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特許7096146ステータのバリ取り装置及びステータのバリ取り制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】ステータのバリ取り装置及びステータのバリ取り制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/02 20060101AFI20220628BHJP
【FI】
H02K15/02 E
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018239779
(22)【出願日】2018-12-21
(65)【公開番号】P2020102947
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】佐野 靖
(72)【発明者】
【氏名】京井 正之
(72)【発明者】
【氏名】西川 顕二
(72)【発明者】
【氏名】横山 貴至
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬 誠治
(72)【発明者】
【氏名】菅原 春樹
(72)【発明者】
【氏名】秋田 大
(72)【発明者】
【氏名】内海 幸治
【審査官】宮崎 賢司
(56)【参考文献】
【文献】特開平1-190236(JP,A)
【文献】実公昭60-042020(JP,Y2)
【文献】中国特許出願公開第102142745(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0023283(US,A1)
【文献】中国実用新案第207119858(CN,U)
【文献】特開平6-226624(JP,A)
【文献】特開昭55-120967(JP,A)
【文献】特開2012-013708(JP,A)
【文献】特開平5-337804(JP,A)
【文献】特開昭59-144340(JP,A)
【文献】特開2012-182914(JP,A)
【文献】特開2012-131029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/02
B29C 45/17
B29C 45/14
B23D 79/00
B23C 3/12
B23Q 17/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータを回転させるワーク保持回転機構と、前記ステータに発生するバリを除去するバリ除去機構とを備えたバリ取り装置であって、
前記バリ除去機構を取付けステータ内周部において前記バリ除去機構を前記ステータの軸心方向及び径方向に移動させる移動機構と、
前記ステータ内周部のバリ検知の際に前記軸心方向に移動し前記ステータ内周部における前記バリの存在を検知するバリ検知センサと、
前記ステータの回転角を検出する回転角検出器と、
前記バリ検知センサが前記バリの存在を検知した時点における前記回転角を入力し、該回転角を用いて前記ステータ内周部におけるバリ存在位置を記憶し、前記バリ存在位置に基づき前記移動機構を制御して前記バリ除去機構を移動させ、前記バリ除去機構により前記ステータ内周部に存在する前記バリを除去する制御部と、
を備えたステータのバリ取り装置。
【請求項2】
請求項1記載のステータのバリ取り装置において、
前記バリ検知センサは、画像処理により前記バリの有無を判別する判別センサであることを特徴とするバリ取り装置。
【請求項3】
請求項1記載のステータのバリ取り装置において、
前記バリ検知センサは、前記移動機構に取付けて前記軸心方向への移動が行なわれることを特徴とするステータのバリ取り装置。
【請求項4】
請求項1記載のステータのバリ取り装置において、
前記バリ取り機構は、カッター刃により前記バリを除去するカッター機構であることを特徴とするステータのバリ取り装置。
【請求項5】
請求項4記載のステータのバリ取り装置において、
前記カッター刃が円形であることを特徴とするステータのバリ取り装置。
【請求項6】
請求項4記載のステータのバリ取り装置において、
