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特許7096142筆記具用インキ組成物およびそれを用いた筆記具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】筆記具用インキ組成物およびそれを用いた筆記具
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/16 20140101AFI20220628BHJP
   C09D 11/18 20060101ALI20220628BHJP
   B43K 7/00 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
C09D11/16
C09D11/18
B43K7/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018215217
(22)【出願日】2018-11-16
(65)【公開番号】P2020083927
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】藤井 武
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-65917(JP,A)
【文献】特開2001-123103(JP,A)
【文献】特開2015-89891(JP,A)
【文献】特開2014-91746(JP,A)
【文献】特開2017-213738(JP,A)
【文献】特開2000-129190(JP,A)
【文献】特開2008-88264(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0110565(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
B43K 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤、有機溶剤、フルクトオリゴ糖脂肪酸エステルを含んでなることを特徴とする筆記具用インキ組成物。
【請求項2】
前記フルクトオリゴ糖脂肪酸エステルの含有量が、インキ組成物全量に対して、0.1~10.0質量%であることを特徴とする請求項1に記載の筆記具用インキ組成物。
【請求項3】
前記筆記具用インキ組成物に、界面活性剤を含んでなることを特徴とする請求項1または2に記載の筆記具用インキ組成物。
【請求項4】
前記筆記具用インキ組成物に、ポリビニルブチラール樹脂またはケトン樹脂を含んでなることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の筆記具用インキ組成物。
【請求項5】
20℃、剪断速度3.4sec-1におけるインキ粘度が、50000mPa・s以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の筆記具用インキ組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の筆記具用インキ組成物を収容してなることを特徴とする筆記具。
【請求項7】
インキ収容筒の先端部に、ボールを回転自在に抱持したボールペンチップを有し、前記インキ収容筒内に請求項1ないし6のいずれか1項に記載の筆記具用インキ組成物を収容してなることを特徴とするボールペン。
【請求項8】
請求項7に記載のボールペンが油性ボールペンであることを特徴とするボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筆記具用インキ組成物およびそれを用いた筆記具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、筆記具用インキ組成物において、筆記先端部の間隙よりインキ漏れ(ボールとチップ先端の間隙よりインキ漏れ)を抑制するために、インキ漏れ抑制剤として、特定の樹脂や剪断減粘性付与剤を用いてインキ粘度を高く設定した油性インキ組成物、水性インキ組成物の技術が提案されており、インキ漏れ抑制については、ある程度抑制することはできるが、筆記先端部を大気中に放置すると、インキ中の溶媒などが蒸発して、樹脂や剪断減粘性付与剤(インキ漏れ抑制剤)、着色剤などが乾燥固化したときに、ドライアップ時の書き出し(書き出し性能)において筆跡カスレが発生したり、書き味が十分ではないといった欠点があった。
【0003】
このようなドライアップ時の書き出し(書き出し性能)を向上するために、様々な溶剤や添加剤を用いることを検討していた。例えば、蒸気圧0.005~0.5mmHg(20℃)である不揮発性の有機溶剤を主溶剤として含有したものとしては、特開平6-247093号公報「油性ボールペン」が、平均分子量が200~4,000,000であるポリエチレングリコールを含有したものとしては特開平7-196971公報「油性ボールペン用インキ組成物」が、デカマカデミアナッツ油脂肪酸デカグリセリルと、アルキル基の炭素数が16以上であり常温で固体のポリオキシエチレンアルキルエーテルとを少なくとも含有するものとしては、特開2008-88264号公報「ボールペン用油性インキ組成物」、特開昭63-8465号公報「ボ-ルペン用水性顔料インキ」、特開2015-67828号公報「筆記具用水性インク組成物」等に、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】「特開平6-247093号公報」
【文献】「特開平7-196971号公報」
【文献】「特開2008-88264号公報」
【文献】「特開昭63-8465号公報」
【文献】「特開2015-67828号公報」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1では、有機溶剤として、蒸気圧0.005~0.5mmHg(20℃)である不揮発性の有機溶剤を含有すると、インキが完全に乾ききるのを防ぐ効果はあるが、筆跡の乾燥性が悪く、それだけではドライアップ時の書き出し(書き出し性能)を満足させることができなかった。
【0006】
また、特許文献2、3では、油性インキの添加剤として、特定分子量のポリエチレングリコール、デカマカデミアナッツ油脂肪酸デカグリセリルを含有すること、特許文献4では、水性インキの添加剤として、ワックスエマルジョンを含有することで、チップ先端部に樹脂被膜を形成することで、筆記先端部の乾燥を抑制して、チップ内のインキ増粘を抑制えることにより、ある程度書き出し性能を向上することは可能ではあるが、樹脂被膜が硬いため、ドライアップ時の書き出し(書き出し性能)において、筆跡カスレが発生してしまい、十分な書き出し性能が得られなかった。
