(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】電着塗装装置
(51)【国際特許分類】
C25D 13/22 20060101AFI20220628BHJP
C25D 13/00 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
C25D13/22 304A
C25D13/00 303Z
C25D13/00 304
(21)【出願番号】P 2018064708
(22)【出願日】2018-03-29
【審査請求日】2021-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】592061935
【氏名又は名称】アイシン辰栄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 賢司
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-145798(JP,A)
【文献】特開平01-246397(JP,A)
【文献】特開2008-024983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 13/22
C25D 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電着塗料が貯留された電着槽と、
前記電着槽の上方領域に延設された搬送路と、
前記搬送路の延設方向に沿って延設されるとともに、その延設方向に沿って分割された複数の通電片により構成される通電バーと、
ワークを保持した状態で前記搬送路に取り付けられ、前記搬送路の延設方向に移動しながら前記複数の通電片に順次接触するとともに、保持したワークを前記電着槽に入槽させるワーク保持ハンガーと、
ワークを識別するためのワーク識別部材を有し、前記ワーク識別部材により識別されるワークを保持する前記ワーク保持ハンガーの先頭位置にてダミーワークを保持した状態で前記搬送路に取り付けられ、前記搬送路の延設方向に移動しながら前記複数の通電片に順次接触するとともに、保持したダミーワークを前記電着槽に入槽させるワーク識別ハンガーと、
前記ワーク識別ハンガーに保持されたダミーワークが前記電着槽に入槽する前にそのワーク識別ハンガーに設けられた前記ワーク識別部材が通過したことを検知する検知手段と、
前記電着槽内に配設された対極と、
前記複数の通電片と前記対極との間に所定の直流電圧を印加する電圧印加装置と、
前記複数の通電片と前記電圧印加装置との間に設けられ、前記複数の通電片への電圧の印加状態を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記ワーク識別ハンガーに後続する前記ワーク保持ハンガーに保持されるワークが前記電着槽に入槽する際に、
前記ワーク識別部材により識別されるワークについて設定される通電時間に基づいて、前記複数の通電片のうち電圧の印加状態を変化させるべき通電片への電圧の印加状態を、前記ワーク識別ハンガーが接触している時点で変化させることにより、
前記複数の通電片への電圧の印加状態を制御する、電着塗装装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電着塗装装置において、
前記制御装置は、前記ワーク識別ハンガーに後続する前記ワーク保持ハンガーに保持されたワークについて設定される通電時間が、前記ワーク識別ハンガーの直前に位置する前記ワーク保持ハンガーに保持された直前ワークについて設定される通電時間よりも短い場合には、前記ワーク識別ハンガーに後続する前記ワーク保持ハンガーに保持されるワークが前記電着槽に入槽する際に、前記直前ワークについて設定される通電時間に基づいて電圧が印加されている前記通電片のうち、電圧の印加が不必要な前記通電片への電圧の印加を、前記ワーク識別ハンガーが接触している時点で停止することにより、入槽するワークについて設定される通電時間に基づいて前記複数の通電片への電圧の印加状態を制御する、電着塗装装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電着塗装装置において、
前記制御装置は、前記ワーク識別ハンガーに後続する前記ワーク保持ハンガーに保持されたワークについて設定される通電時間が、前記ワーク識別ハンガーの直前に位置する前記ワーク保持ハンガーに保持された直前ワークについて設定される通電時間よりも長い場合には、前記ワーク識別ハンガーに後続する前記ワーク保持ハンガーに保持されるワークが前記電着槽に入槽する際に、前記直前ワークについて設定される通電時間に基づいて電圧が印加されていない通電片のうち、電圧を印加すべき前記通電片への電圧の印加を、前記ワーク識別ハンガーの接触時点で開始することにより、入槽するワークについて設定される通電時間に基づいて前記複数の通電片への電圧の印加状態を制御する、電着塗装装置。
【請求項4】
請求項
1乃至3に記載の電着塗装装置において、
前記検知手段が前記ワーク識別部材の通過を検知した後に、前記電着槽に入槽するワークの個数をカウントするカウント手段を備え、
前記制御装置は、前記カウント手段がカウントするワークの個数がそのワークについて設定される通電時間に対応する個数として予め設定された目標カウント数に達する以前に前記ワーク識別ハンガーが接触する前記通電片に電圧が印加され、前記目標カウント数に達した後に前記ワーク識別ハンガーが接触する前記通電片への電圧の印加が停止されるように、前記複数の通電片への電圧の印加状態を制御する、電着塗装装置。
【請求項5】
請求項
1乃至4のいずれか1項に記載の電着塗装装置において、
前記通電片は、隣接する前記通電片に対面する対向辺を有し、
前記対向辺は、隣接する前記通電片の前記対向辺に前記ワーク保持ハンガーの移動方向に垂直な方向において重複するように、前記移動方向に対して傾斜している、電着塗装装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電着塗装装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電着槽内に貯留された電着塗料中に被塗物としてのワークと対極とを浸漬させ、両者間に直流電圧を印加することによりワークを塗装する電着塗装は、複雑な形状表面を有するワークに対しても一様に塗膜を形成することができるので、多種多様な産業分野において利用されている。
【0003】
電着塗装を効率的に実行するために、一つの電着槽内に材質や形状が異なるワークを入槽させて、一つの電着槽を用いて塗膜条件の異なる複数種類のワークに電着塗装することもなされている。この場合、各種ワークそれぞれの塗膜厚や材質に応じて、すなわちワークに応じてワークに電圧を印加する時間(通電時間)を設定する必要がある。ワークに応じて通電時間を設定する場合、一般的には、ワークが切り替えられるタイミングで通電時間を変更する。この場合、一旦電着槽内をワークが保持されていない空ハンガーで満たし、その状態で通電時間を変更し、その後に変更した通電時間が適用される新たなワークを電着槽内に入槽させることになる。こうした通電時間の変更に伴う段取りは、空ハンガーを電着槽内に流すことによりなされるので、空ハンガーを流す分だけ時間の浪費が発生し、生産効率が悪化する。
【0004】
上記した生産効率の悪化を防止するために、様々な工夫が施された電着塗装装置が提案されている。例えば特許文献1は、通電時間が異なる複数種類のワークのそれぞれに対応する長さを持つ複数の通電バーを用意し、ワークに対応した通電バーを用いることで、一つの電着槽で通電時間の異なる複数種類のワークを電着塗装することができるような電着塗装装置を開示する。また、特許文献2は、入槽域に設置され常時通電される一段目通電バーと、全没域及び出槽域に設置される二段目通電バーを備える電着塗装装置を開示する。二段目通電バーは、複数の通電領域に分割構成され、分割された各通電領域ではそれぞれ独立して電圧の印加及び停止が制御される。そして、入槽されるワークについて予め設定される通電パターンに応じて、二段目通電バーの複数の通電領域の電圧の印加及び停止が制御されることにより、それぞれのワークに応じた通電条件にて各ワークに電着塗装がなされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-185337号公報
【文献】特開2008-024983号公報
【発明の概要】
【0006】
(発明が解決しようとする課題)
特許文献1に記載の電着塗装装置によれば、長さの異なる複数の通電バーを高さ方向に沿って並列に設置することになるので、スペース的に不利である。また、既存設備を改造して特許文献1に記載の技術を利用しようとしても、高さ方向に制約がある場合には改造することができない。また、ワークを保持するワーク保持ハンガーに設けられて通電バーに電気的に接続する集電子に改良を施す必要があり、改良に要する費用が発生する。
【0007】
また、特許文献2に記載の電着塗装装置によれば、異なる電圧制御が必要な2本の通電バー(一段目通電バー及び二段目通電バー)のそれぞれに別の整流器を接続しなければならない。つまり、二台の整流器が必要となり、これにより設備コストが増加する。また、ワークが通過中の通電領域の電圧の印加状態を変化させるので、電圧の印加状態が変化する際に接点外れによってスパークが発生し、このスパークによってワークの塗膜品質に悪影響を及す。
【0008】
このように、従来においては、多品種のワークに対応した電着塗装を一つの電着槽で実施する場合、様々な不具合の発生が懸念される。そこで、本発明は、ワークの塗膜品質に悪影響を及ぼすことなく、且つさほどコストアップすることなく、複数種類のワークを一つの電着槽で電着塗装することができるような電着塗装装置を提供することを、目的とする。
【0009】
(課題を解決するための手段)
本発明に係る電着塗装装置は、電着塗料が貯留された電着槽(1)と、電着槽の上方領域に延設された搬送路(2)と、通電バー(5)と、ワーク保持ハンガー(3)と、ワーク識別ハンガー(4)と、電着槽内に配設された対極(6)と、電圧印加装置(7)と、制御装置(8)とを備える。
【0010】
