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  • 特許-複合繊維及び成形体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】複合繊維及び成形体
(51)【国際特許分類】
   D01F 8/04 20060101AFI20220628BHJP
   D03D 15/292 20210101ALI20220628BHJP
   D04B 1/16 20060101ALI20220628BHJP
   D04B 21/16 20060101ALI20220628BHJP
   D04C 1/02 20060101ALI20220628BHJP
   D02G 3/36 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
D01F8/04 Z
D03D15/292
D04B1/16
D04B21/16
D04C1/02
D02G3/36
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017185816
(22)【出願日】2017-09-27
(65)【公開番号】P2019060048
(43)【公開日】2019-04-18
【審査請求日】2020-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000120010
【氏名又は名称】宇部エクシモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100173646
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 桂子
(72)【発明者】
【氏名】光若 直登
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特公昭47-042843(JP,B1)
【文献】中国実用新案第203960416(CN,U)
【文献】特開2009-061718(JP,A)
【文献】国際公開第2000/065140(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F8/00-8/18
D02G1/00-3/48
D02J1/00-13/00
D03D1/00-27/18
D04B1/00-1/28
21/00-21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に垂直な断面が、第1の熱可塑性樹脂からなる海成分の中に、前記第1の熱可塑性樹脂よりも高融点の第2の熱可塑性樹脂からなる複数の島成分が点在する海島構造を有する複合繊維であって、
前記第1の熱可塑性樹脂は、プロピレン共重合体ポリエチレン又はこれらを混合したポリマーアロイで、かつ、平行光線透過率が5%以上樹脂であり、
前記第2の熱可塑性樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートポリブチレンテレフタレート又はこれらを混合したポリマーアロイであり、
前記島成分は昇温速度を30℃/分として示差走査熱量計で測定した結晶化度が10%以上であり、
前記島成分の割合が体積比で50~90%である複合繊維。
【請求項2】
前記島成分は結晶化度が60%以上である請求項1に記載の複合繊維。
【請求項3】
前記第1の熱可塑性樹脂は、平行光線透過率が13%以上である請求項1又は2に記載の複合繊維。
【請求項4】
2以上の方向に糸条が配列された織布、編布又は組布を熱成形して形成された成形体であって、
前記織布、編布又は組布は、2軸以上に請求項1~3のいずれか1項に記載の複合繊維が用いられているファブリック調の成形体。
【請求項5】
前記織布、編布又は組布に用いられている各複合繊維は、前記海成分のみが前記熱成形によって溶融し、前記島成分はそのままの状態で存在している請求項4に記載のファブリック調の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合繊維及びこの複合繊維を用いた成形体に関する。より詳しくは、2以上の方向に糸条が配列された織布、編布又は組布を用いてファブリック調の成形体を形成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
布地のような外観を有するファブリック調の樹脂成形体(以下、ファブリック調成形体という。)は、自動車や電車などの乗り物の内装部品、住宅や事務所などの建築物の内装材、家具、インテリア雑貨及び日用品など様々な分野で利用されている。従来、ファブリック調成形体を形成する方法としては、例えば、樹脂成形体の表面に短繊維を固定する方法(特許文献1参照)や印刷により布地模様を形成する方法(特許文献2参照)がある。
