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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】ステアリングコラム装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 1/184 20060101AFI20220628BHJP
   B62D 1/189 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
B62D1/184
B62D1/189
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018130347
(22)【出願日】2018-07-10
(65)【公開番号】P2020006840
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000237307
【氏名又は名称】富士機工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】上坂 陽太
(72)【発明者】
【氏名】藤原 一喜
【審査官】鈴木 貴晴
(56)【参考文献】
【文献】実開平4-98676(JP,U)
【文献】特開2016-52895(JP,A)
【文献】特開2002-46623(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/16-1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングシャフトを回転可能に支持するコラムジャケットと、
前記コラムジャケットを少なくともチルト位置調整可能に抱持すると共に、車体に取り付けられる車体取付ブラケットと、
前記車体取付ブラケットに設けられ、当該車体取付ブラケットの一部を撓み変形させることで前記チルト位置調整機能のロックとアンロックを司るロック機構と、
を備えたステアリングコラム装置において、
前記車体取付ブラケットは、折り曲げられた一枚の金属板で形成されていると共に、前記コラムジャケットの軸心方向から見たときに、下方が開放されたアーチ状をなしていて、
前記車体取付ブラケットは、
前記コラムジャケットを両側から挟み込む左右一対の側壁部と、
前記一対の側壁部の上端部同士を接続しているブリッジ部と、
前記一対の側壁部の前部および後部からそれぞれに外側に向けて折り返された前壁部および後壁部と、
前記前壁部から後方側に向けて折り返された折り曲げ素片と前記後壁部から前方側に向けて折り返された折り曲げ素片とが互いに重ね合わされることで形成されていて、前記車体に対する取付孔が形成された二枚重ね構造の取付壁部と、
を有していることを特徴とするステアリングコラム装置。
【請求項2】
前記それぞれの側壁部と前壁部と後壁部および取付壁部の四者によりボックス形状が形成されていて、前記前壁部と後壁部は、前記コラムジャケットの軸心方向から見たときに、下方に向かって次第に幅狭となる形状となっていることを特徴とする請求項1に記載のステアリングコラム装置。
【請求項3】
前記一対の側壁部には、前記チルト位置調整のためのチルト用長孔が上下方向に沿って形成されていると共に、前記チルト用長孔に近接して、少なくとも当該チルト用長孔の周囲を弾性変形容易にするための脆弱化スリットが形成されていることを特徴とする請求項2に記載のステアリングコラム装置。
【請求項4】
前記脆弱化スリットは、前記側壁部の上下方向に延びるスリット要素と、前記側壁部の前後方向に延びるスリット要素と、を含んでいることを特徴とする請求項3に記載のステアリングコラム装置。
【請求項5】
前記チルト用長孔と前記脆弱化スリットとが連続していることを特徴とする請求項4に記載のステアリングコラム装置。
【請求項6】
