦b≦34
1.0≦c≦4.5
の範囲内の値である。
【0008】
さらに好ましくは、第1副成分の合計重量(MnCO3+Fe2O3+Cr2O3)に対する第2副成分の重量比、Nb2O5/(MnCO3+Fe2O3+Cr2O3)が0.3以上2未満である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る誘電体組成物は、上記の特定の組成および含有量とすることで、実質的に鉛を使用しないにもかかわらず、比誘電率および直流破壊電圧を高く、常温での誘電損失を小さく、発熱特性、温度特性を良好にすることができる。
【0010】
本発明に係る電子部品は、上記の誘電体組成物からなる。さらに、本発明の誘電体組成物は、耐還元性に優れることから、電極としてCu電極を用いることができ、コストの削減に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は本発明の実施形態に係る単板コンデンサの断面図である。
【
図2】
図2は本実施形態に係る主成分の組成の三元系相図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の具体的な実施形態を図面に基づき説明する。
【0013】
本実施形態の誘電体組成物からなる電子部品の種類には特に制限はないが、例えば、
図1に示す単板コンデンサ1が挙げられる。
【0014】
図1に示す単板コンデンサ1は本実施形態に係る誘電体組成物10を有する。誘電体組成物10の両面にはそれぞれ端子12a、12bが電極14a、14bを介して固着され、その周囲全面にわたって合成樹脂16で被覆されている。
【0015】
本実施形態に係る誘電体組成物は、主成分として、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムおよびチタン酸ビスマスカルシウムを特定の範囲内の含有量で含有する。また、第1副成分として、マンガンを含む化合物、鉄を含む化合物およびクロムを含む化合物からなる群から選択される少なくとも1種を、特定の範囲内の含有量で含有し、かつ第2副成分として、ニオブを含む化合物を特定の範囲内の含有量で含有する。
【0016】
主成分は、チタン酸バリウムの含有量をBaTiO3換算でaモル%、チタン酸ストロンチウムの含有量をSrTiO3換算でbモル%、およびチタン酸ビスマスカルシウムの含有量をCaBi4Ti4O15換算でcモル%とし、a+b+c=100とした場合において、
前記a、bおよびcが下記範囲内の値である。
50≦a≦83
12≦b≦49.5
0.5≦c≦5
【0017】
前記a、bおよびcにより規定される範囲を、三元系相図上に示すと、下記点A、点B、点Cおよび点Dの4点に囲まれる範囲内となる。
点A:(a,b,c)=(50,45,5、)
点B:(a,b,c)=(83,12,5)
点C:(a,b,c)=(83,16.5,0.5)
点D:(a,b,c)=(50,49.5,0.5)
【0018】
前記主成分組成におけるa、bおよびcは、下記の範囲にあることがより好ましい。
65≦a≦78
17.5≦b≦34
1.0≦c≦4.5
好ましいa、bおよびcにより規定される範囲を、三元系相図上に示すと、下記点A´、点B´、点C´および点D´の4点に囲まれる範囲となる。
点A´:(a,b,c)=(65,30.5,4.5)
点B´:(a,b,c)=(78,17.5,4.5)
点C´:(a,b,c)=(78,21,1)
点D´:(a,b,c)=(65,34,1)
上記各点の位置を示す三元系相図を
図2に示す。
【0019】
