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特許7095992可溶性ユニバーサルADCC増強合成融合遺伝子およびペプチド技術ならびにその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】可溶性ユニバーサルADCC増強合成融合遺伝子およびペプチド技術ならびにその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20220628BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20220628BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20220628BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220628BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220628BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20220628BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220628BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20220628BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20220628BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20220628BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220628BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20220628BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20220628BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20220628BHJP
   C12N 15/02 20060101ALN20220628BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
A61K38/16
A61K39/00 H
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P29/00
A61P31/04
A61P35/00
A61P37/02
A61P37/04
A61P37/06
A61P43/00 121
C07K16/28
C07K16/46
C12P21/08
C12N15/00 C
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2017530141
(86)(22)【出願日】2015-12-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-01-25
(86)【国際出願番号】 US2015064572
(87)【国際公開番号】W WO2016094456
(87)【国際公開日】2016-06-16
【審査請求日】2018-10-30
【審判番号】
【審判請求日】2020-11-30
(31)【優先権主張番号】62/089,097
(32)【優先日】2014-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/200,557
(32)【優先日】2015-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516205100
【氏名又は名称】1グローブ バイオメディカル カンパニー, リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】リ, チャン ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ウニラマン, シアム
【合議体】
【審判長】上條 肇
【審判官】伊藤 良子
【審判官】福井 悟
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0294857(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0003225(US,A1)
【文献】特表2006-526414(JP,A)
【文献】Annu. Rev. Immunol., 2001, vol. 19, pp. 275-290
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE/WPIDS(STN)
UniProt/GeneSeq
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
c結合ドメインと、CD3結合ドメインとを含む融合タンパク質であって、
前記Fc結合ドメインは、CD64のエクトドメインであり、
前記CD3結合ドメインは、抗CD3モノクローナル抗体のscFvである、
融合タンパク質
【請求項2】
(i)前記抗CD3モノクローナル抗体が、OKT3である、
(ii)前記抗CD3モノクローナル抗体が、dhOKT3である、
(iii)前記抗CD3モノクローナル抗体が、ヒト化TR66である、
請求項に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
前記融合タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号3である、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
(i)請求項1~のいずれか1項に記載の融合タンパク質および薬学的に受容可能な賦形剤、または
(ii)請求項1~のいずれか1項に記載の融合タンパク質をコードするDNAおよび/またはRNA構築物、および薬学的に受容可能な賦形剤
を含む薬学的組成物。
【請求項5】
薬学的に受容可能な賦形剤とともに、請求項1~のいずれか1項に記載の融合タンパク質をコードする遺伝子構築物で満たされた1もしくはそれより多くの容器を含む、キット。
【請求項6】
処置の必要性のある被験体を、ある状態について治療的に処置する方法における使用のための請求項に記載の薬学的組成物であって、前記方法が、前記被験体に治療上有効な量の前記薬学的組成物を投与する工程を含み、前記状態が、がん、炎症性疾患、自己免疫性疾患、移植片拒絶および感染からなる群より選択される、薬学的組成物。
【請求項7】
前記方法が、前記状態を示す少なくとも1種の細胞表面抗原に対する治療用抗体を投与する工程をさらに含む、請求項に記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項8】
前記細胞表面抗原が、CD19、CD20、CD33、EpCAM、HER2/neu、PD-L1、PD-1およびCTLA-4からなる群から選択される、請求項に記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項9】
前記抗体が、ヒトIgG4と実質的に同様のFc領域を含む、請求項に記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項10】
前記抗体が、リツキシマブ、トラスツズマブおよびニボルマブからなる群から選択される、請求項に記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項11】
処置の必要性のある被験体を、ある状態について予防的に処置する方法における使用のための請求項に記載の薬学的組成物であって、前記方法が、前記被験体に予防上有効な量の前記薬学的組成物を投与する工程を含み、前記状態が、がんである、薬学的組成物。
