(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】ワイヤロープ検査システムおよびワイヤロープ検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/82 20060101AFI20220628BHJP
B66B 5/02 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
G01N27/82
B66B5/02 C
(21)【出願番号】P 2021524682
(86)(22)【出願日】2020-04-07
(86)【国際出願番号】 JP2020015705
(87)【国際公開番号】W WO2020246130
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2021-07-01
(31)【優先権主張番号】P 2019105676
(32)【優先日】2019-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康展
(72)【発明者】
【氏名】潮 亘
(72)【発明者】
【氏名】山岡 信行
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-157030(JP,A)
【文献】特開2008-214037(JP,A)
【文献】特開2019-015656(JP,A)
【文献】特開2013-250114(JP,A)
【文献】特開2012-154729(JP,A)
【文献】米国特許第6492808(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72-27/9093
B66B 5/00-5/28
B66B 7/00-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータを駆動するワイヤロープの磁界の変化を検知する検知コイルと、
前記エレベータの検査動作時に前記検知コイルにより取得した、測定日時が互いに異なる第1測定データおよび第2測定データに基づいて、前記ワイヤロープの状態を検査する制御を行う制御部と、を備え、
前記制御部は、前記第1測定データおよび前記第2測定データの各々から前記エレベータの検査動作開始点を抽出するとともに、抽出した前記第1測定データの前記エレベータの検査動作開始点および前記第2測定データの前記エレベータの検査動作開始点が一致するように、前記第1測定データおよび前記第2測定データの波形の位置合わせを行うように構成されて
おり、
前記第1測定データおよび前記第2測定データは、波形が平坦状の区間である前記エレベータの検査動作開始前の区間のデータを含み、
前記制御部は、前記エレベータの検査動作開始前の区間からの測定値の変化開始点を、前記エレベータの検査動作開始点として抽出する制御を行うように構成されている、ワイヤロープ検査システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記エレベータの検査動作開始前の区間の測定値に基づいて、前記エレベータの検査動作開始前の区間の測定値の微小なばらつきを示す標準偏差を取得するとともに、取得した前記標準偏差を考慮して、測定値の変化開始点を決定する制御を行うように構成されている、請求項
1に記載のワイヤロープ検査システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記標準偏差に基づいて、測定値の変化開始点を決定するためのしきい値を取得するとともに、測定値が前記しきい値を超えた点を、測定値の変化開始点として決定する制御を行うように構成されている、請求項
2に記載のワイヤロープ検査システム。
【請求項4】
前記制御部は、測定値が前記しきい値を連続的に超えた区間の開始点を、測定値の変化開始点として決定する制御を行うように構成されている、請求項
3に記載のワイヤロープ検査システム。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1測定データおよび前記第2測定データの波形を前記エレベータの検査動作開始点が一致するように位置合わせした状態で、波形を位置合わせした前記第1測定データおよび前記第2測定データ間の類似度に基づいて、前記第1測定データおよび前記第2測定データのうちの少なくとも一方の波形の位置を調整する制御を行うように構成されている、請求項1に記載のワイヤロープ検査システム。
【請求項6】
前記制御部は、波形を位置合わせした前記第1測定データおよび前記第2測定データを複数の分割区間に分割するとともに、前記分割区間において、前記類似度に基づいて、前記第1測定データおよび前記第2測定データのうちの少なくとも一方の波形の位置を調整する制御を行うように構成されている、請求項
5に記載のワイヤロープ検査システム。
【請求項7】
前記制御部は、波形を位置合わせした前記第1測定データおよび前記第2測定データの差分を取得するとともに、取得した前記差分に基づいて、前記ワイヤロープの状態を検査する制御を行うように構成されている、請求項1に記載のワイヤロープ検査システム。
【請求項8】
エレベータを駆動するワイヤロープの磁界の変化を検知するステップと、
前記エレベータの検査動作時に取得した、測定日時が互いに異なる第1測定データおよび第2測定データに基づいて、前記ワイヤロープの状態を検査するステップと、を備え、
前記ワイヤロープの状態を検査するステップは、
前記第1測定データおよび前記第2測定データの各々から前記エレベータの検査動作開始点を抽出するステップと、
抽出した前記第1測定データの前記エレベータの検査動作開始点および前記第2測定データの前記エレベータの検査動作開始点が一致するように、前記第1測定データおよび前記第2測定データの波形の位置合わせを行うステップと、
を含
み、
前記第1測定データおよび前記第2測定データは、波形が平坦状の区間である前記エレベータの検査動作開始前の区間のデータを含み、
前記エレベータの検査動作開始点を抽出するステップは、前記エレベータの検査動作開始前の区間からの測定値の変化開始点を、前記エレベータの検査動作開始点として抽出するステップを含む、ワイヤロープ検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤロープ検査システムおよびワイヤロープ検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワイヤロープの状態を検査するワイヤロープ検査装置が知られている。このような構成は、たとえば、国際公開第2018/138850号に開示されている。
