(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】放射性微粒子製造システムおよび放射性微粒子製造方法
(51)【国際特許分類】
G21G 4/10 20060101AFI20220628BHJP
G21G 4/06 20060101ALI20220628BHJP
G21H 5/00 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
G21G4/10
G21G4/06
G21H5/00 M
(21)【出願番号】P 2019507549
(86)(22)【出願日】2018-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2018009285
(87)【国際公開番号】W WO2018173811
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2020-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2017058121
(32)【優先日】2017-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】100108372
【氏名又は名称】谷田 拓男
(72)【発明者】
【氏名】床次 眞司
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-038802(JP,A)
【文献】TOKONAMI, SHINJI ET AL.,"Intercomparison exercise of measurement techniques for radon, radon decay products and their particle size distributions at NIRS",JPN. J. HEALTH PHYS.,2005年,vol. 40, no. 2,pages 183 - 190
【文献】HASSAN, N. M. ET AL.,"The effect of water content on the radon emanation coefficient for some building materials used in Japan",RADIATION MEASUREMENTS,2011年02月01日,vol. 46, no. 2,pages 232 - 237,https://doi.org/10.1016/j.radmeas.2010.11.006
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21G 4/10
G21G 4/06
G21H 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然放射性希ガスを生成する放射性ガス生成装置と、非放射性微粒子を生成する微粒子生成装置と、該放射性ガス生成装置により生成された天然放射性希ガスと該微粒子生成装置により生成された非放射性微粒子とを混合する混合槽とを備えた放射性微粒子製造システムであって、
前記放射性ガス生成装置は、内部に天然放射性源を設置した放射線源部を有し、外部から取り込まれた空気を該放射線源部に送り込み、該空気と該天然放射性源から発生した天然放射性希ガスとを混ぜて前記混合槽へ送るものであり、
前記微粒子生成装置は、
微粒子を発生させる微粒子発生器と、所定の粒子径の微粒子を弁別する粒子弁別器とを有し、該微粒子発生器により発生させた非放射性微粒子から該粒子弁別器により所定の粒子径の非放射性微粒子を弁別して前記混合槽へ送るものであり、
前記混合槽は、
前記微粒子生成装置から送られた所定の粒子径の非放射性微粒子に、前記放射
性ガス生成装置から送られた天然放射性希ガスが放射性壊変によって変換した子孫核種を付着させて所定の粒子径の放射性微粒子を生成することを特徴とする放射性微粒子製造システム。
【請求項12】
請求項8乃至11のいずれかに記載の放射性微粒子製造方法において、前記粒子弁別器は微分型静電分級器であることを特徴とする放射性微粒子製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然放射性希ガスを生成する放射性ガス生成装置と、非放射性微粒子を生成する微粒子生成装置と、これらの生成された天然放射性希ガスと非放射性微粒子とを混合して放射性微粒子を生成する混合槽と、生成された放射性微粒子が送られるばく露装置とを備えた放射性微粒子製造システムおよび放射性微粒子製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然放射性核種の壊変系列の一つであるウラン系列における222Rn(ラドン)を用いた放射性微粒子(放射性エアロゾル)は製造可能であり、放射能測定機器の校正のための設備(ラドンチェンバー)において世界的に広く利用されている(非特許文献1)。しかし、ラドンチェンバーは大掛かりな設備であった。別の壊変系列であるトリウム系列における220Rn(トロン)ガス発生時の制御に関してはガスモニタ用チャンバーの校正に関して論文発表がなされていた(非特許文献2)。しかし、当該論文はガスモニタ用チャンバーの校正に限定された研究であり、その後研究は進んでおらず、放射性微粒子を製造する技術の開発はほとんど行われていない。さらに、222Rnは30~60分間程度の間に次々と放射性壊変が進み(218Po(3.1分)→214Pb(26.8分)→
214Bi(19.9分)等)、比較的安定な長寿命核種(半減期約22年の210Pb)に変わってしまう。このため、物理的に安定した放射性微粒子の製造とはならない。
【0003】
因みに、220Rnのガス濃度を比較的容易に測定する測定方法は、発明者が2002年に発表した論文により世界に広まった(非特許文献3)。当該測定方法は世界的な標準技術となり、市販の放射能測定機器の校正に用いられるようになった(非特許文献4)。非特許文献4には例えば市販の放射能測定機器としてRAD7(登録商標)を用いた校正実験の実施内容が記載されている。
220Rnの放射能濃度測定技術において、ガスを送り込むための空気中の水分量が多い方が線源となる試料からの220Rnの発生量に大きく寄与すること、言い換えれば2
20Rnの放出量が大きいことが明らかにされた(非特許文献5)。しかし、空気の湿度により放射能濃度を制御する具体的な方法は明らかにされていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Shinji TOKONAMI, Yuu ISHIMORI, Tetsuo ISHIKAWA, Keizo YAMASAKI, Yuji YAMADA, “Intercomparison Exercise of Measurement Techniques for Radon, Radon Decay Products and Their Particle Size Distributions at NIRS”, Jpn. J. Health Phys., 40(3), 183-190(2005).
【文献】A.Sorimachi, S.Kumar Sahoo and S. Tokonami, “Genaration and control of thoron emanated from lantern mantles”, Rev. Sci. Instrum. 80, 015104(2009).
【文献】S. Tokonami, M.Yang, H.Yonehara and Y. Yamada, “Simple, discriminative measurement technique for radon and thoron concentrations with a single scintillation cell”, Rev. Sci. Instrum. 73, 69(2002).
【文献】A.Sorimachi, M.Janik, S.Tokonami, T.Ishikawa, “An intercomparison done at NIRS, Japan on continuos monitors for measuring 220Rn concentration”, Applied Radiation and Isotopes, Volume 107, January 2016, Pages 145-151.
【文献】Hassan, N.M., Ishikawa, T., Hosoda, M., Iwaoka, K., Sorimachi, A., Sahoo, S.K., Janik, M., Kranrod, C., Yonehara, ZH., Fukushi, M., Tokonami, S., “The effect of water content on the radon emanation coefficient for some building materials used in Japan”, Radiation Measurements, Volume 46, Issue 2, February 2011, Pages 232-237.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、非特許文献1に示されるような放射能測定機器の校正のためのラドンチェンバーは大掛かりな設備であるという問題があった。さらに、放射性微粒子を製造する技術の開発はほとんど行われていないという問題もあった。加えて、222Rnでは物理的に安定した放射性微粒子の製造とはならないという問題があった。