【請求項12】
前記方法が、前記状態に対するワクチンを投与する工程をさらに含む、請求項11に記載の使用のための薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、2014年12月8日に出願された米国仮特許出願第62/089,097号、および2015年8月3日に出願された同第62/200,557号に対する優先権および利益を主張し、その両方は、その全体が本明細書に参考として援用される。
【0002】
(技術分野)
本発明は、免疫エフェクター細胞、特にT細胞、が抗体依存性細胞傷害性(ADCC)を媒介することを可能とするように使用され得る合成生物学的生成物およびプロセス、ならびにがん、感染性疾患、炎症性および自己免疫疾患ならびに他の疾患の処置および防止においてそれらを使用するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
哺乳動物、特に高等脊椎動物(ヒトを含む)は、複数の機構およびエフェクターを使用して、外来病原体ならびに罹病したかもしくはストレスを受けた自己由来細胞を検出、破壊もしくは少なくとも封じ込める、非常に複雑な免疫系を発達させた。これらの罹病細胞は、ウイルスもしくは細菌によって感染した可能性があるか、またはがんになった可能性がある。
【0004】
免疫系が罹病宿主細胞および侵入している細胞内微生物(例えば、ウイルス、細菌もしくは寄生生物)を認識および排除する機構のうちの1つは、細胞媒介性細胞傷害性を通してであり、これは、多くの白血球およびタンパク質によって行われ得る。これら潜在的に細胞傷害性のエフェクターとしては、以下が挙げられる:リンパ球系統からはナチュラルキラー(NK)細胞および細胞傷害性Tリンパ球(CTL);ならびに骨髄系統からはマクロファージ、好中球および好酸球。
【0005】
免疫系が細胞媒介性細胞傷害性を発揮させる(unleash)ための重要な方法は、抗体に依拠する。過去10年間にわたって、腫瘍特異的細胞表面タンパク質を標的とするモノクローナル抗体(mAb)は、がんに対する普及した治療アプローチになった。いくつかのmAbは、リツキシマブ(リツキサン、マブセラ)、トラスツズマブ(ハーセプチン)およびセツキシマブ(アービタックス)を含め、慣用的な臨床実践に入った。mAbの人気は、それらの二機能性の性質の結果である。抗体の一方の末端(Fab)は、腫瘍細胞を死滅させる種々のエフェクター細胞およびタンパク質を動員する他方の末端(Fc)を変化させることなく、特定の腫瘍タンパク質に精巧に特異的にされ得る。
【0006】
具体的には、まず、標的細胞の表面にある抗原を認識および結合した後、抗体は、アダプターとして作用し、免疫エフェクター細胞上のある種のレセプターとの第2の結合を通じて免疫エフェクター細胞の細胞傷害性能力の活性化にすすむ。これは、抗体依存性細胞傷害性(ADCC)といわれる。例えば、がんに対する先天的免疫の状況において、ADCCは主に、標的の罹病細胞(例えば、腫瘍細胞)上で多価抗原を覆っている抗体のFcフラグメントと結合した際にのみ活性化される、相対的に低親和性のFcレセプター(FcγRIIIa(CD16aとしても公知))を発現するナチュラルキラー(NK)細胞(およびより低い程度には、好中球、単球およびマクロファージ)によって媒介される。この結合は、パーフォリンおよびグランザイム(ならびにIFN-γを含む多くのサイトカイン)のような細胞傷害性顆粒の放出の引き金となり、標的細胞の溶解をもたらす。ADCCの重要性は、インビトロで、および動物研究での両方において示されてきた。さらに、いくつかの臨床研究は、より低い親和性のCD16改変体(F158)を有する患者がより悪い臨床転帰を有することを示した。
【0007】
しかし、ADCC効力は、内因性ナチュラルキラー(NK)細胞によって主に媒介されるので、以下に説明されるとおりの多くの生理学的および病理学的な理由に起因して、身体では制限されている(内因性細胞傷害性Tリンパ球は、腫瘍クリアランスに少しでも参加し、それらの効力もまた、非常に限られており、欠けていると見出された程度に)。
【0008】
第1に、ADCCに関与する大部分の細胞(例えば、マクロファージおよび好中球)は、それらが活性化されるときに増殖する傾向にない。NK細胞はまた、活性化に応じた増殖能力が制限されており、それらはまた、急速に死に絶えてしまう。従って、身体における天然のADCC応答は、ADCCエフェクターが罹病細胞を覆う抗体を認識するとしても、疾患進行(例えば、ウイルス感染、がん)によって圧倒されるリスクがある。
【0009】
第2に、ADCCエフェクター細胞の多くはまた、それらの免疫応答性を低下させる阻害性レセプターを発現し、それによってバランスおよびチェックのシステムを設けている。これらレセプターとしては、CD56low NK細胞に対する阻害性KIR(キラー免疫グロブリン様レセプター)、単球およびB細胞上のFcγRIIb、ならびにT細胞に対するCTLA-4(CD152)およびPD-1(プログラム死-1(Programmed-Death-1)、CD279)が挙げられる。がん細胞およびウイルスは、このような阻害経路を異常に増幅することによって身体のADCCベースの防御システムに逆らう。
【0010】
第3に、ADCCエフェクター細胞上の主要FcレセプターであるFcγRIIIa(CD16a)は、抗体に対して比較的低い親和性(Kd 約10-6M)を有する--さらに、上記レセプターのV158改変体は、上記レセプターの無効なF158形態と比較して、2倍高いに過ぎない親和性を有する。これは、細胞表面標的の密度がいったんあるレベル未満に落ちた後、がん細胞が、一部の治療用モノクローナル抗体(mAb)に抵抗性になる1つの機構である。
【0011】
増殖および親和性におけるその天然の限界、ならびに疾患(例えば、がんもしくは他の疾患)の設定において阻害性Fcレセプターによるさらなる低下に鑑みれば、身体のADCC機能は、決して十分には理解されていない大きな潜在能力を有する。従って合成生物学は、ヒト疾患の防止および処置においてADCC活性の十分な潜在能力を発揮させる、新規かつ非常に望ましいアプローチを表す。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
(発明の簡単な要旨)
本発明により新たなアプローチがもたらされ、がん、感染および他の疾患に対する免疫系の防御が改善される。本発明は、T細胞の細胞傷害性および増殖ポテンシャルを抗体に基づく治療法に結び付ける、新規の自由に会合する(free-associating)アダプター様ADCCエンハンサーを考案する。
【0013】
本発明によれば、罹病細胞(例えば、腫瘍細胞)を標的とする抗体をCD3 T細胞と接触させる、自由に会合し循環するアダプターとして融合タンパク質が提供される。この新たなアダプター分子は、可溶性であり、患者の血液に注射して、大部分の組織区画にアクセスすることができる。このアダプター様ADCCエンハンサーは、次の通り2種の構成成分を有する:(a)高親和性Fc結合ドメイン;および(b)高親和性CD3結合ドメイン。このアプローチの理論的根拠を次に示す:このアダプター様ADCCエンハンサーは、1またはそれより多くの治療用抗体で既にコーティングされた腫瘍細胞に結合する、およびこのエンハンサーは、CD3 T細胞に結合することもできる。T細胞にごく接近するとまたはこれと接触すると、腫瘍細胞をコーティングする抗体は、T細胞の表面でCD3の架橋を引き起こし、T細胞の活性化および最終的に腫瘍細胞の溶解をもたらす。
【0014】
本発明のADCCエンハンサーは、抗体療法と組み合わせて、または単独で使用して、天然起源の抗体によって認識または結合された罹病細胞を標的とすることができる。
【0015】
