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特許7096167グルコース制御障害に関連する状態の治療
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】グルコース制御障害に関連する状態の治療
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/36 20060101AFI20220628BHJP
【FI】
A61N1/36
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2018560873
(86)(22)【出願日】2017-05-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-06-20
(86)【国際出願番号】 EP2017062193
(87)【国際公開番号】W WO2017198865
(87)【国際公開日】2017-11-23
【審査請求日】2020-05-08
(31)【優先権主張番号】62/339,220
(32)【優先日】2016-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517155196
【氏名又は名称】ガルバニ バイオエレクトロニクス リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】398076227
【氏名又は名称】ザ・ジョンズ・ホプキンス・ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スリダー,アルン
(72)【発明者】
【氏名】リウ,リアンシェン
(72)【発明者】
【氏名】パスリチャ,パンカジ ジェイ
【審査官】和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-521837(JP,A)
【文献】国際公開第2016/072875(WO,A1)
【文献】特表2015-533333(JP,A)
【文献】特表2008-509794(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体の大内臓神経(GSN)の神経活動を阻害するための装置又はシステムであって、該装置又はシステムが、(i)副腎神経節と腹腔神経節の間のGSNを取り囲み、被験体のGSNに電気シグナルを適用するように構成された1つ以上のカフ電極、及び(ii)該1つ以上のカフ電極に連結されたコントローラであって、電気シグナルがGSNの神経活動を阻害して被験体において生理学的反応を生成するように、該1つ以上のカフ電極によって適用される電気シグナルを制御する、コントローラを含み、生理学的反応は、被験体におけるインスリン感受性の増加、被験体におけるグルコース耐性の改善、被験体における空腹時血漿グルコース濃度の低下、被験体における皮下脂肪含量の低下;及び/又は被験体における肥満の低下;からなる群の1つ以上である、装置又はシステム。
【請求項2】
電気シグナルが非破壊的シグナルである、請求項1に記載の装置/システム。
【請求項3】
1つ以上のカフ電極が双極カフ電極である、請求項1又は2に記載の装置/システム。
【請求項4】
電気シグナルが、1kHzより大きい周波数の交流(AC)波形を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の装置/システム。
【請求項5】
AC波形が、20kHzより大きい周波数、例えば30~50kHzの周波数を有する、請求項4に記載の装置/システム。
【請求項6】
AC波形が正弦波形である、請求項4又は5に記載の装置/システム。
【請求項7】
電気シグナルが、0.5~5mAの電流を有する、請求項16のいずれか一項に記載の装置/システム。
【請求項8】
電気シグナルがオンセット応答を誘導しない、請求項1~7のいずれか一項に記載の装置/システム。
【請求項9】
被験体における1つ以上の生理学的パラメータを検出するための手段をさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の装置/システム。
【請求項10】
コントローラが、前記検出するための手段に連結され、生理学的パラメータが予め規定された閾値を満たすか又は超えるように検出された場合に前記1つ以上のカフ電極に前記電気シグナルを適用させる、請求項9に記載の装置/システム。
【請求項11】
1つ以上の検出される生理学的パラメータが、交感神経緊張、血圧、インスリン濃度、グルコース濃度、血漿カテコールアミン濃度、組織カテコールアミン濃度、及び血漿HbA1c濃度からなる群の1つ以上を含む、請求項9又は10に記載の装置/システム。
【請求項12】
1つ以上の検出される生理学的パラメータが、被験体の神経における活動電位又は活動電位のパターンを含み、該活動電位又は活動電位のパターンが、グルコースに対する応答障害に関連する状態に関連している、請求項911のいずれか一項に記載の装置/システム。
【請求項13】
電気シグナルを適用した結果としての神経活動における阻害が、GSNにおける神経活動の部分的ブロック又は完全なブロックである、請求項1~12のいずれか一項に記載の装置/システム。
【請求項14】
GSN中の求心性及び/又は遠心性の線維の神経活動がブロックされる、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
電気シグナルを適用した結果としての神経活動における阻害が、実質的に持続的である、請求項1~14のいずれか一項に記載の装置/システム。
【請求項16】
神経活動における調節が可逆的である、請求項1~14のいずれか一項に記載の装置/システム。
【請求項17】
神経活動における調節が矯正的である、請求項1~14のいずれか一項に記載の装置/システム。
【請求項18】
被験体への少なくとも部分的な埋め込みに適している、場合により被験体へ完全に埋め込まれるのに適している、請求項1~17のいずれか一項に記載の装置/システム。
【請求項19】
GSNに取り付けられている、請求項1~18のいずれか一項に記載の装置/システム。
【請求項20】
被験体が哺乳動物被験体であり、場合によりヒト被験体である、請求項1~19のいずれか一項に記載の装置/システム。
【請求項21】
被験体が、グルコース制御障害に関連する状態、疾患又は障害に罹患している、請求項20に記載の装置/システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタボリックシンドローム状態の治療のための医療装置に関し、より具体的には、そのような目的のための神経調節治療を送達する医療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2型糖尿病(T2D)、肥満及びグルコース耐性障害(未治療のままであれば患者のT2Dの発症へ向かう)などの代謝障害の有病率の上昇は、重大な未解決の医療ニーズを構成する。さらに、それらは組み合わせて存在することができ、メタボリックシンドロームは、5つの医学的状態:腹部肥満;血圧上昇;上昇した空腹時血漿グルコース;高血清トリグリセリド;及び低い高密度リポタンパク質(HDL)レベル;の少なくとも3つのクラスター化である。メタボリックシンドロームは、心血管疾患及び糖尿病を発症するリスクと関連している。
【0003】
これらの障害の知られている治療は、医薬品の投与に基づくが、これらの治療はしばしば疾患を制御することができず、望ましくない副作用を引き起こす可能性がある。
【0004】
胃バイパス手術は、十二指腸が血糖/代謝調節において重要な役割を果たすことを明らかにしたが、正確なメカニズムはあまり理解されていないままである。以前の研究により、TRPV1を発現する十二指腸脊髄求心性神経が食後血糖応答を媒介する上で重要であることが示されており、T2Dを治療する方法として神経調節が提案されている。例えば、特許出願US2014/0187619は、十二指腸における感覚神経の切除がT2Dの治療を提供することができると報告しているが、US2008/0312714は、肝臓の電気刺激が同様の効果をもたらすことができることを提案している。
【0005】
WO2016/072875は、頸動脈洞神経における神経活動の調節が、グルコース制御障害に関連する状態を治療し得ることを開示している。
【0006】
T2Dなどのグルコース制御障害を伴う代謝障害のさらなる改善された治療の必要性が依然として存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】US2014/0187619
【文献】US2008/0312714
【文献】WO2016/072875
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは、糖尿病の動物モデルにおけるグルコース耐性の神経調節の影響を評価し、大内臓神経(GSN)の神経活動の阻害が経口グルコース耐性において有意な改善をもたらすことを実証した。
【0009】
したがって、本発明は、被験体のGSNにおける神経活動を阻害することによって、被験体におけるグルコース制御障害に関連する状態を治療する方法を提供する。GSN活動を阻害する好ましい方法は、本明細書の他の箇所に記載されているようにGSNにシグナルを適用する装置を使用する。
【0010】
本発明はまた、被験体におけるグルコース制御障害に関連する状態を治療する方法を提供し、この方法は、被験体のGSNにシグナルを適用し、被験体におけるGSNの神経活動を阻害するステップを含む。
【0011】
本発明はまた、被験体のGSNの神経活動を阻害するための装置又はシステムを提供し、該装置又はシステムは、(i)GSNにシグナルを適用するように構成された1つ以上のトランスデューサ、及び(ii)該1つ以上のトランスデューサに連結されたコントローラであって、測定可能な生理学的パラメータの改善を提供するためにシグナルがGSNの神経活動を阻害する(特にグルコース制御障害に関連する状態を有する被験体において)ように、該1つ以上のトランスデューサによって適用されるシグナルを制御する、コントローラを含む。
【0012】
本発明はまた、被験体におけるグルコース制御障害に関連する状態を治療する方法を提供し、この方法は、本発明の装置/システムを被験体に埋め込むステップ、被験体のGSNとシグナル伝達接触になるようにその装置/システムの少なくとも1つのトランスデューサを配置するステップ、及びその装置/システムを作動させるステップを含む。
【0013】
同様に、本発明は、被験体のGSNにおける神経活動を阻害する方法を提供し、この方法は、本発明の装置/システムを被験体に埋め込むステップ、被験体のGSNとシグナル伝達接触になるようにその装置/システムの少なくとも1つのトランスデューサを配置するステップ、及びその装置/システムを作動させるステップを含む。
【0014】
さらに、本発明は、被験体に本発明の装置/システムを埋め込む方法を提供し、この方法は、被験体のGSNとシグナル伝達接触になるように装置/システムの少なくとも1つのトランスデューサを配置するステップを含む。いくつかの実施形態では、この方法は、装置/システムを作動させるステップを含み、他の方法では、この作動ステップは起こらない。
【0015】
本発明はまた、本発明の装置/システムを提供し、本明細書で記載されるように、この装置/システムはGSNに取り付けられる。
【0016】
本発明はさらに、被験体におけるグルコース制御障害に関連する状態の治療における使用のための神経調節電気波形を提供し、その波形は、被験体のGSNに適用されると、GSNの神経活動を阻害するように、1~50KHz、場合により25~50kHzの周波数を有するキロヘルツ交流(AC)波形である。
