(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】屈曲構造体及びこれを用いた関節機能部
(51)【国際特許分類】
B25J 17/00 20060101AFI20220628BHJP
A61B 17/29 20060101ALI20220628BHJP
A61B 34/30 20160101ALI20220628BHJP
【FI】
B25J17/00 Z
A61B17/29
A61B34/30
(21)【出願番号】P 2019022424
(22)【出願日】2019-02-12
(62)【分割の表示】P 2019017778の分割
【原出願日】2019-02-04
【審査請求日】2021-06-11
(31)【優先権主張番号】P 2018152642
(32)【優先日】2018-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110629
【氏名又は名称】須藤 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100166615
【氏名又は名称】須藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】平田 貴史
(72)【発明者】
【氏名】黒川 真平
(72)【発明者】
【氏名】保戸田 裕樹
【審査官】臼井 卓巳
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-265323(JP,A)
【文献】米国特許第05405073(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0144656(US,A1)
【文献】特開2011-177231(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0152880(US,A1)
【文献】実開昭52-079947(JP,U)
【文献】米国特許第05271543(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 17/00
A61B 17/068-34/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓部材を軸方向に移動可能に挿通し前記可撓部材と共に前記軸方向に対して屈曲可能であり、前記可撓部材
の前記軸方向へ
の移動をガイドする機能を有する屈曲構造体であって、
コイル状に巻かれて前記軸方向に複数の巻部を有する線材からなるコイルばねである外コイル部と、
コイル状に巻かれて前記軸方向に複数の巻部を有する線材からなり前記外コイル部内に位置するコイルばねである内コイル部とを備え、
前記外コイル部は、前記軸方向で隣接する巻部間を離間させた複数の隙間を有し、
前記内コイル部は、前記巻部が前記外コイル部の前記隙間に対応して設けられ前記外コイル部の前記隣接する巻部に接触しつつ当該巻部間に嵌合
し、
前記内コイル部は、内周により前記可撓部材を挿通してガイドする挿通部を区画し、
前記可撓部材は、前記内コイル部及び前記外コイル部の屈曲時に前記挿通部内を前記軸方向に移動可能である、
ことを特徴とする屈曲構造体。
【請求項2】
請求項1記載の屈曲構造体であって、
前記外コイル部は、前記軸方向で隣接する巻部の各間に前記隙間を有した、
ことを特徴とする屈曲構造体。
【請求項3】
請求項1又は2記載の屈曲構造体であって、
前記内コイル部が前記外コイル部の軸心に対して径方向に移動可能な可動長さは、(外コイル部の直径-内コイル部の直径)の半分以下である、
ことを特徴とする屈曲構造体。
【請求項4】
請求項
3記載の屈曲構造体であって、
前記可動長さが(外コイル部の直径-内コイル部の直径)の半分以下となるように、前記内コイル部の移動を規制する規制部材を有する、
ことを特徴とする屈曲構造体。
【請求項5】
請求項4に記載の屈曲構造体であって、
前記規制部材は前記可撓部材である、
ことを特徴とする屈曲構造体。
【請求項6】
請求項5に記載の屈曲構造体であって、
前記可撓部材を前記軸方向に移動可能に挿通して前記可撓部材と共に屈曲可能である、
ことを特徴とする屈曲構造体。
【請求項7】
請求項1~6の何れか一項に記載の屈曲構造体であって、
前記内コイル部と前記外コイル部とが別体に形成され、前記内コイル部が前記外コイル部内に螺合された、
ことを特徴とする屈曲構造体。
【請求項8】