第1の態様では、本発明は、野生型ヒトCD16(例えば、最も一般的な形態のヒトCD16、すなわち、一般的なF158改変体)よりも高い、天然抗体に対する親和性を有するものなど、高親和性Fcレセプターまたは抗体フラグメントを構築しようと試みる。レセプター(以下、より伝統的な細胞表面レセプターに似た実施形態および抗体フラグメント(複数可)に基づく実施形態を包含する用語として使用される)は、部分的にまたは全体的に、免疫系における別の高分子から借用してもよいし、または新たに操作によるものでもよい。高親和性Fcレセプターを有することは、多種多様な細胞表面抗原、したがって、多種多様な疾患および徴候を標的とする抗体の共有のFcフラグメントとの効率的な結合を可能にする。これは、各特異的抗原に対して異なる抗体が構築される必要がある抗原依存性免疫療法と比較して、大きな利点である。
【0016】
別の態様では、可溶性アダプター様ADCCエンハンサーの構築に着目して、高親和性CD3結合ドメインを、第1の態様に記載されている高親和性Fc結合ドメインまたはレセプターに融合させる。かかる高親和性CD3結合ドメインの例として、OKT3および新規抗CD3 scFvが挙げられる。高親和性Fc結合ドメインは、様々な実施形態において、CD64のエクトドメイン、高親和性CD16改変体およびヒトFcに対し高親和性を有する抗体フラグメントからなる群より選択され得る。
【0017】
別の態様では、本発明は、本発明の融合タンパク質を含む薬学的組成物を提供し、この融合タンパク質は、高親和性Fc結合ドメインおよび高親和性CD3結合ドメインを含む。薬学的組成物は、薬学的に受容可能な賦形剤をさらに含む。
【0018】
関連する態様では、本発明は、処置の必要性のある被験体を、ある状態について治療的に処置する方法であって、上記被験体に治療上有効な量の本発明の薬学的組成物を投与する工程を含む方法を提供する。方法は、上記状態を示す少なくとも1種の細胞表面抗原に対する治療用抗体を投与する工程をさらに含むことができる。一実施形態では、抗体は、ヒトIgG4と実質的に同様のFc領域を含む。処置されている状態は、がん、炎症性疾患、自己免疫性疾患、移植片拒絶および感染等であり得る。
【0019】
なお別の態様では、本発明は、処置の必要性のある被験体を、ある状態について予防的に処置する方法であって、上記被験体に予防上有効な量の本発明の薬学的組成物を投与する工程を含む方法を提供する。方法は、上記状態に対するワクチンを投与する工程をさらに含むことができる。一実施形態では、状態は、がんである。
本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
高親和性Fc結合ドメインと、高親和性CD3結合ドメインとを含む融合タンパク質。
(項目2)
前記高親和性Fc結合ドメインが、CD64のエクトドメイン、高親和性CD16改変体およびヒトFcに対し高親和性を有する抗体フラグメントからなる群より選択される、項目1に記載の融合タンパク質。
(項目3)
高親和性CD3結合ドメインが、OKT3モノクローナル抗体のscFvである、項目1に記載の融合タンパク質。
(項目4)
前記OKT3モノクローナル抗体が、dhOKT3である、項目3に記載の融合タンパク質。
(項目5)
項目1~4に記載の融合タンパク質と、薬学的に受容可能な賦形剤とを含む薬学的組成物。
(項目6)
処置の必要性のある被験体を、ある状態について治療的に処置する方法であって、前記被験体に治療上有効な量の項目5に記載の薬学的組成物を投与する工程を含む方法。
(項目7)
前記状態を示す少なくとも1種の細胞表面抗原に対する治療用抗体を投与する工程をさらに含む、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記抗体が、ヒトIgG4と実質的に同様のFc領域を含む、項目7に記載の方法。
(項目9)
前記状態が、がん、炎症性疾患、自己免疫性疾患、移植片拒絶および感染からなる群より選択される、項目6に記載の方法。
(項目10)
処置の必要性のある被験体を、ある状態について予防的に処置する方法であって、前記被験体に予防上有効な量の項目5に記載の薬学的組成物を投与する工程を含む方法。
(項目11)
前記状態に対するワクチンを投与する工程をさらに含む、項目10に記載の方法。
(項目12)
前記状態が、がんである、項目10に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明に従うアダプター様ADCCエンハンサーを模式的に示す。
【0021】
図2図2は、CD64およびCD16のエキソンを模式的に示す。CD64は、細胞外領域における追加的な免疫グロブリン折りたたみ、およびしたがって、エキソンを有する。この追加的な折りたたみによって、CD64がより高いFc親和性となる。
【0022】
図3図3は、本発明の実施形態に従うアダプター様ADCCエンハンサーのFc結合ドメインのアミノ酸配列(配列番号1)を記載する。特に、この実施形態におけるドメインは、エキソン境界に基づきCD64のエクトドメインを含む。
【0023】
図4図4は、本発明の実施形態に従うアダプター様ADCCエンハンサーの抗CD3ドメインのアミノ酸配列(配列番号2)を記載する。特に、この実施形態におけるドメインは、2個のスペーサー/リンカー配列(下線)およびヒト化バージョンのOKT3配列を含む。
【0024】
図5図5は、図3および図4に表す実施形態に従うアダプター様ADCCエンハンサー全体のアミノ酸配列(配列番号3)を記載する。
【0025】
図6図6は、図5に表す実施形態に従うアダプター様ADCCエンハンサー全体のDNA配列(配列番号4)を記載する。
【0026】
図7図7は、Expi293細胞における2バージョンの可溶性アダプター様ADCCエンハンサーの過剰発現の時間経過を示すイムノブロット(ウエスタンブロット)の写真画像である。両方のバージョンは、同じCD64-OKT3融合タンパク質配列を有し、それぞれのヌクレオチド配列のみが異なる(レーン1および2)。タンパク質は、培地に分泌されていた。予測される分子量は58kDaであった;抗CD64抗体は、おそらくグリコシル化により、75kDaにバンドをなした。
【0027】
図8図8は、市販のヒトIgGカラム(GE Life Sciences)を使用した、可溶性ADCCエンハンサーの精製を例証するクーマシー(coomasie)染色したゲルの写真画像である。複数の遠心分離工程と続く限外濾過により、トランスフェクトした細胞を培養上清から完全に除去した。中性バッファーにおいてカラムを平衡化し、上清をロードし、続いてフロースルーした(完全な結合を確実にするため)。pHを減少させる段階的勾配により、タンパク質を精製した。高モル濃度アルカリ性Trisバッファーにおいて、精製されたタンパク質を直ちに中和した。連続的透析またはAmicon(登録商標)超遠心フィルターによる反復限外濾過のいずれかにより、精製されたタンパク質をPBS中に交換した。右側のゲルにおけるレーンは、洗浄バッファーがpH3.05の場合の様々な溶出画分を表す。
【0028】
図9図9は、CD3免疫エフェクター細胞に結合する本発明のアダプター様ADCCエンハンサーの能力を検査するための、Jurkat細胞を使用したアッセイを模式的に示す。
【0029】
図10図10は、図9に従うアッセイにおいて、精製前(「試料ロード」)および精製後(「精製されたタンパク質」)のJurkat細胞および本発明のADCCエンハンサーの間の結合を示すFACSデータを例証する。空白の曲線は、陰性対照を表す。本実験およびあらゆるその後の実験において、精製されたADCCエンハンサーは、他に記載がなければ10~20ng/マイクロリットルで使用される。
【0030】
図11図11は、Jurkat細胞および様々な濃度の本発明のADCCエンハンサーの間の結合の力価測定(titration)を示すFACSデータを例証する。マイクロリットル単位のエンハンサーの容量を上の6個の図表の右上隅に、50、25、12.5、6.25、3.13および1.56マイクロリットルとして示す。下の図表は、データを要約する。CD3 Jurkat細胞を、様々な量のエンハンサーと共にインキュベートし、PBSにおいて細胞を洗浄することにより過剰なエンハンサーを除去し、蛍光抗ヒトCD64抗体を使用して、結合したエンハンサータンパク質を検出した。
【0031】
図12図12は、リツキサンでコーティングされたCD20標的細胞に結合する本発明のアダプター様ADCCエンハンサーの能力を検査するために、Daudi細胞を使用したアッセイを模式的に示す。
