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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】シリコンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/023 20060101AFI20220628BHJP
   C22B 61/00 20060101ALI20220628BHJP
   C22B 5/04 20060101ALI20220628BHJP
   C22B 1/24 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
C01B33/023
C22B61/00
C22B5/04
C22B1/24
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019195732
(22)【出願日】2019-10-28
(65)【公開番号】P2021066645
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2021-10-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504237175
【氏名又は名称】SEAVAC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090158
【弁理士】
【氏名又は名称】藤巻 正憲
(72)【発明者】
【氏名】清水 博之
(72)【発明者】
【氏名】清水 政義
(72)【発明者】
【氏名】清水 義文
(72)【発明者】
【氏名】ビニョブ ラビ
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/000428(WO,A1)
【文献】韓国登録特許第10-1618579(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00-33/193
C22B 61/00
C22B 5/04
C22B 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ、アルミニウム、カルシウム酸化物、及びフッ化カルシウムの粉末の原材料混合物を用意する工程と、
前記原材料混合物を結合材を使用してペレット又は粒状物に成形する工程と、
成形後の前記ペレット又は粒状物からなる原材料混合物を50乃至150℃の温度範囲に予備加熱して前記ペレット又は粒状物を強化する工程と、
前記原材料混合物を800乃至1000℃に加熱してテルミット反応を生じさせる工程と
テルミット反応の開始後、その発熱現象を利用して前記原材料混合物を1300乃至2000℃の温度に昇温させ、前記原材料混合物融解させて、前記シリカ還元て液体シリコン及びスラグ生成する工程と、
この溶解した材料を降温させて、得られたシリコン生成物を分離して回収する工程と、
を有することを特徴とするシリコンの製造方法。
【請求項2】
原材料の前記シリカは、珪藻土から抽出された後、イオンキレート特定剤によりボロンを除去し、アニオンキレート特定剤によりリンを除去して高純度化したものであることを特徴とする請求項1に記載のシリコンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ、アルミニウム、酸化カルシウム、及びフッ化カルシウムを原料として、テルミット反応により原料を溶融させて、シリカを還元することにより、高純度のシリコンを製造する方法に関する。特に、本発明は、光電変換セルに好適の高純度(9N)シリコンを製造するのに有効な方法に関し、好ましくは、珪藻土から抽出され高純度化処理を受けた高純度シリカを原材料の一つとして、テルミット反応により、炭素原料を使用せずにシリカを還元して、高純度ソーラーグレードのシリコン、即ち、高光電変換効率のソーラーセル用途に適したシリコンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化石ベースのエネルギの生産は、炭素を含むガスの放出源となる。これは、COガスのような温室効果ガスにより、地球の全世界的な温暖化につながる。この温室効果ガスは世界的な温暖化を導く主要な要素の一つである。エネルギ源として石炭を活用する全ての工程で発生する。全世界的な規模でいうと、2018年に、2500億トンのCOが発生した。このうち、中国が30%、米国が15%、インドが7%、ロシアが5%である。一方、いくつかのCO代替クリーンエネルギの製造方法が提案され、使用されている。代替エネルギの中で、近年、光起電性の電力生成手段として知られるソーラーエネルギの使用が著しく進んでおり、ソーラーエネルギは豊富に存在し、ソーラー発電の装置はプロセスの中で使用される装置として問題がない大きさを有している。
