(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/56 20060101AFI20220628BHJP
C07C 69/76 20060101ALI20220628BHJP
C07C 63/72 20060101ALI20220628BHJP
C07C 51/08 20060101ALI20220628BHJP
C07C 67/11 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
C07C67/56
C07C69/76 Z
C07C63/72
C07C51/08
C07C67/11
(21)【出願番号】P 2021575002
(86)(22)【出願日】2021-01-25
(86)【国際出願番号】 JP2021002403
【審査請求日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2020175862
(32)【優先日】2020-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000127879
【氏名又は名称】株式会社エス・ディー・エス バイオテック
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100196597
【氏名又は名称】横田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】田淵 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】酒井 正明
(72)【発明者】
【氏名】石井 輝彦
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03689526(US,A)
【文献】米国特許第03689527(US,A)
【文献】中国特許出願公開第106986767(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】
で表される化合物の製造方法であって、
(a)式(II)
【化2】
で表される化合物を、含水ケトン系溶剤中でアルカリ炭酸塩の存在下、ジメチル硫酸と反応させることにより、式(I)で表される化合物を結晶として得る工程、及び
(b)前記結晶を30~100℃の温水で洗浄し、その後さらに30~80℃の有機溶剤で洗浄する工程
を含
み、
前記工程(b)の前記有機溶剤がアルコールである、前記方法。
【請求項2】
前記工程(b)が、前記結晶を加温下に有機溶剤で洗浄することにより、前記結晶に含まれる有害な副生成物の含有量を低減させる工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程(b)において、温水での洗浄後、有機溶剤での洗浄前の前記結晶の温度が40~90℃である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記温水の温度が60~95℃である、請求項1~3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記工程(b)の前記有機溶剤がメタノール、エタノール、イソプロパノール、又はこれらの混合物であ
り、
ただし、前記有機溶剤がメタノールである場合を除く、請求項1~
4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
前記有機溶剤の温度が35~65℃である、請求項
1~
5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
(a’)式(III)
【化3】
で表される化合物を、酸の存在下で100~180℃に加熱して前記式(II)で表される化合物を得る工程を、前記工程(a)の前にさらに含む、請求項1~
6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
前記工程(a’)で得られた前記式(II)で表される化合物を、水により洗浄した後に前記工程(a)で使用する、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
前記工程(a)の前記含水ケトン系溶剤が含水アセトンである、請求項1~
8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
前記工程(a)の前記含水ケトン系溶剤の含水率が5~25重量%である、請求項1~
9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
前記工程(a)の前記アルカリ炭酸塩が炭酸ナトリウムである、請求項1~
10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
前記有害な副生成物がポリクロロベンゼン類である、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
前記ポリクロロベンゼン類が、ヘキサクロロベンゼン、ペンタクロロベンゼン、又はこれらの混合物である、請求項
12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の反応式1に示されるように、2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチル(下記式(I))は、2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸(下記式(II))をメタノールと三酸化イオウ・硫酸・クロロ硫酸でメチルエステル化する方法(特許文献1)、2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸を水酸化カリウム水溶液中でジメチル硫酸でモノメチルエステル化した後、未反応カルボキシル基をメタノール・強酸で更にエステル化する方法(特許文献2)、または非水系でアセトン中において2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸をジメチル硫酸と炭酸ナトリウム存在下にメチルエステル化する方法(非特許文献1)により製造されている。
【0003】
【0004】
また、下記の反応式2に示されるように、2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチル(下記式(I))は、2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸クロライド(下記式(IV))をメタノールとアルカリでメチルエステル化する方法(特許文献3)によっても製造されている。
【0005】
【0006】
