(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/02 20120101AFI20220628BHJP
B60W 10/04 20060101ALI20220628BHJP
B60W 10/18 20120101ALI20220628BHJP
B60W 40/11 20120101ALI20220628BHJP
B60T 8/00 20060101ALI20220628BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20220628BHJP
B60L 9/18 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
B60W30/02
B60W10/04
B60W10/18
B60W40/11
B60T8/00 Z
B60L15/20 S
B60L9/18 P
(21)【出願番号】P 2017195730
(22)【出願日】2017-10-06
【審査請求日】2020-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】安部 正人
(72)【発明者】
【氏名】山門 誠
(72)【発明者】
【氏名】狩野 芳郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄大
(72)【発明者】
【氏名】平田 淳一
【審査官】増子 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-025783(JP,A)
【文献】特開2015-057347(JP,A)
【文献】特開2011-031739(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 - 10/30
B60W 30/00 - 60/00
B60G 1/00 - 99/00
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 15/42
B60T 7/12 - 8/1769
B60T 8/32 - 8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の少なくとも前輪と後輪にそれぞれ独立して駆動力または制動力となる前後力を発生させる前後力発生手段と、車両のばね下に配置された各輪をそれぞれ前記車両のばね上に配置された車体に連結するサスペンション機構とを備え、前記車両の前輪のアンチダイブ角もしくは後輪のアンチスクワット角のどちらか一方の角度がおおよそ零であり、他方の角度が前記一方の角度よりも大きい車両に装備されて、
前輪と後輪にそれぞれ独立した前後力を発生させ、前輪もしくは後輪の前後力が前
記サスペンション機構を介して車両のばね上に上下力として作用するように前記前後力発生手段を制御する車両の車両制御装置であって、
前記前輪または後輪の前後力の値を用いて、前記車両の前後加速度と車両のばね上に生じるピッチモーメントとを制御する前後加速度・ピッチモーメント制御手
段と、
前記車両に生じる前後加速度から、車両制御装置の制御による前後加速度を零にする前後加速度禁止信号を出力する加算前後加速度禁止判定器と、
を備える、ことを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
車両の少なくとも前輪と後輪にそれぞれ独立して駆動力または制動力となる前後力を発生させる前後力発生手段と、車両のばね下に配置された各輪をそれぞれ車両のばね上に配置された車体に連結するサスペンション機構とを備える車両に装備されて、
前輪と後輪にそれぞれ独立した前後力を発生させ、前輪もしくは後輪の前後力が前記サスペンション機構を介して車両のばね上に上下力として作用するように前記前後力発生手段を制御する車両の車両制御装置であって、
横加加速度計算手段より算出した車両の横加加速度に基づいて、前記前後力発生手段を制御することにより前輪または後輪の前後力でピッチモーメントを車両のばね上に生じさせるピッチモーメント制御手
段と、
前記車両に生じる前後加速度から、車両制御装置の制御による前後加速度を零にする前後加速度禁止信号を出力する加算前後加速度禁止判定器と、
を備えることを特徴とする車両制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両制御装置において、横加加速度計算手段より算出した車両の横加加速度に基づいて、前記前後力発生手段を制御することにより前輪または後輪の前後力でピッチモーメントを車両のばね上に生じさせるピッチモーメント制御手段を有する車両制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の車両制御装置において、車両の速度および横加速度に基づいて決定される制御ゲインを車両の横加加速度に乗算することでピッチモーメントを算出する目標ピッチモーメント計算器を有する車両制御装置。
【請求項5】