【0017】
本発明はまた、被験体のGSNにおける神経活動を阻害することによって、被験体におけるグルコース制御障害に関連する状態を治療するための神経調節装置又はシステムの使用を提供する。
【0018】
本発明はまた、本発明の装置/システムのトランスデューサが取り付けられるGSNを提供する。GSNは理想的には被験体のインサイチュに存在する。
【0019】
本発明はまた、本発明のシステム又は装置のトランスデューサが取り付けられた改変GSNを提供する。トランスデューサは、神経とシグナル伝達接触しているので、該神経はその自然状態の神経と区別することができる。さらに、神経は、グルコース制御障害に関連する状態に罹患している被験体に位置する。
【0020】
本発明はまた、改変GSNを提供し、ここで、該GSNにシグナルを適用することによって神経活動が可逆的に阻害される。
【0021】
本発明はまた、改変GSNを提供し、ここで、活動電位は改変された神経を通って伝播しないように、神経膜が電界によって可逆的に脱分極又は過分極される。
【0022】
本発明はまた、神経膜によって境界付けられた改変GSNを提供し、該改変GSNは、正常な状態で神経に沿って活動電位を伝播するように神経の電気膜電位を変化させるために神経膜を横切って移動可能なカリウム及びナトリウムイオンの分布を含み;ここで、神経の少なくとも一部は神経内のカリウム及びナトリウムイオンの濃度を改変する一時的な外部電場の適用に供され、神経膜の脱分極又は過分極を引き起こし、それにより、妨害された状態のその一部を横切る活動電位の伝播が一時的にブロッキングされ、外部電界が除去されると、神経はその正常状態に戻る。
【0023】
本発明はまた、被験体におけるグルコース制御障害に関連する状態を治療する方法における使用のための荷電粒子を提供し、ここで、該荷電粒子は、GSNの神経膜の可逆的な脱分極又は過分極を引き起こし、その結果、活動電位は、改変された神経を通して伝播しない。
【0024】
本発明はまた、本発明の方法に従ってGSNの神経活動を可逆的に阻害することによって得られる改変GSNを提供する。
【0025】
本発明はまた、GSNの活動を改変する方法を提供し、この方法は、被験体におけるGSNの神経活動を阻害するためにGSNにシグナルを適用するステップを含む。
【0026】
本発明はまた、GSNとシグナル伝達接触している本発明の装置/システムを制御する方法を提供し、この方法は、装置/システムがGSNにシグナルを適用することに応答して、その装置/システムに制御命令を送信するステップを含む。
【0027】
本発明はまた、被験体の治療における使用のための糖尿病薬剤を提供し、ここで、被験体は、そのGSNとシグナル伝達接触している本発明の埋め込まれた装置/システムを有する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1A-B】本発明を実施するための神経調節装置の実行例。
図1C図1A-Bの続きである。
図2】GSN切除(-GSN)又は偽手術(-偽)を受けた、正常食(ND)又は高脂肪食(HFD)のラットにおけるOGTTスコア(血液グルコース耐性、曲線下面積)を示す。x軸は治療前スコア、そして手術後1、4、8、12週間後のスコアを示す。記号「*」は同じ食餌の-GSNと-偽の動物の間の統計的に有意な差を示し、「#」は同じ処置を受けたHDとHFD動物の間の統計的に有意な差を示す。
図3】GSN切除(GSN切断)又は偽手術(偽)を受けた、糖尿病ラット(ZDF)又は痩せたラット(ZDF-痩せ)におけるOGTTのスコアを同様に示す。x軸は治療前スコア、そして手術後1、4、8週間のスコアを示す。記号「*」は同じ系統における-GSNと-偽の動物の間の統計学的に有意な差を示し、「#」は同じ治療を受けた糖尿病と痩せた動物の間の統計的に有意な差を示す。
図4】GSN切除(GSN切断)又は偽手術(偽)を受けた、糖尿病ラット(ZDF)又は痩せたラット(ZDF-痩せ)における腹腔内グルコース耐性試験におけるラットの血糖値(mg/dl)を示す。x軸は処置前スコア、そしてグルコースの注射の10、30、60、90及び120分後のスコアを示す。記号「*」及び「#」は、図3と同じ意味である。
図5】インスリン注射後のラットにおける血糖値(mg/dl)を示す。群は、図3及び図4のものと同じである。
図6】シグナル伝達を阻害するためのGSNにおける可能な部位(1)、(2)、(3)及び(4)の位置を示す。腹部動脈、腹腔神経節及び副腎神経節が標識され、腎臓及び副腎が両方見える。
図7】ND及びHFDラット(図2と同じ群及び記号)における血圧(mmHg)を示す。図7Aは拡張期圧を示し、図7Bは収縮期圧を示す。
図8】ND及びHFDラット(図3と同じ群及び記号)における血圧(mmHg)を示す。図8Aは拡張期圧を示し、図8Bは収縮期圧を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明者らは、メタボリックシンドロームのラットモデルにおけるGSN活動の中断が、経口グルコース耐性の顕著な改善、並びにグルコース負荷に応答して有意に低いインスリンレベルをもたらすことを示した。したがって、十二指腸の神経支配は、肥満誘発2型糖尿病、インスリン抵抗性及び高血圧症の病因における役割を果たしており、それがGSN活動を阻害するバイオ電子工学(又は他のアプローチ)の使用の根拠を提供し、それによって治療効果が達成される。
【0030】
一般に、本発明の目的の被験体は、ヒトであり、特に、グルコース制御障害に関連する状態に罹患しているヒトである。しかし、前臨床及び実験の状況では、本発明は非ヒト哺乳動物にも及ぶ可能性がある。
【0031】
大内臓神経
内臓神経は、自律神経系の線維(内臓遠心性線維)及び様々な器官由来の感覚線維(内臓求心性線維)を保有する。全ての内臓神経は、骨盤内臓神経を除いて、交感神経線維を保有する。胸内臓神経は下部第7胸部交感神経節から内枝として認識される。それらは、交感神経系のシナプス前神経であり、GSN、小内臓神経、及び最小内臓神経を含む。それらは横隔膜を通って、腹腔、大動脈、及び上腸間膜神経節及び神経叢に対して線維を伝える。胸内臓神経及び腹腔神経節についてのさらなる詳細は、Loukas et al. (2010) Clinical Anatomy 23:512~22に記載されている。
【0032】
GSNは、ヒトの第5~第9胸神経節に由来し、第10胸神経節への寄与の可能性がある。ほとんどの場合、大内臓神経は4つの根に由来し、斜めに下降する前に、下行大動脈への分岐を与え、横隔膜の下腿を穿孔する。人体には2つのGSNがあり、いずれか又は両方の阻害が本発明により可能であるが、特に目的とするGSNは右のGSNである。
【0033】
GSNは、様々な腹部器官から感覚シグナルを自然に保有している。GSNにおける神経活動を阻害することにより、グルコース耐性の増加などの治療効果を達成することができ、それによりグルコース制御障害に関連する症状の治療を支援する。
【0034】
原則として、本発明はGSNに沿った任意のポイントで活動を阻害することができるが、腹腔神経節の活動又はその上流の活性を阻害することが一般に好ましい。望ましくない生理学的影響を避けるために、副腎神経節の活動又はその下流の活動を中断することが好ましい。したがって、副腎神経節と腹腔神経節との間の中断が好ましく、このGSNの領域は、外科的介入及び電極取り付けに適している(さらに、頸動脈洞神経よりもより接近可能である)。したがって理想的には、活動の中断はGSNのこの領域に局在する。図6は潜在的阻害の位置を示す。(1)における阻害は、GSNの分枝の後、しかし副腎神経節の前に起こり、したがって、望ましくないことがある脈管構造へのシグナル伝達に潜在的に影響を及ぼす。(2)での阻害は副腎神経節にあり、これは有用であるが、副腎へのシグナル伝達にも影響を及ぼし得るため、これもまた、カテコールアミン放出を変化させないことが好ましいため、望ましくない可能性がある。位置(4)は、腹腔神経節に対する阻害を適用するが、腹腔神経節及び腹腔神経叢にも寄与する他の神経を阻害し得る。したがって、ポイント(2)とポイント(4)との間例えば、副腎神経節の後、腹腔神経節の前にある(3)の阻害が好ましい。図6の稲妻の矢印は、以下に説明する実験で、約1cmの長さの短い一続きのGSNの内、切断が行われた場所を示している。
【0035】
本発明によれば、阻害は、神経のその部分におけるベースライン神経活動と比較して、GSNの少なくとも一部において神経活動の低下をもたらす。この活動の低下は、神経全体にわたって起こる可能性があり、この場合、神経活動は神経全体で減少する。したがって、阻害は、GSNの求心性線維及び遠心性線維の両方に適用され得るが、いくつかの実施形態では、阻害は、求心性線維又は遠心性線維のみに適用され得る。レシニフェラトキシンによる結果は、求心性GSN線維の阻害がグルコース耐性を改善するために重要であることを示唆しているが、以下に示す腹腔内データは、遠心性線維(例えば肝臓を標的とする)が重要な役割を果たす可能性があることを示唆する。
【0036】
本明細書で使用される場合、神経の「神経活動」は、神経のシグナル伝達活動、例えば、神経における活動電位の振幅、頻度及び/又はパターンを意味する。神経における活動電位の文脈において本明細書中で使用される場合、用語「パターン」は、以下の1つ以上を含むことが意図される:局所フィールド電位、複合活動電位、集合活動電位、及びさらに、神経における若しくはその中のニューロンのサブグループ(例えば、束)における活動電位の大きさ、周波数、曲線下面積及び他のパターン。
【0037】
神経活動の調節は、本明細書で使用される場合、神経のシグナル伝達活動がベースライン神経活動、すなわち任意の介入前の被験体における神経のシグナル伝達活動から変化することを意味すると解釈される。本発明による調節は、ベースライン活動と比較してGSN神経活動の阻害を含む。
【0038】
阻害は部分的阻害であり得る。部分的阻害は、神経全体の全シグナル伝達活動が部分的に低下するか、又は神経の神経線維のサブセットの全シグナル伝達活動が完全に低下するか(すなわち、神経の線維のサブセットにおける神経活動がない)、又は、神経の神経線維のサブセットの全体シグナル伝達が、神経の線維のそのサブセットにおけるベースラインの神経活動と比較して部分的に低下するようなものであってもよい。神経活動の阻害は、神経における神経活動の完全な阻害、すなわち、神経全体に神経活動がない実施形態を包含する。
【0039】
場合によっては、神経活動の阻害は、神経活動のブロック、すなわち、活動電位が、GSNの少なくとも一部においてブロックのポイントを超えて移動することからブロックされることであってもよい。したがって、神経活動に対するブロックは、神経活動が、ブロックのポイントを過ぎて続くことをブロックすることが理解される。すなわち、ブロックが適用されるとき、活動電位は、神経又は神経線維のサブセットに沿ってブロックのポイントまで移動し得るが、ブロックのポイントを超えて移動することはできない。したがって、ブロックのポイントにおける神経は、活動電位が改変された神経を通って伝播しないように、神経膜がシグナル(例えば、電気シグナルによって生成される電場)によって可逆的に脱分極又は過分極されるポイントにおいて改変される。したがって、ブロックのポイントにおける神経は、活動電位を伝播する能力を失っている点において改変されており、ブロックのポイントの前後の神経の部分は、活動電位を伝播する能力を有する。
【0040】
本発明で電気シグナルが使用される場合、ブロックは、神経膜を横切るイオンの分布に対する電流(例えば、荷電粒子、例えば、神経に取り付けられた電極内の1つ以上の電子、又は神経の外側若しくは神経の内側の1つ以上のイオンであり得る)の影響に基づく。
【0041】
