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特許7095971末梢神経検査装置、末梢神経検査方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】末梢神経検査装置、末梢神経検査方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20220628BHJP
【FI】
A61B10/00 X
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017201671
(22)【出願日】2017-10-18
(65)【公開番号】P2019072321
(43)【公開日】2019-05-16
【審査請求日】2020-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】貝阿彌 隆
(72)【発明者】
【氏名】吉田 諒子
(72)【発明者】
【氏名】根木 潤
【審査官】岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-088802(JP,A)
【文献】特表2012-522555(JP,A)
【文献】特開平10-179591(JP,A)
【文献】特表2014-514947(JP,A)
【文献】特開平08-322805(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0245708(US,A1)
【文献】特開2001-133293(JP,A)
【文献】Maxim Churyukanovほか,hermal Detection Thresholds of Aδ- and C-Fibre Afferents Activated by Brief CO2 Laser Pulses Applied onto the Human Hairy Skin,PLos ONE [オンライン],Volume 7, Issue 4, E35817,2012年04月25日,p.1-9,インターネット<URL:https://doi.org/10.1371/journal.pone.0035817>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気刺激に対する被検者の反応に基づいて前記被検者の末梢神経の検査を行う末梢神経検査装置であって、
各々が異なる強度を有する複数回の電気刺激を前記被検者に与える刺激制御部と、
前記複数回の電気刺激の各々に対する前記被検者の反応時間を測定する測定部と、
前記電気刺激の各強度と前記反応時間との間の関係を示す情報を出力する出力部と、を備え、
前記出力部は、
前記電気刺激の強度を示す第1軸と、前記反応時間を示す第2軸とを有する2次元グラフを表示するためのデータと、
当該2次元グラフに、前記複数回の電気刺激の各々に対する前記反応時間をプロットするためのデータと、
C線維の正常又は異常な反応時間を示す第1領域と、Aδ線維の正常又は異常な反応時間を示す第2領域とを前記2次元グラフに表示するためのデータと、を出力する、末梢神経検査装置。
【請求項2】
前記第1領域は、前記C線維の正常な反応時間を示す第1ボックスであり、
前記第2領域は、前記Aδ線維の正常な反応時間を示す第2ボックスである、ことを特徴とする請求項に記載の末梢神経検査装置。
【請求項3】
前記第1ボックスと前記第2ボックスは、異なる表示効果により表されている、ことを特徴とする請求項に記載の末梢神経検査装置。
【請求項4】
前記第1ボックスと前記第2ボックスは、異なる色の枠線、異なる線種、または異なる塗色により表されている、ことを特徴とする請求項に記載の末梢神経検査装置。
【請求項5】
電気刺激に対する被検者の反応に基づいて前記被検者の末梢神経の評価を行う末梢神経検査装置であって、
各々が異なる強度を有する複数回の電気刺激を前記被検者に与える刺激制御部と、
前記複数回の電気刺激の各々に対する前記被検者の反応時間を測定する測定部と、
前記複数回の電気刺激の各々に対する前記被検者の反応時間がC繊維の正常な反応時間を示す第1領域内またはAδ繊維の正常な反応時間を示す第2領域内に含まれているかどうかに応じて、前記被検者の末梢神経の検査が正常に行われたか否かを判定する判定部と、
前記判定部による判定結果を出力する出力部と、を備える、