【0032】
図13図13は、図12に従うアッセイにおいて、精製前(「試料ロード」)および精製後(「精製されたタンパク質」)のDaudi細胞および本発明のADCCエンハンサーの間の結合を示すFACSデータを例証する。
【0033】
図14図14は、Daudi細胞および様々な濃度の本発明のADCCエンハンサーの間の結合の力価測定を示すFACSデータを例証する。マイクロリットル単位のエンハンサーの容量を上の6個の図表の右上隅に、50、25、12.5、6.25、3.13および1.56マイクロリットルとして示す。下の図表は、データを要約する。CD20 Daudi細胞をリツキサン(抗CD20抗体)でコーティングし、PBSで細胞を洗浄することにより過剰なリツキサンを除去した。リツキサンでコーティングされた細胞を、様々な量のエンハンサーと共にインキュベートし、PBSにおいて細胞を洗浄することにより過剰なエンハンサーを除去した。蛍光抗ヒトCD64抗体を使用して、結合したエンハンサータンパク質を検出した。CD20と比較して、ADCCエンハンサーでは、抗体に対するおよそ30倍高い親和性が観察された。
【0034】
図15図15は、標的がん細胞に対する細胞傷害性を媒介および増幅する本発明のアダプター様ADCCエンハンサーの能力を検査するために、リツキサンでコーティングされたDaudi細胞およびCD8 T細胞を使用したアッセイを模式的に示す。
【0035】
図16図16は、図15に従うアッセイにおける標的(Daudi)細胞(上クラスター)およびエフェクターT細胞(下クラスター)の検出を示すFACSデータを例証する。データは、本発明のエンハンサーが、T細胞を動員して、T細胞生存率を縮小することなくDaudi細胞集団の多くを溶解することができたことを示す(右の図表)。この実験およびあらゆるその後の実験において、E:T(エフェクター細胞対標的細胞)比は10であった。
【0036】
図17図17は、2種の濃度のリツキサン(抗CD20)、CD20 Daudi細胞、CD8 T細胞および本発明のエンハンサーに係る細胞傷害性実験のデータを例証する。データは、エンハンサーが、T細胞の標的細胞殺傷を増加させ、この殺傷が、リツキサンおよびエンハンサー濃度の両方に依存したことを示す。1日目および2日目の間のデータが示す通り、より長い曝露における殺傷増加も見られた(時間依存性ADCC)。0.1μg/ml(10×)または0.01μg/ml(1×)でリツキサンを使用した。12.5マイクロリットル(+)または50マイクロリットル(+++)でエンハンサーを使用した。
【0037】
図18図18は、2種の濃度のリツキサン、Raji細胞、CD8 T細胞および本発明のエンハンサーに係る細胞傷害性実験のデータを例証する。データは、同じ濃度のリツキサンおよびエンハンサーにおいて、図17におけるものと同様の結果を示す。
【0038】
図19図19は、2種の濃度のハーセプチン、HER SK-BR3細胞、CD8 T細胞および本発明のエンハンサーに係る細胞傷害性実験のデータを例証する。データは、エンハンサーが加えられた場合のさらにより明白な細胞傷害性効果を示す(図18における結果と比較して)。1μg/ml(10×)または0.1μg/ml(1×)でハーセプチンを使用した。50マイクロリットル(+++)でエンハンサーを使用した。
【0039】
図20図20は、本発明の実施例に従う異なる乳がん細胞におけるHER2発現を測定する仕方を模式的に示す。
【0040】
図21図21は、3種の異なる乳がん系統:MDA-MB-231、MCF7およびSK-BR3の間のHER2発現レベルを比較する。左端ピークは、非染色対照を表し、続いてそれぞれMDA-MB-231、MCF7およびSK-BR3細胞のピークを表す。データは、この3種のうち、SK-BR3が、最高のHER2発現レベルを有する一方、MDA-MB-231が、最低レベルを有することを示す。
【0041】
図22図22は、ハーセプチン、HER-hi SK-BR3細胞、HER-lo MDA-MB-231細胞および本発明のエンハンサーに係る細胞傷害性実験のデータを例証する。データは、両方の種類の乳がん細胞におけるハーセプチンの殺傷能を増幅するエンハンサーの能力を示す。データはまた、SK-BR3細胞におけるより著明な効果を示し、この効果が、HER2の発現レベルに依存することを示す。しかし、MDA-MB-231細胞を殺傷する能力は、本発明のエンハンサーを使用して、低HER2発現腫瘍であってもハーセプチンに感作させることができることを示す。これらの実験において50マイクロリットルでエンハンサーを使用した。
【0042】
図23図23は、ニボルマブ(抗PD1)、PD1をトランスジェニックにより発現するHEK-293T細胞(「293T-PD1」)、CD8 T細胞および本発明のエンハンサーに係る細胞傷害性実験のデータを例証する。親である未改変のHEK-293T細胞(「293T」)およびIgG4対照を対照として含めた。PD-1を発現する細胞が、エンハンサーの存在下でニボルマブに曝露された場合にのみ、顕著な標的細胞溶解が観察された。CD8 T細胞は、左端の対照を含む、示されているあらゆる試料に存在した。
【発明を実施するための形態】
【0043】
(発明の詳細な説明)
(I.定義)
別段示されなければ、技術用語は、従来の使用法に従って使用される。分子生物学における一般用語の定義は、例えば、Benjamin Lewin, Genes VII,Oxford University Pressにより出版,2000 (ISBN
019879276X); Kendrew et al.(編); The Encyclopedia of Molecular Biology,Blackwell
Publishersにより出版,1994 (ISBN 0632021829);およびRobert A. Meyers(編), Molecular Biology and Biotechnology: a Comprehensive Desk Reference,Wiley, John & Sons, Inc.により出版, 1995(ISBN 0471186341);ならびに他の類似の技術的参考文献に見出され得る。
【0044】
本明細書で使用される場合、「a(1つの、ある)」もしくは「an(1つの、ある)」とは、1またはそれより多くを意味し得る。用語「comprising(含む、包含する、含有する)」とともに使用される場合、本明細書で使用されるとおり、用語「a(1つの、ある)」もしくは「an(1つの、ある)」とは、1もしくは1より多くを意味し得る。本明細書で使用される場合、「another(別の、もう1つの)」とは、少なくとも第2のもしくはより多くを意味し得る。さらに、文脈から別段必要とされなければ、単数形の用語は、複数形を包含し、複数形の用語は単数形を包含する。
【0045】
本明細書で使用される場合、「約」とは、明示されていようが明示されていまいが、例えば、整数、分数、およびパーセンテージを含めた数値をいう。用語「約」は一般に、当業者がその記載される値と均等である(例えば、同じ機能もしくは結果を有する)とみなすある数値範囲(例えば、記載される値の±5~10%)をいう。いくつかの場合には、用語「約」とは、最も近い有効数字へと四捨五入される数値を含み得る。
【0046】
用語「抗体」または「Ab」は、本明細書において使用する場合、2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖である4つのポリペプチド鎖で構成された任意の免疫グロブリン(Ig)分子、またはIg分子の本質的なエピトープ結合特色を保持するその任意の機能フラグメント、変異体、改変体もしくは派生物(derivation)を広く指す。かかる変異体、改変体または派生抗体フォーマットは、当該技術分野で公知であり、そのようなものとして、単鎖Fv(scFv)、Fab、F(ab’)、F(ab’)、単一ドメインその他が挙げられるがこれらに限定されない。その非限定的な実施形態について後述する。
【0047】