【0003】
上記国際公開第2018/138850号には、スチールワイヤロープの状態を検査する検査装置が開示されている。この検査装置は、スチールワイヤロープの磁界の変化を検知する検知コイルと、検知コイルからの信号に基づいてスチールワイヤロープの状態を判定する電子回路部とを備えている。また、上記国際公開第2018/138850号には、この検査装置を、X線撮影装置、ロープウェイ、エレベータなどに用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記国際公開第2018/138850号には明記されていないが、ワイヤロープに対して、測定日時が互いに異なる2つの測定データを利用して検査を行うという技術がある。この技術では、測定日時が互いに異なる2つの測定データの波形の位置合わせが行われるとともに、波形が位置合わせされた2つの測定データの差分(差異)が取得される。そして、取得された差分に基づいてワイヤロープの状態の検査が行われる。これにより、ワイヤロープの固有の磁気特性に起因したノイズが除去された状態で、ワイヤロープの状態の検査が行われる。
【0006】
上記した技術の測定データ間の波形の位置合わせでは、ワイヤロープ検査装置がエレベータからワイヤロープの位置に関する情報(エレベータのエンコーダの情報など)を取得し、測定データに対応付ければ、測定データ間の対応点が容易にわかるため、測定データ間の波形の位置合わせを容易に行うことができる。しかしながら、ワイヤロープ検査装置がエレベータからワイヤロープの位置に関する情報が取得できない場合、測定データ間の対応点がわからないため、測定データ間の波形の位置合わせを行うことが困難であるという問題点がある。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、エレベータからワイヤロープの位置に関する情報が取得できない場合にも、簡単な処理により測定データ間の波形の位置合わせを行うことが可能なワイヤロープ検査システムおよびワイヤロープ検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面によるワイヤロープ検査システムは、エレベータを駆動するワイヤロープの磁界の変化を検知する検知コイルと、エレベータの検査動作時に検知コイルにより取得した、測定日時が互いに異なる第1測定データおよび第2測定データに基づいて、ワイヤロープの状態を検査する制御を行う制御部と、を備え、制御部は、第1測定データおよび第2測定データの各々からエレベータの検査動作開始点を抽出するとともに、抽出した第1測定データのエレベータの検査動作開始点および第2測定データのエレベータの検査動作開始点が一致するように、第1測定データおよび第2測定データの波形の位置合わせを行うように構成されており、第1測定データおよび第2測定データは、波形が平坦状の区間であるエレベータの検査動作開始前の区間のデータを含み、制御部は、エレベータの検査動作開始前の区間からの測定値の変化開始点を、エレベータの検査動作開始点として抽出する制御を行うように構成されている。
【0009】
この発明の第2の局面によるワイヤロープ検査方法は、エレベータを駆動するワイヤロープの磁界の変化を検知するステップと、エレベータの検査動作時に取得した、測定日時が互いに異なる第1測定データおよび第2測定データに基づいて、ワイヤロープの状態を検査するステップと、を備え、ワイヤロープの状態を検査するステップは、第1測定データおよび第2測定データの各々からエレベータの検査動作開始点を抽出するステップと、抽出した第1測定データのエレベータの検査動作開始点および第2測定データのエレベータの検査動作開始点が一致するように、第1測定データおよび第2測定データの波形の位置合わせを行うステップと、を含み、第1測定データおよび第2測定データは、波形が平坦状の区間であるエレベータの検査動作開始前の区間のデータを含み、エレベータの検査動作開始点を抽出するステップは、エレベータの検査動作開始前の区間からの測定値の変化開始点を、エレベータの検査動作開始点として抽出するステップを含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、上記のように、測定データからエレベータの検査動作開始点(すなわち、ワイヤロープの位置に関する情報)が抽出されて、測定データ間の波形の位置合わせが行われる。これにより、エレベータからワイヤロープの位置に関する情報が取得できなくとも、測定データ間の波形の位置合わせを行うことができる。また、測定データ間の波形の位置合わせのために、各測定データから抽出した検査動作開始点を一致させるだけでよいので、簡単な処理により測定データ間の波形の位置合わせを行うことができる。これらの結果、エレベータからワイヤロープの位置に関する情報が取得できない場合にも、簡単な処理により測定データ間の波形の位置合わせを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態によるワイヤロープ検査システムの構成を示す概略図である。
【
図2】一実施形態によるワイヤロープ検査装置により検査されるワイヤロープが使用されるエレベータを示した模式図である。
【
図3】一実施形態によるワイヤロープ検査装置の制御的な構成を示すブロック図である。
【
図4】一実施形態による磁性体検査装置の磁界印加部および検出部の構成を説明するための図である。
【
図5】一実施形態によるワイヤロープの固有の磁気特性について説明するための図である。
【
図6】一実施形態によるワイヤロープ検査装置により取得された第1測定データと、第2測定データと、第1測定データおよび第2測定データの差分との出力波形をそれぞれ示した図である。
【
図7】一実施形態によるエレベータの検査動作を説明するための図である。
【
図8】一実施形態によるエレベータの検査動作時の測定データを説明するための図である。
【
図9】
図8の測定データの動作開始前区間-検査動作開始の近傍を拡大した図である。
【
図10】
図9の測定データの予め決められた幅の区間の近傍を拡大した図である。
【