【0003】
また、より自然な織物柄を実現するために、基材表面に織物状凹凸模様を形成した化粧材も提案されている(特許文献3参照)。更に、天然繊維による織物独特の外観イメージを有しながら、ほつれや摩耗の少ない表面特性を実現するために、繊維布帛の両面に樹脂層を含浸被覆させたファブリック調遮熱膜材も提案されている(特許文献4参照)。この特許文献4に記載の遮熱膜材では、繊維布帛を構成する経糸条及び緯糸条の少なくとも一方に芯鞘紡績糸条が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-117681号公報
【文献】特開平10-44186号公報
【文献】特開2001-113894号公報
【文献】特開2015-83725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した従来のファブリック調成形体には、以下に示す問題点がある。特許文献1に記載のファブリック調成形体は、成形体表面に単繊維を固定する工程が煩雑で、手間がかかる。また、特許文献2に記載のファブリック調成形体は、基体シートに布地の絵柄が印刷されたシートを積層すればよいため製造は容易であるが、印刷によってどの方向から見ても本物の布地と同様の光沢や質感を出すことは難しい。
【0006】
更に、特許文献3に記載のファブリック調成形体では、シート状素材の表面に細かい刻印を施すことで繊維調の模様を形成しているが、この方法では、見る角度によって変わる繊維特有の光沢感を出すことは不可能であり、質感も本物の繊維素材に似せることは困難である。これに対して、特許文献4に記載のファブリック調成形体は、繊維布帛を用いて成形体を形成しているため、本物の布地に近い外観を有しているが、撚糸・含浸工程を含むため加工性に劣り、また、撚糸や含浸樹脂を利用するため膜材に成形後の賦形性に劣る。
【0007】
そこで、本発明は、繊維の質感を有するファブリック調成形体が得られる複合繊維及びこの複合繊維を用いたファブリック調成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前述した課題を解決するために、鋭意実験検討を行った結果、特定の光学特性を有する複合繊維を用いて形成した織布、編布又は組布を熱成形することで、本物の繊維により近い質感を備えるファブリック調成形体が得られることを見出し、本発明に至った。なお、本発明において、「質感」とは、繊維の色調、模様及び光沢などにより受ける視覚的な印象であり、「繊維の質感を有する」とは、例えば縦横2軸の繊維からなる織物について、繊維の光学的異方性により生じる縦糸と横糸の明度の違いを視認でき、90°回転させると本物の布地と同様に各糸の明暗が入れ替わることをいう。
【0009】
本発明に係る複合繊維は、長手方向に垂直な断面が、第1の熱可塑性樹脂からなる海成分の中に、前記第1の熱可塑性樹脂よりも高融点の第2の熱可塑性樹脂からなる複数の島成分が点在する海島構造を有する複合繊維であって、前記第1の熱可塑性樹脂は、プロピレン共重合体ポリエチレン又はこれらを混合したポリマーアロイで、かつ、平行光線透過率が5%以上樹脂であり、前記第2の熱可塑性樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートポリブチレンテレフタレート又はこれらを混合したポリマーアロイであり、前記島成分は昇温速度を30℃/分として示差走査熱量計で測定した結晶化度が10%以上であり、前記島成分の割合が体積比で50~90%である。
本発明の複合繊維は、例えば前記島成分の結晶化度を60%以上とすることができる。
また、前記第1の熱可塑性樹脂は、例えば平行光線透過率が13%以上の樹脂である。
【0010】
本発明に係る成形体は、2以上の方向に糸条が配列された織布、編布又は組布を熱成形して形成された成形体であり、前記織布、編布又は組布の2軸以上に前述した複合繊維が用いられているものである。
本発明の成形体では、前記織布、編布又は組布に用いられている各複合繊維は、例えば前記海成分のみが前記熱成形によって溶融し、前記島成分はそのままの状態で存在していている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特定の光学特性を有する複合繊維を用いているため、繊維の質感を有するファブリック調成形体を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施形態の複合繊維の断面構造例を模式的に示す図である。
図2図1に示す複合繊維10に用いられる未延伸糸の断面構造例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0014】
(第1の実施形態)
