(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】需要家の電力取引を制御する電力取引制御装置、プログラム及び方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/06 20120101AFI20220628BHJP
【FI】
G06Q50/06
(21)【出願番号】P 2019177863
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2021-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135068
【氏名又は名称】早原 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】前島 治
(72)【発明者】
【氏名】吉原 貴仁
【審査官】原 忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-127107(JP,A)
【文献】特開2012-165513(JP,A)
【文献】特開2012-060761(JP,A)
【文献】特開2016-217599(JP,A)
【文献】国際公開第2010/073310(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
需要家の充放電設備装置と送配電事業者の送配電設備装置との間で、需要家の電力取引を制御する電力取引制御装置において、
需要家の充放電設備装置それぞれについて、所定単位時間毎に、過去に電力取引を約定した約定電力量と、その電力取引を実施した実績電力量とを記録した充放電履歴データベースと、
需要家の充放電設備装置それぞれについて、所定期間の所定時間帯毎に、約定電力量に対する実績電力量の割合を、充放電確実度として算出する充放電確実度算出手段と、
電力取引の売買入札時に、約定すべき所定時間帯について、充放電確実度が低い需要家の入札ほど低い優先度となるように制御する約定制御手段と
を有することを特徴とする電力取引制御装置。
【請求項2】
充放電確実度算出手段は、所定時間帯毎に、約定電力量の総和に対する実績電力量の総和の割合を、充放電確実度として算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の電力取引制御装置。
【請求項3】
充放電履歴データベースは、所定単位時間毎に、約定電力量に対する実績電力量の割合を、時間実績率として更に記憶しており、
充放電確実度算出手段は、複数の連続する所定単位時間からなる所定期間毎に、複数の時間実績率から所定条件に基づく充放電確実度を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の電力取引制御装置。
【請求項4】
充放電確実度算出手段は、約定電力量、実績電力量及び充放電確実度を、充電と放電と別々に区分する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の電力取引制御装置。
【請求項5】
充放電確実度算出手段は、約定電力量、実績電力量及び充放電確実度を、平日と休日とに、曜日毎に、月毎に又は季節毎に別々に区分する
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の電力取引制御装置。
【請求項6】
売り手の需要家について、充放電設備装置の放電時に、
蓄電池の蓄電池残量が少ないために、約定電力量を放電できない実績が多いほど、
及び/又は、
移動可能な蓄電池の場合、蓄電池が切り離されているために、約定電力量を放電できない実績が多いほど、
充放電確実度算出手段は、充放電確実度を低く算出する
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の電力取引制御装置。
【請求項7】
買い手の需要家について、充放電設備装置の充電時に、
蓄電池の蓄電池残量が多すぎるために、約定電力量を充電できない実績が多いほど、
及び/又は、
移動可能な蓄電池の場合、蓄電池が切り離されているために、約定電力量を充電できない実績が多いほど、
充放電確実度算出手段は、充放電確実度を低く算出する
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の電力取引制御装置。
【請求項8】
約定制御手段は、
売り気配電力量と、売買価格及び/又は売買条件と、買い気配電力量とのザラ場寄せ方式の気配値板からなり、