請求項1~7の何れか一項に記載の屈曲構造体であって、
前記外コイル部は、所定角度に屈曲した際に、屈曲の内側で隣接する巻部が接触する、
ことを特徴とする屈曲構造体。
【請求項9】
請求項1~8の何れか一項に記載の屈曲構造体を適用した関節機能部であって、
基部及び該基部に対して変位する可動部を備え、
前記屈曲構造体は、前記基部と前記可動部との間に設けられ、前記基部に対する前記可動部の変位に応じて屈曲する、
ことを特徴とする関節機能部。
【請求項10】
請求項9記載の関節機能部であって、
前記基部及び前記可動部間に介設された前記軸方向に伸縮可能な可撓チューブを備え、
前記屈曲構造体は、前記可撓チューブの軸心部に沿って前記軸方向に配置された、
ことを特徴とする関節機能部。
【請求項11】
請求項1~10の何れか一項に記載の屈曲構造体であって、
前記外コイル部は、断面形状が円形である、
ことを特徴とする屈曲構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボット等の関節機能部に供される屈曲構造体及びこれを用いた関節機能部に関する。
【背景技術】
【0002】
各種分野のロボット、マニピュレーター、或はアクチュエータ等の関節機能部を有するものがある。このような関節機能部に適用される屈曲構造体としては、例えば、特許文献1に記載の可撓性部材がある。
【0003】
この特許文献1の可撓性部材は、複数のディスク要素を相互に揺動自在に係合して構成され、各ディスク要素の揺動により全体として屈曲動作を行うようになっている。
【0004】
かかる構成の可撓性部材は、屈曲動作を円滑に行うことができると共に軸方向の圧縮に対する剛性を確保でき、屈曲動作の安定化を図ることができる。
【0005】
しかし、特許文献1の可撓性部材は、複数のディスク要素を相互に係合するため、構造が煩雑であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする問題点は、屈曲動作の安定化を図ると、構造が煩雑になる点である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、屈曲動作の安定化を図りつつ構造を簡素化するために、可撓部材を軸方向に移動可能に挿通し前記可撓部材と共に前記軸方向に対して屈曲可能であり、前記可撓部材の前記軸方向への移動をガイドする機能を有する屈曲構造体であって、コイル状に巻かれて前記軸方向に複数の巻部を有する線材からなるコイルばねである外コイル部と、コイル状に巻かれて前記軸方向に複数の巻部を有する線材からなり前記外コイル部内に位置するコイルばねである内コイル部とを備え、前記外コイル部は、前記軸方向で隣接する巻部間を離間させた複数の隙間を有し、前記内コイル部は、前記巻部が前記外コイル部の前記隙間に対応して設けられ前記外コイル部の前記隣接する巻部に接触しつつ当該巻部間に嵌合し、前記内コイル部は、内周により前記可撓部材を挿通してガイドする挿通部を区画し、前記可撓部材は、前記内コイル部及び前記外コイル部の屈曲時に前記挿通部内を前記軸方向に移動可能であることを屈曲構造体の最も主な特徴とする。
【0009】
また、本発明は、上記屈曲構造体を適用した関節機能部であって、基部及び該基部に対して変位する可動部を備え、屈曲構造体は、前記基部と可動部との間に設けられ、前記基部に対する前記先端部の変位に応じて屈曲することを関節機能部の最も主な特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、屈曲構造体が内コイル部を外コイル部内に位置させて構成されているため、構造を簡素化することができる。
【0011】
また、内コイル部の巻部が外コイル部の隣接する巻部に接触しつつそれら隣接する巻部間に嵌合しているので、軸方向の剛性を確保することができる。
【0012】
また、屈曲時には、屈曲の内側で外コイル部の隙間を小さくしつつ屈曲の外側に内コイル部を変位させ、屈曲の外側で外コイル部の隙間を大きくして内コイル部の変位を許容することで、軸方向の剛性を確保しても十分な可撓性を確保することができる。
【0013】
結果として、本発明では、屈曲動作の安定化を図りつつ構造を簡素化することが可能となる。
【0014】
しかも、本発明では、屈曲の内側で外コイル部の隙間が小さくなり、屈曲の外側で外コイル部の隙間が大きくなるので、外コイル部の軸心における長さが直状時と比較して変化せず、内周側に可撓部材を軸方向で移動可能にガイドするように用いる場合、可撓部材の移動量を確実に一定に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】屈曲構造体を示す断面図である(実施例1)。