請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載の車両制御装置において、車両の前後加速度に基づいて決定される制御ゲインを車両の横加加速度に乗算することでピッチモーメントを算出する目標ピッチモーメント計算器を有する車両制御装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の車両制御装置において、前記前後加速度・ピッチモーメント制御手段または前記ピッチモーメント制御手段は、車両前下がり向きとなるピッチモーメントを生じさせる車両制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の車両制御装置において、前記前後加速度・ピッチモーメント制御手段または前記ピッチモーメント制御手段は、車両前下がり向きとなるピッチモーメントに加えて、車両が前上がり向きとなるピッチモーメントをさらに生じさせる車両制御装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の車両制御装置において、前記前後加速度・ピッチモーメント制御手段または前記ピッチモーメント制御手段がピッチモーメントを発生させるために前後力発生手段で発生させる前輪と後輪の前後力が、大きさが同じで向きが逆である車両制御装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の車両制御装置において、前記前後加速度・ピッチモーメント制御手段または前記ピッチモーメント制御手段は、アクセル操舵手段またはブレーキ操舵手段の指令により定まる前後力とは別に、ピッチモーメントを発生させるために前記前後力発生手段で発生させる前後力の和が、車両の横加加速度に制御ゲインを乗じた値に基づいた値とする車両制御装置。
【請求項10】
請求項9項に記載の車両制御装置において、前記前後加速度・ピッチモーメント制御手段は、前記制御ゲインを車両の前後加速度に基づいて決定する車両制御装置。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の車両制御装置において、前輪および後輪のいずれか一方または両方の前後力発生手段がインホイールモータ駆動装置である車両制御装置。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のいずれか1項に記載の車両制御装置を備えた車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、前後輪の前後力により生じる上下力によってピッチ運動等を制御することで、ドライバーまたは自動運転/運転支援装置の運転操作性を向上させる車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、横方向の加加速度(横加加速度)情報を用いて、車両の前後方向の加減速(前後加速度)を制御することが記載されている。
特許文献2には、横加速度と横加加速度の符号が一致した時に、前下がりのピッチ運動が発生するようにショックアブソーバーの減衰力、もしくはエアサスペンションの圧力を制御することが記載されている。
特許文献3には、制駆動力による上下力が発生するサスペンションジオメトリの車両において、制駆動力を制御して目標ロールモーメント、目標ピッチモーメント、目標ヨーモーメントを実現することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-157067号公報
【文献】特開2011-31795号公報
【文献】特許第5212663号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】田中利緒、鈴木雄大、小坂秀一、程偉鵬、山門誠、狩野芳郎、安部正人著、「車体運動がG-Vectoring 制御に及ぼす影響」、自動車技術会、2017年春季大会学術講演会講演予稿集CD、20175163、PP888- 892
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術では、サスペンションジオメトリ(アンチダイブ角、アンチスクワット角)を考慮しておらず、車両に前後加速度を発生させた際に、ドライバーが不快に感じるピッチ運動が生じる可能性がある。
特許文献2に記載の技術では、ショックアブソーバーの減衰力を調整する場合、前後加速度が発生してから制御する必要がある為、応答が遅れる可能性がある(受動的)。さらに、エアサスペンションを使用する場合、能動的に使用しても応答性が早いアクチュエータではない為、応答が遅れる可能性がある。応答性を高めようとする場合、サスペンション部に新たなアクチュエータを搭載する必要がある。
特許文献3に記載の技術では、目標ピッチモーメントの制御指針が不明確な為、制御タイミングによっては不要なピッチモーメントを発生させてしまう可能性がある。
【0006】
この発明は、上記課題を解消するものであり、その目的は、ピッチモーメントの制御により、ドライバーまたは自動運転/運転支援装置の運転操作性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明における第1の車両制御装置1は、車両2の少なくとも前輪8と後輪9にそれぞれ独立して駆動力または制動力となる前後力を発生させる前後力発生手段(3),20と、車両のばね下に配置された各輪をそれぞれ前記車両2のばね上に配置された車体2Aに連結するサスペンション機構41とを備え、前記車両の前輪8のアンチダイブ角θfもしくは後輪9のアンチスクワット角θrのどちらか一方の角度がおおよそ零であり、他方の角度が前記一方の角度よりも大きい車両に装備されて、
前輪8と後輪9にそれぞれ独立した前後力を発生させ、前輪8もしくは後輪9の前後力が前記がサスペンション機構41を介して車両2のばね上に上下力として作用するように前記前後力発生手段(3),20を制御する車両2の車両制御装置1であって、
前記前輪8または後輪9の前後力の値を用いて、前記車両2の前後加速度と車両2のばね上に生じるピッチモーメントとを制御する前記前後加速度・ピッチモーメント制御手段31を備える、ことを特徴とする。
【0008】
この構成によると、前輪8のアンチダイブ角θfが零であれば、前輪8の前後力による上下力は発生せず、車両には前後加速度力のみを作用させることができる。後輪9のアンチスクワット角θrが零でない場合は、後輪9の前後力Frにアンチスクワット角tanθrを乗算した大きさの上下力が働き、車両のピッチ回転中心周りに働くピッチモーメントの制御が可能となる。さらに後輪9の前後力に応じて前輪8の前後力を調節することで車両に生じる前後加速度の制御が可能となる。これにより、ドライバーまたは自動運転/運転支援装置の操作安定性が向上する。