前記カッター刃を前記バリに押付ける押付け圧を30~60[N]の範囲とすることを特徴とするステータのバリ取り装置。
【請求項7】
請求項4記載のバリ取り装置において、前記カッター刃の移動速度を2000~6000[mm/min]の範囲とすることを特徴とするステータのバリ取り装置。
【請求項8】
ステータを回転させる駆動装置を有するワーク保持回転機構と、該ステータに発生するバリを除去するバリ除去機構と、前記ステータの軸心方向に移動可能に取付けられステータ内周部における前記バリを検知するバリ検知センサと、前記ステータの回転角を検出する回転角検出器とを備えたバリ取り装置の制御方法であって、
前記バリ検知センサを前記ステータの軸心方向に移動させ、かつ前記ステータの回転により前記ステータ内周部におけるバリの存在を検知し、
前記バリ検知センサがバリの存在を検知した時点における前記回転角を入力し、該回転角を用いて前記ステータ内周部におけるバリ存在位置を記憶し、
前記バリ存在位置に基づいて駆動機構を制御して前記バリ除去機構を移動させ、前記バリ除去機構により前記ステータ内周部に存在する前記バリを除去するステータのバリ取り制御方法。
【請求項9】
請求項8記載のステータのバリ取り制御方法において、
前記バリ検知センサとして、画像処理により前記バリの有無を判別する判別センサとしたことを特徴とするステータのバリ取り制御方法。
【請求項10】
請求項8記載のステータのバリ取り制御方法において、
前記バリ取り機構として、カッター刃により前記バリを除去するカッター機構を用いたことを特徴とするステータのバリ取り制御方法。
【請求項11】
請求項10記載のステータのバリ取り制御方法において、
前記カッター刃を前記バリに押付ける押付け圧を30~60[N]の範囲とすることを特徴とするステータのバリ取り制御方法。
【請求項12】
請求項10記載のステータのバリ取り制御方法において、
前記カッター刃の移動速度を2000~6000[mm/min]の範囲とすることを特徴とするステータのバリ取り制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータに使用されるステータのバリ取り装置及びステータのバリ取り制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータに使用されるステータのバリ取りを行う技術として、特開2015-89601号公報(特許文献1)に記載される技術が知られている。
この技術は、ステータコアの端面外周部の面取りを行って、ステータコアの端面外周部の溝部分に突出するバリを無くすものである。具体的には、ステータコアの形状を検出する画像センサ及びステータコアの高さを検出する変位計を設け、画像処理部が、検出したステータコアの形状データおよび高さデータと、あらかじめ登録された品番ごとのステータコアの形状データおよび高さデータとを照合してステータコアの品番を特定し、特定された品番のステータコアの面取加工条件を用いて面取り加工機と面取り加工機移動機構とを制御し、ステータコアの端面外周部の面取加工を行う。
この技術によれば、ステータの端部外周部の溝部分に存在するバリを無くすことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-89601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
さて、特許文献1の技術は、ステータの端面外周部の面取り加工を行うものであり、ステータ内周部に存在するバリを除去することはできない。
【0005】
ところで、例えば、洗濯機の洗濯槽を回転させるモータに用いられるステータでは、鉄心及びフレームと巻線の絶縁を図るために、インサート成形により絶縁層が形成されている。インサート成形は、鉄心、フレーム、巻線などの金属部品を金型内に挿入した状態で樹脂を射出成形する方法である。絶縁層は、巻線の支持部などの複雑形状を有しており、その複雑形状部の全てに絶縁層を成している樹脂材料を行き渡らせるため、高い射出圧力をかけて成形している。そのため、成型後のステータには、ステータの内面部(内周部)の本来絶縁層を設けない鉄心表面(コア面)などにバリが発生する。なお、ステータ内周部のバリ発生は上記した洗濯機用モータのステータに限るものではない。製造上の様々な理由により、その他の種々のモータのステータでもステータ内周部にバリが発生する。
