(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】組織学的試料のための試薬のインクジェット沈着
(51)【国際特許分類】
G01N 1/30 20060101AFI20220628BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20220628BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
G01N1/30
G01N33/48 P
G01N33/53 Y
(21)【出願番号】P 2017554833
(86)(22)【出願日】2016-04-20
(86)【国際出願番号】 EP2016058801
(87)【国際公開番号】W WO2016170008
(87)【国際公開日】2016-10-27
【審査請求日】2019-04-05
【審判番号】
【審判請求日】2021-03-25
(32)【優先日】2015-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507179346
【氏名又は名称】ベンタナ メディカル システムズ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】グロール,ヘニング
(72)【発明者】
【氏名】ポラスク,メリンダ・ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】コジコウスキ,レイモンド・ティー,ザ・サード
(72)【発明者】
【氏名】クレイン,エリック・エル
(72)【発明者】
【氏名】パルシュツィク,チャナ・アール
(72)【発明者】
【氏名】ハザー,メリス
(72)【発明者】
【氏名】タークル,ラヴィラジ
【合議体】
【審判長】石井 哲
【審判官】井上 香緒梨
【審判官】伊藤 幸仙
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2004/111610(WO,A2)
【文献】特開2008-96245(JP,A)
【文献】特開2003-130866(JP,A)
【文献】国際公開第98/58240(WO,A1)
【文献】特開2003-4609(JP,A)
【文献】国際公開第03/072258(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0122197(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的試料(908)の上に試薬を分配する方法であって、
保護液体層を、支持媒体上に沈着されている生物学的試料(908)上に重層すること、
一次
染色試薬組成物および抗体試薬組成物からなる群より選択される試薬組成物を含む試薬小滴であって、該試薬小滴が該保護液体層に浸透し、そして該生物学的試料(908)と接触するように、1pL~50pLの間の試薬小滴を分配すること、
を含んでなり、
該生物学的試料の上に分配される該試薬の量は、特定の生物学的試料および/またはアッセイに基づいて、分配機構の多数回のパスによる試薬の適用、試薬分配のインチあたりのドット(dpi)の変化、小滴体積の変化、および/または試薬濃度の変化によって、変化させる、
そして、
該試薬組成物は塩化アルミニウムを含む、
前記方法。
【請求項2】
前記試薬小滴を、5m/s~15m/sの間の速度で分配する、請求項1の方法。
【請求項3】
前記保護液体層が、水性パドル、非混和性油からなる群より選ばれる、請求項1または2の方法。
【請求項4】
前記保護液体層が非混和性油であり、
前記試薬小滴の密度が、該非混和性油の密度より大きい、
請求項1~3のいずれか1項の方法。
【請求項5】
前記試薬小滴が試料にヒットする際の前記試薬小滴の動力学エネルギーが9.52x10
-10ジュールより大きい、請求項1~4のいずれか1項の方法。
【請求項6】
前記一次染色試薬組成物が、色素、界面活性剤、および粘性修飾剤を含み、1cp~40cpの範囲の粘性および25ダイン/cm~45ダイン/cmの範囲の表面張力を有する、請求項1~5のいずれか1項の方法。
【請求項7】
前記色素が、ヘマトキシリン、エオジン、アクリジンオレンジ、ビスマルクブラウン、カーミン、クーマシーブルー、クレシルバイオレット、クリスタルバイオレット、DAPI(「2-(4-アミジノフェニル)-1H-インドール-6-カルボキサミジン」)、エチジウムブロミド、酸性フクシン、ヘキスト染色剤、ヨウ素、マラカイトグリーン、メチルグリーン、メチレンブルー、ニュートラルレッド、ナイルブルー、ナイルレッド、四酸化オスミウム、ローダミン、およびサフラニンからなる群より選択される、請求項6の方法。
【請求項8】
前記一次染色試薬組成物の粘性が、6cp~10cpの範囲である、請求項6または7の方法。
【請求項9】
前記一次染色試薬
組成物が、1x10
5s
-1~1x10
7s
-1の間の剪断速度で分配される、請求項6~8のいずれか1項の方法。
【請求項10】
前記抗体試薬組成物が、一次抗体、界面活性剤、および粘性修飾剤を含み、4cp~7cpの範囲の粘性、および20ダイン/cm~40ダイン/cmの範囲の表面張力を有する、請求項1~5のいずれか1項の方法。
【請求項11】
前記抗体
試薬組成物が、5x10
5s
-1未満の剪断速度で分配される、請求項10の方法。
【請求項12】
自動化スライド染色装置であって、
1pL~50pLの範囲の体積を有する試薬小滴を分配するためのディスペンサー、
顕微鏡スライドを保持するように適応したスライド支持体、
色素、界面活性剤、
塩化アルミニウム、および粘性修飾剤を含み、1cp~40cpの範囲の粘性および25ダイン/cm~45ダイン/cmの範囲の表面張力を有する一次染色組成物、および
抗体、抗体コンジュゲート、マルチマー、および酵素からなる群より選択される巨大分子、界面活性剤、
塩化アルミニウム、ならびに粘性修飾剤を含み、4cp~7cpの範囲の粘性、および20ダイン/cm~40ダイン/cmの範囲の表面張力を有する巨大分子染色組成物、
からなる群より選ばれる組成物であって、インクジェットプリンティングヘッド(905)に供給される前記組成物を収容する少なくとも1つの試薬リザーバー、
プロセッサ(902)およびメモリを含有する制御モジュールであって、該スライド支持体によって保持された顕微鏡スライド上に少なくとも1つの試薬リザーバー中の組成物を分配するよう分配装置に命令するようにプログラミングされている制御モジュール、
を備え、
該ディスペンサーは、該生物学的試料の上に分配される該試薬の量を、特定の生物学的試料および/またはアッセイに基づいて、分配機構の多数回のパスによる試薬の適用、試薬分配のインチあたりのドット(dpi)の変化、小滴体積の変化、および/または試薬濃度の変化によって、変化させるように設定され
、そして
該制御モジュールが、請求項1~11のいずれか1項の方法を実行するようプログラミングされている、
前記自動化スライド染色装置。
【請求項13】
組織化学的または細胞化学的分析のために、細胞または組織試料を染色するための、請求項
12記載の自動化スライド染色装置の使用。
【請求項14】
インクジェットプリンティングヘッド(905)に、請求項1~11のいずれか1項の方法を実行させるプログラムを記憶している、永続性(non-transitory)コンピュータ読み取り可能媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対するクロスリファレンス
[0001]本出願は、2015年4月20日出願の米国仮特許出願第62/150,122号の出願日の利益を主張し、その開示は本明細書に援用される。
【0002】
産業上の利用可能性の言及
[0002]本開示は、診断の分野において産業上の利用可能性を有する。
【背景技術】
【0003】
[0003]分子病理学は、疾患を引き起こすかまたは疾患に関連する、DNA、mRNA、およびタンパク質の分子レベルでの検査である。この検査から、患者診断、予後、および治療オプションに関する重要な情報を解明することが可能である。疾患、例えば癌は、多くの異なる方法によって診断可能である。1つの方法は、特定の癌タイプに相関するか、または相関すると考えられているバイオマーカー、例えば癌バイオマーカーの、組織または細胞中の存在を同定することである。
【0004】
[0004]ヘマトキシリンおよびエオジン(H&E)は、少なくとも1世紀に渡って使用されてきた主な染色剤であり、そして現代の癌診断の基礎を形成する、多様な組織タイプおよび形態学的変化を認識するために必須である。該染色剤は、多様な固定法でよく働き、そして広い範囲の細胞質、核、および細胞外マトリックス特徴を提示する。ヘマトキシリンは、深い青紫色を呈し、そして複雑な反応によって核酸を染色する。エオジンはピンクであり、そして非特異的にタンパク質を染色する。典型的な組織において、核は青に染色され、一方、細胞質および細胞外マトリックスは、多様な度合いのピンクの染色を有する。よく固定された細胞は、かなりの核内詳細を示す。核は、ヘテロクロマチン凝集の多様な細胞タイプおよび癌タイプ特異的パターン(ヘマトキシリン染色)を示し、これは診断的に非常に重要である。核小体はエオジンで染色される。豊富なポリリボソームが存在する場合、細胞質は特徴的な青い外観を有するであろう。ゴルジ帯は、核に近い領域における染色の欠如によって、暫定的に同定可能である。したがって、該染色剤は、特定の機能的暗示とともに、豊富な構造情報を開示する。
【0005】
[0005]組織化学および細胞化学は、顕微鏡上で視覚化可能な方式で、バイオマーカーに特異的に結合する分子で試料を標識することによって、インタクトな細胞の関連で、バイオマーカーを同定するためにしばしば用いられる技術である。免疫組織化学(IHC)および免疫細胞化学(ICC)は、バイオマーカーを標識するために抗体を用いるタイプの組織化学および細胞化学である。組織環境または細胞環境の関連で、バイオマーカーを同定することによって、バイオマーカー、および細胞または組織試料の他の形態学的または分子特徴の間の空間的関係が解明可能であり、これは、他の分子技術または細胞技術からは明らかではない情報を明らかにしうる。
【0006】
[0006]これらの技術は、典型的には、顕微鏡スライド、例えばガラス、プラスチック、または水晶顕微鏡スライド上にマウントされた組織切片(例えば腫瘍生検)または細胞試料(例えば血液または骨髄)に対して行われる、一連の処理工程を必要とする。しばしば用いられる工程には、マウントし、そして染色するために組織試料を調製する前処理(例えば脱パラフィン化、再水和、および/または抗原回復)、バイオマーカー特異的抗体またはプローブでの組織試料標識、酵素標識二次処理およびインキュベーション、バイオマーカーに関して標識された試料のフルオロフォアまたは発色団強調領域を生じるための酵素との基質反応、対比染色等が含まれる。これらの工程の大部分は、先の工程由来の未反応残渣試薬を除去する、多数のリンス工程によって分離される。インキュベーションはしばしば、上昇した温度、通常およそ37℃で行われ、そして組織は脱水から連続して保護されなければならない。
【0007】
[0007]IHCに必要な多数の反復処理工程を考慮して、自動化システムが導入されて、人の労働およびコスト、ならびにそれらに関連するエラー率が減少し、そして均一性が導入されてきた。成功裡に使用されてきた自動化システムの例には、Ventana Medical Systems(アリゾナ州ツーソン)から入手可能な、ES(登録商標)、NexES(登録商標)、DISCOVERYTM、BENCHMARKTMおよびGen II(登録商標)染色システムが含まれる。これらのシステムは、放射状に配置されたスライドを支持する回転カルーセルを含むマイクロプロセッサ制御システムを使用する。ステッピングモーターはカルーセルを回転させて、各スライドを、スライド上に配置された一連の試薬ディスペンサーの1つの下に配置する。スライドおよび試薬ディスペンサー上のバーコードが、コンピュータの適切なプログラミングによって、多様な組織試料各々に関して、異なる試薬処理が実行可能であるように、ディスペンサーおよびスライドのコンピュータ制御配置を可能にする。
【0008】
[0008]プロセシング中に試薬および他の液体を導入するため、試薬送達システムおよび送達法をしばしば用いる。典型的には、試薬送達システムは、試薬リザーバーまたはバイアル内に、針またはプラスチックチューブを挿入し、モーター駆動シリンジで、チューブ内に試薬を吸い上げ、針をスライド(または他の容器)に移動させ、そしてシリンジを逆転させて、試薬を分配することによって、試薬を自動的にピペッティングする。前述のようなプロセスにおいて、多くの試薬を、正確に測定された少量(マイクロリットル規模程度の少なさ)で、スライド上に沈着させなければならない。
【0009】
[0009]Ventana Medical Systems ES(登録商標)、NexES(登録商標)、BENCHMARK(登録商標)およびDISCOVERY(登録商標)システムなどの装置は、基本的に、制御された環境条件下で、1x3インチのガラス顕微鏡スライド上にマウントされた組織切片に、試薬を連続して適用するよう設計されている。装置は、いくつかの基本的な機能、例えば試薬適用、洗浄(以前に適用された試薬を除去するため)、ジェット排出(洗浄に続いて、スライド上の残渣緩衝剤体積を減少させるための技術)、Liquid CoverslipTM適用(試薬を封じ込め、そして蒸発を防止するために用いる軽油適用)、および他の装置機能を行わなければならない。
【0010】
[0010]スライド上の組織を染色するプロセスは、上述の基本的な装置機能の連続的な反復からなる。本質的に、試薬を組織に適用し、次いで、特定の温度で、特定された時間に渡ってインキュベーションする。インキュベーション時間が完了したら、すべての試薬が適用され、そして染色プロセスが完了するまで、試薬をスライドから洗い流し、そして次の試薬を適用し、インキュベーションし、そして洗い流す等を行う。
【発明の概要】
【0011】
[0011]本開示の1つの側面において、色素(例えばヘマトキシリンまたはエオジン)、界面活性剤、および粘性修飾剤を含む、一次染色組成物を開示する。いくつかの態様において、一次染色組成物は、本明細書にさらに記載するように、小滴オンデマンド試薬分配システムから分配するために適している。いくつかの態様において、小滴オンデマンド試薬分配システムは、インクジェット分配システムである。いくつかの態様において、一次染色組成物は、塩化アルミニウムをさらに含む。
【0012】
[0012]本開示の別の側面において、色素、界面活性剤、および粘性修飾剤を含む、一次染色組成物を開示し、ここで、組成物は、約1cp~約40cpの範囲の粘性、および約25ダイン/cm~約45ダイン/cmの範囲の表面張力を有する。いくつかの態様において、組成物は、約6cp~約10cpの範囲の粘性を有する。いくつかの態様において、色素は、ヘマトキシリン、エオジン、アクリジンオレンジ、ビスマルクブラウン、カーミン、クーマシーブルー、クレシルバイオレット、クリスタルバイオレット、DAPI(「2-(4-アミジノフェニル)-1H-インドール-6-カルボキサミジン」)、エチジウムブロミド、酸性フクシン、ヘキスト染色剤、ヨウ素、マラカイトグリーン、メチルグリーン、メチレンブルー、ニュートラルレッド、ナイルブルー、ナイルレッド、四酸化オスミウム、ローダミン、およびサフラニンからなる群より選択される。いくつかの態様において、界面活性剤は非イオン性界面活性剤である。いくつかの態様において、粘性修飾剤はグリコールである。いくつかの態様において、粘性修飾剤はプロピレングリコールである。いくつかの態様において、界面活性剤は、一次染色組成物の総重量の約0.01%~約0.5%の間の範囲の量で存在する。いくつかの態様において、粘性修飾剤は、一次染色組成物の総重量の約35%~約60%の間の範囲の量で存在する。いくつかの態様において、一次染色組成物は、緩衝剤をさらに含む。いくつかの態様において、一次染色組成物は、緩衝剤をさらに含む。いくつかの態様において、一次染色組成物は、約2~約5の範囲のpHを有する。いくつかの態様において、一次染色組成物は、約2.2のpHを有する。いくつかの態様において、一次染色組成物は、塩化アルミニウムをさらに含む。
【0013】
[0013]いくつかの態様において、色素はヘマトキシリンであり、界面活性剤は非イオン性界面活性剤であり、粘性修飾剤はプロピレングリコールであり;そしてプロピレングリコールの量は一次染色組成物の総重量の約35%~約60%の範囲である。いくつかの態様において、色素はエオジンであり、界面活性剤は非イオン性界面活性剤であり、粘性修飾剤はプロピレングリコールであり;そしてプロピレングリコールの量は一次染色組成物の総重量の約35%~約60%の範囲である。