なお、前記自動運転/運転支援装置を備えた車両の場合の操作安定性は、アクセルやブレーキ指令値に相当する指令を生成する制御手段についての制御の安定性、容易性である。
また、前記「おおよそ零」は、5度以下であり、好ましくは、3度以下、より好ましくは2度以下、または1度以下である。
【0009】
この発明の第2の車両制御装置1は、車両2の前輪8と後輪9にそれぞれ独立して駆動力または制動力となる前後力を発生させる前後力発生手段(3),20と、車両2のばね下に配置された各輪をそれぞれ車両2のばね上に配置された車体2Aに連結するサスペンション機構41とを備える車両に装備されて、
前輪8と後輪9にそれぞれ独立した前後力を発生させ、前輪8もしくは後輪9の前後力が前記サスペンション機構41を介して車両2のばね上に上下力として作用するように前記前後力発生手段(3),20を制御する車両の車両制御装置1であって、
横加加速度計算手段40より算出した車両2の横加加速度に基づいて、前記前後力発生手段(3),20を制御することにより前輪8または後輪9の前後力でピッチモーメントを車両のばね上に生じさせるピッチモーメント制御手段32を有することを特徴とする。
【0010】
この構成によると、車両2の横加加速度に基づいて、前記前後力発生手段(3),20を制御することにより前輪8または後輪9の前後力でピッチモーメントを車両2のばね上に生じさせるため、旋回時における車両姿勢が安定し、スムーズで乗り心地が良くなる。
この構成の車両制御装置1は、例えば4輪独立駆動車、特に4輪にインホイールモータ駆動装置3を備える自動車等において、横加加速度の発生に応じて前後輪9の前後力をそれぞれ逆向きに発生させて車両2のピッチ運動を適切に制御することで、ドライバーに違和感を与える事なくスムーズに運転することが可能になる。
【0011】
従来は、旋回時に発生する横加加速度に応じて微小な前後加速度(減速)を発生させる事で、フロントに荷重が移動して旋回性が向上しドライバーは余裕を持って操舵していると考えられていた。
しかし、非特許文献1によれば、旋回時に同じ前後加速度が生じていても、前後加速度で生じるピッチ運動の向きによって、ドライバーが余裕をもって操舵できるかどうかが異なることが示されている。減速時に生じるピッチ運動が前下がりとなる場合は、ピッチ運動と旋回により発生するロール運動の連成したダイアゴナルな姿勢変化(いわゆるダイアゴナルロール)がドライバーの操舵に良い影響(余裕を持った操舵ができる)を与えている可能性がある事が分かった。逆に減速時に生じるピッチ運動が前上がりとなる場合はドライバーによって結果が分かれることが分かった。
また、その後、後輪9のアンチスクワット角θrが前輪8のアンチダイブ角θfよりも大きく、4輪にインホイールモータ駆動装置を備える車両において、次の事項が分かった。すなわち、横加加速度に応じた前後加速度の指令をキャンセルするように前後輪8,9の前後力を逆向きに同じ力で発生させて、前上がりもしくは前下がりのピッチ運動が操舵特性にどのような影響を与えるのか評価した結果、前輪8のアンチダイブ角がおおよそ零で前輪8のアンチダイブ角よりも後輪9のアンチスクワット角の方が大きい車両において、前後力によって車両の前後加速度を発生させることなく車両に前下がりのピッチを発生させられることが分かった。また旋回時に減速させることなく前下がりのピッチ運動をさせるだけでも、ドライバーの操舵に良い影響(余裕を持った操舵ができる)を与えている事が分かった。
【0012】
この結果、前後加速度は変化していないにも関わらず、横加加速度に応じて前下がりのピッチ運動をさせるとドライバーは操舵余裕が生まれ、前上がりのピッチ運動をさせるとドライバーは操舵に余裕が無くなる事が分かった。つまり、減速による前輪8への荷重移動によって旋回性が向上することで、ドライバーは余裕をもって操舵できるようになったのではなく、旋回時に横加加速度に応じた前下がりピッチ運動が生じることが重要だということである。
そこで、この発明の第2の車両制御装置1では、前後力発生手段(3),20を制御することにより、前輪8または後輪9の前後力でピッチモーメントを車両のばね上に生じさせることで、旋回時等に横加加速度に応じた前下がりピッチ運動を制御するようにしており、これより運転操作性を向上させている。
【0013】
この発明の車両制御装置1は、前記第1の車両制御装置1と第2の車両制御装置1の構成を併せ持つ構成であってもよい。
すなわち、この発明の第1の車両制御装置1において、横加加速度計算手段40より算出した車両2の横加加速度に基づいて、前記前後力発生手段(3),20を制御することにより前輪8または後輪9の前後力でピッチモーメントを車両2のばね上に生じさせるピッチモーメント制御手段32を備えていても良い。
この場合に、前記前後加速度・ピッチモーメント制御手段31が、前記ピッチモーメント制御手段32を有していてもよい。
【0014】
この構成の場合、第1の車両制御装置1による操作安定性の向上の作用と、第2の車両制御装置1による操作安定性の向上の作用との両方が得られ、より一層、ドライバーまたは自動運転/運転支援装置の操作安定性が向上する。
【0015】
この発明の車両制御装置1において、車両の速度および横加速度に基づいて決定される制御ゲインを車両の横加加速度に乗算することでピッチモーメントを算出する目標ピッチモーメント計算器37を有していてもよい。
このような構成の目標ピッチモーメント計算器37を有していると、車両2の実前後加速度に応じて適切に制御ゲインが調整される事で、勾配路においても適切なピッチ運動が得られる。
【0016】
この発明の車両制御装置1において、車両の前後加速度に基づいて決定される制御ゲインを車両の横加加速度に乗算することでピッチモーメントを算出する目標ピッチモーメント計算器37を有していてもよい。
