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特許7095991亜鉛空気電池セルパック及びそれを用いた組電池
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】亜鉛空気電池セルパック及びそれを用いた組電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 12/08 20060101AFI20220628BHJP
   H01M 50/105 20210101ALI20220628BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20220628BHJP
【FI】
H01M12/08 K
H01M50/105
H01M50/434
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2017526376
(86)(22)【出願日】2016-06-28
(86)【国際出願番号】 JP2016069161
(87)【国際公開番号】W WO2017002815
(87)【国際公開日】2017-01-05
【審査請求日】2019-01-23
【審判番号】
【審判請求日】2020-09-11
(31)【優先権主張番号】P 2015132861
(32)【優先日】2015-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【弁理士】
【氏名又は名称】加島 広基
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【弁理士】
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】権田 裕一
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 賢信
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】池渕 立
【審判官】境 周一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/073292(WO,A1)
【文献】特開2004-288571(JP,A)
【文献】特開2013-037999(JP,A)
【文献】国際公開第2014/156578(WO,A1)
【文献】特表2005-515606(JP,A)
【文献】特開2012-028062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M12/00-16/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性フィルムで形成され且つ開口部を備えた可撓性袋体と、
前記開口部を気密かつ液密に閉塞して前記可撓性袋体と共に密閉空間を形成する、水酸化物イオン伝導性を有するが透水性及び通気性を有しないセパレータを含むセパレータ構造体と、
前記セパレータの前記密閉空間と反対側に設けられる空気極と、
前記密閉空間に収容される、亜鉛、亜鉛合金及び/又は亜鉛化合物を含んでなる負極と、
前記密閉空間に収容されて前記負極が浸漬される、アルカリ金属水酸化物水溶液を含んでなる電解液と、
を備え、前記セパレータ構造体、前記セパレータが多孔質基材をさらに備え、前記セパレータが前記多孔質基材の前記密閉空間側に設けられ、
前記セパレータ構造体が前記セパレータの外周縁に沿って枠を備えており、
前記枠が、
前記セパレータ及び前記多孔質基材を収容可能な開口部を有する外枠部と、
前記外枠部の前記空気極側の端部及び/又はその近傍から前記外枠部の有する開口部に向かって延在し、前記多孔質基材の前記空気極側と係合する内枠部と、
を備え、前記多孔質基材と前記枠との間、又は前記多孔質基材及び前記セパレータの両方と枠との間が接着剤で液密に封止され、前記可撓性フィルムと前記セパレータ構造体とが前記枠を介して液密かつ気密に接着され
前記多孔質基材中に水酸化物イオン伝導性材料が組み込まれている、亜鉛空気電池セルパック。
【請求項2】
前記可撓性フィルムが樹脂フィルムを含んでなる、請求項1に記載の亜鉛空気電池セルパック。
【請求項3】
前記可撓性袋体が一対の可撓性フィルムからなり、前記一対の可撓性フィルムの外周縁が熱融着により封止されている、請求項1又は2に記載の亜鉛空気電池セルパック。
【請求項4】
前記枠が樹脂枠であり、前記可撓性フィルムと前記樹脂枠とが接着剤及び/又は熱融着により接着されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の亜鉛空気電池セルパック。
【請求項5】
前記密閉空間は、充放電時の負極反応に伴う水分量の減増を許容する容積の余剰空間を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の亜鉛空気電池セルパック。
【請求項6】
前記可撓性袋体、前記セパレータ構造体、前記空気極、及び前記負極が鉛直方向に設けられ、前記密閉空間がその上方に前記余剰空間を有する、請求項5に記載の亜鉛空気電池セルパック。
【請求項7】
前記セパレータが無機固体電解質体からなる、請求項1~6のいずれか一項に記載の亜鉛空気電池セルパック。
【請求項8】
前記無機固体電解質体が90%以上の相対密度を有する、請求項7に記載の亜鉛空気電池セルパック。
【請求項9】
前記無機固体電解質体が層状複水酸化物からなる、請求項7又は8に記載の亜鉛空気電池セルパック。
【請求項10】
前記無機固体電解質体が、板状、膜状又は層状の形態を有する、請求項7~9のいずれか一項に記載の亜鉛空気電池セルパック。
【請求項11】
前記セパレータが無機固体電解質体からなる場合、前記無機固体電解質体が膜状又は層状の形態であり、該膜状又は層状の無機固体電解質体が前記多孔質基材上又はその中に形成されたものである、請求項1~10のいずれか一項に記載の亜鉛空気電池セルパック。
【請求項12】
前記セパレータが無機固体電解質体からなる場合、前記無機固体電解質体が層状複水酸化物からなり、前記層状複水酸化物が、複数の板状粒子の集合体で構成され、該複数の板状粒子がそれらの板面が前記多孔質基材の表面と垂直に又は斜めに交差するような向きに配向している、請求項7~11のいずれか一項に記載の亜鉛空気電池セルパック。
【請求項13】
前記亜鉛空気電池セルパックが、前記空気極の前記セパレータと反対側に設けられる、通気性を有する空気極集電体と、前記負極に接触して設けられる負極集電体とをさらに備えた、請求項1~12のいずれか一項に記載の亜鉛空気電池セルパック。
【請求項14】
前記負極集電体が前記可撓性袋体の外周縁から延出している、請求項13に記載の亜鉛空気電池セルパック。
【請求項15】
前記亜鉛空気電池セルパックが、前記電解液と接触するが前記負極と接触しないように設けられる第三電極を備えており、前記第三電極が外部回路を経て前記空気極と接続されている、請求項1~14のいずれか一項に記載の亜鉛空気電池セルパック。
【請求項16】
電池容器内に、請求項1~15のいずれか一項に記載の亜鉛空気電池セルパックが複数個詰め込まれた、組電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛空気電池セルパック及びそれを用いた組電池に関する。
【背景技術】
【0002】
革新電池候補の一つとして金属空気電池が挙げられる。金属空気電池は、電池反応に関与する酸素が空気中から供給されるため、電池容器内のスペースを負極活物質の充填に最大限利用することができ、それにより原理的に高いエネルギー密度を実現することができる。
【0003】
現在提案されている金属空気電池の多くはリチウム空気電池である。しかし、リチウム空気電池には、空気極上での望ましくない反応生成物の析出、二酸化炭素の混入、リチウムデンドライト(樹枝状結晶)の形成による正負極間の短絡等、多くの技術的課題が存在している。
【0004】
一方、亜鉛を負極活物質として用いる亜鉛空気電池も従来から知られている。特に、亜鉛空気一次電池は既に量産化され、補聴器等の電源として広く利用されている。亜鉛空気電池においては、電解液として水酸化カリウム等のアルカリ水溶液が用いられ、正負極間の短絡を防止するためにセパレータ(隔壁)が用いられる。放電時には、以下の反応式に示されるように、空気極(正極)側でOが還元されてOHが生成する一方、負極で亜鉛が酸化されてZnOが生成する。
空気極: O+2HO+4e→4OH
負極: 2Zn+4OH→2ZnO+2HO+4e
【0005】
この亜鉛空気電池を二次電池として使う試みもなされたが、充電時に負極でZnOが還元されて金属亜鉛が樹枝状に析出してデンドライトを形成してしまい、このデンドライトがセパレータを貫通して空気極と短絡を起こしてしまうという問題があり、亜鉛空気電池の二次電池としての実用化を大きく妨げていた。その上、空気極側では、空気中の二酸化炭素が空気極を通り抜けて電解液に溶解し、アルカリ炭酸塩を析出して電池性能を低下させるという問題もあった。亜鉛空気電池は、リチウム空気電池と比べて、反応に伴う問題は大きくないことから、亜鉛デンドライトによる正負極間の短絡及び二酸化炭素の混入に伴う問題が解決すれば高容量二次電池としての実現性が高いものと言われている。したがって、亜鉛空気二次電池において、亜鉛デンドライトによる短絡及び二酸化炭素の混入の両方を防止する技術が強く望まれている。
【0006】
そのような問題ないし要望に対処する技術として、特許文献1(国際公開第2013/073292号)には、セパレータとして水酸化物イオン伝導性の無機固体電解質体を用い、かつ、無機固体電解質体を空気極の一面側に密着させて設けることにより、充電時における亜鉛デンドライトによる正負極間の短絡と、二酸化炭素の電解液への混入との両方を防止する試みが提案されている。また、この文献には、無機固体電解質体が、一般式:M2+ 1-x3+ (OH)n- x/n・mHO(式中、M2+は2価の陽イオンであり、M3+は3価の陽イオンであり、An-はn価の陰イオンであり、nは1以上の整数、xは0.1~0.4である)の基本組成を有する層状複水酸化物からなるものが好ましいことも記載されている。
【0007】
一方、高電圧や大電流を得るために、複数の単電池を組み合わせて作られた組電池が広く採用されている。組電池は、単電池を複数直列または並列に接続した積層体が一つの電池容器内に収納された構成を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2013/073292号
【発明の概要】
【0009】
本出願人は、水酸化物イオン伝導性を有するが透水性及び通気性を有しない程に高度に緻密化されたセラミックスセパレータ(無機固体電解質セパレータ)の開発に先だって成功している。また、そのようなセラミックスセパレータを多孔質基材(例えばアルミナ多孔質基材)上に形成することにも成功している。このようなセパレータ(あるいは多孔質基材付きセパレータ)を用いて亜鉛空気二次電池を構成した場合、充電時に生成する亜鉛デンドライトによるセパレータの貫通を物理的に阻止して正負極間の短絡を防止し、かつ、空気中の二酸化炭素の侵入を阻止して電解液中での(二酸化炭素に起因する)アルカリ炭酸塩の析出を防止できる。そして、この効果を最大限に発揮させるためには、水酸化物イオン伝導性セラミックスセパレータで電池容器内を空気極側と負極側に確実に仕切ることが望まれる。特に、かかる構成を確保しながら、高電圧や大電流を得るために、複数の単電池を組み合わせて組電池を効率よく組み立てることができれば極めて好都合である。
【0010】
本発明者らは、今般、電池容器等の構成材料として堅い材料ではなく可撓性フィルムを用いることで、空気極及び負極間が水酸化物イオン伝導性セパレータで確実に隔離された亜鉛空気電池の単電池(セル)を、取扱い性に優れ、かつ、組電池の組み立てに極めて有利なセルパックの形態で提供できるとの知見を得た。
