(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】ポリイミドフィルム
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20220628BHJP
B32B 15/088 20060101ALI20220628BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20220628BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
C08G73/10
B32B15/088
B32B27/34
H05K1/03 670A
H05K1/03 610N
H05K1/03 630H
(21)【出願番号】P 2019185674
(22)【出願日】2019-10-09
【審査請求日】2022-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2018193012
(32)【優先日】2018-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】繁田 朗
(72)【発明者】
【氏名】吉田 猛
(72)【発明者】
【氏名】山田 祐己
(72)【発明者】
【氏名】竹内 耕
(72)【発明者】
【氏名】杉本 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】越後 良彰
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-091644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
C08J
B32B
H05K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の1)および2)を満たす溶媒不溶性ポリイミドフィルム。
1)前記ポリイミドが、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、または4,4′-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)から選ばれるテトラカルボン酸二無水物成分を含み、全テトラカルボン酸二無水物成分に対してBPDAが少なくとも80モル%である。
2)前記ポリイミドが、ジアミン成分としてダイマジアミンおよびp-フェニレンジアミン(PDA)を含み、ダイマジアミン
が全ジアミン成分に対し15モル%超、50モル%未満
である。
【請求項2】
請求項1記載の溶媒不溶性ポリイミドフィルム
(PI-1)と非熱可塑性ポリイミドフィルム
(PI-2)とが、PI-2、PI-1、PI-2の順に積層されてなり、線膨張係数(CTE)が40ppm/K以下である、積層ポリイミドフィルム。
【請求項3】
請求項2記載の積層ポリイミドフィルムと銅箔とからなるフレキシブル銅張積層板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電特性(誘電率および誘電正接)、耐熱性、寸法安定性、電気的特性等に優れた高周波基板等に用いられるポリイミド(PI)フィルムに関するものである。高周波基板は、高周波帯域用のプリント回路やアンテナ基板等に用いられる。
【背景技術】
【0002】
高周波帯域用のプリント回路やアンテナ基板等に用いられる高周波基板用のフレキシブル銅張積層板(FCCL)においては、銅箔上に形成される絶縁層の誘電特性(誘電率および誘電正接)を向上させることが有効である。このような高周波基板用FCCLとして、特許文献1には、ジアミン成分として、ダイマジアミン(以下、「DDA」と略記することがある)を1~15モル%用いた共重合PIフィルムが銅箔上に形成されたFCCLが提案されている。しかしながら、ここに開示された共重合PIフィルムは、高周波基板用FCCLの絶縁層として用いた際に、良好な誘電特性の確保が難しいという問題があった。
一方、特許文献2~7には、ジアミン成分としてDDAを比較的多量に用いた共重合PIフィルムが提案されている。しかしながら、ここに開示された共重合PIフィルムは、誘電特性には優れるが、溶媒に可溶性のPIであるため、高周波基板用FCCLの絶縁層として用いた際に、耐溶剤性が不足するという問題があった。また、DDAを比較的多量に用いた共重合PIフィルムでは線膨張係数(CTE)が増加することがあり、高周波基板用FCCLの絶縁層として用いた際に、良好な寸法安定性の確保が難しいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6422437号公報
【文献】特開2018-140544号公報