【0014】
[0014]本開示の別の側面において、第一の一次染色組成物および第二の一次染色組成物を含む、キットを開示し、ここで第一の一次染色組成物は、ヘマトキシリン、非イオン性界面活性剤、およびプロピレングリコールを含み、プロピレングリコールは、第一の一次染色組成物の総重量の約35%~約60%の範囲の量で存在し;そして第二の一次染色組成物は、エオジン、非イオン性界面活性剤、およびプロピレングリコールを含み、プロピレングリコールは、第二の一次染色組成物の総重量の約35%~約60%の範囲の量で存在する。
【0015】
[0015]本開示の別の側面において、抗体、抗体コンジュゲート、酵素、およびマルチマーからなる群より選択される生物学的分子;界面活性剤;ならびに粘性修飾剤を含む、巨大分子試薬組成物を開示し;ここで、抗体組成物は、本明細書にさらに記載するような小滴オンデマンド試薬分配システムから分配するために適している。いくつかの態様において、小滴オンデマンド試薬分配システムは、インクジェット分配システムである。いくつかの態様において、巨大分子試薬組成物は、塩化アルミニウムをさらに含む。
【0016】
[0016]本開示の別の側面において、抗体または抗体コンジュゲート、界面活性剤、および粘性修飾剤を含む抗体染色組成物を開示し、ここで、抗体組成物は、約4cp~約11cpの範囲の粘性、および約20ダイン/cm~約40ダイン/cmの範囲の表面張力を有する。いくつかの態様において、抗体染色組成物は、少なくとも1つのキャリアータンパク質をさらに含む。いくつかの態様において、少なくとも1つのキャリアータンパク質は、ウシ血清アルブミンおよび正常ヤギ血清からなる群より選択される。いくつかの態様において、界面活性剤は非イオン性界面活性剤である。いくつかの態様において、界面活性剤は、抗体染色組成物の総重量の約0.01%~約0.5%の範囲の量で存在する。いくつかの態様において、粘性修飾剤はグリセロールである。いくつかの態様において、粘性修飾剤は、抗体染色組成物の総重量の約2%~約50%の範囲の量で存在する。いくつかの態様において、界面活性剤は非イオン性界面活性剤であり、粘性修飾剤はグリセロールまたは高分子量デキストランであり、そして組成物は、ウシ血清アルブミンをさらに含み;そしてグリセロールまたは高分子量デキストランの量は、抗体染色組成物の総重量の約2%~約50%の範囲である。いくつかの態様において、巨大分子試薬組成物は、塩化アルミニウムをさらに含む。
【0017】
[0017]本開示の別の側面において、抗体染色組成物を含む第一の組成物および少なくとも1つの一次染色組成物を含む第二の構成要素を含む、キットを開示する。いくつかの態様において、一次染色組成物は、ヘマトキシリンまたはエオジンの一方、非イオン性界面活性剤、およびプロピレングリコールを含み、プロピレングリコールは、一次染色組成物の総重量の約35%~約60%の範囲の量で存在する。いくつかの態様において、抗体組成物は、一次抗体、界面活性剤、および粘性修飾剤を含み、ここで抗体組成物は、約4cp~約11cpの範囲の粘性、および約20ダイン/cm~約40ダイン/cmの範囲の表面張力を有する。
【0018】
[0018]本開示の別の側面において、組織試料を染色する方法であって、(a)小滴オンデマンドプリントヘッド(例えばインクジェットプリントヘッドまたは他の小滴分配手段)を、染色試薬を受け取る組織試料の部分の近傍(例えば、x、y、z空間において近く、その上、またはその周囲)に配置し、プリントヘッドは染色試薬供給源と液体連絡があり;(b)あらかじめ決定した量の染色試薬を、インクジェットプリントヘッドから、そして組織試料の部分上に、あらかじめ決定した速度で分配する工程を含む、前記方法を開示する。いくつかの態様において、方法は、工程(b)を1回またはそれより多く反復する工程を含む。いくつかの態様において、方法は、工程(b)を少なくとも3回反復する工程を含む。いくつかの態様において、方法を組織試料の異なる部分に関して反復する。
【0019】
[0019]いくつかの態様において、方法は、分配された染色試薬の染色強度を測定する工程をさらに含む。いくつかの態様において、測定した染色強度が、あらかじめ決定した閾値を満たさない場合、工程(b)を反復する。いくつかの態様において、あらかじめ決定した閾値は、約30AU(任意的単位)~約160AUの間の吸光度値である。いくつかの態様において、あらかじめ決定した閾値は、約25AU~約60AUの間の吸光度値である。いくつかの態様において、あらかじめ決定した閾値は、約30AU~約70AUの間の吸光度値である。いくつかの態様において、あらかじめ決定した閾値は、約44AU~約145AUの間の吸光度値である。
【0020】
[0020]いくつかの態様において、染色試薬の累積量が、約10μL/in2~約30μL/in2の範囲になるまで、工程(b)を反復する。いくつかの態様において、染色試薬の累積量が、約12μL/in2~約28μL/in2の範囲になるまで、工程(b)を反復する。いくつかの態様において、染色試薬の累積量が、約14μL/in2~約28μL/in2の範囲になるまで、工程(b)を反復する。
【0021】
[0021]いくつかの態様において、分配法は、組織試料の部分と連絡がある染色剤枯渇層に補充する。いくつかの態様において、あらかじめ決定した速度は、染色試薬が、組織試料と連絡があるパドルに浸透し、そして染色剤枯渇層に補充することを可能にするものである。いくつかの態様において、あらかじめ決定した速度は、組織試料の界面層での混合を可能にするものである。いくつかの態様において、あらかじめ決定した速度は、約5m/s~約15m/sの範囲である。
【0022】
[0022]いくつかの態様において、2つの染色試薬を組織試料に連続して適用する。いくつかの態様において、染色試薬は一次染色剤である。いくつかの態様において、染色試薬は、色素、界面活性剤、および粘性修飾剤を含む組成物であり、該組成物は、約1cp~約40cpの範囲の粘性および約25ダイン/cm~約45ダイン/cmの範囲の表面張力を有する。いくつかの態様において、組成物は、約1x105s-1~約1x107s-1の間の剪断速度で分配される。いくつかの態様において、ヘマトキシリンまたはエオジンの一方を、まず組織試料の少なくとも部分に適用し、そして続いて、ヘマトキシリンまたはエオジンのもう一方を、組織試料の少なくとも同じ部分に二番目に適用する。
【0023】
[0023]いくつかの態様において、染色試薬は巨大分子染色組成物である。いくつかの態様において、巨大分子染色組成物は、抗体、抗体コンジュゲート、マルチマー、および酵素からなる群より選択される巨大分子;界面活性剤;ならびに粘性修飾剤を含み、約4cp~約11cpの範囲の粘性、および約20ダイン/cm~約40ダイン/cmの範囲の表面張力を有する。いくつかの態様において、巨大分子染色組成物は、約5x105s-1未満の剪断速度で分配される。
【0024】
[0024]いくつかの態様において、方法は、各分配工程の前または後に、1またはそれより多いさらなる試薬を場合によって沈着させる工程をさらに含み、1またはそれより多いさらなる試薬が、脱パラフィン化剤、洗浄剤、リンス剤、希釈剤、緩衝剤、または検出試薬からなる群より選択される。いくつかの態様において、1またはそれより多い試薬を場合によって沈着させる工程を、インクジェットプリントヘッドから1またはそれより多い試薬を分配することによって行う。いくつかの態様において、1またはそれより多い試薬を場合によって沈着させる工程を、別の沈着手段によって行う。
【0025】
[0025]本開示の別の側面において、生物学的試料の上に試薬を分配する方法であって:保護液体層を生物学的試料上に重層する、該生物学的試料は支持媒体上に沈着されている;約1pL~約50pLの間の試薬小滴を分配し、試薬小滴が保護液体層に浸透し、そして生物学的試料と接触するようにする;ここで、試薬小滴は、一次染色試薬組成物および抗体試薬組成物からなる群より選択される試薬組成物を含む工程を含む、前記方法を開示する。いくつかの態様において、試薬小滴を、約5m/s~約15m/sの間の速度で分配する。いくつかの態様において、保護液体層は水性パドルである。いくつかの態様において、保護液体層は非混和性油である。いくつかの態様において、試薬小滴の密度は、非混和性油の密度より大きい。いくつかの態様において、試薬小滴の動力学エネルギーは、非混和性油の表面張力より大きい。いくつかの態様において、試薬小滴の動力学エネルギーは、保護液体層の表面張力より大きい。いくつかの態様において、動力学エネルギーは9.52x10-10ジュールより大きい。
【0026】
[0026]いくつかの態様において、一次染色試薬組成物は、色素、界面活性剤、および粘性修飾剤を含み、約1cp~約40cpの範囲の粘性および約25ダイン/cm~約45ダイン/cmの範囲の表面張力を有する。いくつかの態様において、一次染色試薬組成物は、約1x105s-1~約1x107s-1の間の剪断速度で分配される。いくつかの態様において、抗体試薬組成物は、一次抗体、界面活性剤、および粘性修飾剤を含み、約4cp~約7cpの範囲の粘性、および約20ダイン/cm~約40ダイン/cmの範囲の表面張力を有する。いくつかの態様において、抗体組成物は、約5x105s-1未満の剪断速度で分配される。
【0027】
[0027]本開示の別の側面において、生物学的試料の上に試薬を分配する方法であって:保護液体層を生物学的試料上に重層する、該生物学的試料は支持媒体上に沈着されている;pH修飾剤を、生物学的試料に分配し;そして試薬小滴を、約5m/s~約15m/sの間の速度で分配する;ここで、試薬小滴は、一次染色試薬組成物および抗体試薬組成物からなる群より選択される試薬組成物を含む工程を含む、前記方法を開示する。いくつかの態様において、分配される試薬小滴の量は、約10μL/in2~約30μL/in2の範囲である。いくつかの態様において、pH修飾剤は、約3~約5の範囲のpHを有する。いくつかの態様において、保護液体層は非混和性油であり、そして試薬小滴の動力学エネルギーは非混和性油の表面張力より大きい。いくつかの態様において、一次染色試薬組成物が、色素、界面活性剤、および粘性修飾剤を含み、約1cp~約40cpの範囲の粘性および約25ダイン/cm~約45ダイン/cmの範囲の表面張力を有する。いくつかの態様において、一次染色試薬組成物は、約1x105s-1~約1x107s-1の剪断速度で分配される。いくつかの態様において、抗体試薬組成物は、一次抗体、界面活性剤、および粘性修飾剤を含み、約4cp~約7cpの範囲の粘性、および約20ダイン/cm~約40ダイン/cmの範囲の表面張力を有する。いくつかの態様において、抗体組成物は、約5x105s-1未満の剪断速度で分配される。
【0028】
[0028]本開示の別の側面において、生物学的試料の上に試薬を分配する方法であって:保護液体層を生物学的試料上に重層する、該生物学的試料は支持媒体上に沈着されている;試薬小滴が保護液体層に浸透して生物学的試料に到達するために十分な動力学エネルギーで、試薬小滴を分配し、そして生物学的試料上に沈着される試薬小滴の空間密度が約50dpi~約1200dpiであるように分配する、ここで、試薬小滴は、一次染色試薬組成物および巨大分子染色組成物からなる群より選択される試薬組成物を含む工程を含む、前記方法を開示する。いくつかの態様において、保護液体層は非混和性油であり、そして試薬小滴の密度は非混和性油の密度より大きい。いくつかの態様において、巨大分子染色組成物は、抗体、抗体コンジュゲート、マルチマー、および酵素からなる群より選択される巨大分子;界面活性剤;ならびに粘性修飾剤を含み、約4cp~約7cpの範囲の粘性、および約20ダイン/cm~約40ダイン/cmの範囲の表面張力を有する。いくつかの態様において、巨大分子染色組成物が、約5x105s-1未満の剪断速度で分配される。いくつかの態様において、一次染色試薬組成物は、色素、界面活性剤、および粘性修飾剤を含み、約1cp~約40cpの範囲の粘性および約25ダイン/cm~約45ダイン/cmの範囲の表面張力を有する。いくつかの態様において、一次染色試薬組成物は、1x105s-1~約1x107s-1の間の剪断速度で分配される。
【0029】
[0029]本開示の別の側面において、生物学的試料の上に1またはそれより多い試薬を分配する方法であって、保護液体層を生物学的試料上に重層する、該生物学的試料は支持媒体(例えば顕微鏡スライド)上に沈着されている;試薬小滴が保護液体層に浸透し、そして生物学的試料に接触するように、小滴オンデマンドシステムを通じて、試薬小滴を分配する;ここで、試薬は、一次染色試薬組成物または巨大分子試薬組成物からなる群より選択される工程を含む、前記方法を開示する。いくつかの態様において、一次染色組成物は、色素、界面活性剤、および粘性修飾剤を含み、約1cp~約40cpの範囲の粘性および約25ダイン/cm~約45ダイン/cmの範囲の表面張力を有する。いくつかの態様において、色素はヘマトキシリンであり、界面活性剤は非イオン性界面活性剤であり、粘性修飾剤はプロピレングリコールであり;そしてプロピレングリコールの量は一次染色組成物の総重量の約35%~約60%の範囲である。いくつかの態様において、色素はエオジンであり、界面活性剤は非イオン性界面活性剤であり、粘性修飾剤はプロピレングリコールであり;そしてプロピレングリコールの量は一次染色組成物の総重量の約35%~約60%の範囲である。いくつかの態様において、巨大分子染色組成物は、一次抗体、界面活性剤、および粘性修飾剤を含み、約4cp~約7cpの範囲の粘性、および約20ダイン/cm~約40ダイン/cmの範囲の表面張力を有する。いくつかの態様において、保護液体層は水性パドルである。いくつかの態様において、試薬小滴を、生物学的試料周囲の枯渇層に浸透させ、そして補充するために十分な速度で提供する。いくつかの態様において、試薬小滴を、約5m/s~約15m/sの間の速度で分配する。いくつかの態様において、保護液体層は非混和性液体、例えば油である。いくつかの態様において、試薬小滴の密度は、非混和性油の密度より大きい。いくつかの態様において、試薬小滴の動力学エネルギーは、非混和性油の表面張力より大きい。いくつかの態様において、試薬小滴のウェーバー数は約18未満である。いくつかの態様において、一次染色試薬溶液は、約1x105s-1~約1x107s-1の剪断速度で分配され、そして抗体試薬溶液は、約5x105s-1未満の剪断速度で分配される。
【0030】
[0030]本開示の別の側面において、一次染色試薬組成物または巨大分子試薬染色組成物を、組織試料に分配するための手段を開示し、ここで、分配される一次染色試薬組成物または巨大分子試薬染色組成物の体積は、約10μL/in
2~約30μL/in
2の範囲である。いくつかの態様において、分配手段はインクジェットプリントヘッドである。いくつかの態様において、分配手段は、ターゲット画像化システム、相対運動システム、プリントヘッド、液体リザーバー、および圧制御手段を含む、小滴オンデマンドシステムである。いくつかの態様において、分配手段は、プリントヘッドクリーニングシステムをさらに含む。いくつかの態様において、分配手段は、
図1Aに例示するとおりである。いくつかの態様において、一次染色試薬組成物および巨大分子試薬染色組成物は、分配手段での分配に適した粘性を有するように配合される。
【0031】
[0031]本開示の別の側面において、自動化スライド染色装置であって、(a)約1pL~約50pLの範囲の体積を有する試薬小滴を分配するためのディスペンサー;(b)顕微鏡スライドを保持するように適応したスライド支持体;(c)インクジェットプリンティングヘッドと液体連絡がある、一次染色試薬組成物または巨大分子染色組成物を含む、少なくとも1つの試薬リザーバー;および(d)プロセッサおよびメモリを含有する制御モジュールであって、スライド支持体によって保持された顕微鏡スライド上に組成物を分配するようインクジェットプリンティングヘッドに命令するようにプログラミングされている、前記制御モジュールを含む、前記染色装置を開示する。
【0032】
[0032]本開示の別の側面において、(i)組織試料を含有するスライドの第一の部分を画像化し;(ii)染色試薬の適用のため、スライドの第二の部分を選択し、ここで第二の部分は第一の部分のサブセットである;(iii)複数回のパスに渡って、インクジェット沈着システムを通じて、第二の部分に染色試薬を沈着させる工程を含む、コンピュータ実装法を開示する。いくつかの態様において、染色試薬は、約360nL/in2~約14.4μL/in2の間で、沈着システムのパスを通じて、第二の部分に沈着される。