CD16は、2つの異なる形態(CD16aおよびCD16b)として発現され、これらは、2つの異なるが非常に相同性の高い遺伝子の生成物である。CD16aは、ポリペプチドアンカーがある膜貫通タンパク質である一方で、CD16bは、グリコシルホスファチジルイノシトールアンカーがあるタンパク質である。本明細書で使用される場合、CD16は、当業者に明らかであるように、不適切でなければ、上記タンパク質の両方をいう。
【0048】
本発明の実施に有用なエフェクター細胞は、自己由来であっても、同系(syngeneic)であっても、同種異系(allogeneic)であってもよく、選択は、処置される予定の疾患および利用可能な手段に依存する。

II.組成物
【0049】
本発明は、理論上は普遍的に適用して抗体の治療効力を増強することができる、既製の(off-the-shelf)アダプター様可溶性ユニバーサルADCC増強タンパク質を提供する可溶性ユニバーサルADCCエンハンサータンパク質(SUAEP)技術を開示する。増強機構は、少なくとも次の態様を含むことができる:
【0050】
1.ADCCは、抗体療法(例えば、リツキサン(登録商標)またはハーセプチン(登録商標)処置)の効力に重要である。いくつかの研究は、CD16の低親和性改変体(158F)がホモ接合型の患者の予後がより不良であることを示した。
【0051】
2.相対的に高親和性改変体のCD16を有する患者であっても、種々の理由により、例えば、免疫抑制的環境、阻害性レセプターの係合またはエフェクター細胞が増殖できないことにより、先に記述される通り、ADCCは抑制され得る。
【0052】
3.補体系は、またリツキサン(登録商標)(リツキシマブ)効力に重要である。例えば、CLLは、無痛性B細胞がんであるが、患者は、補体が欠損しているため、またはリツキサン(登録商標)処置の開始直後に補体が枯渇されるため、リツキサン(登録商標)に対し不応性であることが多い(Xuら、2011年、International Journal of Cancer 128巻:2193~2201頁;Kennedyら、2004年、Journal of Immunology 172巻(5号)3280~3288頁)。
【0053】
これらの事例の全てにおいて、ADCCエンハンサーを加えることにより、問題を回避し、がん細胞に細胞傷害性T細胞を動員することができる。
【0054】
加えて、本発明によって提供されるSUAEP技術は、療法に使用される必要がある抗体の量の低下において有用であり、これにより、(a)抗体の非特異的副作用を最小化し;(b)抗抗体応答の発生確率を低下させる。完全ヒト抗体であっても、免疫応答を誘発し得る特有のCDR3を有することに留意されたい。療法において使用される抗体の量の低下は、この応答を誘発する確率を低下させる。
T細胞のためのアダプター
【0055】
本発明の実施形態によれば、循環し自由に会合するアダプター様ADCCエンハンサーとして機能する融合タンパク質は、2種の構成成分を有する:抗体にカップリングする高親和性Fc結合ドメイン、およびT細胞に係合する高親和性CD3結合ドメイン(図3)。
(a)Fc結合ドメイン
【0056】
アダプター様ADCCエンハンサーのFc結合ドメインは、次のものを含む複数の供給源に由来することができる:
【0057】
(i)CD64(FcγR1)のエクトドメイン:
【0058】
FcγR1は、マクロファージおよび好中球上に存在する高親和性Fcレセプター(KdはIgG1およびIgG3に関して約10-9M)であり、抗体媒介性ファゴサイトーシスおよびメディエーター放出に関わっている。FcγRIは、糖タンパク質α鎖を含み、その細胞外ドメインは、抗体への結合に関わる3個の免疫グロブリンドメインで構成されている。
【0059】
本発明の実施形態によれば、CD64(FcγRI)のエクトドメインの部分または全体を、適したCD3結合ドメインに融合して、ADCCを媒介するアダプター様エンハンサーを作製する。有利なことに、このエクトドメインは身体にとってネイティブであることで、この実施形態におけるエンハンサーは、同系であり、したがって、非免疫原性である。
【0060】
(ii)CD16の高親和性改変体:
【0061】
本発明の別の実施形態では、本発明のアダプター様ADCCエンハンサーのFc結合ドメインは、抗体のFcフラグメントに対し改善された親和性を有するCD16(FcγRIII)改変体のエクトドメインの部分または全体を取り込む。ある実施形態では、Fc結合ドメインの配列は、FcγRIIIaの結合領域のランダム変異誘発により作製され、ベンチマーク対照として最も一般的なCD16改変体(F158)を使用することにより選択される。
【0062】
(iii)高親和性ScFv:
【0063】
さらなる実施形態では、本発明のFc結合ドメインは、Fc(好ましくはヒトFc)に対する高親和性を有する操作された抗体フラグメントを組み込んでいる。ある実施形態では、抗体フラグメントは、ScFv(単鎖可変フラグメント)である。代替的な実施形態では、フラグメントは、Fab(抗原結合性フラグメント)である。抗体フラグメントは、ベンチマークレセプター、例えば、CD16よりも高いFc親和性を示すべきである。かかる抗体フラグメントを操作するための方法は、当業者に周知であり、例えば、市販のハイブリドーマの使用による。例えば、ヒトFcドメインは、ある期間にわたって実験動物(例えば、マウス)に注射される。動物の脾臓から単離されたB細胞は、骨髄腫細胞と融合され、Fcドメインに対する高親和性モノクローナル抗体を産生するクローンに関してスクリーニングされる。これらの候補抗体は、標準方法により、ヒト化、脱免疫化(deimmunized)されていてもよく、および/またはFabもしくはScFvバージョンに変換されてもよい。あるいは、高親和性クローンに関してライブラリー(例えば、ファージディスプレイ、酵母または哺乳動物細胞に基づくライブラリー)をスクリーニングすることによりまたはヒト化された免疫系を有する動物由来のモノクローナル抗体により完全ヒト抗体を得ることができる。
(b)CD3結合ドメイン
【0064】
好ましくは高親和性を有するCD3結合ドメインは、複数の供給源から作製することもできる。
【0065】
例えば、このドメインは、1986年にヒト使用について承認された最初のモノクローナルであった抗CD3モノクローナル抗体である、OKT3に由来することができる。これは、マウスモノクローナル抗体であり、数年間で、これは、ヒト化すると共に、免疫原性を低くする(脱免疫化する)ように複数回改変された。一実施形態では、CD3結合ドメインは、OKT3抗体、好ましくは脱免疫化、ヒト化(dhOKT3)バージョンのscFv部分を含む。
【0066】
本発明の他の実施形態では、新規抗CD3 scFvは、高親和性Fc結合scFvに関する上述のセクション(a)(iii)に記載されている方法と同様の方法を使用して作製することができる。
【0067】
好ましい実施形態では、アダプター様ADCCエンハンサーは、CD64エクトドメインがdhOKT3 scFvにカップリングされた融合タンパク質である。
【0068】
この治療薬を使用して、市販の抗がん抗体の効力を増強することができることに留意されたい。しかし、この治療薬は、単独療法として使用して、患者の先天的低ADCC活性のために腫瘍を排除することができない身体の天然抗体の効力を増強することもできる。
III.治療薬およびワクチン
【0069】
がん処置のためのADCCエンハンサーの臨床的意味は、市販の治療用抗体と併せてヒトがん細胞を使用して検査することができる。例えば、Daudi細胞は、(1)リンパ腫、自己免疫性疾患および移植片拒絶に関係づけられるCD20を標的とし、エフェクター細胞の活性化、脱顆粒および増殖をもたらす抗体である、リツキシマブ(商品名リツキサン(登録商標))、(2)CD8細胞傷害性T細胞、ならびに(3)本発明のアダプター様ADCCエンハンサーで処理される。一実施形態では、本発明のADCCエンハンサーは、リツキシマブなど、既存の治療用抗体と組み合わせて使用される。標的細胞殺傷もまた、観察される。インビボ試験は、非常に少ないT細胞およびB細胞を有しかつNK細胞を有さない市販のNOD.scid.IL2Rγ-/-マウスを使用して行われる。あるいは、非常に低いT細胞およびB細胞を有し、低下したNK細胞を有するNOD.Scidマウスが、使用される。これらマウスは、標識されたDaudi細胞が移植され、任意の適切な画像化技術を使用して腫瘍増殖が観察および測定される。リツキシマブおよび本発明のADCCエンハンサーで形質導入された免疫エフェクター細胞を受容するマウスにおいて、継続した期間の腫瘍寛解、退縮、もしくは長期にわたって進行しないことが観察される。
