(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】分離膜の乾燥方法及び分離膜構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 67/00 20060101AFI20220628BHJP
B01D 63/06 20060101ALI20220628BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20220628BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
B01D67/00
B01D63/06
B01D69/10
B01D69/12
(21)【出願番号】P 2018550067
(86)(22)【出願日】2017-10-03
(86)【国際出願番号】 JP2017035949
(87)【国際公開番号】W WO2018088064
(87)【国際公開日】2018-05-17
【審査請求日】2020-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2016218366
(32)【優先日】2016-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】野田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】萩尾 健史
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-159211(JP,A)
【文献】特開2014-208334(JP,A)
【文献】特開2008-237946(JP,A)
【文献】特開2001-133155(JP,A)
【文献】特開2010-089000(JP,A)
【文献】特開平04-256423(JP,A)
【文献】特開平10-202071(JP,A)
【文献】国際公開第2016/084845(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離膜の膜面における乾燥用気体の流速の最大値と最小値の差を流速の最小値で割った値が15%以下となるように乾燥用気体を分離膜に供給する工程を備え、
前記乾燥用気体が、40℃、1気圧における水1cm
3への溶解度が0.5cm
3以上である水溶性気体を含む40℃以下の気体であ
り、
前記乾燥用気体が供給される前記分離膜の第1主面側における前記水溶性気体の分圧は、前記分離膜の第2主面側における前記水溶性気体の分圧より100kPa以上高い、
分離膜の乾燥方法。
【請求項2】
前記水溶性気体の少なくとも一部は、二酸化炭素である、
請求項
1に記載の分離膜の乾燥方法。
【請求項3】
前記乾燥用気体は、前記水溶性気体を10モル%以上含む、
請求項1
又は2に記載の分離膜の乾燥方法。
【請求項4】
モノリス状の多孔質基材のセルの内表面に前記分離膜が形成されている、
請求項1乃至
3に記載の分離膜の乾燥方法。
【請求項5】
前記乾燥用気体が分離膜の膜面に対して概平行に導入されるように前記分離膜と乾燥用気体流路が配置され、前記乾燥用気体の流通方向に対して垂直な断面における前記乾燥用気体流路の形状が膜面のどの部分においても概同一である、
請求項1乃至
4に記載の分離膜の乾燥方法。
【請求項6】
前記乾燥用気体流路が複数あり、かつ、前記乾燥用気体流路同士の最短距離の平均値は5mm以下である、
請求項
5に記載の分離膜の乾燥方法。
【請求項7】
乾燥開始時の前記乾燥用気体の圧力は、乾燥終了時の前記乾燥用気体の圧力よりも高い、
請求項1乃至
6に記載の分離膜の乾燥方法。
【請求項8】
前記乾燥用気体を前記分離膜に間欠的に供給する、
請求項1乃至
7のいずれかに記載の分離膜の乾燥方法。
【請求項9】
分離膜が形成された多孔質基材をケーシングに組み付ける工程と、
前記分離膜の膜面における乾燥用気体の流速の最大値と最小値の差を流速の最小値で割った値が15%以下となるように乾燥用気体を分離膜に供給する工程と、
を備え、
前記乾燥用気体が、40℃、1気圧における水1cm
3への溶解度が0.5cm
3以上である水溶性気体を含む40℃以下の気体であ
り、
前記乾燥用気体を前記分離膜に供給する工程において、前記乾燥用気体が供給される前記分離膜の第1主面側における前記水溶性気体の分圧は、前記分離膜の第2主面側における前記水溶性気体の分圧より100kPa以上高い、
分離膜構造体の製造方法。
【請求項10】
前記乾燥用気体は、前記水溶性気体を10モル%以上含む、
請求項