図11】(A)は、一実施形態によるワイヤロープ検査装置によるしきい値を超えた測定点をエレベータの検査動作開始点として決定する場合を説明するための図である。(B)は、一実施形態によるワイヤロープ検査装置によるしきい値を超えた測定点をエレベータの検査動作開始点として決定しない場合を説明するための図である。
【
図12】一実施形態による波形を位置合わせした第1測定データおよび第2測定データを示した図である。
【
図13】一実施形態による波形を位置合わせした第1測定データおよび第2測定データの位置の調整を説明するための図である。
【
図14】一実施形態による波形を位置合わせした第1測定データおよび第2測定データの分割区間毎の位置の調整を説明するための図である。
【
図15】
図14の第2分割区間の位置の調整を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
まず、
図1~
図6を参照して、一実施形態によるワイヤロープ検査システム100の全体構成について説明する。
【0014】
(ワイヤロープ検査システムの構成)
図1に示すように、ワイヤロープ検査システム100は、検査対象物であるワイヤロープ101を検査するシステムである。ワイヤロープ検査システム100は、ワイヤロープ101の状態を磁気的に検知するワイヤロープ検査装置200と、ワイヤロープ101の状態を解析する外部装置300とを備えている。ワイヤロープ検査システム100は、ワイヤロープ検査装置200と外部装置300とによりワイヤロープ101の損傷を検査するように構成されている。
【0015】
なお、ワイヤロープ101の損傷とは、擦れ、局所的磨耗、素線断線、凹み、腐食、亀裂、折れ等により生じる検知方向に対する(ワイヤロープ101内部で傷等が生じた場合の空隙に起因するものを含む)断面積の変化、ワイヤロープ101の錆、溶接焼け、不純物の混入、組成変化等により生じる透磁率の変化、その他ワイヤロープ101が不均一となる部分を含む広い概念である。
【0016】
(ワイヤロープ検査装置)
図2に示すように、ワイヤロープ検査装置200は、検査対象物であるワイヤロープ101の表面に沿って相対移動させながら、ワイヤロープ101を検査する。ワイヤロープ101は、エレベータ400を駆動する動索である。エレベータ400は、かご部401と、ワイヤロープ101を巻き上げてかご部401を昇降させる巻上機402と、かご部401(ワイヤロープ101)の位置を検知する位置センサ403とを備えている。エレベータ400では、ワイヤロープ101が巻上機402により移動されるため、ワイヤロープ検査装置200を固定した状態で、ワイヤロープ101の移動に伴って、検査が行われる。ワイヤロープ101は、ワイヤロープ検査装置200の位置において、X方向に延びるように配置されている。
【0017】
図3に示すように、ワイヤロープ検査装置200は、検知部1と、電子回路部2とを備えている。検知部1は、一対の受信コイル11および12を有する差動コイルである検知コイル10と、励振コイル13とを含んでいる。電子回路部2は、制御部21と、受信I/F22と、記憶部23と、励振I/F24と、電源回路25と、通信部26とを含んでいる。また、ワイヤロープ検査装置200は、磁界印加部4(
図4参照)を備えている。
【0018】
ワイヤロープ検査装置200には、通信部26を介して外部装置300が通信可能に接続されている。
【0019】
図1に示すように、外部装置300は、通信部301と、制御部302と、表示部303と、記憶部304とを備えている。外部装置300は、通信部301を介して、ワイヤロープ検査装置200によるワイヤロープ101の計測データを受信するように構成されている。また、外部装置300は、受信したワイヤロープ101の測定データに基づいて、制御部302により、素線断線、断面積変化などの損傷の種類を解析するように構成されている。また、外部装置300は、解析結果を、表示部303に表示するように構成されている。また、外部装置300は、解析結果に基づいて、異常判定を行い、表示部303に結果を表示するように構成されている。また、外部装置300は、ワイヤロープ101の測定データ、解析結果などを、記憶部304に記憶するように構成されている。
【0020】
図4に示すように、ワイヤロープ検査装置200は、検知コイル10によりワイヤロープ101の磁界(磁束)の変化を検知するように構成されている。ワイヤロープ検査装置200のコイル近傍には、直流磁化器が配置されないように構成されている。
【0021】
なお、磁界の変化とは、ワイヤロープ101と検知部1とを相対移動させることによる検知部1で検知される磁界の強さの時間的な変化、および、ワイヤロープ101に印加する磁界を時間変化させることによる検知部1で検知される磁界の強さの時間的な変化を含む広い概念である。
【0022】
ワイヤロープ検査装置200は、測定日時が互いに異なる測定データ(後述する第1測定データ201aおよび第2測定データ201b)に基づいて、ワイヤロープ101の測定データに含まれる雑音データ(固有の磁気特性の変化)を除去するように構成されている。詳細については後述する。
【0023】
(ワイヤロープの構成、特性)
ワイヤロープ101は、磁性を有する素線材料が編みこまれる(たとえば、ストランド編みされる)ことにより形成されている。ワイヤロープ101は、たとえば、鋼製のワイヤロープ(スチールワイヤロープ)である。ワイヤロープ101は、X方向に延びる長尺材からなる磁性体である。ワイヤロープ101は、劣化による切断が起こるのを防ぐために、状態(傷等の有無)を監視されている。そして、劣化が所定量より進行したワイヤロープ101は、交換される。
【0024】
ワイヤロープ101は、固有の磁気特性を有している。固有の磁気特性とは、ワイヤロープ101の長手方向(X方向)に直交する断面位置における撚(よ)りの均一度や、鋼材の量の均一度などの違いに起因して、変化する磁気特性である。ここで、ワイヤロープ101の撚りの均一度や、鋼材の量の均一度は、経時的に略変化することがない(もしくは経時的に大きく変化しにくい)。したがって、ワイヤロープ101は、固有の磁気特性を有することにより、ワイヤロープ検査装置200による時間的に互いに異なる時点における測定毎に、ワイヤロープ101の長手方向(X方向)の各位置における出力が、略同じになる(再現性よく測定される)。
【0025】
具体的には、
図5(A)に示すように、ワイヤロープ検査装置200による第1測定により得られたワイヤロープ101の長手方向の所定位置における出力と、