【0006】
このようなステータ内周部に存在するバリ(ステータ内周バリ)は、ロータと接触して回転不良を発生させる、あるいはロータ回転時に風きり音などの異音を発生させるなどの原因になる。そのため、モータのステータ内周部に存在するバリ除去加工が行われている。
【0007】
しかしながら、ステータ内周部におけるバリ発生箇所が一定していないことや、バリ形状が一様でないことなどの理由から、ステータ内周部のバリを確実に検知することができず、バリ取りを自動化するのは困難であった。そのため現状では、ステータ内周バリを人が目視で確認し、刃物などで手作業により除去している。この人手によるバリ取り作業は重労働で多くの時間を要するため、作業者を多数配置する必要がある。また、この作業には多数の作業者が関わるので、作業者の技量の差異によりバリ取り後のステータの品質にバラつきが生じるという問題もあった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、ステータ内周部のバリを効率的かつ確実に除去することができるステータのバリ取り装置及びステータのバリ取り制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決するために、本発明は、その一例を挙げると、ステータを回転させるワーク保持回転機構と、前記ステータに発生するバリを除去するバリ除去機構とを備えたバリ取り装置であって、前記バリ除去機構を取付けステータ内周部において前記バリ除去機構を前記ステータの軸心方向及び径方向に移動させる移動機構と、前記ステータ内周部のバリ検知の際に前記軸心方向に移動し前記ステータ内周部における前記バリの存在を検知するバリ検知センサと、前記ステータの回転角を検出する回転角検出器と、前記バリ検知センサが前記バリの存在を検知した時点における前記回転角を入力し、該回転角を用いて前記ステータ内周部におけるバリ存在位置を記憶し、前記バリ存在位置に基づき前記移動機構を制御して前記バリ除去機構を移動させ、前記バリ除去機構により前記ステータ内周部に存在する前記バリを除去する制御部と、を備えたステータのバリ取り装置である。
【0010】
また、本発明の他の一例を挙げると、ステータを回転させる駆動装置を有するワーク保持回転機構と、該ステータに発生するバリを除去するバリ除去機構と、前記ステータの軸心方向に移動可能に取付けられステータ内周部における前記バリを検知するバリ検知センサと、前記ステータの回転角を検出する回転角検出器とを備えたバリ取り装置の制御方法であって、前記バリ検知センサを前記ステータの軸心方向に移動させ、かつ前記ステータの回転により前記ステータ内周部におけるバリの存在を検知し、前記バリ検知センサがバリの存在を検知した時点における前記回転角を入力し、該回転角を用いて前記ステータ内周部におけるバリ存在位置を記憶し、前記バリ存在位置に基づいて駆動機構を制御して前記バリ除去機構を移動させ、前記バリ除去機構により前記ステータ内周部に存在する前記バリを除去するステータのバリ取り制御方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、ステータ内周部のどの位置にバリが存在しているかを把握し、そのバリの存在位置に対してバリ取り機構を移動させてバリ除去を行うので、ステータ内周部のバリを効率的かつ確実に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例におけるステータのバリ取り装置を示す図である。
図2】実施例におけるカッター機構を示す図である。
図3】実施例におけるカッター機構を示す図である。
図4】モータステータの構成を示す図である。
図5図4に示すモータステータのコア部分を拡大した図である。
図6図5におけるA-A’断面を示す図である。
図7】判別センサ3の設置状態を示す図である。
図8図1に示す実施例における制御装置の動作を示す動作フロー図である。
図9】カッター刃押付け圧と移動速度とを変動させた場合の、バリ取り良否結果の関係を示す図である。