【0011】
したがって、本発明の目的は、空気極及び負極間が水酸化物イオン伝導性セパレータで確実に隔離された亜鉛空気電池の単電池(セル)を、取扱い性に優れ、かつ、組電池の組み立てに極めて有利なセルパックの形態で提供することにある。
【0012】
本発明の一態様によれば、可撓性フィルムで形成され且つ開口部を備えた可撓性袋体と、
前記開口部を気密かつ液密に閉塞して前記可撓性袋体と共に密閉空間を形成する、水酸化物イオン伝導性を有するが透水性及び通気性を有しないセパレータを含むセパレータ構造体と、
前記セパレータの前記密閉空間と反対側に設けられる空気極と、
前記密閉空間に収容される、亜鉛、亜鉛合金及び/又は亜鉛化合物を含んでなる負極と、
前記密閉空間に収容されて前記負極が浸漬される、アルカリ金属水酸化物水溶液を含んでなる電解液と、
を備えた、亜鉛空気電池セルパックが提供される。
【0013】
本発明の他の一態様によれば、電池容器内に、上記態様による亜鉛空気電池セルパックが複数個詰め込まれた、組電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A】本発明による亜鉛空気電池セルパックの一例を模式的に示す図である。
図1B】本発明による組電池における複数個の亜鉛空気電池セルパックの配置例を模式的に示す図である。
図2】多孔質基材付きセパレータの一態様を示す模式断面図である。
図3】多孔質基材付きセパレータの他の一態様を示す模式断面図である。
図4】層状複水酸化物(LDH)板状粒子を示す模式図である。
図5】例1で作製したアルミナ製多孔質基材の表面のSEM画像である。
図6】例1において試料の結晶相に対して得られたXRDプロファイルである。
図7】例1において観察された膜試料の表面微構造を示すSEM画像である。
図8】例1において観察された複合材料試料の研磨断面微構造のSEM画像である。
図9A】例1で使用された緻密性判別測定系の分解斜視図である。
図9B】例1で使用された緻密性判別測定系の模式断面図である。
図10A】例1の緻密性判定試験IIで使用された測定用密閉容器の分解斜視図である。
図10B】例1の緻密性判定試験IIで使用された測定系の模式断面図である。
図11A】例3(参考例)におけるニッケル亜鉛電池セルパックの製造のための、中仕切りシートの各構成部材の位置関係を模式的に示す上面図である。
図11B】例3(参考例)における中仕切りシートの作製手順を示す工程図である。
図12】例3(参考例)において作製した中仕切りシートの写真である。
図13】例3(参考例)におけるニッケル亜鉛電池セルパックの組み立て手順を示す工程図である。
図14】例3(参考例)において作製された、外周縁3辺が熱融着接合された可撓性袋体を正極側から撮影した写真である。
図15A】例3(参考例)において作製された、外周縁3辺が熱融着接合された可撓性袋体を負極側から撮影した写真である。
図15B図15Aにおける可撓性袋体の上端部の枠で強調された部分の拡大写真である。
図16】例3(参考例)において作製されたニッケル亜鉛電池セルパック(上端部の開放部分が熱融着接合されたもの)を撮影した写真である。
図17】セパレータ、多孔質基材及び枠の好ましい配置の一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
亜鉛空気電池セルパック
本発明は亜鉛空気電池セルパックに関する。本明細書において「亜鉛空気電池セルパック」とは亜鉛空気電池(好ましくは亜鉛空気二次電池)の単電池(セル)を備えたパッケージであり、パッケージを構成する包装材料が可撓性を有する(すなわちフレキシブルな)ものである。図1Aに、本発明による亜鉛空気電池セルパックの一例を模式的に示す。図1Aに示される亜鉛空気電池セルパック10は、可撓性袋体12と、セパレータ構造体14と、空気極16と、負極18と、電解液20とを備える。可撓性袋体12は、可撓性フィルム12a,12bで形成され且つ開口部12cを備える。セパレータ構造体14は、水酸化物イオン伝導性を有するが透水性及び通気性を有しないセパレータ28を含む構造体であり、開口部12cを気密かつ液密に閉塞して可撓性袋体12と共に密閉空間22を形成する。空気極16は、セパレータ28の密閉空間22と反対側に設けられる。負極18は、亜鉛、亜鉛合金及び/又は亜鉛化合物を含んでなり、密閉空間22に収容される。電解液20はアルカリ金属水酸化物水溶液を含んでなる液であり、密閉空間22に収容されて負極18が浸漬される。なお、空気極16及び負極18にはそれぞれ集電体(図1Aでは空気極集電体17及び負極集電体19)、配線及び/又は端子が接続されて、セルパック10の外部に電気を取り出せるように構成されることはいうまでもない。
【0016】
このように、本発明によれば、電池容器等の構成材料として堅い材料ではなく可撓性フィルムを用いることで、空気極及び負極間が水酸化物イオン伝導性セパレータで確実に隔離された亜鉛空気電池の単電池(セル)を、取扱い性に優れ、かつ、組電池の組み立てに極めて有利なセルパックの形態で提供できる。すなわち、亜鉛空気電池セルパック10はセパレータ構造体14で開口部12cが気密かつ液密に閉塞された可撓性袋体12内に、空気極16、負極18及び電解液20が全てコンパクトに収容できるため、液漏れが無く、持ち運びもしやすく、それ故、取扱い性に優れる。その上、亜鉛空気電池セルパック10は可撓性フィルム12a,12bで形成される可撓性袋体12内に電解液20が収容されているため、セルパック10全体としてフレキシブル性に富んだ形態を有している。すなわち、空気極16、負極18及びセパレータ構造体14はフレキシブル性が無いか又は劣るものの、可撓性フィルム12a,12bのフレキシブル性が電解液の流動性と相まって、セルパック10全体として組電池の組み立てに好都合なフレキシブル性を与えることができる。特に、組電池を構成する場合、単電池が硬い材料で構成されていると、複数の単電池を収容する組電池用の電池容器との間で寸法公差が問題となりやすい。すなわち、単電池の寸法精度を高くしないと組電池構成時に電池容器に上手く収容できなくなることが起こりうる。例えば、電池容器に単電池をきつく詰め込んだ場合に過度に応力が発生する一方、電池容器に単電池を緩く組み込んだ場合には無駄な隙間が形成されうる。特に単電池に過度な応力が加わった場合、電池性能への悪影響が懸念される。この点、本発明による亜鉛空気電池セルパック10は全体としてフレキシブル性に富んでいるため、図1Bに模式的に示されるように組電池100用の電池容器102に複数個のセルパック10を収容する際、寸法公差等の設計上の要件をそれ程気にすることなく、複数の(望ましくはできるだけ多くの)セルパック10を電池容器に容易に詰め込むことができる。すなわち、亜鉛空気電池の単電池(セル)としての所望の機能がセルパック10単位で十分に確保されているため、スペーサ等で空気極16への空気の供給経路さえ確保しさえすれば、組電池用の電池容器内に複数個のセルパック10を比較的ラフに詰め込み、互いに直列ないし並列に接続するだけで、所望の性能の組電池を容易に得ることができる。比較的ラフに詰め込んだとしても、セルパック10内のフレキシブル性(及びその中の電解液の流動性)により応力が容易に分散され、組電池及びその内部の単電池の構造安定性及び性能安定性が確保されるからである。その上、セルパック10内では空気極16と負極18が水酸化物イオン伝導性を有するが透水性及び通気性を有しないセパレータ28を含むセパレータ構造体14で確実に隔離されているため、充放電に伴い負極18から空気極16に向かって成長する亜鉛デンドライトをセパレータ28で阻止し、それにより亜鉛デンドライトによる正負極間の短絡を効果的に防止することができる。その上、空気中の二酸化炭素の侵入を阻止して電解液中での(二酸化炭素に起因する)アルカリ炭酸塩の析出をも効果的に防止することができる。
【0017】
可撓性袋体
可撓性袋体12は可撓性フィルムで形成された袋状のフレキシブルなパッケージであり、開口部12cを備えている。可撓性袋体12を構成する可撓性フィルムは樹脂フィルムを含んでなるのが好ましい。樹脂フィルムは水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物に対する耐性を有し、かつ、熱融着による接合が可能なものであるのが好ましく、例えば、PP(ポリプロピレン)フィルム、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、PVC(ポリ塩化ビニル)フィルム等が挙げられる。樹脂フィルムを含む可撓性フィルムとして、市販のラミネートフィルムが使用可能であり、好ましいラミネートフィルムとしては、ベースフィルム(例えばPETフィルムやPPフィルム)及び熱可塑性樹脂層を備えた2層以上の構成の熱ラミネートフィルムが挙げられる。可撓性フィルム(例えばラミネートフィルム)の好ましい厚さは、20~500μmであり、より好ましくは30~300μm、さらに好ましくは50~150μmである。図1Aに示されるように、可撓性袋体12は一対の可撓性フィルム12a,12bからなり、一対の可撓性フィルム12a,12bの外周縁が熱融着により封止されているのが好ましい。上記外周縁が封止されることで、開口部12cを閉塞するセパレータ構造体14と相まって、電解液20を液漏れ無く且つ外気(例えば空気中の二酸化炭素)の侵入も無く、確実に可撓性袋体12内に保持することができる。熱融着による接合ないし封止は市販のヒートシール機等を用いて行えばよい。
【0018】
セパレータ構造体
セパレータ構造体14は、開口部12cを気密かつ液密に閉塞して可撓性袋体12と共に密閉空間22を形成する構造体である。このセパレータ構造体14は、水酸化物イオン伝導性を有するが透水性及び通気性を有しないセパレータを含んでおり、それにより空気極16と密閉空間22の間で水酸化物イオンの伝導を許容するが液体連通及び気体連通を許容しないように構成される。セパレータ構造体14はセパレータ28の外周縁に沿って枠32を備えるのが好ましく、可撓性フィルム12bとセパレータ構造体14とが枠32を介して液密かつ気密に接着されているのが好ましい。枠32が樹脂枠であるのが好ましく、可撓性フィルム12bと樹脂枠32とが接着剤及び/又は熱融着により接着されているのがより好ましい。接着剤はエポキシ樹脂系接着剤が耐アルカリ性に特に優れる点で好ましい。ホットメルト接着剤を用いてもよい。いずれにしても、可撓性フィルム12bと枠32の接合部分では液密性が確保されることが望まれる。枠32を構成する樹脂は水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物に対する耐性を有する樹脂であるのが好ましく、より好ましくはポリオレフィン樹脂、ABS樹脂、PP樹脂、PE樹脂、又は変性ポリフェニレンエーテルであり、さらに好ましくはABS樹脂、PP樹脂、PE樹脂、又は変性ポリフェニレンエーテルである。
【0019】
セパレータ28は水酸化物イオン伝導性を有するが透水性及び通気性を有しない部材であり、典型的には板状、膜状又は層状の形態である。なお、本明細書において「透水性を有しない」とは、後述する例1で採用される「緻密性判定試験I」又はそれに準ずる手法ないし構成で透水性を評価した場合に、測定対象物(例えばLDH膜及び/又は多孔質基材)の一面側に接触した水が他面側に透過しないことを意味する。すなわち、セパレータ28が透水性及び通気性を有しないということは、セパレータ28が水も気体も通さない程の高度な緻密性を有することを意味し、透水性及び通気性を有する多孔性フィルムやその他の多孔質材料ではないことを意味する。このため、充電時に生成する亜鉛デンドライトによるセパレータの貫通を物理的に阻止して正負極間の短絡を防止するのに極めて効果的な構成となっている。もっとも、図1Aに示されるようにセパレータ28に多孔質基材30が付設されてよいのはいうまでもない。いずれにしても、セパレータ28は水酸化物イオン伝導性を有するため、空気極16と電解液20との間で必要な水酸化物イオンの効率的な移動を可能として空気極16及び負極18における充放電反応を実現することができる。