売り手及び買い手の売買価格及び/又は売買条件が同一であっても、優先度が低い需要家の入札順序が遅くなるように制御する
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の電力取引制御装置。
【請求項9】
約定制御手段は、入札された売買電力量について、優先度が低い需要家の入札売買電力量を減少させるように制御する
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の電力取引制御装置。
【請求項10】
約定制御手段は、入札された売買電力量について、優先度が所定閾値以下となる需要家の入札を棄却するように制御する
ことを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の電力取引制御装置。
【請求項11】
移動可能な蓄電池が接続する需要家の充放電設備装置と送配電事業者の送配電設備装置との間で、需要家の電力取引を制御する電力取引制御装置において、
需要家の充放電設備装置それぞれについて、所定単位時間毎に、蓄電池の接続時間を記録した充放電履歴データベースと、
需要家の充放電設備装置それぞれについて、所定期間の所定時間帯毎に、蓄電池の接続時間の割合を、充放電確実度として算出する充放電確実度算出手段と、
電力取引の売買入札時に、約定すべき所定時間帯について、充放電確実度が低い需要家の入札ほど低い優先度となるように制御する約定制御手段と
を有することを特徴とする電力取引制御装置。
【請求項12】
移動可能な蓄電池は、電気自動車である
ことを特徴とする請求項11に記載の電力取引制御装置。
【請求項13】
需要家の充放電設備装置は、電力網と、HEMS(Home Energy Management System)ゲートウェイ及び/又はホームゲートウェイを介した通信網とに接続されており、
需要家のHEMSゲートウェイは、通信網を介して電力取引制御装置に対して入札情報を送信すると共に約定情報を受信し、約定情報に応じて、電力網を介して送配電設備装置との間で電力を送電又は受電することを充放電設備装置に指示する
ことを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載の電力取引制御装置。
【請求項14】
需要家の充放電設備装置と送配電事業者の送配電設備装置との間で、需要家の電力取引を制御する電力取引制御装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムにおいて、
需要家の充放電設備装置それぞれについて、所定単位時間毎に、過去に電力取引を約定した約定電力量と、その電力取引を実施した実績電力量とを記録した充放電履歴データベースと、
需要家の充放電設備装置それぞれについて、所定期間の所定時間帯毎に、約定電力量に対する実績電力量の割合を、充放電確実度として算出する充放電確実度算出手段と、
電力取引の売買入札時に、約定すべき所定時間帯について、充放電確実度が低い需要家の入札ほど低い優先度となるように制御する約定制御手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項15】
移動可能な蓄電池が接続する需要家の充放電設備装置と送配電事業者の送配電設備装置との間で、需要家の電力取引を制御する電力取引制御装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムにおいて、
需要家の充放電設備装置それぞれについて、所定単位時間毎に、蓄電池の接続時間を記録した充放電履歴データベースと、
需要家の充放電設備装置それぞれについて、所定期間の所定時間帯毎に、蓄電池の接続時間の割合を、充放電確実度として算出する充放電確実度算出手段と、
電力取引の売買入札時に、約定すべき所定時間帯について、充放電確実度が低い需要家の入札ほど低い優先度となるように制御する約定制御手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項16】
需要家の充放電設備装置と送配電事業者の送配電設備装置との間で、需要家の電力取引を制御する装置の電力取引制御方法において、
装置は、
需要家の充放電設備装置それぞれについて、所定単位時間毎に、過去に電力取引を約定した約定電力量と、その電力取引を実施した実績電力量とを記録した充放電履歴データベースを有し、
需要家の充放電設備装置それぞれについて、所定期間の所定時間帯毎に、約定電力量に対する実績電力量の割合を、充放電確実度として算出する第1のステップと、