軸索に沿った任意のポイントで、機能する神経は、神経膜を横切るカリウム及びナトリウムイオンの分布を有するであろう。軸索に沿ったあるポイントでの分布は、そのポイントにおける軸索の電気膜電位を決定するが、これは隣接ポイントでのカリウム及びナトリウムイオンの分布に影響を与え、次に、そのポイントにおける軸索の電気膜電位を決定する等する。これは正常状態で動作する神経であり、活動電位は軸索に沿ってポイントから隣接ポイントに伝播し、従来の実験を使用して観察することができる。神経活動のブロックを特徴付ける1つの方法は、軸索の1つ以上のポイントでのカリウム及びナトリウムイオンの分布であり、これは、伝播する活動電位の結果として神経の1つ又は複数の隣接ポイントでの電気膜電位によって作られるものではなく、一時的な外部電場を適用することによって作られる。一時的な外部シグナル(例えば、電気シグナルによって生成された電場)は、神経内のあるポイント内のカリウム及びナトリウムイオンの分布を人工的に改変し、そうでなければ起こらない神経膜の脱分極又は過分極を引き起こす。一時的な外部シグナル(例えば、電気シグナルによって生成される電場)によって引き起こされる神経膜の脱分極又は過分極は、活動電位がカリウム及びナトリウムの分布に影響を与えないため、そのポイントを横切る活動電位の伝播をブロックするが、それは、代わりに一時的な外部シグナル(例えば、電気シグナルによって生成された外部電界)によって支配される。これは、妨害された状態で作動している神経であり、これは、隣接ポイントの電気膜電位によって影響されないか又は決定されない電気膜電位を有する軸索のあるポイント(ブロックされているポイント)での、カリウム及びナトリウムイオンの分布によって観察され得る。
【0042】
いくつかの実施形態では、阻害は部分ブロックである;他の実施形態では、阻害は完全なブロックである。好ましい実施形態では、阻害は、GSNにおける神経活動の部分的又は完全なブロックである。ブロッキングは、部分的なブロック、例えば、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、40%、50%、60%、70%、80%、90%若しくは95%の神経活動の低下、又は神経の神経線維のサブセットにおける神経活動のブロッキングであってもよい。あるいは、そのようなブロッキングは完全なブロックであってもよく、すなわち、神経全体における神経活動のブロッキングであってもよい。
【0043】
神経活動の阻害はまた、活動電位のパターンの変化であり得る。活動電位のパターンは、全体的な周波数又は振幅を必ずしも変えることなく、調節され得ることは理解されよう。例えば、神経活動の阻害は、活動電位のパターンが、疾患状態ではなく健康状態によりよく似るように変化するようなものであってもよい。
【0044】
神経活動の阻害は、様々な他の方法で神経活動を変化させること、例えば、神経活動の特定の部分を増加若しくは減少させること、及び/又は、例えば特に時間間隔、特に周波数帯などの、活動の新しい要素を特定のパターンに従って刺激することなどを含み得る。
【0045】
神経活動の阻害は一時的であってもよい。本明細書中で使用される場合、「一時的」は、「可逆的」と互換的に使用され、それぞれは、神経活動の阻害が永久的ではないことを意味すると解釈される。すなわち、阻害を停止すると、神経における神経活動は、1~60秒以内、又は1~60分以内、又は1~24時間以内(例えば、1~12時間以内、1~6時間以内、1~4時間以内、1~2時間以内)、又は1~7日間(例えば、1~4日間、1~2日間)以内にベースライン神経活動に実質的に戻る。一時的な阻害のいくつかの例では、神経活動はベースライン神経活動に実質的に完全に戻る。すなわち、阻害の停止後の神経活動は、阻害前の(例えば、シグナルが適用される前の)神経活動と実質的に同じである。
【0046】
他の実施形態では、神経活動の阻害は実質的に持続的であってもよい。本明細書中で使用される場合、「持続的」とは、阻害された神経活動が延長された効果を有することを意味すると解釈される。すなわち、阻害を停止すると、神経における神経活動は、阻害が生じていたときと実質的に同じままである。すなわち、阻害中及び阻害後の神経活動は実質的に同じである。
【0047】
神経活動の阻害は(少なくとも部分的に)矯正的であり得る。本明細書中で使用される場合、「矯正的」とは、阻害された神経活動が、神経活動を健康な個人の神経活動のパターンに向かって変化させることを意味すると解釈される。すなわち、阻害を停止すると、神経における神経活動は、阻害前よりも健康な被験体において観察されたGSNにおける活動電位のパターンによりよく似ている(理想的には、実質的に完全に似ている)。そのような矯正的阻害は、本明細書で定義される任意の阻害であり得る。例えば、阻害は神経活動のブロックをもたらしてよく、阻害を停止すると、神経における活動電位のパターンは、健康な被験体において観察される活動電位のパターンに似ている。さらなる例として、阻害は、健康な被験体において観察される活動電位のパターンに似ている神経活動をもたらしてよく、阻害を停止すると、神経における活動電位のパターンは健康な被験体において観察される活動電位のパターンのままである。
【0048】
さらなる例として、阻害は、GSN神経活動が健康な被験体において観察される活動電位のパターンに似ているような調節をもたらしてよく、シグナルを停止すると、神経における活動電位のパターンは、健康な被験体において観察される活動電位のパターンに似ている。そのような矯正効果は、正のフィードバックループの結果であると仮定される - すなわち、根底にある疾患状態は、請求項に記載の方法の結果として治療され、したがって、GSNに沿った化学感覚シグナルは異常ではなく、したがって、その疾患状態は異常なGSN神経活動によって永続化されない。
【0049】
シグナルのGSNへの適用
様々な方法を使用して、GSNにおける神経活動を阻害することができる(例えば、Luan et al. 2014, Front. Neuroeng. 7:27. doi:10.3389/fneng.2014.00027参照)。GSNの隔離又は切断を使用することができるが、この手順の永久性は、それが好ましくないことを意味する。同様に、内臓神経切除術の知られている技術(Loukas et al. 2010を参照)も好ましくない。このような破壊的技術を使用するのではなく、シグナルの意図された効果を実行するための適切な形態でのエネルギーの伝達をもたらすように、GSNにシグナルを適用することが好ましい。すなわち、GSNへのシグナルの適用は、意図された効果を達成するためにGSNへの(又はGSNからの)エネルギーの伝達と同等であり得る。例えば、伝達されるエネルギーは、電気的、機械的(超音波などの音のものを含む)、電磁気的(例えば、光学的)、磁気的又は熱的エネルギーであり得る。本明細書で使用される場合、シグナルの適用は、薬理学的介入を含まない。
【0050】
本発明に従って適用されるシグナルは、理想的には非破壊的である。本明細書中で使用される場合、「非破壊的なシグナル」は、適用された場合に、神経の、基礎をなす神経シグナル伝達能力を不可逆的に損傷しないシグナルである。すなわち、非破壊的なシグナルの適用は、たとえその伝導が非破壊的シグナルの適用の結果として実際に阻害されるか、又はブロックされる場合であっても、シグナルの適用が停止したときに活動電位を伝導するGSN(又はその線維、又はシグナルが適用される他の神経組織)の能力を維持する。
【0051】
GSN活動の阻害は、電気シグナルを使用して達成することができる。これらは一般に、GSNとのシグナル伝達接触に置かれた1つ以上のトランスデューサを介して適用されるだろう。電気シグナルは、例えば、電圧又は電流であってもよい。特定のこのような実施形態では、適用されるシグナルは、電荷平衡直流のような直流(DC)又は交流(AC)の波形、又はDC及びAC波形の両方を含む。本発明と共に使用するための阻害電気波形の特徴は、以下でより詳細に説明される。本明細書中で使用される場合、DC電流に関して「電荷平衡」とは、適用されるDC電流の結果として任意のシステム(例えば、神経)に導入される正又は負の電荷が、全体的な(正味の)中性(neutrality)を達成するために、反対の電荷の導入によって平衡化されることを意味すると解釈される。電荷均衡のとれたDCとACとの組合せは、短い初期期間にDCを適用した後、ACのみが使用されることで(例えば、Franke et al. 2014, J Neural Eng 11(5):056012を参照)、特に有用である。
【0052】
特定の実施形態では、電気シグナルは、0.5~100kHz、場合により1~50kHz、場合により5~50KHzの周波数を有する。特定の実施形態では、シグナルは25~55kHz、場合により30~50kHzの周波数を有する。特定の実施形態では、シグナルは5~10KHzの周波数を有する。特定の実施形態では、電気シグナルは1kHzより大きい周波数を有する。特定の実施形態では、電気シグナルは、20kHzより大きい、場合により少なくとも25kHz、場合により少なくとも30kHzの周波数を有する。特定の実施形態では、シグナルは30kHz、40kHz又は50kHzの周波数を有する。
【0053】
阻害的になる前に、電気的なシグナル伝達は、神経が代わりに刺激される短い期間(「オンセット応答」又は「オンセット効果」)によって先行され得る。オンセット応答を回避する様々な方法が利用可能である。特定の実施形態では、シグナルが20kHz以下、例えば1~20kHz、又は1~10kHzの周波数を有さない場合、シグナルが適用された結果としてのオンセット応答は、回避され得る。高周波神経ブロッキングにおけるオンセット応答を緩和するための周波数及び振幅遷移波形は、Gerges et al. 2010(J. Neural Eng. 7:066003)に記載されている。Bhadra et al. 2009(DOI:10.1109/IEMBS.2009.5332735)によって議論されているように、振幅ランピング(Amplitude ramping)もまた使用でき、又はKHFACと電荷平衡直流波形の組合せを使用することができる(Franke et al. 2014, J Neural Eng 11(5):056012)。オンセット応答を回避するために、KHFACと赤外線レーザ光(ACIR)との組合せもまた使用されている(Lothet et al. 2014, Neurophotonics 1(1):011010)。
【0054】
特定の実施形態では、DC波形又はAC波形は、矩形波形(square waveform)、正弦波形、三角波形又は複合波形であってもよい。あるいは、DC波形は、一定振幅の波形であってもよい。特定の実施形態では、電気シグナルはAC正弦波形である。
【0055】
意図された神経調節を達成するのに必要な適用された電気シグナルの電流振幅は、電極の位置及び関連する電気生理学的特徴(例えばインピーダンス)に依存することは、当業者には理解される。所与の被験体において意図された神経調節を達成するための適切な電流振幅を決定することは、当業者の能力の範囲内である。例えば、当業者は、神経調節によって誘導される神経活動プロファイルをモニターするのに適した方法を知っている。
【0056】
特定の実施形態では、電気シグナルは、0.1~10mA、場合により0.5~5mA、場合により1mA~2mA、場合により1mA又は2mAの電流を有する。
【0057】
特定の実施形態では、シグナルは、25kHzよりも大きい、場合により30~50kHzの周波数を有するAC正弦波形を含む電気シグナルである。特定のそのような実施形態では、シグナルは、25kHzよりも大きい、場合によりは1mA又は2mAの電流を有する30~50kHzの周波数を有するAC正弦波形を含む電気シグナルであり得る。
【0058】