通電バーは、搬送路の延設方向に沿って延設されるとともに、その延設方向に沿って分割された複数の通電片(51,521,531)により構成される。ワーク保持ハンガーは、ワークを保持した状態で搬送路に取り付けられ、搬送路の延設方向に移動しながら複数の通電片に順次接触するとともに、保持したワークを電着槽に入槽させる。ワーク識別ハンガーは、ワークを識別するためのワーク識別部材を有し、ワーク識別部材により識別されるワークを保持するワーク保持ハンガーの先頭位置にてダミーワークを保持した状態で搬送路に取り付けられ、搬送路の延設方向に移動しながら複数の通電片に順次接触するとともに、保持したダミーワークを電着槽に入槽させる。電圧印加装置は、複数の通電片と対極との間に所定の直流電圧を印加する。制御装置は、複数の通電片と電圧印加装置との間に設けられ、複数の通電片への電圧の印加状態を制御する。そして、制御装置は、ワーク識別ハンガーに後続するワーク保持ハンガーに保持されるワークが電着槽に入槽する際に、複数の通電片のうち電圧の印加状態を変化させるべき通電片への電圧の印加状態を、ワーク識別ハンガーが接触している時点で変化させることにより、入槽するワークについて設定される通電時間に基づいて複数の通電片への電圧の印加状態を制御する。
【0011】
本発明によれば、電着槽に入槽するワークが保持されるワーク保持ハンガーの先頭位置には、そのワークを識別するためのワーク識別部材が設けられたワーク識別ハンガーが位置する。そして、制御装置は、ワーク識別ハンガーに後続するワーク保持ハンガーに保持されたワークが電着槽に入槽する際に、入槽するワークについて設定される通電時間に基づいて、通電バーが備える複数の通電片への電圧の印加状態が制御される。このため、ワークの種類に応じて複数の通電片への電圧の印加状態を制御することができ、これにより、それぞれのワークに対して最適な通電時間で電着塗装を行うことができる。よって、複数種類のワークを一つの電着槽を用いて電着塗装することができる。
【0012】
また、ワーク識別ハンガーに後続するワーク保持ハンガーに保持されたワークの入槽時にそのワークに適切な通電時間を設定するために、複数の通電片への電圧の印加状態を変化させる必要が生じる場合がある。そのような場合、本発明では、入槽するワークの先頭に位置するワーク識別ハンガーが、電圧の印加状態を変化させるべき通電片に接触している時点で、その通電片についての電圧の印加状態が変化される。このため、その通電片についての電圧の印加状態が変化したときに接点外れによって発生するスパークが、その通電片に接しているワーク識別ハンガーに保持されたダミーワークに形成される塗膜に悪影響を及ぼすものの、そのワーク識別ハンガーに後続するワーク保持ハンガーに保持されているワークに形成される塗膜には影響を及ぼさない。このため、ワークの塗膜品質を維持することができる。
【0013】
このように、本発明によれば、ワークの塗膜品質に悪影響を及ぼすことなく複数種類のワークを一つの電着槽で電着塗装することができるような電着塗装装置を提供することができる。さらに、本発明によれば、通電バーを複数用いることなく電着塗装装置を構成することができるので、既存設備を改造することによって、さほどコストアップすることなく、複数種類のワークを一つの電着槽で電着塗装することができる。
【0014】
本発明において、制御装置は、ワーク識別ハンガーに後続するワーク保持ハンガーに保持されたワークについて設定される通電時間が、ワーク識別ハンガーの直前に位置するワーク保持ハンガーに保持された直前ワークについて設定される通電時間よりも短い場合には、ワーク識別ハンガーに後続するワーク保持ハンガーに保持されるワークが電着槽に入槽する際に、直前ワークについて設定される通電時間に基づいて電圧が印加されている通電片のうち、電圧の印加が不必要な通電片への電圧の印加を、ワーク識別ハンガーが接触している時点で停止することにより、入槽するワークについて設定される通電時間に基づいて複数の通電片への電圧の印加状態を制御するとよい。これによれば、新たに電着槽に入槽するワークの通電時間が現時点で電着槽に入槽している直前ワークの通電時間よりも短い場合、余分に通電されている通電片(電圧の印加が不必要な通電片)への電圧の印加が、その通電片にワーク識別ハンガーが接触している時点で停止される。これにより、ワーク識別ハンガーに後続するワーク保持ハンガーに保持されたワークに形成される塗膜品質を悪化させることなく、通電時間を適切に変更することができる。
【0015】
本発明において、制御装置は、ワーク識別ハンガーに後続するワーク保持ハンガーに保持されたワークについて設定される通電時間が、ワーク識別ハンガーの直前に位置するワーク保持ハンガーに保持された直前ワークについて設定される通電時間よりも長い場合には、ワーク識別ハンガーに後続するワーク保持ハンガーに保持されるワークが電着槽に入槽する際に、直前ワークについて設定される通電時間に基づいて電圧が印加されていない通電片のうち、電圧を印加すべき通電片への電圧の印加を、ワーク識別ハンガーの接触時点で開始することにより、入槽するワークについて設定される通電時間に基づいて複数の通電片への電圧の印加状態を制御するとよい。これによれば、新たに電着槽に入槽するワークの通電時間が現時点で電着槽に入槽している直前ワークの通電時間よりも長い場合、電圧が印加されていない通電片のうち電圧を印加すべき通電片に対し、その通電片にワーク識別ハンガーが接触している時点で電圧が印加される。これにより、ワーク識別ハンガーに後続するワーク保持ハンガーに保持されたワークに形成される塗膜品質を悪化させることなく、通電時間を適切に変更することができる。
【0016】
この場合、制御装置は、複数の通電片のうち、ワーク識別ハンガーに後続するワーク保持ハンガーに保持されたワークについて設定される通電時間に対応する通電区間内の通電片について電圧が印加され、通電区間外の通電片についての電圧の印加が停止されるように、複数の通電片への電圧の印加状態を制御するとよい。
【0018】
また、本発明に係る電着塗装装置は、検知手段がワーク識別部材の通過を検知した後に、電着槽に入槽するワークの個数をカウントするカウント手段(105)を備えるとよい。そして、制御装置は、カウント手段がカウントするワークの個数がそのワークについて設定される通電時間に対応する個数として予め設定された目標カウント数に達する以前にワーク識別ハンガーが接触する通電片に電圧が印加され、目標カウント数に達した後にワーク識別ハンガーが接触する通電片への電圧の印加が停止されるように、複数の通電片への電圧の印加状態を制御するとよい。カウント手段がカウントするワークの個数により通電時間を表すことができる。従って、カウント手段がカウントするワークの個数が目標カウント数に達したことを境に通電片への電圧の印加状態を切り替えることにより、新たに入槽するワークについての適切な通電時間の電着塗装をそのワークに施すことができる。
【0019】
また、通電片は、隣接する通電片に対面する対向辺(A1)を有するとよい。そして、対向辺(A1)は、隣接する通電片の対向辺(B1)にワーク保持ハンガーの移動方向に垂直な方向において重複するように、移動方向に対して傾斜しているとよい。これによれば、ワーク保持ハンガーが隣接する通電片の境界を通過するときに、隣接する通電片のどちらか一方に必ず接触する。このため、ワーク保持ハンガーが隣接する通電片の境界を移動中にいずれの通電片にも接触していないことによって、ワーク保持ハンガーへの電圧の印加が突然停止されて(或いはワーク保持ハンガーへの電圧の印加が突然開始されて)、スパークが発生し、それによりそのワーク保持ハンガーに保持されているワークの塗膜品質が悪化することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る電着塗装装置の概略図である。
【
図2】
図2は、ワーク保持ハンガーの概略斜視図である。
【
図3】
図3は、ワーク識別ハンガーの概略斜視図である。
【
図4】
図4は、
図1の搬送レール及び通電バーを示す図である。
【
図5】
図5は、隣接する通電片の境界部分を示す概略図である。
【
図6】
図6は、搬送レール、搬送レールに取り付けられたハンガー、及び通電バーを、上方から見た概略図である。
【
図7】
図7は、複数種類のワークにそれぞれ対応するワーク識別部材の概略平面図である。
【
図8】
図8は、複数種類のワークにそれぞれ対応するワーク識別部材を移動方向の下流側から見た概略側面図である。
【
図9】
図9は、ワーク識別部材とワーク識別ユニットの位置関係を、移動方向の下流側から見た概略図である。
【
図10】
図10は、ワーク識別ハンガーに設けられた各ワーク識別部材と各リミットスイッチとの位置関係を、移動方向の下流側から見た概略図である。
【
図11】
図11は、制御装置により実行される通電バーへの電圧の印加状態の切り替え制御の流れを示すフローチャートである。
【
図12A】
図12Aは、通電バーの電圧印加状態の切り替え制御が実行された場合における通電バーの電圧の印加状態の変化の一例を示す図である。
【
図12B】
図12Bは、
図12Aに続き、通電バーの電圧印加状態の切り替え制御が実行された場合における通電バーの電圧の印加状態の変化の一例を示す図である。
【
図12C】
図12Cは、
図12Bに続き、通電バーの電圧印加状態の切り替え制御が実行された場合における通電バーの電圧の印加状態の変化の一例を示す図である。
【
図12D】
図12Dは、
図12Cに続き、通電バーの電圧印加状態の切り替え制御が実行された場合における通電バーの電圧の印加状態の変化の一例を示す図である。
【
図13A】
図13Aは、通電バーの電圧印加状態の切り替え制御が実行された場合における通電バーの電圧の印加状態の変化の他の例を示す図である。
【
図13B】
図13Bは、
図13Aに続き、通電バーの電圧印加状態の切り替え制御が実行された場合における通電バーの電圧の印加状態の変化の他の例を示す図である。
【
図13C】
図13Cは、
図13Bに続き、通電バーの電圧印加状態の切り替え制御が実行された場合における通電バーの電圧の印加状態の変化の他の例を示す図である。
【
図13D】
図13Dは、
図13Cに続き、通電バーの電圧印加状態の切り替え制御が実行された場合における通電バーの電圧の印加状態の変化の他の例を示す図である。
【
図14A】
図14Aは、隣接する通電片にワーク保持ハンガーの接触銅板が接触しながら移動する状態を示す図である。
【
図14B】
図14Bは、移動方向に対して垂直な対向辺を有するように形成された隣接する通電片に、接触銅板が接触しながら移動する状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る電着塗装装置500の概略図である。
