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  • 特許-回転制動装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】回転制動装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 63/00 20060101AFI20220628BHJP
   F16D 67/02 20060101ALI20220628BHJP
   F16D 59/00 20060101ALI20220628BHJP
   F16D 43/16 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
F16D63/00 P
F16D67/02 A
F16D59/00 A
F16D43/16
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018046478
(22)【出願日】2018-03-14
(65)【公開番号】P2019158027
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(73)【特許権者】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】100149870
【弁理士】
【氏名又は名称】芦北 智晴
(72)【発明者】
【氏名】赤岩 修一
(72)【発明者】
【氏名】田中 淳
(72)【発明者】
【氏名】松田 宏
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-204655(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0017113(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00-71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りに回転するロータと、
前記ロータに、前記軸線と略平行な回動軸線回りに回動自在に支持された回動部材と、
前記軸線回りに回転自在に設けられ、かつ、前記回動部材より遠心側に設けられた第1筒部材と、
前記軸線回りに前記第1筒部材より遠心側に当該第1筒部材との間に隙間を介して設けられた非回転の第2筒部材と、
前記第1筒部材と前記第2筒部材との前記隙間に充填された磁気粘性流体と、
前記回動部材を付勢する付勢部材と、
磁石と、
を備え、
前記回動部材は、遠心力によって遠心側に回動するように、前記ロータに支持されており、
前記付勢部材は、前記回動部材を前記軸線側に回動させるように付勢しており、
前記回動部材が所定量以上遠心側に回動したとき、前記回動部材が前記第1筒部材と係合して一体回転するように、前記回動部材および前記第1筒部材に、それぞれ係合部および被係合部が形成されており、
前記ロータ、前記回動部材、前記第1筒部材および前記第2筒部材は、それぞれ磁性体を用いて構成されており、
前記回動部材が前記第1筒部材と係合するとき、前記磁石の一方の磁極から、少なくとも前記ロータ、前記回動部材、前記第1筒部材、前記磁気粘性流体および前記第2筒部材を経由して、前記磁石の他方の磁極に至るまで磁路が形成されるように構成されている、
ことを特徴とする回転制動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の回転制動装置において、
前記軸線回りに回転する回転軸を更に備え、
前記ロータは、前記軸線方向に間隔をおいて前記回転軸に2個固設されており、
前記回動部材は、前記2個のロータの間に設けられており、
前記磁石は、前記ロータの前記回動部材と反対側において前記回転軸の周囲に設けられた永久磁石からなり、
前記第2筒部材の端部は、前記第1筒部材の端部より軸線方向に延出しており、
前記第2筒部材の前記延出した部分の内側から、前記第1筒部材と前記磁石の間に亘って非磁性体を用いて構成されたインナー部材が設けられており、
前記第2筒部材の端部から前記インナー部材の端部を覆いつつ前記磁石の他方の磁極に至るまで、磁性体を用いて構成された磁路ガイド部材が設けられている、
ことを特徴とする回転制動装置。
【請求項3】
請求項2に記載の回転制動装置において、
前記回転軸は、第1軸受を介して前記磁路ガイド部材に支持されており、
前記第1筒部材は、第2軸受を介して前記インナー部材に支持されている、