神経調節のいくつかの電気的形態は、1つ以上の電極を用いて神経に適用される直流(DC)又は交流(AC)波形を使用し得る。DCブロックは、DC波形振幅を徐々に増加させることによって達成され得る(Bhadra & Kilgore, IEEE Transactions on Neural systems and rehabilitation engineering, 2004 12:313-324)。
【0059】
いくつかの他のAC技術は、可逆的ブロックを提供するために、HFAC又はKHFAC(高周波数又はキロヘルツ周波数)を含む(例えば、Kilgore & Bhadra, 2004, Medical and Biological Engineering and Computing, May;42(3):394-406. Nerve conduction block utilising high-frequency alternating currentを参照)。Kilgore & Bhadraの研究では、提案された波形は3~5kHzにおける正弦又は矩形であり、ブロックを生じた典型的なシグナル振幅は、3~5ボルト又は0.5~2.0ミリアンペア(ピーク・トゥ・ピーク(peak-to-peak))であった。本発明で用いることができる電荷平衡KHFACのさらなる詳細は、Kilgore & Bhadra(2014) Neuromodulation 17:242-55によって議論されている。有利には、KHFACは可逆的である。
【0060】
HFACは、典型的には、100%のデューティサイクル(duty cycle)で1~50kHzの周波数で適用され得る(Bhadra et al., Journal of Computational Neuroscience, 2007, 22:313-326)。5~10kHzの周波数を有する波形の適用によって神経の活動を選択的にブロックする方法は、US 7,389,145に記載されている。同様に、US 8,731,676は、5~50kHzの周波数波形を神経に適用することによって、感覚神経疼痛を改善する方法を記載している。
【0061】
いくつかの市販の神経ブロッキングシステムには、米国ミネソタ州のEnteromedics Inc.から入手可能なMaestro(商標)システムが含まれる。類似の神経調節装置は、より一般的には、US2014/0214129及び他の箇所で議論されている。
【0062】
シグナルは、機械的シグナルを含み得る。特定の実施形態では、機械的シグナルは圧力シグナルである。特定のこのような実施形態では、トランスデューサは、少なくとも250mmHgの圧力を神経に適用させ、それによって神経活動を阻害する。特定の代替実施形態では、シグナルは超音波シグナルである。特定のこのような実施形態では、超音波シグナルは、0.5~2.0MHz、場合により0.5~1.5MHz、場合により1.1MHzの周波数を有する。特定の実施形態では、超音波シグナルは、10~100W/cm2、例えば13.6W/cm2又は93W/cm2の密度を有する。
【0063】
神経調節の別の機械的形態は、超音波を使用するもので、埋め込みの代わりに外部の超音波トランスデューサを使用して簡便に実行され得る。
【0064】
シグナルは、光学シグナルなどの電磁シグナルを含んでもよい。光学シグナルは、光学シグナルを適用するように構成されたレーザ及び/又は発光ダイオードを使用して簡便に適用することができる。特定のこのような実施形態では、光学シグナル(例えば、レーザシグナル)は、500mW/cm2~900W/cm2のエネルギー密度を有する。特定の代替実施形態では、シグナルは磁気シグナルである。特定のこのような実施形態では、磁気シグナルは、5~15Hz、場合により10Hzの周波数を有する2相シグナルである。特定のこのような実施形態では、シグナルは1~1000μS、例えば500μSのパルス持続時間を有する。
【0065】
光遺伝学は、遺伝的に改変された細胞が光で活性化されて細胞機能を調節する感光性の特徴を発現する技術である。神経発火を阻害するための多くの異なる光遺伝学ツールが開発されている。神経活動を抑制する光遺伝学ツールのリストがまとめられている(Ritter LM et al., 2014 Epilepsia doi:10.1111/epi.12804)。アクリルアミン-アゾベンゼン-四級アンモニウム(AAQ)は、多くのタイプのK+チャネルをブロックするフォトクロミックリガンドであり、シス配置では、K+チャネルブロックの緩和は発火を阻害する(参照により本明細書に組み込まれるNat Neurosci. 2013 Jul;16(7):816-23. doi:10.1038/nn.3424. Optogenetic pharmacology for control of native neuronal signalling proteins. Kramer RH et al.)。したがって、光は、特に前臨床設定において、神経活動の阻害を達成するために標的細胞を遺伝子改変して使用することができる。
【0066】
シグナルは熱的エネルギーを使用してもよく、神経の温度は神経シグナルの伝播を阻害するように改変することができる。例えば、Patbergら(参照により本明細書に組み込まれる、Blocking of impulse conduction in peripheral nerves by local cooling as a routine in animal experimentation. Journal of Neuroscience Methods 1984;10:267-75)は、神経の冷却が、オンセット応答なしでシグナル伝導をどのようにブロックするかを議論し、このブロックは可逆的かつ速く作動し、オンセットは最大数十秒である。神経の加熱はまた、伝導をブロックするために使用することができ、小型の埋め込み可能な又は局在化されたトランスデューサ又は装置における実施が一般により容易であり、例えば、レーザダイオードからの赤外線放射、又は電気抵抗素子などの熱源を使用し、これらを使用して、速く、可逆的な、かつ空間的に非常に局在化された加熱効果をもたらすことができる(例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Duke et al. J Neural Eng. 2012 Jun;9(3):036003. Spatial and temporal variability in response to hybrid electro-optical stimulation.を参照)。ペルチェ素子(下記参照)を用いて、加熱若しくは冷却のいずれか、又はその両方を生体内で簡便に提供することができる。
【0067】
神経に適用されるシグナルが熱シグナルである場合、シグナルは神経の温度を低下させることができる。特定のこのような実施形態では、神経活動を部分的に阻害するために、神経は14℃以下に冷却され、又は神経活動を完全に阻害するために、6℃以下、例えば2℃に冷却される。そのような実施形態では、神経を損傷させないことが好ましい。特定の代替実施形態では、シグナルは神経の温度を上昇させる。特定の実施形態では、神経活動は、神経の温度を少なくとも5℃、例えば5℃、6℃、7℃、8℃又はそれ以上上昇させることによって阻害される。特定の実施形態では、シグナルを使用して、神経上の異なる位置で同時に、又は神経上の同じ位置若しくは異なる位置で順次、神経を加熱及び冷却することができる。
【0068】
間欠的又は連続的にGSNに阻害を適用することができる。間欠的阻害は、阻害をn>1の(オン-オフ)nパターンで適用することを含む。例えば、阻害は、少なくとも5日間、場合により少なくとも7日間、継続的に適用した後、ある期間(例えば、1日、2日、3日、1週間、2週間、1カ月)中止した後、少なくとも5日間継続的に再び適用することができる。このように阻害は第1の期間適用され、次いで第2の期間停止され、次いで第3の期間再適用され、次いで第4の期間停止されるなど。そのような実施形態では、第1、第2、第3及び第4の期間は順次かつ連続的に実行される。第1、第2、第3及び第4の期間の持続時間は、独立して選択される。すなわち、各期間の持続時間は、他の期間のいずれかと同じであっても異なっていてもよい。特定のこのような実施形態では、第1、第2、第3及び第4の期間のそれぞれの持続時間は、1秒(s)~10日(d)、2秒~7日、3秒~4日、5秒~24時間(24h)、30秒~12時間、1分~12時間、5分~8時間、5分~6時間、10分~6時間、10分~4時間、30分~4時間、1時間~4時間の任意の時間であってよい。特定の実施形態では、第1、第2、第3及び第4の期間のそれぞれの持続時間は、5秒、10秒、30秒、60秒、2分、5分、10分、20分、30分、40分、50分、60分、90分、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、13時間、14時間、15時間、16時間、17時間、18時間、19時間、20時間、21時間、22時間、23時間、24時間、2日、3日、4日、5日、6日、7日である。
【0069】
特定の実施形態では、阻害は、1日当たり特定の時間量の間適用される。特定のこのような実施形態では、シグナルは、1日当たり10分、20分、30分、40分、50分、60分、90分、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、13時間、14時間、15時間、16時間、17時間、18時間、19時間、20時間、21時間、22時間、23時間適用される。特定のこのような実施形態では、阻害は、特定の時間量の間、連続的に適用される。特定の代替のそのような実施形態では、阻害は、適用の合計時間が特定の時間に達する限り、1日中不連続的に適用されてもよい。
【0070】
連続的な阻害は、無限に、例えば永久的に、続けてもよい。あるいは、連続的な適用は最小限の期間であってもよく、例えば、シグナルは、少なくとも5日間、又は少なくとも7日間連続的に適用されてもよい。
【0071】
本発明の装置/システムによって阻害が制御され、シグナルがGSNに連続的に適用される場合、シグナルは一連のパルスであり得るが、それらのパルス間のギャップはシグナルが連続的に適用されないことを意味しない。
【0072】
特定の実施形態では、阻害は、被験体が特定の状態、例えば、被験体が起きているときにのみ、被験体が睡眠中のときのみ、食物摂取の前及び/又は後、被験体が運動を行う前及び/又は後などにある場合にのみ適用される。
【0073】
阻害のタイミングについてのこれらの様々な実施形態は全て、本発明の装置/システムのコントローラを使用して達成することができる。
【0074】
グルコース制御障害に関連する状態
本発明は、グルコース制御障害に関連する状態に罹患している被験体を治療するために有用である。グルコース制御障害に関連する状態としては、その障害を引き起こすと考えられる状態(例えば、インスリン抵抗性、肥満、メタボリックシンドローム、1型糖尿病、C型肝炎感染、末端肥大症)及びその障害から生じる状態(例えば、肥満、睡眠時無呼吸症候群、脂質異常症、高血圧、2型糖尿病)が挙げられる。いくつかの状態は、グルコース制御障害の原因であり、かつそれによって生じ得ることが理解される。グルコース制御障害に関連する他の状態は、当業者によって理解される。また、これらの状態はインスリン抵抗性にも関連し得ることが理解される。
【0075】
本発明は、インスリン抵抗性、前糖尿病及び2型糖尿病に関連して特に関心がある。
【0076】