図1に示すように、本実施形態に係る電着塗装装置500は、電着槽1と、搬送装置2と、複数のワーク保持ハンガー3と、ワーク識別ハンガー4と、通電バー5と、複数の隔膜電極6(対極)と、整流器7と、制御装置8と、を備える。
【0022】
電着槽1は、電着塗料を貯留するための容器である。電着槽1には、上方に開口した凹部空間が形成され、この凹部空間内に電着塗料が貯留される。貯留される電着塗料はカチオンタイプの電着塗料でもよいし、アニオンタイプの電着塗料でもよい。本実施形態においては、カチオンタイプの電着塗料が用いられる。
【0023】
また、電着槽1は、
図1に示すように舟形形状を呈していて、
図1の左右方向に長く延びるように形成される。この電着槽1内の長手方向における一方端側(
図1では電着槽1の左方側)から被塗物が電着槽1に入槽し、他方端側(
図1では電着槽1の右方側)から被塗物が電着槽1から出漕する。電着槽1に入槽した被塗物は電着塗料に浸漬される。電着槽1のうち被塗物が入槽する側の端部を入槽域11と呼び、被塗物が出漕する側の端部を出漕域13と呼ぶ。また、入槽域11と出漕域13との間の部分を、全没域12と呼ぶ。全没域12では、被塗物が電着塗料に全没する。
【0024】
搬送装置2は、電着槽1の上方領域に電着槽1の長手方向に延設された搬送レール21と、図示しないモータ等の駆動手段とを有する。搬送レール21には、レールガイド及びチェーンコンベヤー等の移動手段が設けられており、駆動手段の駆動によって、この移動手段がレールガイドに沿って移動する。搬送レール21が本発明の搬送路に相当する。
【0025】
搬送レール21は、電着槽1の入槽域11の上方に設けられる第一レール部21aと、電着槽1の全没域12の上方に設けられる第二レール部21bと、電着槽1の出漕域13の上方に設けられる第三レール部21cとを有する。第一レール部21aは、電着槽1の入槽域11から全没域12に向かって降り傾斜するように延設される。第二レール部21bは、第一レール部21aの下流端(下方端)に接続されるとともに、電着槽1の長手方向に平行に延設される。第三レール部21cは、第二レール部21bの下流端(
図1の右端)に接続されるとともに、電着槽1の全没域12から出漕域13に向かって登り傾斜するように延設される。
【0026】
ワーク保持ハンガー3には、電着塗装装置500によって塗装される被塗物としての金属製のワークが保持される。本実施形態では、ワーク保持ハンガー3に形状又は材質の異なる複数種類のワークが保持される。
図1には、ワーク保持ハンガー3に保持される複数種類のワークとして、楕円形状の第一ワークW1及び長方形状の第二ワークW2が示される。これらのワークを総称して、ワークWと言う場合もある。なお、図に示されるワークWの形状、大きさ、吊り下げ位置等は、説明の便宜上示したものである。
【0027】
ワーク識別ハンガー4には、電着塗装装置500によって塗装される被塗物としての金属製のダミーワークDWが保持される。ここで言うダミーワークDWとは、ワークと同じように電着塗装装置500によって塗装されるが、製品ではない被塗物を言う。一方、ワークWとは、電着塗装装置500によって製品として塗装される被塗物を言う。ダミーワークDWは、繰り返し用いることができる。
【0028】
搬送レール21の移動手段に、ワークWを保持したワーク保持ハンガー3及びダミーワークDWを保持したワーク識別ハンガー4が電気絶縁された状態で吊り下げられる。搬送装置2の駆動装置が駆動すると、ワーク保持ハンガー3及びワーク識別ハンガー4が、搬送レール21に沿って搬送レール21の延設方向に移動する。
【0029】
ワーク保持ハンガー3の下端にぶら下がるようにワークWが保持され、ワーク識別ハンガー4の下端にぶら下がるようにダミーワークDWが保持される。従って、ハンガー(3,4)が搬送レール21の延設方向に移動したときに、それらのハンガー(3,4)の下端に保持されたワークW及びダミーワークDWが電着槽1上を搬送レール21の延設方向に沿って移動する。そして、ワークW及びダミーワークDWは、入槽域11から電着槽1に入槽し、全没域12にて電着塗料に全没し、出漕域13にて電着塗料から引き揚げられる。このように、ワーク保持ハンガー3及びワーク識別ハンガー4は、保持したワークW及びダミーワークDWを電着槽1に入槽させる役割を果たす。
【0030】
なお、ワークW及びダミーワークDWは、電着槽1の全没域12にて、主に電着塗装される。従って、説明の便宜上、ワークW及びダミーワークDWが全没域12にて電着槽1を移動する方向、すなわち
図1の左方から右方に向かう方向を、ワークW、ダミーワークDW、ワーク保持ハンガー3、ワーク識別ハンガー4の、移動方向と定義する。ワークW及びダミーワークDWは、
図1の移動方向に移動しながら電着槽1内で電着塗装されることになる。なお、この移動方向は、搬送レール21の第二レール部21b及び後述する通電バー5の第二通電バー部52の延設方向に平行である。搬送レール21の延設方向を、移動方向として表現する場合もある。
【0031】
また、搬送レール21は、複数のハンガー(3,4)を、その延設方向に沿って等間隔で吊り下げることができるように構成されている。従って、搬送レール21に吊り下げられた状態で搬送レール21に沿って移動するハンガー(3,4)のピッチ(隣接するハンガー(3,4)の間隔)は常に一定である。
【0032】
また、搬送レール21に吊り下げられるワーク識別ハンガー4は、搬送レール21に沿って並んで配列されることはなく、2つのワーク識別ハンガー4の間に、少なくとも1つのワーク保持ハンガー3が配列する。また、2つのワーク識別ハンガー4の間に複数のワーク保持ハンガー3が配列する場合、それら複数のワーク保持ハンガー3に保持されるワークは同一種類のワークである。つまり、ワーク識別ハンガー4に後続するワーク保持ハンガー3に保持されるワークは全て同じ種類のワークである。
【0033】
図2は、ワーク保持ハンガー3の概略斜視図である。
図2に示すように、ワーク保持ハンガー3は一次側フック部31と二次側フック部32を有する。一次側フック部31は、絶縁部311と、集電子取付部312と、アーム部313と、掛け部314とを有する。
【0034】
絶縁部311は、絶縁性材料により形成されるとともに、その上部にて搬送レール21の移動手段に接続される。集電子取付部312は、導電性金属により板状に形成され、絶縁部311に接続されるとともに絶縁部311から下方に延設される。アーム部313は、導電性金属からなる棒状部材がコの字状に折り曲げられることにより形成される。アーム部313は、水平方向に延設されるとともに上下に離間して配置された上アーム部313a及び下アーム部313bと、上下方向に延設されるとともに上アーム部313aの一方端と下アーム部313bの一方端とを接続する中間アーム部313cとを有する。そして、上アーム部313aが集電子取付部312の下方部分に接続され、下アーム部313bが掛け部314の上方部分に接続される。掛け部314は、導電性金属により形成されその下方部分に一列に配列された複数のフック314aを有する。
図4では、掛け部314に5個のフック314aが設けられる。フック314aに、二次側フック部32が接続される。
【0035】
二次側フック部32は導電性金属により棒状に形成され、その一方端(
図4において上端)がフック314aに掛けられる。この場合、複数のフック314aのそれぞれに、二次側フック部32を掛ける(接続する)ことができる。そして、二次側フック部32の他方端(
図4において下端)にワークWが接続される。このようにして、ワークWが、ワーク保持ハンガー3の下端、具体的には二次側フック部32の下端にぶら下がるように、保持される。
【0036】
図3は、ワーク識別ハンガー4の概略斜視図である。ワーク識別ハンガー4の構成は、基本的にはワーク保持ハンガー3の構成と同一である。
図3に示すように、ワーク識別ハンガー4も一次側フック部41と二次側フック部42とを有する。一次側フック部41は、絶縁部411と、集電子取付部412と、アーム部413と、掛け部414とを有する。絶縁部411及び集電子取付部412の構成は、ワーク保持ハンガー3の絶縁部311及び集電子取付部312の構成と同一であるので、それらの具体的な説明は省略する。
【0037】
また、アーム部413は、導電性金属からなる棒状部材がコの字状に折り曲げられることにより形成される。アーム部413は、上アーム部413a、下アーム部413b、及び中間アーム部413cを有する。上アーム部413a、下アーム部413b、及び中間アーム部413cの構成は、それぞれ、ワーク保持ハンガー3のアーム部313の上アーム部313a、下アーム部313b、中間アーム部313cの構成と同一であるので、それらの具体的な説明は省略する。
【0038】
掛け部414は、その下方部分に一列に配列された複数のフック414aを有する。
図5では、掛け部414に5個のフック414aが設けられる。
【0039】
ワーク識別ハンガー4においては、複数のフック414aのうちの中央に位置する中央フック414Aのみに、二次側フック部42が接続される。二次側フック部42は導電性金属により棒状に形成されており、その一方端(
図3において上端)が中央フック414Aに接続される。そして、二次側フック部42の他方端(
図4において下端)にダミーワークDWが接続される。このようにして、ダミーワークDWが、ワーク識別ハンガー4の下端、具体的には二次側フック部42の下端にぶら下がるように、保持される。また、二次側フック部42の上方部分に、ワーク識別部材43が設けられる。ワーク識別部材43については後述する。
【0040】
また、
図2及び
図3からわかるように、ワーク保持ハンガー3及びワーク識別ハンガー4は、それぞれ、集電子9を有する。集電子9は、一対の集電アーム91,91と、一対の接触銅板92,92を有する。一対の集電アーム91,91は、共に導電性金属により丸棒状に形成され、それぞれの一方端部がワーク保持ハンガー3(ワーク識別ハンガー4)の集電子取付部312(412)に取り付けられる。この場合、一対の集電アーム91,91は、双方の取付け位置が上下方向において一致するように、集電子取付部312(412)に取り付けられる。
【0041】
また、一対の集電アーム91,91は、集電子取付部312(412)への取付端部(一方端部)から、上下方向にほぼ垂直な平面内に延設される。一対の集電アーム91,91の延設方向は、ワーク保持ハンガー3又はワーク識別ハンガー4が搬送レール21に取り付けられている場合には、
