(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】ヘッド交換式切削工具における工具ヘッド
(51)【国際特許分類】
B23B 29/00 20060101AFI20220628BHJP
B23B 29/03 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
B23B29/00 P
B23B29/03 A
(21)【出願番号】P 2022002933
(22)【出願日】2022-01-12
【審査請求日】2022-01-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠介
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0198020(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/00-29/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インサート取付座に切削インサートが着脱可能に取り付けられるとともに、工作機械に保持されるシャンクに対しその中心軸に沿って締結可能である、ヘッド交換式切削工具における略円筒形状の工具ヘッドであって、
当該工具ヘッドの前記中心軸に垂直な方向における外周上に、前記切削インサートの切れ刃の所定箇所まで所定の長さとなる
仮想の平面を画定する
3つの点、あるいは1つの点と1つの線、あるいは平面を含む基準面が形成されている、工具ヘッド。
【請求項2】
前記シャンクの外周部に当該外周部の一部を切り欠いた形状のシャンク基準面が形成されており、当該工具ヘッドの前記基準面は、該工具ヘッドが前記シャンクに締結された状態において前記シャンク基準面に対して水平または垂直となる位置に形成されている、請求項1に記載の工具ヘッド。
【請求項3】
前記基準面は、当該工具ヘッドのうち前記インサート取付座の裏側となる部分に形成されている、請求項1または2に記載の工具ヘッド。
【請求項4】
前記基準面は、当該工具ヘッドの中心軸に関して前記切れ刃の所定箇所とは反対側となる部分に形成されている、請求項1または2に記載の工具ヘッド。
【請求項5】
前記基準面として、当該工具ヘッドのうち前記インサート取付座の裏側となる部分に形成された第1基準面と、当該工具ヘッドの中心軸に関して前記切れ刃の所定箇所とは反対側となる部分に第2基準面とが形成されている、請求項1または2に記載の工具ヘッド。
【請求項6】
前記中心軸を挟んで前記第1基準面とは反対側の部分に、該第1基準面と平行な第3基準面が形成されている、請求項5に記載の工具ヘッド。
【請求項7】
前記所定箇所は、前記切れ刃の刃先である、請求項1から6のいずれか一項に記載の工具ヘッド。
【請求項8】
前記シャンクへ締結するための締結機構をさらに備えており、当該工具ヘッドの中心軸に沿って前記インサート座がある先端側から見たときに前記締結機構は前記基準面の外側に位置しない大きさである、請求項1から7のいずれか一項に記載の工具ヘッド。
【請求項9】
前記基準面は、平面で形成されている、請求項1から8のいずれか一項に記載の工具ヘッド。
【請求項10】
前記基準面は、平坦な載置面の上で当該工具ヘッドが自立するように形成されている、請求項1から9のいずれか一項に記載の工具ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッド交換式切削工具における工具ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
旋盤加工(旋盤等の工作機械を用いた加工)用の工作機械に取り付けられる切削工具において、略円筒形のシャンク(本明細書では「丸シャンク」という場合がある)が用いられることがある。このような丸シャンクにはその周面の一部を切り欠いた形状の平面(基準面)が設けられていて、工作機械に取り付けるときに例えばねじ等で当該平面(基準面)を押すことで、シャンクの周方向(回転方向)の向きを定めている。かかる丸シャンクを用いて実際に中ぐり加工、外径加工、端面加工といった加工をする際には、加工準備(「段取り」と呼ばれることがある)をする必要がある。ここでいう「段取り」には、一般的には、(1)丸シャンク型切削工具を工作機械に取り付け、(2)その状態で刃先位置を測定する、といった作業が含まれていて、これら一連の段取り作業を終えてからでないと加工することができない。したがって、このような段取りに時間を要すると、そのぶん工作機械が作動できない時間(「ダウンタイム」と呼ばれることがある)が多くなり、生産加工の効率が劣るというのが実際である。