【0007】
また、特許文献5では、水性インキの添加剤として、非還元糖、還元澱粉分解物を含有することで、樹脂被膜を形成するが、樹脂被膜が柔らかすぎるため、十分な書き出し性能が得られなかった。
【0008】
上記のように、特定の樹脂や剪断減粘性付与剤のようなインキ漏れ抑制剤で、筆記先端部に樹脂被膜などを形成して、インキ漏れを抑制できたとしても、該樹脂被膜などが硬いため、書き出し性能が劣ってしまい、前記2つの性能を両立することが難しく、改良する余地があった。
【0009】
本発明の目的は、インキ漏れを抑制し、書き出し性能を向上する筆記具用インキ組成物およびそれを用いた筆記具を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために
「1.着色剤、有機溶剤、フルクトオリゴ糖脂肪酸エステルを含んでなることを特徴とする筆記具用インキ組成物。
2.前記フルクトオリゴ糖脂肪酸エステルの含有量が、インキ組成物全量に対して、0.1~10.0質量%であることを特徴とする第1項に記載の筆記具用インキ組成物。
3.前記筆記具用インキ組成物に、界面活性剤を含んでなることを特徴とする第1項または第2項に記載の筆記具用インキ組成物。
4.前記筆記具用インキ組成物に、ポリビニルブチラール樹脂またはケトン樹脂を含んでなることを特徴とする第1項ないし第3項のいずれか1項に記載の筆記具用インキ組成物。
5.20℃、剪断速度3.4sec-1におけるインキ粘度が、50000mPa・s以下であることを特徴とする第1項ないし第4項のいずれか1項に記載の筆記具用インキ組成物。
6.第1項~第5項のいずれか1項に記載の筆記具用インキ組成物を収容してなることを特徴とする筆記具。
7.インキ収容筒の先端部に、ボールを回転自在に抱持したボールペンチップを有し、前記インキ収容筒内に第1項ないし第6項のいずれか1項に記載の筆記具用インキ組成物を収容してなることを特徴とするボールペン。
8.第7項に記載のボールペンが油性ボールペンであることを特徴とするボールペン。」とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、筆記先端部の間隙からインキ漏れ(ボールとチップ先端の間隙からのインキ漏れ)を抑制し、筆記先端部が乾燥した時の書き出し性能を良好とする筆記具用インキ組成物およびそれを用いた筆記具を得ることができた。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本明細書において、配合を示す「部」、「%」、「比」などは特に断らない限り質量基準であり、含有量とは、インキ組成物の質量を基準としたときの構成成分の質量%である。
【0013】
本発明の特徴は、筆記具用インキ組成物に、フルクトオリゴ糖脂肪酸エステルを含んでなることで、筆記先端部の間隙からインキ漏れ(ボールとチップ先端の間隙からのインキ漏れ)を抑制するだけでなく、さらに、筆記先端部が乾燥した時の書き出し性能を良好とすることができ、2つの性能を両立することが可能であることが解った。
【0014】
(フルクトオリゴ糖脂肪酸エステル)
本発明では、インキ漏れをより抑制しやすくするには、筆記具用インキ組成物にフルクトオリゴ糖脂肪酸エステルを含んでなることが重要である。これは、フルクトオリゴ糖脂肪酸エステルが、インキ中で粘性粒子状に分散していることで、筆記具の筆記先端部の隙間に物理的な障害を起こして、インキの流動を抑えることで、筆記先端部の間隙からインキ漏れ(ボールペンの場合はボールとチップ先端の間隙からのインキ漏れ)を抑制しながら、さらに、筆記先端部の乾燥時に高い付着性を有する被膜を形成することで、筆記先端部の間隙から、よりインキ漏れを抑制することができるためである。特に、ボールペンの場合は、筆記を繰り返すことで、ボールとチップ先端の間隙を生じやすく、インキ漏れの影響が出やすいため、ボールペンでは効果的で、インキ粘度が高く設定する油性ボールペン用インキ組成物では、より効果的である。
また、インキ粘度調整剤として樹脂などを用いると、筆記先端部が乾燥した時に、樹脂被膜を形成することで、インキ漏れを抑制することができるが、硬い樹脂被膜を形成しやすく、前記樹脂による被膜形成に時間がかかることで(乾きが遅い)、チップ内のインキが乾いて、インキ増粘しやすく、書き出し性能が劣りやすく、改良の余地があった。
そこで、さらなるフルクトオリゴ糖脂肪酸エステルの効果としては、フルクトオリゴ糖脂肪酸エステルは粘性粒子状に分散しており、筆記先端部が乾燥した時に、形成する被膜が、脆い粒子被膜であり、硬くならないため、書き出し性能も向上することができる。そのため、フルクトオリゴ糖脂肪酸エステルを用いることで、筆記先端部の間隙からインキ漏れを抑制するだけではなく、さらに、書き出し性能を向上することを両立することが可能となる。
後述するようなインキ粘度調整剤として、樹脂を用いて、樹脂被膜を形成したとしても、書き出し性能を向上できるため、効果的である。
また、フルクトオリゴ糖脂肪酸エステル顔料は、顔料分散性を向上する効果も得られるため、より好ましい。
【0015】
フルクトオリゴ糖脂肪酸エステルは、フルクトオリゴ糖と脂肪酸とのエステルであり、下記化学式(化1)に示される構造である。
下記化学式(化1)では、nがフルクトオリゴ糖を構成するフルクトース残基の個数を示し、Rがフルクトース残基の水酸基とエステル結合を形成した脂肪酸の残基あるいは水素を示している。フルクトオリゴ糖脂肪酸を構成するフルクトオリゴ糖の重合体がグルコースを含む場合には、R’が下記化学式(化1)に示されるグルコース残基であり、フルクトオリゴ糖の重合体がグルコースを含まない場合には、R’は、Rと同様の脂肪酸の残基あるいは水素を示す。
【化1】
【0016】
フルクトオリゴ糖は、フルクトースを主成分とするオリゴ糖であり、フルクトオリゴ糖の平均分子量(以下、分子量ともいう)は、300~10000であることが好ましい。なお、平均分子量は、数平均分子量を示している。