図5(B)に示すように、第1測定の後の第2測定により得られたワイヤロープ101の長手方向の所定位置における出力とが略同じになる。
【0026】
したがって、ワイヤロープの長手方向(X方向)の略同じ位置における差分(差異)を取得すると、固有の雑音データが除去された
図5(C)に示すような振幅の小さな出力波形が得られる。すなわち、第1測定時および第2測定時におけるワイヤロープ101の互いの固有の磁気特性の変化に基づく出力がキャンセルされて、
図5(C)に示すような比較的平坦な出力波形が得られる。このような結果は、第1測定と第2測定との間の期間が、比較的短い期間(数秒、数分)および比較的長い期間(数ヶ月、数年)のいずれの場合でも、同様に得られる。
【0027】
(磁界印加部の構成)
図4に示すように、磁界印加部4は、検査対象物であるワイヤロープ101に対して予めY方向(ワイヤロープ101の延びる方向に交差する方向)に磁界を印加し磁性体であるワイヤロープ101の磁化の大きさおよび方向を整えるように構成されている。また、磁界印加部4は、磁石41および42を含む第1磁界印加部と、磁石43および44を含む第2磁界印加部とを含んでいる。第1磁界印加部(磁石41および42)は、検知部1に対して、ワイヤロープ101の延びる方向の一方側(X1方向側)に配置されている。また、第2磁界印加部(磁石43および44)は、検知部1に対して、ワイヤロープ101の延びる方向の他方側(X2方向側)に配置されている。
【0028】
第1磁界印加部(磁石41および42)は、ワイヤロープ101の延びる方向(X方向)に交差する面に平行かつY2方向に磁界を印加するように構成されている。第2磁界印加部(磁石43および44)は、ワイヤロープ101の延びる方向(X方向)に交差する面に平行かつY1方向に磁界を印加するように構成されている。すなわち、磁界印加部4は、長尺材の長手方向であるX方向と略直交する方向に磁界を印加するように構成されている。
【0029】
(検知部の構成)
検知コイル10(受信コイル11および12)と、励振コイル13とは、長尺材からなる磁性体であるワイヤロープ101の延びる方向を中心軸として、長手方向に沿うようにそれぞれ複数回巻回されている。また、検知コイル10および励振コイル13は、ワイヤロープ101の延びるX方向(長手方向)に沿って円筒形となるように形成される導線部分を含むコイルである。したがって、検知コイル10および励振コイル13の巻回される導線部分の形成する面は、長手方向に略直交している。ワイヤロープ101は、検知コイル10および励振コイル13の内部を通過する。また、検知コイル10は、励振コイル13の内側に設けられている。なお、検知コイル10および励振コイル13の配置はこれに限られない。検知コイル10の受信コイル11は、X1方向側に配置されている。また、検知コイル10の受信コイル12は、X2方向側に配置されている。受信コイル11および12は、数mm~数cm程度の間隔を隔てて配置されている。
【0030】
励振コイル13は、ワイヤロープ101の磁化の状態を励振する。具体的には、励振コイル13に励振交流電流が流されることにより、励振コイル13の内部において、励振交流電流に基づいて発生する磁界がX方向に沿って印加されるように構成されている。
【0031】
検知コイル10は、一対の受信コイル11および12の差動信号を送信するように構成されている。具体的には、検知コイル10は、ワイヤロープ101の磁界の変化を検知して差動信号を送信するように構成されている。検知コイル10は、検査対象物であるワイヤロープ101のX方向の磁界の変化を検知して検知信号(電圧)を出力するように構成されている。すなわち、検知コイル10は、磁界印加部4によりY方向に磁界が印加されたワイヤロープ101に対して、Y方向に交差するX方向の磁界の変化を検知する。また、検知コイル10は、検知したワイヤロープ101のX方向の磁界の変化に基づく差動信号(電圧)を出力するように構成されている。また、検知コイル10は、励振コイル13によって発生する磁界の略全てが検知可能に(入力される様に)配置されている。
【0032】
ワイヤロープ101に欠陥(傷等)が存在する場合は、欠陥(傷等)のある部分でワイヤロープ101の全磁束(磁界に透磁率と面積とを掛けた値)が小さくなる。その結果、たとえば、受信コイル11が、欠陥(傷等)のある場所に位置する場合、受信コイル12を通る磁束量が受信コイル11と比較して変化するため、検知コイル10による検知電圧の差の絶対値(差動信号)が大きくなる。一方、欠陥(傷等)のない部分での差動信号は略ゼロとなる。このように、検知コイル10において、欠陥(傷等)の存在をあらわす明確な信号(S/N比の良い信号)が検知される。これにより、電子回路部2は、差動信号の値に基づいてワイヤロープ101の欠陥(傷等)の存在を検出することが可能である。
【0033】
(電子回路部の構成)
図3に示す電子回路部2の制御部21は、ワイヤロープ検査装置200の各部を制御するように構成されている。具体的には、制御部21は、CPU(中央処理装置)などのプロセッサ、メモリ、AD変換器などを含んでいる。
【0034】
制御部21は、検知コイル10から差動信号を受信して、ワイヤロープ101の状態を検知するように構成されている。また、制御部21は、励振コイル13を励振させる制御を行うように構成されている。また、制御部21は、通信部26を介して、ワイヤロープ101の状態の検知結果を外部装置300に送信するように構成されている。
【0035】
受信I/F22は、検知コイル10から差動信号を受信して、制御部21に送信するように構成されている。具体的には、受信I/F22は、増幅器を含んでいる。また、受信I/F22は、検知コイル10の差動信号を増幅して、制御部21に送信するように構成されている。記憶部23は、HDD、SSDなどの記憶媒体を含み、第1測定データ201a、第2測定データ201bなどの情報を記憶するように構成されている。
【0036】
励振I/F24は、制御部21から制御信号を受信して、励振コイル13に対する電力の供給を制御するように構成されている。具体的には、励振I/F24は、制御部21からの制御信号に基づいて、電源回路25から励振コイル13への電力の供給を制御する。
【0037】
図6(A)~(C)に示すように、制御部21は、第1測定において検知コイル10により取得した第1測定データ201aと、第1測定の後の第2測定において検知コイル10により取得した第2測定データ201bとの波形の位置合わせを行うとともに、波形を位置合わせした第1測定データ201aおよび第2測定データ201bの差分202(差分データ(差異データ))を取得するように構成されている。また、制御部21は、取得した差分202に基づいて、ワイヤロープ101の状態を検査する制御を行うように構成されている。