【0006】
非特許文献5では空気の湿度と220Rnの放出量との関係は記載されているものの、空気の湿度により放射能濃度を制御する具体的な方法は明らかにされていないという問題があった。
【0007】
上述したように、放射能測定機器の校正のためのラドンチェンバーは大掛かりな設備である。このため、放射線測定機器メーカーが製造した放射性ダストモニタ等の放射能測定機器の性能評価は各要素技術のみの評価に留まり、機器全体としての性能評価が実施できないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明の目的は上記問題を解決するためになされたものであり、大掛かりな設備を用いずに、放射性微粒子を製造することができる放射性微粒子製造システム等を提供することにある。さらに、天然放射性核種(特に220Rn)を用いて物理的に安定した放射性微粒子を製造することができると共に、製造する放射性微粒子の放射能濃度のみならず、新規な物理的指標を用いた放射能測定機器の性能評価を可能とする放射性微粒子製造システム等を提供することにある。
【0009】
本発明の第2の目的は、短半減期の放射性希ガス(220Rn、222Rn)を用いて放射性微粒子を製造するに際し、空気の湿度により放射能濃度を制御する方法を具体的に示した放射性微粒子製造システム等を提供することにある。
【0010】
本発明の第3の目的は、大掛かりな設備を用いずに、放射線測定機器メーカーが製造した放射能測定機器全体としての性能評価を実施することができる放射性微粒子製造システム等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の放射性微粒子製造システムは、天然放射性希ガスを生成する放射性ガス生成装置と、非放射性微粒子を生成する微粒子生成装置と、該放射性ガス生成装置により生成された天然放射性希ガスと該微粒子生成装置により生成された非放射性微粒子とを混合する混合槽とを備えた放射性微粒子製造システムであって、前記放射性ガス生成装置は、内部に天然放射性源を設置した放射線源部を有し、外部から取り込まれた空気を該放射線源部に送り込み、該空気と該天然放射性源から発生した天然放射性希ガスとを混ぜて前記混合槽へ送るものであり、前記微粒子生成装置は、微粒子を発生させる微粒子発生器と、所定の粒子径の微粒子を弁別する粒子弁別器とを有し、該微粒子発生器により発生させた非放射性微粒子から該粒子弁別器により所定の粒子径の非放射性微粒子を弁別して前記混合槽へ送るものであり、前記混合槽は、前記微粒子生成装置から送られた所定の粒子径の非放射性微粒子に、前記放射性ガス生成装置から送られた天然放射性希ガスが放射性壊変によって変換した子孫核種を付着させて所定の粒子径の放射性微粒子を生成することを特徴とする。
【0012】
ここで、この発明の放射性微粒子製造システムにおいて、前記放射性ガス生成装置は、取込んだ空気の湿度を制御して送り出す湿度制御部をさらに備え、外部から取り込まれた空気を該湿度制御部に通した後に前記放射線源部へ送り込むことにより、前記天然放射性源から発生した天然放射性希ガスの放射能濃度を制御することができる。
ここで、この発明の放射性微粒子製造システムにおいて、前記混合槽は生成された所定の粒子径の放射性微粒子を外部へ送り込む配管をさらに備え、該配管は内部に、該所定の粒子径の放射線微粒子を捕集する外部へ取り出し可能なフィルタを1以上直列に並べて設置されたものとすることができる。
ここで、この発明の放射性微粒子製造システムにおいて、前記フィルタは所定のサイズのメッシュから構成されたメタルワイヤスクリーンとすることができる。
【0013】
ここで、この発明の放射性微粒子製造システムにおいて、前記混合槽で生成された所定の粒子径の放射性微粒子を送り込むばく露装置をさらに備え、前記ばく露装置は、送り込まれた所定の粒子径の放射性微粒子を捕集する外部へ取出し可能なフィルタを有することができる。
【0014】
ここで、この発明の放射性微粒子製造システムにおいて、前記天然放射性源は環境試料から発生する220Rn又は222Rnとすることができる。
【0015】
ここで、この発明の放射性微粒子製造システムにおいて、前記粒子弁別器は微分型静電分級器とすることができる。
【0016】
この発明の放射性微粒子製造方法は、天然放射性希ガスを生成する放射性ガス生成装置と、非放射性微粒子を生成する微粒子生成装置と、該放射性ガス生成装置により生成された天然放射性希ガスと該微粒子生成装置により生成された非放射性微粒子とを混合する混合槽とを用いた放射性微粒子製造方法であって、前記放射性ガス生成装置において、外部から取り込まれた空気が内部に天然放射性源を設置した該放射線源部に送り込まれ、該空気と該天然放射性源とから天然放射性希ガスが生成されて前記混合槽へ送られる天然放射性希ガス生成工程と、前記微粒子生成装置において、微粒子を発生させる微粒子発生器により非放射性微粒子が発生され、該非放射性微粒子が所定の粒子径の微粒子を弁別する粒子弁別器により所定の粒子径の非放射性微粒子が弁別されて前記混合槽へ送られる非放射性微粒子生成工程と、前記混合槽において、前記非放射性微粒子生成工程で前記微粒子生成装置から送られた所定の粒子径の非放射性微粒子に、前記天然放射性希ガス生成工程で前記放射性ガス生成装置から送られた天然放射性希ガスが放射性壊変によって変換した子孫核種を付着させて所定の粒子径の放射性微粒子を生成する放射性微粒子生成工程とを備えたことを特徴とする。
【0017】
ここで、この発明の放射性微粒子製造方法において、前記放射性ガス生成装置は取込んだ空気の湿度を制御して送り出す湿度制御部をさらに備え、前記天然放射性希ガス生成工程は、外部から取り込まれた空気が前記湿度制御部に通された後に前記放射線源部に送り込まれることにより、生成される前記天然放射性希ガスの放射能濃度を制御することができる。
【0018】
ここで、この発明の放射性微粒子製造方法において、前記混合槽に接続するばく露装置をさらに備え、前記放射性微粒子生成工程で生成された前記混合槽の所定の粒子径の放射性微粒子が前記ばく露装置に送り込まれ、該放射性微粒子は該ばく露装置が有する外部へ取出し可能なフィルタにより捕集される放射性微粒子捕集工程をさらに備えることができる。
【0019】
ここで、この発明の放射性微粒子製造方法において、前記天然放射性源は環境試料から発生する220Rn又は222Rnとすることができる。
【0020】
ここで、この発明の放射性微粒子製造方法において、前記粒子弁別器は微分型静電分級器とすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の放射性微粒子製造システムは、天然放射性希ガスを生成する放射性ガス生成システムと、非放射性微粒子を生成する特定粒子径エアロゾル発生システムと、放射性ガス生成システムにより生成された天然放射性希ガスと特定粒子径エアロゾル発生システムにより生成された非放射性微粒子とを混合する混合槽とを備えている。本発明のこのシンプルな放射性微粒子製造システムによれば、大掛かりな設備を使用することなく天然放射性核種を用いた放射性微粒子を製造することができる。特に、天然放射性核種として220Rnを用いることにより、放射性壊変によって変換した物理的に安定した子孫核種で放射性微粒子を製造することができる。さらに、粒径が均一に揃った特定の粒子径のエアロゾル(単分散のエアロゾル)のみに子孫核種を付着させるため、特定の粒子径の放射性微粒子を生成することができる。この結果、これまでにない新規な物理的指標(エアロゾルの粒子径)を用いた放射能測定機器の性能評価を可能とする放射性微粒子製造システム等を提供することができるという効果がある。
【0022】
放射性ガス生成システムは取込んだ空気の湿度を制御して放射線源部へ送り出す湿度制御部をさらに備えている。外部から取り込まれた空気を湿度制御部に通して湿度が制御された空気を放射線源部へ送り込むことにより、天然放射性源から発生する天然放射性希ガスの放射能濃度を制御することができる。この結果、短半減期の放射性希ガス(220Rnまたは222Rn)を用いて放射性微粒子を製造するに際し、空気の湿度により放射能濃度を制御する方法を具体的に示した放射性微粒子製造システム等を提供することができるという効果がある。
【0023】
放射性微粒子製造システムは混合槽から特定の(所定の)粒子径の放射性微粒子を送り込むばく露装置を備えている。ばく露装置は、混合槽から送り込まれた特定の粒子径の放射性微粒子を捕集する外部へ取出し可能なフィルタを有している。混合槽内のラドン子孫核種の放射性微粒子を上記フィルタに捕集し、そのフィルタをばく露装置の外壁にあるサンプリングポートから取り出し、実験室内に設置された放射線計測器で測定することにより、当該放射線測定器を校正することができる。この結果、大掛かりな設備を用いずに、放射線測定機器メーカーが製造した放射能測定機器全体としての性能評価を実施することができる放射性微粒子製造システム等を提供することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の放射性微粒子製造システム1を示す図である。
【
図3】放射線計測器による測定(検出)結果を示すグラフである。
【
図4】トロン壊変生成物沈着モニタの一例であるパッシブ型トロン子孫核種モニタ200の概略を示す図である。
【
図5】個数濃度に関する放射性エアロゾルの測定結果を示すグラフである。
【