9に記載の分離膜構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜の乾燥方法及び分離膜構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化学工業、電子工業、製薬工業などの多くの分野において分離膜が実用化されている。気体分離膜としては、分離する気体分子の大きさに応じて、ゼオライト膜、シリカ膜、炭素膜、高分子膜などが用いられる。
【0003】
このような分離膜の細孔は微細であるため、例えば分離膜の保管時やケーシングへの組み付け時に、空気中の水分が吸着されることによって細孔が閉塞しやすい。細孔が閉塞すると、気体の透過が抑制され、膜性能を十分に発揮できないため、組み付け後に分離膜を乾燥させる必要がある。
【0004】
分離膜の乾燥方法としては、分離膜のケーシングを加熱する手法(特許文献1参照)、加熱した気体を分離膜に供給する手法(特許文献2参照)、及び分離膜を低級アルコール混合溶液で湿潤化した後に乾燥させる手法(特許文献3参照)が知られている。また、複数の管状分離膜にガスを供給して乾燥させる手法(特許文献4参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-246207号公報
【文献】特開2016-104486号公報
【文献】特開昭60-216811号公報
【文献】特開2016-159211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1,2の手法では、ケーシングや気体を加熱する装置を設ける必要があり、特許文献3の手法では、低級アルコール混合溶液を供給する装置を設ける必要がある。また、特許文献4の手法では、バッフルを使用するため、膜表面でのガスの流れが不均一となり、乾燥が完了するまでの時間がかかる上、どのような性状のガスが分離膜の乾燥に適当かについて検討されていない。
【0007】
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、簡便かつ迅速に分離膜を乾燥可能な乾燥方法、及びその乾燥方法を用いた分離膜構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る分離膜の乾燥方法は、分離膜の膜面における乾燥用気体の流速の最大値と最小値の差を流速の最小値で割った値が15%以下となるように乾燥用気体を分離膜に供給する工程を備える。前記乾燥用気体は、40℃、1気圧における水1cm3への溶解度が0.5cm3以上である水溶性気体を含む40℃以下の気体である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡便かつ迅速に分離膜を乾燥可能な乾燥方法、及びその乾燥方法を用いた分離膜構造体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】乾燥処理において水分が蒸発する様子を説明するための模式図
【発明を実施するための形態】
【0011】
(分離膜モジュール100の構成)
図1は、分離膜モジュール100の断面図である。モジュール100は、分離膜構造体1と、ケーシング2と、Oリング3とを備える。
分離膜構造体1は、モノリス状である。モノリス状とは、長手方向に貫通した複数のセルを有する形状を意味し、ハニカムを含む概念である。分離膜構造体1の形状は、モノリス状のほか、管状、円筒状、円柱状、角柱状、及び平板状などであってもよいが、単位堆積あたりの膜面積を大きくすることができ、また、流速分布を小さくできることから、モノリス状が好適である。
【0012】
分離膜構造体1は、ケーシング2の内部に配置される。ケーシング2には、供給路21、第1回収路22及び第2回収路23が設けられている。分離膜構造体1の両端部は、Oリング3によって封止されている。
【0013】
分離膜構造体1は、多孔質基材11と分離膜12とを備える。
【0014】
1.多孔質基材11
多孔質基材11は、長手方向に延びるモノリス状である。多孔質基材11の内部には、複数のセルCLが形成される。各セルCLは、長手方向に延びる。各セルCLは、円筒状に形成される。各セルCLは、多孔質基材11の両端面に連なる。
【0015】
多孔質基材11は、骨材と結合材によって構成される。骨材としては、アルミナ、炭化珪素、チタニア、ムライト、セルベン、及びコージェライトなどを用いることができる。結合材としては、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の少なくとも一方と、ケイ素(Si)と、アルミニウム(Al)とを含むガラス材料を用いることができる。基材11における結合材の含有率は、20体積%以上40体積%以下とすることができ、25体積%以上35体積%以下が好ましい。