本実施形態に係る誘電体組成物は、各主成分の組成が点A、点B、点Cおよび点Dの4点に囲まれる範囲内であることにより、実質的に鉛を使用しなくても、1250以上の高い比誘電率をもちながら、温度特性が-25℃~125℃で+22%~-60%と良く、11kV/mm以上の高い直流破壊電圧を有し、誘電損失が3%以下と小さく、さらに90kHz・250V/mm印加時の発熱(ΔT)が15℃未満と良好な発熱特性を有する誘電体磁器組成物を得ることができる。各主成分の組成が点A´、点B´、点C´および点D´の4点に囲まれる範囲内である場合には、比誘電率、温度特性、発熱特性および誘電損失の全体的なバランスが、より良好になる傾向がある。各主成分の組成が点A´、点B´、点C´および点D´の4点に囲まれる範囲内である場合には、特に、1400以上の高い比誘電率をもちながら、温度特性が-25℃~125℃で+22%~-50%と良く、11kV/mm以上の高い直流破壊電圧を有し、誘電損失が2.5%以下と小さく、発熱特性の良好な誘電体磁器組成物を得ることができる。
【0020】
一方、チタン酸バリウムの含有量が50モル%未満であると、比誘電率、発熱特性、温度特性の少なくとも一つが悪化することがある。チタン酸バリウムの含有量が83モル%を超えると、誘電損失、発熱特性の少なくとも一つが悪化することがある。
【0021】
また、チタン酸ビスマスカルシウムの含有量が0.5モル%未満であると温度特性、誘電損失および発熱特性の何れか1つ以上が低下することがあり、5モル%を超えると、比誘電率が低下することがある。
【0022】
なお、本実施形態に係る誘電体組成物では、実質的に鉛を使用しないとは、具体的には、誘電体組成物全体を100重量%とした場合において鉛の含有量が0.001重量%以下である場合を指す。本実施形態に係る誘電体組成物では、鉛を実質的に使用しないことで、環境負荷を小さくすることができる。
【0023】
本実施形態に係る誘電体組成物は、第一副成分としてマンガンを含む化合物、鉄を含む化合物およびクロムを含む化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含有する。第一副成分を含有することにより誘電損失を小さくするとともに、絶縁抵抗、直流破壊電圧を高くすることができる。
【0024】
第1副成分の含有量は、主成分全体を100重量%とした場合において、それぞれMnCO3、Fe2O3およびCr2O3換算で合計0.2重量%以上3重量%以下であり、好ましくは0.25~2.5重量%であり、さらに好ましくは0.28~1.0重量%である。第1副成分の含有量が過剰の場合には、比誘電率、直流破壊電圧が悪化することがある。
【0025】
本実施形態に係る誘電体組成物は、第二副成分としてニオブを含む化合物を含有する。第二副成分を含有することにより温度特性、発熱特性を良好にし、誘電損失を小さくし、直流破壊電圧を高くすることができる。
【0026】
前記ニオブを含む化合物の含有量は、主成分全体を100重量%とした場合において、Nb2O5換算で0.1重量%以上3重量%以下であり、好ましくは0.2~1.8重量%、さらに好ましくは0.3~1.5重量%である。第2副成分の含有量が過剰の場合には、比誘電率、誘電損失、直流破壊電圧および発熱特性の何れか1つ以上が悪化することがある。
【0027】
本実施形態に係る誘電体組成物において、第1副成分の合計重量(MnCO3+Fe2O3+Cr2O3)に対する第2副成分の重量比、Nb2O5/(MnCO3+Fe2O3+Cr2O3)は好ましくは0.3以上2未満であり、さらに好ましくは0.4~1.8である。第1副成分に対する第2副成分の重量比を上記の範囲にすることで、さらに直流破壊電圧を高くし、誘電損失を低減し、温度特性を良好にすることができる。
【0028】
以下、本実施形態に係る誘電体組成物および電子部品の製造方法について説明するが、誘電体組成物および電子部品の製造方法は下記の方法に限定されない。
【0029】
まず、本実施形態に係る誘電体組成物の原料粉末を準備する。原料粉末としては、各成分の化合物、または焼成により各成分となる化合物の粉末を準備する。各成分のうち、チタン酸バリウム(BaTiO3)およびチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)については、原料を準備する時点でチタン酸バリウム粉末およびチタン酸ストロンチウム粉末を準備することが好ましい。