図6】粒径に関する放射性エアロゾルの測定結果を示すグラフである。
【
図7】ばく露装置40におけるラドン濃度の変動を示すグラフである。
【
図8】ばく露装置40におけるトロン濃度の変動を示すグラフである
【
図9】ばく露装置40が設置された実験室内を示す写真である。
【
図10】ばく露装置40の白黒線画を示す図である。
【
図11】本発明の放射性微粒子製造システム1が必要とされる労働衛生の分野における防護マスクの性能評価の概念を示す図である。
【
図12】防護マスク300内に設置されたフィルタ(ろ紙)310による放射性微粒子R1等の捕集状態の概念を示す図である。
【
図13】防護マスク300内のフィルタ310等の性能評価を行うための放射性微粒子製造システム1の活用例を示す図である。
【
図14】放射性ダストモニタに用いられるフィルタを放射線測定器で測定した結果を示す測定された結果を示すグラフである。
【
図15】吸気により鼻腔部へ取り込まれる放射性微粒子の捕集を示す概念図である。
【
図16】吸気により鼻腔部および気管支領域へ取り込まれる放射性微粒子の捕集を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、各実施例について図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0026】
図1は、本発明の放射性微粒子製造システム1を示す。狭義には符号5で示される枠線の範囲が放射性微粒子製造システムである。まず、放射性微粒子製造システム1の全体概要を説明し、次に各構成装置等の詳細について説明する。
図1に示されるように、放射性微粒子製造システム1は、天然放射性希ガスを生成する放射性ガス生成システム(Radioactive gas generating system:放射性ガス生成装置)10(点線の枠内を示す。以下、他も同様)と、非放射性微粒子を生成する特定粒子径エアロゾル発生システム(Specific
particle-sized aerosol generating system:微粒子生成装置)20と、放射性ガス生成システム10により生成された天然放射性希ガスと特定粒子径エアロゾル発生システム20により生成された非放射性微粒子とを混合する混合槽(Mixing chamber)30とを備えている。
【0027】
図1に示されるように、放射性ガス生成システム10は内部に天然放射性源13を設置した放射線源部12を有しており、外部の空気(OA:Open Air)を取込んで湿度制御部100に通した後、放射線源部12へ送り込む。湿度制御部100の機能に関しては実施例2で詳述する。放射性ガス生成システム10は、この放射線源部12へ送り込まれた空気と天然放射性源13から発生する天然放射性希ガスとを混ぜて混合槽30へ送る。特定粒子径エアロゾル発生システム20は、微粒子を発生させる微粒子発生器21と、所定の粒子径の微粒子を弁別する粒子弁別器23とを有しており、微粒子発生器21により発生させた非放射性微粒子から粒子弁別器23により所定の粒子径の非放射性微粒子を弁別して混合槽30へ送る。混合槽30は、特定粒子径エアロゾル発生システム20から送られた所定の粒子径の非放射性微粒子に、放射
性ガス生成装置10から送られた天然放射性希ガスが放射性壊変によって変換した子孫核種を付着させることにより、所定の粒子径の放射性微粒子を生成する。
図1で符号40は混合槽30から所定の粒子径の放射性微粒子を送るばく露装置(Exposure chamber)である。ばく露装置40の機能に関しては実施例3で詳述する。
【0028】
次に、放射性微粒子製造システム1の各構成装置等の詳細について説明する。まず、
図1で符号Legは各構成装置で用いられている器具の凡例を示し、符号Pmはポンプ(Pump)、Ifはインライン・フィルタ・ホルダ(Inline filter folder)、Fmはフロー・メータ(Flow meter)である。ポンプPmとしては例えば、ローボリウムポンプLV-40BW型(柴田科学株式会社製:https://www.sibata.co.jp/attachment/catalog/pdf/lv-40bw.pdf)またはミニポンプMP-Σ500N2(柴田科学株式会社製:https://www.sibata.co.jp/products/products2687/)等が好適である。しかし、ポンプPmは当該ポンプに限定されるものではなく、他の小型軽量の吸引ポンプであってもよい。インライン・フィルタ・ホルダIfとしては例えば、ニールフィルタホルダ NL-I-01(実効ろか面積40mmφ、ノルウェー大気研究所(NILU)設計・開発、東京ダイレック株式会社販売:http://www.t-dylec.net/products/pdf/nilu_filterfolder.pdf)が好適である。しかし、インライン・フィルタ・ホルダIfは当該ホルダに限定されるものではなく、他のインライン・フェイス・ホルダであってもよい。フロー・メータFmとしては例えば、小型マスフローメータMF-FP10NH06-200-AI-ANV(ケニス株式会社製)等が好適である。しかし、フロー・メータFmは当該マスフローメータに限定されるものではなく、他の流量計であってもよい。
図1でポンプPm、インライン・フィルタ・ホルダIf、フロー・メータFmと各々同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。
【0029】
図1の放射性ガス生成システム10に示されるように、外部の空気OAはフィルタ・ホルダ(Filter holder)11を通して取込まれる。フィルタ・ホルダ11としては例えば、ニールフィルタホルダNL-O-01(実効ろか面積40mmφ、NILU設計・開発、東京ダイレック株式会社販売:http://www.t-dylec.net/products/pdf/nilu_filterfolder.pdf)が好適である。しかし、フィルタ・ホルダ11は当該ホルダに限定されるものではなく、他のオープン・フェイス・ホルダ(大気開放型フォルダ)であってもよい。外部から取り込まれた空気OAはパイプ(管)P1を通して湿度制御部100に送り込まれ、湿度制御された空気はパイプP2を通して放射線源部12へ送り込まれる。
図1でパイプP1およびP2を明示した理由は実施例2で湿度制御部100の構成および配置を明確にするためであり、
図1に示される他の装置等の間の直線で示される部分は、適宜パイプで接続されていることを示している。パイプP2を通して放射線源部12へ送り込まれた空気は、天然放射性源13から発生する天然放射性希ガスと混合される。天然放射性源13としては土壌または岩石等の環境試料から発生する
220Rnを用いた。天然放射性源13として
222Rnを用いることも可能である。環境試料としては例えば、CAPTAIN STAGマントル(T
h入りランタン用マントル、パール金属株式会社製)が好適である。しかし、当該環境試料に限定されるものではなく、他の環境試料であってもよい。放射線源部12で生成された天然放射性希ガスは、放射性ガス生成システム10に示されるポンプPmとフロー・メータFmとを順に通り、放射性ガス生成システム10と混合槽30との間に設けられたインライン・フィルタ・ホルダIfを通して混合槽30へ送り込まれる。
【0030】
図1の特定粒子径エアロゾル発生システム20としては、核凝縮型単分散粒子発生器3475(東京ダイレック株式会社製)を用いた。仕様は、シンクレア・ラメール(Sinclair-Lamer)原理に基づく凝縮式粒子発生器で、最少発生粒子径は0.1μm-0.8μm、発生流量は10×10
6個/cc、エアロゾル材料はCarnauba Wax等である。特定粒子径エアロゾル発生システム20では、まず、噴霧器(Aerosol generator:微粒子発生器)21が微粒子を発生させる。噴霧器21としては例えば、エアロゾルアトマイザー Model3079(東京ダイレック株式会社製)を用いた。噴霧法は、当該装置に内蔵された小型コンプレッサーよりエジェクターノズルに加圧エアーを供給すると、ノズル部に吸引圧が生じガラス内の溶液が吸い上げられて、この溶液がガラス内壁に強く吹き付けられる。この時、大きな液滴は除かれ安定した微小なエアロゾル粒子のみが当該装置の出口を通って発生するという方法である(http://www.t-dylec.net/products/pdf/tsi_3079.pdf)。噴霧器21はエアロゾルアトマイザー Model3079に限定されるものではなく、他の噴霧器を用いてもよい。噴霧器21から発生したエアロゾル(非放射性微粒子)はフロー・メータFmを通った後に乾燥管(Diffusion Dryer)22により水分が除去されて乾燥される。乾燥管22としては例えば、プラスチック管にシリカゲルを詰めたものを用いた。シリカゲル以外に他の吸着剤(活性炭等)を用いてよい。
【0031】