末梢神経検査装置。
【請求項6】
電気刺激に対する被検者の反応に基づいて前記被検者の末梢神経の検査を行う末梢神経検査方法であって、
前記被検者に与えられる複数回の電気刺激を制御する刺激制御ステップと、ここで、前記複数回の電気刺激の各々は異なる強度を有し、
前記複数回の電気刺激の各々に対する前記被検者の反応時間を測定する測定ステップと、
前記電気刺激の各強度と前記反応時間との間の関係を示す情報をディスプレイ上に表示する表示ステップと、を含み、
前記表示ステップでは、
前記電気刺激の強度を示す第1軸と、前記反応時間を示す第2軸とを有する2次元グラフ上に、前記複数回の電気刺激の各々に対する前記反応時間を示すプロット点と、C線維の正常又は異常な反応時間を示す第1領域と、Aδ線維の正常又は異常な反応時間を示す第2領域とが表示される、
コンピュータ装置によって実行される末梢神経検査方法。
【請求項7】
請求項に記載の末梢神経検査方法をコンピュータ装置に実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被検者の末梢神経の検査を行う末梢神経検査装置、末梢神経検査方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
簡易な構成で末梢神経検査を行う技術として特許文献1が知られている。特許文献1は、C線維のみを選択的に刺激可能な痛覚神経刺激装置を開示している。
【0003】
特許文献1を応用した装置として非特許文献1に紹介する末梢神経検査装置が挙げられる(非特許文献1)。当該末梢神経検査装置を用いた検査では、被検者に刺激用の電極を貼付すると共にスイッチを把持させ、検査者は末梢神経検査装置を操作して出力したい電流値を設定して刺激出力を行う。被検者は、刺激を感じたらスイッチを押下する。末梢神経検査装置は電流値や反応時間(刺激開始からスイッチを押下するまでの時間)を基に被検者の末梢神経の正常性の検査を行う。このような末梢神経検査装置を用いた場合、脳波検査のように電極を頭皮に装着することなく、簡易な構成で末梢神経の検査を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-164879号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】携帯型末梢神経検査装置PNS-7000、[平成29年9月25日検索]、インターネット<URL: http://www.nihonkohden.co.jp/iryo/documents/pdf/H901653C.pdf>
【文献】木村淳、幸原信夫著、“神経伝導検査と筋電図を学ぶ人のために”、医学書院
【文献】Koji Inui, Ryusuke Kakigi, “Pain perception in humans: use of intraepidermal electrical stimulation”, J Neurol Neurosurg Psychiatry 83: 551-556, 2012.
【文献】Maxim Churyukanov, Leon Plaghki, Valery Legrain, Andre Mouraux, “Thermal Detection Thresholds of Aδ- and C-Fibre Afferents Activated by Brief Co2 Laser Pulses Applied onto the Human Hairy Skin”, PLoS ONE 7(4): e35817. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0035817
【文献】Mark J.Zylka, Frank L. Rice, and David J.Anderson, “Topographically Distinct Epidermal Nociceptive Cricuits Revealed by Axonal Tracers Targeted to Mrgprd”, Neuron, Vol. 45, 17-25, January 6 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1をはじめとする装置を用いた検査では、刺激の強度を変化させながら、複数回の刺激毎に被検者の反応時間を測定する。そして、被検者が感知できた最小の刺激の強度と反応時間を基に被検者の神経系の検査を行うことが一般的である。
