IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 積水化学工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】耐火性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20220628BHJP
   C09K 21/12 20060101ALI20220628BHJP
   C08K 5/49 20060101ALI20220628BHJP
   C08K 3/32 20060101ALI20220628BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20220628BHJP
   C09K 21/02 20060101ALI20220628BHJP
   C09K 21/04 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
C08L101/00
C09K21/12
C08K5/49
C08K3/32
C08K3/38
C09K21/02
C09K21/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017243793
(22)【出願日】2017-12-20
(65)【公開番号】P2018100410
(43)【公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2016247722
(32)【優先日】2016-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】沢 和洋
(72)【発明者】
【氏名】前田 聡志
(72)【発明者】
【氏名】津村 健輔
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/117702(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/117699(WO,A1)
【文献】特開2007-254563(JP,A)
【文献】特開2006-274134(JP,A)
【文献】特開2008-115359(JP,A)
【文献】特開2006-087819(JP,A)
【文献】国際公開第2016/031905(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C09K21/00- 21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス樹脂、熱膨張性黒鉛、マトリックス樹脂の成形温度よりも融点が低いリン化合物、燃焼時固化する固体金属(亜)リン酸塩及び/又は固体ホウ素化合物を含み、
前記マトリックス樹脂がEPDM、TPO、EVA、PVC、又は塩素化PVCのいずれかであり、
前記マトリックス樹脂の成形温度よりも融点が低いリン化合物が、リン酸エステル及び/又は亜リン酸エステルであり、
前記燃焼時固化する固体金属(亜)リン酸塩が亜リン酸アルミニウムであり、
前記燃焼時固化する固体ホウ素化合物がホウ酸である、耐火性樹脂組成物。
【請求項2】
マトリックス樹脂100質量部に対して、熱膨張性黒鉛3~300質量部、マトリックス樹脂の成形温度よりも融点が低いリン化合物1~200質量部、燃焼時固化する固体金属(亜)リン酸塩と固体ホウ素化合物の合計量3~300質量部を含む、請求項1に記載の耐火性樹脂組成物。
【請求項3】
(マトリックス樹脂の成形温度よりも融点が低いリン化合物)/(燃焼時固化する固体金属(亜)リン酸塩)は質量比で0.05~100である、請求項1又は2に記載の耐火性樹脂組成物。
【請求項4】
(マトリックス樹脂の成形温度よりも融点が低いリン化合物)/(燃焼時固化する固体ホウ素化合物)は質量比で0.05~100である、請求項1又は2に記載の耐火性樹脂組成物。
【請求項5】
耐火性樹脂組成物の成形体の残渣硬さが0.11kgf/cm以上、かつ、引張伸度が150%以上である請求項1又は2に記載の耐火樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の耐火樹脂組成物の成形部を備えた成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱膨張性黒鉛を使用した耐火性樹脂には、燃焼時の膨張した黒鉛の飛散を防止し、残渣形状を安定化させるために微粉体のリン化合物やホウ素化合物などを添加している。しかし、これら添加剤は固体粒子であるため、耐火性樹脂の引張物性などの一般物性を低下させる問題点がある。
【0003】
特許文献1~2は、耐火性樹脂組成物にリン系可塑剤を配合することで優れた耐火性及び作業性を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2016/117699
【文献】WO2016/117702
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、残渣安定性と一般物性に優れた耐火性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の耐火性樹脂組成物を提供するものである。