【0016】
多孔質基材11の気孔率は特に制限されないが、例えば25%~50%とすることができる。多孔質基材11の気孔率は、水銀圧入法によって測定できる。多孔質基材11の平均細孔径は特に制限されないが、0.1μm~50μmとすることができる。多孔質基材11の平均細孔径は、細孔径の大きさに応じて、水銀圧入法、ASTM F316に記載のエアフロー法、パームポロメトリー法によって測定できる。
【0017】
2.分離膜12
分離膜12は、各セルCLの内表面に形成される。分離膜12は、筒状に形成される。分離膜12は、混合流体に含まれる透過成分を透過させる。
【0018】
分離膜12としては、ゼオライト膜(例えば、特開2004-66188号公報参照)、シリカ膜(例えば、国際公開第2008/050812号パンフレット参照)、炭素膜(例えば、特開2003-286018号公報参照)、有機無機ハイブリッド膜(例えば、特開2013-203618号公報)、セラミック膜(例えば、特開2008-246304号公報参照)などが挙げられる。
【0019】
分離膜12の平均細孔径は、要求される濾過性能及び分離性能に基づいて適宜決定されればよいが、例えば0.0002μm~1.0μmとすることができる。なお、本願の乾燥方法は、平均細孔径10nm以下の分離膜の乾燥に対してより有用であり、平均細孔径1nm以下の分離膜の乾燥に対して特に有用である。
【0020】
分離膜12の平均細孔径は、細孔径の大きさに応じて、適宜測定方法を選択することができる。例えば、分離膜12がゼオライト膜の場合、ゼオライトの細孔を形成する骨格が酸素n員環以下の環からなる場合の酸素n員環細孔の短径と長径の算術平均を平均細孔径とする。酸素n員環とは、細孔を形成する骨格を構成する酸素原子の数がn個であって、Si原子、Al原子、P原子の少なくとも1種を含み、各酸素原子がSi原子、Al原子またはP原子などと結合して環状構造をなす部分のことである。ゼオライトが、nが等しい複数の酸素n員環細孔を有する場合には、全ての酸素n員環細孔の短径と長径の算術平均をゼオライトの平均細孔径とする。このように、ゼオライト膜の平均細孔径は骨格構造によって一義的に決定され、The International Zeolite Association (IZA) “Database of Zeolite Structures” [online]、インターネット<URL:http://www.iza-structure.org/databases/>に開示されている値から求めることができる。
【0021】
また、分離膜12がシリカ膜、炭素膜、有機無機ハイブリッド膜の場合、平均細孔径は以下の式(1)に基づいて求めることができる。式(1)において、dpは平均細孔径、fは正規化されたクヌーセン型パーミアンス、dk,iはクヌーセン拡散試験に用いられる分子の直径、dk,Heはヘリウム分子の直径である。
【0022】
f=(1-dk,i/dp)3/(1-dk,He/dp)3 ・・・(1)
クヌーセン拡散試験や平均細孔径の求め方の詳細は、Hye Ryeon Leeほか4名、“Evaluation and fabrication of pore-size-tuned silica membranes with tetraethoxydimethyl disiloxane for gas separation”、AIChE Journal volume57、Issue10、2755-2765、October 2011に開示されている。
【0023】
例えば、分離膜12がセラミック膜の場合、平均細孔径は、細孔径の大きさに応じて、パームポロメトリー法やナノパームポロメトリー法によって求めることができる。
【0024】
(分離膜構造体1の製造方法)
分離膜構造体1の製造方法の一例を説明する。
【0025】
1.多孔質基材11の作製
まず、骨材と結合材にメチルセルロースなどの有機バインダと分散材と水を加えて混練することによって坏土を調製する。
【0026】
次に、真空押出成形機を用いた押出成形法、プレス成型法、又は鋳込み成型法により、調製した坏土を用いて多孔質基材11の成形体を形成する。
【0027】
次に、多孔質基材11の成形体を焼成(例えば、500℃~1500℃、0.5時間~80時間)することによって、複数のセルCLを有する多孔質基材11を形成する。
【0028】
2.分離膜12の作製