噴霧器21から発生したエアロゾルは幅広い粒子径の分布を持つ多分散のエアロゾルとなっている。ここで、粒子径は粒径依存の物理量を測定して粒径を決める相当径(相当粒径)であり、走査型移動度粒径を用いた。この多分散エアロゾルを混合槽30内へ送り込むと、様々な粒子径の放射性微粒子になってしまう。そこで、粒径が均一に揃った特定の粒子径(所定の粒子径)のエアロゾル(単分散のエアロゾル)のみにして混合槽30内へ送り込むために、乾燥管22を通ったエアロゾルを静電分級器(Electrostatic Classifier:粒子弁別器)23により特定の粒子径のエアロゾルに弁別する。静電分級器23は、電場における荷電粒子の電気移動度が粒子径に反比例することと、電気移動度が印加電圧と粒子が分散した流体の流量等とに関係することとを利用して、印加電圧を制御することにより粒子径を制御して微粒子を分級する原理を用いている。静電分級器23としては例えば、静電分級器Model3080(東京ダイレック株式会社製)を用いた。当該分級器は微分型静電分級器(Differential Mobility Analyzer:DMA)である。粒子弁別器としては他の原理を用いるものであってもよく、例えば電子式低圧インパクタELPI+(東京ダイレック株式会社製)を使用してもよい。電子式低圧インパクタELPI+は内部に捕集する粒子の粒径を分けるための複数の捕集ステージ(捕集板)を備えている。当該装置の上部から吸引された粒子は慣性力が大きいものは上部の捕集板にぶつかり、小さいものは当該捕集板をすり抜けて下の捕集板へ向かう。つまり、慣性力の大きい粒子から上段の捕集板に捕集される。粒子のサンプリング前に捕集板を秤量しておくことにより、捕集板に捕集された粒子の質量(捕集質量)を求めることもできる。以上の静電分級器23により特定の粒子径の非放射性微粒子を弁別して、混合槽30のジョイント32b(後述)を介し混合槽30へ送る。
【0032】
図1の混合槽30に示されるように、混合槽30内には他の装置との間のパイプを接続するためのジョイント32a~32gがある。ジョイント32aは上述した放射性ガス生成システム10との間にあるインライン・フィルタ・ホルダIfと混合槽30との間のパイプを接続するために設けられている。ジョイント32bは特定粒子径エアロゾル発生システム20と混合槽30との間のパイプを接続するために設けられている。他のジョイントも同様に、ジョイント32cはばく露装置40と混合槽30との間のパイプの接続、ジョイント32dおよび32eは放射性ガスモニタ部(後述)60と混合槽30との間のパイプの接続、ジョイント32fは乾燥空気取入れ部(後述)70と混合槽30との間のパイプの接続、ジョイント32gは圧力調整部(後述)80と混合槽30との間のパイプの接続のために設けられている。符号31は混合槽30内のガスを撹拌するためのファン(Fan)である。混合槽30のサイズはφ567.4mm(外形)×602.4mm(高さ)であり、150リットル相当の容積(150-L vol.)である。但し、混合槽30のサイズ等は上記サイズ等に限定されるものではない。
【0033】
混合槽30において、放射性ガス生成システム10から送られた天然放射性希ガスは放射性壊変により子孫核種(固体粒子)に変換する。厳密には混合槽30内に入る前に子孫核種に変換するものもあるが、量としてはごく僅かである。この子孫核種を特定粒子径エアロゾル発生システム20から送られた特定の粒子径の非放射性微粒子に付着させることにより、特定の粒子径の放射性微粒子を生成することができる。放射性ガス生成システム10の天然放射性源13として220Rnを用いた場合、混合槽30において、トリウム系列で220Rnの次から始まる子孫核種216Po→212Pb→212Bi→212Poの各々が、特定粒子径エアロゾル発生システム20から送られた特定の粒子径の非放射性微粒子に付着して、全体として特定の粒子径の種々の放射性微粒子を含むように形成される。212Pb→212Biの半減期は10.64時間、212Bi→212Poの半減期は60.55分であるため、物理的に安定した放射性微粒子を製造することができる。
【0034】
図1に示されるように、混合槽30には環境モニタ(Environmental monitor)50が接続されており、内部には温度計51、相対湿度計52が設けられ、混合槽30内の温度、相対湿度をモニタしている。環境モニタ50としては例えば、データロガー(株式会社ティアンドディ(登録商標)製:Thermo Recorder TR-73U:http://www.tandd.co.jp/product/tr7ui_series.html)を用いた。環境モニタ50は当該データロガーに限定されるものではなく、ガスの温度および相対湿度を測定する他の装置を用いてもよい。
【0035】
図1に示されるように、混合槽30には放射性ガスモニタ部60が接続されている。放射性ガスモニタ部60では、混合槽30内のガスが混合槽30のジョイント32dで接続されたパイプから放射性ガスモニタ部60内のポンプPmにより放射性ガスモニタ(Radioactive gas monitor)61へ送られる。放射性ガスモニタ61でモニタされたガスは放射性ガスモニタ部60内のインライン・フィルタ・ホルダIfを通して、ジョイント32eを介して混合槽30へ戻される。放射性ガスモニタ61としては例えば、AB-5 Portable Radon Monitor(AEGIS Instruments Ltd.製)を用いた。放射性ガスモニタ61は当該モニタに限定されるものではなく、環境放射線レベルを高精度に測定する他のモニタを用いてもよい。
【0036】
図1に示されるように、混合槽30には乾燥空気取入れ部70が接続されている。乾燥空気取入れ部70では、取入れた空気(AI:Air In)をモレキュラー・シーブ・フィルタ装置(Molecular sieve filter device)71により汚染物質等を隔離し、その後乾燥管72(特定粒子径エアロゾル発生システム20内の乾燥管22と同様)により乾燥させた空気をフロー・メータFmを通してから、ジョイント32fにより接続されたパイプを介して混合槽30へ送られる。モレキュラー・シーブ・フィルタ装置71としては例えば、バキュガード(VACU-GUARD)150/Mol.Sieve(GE(登録商標)ヘルスケア・ジャパン株式会社製)を用いた。モレキュラー・シーブ・フィルタ装置71は装置に限定されるものではなく、汚染物質を隔離する他のインライン・フィルタを用いてもよい。
【0037】
図1に示されるように、混合槽30には圧力調整部80が接続されている。圧力調整部80では、混合槽30内のガスをジョイント32gを介して接続されたパイプからインライン・フィルタIfおよびフロー・メータFmを通して、ポンプPmにより外部へ排出(EAO:Excess air out)している。圧力調整部80は、EAOにより混合槽30内部の圧力が大気圧に一定に保たれるよう、混合槽30内への流入系(放射性ガス生成システム10、特定粒子径エアロゾル発生システム20、乾燥空気取入れ部70)の流量と排出系(ばく露装置40)の流量とを調整している。
【0038】
以上を纏めると、本発明の放射性微粒子製造システム1は、天然放射性希ガスを生成する放射性ガス生成システム10と、非放射性微粒子を生成する特定粒子径エアロゾル発生システム20と、放射性ガス生成システム10により生成された天然放射性希ガスと特定粒子径エアロゾル発生システム20により生成された非放射性微粒子とを混合する混合槽30とを備えている。
【0039】
放射性ガス生成システム10は内部に天然放射性源13を設置した放射線源部12を有しており、外部の空気(OA)を取込んで湿度制御部100に通した後、放射線源部12へ送り込む。放射性ガス生成システム10は、この放射線源部12へ送り込まれた空気と天然放射性源13から発生する天然放射性希ガスと混ぜて混合槽30へ送る。特定粒子径エアロゾル発生システム20は、微粒子を発生させる噴霧器21と、所定の粒子径の微粒子を弁別する静電分級器23とを有しており、噴霧器21により発生させた非放射性微粒子から静電分級器23により特定の粒子径の非放射性微粒子を弁別して混合槽30へ送る。噴霧器21から発生したエアロゾルは幅広い粒子径の分布を持つ多分散のエアロゾルとなっている。この多分散エアロゾルを混合槽30内へ送り込むと、様々な粒子径の放射性微粒子になってしまう。そこで、粒径が均一に揃った特定の粒子径のエアロゾル(単分散のエアロゾル)のみにして混合槽30内へ送り込むために、乾燥管22を通ったエアロゾルを静電分級器23により特定の粒子径のエアロゾルに弁別する。混合槽30において、放射性ガス生成システム10から送られた天然放射性希ガスは放射性壊変により子孫核種に変換する。この子孫核種を特定粒子径エアロゾル発生システム20から送られた特定の粒子径の非放射性微粒子に付着させることにより、特定の粒子径の放射性微粒子を生成することができる。放射性ガス生成システム10の天然放射性源13として220Rnを用いた場合、混合槽30において、トリウム系列で220Rnの次から始まる子孫核種21
6Po→212Pb→212Bi→212Po→208Tiの各々が、特定粒子径エアロゾル発生システム20から送られた特定の粒子径の非放射性微粒子に付着して、全体として特定の粒子径の種々の放射性微粒子を含むように形成される。
【0040】
以上より、本発明の実施例1によれば、放射性ガス生成システム10、特定粒子径エアロゾル発生システム20および混合槽30を備えたシンプルな放射性微粒子製造システム1により、大掛かりな設備を使用することなく天然放射性核種を用いた放射性微粒子を製造することができる。特に、天然放射性核種として220Rnを用いることにより、放射性壊変によって変換した物理的に安定した子孫核種で放射性微粒子を製造することができる。さらに、粒径が均一に揃った特定の粒子径のエアロゾル(単分散のエアロゾル)のみに子孫核種を付着させるため、特定の粒子径の放射性微粒子を生成することができる。この結果、これまでにない新規な物理的指標(エアロゾルの粒子径)を用いた放射能測定機器の性能評価を可能とする放射性微粒子製造システム1等を提供することができる。エアロゾルの粒子径を用いた具体的な放射能測定機器の性能評価については、ばく露装置40の利用と関連するため、実施例3で説明する。