上記反応式1で示される2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチルの製造方法においては、テレフタル酸の核塩素化によって得られた2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸を原料として使用している。原料である2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸の製造方法は、従来技術である特許文献4~6や非特許文献2及び3に示されている。
また、特許文献7には、上記の2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸の他の製造方法として、2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボニトリルのCN基をアミド基に変換して2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボキサミドを得た後、発煙硫酸などを使用して2,3,5,6-テトラクロロテレフタル酸を製造する方法が記載されている。
【0007】
一方、反応式2で示される2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチルの製造方法では、2,3,5,6-テトラクロロテレフタル酸ジクロライドを原料としており、この原料はテレフタル酸クロライドの核塩素化で得られる(特許文献8~13、非特許文献4及び5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】US 3689526 A
【文献】US 3689527 A
【文献】特開昭60-16952
【文献】US 3873613 A
【文献】SU 352882 A1
【文献】DE 1078563 B
【文献】US 2001/0025121 A1
【文献】特開昭48-013339
【文献】特開昭51-138641
【文献】特開昭58-157727
【文献】US 3052712 A
【文献】US 3833652 A
【文献】US 4808345 A
【非特許文献】
【0009】
【文献】Zhurnal Prikladnoi Khimii, (1978), 51(6), 1422-1423
【文献】Vop. Neftekhim, (1971), No.3, 49-51
【文献】Zhurnal Obshchei Khimii, (1964), 34(9), 2953-2958
【文献】Gaofenzi Xuebao, (2004), (5), 773-775
【文献】Yingyong Huaxue, (2005), 22(4), 317-390
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記反応式1の製造方法に関して、特許文献1及び2に記載の製造方法は、いずれも2段階の反応となり煩雑である。また、非特許文献1に記載の製造方法では、未反応原料が残り反応が完結しないという問題がある。
【0011】
上述の特許文献4~6や非特許文献2及び3に記載の2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸の製造方法によると、好ましくない副生成物であるヘキサクロロベンゼンがかなりの量で生成され、得られた2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸にヘキサクロロベンゼンが多く含まれている。このようにして得られたヘキサクロロベンゼンを多く含む2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸を原料として用いて2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチルを製造すると、得られた2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチル中にもヘキサクロロベンゼンが許容できない濃度で存在することとなる。
【0012】
上述の特許文献7に記載の2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸の製造方法は、ヘキサクロロベンゼンなどの副生成物の大量生成を抑えることができるが、二段階の反応での製造方法であり煩雑であるのみならず、発煙硫酸などを使用するため原料の取り扱いに危険を伴うものである。
【0013】
上述の特許文献8~13や非特許文献4及び5に記載のテレフタル酸クロライドの核塩素化においては、ヘキサクロロベンゼンの生成をコントロールすることは難しく、得られた2,3,5,6-テトラクロロテレフタル酸ジクロライドにはヘキサクロロベンゼンが多く含まれている。ヘキサクロロベンゼンを多く含む2,3,5,6-テトラクロロテレフタル酸ジクロライドを用いて2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチルを製造すると、得られた2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチル中にもヘキサクロロベンゼンが許容できない濃度で存在することとなる。
【0014】
本発明は、農園芸用除草剤として有用な2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチルを製造するに際して、従来法と比べてヘキサクロロベンゼンやペンタクロロベンゼンなどの環境に有害な副生成物の含有量を低減させ、効率よく製造できる工業的な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチルの結晶を洗浄する条件を特定のものとすることにより、副生成物のヘキサクロロベンゼンやペンタクロロベンゼンの含有量を大きく減らすことを実現して本発明を完成した。
本発明の具体的態様は以下のとおりである。
[1] 式(I)
【化3】
で表される化合物の製造方法であって、
(a)式(II)
【化4】
で表される化合物を、含水ケトン系溶剤中でアルカリ炭酸塩の存在下、ジメチル硫酸と反応させることにより、式(I)で表される化合物を結晶として得る工程、及び
(b)前記結晶を30~100℃の温水で洗浄し、その後さらに30~80℃の有機溶剤で洗浄する工程
を含む、前記方法。
[2] 前記工程(b)が、前記結晶を加温下に有機溶剤で洗浄することにより、前記結晶に含まれる有害な副生成物の含有量を低減させる工程である、[1]に記載の方法。
[3] 前記工程(b)において、温水での洗浄後、有機溶剤での洗浄前の前記結晶の温度が40~90℃である、[1]又は[2]に記載の方法。
[4] 前記温水の温度が60~95℃である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の方法。