【0033】
[0033]本開示の別の側面において、1またはそれより多いプロセッサおよび少なくとも1つのメモリを含む、組織試料を染色するためのコンピュータシステムであって、少なくとも1つのメモリが、1またはそれより多いプロセッサに、小滴オンデマンド分配機構を有し、コンピュータシステムと連絡がある染色装置が、あらかじめ決定した量の一次染色試薬組成物または巨大分子試薬組成物を、生物学的試料の少なくとも部分に分配するように実行させるための永続性コンピュータ読み取り可能命令を記憶する、前記システムを開示する。
【0034】
[0034]慣用的な染色法に比較した際、より正確に(例えば投薬正確性、時間的正確性、in situ混合)試薬を適用するかまたは分配することが有利であろう。慣用的な染色法に比較した際、より少ない試薬体積(そしてしたがってより少ない無駄)で試薬を分配し、そして/またはより速い速度で、染色動力学を駆動することもまた有利であろう。本出願人らは、小滴オンデマンド技術(例えばインクジェット技術または圧電技術)を通じた試薬溶液の分配が、一貫した結果を可能にし、そして自動化染色プロセス内に取り込むために適していることを見出した。本出願人らはまた、小滴オンデマンドシステムを通じて、より多くのまたはより少ない試薬量を組織に分配することによって、染色強度を最適化する(例えば「ダイヤル合わせする(dialed-in)」)ことが可能であることも見出した。実際、本出願人らは、いくつかの方法の1つによって、試薬量を変動させることが可能であることを見出しており、これらには、本明細書に開示するような、(i)分配機構の多数回のパスによる試薬の適用;(ii)試薬分配のインチあたりのドット(dpi)の変化;(iii)小滴体積の変化;および/または(iv)試薬濃度の変化が含まれる。本出願人らは、予期せぬことに、本明細書にさらに論じるように、染色反応動力学が、先行技術のパドル技術を用いるよりも、より迅速であるようであることを発見した。本出願人らはまた、小滴オンデマンド沈着プロセスを通じた試薬溶液の分配が、慣用的な染色法と比較した際に、同じ染色強度を提供しながら、試薬使用の有意な減少を可能にすることもまた見出した。これらのおよび他の比較上優れた結果を本明細書にさらに記載する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
[0035]本特許または出願ファイルは、カラーで作成された少なくとも1つの図を含有する。カラー図を含む本特許または特許出願公開のコピーは、リクエストと必要な料金の支払いがあれば、特許庁に提供されるであろう。
【
図1-1】[0036]
図1Aは、本開示の態様にしたがった小滴オンデマンドシステムを示す。
【
図1-2】[0037]
図1Bは、本開示の態様にしたがった小滴オンデマンドシステムを含むかまたはこれに結びつけられていてもよいシステムを示す。
【
図2】[0038]
図2は、本開示の態様の1つにしたがった試薬分配プロセスを示す。
【
図3】[0039]
図3は、本開示の別の態様にしたがった試薬分配プロセスを示す。
【
図4-1】[0040]
図4A~4Eは、組織が本開示の1つの態様にしたがった試薬分配プロセスで染色されるヘマトキシリンでの組織試料の染色を例示し、そしてさらに、慣用的な染色技術と小滴オンデマンド染色を比較する。
【
図4-2】[0040]
図4A~4Eは、組織が本開示の1つの態様にしたがった試薬分配プロセスで染色されるヘマトキシリンでの組織試料の染色を例示し、そしてさらに、慣用的な染色技術と小滴オンデマンド染色を比較する。
【
図4-3】[0040]
図4A~4Eは、組織が本開示の1つの態様にしたがった試薬分配プロセスで染色されるヘマトキシリンでの組織試料の染色を例示し、そしてさらに、慣用的な染色技術と小滴オンデマンド染色を比較する。
【
図5-1】[0041]
図5A~5Cは、組織が本開示の1つの態様にしたがった試薬分配プロセスで染色されるエオジンでの組織試料の染色を例示し、そしてさらに、慣用的な染色技術と小滴オンデマンド染色を比較する。
【
図5-2】[0041]
図5A~5Cは、組織が本開示の1つの態様にしたがった試薬分配プロセスで染色されるエオジンでの組織試料の染色を例示し、そしてさらに、慣用的な染色技術と小滴オンデマンド染色を比較する。
【
図6】[0042]
図6Aおよび6Bは、本開示の1つの態様にしたがった試薬分配プロセスを用いた、ヘマトキシリンおよびエオジン両方での組織試料の染色を例示する。
【
図7】[0043]
図7は、IHCプロセスにおける一次染色剤または抗体での組織試料の染色のための1つのプロセスを例示するフローチャートを示す。
【
図8-1】[0044]
図8Aは、本開示の1つの態様にしたがった試薬分配プロセスを示す。
【
図8-2】[0045]
図8Bは、本開示の1つの態様にしたがった試薬分配プロセスを用いた組織試料染色を例示する。
【
図9-1】[0046]
図9A、9B、および9Cは、本開示の1つの態様にしたがった試薬分配プロセスを用いた一次抗体の沈着を通じて達成される染色を例示する。
【
図9-2】[0046]
図9A、9B、および9Cは、本開示の1つの態様にしたがった試薬分配プロセスを用いた一次抗体の沈着を通じて達成される染色を例示する。
【
図10】[0047]
図10A~10Cは、本開示の1つの態様にしたがった試薬分配プロセスを用いた一次抗体の沈着のさらなる例を例示する。
【
図11】[0048]
図11は、異なる試薬での異なる組織領域の染色を例示する。
【
図12】[0049]
図12Aは、組織の細胞質および細胞外領域の染色強度に対する、細胞核における染色強度の比を比較する。[0050]
図12Bは、異なるpHでの染色の効果を例示する。
【発明を実施するための形態】
【0036】
[0051]一般的に、本開示は、小滴オンデマンド技術を利用した、生物学的試料への1またはそれより多い試薬の送達または分配に関する。分配されたら、試薬は、生物学的試料内の細胞、細胞膜、核および/または組織または構造に分布する。ここに開示する方法は、(i)試料内およびスライド上両方の空間的選択性;(ii)染色パドル中に存在する任意の拡散枯渇層の厚みより小さい組織切片(高さおよそ4μm)のサイズ規模まで試薬フィルムの厚さを低下させて、フィルムを試料上にプリントする能力;および(iii)利用する特定の小滴生成技術によって定義されるような、単一の小滴のサイズ規模まで低下させて、試料上の関心対象の領域を染色する能力を持つ、染色反応のための試薬を沈着させる能力によってユニークに特徴付けられる。例えば、いくつかの態様において、最少染色領域は、直径およそ25~60μmの組織領域である。本明細書にさらに詳細に記載するように、分配される試薬には、生物学的試料内のターゲットが、染色、検出および分析可能であるような、組織化学において有用な一次染色または抗体が含まれる。
【0037】
[0052]本明細書において、単数形の用語「a」、「an」、および「the」には、文脈が別の意味を明らかに示さない限り、複数形の参照対象が含まれる。同様に、単語「または(or)」は、文脈が別の意味を明らかに示さない限り、「および(and)」を含むよう意図される。
【0038】
[0053]用語「含むこと(comprising)」、「含まれること(including)」、「有すること(having)」等は、交換可能に用いられ、そして同じ意味を有する。同様に、「含む(comprises)」、「含まれる(includes)」、「有する(has)」等は、交換可能に用いられ、そして同じ意味を有する。具体的には、用語各々は、「含むこと」の一般的な米国特許法の定義と一致して定義され、そしてしたがって、「少なくとも以下」を意味するオープンタームであると解釈され、そしてまたさらなる特徴、限定、側面等を排除しないと解釈される。したがって、例えば、「構成要素a、b、およびcを有するデバイス」は、デバイスが、少なくとも構成要素a、bおよびcを含むことを意味する。同様に、句:「工程a、b、およびcを含む方法」は、方法が少なくとも工程a、b、およびcを含むことを意味する。さらに、工程およびプロセスは、本明細書において特定の順序で概略されうるが、当業者は、工程およびプロセスの順序は多様でありうることを認識するであろう。
【0039】
[0054]本明細書において、用語「抗体」は、免疫グロブリンまたは免疫グロブリン様分子を指し、例えば、そして限定なしに、関心対象の分子(または関心対象の非常に類似の分子群)に特異的に結合して、他の分子への結合を実質的に排除する、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM、その組み合わせ、および任意の脊椎動物において(例えばヒト、ヤギ、ウサギおよびマウスなどの哺乳動物において)免疫反応中に産生される類似の分子、ならびに抗体断片(例えば、当該技術分野に知られるようなF(ab’)2断片、Fab’断片、Fab’-SH断片およびFab断片)、組換え抗体断片(例えばsFv断片、dsFv断片、二重特異性sFv断片、二重特異性dsFv断片、F(ab)’2断片、一本鎖Fvタンパク質(「scFv」)、ジスルフィド安定化Fvタンパク質(「dsFv」)、ディアボディ、およびトリアボディ(当該技術分野に知られるようなもの)およびラクダ科(Camelid)抗体))が含まれる。抗体は、さらに、抗原のエピトープを特異的に認識して、そしてこれに結合する、少なくとも軽鎖または重鎖免疫グロブリン可変領域を含む、ポリペプチドリガンドを指す。抗体は、各々、可変領域を有する、可変重鎖(VH)領域および可変軽鎖(VL)領域と称される重鎖および軽鎖で構成されてもよい。VH領域およびVL領域は、一緒に、抗体によって認識される抗原への結合に関与する。用語、抗体にはまた、インタクトな免疫グロブリン、ならびに当該技術分野に周知のその変異体および部分も含まれる。
【0040】
[0055]本明細書において、用語「抗原」は、抗体分子またはT細胞受容体などの、特異的体液性または細胞性免疫の産物によって特異的に結合可能である化合物、組成物、または物質を指す。抗原は、例えば、ハプテン、単純中間代謝産物、糖(例えばオリゴ糖)、脂質、およびホルモン、ならびに巨大分子、例えば複合糖質(例えば多糖)、リン脂質、核酸およびタンパク質を含む任意のタイプの分子であってもよい。
【0041】
[0056]「生物学的試料」または「組織試料」は、組織化学または細胞化学分析に適している、限定されるわけではないが、単細胞生物、例えばとりわけ細菌、酵母、原生動物、およびアメーバ、多細胞生物(例えば、健康なまたは見かけ上健康なヒト被験体、あるいは診断または研究しようとする状態または疾患、例えば癌に罹患しているヒト患者を含む、植物または動物)を含む、任意の生存生物から得られるか、これらによって排出されるか、またはこれらによって分泌される、任意の固形または液体試料、例えば分析しようとする細胞および/または組織の形態学的特性を保持する試料であってもよい。例えば、生物学的試料は、例えば、血液、血漿、血清、尿、胆汁、腹水、唾液、脳脊髄液、眼房水または硝子体液、あるいは任意の体性分泌物、漏出液、滲出液(例えば、膿瘍あるいは感染または炎症の任意の他の部位から得られる液体)、あるいは関節(例えば正常関節または疾患に罹患した関節)から得られる液体であってもよい。生物学的試料はまた、任意の臓器または組織(生検または検屍標本、例えば腫瘍生検を含む)から得られる試料であってもよく、あるいは細胞(初代細胞または培養細胞いずれであってもよい)、または任意の細胞、組織もしくは臓器によって馴化された培地を含んでもよい。いくつかの例において、生物学的試料は、核抽出物である。特定の例において、試料は品質管理試料である。他の例において、試料は試験試料である。例えば、試験試料は、被験体から得られた生物学的試料から調製された、細胞、組織または細胞ペレット切片である。1つの例において、被験体は、リスクがあるかまたは獲得しているものである。試料は、一般の当業者によって知られる任意の方法を用いて調製可能である。試料は、ルーチンのスクリーニングのため、被験体から得られてもよいし、または障害、例えば遺伝子異常、感染、または新生物を有すると推測される被験体から得られてもよい。また、開示する方法の記載する態様を、「正常」試料と称される、遺伝子異常、疾患、障害等を持たない試料に適用してもよい。試料には、1またはそれより多い検出プローブによって特異的に結合可能である多数のターゲットが含まれてもよい。
【0042】
[0057]本明細書において、句「ディップアンドダンク(dip and dunk)」は、試料および顕微鏡スライドを、各アッセイ工程に関する染色試薬のパスに浸すことによる染色技術を指す。
【0043】
[0058]本明細書において、用語「滴オンデマンド」、「小滴オンデマンド」、または「小滴に基づく」(および他の同様の用語または句)は、試薬でスライドまたはその上の試料を「水浸しにする(flooding)」のとは対照的に、ターゲット試料上に試薬の別個の小滴を沈着させる染色技術を指す。いくつかの態様において、小滴オンデマンド技術は、インクジェット技術または圧電技術を利用する。本明細書に開示するいくつかの態様において、小滴分配技術は、インクジェットプリントヘッドまたは類似の技術を用いて容易になる。
【0044】
[0059]本明細書において、用語「保水剤」は、物質、例えば組織試料を湿らせておくために用いられる吸湿性物質を指し;乾燥剤とは反対である。これはしばしば、いくつかの親水性基、最も頻繁にはヒドロキシル基を含む分子であるが;アミンおよびカルボキシル基、時にはエステル化されたものもまた、遭遇可能である(水分子と水素結合を形成するアフィニティが必須の特質である)。保水剤は、吸収によって近くの空気中の水分を誘引し、そして保持し、水蒸気を生物/対象の表面内におよび/またはその下に引き入れると考えられる。対照的に、乾燥剤もまた、周囲の水分を誘引するが、水蒸気をフィルム層としての表面上に凝集させることによって、吸収するのではなく吸着させる。インクジェット沈着または類似の技術の関連において、保水剤は、存続可能なノズルを維持するために重要でありうる。いくつかの態様において、組織試料または生物学的試料を、薄フィルムプロセシング中に水和させておくことが重要である。
【0045】
[0060]用語「インクジェット」は、本開示において、分配マニホールドから小滴を作動させるために圧電(または熱)素子を用いる、滴オンデマンド技術のファミリーを指す。これには、商業的プリンティング産業に一般的である直接および非接触法、または商業的プリンティング産業の外で用いられるものが含まれてもよい。
【0046】
[0061]本明細書において、用語「免疫組織化学」は、特異的結合剤、例えば抗体と抗原の相互作用を検出することによって、試料における抗原の存在または分布を決定する方法を指す。試料を、抗体-抗原結合を可能にする条件下で、抗体と接触させる。抗体-抗原結合は、抗体にコンジュゲートされた検出可能標識によって(直接検出)、または一次抗体に特異的に結合する二次抗体にコンジュゲートされた検出標識によって(間接的検出)、検出可能である。
【0047】
[0062]本明細書において、用語「微量流体」は、ガラス顕微鏡スライドの向かい側に設置可能な表面、ならびにギャップ内への染色試薬の流動に基づく導入および排除のための手段を必要とする染色技術を指す。さらに、望ましいギャップの高さは、スライド表面を渡る試薬流動が、層状であり、そしてギャップ内部の総体積が最小限であるように生成すべきである。
【0048】
[0063]本明細書において、用語「一次抗体」は、組織試料中のターゲットタンパク質抗原に特異的に結合する抗体を指す。一次抗体は、一般的に、免疫組織化学法において用いられる第一の抗体である。一次抗体にはまた、別の分子(例えば標識、ハプテン等)にコンジュゲートされた抗体も含まれる。一次抗体は、組織試料内のターゲットを検出するための「検出プローブ」として働くことも可能である。
【0049】