【0007】
これらの末梢神経検査では、被検者のスイッチの押下(ひいては感知の表明)に応じて刺激に対する反応時間が定まる。そのため、被検者が操作ミスを行う場合や、被検者の検査への取り組みが不適切である場合が生じ得る。このような場合、強度を変えた複数回の刺激の各回の反応時間が適切ではないにもかかわらず、最小感知電流値が偶然に正常値となったために、被検者の検査が正常に行われたと判定してしまう恐れがあった。すなわち、最小の感知刺激強度のみを判断基準とする検査では、正常な検査が行われているかが分からないという問題があった。
【0008】
そこで本発明は、被検者による刺激の感知の表明(例えばスイッチの押下)に基づいて前記被検者の末梢神経の検査を行う際に、正常な検査が行われているか否かを判定できる末梢神経検査装置、末梢神経検査方法、及びプログラムを提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る末梢神経検査装置の一態様は、
被検者による刺激の感知の表明に基づいて前記被検者の末梢神経の検査を行う装置であって、
強度を変えた複数回の刺激を前記被検者に与える刺激制御部と、
前記複数回の刺激の各々について、前記被検者の反応時間の測定値を測定する測定部と、
刺激の強度の変化に対する前記測定値の変化の関係を出力する出力部と、を備える、ものである。
【0010】
末梢神経検査装置は、刺激の強度の変化に対する反応時間の測定値の変化の関係を出力するように構成されている。検査者は、出力された情報を参照することにより検査が正常に行われたか否か(末梢神経の検査が正常に行われたか否か)を簡単に判定することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、被検者による刺激の感知の表明に基づいて前記被検者の末梢神経の検査を行う際に、正常な検査が行われているか否かを判定できる末梢神経検査装置、末梢神経検査方法、及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態1にかかる末梢神経検査装置1の構成を示すブロック図である。
図2】実施の形態1にかかる出力部14による出力画面例(正常検査時)である。
図3】実施の形態1にかかる出力部14による出力画面例(異常検査時)である。
図4】実施の形態1にかかる出力部14による出力画面例(正常検査時)である。
図5】実施の形態2にかかる末梢神経検査装置1の構成を示すブロック図である。
図6】実施の形態1または2にかかる末梢神経検査装置1のハードウェア構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
はじめに本発明の前提となる事項について詳細に説明する。神経線維には、複数の種類(C線維、Aδ線維、等)がある。C線維は、Aδ線維よりも電気刺激に対して興奮しやすいことが知られている(非特許文献3、非特許文献4)。例えば非特許文献3には、C線維がレーザによる刺激に約40℃で反応し、Aδ線維が約46℃で反応したことが示されている。すなわちC線維の方がAδ線維よりも弱い強度の刺激に反応したことが示されている。これは、C線維の方がAδ線維よりも末梢まで神経が伸びていることにより(非特許文献5Fig.5B)、C線維の方がより微弱な刺激であっても反応すると考えられるためである。
【0014】
また、神経線維の種別によって伝導時間が異なることが広く知られている(非特許文献2)。例えばAδ線維の伝導速度は約10~30m/sであるのに対し、C線維の伝導速度は約0.5~2.5m/sである。
【0015】
すなわち弱い強度(以下の説明例では0.05mA~0.20mA)の刺激を被検者に与えた場合、C線維のみが刺激に反応し、その伝導速度は遅くなる。すなわち刺激を与えてから刺激を認識するまでの時間が長くなる。
【0016】
また強い強度(以下の説明例では0.30mA~)の刺激を被検者に与えた場合、Aδ線維も刺激に反応するため、伝導速度は速くなる。すなわち刺激を与えてから刺激を認識するまでの時間が短くなる。
【0017】
以下の末梢神経検査装置1は、この特性を前提とした動作を行う。
【0018】
<実施の形態1>