【文献】特表2015-526561号公報
【文献】特開2018-168369号公報
【文献】特開2018-168370号公報
【文献】特開2018-168371号公報
【文献】特開2018-170417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記課題を解決するものであり、誘電特性が良好であり、しかも耐溶剤性、寸法安定性に優れた高周波基板用FCCLに用いることができるPIフィルムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、ジアミン成分としてDDAを用いた特定のPIフィルムとすることで上記課題が解決できることを見出し、本発明に至った。
【0006】
本発明は、以下を主旨とする。
<1> ダイマジアミンを全ジアミン成分に対し15モル%超、50モル%未満用いた、溶媒不溶性PIフィルム。
<2> 前記溶媒不溶性PIフィルムと非熱可塑性PIフィルムとからなる積層フィルム。
<3> 前記積層PIフィルムと銅箔とからなるFCCL。
【発明の効果】
【0007】
本発明のPIフィルムは、誘電特性、耐溶剤性に優れる。従い、プリント回路やアンテナ基板等に用いられる高周波基板用FCCLの絶縁層を構成するPIフィルムとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のPIフィルム(以下、「PI-1層」と略記することがある)は、DDAを全ジアミン成分に対し15モル%超、50モル%未満用いたPIからなることが必要であり、16モル%以上、40モル%以下とすることが好ましい。
そして、このPI-1層は、溶媒不溶性であることが必要である。ここで、溶媒不溶性とは、20℃におけるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)への溶解度が5質量%未満であることをいう。このPIは、熱可塑性であっても非熱可塑性であってもよい。
【0009】
PI-1層は、DDAを全ジアミン成分に対し15モル%超、50モル%未満用いたポリアミック酸(PAA-1)溶液を、基材上に塗布、乾燥、熱硬化(イミド化)することにより得ることができる。ここで、DDAは、炭素数24~48のダイマ酸から誘導される脂肪族ジアミンであり、「プリアミン1074、同1075」(クローダジャパン社製の商品名)、「バーサミン551、同552」(コグニスジャパン社製の商品名)等の市販品を用いることができる。
【0010】
PAA-1溶液は、例えば、含窒素極性溶媒中、略等モルのテトラカルボン酸二無水物と、ジアミン(15モル%超、50モル%未満のDDAと、85モル%未満、50モル%超の「他のジアミン」とからなる混合物)とが略等モルになるように配合し、10~70℃で重合反応させ、光学的に均一な溶液として得ることができる。
含窒素極性溶媒としては、アミド系溶媒、尿素系溶媒が好ましい。アミド系溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)を挙げることができる。尿素系溶媒としては、例えば、テトラメチル尿素、ジメチルエチレン尿素を挙げることができる。含窒素極性溶媒は、これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、DMAcおよびNMPが好ましい。
【0011】
テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,3,3′,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、4,4′-オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、3,3′,4,4′-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4′-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、2,2-ビス〔4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物(BPADA)等のテトラカルボン酸二無水物を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。溶媒不溶性のPIとするには、これらの中で、BPDA、PMDA、6FDAが好ましい。
【0012】