図1に示す移動方向における上流側に向かって互いに離間するように移動方向に対して所定の鋭角だけ傾斜した方向である。このため一対の集電アーム91,91は、上下方向から見たときに、集電子取付部312(412)から上流側に向かって広がるようなV字形状に形成される。このようにV字形状に形成された一対の集電アーム91,91のそれぞれの先端(他方端)に、接触銅板92,92がそれぞれ取り付けられる。この接触銅板92,92に、通電バー5が接触される。
【0042】
図1に示すように、通電バー5は搬送レール21の延設方向に沿って延設されており、搬送レール21に沿って移動するハンガー(3,4)に通電する機能を有する。
図4は、
図1の搬送レール21及び通電バー5を示す図である。
図4に示すように、通電バー5は、搬送レール21の第一レール部21aの下方に平行に設けられた第一通電バー部51と、搬送レール21の第二レール部21bの下方に平行に設けられた第二通電バー部52と、搬送レール21の第三レール部21cの下方に平行に設けられた第三通電バー部53とを有する。
【0043】
第一通電バー部51、第二通電バー部52、及び第三通電バー部53は、本実施形態では骨格部材に取り付けられる。この骨格部材は、
図1及び
図4に示す通電バー5の外形形状と同一の形状をなす鉄製のアングル部材にテフロン(登録商標)等の絶縁性樹脂が一様に接着されることに構成される。そして、絶縁性樹脂の表面に、第一通電バー部51、第二通電バー部52、及び第三通電バー部53が、それぞれ形成される。
【0044】
第一通電バー部51、第二通電バー部52、及び第三通電バー部53は、それぞれ、銅板等の導電性金属板により形成される。第一通電バー部51は、第一レール部21aと同様に、
図4の左方から右方に向かって降り傾斜するように長尺状に形成される。第二通電バー部52は、第二レール部21bと同様に、
図4の左右方向(移動方向)に沿って長尺状に形成される。第三通電バー部53は、第三レール部21cと同様に、
図4の左方から右方に向かって登り傾斜するように長尺状に形成される。
【0045】
第一通電バー部51は、それぞれ長手方向に沿って一体的に形成される。これに対し、第二通電バー部52及び第三通電バー部53は、長手方向に沿って複数に分割されて形成される。この場合、第二通電バー部52は、骨格部材を構成する絶縁性樹脂に、長手方向(移動方向)に沿って複数の導電性金属からなる通電片521を微小の隙間を開けて取り付けることにより、形成される。また、第三通電バー部53は、骨格部材を構成する絶縁性樹脂に長手方向(移動方向)に沿って複数の導電性金属からなる通電片531を微所の隙間を開けて取り付けることにより、形成される。従って、第一通電バー部51は一枚の導電性金属板により形成されているが、第二通電バー部52及び第三通電バー部53は、長手方向に沿って微小間隔を開けて配列された複数の通電片521 、531により形成されることになる。複数の通電片521の形状は、全て同一形状であり、複数の通電片531の形状は、全て同一形状である。また、複数の通電片521、531の移動方向における長さは、搬送レール21に沿って移動方向に移動するハンガー(3,4)のピッチに等しい。なお、第一通電バー部51も通電バー5の一部を構成するので、これらも分割された通電片と言うことができる。従って、通電バー5は、その延設方向に沿って分割された複数の通電片により構成されていると言える。
【0046】
図5は、第二通電バー部52が備える隣接する通電片521A,521Bの境界部分を示す概略図である。
図5に示すように、隣接する通電片521A,521Bは、それぞれ、互いに平行に対面した対向辺A1,B1を有する。また、対向辺A1及び対向辺B1は、移動方向(第二通電バー部52の延設方向)に対して同じ角度だけ傾斜するように形成される。
【0047】
また、隣接する通電片521A,521Bのうち、移動方向の上流側に位置する通電片521Aの対向辺A1の下流端位置A2は、移動方向の下流側に位置する通電片521Bの対向辺B1の上流端位置B2よりも、下流側に位置する。このため、通電片521Aの対向辺A1は、隣接する通電片521Bの対向辺B1に、移動方向に垂直な方向(
図5の上下方向)において重複するように、移動方向に対して傾斜していることになる。換言すれば、隣接する通電片521A,521Bのそれぞれの対向辺A1,B1により、上下方向に重複するラップ区間L1が形成される。つまり、隣接する通電片521A,521Bの境界に、ラップ区間L1が形成される。このラップ区間L1における、対向辺A1と対向辺B1の上下方向距離L2は、ワーク保持ハンガー3の集電子9が備える接触銅板92の上下方向長さよりも短くなるように、設定される。
【0048】
図6は、搬送レール21、搬送レール21に取り付けられたハンガー(3,4)、及び通電バー5を、上方から見た概略図である。
図6において、移動方向は、
図6の左方から右方に向かう方向である。また、
図6の上下方向を、幅方向と定義する。
図6に示すように、本実施形態においては、一対の通電バー5,5が電着塗装装置500に備えられる。一対の通電バー5,5は、搬送レール21を中心として幅方向に等距離に離間して、搬送レール21と平行に配置される。一対の通電バー5,5のそれぞれの第一通電バー部51,51、第二通電バー部52,52、第三通電バー部53,53、の移動方向における位置は、それぞれ一致する。
【0049】
また、搬送レール21に取り付けられたハンガー(3,4)は、搬送レール21に沿って移動方向(搬送レール21の延設方向)に移動するが、それに伴ってハンガー(3,4)が有する集電子9も移動方向(搬送レール21の延設方向)に移動する。このとき、集電子9の集電アーム91,91の先端に取り付けられた接触銅板92,92は、通電バー5の第一通電バー部51、第二通電バー部52の複数の通電片521、及び、第三通電バー部53の複数の通電片531に順次接触する。従って、ハンガー(3,4)は、搬送レール21に沿って移動方向(搬送レール21の延設方向)に移動しながら、その集電子9において通電バー5を構成する複数の通電片に順次接触するように構成される。集電子9が通電バー5に接触することにより、通電バー5からハンガー(3,4)に通電される。
【0050】
また、上述したように、ワーク識別ハンガー4の二次側フック部42には、ワーク識別部材43が取り付けられる。ワーク識別部材43の形状は、そのワーク識別部材43が取り付けられたワーク識別ハンガー4に後続するワーク保持ハンガー3に保持されたワークの種類に応じた形状にされている。従って、ワーク識別部材43は、ワークの種類に応じた数だけ用意されている。
【0051】
図7は、複数種類のワークにそれぞれ対応するワーク識別部材の概略平面図であり、
図8は、複数種類のワークにそれぞれ対応するワーク識別部材を移動方向の下流側から見た概略正面図である。
図7(a)及び
図8(a)は、第一ワークW1に対応する第一ワーク識別部材431を、
図7(b)及び
図8(b)は、第二ワークW2に対応する第二ワーク識別部材432を、それぞれ示す。また、
図8には、それぞれのワーク識別部材が取り付けられた二次側フック部42及び二次側フック部42に取り付けられたダミーワークDWが破線で示される。さらに、
図7及び
図8には、ワーク識別部材が取り付けられたワーク識別ハンガー4が搬送レール21に取り付けられた場合における方向が、それぞれ示される。
【0052】
図7及び
図8に示すように、いずれのワークに対応するワーク識別部材も、本体部43a及び突起部43bを有する。本体部43aは、上下方向に沿った中心軸を持つ六角柱状に形成される。また、
図7に良く示すように、六角柱状に形成された本体部43aは、互いに幅方向に対向し且つ移動方向に平行な2側面(第一側面43c及び第二側面43d)を有する。第一側面43cは、本体部43aの幅方向における一方側面(
図7及び
図8においては本体部43aの左側面)を構成し、第二側面43dは、本体部43aの幅方向における他方側面(
図7及び
図8においては本体部43aの右側面)を構成する。
【0053】
突起部43bは、上下方向に沿った中心軸を持つ三角柱状に形成される。また、突起部43bの上下方向長さは本体部43aの上下方向長さに等しい。このような三角柱状の突起部43bは、本体部43aの第一側面43c及び第二側面43dのいずれかに設けられる。突起部43bがいずれの側面に設けられるかは、その識別部材に対応するワークにより定められる。具体的に述べると、第一ワークW1に対応する第一ワーク識別部材431にあっては、
図7(a)及び
図8(a)に示すように突起部43bは本体部43aの第一側面43cに設けられる。第二ワークW2に対応する第二ワーク識別部材432にあっては、
図7(b)及び
図8(b)に示すように突起部43bは本体部43aの第二側面43dに設けられる。第一側面43cと第二側面43dは、幅方向における異なる位置に形成される。このため、第一ワーク識別部材431に設けられる突起部43bの幅方向位置は、第二ワーク識別部材432に設けられる突起部43bの幅方向位置とは異なる。
【0054】
このように、本実施形態においては、それぞれのワーク識別部材の突起部43bの幅方向位置が異なるように、各ワーク識別部材が構成される。このため、突起部43bの幅方向位置によって、そのワーク識別部材に対応するワークが識別される。そして、ワーク識別部材に設けられる突起部43bを検知するための検知手段が、電着塗装装置500に備えられる。なお、それぞれのワーク識別部材の突起部43bの高さ方向位置が異なるように、各ワーク識別部材を構成してもよい。
【0055】
図1に示すように、電着槽1の入槽域11の直前の上流位置に、検知手段としてのワーク識別ユニット101が設けられる。このワーク識別ユニット101によって、ワーク識別ハンガー4に取り付けられたワーク識別部材43に対応するワークWが識別される。
図9は、ワーク識別部材43とワーク識別ユニット101の位置関係を、移動方向の下流側から見た概略図である。
図9に示すように、ワーク識別ユニット101は、第一リミットスイッチ101a及び第二リミットスイッチ101bを有する。
【0056】
各リミットスイッチは、スイッチ本体102及び棒状のアクチュエータ103を有し、アクチュエータ103が動作することで、スイッチ本体102に内蔵されたマイクロスイッチがON状態にされて、検知信号が出力される。また、第一リミットスイッチ101aは、幅方向における一方側(
図9において左側)に位置し、第二リミットスイッチ101bは、幅方向における他方側(