【0070】
別の例では、SK-BR-3もしくはMDA-MB-231は、(1)CD8+細胞傷害性T細胞、(2)本発明のアダプター様ADCCエンハンサーならびに(3)乳がんに関わるHER2/neuを標的とし、エフェクター細胞活性化、脱顆粒および増殖を生じるトラスツズマブ(商用名ハーセプチン(登録商標))で処理される。標的細胞殺傷もまた、観察される。上記ADCCエンハンサーのインビボ抗腫瘍有効性は、直ぐ上に記載される例に類似のマウスモデルで観察される。
【0071】
自己免疫における本発明のADCCエンハンサーの臨床上の使用は、それぞれの具体的な疾患に関して十分確立されたマウスモデルのうちの1つを使用して試験され得る。例えば、抗体媒介性B細胞枯渇は、NODマウスにおいて1型糖尿病を防止およびさらには逆転させることが示された。しかし、この効果は、Fcレセプターの低親和性によって制限される(Hu et al. J Clin Invest. 2007, 117(12):3857-67; Xiu et al. J Immunol. 2008, 180(5):2863-75)。コントロールマウスは、抗CD19抗体もしくは抗CD20抗体のいずれかのみ、または本発明のADCCエンハンサーを組み合わせて受容するマウスと比較される。上記ADCCエンハンサーを受容するマウスは、疾患の発現の遅延または症状の継続した逆転を示す。
【0072】
類似の実験は、抗体媒介性枯渇が、多発性硬化症もしくは実験的自己免疫性脳脊髄炎(Barr et al. J Exp Med. 2012, 209(5): 1001-10))、関節炎(Yanaba et al. J Immunol. 2007, 179(2): 1369-80)などのような疾患に影響を及ぼすことが示された他のマウスモデルにおいて行われ得る。
【0073】
ウイルス感染(例えば、HIV感染)における上記ADCCエンハンサーの臨床上の使用は、抗体の組み合わせでの処置がHIV複製をコントロールすることが示された(Nature, 2012, 492(7427): 118-22)十分に確立されたヒト化マウスモデルを使用して試験され得る。ヒト化マウスは、NOD.RAG1-/-.IL2Rγ-/-マウスをヒト胎児肝臓由来CD34+造血幹細胞で再構成することによってまず生成される。これらマウスは、完全にヒトの免疫系を有し、HIVによって感染され得、ヒト抗体に対して負に(negatively)反応しない。感染したコントロールマウスは、中和抗体カクテル単独もしくは本発明のアダプター様ADCCエンハンサーを伴うヒト免疫エフェクター細胞との組み合わせのいずれかを受容するマウスと比較される。上記ADCCエンハンサーを受容するマウスは、ウイルス血症の継続した低減およびT細胞数の回復を示す。
【0074】
上記ADCCエンハンサーの臨床効力を試験するための代替のモデルシステムは、中和抗体が疾患の急激な発症を防止することが示されたサル-ヒト免疫不全ウイルス(SHIV)感染アカゲザル幼獣モデルである(Jaworski et al. J Virol. 2013, 87(19): 10447-59)。感染したコントロールアカゲザルは、中和抗体カクテル単独もしくは本発明のアダプター様ADCCエンハンサーとの組み合わせのいずれかを受容するアカゲザルと比較される。上記ADCCエンハンサーを受容するアカゲザルは同様に、ウイルス血症の継続した低減およびT細胞数の回復を示す。
【0075】
本発明のADCC増強システムをコードするDNA構築物およびRNA構築物は、当業者に公知の技術を使用して被験体への投与のために製剤化され得る。上記ADCC増強システムをコードするDNA構築物およびRNA構築物を含む製剤は、薬学的に受容可能な賦形剤を含み得る。上記製剤に含まれる賦形剤は、例えば、使用される遺伝子構築物もしくはエフェクター細胞の種類、および投与様式に依存して種々の目的を有する。一般に使用される賦形剤の例としては、食塩水、緩衝化食塩水、デキストロース、注射用水、グリセロール、エタノール、およびこれらの組み合わせ、安定化剤、可溶化剤および界面活性剤、バッファーおよび保存剤、等張化剤(tonicity agent)、増量剤、ならびに滑沢剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0076】
本発明の別の実施形態では、本発明のアダプター様ADCCエンハンサーの医薬製剤は、患者に投与される。例示的な投与様式としては、腫瘍内、皮内、皮下(s.c.、s.q.、sub-Q、Hypo)、筋肉内(i.m.)、腹腔内(i.p.)、動脈内、髄内(intramedullary)、心内、関節内(関節)、滑液嚢内(関節液領域)、頭蓋内、脊髄内(intraspinal)、および髄腔内(intrathecal)(脳脊髄液)が挙げられるが、これらに限定されない。上記製剤の非経口注射もしくは注入のために有用な任意の公知のデバイスは、このような投与をもたらすために使用され得る。本明細書で使用される場合、用語「treat(処置する、処理する)」、「treating(処置する、処理する)」、および「treatment(処置、処理)」は、それらの通常のおよび慣習的な意味を有し、以下のうちの1以上を含む:被験体における疾患(例えば、がん)の症状を、重篤度および/もしくは頻度において、ブロック、改善もしくは低下させること、ならびに/あるいは被験体におけるがん細胞の成長、分裂、拡散もしくは増殖、またはがんの進行(例えば、新たな腫瘍の出現)を阻害すること。処置とは、本発明の方法が実施されなかった被験体と比較して約1%~約100%、ブロック、改善、低減もしくは阻害することを意味する。好ましくは、ブロック、改善、低減もしくは阻害は、本発明の方法が実施されなかった被験体と比較して約100%、99%、98%、97%、96%、95%、90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、10%、5%もしくは1%である。
【0077】
本発明のADCCエンハンサーの治療剤および予防剤の両方としての臨床有効性は、樹状細胞(DC)の使用を通じて、必要に応じて増強され得る。リンパ系器官において、DCは、Tヘルパー細胞に抗原を提示し、これは次に、CTL、B細胞、マクロファージ、好酸球およびNK細胞を含む免疫エフェクターを調節する。HIV抗原を発現するように操作されたかまたは外来のHIVタンパク質をパルス添加された自己由来DCが、HIVに対してインビトロでCTLをプライミングし得ることが報告された(Wilson et al., J Immunol., 1999, 162:3070-78)。従って、本発明の一実施形態において、DCは、被験体患者からまず単離され、次いで、標的抗原(例えば、ある種の腫瘍関連抗原または被験体患者もしくは外来の供給源に由来し得る疾患の他の表面マーカー)の供給源とともにインキュベートすることを通じてエキソビボでプライミングされる。これらDCは、自己由来CTLおよび/もしくは本発明のADCC増強システムでトランスフェクトされた他のエフェクター細胞によるか、または上記ADCC増強システムをコードするDNA構築物およびRNA構築物を含む製剤による処置の前に、上記患者へと最終的には注入し戻される。これは、DCの助けを借りて、上記ADCCエンハンサーを使用する増強された処置およびワクチンのモデルを提供する。
【0078】
本発明はまた、薬学的に受容可能な賦形剤とともにある量のアダプター様ADCCエンハンサーをコードする遺伝子構築物で満たされた1もしくはそれより多くの容器を含むキットを提供する。上記キットはまた、使用説明書を含み得る。医薬品もしくは生物学的製品の製造、使用もしくは販売を規制する政府機関によって指定された形態の注意書きがさらに、上記キットと関連づけられ得、この注意書きは、ヒトへの投与のための製造、使用もしくは販売についての上記機関による承認を反映する。