【実施例2】
【0041】
背景技術で説明したように、
220Rnの放射能濃度測定技術において、ガスを送り込むための空気中の水分量が多い方が線源となる試料からの
220Rnの放出量が大きいことが明らかにされた。そこで、実施例2では放射線源部12へ送り込む空気の湿度を制御することにより、天然放射性源13から発生する天然放射性希ガスの放射能濃度を制御する仕組みについて説明する。具体的には、放射性ガス生成システム10における湿度制御部100の機能について説明する。
図2は、湿度制御部100の機能を示す。
図2で
図1と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。
図2の左右端に示されるパイプP1およびP2は
図1の放射性ガス生成システム10におけるパイプP1およびP2に対応しており、実施例1で簡単に触れたように、放射性ガス生成システム10におけるパイプP1とパイプP2との間に
図2に示される湿度制御部100が配置されている。
【0042】
図2に示されるように、外部の空気OAはポンプPmによりフィルタ・ホルダ11を通しパイプP1を介して取込まれた後、フロー・メータFmを通って乾燥部110へ送り込まれる。乾燥部110は乾燥管(Diffusion Dryer)111a、111b、111c、111d、111e、111fから構成され、送り込まれた空気OAは乾燥管111a~111fをこの順に通って乾燥させられる。乾燥管111a~111fは実施例1の乾燥管22または72と同様であるため説明は省略する。乾燥管111a~111fの数は6個に限定されるものではなく、必要に応じて任意個接続可能である。乾燥部110を通った乾燥した空気は、温度および相対湿度モニタ105に通されてから2系統のポンプPmaおよびPmbにより圧縮されて湿度調整器120へ送られる。温度および相対湿度モニタ105は実施例1で説明した環境モニタ50と同様であるため、説明は省略する。2系統のポンプPmaおよびPmbとしては各々最大5L/minの定流量を用い、両方のポンプPmaおよびPmbで10L/minの定流量を得ている。10L/minの定流量を得られるポンプであれば1系統(1台)のポンプであってもよい。流量は温度および相対湿度モニタ105と125との間に設置されたフロー・メータFmで測定する。
【0043】
湿度調整器120内には洗浄瓶121a、121bおよび121cがあり、2系統のポンプPmaおよびPmbにより圧縮された空気が洗浄瓶121aから121cへ順に送られる。例えば、両方のポンプPmaおよびPmbにより圧縮された空気はパイプ121aINから洗浄瓶121aへ送られ、洗浄瓶121a内の水を通すことにより水蒸気が添加されて加湿空気となり、パイプ121aOUTから次の洗浄瓶121bへ送られる。洗浄瓶121a内の水は純水または精製水を用いる。洗浄瓶121aから送られた加湿された空気は洗浄瓶121bにおいても同様に加湿される。一方、洗浄瓶121cには水は無く、圧縮された空気の除湿に用いられる。最終的に洗浄瓶121cから所望の湿度に制御された空気がパイプ121cOUTを通って温度および相対湿度モニタ125へ送られてパイプP2から出ていく。相対湿度は温度を規定することにより定まる量であるため、湿度調整器120は洗浄瓶121a~121cに設置された加熱および冷却装置(いずれも不図示)を適宜用いることにより、洗浄瓶121aおよび121b内の加湿量を上昇または下降させて相対湿度を上昇または下降させる。必要に応じて洗浄瓶121cの温度を下げることにより、洗浄瓶121cへ送られた圧縮空気の湿度を下げる。湿度調整器120は、湿度調整器120の入口側にある温度および相対湿度モニタ105と出口側にある温度および相対湿度モニタ125とを用いることにより、洗浄瓶121a~121cの加熱および冷却の制御を行って空気の湿度を制御する。湿度調整器120内の洗浄瓶121a~121cは3個に限定されるものではなく、任意個設けることもできる。洗浄瓶としてはガス洗浄瓶(アズワン(登録商標)株式会社製、「AS ONE(登録商標)研究用総合機器カタログ2017」、p.1340)を用いた。洗浄瓶は当該ガス洗浄瓶に限定されるものではなく、他の洗浄瓶を用いてもよい。
【0044】
以上を纏めると、放射性ガス生成システム10は取込んだ空気OAの湿度を制御して放射線源部12へ送り出す湿度制御部100をさらに備えている。外部から取り込まれた空気OAを湿度制御部100に通して湿度が制御された空気を放射線源部12へ送り込むことにより、天然放射性源13から発生する天然放射性希ガスの放射能濃度を制御することができる。天然放射性源13としては220Rnだけではなく、222Rnを用いることも可能である。
【0045】
以上により、本発明の実施例2によれば、短半減期の放射性希ガス(220Rnまたは
222Rn)を用いて放射性微粒子を製造するに際し、空気の湿度により放射能濃度を制御する方法を具体的に示した放射性微粒子製造システム等を提供することができる。
【実施例3】
【0046】
本発明の実施例3では、放射能測定機器全体としての性能評価を実施することができる放射性微粒子製造システム1について説明する。
【0047】
図1に示されるように、放射性微粒子製造システム1は混合槽30から特定の(所定の)粒子径の放射性微粒子を送り込むばく露装置40を備えている。ばく露装置40は混合槽30とジョイント32cを介して接続されている。ばく露装置40内には、ばく露装置40内のガスを撹拌するためのファン41a、41b、41cおよび41dが設置されている。ばく露装置40は540リットル相当の容積(540-L vol.)であり、サイズは縦×横×高さ=600mm×1500mm×600mmである。但し、ばく露装置40内のファンの数、ばく露装置40の容積およびサイズ等は上記の数、値に限定されるものではない。ばく露装置40としては例えば、市販の真空式グローブボックス、グローブボックスシステム等を用いた。
【0048】
図1に示されるように、ばく露装置40には走査式電気移動度粒径分布測定器(Scanning Mobility Particle Sizer(SMPS):走査式モビリティパーティクルサイザーModel3034、東京ダイレック株式会社製)90が接続されている。走査式モビリティパーティクルサイザー90は上述した微分型静電分級器(DMA)と粒子を計測する凝縮粒子カウンター(CPC)とを組合わせた装置である。DMAから流れてくるDMAの設定電圧に応じた粒径の単分散粒子がCPCでカウントされ、その個数濃度、粒径分布を測定する。放出口(Exhaust:EX)からは半減期を経過した放射性微粒子および経過していない放射性微粒子も含めて一緒に外気へ放出される。
【0049】
実験例:
放射性微粒子製造システム1を用いて実際に放射性エアロゾルを作成し、当該放射性エアロゾルを用いて放射線計測器を校正した実験例について説明する。放射性ガス生成システム10における天然放射性源13としてはウラン系列における222Rn(ラドン)を用いた。トリウム系列における220Rn(トロン)を用いてもよいことは勿論である。放射性ガス生成システム10で生成された天然放射性希ガス222Rnと、特定粒子径エアロゾル発生システム20内の噴霧器(エアロゾルアトマイザー Model3079)21により発生させ特定の粒子径に分級された非放射性微粒子とを混合槽30に入れて、非放射性微粒子にラドン子孫核種を付着させて放射性微粒子を作成した。その放射性微粒子で放射線計測器(半導体検出器が搭載されたアルファ線用のラドン子孫核種モニタ)を校正した。
【0050】
ばく露装置40は、混合槽30から送り込まれた特定の粒子径の放射性微粒子を捕集する外部へ取出し可能なフィルタ(不図示)を有している。ばく露装置40内のラドン子孫核種の放射性微粒子を上記フィルタに捕集し、そのフィルタをばく露装置40の外壁にあるサンプリングポート(不図示)から取り出し、実験室(不図示)内に設置された上記放射線計測器で測定した。
図3は、上記放射線計測器による測定(検出)結果を示すグラフである。
図3で横軸はチャネル(ch)、縦軸は計数値である。
図3に示されるように、ラドン子孫核種
218Poおよびラドン子孫核種
214Poのアルファ線のエネルギーピークが検出された。そのピークから計測対象とするエネルギー領域を設定(校正)した。
【0051】
以上を纏めると、放射性微粒子製造システム1は混合槽30から特定の(所定の)粒子径の放射性微粒子を送り込むばく露装置40を備えている。ばく露装置40は混合槽30とジョイント32cを介して接続されている。ばく露装置40は、混合槽30から送り込まれた特定の粒子径の放射性微粒子を捕集する外部へ取出し可能な(ばく露装置40の)フィルタを有している。混合槽40内のラドン子孫核種の放射性微粒子を上記フィルタに捕集し、そのフィルタをばく露装置40の外壁にあるサンプリングポートから取り出し、実験室内に設置された放射線計測器で測定することにより、当該放射線測定器を校正することができる。
【0052】
以上により、本発明の実施例3によれば、大掛かりな設備を用いずに、放射線測定機器メーカーが製造した放射能測定機器全体としての性能評価を実施することができる放射性微粒子製造システム等を提供することができる。
【0053】