多孔質基材11の各セルCLの内表面上に分離膜12を形成する。分離膜12の形成には、分離膜12の膜種に適した手法を用いればよい。
【0029】
3.分離膜12の組み付けと乾燥
分離膜12が形成された多孔質基材11の両端部にOリング3を装着して、ケーシング2の内部に封止する。
【0030】
この際、空気中の水分が分離膜12の細孔に吸着されることによって細孔が閉塞しやすい。細孔が閉塞すると、膜性能を十分に発揮できないため、組み付け後に分離膜12を乾燥させる必要がある。そこで、本実施形態では、以下の乾燥処理が実施される。
【0031】
具体的には、供給路21からケーシング2の内部に乾燥用気体を供給しながら、各乾燥用気体流路を通過した乾燥用気体を第1回収路22から回収するとともに、分離膜12を透過した透過気体を第2回収路23から回収する。本実施形態において、乾燥用気体の供給は、連続的もしくは間欠的に行われるものとする。乾燥用気体を間欠的に供給することで、乾燥用気体の使用量を抑制することができる。
【0032】
この工程では、分離膜12の膜面における乾燥用気体の流速分布が15%以下となるように乾燥用気体を分離膜12に所定時間供給する。流速分布は、分離膜12の第1主面S1側(
図1では不図示、
図2参照)と第2主面S2側(
図1では不図示、
図2参照)の圧力を同一にした状態で、乾燥用気体が供給される側の分離膜12の膜面各所で膜面近傍(膜面より1~2mm程度)の乾燥用気体の流速(膜面流速)を求め、膜面流速の最大値と膜面流速の最小値の差を膜面流速の最小値で割った値([最大流速-最小流速]/最小流速)として求められる。透過気体の第2回収路23を封止することにより、分離膜12の第1主面S1側と第2主面S2側の圧力を同一にすることができる。乾燥用気体が間欠的に供給される場合など、膜面流速が時間によって変化する場合には、乾燥用気体を供給する間の膜面流速の平均値を膜面流速の値とする。
【0033】
流速分布を15%以下とすることによって、分離膜12の全体をほぼ同じ速度で乾燥させることができる。従って、分離膜12の全体における乾燥速度の差を小さくすることができるため、分離膜12を短時間で効率的に乾燥させることができる。流速分布は、10%以下がより好ましい。なお、実際の膜面流速の測定が困難な場合には、流体シミュレーションによって流速分布を測定することができる。
【0034】
流速分布を15%以下とするには、乾燥用気体を分離膜12の膜面に対して概平行に流通するように分離膜12を配置し、かつ、乾燥用気体の流通方向に対して垂直な断面における乾燥用気体流路の形状が膜面のどの部分においてもほぼ均一となるようにすることが好ましい。
【0035】
乾燥用気体流路とは、乾燥用気体が流通する空間である。乾燥用気体流路は、分離膜12に接するように設けられる。本実施形態において、乾燥用気体流路は、分離膜12の内側の空間である。
図1では、乾燥用気体流路内を流通する乾燥用気体の流通方向がFdと表されている。
図1の例では、乾燥用気体の流通方向Fdに対して垂直な断面における乾燥用気体流路の形状は、流通方向全体にわたって概同サイズの円形になっている。
【0036】
また、
図1に示すように、乾燥用気体流路が複数ある場合には、乾燥用気体の流通方向Fdに対して垂直な断面において、近接する乾燥用気体流路どうしの最短距離の平均値が5mm以下であることが好ましい。これによって、各乾燥用気体流路における流速分布をより小さくすることができる。
【0037】
本実施形態において、水溶性気体とは、40℃、1気圧における水1cm3への溶解度が0.5cm3以上の気体である。このような水溶性気体としては、CO2、アセチレン、H2Sなどが挙げられるが、入手しやすさや安全性の観点から、特にCO2が好適である。乾燥用気体に含まれる水溶性気体以外の気体(非水溶性気体)は、特に制限されないが、入手しやすさや価格の観点から、乾燥空気、窒素、アルゴンが好適である。
【0038】
乾燥用気体に含まれる水溶性気体の種類は、1種類でもよく、2種類以上でもよい。また、乾燥用気体に含まれる非水溶性気体の種類は、1種類でもよく、2種類以上でもよい。
【0039】
乾燥用気体には水溶性気体が含有されていればよいが、水溶性気体の含有率を高めることによって乾燥処理の迅速化を図ることができる。具体的には、水溶性気体の含有率は、10モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、50モル%以上が特に好ましい。乾燥用気体は、実質的に水溶性気体のみを含んでいてもよい。なお、乾燥用気体に2種類以上の水溶性気体が含まれる場合は、各水溶性気体の含有率の和を、水溶性気体の含有率とする。