脂肪酸は、一般式R1COOHで示され、脂肪酸を構成する炭化水素基R1には、直鎖のアルキル基、あるいは、分岐鎖アルキル基およびアルケニル基の少なくとも1つが用いられる。インキ漏れを抑制、書き出し性能を向上することを考慮すれば、前記アルキル基、アルケニル基に含まれる炭素数は、7~17であることが好ましく、より考慮すれば、12~17であることがより好ましく、さらに分岐鎖アルキル基を有することが好ましい。脂肪酸には、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、2-エチルヘキサン酸、イソノナン酸、イソパルミチン酸、2-ヘキシルデカン酸、イソステアリン酸、および、オレイン酸等の少なくとも1つが用いられる。フルクトオリゴ糖脂肪酸エステルの具体例としては、カプリル酸フルクトオリゴ糖、カプリン酸フルクトオリゴ糖、(カプリル/カプリン酸)フルクトオリゴ糖、ラウリン酸フルクトオリゴ糖、2-エチルヘキサン酸フルクトオリゴ糖、イソノナン酸フルクトオリゴ糖、2-ヘキシルデカン酸フルクトオリゴ糖、イソステアリン酸フルクトオリゴ糖、(ラウリン酸/イソノナン酸)フルクトオリゴ糖などが挙げられる。インキ漏れを抑制、書き出し性能の両性能をバランス良く向上することを考慮すれば、2-ヘキシルデカン酸フルクトオリゴ糖(下記化学式(化2))を用いることが好ましい。
【化2】
【0017】
前記フルクトオリゴ糖脂肪酸エステルの含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1~10質量%が好ましい。これは、0.1質量%より少ないと、書き出し性能に影響が出やすく、10.0質量%を越えると、インキ漏れを抑制しづらいためである。さらに、上記効果を考慮すれば、0.1~5.0質量%が好ましく、より考慮すれば、0.5~3.0質量%が好ましい。
【0018】
(着色剤)
本発明に用いる油性インキ組成物、水性インキ組成物に用いる着色剤は、染料、顔料等、特に限定されるものではなく、適宜選択して使用することができる。染料、顔料を併用しても良い。
油性インキとしては、染料としては、油溶性染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料などや、それらの各種造塩タイプの染料等として、酸性染料と塩基性染料との造塩染料、有機酸と塩基性染料との造塩染料、酸性染料と有機アミンとの造塩染料などの種類が挙げられる。これらの染料は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。染料としては、インキ中の成分との相性による経時安定性を考慮して、少なくとも造塩染料を用いることが好ましく、さらに造塩結合が安定していることで経時安定性を保てることを考慮すれば、塩基性染料と有機酸との造塩染料、酸性染料と塩基性染料との造塩染料、酸性染料と有機アミンとの造塩染料を用いることが好ましく、より考慮すれば、塩基性染料と有機酸との造塩染料が好ましい。
染料について、具体的には、バリファーストブラック1802、バリファーストブラック1805、バリファーストブラック1807、バリファーストバイオレット1701、バリファーストバイオレット1704、バリファーストバイオレット1705、バリファーストブルー1601、バリファーストブルー1605、バリファーストブルー1613、バリファーストブルー1621、バリファーストブルー1631、バリファーストレッド1320、バリファーストレッド1355、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1101、バリファーストイエロー1151、ニグロシンベースEXBP、ニグロシンベースEX、BASE OF BASIC DYES ROB-B、BASE OF BASIC DYES RO6G-B、BASE OF BASIC DYES VPB-B、BASE OF BASIC DYES VB-B、BASE OF BASIC DYES MVB-3(以上、オリエント化学工業(株)製)、アイゼンスピロンブラック GMH-スペシャル、アイゼンスピロンバイオレット C-RH、アイゼンスピロンブルー GNH、アイゼンスピロンブルー 2BNH、アイゼンスピロンブルー C-RH、アイゼンスピロンレッド C-GH、アイゼンスピロンレッド C-BH、アイゼンスピロンイエロー C-GNH、アイゼンスピロンイエロー C-2GH、S.P.T.ブルー111、S.P.T.ブルーGLSH-スペシャル、S.P.T.レッド533、S.P.T.オレンジ6、S.B.N.バイオレット510、S.B.N.イエロー530、S.R.C-BH(以上、保土谷化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0019】
水性インキとしては、直接染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料、及び各種造塩タイプ染料等が採用可能である。
染料について、具体的には、このような染料としては、各種のものが市販されており、それらから任意も選択して用いることができる。具体的には、(a)直接染料としては、ダイレクトエロー4、同26、同44、同50、同85、ダイレクトレッド1、同2、同4、同23、同31、同37、同39、同75、同80、同81、同83、同225、同226、同227、ダイレクトブルー1、同3、同15、同41、同71、同86、同106、同119、ダイレクトオレンジ6等、(b)酸性染料としては、アシッドブラック1、同2、同24、同26、同31、同52、同107、アシッドオレンジ56、アシッドイエロー3、同7、同17、同19、同23、同42、同49、同61、同92、アシッドレッド8、同9、同14、同18、同51、同52、同73、同87、同92、同94、アシッドブルー1、同7、同9、同22、同62、同90、同103、アシッドグリーン3、同9、同16、同25、同27、アシッドバイオレット15、同17等、(c)塩基性染料としては、C.I.ベーシックイエロ-1、同2、同21、同7、同40、C.I.ベーシックオレンジ2、同14、同32、C.Iベーシックレッド1、同1:1、同2、同9、同14、C.I.ベーシックバイオレット1、同3、同7、同10、同11:1、C.I.ベーシックブル-3、同7、同26、ベーシックグリ-ン4、C.I.ベーシックブラウン12、C.I.ベーシックブラック2、メチルバイオレット、ビクトリアブルーFB、マラカイトグリーン、ローダミンのシリーズ等、(d)その他の染料としては、ディスパーズイエロー82、同121、ディスパーズブルー7などの分散染料などが挙げられる。
【0020】