項1. マトリックス樹脂、熱膨張性黒鉛、マトリックス樹脂の成形温度よりも融点が低いリン化合物、燃焼時固化する固体金属(亜)リン酸塩及び/又は固体ホウ素化合物を含む、耐火性樹脂組成物。
項2. マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂であることを特徴とする項1に記載の耐火樹脂組成物。
項3. マトリックス樹脂の成形温度よりも融点が低いリン化合物がリン酸エステルまたは亜リン酸エステルであり、燃焼時固化する固体金属(亜)リン酸塩が亜リン酸塩であることを特徴とする、項1又は2に記載の耐火性樹脂組成物。
項4. マトリックス樹脂100質量部に対して、熱膨張性黒鉛3~300質量部、マトリックス樹脂の成形温度よりも融点が低いリン化合物1~200質量部、燃焼時固化する固体金属(亜)リン酸塩と固体ホウ素化合物の合計量3~300質量部を含む、項1~3のいずれか1項に記載の耐火性樹脂組成物。
項5. (マトリックス樹脂の成形温度よりも融点が低いリン化合物)/(燃焼時固化する固体金属(亜)リン酸塩)は質量比で0.05~100である、項1~4のいずれか1項に記載の耐火性樹脂組成物。
項6. (マトリックス樹脂の成形温度よりも融点が低いリン化合物)/(燃焼時固化する固体ホウ素化合物)は質量比で0.05~100である、項1~4のいずれか1項に記載の耐火性樹脂組成物。
項7. 耐火性樹脂組成物の成形体の残渣硬さが0.11kgf/cm以上、かつ、引張伸度が150%以上である項1~4のいずれか1項に記載の耐火樹脂組成物。
項8. 項1~7のいずれか1項に記載の耐火樹脂組成物の成形部を備えた成形体。
【発明の効果】
【0007】
マトリックス樹脂の成形温度よりも融点が低いリン化合物は、従来耐火性樹脂の燃焼後の残渣形状安定剤として用いられている燃焼時固化する固体金属(亜)リン酸塩、燃焼時固化する固体ホウ素化合物と併用して樹脂中に導入することで残渣形状安定効果を相乗的に高める効果がある。マトリックス樹脂の成形温度よりも融点が低いリン化合物は、燃焼時固化する固体金属(亜)リン酸塩、燃焼時固化する固体ホウ素化合物を減量させた配合においても、耐火性能と一般物性の両立が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の耐火性樹脂組成物は、マトリックス樹脂、熱膨張性黒鉛、マトリックス樹脂の成形温度よりも融点が低いリン化合物、燃焼時固化する固体金属(亜)リン酸塩及び/又は固体ホウ素化合物を含み、これらの成分と、必要に応じて含有される他の添加剤を公知の混練装置を用いて溶融混練することにより得ることができる。他の添加剤としては、油、加硫促進剤、加硫助剤、熱安定剤、滑剤、加工助剤、熱分解性発泡剤、酸化防止剤、帯電防止剤、顔料などが挙げられる。「固体金属(亜)リン酸塩」、「固体ホウ素化合物」はともにマトリックス樹脂の成形温度で固体である。
【0009】
混練装置としては、例えば、押出機、ニーダーミキサー、二本ロール、バンバリーミキサー、プラストミルなどが挙げられる。
【0010】
マトリックス樹脂としては、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、塩素化ポリ塩化ビニル樹脂(塩素化PVC)、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、オレフィン系エラストマー(TPO)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM)、ポリブテン、クロロプレン(CR)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル-スチレン-アクリロニトリル共重合体(ASA)、アクリロニトリル/エチレン-プロピレン-ジエン/スチレン共重合体(AES)等が挙げられ、EPDM樹脂が好ましい。EPDM樹脂に用いられる架橋用ジエンモノマーとしては特に限定されず、例えば、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-プロピリデン-5-ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、5-ビニル-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、ノルボルナジエン等の環状ジエン類、1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,5-ヘプタジエン、6-メチル-1,5-ヘプタジエン、6-メチル-1,7-オクタジエン等の鎖状非共役ジエン類等が挙げられる。
【0011】
熱膨張性黒鉛は、従来公知の物質であり、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の粉末を、濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸と、濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等の強酸化剤とにより処理してグラファイト層間化合物を生成させたものである。生成された熱膨張性黒鉛は炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物である。
【0012】