【0040】
乾燥用気体に含まれる水溶性気体のうち、少なくとも1種類の水溶性気体の動的分子径は、分離膜12の平均細孔径以下であることが好ましい。これにより、後述する水溶性気体の透過を効率的に行うことができる。水溶性気体の動的分子径の値は、D.W. Breck, “Zeolite Molecular Sieves: Structure, Chemistry and Use”, John Wiley & Sons, New York, 1974, p.636に開示されている。
【0041】
乾燥用気体の温度は、40℃以下であればよい。乾燥用気体が40℃以下であることは、乾燥用気体に積極的な加熱処理が施されていないことを意味する。そのため、分離膜の乾燥設備に、別途、加熱用の装置を導入する必要がない。加えて、乾燥用気体が40℃以下であるため、後述する水溶性気体の水分中への溶解量を大きくできる。また、乾燥用気体の温度の下限は、特に制限されないが、乾燥処理の迅速化を図ることができるため、-20℃以上が好ましく、0℃以上がより好ましく、10℃以上が特に好ましい。
【0042】
乾燥用気体は、水分を含んでいないことが好ましい。具体的に、乾燥用気体における含水率は、2g/m3以下が好ましく、0.1g/m3以下がより好ましく、0.03g/m3以下が特に好ましい。
【0043】
乾燥用気体が供給される所定時間(すなわち、乾燥時間)は、水溶性気体の種類、乾燥用気体における水溶性気体の含有率、乾燥用気体の温度などを考慮して適宜設定することができる。
【0044】
乾燥開始時(すなわち、乾燥用気体の供給開始時)における乾燥用気体の圧力は、乾燥終了時(すなわち、乾燥用気体を分離膜12に連続的に供給する場合には乾燥用気体の供給停止時、乾燥用気体を分離膜12に間欠的に供給する場合には乾燥用気体の供給停止後に再度乾燥用気体を供給開始する直前)における乾燥用気体の圧力より高いことが好ましい。このように、乾燥終了時に乾燥用気体の圧力を低くすることによって、分離膜12の乾燥にともなう乾燥用気体の流通量を抑制できるため、無駄な乾燥用気体を使用しなくてよくなる。なお、乾燥用気体を分離膜12に間欠的に供給する場合には、各供給サイクルにおいて乾燥終了時の乾燥用気体の圧力を乾燥開始時の圧力よりも低くすればよい。
【0045】
ここで、
図2は、乾燥処理において水分が蒸発する様子を説明するための模式図である。
図2では、分離膜12の細孔12aが水分によって閉塞された状態が図示されている。
【0046】
図2に示すように、乾燥用気体は、分離膜12の第1主面S1に供給される。乾燥用気体に含まれる水溶性気体は、細孔12a内の水分中に溶解して第2主面S2側に透過する。この際に、細孔12aを閉塞させている水分は水蒸気として蒸発する。また、図示していないが、分離膜12に水分によって閉塞されていない細孔が存在する場合、及び、乾燥によって分離膜12に細孔を閉塞している水分が取り除かれた細孔が生じた場合、乾燥用気体に含まれる水溶性気体と非水溶性気体は、これらの細孔を通って第2主面S2側に透過することができる。以上の2通りの機構により第2主面S2側に透過した水溶性気体と非水溶性気体をあわせて、透過気体とする。透過気体は、細孔12aを閉塞させている水分から蒸発する水蒸気とともに多孔質基材11を透過して、第2回収路23から回収される。
【0047】
一方、分離膜12を透過しなかった乾燥用気体は、水分に接触した後、水分から蒸発する水蒸気とともにセルCLを通過する。セルCLを通過した乾燥用気体と水蒸気は、第1回収路22から回収される。
【0048】
このように、本実施形態に係る乾燥方法によれば、水分によって閉塞された細孔12aを水溶性気体が透過することにより、細孔12aを閉塞させている水分を第1主面S1側と第2主面S2側の両方から蒸発させる効果を増大させることができるため、40℃よりも高い温度での加熱処理を施すことなく、簡便かつ迅速に分離膜12を乾燥させることができる。
【0049】
本実施形態に係る乾燥方法では、乾燥用気体が供給される第1主面S1側における水溶性気体の分圧(以下、「第1分圧」という。)は、第2主面S2側における水溶性気体の分圧(以下、「第2分圧」という。)より高いことが好ましい。これによって、細孔12aを閉塞させている水分に水溶性気体を効率的に溶解させることができるため、より迅速に分離膜12を乾燥させることができる。
【0050】
第1分圧は、第2分圧より20kPa以上高いことが特に好ましい。第1分圧と第2分圧との差圧は、供給路21から供給される乾燥用気体の加圧力を調整することによって簡便に制御することができる。また、第1分圧と第2分圧との差圧は、第2回収路23から真空ポンプで吸引して第2主面S2側に負圧を発生させることによっても制御することができる。