電力取引の売買入札時に、約定すべき所定時間帯について、充放電確実度が低い需要家の入札ほど低い優先度となるように制御する第2のステップと
を実行することを特徴とする電力取引制御方法。
【請求項17】
移動可能な蓄電池が接続する需要家の充放電設備装置と送配電事業者の送配電設備装置との間で、需要家の電力取引を制御する装置の電力取引制御方法において、
装置は、
需要家の充放電設備装置それぞれについて、所定単位時間毎に、蓄電池の接続時間を記録した充放電履歴データベースを有し、
需要家の充放電設備装置それぞれについて、所定期間の所定時間帯毎に、蓄電池の接続時間の割合を、充放電確実度として算出する第1のステップと、
電力取引の売買入札時に、約定すべき所定時間帯について、充放電確実度が低い需要家の入札ほど低い優先度となるように制御する第2のステップと
を実行することを特徴とする電力取引制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、需要家の電力取引を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
小売電気事業者は、事前に計画した需要に応じた電力を、市場から調達する。小売電気事業者としては、発電事業者から調達した電力を、一般家庭のような需要家へ供給する。そのために、小売電気事業者は、多数の需要家における需要電力量を予測して、販売する電力の量(需要計画)とその電力の調達先(調達計画)とを計画する必要があった。
一方で、近年、一般家庭にも、太陽光発電設備が設置されてきている。この場合、一般家庭のような需要家も、電力市場からの買電だけでなく、売電にも参加できるようになってきている。
電力は、大量に蓄電できないために、「送電元及び受電先」と「時間帯」とを、予め計画しておく必要がある。電力を安定的に供給するためには、需給バランス(需要と供給)を常に一致させる必要がある。需要家内の電力設備装置から電力系統へ放電する場合も、その電力量や時間帯を、需要家と小売電気事業者との間で事前に計画しておく必要がある。
【0003】
従来、電力系統に含まれる複数の電力資源を、分散配置された複数の制御装置によって制御する技術がある(例えば特許文献1参照)。この技術によれば、各電力資源の単独動作(自家利用)を許容しながら、通信や電力資源の動作の不確実度を考慮しつつ、電力資源の制御の信頼性を向上させる必要がある。ここで、電力資源とは、例えば水力発電、火力発電、原子力発電、蓄電池、太陽光発電、風力発電、地熱発電や、家、ビル、工場等の電力負荷や、プロシューマ(電源と負荷の両方の性質を有する電力資源)などがある。この技術によれば、電力資源を、中央装置から制御する動作指令対象群と、制御しない予備群とに分けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
小売電気事業者としては、送電元及び受電先と時間帯とに基づく計画通りに、電力系統を介した送電及び受電がなされることを期待する。それによって、需給バランスを一致させることができる。
そのために、小売電気事業者は、事前の計画と実際の需要実績との差分(インバランス)ができる限り小さくなるように、需要家の責任ある電力売買の下で約定させる必要がある。
【0006】
しかしながら、需要家の宅内に配置された蓄電池は、「自家利用による不確実度」という問題がある。
蓄電池の電力の自家利用によって蓄電池残量が減少し、予め計画された電力量を電力系統へ放電できない場合がある。また、蓄電池に加えて太陽光発電システムも保有する需要家の場合、天候によっては十分な電力量を、蓄電池に蓄電できず、予め計画された電力量を電力系統へ放電できない場合もある。
【0007】
また、需要家宅内に配置される蓄電池として、電気自動車に搭載された蓄電池を利用することが期待されている。
しかしながら、電気自動車は移動可能なものであるために、予め計画された放電又は充電の時間に、電気自動車が需要家宅の充放電設備装置に接続されていない場合もあり得る。また、電気自動車の電力も、走行利用や自家利用されるものであるので、計画通りの電力量が蓄電されていない場合もある。
【0008】
このように、小売電気事業者からみた需要家の電力取引は、需要家が計画通りに充放電しないことによって、電力系統の需給バランスに影響を与えてしまう。需給バランスが崩れると、周波数が乱れ、最悪の場合には大停電につながりかねない。
【0009】