この目標ピッチモーメント計算器37を有すると、車両の実前後加速度に応じて適切に制御ゲインが調整される事で、勾配路においても適切なピッチ運動を得られる。
【0017】
この発明の車両制御装置1において、前記前後加速度・ピッチモーメント制御手段31または前記ピッチモーメント制御手段32は、車両前下がり向きとなるピッチモーメントを生じさせる構成であってもよい。
舵角を切り増す時にだけ前下がりにする事で、車両前下がり向きとなるピッチモーメントを生じさせることになり、ドライバーの操舵性がより一層向上する。
【0018】
この構成の場合に、前記前後加速度・ピッチモーメント制御手段31または前記ピッチモーメント制御手段32は、車両前下がり向きとなるピッチモーメントに加えて、車両2が前上がり向きとなるピッチモーメントをさらに生じさせるようにしてもよい。
舵角を切り戻す時は前下がりになったピッチ角を操舵に合わせて戻す事で、ドライバーの操舵性がより一層向上する。
【0019】
この発明の車両制御装置1において、前記前後加速度・ピッチモーメント制御手段31または前記ピッチモーメント制御手段32がピッチモーメントを発生させるために前後力発生手段(3),20で発生させる前輪8と後輪9の前後力が、大きさが同じで向きが逆であってもよい。
前輪8と後輪9のトータルの前後力が零であれば、前後加速度は発生せずにピッチ運動だけを制御することがきる。
【0020】
この発明の車両制御装置1において、前記前後加速度・ピッチモーメント制御手段31または前記ピッチモーメント制御手段32は、アクセル操舵手段またはブレーキ操舵手段の指令により定まる前後力とは別に、ピッチモーメントを発生させるために前後力発生手段(3),20で発生させる前後力の和が、車両2の横加加速度に制御ゲインを乗じた値に基づいた値とするように構成してもよい。
旋回開始時に減速させる事で安全な車速にでき、かつ減速によって生じる前下がりのピッチモーメントも発生する為、前後力で発生させるピッチモーメントを小さくする事が出来る。また、旋回走行から直進走行に戻る際に加速させることで、減速した車速を戻す事ができ、かつ加速によって生じる前上がり方向のピッチモーメントも発生する為、前後力で発生させるピッチモーメントを小さくする事が出来る。
【0021】
この構成の場合に、前記前後加速度・ピッチモーメント制御手段31または前記ピッチモーメント制御手段32は、前記制御ゲインを、車両2の前後加速度に基づいて決定するように構成してもよい。
この場合、例えば、旋回開始時において上り勾配では前後加速度は零、下り勾配では平坦路よりも前後加速度を大きくできる。
【0022】
この発明の車両制御装置1において、前輪8ないしは後輪9の前後力発生手段(3),20がインホイールモータ駆動装置3であってもよい。
前後力発生手段(3),20がインホイールモータ駆動装置3である場合、サスペンション機構における前後力の作用点がタイヤと路面とが接するタイヤ接地点になるため、アンチダイブ角θfまたはアンチスクワット角θrが大きくなり、制御性が上がる。また独立かつ制駆動力によるピッチ制御が容易となる。
【0023】
この発明の車両2は、この発明の車両制御装置1を備える。
この車両2によると、この発明の車両制御装置1により、ドライバーまたは自動運転/運転支援装置の運転操作性が向上する。
【発明の効果】
【0024】
この発明の第1の車両制御装置は、車両の少なくとも前輪と後輪にそれぞれ独立して駆動力または制動力となる前後力を発生させる前後力発生手段と、車両のばね下に配置された各輪をそれぞれ前記車両のばね上に配置された車体に連結するサスペンション機構とを備え、前記車両の前輪のアンチダイブ角もしくは後輪のアンチスクワット角のどちらか一方の角度がおおよそ零であり、他方の角度が前記一方の角度よりも大きい車両に装備されて、少なくとも前輪と後輪にそれぞれ独立した前後力を発生させ、前輪もしくは後輪の前後力が前記がサスペンション機構を介して車両のばね上に上下力として作用するように前記前後力発生手段を制御する車両の車両制御装置であって、前記前輪または後輪の前後力の値を用いて、前記車両の前後加速度と車両のばね上に生じるピッチモーメントとを制御する前記前後加速度・ピッチモーメント制御手段を備えるため、ドライバーまたは自動運転/運転支援装置の運転操作性が向上する。
【0025】
この発明の第2の車両制御装置は、車両の少なくとも前輪と後輪にそれぞれ独立して駆動力または制動力となる前後力を発生させる前後力発生手段と、車両のばね下に配置された各輪をそれぞれ車両のばね上に配置された車体に連結するサスペンション機構とを備える車両に装備されて、少なくとも前輪と後輪にそれぞれ独立した前後力を発生させ、前輪もしくは後輪の前後力が前記サスペンション機構を介して車両のばね上に上下力として作用するように前記前後力発生手段を制御する車両の車両制御装置であって、横加加速度計算手段より算出した車両の横加加速度に基づいて、前記前後力発生手段を制御することにより前輪または後輪の前後力でピッチモーメントを車両のばね上に生じさせるピッチモーメント制御手段を備えるため、ドライバーまたは自動運転/運転支援装置の運転操作性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】この発明の一実施形態に係る車両制御装置が装備された車両の一例の概念構成を示すブロック図である。
【
図2】同車両制御装置で装備される車両の他の例の概念構成を示すブロック図である。
【
図3】同車両制御装置で装備される車両のさらに他の例の概念構成を示すブロック図である。
【
図4】同車両制御装置の概念構成を示すブロック図である。
【
図5】インホイールモータ車を横から見たアンチダイブ角とアッチスクワット角の説明図である。
【
図6】エンジン車のアンチダイブ角とアッチスクワット角を示す説明図である。
