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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】ワンウェイクラッチ
(51)【国際特許分類】
   F16D 43/06 20060101AFI20220628BHJP
   F16D 41/067 20060101ALI20220628BHJP
   F16D 41/02 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
F16D43/06
F16D41/067
F16D41/02 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018064639
(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公開番号】P2019173921
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-01-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000102784
【氏名又は名称】NSKワーナー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002435
【氏名又は名称】特許業務法人井上国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077919
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 義雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153899
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100172638
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 隆治
(74)【代理人】
【識別番号】100159363
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 淳子
(72)【発明者】
【氏名】岩野 彰
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】実開平2-84026(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 41/00-47/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、
前記外輪の内径側に前記外輪と相対回転可能に配置された内輪と、
前記外輪と前記内輪との間に配置され、前記外輪と前記内輪とに係合することにより前記外輪と前記内輪との間で一方向へトルクを伝達し、前記外輪と前記内輪とに非係合になり前記外輪と前記内輪との前記相対回転を可能とる複数のトルク伝達部材とを備え、
前記外輪は、
外部からの回転を入力する外径側の第1の環状部と、
前記第1の環状部からの回転を受けて回転可能な内径側の第2の環状部とからなり、
前記外部からの回転が所定値以内の時に前記第1の環状部と前記第2の環状部とを連結して一体回転可能とし、前記所定値を超えた時に前記連結を解除し、前記第1の環状部と前記第2の環状部との相対回転を可能とする連結機構を備え
前記連結機構は、
前記第1の環状部の軸方向一方側に配置され、前記第1の環状部と軸方向に対向し、前記第2の環状部に軸方向移動可能に設けられた環状の移動部材と、
前記移動部材を軸方向他方側へ付勢する弾性部材とを有し、
前記弾性部材によって付勢された前記移動部材が前記第1の環状部と係合することにより前記第1の環状部と前記第2の環状部とが連結されて一体回転可能になることを特徴とするワンウェイクラッチ。
【請求項2】
前記第2の環状部と前記移動部材とは軸方向に対向する対向部をそれぞれ有し、
前記対向部間の間隔は径方向外方に向かって狭くなり、
前記連結機構はさらに、
前記第2の環状部の対向部に周方向所定間隔に形成され、径方向に延在する複数の溝と、
