(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/04 20060101AFI20220628BHJP
C08J 3/22 20060101ALI20220628BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20220628BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20220628BHJP
C08L 81/02 20060101ALI20220628BHJP
C08L 81/06 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
C08J5/04 CEZ
C08J3/22
C08K7/06
C08L79/08 B
C08L81/02
C08L81/06
(21)【出願番号】P 2018064424
(22)【出願日】2018-03-29
【審査請求日】2021-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000222406
【氏名又は名称】東レプラスチック精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智哉
(72)【発明者】
【氏名】井砂 宏之
(72)【発明者】
【氏名】東原 武志
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 和彦
(72)【発明者】
【氏名】芹沢 是高
(72)【発明者】
【氏名】小針 義美
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/107022(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/108384(WO,A1)
【文献】特開平05-086293(JP,A)
【文献】国際公開第2012/053505(WO,A1)
【文献】特許第5608818(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16,15/08-15/14
C08J 5/04-5/10,5/24
B29C 70/00-70/88
C08L
C08K
C08J 3/00-3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(b)ポリエーテルイミド樹脂およびポリエーテルスルホン樹脂から選ばれる少なくとも1種の非晶性樹脂、および(c)エポキシ基、アミノ基およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の基を有する化合物を配合してなる樹脂組成物ペレット、
(B)(d)ポリフェニレンスルフィド樹脂、ならびに
(C)(e)ポリフェニレンスルフィド樹脂および(f)炭素繊維を含む炭素繊維含有ペレット、
を溶融混練する熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記(C)炭素繊維含有ペレットが、(e)ポリフェニレンスルフィド樹脂を鞘、(f)炭素繊維を芯とする芯鞘構造を有するペレット、または(e)ポリフェニレンスルフィド樹脂中に(f)炭素繊維が分散された構造を有するペレットであることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記(A)樹脂組成物ペレットが、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂60~99重量部、および(b)ポリエーテルイミド樹脂およびポリエーテルスルホン樹脂から選ばれる少なくとも1種の非晶性樹脂1~40重量部の合計を100重量部として(c)エポキシ基、アミノ基およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の基を有する化合物を0.1~10重量部配合してなることを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記(C)炭素繊維含有ペレットが、(e)ポリフェニレンスルフィド樹脂および(f)炭素繊維の合計を100重量部として、(e)ポリフェニレンスルフィド樹脂50~95重量部および(f)炭素繊維5~50重量部を含有することを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項5】
310℃、剪断速度1000/sの条件下で測定した前記(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂の溶融粘度ηaが80~300Pa・sであることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項6】
310℃、剪断速度1000/sの条件下で測定した前記(d)ポリフェニレンスルフィド樹脂の溶融粘度ηdが300~1000Pa・sであることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項7】
310℃、剪断速度1000/sの条件下で測定した前記(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂の溶融粘度ηa(Pa・s)および前記(d)ポリフェニレンスルフィド樹脂の溶融粘度ηd(Pa・s)が、ηd(Pa・s)≧ηa(Pa・s)+100(Pa・s)を満たすことを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項8】
310℃、剪断速度1000/sの条件下で測定した前記(e)ポリフェニレンスルフィド樹脂の溶融粘度ηeが30~150Pa・sであることを特徴とする、請求項1~7のいずれかに記載の熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項9】
310℃、剪断速度1000/sの条件下で測定した前記(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂の溶融粘度ηaおよび前記(e)ポリフェニレンスルフィド樹脂の溶融粘度ηe(Pa・s)が、ηa(Pa・s)≧ηe(Pa・s)+50(Pa・s)を満たすことを特徴とする、請求項1~8のいずれかに記載の熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靭性に極めて優れ、加熱溶融時のガス発生量が少なく加工性に優れたポリフェニレンスルフィドからなる熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料の製造方法、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料およびそれを用いる成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド(以下PPSと略すことがある)樹脂は優れた耐熱性、バリア性、耐薬品性、電気絶縁性、耐湿熱性などエンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有しており射出成形、押出成形用を中心として各種電気・電子部品、機械部品および自動車部品などに使用されている。さらに、これに炭素繊維の短繊維を混合させたポリフェニレンスルフィド樹脂炭素繊維複合材料は、その引張強度、曲げ強度、および曲げ弾性率が一層高くなり金属に近くなる。
【0003】
しかし、一般にPPS樹脂は、ナイロンやPBTなどの他のエンジニアリングプラスチックに比べ靭性が低く、その適用が限定されているのが現状であり、その改良が強く望まれている。特に、炭素繊維を混合することで、靱性の低下が相対的に顕著になる。
【0004】
そこで、靱性を向上させるためにPPS樹脂とポリエーテルイミド(以下PEIと略すことがある)樹脂あるいはポリエーテルスルホン(以下PESと略すことがある)樹脂からなる組成物がこれまでに検討されている。例えば、特許文献1にはポリアリーレンスルフィド樹脂、PEI樹脂、および有機シラン化合物を配合してなる樹脂組成物が開示されている。
【0005】
一方、特許文献2には、連続した炭素繊維束のまわりに熱可塑性樹脂が被覆されてなる成形用材料で、成形用材料が50mm以下に切断されているものが開示されている。
【0006】
特許文献3には、ポリアリーレンスルフィド樹脂、PEI樹脂、および有機シラン化合物を配合してなる樹脂組成物が開示されており、PEI樹脂を微分散化することによって優れた靱性が得られることが記載されている。
【0007】
また、特許文献4には、炭素繊維の束を低粘度の熱可塑性樹脂で被覆した後、さらに高粘度の熱可塑性樹脂でコンパウンドすることで、ペレット中において、高粘度樹脂の海成分の中に低粘度樹脂に密着した短繊維の炭素繊維がアロイ状に分散し、靱性が向上した熱可塑性炭素繊維樹脂の複合材料及びその製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平4-130158号公報
【文献】実開昭60-62912号公報
【文献】国際公開第2007/108384号
【文献】特許第5608818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1では、PEI樹脂を微分散化するという技術は記載されておらず、靱性の向上が更に必要である。