図9において右側)に位置している。ワーク識別ハンガー4は、幅方向に二分したこれらのリミットスイッチ間を通過することになる。通過するワーク識別ハンガー4のワーク識別部材43から見た場合、第一リミットスイッチ101aは、本体部43aの第一側面43c側に位置し、第二リミットスイッチ101bは、本体部43aの第二側面43d側に位置する。
【0057】
また、第一リミットスイッチ101aのアクチュエータ103は、スイッチ本体102から幅方向における他方側(
図9において右側)に向かって水平に延設される。従って、
図9からわかるように、第一リミットスイッチ101aのアクチュエータ103の先端は、通過するワーク識別ハンガー4のワーク識別部材43の第一側面43cに対面する。
【0058】
また、第二リミットスイッチ101bのアクチュエータ103は、スイッチ本体102から幅方向における一方側(
図9において左側)に向かって水平に延設される。従って、
図9からわかるように、第二リミットスイッチ101bのアクチュエータ103の先端は、通過するワーク識別ハンガー4のワーク識別部材43の第二側面43dに対面する。
【0059】
図10は、ワーク識別ハンガー4に設けられた各ワーク識別部材と各リミットスイッチとの位置関係を、移動方向の下流側から見た概略図である。
図10(a)に示すように、第一リミットスイッチ101aのアクチュエータ103の高さ位置(上下方向位置)は、第一ワークW1に対応する第一ワーク識別部材431の高さ位置に一致する。また、上記したように第一リミットスイッチ101aのアクチュエータ103は、通過するワーク識別ハンガー4に設けられたワーク識別部材43の第一側面43cに対面する。そして、第一ワーク識別部材431の第一側面43cには突起部43bが設けられている。従って、第一リミットスイッチ101aのアクチュエータ103は、第一ワーク識別部材431が設けられたワーク識別ハンガー4が通過する際に、第一ワーク識別部材431の突起部43bに接触して作動し、斯かる作動によりスイッチ本体102内のマイクロスイッチがON状態にされて、検知信号が出力される。このようにして、第一リミットスイッチ101aにより第一ワークW1が識別される。
【0060】
また、
図10(b)に示すように、第二リミットスイッチ101bのアクチュエータ103の高さ位置は、第二ワークW2に対応する第二ワーク識別部材432の高さ位置に一致する。また、上記したように第二リミットスイッチ101bのアクチュエータ103は、通過するワーク識別ハンガー4に設けられたワーク識別部材43の第二側面43dに対面する。そして、第二ワーク識別部材432の第二側面43dには突起部43bが設けられている。従って、第二リミットスイッチ101bのアクチュエータ103は、第二ワーク識別部材432が設けられたワーク識別ハンガー4が通過する際に、第二ワーク識別部材432の突起部43bに接触して作動し、斯かる作動によりスイッチ本体102内のマイクロスイッチがON状態にされて、検知信号が出力される。このようにして、第二リミットスイッチ101bにより第二ワークW2が識別される。
【0061】
このように、2つのリミットスイッチからなるワーク識別ユニット101により、各ワークが識別される。
【0062】
また、
図1に示すように、第一ワーク識別部材431が設けられたワーク識別ハンガー4に後続するワーク保持ハンガー3には第一ワークW1が保持され、第二ワーク識別部材432が設けられたワーク識別ハンガー4に後続するワーク保持ハンガー3には第二ワークW2が保持される。従って、ワーク識別ユニット101は、検知対象とされたワーク識別部材43を有するワーク識別ハンガー4に後続するワーク保持ハンガー3に保持されたワークの種類を検知することとなる。
【0063】
また、
図1に示すように、電着塗装装置500は、カウント手段としてのカウントリミットスイッチ105を備える。このカウントリミットスイッチ105は、ワーク識別ユニット101とともに、電着槽1の入槽域11の直前位置に設けられる。また、カウントリミットスイッチ105は、ワーク保持ハンガー3の絶縁部311に接触可能に設けられている。従って、ワーク保持ハンガー3がカウントリミットスイッチ105を通過するごとに絶縁部311がカウントリミットスイッチ105に接触して(具体的には絶縁部311がカウントリミットスイッチ105を叩いて)検知信号を出力する。これにより、カウントリミットスイッチ105は、ワーク識別ハンガー4に後続するワーク保持ハンガー3に保持されたワークWが電着槽1に入槽する個数をカウントすることになる。なお、カウント手段として、光電管等を用いた光電センサ等を採用することもできる。この場合、ワーク保持ハンガー3が通過するごとに光電センサからの投光がワーク保持ハンガー3の絶縁部311に遮られることにより、ワークWの個数がカウントされる。
【0064】
また、複数の隔膜電極6は、電着槽1の凹部空間に貯留された電着塗料に浸漬された状態で、電着槽1の内部に配設される。
【0065】
整流器7は、交流電力を直流電力に変換するとともに、複数の隔膜電極6と通電バー5との間に所定の直流電圧を印加する機能を有する。この整流器7は、プラス端子71及びマイナス端子72を有し、プラス端子71が複数の隔膜電極6のそれぞれに並列的に接続され、マイナス端子72が制御装置8に接続される。整流器7が、本発明の電圧印加装置に相当する。
【0066】
制御装置8は、制御回路81及びリレー82を有する。制御回路81には、ワーク識別ユニット101及びカウントリミットスイッチ105から検知信号が入力される。そして、入力された検知信号に基づいて、リレー82を制御する。リレー82は、複数のリレー接点が並列的に接続されることにより構成される。各リレー接点は、可動接点及び固定接点を有し、可動接点が整流器7のマイナス端子72にそれぞれ電気的に接続される。一方、各リレー接点の固定接点は、通電バー5に電気的に接続される。制御回路81がリレー82を制御することにより、通電バー5の電圧印加状態(通電状態)が制御される。
【0067】
ここで、複数のリレー接点の固定接点は、第一通電バー部51、第二通電バー部52を構成する各通電片521、第三通電バー部53を構成する各通電片531にそれぞれ接続される。このため、第一通電バー部51と整流器7、第二通電バー部52の各分割された通電片521と整流器7、及び第三通電バー部53の各分割された通電片531と整流器7、との電気的な接続状態、すなわち電圧の印加状態を、それぞれ独立して制御することができる。
【0068】
上記構成の電着塗装装置500においては、上記したように、搬送装置2によって搬送レール21に取り付けられたワーク保持ハンガー3及びワーク識別ハンガー4が、搬送レール21の延設方向(移動方向)に移動する。これにより、ワーク保持ハンガー3に保持されたワークW及びワーク識別ハンガー4に保持されたダミーワークDWが電着槽1の入槽域11から電着槽1に入槽する。また、整流器7によって隔膜電極6と通電バー5との間に所定の直流電圧が印加される。これにより隔膜電極6が陽極となり、通電バー5が陰極となる。また、電着槽1内で電着塗料中に浸漬されたワークW又はダミーワークDWは、それを保持しているハンガー(3,4)及び集電子9を介して通電バー5に接触している。このため電着塗料中のワークW又はダミーワークDWが陰極となる。これにより、電着槽1内で電荷をもった電着塗料が陰極としてのワークW又はダミーワークDWに引き寄せられる。また、陰極としてのワークW又はダミーワークDW付近で水の電気分解反応により水素ガス及び水酸化イオンが生成され、この水酸化イオンが電着塗料のH+イオンと反応して電着塗料がイオン性を失い、不溶性となってワークW又はダミーワークDWに析出する。このようにして、ワークW又はダミーワークDWにカチオン電着塗装される。
【0069】
本実施形態では、一つの電着槽1を用いて、形状或いは材質の異なる複数種類のワークW1,W2が、電着塗装される。電着塗装によりワークに形成される塗膜の成膜条件は、ワークの形状及び材質により異なるので、形状或いは材質の異なる複数種類のワークを一つの電着槽1により電着塗装する場合、ワークが変更されるごとに、塗装されるワークに適した条件、特に通電時間を設定する必要がある。この点に関し、本実施形態では、電着槽1に入槽するワークが切り替わるときに、すなわち電着槽1に新たなワークが入槽する際に、制御装置8が通電バー5の電圧の印加状態の切り替え制御を実行することにより、一つの電着槽1を用いて複数種類のワークのそれぞれに適した通電時間で電着塗装することができるように構成される。以下に、制御装置8による通電バー5の電圧の印加状態の切り替え制御方法について説明する。なお、以下の説明においては、電着塗装の実行中に、通電バー5の第一通電バー部51には、常時電圧が印加されていると仮定する。
【0070】
図11は、制御装置8により実行される通電バー5の電圧の印加状態の切り替え制御の流れを示すフローチャートである。このフローチャートによると、まず、制御装置8は、電着塗装の実行中に、ワーク識別ユニット101から検知信号を入力する(S1)。検知信号が入力されていない場合、制御装置8は通電バー5の電圧の印加状態を変更しない。
【0071】
ワーク識別ユニット101から検知信号が入力されると、制御装置8は、リミットスイッチ101a,101bのうち検知信号を出力したリミットスイッチを特定することによりワークを識別する(S2)。そして、識別されたワークについて予め設定されている目標カウント数を設定する(S3)。ここで言う目標カウント数とは、ワークWが電着槽1に入槽してからのそのワークWに所望の膜厚の塗膜が形成されて電着塗装が完了するまでに、そのワークWに後続して電着槽1に入槽する後続ワークの個数に相当する。換言すれば、目標カウント数は、ワークWを保持するワーク保持ハンガー3がカウントリミットスイッチ105を叩くことにより検知されてからそのワークWに所望の膜厚の塗膜が形成されて電着塗装が完了するまでの時間(秒数)に相当する。また、ワークWが電着槽1に入槽してから(カウントリミットスイッチ105を叩いてから)そのワークWの電着塗装が完了するまでの時間は、そのワークWに電着塗装するために電圧を印加する時間すなわち通電時間である。従って、目標カウント数は、そのワークWに対して設定される通電時間を表しているとも言える。
【0072】