【
図7】インホイールモータ車を横から見た実施形態の場合のアンチダイブ角とアッチスクワット角の説明図である。
【
図8】インホイールモータ車を横から見たアンチダイブ角およびアッチスクワット角と駆動力および制動力の関係例の説明図である。
【
図9】サイン操舵中に発生する横加速度および横加加速度と、それに応じて発生する指令前後力の波形例を示す説明図である。
【
図10】サイン操舵中に発生する横加速度および横加加速度と、それに応じて発生する指令前後力の波形の他の例を示す説明図である。
【
図11】インホイールモータ駆動装置の一例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
この発明の一実施形態を図面と共に説明する。
図1は、4輪に前後力発生手段としてインホイールモータ駆動装置(「IWM」と略称する場合がある)3を搭載した車両2の概略図である。
【0028】
インホイールモータ駆動装置3は、例えば
図11に示すように、車輪用軸受5と、電動機4と、この電動機4の回転出力を車輪用軸受5の回転輪となるハブ輪5aに減速して伝達する減速機6とを備え、前記ハブ輪5aに車輪のホイールが取付けられる。電動機4は、例えば同期モータ等の交流モータであり、ステータ4aとロータ4bとを有する。インホイールモータ駆動装置3は、車輪回転速度センサ7を備えている。
【0029】
図5に示すように、車両2の前輪8および後輪9は、サスペンション機構41を介して車両2の車体2Aに設置されており、前輪8のアンチダイブ角θ
f、もしくは後輪9のアンチスクワット角θ
rのどちらか一方の角度がおおよそ零であり、他方の角度が前記一方の角度よりも大きく設定されている。この実施形態では、前輪8のアンチダイブ角θ
fが、
図7のようにおおよそ零とされている。ここで言う「おおよそ零」は、例えば5度以下であり、4度以下、3度以下、2度以下、または1度以下であってもよい。サスペンション機構41は、この例では独立懸架方式であるダブルウィッシュボーン型であり、アッパーアーム42、ロアアーム43、および両アーム42,43間に介在したスプリング44を有している。サスペンション機構41に関しては、図
5~図
7のいずれの例も同様である。
また、本発明はダブルウィッシュボーン形式の車両に限ったものではない。前輪8のアンチダイブ角θ
fもしくは後輪9のアンチスクワット角θ
fが零よりも大きく、前後力がサスペンション機構41を介して上下力として作用するならば、例えば、ストラット形式、トレーリングアーム形式、マルチリンク形式、トーションビーム形式等のサスペンション形式でもよい。
【0030】
図1において、車両2にはECU10と実施形態に係る車両制御装置1が搭載され、アクセル・ブレーキセンサ11、車速センサ12、舵角センサ13、およびジャイロセンサ14が備わっている。これらのセンサ11~14はECU10と通信されており、ECU10から、必要な情報が車両制御装置1に出力され、この車両制御装置1の内部で計算された前後力の指令値が、前後の車輪8,9のインホイールモータ駆動装置3の駆動をそれぞれ行うインバータ装置15,15に送られる。アクセル・ブレーキセンサ11は、アクセルペダル等のアクセル操作装置(図示せず)に設けられたアクセルセンサと、ブレーキペダル等のブレーキ操作手段(図示せず)に設けられたブレーキセンサとを総称して示す。
【0031】
ECU10は、車両2の全体の統括制御や協調制御を行う電気制御ユニットであり、「VCU」とも称される。インバータ装置15は、バッテリー(図示せず)の直流電力を交流電力に変換するインバータと、このインバータの制御を行う制御部(いずれも図示せず)を有し、入力された前記前後力の指令値に従ってインホイールモータ駆動装置3の前記電動機4(
図11参照)を制御する。インバータ装置15の前記制御部は、例えば位相制御等の効率化やその他の制御機能を有している。インバータ装置15は、図示の例では、左右の前輪8,8に対して1台、また左右の後輪9,9に対して1台設けられているが、前記前後力の指令値は4輪の個々に対する個別の指令値であり、各インバータ装置15は左右輪を個別に制御可能に構成されている。インバータ装置15は、左右輪に対して個別に設けられていてもよい。
【0032】
図2は、4輪駆動車(ガソリン車等)の構成例を表しており、ガソリンまたはディーゼルのエンジン16を搭載し、エンジン16の回転出力は、ドライブャフト17a等で構成される伝達機構17を介して左右の前輪8,8および左右の後輪9,9に伝達される。これら各輪8,8,9,9には、摩擦ブレーキからなるブレーキ装置18が設けられている。エンジン16は、エンジン制御装置17により制御される。各輪のブレーキ装置8は、ブレーキ制御装置22により個別に制御可能である。車両2は、アクセル・ブレーキセンサ11、舵角センサ13、車速センサ12、およびジャイロセンサ14を搭載している。これらのセンサ11~14は、車両2に搭載されたECU10と通信しており、ECU10から必要な情報を車両制御装置1へと出力する。車両制御装置1は、内部で計算された前後力の指令値となるエンジン出力とブレーキトルクを、エンジン制御装置21とブレーキ制御装置22とに指令する。
この実施形態の場合、エンジン16および4輪のブレーキ装置18により、前後力発生手段20が構成される。
図2の例は、特に説明した事項の他は、
図1の例と同様である。
【0033】
図3は、後輪駆動車(ガソリン車)の構成例を表しており、フロントにガソリンまたはディーゼルのエンジン16を搭載し、エンジン16の回転出力は伝達機構17Aを介して左右の後輪9,9に伝達される。摩擦ブレーキからなるブレーキ装置18は、4輪全てに設けられている。エンジン16は、エンジン制御装置21により制御される。各輪のブレーキ装置8は、ブレーキ制御装置22により個別に制御可能である。車両2は、アクセル・ブレーキセンサ11、車速センサ12、舵角センサ13、ジャイロセンサ14を搭載している。これらセンサ11~14は、車両2に搭載されたECU10と通信しており、ECU10から必要な情報を車両制御装置1へと出力する。車両制御装置1は、内部で計算されたエンジン出力とブレーキトルクを、エンジン制御装置21とブレーキ制御装置22とに指令する。