また、顔料については、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、ジケトピロロピロール系、キノフタロン系、スレン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、ジオキサジン系、メタリック顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料等が挙げられる。
【0021】
着色剤としては、顔料を用いることが好ましい、これは、顔料粒子を用いることで、ボールペンの場合はボールとチップ先端の内壁との間の隙間に物理的な障害を起こして、インキ漏れを抑制しやすいためである。さらに、本発明では、前記ポリビニルブチラール樹脂やフルクトオリゴ糖脂肪酸エステルを用いることで、前記ポリビニルブチラール樹脂、フルクトオリゴ糖脂肪酸エステル、顔料の3種によって、筆記先端部に被膜形成と、各粒子の物理的な障害によって、相乗的な作用が働くことで、より高いインキ漏れ抑制効果が得られため好ましく、さらに同時に顔料分散効果が得られるため、好ましい。また、顔料は、筆跡の堅牢性に優れ、特に耐光性に優れるため、好ましい。
【0022】
着色剤の含有量は、インキ組成物全量に対し、1~45質量%が好ましい。これは1質量%未満だと、濃い筆跡が得られにくい傾向があり、45質量%を越えると、染料の溶解安定性及び顔料の分散安定性に影響しやすい傾向があるためで、よりその傾向を考慮すれば、3~35質量%が好ましく、さらに考慮すれば、3~30質量%である。
【0023】
(有機溶剤)
本発明に用いる有機溶剤としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、3-メトキシブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール等のグリコールエーテル溶剤、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等のグリコール溶剤、ベンジルアルコール、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t-ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3-メチル-1-ブチン-3-オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコール等のアルコール溶剤など、油性インキ組成物、水性インキ組成物として一般的に用いられる有機溶剤が例示できる。
【0024】
これらの有機溶剤の中でも、フルクトオリゴ糖脂肪酸エステルとのインキ中での分散性を考慮すれば、非水溶性有機溶剤を用いて、油性インキ組成物とすることが好ましく、その中でも、グリコールエーテル溶剤を用いることが好ましい。これは、グリコールエーテル溶剤を用いると、吸湿しやすいため、チップ先端部が乾燥したときに形成する被膜の強度を軟化させ、書き出し性能も向上しやすいためであり、前記フルクトオリゴ糖脂肪酸エステルと併用するとより効果的で、インキ中での安定性を考慮すれば、芳香族グリコールエーテル溶剤を用いることが好ましい。さらに、グリコールエーテル溶剤以外の有機溶剤については、アルコール溶剤を用いることが好ましいが、これは、アルコ-ル溶剤は揮発して、チップ先端での乾燥をしやすく、筆記先端部の間隙からインキ漏れ(ボールペンの場合は、ボールとチップ先端の間隙からのインキ漏れ)を抑制して、インキ漏れ抑制性能を向上するためで、好ましい。
【0025】
また、有機溶剤の含有量は、溶解性、筆跡乾燥性、にじみ等を向上することを考慮すると、インキ組成物全量に対し、10.0~90.0質量%が好ましく、チップ先端での乾燥性を考慮すれば、20.0~90.0質量%が好ましく、より好ましくは40.0~70.0質量%である。
【0026】
(界面活性剤)
本発明においては、上記潤滑性と、チップ先端部を大気中に放置した状態で、該チップ先端部が乾燥したときの書き出し性能を向上することを考慮すれば、界面活性剤を用いることが好ましい。これは、界面活性剤を用いると、フルクトオリゴ糖脂肪酸エステルによって形成される被膜を脆くする傾向があり、書き出し性能を改良でき、さらに潤滑性も向上することができる。界面活性剤としては、脂肪酸、脂肪酸エステル、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、リン酸エステル系界面活性剤などが挙げられる。その中でも、上記効果を考慮すれば、脂肪酸、シリコーン系界面活性剤、リン酸エステル系界面活性剤の中から1種以上を用いることが好ましく、書き出し性能、潤滑性を考慮すれば、リン酸エステル系界面活性剤を用いることが好ましい。特に、ボールペンで用いる場合は、リン酸基が金属吸着などするため好ましい。
さらに、後述するが、ポリビニルブチラールを用いる場合は、ポリビニルブチラールによって形成するインキ層と、上記界面活性剤による潤滑層によって、より潤滑性を向上しやすいため好ましい。
【0027】
前記界面活性剤については、より書き出し性能と潤滑性の両方を向上することを考慮すれば、HLB値が6~14であることが好ましい。これは、HLB値が14を越えると親水性が強くなりやすく、インキ中での溶解性が劣りやすいため、前記界面活性剤の効果が得られにくいためである。また、HLB値が6未満だと、親油性が強くなり過ぎて、有機溶剤との相溶性に影響が出やすく、インキ経時が安定しにくく、さらに書き出し性能が向上しにくいためである。さらに、潤滑性を考慮すれば、HLB値が12以下にすることが好ましく、HLB値が6~12であることが好ましく、より書き出し性能を考慮すれば、HLB値が7~12が好ましい。
尚、HLBは、グリフィン法、川上法などから求めることができる。特に、ノック式筆記具や回転繰り出し式筆記具等の出没式筆記具においては、キャップ式筆記具とは異なり、常時ペン先が外部に露出した状態であるため、筆記先端部の乾燥時の書き出し性能に影響しやすいため、上記HLB値とした界面活性剤を用いることはより好ましい。
【0028】
前記界面活性剤としては、具体的には、脂肪酸としては、オレイン酸、ステアリン酸、リノール酸などが挙げられ、シリコーン系界面活性剤としては、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、高級脂肪酸エステル変性シリコーンなどが挙げられ、フッ素系界面活性剤としては、パーフルオロ基ブチルスルホン酸塩、パーフルオロ基含有カルボン酸塩、パーフルオロ基含有リン酸エステル、パーフルオロ基含有リン酸エステル型配合物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物などが挙げられ、リン酸エステル系界面活性剤としては、アルコキシエチル基(C2n+1OCHCHO)またはアルコキシ基(C2m+1O)を有するリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸ジエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸トリエステル、アルキルリン酸エステル、アルキルエーテルリン酸エステル或いはその誘導体等が挙げられる。