本実施の形態に係る末梢神経検査装置1は、上記の特徴を応用した構成となる。以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態に係る末梢神経検査装置1の構成を示すブロック図である。
【0019】
末梢神経検査装置1は、被検者による刺激の感知の表明に基づいて被検者の末梢神経の評価を行う装置である。より詳細には末梢神経検査装置1は、被検者の末梢神経に対して電極30を介して刺激を与える。被検者は刺激を感じた際に操作部20(好適には把持型のスイッチ)を操作することにより刺激を感じたことを表明する。末梢神経検査装置1は、与えた刺激の強度と反応時間(刺激開始から操作部20が操作されるまでの時間)の測定値を基に被検者の末梢神経の評価を行う。以下、詳細構成について説明する。
【0020】
末梢神経検査装置1は、本体部10と操作部20を有する。本体部10と操作部20の間は、一般的なケーブルで接続されている。また本体部10は、使い捨ての電極30と着脱可能に構成されている。なお電極30は、被検者の末梢神経に刺激を与える部材の一態様であり、例えば被検者の皮膚に貼付可能なディスポーザブル電極である。電極30は、特許文献1と同様に、先端を被検査者の皮膚内に僅かに刺して用いる第1電極と、第1電極の周囲に配置されて被検査者の皮膚に接触させて用いる第2電極で構成しても良い。
【0021】
電極30の代わりに被検者の末梢神経に刺激を与えるプローブ等が本体部10に接続される構成であってもよい。
【0022】
本体部10は、好適には検査者(例えば医療従事者)が把持可能な大きさの筐体である。本体部10の筐体上には入力部15やディスプレイ16が配置されている。例えば入力部15は、本体部10の筐体上に設けられたボタンやスクロールホイール等である。検査者は、入力部15を操作することにより任意の設定や刺激開始の合図等を入力する。ディスプレイ16は、本体部10の筐体上に設けられた液晶ディスプレイである。なお本体部10は、図示しないスピーカや電源も備えてもよい。またディスプレイ16は、入力部15の機能を備えた形態(いわゆるタッチディスプレイ)であってもよい。
【0023】
操作部20は末梢神経検査を受ける被検者が操作するインターフェイスである。好適には操作部20は、被検者に把持される把持型のスイッチである。操作部20の内部には、スイッチの押下が生じた際に検知信号を本体部10に送信するための各種の電気回路等が配置されている。検知信号はケーブルを介して本体部10に入力される。
【0024】
被検者は、電極30を介して刺激を感知した際に操作部20を操作し、刺激を感知したことを本体部10に通知する(換言すると被検者は刺激を感じたことを表明する)。
【0025】
本体部10は、制御部11を備える。制御部11は、末梢神経検査装置1の各種の制御を行う処理部であり、測定部12、刺激制御部13、及び出力部14を有する。
【0026】
刺激制御部13は、電極30を介して与える刺激の強度やタイミングを制御する。刺激制御部13は、電極30を介して強度を変えた複数回の刺激を被検者に与える。刺激の強度は、電流値や電圧値の大きさにより制御すればよい。以下の説明では、刺激の強度を電流値の変化により制御するものとする。
【0027】
刺激制御部13が制御する刺激の強度の変化や刺激回数は、検査者が入力部15を介して設定できる。検査者は、例えば初回の刺激の電流値、電流値の増減単位、刺激回数、等を入力部15を介して入力する。また検査者は刺激毎に電流値や刺激タイミングを入力部15を介して入力してもよい。刺激制御部13は、入力された電流値等の情報を基に電極30を介して複数回の電気刺激を実行する。なお刺激制御部13は、徐々に強度が強くなるように刺激の出力を制御してもよく、徐々に強度が弱くなるように刺激の出力を制御してもよい。
【0028】
測定部12は、電極30を介して与える複数回の刺激について、各回の反応時間の測定値を測定する。測定部12は、例えば刺激制御部13による刺激開始の通知信号と、操作部20から入力される検知信号と、を用いて各回の刺激に対する反応時間の測定値を算出すればよい。
【0029】
出力部14は、測定部12が測定した各回の刺激に対する反応時間の測定値を取得する。また出力部14は、刺激制御部13が制御した各回の刺激の強度の情報を取得する。すなわち出力部14は、各回の刺激の強度と反応時間の測定値との組を取得する。
【0030】