図3の例は、特に説明した事項の他は、
図1の例と同様である。
【0034】
これより、この実施形態の車両制御装置1は、
図1の4輪駆動車(インホイールモータ車)を前提に説明する。
図4は、この実施例に係る車両制御装置1を備えた車両2のシステム構成図である。車両2は、
図1と共に説明したように、左右の前輪8,8と、左右の後輪9,9の4輪に、それぞれ前後力発生手段となるインホイールモータ駆動装置3を備えている。
車両制御装置1は、前輪8と後輪9にそれぞれ独立した前後力を発生させ、前輪8もしくは後輪9の前後力がサスペンション機構41(
図5参照)を介して車両2のばね上に上下力として作用するように、前後力発生手段であるインホイールモータ駆動装置3の電動機4を制御する装置である。
【0035】
この車両制御装置1は、前後加速度・ピッチモーメント制御手段31と、ピッチモーメント制御手段32とを備える。ピッチモーメント制御手段32は、前記前後加速度・ピッチモーメント制御手段31の一部として設けられていてもよい。
【0036】
前後加速度・ピッチモーメント制御手段31は、前輪8または後輪9の前後力の値を用いて、車両2の前後加速度と車両2のばね上に生じるピッチモーメントとを制御する。前記前輪8または後輪9の前後力の値は、例えばインホイールモータ駆動装置3の電動機4を流れる電流を検出する電流センサ(図示せず)の検出値から得る。
前後加速度・ピッチモーメント制御手段31は、加算前後加速度制御ゲイン計算部34およびピッチモーメント制御ゲイン計算部35を有する制御ゲイン計算器33と、目標前後加速度計算器36と、目標ピッチモーメント計算器37と、前後力指令値計算器38とで構成される。
【0037】
ピッチモーメント制御手段32は、横加加速度計算手段40により算出した車両2の横加加速度に基づいて、前後力発生手段であるインホイールモータ駆動装置3を制御することにより、前輪8または後輪9の前後力でピッチモーメントを車両2のばね上に生じさせる。ピッチモーメント制御手段32は、前記制御ゲイン計算器33のピッチモーメント制御ゲイン計算部34と、目標ピッチモーメント計算器37により構成される。
【0038】
この車両制御装置1は、上記の他に、加算前後加速度禁止判定器39を備えている。
以下、各部を具体的に説明する。
【0039】
センサ系19より、アクセル・ブレーキセンサ11の出力を基にして定まる要求前後加速度を、車速センサ12から車両2の車速を、舵角センサ13からステアリングの操舵角を、ジャイロセンサ14から前後加速度と横加速度を、車両2に搭載されたECU10へそれぞれ出力する。これらの情報が入力されたECU10は、車両制御装置1へ各値を出力する。
【0040】
加算前後加速度禁止判定器39は、ジャイロセンサ14で検知した実際に車両2に生じている前後加速度(実前後加速度)から、例えば運転者の操作による急加速または急減速の状況や、急斜面を走行していると推定される状況等の設定状況にあるか否かを、定められた規則に従って判定し、車両制御装置1の制御による前後加速度を零にする前後加速度禁止信号(ゲインを零にする)を出力する。
制御ゲイン計算器33の加算前後加速度制御ゲイン計算部34は、入力された車速および横加速度を用いて、定められた規則に従い目標加算前後加速度の制御ゲインを決める。
また、加算前後加速度制御ゲイン計算部34は、前記前後加速度禁止信号が入力された場合は、前後加速度に関する制御ゲインを零にする。
制御ゲイン計算器33のピッチモーメント制御ゲイン計算部35は、入力された車速および横加速度を用いて、定められた規則に従いピッチモーメントの制御ゲインを決める。
横加加速度計算手段40は、入力された車速と舵角から横加速度を算出してその値を時間微分することで横加加速度を計算する。この計算では、例えば平面2自由度モデルを使用する。
目標加算前後加速度計算器36は、入力された制御ゲインと横加加速度と横加速度から、制御により加算する目標加算前後加速度を、定められた規則に従い計算する。
目標ピッチモーメント計算器37は、入力された制御ゲインと横加加速度と横加速度から前後力がサスペンション機構41(
図5参照)を介すことによって車両2に与える目標ピッチモーメントを、定められた規則によって計算する。目標ピッチモーメント計算器37は、例えば、車両2の速度および横加速度に基づいて決定される制御ゲインを車両2の横加加速度に乗算することでピッチモーメントを算出する。
目標ピッチモーメント計算器37は、車両2の前後加速度に基づいて決定される制御ゲインを車両2の横加加速度に乗算することでピッチモーメントを算出する構成であってもよい。
なお、前記各手段の「定められた規則」は、特に説明するものの他は、設計により、例えばマップや関数等で適宜定められる規則である。
【0041】
前後力指令値計算器38は、入力された目標加算前後加速度と目標ピッチモーメントと要求前後加速度から、定められた規則に従って各輪の前後力を計算する。計算された前後力指令値は、前後輪8,9のインバータ装置15,15に指令する。インバータ装置15,15は、電流を制御することでインホイールモータ駆動装置3の電動機4が出力する前後力が前後力指令値に等しくなるように電動機4を駆動する。
【0042】
ここで、横加加速度計算手段40では、車速と舵角から算出した横加速度の時間微分から横加加速度を求める方法以外にも、下記の2つの方法のいずれかで算出してもよい。
(1) ジャイロセンサ14から出力された実横加速度を時間微分して求める。