【0030】
また、チタン酸ビスマスカルシウム(CaBi4Ti4O15)は予め調製されたものであってもよく、誘電体の焼成時にチタン酸ビスマスカルシウムを生成する原材料を用いてもよい。チタン酸ビスマスカルシウムを生成する原材料としては、例えば酸化ビスマス、酸化チタンおよび炭酸カルシウムが挙げられるが、これらに限定はされない。予め調製したチタン酸ビスマスカルシウムを用いた方が、直流破壊電圧および温度特性を向上させ、誘電損失を低下させることができる。
【0031】
第1副成分、第2副成分については、各元素の酸化物のほか、焼成後に各元素の酸化物となりうる化合物、例えば炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩等を準備することが可能である。
【0032】
次に、各成分の原料粉末を混合して混合粉末を得る。混合方法には特に制限はなく、通常用いられる方法、例えば乾式混合、湿式混合等を用いることができる。
【0033】
次に、前記混合粉末を造粒し、造粒後に必要に応じて整粒を行い、顆粒粉末を得る。造粒方法に特に制限はない。例えば、PVA(ポリビニルアルコール)水溶液を前記混合粉末に添加して造粒する方法がある。また、整粒方法にも特に限定はない。例えば、粗大な造粒粉末を取り除くためにふるいにかけてもよい。
【0034】
次に、顆粒粉末を成形し、誘電体組成物からなる成形体を得る。成形方法に特に制限はなく、通常用いられる方法を用いることができる。例えば加圧成形を用いることができる。加圧時の圧力に特に制限はない。例えば200~600MPaとすることができる。
【0035】
次に、得られた成形体を焼成することで、誘電体組成物からなる焼結体を得る。焼成条件に特に制限はない。焼成温度は1200~1350℃とすることができる。焼成雰囲気にも特に制限はない。例えば、空気中、窒素雰囲気中、または窒素および水素を用いた還元雰囲気中とすることができるがその他の雰囲気中でもよい。
【0036】
さらに、得られた焼結体に一対の電極を接合させる。一対の電極は、例えば、得られた焼結体の対向する2面に接合させる。
【0037】
また、得られた焼結体に電極を接合させる方法に特に制限はない。例えば、得られた焼結体に電極ペーストを塗装し、700~900℃で焼付けすることで、得られた焼結体に電極を接合させることができる。電極ペーストとしては、たとえばAgペースト、Cuペーストなどが使用できる。
【0038】
本発明の誘電体組成物は、鉛を使用しないにも関わらず、上記のような優れた特性を有する。そして、さらに驚くべきことに、本発明の誘電体組成物は、耐還元性にも優れる。一般にチタン酸バリウム系の誘電体は耐還元性が低いため、還元雰囲気下で焼き付けを行うCu電極の使用は困難であった。しかし、本実施形態の誘電体組成物は耐還元性が高いため、安価なCu電極が使用でき、コストの削減が可能になる。
【0039】
さらに、電極を介して端子を接続する。電極を介して端子を接続する方法に特に制限はない。さらに、端子の一部を露出させるように、誘電体組成物の周囲全面にわたって樹脂被覆を行う。被覆方法および被覆させる樹脂の種類に特に制限はない。
【0040】
このようにして
図1に記載の単板型コンデンサを得ることができる。当該単板型コンデンサは、本実施形態に係る誘電体組成物を用いることにより、非常に高い電圧で用いることが可能となる。
【0041】
なお、上記の説明では本実施形態に係る電子部品を
図1に示す単板型コンデンサとして製造方法を説明したが、本発明の電子部品は単板型コンデンサに限定されず、積層型コンデンサ等、単板型コンデンサ以外のコンデンサであってもよい。積層型コンデンサ等の製造方法には特に制限はなく、既知の製造方法を用いることができる。また、本発明の電子部品の用途には特に制限はないが、高周波用コンデンサや高電圧用コンデンサとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明をさらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0043】