本明細書中で使用される場合、「グルコース制御障害」は、正常レベル(すなわち、健康な個体についての正常限界内)において血中グルコースレベルを維持することができないことを意味すると解釈される。当業者には理解されるように、これは被験体のタイプに基づいて変化し、当技術分野で周知のいくつかの方法、例えばグルコース耐性試験(GTT)によって決定することができる。例えば、経口グルコース耐性試験を受けるヒトでは、7.8mmol/L以下の2時間でのグルコースレベルが正常とみなされる。7.8mmol/Lを超える2時間でのグルコースレベルは、グルコース制御障害を示す。
【0077】
本明細書中で使用される場合、「インスリン抵抗性」は、当該技術分野において通常の意味を有する - すなわち、インスリン抵抗性を示す被験体又は患者において、被験体又は患者におけるインスリンに対する生理学的反応は不応性であり、健康な個体に必要とされるインスリンレベルと比較して、血中グルコースレベルを制御するために、より高いレベルのインスリンが必要とされる。インスリン感受性は、本明細書では、インスリン抵抗性の反対として使用される - すなわち、インスリン感受性の増加は、インスリン抵抗性の減少と同等であり、逆もまた同様である。インスリン抵抗性は、当該分野で公知の任意の方法、例えばGTT、高インスリン血症クランプ又はインスリン抑制試験を用いて決定され得る。
【0078】
この状態の治療は、様々な方法で評価することができるが、典型的には、1つ以上の検出される生理学的パラメータの改善を含む。本明細書中で使用される場合、「測定可能な生理学的パラメータの改善」とは、任意の所与の生理学的パラメータについて、改善が、被験体におけるそのパラメータの値における、その値についての正常値又は正常範囲に向けた、すなわち、健康な個体において予想される値に向けた変化であることを意味すると解釈される。例えば、グルコース制御障害(例えば、インスリン抵抗性)に関連する状態を有する被験体において、測定可能なパラメータの改善は(被験体がどの異常値を示しているかに応じて):インスリン感受性の増加、インスリン抵抗性の減少、(空腹時)血漿グルコース濃度の減少、全脂肪量の低下、内臓脂肪量の低下、皮下脂肪量の低下、肥満指数の低下、肥満の低下、交感神経系の緊張の低下、血圧、血漿及び/若しくは組織カテコールアミンの低下、尿中メタネフリンの低下、及び糖化ヘモグロビン(HbA1c)の低下、並びに/又は循環トリグリセリドの低下の1つ以上であってよい。本発明は、これらのパラメータの全てに変化をもたらさないこともある。
【0079】
そのような実施形態では、交感神経緊張は、交感神経における神経活動、及び/又は交感神経系における全身若しくは局所組織区画において測定される関連交感神経神経伝達物質であると理解される。任意の所与のパラメータについての値を決定するための適切な方法は、当業者によって理解される。例えば、異常な心拍速度変動、心臓又は腎臓のノルエピネフリン過剰、皮膚又は筋肉マイクロニューログラフィ、及び血漿/尿ノルエピネフリンと同様に、少なくとも24時間の期間の心拍速度及び/又は血圧の増加は、典型的には、交感神経緊張の増加を示す。さらなる例として、インスリン感受性は、HOMA指数又は高インスリン血症クランプによって測定され得る。さらなる例として、全脂肪量は、生体インピーダンスによって決定され得る。さらなる例として、内臓脂肪は、腹囲を測定することによって間接的に決定され得る。任意の所与のパラメータについての値を決定するためのさらなる適切な方法は、当業者には理解される。
【0080】
本発明の特定の実施形態では、状態の治療は、GSNにおける神経活動のプロファイルの改善によって示される。すなわち、健康な個体の神経活動に近づいているGSNの神経活動によって、状態の治療が示される。
【0081】
理想的には、被験体は、経口グルコース耐性試験によって評価される、グルコース耐性の改善を示す。本発明の方法は、インスリン抵抗性及びT2Dを治療するために使用され得る。本発明はまた、メタボリックシンドロームを治療するために使用され得る。
【0082】
本明細書中で使用される場合、その被験体又は介入が行われていない場合の被験体によって示されるそのパラメータの平均値から、パラメータが(GSN活動阻害に応答して)変化しないなら、生理学的パラメータは、GSN神経活動の阻害によって影響されない、すなわち、それは、そのパラメータのベースライン値から逸脱しない。
【0083】
当業者であれば、個人における任意の神経活動又は生理学的パラメータについてのベースラインは、固定又は特定の値である必要はなく、むしろ正常範囲内で変動し得ること、又は関連する誤差及び信頼区間を有する平均値であり得ることを理解する。ベースライン値を決定するための適切な方法は、当業者に周知である。
【0084】
本明細書中で使用される場合、検出時に被験体によって示されるそのパラメータについての値が決定される場合、被験体において測定可能な生理学的パラメータが検出される。検出器は、そのような決定をすることができる任意の要素である。
【0085】
したがって、特定の実施形態では、本発明は、被験体の1つ以上の生理学的パラメータを検出するステップをさらに含み、ここで、シグナルは、検出された生理学的パラメータが予め規定された閾値を満たすか又は超える場合にのみ適用される。2つ以上の生理学的パラメータが検出されるこのような実施形態では、シグナルは、検出されたパラメータのいずれか1つがその閾値を満たすか又は超える場合、あるいは検出されたパラメータの全てがそれらの閾値を満たすか又は超える場合にのみ、適用され得る。シグナルが神経調節装置/システムによって適用される特定の実施形態では、装置/システムは、1つ以上の生理学的パラメータを検出するように構成された少なくとも1つの検出器をさらに含む。
【0086】
本方法の特定の実施形態では、1つ以上の検出される生理学的パラメータは、交感神経緊張、血圧、血漿インスリン濃度、インスリン感受性、血漿グルコース濃度、グルコース耐性、全脂肪量、内臓脂肪量、血漿カテコールアミン(すなわち、エピネフリン、ノルエピネフリン、メタネフリン、ノルメタネフリン及びドーパミンの1つ以上)含量、組織カテコールアミン含量、尿中メタネフリン含量、血漿HbA1c含量及び循環トリグリセリド濃度の低下からなる群の1つ以上である。
【0087】
一例として、健康なヒト被験体における典型的なHbA1c含量は、20~42mmol/mol(全Hbの4~6%)である。42mmol/molを超えるHbA1c含量は、糖尿病状態を示し得る。
【0088】
特定の実施形態では、検出される生理学的パラメータは、被験体の神経における活動電位又は活動電位のパターンであり、ここで活動電位又は活動電位のパターンは、治療されるグルコースに対する応答障害に関連した状態に関連する。特定のこのような実施形態では、神経は交感神経である。
【0089】
生理学的パラメータに対する「予め規定された閾値」は、被験体又は指定された介入が適用される前の被験体によって示されなければならないそのパラメータについての最小(又は最大)値である。任意の所与のパラメータについて、閾値は、病的状態又は疾患状態(例えば、閾値交感神経緊張より大きい、若しくは健康な個体における交感神経緊張より大きい交感神経緊張(神経の、血行動態の(例えば心拍速度、血圧、心拍速度変動)又は循環の血漿/尿バイオマーカー)、健康なレベルよりも高い血中インスリンレベル、特定の活動レベル又はパターンを示すGSNシグナル伝達)を示す値として定義されてもよい。あるいは、閾値は、被験体の生理学的状態(例えば、被験体が眠っている、食後である、又は運動中である)を示す値として定義されてもよい。任意の所与のパラメータについての適切な値は、当業者によって(例えば、実施の医療基準を参照して)簡単に決定される。
【0090】
被験体によって示された値が閾値を超えている場合、すなわち、示された値が、予め規定された閾値よりもそのパラメータについての正常値又は健常値からより大きく離れている場合に、所与の生理学的パラメータについてのこのような閾値を超えている。
【0091】
本方法の特定の実施形態では、この方法は、GSNの心肺調節機能に影響を与えない。特定の実施形態では、この方法は、pO2、pCO2、血圧、酸素要求、及び運動及び高度に対する心臓呼吸応答からなる群から選択される被験体における1つ以上の生理学的パラメータに影響を与えない。任意の所与のパラメータについての値を決定するための適切な方法は、当業者によって理解される。
【0092】
本発明の被験体は、埋め込みを有することに加えて、その状態のための薬剤を受けてもよい。例えば、本発明による埋め込みを有する被験体は、(通常、埋め込みを受ける前に起きている薬物を継続する)糖尿病薬剤を受けてもよい。このような薬剤としては、メトホルミン(metformin);スルホニルウレア、例えばグリブリド(glyburide)、グリピジド(glipizide)、又はグリメピリド(glimepiride);メグリチニド(meglitinides)、例えばレパグリニド(repaglinide)又はナテグリニド(nateglinide);チアゾリジンジオン(thiazolidinediones)、例えばロシグリタゾン(rosiglitazone)又はピオグリタゾン(pioglitazone);DPP-4阻害剤、例えばシタグリプチン(sitagliptin)、ビルダグリプチン(vildagliptin)、サクサグリプチン(saxagliptin)又はリナグリプチン(linagliptin);GLP-1受容体アゴニスト、例えばエクセナチド(exenatide)又はリラグルチド(liraglutide);SGLT2阻害剤、例えば(canagliflozin)又はダパグリフロジン(dapagliflozin)が含まれるがそれらに限定されない。したがって、本発明は、本発明の装置/システムと組み合わせたこれらの薬剤の使用を提供する。
【0093】
発明を実行するための装置及びシステム
本発明は、GSN内の神経活動を阻害することができる装置又はシステムを使用して実行することができる。そのような装置/システムは、(i)GSNにシグナルを適用するように構成された1つ以上のトランスデューサ、及び(ii)該1つ以上のトランスデューサに結合されたコントローラを含み、コントローラは、1つ以上のトランスデューサにより適用されたシグナルを制御して、GSNの神経活動を阻害して被験体において所望の生理学的応答を生成させるようにシグナルを適用させることができる。
【0094】
様々なコンポーネントは、好ましくは、単一の物理装置の一部である。しかしながら、代わりに、本発明は、コンポーネントが物理的に分離しており、無線で通信するシステムを使用してもよい。したがって、例えば、トランスデューサ及びコントローラは、一体型装置の一部であってもよく、又は一緒にシステムを形成してもよい(両方の場合において、さらにコンポーネントは、例えば電源、センサなど、より大きな装置又はシステムを形成するために存在してもよい)。
【0095】
本発明の装置/システムは、GSNの神経活動を調節するように構成される。本明細書中に記載される神経調節装置/システムは、1つ以上の部分から構成され得る。神経調節装置/システムは、神経に効果的にシグナルを適用することができる少なくとも1つのトランスデューサを含む。神経調節装置/システムが被験体に少なくとも部分的に埋め込まれる実施形態では、被験体に埋め込まれる装置/システムの要素は、そのような埋め込みに適しているように構築される。そのような適切な構成は、当業者に周知である。
【0096】
様々な例示的な完全に埋め込み可能な神経調節装置が現在利用可能であり、例えば、関節リウマチの治療のための臨床開発における、SetPoint Medicalの迷走神経刺激装置(Arthritis & Rheumatism、64巻、10号(補遺)、S195頁(要旨番号451)、2012年10月. "Pilot Study of Stimulation of the Cholinergic Anti-Inflammatory Pathway with an Implantable Vagus Nerve Stimulation Device in Patients with Rheumatoid Arthritis", Frieda A. Koopman et al)、及び、過活動膀胱の治療において仙骨神経調節に利用される完全に埋め込み可能な装置であるINTERSTIM(商標)装置(Medtronic, Inc.)がある。