(2) ジャイロセンサ14から出力された実ヨーレートの時間微分を車速で除して算出した横加速度を時間微分して求める。
加算前後加速度禁止判定器39は、ジャイロセンサ14が検知した前後加速度の代わりに、運転者のアクセルペダルやブレーキペダルの操作を表す要求前後加速度を用いることで急加速や急減速の状況にあるか否かを判断してもよい。またジャイロセンサ14が検知した実前後加速度と車両制御装置が発生させようとしている前後加速度の情報を用いることで路面の勾配推定の推定、つまり急斜面を走行していると推定される状況にあるか否かを判定してもよい。
【0043】
前後加速度とピッチ運動の両方を同時に制御する場合、制御ゲイン計算器33は、前後加速度によっても車両2にピッチ運動が生じることを考慮した制御ゲインとすることが望ましい。加えて、ピッチ運動が過大にならないように、目標ピッチモーメント計算手段37において目標ピッチモーメントに制限を加えても良い。
制御ゲイン計算器33の加算前後加速度制御ゲイン計算部34において、ジャイロセンサ14から出力された実前後加速度に応じて、例えば、大きな減速度が発生している場合には加算前後加速度が小さくなるように、制御ゲインを調整してもよい。
【0044】
なお、目標加算前後加速度を常に零にしておく場合は、条件設定部(図示せず)および制御ゲイン計算器33に含まれる前後加速度制御ゲイン計算部34を無くしても良い。
【0045】
図5~
図7は、サスペンション41が独立懸架方式であるダブルウィッシュボーンの車両2を真横から見た図であり、本図を用いてアンチダイブ角θ
fとアンチスクワット角θ
rの定義を説明する。
図5は、4輪にインホイールモータ駆動装置3を搭載した車両2であり、前後それぞれのアッパーアーム42とロアアーム43の延長線の交点P
f,P
rからタイヤ接地点T
f,T
rを結んだ線に対する地面Sとの成す角がアンチダイブ角θ
fとアンチスクワット角θ
rになる。
【0046】
図6は、ドライブシャフト17aを使用した車両(例えば、
図2の4輪駆動のガソリン車)で、前後それぞれのアッパーアーム42とロアアーム43の延長線の交点P
f,Prからタイヤ回転中心O
f,O
rを結んだ線に対する水平面Sとの成す角がアンチダイブ角θ
fとアンチスクワット角θ
rになる。
【0047】
ここで、インホイールモータ車と、エンジン車のアンチダイブ角θfとアンチスクワット角θrの定義が違う理由に関して説明する。インホイールモータ駆動装置3は、それ自体が駆動力源となっており、制駆動力を発生させた時のタイヤ反力がインホイールモータ駆動装置3を通じてサスペンション41に直接伝わる。その為、タイヤ接地点Tf,Trの中心と水平面Sの成す角がアンチダイブ角θfとアンチスクワット角θrとなる。
【0048】
これに対して、エンジン車は、駆動力がドライブシャフト17aを介してタイヤに伝わり、駆動力を発生させた時のタイヤ反力がタイヤ回転中心Of,Orに前後方向の力として作用する。その為、タイヤ回転中心Of,Orと水平面sの成す角がアンチダイブ角θfとアンチスクワット角θrとなる。
ただし、摩擦ブレーキからなるブレーキ装置18(アウトボード)に関しては、制動時のタイヤ反力はブレーキキャリパ―(図示せず)を通じてサスペンション41に直接伝わる為、インホイールモータ駆動装置3の場合と同様のアンチダイブ角θfとアンチスクワット角θrの定義となる。同じ大きさの前後力をタイヤに発生させた場合、アンチダイブ角θfやアンチクスワット角θrが大きいほど、サスペンション41を介して車体2Aに作用する上下方向の力は大きくなるため、エンジン車よりもインホイールモータ車の方がピッチ運動を制御し易い。
【0049】
また、
図5、
図6のように、前後輪8,9にアンチダイブ角θ
fとアンチスクワット角θ
rが付いている状態で制駆動力を与えると、車体2が上下方向に運動(ヒーブ力が発生)してしまう。その為、
図7のように、前輪8のアンチダイブ角θ
fをおおよそ零とすることで、上下方向の運動の発生を抑制しつつピッチモーメントを発生させる事が出来る。この実施例では、
図7の状態の車両2を前提に説明する。
【0050】
図8は、
図7で示した車両2に対して前輪8に制動力、後輪9に駆動力を与えた時の姿勢変化を表した図である。前輪8の制動力:-F と後輪9の駆動力:F の絶対値が同じでかつアンチダイブ角θ
fがおおよそ零(5度以下)でアンチスクワット角θ
rが零よりも大きい場合、(または、アンチダイブ角θ
fよりもアンチスクワット角θ
rの方が大きい場合)、後輪8に発生する上下力により車体2Aは前下がり方向にピッチし、前輪8の制動力と後輪9の駆動力の大きさが等しいため、車両2には前後加速度が発生しない。もし、前輪8の制動力と後輪9の駆動力の大きさが異なる場合には、車体2は前下がり方向にピッチし、車両2には前後加速度が生じる。すなわち、後輪9の前後力によってピッチ運動を制御するとともに、前輪8の前後力を調節する事で車両に発生する前後加速度も自由に制御することが可能となる。
【0051】
図7で示したアンチダイブ角θ
fとアンチスクワット角θ
rを有する車両2において、前下がりピッチを発生させるには、
図1に示した4輪駆動車(インホイールモータ車)の他に、
図2に示した4輪駆動車(ガソリン車)もしくは
図3に示した後輪駆動(ガソリン車)などの後輪9を駆動する駆動源を搭載した車両であれば実現可能である。
ただし、この発明の車両制御装置は、上記に挙げた駆動方式に限ったものではなく、全ての駆動方式で実現可能である。例えば、後輪9のアンチスクワット角θ
rがおおよそ零で、前輪8のアンチダイブ角θ
fが後輪9のアンチスクワット角θ