(実施例および比較例)
原料粉末として、チタン酸バリウム粉末、チタン酸ストロンチウム粉末、チタン酸ビスマスカルシウム粉末、酸化ビスマス粉末、酸化チタン粉末および炭酸カルシウム粉末、および焼成により前記第1副成分および第2副成分になる粉末を準備し、最終的に表1に記載された実施例および比較例の組成物が得られるように秤量した。なお、表1のBTとはチタン酸バリウム(BaTiO3)を表し、STとはチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)を表し、CBTとはチタン酸ビスマスカルシウム(CaBi4Ti4O15)を表す。Nb/(Mn+Cr+Fe)は、第1副成分の合計重量(MnCO3+Fe2O3+Cr2O3)に対する第2副成分の重量比、Nb2O5/(MnCO3+Fe2O3+Cr2O3)を示す。また、試料番号1bでは、チタン酸ビスマスカルシウム粉末の代わりに炭酸カルシウム粉末、酸化ビスマス粉末および酸化チタン粉末およびを用いた。炭酸カルシウム粉末、酸化ビスマス粉末および酸化チタン粉末は、CaCO3、Bi2O3、TiO2がモル比で1:2:4となるように用いた。
【0044】
表1では、主成分の組成が点A、点B、点C、点Dの4点に囲まれる範囲内である場合にはABCD欄を「in」とし、主成分の組成が点A、点B、点C、点Dの4点に囲まれる範囲外である場合にはABCD欄を「out」とした。さらに、主成分の組成が点A´、点B´、点C´、点D´の4点に囲まれる範囲内である場合にはA´B´C´D´欄を「in」とし、主成分の組成が点A´、点B´、点C´、点D´の4点に囲まれる範囲外である場合にはA´B´C´D´欄を「out」とした。
【0045】
なお、各点は以下のとおりである。
点A:(a,b,c)=(50,45,5、)
点B:(a,b,c)=(83,12,5)
点C:(a,b,c)=(83,16.5,0.5)
点D:(a,b,c)=(50,49.5,0.5)
点A´:(a,b,c)=(65,30.5,4.5)
点B´:(a,b,c)=(78,17.5,4.5)
点C´:(a,b,c)=(78,21,1)
点D´:(a,b,c)=(65,34,1)
aはチタン酸バリウムの含有量(モル%)、bはチタン酸ストロンチウムの含有量(モル%)、cはチタン酸ビスマスカルシウムの含有量(モル%)を示す。
【0046】
各原料粉末を混合した後に、ポットミルを用いて平均粒径が0.5~3μm程度になるように微粉砕した。微粉砕した粉末を脱水乾燥した後に、有機結合剤としてポリビニルアルコールを添加し、造粒および整粒を行い、顆粒粉末とした。
【0047】
前記顆粒粉末を300MPaの圧力で成形し、直径16.5mm、厚さ0.65mmの円板状の成形体とした。
【0048】
前記成形体を空気中、1200~1300℃で4時間焼成し円板状の磁器素体を得た。得られた磁器素体の組成が、所定の酸化物または炭酸塩換算で、表1に示す組成になっていることを蛍光X線分析で確認した。次に前記磁器素体の両面にCu電極ペーストを塗装し、還元雰囲気中で焼き付けをして、コンデンサ試料を得た。コンデンサ試料は、以下に示す評価を全て行うために必要な数を製造した。
【0049】
そして、得られたコンデンサ試料について、比誘電率、誘電損失、絶縁抵抗、発熱特性、直流破壊電圧、静電容量温度特性を評価した。以下、評価方法について説明する。
【0050】
(比誘電率(εs))
比誘電率(εs)は、円板状のコンデンサ試料に対して、温度25℃、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1.0Vrmsの条件下でLCRメータを用いて測定された静電容量から算出した。本実施例では、εs≧1250を良好とし、εs≧1400をさらに良好とした。
【0051】
(誘電損失)