[5] 前記工程(b)の前記有機溶剤がアルコールである、[1]~[4]のいずれか1つに記載の方法。
[6] 前記工程(b)の前記有機溶剤がメタノール、エタノール、イソプロパノール、又はこれらの混合物である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の方法。
[7] 前記工程(b)の前記有機溶剤がメタノールである、[1]~[6]のいずれか1つに記載の方法。
[8] 前記有機溶剤の温度が35~65℃である、[5]~[7]のいずれか一つに記載の方法。
[9] (a’)式(III)
【化5】
で表される化合物を、酸の存在下で100~180℃に加熱して前記式(II)で表される化合物を得る工程を、前記工程(a)の前にさらに含む、[1]~[8]のいずれか1つに記載の方法。
[10] 前記工程(a’)で得られた前記式(II)で表される化合物を、水により洗浄した後に前記工程(a)で使用する、[9]に記載の方法
[11] 前記工程(a)の前記含水ケトン系溶剤が含水アセトンである、[1]~[10]のいずれか1つに記載の方法。
[12] 前記工程(a)の前記含水ケトン系溶剤の含水率が5~25重量%である、[1]~[11]のいずれか1つに記載の方法。
[13] 前記工程(a)の前記アルカリ炭酸塩が炭酸ナトリウムである、[1]~[12]のいずれか1つに記載の方法。
[14] 前記有害な副生成物がポリクロロベンゼン類である、[2]に記載の方法。
[15] 前記ポリクロロベンゼン類が、ヘキサクロロベンゼン、ペンタクロロベンゼン、又はこれらの混合物である、[14]に記載の方法。
[16] 式(I)
【化6】
で表される化合物を含む組成物であって、
前記組成物に含まれるヘキサクロロベンゼンの含有量が0ppm超40ppm以下であり、前記組成物に含まれるペンタクロロベンゼンの含有量が0ppm超1000ppm以下である、前記組成物。
[17] 除草剤又は除草剤原料として用いられる、[16]に記載の組成物。
[18] 前記式(I)で表される化合物が結晶の状態である、[16]又は[17]に記載の組成物。
[19] 前記組成物全体に対する前記式(I)で表される化合物の含有量が96.0~100重量%である、[16]~[18]のいずれか1つに記載の組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、農園芸用除草剤として有用な2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチルを製造するに際して、従来法と比べてヘキサクロロベンゼンやペンタクロロベンゼンなどの有害な副生成物の含有量が少ない目的物を、効率よく製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の式(I)で表される化合物の製造方法を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載に限定されるものではない。
【0018】
本発明は、上記式(I)で表される化合物の製造方法であって、(a)上記式(II)で表される化合物を、含水ケトン系溶剤中でアルカリ炭酸塩の存在下、ジメチル硫酸と反応させることにより、式(I)で表される化合物を結晶として得る工程、及び(b)前記結晶を30~100℃の温水で洗浄し、その後さらに30~80℃の有機溶剤で洗浄する工程を含む。
【0019】
(工程(a))
工程(a)において使用する式(II)で表される化合物(2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸)は、公知の製造方法により製造することができ、例えば、後述の工程(a’)により製造することができる。
【0020】
工程(a)において使用する含水ケトン系溶媒は、特に限定されないが、好ましくは含水アセトン、含水2-ブタノン、含水3-ペンタノン、又はこれらの混合物であり、この中でも水との親和性およびコストの観点から含水アセトンが特に好ましい。
含水ケトン系溶剤の含水率は、特に限定されないが、5~25重量%が好ましく、10~20重量%がより好ましく、15~20重量%が最も好ましい。本発明において含水ケトン系溶剤の含水率は、カールフィッシャー電気滴定装置を使用して、JIS K0068に記載の条件に基づいて容量滴定法により測定したものを意味する。含水ケトン系溶剤の含水率が上記数値範囲内であると、反応が完結して目的物の収量が安定するという効果を発揮する。
含水ケトン系溶剤の含水率は、工程(a)における反応混合物に水を加えることにより調整することができる。
工程(a)において使用する含水ケトン系溶剤の添加量は、式(II)で表される化合物1kgに対して1.0~5.0Lが好ましく、1.0~3.0Lがより好ましく、1.2~2.0Lが最も好ましい。
【0021】
工程(a)において使用するアルカリ炭酸塩は、特に限定されないが、好ましくは炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、又はこれらの混合物であり、この中でもコストおよび収率の観点から炭酸ナトリウムが特に好ましい。
工程(a)において使用するアルカリ炭酸塩の添加量は、式(II)で表される化合物に対して1.0~5.0当量が好ましく、1.0~3.0当量がより好ましく、1.2~2.0当量が最も好ましい。
工程(a)において使用するジメチル硫酸の添加量は、式(II)で表される化合物に対して1.5~4.0当量が好ましく、1.7~3.0当量がより好ましく、2.0~2.5当量が最も好ましい。
【0022】
工程(a)における反応温度は、特に限定されないが、溶媒が還流する温度が好ましく、具体的には、40~100℃が好ましく、50~80℃がより好ましく、55~65℃が最も好ましい。
工程(a)における反応時間は、特に限定されないが、2~10時間が好ましく、4~8時間がより好ましく、4~6時間が最も好ましい。
【0023】
工程(a)により得られた式(I)で表される化合物の結晶を含む反応混合物からは、含水ケトン系溶剤を溜去することが好ましい。含水ケトン系溶剤を溜去する条件は、特に限定されないが、圧力については常圧あるいは減圧の条件化にて行うことが好ましく、また、温度については加温することが好ましく、当該加温には温水あるいは蒸気を使用することができる。
工程(a)により得られた式(I)で表される化合物の結晶を含む反応混合物に対して、40~50℃の温水を加えて冷却することにより式(I)で表される化合物の結晶を析出させることができる。このようにして析出した結晶は、濾過により回収することができる。
【0024】
工程(a)により得られた式(I)で表される化合物の結晶は、濾過により回収することができる。濾過の方法は、特に限定されないが、減圧濾過、加圧濾過あるいは遠心濾過を使用することができる。濾過の条件は、特に限定されないが、減圧あるいは加圧の条件を採用することができる。