前記チルト用長孔が前記上下方向に延びるスリット要素と前記前後方向に延びるスリット要素とで囲まれていることを特徴とする請求項4に記載のステアリングコラム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくともチルト位置調整機能を備えた車両用のステアリングコラム装置に関し、特にコラムジャケットを抱持しつつ車体への取付部として機能する車体取付ブラケットの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のステアリングコラム装置、特にコラムジャケットを抱持しつつ車体への取付部として機能する車体取付ブラケットの構造に着目したものとして、例えば特許文献1に記載されたものが提案されている。
【0003】
この特許文献1に記載されたステアリングコラムの支持装置では、電動式パワーステアリング装置のハウジングを揺動変位可能に支持するための支持ブラケットを、金属板にプレス打ち抜き加工および曲げ加工を施すことにより形成し、各部の寸法および曲げ方向を工夫することで、特に支持剛性の確保に必要な第一,第二両側板板部の高さ寸法等を確保するようにしている。
【0004】
かかる特許文献1に記載された支持ブラケットの構造によれば、十分な強度および剛性を確保でき、しかも材料の歩留まりを良好にして、低コスト化を図ることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-60185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された支持ブラケットの構造は、電動式パワーステアリング装置用のステアリングコラムに特化して、その電動式パワーステアリング装置のハウジングを支持するために工夫したものではあるが、支持ブラケット本来の基本機能であるコラムジャケットの支持構造に着目した場合、金属板製の支持ブラケットだけではコラムジャケットを支持することができず、別途、上記支持ブラケットと組み合わされるコラムジャケット用の支持ブラケットが必要となる。
【0007】
そのため、支持ブラケットおよびコラムジャケット用の支持ブラケットを含む全体としての部品点数および重量を少なくしつつ、低コスト化を図る上でなおも改善の余地を残している。また、所定の箇所の剛性を上げるとともに、所定の箇所の剛性を下げることが難しいという問題がある。
【0008】
本発明はこのような課題に着目してなされたものであり、とりわけ一枚の金属板で形成されたブラケットでありながらも、車体への取付ブラケットとしての機能とコラムジャケットを支持する機能とを両立できるとともに、所定の箇所の剛性を上げたり下げたりすることができるように考慮されたステアリングコラム装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ステアリングシャフトを回転可能に支持するコラムジャケットと、前記コラムジャケットを少なくともチルト位置調整可能に抱持すると共に、車体に取り付けられる車体取付ブラケットと、前記車体取付ブラケットに設けられ、当該車体取付ブラケットの一部を撓み変形させることで前記チルト位置調整機能のロックとアンロックを司るロック機構と、を備えたステアリングコラム装置である。
【0010】
その上で、前記車体取付ブラケットは、折り曲げられた一枚の金属板で形成されていると共に、前記コラムジャケットの軸心方向から見たときに、下方が開放されたアーチ状をなしている。
【0011】
さらに、前記車体取付ブラケットは、前記コラムジャケットを両側から挟み込む左右一対の側壁部と、前記一対の側壁部の上端部同士を接続しているブリッジ部と、前記一対の側壁部の前部および後部からそれぞれに外側に向けて折り返された前壁部および後壁部と、前記前壁部から後方側に向けて折り返された折り曲げ素片と前記後壁部から前方側に向けて折り返された折り曲げ素片とが互いに重ね合わされることで形成されていて、前記車体に対する取付孔が形成された二枚重ね構造の取付壁部と、を有していることを特徴とする。
【0012】
望ましい態様としては、請求項2に記載のように、前記それぞれの側壁部と前壁部と後壁部および取付壁部の四者によりボックス形状に形成されていて、前記前壁部と後壁部は、前記コラムジャケットの軸心方向から見たときに、下方に向かって次第に幅狭となる形状となっているものとする。