そこで、本発明は、小売電気事業者からみて、電力の需給バランスにできる限り影響を与えないように、需要家の電力取引を約定させる電力取引制御装置、プログラム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、需要家の充放電設備装置と送配電事業者の送配電設備装置との間で、需要家の電力取引を制御する電力取引制御装置において、
需要家の充放電設備装置それぞれについて、所定単位時間毎に、過去に電力取引を約定した約定電力量と、その電力取引を実施した実績電力量とを記録した充放電履歴データベースと、
需要家の充放電設備装置それぞれについて、所定期間の所定時間帯毎に、約定電力量に対する実績電力量の割合を、充放電確実度として算出する充放電確実度算出手段と、
電力取引の売買入札時に、約定すべき所定時間帯について、充放電確実度が低い需要家の入札ほど低い優先度となるように制御する約定制御手段と
を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の電力取引制御装置における他の実施形態によれば、
充放電確実度算出手段は、所定時間帯毎に、約定電力量の総和に対する実績電力量の総和の割合を、充放電確実度として算出することも好ましい。
【0012】
本発明の電力取引制御装置における他の実施形態によれば、
充放電履歴データベースは、所定単位時間毎に、約定電力量に対する実績電力量の割合を、時間実績率として更に記憶しており、
充放電確実度算出手段は、複数の連続する所定単位時間からなる所定期間毎に、複数の時間実績率から所定条件に基づく充放電確実度を算出することも好ましい。
【0013】
本発明の電力取引制御装置における他の実施形態によれば、
充放電確実度算出手段は、約定電力量、実績電力量及び充放電確実度を、充電と放電と別々に区分することも好ましい。
【0014】
本発明の電力取引制御装置における他の実施形態によれば、
充放電確実度算出手段は、約定電力量、実績電力量及び充放電確実度を、平日と休日とに、曜日毎に、月毎に又は季節毎に別々に区分することも好ましい。
【0015】
本発明の電力取引制御装置における他の実施形態によれば、
売り手の需要家について、充放電設備装置の放電時に、
蓄電池の蓄電池残量が少ないために、約定電力量を放電できない実績が多いほど、
及び/又は、
移動可能な蓄電池の場合、蓄電池が切り離されているために、約定電力量を放電できない実績が多いほど、
充放電確実度算出手段は、充放電確実度を低く算出することも好ましい。
【0016】
本発明の電力取引制御装置における他の実施形態によれば、
買い手の需要家について、充放電設備装置の充電時に、
蓄電池の蓄電池残量が多すぎるために、約定電力量を充電できない実績が多いほど、
及び/又は、
移動可能な蓄電池の場合、蓄電池が切り離されているために、約定電力量を充電できない実績が多いほど、
充放電確実度算出手段は、充放電確実度を低く算出することも好ましい。
【0017】
本発明の電力取引制御装置における他の実施形態によれば、
約定制御手段は、
売り気配電力量と、売買価格及び/又は売買条件と、買い気配電力量とのザラ場寄せ方式の気配値板からなり、
売り手及び買い手の売買価格及び/又は売買条件が同一であっても、優先度が低い需要家の入札順序が遅くなるように制御することも好ましい。
【0018】
本発明の電力取引制御装置における他の実施形態によれば、
約定制御手段は、入札された売買電力量について、優先度が低い需要家の入札売買電力量を減少させるように制御することも好ましい。
【0019】
本発明の電力取引制御装置における他の実施形態によれば、
約定制御手段は、入札された売買電力量について、優先度が所定閾値以下となる需要家の入札を棄却するように制御することも好ましい。
【0020】
本発明によれば、移動可能な蓄電池が接続する需要家の充放電設備装置と送配電事業者の送配電設備装置との間で、需要家の電力取引を制御する電力取引制御装置において、
需要家の充放電設備装置それぞれについて、所定単位時間毎に、蓄電池の接続時間を記録した充放電履歴データベースと、
需要家の充放電設備装置それぞれについて、所定期間の所定時間帯毎に、蓄電池の接続時間の割合を、充放電確実度として算出する充放電確実度算出手段と、
電力取引の売買入札時に、約定すべき所定時間帯について、充放電確実度が低い需要家の入札ほど低い優先度となるように制御する約定制御手段と
を有することを特徴とする。
【0021】
本発明の電力取引制御装置における他の実施形態によれば、移動可能な蓄電池は、電気自動車であってもよい。