【0010】
特許文献2には、炭素繊維と樹脂との密着性を高めるために、低粘度の熱可塑性樹脂を用いることが好ましいことが記載されている。しかしながら、低粘度樹脂は、金型内への樹脂の充填により成形を行う射出成形には適しているものの、溶融した樹脂を押出機からダイスへ流し込むことにより成形を行う押出成形においては、成形品の形状が安定せず、切削性や力学特性が不足しがちになるという問題を有しており、高粘度の熱可塑性樹脂を併用する方法が検討されている。
【0011】
特許文献3には、炭素繊維を含有することについては具体的に記載されていない。
【0012】
特許文献4の方法で得られたペレットを押出成形に用いると、靱性が不足し、割れやクラックなどが発生する問題がある。
【0013】
本発明は、靭性に極めて優れ、加熱溶融時のガス発生量が少なく加工性に優れたポリフェニレンスルフィドからなる熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは前記課題を解決すべく検討した結果、海島型の構造を有する熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料とすることで、上記課題が解決されることを見出した。
【0015】
すなわち本発明は、以下の構成をとる。
【0016】
(A)(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(b)ポリエーテルイミド樹脂およびポリエーテルスルホン樹脂から選ばれる少なくとも1種の非晶性樹脂、および(c)エポキシ基、アミノ基およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の基を有する化合物を配合してなる樹脂組成物ペレット、
(B)(d)ポリフェニレンスルフィド樹脂、ならびに
(C)(e)ポリフェニレンスルフィド樹脂および(f)炭素繊維を含む炭素繊維含有ペレット、
を溶融混練する熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、靭性に極めて優れ、加熱溶融時のガス発生量が少なく加工性に優れたポリフェニレンスルフィドからなる熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明
により得られる熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料を用いてなる成形品の断面を電子顕微鏡にて観察した結果を示す模式図である。
【
図2】本発明
により得られる熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料を用いてなる成形品の断面の観察結果である。
【
図3】従来の一実施態様に係る熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料を用いてなる成形品の断面の観察結果である。
【
図4】炭素繊維の長繊維を芯に含む芯鞘ペレットの一例を示す概略斜視図である。
【
図5】炭素繊維の短繊維を含む短繊維ペレットの一例を示す概略斜視図である。
【
図6】本発明における樹脂組成物ペレットの一例を示す概略斜視図である。
【
図7】本発明の熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料からなるペレットの一例を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
本発明
に係る熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料は、
図1に示すような海島構造を有する。
【0022】
海相は、ポリフェニレンスルフィド樹脂を主成分とする。
【0023】
一方、島相は、(b)ポリエーテルイミド樹脂およびポリエーテルスルホン樹脂から選ばれる少なくとも1種の非晶性樹脂を主成分とする。(b)非晶性樹脂を主成分とする島相の数平均粒子径は、1~1000nmである。さらに好ましくは、1~500nmである。
【0024】
さらに、本発明に係る熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料は、炭素繊維がポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を主成分とする海相中に分散している。
【0025】
本発明の熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料の製造方法は、
(A)(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(b)ポリエーテルイミド樹脂およびポリエーテルスルホン樹脂から選ばれる少なくとも1種の非晶性樹脂、および(c)エポキシ基、アミノ基およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の基を有する化合物を配合してなる樹脂組成物ペレット、
(B)(d)ポリフェニレンスルフィド樹脂
(C)(e)ポリフェニレンスルフィド樹脂および(f)炭素繊維を含む炭素繊維含有ペレット、
の(A)~(C)を溶融混練することを特徴とする。以下、各材料について説明する。
【0026】
(A)(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(b)ポリエーテルイミド樹脂およびポリエーテルスルホン樹脂から選ばれる少なくとも1種の非晶性樹脂、および(c)エポキシ基、アミノ基およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の基を有する化合物を配合してなる樹脂組成物ペレット
(A)樹脂組成物ペレットは、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(b)ポリエーテルイミド樹脂およびポリエーテルスルホン樹脂から選ばれる少なくとも1種の非晶性樹脂、および(c)エポキシ基、アミノ基およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の基を有する化合物を配合してなる。
【0027】
(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂は、-(C6H4-S)n-を基本構成する高分子であるが、側鎖や含酸素ユニットを有する共重合体であってよい。これらの共重合ユニットを一定の割合で含んでいてもよい。
【0028】
(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂は、310℃、剪断速度1000/sの条件下で測定した溶融粘度ηaが80~300Pa・sであることが好ましい。より好ましくは100~200Pa・sであり、更に好ましくは150~200Pa・sである。
【0029】
(b)ポリエーテルイミド樹脂およびポリエーテルスルホン樹脂から選ばれる少なくとも1種の非晶性樹脂は、単独でも併用しても構わない。
【0030】
(c)(c)エポキシ基、アミノ基およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の基を有する化合物は、イソシアネート基を1個以上含む化合物、エポキシ基を2個以上含む化合物 、またはイソシアネート基含有アルコキシシランであることが好ましい。
【0031】
(c)は反応基を有す化合物であり、この反応基が、各々分散された(b)非晶性樹脂と、ポリフェニレンスルフィド樹脂との密着性を向上させる機能を有する。
【0032】
(A)樹脂組成物ペレットは、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂60~99重量部、および(b)ポリエーテルイミド樹脂およびポリエーテルスルホン樹脂から選ばれる少なくとも1種の非晶性樹脂1~40重量部の合計を100重量部として、(c)エポキシ基、アミノ基およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の基を有する化合物を0.1~10重量部配合することが好ましい。より好ましくは0.5~5重量部であり、更により好ましくは1~3重量部である。
【0033】
(A)樹脂組成物ペレットは、そのモルフォロジーにおいて、前記(b)非晶性樹脂が数平均粒子径1~5000nmで(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂相に分散していることが好ましい。より好ましくは1nm~2000nmで、更に好ましくは10nm~1000nmである。ここで、(b)非晶性樹脂の数平均分散径は、以下の方法により求めることができる。樹脂組成物中における、(b)ポリエーテルイミド樹脂およびポリエーテルスルホン樹脂から選ばれる少なくとも1種の非晶性樹脂の数平均粒子径は、(a)PPS樹脂の融解ピーク温度+20℃の成形温度でISO3167タイプA試験片を成形し、その中心部から-20℃にて0.1μm以下の薄片をダンベル片の断面積方向に切削し、日立製作所製H-7100型透過型電子顕微鏡(分解能(粒子像)0.38nm、倍率50~60万倍)にて、1万~2万倍に拡大して観察した際の(b)ポリエーテルイミド樹脂およびポリエーテルスルホン樹脂から選ばれる少なくとも1種の非晶性樹脂からなる島相のうちの任意の100個について、それぞれの最大径と最小径を測定して平均値をその島相の分散粒子径とし、その後それぞれの島相の分散粒子径から平均値を求めたものである。