【0020】
セパレータ28は無機固体電解質体からなるのが好ましい。セパレータ28として水酸化物イオン伝導性の無機固体電解質体を用いることで、正負極間の電解液を隔離するとともに水酸化物イオン伝導性を確保する。そして、セパレータ28を構成する無機固体電解質は典型的には緻密で硬い無機固体であるため、充電時に生成する亜鉛デンドライトによるセパレータの貫通を物理的に阻止して正負極間の短絡を防止することが可能となる。その結果、亜鉛空気電池の信頼性を大幅に向上することができる。無機固体電解質体は透水性及び通気性を有しない程にまで緻密化されていることが望まれる。例えば、無機固体電解質体は、アルキメデス法で算出して、90%以上の相対密度を有するのが好ましく、より好ましくは92%以上、さらに好ましくは95%以上であるが、亜鉛デンドライトの貫通を防止する程度に緻密で硬いものであればこれに限定されない。このような緻密で硬い無機固体電解質体は水熱処理を経て製造することが可能である。したがって、水熱処理を経ていない単なる圧粉体は、緻密でなく、溶液中で脆いことから本発明の無機固体電解質体として好ましくない。もっとも、水熱処理を経たものでなくても、緻密で硬い無機固体電解質体が得られるかぎりにおいて、あらゆる製法が採用可能である。
【0021】
セパレータ28ないし無機固体電解質体は、水酸化物イオン伝導性を有する無機固体電解質を含んで構成される粒子群と、これら粒子群の緻密化や硬化を助ける補助成分との複合体であってもよい。あるいは、セパレータ28は、基材としての開気孔性の多孔質体と、この多孔質体の孔を埋めるように孔中に析出及び成長させた無機固体電解質(例えば層状複水酸化物)との複合体であってもよい。この多孔質体を構成する物質の例としては、アルミナ、ジルコニア等のセラミックスや、発泡樹脂又は繊維状物質からなる多孔性シート等の絶縁性の物質が挙げられる。
【0022】
無機固体電解質体は、層状複水酸化物(LDH)を含むのが好ましく、より好ましくはLDHからなる。典型的には、LDHは、一般式:M2+ 1-x3+ (OH)n- x/n・mHO(式中、M2+は2価の陽イオンであり、M3+は3価の陽イオンであり、An-はn価の陰イオンであり、nは1以上の整数であり、xは0.1~0.4であり、mは0以上である)の基本組成を有する。上記一般式において、M2+は任意の2価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはMg2+、Ca2+及びZn2+が挙げられ、より好ましくはMg2+である。M3+は任意の3価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはAl3+又はCr3+が挙げられ、より好ましくはAl3+である。An-は任意の陰イオンでありうるが、好ましい例としてはOH及びCO 2-が挙げられる。したがって、上記一般式において、M2+がMg2+を含み、M3+がAl3+を含み、An-がOH及び/又はCO 2-を含むのが好ましい。nは1以上の整数であるが、好ましくは1又は2である。xは0.1~0.4であるが、好ましくは0.2~0.35である。また、上記一般式においてM3+の一部または全部を4価またはそれ以上の価数の陽イオンで置き換えてもよく、その場合は、上記一般式における陰イオンAn-の係数x/nは適宜変更されてよい。mは水のモル数を意味する任意の数であり、0以上、典型的には0を超える又は1以上の実数ないし整数である。
【0023】
無機固体電解質体は水熱処理によって緻密化されたものであるのが好ましい。水熱処理は、層状複水酸化物、とりわけMg-Al型層状複水酸化物の一体緻密化に極めて有効である。水熱処理による緻密化は、例えば、特許文献1(国際公開第2013/073292号)に記載されるように、耐圧容器に純水と板状の圧粉体を入れ、120~250℃、好ましくは180~250℃の温度、2~24時間、好ましくは3~10時間で行うことができる。もっとも、水熱処理を用いたより好ましい製造方法については後述するものとする。
【0024】
無機固体電解質体は、板状、膜状又は層状のいずれの形態であってもよく、膜状又は層状の形態である場合、膜状又は層状の無機固体電解質体が多孔質基材上又はその中に形成されたものであるのが好ましい。板状の形態であると十分な堅さを確保して亜鉛デンドライトの貫通をより効果的に阻止することができる。一方、板状よりも厚さが薄い膜状又は層状の形態であると亜鉛デンドライトの貫通を阻止するための必要最低限の堅さを確保しながらセパレータの抵抗を有意に低減できるとの利点がある。板状の無機固体電解質体の好ましい厚さは、0.01~0.5mmであり、より好ましくは0.02~0.2mm、さらに好ましくは0.05~0.1mmである。また、無機固体電解質体の水酸化物イオン伝導度は高ければ高い方が望ましいが、典型的には10-4~10-1S/mの伝導度を有する。一方、膜状又は層状の形態の場合には、厚さが100μm以下であるのが好ましく、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは50μm以下、特に好ましくは25μm以下、最も好ましくは5μm以下である。このように薄いことでセパレータ28の低抵抗化を実現できる。厚さの下限値は用途に応じて異なるため特に限定されないが、セパレータ膜ないし層として望まれるある程度の堅さを確保するためには厚さ1μm以上であるのが好ましく、より好ましくは2μm以上である。
【0025】
セパレータ28の少なくともいずれか一方の側に多孔質基材30を設けてもよい。好ましくは、セパレータ28の負極18側(密閉空間22側)に多孔質基材30が設けられるが、後述するようにその逆であってもよい。多孔質基材30は透水性を有し、それ故電解液20がセパレータ28に到達可能であることはいうまでもないが、多孔質基材30があることでセパレータ28上により安定に水酸化物イオンを保持することも可能となる。また、多孔質基材30により強度を付与できるため、セパレータ28を薄くして低抵抗化を図ることもできる。また、多孔質基材30上又はその中に無機固体電解質体(好ましくはLDH)の緻密膜ないし緻密層を形成することもできる。セパレータ28の片面に多孔質基材を設ける場合には、多孔質基材を用意して、この多孔質基材に無機固体電解質を成膜する手法が考えられる(この手法については後述する)。なお、図1Aにおいて多孔質基材30はセパレータ28の片面の全面にわたって設けられているが、セパレータ28の片面の一部(例えば充放電反応に関与する領域)にのみ設ける構成としてもよい。例えば、多孔質基材30上又はその中に無機固体電解質体を膜状又は層状に形成した場合、その製法に由来して、セパレータ28の片面の全面にわたって多孔質基材30が設けられた構成になるのが典型的である。一方、無機固体電解質体を(基材を必要としない)自立した板状に形成した場合には、セパレータ28の片面の一部(例えば充放電反応に関与する領域)にのみ多孔質基材30を後付けしてもよいし、片面の全面にわたって多孔質基材30を後付けしてもよい。
【0026】
セパレータ構造体14がセパレータ28の一方の側に多孔質基材30を備える場合、セパレータ28は多孔質基材30の空気極16側及び負極18側(密閉空間22側)のいずれに設けられてもよい。例えば、セパレータ28を多孔質基材30の負極18側(密閉空間22側)に設けた場合、セパレータ28(例えばLDH緻密膜)の多孔質基材30からの剥離をより効果的に抑制することができる。すなわち、負極18に由来して亜鉛デンドライトが成長してセパレータ28に到達した場合に、亜鉛デンドライトの成長に伴い発生しうる応力が、セパレータ28を多孔質基材30に押し付ける方向に働くことになり、その結果、セパレータ28が多孔質基材30から剥離しにくくなる。この場合、セパレータ28及び空気極16間の水酸化物イオン伝導性を確保するため、多孔質基材30中にセパレータ28の一部又は全部が組み込まれている、且つ/又は多孔質基材30中に水酸化物イオン伝導性材料が組み込まれているのが好ましい。
【0027】
前述のとおり、セパレータ構造体14はセパレータ28の外周縁に沿って枠32を備えるのが好ましく、枠32は樹脂枠であるのがより好ましい。図17に、セパレータ28が多孔質基材30の負極18側に設けられる場合(すなわち多孔質基材30がセパレータ28の空気極16側に設けられる場合)における、枠32を備えたセパレータ構造体14の好ましい態様が示される。図17に示される態様における枠32は、セパレータ28及び多孔質基材30を収容可能な開口部を有する外枠部32aと、外枠部32aの空気極16側の端部及び/又はその近傍から開口部に向かって延在する内枠部32bとを備える。そして、内枠部32bが多孔質基材30の空気極16側と係合する。そして、多孔質基材30と枠32(すなわち外枠部32a及び内枠部32b)との間、又は多孔質基材30及びセパレータ28の両方と枠32(すなわち外枠部32a及び内枠部32b)との間が接着剤31で液密に封止されているのが好ましい。かかる構成によれば、負極18に由来して亜鉛デンドライトが成長してセパレータ28に到達した場合に、亜鉛デンドライトの成長に伴い発生しうる応力が、多孔質基材30を内枠部32bに押し付ける方向に働くことになり、その結果、多孔質基材30と内枠部32bとの間で接着剤31を圧縮して接着剤31による液密封止効果及び接着効果を向上させることができる。すなわち、接着剤31を引っ張る方向ではなく圧縮する方向に上記応力を作用させることができるので、仮に亜鉛デンドライトによる応力が加わったとしても、接着剤31の引っ張りによる枠32の剥離を効果的に回避することができる。もっとも、内枠部32a及び外枠部32bを備えた枠32は、セパレータ28が多孔質基材30の空気極16側に設けられる場合においても採用可能であることはいうまでもない。
【0028】
また、負極18とセパレータ28の間に不織布等の吸水性樹脂又は保液性樹脂製の第2のセパレータ(樹脂セパレータ)を配置して、電解液が減少した場合であっても電解液を負極の反応部分に電解液を保持可能とする構成としてもよい。吸水性樹脂又は保液性樹脂の好ましい例としては、ポリオレフィン系樹脂が挙げられる。
【0029】
空気極
空気極16は、亜鉛空気電池等の金属空気電池に使用される公知の空気極であってよく特に限定されない。空気極16は、空気極触媒、電子伝導性材料、及び所望により水酸化物イオン伝導性材料を含んでなるのが典型的である。もっとも、電子伝導性材料としても機能する空気極触媒を用いる場合には、空気極16は、そのような電子伝導性材料兼空気極触媒、及び所望により水酸化物イオン伝導性材料を含んでなるものであってもよい。
【0030】
空気極触媒は、金属空気電池における正極として機能するものであれば特に限定されず、酸素を正極活物質として利用可能な種々の空気極触媒が使用可能である。空気極触媒の好ましい例としては、黒鉛等の酸化還元触媒機能を有するカーボン系材料、白金、ニッケル等の酸化還元触媒機能を有する金属、ペロブスカイト型酸化物、二酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化コバルト、スピネル酸化物等の酸化還元触媒機能を有する無機酸化物が挙げられる。空気極触媒の形状は特に限定されないが、粒子形状であるのが好ましい。空気極16における空気極触媒の含有量は特に限定されないが、空気極16の合計量に対して、5~70体積%が好ましく、より好ましくは5~60体積%、さらに好ましくは5~50体積%である。
【0031】
