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  • 特許-積層フィルムの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】積層フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/58 20060101AFI20220628BHJP
   C23C 14/12 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
C23C14/58 Z
C23C14/12
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018084749
(22)【出願日】2018-04-26
(65)【公開番号】P2019189914
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】308013436
【氏名又は名称】小島プレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】田中 貴章
(72)【発明者】
【氏名】辻 朗
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-226188(JP,A)
【文献】国際公開第2010/093041(WO,A1)
【文献】特開昭58-017123(JP,A)
【文献】特公平7-63619(JP,B1)
【文献】特開2012-124456(JP,A)
【文献】特開平4-292463(JP,A)
【文献】特開平7-221361(JP,A)
【文献】特開平5-267091(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/58
C23C 14/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムにおける一方の面上に、気化性物質を含有する有効成分層が設けられ、かかる有効成分層上に有効成分透過層が形成されてなる積層フィルムの製造方法にして、
前記有効成分層上に、蒸着重合法に従って合成樹脂膜を形成した後、少なくとも該合成樹脂膜の未反応部分に対してマイクロ波の電界成分のみを照射せしめることにより、重合が促進された該合成樹脂膜からなる前記有効成分透過層を形成することを特徴とする積層フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記合成樹脂膜がポリユリア樹脂膜である請求項1に記載の積層フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層フィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、香料や気化性抗菌作用を有する薬剤等の気化性物質の効果を長期間に亘って享受することを可能ならしめるべく、それら気化性物質が時間の経過と共に徐々に気化し、外部に放出されるように構成された積層フィルムが、包装材料等として広く使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1(実開平5-16663号公報)においては、包装体内面から、発泡合成樹脂層、気化性抗菌作用を有する薄膜層及び発泡合成樹脂層より気体透過性の小さい合成樹脂フィルム層の少なくとも3層構造を有することを特徴とする抗菌性包装材料が、提案されている。具体的には、合成樹脂層3としての厚さ30~50μmのポリスチレン系フィルムに対して、気化性抗菌作用を有するアリルイソチオシアネートを含む抗菌剤をウレタン系透明印刷インキに混合してなる溶液を、グラビア印刷機にてコーティングして、合成樹脂層3(ポリスチレン系フィルム)上に気化性抗菌作用を有する薄膜層2を形成し、次いで、発泡合成樹脂層1としての約12倍に発泡したポリスチレンペーパーを、薄膜層2の面に積層し、熱ロールを通して一体化せしめることにより、特許文献1に開示の抗菌性包装材料が作製される旨が明示されている(同文献の明細書段落[0013]参照)。
【0004】