ことを特徴とする回転制動装置。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の回転制動装置において、
前記係合部および前記被係合部は、互いに噛み合うギアで構成されている、
ことを特徴とする回転制動装置。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の回転制動装置において、
前記回動部材は、偶数個設けられており、
前記付勢部材は、各2つの回動部材の間に連結されている、
ことを特徴とする回転制動装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気粘性流体を用いた回転制動装置に関し、特に、回転速度に応じて制動力を発生する回転制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の回転制動装置は、例えば特許文献1に開示されている。同文献に開示された回転制動装置は、回転軸とともに回転する磁性体からなる可動部材を備えている。この可動部材は、半径方向にスライド可能とされ、スプリングによって回転中心側に付勢されている。可動部材は、回転軸の回転速度が低速のとき、スプリングの付勢力によって回転中心側に位置し、回転軸の回転速度が高速のとき、遠心力によって遠心側に位置する。可動部材が遠心側に位置すると、磁気粘性流体に磁場を印加する磁路が形成され、回転軸に制動力が働く。一方、可動部材が回転中心側に位置すると、上記の磁路は形成されず、回転軸に制動力が殆ど働かない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-204655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の回転制動装置では、可動部材が回転中心側に位置しても、当該可動部材と永久磁石との距離を十分に確保することが構造的に難しく、永久磁石から可動部材を介して漏れた磁束が磁気粘性流体に作用してしまう。このことから、特許文献1の回転制動装置では、回転軸の基底トルクをゼロないしゼロ近傍にすることが難しい。なお、基底トルクは、回転軸等の回転部を回転させるために必要な最低トルクであり、一般的に、その値はゼロに近いことが望まれる。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するために創案されたものであり、遠心力によって磁性体を移動させ、回転速度が低いときよりも高いときに制動力を発生する回転制動装置において、従来のものよりも基底トルクを小さくすることのできる回転制動装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る回転制動装置は、軸線回りに回転するロータと、前記ロータに、前記軸線と略平行な回動軸線回りに回動自在に支持された回動部材と、前記軸線回りに回転自在に設けられ、かつ、前記回動部材より遠心側に設けられた第1筒部材と、前記軸線回りに前第1筒部材より遠心側に当該第1筒部材との間に隙間を介して設けられた非回転の第2筒部材と、前記第1筒部材と前記第2筒部材との前記隙間に充填された磁気粘性流体と、前記回動部材を付勢する付勢部材と、磁石と、を備える。前記回動部材は、遠心力によって遠心側に回動するように、前記ロータに支持されている。前記付勢部材は、前記回動部材を前記軸線側に回動させるように付勢している。前記回動部材が所定量以上遠心側に回動したとき、前記回動部材が前記第1筒部材と係合して一体回転するように、前記回動部材および前記第1筒部材に、それぞれ係合部および被係合部が形成されている。前記ロータ、前記回動部材、前記第1筒部材および前記第2筒部材は、それぞれ磁性体を用いて構成されている。前記回動部材が前記第1筒部材と係合するとき、前記磁石の一方の磁極から、少なくとも前記ロータ、前記回動部材、前記第1筒部材、前記磁気粘性流体および前記第2筒部材を経由して、前記磁石の他方の磁極に至るまで磁路が形成されるように構成されている。
【0007】
かかる構成を備える回転制動装置によれば、ロータに制動対象物から回転力が伝達されるようにして使用することで、制動対象物に対して、回転速度がある程度高いときに制動力を与えることができる。そして、制動対象物の回転速度が比較的低いときは、第1筒部材と回動部材が係合しないことから、第1筒部材が磁気粘性流体から受ける回転抵抗がロータおよび制動対象物に伝達されることがない。すなわち、第1筒部材が磁気粘性流体から受ける回転抵抗が基底トルクを形成しないことから、従来の回転制動装置よりも基底トルクを小さくすることができる。
【0008】