前記複数の溝にそれぞれ前記移動部材と接触状態で配置された複数のボールとを有し、
前記複数のボールが前記第2の環状部とともに回転することによる遠心力によって前記溝を移動することにより、前記移動部材を軸方向一方側へ移動させて前記第1の環状部と前記第2の環状部との前記連結を解除することを特徴とする請求項に記載のワンウェイクラッチ。
【請求項3】
前記移動部材は、径方向外方に向かうに従い前記第1の環状部に近づく方向に傾斜する傾斜部を有し、
前記複数のボールは、前記傾斜部に沿って前記溝を移動することを特徴とする請求項に記載のワンウェイクラッチ。
【請求項4】
前記複数のボールは、前記外部からの回転が前記所定値を超えると前記溝を移動することを特徴とする請求項またはに記載のワンウェイクラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両や産業用機械においてトルクの伝達、バックストップ等のために用いられるワンウェイクラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関であるエンジンと電動モータ(以降、それぞれ単に「エンジン」と「モータ」と称する。)とを併用した駆動装置を有するハイブリッド車両においては、駆動関連装置にオイルを潤滑させるためのオイルポンプの動力源として、エンジンおよびモータの双方を用いている。特許文献1および2には、これら2系統の動力源のそれぞれから入力される駆動力を、オイルポンプの駆動軸に連結された出力部材に選択的に伝達するクラッチ装置が記載されている。
【0003】
このようなクラッチ装置は、2つのワンウェイクラッチが同軸上に軸方向に並べて配置され、2つのワンウェイクラッチはそれぞれエンジン側またはモータ側の駆動部材によって外輪が駆動され、それぞれの外輪の回転が2つのワンウェイクラッチの共通の出力部材である内輪に伝達される構成になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-67238号公報
【文献】特開2012-67862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、ハイブリッド車両において、駆動装置であるモータの高回転化、高出力化が求められている。しかし、従来のワンウェイクラッチに入力側動力源として高回転モータを適用した場合、ワンウェイクラッチに高回転モータの最大値での回転が入力されると、フリクション抵抗増加、焼き付き等の耐久性の問題が発生する。また、ワンウェイクラッチは安定したロック状態に至らず、すべりが発生してしまう虞がある。ワンウェイクラッチにすべりが発生すると、トルクの伝達が不安定になってしまう。一方、トルクの伝達を安定させるために、ワンウェイクラッチに入力される高回転モータからの入力回転数を制御するための制御装置をワンウェイクラッチとは別に設けると、ワンウェイクラッチを含む装置全体の大型化を招いてしまう。
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、大型化を招くことなく、動力源側の入力軸からワンウェイクラッチに入力される入力回転数を制御することができるワンウェイクラッチを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るワンウェイクラッチは、
外輪と、
前記外輪の内径側に前記外輪と相対回転可能に配置された内輪と、
前記外輪と前記内輪との間に配置され、前記外輪と前記内輪とに係合することにより前記外輪と前記内輪との間で一方向へトルクを伝達し、前記外輪と前記内輪とに非係合になり前記外輪と前記内輪との前記相対回転を可能とる複数のトルク伝達部材とを備え、
前記外輪は、
外部からの回転を入力する外径側の第1の環状部と、
前記第1の環状部からの回転を受けて回転可能な内径側の第2の環状部とからなり、
前記外部からの回転が所定値以内の時に前記第1の環状部と前記第2の環状部とを連結して一体回転可能とし、前記所定値を超えた時に前記連結を解除し、前記第1の環状部と前記第2の環状部との相対回転を可能とする連結機構を備え
前記連結機構は、
前記第1の環状部の軸方向一方側に配置され、前記第1の環状部と軸方向に対向し、前記第2の環状部に軸方向移動可能に設けられた環状の移動部材と、