【0097】
適切な神経調節装置/システムは、例えば神経内(例えば、束内(intrafascicularly))への埋め込みのために、部分的に又は完全に神経を取り囲むために(例えば、神経とのカフ界面(cuff interface))、本明細書に記載されるような特徴を用いて製造することができる。
【0098】
本明細書で使用される場合、「埋め込まれる」は、被験体の体内に配置されることを意味すると解釈される。部分的埋め込みとは、装置/システムの一部のみが埋め込まれる - すなわち、装置/システムの一部のみが、被験体の体内に配置され(通常はGSNに近接している)、装置/システムの他の要素は被験体の体の外部にあることを意味する。例えば、装置/システムのトランスデューサ及びコントローラは、被験体内に完全に埋め込まれてもよく、入力要素は被験体の体の外部にあってもよい。完全に埋め込まれたとは、装置/システム全体が被験体の体内、例えば完全に被験体の皮膚の下に配置されることを意味する。装置/システムの一部、例えばトランスデューサ及びコントローラは、シグナルがGSNに適用され、装置/システムの他の部分、例えば入力要素又は遠隔充電要素が体の外部にあるように被験体に完全に埋め込まれるのに適していてよい。特定の実施形態では、装置/システムは、被験体に完全に埋め込まれるのに適している。
【0099】
装置/システムが少なくとも2つのトランスデューサを有する実施形態では、トランスデューサのそれぞれが適用するように構成されるシグナルは、電気シグナル、光学シグナル、超音波シグナル、及び熱シグナルから独立して選択され得る。すなわち、各トランスデューサは異なるシグナルを適用するように構成され得る。あるいは、特定の実施形態では、各トランスデューサは、同じシグナルを適用するように構成される。
【0100】
特定の実施形態では、1つ以上のトランスデューサのそれぞれは、1つ以上の電極、1つ以上の光子源、1つ以上の超音波トランスデューサ、1つ以上の熱源、又はシグナルを実行するように配置された1つ以上の他のタイプのトランスデューサで構成されてもよい。その活動を阻害するために神経に適用されるシグナルの特性については上に記載され、本発明の装置/システムはそれに応じて実行される。
【0101】
電気シグナルが神経に適用される実施形態では、装置/システム内のトランスデューサ(複数可)は電極(複数可)を含む。そのような電極は、双極又は三極電極であってもよい。電極は、カフ電極又はワイヤ電極であってもよい。
【0102】
特定のこのような実施形態では、全てのトランスデューサは、電気シグナル、場合により同じ電気シグナルを適用するように構成された電極である。
【0103】
適用されるシグナルが熱シグナルである実施形態では、1つ以上のトランスデューサの少なくとも1つは、熱シグナルを適用するように構成されたトランスデューサである。特定のこのような実施形態では、全てのトランスデューサは、熱シグナル、場合により同じ熱シグナルを適用するように構成される。これらの実施形態では、1つ以上のトランスデューサは、熱シグナルを適用するように構成されたペルチェ素子を含んでもよい。場合により、1つ以上のトランスデューサの全てがペルチェ素子を含むことができる。特定の実施形態では、1つ以上のトランスデューサは、熱シグナルを適用するように構成されたレーザダイオードを含むことができ、場合により、1つ以上のトランスデューサの全ては、熱シグナルを適用するように構成されたレーザダイオードを含む。特定の実施形態では、1つ以上のトランスデューサは、熱シグナルを適用するように構成された電気抵抗素子を含むことができる。
【0104】
特定の実施形態では、1つ以上のトランスデューサの1つ以上は、熱シグナルを適用するように構成されたペルチェ素子を含み、場合により、1つ以上のトランスデューサの全てがペルチェ素子を含む。特定の実施形態では、1つ以上のトランスデューサの1つ以上は、熱シグナルを適用するように構成されたレーザダイオードを含み、場合により、1つ以上のトランスデューサの全ては、熱シグナルを適用するように構成されたレーザダイオードを含む。特定の実施形態では、1つ以上のトランスデューサの1つ以上は、熱シグナルを適用するように構成された電気抵抗素子を含み、場合により、1つ以上のトランスデューサの全ては、熱シグナルを適用するように構成された電気抵抗素子を含む。
【0105】
特定の実施形態では、装置/システムは、1つ以上の電源要素、例えばバッテリ、及び/又は1つ以上の通信要素をさらに含む。装置/システムは、誘導給電(powering)又は充電式電源によって給電されてもよい。
【0106】
特定の実施形態では、本発明の装置/システムは、被験体における1つ以上の生理学的パラメータを検出するための手段をさらに含む。そのような手段は、1つ以上の生理学的パラメータを検出するように構成された1つ以上の検出器であってもよい。すなわち、このような実施形態では、各検出器は、2つ以上の生理学的パラメータ、例えば、全ての検出される生理学的パラメータを検出し得る。あるいは、このような実施形態では、各検出器は、検出される1つ以上の生理学的パラメータの別個のパラメータを検出するように構成される。
【0107】
このような特定の実施形態では、コントローラは、1つ以上の生理学的パラメータを検出するための手段に連結され、生理学的パラメータが予め規定された閾値を満たすか又はそれを超えることが検出される場合にトランスデューサ(複数可)にシグナルを適用させる。
【0108】
特定の実施形態では、1つ以上の検出される生理学的パラメータは、交感神経緊張、血圧、血漿インスリン濃度、血漿グルコース濃度、血漿カテコールアミン濃度(すなわち、エピネフリン、ノルエピネフリン、メタネフリン、ノルメタネフリン及びドーパミンのうちの1つ以上)濃度、組織カテコールアミン濃度、血漿HbA1c濃度又は血漿トリグリセリド濃度からなる群の1つ以上を含む。
【0109】
特定の実施形態では、1つ以上の検出される生理学的パラメータは、被験体の神経における活動電位又は活動電位パターンを含み、ここで、活動電位又は活動電位パターンは、治療される、グルコースに対する応答障害に関連する状態に関連する。
【0110】
示された生理学的パラメータのうちの任意の2つ以上が、並行して又は連続して検出され得ることが理解される。例えば、特定の実施形態では、コントローラは、被験体におけるグルコース耐性と同時にGSNにおける活動電位のパターンを検出するように構成された検出器(複数可)に連結される。
【0111】
いくつかの実施形態では、装置/システムは入力手段をさらに含む。これにより、被験体の状態(例えば、被験体が起きているか、眠っているか、食前若しくは食後であるか、又は運動前若しくは運動後であるか)を、被験体又は医師が装置/システムに入力することができる。代替の実施形態では、装置/システムは、被験体の状態を検出するように構成された検出器をさらに含む。これらの実施形態の全てにおいて、被験体が特定の状態にあるとき(例えば、起きたときのみ)にのみ、装置/システムがGSNにそのシグナルを適用するようにプログラムされてもよい。
【0112】
本発明の装置/システムは、好ましくは、生体安定性及び生体適合性材料から作製されるか、又は被覆される。これは、装置/システムが体の組織への曝露による損傷から保護されること、また、装置/システムが(最終的に拒絶をもたらし得る)ホストによる好ましくない反応を誘発するリスクを最小限にすることの両方を意味する。装置/システムを作製又は被覆するために使用される材料は、理想的にはバイオフィルムの形成に抵抗すべきである。適切な材料は、ポリ(p-キシリレン)ポリマー(パリレンとして知られている)及びポリテトラフルオロエチレンを含むが、これらに限定されない。
【0113】
本発明の装置/システムは、一般に、50g未満の重さである。
【0114】
本発明の装置/システムの埋め込み
本発明は、装置/システムの少なくとも1つのトランスデューサを、被験体のGSNとシグナル伝達接触になるように配置するステップを含む、被験体に本発明の装置/システムを埋め込む方法を提供する。いくつかの実施形態では、この方法は、装置/システムを作動させるステップを含み、他の方法では、この作動ステップは起こらない。
【0115】
用語「シグナル伝達接触」は、GSNの機能に所望の変化を生じさせることができるだけ十分にGSNの近くにトランスデューサのシグナル(電気、熱など)があることを意味する。いくつかの実施形態では、トランスデューサは、GSNに直接取り付けられてもよいが、他の実施形態では、GSNの近く又はGSNを取り囲んでいてもよい。
【0116】
装置/システムを作動させることは、それが、GSNの機能に所望の変化を生じさせることができる状態に置かれることを意味する。いくつかの実施形態では、装置/システムは、GSNとシグナル伝達接触するように配置されるが、装置/システムが作動されていないためにそのようなシグナル伝達は生じることができない。このような実施形態では、被験体は、装置/システムの存在から療法上の利益を得ない。作動の後にのみ、そのような利益が達成される。装置/システムは、装置/システムが、例えば装置/システムのコントローラによって決定されることで、シグナルがGSNに適用される動作状態にあるときに作動される。
【0117】
本発明の装置/システムは、部分的又は完全に被験体に埋め込むことができる。上に記載したように完全な埋め込みが好ましい。
【0118】
発明の実行
本発明の全ての態様の実施(上記及び下記の両方で議論されるように)は、図1A~1Cを参照することによってさらに理解される。
【0119】
図1A~1Cは、本明細書に記載される様々な方法のいずれかを実施するために、被験体200に関して、その中に埋め込まれ、その上に置かれ、又はその他の方法で配置される1つ以上の神経調節装置を用いて本発明がどのように実行され得るかを示す。このようにして、1つ以上の神経調節装置を使用して、GSN神経活動を調節することによって、被験体におけるグルコース制御障害に関連する状態を治療することができる。コンポーネントは、単一の装置内で接続されているように示されているが、それらは分離して、無線で通信するコンポーネントを用い、同じ機能を実行するシステムを形成し得る。
【0120】
図1A~1Cのそれぞれにおいて、神経調節装置100は、GSNの神経調節を提供するように、被験体に完全に又は部分的に埋め込まれるか、又はその他の方法で配置されてよい。図1Aはまた、神経調節装置100の1つの構成要素を概略的に示し、この装置は、単一のユニットに一緒にグループ化され、被験体200に埋め込まれる、いくつかの要素、構成要素又は機能を含む。第1のそのような要素は、被験体の頸動脈洞神経90に近接して示されるトランスデューサ102である。トランスデューサ102は、コントローラ要素104によって操作され得る。装置は、通信要素106、検出器要素108、電源要素110などの1つ以上のさらなる要素を含み得る。
【0121】
神経調節装置は、独立して、又は1つ以上の制御シグナルに応答して、必要な神経調節を行い得る。このような制御シグナルは、1つ以上の検出器要素108の出力に応答して、及び/又は通信要素を使用して受信された1つ以上の外部ソースからの通信に応答して、アルゴリズムに従ってコントローラ104によって提供されてもよい。本明細書で論じるように、検出器要素(複数可)は、様々な異なる生理学的パラメータに応答することができる。
【0122】