【0003】
ソーラー電力の発電装置の中で、ソーラーセルは、シリコンウエハを使用したソーラーエネルギと電気との変換を代表する最も重要な部分である。この光電変換効率を上げるためには、半導体シリコンの純度と同レベルのシリコン純度が好ましい。半導体シリコンの純度は、10Nで始まる高純度が検討されており、そのため、ソーラーセルのシリコンの場合も、ソーラーセルの高変換効率を得るために、それに近い又は同等の純度とすることが好ましい。
【0004】
シリコンベースのソーラーセルは、最も一般的に商用化され、使用されてきたソーラーセルであり、ソーラー市場の90%以上を占める。シリコン材料がどのような品質であるかは、そのソーラーセルの変換効率等の品質効果に直接的に関連する。この変換効率は、単結晶から多結晶までのシリコンの形態にかなり依存する。現在、ソーラーセル用途に使用されるソーラーグレードシリコンとして分類されるシリコン材料には、最低限6Nの純度が必要である。
【0005】
半導体シリコンの製造に使用される原材料は、ソーラーグレードシリコンを製造するために使用される原材料と同等である。従って、ソーラーグレードシリコンの製造業界における価格の高騰及び下落は、半導体シリコンの製造業界の価格の高騰及び下落に強く依存する。そして、それはソーラーグレードシリコンの原材料の調達を厳しくする。
【0006】
そこで、ソーラーグレードシリコン製造用の原材料の不足を解消するために、金属シリコン(2~3N)として知られている金属グレードシリコンの純度を高めることに、様々な関心が集中してきた。金属グレードシリコンの主要な不純物は、カルシウム、アルミニウム、鉄等の金属不純物と、リン及びボロン等の非金属不純物とを含む。鉄及びアルミニウム等の金属不純物は、凝固段階で金属不純物が容易に偏析し、シリコンに比べて極めて低い凝固分配係数を有するために、扱いやすい。しかしながら、非金属不純物のボロン及びリンは、シリコン内でドーパントとして作用し、高い凝固分配係数を持つ。ボロンの場合は、凝固分配係数は0.8であり、凝固偏析を介してボロンを取り除くことを困難にしている。
【0007】
金属シリコンをソーラーグレードシリコンへ高純度化するために非金属不純物を除去する際の問題点を解消するために、凝固偏析に代わる種々の方法が開発されてきた。例えば、特許文献1には、ボロン及びリンのプラズマフレーム溶解法が開示されている。また、特許文献2には、リンの原子化除去が開示されている。金属シリコンを高純度化するための代替方法が種々提案されているにも拘わらず、半導体グレードシリコンの純度レベルに到達することは、高純度化を達成するための効率的な方法が存在しないために未だ実現されていない。
【0008】
従来、ソーラーグレードシリコンは、2つの主要な工程の連続からなる伝統的な方法で製造されている。この方法は、先ず、炭素材料を使用し、アーク炉内で2000℃に加熱してシリカをシリコンに変換する。その後、得られたシリコンを、特許文献3に開示されたシーメンス法という化学的方法により高純度化する工程が続く。しかしながら、この方法は、高コストであると共に、気候変動の原因となるCOが高レベルで空気中に放出されるという問題点がある。このため、2017年近傍の産業レベルで、地球全体で1℃の温暖化をもたらしている。
【0009】
従来のシーメンス法の主要な欠点を改善すべく、種々の代替方法が開発されている。その一つが、特許文献4に記載されたエルケム法であり、5000トンのSoG-Si当たり、CO放出量が50000トンになるまで、COの放出が減少した。従って、この方法は、シーメンス法に比較して大きく改善されているといえる。しかしながら、エルケム法において放出されるCO量は、未だ極めて高レベルであり、この10年間で0.2℃の温度上昇が生じるレベルである。今後の数年におけるCO放出の増加は、地球の環境及び人類生存にとって致命的であると想定される。従って、再生可能エネルギの使用及び将来の地球環境の良好な保全を加速するために、ソーラーグレードシリコンを製造する方法としては、炭酸ガスを放出しないゼロ放出工程又はCOフリー社会を、可及的速やかに実現することが要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】WO2010/024310A1
【文献】CN101525136A
【文献】US2008/0206970A1