【0013】
同様に望ましい態様としては、請求項3に記載のように、前記一対の側壁部には、前記チルト位置調整のためのチルト用長孔が上下方向に沿って形成されていると共に、前記チルト用長孔に近接して、少なくとも当該チルト用長孔の周囲を弾性変形容易にするための脆弱化スリットが形成されているものとする。
【0014】
さらに望ましい態様としては、請求項4に記載のように、前記脆弱化スリットは、前記側壁部の上下方向に延びるスリット要素と、前記側壁部の前後方向に延びるスリット要素と、を含んでいるものとする。
【0015】
さらに望ましい態様としては、請求項5に記載のように、前記チルト用長孔と前記脆弱化スリットとが連続しているものとする。
【0016】
同様に望ましい態様としては、請求項6に記載のように、前記チルト用長孔が前記上下方向に延びるスリット要素と前記前後方向に延びるスリット要素とで囲まれているものとする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、一枚の金属板で形成された車体取付ブラケットが、車体への取付機能とコラムジャケットを直接支持する機能とを有しているので、車体取付ブラケットの部品点数の削減と重量の軽減を図ることができ、特に車体取付ブラケットを含むステアリングコラム全体の軽量化を図る上で有利となる。
【0018】
特に車体取付ブラケットのうち車体への直接的な取付部として強度が要求されることになる取付壁部がいわゆる二枚重ね構造となっているので、取付壁部に必要な強度を確保しつつ、他の部位では一枚構成とすることができるため、軽量化を図る上で一段と有利となる。
【0019】
また、車体取付ブラケットを一枚の板材として展開した形状では、折り曲げ線の設定位置にもよるものの、上下および左右方向で略対称形状とすることができ、それによって所定幅の板材(母材)から切り出す際の材料歩留まりも良好なものとなる。
【0020】
請求項2に記載の発明によれば、車体取付ブラケットの前壁部と後壁部は、コラムジャケットの軸心方向から見たときに、下方に向かって次第に幅狭となる形状となっているため、剛性を確保したい上部ほど高剛性とし、チルト位置調整機能のために弾性変形または撓み変形させたい下部では相対的に剛性を低くすることができ、前壁部と後壁部とに要求される相反する機能を無理なく充足することができる。
【0021】
請求項3に記載の発明によれば、車体取付ブラケットの側壁部には、チルト位置調整のためのチルト用長孔に近接して、当該チルト用長孔の周囲を弾性変形容易にするための脆弱化スリットが形成されているため、上記と同様に、剛性を確保したい側壁部の上部ほど高剛性とし、チルト位置調整機能のために弾性変形または撓み変形させたい側壁部の下部では部分的に脆弱化させて剛性を低くすることができ、チルト位置調整に際して要求される機能を無理なく充足することができる。
【0022】
請求項4に記載の発明によれば、脆弱化スリットは、側壁部の上下方向に延びるスリット要素と、側壁部の前後方向に延びるスリット要素と、を含んでいるので、側壁部の部分的な脆弱化を容易に実現することができる。
【0023】
請求項5に記載の発明によれば、チルト用長孔と脆弱化スリットとが連続しているため、チルト用長孔と脆弱化スリットとを一つとみなしてそれらの加工を容易に行える。
【0024】
請求項6に記載の発明によれば、チルト用長孔が上下方向に延びるスリット要素と前後方向に延びるスリット要素とで囲まれているため、側壁部の部分的な脆弱化を容易に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明に係るステアリングコラム装置の第1の実施の形態を示す側面図。
図2図1に示したステアリングコラム装置の平面図。
図3図1に示したステアリングコラム装置を右側から見た正面図。
図4図1に示したステアリングコラム装置を右側から見た要部側面図。
図5図1,2に示したステアリングコラム装置における車体取付ブラケット単独での斜視図。
図6図5に示した車体取付ブラケットの詳細を示す4面図で、(A)は平面図、(B)は正面図、(C)は左側面図、(D)は右側面図。