【0051】
以上の乾燥処理が終了することによって、分離膜構造体1が完成する。
【0052】
(変形例)
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0053】
上記実施形態では、本発明に係る乾燥方法をモノリス状の分離膜構造体1に適用した場合について説明したが、これに限られるものではない。本発明に係る乾燥方法は、管状、円筒状、円柱状、角柱状、及び平板状など様々な形状の分離膜構造体に適用することができる。例えば、
図3には、本発明に係る乾燥方法を平板状の分離膜構造体1’に適用した構成が図示されている。ただし、分離膜構造体の形状が、モノリス状以外の形状(例えば、円筒状、或いは、
図3に示される平板状など)である場合、分離膜構造体を実際のケーシングに取り付けた際に、流路形状を均一にすることが困難なため、流速分布を小さくすることが難しい。
【0054】
上記実施形態では、分離膜12の第1主面S1に乾燥用気体を供給することとしたが、これに限られるものではない。例えば、
図4に示すように、乾燥用気体は、分離膜12の第2主面S2に供給されてもよい。すなわち、乾燥用気体は、多孔質基材11側から分離膜12に供給されてもよい。この場合には、
図4に示すように、ケーシング2に供給路21’を追加するとともに、供給路21を封止すればよい。供給路21’から供給された乾燥用気体に含まれる水溶性気体は、分離膜12の細孔12aを閉塞させている水分を透過した後、セルCLを通って第2回収路23’から回収される。残った乾燥用気体は、第1回収路22’から回収される。ただし、
図4に示すように、乾燥用気体を分離膜12の膜面に対して概垂直に導入した場合には、流速分布を小さくすることが難しいため、
図1に示したように、乾燥用気体を分離膜の膜面に対して概平行に導入することによって、流速分布を小さくすることが好ましい。
【0055】
上記実施形態では、乾燥用気体を分離膜12に連続的に供給することとしたが、乾燥用気体を分離膜12に断続的に供給することとしてもよい。具体的には、乾燥用気体をケーシング2の内部に充填した時点で供給路21と第1回収路22とを封止し、第2回収路23から透過気体と水蒸気を回収した後に、ケーシング2内の乾燥用気体を入れ替えるというサイクルを繰り返してもよい。この場合には、分離膜12の乾燥処理に使用される乾燥用気体の量を少なくすることができる。また、回収した乾燥用気体や透過気体は、除湿して再利用してもよい。
【0056】
上記実施形態では、分離膜12が多孔質基材11上に直接形成されることとしたが、分離膜12と多孔質基材11との間には1層ないし複数層の中間層が配置されていてもよい。中間層は、多孔質基材11と同様の材料によって構成することができる。中間層の細孔径は、多孔質基材11の細孔径よりも小さいことが好ましい。
【実施例】
【0057】
(サンプルNo.1~5)
まず、平均粒径12μmのアルミナ粒子(骨材)70体積%に対して無機結合材30体積%を添加し、更に有機バインダ等の成形助剤や造孔剤を添加して乾式混合した後、水、界面活性剤を加えて混合し混練することにより坏土を調製した。無機結合材としては、平均粒径が1~5μmであるタルク、カオリン、長石、粘土等をSiO2(70質量%)、Al2O3(16質量%)、アルカリ土類金属およびアルカリ金属(11質量%)の混合物を用いた。
【0058】
次に、坏土を押出成形して、モノリス状の多孔質基材の成形体を作成した。そして、多孔質基材の成形体を焼成(1250℃、1時間)して、多数のセルを有するアルミナ基体を得た。
【0059】
次に、アルミナ粉末にPVA(有機バインダ)を添加してスラリーを調製し、スラリーを用いた濾過法によってアルミナ基体のセルの内表面上に中間層の成形体を形成した。続いて、中間層の成形体を焼成(1250℃、1時間)することによって中間層を形成した。
【0060】
次に、アルミナ基体の両端面をガラスでシールした。以上により、モノリス状の多孔質基材が完成した。
【0061】
次に、国際公開番号WO2011105511に記載の方法に基づき、多孔質基材の各セルの内表面の中間層上にDDR型ゼオライト膜(平均細孔径:4.0nm)を分離膜として形成した。そして、DDR型ゼオライト膜に空気気中の水分が吸着した状況を再現するために、DDR型ゼオライト膜を水蒸気雰囲気に1分間暴露した。
【0062】
次に、サンプルNo.1~4では、
図1に示したように、DDR型ゼオライト膜が形成された多孔質基材をケーシング内にセットし、サンプルNo.5では、