【
図2】
図1の屈曲構造体の一部を示す拡大図である(実施例1)。
【
図3】
図1の屈曲構造体の屈曲状態を示す断面図である(実施例1)。
【
図4】
図3の屈曲構造体の一部を示す拡大図である(実施例1)。
【
図5】内コイル部の外コイル部からの脱落を示す概略断面図であり、(A)は脱落前、(B)は脱落後の状態である(実施例1)。
【
図6】(A)は比較例に係る屈曲構造体を示す断面図、(B)は比較例に係る屈曲構造体の屈曲状態を示す断面図である(実施例1)。
【
図7】屈曲構造体の一部を示す拡大断面図である(実施例2)。
【
図8】屈曲構造体の一部を示す拡大断面図である(実施例3)。
【
図9】屈曲構造体を示す断面図である(実施例4)。
【
図10】屈曲構造体の一部を示す拡大断面図である(実施例5)。
【
図11】ロボット鉗子の一部を示す斜視図である(実施例6)。
【
図13】
図11のロボット鉗子の屈曲部を示す斜視図である(実施例6)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
屈曲動作の安定化を図りつつ構造を簡素化するという目的を、外コイル部内に内コイル部を位置させた二重コイル形状の屈曲構造体により実現した。
【0017】
すなわち、屈曲構造体は、軸方向に対して屈曲可能な屈曲構造体であって、コイル状に巻かれて軸方向に複数の巻部を有する線材からなる外コイル部と、コイル状に巻かれて軸方向に複数の巻部を有する線材からなり、外コイル部内に位置する内コイル部とを備える。
【0018】
外コイル部は、軸方向で隣接する巻部間を離間させた複数の隙間を有し、内コイル部は、巻部が外コイル部の隙間に対応して設けられ、外コイル部の隣接する巻部に接触しつつ当該巻部間に嵌合する。
【0019】
外コイル部は、軸方向で隣接する巻部の各間に隙間を有してもよいが、軸方向の一部にのみ隙間を有する構成とすることも可能である。
【0020】
内コイル部が外コイル部の軸心に対して径方向に移動可能な可動長さは、(外コイル部の直径-内コイル部の直径)の半分以下としてもよい。
【0021】
この場合、可動長さが(外コイル部の直径-内コイル部の直径)の半分以下となるように、内コイル部の移動を規制する規制部材を有する構成としてもよい。
【0022】
規制部材を可撓部材とし、屈曲構造体を可撓部材を軸方向に移動可能に挿通して可撓部材と共に屈曲可能である構成としてもよい。
【0023】
また、内コイル部と外コイル部とは、別体又は一体に構成することが可能である。内コイル部と外コイル部とを別体に形成する場合は、内コイル部が外コイル部内に螺合された構成としてもよい。
【0024】
可撓部材の屈曲構造体を適用した関節機能部は、基部及び該基部に対して変位する可動部を備えた構成としてもよい。この場合、屈曲構造体は、基部と可動部との間に設けられ、基部に対する可動部の変位に応じて屈曲する。
【0025】
また、関節機能部は、基部及び可動部間に介設された軸方向に伸縮可能な可撓チューブを備えてもよい。この場合、屈曲構造体は、可撓チューブの軸心部に沿って軸方向に配置される。
【実施例1】
【0026】
[屈曲構造体の構造]
図1は、本発明の実施例1に係る可撓部材の屈曲構造体を示す断面図、
図2は、同一部を示す拡大図である。
【0027】
屈曲構造体1は、例えば各種分野のロボット、マニピュレーター、或はアクチュエータ等の関節機能部に適用されるものである。この屈曲構造体1は、関節機能部の基部及び可動部間に設けられ、屈曲により基部に対して可動部を変位可能に支持する。
【0028】
本実施例の屈曲構造体1は、二重コイル形状であり、外コイル部5と、内コイル部7とを備えている。この二重コイル形状により、本実施例の屈曲構造体1は、軸方向に対して屈曲可能であって、外力により屈曲する際に屈曲の内径側が収縮しかつ屈曲の外径側が伸長することにより、軸方向中心軸又は軸心Oの長さが屈曲前後及び屈曲中においてほぼ一定であり、非屈曲の際に軸方向への圧縮を規制する構成となっている。かかる本実施例の屈曲構造体1は、規制部材としての可撓部材3も備えている。
【0029】
可撓部材3は、屈曲構造体1を軸方向に移動可能に挿通し、詳細は後述するが、内外コイル部5,7の径方向へのずれを規制するものである。本実施例の可撓部材3は、例えば、プッシュプルケーブル等を利用して構成されている。これに応じて、屈曲構造体1は、可撓部材3を軸方向へガイドする機能も有し、関節機能部の屈曲動作に応じて可撓部材3と共に屈曲可能となっている。