電子伝導性材料は、導電性を有し、空気極触媒とセパレータ28(又は該当する場合には後述する中間層)との間で電子伝導を可能とするものであれば特に限定されない。電子伝導性材料の好ましい例としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類、鱗片状黒鉛のような天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛等のグラファイト類、炭素繊維、金属繊維等の導電性繊維類、銅、銀、ニッケル、アルミニウム等の金属粉末類、ポリフェニレン誘導体等の有機電子伝導性材料、及びこれらの任意の混合物が挙げられる。電子伝導性材料の形状は、粒子形状であってもよいし、その他の形状であってもよいが、空気極16において厚さ方向に連続した相(即ち電子伝導相)をもたらす形態で用いられるのが好ましい。例えば、電子伝導性材料は、多孔質材料であってもよい。また、電子伝導性材料は空気極触媒との混合物ないし複合体の形態(例えば白金担持カーボン)であってもよく、前述したように電子伝導性材料としても機能する空気極触媒(例えば遷移金属を含有するペロブスカイト型化合物)であってもよい。空気極16における電子伝導性材料の含有量は特に限定されないが、空気極16の合計量に対して、10~80体積%が好ましく、より好ましくは15~80体積%、さらに好ましくは20~80体積%である。
【0032】
空気極16は、水酸化物イオン伝導性材料を任意成分としてさらに含んでいてもよい。特にセパレータ28が緻密質セラミックスである水酸化物イオン伝導性無機固体電解質からなる場合、そのようなセパレータ28上に(所望により水酸化物イオン伝導性を有する中間層を介在させて)、従来から使用される空気極触媒及び電子伝導性材料のみならず、水酸化物イオン伝導性材料をも含有させた空気極16を形成することで、緻密質セラミックス製のセパレータ28による所望の特性を確保しながら、金属空気電池において空気極の反応抵抗を低減することが可能となる。すなわち、空気極触媒及び電子伝導性材料のみならず、水酸化物イオン伝導性材料をも空気極16中に含有させることで、電子伝導相(電子伝導性材料)と、気相(空気)とからなる三相界面がセパレータ28(又は該当する場合には中間層)と空気極16の界面のみならず空気極16中にも存在することになり、電池反応に寄与する水酸化物イオンの授受がより広い表面積で効果的に行われることになる結果、金属空気電池において空気極の反応抵抗が低減されるものと考えられる。水酸化物イオン伝導性材料は、水酸化物イオンを透過可能な材料であれば特に限定されず、無機材料及び有機材料を問わず、各種の材質及び形態の材料が使用可能であり、前述した基本組成の層状複水酸化物であってもよい。水酸化物イオン伝導性材料は、粒子形態に限らず、空気極触媒及び電子伝導性材料を部分的に又は概ね全体的に被覆するような塗布膜の形態であってもよい。もっとも、この塗布膜の形態においても、イオン伝導性材料は緻密質ではなく、開気孔を有しており、空気極16の外側表面からセパレータ28(又は該当する場合には中間層)との界面に向かって、OやHOが気孔中を拡散できるように構成されるのが望ましい。空気極16における水酸化物イオン伝導性材料の含有量は特に限定されないが、空気極16の合計量に対して、0~95体積%が好ましく、より好ましくは5~85体積%、さらに好ましくは10~80体積%である。
【0033】
空気極16の形成はあらゆる手法で行われてよく、特に限定されない。例えば、空気極触媒、電子伝導性材料、及び所望により水酸化物イオン伝導性材料をエタノール等の溶媒を用いて湿式混合して乾燥及び解砕した後、バインダーと混合してフィブリル化し、得られたフィブリル状混合物を集電体に圧着して空気極16を形成し、この空気極16/集電体の積層シートの空気極16側をセパレータ28(又は該当する場合には中間層)に圧着してもよい。あるいは、空気極触媒、電子伝導性材料、及び所望により水酸化物イオン伝導性材料をエタノール等の溶媒と共に湿式混合してスラリー化し、このスラリーを中間層に塗布して乾燥させて空気極16を形成してもよい。したがって、空気極16はバインダーを含んでいてもよい。バインダーは、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂であってよく特に限定されない。
【0034】
空気極16は5~200μmの厚さを有する層状の形態であるのが好ましく、より好ましくは5~100μmであり、さらに好ましくは5~50μm、特に好ましくは5~30μmである。例えば、水酸化物イオン伝導性材料を含む場合、上記範囲内の厚さであると、ガス拡散抵抗の増大を抑えながら三相界面の面積を比較的大きく確保することができ、空気極の反応抵抗の低減をより好ましく実現することができる。
【0035】
セパレータ28及び空気極16の間には中間層が設けられてもよい。中間層はセパレータ28と空気極16の密着性を向上し、かつ、水酸化物イオン伝導性を有するものであれば特に限定されず、有機材料及び無機材料を問わず、公知各種の組成及び構成の層であることができる。中間層は高分子材料及び/又はセラミックス材料を含んでなるのが好ましく、この場合、中間層に含まれる高分子材料及びセラミックス材料の少なくともいずれか一方が水酸化物イオン伝導性を有していればよい。中間層は複数設けられてもよく、これら複数の中間層は互いに同種の及び/又は異なる層であってよい。すなわち、中間層は単層構成であってもよいし、2層以上の構成であってもよい。中間層は1~200μmの厚さを有するのが好ましく、より好ましくは1~100μmであり、さらに好ましくは1~50μm、特に好ましくは1~30μmである。このような厚さであると、セパレータ28と空気極16の密着性を向上しやすく、亜鉛空気二次電池において電池抵抗(特に空気極及びセパレータ間の界面抵抗)をより効果的に低減することができる。
【0036】
負極
負極18は、負極活物質として機能する亜鉛、亜鉛合金及び/又は亜鉛化合物を含んでなる。負極18は、粒子状、板状、ゲル状等のいかなる形状又は形態であってもよいが、粒子状またはゲル状とするのが反応速度の点で好ましい。粒子状の負極としては、30~350μmの粒径のものを好ましく用いることができる。ゲル状の負極としては、100~300μmの粒径の無汞化亜鉛合金粉、アルカリ電解液及び増粘剤(ゲル化剤)を混合攪拌してゲル状に形成したものを好ましく用いることができる。亜鉛合金は、マグネシウム、アルミニウム、リチウム、ビスマス、インジウム、鉛等の汞化又は無汞化の合金であることができ、負極活物質として所望の性能を確保できる限り、その含有量は特に限定されない。好ましい亜鉛合金は、無水銀かつ鉛無添加の無汞化亜鉛合金であり、アルミニウム、ビスマス、インジウム又はこれらの組合せを含むものがより好ましい。さらに好ましくは、ビスマスを50~1000ppm、インジウムを100~1000ppmで、アルミニウム及び/又はカルシウムを10~100ppm含む無汞化亜鉛合金であり、特に好ましくはビスマスを100~500ppm、インジウムを300~700ppm、アルミニウム及び/又はカルシウムを20~50ppm含む。好ましい亜鉛化合物の例としては酸化亜鉛が挙げられる。
【0037】
集電体
亜鉛空気電池セルパック10は、空気極16のセパレータ28と反対側に設けられる空気極集電体17と、負極18に接触して設けられる負極集電体19とをさらに備えるのが好ましい。この場合、負極集電体19が可撓性袋体12の外周縁から延出するのが好ましい。また、空気極集電体17も可撓性袋体12の外周縁に対応する位置から延出するのが好ましい。あるいは、空気極16及び負極18が、別途設けられた空気極端子及び負極端子に可撓性袋体12内又は外でそれぞれ接続される構成としてもよい。空気極集電体17は空気極16に空気が供給されるように通気性を有するのが好ましい。空気極集電体17の好ましい例としては、ステンレス鋼、銅、ニッケル等の金属板若しくは金属メッシュ、カーボンペーパー、カーボンクロス、及び電子伝導性酸化物等が挙げられ、耐食性及び通気性の点でステンレス金網が特に好ましい。負極集電体19の好ましい例としては、ステンレス鋼、銅(例えば銅パンチングメタル)、ニッケル等の金属板若しくは金属メッシュ、カーボンペーパー、及び酸化物導電体等が挙げられる。この場合、例えば、銅パンチングメタル上に、酸化亜鉛粉末及び/又は亜鉛粉末、並びに所望によりバインダー(例えばポリテトラフルオロエチレン粒子)を含んでなる混合物を塗布して負極/負極集電体からなる負極板を好ましく作製することができる。その際、乾燥後の負極板(すなわち負極18/負極集電体19)にプレス処理を施して、電極活物質の脱落防止や電極密度の向上を図ることも好ましい。
【0038】
第三電極
所望により、亜鉛空気電池セルパック10は、電解液20と接触するが負極18と接触しないように設けられる第三電極(図示せず)を備えてもよく、この場合、第三電極が外部回路を経て空気極16と接続されている。かかる構成とすることで、負極18から副反応により発生しうる水素ガスを第三電極に接触させて以下の反応:
第三電極: H+2OH→2HO+2e
空気極放電: O+2HO+4e→4OHにより水に戻すことができる。別の表現をすれば、負極18で発生した水素ガスが第三電極で吸収され自己放電をすることになる。これにより、水素ガスの発生による負極側密閉空間における内圧の上昇及びそれに伴う不具合を抑制又は回避できるとともに、(放電反応に伴い上記反応式に従い減少することになる)水を発生させて負極側密閉空間内での水不足を抑制又は回避することができる。すなわち、負極から発生した水素ガスを負極側密閉空間内で水に戻して再利用することができる。その結果、亜鉛デンドライトによる短絡及び二酸化炭素の混入の両方を防止するのに極めて効果的な構成を有しながら、水素ガス発生の問題にも対処可能な、信頼性の高い亜鉛空気二次電池を提供することができる。
【0039】
第三電極は、外部回路を経て空気極16と接続されることで、上述したような反応により水素ガス(H)を水(HO)に変換可能な電極であれば特に限定されないが、空気極16よりも酸素過電圧が大きいことが望まれる。また、第三電極は通常の充放電反応に関与しないことも望まれる。第三電極は、白金及び/又は炭素材料を含んでなるのが好ましく、より好ましくは炭素材料を含んでなる。炭素材料の好ましい例としては、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェン、活性炭、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。第三電極の形状は特に限定されないが、比表面積が大きくなるような形状(例えばメッシュ状や粒子状)とするのが好ましい。第三電極(好ましくは比表面積の大きい形状の第三電極)は集電体上に塗工及び/又は配置されるのがより好ましい。第三電極用の集電体はいかなる形状であってもよいが、好ましい例としては、線材(例えばワイヤ)、パンチングメタル、メッシュ、発泡金属、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。第三電極用集電体の材質としては第三電極の材質と同様の材質であってもよいし、金属(例えばニッケル)、合金又はその他の導電性材料であってもよい。
【0040】
第三電極は電解液20と接触するが、通常の充放電反応と直接関係の無い場所に配置されることが望ましい。この場合、負極側密閉空間内に第三電極と接触可能に不織布等の吸水性樹脂又は保液性樹脂製の保水部材を配置して、電解液が減少した場合であっても電解液20を第三電極と常時接触可能に保持する構成とするのが好ましい。保水部材として市販の電池用セパレータも使用可能である。吸水性樹脂又は保液性樹脂の好ましい例としては、ポリオレフィン系樹脂が挙げられる。第三電極は、必ずしも多量の電解液20で含浸されている必要はなく、少量ないし微量の電解液20で湿っている程度でも所望の機能を発揮することができるので、その程度の保水性能を保水部材が有していればよい。