本発明に使用される熱膨張性黒鉛は、酸処理して得られた熱膨張性黒鉛がアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等で中和されていてもよい。
【0013】
脂肪族低級アミンとしては、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン等が挙げられる。
【0014】
アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物としては、例えば、リチウム、カリウム、ナトリウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム等の水酸化物、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、有機酸塩等が挙げられる。
【0015】
熱膨張性黒鉛の具体例としては、例えば、日本化成社製「CA-60S」、「CA-60N」等が挙げられる。
【0016】
熱膨張性黒鉛の添加量は、少なくなると耐火性能及び発泡性が低下する傾向がある。また多くなると押出成形しにくくなり、得られた成形体の表面性が悪くなり、機械的物性が低下する傾向がある。このためマトリックス樹脂100質量部に対する熱膨張性黒鉛の添加量は、3~300質量部程度、好ましくは10~200質量部程度である。
【0017】
マトリックス樹脂の成形温度よりも融点が低いリン化合物としては、リン酸エステル、亜リン酸エステルが好ましい。マトリックス樹脂の成形温度よりも融点が低いリン化合物の具体例としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリデシルホスフェート、トリドデシルホスフェート、トリラウリルホスフェート、トリステアリルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクロルフェニルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、及びトリブトキシエチルホスフェート等のトリオルガノホスフェート(リン酸エステル)、(モノ又はジ)メチルアシッドホスフェート、(モノ又はジ)エチルアシッドホスフェート、(モノ又はジ)ブチルアシッドホスフェート、(モノ又はジ)ブトキシエチルアシッドホスフェート、(モノ又はジ)オクチルアシッドホスフェート、(モノ又はジ)デシルアシッドホスフェート、(モノ又はジ)ラウリルアシッドホスフェート、(モノ又はジ)ステアリルアシッドホスフェート、(モノ又はジ)オレイルアシッドホスフェート、(モノ又はジ)ベヘニルアシッドホスフェート、(モノ又はジ)フェニルアシッドホスフェート、(モノ又はジ)ノニルフェニルアシッドホスフェート、(モノ又はジ)シクロヘキシルアシッドホスフェート、(モノ又はジ)フェノキシエチルアシッドホスフェート、アルコキシポリエチレングリコールアシッドホスフェート及びビスフェノールAアシッドホスフェート等のアシッドホスフェート(リン酸モノエステル又はリン酸ジエステル、アシッドホスフェートにおける有機基は、一置換、二置換、及びこれらの混合物の何れも含む。)、トリデシルホスファイトのようなトリアルキルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイトのようなジアルキルモノアリールホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイトのようなモノアルキルジアリールホスファイト、トリフェニルホスファイト、及びトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトのようなトリアリールホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、及びビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等のペンタエリスリトールホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、及び2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト等の環状ホスファイトを含むホスファイト(亜リン酸エステル)、テトラキス(ジ-tert-ブチルフェニル)-ビフェニレンジホスホナイト、及びビス(ジ-tert-ブチルフェニル)-フェニル-フェニルホスホナイトが好ましく挙げられ、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-ビフェニレンジホスホナイト、及びビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-フェニル-フェニルホスホナイトなどのホスホナイト、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、及びベンゼンホスホン酸ジプロピル等のホスホネート、トリフェニルホスフィン等の第3級ホスフィンが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0018】
マトリックス樹脂の成形温度よりも融点が低いリン化合物の添加量は、マトリックス樹脂100質量部に対して1~200質量部程度、好ましくは1~100質量部程度である。
【0019】