【0003】
さて、従前、上記のごときダウンタイムを削減できるようにするための手法のひとつとして、ヘッド交換式の切削工具を使用する方法が提案されている。これは、インサート(チップ)保持部を有する工具ヘッドと、工作機械に保持される被保持部分を有するシャンクとを別部材とし、シャンクを工作機械に保持した状態のまま、工具ヘッドを取り外すことができるようにしたヘッド交換式の切削工具(たとえば特許文献1,2等参照)を利用し、段取りの中において機外でできる作業を増やすことでダウンタイムの短縮を図るというもので、例えば、(1')シャンクを工作機械に取り付けた状態のままシャンクから工具ヘッドを取り外し、機外にて刃先位置の測定をし(「機外測定」と呼ばれる)、(2')工具ヘッドをシャンクに取り付ける、といった流れで作業を進める。実際、このような方法における時間短縮は、取付を簡易化するという観点から実現されることがあり、従来、このような観点から、工具ヘッドをシャンクに簡便かつ精密に締結するための機構が提案されている。このような機構によれば、切削工具を分割し(すなわち、工具ヘッドをシャンクから取り外し)、機外測定をしたうえで、工具ヘッドをシャンクに簡便に取り付ける、といったことでダウンタイムを削減することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2012-522651号公報
【文献】特表2014-524357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来、工具ヘッドをシャンクに簡便かつ精密に締結するための機構により、従来の工具を分割して機外測定を可能にするための技術が上記のごとく提案されているものの、機外測定を容易に行うという観点に基づく提案や技術は提案されていない。特に、容易な機外測定を可能としつつも、工具ヘッドの切削性能を維持ないしは同等の性能を発揮させるという観点に基づく提案や技術は皆無である。
【0006】
そこで、本発明は、切削性能を維持しつつ機外測定を容易に実施することを可能とするべく、新たな着想に基づき構成したヘッド交換式切削工具における工具ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、インサート取付座に切削インサートが着脱可能に取り付けられるとともに、工作機械に保持されるシャンクに締結可能である、ヘッド交換式切削工具における略円筒形状の工具ヘッドであって、
切削インサートの切れ刃の所定箇所まで所定の長さとなる基準面を画定する点、線または面が形成されている、工具ヘッドである。
【0008】
従前は、別の表現をすれば、基準面がシャンクに設けられた切削工具だという前提の下でのみ改良がなされていたともいえるが、これに対し、本開示に係る工具ヘッドは、略円筒形状のシャンクにしかなかった基準面をヘッド側に設けるという、新たな着想に基づき想到したものである。このような新規な構成の工具ヘッドは、ヘッド単体で機外測定を行うことを可能とする。ヘッド単体での機外測定が可能ということは、従前のような基準面を備えた別のシャンクを機外にあらかじめ用意しておく必要がないということである。
【0009】
また、工具ヘッド自体に基準面を形成するにあたっては、当該工具ヘッドの外周の一部を削って平坦面を設けるといったことが考えられるが、上記のごとき構成の本開示に係る工具ヘッドにおいては、このように一部を削ったとしても切削性能に及ぶ影響が少ない。すなわち、例えば略円筒形状のシャンク(丸シャンク)の周面の一部を削って基準面が形成されているという従前の構造だと、一部を削ることによる当該シャンクの剛性や撓み等に及ぶ影響が少なくからずあったのに対し、締結機構を介して工具ヘッドがシャンク先端に締結されるという本開示のごとき構造だと影響が比較的に少なくて済む。
【0010】
上記のごとき態様の工具ヘッドにおいて、シャンクの外周部に当該外周部の一部を切り欠いた形状のシャンク基準面が形成されており、当該工具ヘッドの基準面は、シャンク基準面に対して水平または垂直に形成されていてもよい。