図10】強制バリ脱離機構の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例について図面を用いて説明する。なお、以下説明する実施例は本発明を実施するための一形態を示すものであり、本発明はこの実施例に限定されるものではない。また、以下の各図において同一機器には同一符号を付し、すでに説明した機器に関する説明を省略する場合がある。
【0014】
図1は、本発明の実施例におけるステータのバリ取り装置を示す図である。まず、装置を構成する各機器について説明する。
図1において、ワーク保持回転機構2は、ステータ1を載置して、ステータ1を回転させるためのものである。ワーク保持回転機構2は、図1では詳細な記載を省略しているが、ワーク1を載置するためのテーブルと、このテーブルを回転するためのモータ等による回転装置を有する。テーブルの回転は、モータにより直接駆動する直接駆動方式でも良いし、モータの駆動力をベルト等により伝達し回転させる間接駆動方式のものでも良い。この実施例では、構造が簡単な直接駆動方式を用いている。また、このワーク保持回転機構2には、回転角検出器50が備えられている。回転角検出器50は、ステータ1の回転角を検出するものである。回転角検出器としては、ステータ1の回転角をステータ内周部に配した検知ローラの回転により直接検出するような構成でも良いが、この実施例ではワーク保持回転機構2の回転角を検出することによって、間接的にステータ1の回転角を検出するようにしている。回転角検出器50は、例えば、ワーク保持回転機構2を駆動するモータに取付けたパルスエンコーダで実現できる。
【0015】
「バリ検知センサ」は、ステータ内周部のバリの有無(バリが存在するか否か)を検知するセンサである。本発明では、バリを検知する機能を有するバリ検知センサであればその種類は問わない。例えば、ステータのコア面の形状をレーザなどで計測するレーザ変位センサなどを用いることが出来る。
【0016】
この実施例では、バリ検知センサとして、画像を取得して画像内にバリ状物体が発生しているかを判別して判別結果を出力する画像処理による判別センサ3を使用した。理由は、検知精度が高く入手が容易であるためである。このような判別センサとしては、オムロン株式会社が販売する画像判別センサ(商品名「ZFXスマートセンサ」)や、株式会社キーエンスが販売する画像判別センサ(商品名「画像判別センサIV」)などが使用できる。この判別センサ3は、ステータの軸心方向(以下、Z方向)への移動が可能なように設置されている。
【0017】
この実施例において、判別センサ3は、バリ取り機構(カッター機構9)をステータの径方向(以下、X方向)に移動させるX方向駆動機構5の先端部に取付けている。このX方向駆動機構5は、Z方向駆動機構6上に設けられZ方向移動ができるので、判別センサ3もZ方向に移動可能となる。Z方向とはステータの軸心方向(図1では上下方向)を示す。なお、判別センサ3のZ方向の移動は、別途Z方向駆動機構を設けても良い。なお、図1の矢印におけるX、Zは、それぞれX方向、Z方向を示しており、他の図および以下の説明においても同様である。
【0018】
駆動機構11は、X方向の位置決め機構4と、X方向駆動機構5と、Z方向駆動機構6とで構成されており、カッター機構9および判別センサ3のX方向およびZ方向移動を行う機能を有する。位置決め機構4は、例えばレールの長さ方向に直動する、いわゆるリニアガイドが付帯しているエアシリンダーや、モータとボールネジからなる1軸電動アクチュエータなどを用いることが出来る。本実施例ではリニアガイド付きのエアシリンダーを用いた。X方向駆動機構5、Z方向駆動機構6は、例えばリニアガイド付エアシリンダーや、モータとボールネジからなる1軸電動アクチュエータなどを用いることが出来る。本実施例では1軸電動アクチュエータを用いた。
【0019】
バリ取りを実行するバリ取り機構として、この実施例ではカッター刃によりバリを除去するカッター機構9を用いている。このカッター機構9の具体的な構成を、図2及び図3に示す。図2図3の構成は同じものであり、カッター刃12とステータ1との位置関係が異なった状態を示している。
【0020】