前記移動部材を軸方向他方側へ付勢する弾性部材とを有し、
前記弾性部材によって付勢された前記移動部材が前記第1の環状部と係合することにより前記第1の環状部と前記第2の環状部とが連結されて一体回転可能になることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、大型化を招くことなく、動力源側の入力軸からワンウェイクラッチに入力される入力回転数を制御することができるワンウェイクラッチを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態に係るワンウェイクラッチの中心軸線に沿った断面図であり、外輪の第1環状部と第2環状部とが連結している状態を示している。
図2図2は、図1におけるX-Xに沿った断面図である。
図3図3は、図1におけるスライド板、皿ばね、プレートを除いた状態のワンウェイクラッチを軸方向一方側から見た外観図である。
図4図4は、外輪の第2環状部の中心軸線に沿った断面図である。
図5図5は、実施形態に係るワンウェイクラッチの中心軸線に沿った断面図であり、外輪の第1環状部と第2環状部との連結が解除された状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一の実施形態に係るワンウェイクラッチについて、図面を参照しつつ説明する。本実施形態は、エンジンとモータとを併用した駆動装置を有するハイブリッド車両において、エンジンまたはモータの駆動力を、駆動関連装置にオイルを潤滑させるためのオイルポンプの駆動軸に伝達するためのワンウェイクラッチの例である。なお、エンジン、モータ、およびオイルポンプの図示は省略している。
【0011】
まず、本実施形態におけるワンウェイクラッチの方向について定義する。本実施形態において、「中心軸線」とはワンウェイクラッチの中心軸線のことをいい、軸方向、径方向、周方向とは、中心軸線に関する軸方向、径方向、周方向のことをいう。軸方向について、図1図4および図5においては紙面右方側を軸方向一方側とし、紙面左方側を軸方向他方側とし、図2および図3においては紙面手前側を軸方向一方側とし、紙面奥側を軸方向他方側とする。周方向について、図2および図3において、紙面に向かって右側に回転する方向を周方向一方側に向かう方向あるいは時計方向とし、紙面に向かって左側に回転する方向を周方向他方側に向かう方向あるいは反時計方向とする。
【0012】
図1は、実施形態に係るワンウェイクラッチの中心軸線に沿った断面図であり、外輪の第1環状部と第2環状部とが連結している状態を示している。図2図1におけるX-X断面を示し、図3図1におけるスライド板、皿ばね、プレートを除いた状態のワンウェイクラッチを軸方向一方側から見た外観図である。
【0013】
本実施形態に係るワンウェイクラッチ1は、外輪3と、外輪3に対して内径方向に離間し、外輪3と同軸に且つ相対回転可能に配置された内輪5とを備えている。外輪3の外周部にはスプライン7が形成されている。スプライン7は、入力軸9の内周部に形成されたスプライン11と嵌合している。入力軸9には、エンジンの出力軸の回転とモータの出力軸の回転との何れかが、図示しないギヤ機構を介して切り替えられて伝達される。したがって、ワンウェイクラッチ1には、入力軸9からエンジンの出力軸の回転とモータの出力軸の回転との何れかが入力されることとなる。
【0014】
外輪3は、外径側の第1環状部13と内径側の第2環状部15とから構成され、さらにワンウェイクラッチ1は第1環状部13と第2環状部15とを連結し、該連結を解除する連結機構を備えている。第1環状部13と第2環状部15とは同軸に且つ相対回転可能に配置されている。第1環状部13と第2環状部15とは連結機構によって連結されているとき、第1環状部13と第2環状部15とは一体に回転する。第1環状部13、第2環状部15、および連結機構の詳細な構成については後述する。なお、以降の説明において単に「外輪3」というときは、第1環状部13および第2環状部15の全体のことをいう。また、「外輪3の内周面」は「第2環状部15の内周面」である。
【0015】