【0034】
また、(A)樹脂組成物ペレットには、その結晶化温度を上昇しないなど樹脂組成物ペレットの有する特性を大きく損なわない限りにおいて、添加剤が添加されていてもよい。例えば、ヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン類、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物またはこれらの混合物が、熱安定剤、酸化防止剤、強化材、顔料、着色防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、離型剤などの添加剤として添加されていてもよい。
【0035】
本発明において使用される(A)樹脂組成物ペレットは、国際公開第2007/108384号に記載されるような製造方法によって得られたものを用いることができる。具体的には、単軸、二軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、およびミキシングロールなど通常公知の溶融混練機に(a)成分、(b)成分、および(c)成分を供給し、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂の融解ピーク温度+5~100度の加工温度で溶融混練する方法を挙げることができる。(b)非晶性樹脂の分散をより細かくするためには、二軸の押出機を使用し、せん断力を強くすることが好ましい。
【0036】
(B)(d)ポリフェニレンスルフィド樹脂
(d)ポリフェニレンスルフィド樹脂は、-(C6H4-S)n-を基本構成する高分子であるが、側鎖や含酸素ユニットを有する共重合体であってよい。これらの共重合ユニットを一定の割合で含んでいてもよい。
【0037】
(d)ポリフェニレンスルフィド樹脂は、310℃、剪断速度1000/sの条件下で測定した溶融粘度ηdが300~1000Pa・sであることが好ましい。より好ましくは400~900Pa・s、更に好ましくは500~800Pa・sである。
【0038】
(C)(e)ポリフェニレンスルフィド樹脂および(f)炭素繊維を含む炭素繊維含有ペレット、
(C)炭素繊維含有ペレットは、(e)ポリフェニレンスルフィド樹脂および(f)炭素繊維を含む。
【0039】
(e)ポリフェニレンスルフィド樹脂は、-(C6H4-S)n-を基本構成する高分子であるが、側鎖や含酸素ユニットを有する共重合体であってよい。これらの共重合ユニットを一定の割合で含んでいてもよい。
【0040】
(e)ポリフェニレンスルフィド樹脂は、310℃、剪断速度1000/sの条件下で測定した溶融粘度ηeが30~150Pa・sであることが好ましい。更に好ましくは30~100Pa・s、最も好ましくは50~100Pa・sである。このような溶融粘度の低い(e)ポリフェニレンスルフィド樹脂を用いた炭素繊維含有ペレットを用いることで、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料中に(f)炭素繊維を容易に分散することができる。
【0041】
(f)炭素繊維の含有量は、(e)ポリフェニレンスルフィド樹脂よりも同等または、より少ない方が好ましい。(e)ポリフェニレンスルフィド樹脂が(f)炭素繊維の周りを覆うことで、(A)樹脂組成物ペレットおよび(B)(d)ポリフェニレンスルフィド樹脂と溶融混練する際に親和性が向上し、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料の割れが抑えられる。もし、極端に(e)ポリフェニレンスルフィド樹脂が少ないと、(f)炭素繊維と、(A)樹脂組成物ペレットおよび(B)(d)ポリフェニレンスルフィド樹脂との親和性が低下し、割れの原因となる場合がある。一方で、極端に(e)ポリフェニレンスルフィド樹脂が多いと、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料自体の強度低下や割れの原因となる場合がある。
【0042】
(C)炭素繊維含有ペレットは、(e)ポリフェニレンスルフィド樹脂および(f)炭素繊維の合計を100重量部として、(e)ポリフェニレンスルフィド樹脂50~95重量部および(f)炭素繊維5~50重量部を含有することが好ましい。
【0043】
以上の様に(f)炭素繊維と(e)ポリフェニレンスルフィド樹脂の最適な粘度と割合を維持することが、複合材料の割れを抑えるために、必須である。
【0044】
(C)炭素繊維含有ペレットの構造としては、例えば、
図4で示されるような、(e)ポリフェニレンスルフィド樹脂を鞘、(f)炭素繊維を芯とする芯鞘構造を有する(g)芯鞘構造ペレットであってもよい。または、
図5で示されるような、(e)ポリフェニレンスルフィド樹脂中に(f)炭素繊維が分散された構造を有するペレット((h)炭素繊維分散ペレット)であってもよい。熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料中における(f)炭素繊維の繊維長を長く保持するためには、(g)芯鞘構造ペレットを使用することが好ましい。
【0045】
(g)芯鞘構造ペレットの製造方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、樹脂含浸用ロールを備えた含浸ダイを設置し、押出機で溶融された第1の熱可塑性樹脂を含浸ダイの樹脂槽内に溜め、開繊されたロービング状の炭素繊維を含浸ダイの樹脂槽内に導入し、炭素繊維ロービングの表面を第1の熱可塑性樹脂で被覆しつつ、含浸ローラーで炭素繊維ロービングを挟むことにより第1の樹脂を炭素繊維ロービングに含浸させる。この際、炭素繊維ロービングの搬送は、樹脂槽の下流に位置するフィードローラが炭素繊維ロービングを引っ張ることにより行われる。下流に搬送された炭素繊維ロービングは、ダイによって樹脂量が調整され断面形状が整えられた後に、カッターを有する切断装置に送り込まれる。そして、この第1の熱可塑性樹脂に覆われた炭素繊維ロービングを切断装置のカッターによって切断することにより、炭素繊維からなる芯が第1の熱可塑性樹脂によって覆われた芯鞘構造を有するペレットを得ることができる。また、この方法で得られた(g)芯鞘構造ペレットに(A)樹脂組成物ペレットおよび(B)(d)ポリフェニレンスルフィド樹脂を混合し、二軸の押出機により混練し、ダイによって樹脂量を調整し断面形状を整えた後に、カッターを有する切断装置に送り込んで切断することにより、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料のペレットを製造することができる。
【0046】
炭素繊維の短繊維がペレット全体に分散した(h)炭素繊維分散ペレットの製造方法は、特開2010-654号公報に記載されるような方法で得られる。押出機の溶融樹脂に対して、サイドフィード用供給口又はベント穴部から(f)炭素繊維が供給され、混合され、押出機の先端に設けられたギヤポンプ装置及びダイスを介して繊維強化ストランドとして成形され、ストランドカッタで切断されて(h)炭素繊維分散ペレットが製造される。
【0047】
本発明において用いられる、(A)樹脂組成物ペレットに配合される(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)(d)ポリフェニレンスルフィド樹脂、および(C)炭素繊維含有ペレットに含有される(e)ポリフェニレンスルフィド樹脂の3種類のポリフェニレン樹脂の粘度について、説明する。
【0048】
前述のとおり、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂は、310℃、剪断速度1000/sの条件下で測定した溶融粘度ηaが80~300Pa・sであることが好ましい。より好ましくは100~200Pa・sであり、更に好ましくは150~200Pa・sである。(d)ポリフェニレンスルフィド樹脂は、310℃、剪断速度1000/sの条件下で測定した溶融粘度ηdが300~1000Pa・sであることが好ましい。より好ましくは400~900Pa・s、更に好ましくは500~800Pa・sである。(e)ポリフェニレンスルフィド樹脂は、310℃、剪断速度1000/sの条件下で測定した溶融粘度ηeが30~150Pa・sであることが好ましい。更に好ましくは30~100Pa・s、最も好ましくは50~100Pa・sである。
【0049】
さらにηd≧ηa+200Pa・s、であることが好ましく、より好ましくはηd≧ηa+250Pa・s、さらに好ましくはηd≧ηa+300Pa・sである。
【0050】
また、この時、ηa≧ηe+50Pa・sであることが好ましく、より好ましくはηa≧ηe+80Pa・sであり、更に好ましくはηa≧ηe+100Pa・sである。
【0051】