【0029】
界面活性剤の含有量は、インキ組成物の総質量を基準として、0.1~5.0質量%がより好ましい。これは、0.1質量%より少ないと、所望の潤滑性が得られにくい傾向があり、5.0質量%を越えると、インキ経時が不安定性になりやすい傾向があるためであり、その傾向を考慮すれば、インキ組成物の総質量を基準として、0.3~3.0質量%が好ましく、より考慮すれば、0.5~3.0質量%が、最も好ましい。
【0030】
(アミン)
本発明では、インキ中でのインキ成分の安定性や、pHを調整することを考慮すれば、アミンを用いることが好ましい。オキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン等のエチレンオキシドを有するアミンや、ラウリルアミン、ステアリルアミン等のアルキルアミンや、ジステアリルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジメチルオクチルアミン等のジメチルアルキルアミン等の脂肪族アミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等のアルカノールアミン等が挙げられ、その中でも、インキ中での安定性を考慮すれば、エチレンオキシドを有するアミン、ジメチルアルキルアミン、アルカノールアミンが好ましい。特にリン酸エステル系界面活性剤を用いる場合は、中和することで、インキ中で安定することで、書き出し性能や書き味を向上する効果が得られやすいため、好ましい。
【0031】
また、前記アミンの中でも、インキ中での安定性を考慮すれば、有機アミンが好ましく、インキ中の他成分との反応性については、1級アミンが最も強く、次いで2級アミン、3級アミンと反応性が小さくなるので、インキ経時安定性を考慮して、2級アミンまたは3級アミンを用いることが好ましい。これらは、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
【0032】
前記アミンの含有量は、前記造塩染料やその他の成分との安定性を考慮すれば、インキ組成物全量に対し、0.1~10.0質量%が好ましく、さらに後に説明するリン酸エステル系界面活性剤に対する中和を考慮すれば、0.1~5.0質量%が好ましい。
【0033】
(樹脂)
また、インキ漏れ抑制をより向上するためには、樹脂をインキ粘度調整剤として、用いることが好ましい、樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂、ケトン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、セルロース樹脂、テルペン樹脂、アルキッド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂などが挙げられるが、その中でも、インキ漏れ抑制効果をより向上しやすくするには、ポリビニルブチラール樹脂またはケトン樹脂を含んでなることが好ましい。
【0034】
ポリビニルブチラール樹脂については、インキ漏れ抑制効果と書き味を、両立して向上しやすいため、ポリビニルブチラール樹脂を用いることが好ましい。また、ポリビニルブチラール樹脂とフルクトオリゴ糖脂肪酸エステルを併用すると、フルクトオリゴ糖脂肪酸エステルによって、インキの流動を抑えることで、筆記先端部の間隙からインキがしみ出ることを抑えつつ、筆記先端部が乾燥時にポリビニルブチラール樹脂の被膜を早く形成する働きを相互作用が得られ、さらに形成される被膜は、粘性を有する被膜であるため、硬くならず、書き出し性能を損なわれにくいため、より効果的である。さらにポリビニルブチラール樹脂は、ボールペンの場合、ボールとボール座との間に常に弾力性があるインキ層を形成して、直接接触しづらくするため、書き味を向上することが可能となるためである。また、着色剤として顔料を用いる場合は、顔料分散効果も得られるため、ポリビニルブチラール樹脂を用いることが好ましい。
ここで、ポリビニルブチラール樹脂は、ポリビニルアルコール(PVA) をブチルアルデヒド(BA)と反応させたものであり、ブチラール基、アセチル基、水酸基を有した構造である。
特に、ボール径を通常よりも大きくして、1.0mm~2.0mmとした場合では、ボールペンチップ本体とボールとの隙間からインキ漏れの影響が出やすいため、ポリビニルブチラール樹脂を用いると効果的であり、本発明で用いるフルクトオリゴ糖脂肪酸エステルとポリビニルブチラール樹脂を併用するとより効果的であり、特に1.2mm~2.0mmとした場合は、より効果的である。
【0035】
また、ポリビニルブチラール樹脂は、水酸基量25mol%以上とすることが好ましい。これは、水酸基量25mol未満のポリビニルブチラール樹脂では、有機溶剤への溶解性が十分でなく、十分な潤滑効果や、インキ漏れ抑制の効果が得られにくく、さらに、吸湿性による書き出し性能を考慮すると、水酸基量25mol%以上のポリビニルブチラール樹脂を用いることが好ましいためである。また、前記水酸基量30mol%以上のポリビニルブチラール樹脂は、書き味が向上しやすくなるため、好ましい。これは、筆記時において、ボールの回転により摩擦熱が発生することで、チップ先端部のインキが温められて、該インキの温度が高くなるが、前記ポリビニルブチラール樹脂は他の樹脂とは違い、インキ温度が高くなっても、インキ粘度を下がりづらくする性質があり、ボールとボール座との間に常に弾力性があるインキ層を形成して、直接接触しづらくするため、書き味を向上しやすい傾向がある。特に、油性ボールペンでは、高筆圧で筆記することも多いため、油性ボールペンでは効果的である。また、前記水酸基量40mol%を越えるポリビニルブチラール樹脂を用いると、吸湿量が多くなりやすく、油性インキ成分との経時安定性に影響が出やすいため、水酸基量40mol%以下のポリビニルブチラール樹脂が好ましい。そのため、水酸基量30~40mol%のポリビニルブチラール樹脂が好ましく、さらに好ましくは、水酸基量30~36mol%が好ましい。