ワンウェイクラッチ1は、外輪3の内周面と内輪5の外周面との間に介装されたトルク伝達部材である複数のローラ17と、ローラ17を外輪3と内輪5とが結合する方向に付勢するコイル状またはアコーデオン状のスプリング19と、ブロックベアリング21と、ローラ17とブロックベアリング21とを保持する樹脂製の保持器23とを備えている。
【0016】
内輪5の外周面には、ローラ17が係合するカム面25を備えたカム部27が複数形成されている。本実施形態においては、4つのカム部27が形成されている。これらのカム部27は周方向に所定間隔で形成されている。カム部27は、内輪5の外周面が径方向内方に窪んだ凹部として形成されている。カム部27のカム面25は、凹部の周方向一方端から周方向他方端へ向かうに従い外輪3の内周面との径方向間隔が大きくなる方向に傾斜した傾斜面である。カム面25の周方向両端は、内輪5の外周面と滑らかに連続している。また、内輪5の外周面には、周方向所定間隔で複数(本実施形態においては4つ)の軸方向溝29が形成されている。
【0017】
ローラ17は円柱状の部材である。ローラ17は、ローラ17自体の軸方向が外輪3および内輪5の軸方向と平行となる向きに配置されている。ローラ17はカム部27のカム面25を摺動または転動する。
【0018】
ブロックベアリング21は、径方向上下端部から径方向中央部に向かって周方向寸法が徐々に小さくなり、周方向両側の面の中央部がくびれている。ブロックベアリング21は、周方向に略等間隔に複数(本実施形態においては4つ)配置されており、外輪3と内輪5との径方向間隔を保ち、外輪3と内輪5とを同心に保持している。
【0019】
保持器23は、図1および図2に示すように、ローラ17の軸方向一方側に配置された第1環状部31と、ローラ17の軸方向他方側に配置された第2環状部33と、第1環状部31と第2環状部33とを軸方向に連結する複数の第1柱部35と複数の第2柱部37とによって構成されている。第1柱部35と第2柱部37とは、周方向一方側から周方向他方側に向かってこの順番で1組をなし、且つ交互に保持器23の全周に亘って複数組(本実施形態においては4組)が設けてある。
【0020】
図1に示すように、保持器23の第1環状部31の内径側縁部には、径方向内方に突出するフランジ39が形成され、フランジ39の軸方向他方側の面は、内輪5の軸方向一方側の端面に接触している。保持器23の第2環状部33の内径側縁部には、径方向内方に突出するフランジ41が形成され、フランジ41の軸方向一方側の面は、内輪5の軸方向他方側の端面に接触している。保持器23の第2環状部33の外径側縁部には、径方向外方に突出するフランジ43が形成され、フランジ43の軸方向一方側の面は、外輪3の第2の環状部15の軸方向他方側端面に接触している。このような構成により、保持器23は軸方向の移動が規制されている。
【0021】
保持器23の第1柱部35の内周部には、径方向内方へ突出し、軸方向に延在する突出部45が形成されている。突出部45は内輪5の外周面に形成された軸方向溝29に係合している。この係合により、保持器23は内輪5との相対回転が規制され、内輪5と一体に回転する。
【0022】
保持器23の第1柱部35の周方向他方側の面は、ブロックベアリング21の周方向一方側の面のくぼみ形状に対応した曲面に形成され、ブロックベアリング21の周方向一方側の面と全面が接触している。保持器23の第2柱部37の周方向一方側の面は、ブロックベアリング21の周方向他方側の面のくぼみ形状に対応した曲面に形成され、ブロックベアリング21の周方向他方側の面と全面が接触している。この構成により、ブロックベアリング21は第1柱部35と第2柱部37とによって周方向移動が規制されると共に、径方向外方へのがたつきも抑制されている。
【0023】
保持器23の第1柱部35の周方向一方側の面と第2柱部37の周方向他方側の面とは所定の間隔を介して周方向に対向している。第1柱部35の周方向一方側の面と第2柱部37の周方向他方側の面とによって形成される空間38内に1つのローラ17が配置されている。第1柱部35の周方向一方側の面には凹部47が形成され、凹部47には、ローラ17をカム面25との係合方向すなわち周方向一方側に付勢するためのスプリング19が配置されている。
【0024】