図2および図3において、カッター機構9は、カッター刃12を把持するカッター刃保持部13と、そのカッター刃保持部13を前後、すなわち紙面の左右方向に移動して、一定圧力で保持するカッター刃前後進機構14からなっている。カッター刃保持部13は、カッター刃12を把持し、且つカッター刃12の回転駆動部を有しており、回転運動を促すため例えばベアリングを組込んだ構成としている。また、カッター刃前後進機構14は、カッター刃保持部13を前後方向(すなわち紙面の左右方向)に移動して、カッター刃12を予め定めた圧力で押付けるために、バリ取り時に一定圧力を保持する圧力保持機構(圧力調整機構)を備えている。カッター刃12の刃形状は、スタータコアの上端部から下端部にかけて連続的にカッターが機能するように、円形であることが望ましい。カッター刃12の材質としては、一般的な文具用のカッターに用いられるタングステン鋼などであることが望ましい。カッター刃前後進機構14は、例えばリニアガイド付エアシリンダーや、モータとボールネジからなる1軸電動アクチュエータなどを用いることが出来る。本実施例ではリニアガイド付エアシリンダーを用いた。
【0021】
ここで、ステータ1の具体例を図4~6を用いて説明する。なお、本発明はステータ1の内周部におけるバリ取りを行うものであるから、ステータの形状や寸法には無関係である。図4は、モータステータの構成の一例を示す図である。図4のステータ1は、鋼板をプレス加工して得られたフレーム16に圧入された鉄心17からなる金属部品と、樹脂材料を射出成形して形成した絶縁層18から形成されている。絶縁層18の樹脂材料は、ロックウェル硬さ65以上、絶縁破壊電圧が14[kV/mm]以上で射出成形に適した材料を用いることができ、例えば、ナイロン、ポリスチレン、ABS、PBT、PBTにガラス繊維を含有した樹脂などを用いることができる。本実施例では、PBTにガラス繊維を含有した樹脂材料を用いた。
【0022】
図5および図6は、ステータ1のコア部分(ステータコア)を詳細に説明する図である。図6は、図5におけるA-A’断面図を示している。ステータコアは、鉄心17と、絶縁層18から成っており、射出成形時に派生するバリ15は、図5に示すように絶縁層18部分から発生する。上述したように、バリ15は、モータ駆動時に、ステータ1に対向して設置されるロータ19と接触したり、ロータ19の回転により風きり音を発生したりする原因となる。
【0023】
図7は、判別センサ3の設置状態を示す図である。判別センサ3は、ステータ1のコア内周面に対向して設置されていて、ステータ内周面観察範囲(検知範囲)20におけるバリの有無を判別する。本実施例では、判別センサ3はカッター機構9の背面に設置した。
【0024】
次に、図1に戻り、制御装置100について説明する。制御装置100は、上記の各構成機器の各動作を制御するために設けられている。制御装置100は、具体的には計算機で実現できる。ここで用いられる計算機は一般的な計算機で良く、少なくとも、制御動作全般を実行するマイクロプロセッシングユニット(MPU)と、MPUの動作に必要なデータおよび動作プログラムを記憶するメモリと、各機器との間で信号や情報の入出力を制御する入出力部とを有している。なお、図1においては、制御装置100の動作説明の理解を容易にするために、ブロック図形式にて記載している。
【0025】
バリ位置記憶部7は、ステータ1の内周部のどの位置にバリが存在しているかを記憶するための記憶部である。すなわち、バリ位置記憶部7は、判別センサ3がバリを検知した場合に、その時点のステータ1の回転角(この例では、ワーク保持回転機構2の回転角)に基づきステータ内周面のどの位置にバリが存在しているかを特定し記憶する。回転角は回転角検出器50により検出される。
【0026】
ワーク保持回転制御部8は、ワーク保持回転機構2の駆動制御を行う。このワーク保持回転制御部8は、ステータ1が図示しない搬送装置によりワーク保持回転機構2上に搬送されてテーブル上に載置され、ワーク(ステータ1)の保持がなされたことを確認した後に、ワーク保持回転機構2を駆動する。すなわち、ワーク保持回転制御部8は、判別センサ3によるバリ検知に際しては、ワーク保持回転機構2を検知に適した速度により回転速度を制御する。この速度は予め実験等で求めておく。また、ワーク保持回転制御部8は、ステータ内周部のバリの検知が終了したら、予め実験等により求められているバリ取り時の速度にワーク保持回転機構2の回転速度を制御する。