【0025】
(工程(b))
工程(b)において使用する温水の温度は、30~100℃であり、60~95℃が好ましく、85~90℃がより好ましい。温水の温度が上記数値範囲内であると、式(I)で表される化合物の結晶を加温でき、加温された状態の結晶を次の有機溶剤による洗浄処理に付すことができる。
工程(b)において使用する温水の量は、式(II)で表される化合物1kgに対して0.5~3.0Lが好ましく、1.0~2.5Lがより好ましく、1.2~2.0Lが最も好ましい。
【0026】
工程(b)において、温水を加えた後、かつ有機溶剤を加える前の式(I)で表される化合物の結晶の温度は、40~90℃が好ましく、50~80℃がより好ましく、60~75℃が最も好ましい。結晶の温度が上記数値範囲内であると、加温された状態の結晶を次の有機溶剤による処理に付すことができる。
【0027】
工程(b)において使用する有機溶剤の温度は、30~80℃であり、35~65℃が好ましく、40~50℃がより好ましい。 有機溶剤の温度が上記数値範囲内であると、式(I)で表される化合物の結晶に含まれる有害な副生成物の含有量を効率的に低減させることができる。
工程(b)において使用する有機溶剤は、特に限定されないが、アルコールが効果的であり 好ましくはメタノール、エタノール、又はイソプロパノールであり、この中でもコストおよび洗浄効率の観点からメタノールが特に好ましい。工程(b)において使用する有機溶剤は、上述のメタノール、エタノール、及びイソプロパノールのうちの2種以上の混合物とすることもできる。工程(b)において使用する有機溶剤は、汎用品を使用することができ、また、当該有機溶剤の純度は、100%が好ましいが、50~100%、70~100%、80~100%、90~99.99%、又は95~99.9%とすることもできる。
工程(b)において使用する有機溶剤の量は、式(II)で表される化合物1kgに対して0.5~3.0Lが好ましく、0.7~2.0Lがより好ましく、0.8~1.5Lが最も好ましい。
工程(b)における有機溶剤による洗浄は、1~3回に分けて洗浄することができるが、2回に分けて洗浄することがより好ましい。
【0028】
本発明の一つの態様において、工程(b)は、式(I)で表される化合物の結晶を加温下に有機溶剤で洗浄することにより、前記結晶に含まれる有害な副生成物の含有量を低減させる工程であることが好ましい。
本発明の工程(b)においては、式(I)で表される化合物の結晶を30~100℃の温水で洗浄することにより結晶を加温し、その加温された状態の結晶をさらに30~80℃の有機溶剤で洗浄することにより、式(I)で表される化合物の結晶に含まれる有害な副生成物の含有量を効率的に低減させることができる。
【0029】
工程(b)について、有機溶剤による洗浄後において、式(I)で表される化合物の結晶に対して遠心分離や濾過を行うことができ、この中でも濾過を行うことが好ましい。式(I)で表される化合物の結晶を濾過する方法は特に限定されないが、ヌッチェ濾過を使用することが好ましい。ヌッチェ濾過としては、濾過工程、ケーキ展圧・圧搾工程、ケーキ洗浄工程、リスラリ洗浄工程、乾燥(通気又は真空)工程、ケーキ排出工程、又はこれらの工程の1つ以上の組み合わせを含むものを使用することができる。ヌッチェ濾過を使用することにより、結晶を有機溶剤で十分に含浸させた状態で脱液できるため洗浄効果が高くなる。
【0030】
工程(b)において、有機溶剤による洗浄後、回収した式(I)で表される化合物の結晶に対して乾燥処理を行うことができる。乾燥処理の条件は、特に限定されないが、温度については、20~150℃が好ましく、40~120℃がより好ましく、60~100℃が最も好ましく、また、圧力については、2~760mmHgが好ましく、10~200mmHgがより好ましく、20~100mmHgが最も好ましい。
【0031】
式(I)で表される化合物の結晶から除去・低減される有害な副生成物は、特に限定されないが、例えば、ポリクロロベンゼン類である。また、このようなポリクロロベンゼン類は、特に限定されないが、例えば、ヘキサクロロベンゼン、ペンタクロロベンゼン、又はこれらの混合物である。
【0032】
工程(b)を経た後の式(I)で表される化合物の結晶に含まれるヘキサクロロベンゼンの含有量は、40ppm以下が好ましく、10ppm以下がより好ましく、5ppm以下が最も好ましい。
工程(b)を経た後の式(I)で表される化合物の結晶に含まれるペンタクロロベンゼンの含有量は、1000ppm以下が好ましく、500ppm以下がより好ましく、100ppm以下が最も好ましい。
本発明において、工程(b)を経た後の式(I)で表される化合物の結晶に含まれるヘキサクロロベンゼンの含有量は、ガスクロマトグラフィー装置(製品名:Agilent 7890A、アジレント・テクノロジー株式会社製)にてキャピラリーカラム(製品名:HP-5、カラム長30m、カラム径0.53mmID、膜厚1.0μm、アジレント・テクノロジー株式会社製)を使用してFID条件下で絶対検量線法により算出することができ、又はガスクロマトグラフィー質量分析装置(製品名:Agilent 7890A GC/5975C MSD、アジレント・テクノロジー株式会社製)にてキャピラリーカラム(製品名:Rxi-5SilMS、カラム長30m、カラム径0.25mmID、膜厚0.25μm、レステック株式会社製)を使用してm/z283.8の質量数の含量を絶対検量線法により算出することができる。
また、工程(b)を経た後の式(I)で表される化合物の結晶に含まれるペンタクロロベンゼンの含有量は、ガスクロマトグラフィー装置(製品名:Agilent 7890A、アジレント・テクノロジー株式会社製)にてキャピラリーカラム(製品名:HP-5、カラム長30m、カラム径0.53mmID、膜厚1.0μm、アジレント・テクノロジー株式会社製)を使用してFID条件下で絶対検量線法により算出することができる。
【0033】
(工程(a’))
本発明の式(I)で表される化合物の製造方法は、(a’)上記式(III)で表される化合物を、酸の存在下で100~180℃に加熱して上記式(II)で表される化合物を得る工程を、上記工程(a)の前にさらに含むことができる。
【0034】
工程(a’)において使用する式(III)で表される化合物(2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボニトリル)は、公知の製造方法により製造することができ、例えば、工業的に1,4-ベンゼンジカルボニトリルと塩素とを反応させることにより製造することができる。
【0035】
工程(a’)において使用する酸は、特に限定されないが、好ましくは硫酸、発煙硫酸、クロロスルホン酸、又はこれらの混合物であり、この中でも扱いやすさ、入手しやすさ、およびコストの観点から硫酸、特に98%硫酸が好ましい。