また、特許文献2(特許第3311833号公報)においては、水分を含むか、または表面に水分が付着した食品包装用の抗菌性積層体であって、水蒸気非透過性の基材フィルムと、所定の水蒸気透過率を有する水蒸気透過性フィルムとを、アリルイソチオシアネート(AITC)のシクロデキストリン包接化合物を含有する接着剤層を介して積層したことを特徴とする抗菌性積層体が、開示されている。
【0005】
このように、従来の包装材料等(積層フィルム)は、気化性物質を含有する層(気化性物質のみからなる層を含む)が設けられた合成樹脂層と他の合成樹脂層とを、熱融着(ヒートシール)や紫外線(UV)照射等の外部エネルギーを用いて、或いは接着剤を用いて、積層化する手法や、特許文献2に開示の如く、基材フィルムと気化性物質が透過可能な透過性フィルムとを、かかる気化性物質を含有する接着剤を用いて積層化する手法に従って、作製されるのが一般的である。
【0006】
一方、合成樹脂からなる薄膜の製造方法として、樹脂の合成と蒸着を真空中において同時に進行させる蒸着重合法が従来より知られている。かかる蒸着重合法は、他の製法では得ることが困難な比較的薄い(数100Å程度の膜厚の)薄膜を、均一な膜厚にて作製することが出来るという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】実開平5-16663号公報
【文献】特許第3311833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者等は、基材フィルムの一方の面上に、気化性物質からなる有効成分層及び合成樹脂膜からなる有効成分透過層がこの順に従って形成されてなる積層フィルムにおいて、蒸着重合法に従って得られる蒸着重合膜を有効成分透過層として採用することについて鋭意、研究を進めたところ、蒸着重合法により得られる合成樹脂膜(蒸着重合膜)に未反応の原料モノマーが残存する恐れがあることが判明した。そのような未反応の原料モノマーが残存している蒸着重合膜を有効成分透過層として有する積層フィルムにあっては、例えば食品の包装材料として使用すると、食品に含まれる水分に未反応の原料モノマーが溶出し、その結果、食品が鮮度色を失う恐れがある。
【0009】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、基材フィルムにおける一方の面上に、気化性物質からなる有効成分層が設けられ、かかる有効成分層上に有効成分透過層が設けられてなる積層フィルムであって、有効成分透過層を構成する合成樹脂膜に含まれる未反応の原料モノマーの量が効果的に減少せしめられたものを、有利に製造することが出来る方法を提供することにある。
【0010】
そして、本発明は、かかる課題を解決するために、基材フィルムにおける一方の面上に、気化性物質を含有する有効成分層が設けられ、かかる有効成分層上に有効成分透過層が形成されてなる積層フィルムの製造方法にして、前記有効成分層上に、蒸着重合法に従って合成樹脂膜を形成した後、少なくとも該合成樹脂膜の未反応部分に対してマイクロ波の電解成分のみを照射せしめることにより、重合が促進された該合成樹脂膜からなる前記有効成分透過層を形成することを特徴とする積層フィルムの製造方法を、その要旨とするものである。
【0012】
また、本発明に係る積層フィルムの製造方法においては、より好ましくは、前記合成樹脂膜がポリユリア樹脂膜である。
【発明の効果】
【0013】
このように、本発明に従う積層フィルムの製造方法においては、有効成分層上に、蒸着重合法に従って合成樹脂膜を形成した後、かかる合成樹脂膜における少なくとも未反応部分に対してマイクロ波を照射せしめて、有効成分透過層を形成せしめるものであるところから、照射されたマイクロ波によって、蒸着重合法によって形成された合成樹脂膜(蒸着重合膜)に含まれる未反応の原料モノマーの重合が効果的に促進し、以て、有効成分透過層を構成する合成樹脂膜中の未反応の原料モノマーの量が有利に減少せしめられることとなるのである。従って、本発明に係る製造方法により製造された積層フィルムにあっては、例えば食品の包装材料として使用しても、食品に付着等した水分等に溶出し得る未反応の原料モノマーの量が格段に少なくなるのである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の製造方法に従って製造される積層フィルムの一例を示す部分断面図である。