図7図5に示した車体取付ブラケットの展開図。
図8】本発明に係るステアリングコラム装置の第2の実施の形態として車体取付ブラケットの別の例を示す3面図で、(A)は正面図、(B)は左側面図、(C)は右側面図。
図9】本発明に係るステアリングコラム装置の第3の実施の形態として車体取付ブラケットの別の例を示す3面図で、(A)は正面図、(B)は左側面図、(C)は右側面図。
図10】本発明に係るステアリングコラム装置の第4の実施の形態として車体取付ブラケットの別の例を示す3面図で、(A)は正面図、(B)は左側面図、(C)は右側面図。
図11】本発明に係るステアリングコラム装置の第5の実施の形態として車体取付ブラケットの別の例を示す3面図で、(A)は正面図、(B)は左側面図、(C)は右側面図。
図12】本発明に係るステアリングコラム装置の第6の実施の形態として車体取付ブラケットの別の例を示す3面図で、(A)は正面図、(B)は左側面図、(C)は右側面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1~7は本発明に係るステアリングコラム装置を実施するためのより具体的な第1の形態を示していて、特に図1は対象となるステアリングコラム装置の側面図を、図2は上記ステアリングコラム装置の平面図をそれぞれ示している。また、図3図2を右側から見た正面図を、図4を右側から見た要部側面図をそれぞれ示している。
【0027】
なお、図1~4に例示したステアリングコラム装置は、チルト位置調整機能(コラムジャケット2のチルト動作によるステアリングホイールの上下位置調整機能)とテレスコ位置調整機能(コラムジャケット2のテレスコピック動作によるステアリングホイールの前後位置調整機能)とを有している。
【0028】
また、図1~4では、車体取付ブラケット1を含むステアリングコラム装置単独の状態を示しているが、以下の説明において「前方側」、「後方側」、「前端」、「後端」、「前後方向」、「上下方向」等の用語は、あくまでステアリングコラムの車載状態での向きを基準としていて、例えば「前方側」とは車両前方側を指している。
【0029】
図1~4に示すように、ステアリングコラム装置は、大きく分けて、車体への取付部として機能する車体取付ブラケット(以下、単に「取付ブラケット」と称する。)1と、前後方向に延びるコラムジャケット2と、ロック機構3と、を備えている。取付ブラケット1は、その名の通り車体側への例えばボルト締結による取付部として機能する。
【0030】
コラムジャケット2はいわゆる二重筒構造のものであって、例えばダイカスト製の筒状のロアジャケット2aを外側にしてその内側に同じく筒状のアッパージャケット2bがロアジャケット2aから突出するように摺動可能に挿入されている。また、コラムジャケット2にはステアリングシャフト4が図示を省略した複数の軸受を介して回転可能に軸受支持されている。ステアリングシャフト4も図示を省略したロアシャフトとアッパーシャフトとが摺動可能に組み合わされたいわゆる二重筒構造のものである。そして、そのステアリングシャフト4の後端部に同じく図示を省略したステアリングホイールのボス部が接続される。
【0031】
ロアジャケット2aの前端部側には、取付孔5bが形成された一対のフランジ部5aを有するロアブラケット5がピン6を介して回転可能に連結されている。これらのロアブラケット5もまた取付ブラケット1と共に車体側への取付部として機能する。また、ピン6は、後述するチルト位置調整に際してのチルトヒンジ点として機能する。
【0032】
コラムジャケット2の長手方向(前後方向)の中間部に相当する位置であって、ロアジャケット2aの後端部の外側には取付ブラケット1が配置されている。この取付ブラケット1は、後述する図5に示すように、コラムジャケット2の軸心方向から見たときに、下方が開放された変形アーチ状に形成されている。そして、その変形アーチ状の内側空間にコラムジャケット2を抱きかかえるように抱持している。また、取付ブラケット1は、左右一対の側壁部8と、これら左右一対の側壁部8同士を接続しているブリッジ部9と、各側壁部8の前後に形成された前壁部10および後壁部11と、車体側への取付壁部として機能する上壁部12と、から構成されている。なお、取付ブラケット1の詳細については後述する。