工程(a’)において使用する酸の量は、式(III)で表される化合物に対して重量比で2.0~10.0倍が好ましく、3.0~8.0倍がより好ましく、4.0~6.0倍が最も好ましい。
【0036】
工程(a’)における反応温度は、100~180℃であり、140~170℃が好ましく、155~165℃がより好ましい。
工程(a’)における反応時間は、特に限定されないが、4~18時間が好ましく、5~12時間がより好ましく、6~9時間が最も好ましい。
【0037】
上述のように、特許文献7に記載の2,3,5,6-テトラクロロテレフタル酸を製造する方法は、発煙硫酸を使用するため原料の取り扱いに危険を伴うものである。一方、本発明の工程(a’)においては、発煙硫酸を使用する代わりにより簡便で温和な条件を採用して反応を進めることができる。
【0038】
工程(a’)を経た後の式(II)で表される化合物を含む反応混合物に、水を加えることができる。このように水を加えることにより、加水分解反応が十分に進行し、最終的に、収率及び純度が共に高い式(I)で表される化合物を得ることができる。水を添加する方法は、特に限定されないが、好ましくは硫酸水溶液として添加する方法である。添加する硫酸水溶液は、特に限定されないが、水を使用する場合に比べて簡便で温和な条件とする観点から60~70重量%硫酸水溶液が好ましい。
【0039】
工程(a’)を経た後の式(II)で表される化合物を含む反応混合物に対して、30~50℃の温水を加えて冷却することにより式(II)で表される化合物の結晶を析出させることができる。このようにして析出した結晶は、濾過により回収することができる。
工程(a’)を経た後の式(II)で表される化合物を含む反応混合物に対して遠心分離の処理を行うことにより式(II)で表される化合物を分離して得ることができる。
【0040】
工程(a’)で得られた式(II)で表される化合物は、水により洗浄を行うことができる。水による洗浄は、遠心分離装置を用いて行うことができる。水による洗浄を行う際には、精製及び/又は乾燥の処理を行ってもよいが、精製及び/又は乾燥の処理を行わずに水による洗浄のみを行ってもよい。ここで、精製は、有機溶剤を用いて再結晶を行うことにより実施でき、また、乾燥は、例えばコニカル型乾燥装置などを用いて加熱減圧の条件化で行うことができる。上記のように精製及び/又は乾燥の処理を行わずに水による洗浄のみを行った後の式(II)で表される化合物を次の工程(a)でそのまま使用することもできる。
工程(a’)を経た後の次の工程(a)に使用する際の式(II)で表される化合物における含水率は、0~15重量%が好ましく、1~10重量%がより好ましく、2~6重量%が最も好ましい。
【0041】
(式(I)で表される化合物を含む組成物)
本発明の1つの態様においては、式(I)で表される化合物を含む組成物であって、前記組成物に含まれるヘキサクロロベンゼンの含有量が0ppm超40ppm以下であり、前記組成物に含まれるペンタクロロベンゼンの含有量が0ppm超1000ppm以下である、前記組成物である。
【0042】
式(I)で表される化合物を含む組成物に含まれるヘキサクロロベンゼンの含有量は、0ppm超40ppm以下であり、また、0.1ppm以上30ppm以下、0.2ppm以上20ppm以下、又は0.5ppm以上10ppm以下とすることもできる。
式(I)で表される化合物を含む組成物に含まれるペンタクロロベンゼンの含有量は、0ppm超1000ppm以下であり、また、1ppm以上500ppm以下、5ppm以上250ppm以下、又は10ppm以上150ppm以下とすることもできる。
式(I)で表される化合物を含む組成物に含まれるヘキサクロロベンゼンの含有量は、ガスクロマトグラフィー装置(製品名:Agilent 7890A、アジレント・テクノロジー株式会社製)にてキャピラリーカラム(製品名:HP-5、カラム長30m、カラム径0.53mmID、膜厚1.0μm、アジレント・テクノロジー株式会社製)を使用してFID条件下で絶対検量線法により算出することができ、又はガスクロマトグラフィー質量分析装置(製品名:Agilent 7890A GC/5975C MSD、アジレント・テクノロジー株式会社製)にてキャピラリーカラム(製品名:Rxi-5SilMS、カラム長30m、カラム径0.25mmID、膜厚0.25μm、レステック株式会社製)を使用してm/z283.8の質量数の含量を絶対検量線法により算出することができる。
式(I)で表される化合物を含む組成物に含まれるペンタクロロベンゼンの含有量は、ガスクロマトグラフィー装置(製品名:Agilent 7890A、アジレント・テクノロジー株式会社製)にてキャピラリーカラム(製品名:HP-5、カラム長30m、カラム径0.53mmID、膜厚1.0μm、アジレント・テクノロジー株式会社製)を使用してFID条件下で絶対検量線法により算出することができる。
【0043】
式(I)で表される化合物を含む組成物の用途は、特に限定されないが、除草剤又は除草剤原料として用いることができる。
【0044】
式(I)で表される化合物の状態は、特に限定されないが、結晶の状態であることが好ましい。
【0045】
組成物全体に対する式(I)で表される化合物の含有量は、特に限定されないが、96.0~100重量%、97.0~99.9重量%、又は98.0~99.9重量%とすることができる。
【実施例】
【0046】
次に発明の実施例を示すが、これらは説明のための単なる例示であって、本発明の範囲は特許請求の範囲によって定まるものであり、下記の記載により何ら制限されるものではない。
【0047】
<実施例1、比較例1~3>
[実施例1] 2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボニトリル(式(III)で表される化合物)からの2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチル(式(I)で表される化合物)の製造
【0048】
(工程1)
グラスライニングの反応器において日本燐酸株式会社製の硫酸(98重量%、6348g)を75℃に加温した。反応器に株式会社エス・ディー・エス バイオテック製の2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボニトリル(純度98.5重量%、1380g)を徐々に投入し、その間、硫酸溶液は85~100℃を維持した。投入後、反応混合物を100~120℃で30分間撹拌した。その後、155~163℃に加熱し、さらに4時間撹拌した。その後、反応混合物に硫酸水溶液 (62重量%、70g)を155~163℃で滴下し2時間撹拌し、さらに硫酸水溶液(62重量%、70g)を155~163℃で滴下し1時間撹拌した。最後に反応混合物に硫酸水溶液(62重量%、255g)を155~163℃で滴下し1時間撹拌した。その後、反応混合物を70~80℃に冷却し水(3170ml)を反応混合物の液温を110℃未満に維持しながら投入した。投入後、反応混合物の温度を35~45℃まで冷却し、析出した固体を濾過により回収した。得られた固体(1611g)を水(2600ml)で洗浄した。このようにして得られた固体は2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸の結晶(1609g)であり、4重量%の含水率であった。この結晶は次の工程2にそのまま使用した。