前記構成を備える回転制動装置において、前記軸線回りに回転する回転軸を更に備え、前記ロータは、前記軸線方向に間隔をおいて前記回転軸に2個固設されており、前記回動部材は、前記2個のロータの間に設けられており、前記磁石は、前記ロータの前記回動部材と反対側において前記回転軸の周囲に設けられた永久磁石からなり、前記第2筒部材の端部は、前記第1筒部材の端部より軸線方向に延出しており、前記第2筒部材の前記延出した部分の内側から、前記第1筒部材と前記磁石の間に亘って非磁性体を用いて構成されたインナー部材が設けられており、前記第2筒部材の端部から前記インナー部材の端部を覆いつつ前記磁石の他方の磁極に至るまで、磁性体を用いて構成された磁路ガイド部材が設けられている、ことが望ましい。
【0009】
かかる構成を備える回転制動装置によれば、装置全体の小型化が図られる。
【0010】
前記構成を備える回転制動装置において、前記回転軸は、第1軸受を介して前記磁路ガイド部材に支持されており、前記第1筒部材は、第2軸受を介して前記インナー部材に支持されている、ことが望ましい。
【0011】
かかる構成を備える回転制動装置によれば、更に装置全体の小型化が図られる。
【0012】
前記構成を備える回転制動装置において、前記係合部および前記被係合部は、互いに噛み合うギアで構成されている、ことが望ましい。
【0013】
かかる構成を備える回転制動装置によれば、簡易な構造で信頼性の高い係合動作を確保することができる。
【0014】
前記構成を備える回転制動装置において、前記回動部材は、偶数個設けられており、前記付勢部材は、各2つの回動部材の間に連結されている、ことが望ましい。
【0015】
かかる構成を備える回転制動装置によれば、2つの回動部材を付勢する付勢部材を1つの付勢部材で済ませることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る回転制動装置によれば、従来のものよりも基底トルクを小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態に係る回転制動装置の一例を示す断面図である。
図2図1のA-A断面図であって、回動部材と第1筒部材とが係合していない状態を示す図である。
図3図2において全ての回動部材と第1筒部材とが係合した状態を示す図である。
図4図2において4つの回動部材のうち2つの回動部材と第1筒部材とが係合した状態を示す図である。
図5図2において4つの回動部材のうち他の2つの回動部材と第1筒部材とが係合した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態に係る回転制動装置について図面を参照しながら説明する。図1に示すように、回転制動装置1は、回転軸2、ロータ3、回動部材4、第1筒部材5、第2筒部材6、磁気粘性流体7、磁石8、インナー部材9、磁路ガイド部材10等を備えている。
【0019】
回転軸2は、図示しない制動対象物と連結され、制動対象物から回転力が入力されると軸線12回りに回転する。この回転軸2は、軸受13を介して後述する磁路ガイド部材10に形成された軸穴14に支持されている。回転制動装置1では、回転軸2とともに、ロータ3、回動部材4、磁石8等が軸線12回りに回転する。なお、回転軸2は、後述する磁路の形成を阻害しないように、非磁性体を用いて構成されている。
【0020】
ロータ3は、回転軸2と一体回転するように回転軸2に固定されている。本実施形態では、2個のロータ3が互いに軸線12方向に間隔をおいて配設され、ホーローセット16を用いて回転軸2に固定されている。図1に例示するロータ3は軸線12方向から視て円環状に形成されている。なお、ロータ3は、後述する磁路を形成することができるように、磁性体を用いて構成されている。
【0021】
回動部材4は、軸線12と略平行な回動軸線17回りに回動するように、その基部がロータ3に支持されている。回動部材4は、例えば図1に示すように、2個のロータ3間に架設されたピン18を介して両ロータ3に支持されている。ロータ3が軸線12回りに回転すると、回動部材4には、遠心力が作用し、その遠心力が回動部材4を回動させる力となる。そして、ロータ3の回転速度が一定速度以上になると、図3に示すように、回動部材4は、付勢部材19の付勢力に抗して遠心側に回動する。一方、ロータ3の回転速度が一定速度未満のときは、回動部材4に働く遠心力がゼロ又は比較的小さな値となり、図2に示すように、回動部材4は、付勢部材19によって軸線12側に付勢され、回転軸2に当接する。なお、回動部材4は、後述する磁路を形成することができるように、磁性体を用いて構成されている。ピン18は非磁性体で構成されていることが望ましい。