図2図1に示される積層フィルムの製造装置の一例を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を適宜に参照しながら、本発明を詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明に係る製造方法に従って製造される積層フィルムの一例を、有効成分層及び有効成分透過層の積層方向に平行な面で切断し、その断面を部分的に示す説明図である。かかる図1より明らかなように、本発明の製造方法に従って製造される積層フィルム10は、平面矩形状を呈する基材フィルム12の一方の面上に、有効成分層14及び有効成分透過層16が、基材フィルム12側よりこの順に従って積層形成されることにより、構成されている。
【0017】
なお、そのような積層フィルム10において、先ず、基材フィルム12は、主として有効成分層14及び有効成分透過層16を支持するために用いられるものである。基材フィルム12を構成する材料としては、種々の金属材料や樹脂材料等を例示することが出来、それら各種の材料の中から、有効成分層14に含まれる有効成分(香料等の気化性物質)の種類や積層フィルム10の用途等に応じたものが適宜、選択されることとなる。例えば、積層フィルム10を、食品における雑菌や黴(カビ)の発生防止効果を兼ね備えた包装材料として使用する場合には、気化した防菌・防黴剤が有効成分透過層16側からのみ透過して、防菌・防黴剤による効果を有利に享受出来るように、気化した防菌・防黴剤が透過しない材料からなる基材フィルム12を採用することが好ましい。また、積層フィルム10を、例えば生鮮食品の包装材として使用する場合には、視覚によって、被包装物たる生鮮食品の鮮度や色調等の確認が可能となるように、基材フィルム12は、合成樹脂等の透明性に優れた材料にて構成されていることが好ましい。なお、基材フィルム12の厚さは、基材フィルム12を構成する材料を考慮した上で、積層フィルム10の用途や使用される際の大きさ等に応じて適宜に決定されることとなるが、一般的には、数μm~数mm程度とされる。
【0018】
また、基材フィルム12の一方の面上に形成されている有効成分層14は、気化性物質を含有するものである。ここで、本明細書及び特許請求の範囲における「気化性物質を含有する」とは、気化性物質を気化可能な状態で含有していれば足りる趣旨である。従って、本発明における有効成分層としては、実質的に気化性物質のみから構成されるものや、気化性物質と他の材料(例えば合成樹脂)との混合物から構成されるもの等を、例示することが出来る。本発明において使用される気化性物質としては、気化可能な状態で有効成分層14を構成することが可能なものであれば、天然物や合成物を問わず、何れも使用することが可能であり、具体的には、従来より公知の防菌・防黴剤、香料、防臭剤、防食・防錆剤等を例示することが出来る。そのような気化性物質を含有する有効成分層14の厚さは、特に積層フィルム10に対して要求される、気化性物質の気化による効果を享受出来る時間(期間)を念頭に置いて、気化性物質の種類や含有量を考慮した上で、適宜に決定されるところ、一般的には、数μm~数mm程度とされる。
【0019】
さらに、有効成分層14上には有効成分透過層16が形成されているところ、かかる有効成分透過層16は、マイクロ波の照射によって未反応部分の重合が促進された蒸着重合膜(蒸着重合法に従って得られる合成樹脂膜)にて構成されている。
【0020】
ここで、蒸着重合膜とは、一般的に、加熱により蒸気化された二種以上の原料モノマーを真空状態の成膜室内に導入し、成膜室内に配置された成膜対象物の表面に付着させ、かかる表面にて原料モノマー間の重合を進行させることによって、形成されるものである。即ち、膜の形成が、成膜対象物の表面(本発明では有効成分層の表面)に存在する微細な凹凸に追従しながら進行するところから、有効成分層上に形成される蒸着重合膜は、有効成分層との間において優れた密着性を発揮することとなる。また、蒸着重合膜は、極めて薄い膜厚においても作製することが可能であり、得られる蒸着重合膜は、不純物の含有が非常に少ないという利点をも有する。従って、本発明の製造方法により得られる積層フィルムにあっては、有効成分透過層と有効成分層との間において、加水分解やヒートショック等に起因する層間剥離の発生が有利に抑制され、以て、有効成分たる気化性物質を必要な量だけ安定的に放出することが、可能ならしめられているのである。
【0021】