【0049】
(工程2)
グラスライニングの反応器にアセトン(2033ml)およびアセトンの含水量が15重量%となるように水(300ml)を投入後、 工程1において得られた2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸(1609g)および東京化成工業株式会社製の炭酸ナトリウム(754g)を投入した。反応混合物を57℃に加熱し東京化成工業株式会社製のジメチル硫酸(1510g)を、反応液温を55~58℃の範囲に維持しながら滴下した。その後、反応混合物を加熱還流させながら4.5時間攪拌し、その後アセトン(1400ml)を常圧にて溜去した。その後、40℃の温水(2550ml)を50~63℃の温度下の反応混合物に加え、析出した固体を濾過により回収した。得られた結晶(1777g)を80~90℃の温水(2550ml)で洗浄し、更に40℃のメタノール(1500ml)で洗浄した。なお、温水により洗浄を行った後で、かつメタノールによる洗浄に付す前の結晶の温度は69℃であった。メタノールによる洗浄後の結晶をヌッチェ濾過により回収し、回収した結晶を80℃、40mmHgの条件下で減圧乾燥し、2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチルを得た。
【0050】
得られた2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチルについて、収量:1615g、総収率:93.7重量%、純度:99.6重量%であり、環境に有害な副生物であるヘキサクロロベンゼンの含有量は1.0ppm、ペンタクロロベンゼンの含有量は40ppmであった。
なお、本実施例において、目的物の純度はガスクロマトグラフィー装置(製品名:Agilent 7890A、アジレント・テクノロジー株式会社製)にてキャピラリーカラム(製品名:HP-5、カラム長30m、カラム径0.53mmID、膜厚1.0μm、アジレント・テクノロジー株式会社製)を使用してFID条件下で内部標準法により算出した。また、ペンタクロロベンゼンの含有量は、上述の純度を算出した場合と同様のガスクロマトグラフィー装置及びキャピラリーカラムを使用してFID条件下で絶対検量線法により算出した。ヘキサクロロベンゼンの含有量は、ガスクロマトグラフィー質量分析装置(製品名:Agilent 7890A GC/5975C MSD、アジレント・テクノロジー株式会社製)にてキャピラリーカラム(製品名:Rxi-5SilMS、カラム長30m、カラム径0.25mmID、膜厚0.25μm、レステック株式会社製)を使用してm/z283.8の質量数の含量を絶対検量線法により算出した。当該測定方法によるヘキサクロロベンゼンの含有量及びペンタクロロベンゼンの含有量の定量限界はヘキサクロロベンゼンが0.2ppm、ペンタクロロベンゼンが20ppmである。
【0051】
[比較例1] 2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンカルボキサミドからの2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチルの製造
【0052】
(工程1)
本工程1の製造方法は上述の特許文献7に基づいた製造方法である。ガラスの反応器に株式会社エス・ディー・エス バイオテック製の2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボキサミド(6.04g、0.02モル)、および和光純薬株式会社製の硫酸(96.3重量%、12.43g、0.0256モルの水を含有)と和光純薬株式会社製の発煙硫酸(26重量%、5.22g、0.017モルのSO3を含む))の混合物(合計:17.65g)を投入した。反応混合物を常圧下で180℃に加熱して6時間撹拌した。反応終了後、析出した固体を濾過により回収し、得られた固体(7.0g)を水(100ml)で洗浄した。水洗して得られた固体を乾燥することにより2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸の白色結晶(5.8g)を得た。得られた結晶は次の工程2にそのまま使用した。
【0053】
(工程2)
工程1で得られた化合物の白色結晶(5.8g)をメタノール(17ml)に懸濁させ、反応混合物に水酸化ナトリウム(1.43g)のメタノール(12ml)溶液を室温で7分かけて滴下し、その後2時間加熱還流しながら撹拌した。反応終了後、室温まで冷却し、析出した固体を濾過により回収した。得られた固体を室温(20℃)の水により十分に洗浄した後、洗浄後の固体を濾過により回収し、回収した固体を80℃、40mmHgの条件下で減圧乾燥して2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチル(5.2g)を得た。
【0054】
得られた2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチルについて、純度:99.1重量%であり、ヘキサクロロベンゼンの含有量は25ppm、ペンタクロロベンゼンの含有量は500ppmであった。
【0055】
[比較例2] 2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボニトリルからの2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチルの製造
【0056】
(工程1)
本工程(1)の製造方法は上述の特許文献7に基づいた製造方法である。ガラス反応器に株式会社エス・ディー・エス バイオテック製の2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボニトリル(純度98.5重量%、5.32g、0.02モル)、および和光純薬株式会社製の硫酸(90重量%、11.06g)と和光純薬株式会社製の発煙硫酸(26重量%、6.59g)の混合物(合計:17.65g)を投入した。常圧下160℃に加熱し3時間撹拌した。反応終了後、析出した固体をろ過により回収し、得られた固体(7.1g)を水(100ml)で洗浄した。水洗して得られた固体を乾燥することにより2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸の結晶(5.9g)を得た。