なお、前記ポリビニルブチラール樹脂の水酸基量(mol%)とは、ブチラール基(mol%)、アセチル基(mol%)、水酸基(mol%)の 全mol量に対して、水酸基(mol%)の含有率を示すものである。
【0036】
また、ポリビニルブチラール樹脂の平均重合度については、前記平均重合度は200以上であると、インキ漏れ抑制性能が向上しやすく、また、前記平均重合度は2500を超えると、インキ粘度が高くなりすぎて書き味に影響する傾向があるため、前記平均重合度は、200~2500が好ましい。さらに、よりインキ漏れ抑制、泣きボテ抑制効果を考慮すれば、前記平均重合度は1500以下が好ましい。さらに、より考慮すれば、前記平均重合度は250~1000が好ましく、250~700がより好ましい。ここで、平均重合度とは、ポリビニルブチラール樹脂の1分子を構成している基本単位の数をいい、JISK6728(2001年度版)に規定された方法に基づいて測定された値を採用可能である。
【0037】
ポリビニルブチラール樹脂については、具体的には、積水化学工業(株)製の商品名;エスレックBH-3(水酸基量:34mol%、平均重合度:1700)、同BH-6(水酸基量:30mol%、平均重合度:1300)、同BX-1(水酸基量:33±3mol%、平均重合度:1700)、同BX-5(水酸基量:33±3mol%、平均重合度:2400)、同BM-1(水酸基量:34mol%、平均重合度:650)、同BM-2(水酸基量:31mol%、平均重合度:800)、同BM-5(水酸基量:34mol%、平均重合度:850)、同BL-1(水酸基量:36mol%、平均重合度:300)、同BL-1H(水酸基量:30mol%)、同BL-2(水酸基量:36mol%、平均重合度:450)、同BL-2H(水酸基量:29mol%)、同BL-10(水酸基量:28mol%)などや、クラレ(株)製の商品名;モビタールB20H(水酸基量:26~31mol%、平均重合度:250~500)、同B30T(水酸基量:33~38mol%、平均重合度:400~650)、同B30H(水酸基量:26~31mol%、平均重合度:400~650)、同B30HH(水酸基量:30~34mol%、平均重合度:400~650)、同B45H(水酸基量:26~31mol%、平均重合度:600~850)、同B60T(水酸基量:34~38mol%、平均重合度:750~1000)、同B60H(水酸基量:26~31mol%、平均重合度:750~1000)、同B75H(水酸基量:26~31mol%、平均重合度:1500~1750)などが挙げられる。これらは、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
【0038】
ケトン樹脂については、フルクトオリゴ糖脂肪酸エステルと併用することで、より高いインキ漏れ抑制効果を相乗的に期待しやすいため、好ましい。
【0039】
前記樹脂の総含有量は、インキ組成物全量に対し、1.0質量%より少ないと、樹脂被膜形成量が足りないおそれがあり、インキ漏れ抑制性能が劣りやすく、40.0質量%を越えると、インキ中で溶解性が劣りやすいため、インキ組成物全量に対し、1.0~40.0質量%が好ましい。さらに、インキ漏れ抑制性能を考慮すれば5.0質量%以上が好ましく、30.0質量%を越えると、インキ粘度が高くなりすぎて書き味、書き出し性能に影響する傾向があるため、5.0~30.0質量%が好ましい。
【0040】
本発明の筆記具用油性インキ組成物のインキ粘度は、特に限定されるものではないが、20℃、剪断速度3.4sec-1(静止時)におけるインキ粘度が、300~5000mPa・sであることが好ましい。これは、低粘度インキとして300mPa・sとしても、フルクトオリゴ糖脂肪酸エステルが、インキ中で粘性粒子状に分散していることで、筆記具の筆記先端部の隙間に物理的な障害を起こして、インキの流動を抑えることで、筆記先端部の間隙からインキ漏れ(ボールペンの場合はボールとチップ先端の間隙からのインキ漏れ)を抑制しやすいため、300mPa・s以上であることが好ましく、また、書き味が良好となりやすいことを考慮すれば、5000mPa・s以下であることが好ましい。さらに、インキ漏れ抑制と、書き味をバランス良く向上しやすいことを考慮すれば、前記インキ粘度は、500~3000mPa・sであることが好ましく、より考慮すれば、前記インキ粘度は、500~1500mPa・sであることが好ましい。
【0041】
また、筆記具用水性インキ組成物のインキ粘度は、特に限定されるものではないが、20℃、剪断速度1.92sec-1(静止時)におけるインキ粘度が5000mPa・sを越えると、書き出し性能、書き味、インキ追従性能が劣りやすいため、20℃、剪断速度1.92sec-1(静止時)におけるインキ粘度は、5000mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは、4000mPa・s以下であることが好ましい。また、20℃、剪断速度1.92sec-1(静止時)におけるインキ粘度が1000mPa・s以上にすることで、筆記先端部のインキ漏れ(ボールとチップ先端の間隙からのインキ漏れ)を抑制しやすいため、前記インキ粘度は1000~4000mPa・sが好ましい。また、より書き出し性能、書き味をより向上することを考慮すれば、前記インキ粘度は1200~3500mPa・sがより好ましい。
【0042】
また、本発明による筆記具用インキ組成物には、その他の添加剤として、潤滑性やインキ経時安定性を向上させるために、(i)界面活性剤、例えば脂肪酸アルカノールアミド、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤を、(ii)粘度調整剤、例えば脂肪酸アマイド、水添ヒマシ油などの擬塑性付与剤、また、(iii)着色剤安定剤、(iv)可塑剤、(v)キレート剤、または(vi)助溶剤としての水などを適宜用いても良い。これらは、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
【0043】
本発明による筆記具用インキ組成物は、従来知られている任意の方法により製造することができる。具体的には、前記各成分を必要量配合し、プロペラ撹拌、ホモディスパー、またはホモミキサーなどの各種撹拌機やビーズミルなどの各種分散機などにて混合し、製造することができる。
【0044】
(筆記具)