本発明に係る熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料は、海島型の構造を有し、ポリフェニレンスルフィド樹脂を主成分とする海相に、(b)ポリエーテルイミド樹脂およびポリエーテルスルホン樹脂から選ばれる少なくとも1種の非晶性樹脂を主成分とする島相、および炭素繊維が分散している構造を有し、該熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料からなる成形品の、ISO179に準拠して測定したノッチ付シャルピー衝撃強度が6kJ/m2以上であることを特徴とする。熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料に、(C)炭素繊維含有ペレットに由来する低粘度の(e)ポリフェニレンスルフィド樹脂が存在することで、炭素繊維の分散性が向上する。(f)炭素繊維が分散することで、該熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料からなる成形品のノッチ付シャルピー衝撃強度を6kJ/m2以上とすることができる。成形品のノッチ付シャルピー衝撃強度は、7.5kJ/m2以上が好ましく、さらに9.0kJ/m2以上がさらに好ましい。ここで、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料からなる成形品のノッチ付シャルピー衝撃強度は、以下の方法により求めることができる。射出成形機を用いてISO3167タイプA試験片を射出成形した後、ISO3167タイプA試験片の中央並行部分を残し、両サイドを切り落とした試験片を使用し、ISO179に準拠してノッチ付きシャルピー衝撃強度を求めた。
【0052】
本発明に係る熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料は、ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し、(b)ポリエーテルイミド樹脂およびポリエーテルスルホン樹脂から選ばれる少なくとも1種の非晶性樹脂1~25重量部、および炭素繊維5~45重量部を含有することを特徴とする。ここで、ポリフェニレンスルフィド樹脂には、(A)樹脂組成物ペレットに由来する(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(d)ポリフェニレンスルフィド樹脂、および(C)炭素繊維含有ペレットに由来する(e)ポリフェニレンスルフィド樹脂の、3種のポリフェニレンスルフィド樹脂が含まれている。そのうち、(e)ポリフェニレンスルフィド樹脂の含有量は、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料に対し8~50重量%であることが炭素繊維の分散性の観点から好ましい。または、複合材料中に含まれるPPS樹脂全体に占める(e)PPS樹脂の含有量は、9~75重量%であることが炭素繊維の分散性の観点から好ましい。
【0053】
炭素繊維5~45重量部の好ましい範囲は、得られる熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料の衝撃強度の観点から5~30重量部が好ましく、5~20重量部がより好ましく、5~10重量部が一層好ましい。
【0054】
本発明に係る熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料において、ポリフェニレンスルフィド樹脂を主成分とする海相に、(b)ポリエーテルイミド樹脂およびポリエーテルスルホン樹脂から選ばれる少なくとも1種の非晶性樹脂を主成分とする島相が、数平均粒子径1~1000nmで分散していることが好ましい。好ましくは1~500nmであり、より好ましくは1~350nmであり、さらに好ましくは20~250nmである。(b)非晶性樹脂の数平均分散粒子径が小さいと、ポリフェニレンスルフィド樹脂の結晶の成長を抑え、複合材料の割れを抑えることができる。一方、分散粒子の粒子径が大きくなるとポリフェニレンスルフィド樹脂の結晶の成長が促進され、その結果、複合材料が割れることになるので、できるだけ細かい分散状態が好ましい。ここで、(b)非晶性樹脂の数平均分散径は、以下の方法により求めることができる。熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料中における、(b)ポリエーテルイミド樹脂およびポリエーテルスルホン樹脂から選ばれる少なくとも1種の非晶性樹脂の数平均粒子径は、(a)PPS樹脂の融解ピーク温度+20℃の成形温度でISO3167タイプA試験片を成形し、その中心部から-20℃にて0.1μm以下の薄片をダンベル片の断面積方向に切削し、日立製作所製H-7100型透過型電子顕微鏡(分解能(粒子像)0.38nm、倍率50~60万倍)にて、1万~2万倍に拡大して観察した際の(b)ポリエーテルイミド樹脂およびポリエーテルスルホン樹脂から選ばれる少なくとも1種の非晶性樹脂からなる島相のうちの任意の100個について、それぞれの最大径と最小径を測定して平均値をその島相の分散粒子径とし、その後それぞれの島相の分散粒子径から平均値を求めたものである。
【0055】
本発明により得られる熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料において、炭素繊維は系内に分散していることが好ましい。炭素繊維の分散が均一でないと、炭素繊維が偏り、複合材料の強度にバラつきが生じる。その結果割れが発生する場合がある。
【0056】
炭素繊維を分散に均一にする方法としては、(C)(e)ポリフェニレンスルフィド樹脂および(f)炭素繊維を含む炭素繊維含有ペレットを用いて、(f)炭素繊維を複合材料に添加する方法が挙げられる。また、詳細は後述するが、本発明の熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料を製造の際に、2軸の押出機等を用い、強力に撹拌とせん断を行う必要がある。なおこの時、発熱による樹脂の分解を抑える必要があるので、設備を冷却して樹脂の温度を適正にする必要がある。
【0057】
本発明により得られる熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料において、炭素繊維の平均繊維長は10μm~500μmであることが好ましい。より好ましくは100μm~500μmで、更により好ましくは200μm~400μmである。ここで、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料中における炭素繊維の平均繊維長は、以下の方法により求めることができる。
【0058】
熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料中における炭素繊維の平均繊維長は、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料を500℃で1時間焼成し、得られた灰分を水分散させた後、濾過を行い、その残渣を光学顕微鏡にて観察し、1,000本について測定した繊維長から換算することができる。具体的には、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料のペレットを10g程度ルツボに入れ、電気コンロにて可燃性ガスが発生しなくなるまで蒸し焼きにした後、500℃に設定した電気炉内でさらに1時間焼成することにより炭素繊維の残渣のみを得る。その残渣を光学顕微鏡にて50~100倍に拡大した画像を観察し、無作為に選んだ1,000本の長さを測定し、その測定値から平均繊維長(Ln)を算出する。
平均繊維長(Ln)=Σ(Li×ni)/Σni
Li:炭素繊維の繊維長
ni:繊維長Liの炭素繊維の本数
本発明の熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料の製造について、説明する。
【0059】
(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(b)ポリエーテルイミド樹脂およびポリエーテルスルホン樹脂から選ばれる少なくとも1種の非晶性樹脂、および(c)エポキシ基、アミノ基およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の基を有する化合物を溶融混練し、(A)樹脂組成物ペレットを得、次いで(B)(d)ポリフェニレンスルフィド樹脂、ならびに(e)ポリフェニレンスルフィド樹脂および(f)炭素繊維を含む(C)炭素繊維含有ペレットとともに溶融混練する方法が挙げられる。すなわち、(A)樹脂組成物ペレット、(B)(d)ポリフェニレンスルフィド樹脂、および(C)炭素繊維含有ペレットを同時に混ぜて溶融混練する方法である。
【0060】
また別の方法としては、(A)樹脂組成物ペレットおよび(C)炭素繊維含有ペレットを先に溶融混練してペレットを作製し、これに(B)(d)ポリフェニレンスルフィド樹脂を添加してさらに溶融混練する方法が挙げられる。
【0061】
また別の方法としては、(C)炭素繊維含有ペレットおよび(B)(d)ポリフェニレンスルフィド樹脂を先に溶融混練してペレットを作製し、これに(A)樹脂組成物ペレットを添加してさらに溶融混練する方法が挙げられる。
【0062】