本放射性微粒子製造システム1により製造される放射性微粒子は、トレーサビリティの取れたトロンまたはラドン標準線源と考えられる。従って、標準線源の放射能の値と上記放射線計測器で測定された測定結果とを比較することにより、当該放射線計測器の校正を行うことができる。放射能測定に関わる測定器のトレーサビリティの確保は世界的に望まれているが、そのための測定設備等は不十分と言われている。本放射性微粒子製造システム1は標準線源として用いることができる簡易な放射性微粒子を製造するシステムであり、放射能測定に関わる測定器のトレーサビリティを確保する上で標準となり得る技術と言える。
【0054】
実施例1で触れたエアロゾルの粒子径を用いた具体的な放射能測定機器の性能評価について説明する。放射能測定機器としてはトロン壊変生成物沈着モニタを用いることができる。トロン壊変生成物沈着モニタとは、空気中に存在するトロン壊変生成物がモニタの測定部等の表面に沈着し、この沈着した壊変生成物が放出する放射線を計測する測定機器である。
図4は、上記トロン壊変生成物沈着モニタの一例であるパッシブ型トロン子孫核種モニタ200の概略を示す。
図4で、符号240は固体飛跡検出器のCR-39(登録商標)(プラスチックレンズの1種)、230はCR-39(登録商標)(240)を設置するステンレス製プレート、220はCR-39(登録商標)(240)を覆うアルミ蒸着のアルミニウムフィルム、210はアルミニウムフィルム220を覆うポリプロピレンである。CR-39(登録商標)(240)はα線によってその素子の化学結合が損傷を受ける。受けた損傷による傷は強アルカリ溶液によってエッチングされると光学顕微鏡で見つけることができる。その傷の数と放射能濃度との間には直線関係があるため、トロン壊変生成物沈着モニタとして利用されている。CR-39(登録商標)(240)を覆うアルミニウムフィルム220およびポリプロピレン210はエネルギーの減速材として機能する。それらの表面に付着したトロン子孫核種が放出するエネルギーのうち、最も高いエネルギー8.8MeVを放出するPo-212のみのα線を検出できるように、アルミニウムフィルム220およびポリプロピレン210は適切な厚さに設定されている。
図4ではアルミニウムフィルム220が2枚、ポリプロピレン210は1枚示されているが、枚数は適宜設定することができる。パッシブ型トロン子孫核種モニタ200は、放射性微粒子が拡散付着によって物質表面に付着する物理的現象を利用した測定器と言える。パッシブ型トロン子孫核種モニタ200の曝露濃度とエッチピット(CR-39(登録商標)(240)に生じた損傷による穴)の数とを比較すると、トロン壊変生成物曝露濃度(本放射性微粒子製造システム1により製造されたトレーサビリティの取れたトロン標準線源によるもの)が902(Bqhm
-3)(hは放射能濃度の時間積分値の意味)に対し、エッチピット数は2.5(mm
-3)であった。当該比較を放射性微粒子の粒径を変えながら測定すればよい。
エアロゾルの粒子径によって、トロン壊変生成物沈着モニタへの沈着は異なる可能性がある。そこで、トロン壊変生成物沈着モニタへ沈着した静電分級器23により弁別された放射性微粒子の特定の粒子径と、当該放射性微粒子から放出される放射線とに基づき、トロン壊変生成物沈着モニタにおける粒子径別の応答性の性能評価を行うことができる。性能評価の際は上述した実験例と同様に、ばく露装置40内の放射性微粒子を上記フィルタに捕集し、そのフィルタをばく露装置40の外壁にあるサンプリングポートから取り出し、実験室内に設置されたトロン壊変生成物沈着モニタで測定した。なお、トロン壊変生成物沈着モニタ等に関しては例えば以下の文献で説明されている(文献1.Zhuo, W. and Iida, T. “Estimation of thoron progeny concentrations in dwellings with their deposition rate measurements.”, Jpn J. Health Phys. 35(3), 365-370 (2000).文献2.Tokonami, S. “Why is
220Rn (thoron) measurement important?”, Radiat. Prot. Dosim. 141(4), 335-339 (2010).)以上により、これまでにない新規な物理的指標(エアロゾルの粒子径)を用いた放射能測定機器(例えばトロン壊変生成物沈着モニタ)の性能評価を可能とする放射性微粒子製造システム1等を提供することができる。
【実施例4】
【0055】
上述した実施例1~3では放射性微粒子製造システム1の構成および機能について説明した。本実施例4では放射性微粒子製造方法の観点から説明する。上述したように、放射性微粒子製造システム1は、天然放射性希ガスを生成する放射性ガス生成システム(放射性ガス生成装置)10と、非放射性微粒子を生成する特定粒子径エアロゾル発生システム(微粒子生成装置)20と、放射性ガス生成システム10により生成された天然放射性希ガスと特定粒子径エアロゾル発生システム20により生成された非放射性微粒子とを混合する混合槽30とを備えており、本放射性微粒子製造方法は以上の構成要素を備えた放射性微粒子製造システム1を用いた製造方法である。
【0056】
図1を参照して、放射性ガス生成システム10において、外部から取り込まれた空気OAが内部に天然放射性源13を設置した放射線源部12に送り込まれ、この空気と天然放射性源13とから天然放射性希ガスが生成されて、混合槽30へ送られる(天然放射性希ガス生成工程)。天然放射性源13は環境試料から発生する
220Rnとすることが好適である。特定粒子径エアロゾル発生システム20において、微粒子を発生させる噴霧器(微粒子発生器)21により非放射性微粒子が発生され、この非放射性微粒子が特定の(所定の)粒子径の微粒子を弁別する微分型静電分級器(粒子弁別器)23により特定の粒子径の非放射性微粒子が弁別されて混合槽30へ送られる(非放射性微粒子生成工程)。天然放射性希ガス生成工程と非放射性微粒子生成工程とは並行して実施することができる。次に混合槽30において、非放射性微粒子生成工程で特定粒子径エアロゾル発生システム20から送られた特定の粒子径の非放射性微粒子に、天然放射性希ガス生成工程で放射性ガス生成システム10から送られた天然放射性希ガスが放射性壊変によって変換した子孫核種を付着させて特定の粒子径の放射性微粒子を生成する(放射性微粒子生成工程)。
【0057】
放射性ガス生成システム10は、取込んだ空気OAの湿度を制御して送り出す湿度制御部100をさらに備えることができる。この場合、上記天然放射性希ガス生成工程は、外部から取り込まれた空気OAが湿度制御部100に通された後に放射線源部12に送り込まれることにより、生成される天然放射性希ガスの放射能濃度を制御することができる。
【0058】
放射性ガス生成システム10は、混合槽30に接続するばく露装置40をさらに備えることができる。上記放射性微粒子生成工程で生成された混合槽30の特定の粒子径の放射性微粒子がばく露装置40に送り込まれ、この放射性微粒子はばく露装置40が有する外部へ取出し可能なフィルタにより捕集される(放射性微粒子捕集工程)。
【0059】
以上を纏めると、放射性微粒子製造システム1を用いることにより、天然放射性希ガス生成工程において外部から取り込まれた空気OAと天然放射性源13とから天然放射性希ガスが生成されて、混合槽30へ送られる。非放射性微粒子生成工程において特定粒子径エアロゾル発生システム20の噴霧器21により非放射性微粒子が発生され、微分型静電分級器23により特定の粒子径の非放射性微粒子が弁別されて混合槽30へ送られる。放射性微粒子生成工程において混合槽30内では、非放射性微粒子生成工程で送られた特定の粒子径の非放射性微粒子に、天然放射性希ガス生成工程で送られた天然放射性希ガスが放射性壊変によって変換した子孫核種を付着させて特定の粒子径の放射性微粒子を生成する。上記天然放射性希ガス生成工程は、外部から取り込まれた空気OAが湿度制御部100に通された後に放射線源部12に送り込まれることにより、生成される天然放射性希ガスの放射能濃度を制御することができる。放射性微粒子捕集工程において、上記放射性微粒子生成工程で生成された混合槽30の特定の粒子径の放射性微粒子が混合槽30に接続するばく露装置40に送り込まれ、この放射性微粒子はばく露装置40が有する外部へ取出し可能なフィルタにより捕集される。
【0060】
以上より、本発明の実施例4によれば、放射性微粒子製造システム1を用いた放射性微粒子製造方法により、大掛かりな設備を使用することなく天然放射性核種を用いた放射性微粒子を製造することができる。特に、天然放射性核種として220Rnを用いることにより、放射性壊変によって変換した物理的に安定した子孫核種で放射性微粒子を製造することができる。さらに、粒径が均一に揃った特定の粒子径のエアロゾル(単分散のエアロゾル)のみに子孫核種を付着させるため、特定の粒子径の放射性微粒子を生成することができる。この結果、これまでにない新規な物理的指標(エアロゾルの粒子径)を用いた放射能測定機器の性能評価を可能とすることができる。短半減期の放射性希ガス(220Rnまたは222Rn)を用いて放射性微粒子を製造するに際し、空気の湿度により放射能濃度を制御する方法を具体的に示すことができる。ガスモニタ用チャンバーの校正のみに限定されることなく、放射能測定機器全体としての性能評価を実施することができる。
【実施例5】
【0061】
放射性微粒子製造システム1についての放射性エアロゾルの制御実験として、発明者は混合槽30における放射性エアロゾルの個数濃度および粒径を諸条件を変えて測定した。測定は、ばく露装置40に接続されたSMPS90を混合
槽30にも用いて行った(
図1参照)。
【0062】
放射性エアロゾルの制御実験(個数濃度).