前記「他のジアミン」の具体例としては、p-フェニレンジアミン(PDA)、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、m-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、4,4′-ジアミノビフェニル、4,4′-ジアミノ-2,2′-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(PFMB)、2,2′‐ジメチル‐4,4′‐ジアミノビフェニル(DMDB)、3,3′-ジアミノジフェニルスルフォン、4,4′-ジアミノジフェニルスルフォン、4,4′-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4′-ジアミノジフェニルメタン、3,4′-ジアミノジフェニルエーテル、3,3′-ジアミノジフェニルエーテル、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4′-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン等のジアミンを挙げることができる。 これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。溶媒不溶性のPIとするには、これらの中で、PDA、DMDB、ODAが好ましい。
【0013】
PI-1層の寸法安定性をさらに向上させるために、PAA-1溶液にフィラを配合してもよい。
フィラとしては、例えば、タルク、焼成クレー、未焼成クレー、マイカ、ガラス、酸化チタン、アルミナ、ベーマイト、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト等の炭酸塩;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸ナトリウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化炭素、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等を挙げることができる。これらのフィラは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、誘電特性に優れたシリカが好ましい。
【0014】
フィラの平均粒子径は、0.05μm以上、5.0μm以下が好ましく、0.1μm以上、2.0μm以下がより好ましい。フィラの平均粒子径は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置により、粒子の粒度分布を体積基準で測定し、そのメディアン径(D50)を平均粒子径とすることができる。
【0015】
PI-1層中に含まれるフィラの含有量は、フィラが配合されたPI-1質量に対し、30質量%以上、85質量%以下が好ましく、40質量%以上、70.0質量%以下がより好ましい。
【0016】
PI-1層は、例えば、以下のような方法で得ることができる。
すなわち、先ず基材上にPAA-1溶液を塗布、100~200℃で乾燥後、形成されたPAA-1被膜を、200℃以上の温度で熱硬化(熱イミド化)することにより得ることができる。PI-1層の厚みに制限はないが、1μm以上、150μm以下とすることが好ましい。
【0017】
PI-1層の誘電特性としては、10GHzでの誘電率(Dk)を3.2以下とすることが好ましく、3.1以下とすることがより好ましい。そして、10GHzでの誘電正接(Df)を0.004以下とすることが好ましく、0.003以下とすることがより好ましい。このようにすることにより積層フィルムとした際の良好な誘電特性を確保することができる。
【0018】
PI-1層を含む積層PIフィルムは、例えば、非熱可塑性であり、寸法安定性に優れたPIフィルム(以下、「PI-2層」と略記することがある)と、PI-1層とを積層一体化することにより得ることができる。
積層フィルムの剛性を確保する観点から、PI-2層の引張弾性率は、3GPa以上とすることが好ましく、5GPa以上とすることがより好ましい。ここで、引張弾性率は、JIS K7161に基づき引張モードで弾性率を測定した値を用いる。また、積層フィルムの寸法安定性を確保する観点から、PI-2層のCTEは、20ppm/K以下とすることが好ましく、10ppm/K以下とすることがより好ましい。
【0019】
PI-2層を形成するためのポリアミック酸(PAA-2)溶液は、例えば、含窒素極性溶媒中、テトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとが略等モルになるように配合し、10~70℃で重合反応させ、光学的に均一な溶液として得ることができる。
ここで、含窒素極性溶媒としては、前記した含窒素極性溶媒を用いることができ、DMAcおよびNMPが好ましい。
テトラカルボン酸二無水物としては、前記したテトラカルボン酸二無水物を用いることができ、BPDA、PMDA、6FDAが好ましい。