【0033】
ロアジャケット2aの下面部では、図3に示すように、長手方向に沿ったすり割り溝13で擦り割られている。また、ロアジャケット2aの後端部のうち取付ブラケット1の幅寸法に相当する部分では、同じく図3に示すように、すり割り溝13をはさんでその両側に取付ブラケット1側の側壁部8とほぼ同等の大きさのクランプ壁部14が一体に形成されている。そして、これらの左右一対のクランプ壁部14を含むロアジャケット2aを上方から跨ぐかたちで、変形アーチ状の取付ブラケット1が配置されている。これにより、取付ブラケット1の左右の側壁部8とロアジャケット2a側の左右のクランプ壁部14とが互いに重なり合っている。
【0034】
ロアジャケット2a側のクランプ壁部14と取付ブラケット1側の側壁部8とが重なる部分では、互いに重なり合う同等の大きさのチルト用長孔15a,15b(取付ブラケット1側のチルト用長孔15a,15bのみが図1,4のほか後述する図5に示されている。)がそれぞれに形成されている。これらのチルト用長孔15a,15bは、例えば図1に示したピン6からの距離を曲率半径とする円弧状のものとして形成されている。
【0035】
ロアジャケット2a側のクランプ壁部14と取付ブラケット1側の側壁部8に形成されたチルト用長孔15a,15bには、図1,3,4に示すように、ロック機構3のロックボルト16が貫通されている。ロックボルト16の一端には操作レバー17が連結され、ロックボルト16の他端にはナット18が締結固定されている。これらのロックボルト16とナット18および操作レバー17の三者によりロック機構3が形成されている。そして、操作レバー17が図1での図示位置にある状態がロック状態であり、操作レバー17を図1の位置から引き下げるとアンロック状態となる。
【0036】
ロック機構3のロック状態では、取付ブラケット1における双方の側壁部8が適度に撓み、双方の側壁部8間に図3に示したロアジャケット2a側の双方のクランプ壁部14を挟み込むように圧締保持することになる。つまり、ロックボルト16の軸力で取付ブラケット1側の側壁部8とロアジャケット2a側のクランプ壁部14とが圧接することで両者の相対移動が阻止されて、チルト位置調整が不能となる。
【0037】
同時に、ロックボルト16の軸力で、ロアジャケット2a側の双方のクランプ壁部14が互いに接近するように、取付ブラケット1の双方の側壁部8で締め込まれることで、ロアジャケット2aの内径が縮径してアッパージャケット2bを締め込むことになる。これにより、ロアジャケット2aとアッパージャケット2bとの相対移動が阻止されて、テレスコ位置調整が不能となる。
【0038】
他方、ロック機構3のアンロック状態では、ロックボルト16の軸力に基づく取付ブラケット1側の双方の側壁部8間の圧締保持力が解除される。これにより、取付ブラケット1の側壁部8とロアジャケット2a側のクランプ壁部14との相対移動が可能となり、先に述べたチルト用長孔15a,15bの範囲内でのチルト位置調整が可能となる。同時に、取付ブラケット1側の双方の側壁部8間の圧締保持力が解除されることで、ロアジャケット2aによるアッパージャケット2bの縮径保持力が解除される。これにより、ロアジャケット2aとアッパージャケット2bとの長手方向での相対移動に基づくテレスコ位置調整が可能となる。
【0039】
図5図1~4に示した取付ブラケット1単独での斜視図を示し、図6は取付ブラケット1の4面図を示している。すなわち、図6の(A)は図5に示した取付ブラケット1の平面図、同図(B)は正面図、同図(C)は左側面図、同図(D)は右側面図をそれぞれ示している。さらに、図7図5に示した取付ブラケット1の展開図を示している。
【0040】
図5に示した取付ブラケット1は、例えば鋼板その他の所定厚み(板厚が例えば2.0~3.0mm程度)の一枚の金属板(板材)にプレス加工による打ち抜き加工と曲げ加工を施すことで形成される。図7から明らかなように、打ち抜き加工後であって且つ曲げ加工前の展開形状の取付ブラケット1の中間成形品Wは、略偏平八角形で且つ略左右対称形状ものとして形成される。