基準温度25℃における誘電損失(tanδ)は、コンデンサ試料に対し、LCRメータにて、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1.0Vrmsの条件下で測定した。本実施例では、周波数1kHzにおける誘電損失(tanδ)は、3%以下を良好とした。
【0052】
(絶縁抵抗(IR))
コンデンサ試料に対し、絶縁抵抗計(アドバンテスト社製R8340A)を用いて、20℃において500Vの直流電圧を、コンデンサ試料に10秒間印加し、印加後50秒放置した後の絶縁抵抗IRを測定した。本実施例では、1.0×106MΩ以上を良好とした。
【0053】
(発熱特性)
Cu電極焼付後に1000pFとなるように素地の直径を変えた試料を作成し、素地にリード線を取り付けて絶縁樹脂で塗装後、AC90kHz250V(1mmあたり250V/mm)印加後素子の温度が安定する温度を測定した。素子温度と環境温度との差(ΔT)を求めた。ΔTが小さいほど、発熱性が低いことを意味する。本実施例ではΔT15℃以下を良好とした。
(直流破壊電圧)
直流破壊電圧(DC-Eb、kV/mm)の測定は、下記の方法で行った。得られたコンデンサ試料の両端に対して、直流電場を与えた。直流電場の大きさを100V/sの速さで上昇させていき、リーク電流の変化を観察した。リーク電流が100mAとなったときの電場を、コンデンサ試料の厚さで除し、単位厚み当りの直流破壊電圧(DC-Eb)とした。DC-Ebが高いほど、直流破壊電圧が高く、直流電圧に対する耐圧性に優れているといえる。本実施例では、DC-Eb≧11kV/mmを良好とした。
【0054】
(温度特性)
温度特性TC(%)の測定方法は以下の通りである。まず、-25℃~+125℃の範囲で温度を変化させて各温度の静電容量を測定した。静電容量はLCRメータを用い、周波数1MHz、入力信号レベル1Vrmsの条件下で測定した。そして、基準温度+25℃での静電容量をC25、T(℃)での静電容量をCTとした場合に、以下の式に従い各温度でのTCを測定した。
TC(%)={(CT-C25)/C25}×102
【0055】
本実施例では、-25℃~+125℃の範囲内で常に-60≦TC≦+22となる場合を良好とした。本実施例では、-25℃および+125℃でTCが上記の範囲内であるコンデンサ試料は、-25℃~+125℃の範囲内の他の温度でもTCが上記の範囲内となった。したがって、表1には-25℃および+125℃でのTCを記載した。ただし、-25℃~+125℃の範囲内で常に-60≦TC≦+22の範囲内とならなくても上述した本願発明の目的を達成することはできる。
【0056】
【0057】
表中の「*」は比較例を示す。表1より、本願発明の範囲内の組成を有する実施例、すなわち主成分組成がABCDに囲まれる範囲にあり、所定の第1および第2副成分を有する誘電体組成物では、鉛を使用しないにもかかわらず、1250以上の高い比誘電率をもちながら、温度特性が-25℃~125℃で+22%~-60%と良く、11kV/mm以上の高い直流破壊電圧を有し、誘電損失が3%以下と小さく、さらに90kHz・500V/mm印加時の発熱(ΔT)が15℃未満と良好な発熱特性を示した。
【0058】
また、主成分組成がA´B´C´D´に囲まれる範囲にあると、各特性およびそのバランスがさらに向上し、1400以上の高い比誘電率をもちながら、温度特性が-25℃~125℃で+22%~-50%と良く、11kV/mm以上の高い直流破壊電圧を有し,誘電損失が2.5%以下と小さく、発熱特性の良好な誘電体磁器組成物を得ることができる。
【0059】
さらに驚くべきことに、本発明の誘電体組成物は、耐還元性にも優れる。一般にチタン酸バリウム系の誘電体は耐還元性が低いため、還元雰囲気下で焼き付けを行うCu電極の使用は困難であった。しかし、本実施形態の誘電体組成物は耐還元性が高いため、安価なCu電極が使用でき、コストの削減が可能になる。
【符号の説明】
【0060】
1・・・単板コンデンサ
10・・・誘電体組成物
12a,12b・・・端子
14a,14b・・・電極
16・・・合成樹脂