ジアミンとしては、前記した「他のジアミン」を用いることができ、PDA、DMDB、BAPP、ODA、PFMBが好ましい。ここで用いられるジアミンは、DDAを含まないジアミンであるが、全ジアミン成分に対し5モル%以下程度であれば、これを組み合わせて用いることができる。このようにすることが、PI-2層の高剛性、低CTEを確保する観点から好ましい。
なお、PI-2層のPIを非熱可塑性とするには、前記したテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの組み合わせを適宜選択すればよい。ここで、非熱可塑性PIとは、350℃以下の温度では、加熱しても溶融または軟化しないPIをいう。また、非熱可塑性PIは、通常、溶媒不溶性であり、良好な耐溶剤性を示す。
【0020】
積層PIフィルムは、例えば、以下のような方法で得ることができる。
すなわち、先ず基材上にPAA-2溶液を塗布、100~200℃で乾燥後、形成されたPAA-2被膜上に、PAA-1溶液を塗布、100~200℃で乾燥して、PAA-1被膜を形成し、しかる後、両被膜を一括して、200℃以上の温度で熱硬化(熱イミド化)する。
このようにすることにより、基材上に形成されたPI-2層の表面に、PI-1層が形成され、PI-2層とPI-1層との密着性が優れた積層フィルムとすることができる。PI-1層上には、さらにPI-2層を形成させてもよい。また、塗布順を逆にして、PI-1層の表面に、PI-2層を形成させてもよいし、PI-2層上にさらにPI-1層を形成させてもよい。
【0021】
ここで用いる基材に制限はなく、ガラス板、銅箔等公知の基材を用いることができる。基材として銅箔を用いた場合は、PI-1層とPI-2層とからなる積層PIフィルム層(絶縁層)が形成されたFCCLの片面板とすることができる。また、絶縁層の両方の表面に銅箔が配置された両面板のFCCLとすることもできる。 この場合は、片面板同士を、PI等の接着剤を用いて熱圧着すればよい。この接着剤としては、低誘電率の熱可塑性PIを用いることが好ましい。銅箔の厚みに制限はないが、5μm以上、20μm以下のものが好ましい。銅箔は、化学的あるいは物理的な表面処理が施されていてもよい。化学的な表面処理としては、ニッケルメッキ、銅-亜鉛合金メッキ等のメッキ処理、アルミニウムアルコラート、アルミニウムキレート、シランカップリング剤等の表面処理剤による処理等が挙げられ、中でも、シランカップリング剤による表面処理が好ましい。シランカップリング剤としては、アミノ基を有するシランカップリング剤が好適に用いられる。一方、物理的な表面処理としては、粗面化処理等を挙げることができる。
【0022】
PI-2層としては、「カプトン」(東レ・デュポン社製の商品名)、「ユーピレックス」(宇部興産社製の商品名)等として市販されているPIフィルムを用いることもできる。
これらのPIフィルムは、非熱可塑性PIからなるものである。
これらのPIフィルムをPI-2層として用いる場合は、PIフィルム上に、PAA-1溶液を塗布、乾燥後、熱硬化して、PI-2層上にPI-1層を形成させればよい。
これらのPIフィルムは、PI-1層との接着性を向上させるため、化学的あるいは物理的な表面処理が施されていてもよい。化学的な表面処理としては、シランカップリング剤、アルミニウムアルコラート等による表面処理を挙げることができる。一方、物理的な表面処理としては、粗面化処理、プラズマ処理等を挙げることができる。
【0023】
PI-1層とPI-2層とからなる積層フィルムの合計厚みに制限はないが、5μm以上、200μm以下とすることが好ましい。
また、PI-1層とPI-2層との厚み比率に制限はないが、PI-1層の厚みを、積層フィルム全体の10~80%とすることが好ましく、30~70%とすることがより好ましい。
【0024】
本発明の積層フィルムの誘電特性としては、10GHzでの誘電率(Dk)を3.3以下とすることが好ましく、3.2以下とすることがより好ましい。そして、10GHzでの誘電正接(Df)を0.005以下とすることが好ましく、0.004以下とすることがより好ましい。このようにすることにより積層フィルムを高周波基板用FCCLの絶縁層した際の良好な誘電特性を確保することができる。
また、本発明の積層フィルムのCTEは40ppm/K以下とすることが好ましく、30ppm/K以下とすることがより好ましい。
このようにすることにより、積層フィルムを高周波基板用FCCLの絶縁層とした際の良好な寸法安定性を確保することができる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において、特性値の測定方法は、次のとおりである。
【0026】
<誘電特性>