また、本発明に係る製造方法は、有効成分透過層を構成する合成樹脂膜を蒸着重合法によって形成するものであり、有効成分透過層として他の手法により得られる合成樹脂膜を採用する場合に必要とされる、合成樹脂膜と、有効成分層が形成された基材フィルムとを接着する際の接着剤や、熱や紫外線を用いた積層化処理が、本発明の製造方法においては不要である。従って、本発明に従って得られる積層フィルムにあっては、接着剤に含まれる気化成分によって有効成分たる気化性物質の気化が阻害される可能性も有利に排除され、有効成分の安定的な放出が担保されることとなる。また、積層化に際して熱や紫外線が使用されていないことから、気化性物質の変質が効果的に抑制され、気化性物質は積層フィルム内に安定的に保持されることとなるのである。
【0022】
さらに、蒸着重合法に従って得られる合成樹脂膜(蒸着重合膜)は、未反応の原料モノマーや未反応の官能基を有する2量体以上の重合体を含むもの、換言すれば、未反応部分を含むものであるところ、本発明に従う製造方法においては、そのような蒸着重合膜における未反応部分に対してマイクロ波を照射せしめる工程を有している。従って、マイクロ波の照射により、蒸着重合膜に含まれる未反応の原料モノマー等の重合が効果的に促進され、以て、本発明に係る製造方法より得られる積層フィルム10にあっては、その有効成分透過層14が、未反応の原料モノマーの量が有利に減少せしめられた蒸着重合膜にて構成されているのである。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、蒸着重合法に従って得られる合成樹脂膜(蒸着重合膜)の未反応部分とは、かかる膜における、未反応の原料のモノマー及び/又は未反応の官能基を有する2量体以上の重合体を含む部位を意味するものである。
【0023】
なお、有効成分透過層16を構成する合成樹脂としては、従来より公知の蒸着重合法に従って膜形成が可能な合成樹脂の中から、有効成分層14に含まれる気化性物質に応じたものが適宜に選択され、使用されることとなる。具体的には、気化した気化性物質が透過可能な合成樹脂の中から、積層フィルム10の用途や使用状態等に応じたものが、適宜に選択されることとなる。有効成分透過層16を構成する合成樹脂膜としては、ポリユリア樹脂膜、ポリアミド樹脂膜、ポリイミド樹脂膜、ポリアミドイミド樹脂膜、ポリエステル樹脂膜、ポリアゾメチン樹脂膜やポリウレタン樹脂膜等の、従来より公知の蒸着重合法に従って作製可能な各種の合成樹脂膜を例示することが出来る。このような合成樹脂膜の中でも、特にポリユリア樹脂膜にあっては、1)気化した気化性物質が効果的に透過可能な架橋構造を呈するものであること、2)透明であり、食品の包装材料として用いた場合、食品の色そのものを容易に視認することが出来ること、3)マイクロ波の照射によって架橋密度がより高くなり、有効成分透過層の強度が更に向上することによって、積層フィルムの破損やフィルム剥がれ等の発生を抑制し得ること、4)蒸着重合によるポリユリア樹脂の合成は重合反応が速く、また反応の際に副生成物も発生し難いものであるため、生産性が高い、等の理由より、本発明において有利に採用されることとなる。そのような合成樹脂膜からなる有効成分透過層16の厚さは、気化性物質のフィルム外部への単位時間当たりの放出量や、有効成分層14に含まれる気化性物質の種類や量等を総合的に考慮し、適宜に決定されることとなるが、通常、数μm~数mm程度とされる。
【0024】
上述してきた積層フィルム10を、本発明に係る製造方法に従って製造するに際しては、例えば、図2において概略的に示されている製造装置20が用いられることとなる。かかる製造装置20は、反応室としての真空槽22と、連結部24と、筐体部26とを有している。
【0025】
真空槽22には、真空ポンプ(図示せず)に連通している排気パイプ(図示せず)が接続されており、真空ポンプの作動により、装置内部(真空槽22、連結部24及び筐体部26の内部)の空気が排気パイプを通じて外部に排出されることによって、装置内部が真空状態とされるようになっている。
【0026】
また、真空槽22内にはメインローラ28が設置されており、筐体部26内には巻出しローラ30及び巻取りローラ32が設置されている。尚、メインローラ28及び巻取りローラ32は、各々、電動モータ等の回転駆動装置(図示せず)によって、連続的に回転駆動するようになっている。
【0027】