[0064]本明細書において、用語「一次染色剤」は、組織試料において、コントラストを増進する色素または類似の分子である。いくつかの態様において、一次染色剤は、細胞内または細胞上の生物学的構造を、特定の結合剤、例えば抗体の使用を伴わずに直接「標識する」ものである。一次染色剤のいくつかの例には、ヘマトキシリンおよびエオジンが含まれる。一次染色剤の他の例には、アクリジンオレンジ、ビスマルクブラウン、カーミン、クーマシーブルー、クレシルバイオレット、クリスタルバイオレット、DAPI(「2-(4-アミジノフェニル)-1H-インドール-6-カルボキサミジン」)、エチジウムブロミド、酸性フクシン、ヘキスト染色剤(ビス-ベンズイミダゾール誘導体であるヘキスト33342およびヘキスト33258)、ヨウ素、マラカイトグリーン、メチルグリーン、メチレンブルー、ニュートラルレッド、ナイルブルー、ナイルレッド、四酸化オスミウム、ローダミン、およびサフラニンが含まれる。一次染色剤の他の例には、細菌を染色するために用いられる染色剤(グラム陽性またはグラム陰性染色剤)、内性胞子を同定するために用いられる染色剤(内性胞子染色剤)、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)の種の同定を補助するために用いられる染色剤(チール・ネールゼン染色剤)、パパニコロー染色キット(ヘマトキシリン、オレンジG、エオジンY、ライトグリーンSFイエローイッシュ、および時によってビスマルクブラウンYの組み合わせを用いる)、過ヨウ素酸シッフ染色剤(「PAS染色剤」)、銀染色剤等が含まれる。さらに他の限定されない一次染色剤には、(i)マイコバクテリウム属(Mycobacterium)および他の抗酸生物または構成要素を選択的に示すための組織学的染色剤(例えばVentana Medical Systems、アリゾナ州ツーソンより入手可能な、AFB III染色キット);(ii)酸性ムチンを中性多糖と区別するための組織学的染色(例えば、やはりVentanaより入手可能なPAS用のアルシアンブルー);(iii)弱酸性ムコ多糖を示すための組織学的染色剤(例えば、やはりVentanaより入手可能なアルシアンブルー染色キット);(iv)ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)に関する組織学的染色剤(例えば、やはりVentanaより入手可能なアルシアンイエロー染色キット);(v)アミロイドを選択的に示すための組織学的染色剤(例えば、やはりVentanaより入手可能な、コングロレッド染色キット);(vi)中性多糖から酸性ムチンを区別するための組織学的染色剤(例えば、やはりVentanaより入手可能な、ジアスターゼキット);(vii)組織切片における弾性線維を示すための組織学的染色剤(例えば、やはりVentanaより入手可能な、弾性染色キット);(viii)骨髄および他の造血組織(リンパ節)中の白血球を区別するための組織学的染色(例えば、やはりVentanaより入手可能なギムザ染色キット);(ix)限定されるわけではないが、アスペルギルス属(Aspergillus)およびブラストミセス属(Blastomyces)などの病原性真菌、ならびにニューモシスチス・カリニ(Pneumosystis carinii)などの他の日和見感染生物を区別可能な染色剤を含む、真菌および他の日和見感染生物の細胞壁中の多糖を示すための組織学的染色剤(例えば、やはりVentanaより入手可能なGMS II染色キット);(x)グラム陰性およびグラム陽性細菌を示すための組織学的染色剤(例えば、やはりVentanaより入手可能なグラム染色キット);(xi)結合組織、筋肉およびコラーゲン線維を研究するために用いる組織学的染色剤(例えば、やはりVentanaより入手可能なトリクローム用グリーン);(xii)骨髄、ヘモクロマトーシス組織、およびヘモジデリン沈着症における鉄色素を検出するための組織学的染色剤(例えば、やはりVentanaより入手可能な鉄染色キット);(xiii)毛細血管基底膜を示すための組織学的染色剤(例えば、どちらもやはりVentanaより入手可能なJones H&E染色キットまたはJonesライトグリーン染色キット);(xiv)真菌検出用の組織学的染色剤(例えば、やはりVentanaより入手可能なPAS用ライトグリーン);(xv)酸性ムコ多糖(ムチン)を検出するための組織学的染色剤(例えば、やはりVentanaより入手可能なムチアルミン(Muciarmine)染色キット);(xvi)陽性細網線維、基底膜、真菌、および中性ムコ多糖の同定を補助可能な染色剤、または未分化PAS陰性扁平上皮癌から、PAS陽性分泌性腺癌を区別する際に補助可能な染色剤を含む、グリコーゲンの存在を示すために用いられる組織学的染色剤(例えば、やはりVentanaより入手可能なPAS染色キット);(xvii)細網線維を示すための組織学的染色剤(例えば、やはりVentanaより入手可能な細網II染色キット);(xviii)特定の好銀性微生物を研究するために用いられる組織学的染色剤(例えば、やはりVentanaより入手可能なSteiner II染色キット);(xix)ある種の胃潰瘍(H.ピロリ(H. pylori))、ライム病、レジオネラ病、ネコひっかき熱等の疾患の原因生物の同定を補助するための組織学的銀染色剤(例えば、やはりVentanaより入手可能なSteiner染色キット);(xx)結合組織、筋肉およびコラーゲン線維を研究するための組織学的染色剤(例えば、やはりVentanaより入手可能なトリクロームIIブルー染色キット);(xxi)結合組織、筋肉およびコラーゲン線維を研究するための組織学的染色剤(例えば、各々、やはりVentanaより入手可能なトリクローム染色キット、トリクロームIIIブルー染色キット、またはトリクロームIIIグリーン染色キット)が含まれる。当業者はまた、本開示のキット、方法、および組成物(例えば一次染色組成物、試薬組成物)と組み合わせて使用可能な他の一次染色剤、またはそれに関しては色素が存在することを認識するであろう。
【0050】
[0065]本明細書において、用語「パドル」は、それによって、顕微鏡スライドの試料表面全体が各アッセイ工程に関してある体積の試薬で覆われる、単一スライド染色技術を指す。
【0051】
[0066]本明細書において、用語「試薬」は、形態学的(例えばヘマトキシリンおよびエオジン)、免疫組織化学的、または特殊染色の関連で用いられる、組織切片または細胞学試料上に沈着される任意の液体を指すことも可能である。これには、限定されるわけではないが、ワックスを除去する(すなわち脱パラフィン化)ための油、有機物、および架橋試薬;洗浄剤、リンス剤、希釈剤、または反応条件を設定するために用いられる緩衝剤、適切な濃度にするか、反応を停止するか、または過剰な反応物質を洗い流すための希釈試薬;形態学的染色および特殊染色に用いられる小分子色素;IHCまたはICC染色に用いられる、抗体、抗体コンジュゲート、酵素、マルチマー、増幅剤、発色原基質、蛍光検出化学物質、化学発光基質、および酵素反応補因子が含まれる。
【0052】
[0067]本明細書において、「界面活性剤」は、化学作用の様式に応じて、陰イオン性、陽イオン性、または非イオン性と分類される。一般的に、界面活性剤は、2つの液体の間の界面張力を減少させる。界面活性剤分子は、典型的には、極性またはイオン性「ヘッド」および非極性炭化水素「テール」を有する。水への溶解に際して、界面活性剤分子は凝集し、そしてミセルを形成し、その中で、非極性テールは内側に向き、そして極性またはイオン性ヘッドは水性環境に向かい外側に向く。非極性テールは、ミセル内に非極性「ポケット」を生成する。溶液中の非極性化合物は、界面活性剤分子によって形成されたポケット中に隔離され、したがって、非極性化合物が水溶液内で混合されたままであることを可能にする。いくつかの態様において、界面活性剤を用いて、組織切片に渡る試薬の均一な拡散を生じるとともに、バックグラウンド染色を減少させることも可能である。
【0053】
[0068]本明細書において、「ターゲット」は、生物学的試料における特定の組織、あるいは生物学的試料における特定の分子またはマーカーであることも可能である。ターゲットの例には、抗原(ハプテンを含む)、抗体、および酵素が含まれる。ターゲットのさらなる例には、一般的に、タンパク質、ペプチド、核酸、糖、および脂質が含まれる。本開示で使用するための試薬は、生物学的試料中に存在するターゲット物質を、ターゲットの局在が検出可能であるように(例えば視覚的に)、検出可能な型に変換することが可能なものであることも可能である。
【0054】
[0069]小滴オンデマンド分配システムおよび試薬を分配する方法
[0070]本開示の1つの側面において、小滴オンデマンド技術を利用する試薬沈着システム、例えばインクジェット分配システムを含む、生物学的試料上に1またはそれより多い試薬を沈着させるためのデバイスまたはシステムを開示する。本開示にしたがって、試薬、または試薬を含む組成物を、生物学的試料、あるいはその領域または部分上に、小滴の形で送達して、試薬溶液での試料のスポッティングまたは染色を達成する。圧電またはインクジェット分配技術を含む小滴オンデマンド技術は、例えば、米国特許第4,877,745号およびPCT公報第WO98/47006号にさらに記載され、これらの開示は、その全体が本明細書に援用される。
【0055】
[0071]本開示のいくつかの態様にしたがった小滴オンデマンド染色システム900の要素を
図1Aに示す。
図1Aは、プリントヘッド905およびターゲット試料908との関係を例示する(ターゲット試料は、標準的顕微鏡スライド上にマウントされた生物学的試料または組織試料であってもよい)。「染色ジョブ」を生じるため、ターゲット試料908を、いくつかの態様において、ターゲット画像化システム901によって分析して、ターゲット試料の空間的位置を決定してもよい。この情報を次いで、続いて、中央処理装置902にフィードし、該装置は画像化情報およびアッセイを解釈し、そして次いで、続いて、例えば、タイミングおよび協調情報を含む命令をプリントヘッド905、圧制御システム903、および相対運動システム904に送る。相対運動システム904は、プリントヘッド905および/またはターゲット試料908を、整列させて、試料上に染色小滴(例えば試薬染色小滴)の分配を開始するように設計される。いくつかの態様において、液体または試薬を、試薬カートリッジ906から、プリントヘッド905に、そしてターゲット試料908上にフィードする。相対運動システム904は、中央処理装置902を通じて、プリントヘッド905からの分配タイミングと協調し、901において提供され、そして902によって解釈された画像によって定義されるように、望ましい染色画像を生じる。定期的に、プリントヘッドクリーニングステーション907を通じて、プリントヘッドのクリーニングが必要である。要素907は、プリントヘッドと直接相互作用して、能動的にクリーニングし、そしてプリントノズルを通じて液体を押し出し、ノズルを染色のためにプライミングする。いくつかの態様において、ノズルから液体を能動的に一掃するために、小さい陽圧、例えば約10psiまたはそれ未満をカートリッジに適用してもよい。
【0056】
[0072]当業者は、小滴オンデマンド染色システム900が、さらなる構成要素、例えば分析装置、スキャナ、コンピュータシステム等に連絡可能にカップリングされていてもよいことを認識するであろう(
図1Bを参照されたい)。一般的に、小滴オンデマンド染色システム900には、限定なしに、1またはそれより多い画像捕捉デバイスを有するターゲット画像化システム901が含まれてもよい。画像捕捉デバイスには、限定なしに、カメラ(例えばアナログカメラ、デジタルカメラ等)、オプティクス(例えば1またはそれより多いレンズ、センサー焦点レンズグループ、顕微鏡対物レンズ等)、画像化センサ-(例えば電荷結合素子(CCD)、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)画像センサー等)、写真フィルム等が含まれてもよい。デジタル態様において、画像捕捉デバイスには、協調して作動中焦点合わせを立証する、複数のレンズが含まれてもよい。CCDセンサーは、標本のデジタル画像を捕捉可能である。デジタル画像を産生する1つの方法には、標本の少なくとも部分を含む顕微鏡スライド領域を含むスキャン領域を決定する工程が含まれる。スキャン領域を複数の「スナップショット」に分割してもよい。個々の「スナップショット」を組み合わせることによって、画像を生じてもよい。いくつかの態様において、ターゲット画像化システム901は、標本全体の高解像度画像を生じ、こうした装置の1つの例は、Ventana Medical Systems, Inc.(アリゾナ州ツーソン)のVENTANA iScan HTスライドスキャナであり、そしてこれはシステム900と連絡可能にカップリングしていてもよい。
【0057】
[0073]
図1Bを参照すると、コンピュータデバイス14には、中央処理装置(CPU902であってもよいし、または別個のCPUであってもよい)が含まれてもよく、そしてコンピュータデバイス14には、デスクトップコンピュータ、ラップトップコンピュータ、タブレット等が含まれてもよく、そしてデジタル電子回路、ファームウェア、ハードウェア、メモリ、コンピュータ記憶媒体、コンピュータプログラム、プロセッサ(プログラムされたプロセッサを含む)等が含まれてもよい。
図1Bの例示される計算システム14は、スクリーン16およびタワー18を有するデスクトップコンピュータである。タワー18は、ターゲット画像化システム901由来のデジタル画像をバイナリ型で記憶可能である。いくつかの態様において、ネットワーク20または直接連結は、小滴オンデマンド染色システム900およびコンピュータシステム14を相互連結する。コンピュータシステムには、一連のコンピュータ実行可能命令でプログラミングされる1またはそれより多いプロセッサが含まれ、命令はメモリに記憶される。
【0058】
[0074]当業者は、小滴オンデマンド構成要素が、生物学的試料を調製し、プロセシングし、そして/または分析する際に有用なさらなる構成要素を含む、より大きなシステムの部分であってもよいことを認識するであろう。例えば、本開示の小滴オンデマンドシステム900を、組織標本の1またはそれより多い調製プロセスを実行可能な標本プロセシング装置に(システム900の上流または下流のいずれかで)結びつけてもよい。調製プロセスには、限定なしに、標本の脱パラフィン化、標本の馴化(例えば細胞馴化)、標本の染色、抗原回復の実行等が含まれてもよい。当業者はまた、本開示の小滴オンデマンド分配システムが、試料の染色(例えば一次染色またはIHC染色)の手段を提供するものの、該システムを、他の染色システム、例えば免疫組織化学染色(標識を含む)を実行し、そして/またはin situハイブリダイゼーション(例えばSISH、FISH等)染色(標識を含む)を実行するためのもの、ならびに顕微鏡分析、微量分析、質量分析法、または他の分析法のために標本を調製するための他のプロセスとカップリングしてもよいことも認識するであろう。
【0059】
[0075]
図2は、自動化染色システムの一部として小滴オンデマンド技術を利用するプロセスを示す。
図2は、インクジェット分配技術の関連で、プロセスマップを例示するが、当業者は、システムが、一般的な当業者に知られるような、他の小滴オンデマンド技術を利用してもよいことを認識するであろう。
図2を参照して、生物学的試料をまず802に導入する。いくつかの態様において、生物学的試料には、脱パラフィン化組織切片、凍結組織切片、または細胞試料が含まれてもよい。いくつかの態様において、小滴オンデマンド分配システムには、組織切片の脱パラフィン化のための分配試薬が含まれてもよい(または脱パラフィン化を、上流プロセスにおいて、別に行ってもよい)。受け入れ試料に関する必要なアッセイ情報801を、プロセス工程および/またはパラメータに変換し、そして次いで、ハードウェア立体配置によってユニークに定義されるか、または異なるプロセスブロックを定義するハードウェアに関して、ソフトウェア命令によって定義される「インクジェット染色ブロック」803に分割する。プロセスブロック803は、システム内で空間的に分離されていてもよいし、またはこれらのブロック各々に関して再形成可能な一体化構造として存在してもよい。完全なアッセイは、さらなる下流プロセシング804の用意ができた変換試料の結果を伴う、803プロセスブロックの連続的実行と定義される。
【0060】
[0076]
図2はまた、インクジェット染色プロセスブロック803の1つの態様の拡大された図も提供する。いくつかの態様において、受け入れ試料は、802と定義されるが、インクジェット染色プロセスブロックに導入する前に、試料上で行う、場合によるさらなるインクジェットまたは小滴に基づくプロセシング操作を伴う。ブロック806は、インクジェットアッセイ情報801および試料805のインプットを合成し、そしてプロセスブロックにおいて実行しようとするインクジェット染色作業を定義する、パラメータ設定に分割する、フロントエンドプロセシング工程を定義する。いくつかの態様において、プロセスのこの工程でセットされるパラメータ807には(i)分配しようとする特定の染色試薬;(ii)試料に対して行うプリントパスの数;(iii)(a)顕微鏡スライド全体、(b)スライド上の組織試料を有する領域のみ、または(c)試料領域およびガラス領域、多数の組織試料、または単一の試料内の多数の領域の何らかの組み合わせをプリントしうる、プリント画像ファイルの関連における染色領域;(iv)ターゲット上に分配される小滴の密度を定義する、プリントDPI;(v)プロセスブロックの温度条件;および(vi)プロセスブロックに必要なインキュベーション時間およびルーチンが含まれる。プロセスブロックを定義したら、808、809、および810に定義するように、インクジェット染色プロセスの実行のため、試料をブロック内に導入する。これらの3つの工程は、一般的に、試料と試薬の分配および/または反応の活性部分に相当する(