【実施例
【0079】
IV.実施例
(1)T細胞アダプター構築
本発明の様々な実施形態によって、アダプター様ADCCエンハンサー、すなわち、高親和性CD3結合ドメインに連結された高親和性Fc結合ドメインを有する融合タンパク質を開発し、検査した。
【0080】
特に、抗CD3抗体である脱免疫化およびヒト化scFvバージョンのOrthoclone OKT3(ムロモナブ-CD3としても公知)にCD64のFc結合エクトドメインが融合されたアダプター様ADCCエンハンサー(または可溶性の自由に会合し循環するT細胞アダプター)を産生するための遺伝子材料として、合成CD64-dhOKT3 DNAを化学合成により先ず作製した。
【0081】
本発明の他の実施形態では、例えば、他のFcレセプター(例えば、CD32およびCD16)のエクトドメイン、すなわち、細胞外ドメインに基づく、他のFc結合ドメインを使用することもできる。しかし、CD64(すなわち、FcγRI)は、CD16よりも、抗体のFc領域に対し約100~1000倍高い親和性を有し、このことは、抗体結合に関わるCD64の部分であるCD64のエクトドメインを、融合タンパク質におけるFc結合ドメインに好ましい候補とする。
【0082】
本来のタンパク質のエキソン境界により、タンパク質融合体の接合部を決定した(図2を参照)。このように融合タンパク質のために得たCD64ドメインは、分泌シグナルをコードする2個のエキソンと、続くエクトドメインをコードする3個のエキソンを含み、これを配列番号1として図3に示す。しかし、分泌シグナル配列は、CD64に由来する必要はなく、他の適した分泌シグナル配列によって置き換えることができる。さらに、代替的な実施形態では、タンパク質融合体の接合部は、本来のタンパク質のエクトドメインおよび膜貫通ドメインの間の予測されるアミノ酸境界に基づく。エキソンに基づく融合体と比較して、このアプローチは、融合タンパク質部分に、例えば2個の本来のドメインの間にリンカー配列を加える。
【0083】
2個のスペーサー配列およびOKT3配列を含む融合タンパク質(配列番号2)の残りを図4に示す。OKT3は本来、マウス細胞に由来するが、ヒト化されている、すなわち、多くのグループによりヒト由来の抗体により近づくように変換または変異されている。抗体または抗体フラグメントのヒト化は、当業者に公知の標準手順である。可動性セリン-グリシンリンカーを介してCD64の細胞外部分が脱免疫化およびヒト化OKT3(dhOKT3)と融合されたアダプター様ADCCエンハンサーの完全な配列(配列番号3)を図5に示す。代替的な実施形態では、ヒト化TR66など、他のアゴニスト抗CD3配列を使用することができる。
【0084】
そこで図6を参照すると、CD64-dhOKT3融合タンパク質を逆翻訳し(back translate)、配列最適化して、図に示すDNA配列(配列番号4)を作製した。最適化は、より頻繁にヒトに現れる個々のアミノ酸のコドンを選択することならびに反復領域および二次構造を潜在的に形成し得る領域を除去することの組み合わせに頼った。
【0085】
本発明の代替の実施形態は、精製を容易にするためのタグ(例えば、MycまたはHis)の付加を含む。別の選択肢は、タグから干渉を受けることなく、療法において精製されたタンパク質を使用することができるように、タグを切断可能にすることである。両方の実施形態は、当業者に周知の標準手順を使用して実施することができ、これについては本明細書では詳述しない。
(2)発現および精製
【0086】
CD64-dhOKT3融合タンパク質の合成遺伝子を化学合成し、哺乳動物発現ベクターにクローニングした。Invivogen(登録商標)から市販されているベクターpVITRO2-MCSを使用したが、同じ機能を果たすことができる多くの一般的なベクターが存在する。発現のため、メーカーの説明書に従ってExpi293細胞(Thermo Fisher Scientificから市販)に組換え発現ベクターをトランスフェクトした。得られた細胞株は、可溶性分泌タンパク質を産生した(図7および図8)。簡潔に説明すると、Expi293発現培地においてExpi293細胞を育成し、ExpiFectamine 293トランスフェクション試薬を使用してトランスフェクトした。トランスフェクションの16~20時間後に、合成されたADCC-エンハンサー1および2(図7)を培養物に添加し、トランスフェクションの2~7日後に上清を収集した。本発明の代替の実施形態では、他の発現系、例えば、CHO細胞が使用される。代替の実施形態では、発現カセットは、細胞株のゲノムに安定に組み込んで、融合タンパク質を産生する安定した派生体を作製することができる。
【0087】
市販のIgGセファロースカラム(GE Healthcare Life Sciences)など、一般的に公知の方法を使用して、ADCC-エンハンサータンパク質を親和性精製した(図8)。簡潔に説明すると、トランスフェクトした細胞に由来する上清を、ヒトIgGと架橋したセファロースビーズを充填したカラムにロードした。次に、中性pHバッファーおよび段階的勾配のより低いpHのクエン酸塩-リン酸塩バッファーでカラムを洗浄した。低pH(ほぼpH3)でADCC-エンハンサータンパク質を溶出させ、1M TrisHCl(pH7.4)において直ちに中和した。透析または限外濾過によりバッファーを交換した。
【0088】
脱塩カラム等の他の標準精製方法を使用することもできる。別の代替の実施形態は、タンパク質Lに基づく親和性カラムを使用する。タンパク質Lは、本明細書における融合タンパク質のOKT3部分など、scFvのものを含む多くの種のカッパ鎖に結合する。タグ付けされていないタンパク質を精製するための他の標準方法、例えば、イオン交換、サイズ排除等も、本発明において単独でまたは組み合わせて使用することができる。あるいは、また、先に言及された通り、融合タンパク質は、適切な親和性カラムを使用した容易な精製のために標準タグでタグ付けすることができる。これらの工程をつなげて使用して、より高純度タンパク質を得ることもできる。
【0089】
(3)結合親和性
【0090】
FcおよびCD3に結合するCD64-抗CD3融合タンパク質の能力は、いくつかの方法で上清または精製されたタンパク質を直接的に使用して検査することができる。例えば、図9に示す通り、Jurkat細胞は、CD3を発現するTリンパ球細胞であるため、Jurkat細胞を使用して、かかる親和性を検査することができる。一例によれば、2×10個のJurkat細胞をPBSにおいて洗浄し、50μlの培養上清(発現ベクターで数日間トランスフェクトされたExpi293細胞由来)または精製融合タンパク質において、30分間、4℃でインキュベートした。この細胞をPBSで2回洗浄し、次いで、市販の蛍光タグ付き抗CD64抗体を使用して、結合したADCCエンハンサーを検出した(図10)。図11において、Jurkat細胞への結合の力価測定を行ったところ、結果は、結合およびエンハンサー濃度の間の相関を示す。
【0091】
タグ付けされたタンパク質により、蛍光タグ付けされた抗タグ抗体を使用して、結合親和性を検出することもできる。このアプローチを使用して、リツキシマブでコーティングされたCD20 Daudi細胞によるCD64ドメインの結合を検出することもできる(図12を参照)。簡潔に説明すると、10個のDaudi細胞を収集し、PBSで洗浄し、0.1μg/mlのリツキシマブ(CD20に対する抗体、リツキサン、MabTheraおよびZytuxとしても公知)と共に30分間4℃でインキュベートした。PBSにおいて細胞を再度洗浄し、続いて上述の通り上清または精製されたタンパク質と共にインキュベートした(図13)。図14において、Daudi細胞への結合の力価測定を行ったところ、結果は、結合およびエンハンサー濃度の間の大きな相関を示す。実際に、アダプター様ADCCエンハンサーによるFcまたは抗体結合は、エンハンサーの他端由来のCD3結合よりも約30倍強いと思われる。
【0092】