【0011】
上記のごとき態様の工具ヘッドにおいて、基準面は、当該工具ヘッドのうちインサート取付座の裏側となる部分に形成されていてもよい。
【0012】
上記のごとき態様の工具ヘッドにおいて、基準面は、当該工具ヘッドの中心軸に関して切れ刃の所定箇所とは反対側となる部分に形成されていてもよい。
【0013】
上記のごとき態様の工具ヘッドにおいて、基準面として、当該工具ヘッドのうちインサート取付座の裏側となる部分に形成された第1基準面と、当該工具ヘッドの中心軸に関して切れ刃の所定箇所とは反対側となる部分に第2基準面とが形成されていてもよい。
【0014】
上記のごとき態様の工具ヘッドにおいて、中心軸を挟んで第1基準面とは反対側の部分に、該第1基準面と平行な第3基準面が形成されていてもよい。
【0015】
上記のごとき態様の工具ヘッドにおける所定箇所は、切れ刃の刃先であってもよい。
【0016】
上記のごとき態様の工具ヘッドは、シャンクへ締結するための締結機構をさらに備えており、当該工具ヘッドの中心軸に沿ってインサート座がある先端側から見たときに締結機構は基準面の外側に位置しない大きさであってもよい。
【0017】
上記のごとき態様の工具ヘッドにおいて、基準面は、平面で形成されていてもよい。
【0018】
上記のごとき態様の工具ヘッドにおいて、基準面は、平坦な載置面の上で当該工具ヘッドが自立するように形成されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】ヘッド交換式切削工具におけるシャンクと工具ヘッドの一例を示す図である。
【
図2A】本発明の一実施形態における工具ヘッドの斜視図である。
【
図2B】本発明の一実施形態における工具ヘッドの平面図(第3基準面のほうから見た図)である。
【
図2C】本発明の一実施形態における工具ヘッドの平面図(第3基準面のほうから見た図)である。
【
図3A】本発明の一実施形態における工具ヘッドを示す、中心軸に沿って先端側から見た図である。
【
図3B】本発明の一実施形態における工具ヘッドを示す、中心軸に沿って基端側から見た図である。
【
図4】工具ヘッドの幅方向の基準面から切れ刃の刃先までの当該幅方向に沿った位置測定を行う様子について説明する斜視図である。
【
図5】工具ヘッドの高さ方向の基準面から切れ刃の刃先までの当該高さ方向に沿った位置測定を行う様子について説明する斜視図である。
【
図6】シャンクから工具ヘッドを取り外してから当該工具ヘッド単独で刃先位置測定を行うまでの一連の流れを従来技術と比較しながら説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る工具ヘッドの好適な実施形態について詳細に説明する(
図1等参照)。工具ヘッド20は、工作機械(図示省略)に取り付けられる切削工具のシャンク10に締結可能であって、所定の箇所に基準面22が形成されているというものである。
【0021】
工作機械は、被加工物に対して中ぐり加工、外径加工、端面加工といった加工をする際に用いられる切削装置である。本実施形態の工作機械には、シャンク10、工具ヘッド20、切削インサート30などで構成されるヘッド交換式切削工具2が取り付けられる(
図1、
図6等参照)。
【0022】
シャンク10は、シャンク基準面12、締結機構16、ねじ穴18等を備える。本実施形態のシャンク10は略円筒形状であることから丸シャンク型と呼ばれるシャンク10である(
図1等参照)。シャンク基準面12は、シャンク10の周面の一部を切り欠いて形成された平坦な面で形成されている(
図1等参照)。シャンク基準面12は、ヘッド交換式切削工具2のシャンク10を工作機械に取り付ける際の位置出しの基準となる面として機能する。シャンク10の先端部には、工具ヘッド20を締結するための締結機構16が設けられている(
図1等参照)。締結機構16は、締結用孔17、ねじ穴18、締結用ねじ40等で構成される。締結用孔17は、工具ヘッド20の締結機構26が着脱可能な孔としてシャンク10の先端に設けられている。ねじ穴18は、締結用ねじ40を螺合させるための孔として、シャンク10の周面上に設けられている。ねじ穴18は、上記のシャンク基準面12上に設けられていてもよい(
図1等参照)。
【0023】