図7および8Aもまた参照されたい)。最後に、811で、残りの未反応プリント試薬も洗い流し、そしてスライド上の過剰な液体を除去し、804でさらに下流プロセシングする準備ができた変換試料を生じる。
【0061】
[0077]
図3は、インクジェット染色システムの別の態様を示し、DMC-11610プリントヘッドを利用するカスタムインクジェット染色装置上で開発された、小滴オンデマンド技術を利用する染色プロセスを示す。本明細書にさらに例示するように、
図4Aは、本明細書に概略する方法にしたがって、そして
図3に例示するように調製された、染色組織試料を提供する。再び
図3を参照すると、工程1401で、試料を小滴オンデマンド染色システム(900)に導入し、そしてこれには、脱パラフィン化組織切片、凍結組織切片、または細胞試料が含まれることも可能である。1401で、プリントヘッドに対する試料の位置に関する情報を含めて、試料画像を捕捉する(例えばターゲット画像化システム901を用いる)。この画像を、いくつかの態様において、ピクセルマップのスタックに変換し、各ピクセルは、試料上のそれぞれの位置に、プリントヘッドから噴出されるべき1またはそれより多い小滴に相当する。ピクセルマップのスタックは、アッセイにおいて用いようとするプリントヘッド各々に関する命令に相当し、スタックの1またはそれより多い層は、プリントヘッド各々に分割される。工程1411で、プリントするサーベル角度(sabre angle)を調節することによって、インチあたりのプリントドット(dpi)をプリントヘッドが調節可能である(1412)ように、命令を生成し、そして/または提供する(サーベル角度に関するさらなる情報に関しては、その開示が本明細書に援用される、米国特許公報第2009/0314170号を参照されたい)。いくつかの態様において、サーベル角度は、DMC-11610プリントヘッド上のノズル間のスペーシングを設定する。同時に、ピクセルマップもまた、試料輸送システムに送られる、一連の運動に変換される。小滴沈着のタイミングおよびプリント作業1404中のプリントヘッドに対する試料の相対運動は、
図1Aおよび1Bに例示されるように、コンピュータシステムによって協調される。
【0062】
[0078]いくつかの態様において、過剰な液体を受け入れ試料から除去する(1402)。これは、小滴沈着技術での染色剤沈着につながる統合工程であると考えられ、これは、過剰な液体が1404で沈着される小体積の染色剤を希釈するか、または不均一な染色剤沈着を導く可能性があるためである。染色用の試料を調製する1403ため、非染色液の沈着を用いて、組織試料内のpHおよび緩衝条件を調節する。この特定の態様において、バルク分配を用いてこれを行うことも可能であり;プリントヘッドに染色調製液を装填するか;または続く染色工程(単数または複数)にマッチしたpH条件を「ダイヤル合わせ」するため、組織上に比率計測的に分配される、異なる緩衝剤を装填された2つのプリントヘッドを組み合わせてもよい。比率計測緩衝系の例として、表2は、ヘマトキシリンでの最適染色のために組織を調製するために適した範囲に渡って滴定可能なギ酸および酢酸緩衝系を記載する。工程1404、1405、1406、および1407は、
図1および2に示すような、染色剤の強度および特異性を「ダイヤル合わせ」するように、同じ染色剤の多数のプリント層を沈着させるための、プリント、インキュベーション、フィードバックループを含む、プリント染色を実行するためのプロセスを示す。プリント染色工程が完了した後、試料をリンスして1407、いかなる未反応プリント試薬も除去し、そしてプロセス1408を通じてループを戻り、次の染色工程(例えばプリントヘマトキシリン工程に続いてプリントエオジン工程)をプリントするか、またはエアナイフ(例)工程1402を通じて、下流プロセシングのために放出して、過剰な液体を除去したのち、変換された試料を生じる1409。
【0063】
[0079]当業者は、分配する試薬のタイプ、生物学的試料のタイプ、または生物学的試料の調製法に応じて、異なるプロセシングパラメータを提供するように、小滴オンデマンド分配システムを「チューニング」可能であると認識するであろう。本明細書に先に示すように、チューニング可能ないくつかのパラメータには、限定されるわけではないが、小滴体積、および小滴速度が含まれる。いくつかの態様において、小滴オンデマンド分配システムは、沈着システムの小滴あたり、約1pL~約10nLの間の試薬を分配することが可能である。他の態様において、小滴オンデマンド分配システムは、沈着システムの小滴あたり、約1pL~約1nLの間の試薬を分配することが可能である。さらに他の態様において、小滴オンデマンド分配システムは、沈着システムの小滴あたり、約1pL~約500pLの間の試薬を分配することが可能である。さらなる態様において、小滴オンデマンド分配システムは、沈着システムの小滴あたり、約1pL~約250pLの間の試薬を分配することが可能である。さらにさらなる態様において、小滴オンデマンド分配システムは、沈着システムの小滴あたり、約1pL~約100pLの間の試薬を分配することが可能である。さらにさらなる態様において、小滴オンデマンド分配システムは、小滴オンデマンド分配システムの小滴あたり、約1pL~約50pLの間の試薬を分配することが可能である。
【0064】
[0080]いくつかの態様において、試薬を約0.5m/s~約20m/sの間の速度で小滴オンデマンド分配システムから分配し、そして/または沈着させる。他の態様において、試薬を約4m/s~約10m/sの間の速度でデバイスから分配し、そして/または沈着させる。
【0065】
[0081]本明細書にさらに記載するように、異なる試薬または試薬を含む組成物を、小滴オンデマンド分配システムから分配することも可能である。当業者は、異なる試薬組成物または配合物が、異なる特性を含むことも可能であり、そしていくつかの態様において、異なる剪断速度で分配されることも可能であることを認識するであろう。例えば、一次染色試薬組成物(またはそれに関しては、任意の小分子色素)は、約1x105s-1~約1x107s-1の間の剪断速度で分配可能である。別の例として、巨大分子試薬組成物は、約2x106s-1未満の剪断速度で分配可能である。さらなる例として、抗体試薬溶液は、約5x105s-1未満の剪断速度で分配可能である。適切な剪断速度は、一般の当業者によって、各組成物に関して決定可能であり、そして分配デバイスは適宜チューニング可能である。
【0066】
[0082]本出願人らは、本開示の小滴オンデマンド分配システムが、生物学的試料上への試薬の正確な分配を可能にすることを示す。実際、そして先行技術に比較した際、開示する分配デバイスを用いて、生物学的試料上に沈着される試薬の量または質量は、試薬の量を「ダイヤル合わせ」することによって、変化させることが可能である。したがって、当業者は、染色強度を特定の試料および/またはアッセイに基づいて、変化させることも可能であることを認識するであろう。実際、本出願人らは、驚くべきことに、(i)分配機構の多数回のパスにより、試料を適用して(例えば約1~約25回のパスまたはそれより多く)、試薬材料の累積沈着を提供するようにすること;(ii)分配する試薬のインチあたりのドット(dpi)(例えば約50dpi~約1200dpi)を変化させること;(iii)小滴体積(例えば約1pl~約1nL)を変化させること;および/または(iv)任意の試薬組成物または配合物における試薬濃度を変化させることを含むいくつかの方法の1つによって、試薬量を変化させることが可能であることを発見した。
【0067】
[0083]本発明の試薬分配デバイスは、先行技術に比較した際に、利用されるおよび/または無駄になる試薬の量をより少なくすることを可能にすると考えられる。表1は、多様な染色プロセスを示し、そして異なる装置間のアッセイ工程あたりのスライド被覆体積および空間的染色能力を比較して例示する。表1は、自動化染色組織染色プラットホームの関連において、インクジェットまたは別の小滴生成技術を用いて、顕微鏡スライドの特定の領域を染色するための試薬体積節約および能力を示す。アッセイ工程、例えば本明細書記載の小滴オンデマンドシステムに関して、全試料を覆うために必要な総体積は、約10マイクロリットルから約1マイクロリットル未満まで多様である。同時に、約10ピコリットルの単一小滴体積で、約10の細胞またはそれ未満の特定の領域を染色することが可能であると考えられる。例えば、そして表1に列挙するように、アッセイ工程あたり、スライドあたり、約10mL~100mLの試薬を必要とする、先行技術の「ディップアンドダンク」技術に比較した際、本デバイスは、いくつかの態様において、アッセイ工程あたり、スライドあたり、約0.001mLの試薬の利用が必要とされるのみであり、利用する試薬体積の有意な減少を生じる(すなわち数桁の相違)。さらに、本出願人らは、本開示記載のデバイスが、本明細書にさらに記載するように、先行技術の方法と比較した際、反応動力学の増加を可能にすることを発見した。
【0068】
表1:染色プロセスの相違の比較
【0069】
【0070】
[0084]一次染色剤、ヘマトキシリンおよびエオジンの関連において、分配する試薬の量が増加するにつれて(パス回数が増加するにつれて)、染色強度が増加する(例えば
図4A~4Eおよび5A~5Cを参照されたい)。
図4A~4Eは、標本スライド上に固定された扁桃腺組織上に分配されたヘマトキシリン試薬を例示する(染色法に関しては、本明細書の実施例6を参照されたい)。
図4Aは、インクジェットプロセスに関して、パス回数が増加し、そして分配試薬体積が増加する(4μL/in
2、8μL/in
2、14μL/in
2)とともに、染色強度が増加することを定性的に示す。
図4Bは、総染色沈着に基づいて、ヘマトキシリン一次染色の吸光度を例示する(600dpi、3pL滴サイズ、プリントヘッドパスあたり、約1μL/in
2)。慣用的な染色装置と比較するため、対照スライドからの吸光度値を
図4Bの示すバンド中に示す。試薬分配デバイスからの約14μL/in
2の染色剤沈着は、2分間のインキュベーション時間で、慣用的な染色装置で提供されるものとほぼ同等の染色を生じる。開示する方法にしたがった染色例として、
図4Cは、本開示に記載するインクジェット染色プロセスによって生じるような、高品質組織染色の重大な巨視的特徴である、胚中心を取り巻くリンパ濾胞の鮮明な染色を示す。
図4Cにおいて、矢印は、リンパ濾胞の縁における強い染色を有する胚中心を示す。
図4Dは、インクジェット染色扁桃腺組織の巨視的外観を提供し、そしていくつかの核における凝集クロマチンおよび核膜を見る能力を含めて、明白な核染色を示す。
図4Dにおいて、矢印は、周囲の核よりも、凝集核物質が、明らかに暗く染色される、核の例を示す。
図4Eは、開示する技術が特異的染色を提供することを示す、染色された扁桃腺切片の視野を提供し;該視野において、染色された核および染色されない赤血球(矢印によって示す)の両方が存在する。
【0071】
[0085]修飾された商業的に入手可能なヘマトキシリンを充填した非OEMリフィル可能インクカートリッジを備えたカスタム改良EPSON C88+プリンターを用いて、
図4A~4Eに例示する実験結果を得た。プリント特性は上記の通りであった。簡潔には、実験は:1)FFPEブロックから4μm扁桃腺切片を調製し、2)染色用の切片を調製し、3)プリントしようとする試薬の上にプリンターを導くプリント画像ファイル、染色用のx-y座標、およびプリントしようとするパターンを生成して、4)組織切片およびガラススライドを、プリントフィード機構上に装填して、5)プリンティングプロセスを反復して、望ましい染色強度を達成し、そして6)過剰な染色剤を手動で洗い落として、そしてスライドにカバースリップを掛ける工程からなった。VENTANA iScan HTスライドスキャナを用いてスライドを画像化し、そしてImageJおよびMATLABを用いて、強度値を抽出した。
【0072】
[0086]いかなる特定の理論に束縛されることも望ましくないが、上述の結果の意味は2つあると考えられる。第一に、染色強度(量で制限される染色)の「ダイヤル合わせ」は、小滴オンデマンドプリンティングプロセス(例えばインクジェット沈着または別の小滴沈着技術)によって可能になることを示す。以前には、すべての他の技術は、染色強度を「ダイヤル合わせ」するために、インキュベーション時間、温度、または多様な試薬濃度の組み合わせを必要としたため、いかなる他の組織染色技術もこの能力は持たなかった。第二に、この結果は、
図4C、4D、および4Eにおいて可視である巨視的および顕微鏡的特徴によって立証されるように、この低体積染色形式で、組織乾燥が非特異的染色を生じないことを示す。
【0073】
[0087]別の例として、
図5A~5Cは、標本スライド上に固定された結腸組織に対するエオジン試薬分配を例示する。
図5Aは、ここに開示する分配デバイスおよびプロセスを利用して、染色剤沈着(5μL/in
2、15μL/in
2、25μL/in
2)を増加させると、エオジン染色強度が増加することを例示する。
図5Bは、総染色沈着に基づく、エオジン一次染色剤の吸光度を例示する。慣用的な染色装置との比較のため、対照スライド由来の吸光度値を影のバンドで示す。試薬分配デバイスからの染色剤沈着約25μL/in2は、慣用的染色装置を用いた2分間のインキュベーション時間と同等の染色を生じる。
図5Cは、インクジェットプロセスを用いた結腸組織染色を比較し、ここで、エオジンの3つの別個の影が明らかに観察可能であり、そしてこれによって、当業者が組織領域(平滑筋、結合組織、および赤血球)を区別することが可能になる。
図5Cにおいて、逆方向斜線矢印は、結合組織の明るく染色された領域を示し、順方向斜線矢印は、赤血球の強く染色された領域を示し、そして白い矢印は、血管を取り巻く、中程度に染色された平滑筋を示す。ヘマトキシリンが修飾エオジン配合物で置換されたこと以外は、本明細書記載の方法を用いて、この実験結果を得た。
図4A~4Eにおけるように、
図5A~5Cは、染色強度の「ダイヤル合わせ」が、小滴オンデマンド試薬分配プロセスによって可能になり、そしてさらに低体積染色環境が、
図5Cにおいて明らかであるように、染色の必要な特異性を阻害しないことを立証する。
【0074】
[0088]もちろん、当業者は、例えば2つの一次染色剤(または任意の2つの試薬)を生物学的試料上に沈着させる多工程プロセスにおいて、染色剤を沈着させることも可能であることを認識するであろう。
図6Aおよび6Bは、本開示にしたがって、小滴オンデマンド分配デバイスを用いて、ヘマトキシリンおよびエオジン一次染色剤の両方を用いた染色の例示を提供し、ここで、沈着される総染色剤体積は、約8μL/in
2および約12μL/in
2であった。本出願人らは、多数回の染色剤分配作業が干渉せず、そしてインクジェット技術のために配合されるカスタム試薬が、許容されうる染色結果を提供することを発見した。
図6Aは、その特徴の微細的構造に基づいて、適宜、異なる比のヘマトキシリンおよびエオジンで染色された組織の多数の形態学的領域を伴う、巨視的染色結果を示す。
図6Bは拡大視野を示し、胚中心のリンパ濾胞に対する高い度合いの核染色、およびこの扁桃腺標本の活性領域間の結合組織における高い度合いのエオジン染色を示す。
図6Bにおいて、左の矢印は、胚中心(より明るいヘマトキシリン染色)を取り巻くリンパ濾胞(より暗いヘマトキシリン染色)の領域を示し、そして上部右の矢印は、エオジンで強く染色された扁平上皮領域を示す。
【0075】
[0089]Dimatix DMP-2831 Materialsプリンターと、Dimatix DMC-11610プリントカートリッジを用いて、