【文献】US特許6861040B1
【文献】US特許5152830
【文献】WO2006/041271
【文献】WO2013/078220
【文献】WO2004/101434A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
現在、ソーラーセル用途の高純度シリコンを製造するための方法として、炭素質材料を使用しない理想的な方法は存在しない。このため、ソーラーセル用途の高純度シリコンの製造方法として、厳密なゼロ炭素放出による製造方法の開発が要望されている。なお、熱炭素還元は、実質的に電気エネルギの消費が必要で、それに自己パワーとしての第2世代のソーラーセルを使用すれば、その部分では、ゼロ放出過程となり、炭素放出量を減少させることができる。しかし、テルミット反応を使用したテルミット還元では、高レベルのCO放出は生じない。還元剤としてアルミニウムを使用するテルミット反応は、酸素を含む材料の還元のためのCOフリー工程であるといえる(特許文献5)。その他、テルミット反応ではないが、シーメンス法及びエルケン法によらない高純度シリコンの製造方法として、特許文献6乃至8に開示されたものがある。
【0012】
特許文献5には、金属酸化物粉末及び還元剤の混合物を反応炉内に装入した後、純金属又は合金金属をテルミット反応により製造する方法が開示されている。特許文献6には、二酸化シリコンをアルミニウム熱還元法により還元して高純度シリコンを製造する方法が開示されている。特許文献7は、ソーラーグレードシリコンの製造方法であるが、その方法は、シリカを1300乃至1400℃の温度に予備加熱し、アルミニウムと接触させてアルミニウムを溶解させ、アルミニウム-シリコン合金を生成するものである。特許文献8においては、珪岩の熱炭素還元を含む化学的処理と、無機酸水溶液による処理とにより、高純度シリコン粉末を得ている。
【0013】
しかしながら、炭酸ガスを放出せずに、COフリーでシリカを還元して高純度シリコンを得ると共に、得られた高純度シリコンをソーラー発電に使用してソーラーエネルギから電気エネルギに変換するクリーン方法は、理想的な社会の実現に寄与するが、この高純度シリコンを高効率で還元製造することができる方法は、未だ、実現されていない。
【0014】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、テルミット反応によりシリカをアルミニウムで還元することにより、炭素質材料を使用せずに、製造過程で炭酸ガスを放出することなく、高効率で高純度シリコンを製造することができるシリコンの製造方法を提供することを目的とする。特に、本発明は、3N以上又は更に好ましくは4N以上の比較的高純度のシリカ原料を、テルミット反応により、アルミニウムにより還元することによって、ソーラーセル用途の9Nレベルの純度を有する高純度シリコンを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、例えば、世界的に豊富に存在する珪藻土を高純度化することにより得られた原材料シリカが、アルミニウムを還元剤として、グラファイトヒータ内でテルミット反応により還元され、高純度シリコンが製造される。この高純度シリコンは、テルミット反応の間に生成するスラグを除去することにより、高純度化されて、高純度ソーラーグレードシリコンを得ることができる。
【0016】
本発明に係るシリコンの製造方法は、
シリカ、アルミニウム、カルシウム酸化物、及びフッ化カルシウムの粉末の原材料混合物を用意する工程と、前記原材料混合物を結合材を使用してペレット又は粒状物に成形する工程と、成形後の前記ペレット又は粒状物からなる原材料混合物を50乃至150℃の温度範囲に予備加熱して前記ペレット又は粒状物を強化する工程と、前記原材料混合物を800℃以上に加熱してテルミット反応を生じさせ、テルミット反応の開始後、その発熱現象により、温度が800乃至2000℃に昇温する過程で前記原材料混合物が融解し、前記シリカが還元されて液体シリコン及びスラグが生成する工程と、この溶解した材料を降温させて、得られたシリコン生成物を分離して回収する工程と、を有することを特徴とする。
【0017】
換言すると、本発明の高純度シリコンを製造する方法は、シリカ、アルミニウム、カルシウム酸化物及びフッ化カルシウムの粉末等を原料混合物材料とする。更に、この混合物をグラファイトルツボに入れ、グラファイトヒータに装入して、ルツボを800℃以上に加熱する。これにより、テルミット反応が生じ、ルツボ内容物が800乃至2000℃に昇温して、原材料混合物が溶融し、シリカが液体シリコン及びスラグに還元される。反応材料は降温されると、液体シリコンが凝固し、不純物が十分に除去された固体シリコン製品が得られる。