充分に乾燥させたフィルムを試料とし、片面に円盤共振器を作成し、ネットワークアナライザ(アジレントテクノロジー社製)を用い、10GHzで、誘電率(Dk)、誘電正接(Df)を測定した。測定は同じ試料に対して3回行い、その平均値をもって測定値とした。
【0027】
<CTE>
充分に乾燥させたフィルムを試料とし、熱機械特性分析装置(TMA、TAインスツルメント社製TMA2940)を用い、5℃/minの定速昇温、30mNの引張りモードにて窒素中20℃から昇温させ、100℃~250℃の間での寸法変化量を測定することにより算出した。
【0028】
<実施例1>
ガラス製反応容器に、窒素ガス雰囲気下、ジアミン成分として、PDA:0.42モル、DDA(クローダジャパン株式会社製「プリアミン1075」、分子量:549):0.18モル、テトラカルボン酸二無水物成分としてBPDA:0.6モル、溶媒としてNMPを仕込み、攪拌下、60℃で3時間反応させることにより、固形分濃度が18質量%の均一なPAA-1溶液を得た。
ガラス板上に、硬化後のPI-1層の厚みが20μmになるようにPAA-1溶液を塗布し、しかる後、窒素ガス雰囲気下、130℃で20分乾燥することにより、銅箔上にPAA-1の被膜を形成した。
この様にして得られた被膜を、窒素ガス雰囲気下、徐々に昇温後、350℃で60分処理して、熱硬化することにより、PAA-1被膜をPIフィルムに転換した。しかる後、PIフィルムをガラス板から剥離することにより、PIフィルム(A-1)を得た。
得られたPIフィルムの諸特性を前記した方法に従って測定し、その結果を表1に示した。なお、得られたPIフィルムが溶媒不溶性の場合は「〇」、可溶性の場合は「×」と表記した。
【0029】
<実施例2>
PAA-1溶液におけるジアミン組成を、PDA:0.45モル、DDA:0.15モルとしたこと以外は、実施例1と同様にして、PIフィルム(A-2)を得た。得られたPIフィルムの諸特性を表1に示した。
【0030】
<実施例3>
PAA-1溶液におけるジアミン組成を、PDA:0.36モル、DDA:0.24モルとしたこと以外は、実施例1と同様にして、PIフィルム(A-3)を得た。得られたPIフィルムの諸特性を表1に示した。
【0031】
<実施例4>
PAA-1溶液におけるジアミン組成を、PDA:0.50モル、DDA:0.10モルとしたこと以外は、実施例1と同様にして、PIフィルム(A-4)を得た。得られたPIフィルムの諸特性を表1に示した。
【0032】
<実施例5>
PAA-1溶液におけるテトラカルボン酸二無水物組成を、BPDA:0.48モル、PMDA:0.12モルとしたこと以外は、実施例1と同様にして、PIフィルム(A-5)を得た。得られたPIフィルムの諸特性を表1に示した。
【0033】
<実施例6>
PAA-1溶液におけるジアミン組成を、PDA:0.45モル、DDA:0.15モルとし、テトラカルボン酸二無水物組成を、BPDA:0.48モル、6FDA:0.12モルとしたこと以外は、実施例1と同様にして、PIフィルム(A-6)を得た。得られたPIフィルムの諸特性を表1に示した。
【0034】
<実施例7>
PAA-1溶液におけるジアミン組成を、PDA:0.48モル、DDA:0.12モルとし、テトラカルボン酸二無水物組成を、BPDA:0.48モル、PMDA:0.12モルとしたこと以外は、実施例1と同様にして、PIフィルム(A-7)を得た。得られたPIフィルムの諸特性を表1に示した。
【0035】
<実施例8>
PAA-1溶液におけるジアミン組成を、DMDB:0.42モル、DDA:0.18モルとしたこと以外は、実施例1と同様にして、PIフィルム(A-8)を得た。得られたPIフィルムの諸特性を表1に示した。
【0036】
<比較例1>
PAA-1溶液におけるジアミンを、PDA:0.60モルとしたこと以外は、実施例1と同様にして、PIフィルム(B-1)を得た。得られたPIフィルムの諸特性を表1に示した。
【0037】
<比較例2>
PAA-1溶液におけるジアミン組成を、PDA:0.54モル、DDA:0.06モルとしたこと以外は、実施例1と同様にして、PIフィルム(B-2)を得た。得られたPIフィルムの諸特性を表1に示した。
【0038】
<比較例3>
PAA-1溶液におけるジアミン組成を、DMDB:0.54モル、DDA:0.06モルとしたこと以外は、実施例1と同様にして、PIフィルム(B-3)を得た。得られたPIフィルムの諸特性を表1に示した。
【0039】
<比較例4>
PAA-1溶液におけるジアミン組成を、ODA:0.3モル、DDA:0.3モルとし、テトラカルボン酸二無水物をBPADAとしたこと以外は、実施例1と同様にして、PIフィルム(B-4)を得た。得られたPIフィルムの諸特性を表1に示した。
【0040】
<比較例5>