(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(b)ポリエーテルイミド樹脂およびポリエーテルスルホン樹脂から選ばれる少なくとも1種の非晶性樹脂、および(c)エポキシ基、アミノ基およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の基を有する化合物を溶融混練し、(A)樹脂組成物ペレットを得る際に、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂および(b)ポリエーテルイミド樹脂およびポリエーテルスルホン樹脂から選ばれる少なくとも1種の非晶性樹脂の合計100重量部に対し、水を0.02重量部以上添加し溶融混練することもできる。水を添加することにより、(c)エポキシ基、アミノ基およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の基を有する化合物の反応を抑制することができる。
【0063】
水を添加するタイミングは、前述のとおり(A)樹脂組成物ペレットを溶融混練する際に添加してもよいし、(A)樹脂組成物ペレット、(B)(d)ポリフェニレンスルフィド樹脂、および(C)炭素繊維含有ペレットを溶融混練する際に添加してもよい。この場合においても、水の添加量は、(A)樹脂組成物ペレットに配合される(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂および(b)ポリエーテルイミド樹脂およびポリエーテルスルホン樹脂から選ばれる少なくとも1種の非晶性樹脂の合計100重量部に対し、0.02重量部以上添加することが好ましい。
【0064】
本発明に係る熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料の製造においては、(A)樹脂組成物ペレット、(B)(d)ポリフェニレンスルフィド樹脂、および(C)炭素繊維含有ペレットを溶融混練する際に、さらに炭素繊維を追加添加することもできる。炭素繊維を追加添加することで、複合材料中における炭素繊維の濃度を高めて、引張強度および曲げ強度を向上させることができる。
【0065】
炭素繊維を添加する方法としては、例えば、炭素繊維ロービングから引き出された炭素繊維フィラメントを直接押出機に供給する方法や、適度な長さにカットされた炭素繊維を押出機に供給する方法などが挙げられる。
【0066】
本発明により得られる熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料を溶融し、射出成形法、溶融押出法、固化押出法、およびブロー成形法から選択される少なくとも1種の成形方法により成形し、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料の成形品が得られる。
【0067】
熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料の溶融時の混練においては、一軸や二軸の押出機を用いることが好ましい。より好ましくは二軸の押出機を用いることが好ましい。また、当該押出機のシリンダー後半部に真空ベントが設けられていることが好ましく、当該押出機の先端にギアポンプが備えられていることがより好ましい。
【0068】
さらに、結晶化遅延剤の添加により、樹脂の結晶成形を低温度で行わせることで、細かな結晶でなく大きな結晶が成長し、応力に耐えられる押出成形品を得ることができる。
【0069】
本発明により得られる熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料は成形用途に適している。すなわち、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料を溶融し、その後成形することにより、力学強度および加工容易性に優れた成形品を得ることができる。特に、炭素繊維および熱可塑性樹脂を配合してなる熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料は、従来技術ではスプリングバックなどの不具合を抑えることが難しかった押出成形に適しており、溶融押出法、固化押出法のどちらも好適に利用できる。また、上記熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料は、従来の射出成形にも好適に用いることができる。
【0070】
本発明により得られる熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料より、例えば、特開平4-152122号公報に記載されているマンドレルの製造方法および樹脂マンドレルの押出成形装置、特開2001-315193号公報に記載されている溶融押出の合成樹脂のパイプの製造方法、特開2000-313052号公報に記載されている固化押出成形製法およびその製造装置、特開2008-246865号公報や、特開2013-221114号公報に記載されている樹脂シートの製造方法および装置などの公知の手段を用いて、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料からなる成形品を得ることができる。また、成形品の形状については、例えば、加熱、冷却、減圧(真空減圧)、断熱などをダイス周りで行うことによって目的の形状に整えることができる。
【0071】
本発明により得られる熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料を成形し成形品を得た後、さらに熱プレス成型法、真空成型法、曲げ加工、パンチング法により追加の加工を行ってもよい。これらの加工は、単独でも、複数の加工を組み合わせても構わない。
【0072】
また、本発明により得られる熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料は、ポリフェニレンスルフィド樹脂を用いることから、耐薬品性と耐熱性を有する。また、ポリフェニレンスルフィド樹脂を用いた熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料は、吸水性も少ない。特に本発明の熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料のシートは、パンチングマシンで複数の孔を開けた多孔構造品に加工することができる。またこの多孔構造品を用いて、真空成形をすることもできる。多孔構造品を真空成形するときは、マスキングシートを真空成形する多孔構造品の上および/または下に積層して、加熱・溶融することができる。
【0073】
すなわち、上記の成形品に、さらに二次加工を施し、目的の形状に再成形することも可能である。二次加工の方法としては、例えば、異材積層、同材積層、型内加熱、型外加熱、型内冷却、型外冷却、型内加圧、型外加圧、型内減圧(真空減圧)、型外減圧、型内熱曲げ加工、型外熱曲げ加工、減圧雰囲気下での加圧積層成形、パンチング成形、異材との積層によるサンドイッチ成形、延伸、断熱などが挙げられ、これらの方法を組み合わせて実施することもできる。
【0074】
上記成形においては、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料ペレットと、さらに他の樹脂組成物ペレットとを溶融混練して成形することもできる。
【0075】
上記の成形においては、成形工程を複数回実施してもよい。例えば、上述の成形方法として、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料を一旦成形して中間成形体を形成した後、得られた中間成形体をさらにプレス成形法、真空成形法またはブロー成形法により成形して成形品を得る方法を採用することができる。また、中間成形体を成形する際に、複数の成形方法を組み合わせて実施してもよい。
【0076】
成形工程において、金型や熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料を加熱する方法は、電気ヒーター、ガスオーブン、誘電コイル、高圧蒸気などの公知の加熱手段を適宜用いることができる。同時に減圧雰囲気化で脱泡させることが好ましい。
【0077】
成形品周りにできるバリについては、金型の嵌合時に同時に切り取ってもよいし、別工程でトムソン打ち抜きにより抜き取ってもよい。また、金型より小さなサイズの炭素繊維複合材料シートを用いて金型内に完全充填させることにより、バリの発生そのものを抑えることもできる。
【0078】
上述のプレス成形法を用いて熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料の成形を行う場合、例えば熱プレス加工を実施する場合は、圧力は0.2~100MPaが好ましく、1~50MPaがさらに好ましい。
【0079】
また、熱プレスの温度は100~370℃であることが好ましい。より詳しくは、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料に用いたポリフェニレンスルフィド樹脂の融点を基準として、金型温度が-10~90℃の範囲内にあることが好ましく、0~50℃の範囲内にあることがより好ましい。
【0080】
熱プレス成形の方法は、一例としては、以下の方法を挙げることができる。まず、一個または複数個の熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料を上記温度で加熱して溶融した後、これを金型に入れ、金型を閉じて密閉状態とする。そして、金型の温度が熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料に用いたポリフェニレンスルフィド樹脂の融点以下である状態で、上記圧力にて加圧し、金型を開いて成形品を取り出す。この際に、真空ポンプ等による減圧を行い樹脂内部に残るエアーを脱泡することが好ましい。