図6Aおよび6Bの実験結果を得た。これらの16ノズルプリントヘッドからの滴サイズは、約10pLに固定されることが知られ、そしてプリントジョブの小滴スペーシングは、ヘマトキシリンおよびエオジン両方のプリンティングに関して、約1270dpiに設定された。この染色に関して、本明細書に記載するように、ヘマトキシリンおよびエオジンに関するカスタムインクジェット配合物を開発した。本明細書にさらに示すように、これらの配合物は、いくつかの目的を達成するように設計され、これには:1)流体の物理的特性の設計(すなわち、ジェット形成および小滴離脱(breakoff)のための、適切な粘性および表面張力の設定)を通じた、分配信頼性および一貫性の改善、2)カートリッジ中の試薬の安定性改善(例えばヘマトキシリン配合物への塩化アルミニウムの導入)、および3)必要なプリンティングパス回数を最小限にするための、配合物の染色強度の増加(例えば、
図5A~5Cにおいて、最も暗い染色のために25回のパスが必要であるのに対して、「インクジェットエオジン」の5回のパスで、より暗いエオジン染色が生じる)が含まれる。この実験におけるプリンティングプロセスは、以下の工程:1)ガラススライド上にマウントされた組織切片の位置、形状、およびサイズに関するプリント画像ファイルの生成、2)組織上にプリントしようとする特定の試薬のためのカートリッジおよびプリントヘッドの装填、3)染色プロセスのため、正しいDPIをダイヤル合わせするための、プリントヘッドサーベル角度の設定、4)運動ステージ上への顕微鏡スライドおよび試料の装填、および5)適切な染色強度を発展させるための、望ましい回数の相互作用でのプリントジョブの実行からなった。ヘマトキシリンのためのブルーイング溶液、またはエオジンを区別するための溶液の適用を、手動でオフラインで行った。
【0076】
[0090]いくつかの態様において、液体の薄い境界層に浸透し、そして試料と連絡して染色試薬を補充するよう、任意の試薬を分配可能であるように、試薬沈着デバイスを設定する。いかなる特定の理論に束縛されることも望ましくないが、現在の染色技術は、受動的に拡散して組織試料へ下降する濃度勾配を作る染色試薬のパドルに依存すると考えられる。パドル-組織界面での試薬の能動的な混合を欠くと考えられるこれらの染色システムにおいて、組織内への染色剤拡散は、界面での染色剤濃度枯渇層の構築によって仲介され、染色動力学を制限する。本開示は、(i)枯渇層のものに近い厚みの染色フィルムを生成し;そして(ii)枯渇層に染色剤分子を補充し、それによって受動染色剤拡散の限界を克服することによって、先行技術の染色技術を改善すると考えられる。
【0077】
[0091]いくつかの態様において、試薬、または試薬を含む組成物を、組織保存液体媒体の薄フィルムを通じて試薬小滴を駆動するために十分な速度で、非混和性液体を通じて分配する。薄フィルム液体の例には、限定されるわけではないが、draksol、linpar、ミネラルオイル、またはシリコーン油が含まれる。一般的に、好ましい特質には、室温(例えば20~30℃)での液体状態、低い表面張力、および低い蒸気圧が含まれる。非混和性バリア層の液体状態によって、バリアを通じた水性液体の再供給が可能である。低い表面張力によって、バリアが、比較的薄いフィルム(高さ100μmまたはそれ未満)として試料上にコーティングされることが可能になる。低い蒸気圧によって、バリア層が試料から蒸発する速度が緩慢であることが確実になる。これによって、試薬が非混和性液体の下で連絡する層内に駆動されると考えられる。本態様に関して、小滴の動力学エネルギー(小滴の量および小滴がフィルムにヒットする際の衝撃速度の積)は、保護層の表面張力/エネルギーより大きくなければならず(それに加えて、置換された液体に相当する十分なさらなるエネルギーを提供しなければならず)、例えば約9.52x10-10Jより大きくなければならない。いくつかの態様において、動力学エネルギーは、約6.23x10-10Jである。さらに、小滴破壊が衝撃に際して起こらないことを確実にするため、小滴のウェーバー数は、約18未満でなければならない。いくつかの態様において、表面が破壊されたら、小滴が保護層を通じて続いて組織に直接接触することを確実にするため、小滴は保護フィルムより高い密度を持たなければならない。
【0078】
[0092]他の態様において、局所的にパドルを通じて染色剤を液体-組織染色剤枯渇層に運ぶであろう薄フィルム内に、試薬小滴を駆動するために十分な速度で、あらかじめ存在する水性液体「パドル」内に、試薬を分配する。これは、試料と連絡する界面接触ポイントで、試薬の補充を促進するであろうと考えられる。続いて、これは、染色剤枯渇境界層を排除し、そしていくつかの場合、枯渇層を渡る染色試薬の拡散によって仲介される、染色反応動力学を改善すると考えられる。実際、巨大生体分子、例えば抗体に関して、ターゲットへの分子の結合は、時間および濃度によって駆動される。本明細書に開示するデバイス(および固有の混合)での分配を通じて、さらなる試薬材料で薄フィルムを連続的に破壊することによって、組織表面での有効濃度が増進し、そしてより迅速な取り込みを提供すると考えられる。この態様のため、速度は一般的に、約5m/s~約15m/sの範囲である。
【0079】
[0093]
図7を参照すると、組織試料を含有する受け入れスライドは、まず、デバイス110によって受け取られる。いくつかの態様において、組織試料は、試料と連絡する保護液体層を含有して、試料が乾燥するのを防止する。次いで、試薬を組織切片120上に分配する。工程120を、染色強度を構築するために必要なだけ多く反復してもよい。いくつかの態様において、試薬を場合によってインキュベーションする130。例えば、巨大生体分子に関しては、時間および濃度によって、結合を駆動することも可能である。インキュベーションを伴うまたは伴わない分配を、必要に応じて反復してもよい135。いかなる特定の理論によって束縛されることも望ましくないが、分配試薬の添加で薄フィルムを連続して破壊することによって、組織表面での有効濃度が増進し、より迅速な取り込みを生じる。分配後、残った試薬および/または保護フィルムを工程140で除去する。いくつかの態様において、試薬および/または保護フィルムの除去は、洗浄溶液を分配して、希釈し、表面張力を増加させ、そして/または粘性を減少させることによって、促進される。次いで、さらなる下流プロセシングまたは分析のため、組織切片を工程150で提供する。
【0080】
[0094]
図8Aは、インクジェットまたは他の小滴オンデマンド技術を用いた、自動化方式での、免疫組織化学染色のためのプロセスを例示するさらなるプロセスマップを示す。工程701で、受け入れ試料には、脱パラフィン化組織切片、凍結組織切片、または細胞試料が含まれることも可能である。工程702は、一般的な試料調製工程(単数または複数)を提供して、任意の以前のプロセス工程から橋渡しする。一般的に、この工程(単数または複数)は、試料内に、一貫した低体積の残渣液体が存在し、そして反応条件(例えば緩衝剤強度、pH)が、続くインクジェットまたは小滴に基づく染色工程のために適切に設定されていることを確実にするよう設計される。工程702での分配作業は、1マイクロリットルから最大1ミリリットルの体積での、試料上への小滴に基づくプロセスまたはバルク液体分配であってもよい。試料上に残る液体の残渣体積を、約100nL~約100μLの範囲の最終体積まで正確に減少させるため、液体除去部分を設計してもよい。工程703は、インクジェットまたは小滴分配技術を通じた、ターゲティングされたタンパク質結合剤の組織への導入を示し、これは、約1pL~約100nLの個々の小滴サイズ、単一の小滴程度の小ささから標準的な顕微鏡スライドサイズまでのプリントパターン、および約100dpi~約1300dpiまでのプリント密度を含む。
【0081】
[0095]工程704は、特定のアッセイ工程に関して、関心対象の試薬と、別の試薬を同時に分配する、場合による実施を示す。小さい小滴に関しては、これは、ほぼ即時の、スライド上での試薬混合を促進し、そして試薬をin situで混合して、反応を誘発するか;比率計測的に生体分子、色素、または基質の濃度を希釈するか;あるいは試料を渡る染色フィールドをホモジナイズする、ユニークな能力を与えると考えられる。工程705は、特異的結合相互作用が、分配された試薬およびターゲット試料の間で起こる期間を示す。工程706は、組織との反応を通じて、少量の活性結合剤が消費される一方、過剰な液体が能動的にまたは受動的に試料から除去される、組織上に沈着されたプリント小滴に生じる効果を示す。これらの小体積は、パドル染色技術において観察される、予期される拡散枯渇層よりも薄いと考えられるため、これらの反応は、迅速に進行すると考えられ、そしてその結果、さらなる活性結合剤が補充され、望ましい終点または平衡に向かって、反応を迅速に駆動し続けることが可能であると考えられる。
【0082】
[0096]工程707は、効率的な反応を駆動し続けるため、さらなる活性結合剤(生体分子または色素)が試料に再供給される手段を示す。この場合、再供給に必要なプリント密度は、元来のプリント適用よりもはるかにより小さい可能性もある。いくつかの態様において、約50~約100dpiの間の小滴密度は、反応を駆動するために十分である可能性もあり、一方、他の態様においては、元来のプリント密度の完全な再プリントが必要でありうる。最後に、工程708において、試料はこのアッセイブロックを完了し、そして次のアッセイブロックに移動する準備ができており、次のブロックは、このプロセスの反復であるが、異なる試薬および反応条件を用いてもよいし、あるいは統合デジタル病理ワークフローの一部としての、異なるプロセス、例えば自動化カバースリップ付与または画像化であってもよい。
【0083】
[0097]
図8Bは、
図8Aのプロセスにしたがった染色由来の結果例を提供する。この例は、4μmで切片作製された、扁桃腺のFFPE切片上への、抗CD20一次抗体の沈着結果を例示する。この特定の例で用いるインクジェット試薬を、本明細書にさらに記載する。一般的に、プロセスは、一次抗体、二次抗体、酵素仲介検出用のリンカー、検出反応を駆動するための酵素、または特異的に連結された酵素に対する基質に適用可能である。本明細書記載のプロセスは、Liら(Small, 2016, 12, No.8, 1035-1043)に記載されるような、「周期的排出-補充」技術の背後にある理論の非自明な延長である。実際、本明細書に記載するプロセスは、試薬の再供給が、インクジェットプリントヘッドを通じて、組織内へ、ゼロではない速度(この例では、およそ8m/s)で導かれるという意味で、Liによって記載されるプロセスのいくつかの限界を克服すると考えられる。さらに、Liによる研究において、焦点は、周期的混合プロセスにある一方、本開示においては、能動的(例えばエアフロー)または受動的(例えば蒸発)プロセスのいずれかを用いて、過剰な液体を排出しつつ、色素または生物学的物質を、インクジェットヘッドでのさらなるプリントパスを通じて再供給する(
図8Aの工程707を参照されたい)。これは、続いて、拡散仲介プロセス(緩慢であり、パドルに基づく染色技術に特徴的)から、結合動力学仲介プロセス(迅速であり、枯渇層が生体分子または色素を能動的に再供給可能である、小滴沈着およびフィルムに基づく染色技術に特有)へ、反応速度を駆動すると考えられる。
【0084】
[0098]
図9A、9B、および9Cは、本明細書に開示する小滴オンデマンドシステムおよび方法を用いて、一次抗体沈着を通じて達成される染色をさらに例示する。一般的に、
図9A、9B、および9Cは、扁桃腺組織に対して、抗CD-20抗体を用い、小滴オンデマンドプロセスを用いて、沈着した一次抗体の例を示す。
図9Aは、混合薄フィルムパドルに対する静置薄フィルムパドルに関する染色強度を比較する。この場合、フィルム内への液体のジェッティングを通じて混合される薄フィルムは、より低い総抗体曝露(μLx時間)にもかかわらず、より高い染色強度を生じた。これらの示差的結果を駆動する機構の詳細を
図8Aに例示する。
図9Bおよび9Cは、本明細書の染色プロセスにしたがって染色された扁桃腺組織の領域を示し、ここで、
図9Bに関しては、パラメータは以下のとおりである:14.4μL/in
2(1200dpi、10pL滴、単回プリントヘッドパス)、静置フィルム、16分間インキュベーション時間。
図9Cに関しては、パラメータは以下の通りである:3.6μL/in
2(600dpi、10pL滴サイズ、単回プリントヘッドパス)、4分間インキュベーション時間、抗体の400nL/in
2(200dpi、10pL滴サイズ、単回プリントヘッドパス)の薄フィルムへの添加を通じた混合、その後、さらに4分間のインキュベーション、その後2回のさらなる混合工程。
【0085】
[0099]
図10A~10Cは、本開示にしたがって小滴オンデマンド沈着プロセスを用いて沈着された一次抗体の沈着のさらなる例を提供する(抗CD20、扁桃腺組織)。
図10A~10Cは、インクジェットまたは小滴沈着技術が、結合動力学がターゲット上に沈着される試薬量によって駆動されるように、十分に小さい液体体積を提供することをさらに確認する。
図10Aは、2つの異なる体積の薄フィルムパドルに関する染色強度を比較して、インクジェット薄フィルムプロセスに関する抗体結合が、沈着される抗体の量によって、仲介されることを立証する(すなわち、CD20シグナル強度は、組織に沈着される一次抗体の量の関数として増加する)。
図10Bおよび10Cは、
図10Aからそれぞれのプロセスで染色される扁桃腺の領域である。簡潔には、
図10Bに関して、試薬14.4μL/in
2(1200dpi、10pL滴、単回プリントヘッドパス)を組織切片上への静置フィルムとしてパターン形成し、そして16分間室温でインキュベーションした。
図10Cに関しては、試薬28.8μL/in
2(1200dpi、10pL滴、2回のプリントヘッドパス)を組織切片上への静置フィルムとしてパターン形成し、そして16分間室温でインキュベーションした。
図10A~10Cを調製するために用いた抗体配合物を、本明細書にさらに記載する。
【0086】
[00100]本開示の別の側面において、本出願人らは、本開示の分配デバイスが、関心対象の組織領域を同定し、そして染色剤を生物学的試料の領域に選択的に適用可能であるように、試薬沈着のx-y空間制御を可能にすることを見出した。いくつかの態様において、試料内の特定の領域または細胞を試薬で処理可能であるように、本明細書記載の分配デバイスを画像化システムと組み合わせる。本開示の別の側面において、(a)組織試料を画像化し;(b)試薬の適用のため、組織の特定の領域を選択し;そして(c)圧電沈着システムで、組織の特定の領域に、試薬を沈着させる工程を含む、組織標本の特定の領域に、少なくとも1つの試薬を適用する方法を開示する。いくつかの態様において、約360nL/in2(600dpi、1pL/滴)から約14.4μL/in2(1200dpi、10pL/滴)の間の試薬を、沈着システムのパスを通じて、組織の特定の領域に適用する。
【0087】
[00101]例えば、
図11は、開示するインクジェット染色プロセスを用いて可能になる、空間沈着/多重化によって、特に可能になる、「スライド上の組織パネル」態様を例示する。
図11を参照して、IHC染色用の抗体(標識されたIHC1およびIHC4)を、同時に、隣接する組織切片上でインキュベーションする。同時に、一次染色(標識されたH&E)をスライド上の別の領域で調製する。一次抗体とインキュベーションした後、同じまたは異なる検出化学反応を、IHC組織切片上で用いてもよく、これは、一次抗体が、スライド上の異なる組織切片上で空間的に分離されているためである。これは、より迅速なアッセイターンアラウンド時間ならびに単一スライド上での完全診断パネルの利便性を促進すると考えられる。いくつかの態様において、やはり
図11を参照して、3つのIHCマーカー乳房パネルを単一スライド上で実行し、乳癌を表現型決定するための3つの診断IHCマーカー(例えばHER2/neu、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体)各々を通じた、一次染色剤での形態学的染色からの病理学者ワークフローを容易にすることも可能である。
【0088】
[00102]試薬組成
[00103]概説
[00104]当業者は、本明細書記載の試薬沈着デバイスおよびプロセスを用いて、任意のタイプの試薬または試薬組成物を、分配してもよいことを認識するであろう。例えば、いくつかの態様において、分配デバイスから分配される試薬は、一次染色剤、例えばヘマトキシリンまたはエオジンである。他の態様において、デバイスから分配される試薬は、組織化学において有用な抗体(例えば一次および二次抗体)、抗体または抗体コンジュゲート(例えば酵素コンジュゲート化抗体、あるいはフルオロフォア、ハプテン、または他の標識にコンジュゲートされた抗体)を含む組成物、および/または抗体または抗体-ターゲット複合体を検出するための検出試薬(例えば、発色原基質、一次抗体にコンジュゲートされた標識に特異的な二次抗体等を含む組成物)である。