工具ヘッド20は、切削インサート30を保持するとともにシャンク10に締結可能な部材である。本実施形態における工具ヘッド20は、その中心軸20aをシャンク10の中心軸に一致させた状態で当該シャンク10に着脱可能に設けられている。工具ヘッド20は、インサート取付座21、基準面22、締結機構26などを備え、全体として略円筒形状に形成されている(
図1等参照)。
【0024】
インサート取付座21は、切削インサート30を着脱可能に取り付けるために形成されている座である(
図3A等参照)。切削インサート30は、インサート固定ねじ39を用いてこのインサート取付座21に、すくい面32が所定の方向を向く状態で取り付けられる(
図1、
図3A等参照)。
【0025】
切削インサート30は、被加工物に対して中ぐり等の各種切削加工を行う。本実施形態の切削インサート30は、周側面35と上面37の間の交差稜線(辺稜部)36には、主切れ刃およびコーナ切れ刃からなる切れ刃31が形成されている(
図4等参照)。コーナ切れ刃は、コーナ部38に形成され、主切れ刃は、コーナ切れ刃に連なるように形成されている(
図2B、
図4等参照)。
【0026】
基準面22は、工具ヘッド20のインサート取付座21に取り付けられた切削インサート30の切れ刃31の所定箇所までの長さを測定する際の基準となる部位として形成されている。このような基準面22は、工具ヘッド20をシャンク10から取り外した状態(工具ヘッド単体の状態)で
、基準面22
から切れ刃31の刃先31t
までの各種所定寸法の測定をすることを可能とする(
図4、
図5等参照)。ここでいう切れ刃31の刃先31tの具体的位置は、測定の対象や態様に応じて変わりうる。これについては後で詳述する。
【0027】
このような基準面22は、工具ヘッド20に一つのみ形成されていてもよいし、複数形成されていてもよい。いずれにしても、工具ヘッド20の基準面22は、上述のシャンク基準面12に対して水平または垂直に形成されていることが好適である。本実施形態の工具ヘッド20には、以下に説明する第1基準面22A、第2基準面22B、第3基準面22Cという3つの基準面が形成されていて、当該工具ヘッド20は、中心軸20aに沿って先端から(または基端から)見て、輪郭線に三つの直線部を有し、輪郭線上においてこれら直線部の両端が円弧に接続するような略円筒形状となっている(
図3A、
図3B等参照)。
【0028】
第1基準面22Aは、当該工具ヘッド20のうち、インサート取付座21の裏側となる部分に形成された基準面である(
図3A等参照)。この第1基準面22Aは、工具ヘッド20がシャンク10に取り付けられた状態で、シャンク基準面12と水平になるように形成されている。なお、本明細書では、この第1基準面22Aに垂直な方向(
図3A、
図3Bにおいて上下方向)を便宜的に「高さ方向」といって符号Yで表し、第1基準面22Aに平行な方向(
図3A、
図3Bにおいて左右方向)を便宜的に「幅方向」といって符号Xで表す。上記のごとき第1基準面22Aは、上述の高さ方向Y(なお、切削インサート30のすくい面32に向かって見たときの方向に対しては幾分か傾斜している)における、切削インサート30の切れ刃31の所定箇所(例えば刃先31t)までの長さ(高さ)を測定することができる。具体的には、平坦面60上に、第1基準面22Aを下向きにした状態で工具ヘッド20を載置し、ダイヤルゲージ(ハイトゲージ)70を上方から所定箇所(例えば刃先31t)に宛がい、当該第1基準面22Aから所定箇所(本実施形態の場合、刃先31t)までの長さ(高さ)を測定することができる(
図5参照)。
【0029】
なお、ここでいう所定箇所とは、代表的には切れ刃31の刃先(より具体的には、切れ刃31のコーナ部38におけるコーナ切れ刃の刃先)31tが該当するが、これは切れ刃31の所定箇所の一例にすぎず、切れ刃31の別の箇所が測定箇所となる場合もある。
【0030】
第2基準面22Bは、工具ヘッド20の中心軸20aに関して、切削インサート30の切れ刃31の所定箇所(例えば、刃先31t)と中心軸20aとを結ぶ仮想線を延長した先にとなる部分、別言すれば、幅方向Xにおいて切削インサート30や2インサート取付座21とは反対となる側に形成されている(