【0022】
本発明の電力取引制御装置における他の実施形態によれば、
需要家の充放電設備装置は、電力網と、HEMS(Home Energy Management System)ゲートウェイ及び/又はホームゲートウェイを介した通信網とに接続されており、
需要家のHEMSゲートウェイは、通信網を介して電力取引制御装置に対して入札情報を送信すると共に約定情報を受信し、約定情報に応じて、電力網を介して送配電設備装置との間で電力を送電又は受電することを充放電設備装置に指示することも好ましい。
【0023】
本発明によれば、需要家の充放電設備装置と送配電事業者の送配電設備装置との間で、需要家の電力取引を制御する電力取引制御装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムにおいて、
需要家の充放電設備装置それぞれについて、所定単位時間毎に、過去に電力取引を約定した約定電力量と、その電力取引を実施した実績電力量とを記録した充放電履歴データベースと、
需要家の充放電設備装置それぞれについて、所定期間の所定時間帯毎に、約定電力量に対する実績電力量の割合を、充放電確実度として算出する充放電確実度算出手段と、
電力取引の売買入札時に、約定すべき所定時間帯について、充放電確実度が低い需要家の入札ほど低い優先度となるように制御する約定制御手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする。
【0024】
本発明によれば、移動可能な蓄電池が接続する需要家の充放電設備装置と送配電事業者の送配電設備装置との間で、需要家の電力取引を制御する電力取引制御装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムにおいて、
需要家の充放電設備装置それぞれについて、所定単位時間毎に、蓄電池の接続時間を記録した充放電履歴データベースと、
需要家の充放電設備装置それぞれについて、所定期間の所定時間帯毎に、蓄電池の接続時間の割合を、充放電確実度として算出する充放電確実度算出手段と、
電力取引の売買入札時に、約定すべき所定時間帯について、充放電確実度が低い需要家の入札ほど低い優先度となるように制御する約定制御手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする。
【0025】
本発明によれば、需要家の充放電設備装置と送配電事業者の送配電設備装置との間で、需要家の電力取引を制御する装置の電力取引制御方法において、
装置は、
需要家の充放電設備装置それぞれについて、所定単位時間毎に、過去に電力取引を約定した約定電力量と、その電力取引を実施した実績電力量とを記録した充放電履歴データベースを有し、
需要家の充放電設備装置それぞれについて、所定期間の所定時間帯毎に、約定電力量に対する実績電力量の割合を、充放電確実度として算出する第1のステップと、
電力取引の売買入札時に、約定すべき所定時間帯について、充放電確実度が低い需要家の入札ほど低い優先度となるように制御する第2のステップと
を実行することを特徴とする。
【0026】
本発明によれば、移動可能な蓄電池が接続する需要家の充放電設備装置と送配電事業者の送配電設備装置との間で、需要家の電力取引を制御する装置の電力取引制御方法において、
装置は、
需要家の充放電設備装置それぞれについて、所定単位時間毎に、蓄電池の接続時間を記録した充放電履歴データベースを有し、
需要家の充放電設備装置それぞれについて、所定期間の所定時間帯毎に、蓄電池の接続時間の割合を、充放電確実度として算出する第1のステップと、
電力取引の売買入札時に、約定すべき所定時間帯について、充放電確実度が低い需要家の入札ほど低い優先度となるように制御する第2のステップと
を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明の電力取引制御装置、プログラム及び方法によれば、小売電気事業者からみて、電力の需給バランスにできる限り影響を与えないように、需要家の電力取引を約定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図3】本発明における電力取引制御装置の機能構成図である。
【
図4】充放電履歴データベースの第1のデータ構成を表す説明図である。
【
図5】充放電履歴データベースの第2のデータ構成を表す説明図である。
【
図6】充放電確実度算出部のデータ構成を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0030】