【0089】
[00105]いくつかの態様において、試薬または試薬を含む組成物を修飾し、市販の試薬またはこうした試薬を含む組成物と比較して、インクジェット沈着装置または圧電沈着装置を通じた送達および分配をよりよく促進させる。例えば、試薬または試薬を含む組成物を、特定の密度、pH、粘性、またはレオロジーを有するように改変してもよい。いくつかの態様において、任意の試薬組成物は、緩衝剤、レオロジー修飾剤、界面活性剤、キャリアータンパク質、安定化剤、粘性修飾剤、保水剤、保存剤、および他の添加物の1またはそれより多くを含んでもよい。当業者は、適切な量で適切な構成要素を選択して、インクジェット技術を用いた分配を実現するために望ましい特性を有する試薬組成物を提供することが可能であろう。
【0090】
[00106]いくつかの態様において、本開示の試薬組成物は、ようなレオロジー、すなわち溶液の「流動」を有し、圧膜(piezo-membrane)の1単位の励起の下に、試薬の単一小滴を促進する。実際、本開示の試薬溶液は、(i)適切な染色を可能にし、(ii)安定な薄フィルムを形成可能であり;そして(iii)圧電沈着を通じて分散可能であるように、開発されている。いくつかの態様において、試薬組成物は、約1g/mLより大きい密度を有する。他の態様において、試薬組成物は、約0.75g/mL~約1.5g/mLの間の密度を有する。
【0091】
[00107]いくつかの態様において、試薬組成物の粘性は、約1cp~約40cpの範囲である。他の態様において、試薬組成物の粘性は、約4cp~約15cpの範囲である。さらに他の態様において、試薬組成物の粘性は、約6cp~約10cpの範囲である。いくつかの態様において、試薬組成物の表面張力は、約20ダイン/cm~約70ダイン/cmの範囲である。他の態様において、試薬組成物の表面張力は、約20ダイン/cm~約45ダイン/cmの範囲である。さらに他の態様において、試薬組成物の表面張力は、約20ダイン/cm~約35ダイン/cmの範囲である。
【0092】
[00108]一般的に、任意の試薬組成物において使用するための粘性修飾剤は、グリコール、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリコールエーテル、酢酸グリコールエーテル;糖および多糖、例えばグアーガム、キサンタンガム;セルロースおよび修飾セルロース、例えばヒドロキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルメチルセルロース、メトキシセルロース、メトキシメチルセルロース、メトキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシルエチルセルロース、セルロースエーテル、セルロースエチルエーテル、およびキトサンより選択される。
【0093】
[00109]いくつかの態様において、本開示の組成物はまた、1またはそれより多い低揮発性水溶性保水剤も含んでもよい。保水剤の代表的な例には:(1)トリオール、例えば;グリセロール、1,2,6-ヘキサントリオール、2-エチル-2-ヒドロキシメチル-プロパンジオール、トリメチロールプロパン、アルコキシル化トリオール、アルコキシル化ペンタエリスリトール、糖類、および糖アルコール;ならびに(2)ジオール、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、4またはそれより多い酸化アルキレン基を有するポリアルキレングリコール、1,3-プロパンジオール(dial)、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,7-ヘキサンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール;ならびにチオグリコールまたはその混合物が含まれる。望ましい保水剤は、多価アルコールである。
【0094】
[00110]いくつかの態様において、試薬組成物は、1またはそれより多い安定化剤を含む。一般的に、安定化剤は、ヨウ素酸ナトリウム、塩化アルミニウム六水和物、硫酸アルミニウム十六水和物、およびタンパク質安定化剤(例えばトレハロース、グリセロール、グロブリン、BSA等)より選択されてもよい。1またはそれより多い安定化剤を包含すると、試薬分子の沈殿が防止可能であると考えられる。例えば、溶液から沈殿することが当該技術分野から知られるヘマトキシリンを1またはそれより多い安定化剤と配合して、溶液からの沈殿を軽減させるかまたは防止し、そしてしたがって、試薬ラインまたはプリント/インクジェット分配ヘッドの目詰まりを回避することも可能である。
【0095】
[00111]いくつかの態様において、表面張力修飾剤は、界面活性剤である。界面活性剤は、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、またはその混合物の1つであってもよい。いくつかの態様において、適切な界面活性剤は、(i)他の試薬構成要素と組み合わせた際、望ましい表面張力が達成されることを可能にし;(ii)タンパク質または他の試薬構成要素を変性させず;そして/または(iii)低い泡高を提供するように、選択される。
【0096】
[00112]陰イオン性界面活性剤は、一般的に、硫酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩、またはカルボン酸塩に基づき、そして水溶性陽イオンを含有する。スルホン酸塩の代表的な式は、R-SO3Mであり、式中、Rは、スルホン酸官能性にアルコキシまたはオキシアルコキシを通じて連結されていてもよい約5~22炭素原子の炭化水素基であり、そしてMはアルカリ金属などの水溶性陽イオンである。陰イオン性界面活性剤には、硫酸アルキルエーテル、硫酸およびスルホン酸アルキル、カルボン酸アルキル、硫酸アルキルフェニルエーテル、スルホン酸アルキルポリ(オキシエチレン)のナトリウム塩、スルホン酸アルキルベンジルのナトリウム塩、例えばスルホン酸ドデシルベンジルのナトリウム塩およびラウリルエーテル硫酸ナトリウムである。陰イオン性界面活性剤にはまた、陰イオン性リン酸エステルも含まれる。
【0097】
[00113]いくつかの態様において、界面活性剤には、限定されるわけではないが、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが含まれ、ここでアルキルは(CH2)Mであり、そしてオキシエチレンは(C2H4O)Nであり、式中、Mは5~16、8~14、または10~12の整数であり、そしてNは10~40、15~30、または20~28の整数である。1つの態様において、界面活性剤は、式(C2H4O)23C12H25OHを有するポリオキシエチレンラウリルエーテルである。別の態様において、界面活性剤は、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノアルキレートであり、モノアルキレートは8~14の間の炭素を含む。別の態様において、界面活性剤は、式C12-14H25-29O(CH2CH2O]xを有する直鎖二級アルコールポリオキシエチレンであり、式中、xは2~12の間の整数に等しい。さらに別の態様において、界面活性剤は、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルである。例示的な界面活性剤は、名称:Brij(登録商標)35、TWEEN(登録商標)、TergitolTM、TritonTM、EcosurfTM、DowfaxTM、ポリソルベート80TM、BigCHAP、デオキシBigCHAP、IGEPAL(登録商標)、サポニン、Thesit(登録商標)、Nonidet(登録商標)、プルロニックF-68、ジギトニン、デオキシコール酸塩等である。特定の開示する作業態様は、Brij(登録商標)35、TWEEN(登録商標)、TergitolTM、TritonTMの名の下に販売されている。
【0098】
[00114]本開示の組成物において有用な陽イオン性界面活性剤は、アミノまたは四級アンモニウム部分を含有する。本明細書で有用なものの陽イオン性界面活性剤は、以下の文書に開示される:M.C. Publishing Co., McCutcheon’s, Detergents & Emulsifiers, (North American edition 1979); Schwartzら; Surface Active Agents, Their Chemistry and Technology, New York: Interscience Publishers, 1949;米国特許第3,155,591号、Hilfer、1964年11月3日発行;米国特許第3,929,678号、Laughlinら、1975年12月30日発行;米国特許第3,959,461号、Baileyら、1976年5月25日発行;および米国特許第4,387,090号、Bolich, Jr.、1983年6月7日発行。
【0099】
[00115]本明細書で有用な四級アンモニウム含有陽イオン性界面活性剤物質には以下の一般式のものがある:
【0100】
【0101】
[00116]式中、R1~R4は、独立に、約1~約22炭素原子の脂肪族基、あるいは約1~約22炭素原子を有する芳香族、アルコキシ、ポリオキシアルキレン、アルキルアミド、ヒドロキシアルキル、アリールまたはアルキルアリール基であり;そしてXは、ハロゲン(例えば塩素、臭素)、酢酸、クエン酸、乳酸、グリコール酸、リン酸硝酸、硫酸、およびアルキル硫酸ラジカルより選択されるものなどの塩形成性陰イオンである。脂肪族基は、炭素および水素原子に加えて、エーテル結合、および他の基、例えばアミノ基を含有してもよい。より長鎖の脂肪族基、例えば約12炭素またはそれより多いものは、飽和されていてもまたは不飽和であってもよい。特に好ましいのは、モノ長鎖(例えばモノC12~C22、好ましくはC12~C18、より好ましくはC16、脂肪族、好ましくはアルキル)、ジ短鎖(例えばC1~C3アルキル、好ましくはC1~C2アルキル)四級アンモニウム塩である。
【0102】
[00117]一級、二級および三級脂肪アミンの塩もまた、適切な陽イオン性界面活性物質である。こうしたアミンのアルキル基は、好ましくは約12~約22炭素原子を有し、そして置換されていてもまたは未置換であってもよい。本明細書で有用なこうしたアミンには、ステアルアミドプロピルジメチルアミン、ジエチルアミノエチルステアルアミド、ジメチルステアルアミン、ジメチルソイアミン、ソイアミン、ミリスチルアミン、トリデシルアミン、エチルステアリルアミン、N-タロウプロパンジアミン、エトキシル化(酸化エチレン5モルを伴う)ステアリルアミン、ジヒドロキシエチルステアリルアミン、およびアラキジルベヘニルアミンが含まれる。適切なアミン塩には、ハロゲン、酢酸、リン酸、硝酸、クエン酸、乳酸、およびアルキル硫酸塩が含まれる。こうした塩には、ステアリルアミン塩酸、塩化ソイアミン、ギ酸ステアリルアミン、二塩化N-タロウプロパンジアミン、クエン酸ステアルアミドプロピルジメチルアミン、塩化セチルトリメチルアンモニウム、および塩化ジセチルジアンモニウムが含まれる。本明細書の組成物において使用するために好ましいのは、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化テトラデシルトリメチルアンモニウム、塩化ジセチルジメチルアンモニウム、塩化ジココジメチルアンモニウムおよびその混合物である。より好ましいのは、塩化セチルトリメチルアンモニウムである。
【0103】
[00118]本開示の組成物にはまた、多様な非イオン性界面活性剤も含まれてもよい。適切な非イオン性界面活性剤の中には、糖またはデンプンポリマーと、C8-C30アルコールの縮合産物がある。これらの化合物は、式(S)n-O-Rによって示され、式中、Sは糖部分、例えばグルコース、フルクトース、マンノース、およびガラクトースであり;nは約1~約1000の整数であり、そしてRはC8-C30アルキルである。R基が由来していてもよい適切なC8-C30アルコールの例には、デシルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、オレイルアルコール等が含まれる。これらの界面活性剤の特定の例には、デシルポリグルコシドおよびラウリルポリグルコシドが含まれる。
【0104】
[00119]他の適切な非イオン性界面活性剤には、酸化アルキレンと脂肪酸の縮合産物が含まれる(すなわち脂肪酸の酸化アルキレンエステル)。これらの物質は、一般式RCO(X)nOHを有し、式中、Rは、C10-C30アルキルであり、Xは-OCH2CH2-(酸化エチレン由来)または-OCH2CHCH3-(酸化プロピレン由来)であり、そしてnは、約1~約200の整数である。
【0105】
[00120]さらに他の適切な非イオン性界面活性剤は、式RCO(X)nOOCRを有する酸化アルキレンと脂肪酸の縮合産物であり(すなわち脂肪酸の酸化アルキレンジエステル)、式中、RはC10-C30アルキルであり、Xは-OCH2CH2-(酸化エチレン由来)または-OCH2CHCH3-(酸化プロピレン由来)であり、そしてnは、約1~約200の整数である。さらに他の非イオン性界面活性剤は、一般式R(X)nOR’を有する酸化アルキレンと脂肪アルコールの縮合産物であり(すなわち脂肪アルコールの酸化アルキレンエーテル)、式中、RはC10-C30アルキルであり、nは、約1~約200の整数であり、そしてR’は、HまたはC10-C30アルキルである。
【0106】
[00121]さらに他の非イオン性界面活性剤は、式、RCO(X)nOR’を有する化合物であり、式中、RおよびR’は、C10-C30アルキルであり、Xは-OCH2CH2-(酸化エチレン由来)または-OCH2CHCH3-(酸化プロピレン由来)であり、そしてnは、約1~約200の整数である。酸化アルキレン由来非イオン性界面活性剤の例には、セテス-1、セテス-2、セテス-6、セテス-10、セテス-12、セテアレス-2、セテアレス6、セテアレス-10、セテアレス-12、ステアレス-1、ステアレス-2、ステアレス-6、ステアレス-10、ステアレス-12、ステアリン酸PEG-2、ステアリン酸PEG4、ステアリン酸PEG6、ステアリン酸PEG-10、ステアリン酸PEG-12、グリセリルステアリン酸PEG-20、グリセリルタロウ酸PEG-80、グリセリルステアリン酸PPG-10、グリセリルココ酸PEG-30、グリセリルココ酸PEG-80、グリセリルタロウ酸PEG-200、ジラウリル酸PEG-8、ジステアリン酸PEG-10、およびその混合物が含まれる。さらに他の有用な非イオン性界面活性剤には、例えば本明細書に援用される米国特許第2,965,576号、第2,703,798号、および第1,985,424号に開示されるポリヒドロキシ脂肪酸アミドが含まれる。
【0107】
[00122]例示的な界面活性剤には、Tomadol 1200(Air Products)、Tomadol 900(Air Products)、Tomadol 91-8(Air Products)、Tomadol 1-9(Air Products)、Tergitol 15-S-9(Sigma)、Tergitol 15-S-12(Sigma)、Masurf NRW-N(Pilot Chemical)、Bio-Soft N91-6(Stepan)、およびBrij-35(ポリエチレングリコールドデシルエーテル)(Sigma)が含まれる。
【0108】
[00123]染色液のプリンティング前に、組織に固有の反応条件が、開示する染色法に関して、染色品質に影響を及ぼすことを示すため、顕微鏡スライド上にマウントされた4μm肝臓切片において、ヘマトキシリンのプリンティング前の異なる組織pHの体系的研究を行った。組織に300μLの緩衝溶液を適用し、そして次いで、第一の「洗浄(場合によるpH洗浄)適用」工程中、表8に記載するアッセイを用いて、試料上にヘマトキシリンおよびエオジンをプリンティングすることによって、組織切片のpHを設定した。
図12Aは、組織の細胞質および細胞外領域の染色強度に対する、核における染色強度の比を比較する。これらの値の最適な比は、最適な染色条件に相当し、そしてpH増加に関して、全体の染色強度が増加すると仮定された(核に特異的なものおよび非特異的なヘマトキシリン染色の両方が増加するはずである)。pHがある点まで増加するにつれて、染色強度が全体的に増加するのは事実であるが、スケールの最高点、5のpHを持つ染色前緩衝液に関しては、全体の染色強度は許容しえないレベルまで減少した(