【0030】
なお、屈曲とは、関節機能部又は屈曲構造体1の軸心Oを湾曲又は屈曲させることを意味する。また、可撓部材3は、省略することも可能である。
【0031】
外コイル部5は、コイルばねであり、コイル状に巻かれた線材5aからなる。従って、外コイル部5は、軸方向に複数の巻部5bを有する。なお、巻部5bは、コイル形状を構成する一巻きを意味する(以下、同じ。)。
【0032】
線材5aの材質は、金属や樹脂等とすることが可能である。線材5aの断面は、円形に形成されているが、楕円等としてもよい。
【0033】
外コイル部5の中心径D1は、軸方向の一端から他端に至るまで一定となっている。ただし、外コイル部5の中心径D1は、軸方向で変化させることも可能である。
【0034】
外コイル部5は、軸方向で隣接する巻部5b間を軸方向で離間させた複数の隙間5cを有している。本実施例の隙間5cは、軸方向で隣接する巻部5bの各間に形成され、全ての隙間5cは、同一の軸方向の寸法を有している。ただし、隙間5cは、軸方向で一部の巻部5b間にのみ設けることも可能である。また、隙間5cの軸方向の寸法を変化させることも可能である。
【0035】
内コイル部7は、コイルばねであり、軸方向に複数の巻部7bを有するコイル状に巻かれた線材7aからなる。内コイル部7は、外コイル部と同様、線材7aの材質を金属や樹脂とすることが可能であり、線材7aの断面が円形であるが、楕円等とすることも可能である。
【0036】
この内コイル部7は、外コイル部5の内側に位置し、内周に可撓部材3を挿通するための挿通部9が区画されている。本実施例の内コイル部7は、外コイル部5内に螺合されている。この螺合により、内コイル部7の巻部7bが外コイル部5の隣接する巻部5bの各間に位置している。従って、内コイル部7は、巻部7bが外コイル部5の隙間5cに対応して設けられた構成となっている。
【0037】
また、内コイル部7の巻部7bは、中心径D2及び線材7aの線径d2の設定により、外コイル部5の隣接する巻部5bに接触しつつ当該巻部5b間に嵌合している。
【0038】
なお、内コイル部7の中心径D2は、軸方向の一端から他端に至るまで一定となっている。ただし、内コイル部7の中心径D2は、外コイル部5の中心径D1に応じて、軸方向で変化させること等も可能である。
【0039】
また、線材7aの線径d2は、外コイル部5の線材5aの線径d1と同一になっている。ただし、線材7aの線径d2は、外コイル部5の線材5aの線径d1よりも大きく又は小さく形成してもよい。
【0040】
内コイル部7は、隣接する巻部7b間を軸方向で離間させた複数の隙間7cを有している。隙間7cは、外コイル部5との螺合に応じ、隣接する巻部7bの各間に形成され、全ての隙間7cは、同一の軸方向の寸法を有している。
【0041】
なお、外コイル部5及び内コイル部7は、外コイル部5内に内コイル部7が位置していない自由状態で、隣接する巻部5b,7bの各間に隙間5c,7cを有する構成の他、自由状態で隣接する巻部5b,7bが密着した構成(密着ばね)とすることも可能である。さらに、外コイル部5及び内コイル部7の一方のみを密着ばねとすることも可能である。
【0042】
外コイル部5及び内コイル部7が自由状態で密着ばねである場合は、内コイル部7と外コイル部5とを螺合することにより相互に巻部5b,7b間を離間させ、外コイル部5の隙間5c及び内コイル部7の隙間7cが形成される。この場合、二重コイル形状の屈曲構造体1に初張力を付与することが可能である。
【0043】
[屈曲構造体の動作]
図3は、
図1の屈曲構造体の屈曲状態を示す断面図、
図4は、同一部を示す拡大図である。
【0044】
屈曲構造体1は、
図1及び
図2のように、軸心O(外コイル部5の軸心でもある)が屈曲していない直状時に、内コイル部7の巻部7bが外コイル部5の隣接する巻部5bに接触しつつそれら隣接する巻部5b間に嵌合している。
【0045】
このため、屈曲構造体1は、軸方向での圧縮力が作用しても、外コイル部5の隙間5cが圧縮されることを内コイル部7の巻部7bが規制し、全体としての圧縮が抑制される。なお、内コイル部7を基準にすると、内コイル部7の隙間7cが圧縮されるのを外コイル部5の巻部5bが規制することになる。
【0046】
従って、屈曲構造体1は、自身の圧縮ひいては適用される関節機能部の圧縮を抑制することができる。この結果、可撓部材3の軸方向への移動をガイドする際に、軸心Oの長さ並びに軸心O上を通る可撓部材3の移動量を一定に保つことができ、可撓部材3の動作の安定性を確保することもできる。