先ず、本発明の第1の実施形態に係る複合繊維について説明する。図1は本実施形態の複合繊維の断面構造例を模式的に示す図であり、長手方向(延伸方向)に対して垂直方向の断面図である。図1に示すように、本実施形態の複合繊維10は、長手方向に垂直な断面が海成分1の中に複数の島成分2が点在する構造で、島成分2が長さ方向に連続する海島型複合繊維である。
【0015】
[海成分1]
海成分1は、複数の島成分2を一体化するためのバインダー(マトリクス)成分であり、熱可塑性樹脂(以下、第1熱可塑性樹脂という。)からなり、平行光線透過率が5%以上である。ここでいう「平行光線透過率」は、厚さが0.70±0.05mmのシート状の試料を用いて、ヘイズメーターにより測定した値である。
【0016】
後述するように、本実施形態の複合繊維10を用いてファブリック調成形体を形成した場合、ファブリック柄を構成する繊維の色調や模様は、島成分2によって表現される。ただし、海成分1の平行光線透過率が5%未満の場合、島成分2が見えにくくなり、成形体を形成したときにファブリック柄を構成する繊維の色調や模様が不鮮明となる。海成分1は、平行光線透過率が13%以上であることが好ましく、これにより、成形体を形成したときに本物の布地により近い質感が得られる。
【0017】
海成分1を構成する第1熱可塑性樹脂としては、例えば、エチレン-プロピレンランダム共重合体などのプロピレン共重合体(co-PP)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、平行光線透過率が5%以上となる熱可塑性樹脂であればよい。なお、第1熱可塑性樹脂は、2種以上のポリマーを混合したポリマーアロイでもよく、また、前述した平行光線透過率の範囲を維持できる範囲で、酸化防止剤、中和剤、光安定剤、滑剤及び帯電防止剤などの各種添加剤や着色のための顔料が配合されていてもよい。
【0018】
[島成分2]
島成分2は、ファブリック調成形体を形成したときに繊維の色調や模様を表現する成分であり、前述した第1熱可塑性樹脂よりも高融点の熱可塑性樹脂(以下、第2熱可塑性樹脂という。)からなり、結晶化度が10%以上である。島成分2を構成する第2熱可塑性樹脂の融点が第1熱可塑性樹脂の融点以下の場合、紡糸や延伸時に島成分2が溶融し、海成分1の中に島成分2が点在する断面海島構造の複合繊維10が得られない。なお、複合繊維10やファブリック調成形体の製造容易性の観点から、第2熱可塑性樹脂の融点は、第1熱可塑性樹脂の融点よりも20℃以上高いことが好ましい。
【0019】
また、複合繊維10を用いてファブリック調成形体を形成したとき、島成分2を構成する結晶性樹脂の配向によって繊維の色調や模様が表現される。このため、島成分2を構成する第2熱可塑性樹脂の配向結晶が不十分であると、縦糸と横糸の明度差が少なくなり、ファブリック柄の模様が見えにくくなる。具体的には、島成分2の結晶化度が10%未満の場合、ファブリック調成形体を形成したときに縦糸と横糸の明度差が小さくなり、色調や模様の視認性が低下する。よって、島成分2の結晶化度は10%以上とする。また、ファブリック調成形体を形成したときの質感向上の観点から、島成分2の結晶化度は60%以上であることが好ましい。
【0020】
島成分2の結晶化度は、示差走査熱量計(DSC)で測定することができる。一般に、DSCを用いて樹脂の融点を測定する場合は、昇温速度は10℃/分に設定されるが、延伸物のような配向結晶化が生じているものの融解熱量を測定し、繊維に内在している結晶化度の差異を求める場合は、昇温速度が遅いと、昇温中に結晶化が進行し、測定前と異なる状態の融解熱量を測定することになる。そこで、本発明においては、島成分の結晶化度は、昇温速度を30℃/分として測定した値で規定している。
【0021】
島成分2を構成する第2熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポチエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)などの結晶性ポリエステル及びナイロンが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、第1熱可塑性樹脂よりも高融点で、延伸して複合繊維としたときに島成分2の結晶化度が10%以上となる熱可塑性樹脂であればよい。なお、第2熱可塑性樹脂は、2種以上のポリマーを混合したポリマーアロイでもよく、また、本発明の効果に影響を与えない範囲で、酸化防止剤、中和剤、光安定剤、滑剤及び帯電防止剤などの各種添加剤や着色のための顔料が配合されていてもよい。
【0022】
[成分比]