【0027】
カッター駆動制御部10は、カッター機構9によりステータ内周部に存在するバリの除去を行う際に、駆動機構11およびカッター機構9の駆動を制御する。すなわち、カッター駆動制御部10は、カッター機構9の駆動制御とともに、X方向駆動機構5によるX方向移動制御、及びZ方向駆動機構6によるZ方向移動制御を行う。この実施例では、判別センサ3がバリを検知する際にZ方向の移動を行うので、この場合のZ方向の移動制御も行う。
【0028】
次に、図1における本発明の実施例の動作を、図8を用いて説明する。図8は、図1における実施例の動作フローを示す図である。
まず、図8のステップS1では、図1に示すようにステータ1をワーク保持回転機構2上に載置する。すなわち、ステータ1は、図示しない搬送装置により、ワーク保持回転機構2の上に載置される。載置が終了すると、固定装置(図示せず)により、ステータ1がワーク保持回転機構2のテーブル上で動かないように固定する。ワーク保持回転機構2にワークを載置する際には、位置決め機構4を駆動して、X方向のプラス側、すなわち紙面の右方向に移動して、判別センサ3とカッター機構9が搬送されてきたステータ1と衝突しないように駆動する。
【0029】
次に、ステップS2では、ステータ内周面のバリを検知するために、判別センサ3をステータ内周面に位置決めさせる。すなわち、図1において、判別センサ3を、位置決め機構4を制御しX方向のマイナス側(紙面の左方向)に向けて、所定位置まで移動させる。次に、X方向駆動機構5を制御し、判別センサ3を、X方向のマイナス側(紙面の左方向)に向けてバリ検知するときの所定位置まで移動させる。その後、Z方向駆動機構6を制御し、判別センサ3を、Z方向のマイナス側(紙面の下方向)に向けてバリ取り必要部分の判別時の所定位置に移動する。このような制御により、判別センサ3は、ステータ1の内周面のバリ検知を行う位置に位置決めされる。
【0030】
次に、ステップS3では、判別センサ3によりステータ1の内周部のバリを検知する。この検知は、ワーク保持回転機構2を検知に適した速度で回転駆動し、ステータ1を回転させる。このステータ1の回転により、ステータ1の内周面の各位置においてバリの有無を判別センサ3が検知することができる。この実施例においては、判別センサ3は、ステータコア内周面を撮影し、撮影画像に対して予め設定しておいた樹脂材料部分の色面積の閾値(ステータコアの鉄心面にバリが生じていないものを上限として設定)を上回るか否かでバリの有無を検知(判別)する。そして、色面積の閾値を上回った場合、つまり樹脂材料が過剰であるので、バリ有りと判別する。この動作は、図8のステップS4の動作である。
【0031】
続くステップS5では、バリが検知された場合(ステップS4でYES判断の場合)、バリ検知時のワーク1の回転角を取込む。この回転角の検出はワーク保持回転機構2の回転角を検出する回転角検出器50の出力を用いる。ステップS5では、制御装置100内の記憶部(図1のバリ位置記憶部7)に、この回転角、すなわち内周部の位置と対応づけられたアドレスに、バリの存在(バリ有)を記憶する。回転角はステータ1の内周部の各位置に対応付けられるので、回転角に対応したアドレスにバリの存在を記憶すれば、ステータの内周部のどの位置にバリが存在しているのかが分かる。
【0032】
次に、スッテプS6では、ステータ1の内周部全体(内周面全体)のバリ検知が終了したかどうかを判断する。ステップS6において、ステータ1の内周部全体のバリ検知動作が終了していない場合(ステップS6でNOの場合)には、ステップS3に戻り、判別センサ3によるバリ検知動作を継続する。
【0033】
ここでは、バリが存在するか否かの判別動作は、ステータコア1個につき1回実施し、判別センサ3による判別が終了したら、ワーク保持回転機構2を制御し、ステータコア1個分の回転角だけ回転して、先ほど判別したステータコアに隣接するステータコア部分にバリが存在するか否かの判別動作を繰り返し行なう。ステータ1を1回転した場合の、判別センサ3の検知動作回数はステータ1に含まれているステータコア数と同じ数値となる。このようにして、判別センサ3は、ステータ内周部の各位置(各ステータコア位置)におけるバリの存在の有無を判別(検知)する。判別センサ3は、判別の結果、バリが存在する場合にバリ検知信号を出力する。