次いで、制御装置8は、目標カウント数の設定後にカウントリミットスイッチ105から入力される検知信号の入力回数をカウントする。また、制御装置8は、カウントする入力回数(カウント数)が目標カウント数以下である間、通電バー5への電圧印加制御を行う(S4)。この電圧印加制御では、通電バー5のうち、カウント数が目標カウント数に達する以前にワーク識別ハンガー4が接触する部分に電圧が印加されるように、通電バー5への電圧の印加状態を制御する。例えば、カウント数が目標カウント数に達する以前にワーク識別ハンガー4が第二通電バー部52を構成する通電片521のいずれかに接触している場合、その通電片521に接続されたリレー接点をON状態に設定する。ここで、カウント数が目標カウント数に達する以前にワーク識別ハンガー4が接触する通電片521への電圧の印加が、ワーク識別ハンガー4の接触前に停止されている場合には、制御装置8は、その通電片521への電圧の印加がワーク識別ハンガー4の接触時点で開始されるように、その通電片521に接続されたリレー接点を制御する。一方、カウント数が目標カウント数に達する以前にワーク識別ハンガー4が接触する通電片521への電圧の印加が、ワーク識別ハンガー4の接触前に既になされている場合、その通電片521にワーク識別ハンガー4が接触した場合でもその通電片521への電圧の印加状態は変更しない。つまり、電圧の印加を維持する。このようにして、カウント数が目標カウント数に達する以前には、通電バー5のうち電圧の印加を開始させるべき通電片への電圧の印加を、ワーク識別ハンガー4が接触している時点で開始させることにより、通電バー5への電圧の印加状態が制御される。なお、ワーク識別ハンガー4が通電バー5のどの部分に接触しているかは、カウント数から判断することができる。
【0073】
また、制御装置8は、カウント数が目標カウント数に達した後に、通電バー5への電圧印加停止制御を行う(S5)。この電圧印加停止制御では、通電バー5のうち、カウント数が目標カウント数に達した後にワーク識別ハンガー4が接触する部分への電圧の印加が停止するように、通電バー5への電圧の印加状態を制御する。例えば、カウント数が目標カウント数に達した後にワーク識別ハンガー4が第二通電バー部52を構成する通電片521のいずれかに接触している場合、その通電片521に接続されたリレー接点をOFF状態に設定する。ここで、カウント数が目標カウント数に達した後にワーク識別ハンガー4が接触する通電片521に電圧が印加されている場合には、制御装置8は、その通電片521への電圧の印加がワーク識別ハンガー4の接触時点で停止されるように、その通電片521に接続されたリレー接点を制御する。一方、カウント数が目標カウント数に達した後にワーク識別ハンガー4が接触する通電片521への電圧の印加がワーク識別ハンガー4の接触前に既に停止されている場合には、その通電片521にワーク識別ハンガー4が接触した場合でも電圧の印加状態は変更しない。つまり、電圧印加の停止を維持する。このようにして、カウント数が目標カウント数に達した後には、通電バー5のうち電圧の印加を停止させるべき通電片に対して、ワーク識別ハンガー4が接触している時点で電圧の印加を停止させることにより、通電バー5への電圧の印加状態が制御される。
【0074】
このように、S4の電圧印加制御及びS5の電圧印加停止制御では、制御装置8は、通電バー5を構成する複数の通電片のうち電圧の印加状態を変化させるべき通電片への電圧の印加状態を、ワーク識別ハンガー4が接触している時点で変化させる。ここで、電圧の印加状態を変化させる対象の通電片が第二通電バー部52の通電片521又は第三通電バー部53の通電片531である場合、通電片521、531の長さがハンガー(3,4)のピッチに一致しているので、通電片521、531にワーク識別ハンガー4が接触している時点(電圧の印加状態を変化させる時点)でそのワーク識別ハンガー4の前後のワーク保持ハンガー3がその通電片521に接触することはない。
【0075】
また、カウント数が、目標カウント数よりも大きいカウント数であってワーク識別ハンガー4が電着槽1から出槽するタイミングを表すカウント数として予め設定されている上限カウント数に達した場合に、カウント数のカウントを終了する(S6)。
【0076】
以上のような通電バー5の電圧の印加状態の切り替え制御により、電着槽1に入槽するワークが切り替えられた場合に、切り替え後に新たに電着槽1に入槽するワークに適した通電時間を設定することができる。その結果、複数種類のワークのそれぞれに適した通電時間を設定することができる。
【0077】
(第一実施例)
図12A~
図12Dは、通電バー5の電圧印加状態の切り替え制御が実行された場合における通電バー5の電圧の印加状態の変化の一例を示す図である。この例では、電着槽1に新たに入槽するワークの通電時間が、現時点で電着槽1に入槽しているワーク(直前ワーク)の通電時間よりも短い場合における通電バー5の電圧印加状態の変化が示される。
【0078】
まず、
図12Aに示すように、電着槽1内に入槽している全てのワークが第一ワークW1であり、その状態から新たに第二ワークW2が入槽する場合を想定する。また、第一ワークW1が電着塗装される場合、通電バー5の全ての区間、すなわち第一通電バー部51、第二通電バー部52を構成するすべての通電片521、及び第三通電バー部53を構成するすべての通電片531に、電圧が印加されている。つまり、制御装置8のリレー82の全てのリレー接点がON状態に設定されている。
【0079】
また、電着槽1に入槽している第一ワークW1のうち最後尾の第一ワークW1の直後には、第二ワークW2を識別するための第二ワーク識別部材432が設けられたワーク識別ハンガー4が位置する。そして、そのワーク識別ハンガー4の後に、第二ワークW2を保持したワーク保持ハンガー3が続く。つまり、第二ワークW2を保持しているワーク保持ハンガー3の先頭に、第二ワーク識別部材432が設けられたワーク識別ハンガー4が位置される。このワーク識別ハンガー4が
図12Aに示す状態から移動すると、第二ワーク識別部材432がワーク識別ユニット101に検知されることにより、検知信号が制御装置8に入力され(S1)、それにより、新たなワークの到来が検知されるとともに第一ワークW1の次に入槽する新たなワークが第二ワークW2であることが識別される(S2)。
【0080】
また、第二ワーク識別部材432が設けられたワーク識別ハンガー4に後続する第二ワークW2について設定される通電時間は、ワーク識別ハンガー4の直前に位置するワーク保持ハンガー3に保持された第一ワークW1(直前ワーク)について設定される通電時間よりも短い。
図12Aには、第二ワークW2が電着槽1に入槽してから第二ワークW2について設定された通電時間が経過して電着塗装が完了するまでに第二ワークW2が電着槽1内を移動する距離が、通電区間として表される。また、第一ワークW1が電着槽1に入槽してから第一ワークW1について設定された通電時間が経過して電着塗装が完了するまでに第一ワークW1が電着槽1内を移動する距離が、前通電区間として表される。通電区間及び前通電区間は、ワークの電着塗装が完了するまでにそのワークを保持するワーク保持ハンガー3が接触する通電バー5の接触領域を表す。この通電区間及び前通電区間は、それぞれ第二ワークW2及び第一ワークW1について設定された通電時間に比例する。よって、通電区間及び前通電区間の長さは通電時間を表している。
【0081】
図12Aからわかるように、第二ワークW2についての通電区間(通電時間)は、第一ワークW1についての前通電区間(通電時間)よりも短い。具体的には、前通電区間は、第一通電バー部51から第三通電バー部53に至る全ての区間であるのに対し、通電区間は、第一通電バー部51から第二通電バー部52の途中までの区間である。従って、電着槽1に入槽するワークが第一ワークW1から第二ワークW2に切り替わる場合、通電バー5のうち
図12Aに示す通電区間よりも移動方向における下流側の部分への電圧の印加は停止されている必要がある。具体的には、第二通電バー部52を構成する通電片521のうち上流側から10番目以降の通電片521及び通電片531への電圧の印加が停止されている必要がある。また、
図12Aからわかるように、第二ワークW2の通電区間内に存在するワークの個数は、16個である。従って、目標カウント数は、16に設定される(S3)。
【0082】
図12Aに示す状態から、ワーク識別ハンガー4が移動することにより、それに保持されたダミーワークDWが電着槽1に入槽する。また、ワーク識別ハンガー4に後続するワーク保持ハンガー3も移動して、それらに保持された第二ワークW2が順次電着槽1に入槽する。第二ワークW2が電着槽1に順次入槽する際にワーク保持ハンガー3がカウントリミットスイッチ105を通過するが、その際にワーク保持ハンガー3の絶縁部311がカウントリミットスイッチ105を叩いて、カウントリミットスイッチ105から検知信号が制御装置8に出力される。これにより、ワーク識別ハンガー4に後続するワーク保持ハンガー3に保持された第二ワークW2の個数に対応するカウントが進む。こうしてカウントされるカウント数が目標カウント数に達する以前である場合、つまり、カウント数が目標カウント数以下である間、ワーク識別ハンガー4に保持されたダミーワークDWは通電区間内を移動している。ダミーワークDWが通電区間内を移動している間(すなわちカウント数が目標カウント数以下の間)、通電バー5への電圧の印加制御が行われる(S4)。ここで、本例においては、通電バー5のうちダミーワークDWが通電区間を移動している間にワーク識別ハンガー4に接触する部分には、既に電圧が印加されている。このため、それらの部分への電圧の印加状態は、変化しない。
図12Bは、ダミーワークDWが通電区間内を移動している場合における、通電バー5への電圧の印加状態を示す。
【0083】
カウント数が目標カウント数(=16)に達した場合、その後に電圧印加停止制御が行われて、通電バー5のうちそれ以降(すなわちカウント数が目標カウント数に達した後)にワーク識別ハンガー4が接触する部分への電圧の印加が停止される(S5)。
図12Cは、カウント数が16に達した後に、ワーク識別ハンガー4が、第二通電バー部52の通電片のうち通電区間外の通電片521aに接触している状態を示す。通電片521aにはワーク識別ハンガー4の接触前に電圧が印加されているが、ワーク識別ハンガー4の接触時点で通電片521aへの電圧の印加が停止される。つまり、電圧の印加状態を変化させるべき通電片521aへの電圧の印加状態が、ワーク識別ハンガー4の接触時点で変化される。
【0084】