【0081】
熱プレス成形の別の方法としては、一個または複数個の熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料を、金型温度が熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料に用いたポリフェニレンスルフィド樹脂の融点以下に調整された金型に入れ、金型を閉じる。続いて、金型の温度を上記温度まで加熱して熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料を溶融状態とし、上記圧力にて加圧する方法が挙げられる。この時、金型は密閉状態となっている。その後、放冷や水冷などによって金型を冷却し、金型内の熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料が固化した後、金型を開いて成形品を取り出すことができる。
【0082】
熱プレス成形のさらに別の方法としては、一個または複数個の熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料を上記温度で加熱して半溶融状態とし、これを金型に入れる。このとき、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料は、表面のみが半溶融状態となっていることが好ましい。続いて金型を閉じるが、完全には密閉せず、金型を開放状態としておく。そして、金型の温度が熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料に用いたポリフェニレンスルフィド樹脂の融点以下である状態で、上記圧力にて加圧した後、金型を開いて成形品を取り出すことが挙げられる。
【0083】
このような熱プレス成形を行う場合、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料の形状はシート状であることが好ましい。シートの厚みは0.1~5mmが好ましく、0.5~2mmがより好ましく、1.0~1.5mmがさらに好ましい。
【0084】
また、金型が凸金型およびそれに対応する凹金型からなる場合、金型の配置についてはとくに制限はない。例えば、上型が凸金型であり下型がそれに対応する凹金型であってもよいし、その逆であってもよい。
【0085】
上述の真空成形法を用いて熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料の成形を行う場合、圧力は1×10-5~0.05MPaが好ましく、0.5×10-4~0.05MPaがより好ましく、0.5×10-4~1×10-3MPaがさらに好ましい。
【0086】
また、真空成形時の温度は100~370℃であることが好ましい。より詳しくは、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料に用いたポリフェニレンスルフィド樹脂の融点を基準として、温度が-10~90℃の範囲内であることが好ましく、0~50℃の範囲内であることがより好ましい。
【0087】
真空成形の別の方法としては、一個または複数個の熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料を上記温度にて加熱して溶融状態とし、これを金型に入れる。そして、金型の下型を上昇させた後、下型側から上記圧力にて吸引を行い、金型を開いて成形品を取り出す方法が挙げられる。
【0088】
真空成形のさらに別の方法としては、一個または複数個の熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料を上記温度にて加熱して溶融状態とし、これを金型に入れる。そして、金型の上型を上昇させた後、上型側から上記圧力にて吸引を行い、金型を開いて成形品を取り出す方法が挙げられる。
【0089】
または、どちらか吸引する側と反対側から金型でプレスする方法も挙げられる。
【0090】
このような真空成形を行う場合、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料を加熱した後、金型による成形を行う前に、下方からエアーを吹き付けたり、圧縮空気を用いたりして成形の均一化を図ることもできる。このとき、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料の形状はシート状であることが好ましい。なお、圧縮空気を用いる場合、圧力は0.1~10MPaであることが好ましく、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料が破れないように圧力を調整することが好ましい。
【0091】
本発明において、ブロー成形法を用いて熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料の成形を行う場合、ブロー圧力は0.2~10MPaが好ましく、0.5~2MPaがより好ましい。
【0092】
また、ブロー成形時の温度は200~350℃であることが好ましい。より詳しくは、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料に用いたポリフェニレンスルフィド樹脂の融点を基準として、温度が-10~90℃の範囲内にあることが好ましく、0~50℃の範囲内にあることがより好ましい。
【0093】
曲げ加工の方法は、一例としては、以下の方法を挙げることができる。まず、一個または複数個の熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料からなるI形異形押出品を200~350℃で加熱し、半溶融状態とした後、型に沿わせて固定し、オーブン内でさらに200~300℃で加熱する。そして、室温まで冷却した後、型から取り外して成形品を取り出す。
【0094】
なお、曲げにくいときには、曲げる部分など局部的に有機溶剤などを用いて柔らかくしてから加熱し、曲げ加工を行うこともできる。
【0095】
本発明において、パンチング加工法を用いて、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料の多孔構造品を作成する場合、丸型、四角、菱形、楕円などの金型を用いてパンチングすることで、孔をあけることができる。熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料からなる多孔構造品は、スピーカーのカバーやフィルターなどに使うことができる。この熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料からなる多孔構造品は、金属と異なり錆びることなくかつ軽量である。
【0096】
本発明において、前記中間成形品が、熱可塑性樹脂材料、ガラス繊維基布または前記熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料同士と積層された状態にて成形し、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料の成形品を得ることもできる。
【0097】
すなわち、上記成形において、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料は積層させて用いることもでき、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料とは異なる他の材料と組み合わせて用いることも可能である。例えば、複数の熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料同士を積層させてなる積層体を用いて成形を行ってもよいし、単独または複数の熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料を、単独または複数の他の材料と積層させて積層体を構成し、成形を行ってもよい。積層可能な他の材料としては、例えば、金属、ガラスやPTFE、ポリエステル、ポリアミドなどの熱可塑性樹脂からなる繊維、ポリウレタンなどの熱硬化性樹脂からなる基布、不織布、またはシート、さらに熱硬化型のCFRPのシートやテープなどが挙げられ、2種類以上の材料を組み合わせて用いることもできる。また、このような他の材料は積層体内のいずれの層に配置されていてもよく、積層体の上端および/または下端に積層されていてもよい。
【0098】
また、あらかじめ熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料に光沢系の金属粉、鉱物、岩石、砂類が混合されていてもよい。
【0099】
なお、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料を積層させて用いる場合、炭素繊維の配向状態を考慮して、炭素繊維の配向方向が90°交差するように熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料が積層されることが好ましい。このように炭素繊維の配向方向を調整することで、成形体の物性を向上させることができる。
【0100】