【0041】
図5,6に示した取付ブラケット1は、先にも述べたように、互いに平行で且つ同等の大きさで矩形状をなす左右一対の側壁部8と、それらの左右一対の側壁部8の上端部同士を接続している幅狭のブリッジ部9と、各側壁部8の前端および後端から外側に向けて互いに平行となるようにそれぞれに直角に折り曲げて形成された前壁部10および後壁部11と、各側壁部8および各側壁部8の前後の前壁部10と後壁部11とが共有するかたちでそれらの上側に位置する取付壁部としての矩形状の上壁部12と、を備えている。ブリッジ部9は、左右の上壁部12よりも上方側に突出するように上側に向かって膨出形成されている。
【0042】
上壁部12は、前壁部10の上部側に連続する折り曲げ素片10aを後方側に直角に折り曲げる一方、後壁部11の上部側に連続する折り曲げ素片11aを前方側に直角に折り曲げて、双方の折り曲げ素片10a,11a同士を互いに重ね合わせたものである。これにより二枚重ね構造の矩形状の上壁部12が形成されている。各上壁部12には車体への取り付けのためのボルトが挿入される取付孔19が形成されている。
【0043】
また、この二枚重ね構造の上壁部12から下方に連続する前壁部10および後壁部11は、コラムジャケット2の軸心方向から見たときに、下方に向かって次第に幅狭となるように略三角形状のものとして形成されている。その結果として、矩形状の側壁部8と、その側壁部8の周囲三辺部を囲繞している前壁部10と後壁部11および上壁部12の四者により略ボックス状に形成されている。なお、前壁部10および後壁部11は必ずしも略三角形状のものである必要はなく、下方に向かって次第に幅狭となるような形状であれば他の形状であっても良い。
【0044】
左右の側壁部8の同等位置には、先に述べたチルト位置調整のためのチルト用長孔15aまたは15bが上下方向に沿って形成されている。さらに、左右の側壁部8には、各チルト用長孔15a,15bの上端部に連続するように、上方から下方に向かって脆弱化スリット20が形成されている。
【0045】
ここで、一方のチルト用長孔15bが長円形のものとして形成されているのに対して、他方のチルト用長孔15aは一方のチルト用長孔15bよりも一回り大きな長角孔状のもとして形成されている。その理由は、図1に示すように、チルト用長孔15aが形成された側壁部8と操作レバー17との間に介装されるカム部材25を回転不能に拘束するめに、チルト用長孔15aにカム部材25の一部を嵌合させて回り止め機能を具備させているためである。なお、カム部材25もロック機構3の一部を形成している。また、チルト用長孔15a,15bは両方とも長角孔状としても良い。
【0046】
図6に示した脆弱化スリット20には、上端が開放されていてその上端から下方に延びるスリット要素20aと、スリット要素20aの下端からチルト用長孔15aまたは15bに向かって傾斜して延びるスリット要素20bと、が含まれている。なお、双方の側壁部8の上端において、スリット要素20aよりも後方側では側壁部8の上端と折り曲げ素片10aとが密着しているのに対して、スリット要素20aよりも前方側では側壁部8の上端と折り曲げ素片10aとが密着せずに隙間Gが確保されている。これにより、複数のスリット要素20a,20bからなる脆弱化スリット20がチルト用長孔15aまたは15bに連続していて、結果としてチルト用長孔15a,15bが左右の側壁部8の上端の隙間Gに開放されている。このように、取付ブラケット1の側壁部8に形成されたチルト用長孔15a,15bが脆弱化スリット20を介して上方に開放されていることにより、側壁部8同士の対向方向において、それぞれのチルト用長孔15a,15bの周囲が容易に撓み変形または弾性変形するようにその脆弱化が図られている。
【0047】