燃焼時固化する固体金属(亜)リン酸塩としては、各種リン酸/亜リン酸と周期律表IA族~IVB族の金属、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミンから選ばれる少なくとも一種の金属または化合物との塩からなるリン酸塩/亜リン酸塩を挙げることができる。各種リン酸/亜リン酸としては、リン酸、亜リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸が挙げられる。
【0020】
周期律表IA族~IVB族の金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、鉄(II)、鉄(III)、亜鉛、アルミニウム等が挙げられる。
【0021】
脂肪族アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、ピペラジン等が挙げられる。
【0022】
また前記芳香族アミンとしては、ピリジン、トリアジン、メラミン、アンモニウム等が挙げられる。
【0023】
上記の固体金属(亜)リン酸塩は、シランカップリング剤処理、メラミン樹脂で被覆する等の公知の耐水性向上処理を加えてもよく、メラミン、ペンタエリスリトール等の公知の発泡助剤を加えてもよい。
【0024】
燃焼時固化する固体金属(亜)リン酸塩を構成するリン酸塩/亜リン酸塩としては、リン酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム等のアンモニウム塩、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、亜リン酸一ナトリウム、亜リン酸二ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム等のナトリウム塩、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、リン酸三カリウム、亜リン酸一カリウム、亜リン酸二カリウム、次亜リン酸カリウム等のカリウム塩、リン酸一リチウム、リン酸二リチウム、リン酸三リチウム、亜リン酸一リチウム、亜リン酸二リチウム、次亜リン酸リチウム等のリチウム塩、リン酸二水素バリウム、リン酸水素バリウム、リン酸三バリウム、次亜リン酸バリウム等のバリウム塩、リン酸一水素マグネシウム、リン酸水素マグネシウム、リン酸三マグネシウム、次亜リン酸マグネシウム等のマグネシウム塩、リン酸二水素カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸三カルシウム、次亜リン酸カルシウム等のカルシウム塩、リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、次亜リン酸亜鉛等の亜鉛塩、第一リン酸アルミニウム、第二リン酸アルミニウム、第三リン酸アルミニウム、亜リン酸アルミニウム、次亜リン酸アルミニウム等のアルミニウム塩等が挙げられる。
【0025】
ポリリン酸塩としては、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸ピペラジン、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸アンモニウムアミド、ポリリン酸アルミニウム等が挙げられる。
【0026】
好ましい燃焼時固化する固体金属(亜)リン酸塩は亜リン酸塩であり、亜リン酸アルミニウムが特に好ましい。 前記固体金属(亜)リン酸塩は、一種もしくは二種以上を使用する
ことができる。
【0027】
固体金属(亜)リン酸塩の添加量は、マトリックス樹脂100質量部に対して3~300質量部程度、好ましくは50~200質量部程度である。
【0028】
燃焼時固化する固体ホウ素化合物としては、ホウ砂、酸化ホウ素、ホウ酸、ホウ酸塩等が挙げられる。酸化ホウ素としては、三酸化二ホウ素、三酸化ホウ素、二酸化二ホウ素、三酸化四ホウ素、五酸化四ホウ素等が挙げられる。ホウ酸塩としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、周期表第4族、第12族、第13族の元素およびアンモニウムのホウ酸塩が挙げられ、具体的には、ホウ酸リチウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、ホウ酸セシウム等のホウ酸アルカリ金属塩、ホウ酸マグネシウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸バリウム等のホウ酸アルカリ土類金属塩、ホウ酸ジルコニウム、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸アンモニウムが挙げられる。燃焼時固化する固体ホウ素化合物は、ホウ酸又はホウ酸塩であることが好ましく、ホウ酸がより好ましい。固体ホウ素化合物は、一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0029】
燃焼時固化する固体ホウ素化合物の添加量は、マトリックス樹脂100質量部に対して3~300質量部程度、好ましくは50~200質量部程度である。
【0030】
(マトリックス樹脂の成形温度よりも融点が低いリン化合物)/(固体金属(亜)リン酸塩)は質量比で好ましくは0.05~100、より好ましくは0.1~20である。