図3A参照)。この第2基準面22Bは、シャンク基準面12や第1基準面22Aに対して垂直に形成されている。このような第2基準面22Bによれば、幅方向Xにおける、切削インサート30の切れ刃31の所定箇所(例えば刃先31t)までの長さを測定することができる。具体的には、平坦面60上に、第2基準面22Bを下向きにした状態で工具ヘッド20を載置し、ダイヤルゲージ(ハイトゲージ)70を上方から所定箇所(例えば刃先31t)に宛がい、当該第2基準面22Bから所定箇所(本実施形態の場合、刃先31t)までの幅方向Xに沿った長さを測定することができる(
図4参照)。
【0031】
第3基準面22Cは、中心軸20aを挟んで第1基準面22Aとは反対側の部分に形成されている(
図2A等参照)。かかる第3基準面22Cは、第1基準面22Aやシャンク基準面12と平行に形成されている(
図3A等参照)。このような第3基準面22Cは、例えばダイヤルゲージ70のゼロ点調整面として利用することができる。すなわち、ダイヤルゲージ70を使って上述の第1基準面22Aから所定箇所(本実施形態の場合、刃先31t)までの長さ(高さ)を測定する等に際し、この第3基準面22Cを利用してあらかじめダイヤルゲージ70のゼロ点調整をしておく、というように利用することができる。あるいは、切削インサート30の使用前の刃先位置と使用後の刃先位置とを比較したいといった場合に、使用前後で変化しない基準面として利用することができる。
【0032】
締結機構26は、当該工具ヘッド20をシャンク10の締結機構16に締結するための機構で構成される。本実施形態の締結機構26は、シャンク10の締結用孔17に対して着脱可能な段付きの円柱状突起のような従前と同様の構造となっている(
図2A等参照)。この締結機構26は、当該工具ヘッド20の中心軸20に沿ってインサート座がある先端側から見たとき、基準面22(第1基準面22A、第2基準面22Bおよび第3基準面22C)の外側に位置しない大きさ、別言すれば工具ヘッド20の輪郭の中に収まる大きさとされている(
図2C、
図3B等参照)。このため、第1基準面22Aや第2基準面22Bを下向きにした状態で平坦面60上に工具ヘッド20を載置する際、締結機構26が平坦面60に当接して測定をしづらくするといったことは皆無である(
図4、
図5等参照)。
【0033】
上記のごとく第1基準面22A、第2基準面22Bおよび/または第3基準面22Cによって構成される基準面22を備えた工具ヘッド20によれば、ヘッド単体で機外測定を行うことが可能である。すなわち、これまでは、特に中ぐりバイト、または、中ぐりとして使用可能な外径加工用バイトについて、工具ヘッドが略円筒状である場合、工具ヘッドのみで刃先位置を機外計測する事が困難であったため、基準面がシャンク10に設けられているという前提の下、工具ヘッド20を別のシャンク10’に取り付けた状態で切れ刃の位置測定を行うしかなかったのに対し、本実施形態に係る工具ヘッド20は、シャンクにしかなかった基準面をヘッド自体に設けることにより、切削インサート10の交換時に生じる刃先位置の変化をヘッド単体で機外測定することを可能とする(
図6参照)。したがって、本実施形態のごとき工具ヘッド20によれば切削インサート10の交換に伴う機外測定のたびに別のシャンク10’に着脱しなければならないという手間が不要であるし、そもそも、機外測定のための別のシャンク10’自体が不要である。
【0034】
また、工具ヘッド20自体に上述のような基準面22を形成するにあたり、上述のごとき構成の工具ヘッド20によれば、切削性能に及ぶ影響を極力少なくすることが可能である。すなわち、例えば丸シャンクの周面の一部を削って基準面を形成していたという従前の構造だと、一部を削ることによる当該丸シャンクの体積減少に伴う剛性や撓み等に及ぶ影響ひいては切削性能に及ぶ影響が少なくからずあったのに対し、締結機構16,26を介して工具ヘッド20がシャンク10の先端の締結用孔17に締結されるという本実施形態のごとき構造であれば、工具ヘッド20の一部を削って基準面22を形成したとしても、締結機構16,26の剛性への影響がきわめて少なく、したがってそのこと自体によるアセンブリ全体の剛性低下や切削性能への影響が極力少なくて済む。別の表現をすれば、一体型の場合には断面積などがそのまま剛性に関与するが、ヘッド交換式の場合は工具ヘッド20の締結機構26で剛性がほぼ定まり、必要以上に工具ヘッド20の断面積を増しても、締結機構の剛性を超えることはないのであって、逆に言えば、締結機構26の剛性を低下させない範囲内であれば、工具ヘッド26の断面積を減らしても影響が極めて少ない、ということである。本実施形態では、このような構造上の特性を活かし、インサート取付座21の周辺のいわゆるポケットと呼ばれる部分(