内輪5の中央部にはシャフトホール49が形成され、シャフトホール49には出力軸51がセレーション嵌合している。出力軸51は、図示しないオイルポンプの駆動軸に連結されている。したがってワンウェイクラッチ1は、入力軸9から外輪3に入力されたエンジンまたはモータの出力軸の回転をトルク伝達部材であるローラ17を介して内輪5に伝達し、内輪5に嵌合された出力軸51の回転として出力している。
【0025】
本実施形態のワンウェイクラッチ1は、外輪3が時計方向へ回転すると、ローラ17が内輪5のカム面25と外輪3の内周面とに係合し、外輪3と内輪5とが一体に回転し、外輪3から内輪5へ回転が伝達される。一方、外輪3が反時計方向へ回転すると、ローラ17は内輪5のカム面25に係合せず、外輪3は内輪5に対して空転する。この状態においては、外輪3から内輪5へ回転は伝達されない。
【0026】
次に、ワンウェイクラッチ1の外輪3および外輪3の連結機構について説明する。
本実施形態のワンウェイクラッチ1の外輪3は、上述したように外径側の第1環状部13と、内径側の第2環状部15とから構成されている。第1環状部13の外周部にはスプライン7が形成されている。第1環状部13のスプライン7は入力軸9のスプライン11と軸方向移動可能に嵌合している。したがって、第1環状部13は入力軸9に対して軸方向移動が可能であり、同時に第2環状部15に対しても軸方向移動が可能となっている。
【0027】
図4は外輪の第2環状部15の中心軸線に沿った断面図である。
図4に示すように、外輪3の第2環状部15は、筒状の本体部55と、本体部55の軸方向一方側端部から軸方向一方側に延在し、本体部55よりも小径の軸方向延在部57と、本体部55の軸方向他方側端部から径方向外方に延在するフランジ部59とから構成されている。本体部55と軸方向延在部57とフランジ部59とは一体に形成されている。
【0028】
第2環状部15は、本体部55の外周面が第1環状部13の内周面と対向し、本体部55の内周面がローラ17の転動面または係合面となっている。第2環状部15のフランジ部59は、第1環状部13の軸方向他方側に位置しており、第1環状部13の軸方向他方側の面と対向している。第2環状部15の本体部55の外径は、第1環状部13の内径とほぼ同じ大きさに形成されている。第1環状部13と第2環状部15とが相対回転する際、第1環状部13の内周面と第2環状部15の本体部55の外周面とは潤滑油を介して滑らかに摺動する。本体部55の外周面は、第1環状部13の内周面よりも軸方向寸法が大きく形成されている。
【0029】
第2環状部15の本体部55は、軸方向一方側端部の外径側部分に、本体部55の軸方向一方側端面および本体部55の外周面に開口する溝61が複数形成されている。本実施形態においては、図3に示すように、8つの溝61が周方向に等間隔に設けられている。各溝61は、本体部55の外周面から径方向内方に延在する径方向底面63と、本体部55の軸方向一方側端面の外径側の縁と内径側の縁との中間部から軸方向他方側に延在する軸方向底面65とを有している。径方向底面63は軸方向底面65よりも長い。したがって溝61は径方向に延在している。径方向底面63と軸方向底面65とは滑らかに連続している。
【0030】
各溝61には鋼製のボール67が1つ配置されている。ボール67は溝61の径方向底面63を転動または摺動する。なお以降の説明においては、溝61の開口について、本体部55の軸方向一方側端面への開口を「溝61の軸方向側の開口」といい、本体部55の外周面への開口を「溝61の外径側の開口」という。
【0031】
第2環状部15の本体部55の軸方向一方側端部は、複数の溝61よりも内径側の部分が、溝61の軸方向側の開口よりも軸方向一方側に突出する円筒部69となっている。円筒部69の外径は本体部55の外径よりも小さい。円筒部69の軸方向一方側の端部には、軸方向一方側に突出する複数の突出部71が周方向等間隔に形成されている。本実施形態においては、図3に示すように、8つの突出部71が形成されている。なお、図1図4および図5においては、最も上側と最も下側に現れる突出部71を図示し、他の突出部の図示を省略している。円筒部69と複数の突出部71とにより、第2環状部15の軸方向延在部57が構成されている。
【0032】