さらに、巻出しローラ30には、積層フィルム10の基材である基材フィルム12のロールが取り付けられており、このロールから巻き出された基材フィルム12は、メインローラ28に巻き掛けられている。また、メインローラ28から送り出された基材フィルム12は、巻取りローラ32にて巻き取られるようになっている。
【0028】
かくして、図2に示される製造装置20においては、メインローラ28及び巻取りローラ32の回転駆動により、巻出しローラ30から巻き出された基材フィルム12は、メインローラ28の外周面上を周方向の一方向(図中、矢印:αにて示される方向)に走行する。そして、基材フィルム12がメインローラ28の外周面上を走行している間に、後述する有効成分層形成ユニット及び蒸着重合膜形成ユニットにより、基材フィルム12上に、有効成分層14及び蒸着重合膜がこの順に従って形成され、更には、連結部24内に配置された後述するマイクロ波照射装置より、有効成分層14上に形成された蒸着重合膜に対するマイクロ波の照射により有効成分透過層16が形成されて、目的とする長手状の積層フィルム10とされ、その後、巻取りローラ62にて巻き取られるようになっているのである。なお、図2中、34a~34hはテンションローラである。
【0029】
真空槽22に取り付けられている2つの形成ユニットのうち、先ず、有効成分層形成ユニット36は、収容ポット38と、この収容ポット38を加熱するためのヒータ40a、40bとを有している。かかる収容ポット38内には、真空状態の下、液状の気化性物質42が収容されている。また、収容ポット38と真空槽22との間には、それらを相互に接続するための蒸気供給パイプ44が、収容ポット38との接続部上に開閉バルブ46が設置された状態にて、配置されている。加えて、蒸気供給パイプ44の先端開口部は、真空槽22内において、メインローラ28の外周面に対向するように配置されている。
【0030】
そのような構成に係る有効成分層形成ユニット36は、ヒータ40a、40bの加熱により、収容ポット38内にて気化性物質42の蒸気を発生させ、この蒸気を、開閉バルブ46を開作動させて、蒸気供給パイプ44を通じて真空槽22内に供給することにより、メインローラ28の外周面上を周方向に走行する基材フィルム12上に、吹き付けるようになっているのである。
【0031】
一方、蒸着重合膜形成ユニット48は、二つの収容ポット50a、50bと、それら二つの収容ポットのそれぞれを加熱するためのヒータ52a、52b、52c、52dとを有している。収容ポット50a、50bの各々には、有効成分透過層を構成する蒸着重合膜の原料モノマー54a、54bが、真空下、液体状態にて収容されている。
【0032】
ここで、二つの収容ポット50a、50b内に収容される原料モノマー54a、54bは、目的とする蒸着重合膜に応じて、適宜に選定され得るものであり、例えば、ポリユリア樹脂の蒸着重合膜を形成する場合には、2官能以上を有するアミンが一の収容ポットに、2官能以上を有するイソシアネートが他の一の収容ポットに、それぞれ収容される。2官能以上を有するアミンとしては、トリス(2-アミノエチル)アミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、ビスヘキサメチレントリアミン、1,6-ジアミノヘキサン、1,12-ジアミノドデカン、4,4-ジフェニルジアミノメタン、1,4-ジアミノベンゼン、m-キシリレンジアミン等を、例示することが出来る。また、2官能以上を有するイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアナート、m-キシリレンジイソシアナート、4,4’-ジイソシアン酸メチレンジフェニル等を、例示することが出来る。なお、三種類以上の原料モノマーを用いて、有効成分透過層16としての蒸着重合膜を形成する場合には、適宜、収容ポット及び加熱ヒータが追加されることとなる。
【0033】
また、収容ポット50a、50bと真空槽22との間には、それらを相互に接続するための蒸気供給パイプ56が、収容ポット50a、50bとの接続部上の各々に開閉バルブ58a、58bが設置された状態にて、配置されている。この蒸気供給パイプ56の先端開口部は、真空槽22内において、メインローラ28の外周面に対向するように配置されている。
【0034】
上述の如き構成に係る蒸着重合膜形成ユニット48は、各ヒータの加熱により収容ポット50a、50b内にて原料モノマー54a、54bの蒸気を発生させ、これらの蒸気を、開閉バルブ58a、58bを開作動させ、蒸気供給パイプ56を通じて真空槽22内に供給することにより、メインローラ28の外周面上を周方向に走行する基材フィルム12上に、吹き付けるようになっているのである。