【0038】
図6(A)~(C)に示すように、波形を位置合わせした第1測定データ201aと第2測定データ201bとの差分202を取得することにより、ワイヤロープ101の固有の磁気特性の変化に基づく出力がキャンセルされる。この結果、ワイヤロープ101の損傷箇所と非損傷箇所とをより明確に区別可能な状態で、ワイヤロープ101の状態を検査することができる。
【0039】
(測定データ間の波形の位置合わせ)
次に、
図7~
図15を参照して、第1測定データ201aおよび第2測定データ201bの波形の位置合わせについて説明する。詳細には、エレベータ400からワイヤロープ101の位置に関する情報(位置センサ403の情報)が取得できない場合の、第1測定データ201aおよび第2測定データ201bの波形の位置合わせについて説明する
【0040】
本実施形態では、
図7~
図15に示すように、まず、制御部21は、第1測定データ201aおよび第2測定データ201bの各々からエレベータ400の検査動作開始点203(
図9参照)を抽出する制御を行う。そして、制御部21は、抽出した第1測定データ201aのエレベータ400の検査動作開始点203および第2測定データ201bのエレベータ400の検査動作開始点203が一致するように、第1測定データ201aおよび第2測定データ201bの波形の位置合わせ(重ね合わせ)を行うように構成されている。なお、以下では、第1測定データ201aと第2測定データ201bとを特に区別する必要がない場合、測定データ201と称して説明する。
【0041】
〈エレベータの検査動作〉
図7に示すように、エレベータ400に予め決められた検査動作を行わせることにより、エレベータ400の検査動作時の測定データ201が検知コイル10により取得される。検査動作では、エレベータ400は、予め決められた検査動作開始位置から、予め決められた検査動作終了位置まで移動される。検査動作時のエレベータ400の移動速度は、波形を位置合わせに適した測定データ201を得る観点から、人や荷物などの積載物の運搬時のエレベータ400の移動速度(すなわち、通常時のエレベータ400の移動速度)よりも小さい、一定速度とすることができる。
【0042】
また、検査動作は、特に限られないが、たとえば、検査動作開始位置である最下階の位置から、検査動作終了位置である最上階の位置までの移動動作とすることができる。なお、
図7では、検査動作時にエレベータ400が上昇する例が図示されているが、検査動作時のエレベータ400の移動方向は、特に限られない。すなわち、エレベータ400は、検査動作時に下降されてもよい。
【0043】
ワイヤロープ検査装置200は、エレベータ400の検査動作開始前から、検知コイル10によるワイヤロープ101の磁界の変化の検知を開始し、エレベータ400の検査動作終了後に、検知コイル10によるワイヤロープ101の磁界の変化の検知を終了する。これにより、検査動作開始前から検査動作終了後までの測定データ201が検知コイル10により取得される。
【0044】
〈エレベータの検査動作時の測定データ〉
図8を参照して、エレベータ400の検査動作時に検知コイル10により取得した測定データ201について説明する。
図8に示すグラフでは、縦軸が測定時の検知コイル10の出力値(電圧値など)を示し、横軸が測定時の時間を示している。なお、
図9、
図10、
図12、
図14および
図15のグラフの縦軸および横軸も、
図8に示すグラフと同様である。
【0045】
図8に示すように、測定データ201は、エレベータ400の検査動作開始前の区間のデータ、および、エレベータ400の検査動作中の区間のデータを含んでいる。エレベータ400の検査動作開始前の区間のデータでは、エレベータ400が検査動作開始位置において停止されて移動されておらず、検知コイル10がワイヤロープ101の定点を測定するため、波形が略一定の値を示す平坦状の区間となる。一方、エレベータ400の検査動作中の区間のデータでは、エレベータ400が検査動作開始位置から検査動作終了位置まで移動されて、検知コイル10が移動するワイヤロープ101の各点を測定するため、波形が略一定の値を示さないジグザグ状な区間となる。
【0046】
また、測定データ201では、エレベータ400の検査動作開始時に、検知コイル10によるワイヤロープ101の測定位置が変化することに起因して、測定値が急激に変化する。
【0047】
〈エレベータの検査動作開始点の抽出〉
そこで、
図9に示すように、制御部21は、エレベータ400の検査動作開始前の区間からの測定値(出力値)の変化開始点(急激な変化の開始点)を、エレベータ400の検査動作開始点として抽出する制御を行うように構成されている。この際、制御部21は、エレベータ400の検査動作開始前の区間の測定値に基づいて、測定値の変化開始点を決定する制御を行うように構成されている。
【0048】
図9に示す例では、制御部21は、測定データ201から、エレベータ400の検査動作開始前の区間の測定値のうち、予め決められた幅204分の測定値を抽出するとともに、抽出した幅204分の測定値に基づいて、測定値の変化開始点を決定する制御を行っている。幅204は、たとえば、時間、測定点の数(ポイント数)などにより設定することができる。具体例として、幅204は、たとえば、0.4secに設定することができる。
【0049】
図10に示すように、測定値の変化開始点の決定制御として、まず、制御部21は、エレベータ400の検査動作開始前の区間の測定値(たとえば、幅204分の測定値)に基づいて、エレベータ400の検査動作開始前の区間の測定値の微小なばらつき(微小な変動幅)を示す標準偏差σを取得する制御を行う。そして、制御部21は、取得した標準偏差σを考慮して、測定値の変化開始点を決定する制御を行う。具体的には、制御部21は、取得した標準偏差σに基づいて、測定値の変化開始点を決定するためのしきい値205を取得する制御を行う。そして、取得したしきい値205を超えた点を、測定値の変化開始点として決定する制御を行う。
【0050】