図5は、個数濃度に関する放射性エアロゾルの測定結果を示すグラフである。
図5で、横軸は経過時間(min)、縦軸は(放射性)エアロゾル個数濃度(particle cm
-3)である。
図5に示されるように、諸条件として放射性エアロゾルの噴霧器21(
図1参照)の流量を1.0L/min(一点鎖線)、1.5L/min(鎖線)、1.0L/min(実線)の3条件とした。
図5に示されるように、流量が1.0L/minの場合、(放射性)エアロゾルの個数濃度は平均1.7×10
3±135(particle cm
-3)であり、流量が1.5L/minの場合、(放射性)エアロゾルの個数濃度は平均4.3×10
4±2610(particle cm
-3)であり、流量が2.0L/minの
場合、(放射性)エアロゾルの個数濃度は平均3.3×10
5±22039(particle cm
-3)であった。
図5から、放射性エアロゾル個数濃度は流量に依存して多くなることがわかった。加えて、放射性エアロゾル個数濃度は時間の経過に対しても安定していることもわかった。
【0063】
放射性エアロゾルの制御実験(粒径).
図6は、粒径に関する放射性エアロゾルの測定結果を示すグラフである。
図6で、横軸は(放射性)エアロゾル粒径(nm)、縦軸は(放射性)エアロゾル個数(particle)である。
図6示されるように、放射性エアロゾルの粒径分布は約50nm付近に集中しており、一定の微粒子径の放射性エアロゾルを発生させることができることが確認された。
【0064】
放射性微粒子製造システム1についてのラドン濃度およびトロン濃度の制御実験として、発明者はばく露装置40におけるラドン濃度およびトロン濃度の時間的変動を測定した。測定は、ばく露装置40に接続されたSMPS90に加えて、混合層30に接続された放射性ガスモニタ部60を用いて行った(
図1参照)。ラドン濃度(またはトロン濃度)は放射性ガスモニタ61として市販のパルス型電離箱(製品名:ALPHAGUARD-RADON MONITOR:bertin INSTRUMENTS社製)を用いた。あるいは、放射性ガスモニタ61として上述したシンチレーションセル(製品名:AB-5)を用いてもよい。
【0065】
ラドン濃度の制御実験.
図7は、ばく露装置40におけるラドン濃度の変動を示すグラフである。
図7で、横軸は経過時間(h)、縦軸はラドン濃度(Bq/m
3)である。
図7に示されるように、ラドン濃度を高濃度(円形)約4,000(Bq/m
3)、中濃度(矩形)約1,500(Bq/m
3)、低濃度(三角形)約350(Bq/m
3)と変えて測定した。
図7から明らかなように、ラドン濃度は時間の経過に対して安定していることがわかった。詳しくは、ばく露装置40内の平均ラドン濃度を約350~4,000(Bq/m
3)の間で制御可能とした。
【0066】
トロン濃度の制御実験.
図8は、ばく露装置40におけるトロン濃度の変動を示すグラフである。
図8で、横軸は経過時間(h)、縦軸はトロン濃度(Bq/m
3)である。
図8に示されるように、トロン濃度を高濃度(円形)約28,000(Bq/m
3)、中濃度(矩形)約9,000(Bq/m
3)、低濃度(三角形)約3,500(Bq/m
3)と変えて測定した。
図8から明らかなように、トロン濃度は時間の経過に対して安定していることがわかった。詳しくは、ばく露装置40内の平均トロン濃度を約3,500~28,000(Bq/m
3)の間で制御可能とした。
【0067】
以上より、本発明の実施例5によれば、放射性微粒子製造システム1についての放射性エアロゾルの制御実験として、発明者は混合槽30における放射性エアロゾルの個数濃度および粒径を諸条件を変えて測定した。この結果、放射性エアロゾル個数濃度は流量に依存して多くなることがわかった。加えて、放射性エアロゾル個数濃度は時間の経過に対しても安定していることもわかった。放射性エアロゾルの粒径分布は約40nm付近に集中しており、一定の微粒子径の放射性エアロゾルを発生させることができることが確認された。放射性微粒子製造システム1についてのラドン濃度およびトロン濃度の制御実験として、発明者はばく露装置40におけるラドン濃度およびトロン濃度の時間的変動を測定した。この結果、ラドン濃度は時間の経過に対して安定していることがわかった。詳しくは、ばく露装置40内の平均ラドン濃度を約350~3,500(Bq/m3)の間で制御可能とした。トロン濃度は時間の経過に対して安定していることがわかった。詳しくは、ばく露装置40内の平均トロン濃度を約3,500~28,000(Bq/m3)の間で制御可能とした。
【0068】
図9は、ばく露装置40が設置された実験室内の写真を示す。出願書類の図面は白黒2値画像とされるため不鮮明となる可能性がある。そこで、
図10に
図9に映されたばく露装置40の白黒線画(一部)を示しておいた。
【実施例6】
【0069】
本発明の活用例として、大気集塵用ろ紙または防塵マスク等の精密な性能評価に用いることができる。
図11は、本発明の放射性微粒子製造システム1が必要とされる労働衛生の分野における防護マスクの性能評価の概念を示す。
図11で、符号300は防護マスク(防塵マスク)、R1、R2等は放射性微粒子を示す。放射性微粒子R1等が存在するエリアRA内で防護マスク300を付けて作業を行うと、エリアRA内の放射性微粒子R1等が防護マスク300内に空気の流れAinとして取り込まれる。
図12は、防護マスク300内に設置されたフィルタ(ろ紙)310による放射性微粒子R1等の捕集状態の概念を示す。
図12で
図11と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。
図12に示されるように、エリアRA内に存在する放射性微粒子R1等はフィルタ310により捕集されて、エリアRA’(防護マスク300内)では減少している。このため、フィルタ310の性能評価(捕集効率、耐久性等)が必要となる。
【0070】
そこで、本発明の放射性微粒子製造システム1の活用例として、上述したフィルタ310の性能評価を行った。
図13は、防護マスク300内のフィルタ310等の性能評価を行うための放射性微粒子製造システム1の活用例を示す。
図13で
図1と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。
図13に示されるように、混合槽30のジョイント32cからばくろ槽40へ入るパイプPeの途中に2枚のフィルタ(ろ紙)310を直列に並べて設置しておく。パイプPe内のフィルタ310はいずれもパイプPeの外部へ取り出し可能である。この状態で、混合槽30内におけるトレーサビリティが取れた放射能濃度(濃度Ca)の特定の粒子径の微粒子をパイプPeへ送り出す。すると、
図13に示されるように、濃度Caの特定の粒子径の微粒子Ra、Rm等は矢印A1の方向へ進み1枚目のフィルタ310により捕集され、1枚目のフィルタ310を通過すると濃度Cbの特定の粒子径の微粒子Ri、Rk等となる。続いて、
図13に示されるように、濃度Cbの特定の粒子径の微粒子Ri、Rk等は矢印A2の方向へ進み2枚目のフィルタ310により捕集される。この後は実施例3と同様に、1枚目および2枚目のフィルタ310をパイプPeの外部へ取り出して、実験室内に設置された放射線測定器で測定する。当該放射線測定器は既に校正されているものとすると、1枚目のフィルタ310の放射能濃度Caと2枚目のフィルタ310の放射能濃度Cbとを得ることができる。トレーサビリティが取れた1枚目のフィルタ310の放射能濃度Caと2枚目のフィルタ310の放射能濃度Cbとを比較することにより、特定の粒子径の微粒子に対するフィルタ310の捕集効率を評価することができる。2枚目のフィルタ310を通過した濃度Ccの特定の粒子径の微粒子Rkは矢印A3の方向(ばく露装置40の中)へ進み、ばく露装置40内のフィルタによって捕集される。実施例3と同様に、当該フィルタはばく露装置40の外部へ取り出して、実験室内に設置された放射線測定器で測定することができる。