【0047】
図3及び
図4のように、屈曲構造体1の軸心Oが屈曲すると、屈曲の内側で外コイル部5の隙間5cが小さくなり、屈曲の外側で外コイル部5の隙間5cが大きくなる。
【0048】
このとき、屈曲構造体1は、内コイル部7が径方向の外側に変位することにより屈曲を円滑に行うことができる。
【0049】
すなわち、内コイル部7の各巻部7bは、屈曲構造体1の屈曲の内側で、外コイル部5の隙間5cが小さくなることにより径方向の内側に押し込められる。これに応じ、内コイル部7は、全体として径方向の外側に変位するが、この変位は、内コイル部7の各巻部7bが外コイル部5の大きくなった隙間5cに入り込むようにして許容される。
【0050】
従って、屈曲構造体1は、軸方向の圧縮を規制することができる構成でありながら、可撓性が阻害されることはない。結果として、屈曲構造体1は、屈曲動作の安定化が図られる。
【0051】
また、屈曲構造体1が屈曲する際は、上記のように、屈曲の内側で外コイル部5の隙間5cが小さくなり、屈曲の外側で外コイル部5の隙間が大きくなるので、軸心O上で隙間5cの大きさが直状時と比較して変化しないことになる。
【0052】
従って、屈曲構造体1は、直状時だけでなく屈曲時にも、軸心Oの長さ及び屈曲構造体1の軸心O上を通る可撓部材3の移動量を一定に保つことができ、可撓部材3の動作の安定性を確保することができる。
【0053】
また、本実施例の屈曲構造体1は、所定角度に屈曲した際に、屈曲の内側で外コイル部5の隣接する巻部5bが接触する(
図4参照)。
【0054】
従って、屈曲構造体1では、巻部5bが接触したときから、軸心O上の長さが大きくなり始める。このため、可撓部材3の移動量の変化により、関節機能部の操作者に所定角度以上に屈曲したことを通知することができる。
【0055】
かかる屈曲構造体1の屈曲動作時には、可撓部材3により内コイル部7の外コイル部5からの脱落が防止される。
【0056】
すなわち、上記のように、屈曲構造体1の屈曲時には、内コイル部7の各巻部7bが外コイル部5の大きくなった隙間5cに入り込むようにして、内コイル部7が全体として径方向の外側に変位する。
【0057】
この変位(内コイル部7が外コイル部5の軸心Oに対して径方向に移動可能な可動長さ)は、(外コイル部の直径-内コイル部の直径)の半分以下となっている。なお、ここでの直径は、外コイル部5及び内コイル部7の中心径D1及びD2を意味する。ただし、直径は、外コイル部5及び内コイル部7の外径又は内径であってもよい。
【0058】
図5は、内コイル部7の外コイル部5からの脱落を示す概略断面図であり、(A)は脱落前、(B)は脱落後の状態である。
【0059】
図5のように、直状時に内コイル部7の径方向への移動量Lが(外コイル部5の直径-内コイル部7の直径)の半分(D1-D2)/2を超えると、内コイル部7が外コイル部5を乗り越えて脱落する状態となる。なお、
図5において、移動量Lは、内コイル部7の軸心と外コイル部5の軸心とのズレ量として示している。
【0060】
屈曲構造体1の屈曲時においても、内コイル部7の径方向への移動量Lが(外コイル部5の直径-内コイル部7の直径)の半分(D1-D2)/2を超えると、直状に戻った際に
図5のように脱落が生じてしまう結果になるため、本実施例では、内コイル部7が外コイル部5の軸心Oに対して径方向に移動可能な可動長さが、(外コイル部5の直径-内コイル部7の直径)の半分(D1-D2)/2以下となっている。
【0061】
この可動長さは、本実施例において、可撓部材3が屈曲構造体1を挿通することで設定されている。こうして、本実施例では、可撓部材3により内コイル部7の外コイル部5からの脱落が防止される。ただし、可動長さは、屈曲構造体1が可撓部材3を挿通しない場合や可撓部材3の径が上記可動長さを設定できない程度に細い場合、外コイル部5及び内コイル部7の線径d1及びd2の何れか一方又は双方の設定により設定することも可能である。
【0062】
[比較例の移動量]
図6(A)は、比較例に係る屈曲構造体を示す断面図、
図6(B)は、同屈曲時を示す断面図である。
【0063】
比較例に係る屈曲構造体1Aは、密着ばねのみからなっており、屈曲が可能であると共に圧縮が規制されるようになっている。
【0064】
この屈曲構造体1Aでは、屈曲時に、屈曲の内側で巻部1Aaが接触した状態を維持し、屈曲の外側で巻部1Aa間に隙間が形成される。