【0041】
電解液
電解液20はアルカリ金属水酸化物水溶液を含んでなる。アルカリ金属水酸化物の例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられるが、水酸化カリウムがより好ましい。亜鉛合金の自己溶解を抑制するために、電解液中に酸化亜鉛、水酸化亜鉛等の亜鉛化合物を添加してもよい。前述のとおり、電解液20は空気極16及び/又は負極18と混合させて空気極合材及び/又は負極合材の形態で存在させてもよい。また、電解液の漏洩を防止するために電解液をゲル化してもよい。ゲル化剤としては電解液の溶媒を吸収して膨潤するようなポリマーを用いるのが望ましく、ポリエチレンオキサイド,ポリビニルアルコール,ポリアクリルアミドなどのポリマーやデンプンが用いられる。
【0042】
亜鉛空気電池セルパック10は、密閉空間22に充放電時の負極反応に伴う水分量の減増を許容する容積の余剰空間を含むのが好ましい。これにより密閉空間22における水分量の増減に伴う不具合(例えば、液漏れ、容器内圧の変化に伴う容器の変形等)を効果的に防止して、亜鉛空気の信頼性を更に向上することができる。すなわち、前述した反応式から分かるように、充電時には密閉空間22で水が減少する。一方、放電時には密閉空間22で水が増加する。この点、従来の殆どのセパレータは、透水性を有するものであるため、セパレータを介して水が自由に行き来できる。しかしながら、本発明に用いるセパレータ28は透水性を有しないという緻密性の高い構造を有するため、セパレータ28を介して水が自由に行き来できず、充放電に伴い密閉空間22内において電解液量が一方的に増大して液漏れ等の不具合を引き起こしうる。そこで、密閉空間22に充放電時の負極反応に伴う水分量の減増を許容する容積の余剰空間22aを有することで、放電時に電解液20の増加に対処可能なバッファとして機能させることができる。密閉空間22における水分の増減量は、前述した反応式に基づいて算出することができる。
【0043】
亜鉛空気電池セルパック10が放電末状態で構築される場合には、余剰空間22aが、充電時の負極反応に伴い減少することが見込まれる水分量を超える容積を有し、余剰空間22aには減少することが見込まれる量の電解液20が予め充填されているのが好ましい。一方、亜鉛空気電池セルパック10が満充電状態で構築される場合には、余剰空間22aが、放電時の負極反応に伴い増加することが見込まれる水分量を超える容積を有し、余剰空間22aには電解液20が予め充填されていないのが好ましい。
【0044】
本発明の亜鉛空気電池セルパック10は、可撓性袋体12、セパレータ構造体14、空気極16、及び負極18が縦に設けられるのが好ましい。この場合、図1Aに示されるように、密閉空間22がその上方に余剰空間22aを有するのが好ましい。もっとも、ゲル状の電解液を使用した場合には、電解液の減少にも関わらず密閉空間22の充放電反応部分に電解液を保持可能となるため、密閉空間22の上方以外の部分(例えば側方部分や下方部分)に余剰空間22aを設けることも可能となり、設計の自由度が増加する。
【0045】
組電池
前述のとおり、本発明による亜鉛空気電池セルパック10は全体としてフレキシブル性に富んでいるため、図1Bに模式的に示されるように組電池100用の電池容器102に複数個のセルパック10を収容する際、スペーサ等で空気極16への空気の供給経路さえ確保しさえすれば、寸法公差等の設計上の要件をそれ程気にすることなく、複数の(望ましくはできるだけ多くの)セルパック10を電池容器に容易に詰め込むことができる。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、電池容器102内に、本発明の亜鉛空気電池セルパック10が複数個詰め込まれている、組電池100が提供される。なお、各セルパック10の空気極16及び負極18にはそれぞれ集電体(図1Aでは空気極集電体17及び負極集電体19)、配線及び/又は端子が接続されて各セルパック10及び電池容器102の外部に電気を取り出せるように構成されることはいうまでもない。また、各セルパック10間にはスペーサ(図示せず)を介在させて、空気極16及び空気極集電体17への空気供給経路を確保するのが好ましい。電池容器102内において、複数の亜鉛空気電池セルパック10は互いに直列接続されてもよいし、互いに並列接続されてもよい。また、図1Bに示されるように電池容器102内は亜鉛空気電池セルパック10は縦向きに収容されるのが好ましいが、特段の不具合を生じないかぎり横向きに収容されてもよい。
【0046】
多孔質基材付きLDHセパレータ
前述のとおり、本発明の亜鉛空気電池セルパックに好ましく用いられる多孔質基材付きセパレータは、水酸化物イオン伝導性を有する無機固体電解質体からなるセパレータと、セパレータの少なくとも一方の面に設けられる多孔質基材とを備えたものである。無機固体電解質体は透水性及び通気性を有しない程に緻密化された膜状又は層状の形態である。特に好ましい多孔質基材付きセパレータは、多孔質基材と、この多孔質基材上及び/又は多孔質基材中に形成されるセパレータ層とを備えており、セパレータ層が前述したような層状複水酸化物(LDH)を含んでなるものである。セパレータ層は透水性及び通気性を有しないのが好ましい。すなわち、多孔質材料は孔の存在により透水性及び通気性を有しうるが、セパレータ層は透水性及び通気性を有しない程にまでLDHで緻密化されているのが好ましい。セパレータ層は多孔質基材上に形成されるのが好ましい。例えば、図2に示されるように、多孔質基材30上にセパレータ層28がLDH緻密膜として形成されるのが好ましい。この場合、多孔質基材30の性質上、図2に示されるように多孔質基材30の表面及びその近傍の孔内にもLDHが形成されてよいのはいうまでもない。あるいは、図3に示されるように、多孔質基材30中(例えば多孔質基材30の表面及びその近傍の孔内)にLDHが緻密に形成され、それにより多孔質基材30の少なくとも一部がセパレータ層28’を構成するものであってもよい。この点、図3に示される態様は図2に示される態様のセパレータ層28における膜相当部分を除去した構成となっているが、これに限定されず、多孔質基材30の表面と平行にセパレータ層が存在していればよい。いずれにしても、セパレータ層は透水性及び通気性を有しない程にまでLDHで緻密化されているため、水酸化物イオン伝導性を有するが透水性及び通気性を有しない(すなわち基本的に水酸化物イオンのみを通す)という特有の機能を有することができる。
【0047】
多孔質基材は、その上及び/又は中にLDH含有セパレータ層を形成できるものが好ましく、その材質や多孔構造は特に限定されない。多孔質基材上及び/又は中にLDH含有セパレータ層を形成するのが典型的ではあるが、無孔質基材上にLDH含有セパレータ層を成膜し、その後公知の種々の手法により無孔質基材を多孔化してもよい。いずれにしても、多孔質基材は透水性を有する多孔構造を有するのが、電池用セパレータとして電池に組み込まれた場合に電解液をセパレータ層に到達可能に構成できる点で好ましい。
【0048】
多孔質基材は、セラミックス材料、金属材料、及び高分子材料からなる群から選択される少なくとも1種で構成されるのが好ましい。多孔質基材は、セラミックス材料で構成されるのがより好ましい。この場合、セラミックス材料の好ましい例としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、スピネル、カルシア、コージライト、ゼオライト、ムライト、フェライト、酸化亜鉛、炭化ケイ素、及びそれらの任意の組合せが挙げられ、より好ましくは、アルミナ、ジルコニア、チタニア、及びそれらの任意の組合せであり、特に好ましくはアルミナ及びジルコニアであり、最も好ましくはアルミナである。これらの多孔質セラミックスを用いると緻密性に優れたLDH含有セパレータ層を形成しやすい。金属材料の好ましい例としては、アルミニウム及び亜鉛が挙げられる。高分子材料の好ましい例としては、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、親水化したフッ素樹脂(四フッ素化樹脂:PTFE等)、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。上述した各種の好ましい材料から電池の電解液に対する耐性として耐アルカリ性に優れたものを適宜選択するのが更に好ましい。
【0049】
多孔質基材は0.001~1.5μmの平均気孔径を有するのが好ましく、より好ましくは0.001~1.25μm、さらに好ましくは0.001~1.0μm、特に好ましくは0.001~0.75μm、最も好ましくは0.001~0.5μmである。これらの範囲内とすることで多孔質基材に所望の透水性を確保しながら、透水性を有しない程に緻密なLDH含有セパレータ層を形成することができる。本発明において、平均気孔径の測定は多孔質基材の表面の電子顕微鏡(SEM)画像をもとに気孔の最長距離を測長することにより行うことができる。この測定に用いる電子顕微鏡(SEM)画像の倍率は20000倍であり、得られた全ての気孔径をサイズ順に並べて、その平均値から上位15点及び下位15点、合わせて1視野あたり30点で2視野分の平均値を算出して、平均気孔径を得ることができる。測長には、SEMのソフトウェアの測長機能や画像解析ソフト(例えば、Photoshop、Adobe社製)等を用いることができる。
【0050】
多孔質基材の表面は、10~60%の気孔率を有するのが好ましく、より好ましくは15~55%、さらに好ましくは20~50%である。これらの範囲内とすることで多孔質基材に所望の透水性を確保しながら、透水性を有しない程に緻密なLDH含有セパレータ層を形成することができる。ここで、多孔質基材の表面の気孔率を採用しているのは、以下に述べる画像処理を用いた気孔率の測定がしやすいことによるものであり、多孔質基材の表面の気孔率は多孔質基材内部の気孔率を概ね表しているといえるからである。すなわち、多孔質基材の表面が緻密であれば多孔質基材の内部もまた同様に緻密であるといえる。本発明において、多孔質基材の表面の気孔率は画像処理を用いた手法により以下のようにして測定することができる。すなわち、1)多孔質基材の表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順で白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とする。なお、この画像処理による気孔率の測定は多孔質基材表面の6μm×6μmの領域について行われるのが好ましく、より客観的な指標とするためには、任意に選択された3箇所の領域について得られた気孔率の平均値を採用するのがより好ましい。
【0051】
セパレータ層は、多孔質基材上及び/又は多孔質基材中、好ましくは多孔質基材上に形成される。例えば、図2に示されるようにセパレータ層28が多孔質基材30上に形成される場合には、セパレータ層28はLDH緻密膜の形態であり、このLDH緻密膜は典型的にはLDHからなる。また、図3に示されるようにセパレータ層28’が多孔質基材30中に形成される場合には、多孔質基材30中(典型的には多孔質基材30の表面及びその近傍の孔内)にLDHが緻密に形成されることから、セパレータ層28’は典型的には多孔質基材30の少なくとも一部及びLDHからなる。図3に示されるセパレータ層28’は、図2に示されるセパレータ層28における膜相当部分を研磨、切削等の公知の手法により除去することにより得ることができる。
【0052】