【0031】
(マトリックス樹脂の成形温度よりも融点が低いリン化合物)/(燃焼時固化する固体ホウ素化合物)は質量比で好ましくは0.05~100、より好ましくは0.1~20である。
【0032】
本発明では、マトリックス樹脂の成形温度よりも融点が低いリン化合物を配合することで、固体金属(亜)リン酸塩/固体ホウ素化合物の配合量を抑えることができ、物性の改善が実現できる。
【0033】
油としては、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル等のプロセスオイル、ジブチルフタレ-ト、ジオクチルフタレ-ト、ジ-(2-エチルヘキシル)テトラヒドロフタレ-ト、ジ-n-ブチルアジペ-ト、ワセリン、流動パラフィン、ひまし油、綿実油などが挙げられ、これらを1種単独又は2種以上を併用することができる。好ましい油は、プロセスオイル、流動パラフィンである。
【0034】
油の含有量は、耐火性樹脂組成物のマトリックス樹脂に対し、25~40質量%程度が好ましい。 加硫剤としては、例えば、硫黄、塩化硫黄、二塩化硫黄、モルフォリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、ジチオカルバミン酸セレン等が挙げられ、硫黄およびテトラメチルチウラムジスルフィドが好ましい。
【0035】
加硫剤は、一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0036】
加硫剤の添加量は、少なくなると熱時の安定性が低下する傾向がある。また多くなると成形しにくくなる傾向がある。このためマトリックス樹脂100質量部に対する加硫剤の添加量は、0.1~10質量部程度、好ましくは0.5~5質量部程度である。
【0037】
加硫剤を用いる場合には、加硫促進剤を併用することができる。
【0038】
加硫促進剤としては、チアゾール含有加硫促進剤、グアニジン含有加硫促進剤、アルデヒドアミン含有加硫促進剤、イミダゾリン含有加硫促進剤、チオウレア含有加硫促進剤、チウラム含有加硫促進剤、ジチオ酸塩含有加硫促進剤、チオウレア含有加硫促進剤、ザンテート含有加硫促進剤等が挙げられる。
【0039】
チアゾール含有加硫促進剤としては、例えば、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド等が挙げられる。
【0040】
グアニジン含有加硫促進剤としては、例えば、ジフェニルグアニジン、トリフェニルグアニジン等が挙げられる。
【0041】
アルデヒドアミン含有加硫促進剤としては、例えば、アセトアルデヒド・アニリン縮合物等が挙げられる。
【0042】
イミダゾリン含有加硫促進剤としては、例えば、2-メルカプトイミダゾリン等が挙げられる。
【0043】
チオウレア含有加硫促進剤としては、例えば、ジエチルチオウレア、ジブチルチオウレア等が挙げられる。
【0044】
チウラム含有加硫促進剤としては、例えば、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等が挙げられる。
【0045】
ジチオ酸塩含有加硫促進剤としては、例えば、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛等が挙げられる。
【0046】
チオウレア含有加硫促進剤としては、例えば、エチレンチオ尿素、N,N'-ジエチルチオ尿素等が挙げられる。
【0047】
ザンテート含有加硫促進剤としては、例えば、ジブチルキサトゲン酸亜鉛等が挙げられる。
【0048】
加硫促進剤は、一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0049】
マトリックス樹脂100質量部に対する加硫促進剤の添加量は、0.1~20質量部程度が好ましい。加硫促進剤を使用することにより、加硫を効率よく進行させることができる。加硫促進剤の添加量は、0.1~10質量部程度が好ましい。
【0050】
また加硫剤を使用する場合には、加硫助剤を併用することができる。
【0051】
加硫助剤としては、例えば、p-キノンジオキシム等のキノンジオキシム系加硫助剤、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等のアクリル含有加硫助剤、ジアリルフタレート、トリアリルイソシアヌレート等のアリル含有加硫助剤、マレイミド含有加硫助剤、ジビニルベンゼン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、亜鉛華が挙げられる。
【0052】
マトリックス樹脂100質量部に対する加硫助剤の添加量は、1~50質量部程度が好ましい。加硫助剤を使用することにより、加硫を効率よく進行させることができる。加硫反応は、150~250℃程度、好ましくは200~230℃の温度で行うことができる。
【0053】
架橋促進剤としては、例えば、ジエチルジチオカルバミン酸テルル、N,N,N’,N’-テトラエチルチウラムジスルフィド、ジエチルジチオカルバミン酸ベンジル等が挙げられる。
【0054】