【0018】
更に、換言すると、本発明は、炭素質材料を含まない少量のボロン量及びリン量を持つ高純度シリコンを調整する方法に関する。この方法は、複数のステップを有する。例えば、原材料のシリカ粉末を、アルミニウム粉末及びカルシウム酸化物にフッ化カルシウム粉末を混合したものに、混合し、原材料混合物をルツボに入れる。更に、テルミット反応に適切な温度を付与すると、テルミット反応が生じ、シリカの還元が生じる。そして、還元されて得られたシリコンを、例えば、スラグとの固体混合物の形態で回収する。そして、最終生産物を高純度化して高純度シリコン生成物を得る。
【0019】
更に、換言すると、本発明は、光起電性の用途に有効な9Nシリコンを製造するのに好適である。この方法は、炭素質材料を使わずにシリカを還元するテルミット反応を使用する。これにより、炭素の放出を回避することができる。本発明方法は、例えば、以下のステップを有する。
【0020】
(1)シリカ、アルミニウム、カルシウム酸化物及びフッ化カルシウムの原料混合物を得る。これは、各原料の粉末を混合した後、結合剤により固めてペレット状にしたものでも良いし、又は、シリカ粉末を結合材によりペレット状にしたシリカペレット、アルミニウム粉末を結合材によりペレット状にしたアルミニウムペレット、カルシウム酸化物及びフッ化カルシウムの混合粉末を結合材によりペレット状にしたカルシウム酸化物・フッ化カルシウム混合物のペレットの各ペレットを混合した混合物としてものでも良い。このようにして、原材料を用意する。
【0021】
(2)ペレットの混合物をグラファイトルツボ又はBNルツボに装入する。
【0022】
(3)前記ペレットを予備加熱処理して、その構造を強化する。
【0023】
(4)予備加熱したペレットを加熱して、グラファイトルツボ内でテルミット反応を活性化し、シリカをシリコンに還元する。
【0024】
(5)反応生成物を降温させて、テルミット反応により得られた凝固シリコンを回収する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、炭酸ガス及び一酸化炭素ガス等の炭素含有ガスの放出なしに高純度シリコンを製造することができる。即ち、本発明によれば、還元剤として、炭素の代わりにアルミニウムを使用するので、炭素の放出を回避できる。そして、本発明によれば、シリコン炭化物の他に、毒性があると共に、有害ガスである炭酸ガス及び一酸化炭素ガスが生成されない。
【0026】
一方、本発明によれば、テルミット反応の着火点は、従来の熱炭素還元に比して低く、このため、エネルギ消費量が低い。また、テルミット反応により、原料混合物が速やかに高温に昇温し、還元反応が極めて短時間で完了する。よって、高効率で高純度シリコンを得ることができる。
【0027】
本発明によれば、従来の還元工程に比較して、本発明のテルミット反応による還元工程は、プロセス技術において、高純度シリコンの製造にとって、より直接的且つ近接的なものであり、無駄が少なく、効率的である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施形態のソーラーグレードシリコンの製造方法を示すフローチャートである。
図2】本発明の実施形態で使用するグラファイトヒータの内部を示す模式的斜視図である。
図3】同じくその内部を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について、図1乃至図3を参照して具体的に説明する。本発明は、石英の熱炭素還元から製造される冶金グレードのシリコンをソーラーグレード及び半導体グレードのシリコンまで品質を向上させるときに、従来のシリコン製造方法であるシーメンス法では、シランガス等の可燃性ガス、毒性ガス及び不快臭の化学処理を行うことから生じる問題、即ちエネルギの消費量が多いという問題を解消するために開発されたものである。
【0030】
次に、汚染要素が現実的である。地球の重大な問題の一つに、気候変動がある。多くの研究プロジェクトが、地球温暖化への各プロセスを抑制すべく実施されている。ガスの中でも、CO2ガスが地球の気候の破壊に対して甚大な影響を与えている。従来の冶金グレードのシリコンを製造するシリカ還元プロセスは、還元反応時に、COガス及びCO2ガスの大量の放出を伴う。
【0031】
ソーラーグレード以上のシリコンの製造方法に関し、クリーンな低コストの方法に対する必要性が高まっている。従来のシリコン製造方法における欠点を改善して地球を保護するために、いかなるこれ以上の炭素放出も避けるべきである。