【0065】
この結果、屈曲時には、屈曲構造体1Aの屈曲内外の中央部でも巻部1Aa間に隙間1Abが形成される。その隙間1Abの分だけ、屈曲構造体1Aの軸心Oの長さ及び軸心O上を通る可撓部材3の移動量が大きくなる。
【0066】
このため、比較例では、可撓部材3をガイドする際に、実施例1のように、可撓部材3の動作の安定性を確保することはできないものとなっている。
【0067】
[実施例1の効果]
以上説明したように、本実施例の屈曲構造体1は、可撓部材3を軸方向に移動可能に挿通して、可撓部材3と共に屈曲可能な屈曲構造体であって、コイル状に巻かれて軸方向に複数の巻部5bを有する線材5aからなる外コイル部5と、コイル状に巻かれて軸方向に複数の巻部7bを有する線材7aからなり、外コイル部5内に位置する内コイル部7とを備える。
【0068】
外コイル部5は、隣接する巻部5b間を離間させた複数の隙間5cを有し、内コイル部7は、巻部7bが外コイル部5の隙間5cに対応して設けられ、外コイル部5の隣接する巻部5bに接触しつつ、それら隣接する巻部5b間に嵌合する。
【0069】
従って、屈曲構造体1は、屈曲構造体が内コイル部を外コイル部内に位置させて構成されているため、構造を簡素化することができる。
【0070】
また、屈曲構造体1は、軸方向での圧縮力が作用しても、外コイル部5の隙間5cが圧縮されることを内コイル部7の巻部7bが規制し、全体として圧縮が抑制される。このため、屈曲構造体1は、関節機能部を圧縮させない程度の軸方向の剛性を確保することができる。
【0071】
また、屈曲時には、屈曲の内側で外コイル部5の隙間5cを小さくしつつ屈曲の外側に内コイル部7を変位させ、屈曲の外側で外コイル部5の隙間を大きくして内コイル部7の変位を許容することで、軸方向の剛性を確保しても関節機能部と共に屈曲するための十分な可撓性を確保することができる。
【0072】
結果として、屈曲構造体1は、屈曲動作の安定化を図りつつ構造を簡素化することが可能となるため、ロボット、マニピュレーター、或はアクチュエータ等の関節機能部を有する機器の動作の安定性を確保することが可能となる。
【0073】
しかも、本実施例の屈曲構造体1は、屈曲の内側で外コイル部5の隙間5cが小さくなり、屈曲の外側で外コイル部5の隙間5cが大きくなるので、外コイル部5の軸心Oにおける長さが直状時と比較して変化せず、可撓部材3の移動量を確実に一定に保つことができる。
【0074】
このため、可撓部材3の動作の安定性を確保することができ、ひいては関節機能部を有する機器の動作の安定性を、より確保することが可能となる。
【0075】
また、本実施例では、内コイル部7が外コイル部5の軸心Oに対して径方向に移動可能な可動長さ(変位量)が(外コイル部の直径-内コイル部の直径)の半分以下となっているので、内コイル部7が外コイル部5から脱落することを防止できる。
【0076】
また、本実施例では、規制部材としての可撓部材3により、可動長さが(外コイル部の直径-内コイル部の直径)の半分以下となるように、内コイル部7の移動を規制するため、内コイル部7及び外コイル部5の形状を変更することなく、容易に内コイル部7の脱落を防止できる。
【0077】
屈曲構造体1は、可撓部材3を軸方向に移動可能に挿通して、可撓部材3と共に屈曲可能であるため、可撓部材3をガイドする態様において、可撓部材3を利用して内コイル部7の脱落を防止できる。
【0078】
本実施例では、外コイル部5が軸方向で隣接する巻部5bの各間に隙間5cを有したため、屈曲構造体1を円滑に屈曲させることができる。
【0079】
本実施例では、内コイル部7と外コイル部5とが別体に形成され、内コイル部7が外コイル部5内に螺合されたため、組み付けが容易である。また、内コイル部7及び外コイル部5の何れか一方又は双方の特性を変更することにより、屈曲構造体1の特性を容易に変更することができる。
【0080】
また、本実施例の屈曲構造体1は、所定角度に屈曲した際に、屈曲の内側で外コイル部5の隣接する巻部5bが接触するので、可撓部材3の移動量の変化により、関節機能の操作者に所定角度以上に屈曲したことを通知することができる。
【実施例2】
【0081】
図7は、実施例2に係る屈曲構造体の一部を示す拡大断面図である。なお、実施例2では、実施例1と対応する構成に同符号を付して重複した説明を省略する。
【0082】
実施例2の屈曲構造体1は、外コイル部5の線材5aの線径d1と内コイル部7の線材7aの線径d2とを異ならせたものである。実施例2では、外コイル部5の線径d1を内コイル部7の線径d2よりも大きくしている。なお、外コイル部5の線径d1を内コイル部7の線径d2よりも小さくすることも可能である。