図10に示す例では、制御部21は、幅204分の測定値に基づいて、幅204の区間の測定値の微小なばらつきを示す標準偏差σを取得するとともに、取得した標準偏差σに基づいて、しきい値205を決定する制御を行っている。具体的には、制御部21は、標準偏差σの3倍(3σ)に係数αを乗じた値分だけ、幅204の区間の測定値の平均値から離れた値を、しきい値205として決定する制御を行っている。係数αは、1よりも大きい値とすることができ、たとえば、1.5とすることができる。
【0051】
また、
図11(A)(B)に示すように、制御部21は、測定値がしきい値205を予め決められた長さ206分だけ連続的に超えた区間の開始点を、測定値の変化開始点として決定する制御を行うように構成されている。長さ206は、たとえば、時間、測定点の数(ポイント数)などにより設定することができる。具体例として、長さ206は、たとえば、10ポイントに設定することができる。この場合、測定値がしきい値205を10ポイント連続して超えた区間の開始点(1ポイント目)が、測定値の変化点として決定される。また、
図13(B)に示すように、制御部21は、測定値がしきい値205を超えたとしても、予め決められた長さ206分だけ連続的に超えない場合には、測定値がしきい値205を超えた点を、測定値の変化開始点として決定する制御を行わない。
【0052】
図12では、ワイヤロープ101の損傷なしの第1測定データ201aと、ワイヤロープ101の損傷ありの第2測定データ201bとの各々から、上記の通り検査動作開始点203が抽出されるとともに、抽出された検査動作開始点203同士が一致するように波形の位置合わせが行われた、第1測定データ201aおよび第2測定データ201bが図示されている。
図12に示すように、第1測定データ201aおよび第2測定データ201b間の類似度(一致度)は、0.99である。すなわち、第1測定データ201aおよび第2測定データ201bの波形が正確に位置合わせされている。
【0053】
〈位置合わせした第1測定データおよび第2測定データの位置調整〉
また、
図13~
図15に示すように、制御部21は、第1測定データ201aおよび第2測定データ201bの波形を位置合わせした後、差分202を取得する前に、波形を位置合わせした第1測定データ201aおよび第2測定データ201bの位置を微調整する制御を行うように構成されている。
【0054】
具体的には、制御部21は、第1測定データ201aおよび第2測定データ201bの波形を検査動作開始点203が一致するように位置合わせした状態で、波形を位置合わせした第1測定データ201aおよび第2測定データ201b間の類似度に基づいて、第1測定データ201aおよび第2測定データ201bのうちの少なくとも一方の波形の位置を調整する制御を行うように構成されている。なお、波形の位置の調整が行われる測定データ201は、第1測定データ201aおよび第2測定データ201bのうちのいずれか基準となる方のみであってもよいし、第1測定データ201aおよび第2測定データ201bの両方であってもよい。
【0055】
より具体的には、
図13(A)(B)に示すように、制御部21は、位置の調整前の類似度から類似度が増加するように、第1測定データ201aおよび第2測定データ201bのうちの少なくとも一方の波形の位置を時間軸方向に動かして調整する制御を行うように構成されている。時間軸方向への移動量は、データ量にもよるが、たとえば、数msec(数ポイント)程度であり得る。なお、
図13(A)では、理解の容易化のために、第1測定データ201aおよび第2測定データ201bの離間距離が誇張して図示されている。
【0056】
また、
図14に示すように、位置調整制御の際、制御部21は、波形を位置合わせした第1測定データ201aおよび第2測定データ201bを複数の分割区間207に分割する制御を行うように構成されている。分割区間207は、他の分割区間207とは独立して第1測定データ201aおよび第2測定データ201bの波形の位置を調整可能に構成されている。制御部21は、分割区間207において、類似度に基づいて、第1測定データ201aおよび第2測定データ201bのうちの少なくとも一方の波形の位置を調整する制御を行うように構成されている。すなわち、制御部21は、個々の分割区間207毎に個別に、第1測定データ201aおよび第2測定データ201bのうちの少なくとも一方の波形の位置を調整する制御を行うように構成されている。
【0057】
図14に示す例では、制御部21は、0~4秒の区間である第1分割区間207aと、4秒~8秒の区間である第2分割区間207bと、8秒~12秒の区間である第3分割区間207cとの3つの分割区間に、波形を位置合わせした第1測定データ201aおよび第2測定データ201bを分割する制御を行っている。この場合、制御部21は、第1分割区間207a、第2分割区間207bおよび第3分割区間207cの各々において、互いに独立して類似度を取得して、類似度が増加するように、第1測定データ201aおよび第2測定データ201bのうちの少なくとも一方の波形の位置を調整する制御を行う。
【0058】
図15では、
図14に示した第2分割区間207bの位置調整の結果が図示されている。
図15に示すように、位置の調整量(シフト量)は、2msecであり、類似度が0.99992から、0.99995に増加している。すなわち、第1測定データ201aおよび第2測定データ201bの波形の位置合わせの精度が向上している。また、
図15では、位置調整後の第1測定データ201aおよび第2測定データ201bの差分202が図示されている。差分202として、ワイヤロープ101の損傷箇所と非損傷箇所とを明確に区別可能なデータが得られている。
【0059】
(本実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0060】
本実施形態では、上記のように、測定データ201からエレベータ400の検査動作開始点203(すなわち、ワイヤロープ101の位置に関する情報)が抽出されて、測定データ201間の波形の位置合わせが行われる。これにより、エレベータ400からワイヤロープ101の位置に関する情報が取得できなくとも、測定データ201間の波形の位置合わせを行うことができる。また、測定データ201間の波形の位置合わせのために、各測定データ201から抽出した検査動作開始点203を一致させるだけでよいので、簡単な処理により測定データ201間の波形の位置合わせを行うことができる。これらの結果、エレベータ400からワイヤロープ101の位置に関する情報が取得できない場合にも、簡単な処理により測定データ201間の波形の位置合わせを行うことができる。
【0061】