本実施形態の複合繊維10は、海成分1と島成分2の成分比(海成分/島成分)が、体積比で、50/50~10/90である。即ち、複合繊維10における島成分2の割合は、50~90体積%である。複合繊維10における島成分2の割合が50体積%未満の場合、複合繊維10の表面からの海成分1の厚さが増し、島成分2により表現される繊維の色調や模様が見えにくくなる。一方、複合繊維10における島成分2の割合が90体積%を超えると、バインダー成分である海成分1が不足し、熱加工によりシートなどの成形品に賦形することが困難になる。
【0023】
[製造方法]
次に、本実施形態の複合繊維10の製造方法について説明する。図2図1に示す複合繊維10に用いられる未延伸糸の断面構造例を模式的に示す図である。本実施形態の複合繊維10は、例えば、図2に示すような断面構造を有する鞘芯構造の未延伸糸を用いて形成することができる。その場合、未延伸糸の鞘部11は複合繊維10の海成分1となり、芯部12は島成分2となるため、鞘部11は第1熱可塑性樹脂で形成し、芯部12は第2熱可塑性樹脂で形成する。
【0024】
この鞘芯構造の未延伸糸を10~1000本程度集束し、鞘部11を構成する樹脂(第1熱可塑性樹脂)の融点以上、芯部12を構成する樹脂(第2熱可塑性樹脂)の融点以下の温度で加熱しながら延伸して一体化する。これにより、海成分1中に複数の島成分2が点在する複合繊維10が得られる。なお、本実施形態の複合繊維10の製造方法は、上述した方法に限定されるものではなく、例えば、延伸工程と一体化工程をそれぞれ別工程で行ってもよい。
【0025】
以上詳述したように、本実施形態の複合繊維は、長手方向に垂直な断面を海島構造とし、海成分の平行光線透過率を5%以上、島成分の結晶化度を10%以上とし、島成分の割合を50~90体積%としているため、ファブリック調成形体としたときに色調や模様の視認性が向上する。そして、本実施形態の複合繊維を用いることで、繊維の質感を有するファブリック調成形体を実現することができる。
【0026】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る成形体について説明する。本実施形態の成形体は、2以上の方向に糸条が配列された織布、編布又は組布を熱成形して形成されたファブリック調成形体である。そして、本実施形態の成形体に用いられる織布、編布及び組布には、2軸以上に前述した第1の実施形態の複合繊維10が用いられている。
【0027】
本実施形態の成形体に用いられる「織布」、「編布」及び「組布」は、2軸以上の糸を組み合わせた布であって、その構成原糸のうち、ある角度を持って交わる糸が2軸以上存在するものである。例えば織布であれば、2軸以上の糸からなる平織布、綾織布及び朱子織布などが該当し、組布であれば3軸組布などが該当する。これら織布、編布及び組布の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法で製造することができる。
【0028】
本実施形態の成形体は、2軸以上に前述した第1の実施形態の複合繊維10が用いられた織布、編布又は組布を熱成形することにより製造される。熱成形の方法は、特に限定されるものではなく、加熱プレス成形の他、赤外線加熱などの非接触加熱方法を用いた成形方法など、目的や形状に応じて適宜選択することができる。その際の加熱温度は、成形性及び色調や模様の視認性向上の観点から、海成分1(第1熱可塑性樹脂)の融点よりも高く、かつ、島成分2(第2熱可塑性樹脂)の融点よりも低くすることが好ましい。これにより、複合繊維10の海成分1のみが溶融し、島成分2は溶融せずにそのままの状態で存在する。その結果、島成分2により表現される縦糸と横糸の明度差により、成形体に本物の繊維素材に近い質感が付与される。
【0029】
なお、本実施形態の成形体の形状は、特に限定されるものではなく、シート状、略箱状、曲面状など種々の形状を採ることができる。
【0030】
以上詳述したように、本実施形態の成形体は、第1の実施形態の複合繊維を用いて形成された織布、編布又は組布を熱成形したものであるため、本物の布地に近い色調や模様を有し、繊維の質感が再現されたファブリック調成形体が得られる。
【実施例
【0031】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、下記の方法で実施例及び比較例のシート状成形体(以下、単にシートという。)を作製し、その質感を評価した。
【0032】
<実施例1>
鞘芯構造の未延伸糸を240本集束して、ホモPP(株式会社プライムポリマー製 Y2000GV、融点165℃)からなり結晶化度が62.1%の島成分と、PE(株式会社プライムポリマー製 UZ4051、融点124℃)からなり平行光線透過率13.3%の海成分で構成され、海成分/島成分が体積比で35/65である海島構造の複合繊維を作製した。
【0033】