このように形成された取付ブラケット1は、図1,2に示したように、ロアジャケット2aの上端部において双方のクランプ壁部14を跨ぐようにそれらのクランプ壁部14の外側に組み付けられ、クランプ壁部14側のテレスコ用長孔および取付ブラケット1における双方の側壁部8のチルト用長孔15a,15bを貫通するようにしてロック機構3のロックボルト16が挿通される。そして、ステアリングホイールのチルト位置調整またはテレスコ位置調整に際して、操作レバー17のロックまたはアンロック操作と協働して、そのロック状態またはアンロック状態の維持を司ることになる。
【0048】
したがって、本実施の形態の取付ブラケット1によれば、取付ブラケット1のうち車体への取付壁部として機能する上壁部12が、折り曲げ素片10a,11a同士による二枚重ね構造となっているとともに、側壁部8とその側壁部8を取り囲む前壁部10と後壁部11および上壁部12とでボックス形状を形成しているため、取付ブラケット1の軽量化を図りつつ必要な強度を十分に確保することができる。
【0049】
より詳しくは、図7に示した一枚の展開形状の中間成形品Wに折り曲げ加工を施したものが、車体への取付機能とステアリングコラムのコラムジャケット2を直接支持する機能とを有しているため、取付ブラケット1の部品点数の削減と重量の軽減を図ることができ、特に取付ブラケット1を含むステアリングコラム全体の軽量化を図る上で有利となる。
【0050】
特に、車体への取付壁部として機能することになる上壁部12が剛性確保の上で最も強度が要求されることになるが、その上壁部12のみが二枚重ね構造となっているので、その上壁部12に必要な強度を確保しつつ、他の部分では一枚構成とすることができ、取付ブラケット1を含むステアリングコラム全体の軽量化を図る上で一段と有利となる。
【0051】
しかも、上壁部12から下方に連続する前壁部10と後壁部11は、下方に向かって次第に幅狭となる略三角形状をなしているので、剛性を確保したい取付ブラケット1の上部ほど高剛性とし、チルト位置調整機能あるいはテレスコ位置調整機能のために積極的に弾性変形または撓み変形させたい下部では剛性を低くすることができ、一枚の板材のみで取付ブラケット1に要求される機能を無理なく充足することができる。
【0052】
また、取付ブラケット1の側壁部8には、チルト用長孔15a,15bに近接してそのチルト用長孔15a,15bの周囲を弾性変形容易にするための脆弱化スリット20が形成されているので、上記と同様に、剛性を確保したい側壁部8の上部ほど高剛性とし、チルト位置調整機能のために積極的に弾性変形または撓み変形させたい側壁部8の下部では部分的に脆弱化させて剛性を低くすることができ、一枚の板材のみでチルト位置調整またはテレスコ位置調整に際して要求される機能を無理なく充足することができる。
【0053】
さらに、脆弱化スリット20は、側壁部8の上下方向に延びるスリット要素20aと、側壁部8の前後方向に延びるスリット要素20bと、を含んでいるので、側壁部8の部分的な脆弱化を容易に実現することができる。その上、チルト用長孔15a,15bと脆弱化スリット20とが連続しているため、チルト用長孔15a,15bと脆弱化スリット20とを一つとみなしてそれらの加工を容易に行える。
【0054】
加えて、図7に示したように、取付ブラケット1を一枚の板材として展開した中間成形品Wとしての形状では、折り曲げ線の設定位置にもよるものの、偏平八角形で上下および左右方向で略対称形状となっているので、所定幅の板材(母材)から中間成形品Wを切り出す際の材料歩留まりも良好なものとなる。
【0055】
図8~12は、本発明に係るステアリングコラム装置を実施するための第2~第6の形態を示していて、図6に示した取付ブラケット1の別の例を示している。なお、これらの第2~第6の実施の形態において、図6と共通する部分には同一符号を付して、重複する説明は省略するものとする。また、いずれの図においても(A)は正面図、(B)は左側面図、(C)は右側面図である。
【0056】
図8に示す第2の実施の形態では、双方の側壁部8において、チルト用長孔15a,15bに連続しない脆弱化スリット21が形成されている。この脆弱化スリット21は、各側壁部8の上端部で前後方向に延びるスリット要素21aと、このスリット要素21aに連続しつつ側壁部8の上下方向に延びるスリット要素21bと、で略L字状に形成されている。その結果として、チルト用長孔15a,15bは略L字状の脆弱化スリット21で取り囲まれている。