出力部14は、複数回の刺激について、各回の刺激の強度と、各回の刺激に対する反応時間の測定値と、の関係を出力する。好適には出力部14は、刺激の強度と、刺激に対する反応時間の測定値と、の関係を2次元グラフでディスプレイ16に表示するためのデータを出力する。当該表示について図2~4を参照して説明する。
【0031】
図2は被検者の末梢神経検査が正常に行われた場合の2次元グラフを示し、図3は被検者の末梢神経検査が正常に行われなかった場合の2次元グラフを示す。各2次元グラフの横軸(第1軸)には刺激の強度(電流値)が表示され、縦軸(第2軸)には反応時間が表示される。なお横軸に反応時間を示し、縦軸に刺激の強度(電流値)を示してもよい。
【0032】
図示するように出力部14は、各回の刺激の電流値と反応時間の測定値をプロットし、各点を線で結んでいる表示を行うためのデータを出力する。上述のように刺激の強度が小さい場合(所定の閾値以下の場合)には伝導速度の遅いC線維のみが反応し、刺激の強度が大きい場合(所定の閾値以上の場合)には伝導速度の速いAδ線維も反応する。そのため、図2に示すように刺激の強度が一定の値以上となった際に、反応時間が急激に落ちることが正常である。図2の例では、電流値が0.20mA程度までは反応時間が1.00~1.50秒程度であり、電流値が0.30mAを超えた辺りから反応時間が概ね0.50秒以下となる。
【0033】
ここで出力部14は、反応時間の正常範囲及び異常範囲の少なくとも一方を示す指標情報を出力することが好ましい。図2の例では出力部14は、C線維による反応時間の正常範囲を示す領域(第1領域)であるボックスB1(第1ボックス)と、Aδ線維による反応時間の正常範囲を示す領域(第2領域)であるボックスB2(第2ボックス)を表示するためのデータを出力している。なおボックスB1及びボックスB2の大きさ(反応時間の範囲、及び電流値の範囲)は、例えば十分な数の被検者による検査結果を基に定めればよい。またボックスB1及びB2の大きさは、検査対象の被検者の属性(年齢、性別、等)も勘案して決定してもよい。ボックスB1及びボックスB2の範囲内に各測定値が収まっているか否かは、検査の正常性の判定指標となる。
【0034】
ボックスB1とボックスB2は、異なる表示効果により表されていることがより望ましい。例えばボックスB1とボックスB2は、異なる線種の枠線、異なる線色の枠線、または異なる塗色で示されていることが好ましい。異なる表示効果で示されていることにより、検査者は刺激される神経の違いを容易に理解することができる。
【0035】
検査者は、この2次元グラフを参照し、検査が正常に行われたか否かを判定する。検査者は、ある電流値を超えた時点で反応時間の測定値が急激に小さくなっている場合、正常に検査が行われたと判定する(図2)。検査者は、電流値の大小にかかわらずに反応時間の測定値があまり変化しないような場合、検査が正常に行われなかった(異常であった)と判定する(図3)。また検査者は、電流値の上昇に従って反応時間の測定値が上昇している場合にも検査が正常に行われなかったと判定する。図3の例では、Aδ線維が刺激される電流値であっても反応時間の測定値がかなり大きな時間となっているため、被検者が検査の意図を理解していない可能性等がある。検査者は、検査が正常に行われなかった場合、例えば検査のやり直しや検査の説明を再度行えばよい。なお検査者は、当該判定に際して、正常値の指標となるボックスB1及びボックスB2を適宜参照することがより好ましい。すなわちボックスB1及びボックスB2の内部に各測定値(各プロット)が収まっているような場合、検査者は検査が正常に行われた可能性が高いと判定してよい。
【0036】
なお図2図3に示すボックスB1及びボックスB2は、反応時間の正常又は異常を判定するための指標情報の一種である。出力部14は、この他の方式で当該指標情報を表示するためのデータを出力してもよい。例えば出力部14は、図2の例では反応時間の正常値域を示していたが、正常値域では無く異常値域を代わりに表示するためのデータを出力してもよい。また出力部14は、ボックスB1とボックスB2が組み合わさったような図形を表示するためのデータを出力してもよく、反応時間の正常値域と異常値域を隔てる横線のみを表示するためのデータを出力してもよい。
【0037】
また被検者の違いや刺激位置の違いによって、Aδ線維が反応を開始する電流値に多少のバラツキがあることが考えられる。そのため出力部14は、例えば図4のボックスB3を表示してもよい。当該ボックスB3は、C線維の正常な反応時間を示す領域A1とAδ線維の正常な反応時間を示す領域A2を結ぶようにして構成される。