その後、ワーク識別ハンガー4がさらに下流に移動して、第二通電バー部52の最も下流側の通電片521bに接触する。通電片521bにもワーク識別ハンガー4の接触前に電圧が印加されているが、ワーク識別ハンガー4の接触時点で通電片521bへの電圧の印加が停止される。さらにその後、ワーク識別ハンガー4が下流に移動して、第三通電バー部53の各通電片531に接触する。第三通電バー部53の各通電片531にもワーク識別ハンガー4の接触前に電圧が印加されているが、ワーク識別ハンガー4の接触時点で通電片531への電圧の印加が停止される。このようにして、第一ワークW1について設定される通電時間に基づいて電圧が印加されている通電片(すなわち前通電区間内の通電片)のうち、電圧の印加が不必要な通電片(すなわち通電区間外の通電片)への電圧の印加が、ワーク識別ハンガー4の接触時点で停止される。
【0085】
その後、カウント数が上限カウント数に達した時点で、通電バー5の電圧印加状態の切り替え制御が完了する。
図12Dは、通電バー5の電圧印加状態の切り替え制御が完了した場合における通電バー5の電圧の印加状態を示す。
図12Dに示すように、通電バー5の電圧の印加状態の切り替え制御が完了した後に、電着槽1が第二ワークW2で満たされるが、このときには、既に、通電バー5のうち通電区間内の部分に電圧が印加され、通電区間外の部分には電圧が印加されていない。つまり、第二ワークW2の電着塗装条件に適した通電時間で第二ワークW2が電着塗装されるように、通電バー5の電圧の印加状態が設定されている。従って、後続する第二ワークW2に所望の膜厚の塗膜を形成することができる。
【0086】
(第二実施例)
図13A~
図13Dは、通電バー5の電圧印加状態の切り替え制御が実行された場合における通電バー5の電圧の印加状態の変化の他の例を示す図である。この例では、電着槽1に新たに入槽するワークの通電時間が、現時点で電着槽1に入槽しているワークの通電時間よりも長い場合における通電バー5の電圧印加状態の変化が示される。
【0087】
まず、
図13Aに示すように、電着槽1内に入槽している全てのワークが第二ワークW2であり、その状態から新たに第一ワークW1が入槽する場合を想定する。また、第二ワークW2が電着塗装される場合、第一通電バー部51及び、第二通電バー部52を構成する通電片521のうち上流側から4番目までの通電片521に電圧が印加され、上流側から5番目の通電片521以降の部分には電圧の印加が停止されている。従って、制御装置8のリレー82のリレー接点のうち、第一通電バー部51及び第二通電バー部52の各通電片521のうち上流から4番目までの通電片521に接続されるリレー接点がON状態に設定され、それ以外のリレー接点はOFF状態に設定されている。
【0088】
また、電着槽1に入槽している第二ワークW2のうち最後尾の第二ワークW2の直後には、第一ワークW1を識別するための第一ワーク識別部材431が設けられたワーク識別ハンガー4が位置する。そして、そのワーク識別ハンガー4の後に、第一ワークW1を保持したワーク保持ハンガー3が続く。つまり、第一ワークW1を保持しているワーク保持ハンガー3の先頭に、第一ワーク識別部材431が設けられたワーク識別ハンガー4が位置される。このワーク識別ハンガー4が
図13Aに示す状態から移動すると、第一ワーク識別部材431がワーク識別ユニット101に検知されることにより、検知信号が制御装置8に入力され(S1)、それにより、新たなワークの到来が検知されるとともに第二ワークW2の次に入槽する新たなワークが第一ワークW1であることが識別される(S2)。
【0089】
また、第一ワーク識別部材431が設けられたワーク識別ハンガー4に後続する第一ワークW1について設定される通電時間は、ワーク識別ハンガー4の直前に位置するワーク保持ハンガー3に保持された第二ワークW2(直前ワーク)について設定される通電時間よりも長い。
図13Aには、第一ワークW1が電着槽1に入槽してから第一ワークW1について設定された通電時間が経過して電着塗装が完了するまでに第一ワークW1が電着槽1内を移動する距離が、通電区間として表される。また、第二ワークW2が電着槽1に入槽してから第二ワークW2について設定された通電時間が経過して電着塗装が完了するまでに第二ワークW2が電着槽1内を移動する距離が、前通電区間として表される。
【0090】
図13Aからわかるように、第一ワークW1についての通電区間(通電時間)は、第二ワークW2についての前通電区間(通電時間)よりも長い。具体的には、前通電区間は、第一通電バー部51から第二通電バー部52の上流から4番目の通電片521までの区間であるのに対し、通電区間は、第一通電バー部51から第二通電バー部52の上流から8番目の通電片521までの区間である。従って、電着槽1に入槽するワークが第二ワークW2から第一ワークW1に切り替わる場合、通電片521のうち上流から5番目~8番目の通電片(521c、521d、521e、521f)への電圧を印加する必要がある。また、
図13Aからわかるように、第一ワークW1の通電区間内に存在するワークの個数は、15個である。従って、目標カウント数は、15に設定される(S3)。
【0091】
図13Aに示す状態から、ワーク識別ハンガー4が移動することにより、それに保持されたダミーワークDWが電着槽1に入槽する。また、ワーク識別ハンガー4に後続するワーク保持ハンガー3も移動して、それらに保持された第一ワークW1が順次電着槽1に入槽する。第一ワークW1が電着槽1に順次入槽する際にワーク保持ハンガー3がカウントリミットスイッチ105を通過するが、その際にワーク保持ハンガー3の絶縁部311がカウントリミットスイッチ105を叩いて、カウントリミットスイッチ105から検知信号が制御装置8に出力される。これにより、ワーク識別ハンガー4に後続するワーク保持ハンガー3に保持された第一ワークW1の個数に対応するカウントが進む。こうしてカウントされるカウント数が目標カウント数に達する以前である場合、つまり、カウント数が目標カウント数以下である間、ワーク識別ハンガー4に保持されたダミーワークDWは通電区間内を移動している。ダミーワークDWが通電区間内を移動している間(すなわちカウント数が目標カウント数以下の間)、通電バー5への電圧の印加制御が行われる(S4)。ここで、通電区間内をダミーワークDWが移動する際にワーク識別ハンガー4は、第二通電バー部52を構成する通電片521のうち上流から1番目~8番目の通電片521に接触する。このうち上流から1番目~4番目の通電片521には、ワーク識別ハンガー4の接触前に電圧が既に印加されている。従って、これらの通電片521への電圧の印加状態は変化しない。
図13Bは、ワーク識別ハンガー4が、上流から2番目の通電片521に接触している状態を示す。
図13Bに示すように、ワーク識別ハンガー4に接触した通電片521に接続されているリレー82のリレー接点はON状態のままであり、その通電片521には電圧が印加されたままである。
【0092】
一方、上流から5番目~8番目の通電片(521c,521d,521e,521f)には、ワーク識別ハンガー4の接触前に電圧が印加されていない。従って、これらの通電片521には、ワーク識別ハンガー4の接触時点で電圧の印加が開始される。つまり、電圧の印加状態を変化させるべき通電片521への電圧の印加状態が、ワーク識別ハンガー4の接触時点で変化される。
図13Cは、ワーク識別ハンガー4が上流から5番目の通電片521cに接触している状態を示す。通電片521cには、ワーク識別ハンガー4の接触時点で通電片521cに接続されたリレー接点がON状態にされて、通電片521cへの電圧の印加が開始される。通電片521d,521e,521fに対しても同様に、ワーク識別ハンガー4の接触時点で、これらの通電片への電圧の印加が開始される。このようにして、第二ワークW2について設定される通電時間に基づいて電圧が印加されていない通電片(すなわち前通電区間外の通電片)のうち、電圧を印加すべき通電片(すなわち通電区間内の通電片)への電圧の印加が、ワーク識別ハンガー4の接触時点で開始される。
【0093】
カウント数が目標カウント数(=15)に達した場合、その後に電圧印加停止制御が行われて、通電バー5のうちそれ以降(すなわちカウント数が目標カウント数に達した後)にワーク識別ハンガー4が接触する部分への電圧の印加が停止される。この場合において、通電バー5のうちカウント数が目標カウント数に達した後にワーク識別ハンガー4が接触する部分(第二通電バー部52の通電片521のうち上流から9番目以降の通電片及び第三通電バー部53を構成する全ての通電片531)への電圧の印加は、既に停止されている。従って、この電圧印加停止制御においては、通電バー5の電圧の印加状態は、変化しない。
【0094】
その後、カウント数が上限カウント数に達した時点で、通電バー5の電圧印加状態の切り替え制御が完了する。
図13Dは、通電バー5の電圧印加状態の切り替え制御が完了した場合における通電バー5の電圧の印加状態を示す。
図13Dに示すように、通電バー5の電圧の印加状態の切り替え制御が完了した後に、電着槽1が第一ワークW1で満たされるが、このときには、既に、通電バー5のうち通電区間内の部分に電圧が印加され、通電区間外の部分には電圧が印加されていない。つまり、第一ワークW1の電着塗装条件に適した通電時間で第一ワークW1が電着塗装されるように、通電バー5の電圧の印加状態が設定されている。従って、後続する第一ワークW1に所望の膜厚の塗膜を形成することができる。
【0095】
以上、本発明の実施形態によれば、制御装置8は、カウント数が目標カウント数に達する以前に通電バー5に電圧印加制御を行い、カウント数が目標カウント数に達した後に通電バー5に電圧印加停止制御を行う。つまり、目標カウント数に基づいて、通電バー5への電圧の印加状態が制御される。また、上記したように、目標カウント数は、電着槽1に入槽するワークの通電時間を表す。従って、制御装置8は、電着槽1に入槽するワークの通電時間に基づいて、通電バー5への電圧の印加状態を制御していることになる。
【0096】
また、通電バー5は、第一通電バー部51、第二通電バー部52、第三通電バー部53を備え、さらに第二通電バー部52及び第三通電バー部53はそれぞれ複数の通電片521、531に分割されている。第一通電バー部51も通電バー5を構成する分割片とみなすことができるので、通電バー5は、延設方向に沿って分割された複数の通電片により構成されていると言える。よって、制御装置8は、電着槽1に入槽するワークの通電時間に基づいて、通電バー5を構成する複数の通電片への電圧の印加状態を制御していることになる。
【0097】
また、上記した実施形態によれば、制御装置8は、ワーク識別ハンガー4に後続するワーク保持ハンガー3に保持されるワークWが電着槽1に入槽する際に、通電バー5を構成する複数の通電片のうち電圧の印加状態を変化させるべき通電片への電圧の印加状態を、ワーク識別ハンガー4が接触している時点で変化させることにより、入槽するワークWについて設定される通電時間に基づいて複数の通電片への電圧の印加状態を制御している。