【0022】
回動部材4には第1筒部材5の内側に形成された被係合部5aと係合する係合部4bが形成されている。本実施形態では、係合部4bおよび被係合部5aとしてギアが採用されている。
【0023】
本実施形態では、回動部材4は、2個のロータ3間に4個設けられており、引張コイルばねからなる付勢部材19が、各2個の回動部材4の間にそれぞれ連結されている。ロータ3の回転速度が一定速度未満のときは、図2に示すように、第1の回動部材4Aの先端部と第2の回動部材4Bの先端部とが対向し、第3の回動部材4Cの先端部と第4の回動部材4Dの先端部とが対向している。ロータ3の回転速度が一定速度以上になると、各回動部材4A~4Dは、遠心力によって付勢部材19の付勢力に抗して遠心側に回動し、それぞれ係合部4bを第1筒部材5の被係合部5aに係合させる。このとき、第1の回動部材4Aの先端部と第2の回動部材4Bの先端部とが離反し、第3の回動部材4Cの先端部と第4の回動部材4Dの先端部とが離反するように回動する。
【0024】
第1筒部材5は、回動部材4およびロータ3より遠心側に設けられており、軸線12回りに回転自在に支持されている。本実施形態では、図2に示すように、第1筒部材5として、円筒体の内側に被係合部5aとしてのギアを形成したものが採用されている。また、図1に示すように、第1筒部材5は、軸受21を介して、後述するインナー部材9に支持されている。なお、第1筒部材5は、後述する磁路を形成することができるように、磁性体を用いて構成されている。
【0025】
第2筒部材6は、図1に示すように、第1筒部材5より遠心側に隙間Sを介して設けられている。第2筒部材6の両端部は、第1筒部材5の両端部よりも軸線12方向外側に延出している(以下延出した部分を「延出部6a」ともいう。)。なお、第2筒部材6は、後述する磁路を形成することができるように、磁性体を用いて構成されている。
【0026】
磁気粘性流体7は、第1筒部材5と第2筒部材6との隙間Sに充填されている。磁気粘性流体7は、第1筒部材5と前記第2筒部材6との間で粘度に応じたトルク伝達を行う。図1に示す例では、灰色に塗り潰した領域が磁気粘性流体7の封入領域を示しており、磁気粘性流体7が第1筒部材5の内側に漏出しないように、第1筒部材5の両端部と後述するインナー部材9の両端部との隙間をシール材11によって封止している。
【0027】
なお、磁気粘性流体7は、磁性粒子を分散媒に分散させてなる液体であり、例えばその磁性粒子がナノサイズの金属粒子(金属ナノ粒子)からなるものが使用できる。磁性粒子は磁化可能な金属材料からなり、金属材料に特に制限はないが軟磁性材料が好ましい。軟磁性材料としては、例えば鉄、コバルト、ニッケル及びパーマロイ等の合金が挙げられる。分散媒は、特に限定されるものではないが、一例として疎水性のシリコーンオイルを挙げることができる。磁気粘性流体における磁性粒子の配合量は、例えば3~40vol%とすればよい。磁気粘性流体にはまた、所望の各種特性を得るために、各種の添加剤を添加することも可能である。
【0028】
磁石8は、2個のロータ3の回動部材4と反対側に設けられている。本実施形態では、磁石8として円筒状の永久磁石が用いられ、当該磁石8は、回転軸2に固定されている。また、2個の磁石8の間で磁気粘性流体7を迂回してダイレクトに磁路が形成されてしまうことを防止するために、2個の磁石8は、同じ磁極(図1に示す例ではN極同士)を対向させている。
【0029】
インナー部材9は、第2筒部材6の延出部6aの内側から第1筒部材5と磁石8との間に亘って設けられている。インナー部材9は、外周部にシール材11用の溝と、軸受21のハウジングを形成しており、軸受21を介して第1筒部材5を支持している。なお、インナー部材9は、後述する磁路の形成を阻害しないように、非磁性体を用いて構成されている。
【0030】
磁路ガイド部材10は、第2筒部材6の端部から、インナー部材9のロータ3と反対側の端部を覆いつつ、磁石8の他方の磁極23に至るまで設けられている。磁路ガイド部材10は、磁性体を用いて構成されており、第2筒部材6の端部と磁石8の他方の磁極23との間を磁気的に接続する。図1に示す例では、磁路ガイド部材10は、第2筒部材6およびインナー部材11の端部に固定された環状の部材10Aと、部材10Aと磁石8の他方の磁極23との間に配置され、インナー部材11に嵌め込まれた略筒状の部材10Bとで構成されている。
【0031】
次に上記構成を備える回転制動装置1の使用形態の一例および動作について説明する。
【0032】
先ず、回転制動したい制動対象物と回転軸1を回転一体に連結し、第2筒部材6、磁路ガイド部材10等の非回転部を、回転しない物又は場所に固定する。