図12B)。したがって、次に最適な条件、3.5のpHの染色前緩衝液を選択した。この方法は、ユニークな組織タイプまたは異なる染色化学反応および生化学反応に関して、染色前組織緩衝条件をユニークに調節するよう拡張可能であった。
【0109】
[00124]表2は、2プリントヘッドシステムが、組織に緩衝pH溶液を送達する能力を詳述する。1つの態様において、分配しようとする溶液は、弱酸溶液および希水酸化ナトリウムである。この場合、各液体のプリントパターンのDPIを調節することによって、分配フィルムのpHを調節可能であった。これは、ヘマトキシリンプリンティング前の組織のpHが、染色強度および染色特異性の両方に影響を有することが見て取れる
図12Bと関連する。インクジェット染色のこの適用は、プリント沈着中の2つの溶液のin situ混合のこの必要性を満たすために適している。
【0110】
表2:組織pHを設定する緩衝系の比率計測配合
【0111】
【0112】
[00125]一次染色試薬組成物
[00126]一次染色試薬組成物の関連において、組成物は、色素、染色剤、または「一次染色剤」(この用語が本明細書に定義される通り)、粘性修飾剤、および表面張力修飾剤を含む。本明細書の特定の態様または例は、ヘマトキシリンまたはエオジンを含む一次染色組成物を指すことも可能であるが、当業者は、一次染色試薬組成物が、これらの特定の色素に限定されず、そして他の色素、染色剤、「一次染色剤」、または別の方式で、組織試料中の生物学的構造の視覚的コントラストを増進する剤が、限定なしに、同様の方式で配合可能であることを認識するであろう。
【0113】
[00127]いくつかの態様において、粘性修飾剤の量は、一次染色試薬組成物の総重量の約35%~約60%の範囲である。他の態様において、粘性修飾剤の量は、一次染色試薬組成物の総重量の約25%~約75%の範囲である。溶解された固体が含まれる(例えばPEG)、いくつかの態様において、粘性修飾剤の量は、一次染色試薬組成物の総重量の約2%~約60%の範囲であってもよい。溶解された固体が含まれる、他の態様において、粘性修飾剤の量は、一次染色試薬組成物の総重量の約0.1%~約2%の範囲であってもよい。
【0114】
[00128]いくつかの態様において、表面張力修飾剤の量は、一次染色試薬組成物の総重量の約0.01%~約0.5%の範囲である。他の態様において、表面張力修飾剤の量は、一次染色試薬組成物の総重量の約0.001%~約1%の範囲である。
【0115】
[00129]いくつかの態様において、一次染色試薬組成物は、1cp~約40cpの粘性を有する。他の態様において、一次染色試薬組成物は、6cp~約10cpの粘性を有する。いくつかの態様において、一次染色試薬組成物は、最大約70ダイン/cmの表面張力を有する。他の態様において、一次染色試薬組成物は、約25ダイン/cm~約45ダイン/cmの表面張力を有する。
【0116】
[00130]いくつかの態様において、一次染色試薬溶液は、1またはそれより多い安定化剤および/または緩衝剤をさらに含む。いくつかの態様において、安定化剤には、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウムが含まれる。いくつかの態様において、緩衝剤には、酢酸、炭酸、リン酸、Tris-HCl、酢酸、tris緩衝剤、およびリン酸緩衝剤が含まれる。一般的に、任意の一次染色試薬組成物内に含まれる安定化剤の量は、一次試薬染色組成物の総重量の約1%~約20%の範囲である。同様に、任意の一次染色試薬組成物内に含まれる緩衝剤の量は、一次試薬染色組成物の総重量の約0.5%~約5%の範囲である。
【0117】
[00131]巨大分子試薬組成物
[00132]いくつかの態様において、巨大分子試薬組成物は、生物学的分子(例えば抗体、抗体コンジュゲート、酵素、マルチマー等)、粘性修飾剤、および表面張力修飾剤を含む。いくつかの態様において、巨大分子試薬組成物は、1またはそれより多いキャリアータンパク質(例えばウシ血清アルブミン、正常ヤギ血清)をさらに含む。いくつかの態様において、巨大分子試薬組成物は、緩衝剤および/または保存組成物をさらに含む。いくつかの態様において、巨大分子試薬組成物は、最大約15cpまでの範囲の粘性を有する。他の態様において、巨大分子試薬組成物は、約4cp~約11cpの範囲の粘性を有する。さらなる態様において、巨大分子試薬組成物は、約4cp~約7cpの範囲の粘性を有する。いくつかの態様において、巨大分子試薬組成物は、約20ダイン/cm~約40ダイン/cmの範囲の表面張力を有する。他の態様において、巨大分子試薬組成物は、約25ダイン/cm~約35ダイン/cmの範囲の表面張力を有する。
【0118】
[00133]いくつかの態様において、粘性修飾剤の量は、巨大分子試薬組成物の総重量の約1%~約50%の範囲である。他の態様において、粘性修飾剤の量は、巨大分子試薬組成物の総重量の約25%~約75%の範囲である。いくつかの態様において、表面張力修飾剤の量は、巨大分子試薬組成物の総重量の約0.01%~約0.5%の範囲である。他の態様において、表面張力修飾剤の量は、巨大分子試薬組成物の総重量の最大約1%の範囲である。当業者は、任意の含まれるキャリアータンパク質および/または一次抗体自体が、表面張力に影響を有する可能性があり、そしていくつかの態様において、表面張力の減少に寄与しうることを認識するであろう。当業者は、抗体試薬組成物内に含める、任意の表面張力修飾剤の量を決定する際に、この要素を考慮に入れることが可能であろう。
【0119】
[00134]任意の巨大分子試薬組成物の部分でありうる抗体の限定されない例には、分化マーカーのクラスター(例えばCD20、CD3、CD4、CD8、CD45、CD25、CD163等)、Ki-67、EGFR、HER2、HPV、ALK、BRAF、OX-40、PD-1、IDL-1、FoxP3、およびCTLA-4に特異的な抗体が含まれる。
【0120】
[00135]任意の巨大分子試薬組成物の一部でありうる酵素の限定されない例には、西洋ワサビ(horseradish)ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、酸性ホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルクロニダーゼ、またはβ-ラクタマーゼが含まれる。
【実施例】
【0121】
[00136]
[00137]続く限定されない例は、本開示の特定の態様をさらに例示することを意図する。
[00138]実施例1-ヘマトキシリン配合物
表3:ヘマトキシリン配合物の1つの態様
【0122】
【0123】
[00139]実施例1の組成は、開示する圧電沈着法による分散に十分であることが見出された。組成物の最終pHは約2.22であり;表面張力は約30ダイン/cmであり;そして粘性は約5cpであった。
【0124】
[00140]インクジェット分配のためのヘマトキシリンの場合、いくつかの軽減が、この特定の染色剤の分配のための小滴形成プロセスの信頼性およびロバストネスを改善することが発見された。まず、配合物中の塩化アルミニウムの包含は、長鎖金属イオン複合体の不溶性による、自発的凝集および沈殿に対して、配合物の全体の安定性を改善した。
【0125】
[00141]第二に、より高い水分画を含む配合物に比較した際、混合物の蒸気圧を低下させることによって、空気に曝露した際、プロピレングリコールのかなりの分画が、ヘマトキシリン配合物の乾燥を減少させた。これらの改善はどちらも、インクジェット型要因にユニークに適したヘマトキシリン配合物を生成する際にターゲティングされる、非標準(または非伝統的)配合物特性を代表した。
【0126】
[00142]インクジェット技術を含む機能的プリンティングの分野に共通するのは、別の液体で使用した後、プリントヘッドを通じてインクのかなりの体積をフラッシュして、システムをプライミングする必要があることである。これは、多数のインクリザーバーを通じてフィードされるプリントヘッドシステムの設計、およびその結果の大きなデッドボリュームから生じる。いくつかの設計において、これは、インクの20%を超えるロスに相当しうる。同様に、VENTANA HE 600システムは、共有試薬マニホールドを有し、そしてパージ/プライムサイクル中、総アッセイ体積の30%を超える量が消費される。インクジェット分配装置に関する開示される概念において、出願人らは、これらの限界を克服する、カートリッジに基づくインクジェットシステムを利用した。プリンティングシステムにユニークな、そしてこれに合わせてカスタマイズされた試薬の補完的な配合物を調製することによって、ノズル汚染(すなわち小滴分配の失敗)の多くの供給源が軽減された。しかし、インクジェット試薬カートリッジの毎日の使用全体で、そして試薬インクジェットカートリッジの全寿命に渡って、信頼性がある分配完全性を維持するためには、1日あたり5μLまたはそれ未満のプライムサイクルが適切であることもまた立証された。
【0127】
[00143]実施例2-抗体配合物
表4:抗体配合物の1つの態様
【0128】
【0129】
[00144]実施例2の組成物は、開示する圧電沈着法による分散に十分であることが見いだされた。表面張力は、約28ダイン/cmであり;そして粘性は約7cpであった。
[00145]実施例3-エオジン配合物
表5:エオジン配合物の1つの態様
【0130】
【0131】
[00146]実施例3の組成物は、開示する圧電沈着法による分散に十分であることが見いだされた。組成物の最終pHは約4.299であり;表面張力は約41ダイン/cmであり;密度は1.042g/mLであり;そして粘性は約8.1cpであった。
【0132】
[00147]実施例4-酵素/マルチマー検出配合物
[00148]表5は、酵素/またはマルチマー検出配合物の態様を示す。この特定の限定されない態様において、活性染色構成要素は、マウス抗ヒドロキノン西洋ワサビペルオキシダーゼ(抗HQ HRP)であった。
【0133】
表6:酵素/マルチマー検出配合物の1つの態様
【0134】
【0135】
[00149]実施例5-巨大分子量粘性修飾剤を含む、代替抗体配合物
[00150]本開示にしたがった代替抗体配合物を表7に示す。
表7:代替抗体配合物
【0136】
【0137】
[00151]
実施例6-インクジェット沈着染色法への伝統的な染色法の比較
[00152]本明細書に示すのは、慣用的な単一スライド染色(表9)システムおよび本開示に記載する小滴オンデマンド分配手段(表8)からのアッセイ例の比較である。どちらのアッセイ表も、オフライン脱パラフィン化プロセスならびにアッセイ完了後にカバースリップを掛ける手動ワークアップを仮定する。H&E染色用のVENTANA HE 600アッセイ(慣用的な単一スライド染色装置に相当する)は、インキュベーション時間のみを用いて、染色を調節する「ダイヤル合わせ」が可能である一方、インクジェット染色プロセスは、小滴沈着(すなわちインクジェット)染色プロセスにユニークないくつかの調節ポイントを提供する。第一に、
図4Aおよび5Bに示すように、染色は、基本的に量で制限される一方、慣用的な染色システム上での染色強度の主な駆動因子は、インキュベーション時間である。実際、これは、慣用的染色装置の例において、アッセイ強度および特異性を「ダイヤル合わせ」する、カスタマーが対面する唯一の特徴である。
【0138】
表8:インクジェット染色アッセイスクリプト
【0139】
【0140】
【0141】
【0142】
[00153]しかし、インクジェット染色システム上で、染色強度をダイヤル合わせするための一次駆動因子は、プリントパスの回数およびDPI(インチあたりの滴)またはプリント領域の密度であり、これらはどちらも、沈着される染色材料の総量を調節する。
図4Aにおいて、組織上のプリントパスの回数を増加させることによって、ヘマトキシリン強度を駆動し、そして同様に
図5Aにおいて、組織上のさらなるプリント層の沈着によって、エオジン強度を同様に駆動する。表8に示すように、開示する染色プロセスの1つの態様に関して、アッセイ時間は固定される(沈着量での染色強度の「ダイヤル合わせ可能性」のため)、これは、多様である慣用的なプロセス(染色強度の「ダイヤル合わせ可能性」が、インキュベーション時間によって駆動されるため)とは対照的である。さらに、生じる液体浪費の量の有意な減少があり、慣用的なプロセスの約14.24mLから、インクジェット染色プロセスの態様に関する約2.71mLに低下した。この結果は、表10に示唆するように、インクジェット沈着システムでは、アッセイ体積の最小化が達成可能であることを強調する。
【0143】
表9:慣用的な染色装置アッセイスクリプト
【0144】
【0145】
【0146】
[00154]続く表10は、本開示の態様にしたがった、インクジェット沈着プロセスを例示する。VENTANA HE 600プロセスと比較した際、インクジェット染色システムに関しては、染色強度をダイヤル合わせするための一次駆動因子は、プリントパスの回数およびDPI(インチあたりの滴)またはプリント領域の密度であり、これらはどちらも、沈着される染色材料の総量を調節する。この特定のアッセイにおいて、利用した総アッセイ体積は約2.71mlであり、そして総アッセイ時間は約14.24分であった。
【0147】
表10:インクジェットおよび慣用的アッセイの比較要約
【0148】
【0149】
[00155]短いインキュベーション期間は、なお、開示するインクジェット沈着プロセスを通じて染色するためのいくつかのプロセシング工程の構成要素であるが、強いエオジン染色(細胞質染色のため)の適用は、プリンティング後のいかなるさらなるインキュベーションも必要としない。任意の特定の理論によって束縛されることは望ましくないが、これは、染色が、非常に低体積の試薬を用いた際、量に制限されることを例示し、ならびに伝統的な染色技術と比較して、試薬が100倍減少してもなお、反応動力学が改善可能である(染色時間の7分間から1分間への減少)という事実を例示すると考えられる。
【0150】
[00156]実施例7:パージおよびクリーニング
[00157]インクジェットプリンティングの分野の2つの一般的なプラクティスは、プリントヘッドをパージし、そしてブロットして、液体をキャピラリー空間に流すよう誘導し、そして分配用のノズルをプライミングすることである。パージは、圧電または熱小滴生成要素を作動させずに、液体ジェットをノズルの外に出すための、インク容器内での陽圧適用を指す。パージはまた、閉塞(例えば固体結晶、タンパク質凝集物)を除去し、そしてノズルからの小滴の発動を可能にするためにも使用可能である。ブロットは、プリントヘッドのノズル領域の外に、ウィッキングパッドを適用することを指す。これは、ノズルを通じて流動を誘導し、プリンティングのためにプライミングするか、またはプリントヘッド上のいかなる残渣液体もクリーンアップする。これらの方法の両方が、「よく振る舞う」液体(すなわち結晶化し、そしてノズルを閉塞させる傾向を持たない液体)を管理するため、現在のインクジェット染色システム上でも使用されている。
【0151】
[00158]インクジェット染色研究において、プリントヘッドのクリーニングおよび維持のいくつかの方法が、物理的または化学的処理を用いて開発された。一般的に、物理的処理は、より破壊的でなく、そして比較的容易に自動化可能であるため、好ましい方法であった。プリントヘッドの維持のため、湿った、局所的に高い湿度の環境は、ノズルでの結晶化または沈殿物形成を防止する際の重要な因子である。水およびグリコールの混合物を充填したブロッティングパッドを、インクジェット染色システム上での長期保存中、ノズルプレートの上に乗せることによって、乾燥は軽減された。
【0152】
[00159]プリントヘッドからの結晶化物質のクリーニングに用いた、2つの有効な溶媒系は、3%過ヨウ素酸および過酸化水素/炭酸ナトリウムの混合物であった。どちらも、プリントノズルからの閉塞を除去する際に有効であった。
【0153】
[00160]本明細書に言及され、そして/または出願データシートに列挙された、米国特許、米国特許出願公開、米国特許出願、外国特許、外国特許出願、および非特許刊行物は、その全体が本明細書に援用される。態様の側面は、必要であれば、多様な特許、出願および刊行物の概念を使用して、修飾し、さらなる態様を提供することも可能である。
【0154】
[00161]本明細書の開示は、特定の態様に言及して記載されてきているが、これらの態様は本開示の原理および適用を単に例示することを理解しなければならない。したがって、付随する請求項によって定義されるような、本開示の精神および範囲から逸脱することなく、例示する態様に多数の修飾を行うことが可能であり、そして他のアレンジが考案可能であることが理解される。