セパレータ層は透水性及び通気性を有しないのが好ましい。例えば、セパレータ層はその片面を25℃で1週間水と接触させても水を透過させず、また、その片面に0.5atmの内外差圧でヘリウムガスを加圧してもヘリウムガスを透過させない。すなわち、セパレータ層は透水性及び通気性を有しない程にまでLDHで緻密化されているのが好ましい。もっとも、局所的且つ/又は偶発的に透水性を有する欠陥が機能膜に存在する場合には、当該欠陥を適当な補修剤(例えばエポキシ樹脂等)で埋めて補修することで水不透性及び気体不透過性を確保してもよく、そのような補修剤は必ずしも水酸化物イオン伝導性を有する必要はない。いずれにしても、セパレータ層(典型的にはLDH緻密膜)の表面が20%以下の気孔率を有するのが好ましく、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下、特に好ましくは7%以下である。セパレータ層の表面の気孔率が低ければ低いほど、セパレータ層(典型的にはLDH緻密膜)の緻密性が高いことを意味し、好ましいといえる。ここで、セパレータ層の表面の気孔率を採用しているのは、以下に述べる画像処理を用いた気孔率の測定がしやすいことによるものであり、セパレータ層の表面の気孔率はセパレータ層内部の気孔率を概ね表しているといえるからである。すなわち、セパレータ層の表面が緻密であればセパレータ層の内部もまた同様に緻密であるといえる。本発明において、セパレータ層の表面の気孔率は画像処理を用いた手法により以下のようにして測定することができる。すなわち、1)セパレータ層の表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順で白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とする。なお、この画像処理による気孔率の測定はセパレータ層表面の6μm×6μmの領域について行われるのが好ましく、より客観的な指標とするためには、任意に選択された3箇所の領域について得られた気孔率の平均値を採用するのがより好ましい。
【0053】
層状複水酸化物は複数の板状粒子(すなわちLDH板状粒子)の集合体で構成され、当該複数の板状粒子がそれらの板面が多孔質基材の表面(基材面)と垂直に又は斜めに交差するような向きに配向しているのが好ましい。この態様は、図2に示されるように、多孔質基材30上にセパレータ層28がLDH緻密膜として形成される場合に特に好ましく実現可能な態様であるが、図3に示されるように、多孔質基材30中(典型的には多孔質基材30の表面及びその近傍の孔内)にLDHが緻密に形成され、それにより多孔質基材30の少なくとも一部がセパレータ層28’を構成する場合においても実現可能である。
【0054】
すなわち、LDH結晶は図4に示されるような層状構造を持った板状粒子の形態を有することが知られているが、上記垂直又は斜めの配向は、LDH含有セパレータ層(例えばLDH緻密膜)にとって極めて有利な特性である。というのも、配向されたLDH含有セパレータ層(例えば配向LDH緻密膜)には、LDH板状粒子が配向する方向(即ちLDHの層と平行方向)の水酸化物イオン伝導度が、これと垂直方向の伝導度よりも格段に高いという伝導度異方性があるためである。実際、本出願人は、LDHの配向バルク体において、配向方向における伝導度(S/cm)が配向方向と垂直な方向の伝導度(S/cm)と比べて1桁高いとの知見を得ている。すなわち、本態様のLDH含有セパレータ層における上記垂直又は斜めの配向は、LDH配向体が持ちうる伝導度異方性を層厚方向(すなわちセパレータ層又は多孔質基材の表面に対して垂直方向)に最大限または有意に引き出すものであり、その結果、層厚方向への伝導度を最大限又は有意に高めることができる。その上、LDH含有セパレータ層は層形態を有するため、バルク形態のLDHよりも低抵抗を実現することができる。このような配向性を備えたLDH含有セパレータ層は、層厚方向に水酸化物イオンを伝導させやすくなる。その上、緻密化されているため、層厚方向への高い伝導度及び緻密性が望まれるセパレータに極めて適する。
【0055】
特に好ましくは、LDH含有セパレータ層(典型的にはLDH緻密膜)においてLDH板状粒子が垂直方向に高度に配向している。この高度な配向は、セパレータ層の表面をX線回折法により測定した場合に、(003)面のピークが実質的に検出されないか又は(012)面のピークよりも小さく検出されることで確認可能なものである(但し、(012)面に起因するピークと同位置に回折ピークが観察される多孔質基材を用いた場合には、LDH板状粒子に起因する(012)面のピークを特定できないことから、この限りでない)。この特徴的なピーク特性は、セパレータ層を構成するLDH板状粒子がセパレータ層に対して垂直方向に配向していることを示す。ここで、本明細書において「垂直方向」とは厳密な垂直方向のみならずそれに類する略垂直方向を含む概念であることはいうまでもない。すなわち、(003)面のピークは無配向のLDH粉末をX線回折した場合に観察される最も強いピークとして知られているが、配向LDH含有セパレータ層にあっては、LDH板状粒子がセパレータ層に対して垂直方向に配向していることで(003)面のピークが実質的に検出されないか又は(012)面のピークよりも小さく検出される。これは、(003)面が属するc軸方向(00l)面(lは3及び6である)がLDH板状粒子の層状構造と平行な面であるため、このLDH板状粒子がセパレータ層に対して垂直方向に配向しているとLDH層状構造も垂直方向を向くこととなる結果、セパレータ層表面をX線回折法により測定した場合に(00l)面(lは3及び6である)のピークが現れないか又は現れにくくなるからである。特に(003)面のピークは、それが存在する場合、(006)面のピークよりも強く出る傾向があるから、(006)面のピークよりも垂直方向の配向の有無を評価しやすいといえる。したがって、配向LDH含有セパレータ層は、(003)面のピークが実質的に検出されないか又は(012)面のピークよりも小さく検出されるのが、垂直方向への高度な配向を示唆することから好ましいといえる。
【0056】
セパレータ層は100μm以下の厚さを有するのが好ましく、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは50μm以下、特に好ましくは25μm以下、最も好ましくは5μm以下である。このように薄いことでセパレータの低抵抗化を実現できる。セパレータ層が多孔質基材上にLDH緻密膜として形成されるのが好ましく、この場合、セパレータ層の厚さはLDH緻密膜の厚さに相当する。また、セパレータ層が多孔質基材中に形成される場合には、セパレータ層の厚さは多孔質基材の少なくとも一部及びLDHからなる複合層の厚さに相当し、セパレータ層が多孔質基材上及び中にまたがって形成される場合にはLDH緻密膜と上記複合層の合計厚さに相当する。いずれにしても、上記のような厚さであると、電池用途等への実用化に適した所望の低抵抗を実現することができる。LDH配向膜の厚さの下限値は用途に応じて異なるため特に限定されないが、セパレータ等の機能膜として望まれるある程度の堅さを確保するためには厚さ1μm以上であるのが好ましく、より好ましくは2μm以上である。
【0057】
上述した多孔質基材付きLDHセパレータは、(1)多孔質基材を用意し、(2)マグネシウムイオン(Mg2+)及びアルミニウムイオン(Al3+)を0.20~0.40mol/Lの合計濃度で含み、かつ、尿素を含んでなる原料水溶液に、多孔質基材を浸漬させ、(3)原料水溶液中で多孔質基材を水熱処理して、層状複水酸化物を含んでなるセパレータ層を多孔質基材上及び/又は多孔質基材中に形成させることにより製造することができる。
【0058】
(1)多孔質基材の用意
多孔質基材は、前述したとおりであり、セラミックス材料、金属材料、及び高分子材料からなる群から選択される少なくとも1種で構成されるのが好ましい。多孔質基材は、セラミックス材料で構成されるのがより好ましい。この場合、セラミックス材料の好ましい例としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、スピネル、カルシア、コージライト、ゼオライト、ムライト、フェライト、酸化亜鉛、炭化ケイ素、及びそれらの任意の組合せが挙げられ、より好ましくは、アルミナ、ジルコニア、チタニア、及びそれらの任意の組合せであり、特に好ましくはアルミナ及びジルコニアであり、最も好ましくはアルミナである。これらの多孔質セラミックスを用いるとLDH含有セパレータ層の緻密性を向上しやすい傾向がある。セラミックス材料製の多孔質基材を用いる場合、超音波洗浄、イオン交換水での洗浄等を多孔質基材に施すのが好ましい。
【0059】
(2)原料水溶液への浸漬
次に、多孔質基材を原料水溶液に所望の向きで(例えば水平又は垂直に)浸漬させる。多孔質基材を水平に保持する場合は、吊るす、浮かせる、容器の底に接するように多孔質基材を配置すればよく、例えば、容器の底から原料水溶液中に浮かせた状態で多孔質基材を固定としてもよい。多孔質基材を垂直に保持する場合は、容器の底に多孔質基材を垂直に設置できるような冶具を置けばよい。いずれにしても、多孔質基材にLDHを垂直方向又はそれに近い方向(すなわちLDH板状粒子がそれらの板面が多孔質基材の表面(基材面)と垂直に又は斜めに交差するような向きに)に成長させる構成ないし配置とするのが好ましい。原料水溶液は、マグネシウムイオン(Mg2+)及びアルミニウムイオン(Al3+)を所定の合計濃度で含み、かつ、尿素を含んでなる。尿素が存在することで尿素の加水分解を利用してアンモニアが溶液中に発生することによりpH値が上昇し、共存する金属イオンが水酸化物を形成することによりLDHを得ることができる。また、加水分解に二酸化炭素の発生を伴うため、陰イオンが炭酸イオン型のLDHを得ることができる。原料水溶液に含まれるマグネシウムイオン及びアルミニウムイオンの合計濃度(Mg2++Al3+)は0.20~0.40mol/Lが好ましく、より好ましくは0.22~0.38mol/Lであり、さらに好ましくは0.24~0.36mol/L、特に好ましくは0.26~0.34mol/Lである。このような範囲内の濃度であると核生成と結晶成長をバランスよく進行させることができ、配向性のみならず緻密性にも優れたLDH含有セパレータ層を得ることが可能となる。すなわち、マグネシウムイオン及びアルミニウムイオンの合計濃度が低いと核生成に比べて結晶成長が支配的となり、粒子数が減少して粒子サイズが増大する一方、この合計濃度が高いと結晶成長に比べて核生成が支配的となり、粒子数が増大して粒子サイズが減少するものと考えられる。
【0060】
好ましくは、原料水溶液に硝酸マグネシウム及び硝酸アルミニウムが溶解されており、それにより原料水溶液がマグネシウムイオン及びアルミニウムイオンに加えて硝酸イオンを含んでなる。そして、この場合、原料水溶液における、尿素の硝酸イオン(NO )に対するモル比(尿素/NO )が、2~6が好ましく、より好ましくは4~5である。
【0061】
(3)水熱処理によるLDH含有セパレータ層の形成
そして、原料水溶液中で多孔質基材を水熱処理して、LDHを含んでなるセパレータ層を多孔質基材上及び/又は多孔質基材中に形成させる。この水熱処理は密閉容器中、60~150℃で行われるのが好ましく、より好ましくは65~120℃であり、さらに好ましくは65~100℃であり、特に好ましくは70~90℃である。水熱処理の上限温度は多孔質基材(例えば高分子基材)が熱で変形しない程度の温度を選択すればよい。水熱処理時の昇温速度は特に限定されず、例えば10~200℃/hであってよいが、好ましくは100~200℃/hである、より好ましくは100~150℃/hである。水熱処理の時間はLDH含有セパレータ層の目的とする密度と厚さに応じて適宜決定すればよい。
【0062】
水熱処理後、密閉容器から多孔質基材を取り出し、イオン交換水で洗浄するのが好ましい。
【0063】