【0033】
制動対象物が停止した状態又は低速で回転している状態では、回転軸2およびロータ3も停止又は低速で回転している状態にあるので、回動部材4に働く遠心力はゼロないし比較的小さな力となる。この状態では、回動部材4は、付勢部材19の付勢力によって第1筒部材5から離れている。このため、第1筒部材5が磁気粘性流体7から受ける回転抵抗がロータ3および回転軸2を介して制動対象物に伝達されることはなく、制動対象物が低速回転していても、制動対象物に伝達される、回転制動装置1の基底トルクは殆どゼロ(つまり、殆ど軸受13の摺動抵抗のみ)となる。
【0034】
この状態から制動対象物が回転速度を上昇させると、制動対象物に連結された回転軸2とともに、ロータ3および回動部材4も回転速度を上昇させる。そして、制動対象物の回転速度がある程度まで上昇すると、回動部材4は、遠心力によって付勢部材19の付勢力に抗して遠心側に回動し始める。更に制動対象物の回転速度が上昇し、一定速度以上になると、図3に示すように、回動部材4が更に遠心側に回動して、回動部材4の係合部4bが第1筒部材5の被係合部5aと噛み合って係合する。
【0035】
回動部材4の係合部4bが第1筒部材5の被係合部5aと係合した状態、および、係合部4bが被係合部5aにある程度の距離まで近づいて係合する直前の状態では、図1に示すように、矢印Pが示す方向に沿って、磁石8の一方の磁極22から、ロータ3、回動部材4、第1筒部材5、磁気粘性流体7、第2筒部材6、磁路ガイド部材10を経由して磁石8の他方の磁極23に至るまで磁路が形成される。これにより、磁気粘性流体7に磁場が印加され、磁気粘性流体7はクラスターを形成してずり応力を発現する。なお、矢印Pは、軸線12より上側のみに記載しており、軸線12より下側に記載すべき矢印Pは、図示を省略している。
【0036】
また、回動部材4の係合部4bが第1筒部材5の被係合部5aと係合すると、第1筒部材5が回転軸2およびロータ3と機械的に結合され、第1筒部材5に制動対象物の回転力が伝達して、第1筒部材5が回転し始める。そうすると、第1筒部材5は、回転しない物又は場所に固定された第2筒部材4から磁気粘性流体7を介して制動力としての回転抵抗を受ける。第1筒部材5が受ける回転抵抗は、回動部材4、ロータ3、回転軸2を経由して制動対象物に伝達され、これにより制動対象物の回転が制動される。
【0037】
以上の説明から明らかなように、本実施形態に係る回転制動装置1によれば、制動対象物の回転速度が比較的低いときは、第1筒部材5と回動部材4が係合しないことから、第1筒部材5が磁気粘性流体7から受ける回転抵抗が制動対象物に伝達されることが全くない。すなわち、第1筒部材5が磁気粘性流体7から受ける回転抵抗が基底トルクを形成しないため、回転制動装置1の基底トルクは、殆ど軸受13の摺動抵抗のみの極めて小さな値となる。よって、本実施形態に係る回転制動装置1によれば、従来の回転制動装置よりも基底トルクを格段に小さくすることができる。
【0038】
また、本実施形態に係る回転制動装置1によれば、遠心力で移動する部材としてを回動部材4を採用したこと、第1筒部材5および第2筒部材6として比較的薄い部材を使用できること、および、磁気粘性流体7の層の厚さが薄いことから、容易に装置全体の小型化、特に外径サイズの小型化、を図ることができる。
【0039】
なお、既述した実施形態では、ロータ3および回動部材4の回転速度が一定速度以上になると、回動部材4が回動して、その係合部4bが第1筒部材5の被係合部5aと噛み合うようになることを図3に基づいて説明したが、実際には、4つの回動部材4のうちの一部の回動部材4の係合部4bのみが第1筒部材5の被係合部5aと噛み合って係合することもある。例えば、図4又は図5に示すように、4つの回動部材4のうちの2つの回動部材4の係合部4bのみが第1筒部材5の被係合部5aと噛み合って係合することもある。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、例えば、ある程度回転速度が速いときに限り制動力を発生する回転制動装置に好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 回転制動装置
2 回転軸
3 ロータ
4 回動部材
4b 係合部
5 第1筒部材
5a 被係合部
6 第2筒部材
6a 延出部
7 磁気粘性流体
8 磁石
9 インナー部材
10 磁路ガイド部材
12 軸線
13 軸受(第1軸受)
17 回動軸線
19 付勢部材
21 軸受(第2軸受)
22 一方の磁極
23 他方の磁極
S 隙間

図1
図2
図3
図4
図5