無機充填材は、特に限定されないが、例えば、シリカ、珪藻土、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト類、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドーンナイト、ハイドロタルサイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、石膏繊維、ケイ酸カルシウム、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セビオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、チタン酸ジルコニア鉛、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ステンレス繊維、ホウ酸亜鉛、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、脱水汚泥等が挙げられ、炭酸カルシウムおよび加熱時に脱水し、吸熱効果のある水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の含水無機物が好ましい。また、酸化アンチモンは難燃性向上の効果があるので好ましい。
【0055】
無機充填材は一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0056】
無機充填材の添加量は、少なくなると耐火性能が低下する傾向があり、多くなると押出成形しにくくなり、得られた成形体の表面性が悪くなり、機械的物性が低下する傾向がある。マトリックス樹脂100質量部に対して、3~200質量部、好ましくは10~150質量部である。
【0057】
可塑剤は、特に限定されないが、例えば、ジ‐2‐エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジヘプチルフタレート(DHP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)等のフタル酸エステル可塑剤、ジ‐2‐エチルヘキシルアジペート(DOA)、ジイソブチルアジペート(DIBA)、ジブチルアジペート(DBA)等の脂肪酸エステル可塑剤、エポキシ化大豆油等のエポキシ化エステル可塑剤、アジピン酸エステル、アジピン酸ポリエステル等のポリエステル可塑剤、トリ‐2-エチルヘキシルトリメリテート(TOTM)、トリイソノニルトリメリテート(TINTM)等のトリメリット酸エステル可塑剤が挙げられる。
【0058】
可塑剤は一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0059】
可塑剤の添加量は、少なくなると押出成形性が低下する傾向があり、多くなると得られた成形体が柔らかくなり過ぎる傾向がある。このためマトリックス樹脂100質量部に対して、可塑剤の添加量は20~200質量部である。
【0060】
熱可塑性改質剤としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)系粘度調整剤などのフッ素樹脂系粘度調整剤が挙げられる。
【0061】
熱安定剤としては、例えば、三塩基性硫酸鉛、三塩基性亜硫酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、ステアリン酸鉛、二塩基性ステアリン酸鉛等の鉛熱安定剤、有機錫メルカプト、有機錫マレート、有機錫ラウレート、ジブチル錫マレート等の有機錫熱安定剤、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の金属石鹸熱安定剤等が挙げられる。
【0062】
熱安定剤は一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0063】
滑剤としては、例えば、ポリエチレン、パラフィン、モンタン酸等のワックス類、各種エステルワックス類、ステアリン酸、リシノール酸等の有機酸類、ステアリルアルコール等の有機アルコール類、ジメチルビスアミド等のアミド系化合物等が挙げられる。
【0064】
滑剤は一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0065】
加工助剤としては、例えば、塩素化ポリエチレン、メチルメタクリレート‐エチルアクリレート共重合体、高分子量のポリメチルメタクリレート等が挙げられる。
【0066】
熱分解型発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド(ADCA)、ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)、p,p-オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等が挙げられる。
【0067】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール化合物等が挙げられる。
【0068】
帯電防止剤としては、例えば、アミノ化合物等が挙げられる。
【0069】
顔料としては、例えば、アゾ系、フタロシアニン系、スレン系、染料レーキ系等の有機顔料、酸化物系、クロム酸モリブデン系、硫化物・セレン化物系、フェロシアニン化物系などの無機顔料等が挙げられる。
【0070】
本発明に使用する耐火性樹脂組成物は、押出成形用に好ましく使用することができる。樹脂組成物を使用して、常法に従い、一軸押出機、二軸押出機等の押出機で130~170℃で溶融させて押出することにより耐火性樹脂組成物の成形体を得ることができる。