この複合繊維を製織して平織布を得、それを熱成形して、実施例1のシートを得た。熱成形は、フッ素樹脂シートを貼り付けた鉄板で織布を挟み、それを140℃に加熱した熱プレス機にセットし、140℃で1分間加熱して海成分を溶融させた後、140℃で加熱したまま1MPaで1分間加圧することにより行った。熱成形されたシートは、加圧したまま熱プレス機を水冷し、50℃以下まで冷却した後、熱プレス機から取出した。
【0034】
<実施例2>
島成分をホモPP(株式会社プライムポリマー製 Y2000GV、融点165℃)に赤色顔料(東京インキ株式会社製 PPM(F) 27961レッド)を2質量%添加した樹脂で構成し、海成分をPE(株式会社プライムポリマー製 SP1071C、融点100℃)で構成した以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で複合繊維を作製した。この複合繊維は、島成分の結晶化度が65.4%であり、海成分の平行光線透過率が24.4%であった。そして、この複合繊維を製織して平織布を得、それを実施例1と同様の方法及び条件で熱成形し、実施例2のシートを得た。
【0035】
<実施例3>
島成分をホモPP(株式会社プライムポリマー製 Y2000GV、融点165℃)に黒色顔料(東京インキ株式会社製 TPM 9BB019)を2.5質量%添加した樹脂で構成した以外は、前述した実施例2と同様の方法及び条件で複合繊維を作製した。島成分を形成する樹脂の結晶化度は66.8%であった。そして、この複合繊維を製織して平織布を得、それを実施例1と同様の方法及び条件で熱成形し、実施例3のシートを得た。
【0036】
<実施例4>
島成分をホモPP(株式会社プライムポリマー製 Y2000GV、融点165℃)にホモPP(株式会社プライムポリマー製 S135、融点165℃)を配合した樹脂で構成し、海成分をco-PP(株式会社プライムポリマー製 Y2045GP、融点131℃)で構成した以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で複合繊維を作製した。この複合繊維は、島成分の結晶化度が62.1%であり、海成分の平行光線透過率が65.6%であった。そして、この複合繊維を製織して平織布を得、それを実施例1と同様の方法及び条件で熱成形し、実施例4のシートを得た。
【0037】
<実施例5>
島成分をホモPP(株式会社プライムポリマー製 Y2000GV、融点165℃)で構成し、海成分をPE(株式会社プライムポリマー製 SP1071C、融点100℃)で構成した以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で複合繊維を作製した。この複合繊維は、島成分の結晶化度が62.1%であり、海成分の平行光線透過率が24.4%であった。そして、この複合繊維を製織して3軸組布を得、それを実施例1と同様の方法及び条件で熱成形して、実施例5のシートを得た。
【0038】
<実施例6>
島成分をPET(ユニチカ株式会社製 NEH2050、融点252℃)で構成し、海成分をco-PP(日本ポリプロ株式会社製 WFW4、融点125℃)で構成した以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で複合繊維を作製した。この複合繊維は、島成分の結晶化度が13.4%であり、海成分の平行光線透過率が65.6%であった。そして、この複合繊維を製織して平織布を得、それを実施例1と同様の方法及び条件で熱成形し、実施例6のシートを得た。
【0039】
<実施例7>
島成分をホモPP(株式会社プライムポリマー製 Y2000GV、融点165℃)で構成し、海成分をHDPE(京葉ポリエチレン株式会社製 S6932、融点131℃)で構成した以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で複合繊維を作製した。この複合繊維は、島成分の結晶化度が62.1%であり、海成分の平行光線透過率が6.8%であった。そして、この複合繊維を製織して平織布を得、それを実施例1と同様の方法及び条件で熱成形し、実施例7のシートを得た。
【0040】
<比較例1>
島成分をホモPP(株式会社プライムポリマー製 Y2000GV、融点165℃)に黒色顔料(東京インキ株式会社製 TPM 9BB019)を2.5質量%添加した樹脂で構成し、海成分をPE(株式会社プライムポリマー製 SP1071C、融点100℃)に黒色顔料(ポリコール興業株式会社製 EPE‐K522432)を6質量%添加した樹脂で構成した以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で複合繊維を作製した。この複合繊維は、実施例3で使用した複合繊維に比べて延伸倍率が低いため黒色顔料を含む島成分の結晶化度が61.2%となり、黒色顔料を含む海成分の平行光線透過率が0%であった。そして、この複合繊維を製織して平織布を得、それを実施例1と同様の方法及び条件で熱成形し、比較例1のシートを得た。