また、積層体のそれぞれの層は、単一の略シート状の熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料で構成されていてもよいし、複数の熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料の組み合わせによって構成されていてもよい。例えば、複数の帯状の熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料を幅方向に並べて一つの層を形成したり、複数の帯状の熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料を格子状に組み合わせて層を形成したりすることも可能である。とくに、複数の帯状の熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料が幅方向に並べられてなる層を、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料の配列方向を90°交差させつつ積層することが好ましい。このような構成を採用することで、より広い面積を確保しつつ、上下に厚くすることができる。
【0101】
また、炭素繊維の織物や炭素繊維のUDテープを挟むことで物性を向上させることも可能である。
【0102】
さらに、事前に加熱された上下の平板の金型で挟み、0.2MPa~100MPaの圧力をかけることで、一枚で厚物の広幅長尺をシート化することもできる。
【実施例】
【0103】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0104】
なお、各実施例および比較例において、使用した材料および破壊強度の測定方法は以下の通りである
本発明において、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(b)ポリエーテルイミド樹脂およびポリエーテルスルホン樹脂から選ばれる少なくとも1種の非晶性樹脂、および(c)エポキシ基、アミノ基およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の基を有する化合物を溶融混練して得られる(A)樹脂組成物ペレットは、国際公開第2007/108384号に記載の方法で得た。
【0105】
(1)使用した材料
(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂
a1:PPS 溶融粘度(310℃、剪断速度1000/sの条件下):85Pa・s
a2:PPS 溶融粘度(310℃、剪断速度1000/sの条件下):120Pa・s
a3:PPS 溶融粘度(310℃、剪断速度1000/sの条件下):190Pa・s
a4:PPS 溶融粘度(310℃、剪断速度1000/sの条件下):290Pa・s。
【0106】
(b)非晶性樹脂
b1:ポリエーテルイミド (PEI):“ウルテム” 1010 SABIC社製
b2:PES(ポリエーテルスルホン樹脂):“スミカエクセル” 3600G 住友化学工業社製
(c)エポキシ基、アミノ基およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の基を有する化合物
c1:2,6-トリレンジイソシアネート
c2:イソシアネートプロピルトリエトキシシラン
c3:ノボラックフェノールエポキシ
c4:2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン
c5:γーアミノプロピルトリエトキシシラン。
【0107】
(d)ポリフェニレンスルフィド樹脂
d1:PPS 溶融粘度(310℃、剪断速度1000/sの条件下):310Pa・s
d2:PPS 溶融粘度(310℃、剪断速度1000/sの条件下):450Pa・s
d3:PPS 溶融粘度(310℃、剪断速度1000/sの条件下):520Pa・s
d4:PPS 溶融粘度(310℃、剪断速度1000/sの条件下):910Pa・s。
【0108】
(e)ポリフェニレンスルフィド樹脂
e1:PPS 溶融粘度(310℃、剪断速度1000/sの条件下):32Pa・s
e2:PPS 溶融粘度(310℃、剪断速度1000/sの条件下):55Pa・s
e3:PPS 溶融粘度(310℃、剪断速度1000/sの条件下):85Pa・s
e4:PPS 溶融粘度(310℃、剪断速度1000/sの条件下):148Pa・s。
【0109】
(f)炭素繊維ロービング/フィラメント
f1:繊維径7μm、番手200tex、巻き長30,000mの炭素繊維フィラメントを準備する。このフィラメントを5本合糸し、ポリウレタンの収束剤を2重量%付与して、平坦な帯状の炭素繊維ロービングf1を用意した。
【0110】
(g)芯鞘構造ペレット
g1:鞘成分がe1のPPS樹脂、芯成分がf1の炭素繊維ロービング/フィラメントからなる炭素繊維の繊維長6mmのペレット
g2:鞘成分がe2のPPS樹脂、芯成分がf1の炭素繊維ロービング/フィラメントからなる炭素繊維の繊維長5mmのペレット
g3:鞘成分がe3のPPS樹脂、芯成分がf1の炭素繊維ロービング/フィラメントからなる炭素繊維の繊維長5mmのペレット
g4:鞘成分がe4のPPS樹脂、芯成分がf1の炭素繊維ロービング/フィラメントからなる炭素繊維の繊維長5mmのペレット。
【0111】
(2)(g)芯鞘構造ペレット、および(h)炭素繊維分散ペレットの製造方法
炭素繊維からなる芯がPPS樹脂によって覆われた芯鞘構造を有する(g)芯鞘構造ペレットの製造方法は、樹脂含浸用ロールを備えた含浸ダイを設置し、押出機で溶融されたPPS樹脂を含浸ダイの樹脂槽内に溜めておき、次に開繊されたロービング状の炭素繊維を含浸ダイのPPS樹脂槽内に導入し、炭素繊維ロービングの表面をPPS樹脂で被覆しつつ、含浸ローラーで炭素繊維ロービングを挟むことによりPPS樹脂を炭素繊維ロービングに含浸させる方法が挙げられる。この際、炭素繊維ロービングの搬送は、PPS樹脂槽の下流に位置するフィードローラが炭素繊維ロービングを引っ張ることにより行なう。下流に搬送された炭素繊維ロービングは、ダイによって樹脂量が調整され断面形状が整えられた後に、カッターを有する切断装置に送り込む。そして、このPPS樹脂に覆われた炭素繊維ロービングを切断装置のカッターによって切断することにより、鞘成分がPPS樹脂、芯成分が炭素繊維からなる芯鞘構造を有するペレット(g)が得られる。
【0112】
(h)炭素繊維分散ペレットの製造方法としては、次の方法が挙げられる。2軸の押出機にPPS樹脂を投入したのち、押出機途中で溶融した樹脂の中に、連続した炭素繊維のロービング糸またはカットした炭素繊維を投入して混練し、口金から押し出されたガットを水中で冷却したのち、カッターを有する裁断装置によって切断することで、炭素繊維が分散された(h)炭素繊維分散ペレットが得られる。
【0113】
(3)炭素繊維の繊維長の測定方法
熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料中における炭素繊維の平均繊維長は、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料を500℃で1時間焼成し、得られた灰分を水分散させた後、濾過を行い、その残渣を光学顕微鏡にて観察し、1,000本について測定した繊維長から換算することができる。具体的には、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料のペレットを10g程度ルツボに入れ、電気コンロにて可燃性ガスが発生しなくなるまで蒸し焼きにした後、500℃に設定した電気炉内でさらに1時間焼成することにより炭素繊維の残渣のみを得る。その残渣を光学顕微鏡にて50~100倍に拡大した画像を観察し、無作為に選んだ1,000本の長さを測定し、その測定値から平均繊維長(Ln)を算出する。
平均繊維長(Ln)=Σ(Li×ni)/Σni
Li:炭素繊維の繊維長
ni:繊維長Liの炭素繊維の本数
(4)PPS樹脂の溶融粘度測定
PPS樹脂の溶融粘度は、キャピラリーレオメーターを用い、内径(D)1mm、長さ(L)60mm、L/D=60のダイスを使用し、温度310℃、剪断速度1000/sの条件下、JIS K7199:1999試験法に準拠して求めた。
【0114】
(5)数平均粒子径
(A)樹脂組成物ペレット中および熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料中における、(b)ポリエーテルイミド樹脂およびポリエーテルスルホン樹脂から選ばれる少なくとも1種の非晶性樹脂の数平均粒子径は、(a)PPS樹脂の融解ピーク温度+20℃の成形温度でASTM4号試験片を成形し、その中心部から-20℃にて0.1μm以下の薄片をダンベル片の断面積方向に切削し、日立製作所製H-7100型透過型電子顕微鏡(分解能(粒子像)0.38nm、倍率50~60万倍)にて、1万~2万倍に拡大して観察した際の(b)ポリエーテルイミド樹脂およびポリエーテルスルホン樹脂から選ばれる少なくとも1種の非晶性樹脂からなる島相のうちの任意の100個について、それぞれの最大径と最小径を測定して平均値をその島相の分散粒子径とし、その後それぞれの島相の分散粒子径から平均値を求めたものである。
【0115】
(6)熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料からなる成形品の評価(目視評価)