【0071】
以上より、本発明の実施例6によれば、本発明の放射性微粒子製造システム1の活用例として労働衛生の分野における防護マスク300の性能評価に用いることができる。具体的には、混合槽30のジョイント32cからばくろ槽40へ入るパイプPeの途中に2枚のフィルタ(ろ紙)310を直列に並べて設置しておく。この状態で、混合槽30内におけるトレーサビリティが取れた放射能濃度(濃度Ca)の特定の粒子径の微粒子をパイプPeへ送り出す。1枚目および2枚目のフィルタ310をパイプPeの外部へ取り出して、実験室内に設置された放射線測定器で測定する。トレーサビリティが取れた1枚目のフィルタ310の放射能濃度Caと2枚目のフィルタ310の放射能濃度Cbとを比較することにより、特定の粒子径の微粒子に対するフィルタ310の捕集効率を評価することができる。
【実施例7】
【0072】
本発明の活用例として、原子力発電所または病院等の医療機関に設置される放射性ダストモニタおよび当該モニタに用いられるフィルタ(ろ紙)の精密な性能評価に用いることができる。上記フィルタを実施例3と同様にばく露装置40内のフィルタとして用い、実験室内に設置された放射線測定器で測定すればよい。
図14は、放射性ダストモニタに用いられるフィルタを放射線測定器で測定した結果を示すグラフである。
図14で横軸はチャネル(ch)、縦軸は計数値である。
図14に示されるように、特定のチャネル幅(約100~700)の放射線を
計数していることがわかった。
【0073】
以上より、本発明の実施例7によれば、本発明の放射性微粒子製造システム1の活用例として、放射線管理の分野におけるモニタリング機器のフィルタの性能評価に用いることができる。
【実施例8】
【0074】
本発明の活用例として、環境毒性学における放射性微粒子の人体への吸入ばく露メカニズムの研究に用いることができる。大気中の放射性微粒子は吸気により鼻腔部へ取り込まれ、さらに気管支領域へと取り込まれる。本発明の放射性微粒子製造システム1を用いることにより、人体への吸入摂取による内部被ばく(呼吸気道内での放射性微粒子沈着)の実態解明に寄与することが可能となる。
図15は、吸気により鼻腔部へ取り込まれる放射性微粒子の捕集を示す概念図である。実施例6と同様に、放射性微粒子製造システム1の混合槽30のジョイント32cからばくろ槽40へ入るパイプPeの途中に、フィルタ(ろ紙)320を設置しておく。フィルタ320は100mesh(所定のサイズ)程度のメタルワイヤスクリーンであり、鼻腔部を模擬したサンプラーである。実施例3、6と同様に、混合槽30内におけるトレーサビリティが取れた放射能濃度(濃度Ca)の特定の粒子径の微粒子をパイプPeへ送り出す。この後、フィルタ320をパイプPeから取り出し、ばく露装置40のフィルタを外部へ取り出して、両フィルタを実験室内に設置された放射線測定器で測定する。トレーサビリティが取れた放射能濃度Ca(フィルタ320の放射能濃度)とばく露装置40のフィルタの放射能濃度とを比較することにより、特定の粒子径の微粒子に対するフィルタ320による捕集量、即ち鼻腔部における放射性微粒子の沈着量(内部被ばくの量)を得ることができる。
【0075】
図16は、吸気により鼻腔部および気管支領域へ取り込まれる放射性微粒子の捕集を示す概念図である。上述した鼻腔部の場合と同様に、放射性微粒子製造システム1の混合槽30のジョイント32cからばくろ槽40へ入るパイプPeの途中に、フィルタ(ろ紙)320と、フィルタ320とはメッシュの異なる複数のフィルタ330a~330dとを設置しておく。フィルタ330a~330dは400mesh(所定のサイズ)程度のメタルワイヤスクリーンであり、気管支領域を模擬したサンプラーである。上述した鼻腔部の場合と同様に、混合槽30内におけるトレーサビリティが取れた放射能濃度(濃度Ca)の特定の粒子径の微粒子をパイプPeへ送り出す。この後、フィルタ320とフィルタ330a~330dとをパイプPeから取り出し、ばく露装置40のフィルタを外部へ取り出して、全てのフィルタ320等を実験室内に設置された放射線測定器で測定する。トレーサビリティが取れた放射能濃度Ca(フィルタ320の放射能濃度)と、各フィルタ330a~330dの放射能濃度と、ばく露装置40のフィルタの放射能濃度とを比較することにより、特定の粒子径の微粒子に対するフィルタ320による捕集量(即ち鼻腔部における放射性微粒子の沈着量(内部被ばくの量))、各フィルタ330a~330dによる捕集量(即ち気管支領域における放射性微粒子の沈着量(内部被ばくの量))を得ることができる。
【0076】
以上より、本発明の実施例8によれば、本発明の放射性微粒子製造システム1の活用例として、環境毒性学における放射性微粒子の人体への吸入ばく露メカニズムの研究に用いることができる。具体的には、放射性微粒子製造システム1の混合槽30のジョイント32cからばくろ槽40へ入るパイプPeの途中に、鼻腔部を模擬したサンプラーであるフィルタ(ろ紙)320(100mesh程度のメタルワイヤスクリーン)を設置しておく。フィルタ320に加えて気管支領域を模擬したサンプラーであるフィルタ330a~330d(各々400mesh程度のメタルワイヤスクリーン)も設置しておくことができる。実施例3、6と同様に、混合槽30内におけるトレーサビリティが取れた放射能濃度(濃度Ca)の特定の粒子径の微粒子をパイプPeへ送り出す。この後、フィルタ320、330a~330dをパイプPeから取り出し、ばく露装置40のフィルタを外部へ取り出して、各フィルタを実験室内に設置された放射線測定器で測定する。各フィルタ320等の放射能濃度を比較することにより、特定の粒子径の微粒子に対する各フィルタ320等による捕集量(鼻腔部または気管支領域における放射性微粒子の沈着量(内部被ばくの量))を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の活用例として、大気集塵用ろ紙または防塵マスク等の精密な性能評価、原子力発電所または病院等の医療機関に設置される放射性ダストモニタおよび当該モニタに用いられるろ紙(フィルタ)の校正、吸入摂取による内部被ばく(呼吸気道内での粒子沈着)の実態解明等に適用することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 放射性微粒子製造システム、 5 (狭義の)放射性微粒子製造システム、 10
放射性ガス生成システム、 11 フィルタ・ホルダ、 12放射線源部、 13 天然放射性源、 20 特定粒子径エアロゾル発生システム、 21 噴霧器、 22、72、111a、111b、111c、111d、111e、111f 乾燥管、 23 静電分級器、 30 混合槽、 31、41a、41b、41c、41d ファン、 32a、32b、32c、32d、32e、32f ジョイント、 40 ばく露装置、 50 環境モニタ、 51 温度計、 52 相対湿度計、 60 放射性ガスモニタ部、 61 放射性ガスモニタ、 70 乾燥空気取入れ部、 71 モレキュラー・シーブ・フィルタ装置、 80 圧力調整部、 90 走査式電気移動度粒径分布測定器、 100 湿度制御部、 110 乾燥部、 105、125 相対湿度モニタ、 120
湿度調整器、 121a、121b、121c 洗浄瓶、 121aIN、121aOUT パイプ、 200 パッシブ型トロン子孫核種モニタ、 210 ポリプロピレン、 220 アルミニウムフィルム、 230 ステンレス製プレート、 240 CR-39(登録商標)、 300 防護マスク、 310、320、330a、330b、330c、330d フィルタ。
【0079】
Leg 器具の凡例、 Pm ポンプ、 If インライン・フィルタ・ホルダ、 P1、P2、Pe パイプ、 OA 外部の空気、 AI 取入れた空気、 EAO 排出、 EX 放出口、 R1、R2、Ra、Ri、Rk、Rm 放射微粒子、 RA、RA’ 放射性微粒子R1等が存在するエリア、 Ca、Cb Cc 放射能濃度。