PAA-1溶液におけるジアミン組成を、ODA:0.3モル、DDA:0.3モルとし、テトラカルボン酸二無水物をODPAとしたこと以外は、実施例1と同様にして、PIフィルム(B-5)を得た。得られたPIフィルムの諸特性を表1に示した。
【0041】
【0042】
表1に示すように、実施例で得られた本発明によるPIフィルムA-1~A-8は、良好な誘電特性が確保され、かつ溶媒不溶性であることが判る。これに対し、比較例1~3で得られたPIフィルムは、溶媒不溶性ではあるが、誘電特性が不良であることが判る。また、比較例4、5で得られたPIフィルムは、誘電特性は良好であるが、溶媒可溶性であり、耐溶剤性が不足していることが判る。
【0043】
<実施例9>
ガラス製反応容器に、窒素ガス雰囲気下、ジアミン成分として、PDA:0.48モル、ODA:0.12モル、テトラカルボン酸二無水物成分としてBPDA:0.6モル、溶媒としてNMPを仕込み、攪拌下、60℃で3時間反応させることにより、固形分濃度が18質量%の均一なPAA-2溶液を得た。
厚み18μmの銅箔上に、硬化後のPI-2層の厚みが5μmになるようにPAA-2溶液を塗布し、しかる後、窒素ガス雰囲気下、130℃で20分乾燥することにより、銅箔上にPAA-2の被膜を形成した。次に、このPAA-2被膜上に、硬化後のPI-1層の厚みが15μmになるように、実施例1で得られたPAA-1溶液を塗布し、しかる後、窒素ガス雰囲気下、130℃で20分乾燥することにより、PAA-2被膜上に、PAA-1被膜を形成した。さらに、このPAA-1被膜上に、硬化後のPI-2層の厚みが5μmになるようにPAA-2溶液を塗布し、しかる後、窒素ガス雰囲気下、130℃で20分乾燥することにより、PAA-1被膜上に、PAA-2被膜を形成した。
この様にして得られた3層の積層被膜を、窒素ガス雰囲気下、徐々に昇温後、350℃で60分処理して熱硬化することにより、PAA-1およびPAA-2をPIに転換し、銅箔上にPI-2層、PI-1層、PI-2層がこの順に形成された積層体を得た。この積層体から銅箔をエッチング除去することにより、3層のPIからなる積層フィルム(L-1)を得た。得られた積層PIフィルムの諸特性を表1に示した。
一方、PAA-2溶液を、硬化後のPI-2層の厚みが10μmとなるようにガラス板に塗布し、前記した条件と同条件で乾燥、熱硬化することにより得られたPI-2被膜をガラス板から剥離して、PI-2フィルムを得た。このフィルムは、非熱可塑性であり、そのCTEは16.5ppm/Kであった。
【0044】
<実施例10>
ガラス製反応容器に、窒素ガス雰囲気下、ジアミン成分として、DMDB:0.6モル、テトラカルボン酸二無水物成分としてBPDA:0.6モル、溶媒としてNMPを仕込み、攪拌下、60℃で3時間反応させることにより、固形分濃度が18質量%の均一なPAA-2溶液を得た。
厚み18μmの銅箔上に、硬化後のPI-2層の厚みが4μmになるようにPAA-2溶液を塗布し、しかる後、窒素ガス雰囲気下、130℃で20分乾燥することにより、銅箔上にPAA-2の被膜を形成した。次に、このPAA-2被膜上に、硬化後のPI-1層の厚みが18μmになるように、実施例1で得られたPAA-1溶液を塗布し、しかる後、窒素ガス雰囲気下、130℃で20分乾燥することにより、PAA-2被膜上に、PAA-1被膜を形成した。さらに、このPAA-1被膜上に、硬化後のPI-2層の厚みが4μmになるようにPAA-2溶液を塗布し、しかる後、窒素ガス雰囲気下、130℃で20分乾燥することにより、PAA-1被膜上に、PAA-2被膜を形成した。
この様にして得られた3層の積層被膜を、窒素ガス雰囲気下、徐々に昇温後、350℃で60分処理して、熱硬化することによりPAA-1およびPAA-2をPIに転換し、銅箔上にPI-2層、PI-1層、PI-2層がこの順に形成された積層体を得た。この積層体から銅箔をエッチング除去して、3層のPIからなる積層フィルム(L-2)を得た。得られた積層PIフィルムの諸特性を表1に示した。
一方、PAA-2溶液を、硬化後のPI-2層の厚みが10μmとなるようにガラス板に塗布し、前記した条件と同条件で乾燥、熱硬化することにより得られたPI-2被膜をガラス板から剥離して、PI-2フィルムを得た。このフィルムは、非熱可塑性であり、そのCTEは8.3ppm/Kであった。
【0045】
【0046】
表2に示すように、本発明による積層PIフィルムは、良好な誘電特性を示すことが判る。
また、CTEが30ppm以下と低いので、寸法安定性が良好であることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のPIフィルムは、誘電特性、耐溶剤性、寸法安定性に優れる。従い、プリント回路やアンテナ基板等に用いられる高周波基板用FCCLの絶縁層を構成するPIフィルムとして好適に用いることができる。