図4に示したように、DDR型ゼオライト膜が形成された多孔質基材をケーシング内にセットした。
【0063】
次に、乾燥用気体を流すことによって、DDR型ゼオライト膜の乾燥処理を実施した。乾燥条件は、表1に示すとおりとした。サンプルNo.1、5では、乾燥用気体として水溶性気体であるCO2を用い、サンプルNo.2~4では、乾燥用気体として非水溶性気体であるHe、N2、Arを用いた。乾燥用気体の温度は27℃(室温)に統一した。また、サンプルNo.1では、乾燥用気体(水溶性気体)の供給側と透過側の差圧を10kPa、20kPa、100kPaとした3パターン実施し、サンプルNo.2~5では、乾燥用気体(非水溶性気体)の供給側と透過側の差圧を100kPaに統一した。また、サンプルNo.1では、差圧100kPaの時に、供給路の形状を変えることで、流速分布を10%と15%とした2パターン実施した。本実施例では、乾燥用気体として単成分の気体を使用しているので、供給側と透過側の差圧は、水溶性気体又は非水溶性気体の分圧差と同じである。また、サンプルNo.1~4では、流速分布の大きさが15%以下であるのに対し、サンプルNo.5では、流速分布の大きさが15%より大きいことを確認した。
【0064】
そして、DDR型ゼオライト膜を透過する気体の流量が一定になった時点における各気体の流量を100%として、乾燥用気体を流し始めた時点からDDR型ゼオライト膜を透過する各気体の流量が95%となるまでの時間を乾燥時間とした。各サンプルの乾燥時間を表1にまとめて示す。なお、DDR型ゼオライト膜を透過した気体の流量はマスフローメーターを用いて測定した。
【0065】
【0066】
表1に示すように、流速分布を一定として分圧差を100kPaで一定とした場合における乾燥時間の比較から、40℃、1気圧での水1cm3への溶解度が0.5cm3以上である水溶性気体(CO2)を使用したサンプルNo.1では、非水溶性気体を使用したサンプルNo.2~4に比べて乾燥時間を短くすることができた。これは、DDR型ゼオライト膜の細孔を閉塞させている水分をDDR型ゼオライト膜の両面側から蒸発させることができたためである。
【0067】
また、分圧差を100kPaで一定とした場合における乾燥時間の比較から、流速分布の大きさが15%以下であるサンプルNo.1では、流速分布の大きさが15%より大きいNo.5に比べて乾燥時間を短くすることができた。さらに、サンプルNo.1において、流速分布を10%以下とすることによって、5分以内で気体透過量が95%以上まで乾燥できることが分かった。これは、DDR型ゼオライト膜全体をほぼ同じ速度で乾燥させることで、膜全体を効率的に乾燥させることができたためである。
【0068】
また、サンプルNo.1において流速分布を一定として分圧差を変化させた場合における乾燥時間の比較から、分圧差を20kPa以上とすることによって、15分以内で気体透過量が95%以上まで乾燥できることが分かった。
【0069】
また、サンプルNo.2の乾燥時間がサンプルNo.3,4の乾燥時間より短くなったのは、Heの動的分子径がN2やArの動的分子径より小さいために、N2やArよりも細孔を透過しやすいためであると考えられる。しかし、Heよりも動的分子径の大きいCO2を用いたサンプルNo.1において乾燥時間を短くできたことから、動的分子径よりも水への溶解度の方が乾燥時間に対する影響が大きいことが分かった。水への溶解度が乾燥時間に大きな影響を与えているのであるから、CO2以外の水溶性気体を用いた場合においても同様の効果が得られるため、サンプルNo.1と同様に乾燥時間を短くできることは明らかである。
【0070】
また、細孔を閉塞させている水分を水溶性気体が透過することによって乾燥時間が短縮されるのであるから、2種類以上の水溶性気体を含む乾燥用気体を使用した場合においても、乾燥時間を短くできることは明らかである。さらに、2種類以上の水溶性気体を含む乾燥用気体を使用した場合においても、供給側における水溶性気体の分圧を透過側における水溶性気体の分圧より高くするほど乾燥時間を短くできることも明らかである。
【0071】
また、本実施例ではDDR型ゼオライト膜を分離膜として使用したが、細孔に水を吸着しやすい材料によって構成される分離膜に対して、サンプルNo.1の乾燥方法は有効である。特に、細孔径が10nm以下の材料によって構成される分離膜に対して、サンプルNo.1の乾燥方法は有用である。
【符号の説明】
【0072】
1 分離膜構造体
11 多孔質基材
12 分離膜
2 ケーシング
21 供給路
22 第1回収路
23 第2回収路
CL セル