【0031】
図1によれば、各需要家の宅内に配置された需要家設備装置2は、電力網と通信網とに接続されている。
需要家設備装置2は、通信網を介して電力取引制御装置1に対して、他の需要家に対する電力売買について入札する。また、需要家設備装置2は、約定された電力取引について、送配電設備装置3によって管理される電力網を介して、他の需要家設備装置との間で電力を送電又は受電する。
【0032】
電力取引制御装置1は、通信網を介して需要家設備装置2から入札された電力取引を約定し、その情報を、小売電気事業者システムを介して送配電設備装置3へ送信する。
送配電設備装置3は、約定された電力取引情報に応じて、需要家同士の間の電力系統を制御する。
【0033】
【0034】
需要家設備装置2は、各需要家宅内に配置されている。
図2によれば、需要家設備装置2は、充放電設備装置21と、HEMS(Home Energy Management System)ゲートウェイ22と、ホームゲートウェイ23とから構成されている。
【0035】
[充放電設備装置21]
充放電設備装置21は、電力網に接続され、送配電設備装置3の電力系統の制御に応じて電力を送電又は受電する。これは、電力網における交流の電気と、需要家宅内に配置された蓄電池における直流の電気とを変換する機能を有し、一般に「パワーコンディショナー」と称される。
充放電設備装置21は、電力取引制御装置1から、通信網(ホームゲートウェイ23)を介してHEMSゲートウェイ22が受信する電力取引の約定情報に基づき、HEMSゲートウェイ22からの指示を受けて蓄電池を充放電させ、電力網を介して送配電設備装置3との間で電力を送電又は受電する。
【0036】
また、充放電設備装置21は、需要家宅内に配置された蓄電池に接続する。蓄電池としては、宅内に配置された家庭用蓄電池25であってもよいし、自宅に駐車された電気自動車26の蓄電池であってもよい。充放電設備装置21は、電気自動車26に対して充放電スタンドとして機能する。
【0037】
[ホームゲートウェイ23]
ホームゲートウェイ23は、通信網への接続手段を有するもので、これを経由してユーザが所持する携帯端末24やHEMSゲートウェイ22は電力取引制御装置1と通信する。
【0038】
[HEMSゲートウェイ22]
HEMSゲートウェイ22は、ホームゲートウェイ23を介して携帯端末24及び通信網と接続され、携帯端末24から登録された入札に関わる需要家の戦略や志向に基づき、入札情報を、通信網を介して電力取引制御装置1へ送信する。
売電の場合、HEMSゲートウェイ22は、放電時刻(放電時間帯)と放電電力量とを、入札情報として、電力取引制御装置1へ送信する。
買電の場合、HEMSゲートウェイ22は、充電時刻(充電時間帯)と充電電力量とを入札情報として、電力取引制御装置1へ送信する。あるいは、入札対象の時間において宅内で消費されると予想する電力量を買電の入札対象の電力量としてもよい。
HEMSゲートウェイ22は、ホームゲートウェイ23を介して、電力取引制御装置1から送信された電力取引の約定情報を受信し、約定内容に応じて、需要家宅内に配置された蓄電池の充放電の指示を、充放電設備装置21へ送信する。
また、HEMSゲートウェイ22は、充放電設備装置21から蓄電池状態情報を取得し、電力取引制御装置1へ送信するものであってもよい。具体的には、例えばECHONET Liteプロトコルに基づいて充放電設備装置21から蓄電池状態情報を取得する。ここで、蓄電池状態情報としては、蓄電池動作(充電/放電)や、蓄電池残量、放電電力や充電電力の実績量などの情報を含む。
さらに、HEMSゲートウェイ22は、携帯端末24からの要求に応じて、HEMSゲートウェイが取得した蓄電池状態情報や入札履歴を携帯端末24へ送信するものであってもよい。
【0039】
[携帯端末24]
携帯端末24は、需要家のユーザによって所持されたスマートフォンであって、ホームゲートウェイ23を介してHEMSゲートウェイと接続し、当該需要家の入札に関わる戦略や志向をHEMSゲートウェイへ登録する。
また、携帯端末24は、ホームゲートウェイ23を介して通信網に接続(又は直接的に通信網に接続)し、電力取引制御装置1へ、ユーザ操作に基づく入札情報を送信するものであってもよい。
売電の場合、携帯端末24は、放電時刻(放電時間帯)と放電電力量とを、入札情報として、電力取引制御装置1へ送信する。
買電の場合、携帯端末24は、充電時刻(充電時間帯)と充電電力量とを、入札情報として、電力取引制御装置1へ送信する。