本発明の筆記具用インキ組成物は、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップなどのペン芯またはボールペンチップなどをペン先としたマーキングペンやボールペンなどの筆記具に用いることができる。その中でも、フィルムなど非浸透性の記録媒体に対する筆記性を良好にするには、ペン芯が繊維チップやフェルトチップであることが好ましい。特には、マーキングペンに用いることが好ましい。また、前記ペン芯の気孔率は、50%~80%とすることが好ましい。前記ペン芯の気孔率が上記数値範囲内であれば、前記顔料粒子の目詰まりがなく、適切なインキ吐出量を維持することができる。
【0045】
本発明の筆記具は、筆記具用インキ組成物を直に充填する構成のものであってもよく、油性インキ組成物を充填することのできるインキ収容体またはインキ吸蔵体を備えるものであってもよい。また、顔料粒子などを再分散させるために、インキ収容体にはインキを撹拌する撹拌ボールなどの撹拌体を内蔵することが好ましい。さらに、前記撹拌体の形状は、球状体、棒状体などが挙げられる。撹拌体の材質は特に限定されるものではないが、具体例としては、金属、セラミック、樹脂、硝子などを挙げることができ、これらの中でも、顔料粒子などを再分散させるための撹拌力を考慮すれば、金属材質を用いることが好ましく、コストを考慮すれば、硝子材料を用いることが好ましい。なお、撹拌体は、複数個、複数種類の材質を用いても良い。
【0046】
本発明の筆記具の出没機構は、特に限定されず、ペン先を覆うキャップを備えたキャップ式、ノック式、回転式およびスライド式などが挙げられる。また、軸筒内にペン先を収容可能な出没式であってもよい。
【0047】
また、筆記具におけるインキ供給機構についても特に限定されるものではなく、例えば、(1)繊維束などからなるインキ誘導芯をインキ流量調節部材として備え、インキ組成物をペン先に供給する機構、(2)櫛溝状のインキ流量調節部材を備え、これを介在させ、インキ組成物をペン先に供給する機構、(3)弁機構によるインキ流量調節部材を備え、インキ組成物をペン先に供給する機構、および(4)ペン先を具備したインキ収容体または軸筒より、インキ組成物を直接、ペン先に供給する機構などを挙げることができる。
【0048】
一実施形態において、筆記具は、マーキングペンであり、ペン先は、特に限定されず、例えば、繊維チップ、フェルトチップまたはプラスチックチップなどであってよく、さらに、その形状は、砲弾型、チゼル型または筆ペン型などであってよい。
【0049】
一実施形態において、筆記具は、ボールペンであり、インキ逆流防止体を備えたボールペンであることが好ましい。
【0050】
(ボールペンチップ)
また、本発明に用いるボールペンチップのボールの縦軸方向の移動量は、特に限定されないが、3~50μmとするのが好ましい。これは、3μm未満であると、濃い筆跡や良好な書き味が得られづらくなり、50μmを越えると、インキ漏れ性能、書き出し性能に影響が出やすくなるためで、よりそのことを考慮すれば、5~40μmとするのが好ましい。
【0051】
本発明のように、インキ漏れ抑制や、書き出し性能の両性能を向上するためには、ボールペンチップ先端に回転自在に抱持したボールを、コイルスプリングなどの弾発部材により直接又は押圧体を介してチップ先端縁の内壁に押圧して、筆記時の押圧力によりチップ先端縁の内壁とボールに間隙を与えインキを流出させる弁機構を具備し、チップ先端の微少な間隙も非使用時に閉鎖することが好ましい。
【0052】
また、ボールに用いる材料は、特に限定されるものではないが、タングステンカーバイドを主成分とする超硬合金ボール、ステンレス鋼などの金属ボール、炭化珪素、窒化珪素、アルミナ、シリカ、ジルコニアなどのセラミックスボール、ルビーボールなどが挙げられる。
また、ボールの直径は、特に限定されないが、ボールの直径が大きいと、ボールペンチップ本体とボールとの隙間からインキ漏れがしやすく、筆記先端部の乾燥時に書き出し性能が劣りやすいため、ボール径を通常よりも大きくして、1.0mm~2.0mmとした場合では、影響が出やすく、特に1.2mm~2.0mmとした場合は顕著で、より効果的である。
【0053】
また、ボ-ルペンチップの材料は、ステンレス鋼、洋白、ブラス(黄銅)、アルミニウム青銅、アルミニウムなどの金属材、ポリカーボネート、ポリアセタール、ABSなどの樹脂材が挙げられるが、書き味や切削等の加工性を考慮すれば洋白製のチップ本体が好ましく、ボール座の摩耗、経時安定性を考慮するとステンレス製のチップ本体とすることが好ましい。
【0054】
実施例1(油性インキ配合)
実施例1の油性ボールペン用インキ組成物は、有機溶剤に顔料とポリビニルブチラール樹脂(顔料分散剤)を添加し分散機で分散させた後、着色剤として染料および前記顔料分散体、有機溶剤としてベンジルアルコール、エチレングリコールモノフェニルエーテル、フルクトオリゴ糖脂肪酸エステル、樹脂としてはポリビニルブチラール樹脂、界面活性剤としてはリン酸エステル系界面活性剤、ポリビニルピロリドンを採用し、これを所定量秤量して、60℃に加温した後、ディスパー攪拌機を用いて完全溶解させて油性ボールペン用インキ組成物を得た。具体的な配合量は下記の通りである。尚、ブルックフィールド株式会社製粘度計 ビスコメーターRVDVII+Pro CP-52スピンドルを使用して、実施例1のインキ粘度を測定したところ、20℃の環境下、剪断速度3.4sec-1、インキ粘度=3000mPa・sであった。
【0055】
実施例1
着色剤(染料、塩基性染料と有機アミンとの赤色造塩染料) 8.0質量%
着色剤(染料、塩基性染料と有機アミンとの青色造塩染料) 8.0質量%
着色剤(染料、酸性染料とアミンとの造塩染料) 8.0質量%
着色剤(カーボンブラック) 5.0質量%
有機溶剤(ベンジルアルコール) 50.0質量%
有機溶剤(エチレングリコールモノフェニルエーテル) 10.0質量%
フルクトオリゴ糖脂肪酸エステル(化2) 1.0質量%
界面活性剤(リン酸エステル系界面活性剤) 2.0質量%
ポリビニルブチラール樹脂
(水酸基量:36mol%、平均重合度:300) 7.5質量%
ポリビニルピロリドン樹脂 0.5質量%
【0056】
実施例2~12
表1に示すように、インキ成分を変更した以外は、実施例1と同様な手順で実施例2~12の油性ボールペン用インキ組成物を得た。表に、評価結果を示す。
尚、ブルックフィールド株式会社製粘度計 ビスコメーターRVDV II +Pro CP-52スピンドルを使用して、実施例6のインキ粘度を測定したところ、20℃の環境下、剪断速度3.4sec-1、インキ粘度=500mPa・sであった。
【0057】