また、本実施形態では、上記のように、第1測定データ201aおよび第2測定データ201bを、波形が平坦状の区間であるエレベータ400の検査動作開始前の区間のデータを含むように構成する。また、制御部21を、エレベータ400の検査動作開始前の区間からの測定値の変化開始点を、エレベータ400の検査動作開始点203として抽出する制御を行うように構成する。これにより、急激な変化を伴うために識別が容易な波形が平坦状の区間からの測定値の変化開始点を、エレベータ400の検査動作開始点203として抽出することができるので、エレベータ400の検査動作開始点203を精度良く抽出することができる。
【0062】
また、本実施形態では、上記のように、制御部21を、エレベータ400の検査動作開始前の区間の測定値に基づいて、エレベータ400の検査動作開始前の区間の測定値の微小なばらつきを示す標準偏差σを取得するとともに、取得した標準偏差σを考慮して、測定値の変化開始点を決定する制御を行うように構成する。これにより、エレベータ400の検査動作開始前の区間の測定値の微小なばらつきを考慮して、測定値の変化開始点を決定することができるので、エレベータ400の検査動作開始前の区間の測定値の微小なばらつきが、測定値の変化開始点として誤検出されることを抑制することができる。
【0063】
また、本実施形態では、上記のように、制御部21を、標準偏差σに基づいて、測定値の変化開始点を決定するためのしきい値205を取得するとともに、測定値がしきい値205を超えた点を、測定値の変化開始点として決定する制御を行うように構成する。これにより、複雑な処理を伴うことなく、エレベータ400の検査動作開始前の区間の測定値の微小なばらつきを考慮して、測定値の変化開始点を決定することができるので、測定値の変化開始点を簡単かつ正確に決定することができる。
【0064】
また、本実施形態では、上記のように、制御部21を、測定値がしきい値205を連続的に超えた区間の開始点を、測定値の変化開始点として決定する制御を行うように構成する。これにより、単に測定値がしきい値205を超えただけでは、測定値の変化開始点が決定されないので、ノイズが、測定値の変化開始点として誤検出されることを抑制することができる。
【0065】
また、本実施形態では、上記のように、制御部21を、第1測定データ201aおよび第2測定データ201bの波形をエレベータ400の検査動作開始点203が一致するように位置合わせした状態で、波形を位置合わせした第1測定データ201aおよび第2測定データ201b間の類似度に基づいて、第1測定データ201aおよび第2測定データ201bのうちの少なくとも一方の波形の位置を調整する制御を行うように構成する。これにより、第1測定データ201aおよび第2測定データ201bの波形を、単にエレベータ400の検査動作開始点203が一致するように位置合わせするだけの場合に比べて、第1測定データ201aおよび第2測定データ201b間の類似度を向上させることができるので、第1測定データ201aおよび第2測定データ201bの波形の位置合わせの精度を向上させることができる。
【0066】
また、本実施形態では、上記のように、制御部21を、波形を位置合わせした第1測定データ201aおよび第2測定データ201bを複数の分割区間207に分割するとともに、分割区間207において、類似度に基づいて、第1測定データ201aおよび第2測定データ201bのうちの少なくとも一方の波形の位置を調整する制御を行うように構成する。これにより、全区間において第1測定データ201aおよび第2測定データ201bの位置の調整を行う場合に比べて、位置の調整の自由度を向上させることができる。その結果、位置の調整により、第1測定データ201aおよび第2測定データ201b間の類似度をより向上させることができるので、第1測定データ201aおよび第2測定データ201bの波形の位置合わせの精度をより向上させることができる。
【0067】
また、本実施形態では、上記のように、制御部21を、波形を位置合わせした第1測定データ201aおよび第2測定データ201bの差分202を取得するとともに、取得した差分202に基づいて、ワイヤロープ101の状態を検査する制御を行うように構成されている。これにより、ワイヤロープ101の固有の磁気特性に起因したノイズが除去された状態で、ワイヤロープ101の状態の検査を行うことができるので、ワイヤロープ101の状態の検査をより精度良く行うことができる。
【0068】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく、請求の範囲によって示され、さらに請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0069】
たとえば、上記実施形態では、ワイヤロープ検査システムのワイヤロープ検査装置が、検査動作開始点の抽出制御、測定データ同士の波形の位置合わせ制御を行う例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ワイヤロープ検査システムの外部装置が、検査動作開始点の抽出制御、測定データ同士の波形の位置合わせ制御を行ってもよい。この場合、たとえば、外部装置の制御部が、第1測定データおよび第2測定データの各々から検査動作開始点を抽出するとともに、抽出した第1測定データのエレベータの検査動作開始点および第2測定データのエレベータの検査動作開始点が一致するように、第1測定データおよび第2測定データの波形の位置合わせを行うように構成すればよい。
【0070】
また、上記実施形態では、検知コイルが、一対の受信コイルを有する差動コイルである例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、検知コイルが、単一のコイルにより構成されていてもよい。
【0071】
また、上記実施形態では、エレベータの検査動作開始前の区間の測定値の微小なばらつきを示す標準偏差を考慮して、測定値の変化開始点が決定される例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、エレベータの検査動作開始前の区間の測定値の微小なばらつきを示す標準偏差を考慮することなく、測定値の変化開始点が決定されてもよい。たとえば、エレベータの検査動作開始前の区間の測定値の最大値または最小値に基づいて、しきい値を決定して、測定値の変化開始点が決定されてもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、エレベータの検査動作開始前の区間の測定値に基づいて、測定値の変化開始点を決定するためのしきい値が決定される例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、検査動作開始点を精度良く抽出可能であれば、測定値の変化開始点を決定するためのしきい値が、予め設定された値であってもよい。