【0032】
本発明のシリコン純度の目標は、99.9999999%(9N)である。本発明において、ボロン及びリンの不純物は、原材料及びひいては得られるシリコン製品の純度レベルを記述する際の基準となる。
【0033】
図2は本実施形態で使用するグラファイトヒータを示す斜視図、図3は断面図である。チャンバ1は、例えば、SUS製であり、このチャンバ1の内周面にはアルミナ断熱層2が内張されている。更に、この断熱層2に囲まれた空間には、筒状のグラファイト保護層3が設置され、このグラファイト保護層3の内面にNicaフィルム層4が設けられている。チャンバ1の壁内には、このチャンバ1を冷却するための水冷ステンレス鋼製のジャケット7が埋め込まれている。そして、Nicaフィルム層4に囲まれた空間に、グラファイトヒータ6が設置されている。また、Nicaフィルム層4に囲まれたチャンバ1の底部上には、ステンレス鋼製支持板5が設置されており、この支持板5上におけるグラファイトヒータ6の中心部には、上端が開口したグラファイトるつぼ11がグラファイト製るつぼ支持台12の上に載置されて配置されている。このグラファイトるつぼ11を取り囲むようにしてクオーツ製の筒体10が配置されている。また、チャンバ1の上面には、その中央に開口部が設けられており、この開口部を閉塞する蓋部材15が設置されている。この蓋部材15には、2個の水冷銅製の電源接続部9が設置されており、この接続部9に接続された電源端子接続棒8を介して、グラファイトヒータ6が垂下されている。これにより、このグラファイトヒータ6は電源端子接続棒8を介して電源接続部9に電気的に接続され、電源接続部9から給電されるようになっている。また、蓋部材15の中央には、グラファイトるつぼ11の周囲にArガスを供給するためのパイプ13が設置されている。原材料混合物は、グラファイトるつぼ11内に装入され、グラファイト製るつぼ支持台12の上に載置される。このるつぼ11内の原材料混合物は、クオーツ製筒体10を介して、グラファイトヒータ6により800℃以上の温度に加熱される。このとき、チャンバ1内にはArガスが導入され、るつぼ11の周辺部はAr雰囲気に保持される。そして、アルミニウムが800℃以上に加熱されると、テルミット反応が開始され、アルミニウムによるシリカの還元反応が生じる。
【0034】
本発明の方法は、図1に示されているように、高純度シリコンを製造する方法である。更に、本発明の実施形態によれば、高純度シリコンの製造方法は、シリカ及びアルミニウム粉末に、カルシウム酸化物を加えた原材料混合物を用意する工程と、前記混合物を、800乃至2000℃の範囲に存在するテルミット反応の着火温度まで加熱する工程と、反応物を溶解し、シリカとアルミニウムとの間の酸素の交換を生じさせてシリコンとスラグを生成する工程と、を有する。更に、残渣から液体シリコンを分離する工程に続いて、生成物を冷却して低不純物レベルのシリコンを得る。
【0035】
原材料として使用されるシリカは、珪藻土から抽出され、99.999%(5N)の近傍まで高純度化されたものである。この珪藻土は、全世界的に豊富に存在し、それから抽出されるシリカは、低コストである。この珪藻土から高純度シリカを得る方法としては、例えば以下に示すものがある。即ち、この高純度シリカの製造方法は、先ず、珪藻土原料を酸により浸出処理し、純水で洗浄することにより、アルカリ土類金属、アルカリ金属、遷移金属又はポスト遷移金属を含む不純物を除去し、洗浄後の残渣からケイ酸ナトリウム水溶液を得る工程と、前記ケイ酸ナトリウム水溶液を、イオンキレート特定剤を収納した第1コラム内に通して、前記ケイ酸ナトリウム水溶液中のボロンを除去するボロン除去工程と、前記ボロンを除去した水溶液を、アニオンキレート特定剤を収納した第2コラムに通して、前記水溶液中のリンを除去するリン除去工程と、前記リンを除去した水溶液を、遠心分離して濾過することにより、シリカを回収する工程と、を有する。
【0036】
本発明によれば、シリカとアルミニウムとの原料混合物は、カルシウム酸化物粉末に加えて、主としてCaFからなるフッ化カルシウム粉末を含む。これにより、フラックス効果が得られ、シリカとアルミニウムとの間のテルミット反応の着火温度を下げて、必要エネルギを低減させることができる。
【0037】
カルシウム酸化物粉末の原料として、4N以上の適切な純度のカルシウム酸化物粉末及びフッ化カルシウム粉末をもつ石灰を使用することができる。
【0038】
混合物の調整の第1工程によれば、原材料混合物の各成分の粒子サイズは、1mm未満であり、シリカの場合は、50μm未満である。
【0039】