【0071】
本発明の耐火性樹脂組成物の成形体は、窓用板材と組み合わせて使用することができる。窓用板材の外周に、耐火性樹脂組成物の成形体を設置することにより耐火性サッシが得られる。
【0072】
また本発明の耐火性樹脂組成物の成形体は、不燃枠材と組み合わせて使用することもできる。
【0073】
不燃枠材の素材としては、例えば、アルミニウム合金、ステンレス等の金属、ガラス、セラミック等の無機物等を挙げることができる。
【0074】
耐火性樹脂組成物の成形体と不燃枠材とは、例えば接着剤、両面粘着テープ等により互いに接着することができる。
【0075】
また耐火性樹脂組成物の成形体と不燃枠材とは、例えば互いにスライドできるスライドレール部とスライドレール受部とをそれぞれ耐火性樹脂組成物の成形体と不燃枠材とに設置しておき、スライドレール部とスライドレール受部とを組み合わせること等により固定することができる。
【0076】
本発明の耐火性樹脂組成物の成形体の膨張倍率は、20倍以上、好ましくは25倍以上である。本発明の耐火性樹脂組成物の成形部を備えた成形体の残渣硬さは好ましくは0.12kgf/cm以上、より好ましくは0.15kgf/cm以上、さらに好ましくは0.18kgf/cm以上、特に好ましくは0.23kgf/cm以上である。本発明の耐火性樹脂組成物の成形部を備えた成形体の引張伸度は、好ましくは130%以上、より好ましくは150%以上、さらに好ましくは200%以上、特に好ましくは300%以上である。引張伸度の上限は、3000%である。
【0077】
なお、耐火性樹脂組成物の成形部を備えた成形体としては、耐火性樹脂組成物と他の層を含む多層成形体が挙げられる。
【実施例
【0078】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
[実施例1~5及び比較例1~3]
表1に示す成分及び配合量で各成分を含む耐火性樹脂組成物を混練し、60℃・19MPaの条件で4分間プレスして厚さ1mmのシート状に成形した。次に、80℃・加圧無しの条件で4分間加熱して歪みを緩和させ、最後に160℃・加圧無しの条件で4分間プレスにて加硫させて厚さ1 mmのシートサンプルを作成した。
【0079】
・耐火性樹脂組成物の成分
(i)マトリックス樹脂(EPDM)
商品名:JSR株式会社社製 EP35
(ii) 熱膨張性黒鉛
商品名: 東ソー株式会社製 GREP-EG
(iii) 加硫促進剤
商品名: ジベンゾチアジルジスフリド(三新化学 サンセラーDM-G)
(iv) マトリックス樹脂の成形温度よりも融点が低いリン化合物
商品名:SC有機化学社製Phoslex A-13(イソトリデシルリン酸のモノエステル、ジエステルの混合物、以下、「TDP」と略す)。
【0080】
TDPは可塑剤性能を持たないため、可塑剤としてプロセスオイルを併用した。
【0081】
また、亜リン酸アルミニウム(亜リン酸Al、燃焼時に固化する固体金属(亜)リン酸塩)、ホウ酸(燃焼時に固化する固体ホウ素化合物)は、市販品を用いた。
【0082】
[実施例6~11]
表2~3に示す成分及び配合量で各成分を含む耐火性樹脂組成物を混練し、150℃・19MPaの条件3分間プレスして厚さ1mmのシート状に成形した。
【0083】
(i)マトリックス樹脂
オレフィン系エラストマー(TPO)(商品名:ミラストマー5020BS、日本ポリエチレン株式会社製)
EVA(商品名:エバフレックスEV460、三井デュポンポリケミカル株式会社)
PVC(商品名:TK-1000、信越化学工業株式会社)
塩素化PVC(商品名:HA53F、徳山積水工業株式会社)
(ii)マトリックス樹脂の成形温度よりも融点が低いリン化合物
トリエチルホスフェート(商品名:第八化学工業、TEP)
クレジルジフェニルホスフェート(商品名:第八化学工業、CDP)
【0084】
[試験例1]
実施例1~11、比較例1~3の耐火性樹脂組成物の成形体について、下記(i)~(iii)の条件で膨張倍率、残渣硬さ、破断ひずみ、引張応力を測定した。結果を表1~3に示す。
【0085】
(i)膨張倍率
予め600℃に加熱した電気炉に200メッシュの金網・アルミガラスクロスに含浸したサンプルをSUS製の箱枠に投入し、30分間加熱を行った。取出したサンプルの残渣厚みをノギスにより測定し、以下の式により膨張倍率を算出した。
膨張倍率(倍) = 燃焼後残渣の厚み / 耐火ゴム組成物シートの初期厚み
【0086】
(ii)残渣硬さ
引張試験機(テンシロンRTC、オリエンテック社製)を用いて、残渣を0.25cm2の圧子にて圧縮速度0.1cm/minで圧縮し、最初に現れる最大点荷重を残渣硬さとした。
【0087】
(iii)引張伸度 (%)
引張試験機(テンシロンRTC、オリエンテック社製) を用いて、上記実施例で得られた実施例1~11及び比較例1~3のシートサンプルから試験片(JIS3号ダンベル)を打抜き、引張伸度及び引張応力をJISK6251に従って測定した。チャック間距離 60 mm、標線間距離 20 mm、引張速度 500 mm/分(強化) の条件で、23℃における試験片の引張伸度を測定した。なお、引張伸度については、標線間の距離に対する破断時の伸度(変位) の割合で算出した。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
【表3】