【0038】
なお、出力部14は上述の説明(図2図4)では刺激の強度の変化に対する反応時間の測定値の変化の関係を2次元グラフで表示するためのデータを出力したが、必ずしもこれに限られない。例えば出力部14は、刺激の強度と反応時間の測定値の関係を表形式(刺激の強度と反応時間の測定値の組が列挙された表)でディスプレイ16に出力してもよく、CSV(Comma-Separated Values)フォーマット等で電子ファイルとして出力してもよい。この場合には検査者は、出力された表や電子ファイルを参照することによって検査が正常に行われたか否かを判定する。
【0039】
出力部14は、表形式や電子ファイルとして出力を行う場合、上述の指標情報も合わせて出力することが好ましい。例えば出力部14は、電流値0.40mAの際の反応時間の測定値に加えて、電流値0.40mAの際の反応時間の正常範囲も合わせて表に記載するように出力すればよい。
【0040】
なお出力部14は、複数回の刺激毎に刺激の強度と反応時間の測定値の組を出力することが好ましいが、刺激の強度の変化に対する測定値の変化の関係の出力するものであればこの他のものであってもよい。すなわち出力部14は、10回の刺激が行われた場合に、2回以上の刺激に関する強度と反応時間の測定値の関係を最低限出力すればよい。例えば出力部14が(C線維が反応すると思われる強度(例えば0.15mA)と反応時間の測定値)と(Aδ線維が反応すると思われる強度(例えば0.40mA)における反応時間の測定値)の2つを最低限出力するようなものであれば良く、当該構成であっても検査者は検査の正常性を判断することができる。
【0041】
続いて本実施の形態に係る末梢神経検査装置1の効果について説明する。上述のようにAδ線維とC線維では刺激に対する反応のし易さが異なり、伝導速度も異なる。そのため、強度を変えた複数回の刺激を与えた際に、この性質に従った反応時間が測定されなければ検査が正常に行われていない恐れがあった。末梢神経検査装置1は、刺激の強度の変化に対する反応時間の測定値の変化の関係を出力するように構成されている。例えば末梢神経検査装置1は、刺激の強度と反応時間の測定値を2次元グラフ(図2図3)で表示する。検査者は、この2次元グラフを参照することにより検査が正常に行われたか否か(末梢神経の検査が正常に行われたか否か)を簡単に判定することができる。
【0042】
また末梢神経検査装置1は、図2等に示したように反応時間の正常値域(図2の例ではボックスB1/B2)も測定値に加えて表示する。検査者は、測定値と正常値域を比較することにより、正確に検査の正常性を判定することができる。
【0043】
<実施の形態2>
実施の形態2にかかる末梢神経検査装置1Aは、検査が正常に行われたか否かを判定し、判定結果を通知することを特徴とする。実施の形態2にかかる末梢神経検査装置1Aについて実施の形態1と異なる点を以下に説明する。なお、実施の形態1と同一名称及び同一符号を付した処理部については、特に言及しない限り実施の形態1と同様の動作を行うものとする。
【0044】
図5は、本実施の形態に係る末梢神経検査装置1の構成を示すブロック図である。図1の構成に比べて制御部11A内に判定部17を更に有する。判定部17は、刺激制御部13が制御する各刺激の電流値(強度)と、測定部12が測定した各刺激に対する反応時間の測定値と、を取得する。そして判定部17は、刺激の強度の変化(電流値の変化)に対する測定値の変化に基づいて検査が正常に行われたか否かを判定する。判定部17は、判定結果を出力部14に通知する。
【0045】
以下、判定部17による判定処理の第1例について説明する。判定部17は、刺激の強度に対する反応時間の正常又は異常の指標をハードディスク等から読み出す。当該指標は、例えば図2図3に示した反応時間の正常値域(ボックスB1やボックスB2に相当する情報)である。そして判定部17は、各刺激に対する反応時間の測定値が正常値域内に入っている場合には検査が正常に行われたと判定する。一方で判定部17は、各刺激に対する反応時間の測定値が正常値域から外れている場合、検査が正常に行われなかったと判定する。すなわち判定部17は、図2図3において検査者が目視で行っていた検査の正常性の判定を自動的に行う。
【0046】