上記のようにして製造されたLDH含有複合材料におけるLDH含有セパレータ層は、LDH板状粒子が高度に緻密化したものであり、しかも伝導に有利な垂直方向に配向したものである。したがって、亜鉛デンドライト進展が実用化の大きな障壁となっている亜鉛空気二次電池に極めて好適といえる。
【0064】
ところで、上記製造方法により得られるLDH含有セパレータ層は多孔質基材の両面に形成されうる。このため、LDH含有複合材料をセパレータとして好適に使用可能な形態とするためには、成膜後に多孔質基材の片面のLDH含有セパレータ層を機械的に削るか、あるいは成膜時に片面にはLDH含有セパレータ層が成膜できないような措置を講ずるのが望ましい。
【実施例
【0065】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0066】
例1:多孔質基材付きLDHセパレータの作製及び評価
(1)多孔質基材の作製
ベーマイト(サソール社製、DISPAL 18N4-80)、メチルセルロース、及びイオン交換水を、(ベーマイト):(メチルセルロース):(イオン交換水)の質量比が10:1:5となるように秤量した後、混練した。得られた混練物を、ハンドプレスを用いた押出成形に付し、5cm×8cmを十分に超える大きさで且つ厚さ0.5cmの板状に成形した。得られた成形体を80℃で12時間乾燥した後、1150℃で3時間焼成して、アルミナ製多孔質基材を得た。こうして得られた多孔質基材を5cm×8cmの大きさに切断加工した。
【0067】
得られた多孔質基材について、画像処理を用いた手法により、多孔質基材表面の気孔率を測定したところ、24.6%であった。この気孔率の測定は、1)表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM-6610LV、JEOL社製)を用いて10~20kVの加速電圧で観察して多孔質基材表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順で白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とすることにより行った。この気孔率の測定は多孔質基材表面の6μm×6μmの領域について行われた。なお、図5に多孔質基材表面のSEM画像を示す。
【0068】
また、多孔質基材の平均気孔径を測定したところ約0.1μmであった。本発明において、平均気孔径の測定は多孔質基材の表面の電子顕微鏡(SEM)画像をもとに気孔の最長距離を測長することにより行った。この測定に用いた電子顕微鏡(SEM)画像の倍率は20000倍であり、得られた全ての気孔径をサイズ順に並べて、その平均値から上位15点及び下位15点、合わせて1視野あたり30点で2視野分の平均値を算出して、平均気孔径を得た。測長には、SEMのソフトウェアの測長機能を用いた。
【0069】
(2)多孔質基材の洗浄
得られた多孔質基材をアセトン中で5分間超音波洗浄し、エタノール中で2分間超音波洗浄、その後、イオン交換水中で1分間超音波洗浄した。
【0070】
(3)原料水溶液の作製
原料として、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO・6HO、関東化学株式会社製)、硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO・9HO、関東化学株式会社製)、及び尿素((NHCO、シグマアルドリッチ製)を用意した。カチオン比(Mg2+/Al3+)が2となり且つ全金属イオンモル濃度(Mg2++Al3+)が0.320mol/Lとなるように、硝酸マグネシウム六水和物と硝酸アルミニウム九水和物を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を600mlとした。得られた溶液を攪拌した後、溶液中に尿素/NO =4の割合で秤量した尿素を加え、更に攪拌して原料水溶液を得た。
【0071】
(4)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(内容量800ml、外側がステンレス製ジャケット)に上記(3)で作製した原料水溶液と上記(2)で洗浄した多孔質基材を共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように水平に設置した。その後、水熱温度70℃で168時間(7日間)水熱処理を施すことにより基材表面に層状複水酸化物配向膜(セパレータ層)の形成を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、70℃で10時間乾燥させて、層状複水酸化物(以下、LDHという)の緻密膜(以下、膜試料という)を基材上に得た。得られた膜試料の厚さは約1.5μmであった。こうして、層状複水酸化物含有複合材料試料(以下、複合材料試料という)を得た。なお、LDH膜は多孔質基材の両面に形成されていたが、セパレータとして形態を複合材料に付与するため、多孔質基材の片面のLDH膜を機械的に削り取った。
【0072】
(5)各種評価
(5a)膜試料の同定
X線回折装置(リガク社製 RINT TTR III)にて、電圧:50kV、電流値:300mA、測定範囲:10~70°の測定条件で、膜試料の結晶相を測定したところ、図6に示されるXRDプロファイルが得られた。得られたXRDプロファイルについて、JCPDSカードNO.35-0964に記載される層状複水酸化物(ハイドロタルサイト類化合物)の回折ピークを用いて同定した。その結果、膜試料は層状複水酸化物(LDH、ハイドロタルサイト類化合物)であることが確認された。なお、図6に示されるXRDプロファイルにおいては、膜試料が形成されている多孔質基材を構成するアルミナに起因するピーク(図中で○印が付されたピーク)も併せて観察されている。
【0073】
(5b)微構造の観察
膜試料の表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM-6610LV、JEOL社製)を用いて10~20kVの加速電圧で観察した。得られた膜試料の表面微構造のSEM画像(二次電子像)を図7に示す。
【0074】
また、複合材料試料の断面をCP研磨によって研磨して研磨断面を形成し、この研磨断面の微構造を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて10~20kVの加速電圧で観察した。こうして得られた複合材料試料の研磨断面微構造のSEM画像を図8に示す。
【0075】
(5c)気孔率の測定
膜試料について、画像処理を用いた手法により、膜の表面の気孔率を測定した。この気孔率の測定は、1)表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM-6610LV、JEOL社製)を用いて10~20kVの加速電圧で観察して膜の表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順で白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とすることにより行った。この気孔率の測定は配向膜表面の6μm×6μmの領域について行われた。その結果、膜の表面の気孔率は19.0%であった。また、この膜表面の気孔率を用いて、膜表面から見たときの密度D(以下、表面膜密度という)をD=100%-(膜表面の気孔率)により算出したところ、81.0%であった。
【0076】
また、膜試料について、研磨断面の気孔率についても測定した。この研磨断面の気孔率についても測定は、上記(5b)に示される手順に従い膜の厚み方向における断面研磨面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得したこと以外は、上述の膜表面の気孔率と同様にして行った。この気孔率の測定は配向膜断面の膜部分について行われた。こうして膜試料の断面研磨面から算出した気孔率は平均で3.5%(3箇所の断面研磨面の平均値)であり、多孔質基材上でありながら非常に高密度な膜が形成されていることが確認された。
【0077】
(5d)緻密性判定試験I
膜試料が透水性を有しない程の緻密性を有することを確認すべく、緻密性判定試験を以下のとおり行った。まず、図9Aに示されるように、上記(1)において得られた複合材料試料220(1cm×1cm平方に切り出されたもの)の膜試料側に、中央に0.5cm×0.5cm平方の開口部222aを備えたシリコンゴム222を接着し、得られた積層物を2つのアクリル製容器224,226で挟んで接着した。シリコンゴム222側に配置されるアクリル製容器224は底が抜けており、それによりシリコンゴム222はその開口部222aが開放された状態でアクリル製容器224と接着される。一方、複合材料試料220の多孔質基材側に配置されるアクリル製容器226は底を有しており、その容器226内にはイオン交換水228が入っている。この時、イオン交換水にAl及び/又はMgを溶解させておいてもよい。すなわち、組み立て後に上下逆さにすることで、複合材料試料220の多孔質基材側にイオン交換水228が接するように各構成部材が配置されている。これらの構成部材等を組み立て後、総重量を測定した。これらの構成部材等を組み立て後、総重量を測定した。なお、容器226には閉栓された通気穴(図示せず)が形成されており、上下逆さにした後に開栓されることはいうまでもない。図9Bに示されるように組み立て体を上下逆さに配置して25℃で1週間保持した後、総重量を再度測定した。このとき、アクリル製容器224の内側側面に水滴が付着している場合には、その水滴を拭き取った。そして、試験前後の総重量の差を算出することにより緻密度を判定した。その結果、25℃で1週間保持した後においても、イオン交換水の重量に変化は見られなかった。このことから、膜試料(すなわち機能膜)は透水性を有しない程に高い緻密性を有することが確認された。
【0078】
(5e)緻密性判定試験II
膜試料が通気性を有しない程の緻密性を有することを確認すべく、緻密性判定試験を以下のとおり行った。まず、図10A及び10Bに示されるように、蓋の無いアクリル容器230と、このアクリル容器230の蓋として機能しうる形状及びサイズのアルミナ治具232とを用意した。アクリル容器230にはその中にガスを供給するためのガス供給口230aが形成されている。また、アルミナ治具232には直径5mmの開口部232aが形成されており、この開口部232aの外周に沿って膜試料載置用の窪み232bが形成されている。アルミナ治具232の窪み232bにエポキシ接着剤234を塗布し、この窪み232bに複合材料試料236の膜試料236b側を載置してアルミナ治具232に気密かつ液密に接着させた。そして、複合材料試料236が接合されたアルミナ治具232を、アクリル容器230の開放部を完全に塞ぐようにシリコーン接着剤238を用いて気密かつ液密にアクリル容器230の上端に接着させて、測定用密閉容器240を得た。この測定用密閉容器240を水槽242に入れ、アクリル容器230のガス供給口230aを圧力計244及び流量計246に接続して、ヘリウムガスをアクリル容器230内に供給可能に構成した。水槽242に水243を入れて測定用密閉容器240を完全に水没させた。このとき、測定用密閉容器240の内部は気密性及び液密性が十分に確保されており、複合材料試料236の膜試料236b側が測定用密閉容器240の内部空間に露出する一方、複合材料試料236の多孔質基材236a側が水槽242内の水に接触している。この状態で、アクリル容器230内にガス供給口230aを介してヘリウムガスを測定用密閉容器240内に導入した。圧力計244及び流量計246を制御して膜試料236b内外の差圧が0.5atmとなる(すなわちヘリウムガスに接する側に加わる圧力が反対側に加わる水圧よりも0.5atm高くなる)ようにして、複合材料試料236から水中にヘリウムガスの泡が発生するか否かを観察した。その結果、ヘリウムガスに起因する泡の発生は観察されなかった。よって、膜試料236bは通気性を有しない程に高い緻密性を有することが確認された。