原材料の粒子サイズは、接触面積が増大による反応速度の増大に大きな影響がある。粒子の適切な粒径の選択は、高収率の還元反応を得るためのキー要素である。
【0040】
本発明によれば、原材料におけるシリカ、アルミニウム、カルシウム酸化物及びフッ化カルシウムの混合比は、モル比で、2:1:2:1~6:3:6:2である。
【0041】
シリカとアルミニウムとの重量比は、アルミニウムのアルミナへの全量酸化を確保してアルミニウムスラグ材料が生成しないようにするために、1/2~1/3とすることが好ましい。
【0042】
シリカとカルシウム酸化物との重量比は、カルシウム酸化物の比が高いほど、着火温度が低くなるので、着火温度を低下させ用とするレベルに応じて、1/1~3/2の範囲とする。
【0043】
更に、溶融反応物の粘度は、フッ化カルシウムの添加により調整することができる。このフッ化カルシウムは、高純度シリコンを回収するためにシリコン産物から最終スラグ産物を分離する際に、極めて重要な役割を果たす。
【0044】
本発明によれば、図2に示すように、グラファイトヒータの内部に開口したグラファイトルツボが設置され、このルツボ内にテルミット反応が導入される。
【0045】
粒子状、ペレット状、及び粉状の形態の原材料混合物は、グラファイトルツボの内部に、異なる反応物間の十分な表面接触が得られるように均一に装入される。
【0046】
テルミット反応は、グラファイトルツボの内部温度が800℃以上になった後、着火される。
【0047】
テルミット反応が開始された後、シリカは、カルシウム酸化物とフラックス材料のフッ化カルシウム粉末の存在下で、アルミニウムと反応する。
【0048】
下記反応式(化1)、(化2)は、シリカとアルミニウムとの間の酸素の交換を行うテルミット還元の化学反応を示す。
【0049】
【化1】
【0050】
【化2】
【0051】
本発明によれば、還元過程は以下のように生じる。シリカペレット、アルミニウム、カルシウム酸化物及びフッ化カルシウムを含む原材料の混合物は、約20℃/分の一定の加熱速度で、全ての材料が溶解するまで、約800℃以上の温度に昇温する。テルミット反応は、800乃至1000℃の温度で、着火し、開始する。また、このテルミット反応は、2000℃以上の高温度まで反応が進行する。
【0052】
テルミット反応の温度範囲は、シリカとアルミニウムとの間の酸素の交換を生じさせ、液体シリコンとアルミニウム酸化物(アルミナ)を生成する。
【0053】
反応時間は、投入される原材料比並びに温度及び加熱パターンのような加熱条件に応じて、20分~50分の範囲で変動する。
【0054】
テルミット反応は、かなりの量のエネルギが熱として放出される発熱反応である。従って、テルミット反応を800乃至1000℃の範囲で活性化させると、外部の熱エネルギ源は、不要である。よって、エネルギ消費量は極めて減少する。
【0055】
着火から2000℃の最高温度に到達するまでの期間に、テルミット反応が生じるにつれて、液体シリコンが徐々に生成する。従って、最終的に、液体シリコンは液体シリコンの一つのたまりとして集まる。
【0056】
液体シリコンが一つのたまりとして集合することにより、全ての還元過程で発生するスラグから、液体シリコンを分離することが容易になる。
【0057】
本発明の実施形態において、アルミニウム金属は、上述の化学反応に従って2つの方法で除去される。第1の方法は、アルミニウム金属がシリカから供給される酸素と反応してアルミニウムガス(Al)を生成し、蒸発する。又は第2の方法は、アルミニウムが他の金属に混入して凝固し、シリコンより密度が高い固体スラグを生成する。発生スラグのうちより密度が大きいものは、グラファイトルツボの底に沈む。その後、酸処理により、スラグの全量が抽出される。還元過程におけるアルミニウムの抑制の道筋が、同時に生じうる。これにより、アルミニウム酸化物のガス及びアルミニウムスラグの生成が生じ、この同時生成により、最終生成物からアルミニウムを大量に除去することができる。
【0058】
シリカのシリコンへの還元とアルミニウムのアルミナへの酸化は、反応物同士の表面接触を効率化するために、液相中で実施される。
【0059】
800乃至1000℃という高温で、テルミット反応を開始させる理由は、反応物の全溶解量を多くするためであり、これにより、反応は、還元プロセスにとって有益な液体状態で生じることになる。
【0060】
本発明によれば、アルミニウム粉末は、従来のシリカの熱炭素還元にて使用される炭素の代わりに、還元剤として機能する。
【0061】