rよりも大きいサスペンションジオメトリの車両2で、前輪8に駆動源を搭載している(例えば、一般のフロントにエンジンを搭載した前輪駆動車)場合、前輪8に駆動力、後輪9に制動力を与えることで、前下がりのピッチ運動を発生させるとともに、車両2の前後加速度も制御できる。このように、サスペンションジオメトリに合わせて車両2の駆動方式を選ぶ事で、どの駆動方式でも前下がりのピッチ運動を発生させる事が出来る。また4輪駆動車(インホイールモータ車、ガソリン車含む)であれば、前輪後輪8,9共に制動力も駆動力も発生できるため、アンチダイブ角θ
fとアンチスクワット角θ
rの両方がゼロでないならば、どのようなサスペンションジオメトリでも前下がりおよび前上がりの両方向のピッチ運動と前後加速度の制御ができる。
【0052】
図9と
図10は、サイン操舵中に発生する横加速度および横加加速度と、それに応じて発生する指令前後力の波形を表している。
図9に示すように、横加速度と横加加速度の符号が一致した時は、ピッチが前下がりとなるように前後力を指令し、不一致の時はピッチが前上がりになるように前後力を指令する。ただし、
図10のように、横加速度の符号と横加加速度の符号が一致した時のみ前後力を指令するようにしてもよい。
【0053】
次に示す式(1)は、
図4に示した横加加速度計算手段40内で使用される、操舵に対する横加速度を求める伝達関数である。この式を微分する事で横加加速度が求まる。
【数1】
【0054】
式(1)に使用されている各項は下記のようになる。
【数2】
【0055】
式(2),(3)は、この実施形態で用いる基本式となる。式(2)は、非特許文献1で示されているG-Vectoring 制御で前後加速度を指令する式である。式(3)は、式(2)で示した前後加速度を求める式からピッチモーメントMpitchを求める式に置き換えた式である。
【0056】
【0057】
式(2)と式(3)に使用されている各項は下記のようになる。
【数4】
【0058】
前輪8と後輪9に与える前後力の大きさが同じで向きが逆の場合について、前後力指令値の計算例を示す。次の式(4)は、車両2を真横から見た時に、前後輪8,9に前後力を与えた時に重心周りに発生するピッチモーメントを示している。
【0059】
【0060】
ここで、式(3)の左辺と式(4)の左辺を等しいとおけば(式(5))、前後輪8,9の前後力で式(3)のピッチモーメントを発生させることができる。式(5)から、各輪に指令する前後力を求める式に整理すると、式(6)のようになる。
式(4)から式(6)に使用されている各項は下記のようになる。
Fは、1輪あたりの指令前後力である。
その他の項は、先に述べた通りである。
【0061】
また、前輪8と後輪9に与える前後力が異なる場合について、前後力指令値の計算例を示す。車両2に作用する前後力の総和によって生じる前後加速度は式(7)の関係式となる。これと同様に、前後輪の前後力で生じるピッチモーメントが式(3)を満たすとすれば、式(8)の関係式となる。よって、式(7)と式(8)の連立方程式を解くことで前輪8と後輪9の前後力が算出できる。算出した前後力を前後輪8,9に発生させることで、車両2の前後加速度とピッチ運動の両方を横加加速度に応
じた大きさに制御できるとともに、各ゲインを変更することで独立かつ任意に制御することができる。
【0062】
【0063】
式(7)(8)に使用されている各項は下記のようになる。
【数7】
【0064】
この構成の車両制御装置1によると、上記のように、横加加速度に応じて前下がりのピッチを発生させる事で、ドライバーの操舵安定性を向上させる事ができる。
例えば4輪独立駆動車(インホイールモータ車)において、横加加速度の発生に応じて前後輪8,9の前後力をそれぞれ逆向きに発生させて車両2のピッチ運動を適切に制御することで、ドライバーに違和感を与える事なくスムーズに運転することが可能になる。
【0065】
これまで、旋回時に発生する横加加速度に応じて微小な前後加速度(減速)を発生させる事で、フロントに荷重が移動して旋回性が向上しドライバーは余裕を持って操舵していると考えられていた。
しかし、非特許文献(1) にも示されているが、前述のように、旋回時に同じ前後加速度が生じていても、前後加速度で生じるピッチ運動の向きによって、ドライバーが余裕をもって操舵できるかどうかが異なる。減速時に生じるピッチ運動が前下がりとなる場合は、ピッチ運動と旋回により発生するロール運動の連成したダイアゴナルな姿勢変化(いわゆるダイアゴナルロール)が、ドライバーの操舵に良い影響(余裕を持った操舵ができる)を与えている事が分かった。逆に、減速時に生じるピッチ運動が前上がりとなる場合は、ドライバーによって結果が分かれることが分かった。この実施形態は、このような知見により裏付けされる。
【0066】
なお、前記自動運転/運転支援装置は、車両2の周辺状況や車両自体の情報をセンサ類により認識し、設定事項に応じてアクセルおよびブレーキの指令を生成する手段であるが、この車両制御装置1を備えることで、前記アクセルおよびブレーキの指令値に相当する指令を生成する手段についての制御の安定性、容易性が得られる。
【0067】
以上、実施形態に基づいてこの発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0068】
1…車両制御装置、2…車両、2A…車体、3…インホイールモータ駆動装置(前後力発生手段)、4…電動機、8…前輪、9…後輪、10…ECU、11…アクセル・ブレーキセンサ、12…車速センサ、13…舵角センサ、14…ジャイロセンサ、15…インバータ装置、17a…ドライブシャフト、18…ブレーキ装置、20…前後力発生手段、21…エンジン、31…前後加速度・ピッチモーメント制御手段、32…ピッチモーメント制御手段、33…制御ゲイン計算器、34…加算前後加速度制御ゲイン計算部、35…ピッチモーメント制御ゲイン計算部、36…目標前後加速度計算器、37…目標ピッチモーメント計算器、38…前後力指令値計算器、42…アッパーアーム、43…ロアアーム、
41…サスペンション機構、θf…アンチダイブ角、θr…アンチスクワット角