【0057】
(工程2)
工程1で得られた化合物を、以下のとおり非特許文献1に記載の方法でジメチルエステル化した。
工程1で得られた2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸の結晶(5.9g)、アセトン(30.3g)、東京化成工業株式会社製のジメチル硫酸(4.89g)および東京化成工業株式会社製の炭酸ナトリウム(2.67g)の混合物を加熱還流下8時間撹拌した。反応後、反応混合物を室温に冷却して水(30g)を加えて析出した固体を濾過にて回収した。得られた固体(7.1g)を室温(20℃)の水100gで洗浄した。洗浄後の固体は、2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチル、2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸メチル、および未反応の2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸の混合物(5.9g)であった。得られた混合物について、ヘキサクロロベンゼンの含有量は21ppm、ペンタクロロベンゼンの含有量は400ppmであった。
【0058】
[比較例3] 2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボニトリル(式(III)で表される化合物)からの2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチルの製造
実施例1の工程2のろ過後の結晶の洗浄について、80~90℃の温水(2550ml)及び40℃のメタノール(1500ml)を使用する代わりに、室温(20℃)の水(2550ml)及び20℃のメタノール(1500ml)を使用する以外は、実施例1の工程1及び工程2と同様にして、2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチルを得た。なお、室温(20℃)の水により洗浄を行った後で、かつメタノールによる洗浄に付す前の結晶の温度は22℃であった。得られた式(I)で表される化合物について、ヘキサクロロベンゼンの含有量は10ppm、ペンタクロロベンゼンの含有量は300ppmであった。
【0059】
実施例1で示したように、工業的に生産されている原料である2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボニトリルから2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸を工業的に製造する工程(工程1)においては、市販の98重量%硫酸のみを使用し170℃以下の反応温度で反応は十分に進行し、収率良く目的物を生成することができた。また、次工程のメチルエステル化反応(工程2)でも含水アセトンを用いることで反応は円滑に進行し目的のジメチル2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸のみが収率よく得られた。
【0060】
また、実施例1での最終工程(工程2)での目的物である2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチルの洗浄方法として、80~90℃の温水で洗浄し、更に40℃のメタノールで洗浄することで、環境に有害なヘキサクロロベンゼンやペンタクロロベンゼンなどを効率良く除去することができた。
【0061】
一方、比較例1においては、最終工程(工程2)での目的物である2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチルの洗浄を、従来から行われている室温(20℃)の水のみで行っており、このような結晶の洗浄方法では環境に有害なヘキサクロロベンゼンやペンタクロロベンゼンなどを十分に除去できないことがわかった。
【0062】
また、比較例2においても、工程2のメチルエステル化反応において無水アセトンを用いると反応が途中で止まってしまい、未反応物、モノメチルエステル体、および目的物である2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチルの混合物となってしまい、目的物である2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチルを十分に得ることができなかった。
【0063】
最終工程(工程2)の結晶の洗浄の条件のみが実施例1と異なる比較例3においては、最終工程での目的物である2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチルの洗浄方法として、実施例1に比べて温度が低い、室温(20℃)の水及び20℃のメタノールで洗浄したため、環境に有害なヘキサクロロベンゼンやペンタクロロベンゼンなどを十分に除去できなかった。
【0064】
従って市販の98重量%硫酸を用いて2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボニトリルを2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸に変換すること、次工程のメチルエステル化反応では含水アセトンを溶媒とすること、および目的物の2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチルを30~100℃の温水で洗浄し、その後さらに30~80℃有機溶剤で洗浄することにより、高純度で環境に有害な不純物の含有量を低減させた目的物を工業的に製造できることがわかった。
【0065】
<実施例2~10、比較例4~8>
2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボニトリルからの2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチルの製造における洗浄条件の検討
【0066】
原料として実施例1の工程1と同様の硫酸及び2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボニトリルを用い、実施例1の工程1と同様の方法および条件により製造を行い、含水率4重量%の2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸の結晶(1600g)を単離した。得られた結晶を200gずつに分け、それぞれロット1~8とした。各々のロットは次の工程にそのまま使用する。
さらに上記と同様の方法により、含水率4重量%の2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸の結晶(1200g)を調製した。得られた結晶を200gずつに分け、それぞれロット9~14とした。各々のロットは次の工程にそのまま使用する。