アルミニウムは、B及びPのような不純物を低濃度で含有することがある。これらの不純物は、シリコンの最終的な純度レベル、ひいては、ソーラーセルの性能に対して、大きな影響を与える。従来の炭素還元の場合は、B及びP不純物を高レベルで含有するため、ソーラーセルの性能が低いが、本発明の場合は、B及びP不純物の濃度が低いため、高性能のソーラーセルを得ることができる。
【0062】
本発明においては、テルミット反応は高度な発熱反応であり、自己エネルギ供給反応といえる。よって、本発明は、従来の還元プロセスに比べて、外部エネルギ消費量が低い。
【0063】
本発明によれば、シリカのシリコンへの変換効率は、約40%であり、理想的な変換効率が47%であることから、極めて高い変換効率が得られる。アルミナ及びカルシウム酸化物を含むスラグ材料が生成し、一部がルツボの壁に付着することにより、7%の損失が生じる。
【0064】
本発明によれば、シリカ、シリコン、アルミニウム、アルミナ、カルシウム及びカルシウム酸化物のようなルツボの内部に存在する複数種の材料の反応により、スラグ材が発生する。スラグ材料の複雑さは、清浄なシリコン生成物を得るための高純度化プロセスで扱われる構造的な同定を困難にしている。
【0065】
実施例1
純度が4N以上、粒子径が100μm以下のシリカ粉末を、同様の純度で粒径が1mm以下のアルミニウム粉末、カルシウム酸化物粉末及び珪石粉末に混合した。各粉末の混合物を、バインダーとしてPVAのような結合材を添加して、原材料のペレット又は粒子を成形した。原材料を用意するために使用された比は、モル比で(SiO:Al:CaO:CaF)=(4:2:4:2)であり、十分に混合されてペレット又は粒子状に成形される。より詳細には、17.8gのシリカ粉末が4gのアルミニウム粉末、16.6gのカルシウム酸化物及び11.6gの珪石粉末に添加され、PVA結合材を使用して、5乃至10mm径のペレット又は粒子に成形された。この混合原料の各成分の配合量は、SiO:35.6質量%、Al:8.0質量%、CaO:33.2質量%、CaF:23.2質量%である。
【0066】
その後、粒子の構造を強化するために、粒子は50乃至150℃の温度範囲に1乃至2時間予備加熱した。予備加熱された粒子は、開口したグラファイトルツボ内に装入し、グラファイトヒータチャンバ内に配置した。装入された原材料は、20℃/分の加熱速度で800℃の温度に加熱した。グラファイトヒータは、テルミット反応の着火まで、必要な熱エネルギを供給する。この着火は、800乃至1000℃の温度で発生する。
【0067】
更に、テルミット反応が着火した後、温度は急速に上昇し、原材料を1300乃至2000℃の温度範囲で溶解させる。そして、液体シリコンは、シリカの還元反応により生成する。アルミナは、スラグ材料の生成に加えて、アルミニウムの酸化過程で生成する。フッ化カルシウムフラックス粉末を添加することは、生成した液体シリコンをアルミナ及びスラグ等の他の生成物から分離するために重要な役割をもつ。テルミット反応期間は、チャンバの状態にもよるが、20乃至40分である。テルミット反応の着火後には、グラファイトヒータからもたらされるエネルギは節減されるが、20℃/分の加熱速度の場合は、40乃至45分維持される。冷却後、凝固したシリコンの層が、テルミット反応の他の生成物の上に浮遊する。これにより、シリコン生成物の回収が容易になる。
【0068】
実施例2
実施例1と同様の性質をもつシリカ、アルミニウム、カルシウム酸化物及びフッ化カルシウム粉末の原料混合物は、モル比で(SiO:Al:CaO:CaF)=(6:2:3:2)に調整された。詳細には、24.4gのシリカ粉末が3.7gのアルミニウム粉末、11.3gのカルシウム酸化物粉末及び10.6gのフッ化カルシウム粉末に添加され、PVA結合剤を使用して5乃至10mmの径のペレット又は粒子に成形される。この混合原料の各成分の配合量は、SiO:48.8質量%、Al:7.4質量%、CaO:22.6質量%、CaF:21.2質量%である。
【0069】
その後、混合物の構造を強化するために、粒子は50乃至150℃の温度範囲に1乃至2時間予備加熱した。更に、予備加熱された粒子は、開口したグラファイトルツボ内に装入し、グラファイトヒータチャンバ内に配置した。グラファイトルツボの加熱工程は、20℃/分乃至25℃/分の加熱速度で、800℃の温度に加熱する工程を含む。グラファイトヒータは、テルミット反応の着火まで、必要な熱エネルギを供給する。この着火は、800乃至1000℃の温度で発生する。
【0070】
テルミット反応が着火した後、35乃至45分で、1300℃乃至2000℃まで温度上昇が生じる。これにより、原材料の全量が溶解する。液体シリコン、アルミナ及びスラグが還元工程で生成する。冷却後、凝固シリコンの層が、テルミット反応の他の生成物の上に浮遊する。これにより、シリコン生成物を回収することが容易になる。