図1Bは、図1Aの装置が異なって分布され得るいくつかの方法を示す。例えば、図1Bにおいて、神経調節装置100は、GSN 90の近くに埋め込まれたトランスデューサ102を含むが、コントローラ104、通信要素106及び電源110などの他の要素は、被験体に埋め込まれ得るか、又は被験体に運ばれ得る別個の制御ユニット130において実施される。次いで、制御ユニット130は、例えば、シグナル及び/又は電力をトランスデューサに送達するための電気ワイヤ及び/又は光ファイバを含み得る、接続132を介して、神経調節装置におけるトランスデューサを制御する。
【0123】
図1Bの構成では、1つ以上の検出器108は、制御ユニットとは別に配置されるが、1つ以上のこのような検出器は、制御ユニット130内に、及び/又は神経調節装置100中にも又は代わりに配置することができる。検出器は、被験体の1つ以上の生理学的パラメータを検出するために使用されてもよく、次いで、コントローラ要素又は制御ユニットは、例えば検出された生理学的パラメータが予め規定された閾値を満たす又は超える場合にのみ、検出されたパラメータ(複数可)に応答してトランスデューサにシグナルを適用させる。そのような目的のために検出され得る生理学的パラメータとしては、交感神経緊張、血圧、血漿インスリン濃度、インスリン感受性、血漿グルコース濃度、グルコース耐性、血漿カテコールアミン濃度、組織カテコールアミン濃度、血漿HbA1c濃度及び血漿トリグリセリド濃度が挙げられる。同様に、検出される生理学的パラメータは、被験体の神経、例えば遠心性又はより具体的には交感神経における活動電位又は活動電位のパターンであってよく、ここで、活動電位又は活動電位のパターンは、治療される状態に関連している。疾患状態を示すものとして、例えばGSNにおける活動電位又は活動電位のパターンを検出するために、その又は各検出器108は、GSNの上又は近くに配置されてもよい。
【0124】
様々な機能要素が神経調節装置、制御ユニット130及び他の場所に配置されグループ化され得る様々な他の方法ももちろん可能である。例えば、図1Bの1つ以上のセンサは、図1A若しくは1Cの配置又は他の配置で使用することができる。
【0125】
図1Cは、図1A又は1Bの装置のいくつかの機能性が被験体に埋め込まれずに提供されるいくつかの方法を示す。例えば、図1Cでは、当業者によく知られている方法で装置の埋め込まれた要素に電力を供給することができる外部電源140が提供され、外部コントローラ150は、コントローラ104の機能性の一部又は全部を提供し、及び/又は装置の制御の他の態様を提供し、及び/又は装置からのデータ読み出しを提供し、及び/又はデータ入力ファシリティ152を提供する。データ入力ファシリティは、被験体又は他のオペレータによって、例えば、睡眠、食事、又は身体活動などの被験体の現在又は予想される活動に関するデータを入力するために、様々な方法で使用され得る。
【0126】
それぞれの神経調節装置は、GSNへのシグナルの適用を典型的に含む、1つ以上の物理的作動モードを使用して必要とされる神経調節を実施するように適合されてよく、そのようなシグナルは、典型的には小体若しくは神経への(又は小体若しくは神経からの)エネルギーの移動を含む。既に説明したように、そのようなモードは、電気シグナル、光学シグナル、超音波若しくは他の機械的シグナル、熱シグナル、磁気若しくは電磁シグナル、又は必要な調節を実施するためのエネルギーの何らかの他の使用を用いて、GSNを調節することを含み得る。そのようなシグナルは、非破壊的シグナルであってもよい。そのような調節は、GSNにおける神経活動のパターンを増加させること、阻害すること、又は変化させることを含み得る。この目的のために、図1Aに示されるトランスデューサ90は、1つ以上の電極、1つ以上の光子源、1つ以上の超音波トランスデューサ、1つ以上の熱源、又は必要とされる神経調節を実行するために配置された1つ以上の他のタイプのトランスデューサから構成され得る。
【0127】
神経調節装置(複数可)は、電気シグナル、例えば電圧又は電流、例えば直流(DC)、例えば電荷平衡直流、又はAC波形、又はその両方を適用するためにトランスデューサを用いることによって、GSNの神経活動を阻害するように配置され得る。そのような実施形態では、電気シグナルを適用するように構成されたトランスデューサは、電極である。
【0128】
本発明は、上に説明したように、種々の障害を様々な方法で治療するために、一般に適用可能であるが、いくつかの明確な優先傾向がある。特に:被験体は理想的にはヒトである;被験体はインスリン抵抗性、前糖尿病若しくはT2Dに罹患しているべきである;GSNシグナル伝達の阻害は、被験体に部分的又は完全に埋め込まれた本発明の装置を用いて達成される;並びに/又は阻害シグナルが、副腎及び腹腔神経節の間のGSNに適用される。
【0129】
一般
本明細書中(上記及び下記の両方)で使用される用語は、上で別途定義されていない限り、当業者によって理解されるように、当技術分野における従来の意味を与えられる。矛盾又は疑義がある場合は、本明細書に示す定義が優先されるべきである。
【0130】
用語「含む(comprising)」は、「含む(including)」及び「からなる(consisting)」を包含し、例えば、Xを「含む」組成物は、排他的にXからなっていてもよく、又は例えばX + Yのように、何か付加的なものを含んでいてもよい。
【0131】
語「実質的に」は「完全に」を除外せず、例えば、Yを「実質的に含まない」組成物は、Yを完全に含まないものであってもよい。必要に応じて、語「実質的に」は、本発明の定義から省略してもよい。
【0132】
数値xに関して用語「約」は任意であり、例えばx ± 10%を意味する。
【0133】
別途示されない限り、本明細書に記載される各実施形態は、本明細書に記載される別の実施形態と組み合わせてもよい。
【0134】
発明を実施するための形態
経口グルコース耐性試験に対するGSN切断の影響
オスのSprague-Dawleyラットに、高脂肪食(HFD;脂肪で60%カロリー)又は通常食(ND)を与えた。7週間後、2%イソフルランによる麻酔下で、左又は右の内臓神経を背外側切開及び左又は右(それぞれ)肋骨下の筋肉貫通を介して露出させた。その後、副腎神経節のすぐ下の大内臓神経(GSN)分枝をマイクロ剪刀で切断した。偽手術は、切除することなく、内臓神経を露出させ、可視化することによって行った。最後に、背外側切開部を閉鎖した。
【0135】
様々な生理学的パラメータを調べた。特に、GSN切除術の前(プレ)及び1、4、8及び12週間後に、経口グルコース耐性試験(OGTT)を行った。ラットを、血中グルコース試験前に、水は自由に摂取させ、一晩絶食させた。試験日に、グルコース物質(Bayer HealthCare LLC)を使用して、尾のスナップからベースライン血糖濃度(0分の時点)を測定した。同時に、約50μlの血液を採取し、後のインスリン試験のために氷中に保持した。次いで、10%グルコース溶液を経口投与した(1g/kg、10ml/kg)。血糖値を測定し、グルコース投与の30、60、90及び120分後に血液を採取した。全てのテストを午前10時から午後2時の間に行った。図2の結果は、ND群及びHFD群の両方において、GSN切除術を施したラットが、偽処置したラットよりも統計学的に有意に低いOGTTスコアを示したことを示す。
【0136】
他の生理学的測定及びバイオマーカー測定は、群間に有意な差を示さなかった。例えば、GSN切除術は、12週間のモニタリング期間(8週目の拡張期血圧を除く)で、収縮期血圧及び拡張期血圧に有意な効果を示さなかった。
【0137】
同様の実験を、通常の食事を与えたZucker Diabetic Fatty(ZDF)又はZucker 痩せ(ZL)ラットにおいて行った。図3は、GSN切除術と偽処置したZLラットとの間ではOGTTスコアの差はないが、ZDFラットでは、GSN切除術により、手術後の全時点でOGTTスコアが統計的に有意に低下し、12週間後に約20~25%の低下をもたらしたことを示す。
【0138】
GSN切断の腹腔内グルコース耐性に対する影響
また、腹腔内グルコースに応答したグルコース耐性についてZuckerラットを試験した。血糖試験の前に、ラットを水は自由に摂取させ、一晩絶食させた。試験日に、グルコースメーター(meter)を使用してベースライン血糖濃度(0分の時点)を測定し、次いで、ラットに50%グルコース(1g/kg体重、2ml/kg)を注射した。グルコース注射の10、30、60、90及び120分後に血糖レベルを測定した。
【0139】
図4は、GSN切除術に関係なく、ZLラットが同じように応答したことを示す。対照的に、ZDFラットの血糖レベルは、90分まで、GSN切除術群で有意に低かった。腹腔内経路は胃及び十二指腸を回避するため、これらの結果は、OGTTの結果がインクレチン(incretin)様効果に依存しなかったことを示し、グルコース代謝への影響が腸よりも肝臓によって媒介されることを示唆する。
【0140】
インスリン耐性試験もまた行った。血糖試験の前に、ラットを水は自由に摂取させ、一晩絶食させた。試験日に、ベースライングルコース測定の後、ラットにインスリンの標準用量(0.75U/kg体重)を腹腔内注射した。インスリン注射の10、30、60、90及び120分後に血糖レベルを測定した。
【0141】
図5は、偽処置したZDFラットと比較した場合、有意に低いグルコースレベルがZDF/GSN切除術ラットに達成されたが、ZLラットにおいてはGSN切除術の効果はなかったことを示す。
【0142】
血圧への影響
GSN中断はまた、1週間でHFDラットにおける平均血圧の有意な変化を生じ(ただしNDラットでは生じない)、8週間まで効果が持続した(図7)。ZDFラットにおいては、拡張期血圧と平均血圧の両方が、8週間でGSN切除術ラットにおいて有意に低かったが、2つの痩せ群では、差は見られなかった(図8)。血圧に対するこの効果は、メタボリックシンドロームの観点においてさらなる利点であり得る。
【0143】
結論
十二指腸の神経支配は、インスリン抵抗性及び肥満誘発T2Dの病因において役割を果たし、したがって、GSN活動を阻害し、それによって糖尿病治療を支援するためのバイオ電子工学(又は他の神経調節アプローチ)の使用の根拠を提供する。
【0144】
前述の詳細な説明は、説明及び例示のために提供されたものであり、添付の特許請求の範囲を限定することは意図されない。本明細書に示された現在の好ましい実施形態における多くの変形が、当業者には明らかであり、添付の特許請求の範囲及びそれらの均等物の範囲内にとどまる。したがって、本発明は、例示のみとして上に記載されており、本発明の範囲及び趣旨内にとどまりながら改変を行ってもよいことが理解されるであろう。
本発明は例えば以下の態様を含む。
[項1]
被験体におけるグルコース制御障害に関連する状態を治療する方法であって、以下:(i)被験体の大内臓神経(GSN)の神経活動を阻害するための装置又はシステムを被験体に埋め込むステップであって、前記装置又はシステムが、(a)被験体のGSNにシグナルを適用するように構成された1つ以上のトランスデューサ、場合により少なくとも2つのそのようなトランスデューサ;及び(b)該1つ以上のトランスデューサに連結されたコントローラであって、シグナルがGSNの神経活動を阻害して被験体において生理学的反応を生成するように、該1つ以上のトランスデューサによって適用されるシグナルを制御する、コントローラを含み、該生理学的反応は、被験体におけるインスリン感受性の増加、被験体におけるグルコース耐性の改善、被験体における空腹時血漿グルコース濃度の減少、被験体における皮下脂肪含量の低下;及び/又は被験体における肥満の低下からなる群の1つ以上である、ステップ;(ii)装置/システムの少なくとも1つのトランスデューサを、被験体のGSNとシグナル伝達接触になるように配置するステップ;並びに(iii)装置/システムを作動させるステップを含む、方法。