【0083】
このように、屈曲構造体1は、外コイル部5の線径d1と内コイル部7の線径d2とを異ならせても、実施例1と同様の作用効果を奏することができる。また、線径d2と線径d1とを異ならせることにより、屈曲構造体1の自由長や特性を調整することができる。
【実施例3】
【0084】
図8は、実施例3に係る屈曲構造体の一部を示す拡大断面図である。なお、実施例3では、実施例1と対応する構成に同符号を付して重複した説明を省略する。
【0085】
実施例3の屈曲構造体1は、外コイル部5の軸方向の一部において、内コイル部7の巻部7bが外コイル部5の隣接する巻部5bに接触しつつそれら隣接する巻部5b間に嵌合する。
【0086】
すなわち、内コイル部7は、軸方向で漸次中心径D2(
図1参照)が小さくなるように形成されている。これに応じて、内コイル部7は、上記のように、軸方向の一部でのみ外コイル部5の隣接する巻部5b間に嵌合している。
【0087】
なお、本実施例では、内コイル部7及び外コイル部5がそれぞれ密着コイルであり、内コイル部7の中心径D2が小さくなるにつれて、外コイル部5の隙間5cが小さくなっている。
【0088】
このように構成しても、実施例1と同様の作用効果を奏することができる。加えて、本実施例では、外コイル部5の軸方向の一部でのみ内コイル部7の巻部7bを外コイル部5の隣接する巻部5b間に嵌合させることにより、屈曲構造体1の自由長や特性を調整することができる。
【実施例4】
【0089】
図9は、実施例4に係る屈曲構造体を示す断面図である。なお、実施例4では、実施例1と対応する構成に同符号を付して重複した説明を省略する。
【0090】
実施例4の屈曲構造体1は、軸方向の一部に漸次拡径する拡径部11を設けたものである。本実施例では、屈曲構造体1の軸方向の一端に拡径部11を設けている。ただし、拡径部11は、屈曲構造体1の軸方向の中間部や他端に設けることも可能である。
【0091】
拡径部11では、外コイル部5及び内コイル部7の中心径D1及びD2が共に漸次拡大し、且つ内コイル部7の巻部7bが外コイル部5の隣接する巻部5bに接触しつつ巻部5b間に嵌合する状態を維持している。
【0092】
このように構成しても、実施例1と同様の作用効果を奏することができる。また、拡径部11により屈曲構造体1の特性を調整することができる。
【実施例5】
【0093】
図10は、実施例5に係る屈曲構造体の一部を示す拡大断面図である。なお、実施例5では、実施例1と対応する構成に同符号を付して重複した説明を省略する。
【0094】
実施例5の屈曲構造体1は、外コイル部5及び内コイル部7をそれぞれ二つのコイル部で構成したものである。具体的には、外コイル部5が第一外コイル部13及び第二外コイル部15で構成され、内コイル部7が第一内コイル部17及び第二内コイル部19で構成されている。
【0095】
第一外コイル部13及び第二外コイル部15は、軸方向で交互に巻部13a,15aが位置し、第一内コイル部17及び第二内コイル部19も、軸方向で交互に巻部17a,19aが位置する。
【0096】
すなわち、外コイル部5は、第一外コイル部13及び第二外コイル部15の巻部13a,15aが軸方向で隣接し、それら隣接する巻部13a,15a間に隙間5cが形成されている。
【0097】
内コイル部7の第一内コイル部17の巻部17a及び第二内コイル部19の巻部19aは、それぞれ第一外コイル部13及び第二外コイル部15の巻部13a,15aに接触しつつそれら巻部13a,15a間に嵌合している。
【0098】
このように構成しても、実施例1と同様の作用効果を奏することができ、且つ屈曲構造体1の特性や自由長を調整することができる。
【0099】
なお、外コイル部5及び内コイル部7を構成するコイル部の数は変更することが可能である。また、外コイル部5及び内コイル部7の一方のみを複数のコイル部で構成することも可能である。
【実施例6】
【0100】
図11は、本発明の実施例6に係り、屈曲構造体を適用したロボット鉗子の一部を示す斜視図、
図12は、同断面図、
図13は、
図11のロボット鉗子の関節機能部を示す斜視図、
図14は、同断面図である。なお、実施例6では、実施例1と対応する構成に同符号を付して重複した説明を省略する。
【0101】
本実施例のロボット鉗子21は、医療用マニピュレーターである手術ロボットのロボットアーム先端を構成するものである。