【0071】
実施例3
実施例1と同様の性質をもつシリカ、アルミニウム、カルシウム酸化物及びフッ化カルシウム粉末の原料混合物は、下記モル比(SiO:Al:CaO:CaF)=(5:3:4:1)で調整された。このため、21.96gのシリカ粉末が5.93gのアルミニウム粉末、16.4gのカルシウム酸化物粉末及び5.71gのフッ化カルシウム粉末に添加され、PVA結合剤を使用して5乃至10mm径のペレット又は粒子に成形される。この混合原料の各成分の配合量は、SiO:43.9質量%、Al:11.9質量%、CaO:32.8質量%、CaF:11.4質量%である。
【0072】
その後、混合物の構造を強化するために、粒子は50乃至150℃の温度範囲に1乃至2時間予備加熱した。更に、予備加熱された粒子は、開口したグラファイトルツボ内に装入し、グラファイトヒータチャンバ内に配置した。グラファイトルツボの加熱工程は、20℃/分乃至25℃/分の加熱速度で、800℃の温度に加熱する工程を含む。グラファイトヒータは、テルミット反応の着火まで、必要な熱エネルギを供給する。この着火は、800乃至1000℃の温度で発生する。
【0073】
テルミット反応が着火した後、35乃至45分で、1300℃乃至2000℃まで温度上昇が生じる。これにより、原材料の全量が溶解する。液体シリコン、アルミナ及びスラグが還元工程で生成する。冷却後、凝固シリコンの層が、テルミット反応の他の生成物の上に浮遊する。これにより、シリコン生成物を回収することが容易になる。
【0074】
実施例4
実施例1と同様の性質をもつシリカ、アルミニウム、カルシウム酸化物及びフッ化カルシウム粉末の原料混合物は、下記モル比(SiO:Al:CaO:CaF)=(5:3:3:2)で調整された。即ち、21.28gのシリカ粉末が5.73gのアルミニウム粉末、11.92gのカルシウム酸化物粉末及び11.06gのフッ化カルシウム粉末に添加され、PVA結合剤を使用して5乃至10mm径のペレット又は粒子に成形される。この混合原料の各成分の配合量は、SiO:42.6質量%、Al:11.5質量%、CaO:23.8質量%、CaF:22.1質量%である。
【0075】
その後、混合物の構造を強化するために、成形後の粒子は50乃至150℃の温度範囲に1乃至2時間予備加熱した。更に、予備加熱された粒子は、開口したグラファイトルツボ内に装入し、グラファイトヒータチャンバ内に配置した。グラファイトルツボの加熱工程は、25℃/分乃至35℃/分の加熱速度で、800℃の温度に加熱する工程を含む。グラファイトヒータは、テルミット反応の着火まで、必要な熱エネルギを供給する。この着火は、800乃至1000℃の温度で発生する。
【0076】
テルミット反応が着火した後、35乃至45分で、1300℃乃至2000℃まで温度上昇が生じる。これにより、原材料の全量が溶解する。液体シリコン、アルミナ及びスラグが還元工程で生成する。冷却後、凝固シリコンの層が、テルミット反応の他の生成物の上に浮遊する。これにより、シリコン生成物を回収することが容易になる。
【0077】
このようにして、SiO、Al、CaO及びCaFの原料混合物をテルミット反応により昇温させ、SiOを還元して、高純度シリコンを得る。この原料混合物は、例えば、上記実施例1,実施例2、実施例3及び実施例4の例では、SiOが35乃至50質量%、Al:7乃至12質量%、CaOが20~35質量%、CaFが10乃至25質量%である。但し、本発明の混合原料の組成範囲はこれに限らず、テルミット反応が生じる組成範囲であれば、本発明の効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明においては、従来の熱炭素還元により高純度シリコンを製造するのではなく、テルミット反応を熱源として、シリカをアルミニウムで還元することにより、温室効果ガスである炭素含有ガスの放出なしに高純度シリコンを製造することができるので、地球環境の悪化をもたらすことなく、ソーラーセル用のソーラーグレードシリコンを高効率で製造できる。よって、本発明はソーラーグレードシリコン等の高純度シリコンの製造に極めて有益である。
【符号の説明】
【0079】
1:チャンバ
2:アルミナ断熱層
3:グラファイト保護層
4:Nicaフィルム層
5:支持板
6:グラファイトヒータ
7:ステンレス鋼製冷却ジャケット
8:電源端子接続棒
9:接続部
10:筒体
11:グラファイトるつぼ
12:グラファイト製るつぼ支持台
13:パイプ
15:蓋部材
図1
図2
図3