【0098】
制御装置8が上記したような通電片への電圧の印加状態の制御、すなわち通電バー5の電圧印加状態の切り替え制御を実行することにより、それぞれのワークに対して最適な通電時間で電着塗装を行うことができる。よって、複数種類のワークを一つの電着槽1を用いて電着塗装することができる。なお、電着塗装において、成膜厚がさほど厚くない場合には、成膜速度が時間にほぼ比例する。従って、一つの通電片521又は一つの通電片531にワーク保持ハンガー3が接触している間に成膜される塗膜の膜厚を、ハンガー(3,4)の移動速度により調整することができる。この場合、例えば、一つの通電片521又は一つの通電片531にワーク保持ハンガー3が接触している間に成長する膜厚を1μm程度に設定することにより、きめ細かい膜厚制御を実施することができる。
【0099】
また、制御装置8は、上記した制御を実行するにあたり、新たに電着槽1に入槽するワークの先頭に位置するワーク識別ハンガー4が、電圧の印加状態を変化させるべき通電片に接触している時点で、その通電片についての電圧の印加状態が変化される。このため、その通電片についての電圧の印加状態が変化したときに接点外れによって発生するスパークが、その通電片に接しているワーク識別ハンガー4に保持されたダミーワークDWに形成される塗膜に悪影響を及ぼすものの、そのワーク識別ハンガー4に後続するワーク保持ハンガー3に保持されているワークWに形成される塗膜には影響を及ぼさない。このため、ワークWの塗膜品質を維持することができる。
【0100】
また、第二通電バー部52を構成する複数の通電片521の長さは及び第三通電バー部53を構成する通電片531の長さは、ハンガー(3,4)のピッチに一致している。このため、一つの通電片521又は通電片531に一つのハンガー(3,4)が接触していることになり、ワーク識別ハンガー4が接触している通電片にはその他のワーク保持ハンガー3が接触していない。従って、ワーク識別ハンガー4が接触している通電片の電圧の印加状態を変化させる時点でその通電片にワーク保持ハンガー3が接触しているような事態を回避することができ、これにより、ワーク保持ハンガー3に保持されているワークの塗膜品質を維持することができる。
【0101】
また、上記第一実施例によれば、第二ワーク識別部材432が設けられたワーク識別ハンガー4に後続するワーク保持ハンガー3に保持された第二ワークW2の通電時間(通電区間)が、そのワーク識別ハンガー4の直前に位置するワーク保持ハンガー3に保持された第一ワークW1(直前ワーク)の通電時間(前通電区間)よりも短い場合についての通電バー5への電圧の印加状態の制御が示される。これによれば、第二ワーク識別部材432が設けられたワーク識別ハンガー4に後続するワーク保持ハンガー3に保持される第二ワークW2が電着槽1に入槽する際に、現在入槽している第一ワークW1(直前ワーク)の通電時間に基づいて電圧が印加されている通電片(すなわち前通電区間内の通電片)のうち、電圧の印加が不必要な通電片(すなわち通電区間外の通電片)への電圧の印加が、ワーク識別ハンガー4の接触時点で停止される。このような制御により、ワーク識別ハンガー4に後続するワーク保持ハンガー3に保持された第二ワークW2に形成される塗膜品質を悪化させることなく、適切な通電時間に変更することができる。
【0102】
また、上記第二実施例によれば、第一ワーク識別部材431が設けられたワーク識別ハンガー4に後続するワーク保持ハンガー3に保持された第一ワークW1の通電時間(通電区間)が、そのワーク識別ハンガー4の直前に位置するワーク保持ハンガー3に保持された第二ワークW2(直前ワーク)の通電時間(前通電区間)よりも長い場合についての通電バー5への電圧の印加状態の制御が示される。これによれば、第一ワーク識別部材431が設けられたワーク識別ハンガー4に後続するワーク保持ハンガー3に保持される第一ワークW1が電着槽1に入槽する際に、現在入槽している第二ワークW2(直前ワーク)の通電時間に基づいて電圧が印加されていない通電片(すなわち前通電区間外の通電片)のうち、電圧を印加すべき通電片(すなわち通電区間内の通電片)への電圧の印加が、ワーク識別ハンガー4の接触時点で開始される。このような制御により、ワーク識別ハンガー4に後続するワーク保持ハンガー3に保持された第一ワークW1に形成される塗膜品質を悪化させることなく、適切な通電時間に変更することができる。
【0103】
また、ワーク識別ハンガー4に後続するワーク保持ハンガー3に保持されたワークの入槽個数が、カウントリミットスイッチ105による検知信号の入力回数としてカウントされる。そして、制御装置8は、カウントリミットスイッチ105による検知信号の入力回数(カウント数)により表されるワークのカウント数(個数)がそのワークについて設定される目標カウント数に達する以前にワーク識別ハンガー4が接触する通電片に電圧が印加され、目標カウント数に達した後にワーク識別ハンガーが接触する通電片への電圧の印加が停止されるように、複数の通電片への電圧の印加状態を制御する。このように、カウント数が目標カウント数に達したことを境に通電片への電圧の印加状態を切り換えることにより、新たに入槽するワークについての適切な通電時間の電着塗装をそのワークに施すことができる。
【0104】
また、本実施形態に係る通電バー5の第二通電バー部52の各通電片521は、
図5に示すように、隣接する通電片(521A,521B)に対面する対向辺(A1,B1)を有する。そして、対向(A1)辺は、隣接する通電片の対向辺(B1)にワーク保持ハンガー3の移動方向に垂直な方向(
図5の上下方向)において重複するように、すなわちラップ区間L1が形成されるように、移動方向に対して傾斜している。このため、ワーク保持ハンガー3の集電子9が備える接触銅板92が、隣接する通電片521A,521Bの境界を通過するときに、隣接する通電片のどちらか一方に必ず接触する。
【0105】
図14Aは、隣接する通電片521A,521Bにワーク保持ハンガー3の接触銅板92が接触しながら移動する状態を示す図である。
図14Aにおいて、接触銅板92は、図の矢印で示すように移動する。また、接触銅板92の移動方向における長さは、隣接する通電片間の距離L3よりも短い。接触銅板92が
図14Aの矢印に沿って移動するとき、接触銅板92は、通電片521Aのみに接触した状態から、通電片521Aと通電片521Bとの境界に形成されるラップ区間L1を経由して、通電片521Bのみに接触した状態に移行する。また、ラップ区間L1では、ラップ区間L1の上下方向長さL2よりも接触銅板92の上下方向長さの方が長いので、接触銅板92は、両通電片521A,521Bに接触する。従って、接触銅板92は、通電片521Aから通電片521Bに向かう方向に移動する際に、いずれの通電片にも接触しない状態を経由しない。
【0106】
図14Bは、移動方向に対して垂直な対向辺を有するように形成された隣接する通電片P1,P2に、接触銅板92が接触しながら移動する状態を示す図である。
図14Bにおいて、接触銅板92は、図の矢印で示すように移動する。また、接触銅板92の移動方向における長さは、隣接する通電片間の距離L3よりも短い。接触銅板92が
図14Bの矢印に沿って移動するとき、接触銅板92は、通電片P1のみに接触した状態から、通電片P1と通電片P2との境界を経由して、通電片P2のみに接触した状態に移行する。ここで、通電片P1と通電片P2との間の境界には
図14Aに示したラップ区間が形成されていない。また、両通電片間の距離L3は接触銅板92の長さよりも長い。従って、接触銅板92は、通電片P1から通電片P2に向かう方向に移動する際に、両通電片の境界にていずれの通電片にも接触していない状態を経由する。
【0107】
図14Bに示すような、接触銅板92がいずれの通電片にも接触していない状態にされた場合、接触銅板92に印加されていた電圧が突然遮断されることによって、或いは、接触銅板92に突然電圧が印加することによって、スパークが発生する。このスパークが、その接触銅板92を備えるワーク保持ハンガー3に保持されたワークの塗膜品質に悪影響を及ぼす。これに対し、本実施形態では、
図14Aを参照して説明したように、接触銅板92がいずれの通電片にも接触していない状態を回避することができる。このため、上記した不具合の発生が回避され、それにより、ワークの塗膜品質を維持することができる。
【0108】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるべきものではない。例えば、上記実施形態では、ワークにカチオン電着塗装を施す例について説明したが、アニオン電着塗装を行う電着塗装装置についても本発明を適用することができる。また、上記実施形態では、複数のリミットスイッチを用いて、新たに電着槽1に入槽するワークを識別した例を示したが、それ以外の方法で、例えば光電管等を用いて、ワークを識別することもできる。また、上記実施形態では、目標カウント数に基づいて、通電バー5への電圧の印加状態を制御する例を示したが、それ以外の方法で、例えば新たに入槽するワークについて設定される通電時間を直接計測するような方法で、本発明を実施することもできる。このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、変形可能である。
【符号の説明】
【0109】
1…電着槽、2…搬送装置、21…搬送レール(搬送路)、3…ワーク保持ハンガー、4…ワーク識別ハンガー、43…ワーク識別部材、43a…本体部、43b…突起部、43c…第一側面、43d…第二側面、431…第一ワーク識別部材、432…第二ワーク識別部材、433…第三ワーク識別部材、434…第四ワーク識別部材、5…通電バー、51…第一通電バー部、52…第二通電バー部、521…通電片、A1,B1…対向辺、53…第三通電バー部、6…隔膜電極(対極)、7…整流器(電圧印加装置)、8…制御装置、81…制御回路、82…リレー、9…集電子、91…集電アーム、92…接触銅板、101…ワーク識別ユニット(検知手段)、101a…第一リミットスイッチ、101b…第二リミットスイッチ、101c…第三リミットスイッチ、101d…第四リミットスイッチ、102…スイッチ本体、103…アクチュエータ、105…カウントリミットスイッチ(カウント手段)、500…電着塗装装置、DW…ダミーワーク、W…ワーク、W1…第一ワーク、W2…第二ワーク、W3…第三ワーク、W4…第四ワーク