【0034】
この実施例ではワークであるステータ1の幅が短く(Z方向の長さが短く)、ステータ1を一回転することによりステータ内周部全体のバリ検知ができる例を示している。なお、ステータ1の幅が大きい場合、ステータ1を1回転しただけではステータ内周部全体のバリ検知ができない。その場合には1回転してバリ検知を行った後に、判別センサ3をZ方向に移動させ、判別センサをまだ検知がなされていない内周部に位置決めし、上記と同様にワーク保持回転機構2を回転させながらバリの検知動作を行い、ステータ内周部全面のバリを検知すれば良い。
【0035】
ステップS3~S6の動作が終了した段階で、ステータ1の内周部の各位置(ここでは各ステータコアの位置)におけるバリの有無は、制御装置100内のバリ位置記憶部7に記憶される。
【0036】
なお、この実施例では、バリの判別結果は、判別センサ3がバリ有りと判別した時のワーク保持回転機構2の回転角度から角度180[°]分を差し引いた情報とともに、バリ位置記憶部7に記憶される。判別センサ3がバリ有りと判別した時のワーク保持回転機構2の回転角度から角度180度分を差し引く理由は、本実施例のバリ取り必要部分の判別センサ3の設置部がカッター機構9の角度180[°]回転した背面側に設置されているためであり、カッター機構9と判別センサ3との設置角度が角度180[°]以外である場合は、その設置角度を、判別センサ3がバリ有りと判別した時のワーク保持回転機構2の回転角度から差し引くこととした。もっとも、ステータ内周部のどの位置にバリが存在するかを検知することができればバリ除去が可能であるので、このような角度補正は必須ではない。
【0037】
次に、ステータ1の内周部全体の各位置におけるバリの存在が検知できると、ステップS7に進む。ステップS7では、駆動機構11を駆動し、バリが存在する各位置にカッター機構9を移動させ、カッター機構9によるバリ取りを実施する。すなわち、バリ取り動作を行なうため、カッター機構9を、X方向駆動機構5、Z方向駆動機構6を制御してバリ取り動作の開始前所定位置にそれぞれ移動させ、バリ取りを実施する。
【0038】
このカッター機構9の移動及びバリ取りは、次のように行われる。まず、バリ取り動作の開始前所定位置に移動させる。図2に示すように、X方向の位置21は、例えば、ステータコアの鉄心表面の位置からX方向のマイナス側(紙面の左方向)の3[mm]の位置に移動させる。Z方向の位置22は、例えば、ステータコアの鉄心の上端部からX方向のプラス側(紙面の上方向)の2[mm]の位置に移動させる。
【0039】
この移動後、図3に示すように、カッター機構9のカッター刃12をステータコア表面のバリ15に押付けるため、カッター刃前後進機構14によりカッター刃保持部13を前進(紙面の右側方向)する。この押付け時にカッター刃前後進機構14で付与される押付け圧の適正値に関しては後述する。次に、図3に示すように、カッター機構9をステータコアの鉄心の上端部から下端部に向けて移動する。このようにして、カッター機構9がバリを除去する。カッター機構9の上下方向の移動は、駆動機構11のZ方向駆動機構6によって行なう。カッター機構9がステータコアの鉄心の上端部から下端部に向けて移動する際の移動速度の適正値については後述する。
【0040】
ステップS8では、バリ取り加工中のステータ内周部のバリ取り加工が終了したかどうかを判断する。すなわち、バリ取り加工は、ステータ内周部のバリ有が存在するすべての(この例では、ステータ内周部のバリが存在するステータコア全体)に対して行われる。ステップS8における判断は、例えば、記憶部に記憶された内周部の各位置のバリの存在数が分かるので、バリ取り加工を実行した数をカウントし、その数が記憶されているバリ取り加工前のバリ存在数に達した場合にバリ取り終了と判断すれば良い。ステップS8において、内周部のバリ取りが終了していない場合(NOの場合)には、ステップS7に戻りすべてのバリ取りが終了するまで作業を繰り返す。ステップS8においてバリ取りが終了すると(YES)、ステップS9に進む。