【0041】
<比較例2>
島成分をPET(ユニチカ株式会社製 NEH2050、融点252℃)で構成し、海成分をco-PP(日本ポリプロ株式会社製 WFW4、融点125℃)に白色顔料(東京インキ株式会社製TPM 1BB111 WHITE MF AL)を5質量%添加した樹脂で構成した以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で複合繊維を作製した。この複合繊維は、島成分の結晶化度が13.4%であり、白色顔料を含む海成分の平行光線透過率は4.1%であった。そして、この複合繊維を製織して平織布を得、それを実施例1と同様の方法及び条件で熱成形し、比較例2のシートを得た。
【0042】
<比較例3>
延伸工程での延伸倍率を低下させた以外は、前述した実施例6と同様の方法及び条件で複合繊維を作製した。この複合繊維は、島成分の結晶化度が9.5%であり、海成分の平行光線透過率が65.6%であった。そして、この複合繊維を製織して平織布を得、それを実施例1と同様の方法及び条件で熱成形し、比較例3のシートを得た。
【0043】
なお、実施例1~7及び比較例1~3で用いた熱可塑性樹脂の「結晶化度」及び「平行光線透過率」は、以下の方法で測定した。
【0044】
[結晶化度]
島成分の結晶化度は、示差走査熱量計(DSC)で測定した。具体的には、試料原糸(複合繊維)5mgをDSC装置にセットし、昇温速度30℃/分で加熱し、300℃の温度で溶融させた。その後、降温速度100℃/分で冷却し、30℃の温度になった後、5分間等温状態にした。この試料を再び30℃/分で300℃まで加熱した。
【0045】
そして、測定された島成分の溶融ピークの面積(J)を島成分の質量(g)で除して溶融熱量(J/g)を算出し、1度目の昇温時の溶融熱量(ΔHm)、2度目の昇温時の溶融熱量(ΔHc)及び完全結晶体融解熱量(ΔHm)から下記数式1に基づき、島成分の結晶化度を求めた。
【0046】
【数1】
【0047】
[平行光線透過率]
フッ素樹脂シートを貼り付けた鉄板上に海成分を形成する樹脂(原料ペレット)を均一に並べた後、厚さ0.70mmの鉄板枠で囲い、その上からフッ素樹脂シートを貼り付けた鉄板を載せた。その状態で、測定対象試料の融点以上の温度に加熱した熱プレス機にセットし、1分間加熱して樹脂を溶融させ、更に加熱したまま1MPaで1分間加圧した。その後、熱プレス機から試料を取り出して、鉄板ごと水中に投入して急冷した。以上の手順により、厚さが0.70±0.05mmの樹脂シートを作製した。この測定用樹脂シートを用いて、ヘイズメーター(日本電色工業株式会社製NDH-2000、光源ハロゲンランプ)で平行光線透過率を測定した。
【0048】
次に、前述した方法で作製した実施例及び比較例の各シートの光沢度、色調及び模様を、以下に示す方法で評価した。
【0049】
[光沢度]
実施例及び比較例で用いた複合繊維を、それぞれ平板上に相互に平行になるように隙間無く並べた。このとき、複合繊維同士が重なることがあったが、問題はないためそのままにした。そして、この略平行に並べた複合繊維を、海成分のみが溶融する温度で加熱しながら加圧し、島成分が1軸に並んだシート状成形体を得た。そして、グロスメーター(スガ試験機株式会社製・光源タングステン電球)を用いて、このシート状成型体の長手方向及び幅方向の光沢度を測定した。
【0050】
[色調・模様]
実施例及び比較例の各シートを、20ルクスの電灯光下に置いて、5名のパネルにより目視観察を行い、異なる軸の繊維間での明暗の違い(縦糸と横糸の明度の差)により生じる模様や繊維の色調が識別可能か判定した。その結果、全員(5名)が識別可能と判断したものを○、3名又は4名が識別可能と判断したものを△、識別可能と判断したパネルが2名以下であったものを×とした。
【0051】
以上の結果を、下記表1にまとめて示す。
【0052】
【表1】
【0053】
上記表1に示すように、海成分の平行光線透過率が5%未満である比較例1及び比較例2のシートは、繊維模様は視認可能であったが、色調が見えにくかった。また、海成分の平行光線透過率は5%以上であるが、島成分の結晶化度が10%未満である比較例3のシートは、縦糸と横糸の明度差が小さく、繊維の模様及び色調の視認性に劣っていた。
【0054】
これに対して、本発明の範囲内で作製した実施例1~7のシートは、繊維の模様及び色調共に、視認性に優れており、本物の布地に近い色調や模様を有していた。特に、島成分の結晶化度が60%以上であり、海成分の平行光線透過率も高い実施例1~5のシートは、本物の繊維により近い質感が得られた。以上の結果から、本発明によれば、繊維の質感を有するファブリック調成形体が得られることが確認された。
【符号の説明】
【0055】
1 海成分
2 島成分
10 複合繊維
11 鞘部
12 芯部
図1
図2