【0067】
[実施例2]
グラスライニングの反応器において、アセトン(254ml)およびアセトンの含水量が15重量%となるように水(37ml)を投入後、2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸(ロット1、200g)および東京化成工業株式会社製の炭酸ナトリウム(94g)を投入し、反応混合物を57℃に昇温し、東京化成工業株式会社製のジメチル硫酸(189g)を55~58℃の温度下の反応混合物に滴下した。滴下後、加熱還流させながら4.5時間撹拌した。その後、アセトン(175ml)を常圧にて溜去した。その後、20℃の水(320ml)を50~53℃の温度下の反応混合物に加え、析出した固体を濾過により回収した。得られた結晶(221g)を85~90℃の温水(320ml)で洗浄し、更に40℃のメタノール(188ml)で洗浄した。温水による洗浄後、かつメタノールによる洗浄前の結晶の温度は、72℃であった。得られた結晶をヌッチェ濾過により回収し、回収した結晶を80℃、40mmHgの条件下で減圧乾燥し、2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチルを得た。得られた2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチルについて、収量:201.7g、純度98.749重量%、環境に有害な副生物であるヘキサクロロベンゼンは0.8ppm、ペンタクロロベンゼンは30ppmであった。
【0068】
[実施例3]
グラスライニングの反応器において、アセトン(1015ml)およびアセトンの含水量が15重量%となるように水(172ml)を投入後、2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸(ロット2、200g)および東京化成工業株式会社製の炭酸ナトリウム(94g)を投入し、反応混合物を57℃に昇温し、東京化成工業株式会社製のジメチル硫酸(189g)を55~58℃の温度下の反応混合物に滴下した。滴下後、加熱還流させながら4.5時間撹拌した。その後、アセトン(175ml)を常圧にて溜去した。その後、20℃の水(320ml)を50~53℃での温度下の反応混合物に加え、析出した固体を濾過により回収した。得られた結晶を85~90℃以上の温水(160ml)で洗浄し、更に40℃のメタノール(188ml)で洗浄した。温水での洗浄後、かつメタノール洗浄前の結晶の温度は、59℃であった。得られた結晶をヌッチェ濾過により回収し、回収した結晶を80℃、40mmHgの条件下で減圧乾燥し、2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチルを得た。得られた2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチルについて、収量:201.9g、純度98.241重量%、環境に有害な副生物であるヘキサクロロベンゼンは8.1ppm、ペンタクロロベンゼンは30ppmであった。洗浄水及びメタノールの温度及び使用量、温水での洗浄後かつメタノール洗浄前の結晶の温度、2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチルの収量、純度、及び環境に有害な副生物の含有量を以下の表1にそれぞれ示す。
【0069】
【0070】
【0071】
[実施例4~10、比較例4~8]
洗浄水及びメタノールの温度及び使用量を表1のようにそれぞれ変更した以外は実施例3と同様にして、実施例4~6及び比較例4~6の2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチルをそれぞれ得た。得られた2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチルについて、収量、純度、環境に有害な副生物であるヘキサクロロベンゼン及びペンタクロロベンゼンの含有量、温水での洗浄後、かつメタノール洗浄前の結晶の温度はそれぞれ表1に示すとおりであった。
また、洗浄水及び有機溶剤の温度及び使用量、並びに有機溶剤の種類を表2のようにそれぞれ変更した以外は実施例3と同様にして、実施例7~10並びに比較例7及び8の2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチルをそれぞれ得た。得られた2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチルについて、収量、純度、環境に有害な副生物であるヘキサクロロベンゼン及びペンタクロロベンゼンの含有量、温水での洗浄後、かつ有機溶剤洗浄前の結晶の温度はそれぞれ表2に示すとおりであった。
【0072】
表1の結果からわかるように、結晶を30~100℃の温水で洗浄し、その後さらに30~80℃の有機溶剤で洗浄した実施例2~10においては、洗浄後の結晶におけるヘキサクロロベンゼン及びペンタクロロベンゼンの含有量が少なく、十分に除去されていることがわかった。このうち、結晶を85℃以上の温水で洗浄した実施例2~4、7、及び8においては、結晶におけるヘキサクロロベンゼン及びペンタクロロベンゼンの含有量がさらに少なく、これらの副生成物を効率的に除去できることがわかった。実施例2~10においては、温水で洗浄した後、かつ有機溶剤で洗浄する前の結晶温度が比較的高く、それにより上記副生成物を十分に除去できるものと考えられる。
【0073】
一方、結晶を20℃の水でのみ洗浄した比較例4、20℃の水で洗浄しその後さらに30~80℃の有機溶剤で洗浄した比較例5、及び20℃の水で洗浄しその後さらに20℃の有機溶剤で洗浄した比較例6~8においては、洗浄後の結晶におけるヘキサクロロベンゼン及びペンタクロロベンゼンの含有量が多く、十分に除去されていないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、農園芸用除草剤として有用な2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチルを製造するに際して、従来法と比べてヘキサクロロベンゼンやペンタクロロベンゼンなどの環境に有害な副生成物の含有量を低減させ、効率よく製造できる工業的な方法を提供するものであり、産業上の利用可能性を有する。
【要約】
本発明は、式(I)で表される化合物の製造方法であって、(a)式(II)で表される化合物を、含水ケトン系溶剤中でアルカリ炭酸塩の存在下、ジメチル硫酸と反応させることにより、式(I)で表される化合物を結晶として得る工程、及び(b)前記結晶を30~100℃の温水で洗浄し、その後さらに30~80℃の有機溶剤で洗浄する工程を含む、前記方法を提供する。