【0041】
ステップS9では、バリ取り加工を行うためのステータ(ワーク)が残っていないかどうかを判断する。加工すべきステータが残っている場合(YESの場合)には、ステップS1に戻り、上述した動作を繰り返す。バリ取りを行うワークがなくなれば(ステップS9でNOの場合)、バリ取り作業を終了する。
【0042】
以上説明したように、本発明の実施例では、ステータ内周部の各位置に存在するバリを検知することができ、バリ除去機構(カッター機構)を駆動してそのバリを確実に除去することができる。
【0043】
さて、次に、バリ取り加工に際して、カッター機構9の押付け圧、及びバリ取り作業時のカッター機構9の移動速度について説明する。
【0044】
図9は、発明者らが、カッター機構9、及びカッター刃12をステータコア表面のバリ15に押付ける押付け圧の条件と、カッター機構9がステータコアの鉄心の上端部から下端部に向けて移動する際の移動速度の条件を様々変化させて得た、モータステータのバリ取り良否範囲を示すグラフである。
【0045】
図9の「○」で示した条件は、バリが無く良好に加工できた条件であり、「△」で示した条件は、バリがカッター刃12で一部加工できず残留した条件であり、「×」で示した条件では、バリがカッター刃12で加工が出来ず残留した条件である。
【0046】
この図9から明らかなように、ステータコアの内周バリ取りに適正な加工条件範囲は、カッター機構9の押付け圧は30[N]以上、カッター移動速度は6000[mm/min]以下である。カッター機構9の押付け圧は図6の横軸に示している最大値である60[N]以上としても良いが、押付け圧を上げすぎることにより、カッター機構9が反力で押し返されることで、機構自体が塑性変形することで形状が復元せず、バリ取り装置として機能しなくなる恐れがあるため、60[N]を上限とするのが望ましい。
【0047】
図9に示す適正な加工条件範囲内で、バリ取り条件を設定しても、バリ取り装置を連続稼動させた場合、カッター刃12の刃先摩耗や、カッター機構9の劣化、ステータ1の絶縁層18への不純物混入などの製造バラつきにより、バリを除去できない場合が想定される。そこで、加工できず残留したバリを強制的に脱離するため、図10に一例として示すような強制バリ脱離機構30を、本実施例のバリ取り装置に備えても良い。
【0048】
図10に示す強制バリ脱離機構30は、先端に設けられた針31を保持する針保持部32と、針31、及び針保持部32を斜め上方から斜め下方に向けて前後進させる、針前後進機構33と、針31、針保持部32、針前後進機構33を前後進する脱離機構部前後進機構34からなっている。
【0049】
強制バリ脱離は、針31を針前後進機構33により斜め上方からバリ15に突き刺した後、X方向のプラス側、すなわち紙面の右側、もしくはZ方向のマイナス側、すなわち紙面の下側に強制バリ脱離機構30ごと移動することでバリを強制除去される。
【0050】
以上説明したバリ取り装置、及びバリ取り方法を実現することでモータのステータに生じるステータ内周バリを確実、且つ安定して加工して除去するステータのバリ取り装置及びバリ取り方法を提供することが出来、それにより、高品質なステータを取得可能となる。
【0051】
以上、本発明を具体的な実施例により説明したが、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、構成の一部を他の構成に置き換えることが可能であり、また、他の構成を加えることも可能である。
【符号の説明】
【0052】
1…ステータ、2…ワーク保持回転機構、3…判別センサ、4…位置決め機構、5…X方向駆動機構、6…Z方向駆動機構、7…バリ位置記憶部、8…ワーク保持回転制御部、9…カッター機構、10…カッター駆動制御部、11…駆動機構、12…カッター刃、13…カッター刃保持部、14…カッター刃前後進機構、15…バリ、16…フレーム、17…鉄心、18…絶縁層、19…ロータ、30…強制バリ脱離機構、31…針、32…針保持部、33…針前後進機構、34…脱離機構部前後進機構、50…回転角検出器、100…制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10