(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】モータ駆動装置
(51)【国際特許分類】
H02P 6/15 20160101AFI20220628BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20220628BHJP
【FI】
H02P6/15
H02M7/48 M
H02M7/48 F
(21)【出願番号】P 2017180334
(22)【出願日】2017-09-20
【審査請求日】2020-06-04
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503376518
【氏名又は名称】東芝ライフスタイル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】會澤 敏満
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-002673(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/15
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正側及び負側スイッチング素子の直列回路からなる複数のアームを並列に接続して構成され、モータを駆動する電力変換回路と、
前記モータを制御するため、前記電力変換回路を構成する各スイッチング素子に対するオンオフ信号を生成して出力する制御回路と、
前記モータの回転位置を検出する回転位置検出部とを備え、
前記制御回路は、第1及び第2タイマを備え、
前記回転位置に応じて前記第1タイマを起動し、前記第1タイマが所定時間を計時すると前記正側スイッチング素子のオンを開始させて前記モータへの通電を行うと共に、前記第1タイマによる計時を停止させて前記第2タイマを起動し、
前記第2タイマが所定時間を計時すると前記正側スイッチング素子をオフさせると共に、前記第2タイマによる計時を停止させ、
前記正側スイッチング素子のオフより先に前記回転位置が前記第1タイマを起動させる位置になると、オンにしている正側スイッチング素子のオフと、次にオンにする順番の正側スイッチング素子のオン及び前記第2タイマの起動とを行うモータ駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、モータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ブラシレスDCモータが、省エネや静音化の観点から多く用いられている。ブラシレスDCモータでは、回転子の位置に応じて通電タイミングを切り替える必要がある。そこで、ホールセンサなどの磁極位置センサにより回転子の位置を検出し、センサ信号のエッジに応じてモータへの通電タイミングを切り替えて駆動させている。
【0003】
この場合、センサ信号のエッジが到来するタイミングよりも早く通電タイミングを切り替えて進角制御を行ったり、通電時間を変更することでモータ電流を調整できる。このような制御は、例えばタイマを用いて実現できる。例えば、センサ信号のエッジのタイミングからタイマ1による計時を開始させて当該タイマの割込みなどで通電を開始すると共に、タイマ2による計時を開始させて、当該タイマの割込みなどで通電を終了させることが考えられる。尚、特許文献1については、タイマを用いて行うブラシレスDCモータの通電制御の一例として提示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような構成では、例えばモータが急激に加速する等してセンサ信号のエッジ間隔が短くなると、通電時間の完了よりも先に次のエッジが発生したり、次の通電タイミングが発生することで異常な通電状態となり、大電流が流れてしまうことも想定される。
【0006】
そこで、制御に2つのタイマを用いる際に、制御の破綻を防止すると共に、より低進角での制御が可能となるモータ駆動装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態のモータ駆動装置は、正側及び負側スイッチング素子の直列回路からなる複数のアームを並列に接続して構成され、モータを駆動する電力変換回路と、
前記モータを制御するため、前記電力変換回路を構成する各スイッチング素子に対するオンオフ信号を生成して出力する制御回路と、
前記モータの回転位置を検出する回転位置部とを備え、
前記制御回路は、第1及び第2タイマを備え、
前記回転位置に応じて前記第1タイマを起動し、前記第1タイマが所定時間を計時すると前記正側スイッチング素子のオンを開始させて前記モータへの通電を行うと共に、前記第1タイマによる計時を停止させて前記第2タイマを起動し、
前記第2タイマが所定時間を計時すると前記正側スイッチング素子をオフさせると共に、前記第2タイマによる計時を停止させ、
前記正側スイッチング素子のオフより先に前記回転位置が前記第1タイマを起動させる位置になると、オンにしている正側スイッチング素子のオフと、次にオンにする順番の正側スイッチング素子のオン及び前記第2タイマの起動とを行う。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施形態であり、モータ駆動装置の構成を示す図
【
図2】想定従来技術の通常動作を示すタイミングチャート
【
図3】回転位置信号のエッジ発生に伴う割込み処理を示すフローチャート
【
図7】本実施形態における回転位置信号のエッジ発生に伴う割込み処理を示すフローチャート
【
図10】