特開2013-221114号公報に記載されている方法で、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料からなるシートを作製した。
【0116】
シートでは、A:良好(割れ0個/m2)、B:可(割れ1~3個/m2)、C:不可(割れ4個以上/m2)と評価した。
【0117】
特開2000-313052号公報に記載されている方法で、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料からなるブロックを作製した。
【0118】
ブロックでは、A:良好(割れ1個以下/1000cm3)、B:可(割れ1~3個/1000cm3)、C:不可(割れ4個以上/1000cm3)と評価した。
【0119】
それぞれAとBは製品化できる。Cは不可で製品化できない。
【0120】
[実施例1~4、7、8]
表1に示す(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂と(b)ポリエーテルイミド樹脂およびポリエーテルスルホン樹脂から選ばれる少なくとも1種の非晶性樹脂、(c)エポキシ基、アミノ基およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の基を有する化合物をそれぞれ表1に示す割合でドライブレンドした後、真空ベントを具備した日本製鋼所社製TEX30α型二軸押出機(L/D=45.5、ニーディング部5箇所)を用い、スクリュー回転数300rpmにて、ダイス出樹脂温度が330℃となるようにシリンダー温度を設定して溶融混練し、ストランドカッターによりカッティングして(A)樹脂組成物ペレットを得た。実施例8では(A)樹脂組成物ペレットの製造工程において、水を(a)成分と(b)成分との合計100重量部に対して0.03部添加した。
図6に(A)樹脂組成物ペレットの模式的な図を示す。
【0121】
さらに、(e)ポリフェニレンスルフィド樹脂と(f)炭素繊維を用いて
図4に示すような(C)(g)芯鞘構造ペレットを作製した。そして(C)(g)芯鞘構造ペレットと(B)(d)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(A)樹脂組成物ペレットを表1に示す割合でドライブレンドした後、真空ベントを具備した日本製鋼所社製TEX30α型二軸押出機(L/D=45.5、ニーディング部5箇所)を用い、スクリュー回転数300rpmにて、ダイス出樹脂温度が330℃となるようにシリンダー温度を設定して溶融混練し、ストランドカッターによりカッティングして熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料ペレットを得た。
図7に熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料ペレットの模式的な拡大断面図を示す。
【0122】
この熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料ペレットを用いて、
図2にあるような炭素繊維複合材料の成形品であるブロック70を特開2000-313052号公報に記載されている固化押出成形製法およびその製造装置の方法で得た。シートは押出機にてダイスを用いて成形する前記載の特開2013-221114号公報に記載されるシート製造方法で得た。得られた炭素繊維複合材料の成形品はブロックもシートも評価はAと良好であった。
【0123】
[実施例5、6]
(C)(g)芯鞘構造ペレット、(B)(d)ポリフェニレンスルフィド樹脂、および(A)樹脂組成物ペレットに対し、さらに、炭素繊維ロービングf1を表1に示す割合でドライブレンドした後、真空ベントを具備した日本製鋼所社製TEX30α型二軸押出機(L/D=45.5、ニーディング部5箇所)を用い、スクリュー回転数300rpmにて、ダイス出樹脂温度が330℃となるようにシリンダー温度を設定して溶融混練し、ストランドカッターにより熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料ペレットを得た。
【0124】
この熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料ペレットを用いて、成形品であるシートとブロックを、押出機にてダイスを用いて成形する前記方法で得た。実施例5で得られた熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料の成形品70はシートもブロックも評価はAと良好であった。実施例6で得られた熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料の成形品70はシートもブロックも評価はBと可であった。
【0125】
[実施例9、10]
炭素繊維f1および(e)ポリフェニレンスルフィド樹脂を表1に示す割合で真空ベントを具備した日本製鋼所社製TEX30α型二軸押出機(L/D=45.5、ニーディング部5箇所)を用い、スクリュー回転数300rpmにて、ダイス出樹脂温度が330℃となるようにシリンダー温度を設定して溶融混練し、ストランドカッターによりカッティングして、
図5に示すような(C)(h)炭素繊維分散ペレットを得た。そして(C)(h)炭素繊維分散ペレットと(B)(d)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(A)樹脂組成物ペレットを表1に示す重量の割合でドライブレンドした後、真空ベントを具備した日本製鋼所社製TEX30α型二軸押出機(L/D=45.5、ニーディング部5箇所)を用い、スクリュー回転数300rpmにて、ダイス出樹脂温度が330℃となるようにシリンダー温度を設定して溶融混練し、ストランドカッターにより熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料ペレットを得た。
【0126】
この熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料ペレットを用いて、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料の成形品70であるシートとブロックを前記記載のような押出機にてダイスを用いて成形する方法で得た。
【0127】
実施例9では、(A)熱可塑性樹脂ペレットを得る際に水を(a)成分と(b)成分との合計100重量部に対して0.05部添加した。
【0128】
実施例9で得られた熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料の成形品70はシートもブロックも評価はAと良好であった。実施例10で得られた熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料の成形品70のシートは評価はAと良好で、ブロックの評価はBと可であった。
【0129】
[比較例1~3]
実施例1~10に対して、表1に示すように(A)熱可塑性樹脂ペレットに(b)ポリエーテルイミド樹脂およびポリエーテルスルホン樹脂から選ばれる少なくとも1種の非晶性樹脂および(c))エポキシ基、アミノ基およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の基を有する化合物を添加しないと、炭素繊維複合材料の成形品70のシートもブロックも割れが多く評価は不可のCであった。ブロックの割れ101を
図3に示す。
【0130】
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明により得られる熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料、及びそれを用いてなる成形品は、耐熱性、バリア性、耐薬品性、電気絶縁性、耐湿熱性などエンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有しており、炭素繊維を含有することで、強度の高い押出成形用を中心として各種電気・電子部品、機械部品および自動車部品などに利用できる。
【符号の説明】
【0132】
1 熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料
2 海相
3 炭素繊維
5 熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料からなるペレット
10 (a)ポリフェニレンスルフィド樹脂
20 (b)ポリエーテルイミド樹脂およびポリエーテルスルホン樹脂から選ばれる少なくとも1種の非晶性樹脂を主成分とする島相
30 (c)エポキシ基、アミノ基およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の基を有する化合物
40 (d)ポリフェニレンスルフィド樹脂
50 (e)ポリフェニレンスルフィド樹脂
60 (f)炭素繊維
70 本発明の熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料の成形品
80 (g)芯鞘構造ペレット
85 (A)熱可塑性樹脂組成物ペレット
87 (h)炭素繊維分散ペレット
95 炭素繊維
101 従来の炭素繊維複合材料の成形品
102 クラック