図2A等において符号20Pで示す)を、切りくずの排出性向上や軽量化といった観点からさらに削って深くした形状とすることが可能である。
【0035】
なお、本実施形態では、一部を平取りして形成した平坦な面で構成される第1基準面22A、第2基準面22B、第3基準面22Cを図に表しつつ説明をしたが、これらは基準面22の好適な例に過ぎない。これ以外にも、例えば、湾曲した面などで基準面22を形成することができる。要は、基準面22は、工具ヘッド20の姿勢(位置、傾きなど)を一義的に画定するような3つの接点が含まれていればよく、そのような3つの接点を含む限りは、1つの接点と1つの接線で所定の基準面22が画定されていてもよいし、例えば湾曲した凹む形状の凹面の両側の稜線などを利用して基準面22が画定されていてもよい。
【0036】
また、本実施形態では、第1基準面22A、第2基準面22B、第3基準面22Cを、平坦面60上で当該工具ヘッド20が自立しうるような位置、形状、大きさに形成したが(
図3A等参照)、これらも基準面22の好適な例に過ぎない。例えば、自立することができない基準面22を下向きにして平坦面60上に工具ヘッド20を載置したとしても、固定治具で固定したり手で保持したりしながら機外測定の作業をすることは可能であるものの、ただ、手で保持する等の手間がかかるだけにすぎない。ちなみに、工具ヘッド20が自立するかどうかは、当該工具ヘッド20の形状(とくに断面形状)、該形状における重心の位置、重心に対する基準面22の位置や長さなどに応じて求められる力のモーメントが釣り合うかどうかによって決まる。
【0037】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば上述の実施形態では、機外測定を行う場合の対象である切れ刃31の所定箇所までの長さの例として切れ刃31の刃先31tについて説明したがこれは一例にすぎない。つまり、ここでいう所定箇所とは、代表的には切れ刃31の刃先(より具体的には、切れ刃31のコーナ部38におけるコーナ切れ刃の刃先)31tが該当するが、これは切れ刃31の所定箇所の一例にすぎず、切れ刃31の別の箇所が測定箇所となる場合もあるのであって、例示すれば、平面視での先端(コーナ部38)であったり、あるいは中心軸20aに垂直な任意の横断面に現れる切れ刃31の一部(すくい面32と逃げ面との交差稜線36)であったりする場合があり得る。
【0038】
また、上記のごとき工具ヘッド20は、1方向に切れ刃がある(例えば1枚刃の)転削工具等において適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、ヘッド交換式切削工具における工具ヘッドに適用して好適である。
【符号の説明】
【0040】
2…ヘッド交換式切削工具
10…シャンク
12…シャンク基準面
16…締結機構
17…締結用孔
18…ねじ穴
20…工具ヘッド
20a…中心軸
20P…ポケット
21…インサート取付座
22…基準面
22A…シャンク基準面に水平な基準面(第1基準面)
22B…シャンク基準面に垂直な基準面(第2基準面)
22C…シャンク基準面に水平な基準面(第3基準面)
26…締結機構
30…切削インサート
31…切れ刃
31t…切れ刃の刃先(切れ刃の所定箇所)
32…すくい面
35…周側面
36…交差稜線(辺稜部)
37…上面
38…コーナ部
39…インサート固定ねじ
40…締結用ねじ
60…平坦面
70…ダイヤルゲージ
X…幅方向
Y…高さ方向
【要約】
【課題】切削性能を維持しつつ機外測定を容易に実施することを可能とするべく、新たな着想に基づき構成したヘッド交換式切削工具における工具ヘッドを提供する。
【解決手段】インサート取付座に切削インサート30が着脱可能に取り付けられるとともに、工作機械に保持されるシャンクに締結可能である、ヘッド交換式切削工具における略円筒形状の工具ヘッド20であって、切削インサート30の切れ刃31の所定箇所まで所定の長さとなる基準面22(22B,22C)を画定する点、線または面が形成されている。
【選択図】
図4