図6に示す異常発生時に対応する実際の各信号波形を示す図
【
図11】本実施形態による異常対応を行った場合の実際の各信号波形を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、一実施形態について図面を参照しながら説明する。モータ駆動装置の構成を示す
図1において、直流電源1には、平滑コンデンサ2,抵抗素子3及び4の直列回路,並びにインバータ回路5が並列に接続されている。電力変換回路に相当するインバータ回路5は、4つのNチャネルMOSFETQ1~Q4がHブリッジ接続されて構成されている。そして、FET_Q1及びQ2の直列回路であるアームの共通接続点と、FET_Q3及びQ4の直列回路であるアームの共通接続点との間に、単相ブラシレスDCモータ6の図示しない固定子巻線が接続されている。尚、FET_Q1及びQ3は正側半導体スイッチング素子に対応し、FET_Q2及びQ4は負側半導体スイッチング素子に対応する。
【0010】
FET_Q1~Q4は、制御マイクロコンピュータ7によりスイッチング制御される。制御回路に相当する制御マイコン7は、各FET_Q1~Q4のゲートに、それぞれゲート駆動回路8~11を介してゲート駆動信号を出力する。抵抗素子3及び4の共通接続点は制御マイコン7の入力端子に接続されている。制御マイコン7は、直流電源1の分圧された電圧をA/Dコンバータ12によりA/D変換して読み込む。
【0011】
また、モータ6にはホールセンサ13が配置されており、ホールセンサ13の出力端子は制御マイコン7の入力端子に接続されている。ホールセンサ13は、モータ6の回転子に配置されている永久磁石の磁界を検出して、回転位置信号を制御マイコン7に出力する。制御マイコン7は、前記回転位置信号に応じて、モータ6の固定子巻線に対する通電方向,つまりモータ6の回転方向を切り替える。ホールセンサ13は、回転位置検出部に相当する。
【0012】
インバータ回路5と、直流電源1の負側端子であるグランドとの間を接続する電源線には、電流検出部である抵抗素子14が挿入されている。抵抗素子14のインバータ回路5側の端子は、制御マイコン7の入力端子に接続されており、制御マイコン7は、抵抗素子14の端子電圧をA/Dコンバータ12によりA/D変換して読み込む。
【0013】
制御マイコン7は、第1PWM回路15及び第2PWM回路16を備えており、第1PWM回路15はFET_Q1及びQ2側にゲート信号を出力し、第2PWM回路16はFET_Q3及びQ4側にゲート信号を出力する。制御マイコン7は、それぞれタイマ1及びタイマ2を内蔵してなるタイマ1制御部17及びタイマ2制御部18を備えている。タイマ1及び2はプログラマブルであり、それぞれ第1及び第2タイマに相当する。タイマ1は、ホールセンサ12が出力する回転位置信号のエッジで起動され、モータ6の進角制御に使用される。タイマ2は、タイマ1の計時が終了すると起動され、FET_Q1及びQ3の通電時間制御に使用される。
【0014】
周知のように、Hブリッジ型のインバータ回路5では、FET_Q1及びQ4を同時にオンすることでモータ6の固定子巻線に例えば正方向の通電を行い、FET_Q2及びQ3を同時にオンすることで同巻線に逆方向の通電を行う。
【0015】
<想定従来技術の説明>
ここで、説明の都合上、以下のように想定した従来技術について
図2から
図6を参照して説明する。これは、上記の制御マイコン7の構成により実現可能であり、
図2に示すように、以下の(1)~(3)のような制御シーケンスとなっている。また、
図3は、回転位置信号のエッジ発生に伴う割込み処理,
図4はタイマ1割込み処理,
図5はタイマ2割込み処理のフローチャートである。
【0016】
(1)ホールセンサ13が出力する回転位置信号のエッジで(
図3;開始)、タイマ1を起動させる(S7)。このときタイマ1には、前回までの回転位置信号のエッジ間隔時間(S1)を用いて,入力されるモータ6の進角指令に応じた進角を実現するため、信号エッジからの遅延時間を設定する(S6)。尚、
図3に示すステップS5の「内部動作指令=出力オン」は、インバータ回路5によりモータ6を駆動する指令が与えられている状態である。
【0017】
(2)タイマ1が設定された時間を計時すると、タイマ1割込みが発生する(
図4;開始)。この割込みに伴う処理では,信号エッジが「立上り」であれば(S12;H)FET_Q1をオンさせ(S22)、信号エッジが「立下がり」であれば(S12;L)FET_Q3をオンさせて(S16)モータ6への通電を開始する。そして、タイマ2を起動させる(S18)。このとき,タイマ2には、通電指令に応じた通電時間を設定する(S17)。また、誤動作を防止するためタイマ1を停止させ(S11)、タイマ1割込みフラグをクリアする(S11a)。
【0018】
尚、FET_Q1をオンさせた時点では、下記(3)の制御におけるタイマ2による計時が過去に完了しており、それに伴いFET_Q4が既にオンしているので、FET_Q1→Q4方向の通電となる。同様に、FET_Q3をオンさせた時点では、FET_Q2が既にオンしているので、FET_Q3→Q2方向の通電となる。
【0019】
(3)タイマ2が設定された時間を計時すると、タイマ2割込みが発生する(
図5;開始)。この割込みに伴う処理では,現状の通電方向に応じてオンさせている正側のFET_Q1又はQ3をオフさせる(S40,S36)。尚、FETをオフさせる前に、抵抗素子14で検出される電流のA/D変換を開始させる(S31)。そして、タイマ1と同様に誤動作を防止するため,タイマ2を停止させる(S33)。
【0020】