【0035】
そして、蒸着重合膜形成ユニット48にて形成された蒸着重合膜に対してマイクロ波を照射するためのマイクロ波照射装置60が、その照射部が蒸着重合膜に対向するように、連結部24内に配置されているのである。
【0036】
かくの如き構造を有する製造装置20を用いて、積層フィルム10を製造する際には、以下の手順に従い、その操作が進められる。
【0037】
先ず、巻出しローラ30に取り付けられた基材フィルム12のロールより一部を巻き出し、その巻き出された基材フィルム12を、テンションローラ34a~34d、メインローラ28及びテンションローラ34e~34hにこの順に従って巻き掛け、マイクロ波照射装置60内を通過させ、最後に、巻取りローラ32に巻取り可能に取り付ける。その後、図示しない真空ポンプを作動させて、装置内部を真空状態とする。この際、真空槽22内が、例えば1×10-4~1×102 程度の圧力となるまで減圧される。
【0038】
次いで、メインローラ28と巻取りローラ32とを回転駆動させることにより、基材フィルム12のロールから、基材フィルム12を連続的に巻き出しながら、メインローラ28に送り出し、メインローラ28の外周面上を走行させた後に、巻取りローラ32側に搬送する。
【0039】
メインローラ28による基材フィルム12の搬送開始と共に、有効成分層形成ユニット36の収容ポット38内で発生した気化性物質42の蒸気が、蒸気供給パイプ44の先端開口部より、メインローラ28の外周面上を走行する基材フィルム12の表面に吹き付けられる。基材フィルム12上に吹き付けられた気化性物質42の蒸気は、温度低下により固体となり、以て、基材フィルム12上に、気化性物質42からなる有効成分層14が形成される。
【0040】
その後、基材フィルム12における、気化性物質42からなる有効成分層14が形成された部分が、蒸着重合膜形成ユニット48における蒸気供給パイプ56の先端開口部に対応する位置に到達すると、蒸着重合膜形成ユニット48における収容ポット50a、50b内で発生させた二種類の原料モノマー54a、54bの蒸気が、蒸気供給パイプ56の先端開口部より、メインローラ28の外周面上を走行する基材フィルム12の有効成分層14上に、混合状態で同時に吹き付けられる。これにより、有効成分層14上で、二種類の原料モノマー84a、84bの重合が進行し、蒸着重合膜が形成される。
【0041】
そして、有効成分層14上の蒸着重合膜に対して、マイクロ波照射装置60よりマイクロ波が照射されることにより、有効成分層14と有効成分透過層16とが、この順に従って基材フィルム12上に積層形成されてなる積層フィルム10が、長尺な帯状形態にて製造されるのである。このようにして得られる積層フィルム10にあっては、最外層たる有効成分透過層16が、マイクロ波が照射された蒸着重合膜にて構成されているのであり、マイクロ波の照射によって、蒸着重合膜に残存する未反応の原料モノマー及び/又は未反応の官能基を有する2量体以上の重合体間の重合が促進されているところから、有効成分透過層16に残存する未反応の原料モノマーの量は格段に少ないものとなるのである。なお、本発明に従う製造方法において、蒸着重合膜(蒸着重合法に従って得られる合成樹脂膜)に対するマイクロ波の照射は、少なくとも蒸着重合膜の未反応部分に対してマイクロ波が照射され得るように実施されることとなるが、蒸着重合膜における未反応部分以外の部位に対してマイクロ波が照射されても悪影響を与える恐れがない限り、蒸着重合膜の全体に対してマイクロ波を照射することによって、実施されることとなる。
【0042】
ここで、本発明において、蒸着重合膜に対して照射されるマイクロ波は、電界成分のみで構成されるものであることが好ましい。マイクロ波は、一般的に、電界成分と磁界成分とを併せ持つものであるところ、マイクロ波の電界成分のみを蒸着重合膜に対して照射すると、蒸着重合膜中の未反応モノマーの官能基のみが電界(電場)に反応し、未反応モノマー間にて反応が促進する一方で、反応済みのモノマー(ポリマー)に及ぼす影響は非常に小さいところから、蒸着重合膜や有効成分層の温度上昇が効果的に抑制され、有効成分層を構成する気化性物質の変質や気化を有利に防止することが可能となる。また、蒸着重合膜に対してマイクロ波を照射する際には、空洞共振器を使用することにより、マイクロ波の安定的な照射が可能となる。