代替の実施形態では、結合親和性の指標として、共培養系においてリツキシマブでコーティングされたDaudiおよびJurkat細胞の間の異種性凝集を試験する。DaudiおよびJurkat細胞をそれぞれ、標準方法を使用してCFSEもしくはCell Trace Far Redなどの生細胞染色で標識する、および/またはGFPなどの蛍光タンパク質を発現するように操作する。次に、細胞をリツキシマブおよび本発明の可溶性ADCCエンハンサーと共にコインキュベートする。両方の色が陽性であるダブレットに関してFACSデータを試験する。当業者であれば容易に理解できる通り、本明細書に記載されている実施形態における細胞株の選択は、JurkatおよびDaudi細胞に限定されない。本発明は、適切な抗体と組み合わせた種々の細胞株または初代細胞の使用を企図する。
【0093】
FcおよびCD3に結合するCD64-抗CD3融合タンパク質の能力は、表面プラズモン共鳴または他の標準的な生化学的もしくは細胞に基づくアッセイにより検査することもできる。
(4)細胞傷害性増強
【0094】
標準手順を使用して、例えば、RosetteSep CD8 T細胞濃縮キット(Stem Cell Technology)を使用して、献血された血液からナイーブ初代CD8T細胞を単離し、続いて抗CD3/CD28により増幅した。あるいは、総T細胞またはPBMCにより同様の実験を行うことができる。これらの細胞のいずれか1種を使用して、本発明のエンハンサーが活性化、増殖を引き起こし、細胞傷害性、特に、ADCCを誘発する能力を検査した。特に、T細胞増殖は、フローサイトメトリーまたは他の伝統的方法、例えば、チミジン取り込み、CFSE希釈などにより測定することができる。活性化は、種々の公知の活性化マーカー、例えば、HLA-DR、CD25、CD69などを検出することにより測定することができる。典型的には、これらの実験について、エンハンサーは、単独で機能することができるが、次のものを含めてまたは含めずに追加的な実験を行った:
【0095】
(A)50IU/mlのIL-2;
【0096】
(B)標的細胞;および/または
【0097】
(C)適切な抗体。
【0098】
標的細胞を含む場合、これは、マイトマイシンCにより事前処理して、増殖を止め、過密の効果を最小化することができる。また、リソソーム結合膜タンパク質-1(LAMP-1もしくはCD107a)は、刺激後の溶解顆粒(lytic granule)のCD8+ T細胞およびNK細胞脱顆粒のマーカーとして記載されてきた。したがって、上記の共存培養実験では、CD107a+ T細胞のレベルを、脱顆粒の尺度としてフローサイトメトリーによって分析し得る。
【0099】
細胞傷害性を評価するために、T細胞を、適切な治療用抗体の存在下で、CellTraceタグ化標的細胞とともに1日または2日間にわたって共存培養した。図15図23に数例の結果および設定を示し、種々のがん細胞に対する抗体依存性細胞傷害性を誘発、増強または増幅するアダプター様エンハンサーの能力の圧倒的な証拠を提供する。これらの図に提示されているデータは、Bリンパ芽球細胞(DaudiおよびRaji)、乳がん細胞(SK-BR3およびMDA-MB-231)およびPD-1を発現する細胞(293-PD1)の有効な殺傷に関与する。
【0100】
例えば、図15および図16に提示されているデータおよび機構は、本発明のエンハンサーが、ADCCに影響を与えるようにT細胞を動員することにより、リツキサンの存在下でCD20 Daudi細胞集団の多くを殺傷することができたことを示す。別の例として、図19に提示されているデータは、おそらく、エンハンサーによりT細胞が動員されてADCCを増強したため、本発明のエンハンサーが、SK-BR3乳がん細胞において、乳がん細胞上のHER2レセプターに対して設計された抗体であるハーセプチンの殺傷能を誘発することを示す。
【0101】
他のがん系統および設定において他の抗体により追加的な検査を行うことができ、例えば:(a)抗CD33抗体(WM-53)で処理したCD33+ AML系統(例えば、HL-60、MOLM-13およびTHP-1);(b)抗CD19抗体(HIB19)で処理したCD19+系統(例えば、NALM-6およびMEC-1);および(c)抗EpCAM抗体(HEA-125)で処理したEpCAM+系統(例えば、SW480)が挙げられる。
【0102】
そこで図23を参照すると、ニボルマブ(抗PD1抗体)、PD1をトランスジェニックにより発現させたHEK-293T細胞(ラージT抗原を発現するヒト胎児由来腎臓細胞)(「293T-PD1」)、CD8+ T細胞および本発明のエンハンサーを伴う細胞傷害性実験である。親の未改変HEK-293T細胞(「293T」)およびIgG4対照を対照として含めた。ニボルマブは、いかなるADCC活性も持たないようなIgG4抗体として開発された。しかし、その後の実験は、ADCCおよびPD1抗体が、一緒にするとより良く機能し得ることを示した。CD16とは異なり、CD64は、T細胞などの他の免疫エフェクター細胞から追加的な援助を動員するために、IgG4に結合し、ニボルマブなどの本来はADCC陰性の抗体をADCC陽性に変換する能力を有する。図に示す通り、単独では、ニボルマブは、その濃度が10倍増加された場合であっても、依然として、標的293T-PD1細胞においてごく限定された殺傷能を有したが、これは約75%の標的生存を示す。しかし、本発明のアダプター様エンハンサーが混合物に添加された場合、標的細胞生存率は、5%未満に急落した。これは、IgG4抗体またはそうでなければADCC能力を保持しない他の免疫エフェクター細胞と組み合わせたまたはこれと併せた、本発明のエンハンサーの有望な治療使用のための基盤を提供する。
【0103】
本明細書に含有されるデータは、抗体投薬量を低下させ、副作用および抗抗体応答を低下させるその機能を増強するために、リツキサンおよびハーセプチンなどの抗体を伴うアダプター様ADCCエンハンサーの使用を支持する。
【0104】
これは、がんの処置だけではなく自己免疫の処置においても機能する。例えば、リツキサンまたはリツキシマブは、自己免疫性患者の処置において混合的な結果を生じた:これは、RAにおいて十分に機能するが、SLEにおいてはごく僅かにしか機能しなかった。その理由の1つは、マクロファージ媒介性B細胞枯渇が、SLE患者において飽和していることである。T細胞アダプターとしてのADCCエンハンサーを使用してT細胞にB細胞殺傷を向け直すことは、この問題を回避する。
【0105】
さらに、エンハンサーは、低親和性バージョンのCD16(158F)を有する患者、またはADCC/CDCが何らかの形で抑制された患者、例えば、慢性リンパ性白血病(CLL)患者およびがん処置を受けている他の患者において使用することができる。
【0106】
抗体が診療所で利用されるまでADCCの役割が認められなかった多くの抗体、例えば、トラスツズマブ、抗PD-1、抗PD-L1、抗CTLA4などが存在する。これらの抗体の多くは、IgG4抗体である。上述の通り、エンハンサーのCD64部分は、上で示した通り、IgG4に結合し、本来はADCC陰性抗体をADCC陽性に変換することができる。
【0107】
種々の改変およびバリエーションが、本発明の範囲もしくは趣旨から逸脱することなく本発明において行われ得ることは、当業者に明らかである。本発明の他の実施形態は、本明細書を考慮することから、および本明細書で開示される発明の実施から、当業者に明らかである。本明細書および実施例は、例示と見做されるに過ぎず、本発明の真の範囲および趣旨は、以下の特許請求の範囲によって示されることが意図される。
【0108】
本願全体を通じて、種々の刊行物、特許、および/もしくは特許出願が、本発明が属する分野の技術水準をより十分に記載するために参照される。これら刊行物、特許、および/もしくは特許出願の開示は、各個々の刊行物、特許、および/もしくは特許出願が、具体的かつ個々に参考として援用されることが示されるのと同程度に、それらの全体において本明細書に参考として援用される。
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【配列表】
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