【0073】
また、上記実施形態では、測定値がしきい値を連続的に超えた区間の開始点が、測定値の変化開始点として決定される例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、測定値がしきい値を連続的に超えたか否かを判断することなく、測定値がしきい値を超えた点が、測定値の変化開始点として決定されてもよい。
【0074】
また、上記実施形態では、波形を位置合わせした第1測定データおよび第2測定データ間の類似度に基づいて、第1測定データおよび第2測定データの波形の位置合わせ後に微調整が行われる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、第1測定データおよび第2測定データの波形の位置合わせ後に微調整が必ずしも行われなくてもよい。
【0075】
また、上記実施形態では、波形を位置合わせした第1測定データおよび第2測定データを複数の分割区間に分割するとともに、分割区間において、第1測定データおよび第2測定データの波形の位置合わせ後の微調整が行われる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、第1測定データおよび第2測定データの波形の位置合わせ後の微調整が行われる場合に、必ずしも波形を位置合わせした第1測定データおよび第2測定データを複数の分割区間に分割しなくてもよい。たとえば、波形を位置合わせした第1測定データおよび第2測定データの少なくとも一方の波形の全体を動かして、第1測定データおよび第2測定データの波形の位置合わせ後の微調整が行われてもよい。
【0076】
[態様]
上記した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0077】
(項目1)
エレベータを駆動するワイヤロープの磁界の変化を検知する検知コイルと、
前記エレベータの検査動作時に前記検知コイルにより取得した、測定日時が互いに異なる第1測定データおよび第2測定データに基づいて、前記ワイヤロープの状態を検査する制御を行う制御部と、を備え、
前記制御部は、前記第1測定データおよび前記第2測定データの各々から前記エレベータの検査動作開始点を抽出するとともに、抽出した前記第1測定データの前記エレベータの検査動作開始点および前記第2測定データの前記エレベータの検査動作開始点が一致するように、前記第1測定データおよび前記第2測定データの波形の位置合わせを行うように構成されている、ワイヤロープ検査システム。
【0078】
(項目2)
前記第1測定データおよび前記第2測定データは、波形が平坦状の区間である前記エレベータの検査動作開始前の区間のデータを含み、
前記制御部は、前記エレベータの検査動作開始前の区間からの測定値の変化開始点を、前記エレベータの検査動作開始点として抽出する制御を行うように構成されている、項目1に記載のワイヤロープ検査システム。
【0079】
(項目3)
前記制御部は、前記エレベータの検査動作開始前の区間の測定値に基づいて、前記エレベータの検査動作開始前の区間の測定値の微小なばらつきを示す標準偏差を取得するとともに、取得した前記標準偏差を考慮して、測定値の変化開始点を決定する制御を行うように構成されている、項目2に記載のワイヤロープ検査システム。
【0080】
(項目4)
前記制御部は、前記標準偏差に基づいて、測定値の変化開始点を決定するためのしきい値を取得するとともに、測定値が前記しきい値を超えた点を、測定値の変化開始点として決定する制御を行うように構成されている、項目3に記載のワイヤロープ検査システム。
【0081】
(項目5)
前記制御部は、測定値が前記しきい値を連続的に超えた区間の開始点を、測定値の変化開始点として決定する制御を行うように構成されている、項目4に記載のワイヤロープ検査システム。
【0082】
(項目6)
前記制御部は、前記第1測定データおよび前記第2測定データの波形を前記エレベータの検査動作開始点が一致するように位置合わせした状態で、波形を位置合わせした前記第1測定データおよび前記第2測定データ間の類似度に基づいて、前記第1測定データおよび前記第2測定データのうちの少なくとも一方の波形の位置を調整する制御を行うように構成されている、項目1~5のいずれか1項に記載のワイヤロープ検査システム。
【0083】
(項目7)
前記制御部は、波形を位置合わせした前記第1測定データおよび前記第2測定データを複数の分割区間に分割するとともに、前記分割区間において、前記類似度に基づいて、前記第1測定データおよび前記第2測定データのうちの少なくとも一方の波形の位置を調整する制御を行うように構成されている、項目6に記載のワイヤロープ検査システム。
【0084】
(項目8)
前記制御部は、波形を位置合わせした前記第1測定データおよび前記第2測定データの差分を取得するとともに、取得した前記差分に基づいて、前記ワイヤロープの状態を検査する制御を行うように構成されている、項目1~7のいずれか1項に記載のワイヤロープ検査システム。
【0085】
(項目9)
エレベータを駆動するワイヤロープの磁界の変化を検知するステップと、
前記エレベータの検査動作時に取得した、測定日時が互いに異なる第1測定データおよび第2測定データに基づいて、前記ワイヤロープの状態を検査するステップと、を備え、
前記ワイヤロープの状態を検査するステップは、
前記第1測定データおよび前記第2測定データの各々から前記エレベータの検査動作開始点を抽出するステップと、
抽出した前記第1測定データの前記エレベータの検査動作開始点および前記第2測定データの前記エレベータの検査動作開始点が一致するように、前記第1測定データおよび前記第2測定データの波形の位置合わせを行うステップと、
を含む、ワイヤロープ検査方法。
【符号の説明】
【0086】
10 検知コイル
21 制御部
100 ワイヤロープ検査システム
101 ワイヤロープ
201a 第1測定データ
201b 第2測定データ
202 差分
203 検査動作開始点
205 しきい値
207 分割区間
400 エレベータ
σ 標準偏差