比較例1~4
表に示すように、インキ成分とチップ仕様を変更した以外は、実施例1と同様の手順で、比較例1~4の油性ボールペン用インキ組成物を得た。表に、評価結果を示す。
【0058】
試験及び評価
実施例1~12及び比較例1~4で作製した油性ボールペン用インキ組成物を、インキ収容筒の先端に、ボール(φ0.7mm)を回転自在に抱時したボールペンチップ(チップ内にボールを直接チップ先端縁の内壁に押圧したコイルスプリングを有する、ボールの縦軸方向の移動量12μm)を装着するとともに、インキ収容筒内に、実施例1の油性ボールペン用インキ(0.27g)を直に収容してボールペンレフィルを(株)パイロットコーポレーション製の油性ボールペン(商品名:スーパーグリップ)に配設して、油性ボールペンを作製し筆記試験用紙として筆記用紙JIS P3201を用いて以下の試験及び評価を行った。
【0059】
実施例13(水性インキ配合)
実施例13の水性ボールペン用インキ組成物は、着色剤として顔料分散体、水、水溶性有機溶剤として多価アルコール、アミンとしてトリエタノールアミン、潤滑剤としてはリン酸エステル系界面活性剤、防錆剤を採用し、これを所定量秤量して、60℃に加温した後、ディスパー攪拌機を用いて完全溶解させて、ベースインキを作成した。その後、上記作製したベースインキを加温しながら、フルクトオリゴ糖脂肪酸エステル、剪断減粘性付与剤を投入してホモジナイザー攪拌機を用いて均一な状態となるまで充分に混合攪拌して、実施例1の水性ボールペン用インキ組成物を得た。
尚、実施例13のインキ粘度は、ブルックフィールド社製DV-II粘度計(CPE-42ローター)を用いて20℃の環境下で、剪断速度1.92sec-1(回転数0.5rpm)の条件にてインキ粘度を測定したところ、1800mPa・sであった。
【0060】
次に実施例を示して本発明を説明する。
顔料分散体(着色樹脂粒子、固形分量34%) 20.0質量部
水 66.0質量部
多価アルコール(グリセリン) 10.0質量部
フルクトオリゴ糖脂肪酸エステル(化2) 0.5質量部
アミン(トリエタノールアミン) 2.0質量部
潤滑剤(リン酸エステル系界面活性剤) 1.0質量部
防錆剤(ベンゾトリアゾール) 0.5質量部
剪断減粘性付与剤(キサンタンガム) 0.4質量部
【0061】
実施例14、15のインキ成分からフルクトオリゴ糖脂肪酸エステルの含有量を、それぞれ1.0質量部、3.0質量部とした以外は、実施例13と同様の手順で、実施例14、15の水性ボールペン用インキ組成物を得た。
【0062】
比較例5
実施例13のインキ成分からフルクトオリゴ糖脂肪酸エステルを外した以外は、実施例13と同様の手順で、比較例5の水性ボールペン用インキ組成物を得た。
【0063】
試験及び評価
実施例13~15及び比較例5で作製した水性ボールペン用インキ組成物を、インキ収容筒の先端に、ボール(φ0.7mm)を回転自在に抱時したボールペンチップ(チップ内にボールを直接チップ先端縁の内壁に押圧したコイルスプリングを有する、ボールの縦軸方向の移動量30μm)を装着するとともに、インキ収容筒内に、実施例15及び比較例5の水性ボールペン用インキ(1.0g)を直に収容してボールペンレフィルを(株)パイロットコーポレーション製の水性ボールペン(商品名:G-2)に配設して、水性ボールペンを作製し筆記試験用紙として筆記用紙JIS P3201を用いて以下の試験及び評価を行った。
【表1】
【表2】
【表3】
【0064】
インキ漏れ抑制試験:30℃、85%RHの環境下にペン先下向きで7日放置し、チップ先端からのインキ漏れを確認した。
チップ先端のインキ滴がないもの ・・・◎
チップ先端のインキ滴がテーパー部の1/4以内のもの ・・・○
チップ先端のインキ滴がテーパー部の1/4以上、1/2以内のもの ・・・△
チップ先端のインキ滴がテーパー部の1/2以上のもの ・・・×
【0065】
書き出し性能試験:手書き筆記した後、チップ先端部を出したまま20℃、65%RHの環境下に24時間放置し、その後、走行試験で下記筆記条件にて筆記し、書き出しにおける筆跡カスレの長さを測定した。
<筆記条件>筆記荷重200gf、筆記角度70°、筆記速度4m/minの条件で、走行試験機にて直線書きを行い評価した。
筆跡カスレの長さが、15mm未満であるもの ・・・◎
筆跡カスレの長さが、15mm以上、20mm未満であるもの ・・・○
筆跡カスレの長さが、20mm以上、40mm未満であるもの ・・・△
筆跡カスレの長さが、40mm以上であるもの ・・・×
【0066】
書き味:手書きによる官能試験を行い評価した。
非常に滑らかなもの ・・・◎
滑らかであるもの ・・・○
実用上問題ないレベルの滑らかさであるもの ・・・△
重いもの ・・・×
【0067】
実施例1~15では、インキ漏れ抑制試験、書き出し性能、書き味ともに良好な性能が得られた。
また、実施例1~15の中で、着色剤として顔料を用いたインキを、顕微鏡で見たところ、顔料分散性が良好で、析出物もなく良好であった。
【0068】
比較例1、5では、フルクトオリゴ糖脂肪酸エステルを用いなかったため、また、比較例2では、ショ糖脂肪酸エステルを用いたため、インキ漏れ抑制性能、書き出し性能が劣ってしまった。
【0069】
比較例3、4では、オリゴ糖類を添加したところ、均一分散されずインキ化できなかった。
【0070】
また、ノック式筆記具や回転繰り出し式筆記具等の出没式筆記具(出没式ボールペン)を用いた場合では、インキ漏れ抑制性能、書き出し性能が最も重要な性能の 1つであるため、本発明のように筆記先端部の間隙からインキ漏れ(ボールとチップ先端の間隙からのインキ漏れ)を抑制して、かつ、書き出し性能を良好とすることが可能である本発明のような油性ボールペンを用いると効果的である。
【0071】
また、本実施例では、インキ収容筒内に油性ボールペン用インキ組成物を収容したボールペンレフィルを軸筒内に配設した油性ボールペンなどを例示したが、本発明の油性ボールペンは、軸筒自体をインキ収容筒とし、軸筒内に、油性ボールペン用インキ組成物を直に収容した直詰め式の油性ボールペンであっても良く、インキ収容筒内に油性ボールペン用インキ組成物を収容したもの(ボールペンレフィル)をそのままボールペンとして使用した構造であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、ボールペン、マーキングペン、万年筆、プレートペンなどの筆記具として利用でき、さらに詳細としては、キャップ式、出没式等の油性筆記具、水性筆記具として広く利用することができる。