【0043】
また、本発明において、蒸着重合膜に対して照射されるマイクロ波は、一般的にマイクロ波(周波数:300MHz~3THz)に分類される周波数の電磁波の中から、照射対象である蒸着重合膜を構成する樹脂材料の種類や厚さ、基材フィルムを構成する材料の種類や厚さ等を総合的に勘案して、所定の周波数のマイクロ波が選択されることとなる。例えば、蒸着重合膜がポリユリア樹脂膜である場合には、300MHz~100GHzのマイクロ波が、有利に採用される。照射されるマイクロ波の電力や照射時間等の照射条件については、同様に蒸着重合膜を構成する樹脂材料の種類等に応じて、適宜に決定される。
【0044】
以上、本発明に従う積層フィルムの製造方法について詳述したが、本発明の製造方法が、上記した製造装置や製造工程に限定されるものでないことは、言うまでもないところである。
【0045】
例えば、上述した製造装置20において、有効成分層14は、液状の気化性物質の蒸気を利用する蒸着法に従って製造されているが、蒸着法によっては層状に形成することが困難な気化性物質については、例えば塗工法等の公知の手法に従って、有効成分層14を形成することが可能である。塗工法に従って有効成分層14を形成する場合、気化性物質を所定の溶媒に溶解させて溶液を調製し、かかる溶液を基材フィルム12上に塗工し、その後に溶媒を乾燥させることによって、実質的に気化性物質のみから構成される有効成分層14を形成することが可能である。
【0046】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範疇に含まれるものであることは、言うまでもないところである。
【0047】
蒸着重合膜に対するマイクロ波の照射効果を確認すべく、以下の実験を行なった。
【0048】
基材フィルムとして、縦:10cm×横:10cm×厚さ:3μmの大きさのポリプロピレン(PP)製フィルムを準備した。PP製フィルムの一方の面上に、モノマーとしてジエチレントリアミンと1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンとを用いて、公知の蒸着重合法に従ってポリユリア樹脂からなる蒸着重合膜(厚さ:3μm)を形成し、試験フィルムとした。
【0049】
次いで、試験フィルム上の蒸着重合膜に対して、マイクロ波照射装置によりマイクロ波(電力:50W)を照射した。照射したマイクロ波の周波数及び成分、並びに照射時間(s)を下記表1に示す。尚、下記表1の「成分」欄において、「電界」とはマイクロ波の電界成分のみを照射したことを、また、「磁界」とはマイクロ波の磁界成分のみを照射したことを、各々、示すものである。
【0050】
マイクロ波の照射による蒸着重合膜中の未反応モノマーの反応率(%)を、IR測定(赤外分光測定)によって算出した。具体的には、IR分光器で測定される蒸着重合膜中のイソシアネートのピーク(2280cm-1)が、イソシアネートとアミンとの反応によって減少することを利用して、マイクロ波照射前の蒸着重合膜についての2280cm-1におけるピーク高さを100とし、マイクロ波照射後の蒸着重合膜についての2280cm-1におけるピーク高さを算出し、イソシアネートのピークの高さが減少した割合を反応率(%)とした。この反応率(%)の数値が大きいほど、マイクロ波の照射により蒸着重合膜中の未反応モノマーの反応が進行し、残存する未反応モノマーの量が少ないことを意味している。また、マイクロ波の照射前及び照射後に試験フィルムの温度を測定し、マイクロ波照射後のフィルム温度から照射前のフィルム温度を減じたものをΔT(℃)とした。これら反応率(%)及びΔT(℃)についても、下記表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
かかる表1の結果からも明らかなように、マイクロ波中の電界成分のみを照射した場合には、蒸着重合膜に含まれる未反応モノマーの反応が進行し、未反応モノマーの含有量が効果的に減少すると共に、マイクロ波照射による温度変化も小さいものとすることが可能となることが認められる。
【符号の説明】
【0053】
10 積層フィルム 12 基材フィルム
14 有効成分層 16 有効成分透過層
20 製造装置 36 有効成分層形成ユニット
48 蒸着重合膜形成ユニット
60 マイクロ波照射装置
図1
図2