突出部71の外周面は円筒部69の外周面と同じ曲率であり、円筒部69の外周面と連続している。突出部71の内周面は円筒部69の内周面と同じ曲率であり、円筒部69の内周面と連続している。図3に示すように、突出部71は周方向に所定の長さ延在し、部分円筒形状をなしている。周方向に隣り合う突出部71間の円筒部69の端面の部分は、突出部71とほぼ同じ周方向長さを有している。各突出部71の軸方向一方側端部は、1つの環状部材73に固定され、環状部材73はワンウェイクラッチ1の周辺部材75に回転可能に取り付けられている。
【0033】
外輪3の第2環状部15には、外輪3の第1環状部13と第2環状部15とを連結し、該連結を解除する連結機構が設けられている。連結機構は、第2環状部15の本体部55の複数の溝61と、複数の溝61にそれぞれ配置されたボール67と、第2環状部15の軸方向延在部57上で、第1環状部13と第2環状部15の本体部55との軸方向一方側に配置された環状のスライド板77と、延在部57上で、スライド板77の軸方向一方側に配置された環状のプレート79と、スライド板77とプレート79との間に介装された皿ばね81と、第1環状部13の軸方向他方側において第1環状部13と対向している第2環状部15のフランジ部59とから構成されている。後述する構成により、皿ばね81はスライド板77を軸方向他方側に付勢する弾性力を常に発生している。
【0034】
ボール67は、溝61の幅よりも少し小さい直径を有している。このため、ボール67は溝61の幅方向両側の溝面に対するがたつきがなく、溝61の径方向底面63を径方向に滑らかに移動可能となっている。また、ボール67の直径は、溝61の径方向底面63の長さよりも少し小さく、且つ軸方向底面65の長さよりも大きく形成されている。したがってボール67は、図1図4に示すように、溝61の最も内径側に位置している状態、すなわち径方向底面63および軸方向底面65に接触している状態において、溝61の外径側の開口からは外方に突出しないが、溝61の軸方向側の開口からは一部が外方に突出している。
【0035】
環状のスライド板77は、第2環状部15の延在部57の軸方向他方側端部に配置されている。環状のスライド板77は、内径側の板状部83と、板状部83よりも外径側の厚肉部85と、板状部83と厚肉部85との間の径方向中間部87とからなる。板状部83、径方向中間部87、および厚肉部85は一体に形成され、それぞれの軸方向一方側の面は、径方向に延在する一つの連続した面を構成している。
【0036】
スライド板77の板状部83には周方向等間隔に複数(本実施形態においては8つ)の貫通孔(図示無し)が設けられている。複数の貫通孔にはそれぞれ第2環状部15の軸方向延在部57の突出部71が軸方向に相対移動可能に挿通されている。この構成により、スライド板77は、外輪3の第2環状部15に対して径方向移動は規制されるが、軸方向に移動可能となっている。ボール67が溝61の最も内径側に位置している状態(図1参照)において、板状部83の軸方向他方側の面は、第2環状部15の円筒部69およびボール67と軸方向に対向している。
【0037】
スライド板77の厚肉部85の軸方向他方側の面は、板状部83よりも軸方向他方側に位置し、外輪3の第1環状部13の軸方向一方側の面と対向している。厚肉部85の軸方向一方側の面の外径側縁部には、軸方向一方側に突出する鍔部89が形成されている。
【0038】
スライド板77の径方向中間部87は、軸方向他方側の面が、外径側に向かうに従い外輪3の第1環状部13に近づく方向に傾斜する傾斜面91となっている。傾斜面91は厚肉部85の内周部と連続している。ボール67が溝61の最も内径側に位置している状態において、傾斜面91は、内径側端部がボール67と接触し、内径側端部以外の部分がボール67と非接触状態でボール67の径方向外方に位置している
【0039】
環状のプレート79は、第2環状部15の軸方向延在部57の軸方向一方側端部に配置されている。プレート79は1枚の平らな部材である。プレート79の内径側部分には、周方向等間隔に複数(本実施形態においては8つ)の貫通孔(図示無し)が設けられ、複数の貫通孔にはそれぞれ延在部57の突出部71が嵌合されている。各突出部71の内径部には周方向溝93が設けられ、これらの周方向溝93には止め輪95が嵌合されている。プレート79は止め輪95の軸方向他方側の面に接触している。この構成により、プレート79は軸方向への移動が規制され、外輪3の第2環状部15に固定されている。