続いて判定部17による判定処理の第2例について説明する。判定部17は、電流値を変化させた場合の反応時間の測定値の変化を参照する。そして判定部17は、反応時間の測定値が急峻に変化している点があるか否かを判定する。より具体的には判定部17は、刺激の強度を強くしていった際に反応時間の測定値が急激に小さくなる箇所が存在するか否かを判定する。このような箇所が存在する場合、判定部17は、検査が正常に行われたと判定する。一方で判定部17は、反応時間の測定値が急激に小さくなる箇所が存在しない場合、検査が正常に行われなかったと判定する。
【0047】
なお判定部17は、上述の第1例と第2例を組み合わせて検査の正常性を判定してもよい。すなわち判定部17は、各測定値が正常値域に入っており、かつ測定値が急峻に変化している箇所がある場合には検査が正常に行われたと判定する。
【0048】
出力部14は、判定部17による判定結果をディスプレイ16やスピーカ18を介して出力する。例えば出力部14は、検査が正常に行われなかった事を示す警告メッセージをディスプレイ16に表示したり、アラーム音をスピーカ18を介して出力すればよい。また出力部14は、検査が正常に行われた場合にも適宜表示(“検査は正常に終了しました”というメッセージ)や音声通知を行ってもよい。
【0049】
なお出力部14は、図2図3に示した2次元グラフ等をディスプレイ16に表示してもよい。
【0050】
続いて本実施の形態に係る末梢神経検査装置1Aの効果について説明する。本実施の形態において末梢神経検査装置1Aは、検査が正常に行われたか否かを機械的(自動的)に判定して通知する。これにより検査者の主観に影響されることなく、正確に検査の正常性を把握することができる。
【0051】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は既に述べた実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【0052】
なお図1及び図5の構成は本体部10の機能的特性に着目したブロック図であるが、図6に本体部10のハードウェア構成の一例を示す。本体部10は、メモリ101、ハードディスク102、CPU103、外部インターフェイス104、入力部15、ディスプレイ16を有する。なお本体部10は、図示しないスピーカや各種の電気回路等を含む。各構成要素間はバス105により接続されている。
【0053】
外部インターフェイス104は、操作部20(好適にはスイッチ)が本体部10に接続されるためのインターフェイスである。外部インターフェイス104には、操作部20から検知信号が入力される。
【0054】
ハードディスク102は、本体部10内の二次記憶装置であり、各種の情報を記憶する。なおハードディスク102は必ずしも本体部10に内蔵されている必要は無く、本体部10に着脱可能な構成であってもよい。ハードディスク102には、上述の操作の実行に必要な各種のデータやプログラムが格納されている。
【0055】
CPU(Central Processing Unit)103は、上述の制御部11,11A(測定部12、刺激制御部13、出力部14)の各種の処理の実行に必要なデータやプログラムをメモリ101上に展開し、プログラムに含まれる各命令を実行する。なお制御部11,11A(測定部12、刺激制御部13、出力部14)の各種の処理の少なくとも一部は、図示しない周辺回路等によって実現されてもよい。
【0056】
ここでプログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)、CD-ROM(Read Only Memory)、CD-R、CD-R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(random access memory))を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【符号の説明】
【0057】
1,1A 末梢神経検査装置
10 本体部
11,11A 制御部
12 測定部
13 刺激制御部
14 出力部
15 入力部
16 ディスプレイ
17 判定部
18 スピーカ
20 操作部
30 電極
101 メモリ
102 ハードディスク
103 CPU
104 外部インターフェイス
105 バス
図1
図2
図3
図4
図5
図6