【0102】
なお、ロボット鉗子21は、関節機能部を有する機器の一例である。関節機能部を有する機器は、上記のとおり医療用マニピュレーターに限られるものではない。すなわち、関節機能部を有する機器としては、屈曲動作を行う関節機能部を有し、且つ可撓部材3を軸方向に移動させて動作等を行うものであれば、他の分野のロボット、各種のマニピュレーター、或はアクチュエータ等、特に限定されるものではない。また、医療用マニピュレーターの場合は、手術ロボットに取り付けない内視鏡カメラや手動鉗子等も含まれる。
【0103】
本実施例のロボット鉗子21は、シャフト23、関節機能部25、外科手術用のエンドエフェクタとしての把持ユニット27によって構成されている。
【0104】
シャフト23は、例えば円筒形状に形成されている。シャフト23内には、関節機能部25を駆動するための駆動ワイヤ29や把持ユニット27を駆動するためのプッシュプルケーブルからなる可撓部材3が通っている。シャフト23の先端側には、関節機能部25を介して把持ユニット27が設けられている。
【0105】
関節機能部25は、基部31と、可動部33と、可撓チューブ35と、屈曲構造体1とを備えている。
【0106】
基部31は、樹脂や金属等によって形成された円柱体であり、シャフト23の先端に取り付けられている。基部31には、貫通孔31aにより駆動ワイヤ29が軸方向に挿通し、軸心部の挿通孔31bにより可撓部材3を挿通している。
【0107】
可動部33は、樹脂や金属等によって形成された円柱体であり、後述する把持ユニット27に取り付けられている。可動部33には、駆動ワイヤ29の先端部が固定されている。このため、可動部33は、駆動ワイヤ29の操作により、基部31に対して変位し、把持ユニット27を所望の方向に指向させる。可動部33の軸心部には、挿通孔33bが設けられ、可撓部材3を挿通している。
【0108】
可撓チューブ35は、基部31と可動部33との間に介設され、基部31に対する可動部33の変位に応じて屈曲する。可撓チューブ35は、駆動ワイヤ29及び可撓部材3を軸方向に通している。
【0109】
本実施例の可撓チューブ35は、断面波形状の管体からなるベローズによって構成されている。ただし、可撓チューブ35は、コイルばね、筒体等を用いることも可能であり、可撓性を有するチューブ状を呈していれば、特に限定されるものではない。
【0110】
屈曲構造体1は、実施例1と同一構成である。この屈曲構造体1は、可撓チューブ35の軸心部に沿って配置され、基部31と可動部33との間に設けられている。なお、関節機能部25には、実施例2~5の何れかの屈曲構造体1を適用することも可能である。
【0111】
屈曲構造体1は、挿通部9に可撓部材3を挿通した状態で、両端が基部31及び可動部33の挿通孔31b及び33bにそれぞれ取り付けられている。これにより、屈曲構造体1は、基部31に対して可動部33を軸方向移動不能に支持し、基部31に対する可動部33の変位に応じて可撓部材3と共に屈曲するようになっている。
【0112】
把持ユニット27は、関節機能部25の可動部33に対し、一対の把持部37が開閉可能に軸支されている。この把持ユニット27は、関節機能部25を貫通した可撓部材3が接続され、可撓部材3の軸方向移動(進退動作)により、把持部37が開閉するように構成されている。なお、エンドエフェクタとしては、把持ユニット27に限られず、例えば、鋏、把持レトラクタ、及び針ドライバ等とすることも可能である。
【0113】
かかる構成のロボット鉗子21では、医師等の操作者が可撓部材3を進退させることにより把持ユニット27の把持部37に開閉動作を行わせることができる。
【0114】
また、操作者が何れか一つ或は複数の駆動ワイヤ29を引くことにより、関節機能部25が屈曲してシャフト23に対して把持ユニット27を所望の方向に指向させることができる。この状態で、可撓部材3を進退させれば、把持ユニット27の把持部37に開閉動作を行わせることができる。
【0115】
かかる開閉動作は、実施例1で説明したように、可撓部材3の移動量が一定であるため、安定して正確に行わせることができる。
【0116】
その他、本実施例では、実施例1と同様の作用効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0117】
1屈曲構造体 3可撓部材 5外コイル部 5a,7a線材 5b,7b巻部 5c隙間 7内コイル部 25関節機能部 27把持ユニット 31基部 33可動部 35可撓チューブ