【0040】
皿ばね81は、スライド板77とプレート79との間に介装されている。皿ばね81は、弾性変形した状態で介装され、皿ばね81の内径側縁部がプレート79の内径側部分に接触し、皿ばね81の外径側縁部がスライド板77の鍔部89に係合している。この係合により、スライド板77は皿ばね81によって常時軸方向他方側に付勢されている。
【0041】
第2環状部15のフランジ部59は、第1環状部13の軸方向他方側の面と対向している。第1環状部13は、第2環状部15のフランジ部59とスライド板77の厚肉部85との間に配置されている。第1環状部13の軸方向一方側および軸方向他方側の面には、それぞれ摩擦材97が貼り付けられている。
【0042】
上述したように、スライド板77は皿ばね81の弾性力によって常に軸方向他方側に付勢されている。皿ばね81のこの付勢力によって、ボール67が溝61の最も内径側に位置している状態(図1参照)において、スライド板77の厚肉部85の軸方向他方側の面は、第1環状部13の軸方向一方側の面に押し付けられている。第1環状部13は、スライド板77が押し付けられることにより軸方向他方側に押され、第2環状部15のフランジ部59に押し付けられる。すなわち、第1環状部13は、スライド板77の厚肉部85と第2環状部15のフランジ部59とによって挟持される。そして、第1環状部13の軸方向両側の面の摩擦材97がそれぞれスライド板77の厚肉部85と第2環状部15のフランジ部59と摩擦係合することにより、第1環状部13と第2環状部15とが連結される。この状態において、第1環状部13と第2環状部15とは一体に回転する。
【0043】
次に、本実施形態のワンウェイクラッチ1の作動について説明する。
本実施形態のワンウェイクラッチ1は、エンジンまたはモータの出力軸に連結されている入力軸の単位時間当たりの回転数が所定の回転数を上回ると、それ以上の高回転での回転伝達がなされないように、外輪3から内輪5への回転の伝達が遮断される構成となっている。
【0044】
ワンウェイクラッチ1は、エンジンまたはモータが停止している状態においては、図1に示すように、ボール67は溝61の最も内径側に位置し、皿ばね81の付勢力によって、第1環状部13がスライド板77の厚肉部85と第2環状部15のフランジ部59とに挟持され、第1環状部13と第2環状部15とは連結されて一体となっている。この状態からエンジンまたはモータが始動し、エンジンまたはモータの出力軸の回転が入力軸9に伝達されると、入力軸9の回転は外輪3の第1環状部13に伝達される。外輪3の第1環状部13と第2環状部15とは一体となっているので、第2環状部15は第1環状部13の回転を受けて第1環状部13と一体に回転する。この状態において、入力軸9からワンウェイクラッチ1に入力されたエンジンまたはモータの出力軸の回転は、ローラ17を介して内輪5に伝達され、出力軸51の回転として出力される。
【0045】
第2環状部15が第1環状部13と一体に回転すると、第2環状部15の各溝61に配置されたボール67には遠心力が作用する。入力軸9の単位時間当たりの回転数が増加し、これに伴い第2環状部15の単位時間当たりの回転数が増加すると、各ボール67に作用する遠心力も増大する。
【0046】
入力軸9に伝達される回転がエンジンの出力軸から伝達される場合、あるいはモータの出力軸から伝達される場合であって、モータの回転数が低速回転域から車両の通常の走行状態に対応する回転域までの場合においては、全てのボール67に作用する遠心力が、スライド板77を軸方向他方に付勢している皿ばね81の付勢力を上回ることはない。したがって各ボール67は移動せず、第1環状部13と第2環状部15とは一体に回転し、入力軸9から出力軸51へ回転は伝達される。
【0047】
入力軸9に伝達される回転がモータの出力軸から伝達される場合であって、モータの回転数が高速回転域の場合、入力軸9の単位時間当たりの回転数が所定の回転数を上回る。すなわち、第1環状部13と連結された第2環状部15の単位時間当たりの回転数が所定の回転数を上回る。この状態においては、全てのボール67に作用する遠心力が、スライド板77を軸方向他方側に付勢している皿ばね81の付勢力を上回る。すると、ボール67は遠心力によって溝61の径方向底面63を転動し、溝61内を径方向外方に移動する。ボール67が径方向外方に移動すると、ボール67は溝61の外径側の開口から突出し、スライド板77の傾斜面91に接触する。ボール67は溝61の径方向底面63を径方向外方に転動するとともに、スライド板77の傾斜面91上を径方向外方に摺動する。