尚、ステップS36でFET_Q3及びQ4をオフし、ステップS40でFET_Q1及びQ2をオフすると、ステップS37,S41でデッドタイム調整を行った後、ステップS38,S42でFET_Q4,Q2をオンさせる。これにより、インバータ回路5に還流電流が流れ、モータ6への通電電流は「フリーホイール」状態となる(S39)。次に、回転位置信号の逆方向のエッジが発生すると(1)に移行する。
【0021】
この従来技術に対し、以下のような異常が発生した場合を想定する。従来技術では、異常の発生に対応していない。
図6に示すケースでは、モータ6が急加速する等して回転位置信号のエッジの到来が早まったため,タイマ1及び2を停止させる前に、つまり進角用遅延時間及び通電時間が経過する前に次のタイマ1の起動条件が発生している。これにより、所望の制御ができなくなる。具体的には、FET_Q3のオフ及びFET_Q4のオンを、適切なタイミングで行うことができなくなる。
【0022】
<本実施形態による異常対応>
そこで本実施形態では、上述した異常の発生に対応するため、
図7に示すエッジ発生に伴う割込み処理において、新たなステップS51~S54を追加すると共に、タイマ2割込み処理におけるステップS31~S42,及びタイマ1割込み処理におけるステップS12~S22も実行するようにした。ステップS5で「YES」と判断すると、エッジ割込みの回数をカウントするホールセンサエッジカウンタをインクリメントして(S51)、当該カウンタの値が「1」より大か否かを判断する(S52)。
【0023】
ホールセンサエッジカウンタは、
図8に示すタイマ1割込み処理において、ステップS18の実行後にリセットされる(S55)。したがって、
図2に示す通常の動作であれば当該カウンタの値は「1」であるから、ステップS52において「NO」と判断され、ステップS6に移行する。
【0024】
これに対して、
図6に示す異常時では、
図8に示すタイマ1割込み処理を実行する前にホールセンサエッジが発生することになるから、カウンタの値は「1」より大きくなる。したがって、ステップS52において「YES」と判断され、ステップS31~S42を実行する。但し、このケースでは通電方向が「フリーホイール」にならないので、ステップS35において「フリーホイール」と判断した際の分岐は削除している。そして、ホールセンサエッジカウンタの値を「1」に設定してから(S53)、ステップS12~S22を実行する。ステップS18の実行後は、タイマ1の停止及びタイマ1割込みフラグのクリアを行ってから(S54)ステップS6に移行する。尚、タイマ2割込み処理については、
図5に示したものに変更はない。
【0025】
このように異常対応処理を行うことで、
図6に示すケースに対応する
図9においては、回転位置信号のエッジの到来が早まっても、その時点でタイマ2及び1の停止と再起動とが行われるので、それに伴いFET_Q3のオフ及びFET_Q4のオンが行われるようになる。
【0026】
図10は、
図6に示すケースに対応する各信号波形を示す。モータ6の急加速に伴い回転位置信号のエッジ発生間隔が短くなり、タイマ1割込みである進角割込み,及びタイマ2割込みである通電割り込みの発生前にエッジ割込みが発生している。これにより、FET_Q3のオフ及びFET_Q4のオンが行われず、図中に円形で囲んだ部分に示すように大きな電流が流れている。
図11は、
図9に示すケースに対応する各信号波形を示す。回転位置信号のエッジ発生間隔が短くなってもFET_Q3のオフ及びFET_Q4のオンが行われるので、
図10のように大きな電流は流れない。
【0027】
以上のように本実施形態によれば、制御マイコン7は、タイマ1制御部17及びタイマ2制御部18を備え、モータ6の回転子位置に応じてタイマ1を起動し、タイマ1による計時時間に基づいてFET_Q1,Q3のオンタイミングを制御することで、モータ6への通電を行う。また、制御マイコン7は、前記オンタイミングに応じてタイマ2を起動し、タイマ2による計時時間に基づいてFET_Q1,Q3のオフタイミングを制御する。そして、前記オフタイミングより先にロータ回転位置がタイマ1を起動させる位置になると、前記オフタイミングで行う予定であったFET_Q1,Q3のオフと、前記オンタイミングで行う予定であったFET_Q1,Q3のオン及び2タイマ2の起動を行うようにした。
【0028】
これにより、モータ6が急加速する等して、タイマ1及び2による計時が完了する前に、次の回転位置信号のエッジが発生した場合でもモータ6への通電方向を適切に切り替えることが可能となり、インバータ回路5に大きな電流が流れることを防止して、制御を安定して行うことができる。
【0029】
また、電流検出部22は、タイマ2による計時時間に基づいてFET_Q1,Q3のオフタイミングを制御する際に電流を検出し、制御マイコン7は、前記オフタイミングより先に次の回転位置信号のエッジが発生すると、電流検出部22により電流の検出を行わせてからFET_Q1,Q3のオフ及びオンを制御するようにした。これにより、モータ6が急加速した場合でも、電流の検出を確実に行うことができる。
【0030】
(その他の実施形態)
3相のインバータ回路に適用しても良い。
電流検出は、異常対応時にタイマ2割込み処理のみで行っても良い。
スイッチング素子はMOSFETに限ることなく、IGBTやバイポーラトランジスタ等でも良い。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0031】
図面中、1は直流電源、5はインバータ回路、6はブラシレスDCモータ、7は制御マイクロコンピュータ、13はホールセンサ、14は抵抗素子、17はタイマ1制御部、18はタイマ2制御部、Q1~Q4はNチャネルMOSFETを示す。