【0079】
例2(参考):亜鉛空気二次電池の作製
本例は、1対の空気極板/セパレータ/負極板を備えた単電池に基づく参考例である。本例は可撓性袋体を用いた亜鉛空気電池セルパックに関する実施例ではないが、LDHセパレータを用いた亜鉛空気二次電池を作製した例である点で、本発明の亜鉛空気電池セルパックを作製する上で参考にできるものである。
【0080】
(1)多孔質基材付きセパレータの用意
例1と同様の手順により、多孔質基材付きセパレータ(以下、単にセパレータという)として、アルミナ基材上LDH膜を用意した。
【0081】
(2)空気極層の作製
空気極触媒としてのα-MnO粒子を次のようにして作製した。まず、Mn(SO)・5HO及びKMnOを5:13のモル比で脱イオン水に溶かして混合した。得られた混合液をテフロン(登録商標)が内貼りされたステンレス製密閉容器に入れ、140℃で水熱合成を2時間行う。水熱合成により得られた沈殿物をろ過し、蒸留水で洗浄した後、80℃で6時間乾燥した。こうしてα-MnOの粉末を得た。
【0082】
水酸化物イオン伝導性材料としての層状複水酸化物粒子(以下、LDH粒子という)を次のようにして作製した。まず、Ni(NO・6HO及びFe(NO・9HOを脱イオン水にNi:Fe=3:1のモル比になるように溶かして混合した。得られた混合液を70℃で0.3MのNaCO溶液に撹拌しながら滴下した。この際、2MのNaOH溶液を加えながら混合液のpHを10に調整して、70℃で24時間保持する。混合液中に生成した沈殿物をろ過し、蒸留水で洗浄後、80℃で乾燥してLDHの粉末を得た。
【0083】
先に得られたα-MnO粒子及びLDH粒子、並びに電子伝導性材料としてのカーボンブラック(Cabot社製、品番VXC72)を所定の配合比となるように秤量して、エタノール溶媒の共存下で湿式混合した。得られた混合物を70℃で乾燥した後、解砕する。得られた解砕粉をバインダー(PTFE、エレクトロケム社製、品番EC-TEF-500ML)及び水と混合してフィブリル化した。このとき、水の添加量は空気極に対して1質量%とした。こうして得られたフィブリル状混合物を厚さ50μmとなるように集電体(カーボンクロス(エレクトロケム社製、品番EC-CC1-060T))にシート状に圧着して空気極層/集電体の積層シートを得た。こうして得られた空気極層は、電子伝導相(カーボンブラック)を20体積%、触媒層(α-MnO粒子)を5体積%、水酸化物イオン伝導相(LDH粒子)を70体積%及びバインダー相(PTFE)を5体積%含むものであった。
【0084】
(3)セパレータ付き空気極の作製
アニオン交換膜(アストム社、ネオセプタAHA)を1MのNaOH水溶液に一晩浸漬させた。このアニオン交換膜をセパレータのLDH膜上に中間層として積層して、セパレータ/中間層積層体を得る。中間層の厚さは30μmである。得られたセパレータ/中間層積層体に、先に作製した空気極層/集電体の積層シートを、空気極層側が中間層と接するように圧着して、セパレータ付き空気極試料を得る。
【0085】
(4)負極板の作製
銅パンチングメタルからなる集電体上に、酸化亜鉛粉末80重量部、亜鉛粉末20重量部及びポリテトラフルオロエチレン粒子3重量部からなる混合物を塗布して、多孔度約50%で活物質部分が塗工された負極板を得る。
【0086】
(5)第三電極の作製
ニッケルメッシュからなる集電体上に白金ペーストを塗布して、第三電極を得る。
【0087】
(6)電池の組み立て
上記得られたセパレータ付き空気極、負極板、及び第三電極を用いて、横型構造の亜鉛空気二次電池を以下のような手順で作製する。まず、ABS樹脂製で直方体形状を有する蓋の無い容器(以下、樹脂容器という)を用意する。この樹脂容器の底に負極板を、負極活物質が塗工された側が上を向くように載置する。このとき、負極集電体が樹脂容器の底部に接しており、負極集電体の端部が樹脂容器側面に貫通して設けられる外部端子と接続する。次に、樹脂容器内壁の負極板の上面よりも高い位置に(すなわち負極板と接触せず充放電反応に関与しない位置)に第三電極を設け、不織布セパレータを第三電極と接触するように配置する。樹脂容器の開口部をセパレータ付き空気極で空気極側が外側になるように塞ぎ、その際、開口部の外周部分にエポキシ樹脂系接着剤(セメダイン社製、EP008)を塗工して気密性及び液密性を与えるように封止して接着する。樹脂容器の上端近傍に設けられた小さな注入口を介して樹脂容器内に6mol/LのKOH水溶液を電解液として注入する。こうして、セパレータが電解液と接触するとともに、不織布セパレータの保液性により電解液の増減に関わらず電解液が第三電極に常時接触可能な状態とされる。このとき、注入する電解液の量は、放電末状態で電池を作製すべく、樹脂容器内で負極活物質塗工部分が十分に隠れるだけでなく、充電時に減少することが見込まれる水分量を考慮した過剰量とする。したがって、樹脂容器は上記過剰量の電解液を収容できるように設計されている。最後に、樹脂容器の注入口を封止する。こうして樹脂容器及びセパレータで区画された内部空間は気密且つ液密に密閉されている。最後に第三電極と空気極の集電層とを外部回路を介して接続する。こうして亜鉛空気二次電池を得る。
【0088】
かかる構成によれば、セパレータが水及び気体を通さない程の高度な緻密性を有するため、充電時に生成する亜鉛デンドライトによるセパレータの貫通を物理的に阻止して正負極間の短絡を防止し、かつ、空気中の二酸化炭素の侵入を阻止して電解液中での(二酸化炭素に起因する)アルカリ炭酸塩の析出を防止することができる。その上、負極から副反応により発生しうる水素ガスを第三電極に接触させて前述した反応を経て水に戻すことができる。すなわち、亜鉛デンドライトによる短絡及び二酸化炭素の混入の両方を防止するのに好適な構成を有しながら、水素ガス発生の問題にも対処可能な、信頼性の高い亜鉛空気二次電池が提供される。
【0089】
例3(参考):ニッケル亜鉛電池セルパックの作製(参考)
本例はニッケル亜鉛電池セルパックに関する参考例である。本例は亜鉛空気電池に関する実施例ではないが、同じく亜鉛負極を用い、かつ、可撓性フィルムで形成される可撓性袋体及びLDHセパレータを用いて電池セルパックを作製した例である点で、本発明の亜鉛空気電池セルパックを作製する上で参考にできるものである。
【0090】
(1)中仕切りシートの作製
例1と同様の手順により、多孔質基材付きセパレータとして、アルミナ基材上LDH膜を用意した。図11A及び11Bに示されるように、多孔質基材330付きセパレータ328のセパレータ328側(すなわちLDH膜側)の外周縁に沿って変性ポリフェニレンエーテル樹脂製の枠332を載置した。このとき、枠332は正方形の枠であり、その内周縁には段差が設けられており、この段差に多孔質基材330及びセパレータ328の外周縁を嵌合させた。この枠332上に可撓性フィルム324としてラミネートフィルム(アズワン社製、製品名:バキュームシーラー用ポリ袋、厚さ:50μm、材質:PP樹脂(ベースフィルム)及びPE樹脂(熱可塑性樹脂))を載置した。この可撓性フィルム324は予め中央に開口部324aが形成されており、この開口部324aが枠332内の開放領域に対応するように可撓性フィルム324を配置した。可撓性フィルム324、枠332、及び多孔質基材330付きセパレータ328の接合部分を、市販のヒートシール機を用いて約200℃で熱融着封止した。こうして作製された中仕切りシートの写真が図12に示される。図12において点線で示される領域Hが熱融着封止が行われた領域であり、この領域における液密性が確保される。
【0091】
(2)正極板の作製
亜鉛及びコバルトを固溶体となるように添加した水酸化ニッケル粒子を用意する。この水酸化ニッケル粒子を水酸化コバルトで被覆して正極活物質を得る。得られた正極活物質と、カルボキシメチルセルロースの2%水溶液とを混合してペーストを調製する。正極活物質の多孔度が50%となるように、多孔度が約95%のニッケル金属多孔質基板からなる集電体に上記得られたペーストを均一に塗布して乾燥し、活物質部分が所定の領域にわたって塗工された正極板を得る。
【0092】
(3)負極板の作製
銅パンチングメタルからなる集電体上に、酸化亜鉛粉末80重量部、亜鉛粉末20重量部及びポリテトラフルオロエチレン粒子3重量部からなる混合物を塗布して、多孔度約50%で、活物質部分が所定の領域にわたって塗工された負極板を得る。
【0093】
(4)ニッケル亜鉛電池セルパックの作製
上記得られた中仕切りシート314、正極316及び負極320を用いて図13に示されるようなニッケル亜鉛電池セルパック310を以下の手順で組み立てた。まず、1対の可撓性フィルム312a,312bとしてラミネートフィルム(アズワン社製、製品名:バキュームシーラー用ポリ袋、厚さ:50μm、材質:PP樹脂(ベースフィルム)及びPE樹脂(熱可塑性樹脂))を用意した。図13に示されるように、可撓性フィルム312a上に負極320、中仕切りシート314、正極316及び可撓性フィルム312bをこの順に積層した。このとき、中仕切りシート314は多孔質基材330及び枠332が正極316側に位置するように配置した。可撓性フィルム312a,312bの外周縁3辺(上端部以外の辺)と、中仕切りシート314を構成する可撓性フィルム324の外周縁3辺(上端部以外の辺)は重なっており、この可撓性フィルム312a,323,312bの重なり部分(外周縁3辺)を市販のヒートシール機を用いて約200℃で熱融着接合した。こうして熱融着接合により液密に封止された可撓性袋体312を正極316側から撮影した写真を図14に示す。図14において点線で囲まれた外周縁3辺の領域Hが熱融着封止された部分である。この時点では、図14から分かるように、可撓性袋体の上端部は熱融着封止されずに開放されており、正極集電体と負極集電体が互いに異なる位置で可撓性袋体の外周縁から互いに異なる位置で延出している(図中に視認される2本の金属片に相当)。なお、図14において、正極集電体と負極集電体がかなり長めに設けられているが、これは試作上の都合によるものであり、実際には余剰空間が無駄に大きくならないように図14に示される長さよりも短く構成されるのが好ましい。熱融着封止された可撓性袋体を負極側から撮影した写真を図15Aに示す。図15Aにおいて可撓性袋体の上端部の枠で強調された部分(その部分の拡大写真が図15Bに示される)において灰色のラインとして観察されるように、集電体(金属片)の可撓性袋体の上端部と接触されるべき部分には、熱融着による可撓性フィルムと溶着を促進する熱融着用シーラントフィルム(住友電工社製、製品名:タブリード MINUS LEAD、材質:ポリオレフィン樹脂)が配設されており、後に行われる上端部の熱融着接合の際に集電体(金属片)との接触部分において(すなわち異種材料間において)確実に熱融着接合できるようにされている。こうして中仕切りシート314、正極316及び負極320を収容した可撓性袋体312を真空デシケータ中に入れ、真空雰囲気下で、可撓性袋体312内の正極室315及び負極室319の各々に電解液として6mol/LのKOH水溶液を電解液として注液した。この電解液の注入は、可撓性袋体312の上端部の開放部分から行った。最後に、可撓性袋体312の上端部の開放部分を市販のヒートシール機を用いて約200℃で熱融着接合して、ニッケル亜鉛電池セルパック310を得た。こうして上端部が熱融着接合されたニッケル亜鉛電池セルパック310を撮影した写真を図16に示す。図16において点線で囲まれた外周縁である上端部1辺の領域Hが熱融着接合された部分である。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図12
図13
図14
図15A
図15B
図16
図17