【0048】
ボール67がスライド板77の傾斜面91上を径方向外方に摺動すると、スライド板77は径方向の移動が規制されているので、図5に示すように、第2環状部15の軸方向延在部57に対して軸方向一方側に移動する。スライド板77が軸方向一方側に移動すると、スライド板77の厚肉部85と第1環状部13との係合が解除される。これと同時に、第2環状部15のフランジ部59と第1環状部13との係合も解除される。
【0049】
この状態において、第1環状部13と第2環状部15との連結は解除され、入力軸9と第1環状部13とは、第2環状部15に対して空転状態となる。したがって入力軸9から第1環状部13に入力される高速の回転は、内輪5に伝達されない。一方、第1環状部13と第2環状部15との連結が解除されても、第2環状部15は、連結が解除されるまでの回転の惰性により回転が継続される。したがって第2環状部15の回転はローラ17を介して内輪5に伝達され、出力軸51の回転として出力される。すなわちオイルポンプの駆動軸の駆動は継続される。
【0050】
その後、入力軸9に伝達される回転がエンジンの出力軸に切り替わり、あるいはモータの回転数が下がり、入力軸9の単位時間当たりの回転数が所定の回転数を下回ると、ボール67に作用する遠心力は皿ばね81の付勢力よりも小さくなる。すると、皿ばね81の付勢力によりスライド板77は軸方向他方側に移動し、ボール67はスライド板77の傾斜面91上を摺動しつつ溝61を径方向内方に移動する。そして、皿ばね81の付勢力によってスライド板77の厚肉部85が外輪3の第1環状部13と係合するとともに第2環状部15のフランジ部59も第1環状部13と係合する。この時、第1環状部13の軸方向両側の面には摩擦材97が貼り付けてあるので、スライド板77の厚肉部85と第2環状部15のフランジ部59とが第1環状部13と係合する際の衝撃を摩擦材97が和らげ、スムーズに係合する。その結果、第1環状部13と第2環状部15とは連結されて一体となり、入力軸9に伝達されたエンジンまたはモータの出力軸の回転は内輪5に伝達され、出力軸51の回転として出力される。
【0051】
このように、本実施形態のワンウェイクラッチ1は、入力軸9の単位時間当たりの回転数が所定の回転数以下の状態では、入力軸9に伝達されたエンジンまたはモータの出力軸の回転は外輪3から内輪5に伝達される一方、入力軸9の単位時間当たりの回転数が所定の回転数を上回ると外輪3から内輪5への回転の伝達を遮断する。このように、本実施形態によれば、ワンウェイクラッチ1とは別の制御装置を設けることなく、動力源側の入力軸9からワンウェイクラッチ1に入力される入力回転数を制御することができる。その結果、ワンウェイクラッチ1の大型化を抑制するとともに、入力側動力源として高回転モータを適用しても、安定したトルクの伝達を実現することができる。
【0052】
外輪3を構成する第1環状部13と第2環状部15とを連結し、連結を解除するための入力軸の単位時間当たりの回転数は、ワンウェイクラッチ1のローラ17の数、外輪3および内輪5の大きさ、モータの出力の大きさ等を総合的に考慮して設計される。
【0053】
なお、本実施形態に係るワンウェイクラッチ1は、上記実施形態に限定されず、変形が可能である。例えばローラ17の数は、必要なトルク容量に合わせて適宜調節が可能である。また、トルク伝達部材をローラ17に代えてスプラグとしても良いし、ラチェット機構を介してトルクを伝達しても良い。
【符号の説明】
【0054】
1 ワンウェイクラッチ
3 外輪
5 内輪
9 入力軸
13 第1環状部
15 第2環状部
17 ローラ
23 保持器
25 カム面
51 出力軸
55 本体部
57 延在部
59 フランジ部
61 溝
63 径方向底面
65 軸方向底面
67 ボール
69 円筒部
77 スライド板
79 プレート
81 皿ばね
91 傾斜面
97 摩擦材
図1
図2
図3
図4
図5