[項2]
被験体のGSNにおける神経シグナル伝達を阻害する方法であって、以下:(i)被験体の大内臓神経(GSN)の神経活動を阻害するための装置又はシステムを被験体に埋め込むステップであって、装置又はシステムが、(a)被験体のGSNにシグナルを適用するように構成された1つ以上のトランスデューサ、場合により少なくとも2つのそのようなトランスデューサ;及び(b)該1つ以上のトランスデューサに連結されたコントローラであって、シグナルがGSNの神経活動を阻害して被験体において生理学的反応を生成するように、該1つ以上のトランスデューサによって適用されるシグナルを制御する、コントローラを含み、該生理学的反応は、被験体におけるインスリン感受性の増加、被験体におけるグルコース耐性の改善、被験体における空腹時血漿グルコース濃度の減少、被験体における皮下脂肪含量の低下;及び/又は被験体における肥満の低下からなる群の1つ以上である、ステップ;(ii)装置/システムの少なくとも1つのトランスデューサを、被験体のGSNとシグナル伝達接触になるように配置するステップ;並びに(iii)装置/システムを作動させるステップを含む、方法。
[項3]
GSNにおける神経シグナル伝達の阻害が被験体におけるグルコース制御を改善する、項2に記載の方法。
[項4]
被験体の大内臓神経(GSN)の神経活動を阻害するための装置又はシステムであって、該装置又はシステムが、(i)被験体のGSNにシグナルを適用するように構成された1つ以上のトランスデューサ、場合により少なくとも2つのそのようなトランスデューサ;及び(ii)該1つ以上のトランスデューサに連結されたコントローラであって、シグナルがGSNの神経活動を阻害して被験体において生理学的反応を生成するように、該1つ以上のトランスデューサによって適用されるシグナルを制御する、コントローラを含み、生理学的反応は、被験体におけるインスリン感受性の増加、被験体におけるグルコース耐性の改善、被験体における空腹時血漿グルコース濃度の低下、被験体における皮下脂肪含量の低下;及び/又は被験体における肥満の低下;からなる群の1つ以上である、装置又はシステム。
[項5]
シグナルが非破壊的シグナルである、項4に記載の装置/システム。
[項6]
シグナルが、電気シグナル、光学シグナル、超音波シグナル、又は熱シグナルである、項4又は5に記載の装置/システム。
[項7]
シグナルが電気シグナルであり、かつ、シグナルを適用するように構成された各トランスデューサが電極である、項6に記載の装置/システム。
[項8]
電極が双極カフ電極である、項7に記載の装置/システム。
[項9]
シグナルが、1kHzより大きい周波数の交流(AC)波形を含む、項7又は8に記載の装置/システム。
[項10]
AC波形が、20kHzより大きい周波数、例えば30~50kHzの周波数を有する、項9に記載の装置/システム。
[項11]
AC波形が正弦波形である、項9又は10に記載の装置/システム。
[項12]
電気シグナルが、0.5~5mAの電流を有する、項7~11のいずれか一項に記載の装置/システム。
[項13]
シグナルがオンセット応答を誘導しない、項4~12のいずれか一項に記載の装置/システム。
[項14]
被験体における1つ以上の生理学的パラメータを検出するための手段をさらに含む、項4~13のいずれか一項に記載の装置/システム。
[項15]
コントローラが、前記検出するための手段に連結され、生理学的パラメータが予め規定された閾値を満たすか又は超えるように検出された場合に前記トランスデューサに前記シグナルを適用させる、項14に記載の装置/システム。
[項16]
1つ以上の検出される生理学的パラメータが、交感神経緊張、血圧、インスリン濃度、グルコース濃度、血漿カテコールアミン濃度、組織カテコールアミン濃度、及び血漿HbA1c濃度からなる群の1つ以上を含む、項14又は15に記載の装置/システム。
[項17]
1つ以上の検出される生理学的パラメータが、被験体の神経における活動電位又は活動電位のパターンを含み、該活動電位又は活動電位のパターンが、グルコースに対する応答障害に関連する状態に関連している、項14~16のいずれか一項に記載の装置/システム。
[項18]
シグナルを適用した結果としての神経活動における阻害が、GSNにおける神経活動の部分的ブロック又は完全なブロックである、項4~17のいずれか一項に記載の装置/システム。
[項19]
GSN中の求心性及び/又は遠心性の線維の神経活動がブロックされる、項18に記載の装置。
[項20]
シグナルを適用した結果としての神経活動における阻害が、実質的に持続的である、項4~19のいずれか一項に記載の装置/システム。
[項21]
神経活動における調節が可逆的である、項4~19のいずれか一項に記載の装置/システム。
[項22]
神経活動における調節が矯正的である、項4~19のいずれか一項に記載の装置/システム。
[項23]
被験体への少なくとも部分的な埋め込みに適している、場合により被験体へ完全に埋め込まれるのに適している、項4~22のいずれか一項に記載の装置/システム。
[項24]
被験体におけるグルコース制御障害に関連する状態を治療する方法であって、以下:(i)被験体に項4~23のいずれか一項に記載の装置/システムを埋め込むステップ;(ii)装置/システムの少なくとも1つのトランスデューサを、被験体のGSNとシグナル伝達接触になるように配置するステップ;及び(iii)装置/システムを作動させるステップを含む、方法。
[項25]
被験体のGSNにおける神経シグナル伝達を阻害する方法であって、以下:(i)被験体に項4~23のいずれか一項に記載の装置/システムを埋め込むステップ;(ii)装置/システムの少なくとも1つのトランスデューサを、被験体のGSNとシグナル伝達接触になるように、配置するステップ;及び(iii)装置/システムを作動させるステップを含む、方法。
[項26]
GSNにおける神経シグナル伝達の阻害が、被験体におけるグルコース制御を改善する、項25に記載の方法。
[項27]
被験体におけるグルコース制御障害に関連する状態を治療する方法であって、GSNの神経活動を阻害するために、前記被験体の前記GSNの一部又は全部にシグナルを適用するステップを含む、方法。
[項28]
シグナルが、シグナルを適用するための1つ以上のトランスデューサを含む神経調節装置又はシステムによって適用される、項27に記載の方法。
[項29]
グルコース制御障害に関連する状態が、インスリン抵抗性に関連する状態である、項27又は項28に記載の方法。
[項30]
前記状態が、インスリン抵抗性、前糖尿病、2型糖尿病、及びメタボリックシンドロームからなる群の少なくとも1つである、項27~29に記載の方法。
[項31]
前記状態の治療が、測定可能な生理学的パラメータの改善によって示され、前記測定可能な生理学的パラメータは、交感神経緊張、インスリン感受性、グルコース感受性、(空腹時)グルコース濃度、全脂肪量、内臓脂肪量、皮下脂肪量、血漿カテコールアミン、尿中メタネフリン、及び糖化ヘモグロビン(HbA1c)からなる群の少なくとも1つである、項27~30のいずれか一項に記載の方法。
[項32]
シグナルを適用した結果としての神経活動の阻害が、GSNにおける神経活動の部分的ブロック又は完全なブロックである、項27~31のいずれか一項に記載の方法。
[項33]
シグナルが、少なくとも5日間、場合により少なくとも7日間連続して適用される、項27~32のいずれか一項に記載の方法。
[項34]
神経活動における阻害が実質的に持続的である、項27~32のいずれか一項に記載の方法。
[項35]
神経活動における阻害が可逆的である、項27~32のいずれか一項に記載の方法。
[項36]
神経活動における阻害が矯正的である、項27~35のいずれか一項に記載の方法。
[項37]
適用されるシグナルが、非破壊的シグナルである、項27~36のいずれか一項に記載の方法。
[項38]
シグナルがオンセット応答を誘導しない、項27~37のいずれか一項に記載の方法。
[項39]
適用されるシグナルが、電気シグナル、光学シグナル、超音波シグナル、又は熱シグナルである、項27~38のいずれか一項に記載の方法。
[項40]
シグナルが電流であり、シグナルが神経調節装置/システムによって適用される場合に、シグナルを適用するように構成された各トランスデューサが電極であり、場合により双極カフ電極である、項39に記載の方法。
[項41]
シグナルが、1kHzより大きい周波数の交流(AC)波形を含む、項40に記載の方法。
[項42]
AC波形が、20kHzより大きい周波数を有する、項41に記載の方法。
[項43]
AC波形が、30~50kHzの周波数を有する、項42に記載の方法。
[項44]
AC波形が、正弦波形である、項41~43のいずれか一項に記載の方法。
[項45]
電気シグナルが、0.5~5mAの電流を有する、項40~44のいずれか一項に記載の方法。
[項46]
被験体の1つ以上の生理学的パラメータを検出するステップをさらに含み、検出された生理学的パラメータが予め規定された閾値を満たすか又は超える場合にのみシグナルが適用される、項1~3及び24~45のいずれか一項に記載の方法。
[項47]
神経調節装置/システムが、1つ以上の生理学的パラメータを検出するように構成された1つ以上の検出器をさらに含む、項31に従属する場合の項46に記載の方法。
[項48]
1つ以上の検出される生理学的パラメータが、交感神経緊張、血圧、インスリン濃度、グルコース濃度、血漿カテコールアミン濃度、組織カテコールアミン濃度、尿中メタネフリン濃度、及び血漿HbA1c濃度からなる群の少なくとも1つを含む、項46又は47に記載の方法。
[項49]
被験体におけるインスリン抵抗性の治療における使用のための神経調節電気波形であって、被験体のGSNに適用されたときに、波形がGSNにおける神経シグナル伝達を阻害するように、波形が、1~50KHzの周波数を有するキロヘルツ交流(AC)波形である、神経調節電気波形。
[項50]
被験体のGSNにおける神経活動を阻害することによって、被験体におけるグルコース制御障害に関連する状態、例えばインスリン抵抗性を治療するための神経調節装置又はシステムの使用。
[項51]
被験体のGSNにおける神経活動を阻害することによって、被験体におけるグルコース制御障害に関連する状態を治療する方法。
[項52]
被験体におけるグルコース制御障害に関連する状態を治療する方法であって、GSNの神経活動を阻害するために、被験体のGSNにシグナルを適用するステップを含む、方法。
[項53]
GSNに取り付けられている、項4~23のいずれか一項に記載の装置/システム。
[項54]
項4~23のいずれか一項に記載の装置/システムのトランスデューサが取り付けられたGSN。
[項55]
GSNの活動を改変する方法であって、その神経活動を阻害するために、GSNにシグナルを適用するステップを含む、方法。
[項56]
GSNとシグナル伝達接触している項4~23又は53のいずれか一項に記載の装置/システムを制御する方法であって、装置/システムがGSNにシグナルを適用することに応答して、装置/システムに制御命令を送信するステップを含む、方法。
[項57]
被験体の治療における使用のための糖尿病薬剤であって、被験体が、そのGSNとシグナル伝達接触している項4~23又は53のいずれか一項に記載の埋め込まれた装置/システムを有する、糖尿病薬剤。
[項58]
被験体が哺乳動物被験体であり、場合によりヒト被験体である、項1~57のいずれか一項に記載の装置、システム、方法、波形、GSN、薬剤、又は使用。
[項59]
被験体が、グルコース制御障害に関連する状態、疾患又は障害に罹患している、項58に記載の装置、システム、方法、波形、GSN、薬剤又は使用。
図1A-B】
図1C
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図8