【0057】
したがって、この第2の実施の形態では、各側壁部8のうちチルト用長孔15a,15bを含みつつL字状の脆弱化スリット21で囲まれた部分を積極的に脆弱化させて撓み変形容易にする上で有利となる。
【0058】
図9に示す第3の実施の形態では、双方の側壁部8において、チルト用長孔15a,15bに連続しない脆弱化スリット22が形成されている。この脆弱化スリット22は、各側壁部8の上端部で前後方向に延びるスリット要素22aと、このスリット要素22aの両端に連続しつつ側壁部8の上下方向に延びる一対のスリット要素22bと、で略U字状に形成されている。その結果として、チルト用長孔15a,15bは略U字状の脆弱化スリット22で取り囲まれている。
【0059】
したがって、この第3の実施の形態では、上記の第2の実施の形態と同様の利点がある。
【0060】
図10に示す第4の実施の形態では、双方の側壁部8において、チルト用長孔15a,15bに連続しない脆弱化スリット23が形成されている。この脆弱化スリット23は、各側壁部8の上端部で上下方向に延びるスリット要素23aと、このスリット要素23aと所定角度をなして連続しつつチルト用長孔15aまたは15bとほぼ平行にさらに下方に延びるスリット要素23bと、で略く字状に形成されている。なお、スリット要素23aの上端は隙間Gに開放されてこの隙間Gに連続している。
【0061】
したがって、この第4の実施の形態では、各側壁部8のうちチルト用長孔15a,15bを含みつつ隙間Gと脆弱化スリット23で囲まれた部分を積極的に脆弱化させて撓み変形容易にする上で有利となる。
【0062】
図11に示す第5の実施の形態では、双方の側壁部8において、チルト用長孔15a,15bに連続しない脆弱化スリット23が形成されている。この脆弱化スリット23は、図10に示した第4の実施の形態のものと同じである。その上で、双方の後壁部11にはそれ自体と相似形をなす三角形の中抜き孔11bが形成されている。
【0063】
したがって、この第5の実施の形態では、後壁部11に形成された中抜き孔11bの端部が各側壁部8に及んでいて、この中抜き孔11bの端部と脆弱化スリット23との間にチルト用長孔15aまたは15bが挟まれている。そのため、チルト用長孔15a,15bを含みつつ中抜き孔11bの端部と脆弱化スリット23とで挟まれた部分を積極的に脆弱化させて撓み変形容易にする上で有利となる。
【0064】
図12に示す第6の実施の形態では、双方の後壁部11にはそれ自体と相似形をなす三角形の中抜き孔11bが形成されている点で、図11に示した第5の実施の形態と共通している。そして、双方の側壁部8において、チルト用長孔15a,15bに連続しない脆弱化スリット24が形成されている。この脆弱化スリット24は、各側壁部8の上端部で前後方向に延びるスリット要素24aと、このスリット要素24aに連続しつつ側壁部8の上下方向に延びるスリット要素24bと、で略L字状に形成されている。その上で、スリット要素24aが後壁部11に形成された中抜き孔11bに連続している。
【0065】
したがって、この第6の実施の形態では、各側壁部8に臨んでいる中抜き孔11bとそれに連続している脆弱化スリット24とでチルト用長孔15aまたは15bが取り囲まれている。そのため、各側壁部8のうちチルト用長孔15a,15bを含みつつ中抜き孔11bと脆弱化スリット24で囲まれた部分を積極的に脆弱化させて撓み変形容易にする上で有利となる。
【符号の説明】
【0066】
1……車体取付ブラケット
2…コラムジャケット
3…ロック機構
4…ステアリングシャフト
8…側壁部
9…ブリッジ部
10…前壁部
10a…折り曲げ素片
11…後壁部
11a…折り曲げ素片
12…上壁部(取付壁部)
15a,15b…チルト用長孔
16…ロックボルト
17…操作レバー
19…取付孔
20…脆弱化スリット
20a…スリット要素
20b…スリット要素
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12