また、携帯端末24は、電力取引制御装置1から受信する電力取引の約定情報や、HEMSゲートウェイ22が収集した蓄電池状態情報や入札履歴をHEMSゲートウェイ22から取得し、ユーザに明示する。
【0040】
図3は、本発明における電力取引制御装置の機能構成図である。
【0041】
図3によれば、電力取引制御装置1は、需要家の充放電設備装置21と、送配電事業者の送配電設備装置3との間における電力取引を制御する。
電力取引制御装置1は、充放電履歴データベース10と、充放電確実度算出部11と、約定制御部12とを有する。これら機能構成部は、装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムを実行することによって実現される。また、これら機能構成部の処理の流れは、装置の電力取引制御方法としても理解できる。
【0042】
[充放電履歴データベース10]
充放電履歴データベース10は、需要家の充放電設備装置21それぞれについて、所定単位時間(例えば30分)毎に、過去に電力取引を約定した「約定電力量」と、その電力取引を実施した「実績電力量」とを記録したものである。
【0043】
図4は、充放電履歴データベースの第1のデータ構成を表す説明図である。
【0044】
図4によれば、以下の情報が記録されている。
需要家ID: 需要家(世帯)毎の識別子
蓄電池ID: 需要家が保有する蓄電池毎の識別子
(世帯毎の複数の蓄電池も識別)
単位時間: 約定された蓄電池の動作実績を評価する時間
(例えばJEPX運営の既存の電力市場における取引単位(30分))
蓄電池動作: 放電/充電/待機のいずれかの状態
蓄電池残量割合: 当該単位時間の動作を経た終了時における蓄電池残量
蓄電池残量割合(%)=蓄電池残量/蓄電池容量
約定量: 約定された電力取引の電力量
実績量: 実際に充放電された電力量
時間実績率: 約定量に対する実績量の割合
自家利用実績量: 自家利用によって充放電した実績量
尚、蓄電池IDは、電源種別として、電気自動車、定置用蓄電池、太陽光発電などが識別できるものであってもよい。
【0045】
第1のデータ構成によれば、蓄電池は、家庭用蓄電池であってもよいし、電気自動車の蓄電池であってもよい。
これに対し、蓄電池が電気自動車のように移動可能なものである場合、充放電履歴データベース10は、最も簡易に、需要家の需要家設備装置2それぞれについて、所定単位時間毎に、蓄電池の充放電設備装置との接続時間のみを記録したものであってもよい。
【0046】
図5は、充放電履歴データベースの第2のデータ構成を表す説明図である。
【0047】
図5によれば、以下の情報が記録されている。尚、需要家ID、蓄電池ID、単位時間、蓄電池動作は、
図4と同様である。
蓄電池接続切断時刻: 蓄電池が充放電設備装置に接続及び切断された時刻。
接続されているか否かは、HEMSゲートウェイと充放電設備
装置との間のECHONET Liteによる通信で検知可能
(複数の接続/切断が記録されていてもよい)
接続時間率: 当該単位時間に対する接続時間の割合
接続時間率(%)=接続時間/単位時間
【0048】
第2のデータ構成によれば、電気自動車の接続実績と、蓄電池の充放電実績とに正の相関があるものとする。少なくとも、電気自動車が接続されていなければ、充電も放電もできない。また、電気自動車の切断(自宅からの移動)は、その需要家が約定した電力取引を、最も簡易にキャンセルする行為となる。
【0049】
図4の第1のデータ構成と、
図5のデータ構成とを別々に表現しているが、電力取引の約定量に対する実績量の割合と、蓄電池の充放電設備装置との接続時間率との両方から、所定条件(例えば加重平均)に基づく時間実績率を算出するものであってもよい。
【0050】
[充放電確実度算出部11]
充放電確実度算出部11は、入札前に、約定通り電力取引が実施されるであろう「充放電確実度」を、所定時間帯毎に推定するものである。
充放電確実度算出部11は、需要家の充放電設備装置それぞれについて、所定期間(1日)の所定時間帯(30分)毎に、「充放電確実度」を算出する。
所定時間帯は、1日(所定期間)あたり30分時間コマの48個で表される。
【0051】
(1)売り手の需要家について、充放電設備装置の放電時に、充放電確実度算出部11は、以下の傾向が強いほど、充放電確実度を低く算出する。
蓄電池の蓄電池残量が少ないために、約定電力量を放電できない実績が多い
及び/又は、
移動可能な蓄電池の場合、蓄電池が切り離されているために、約定電力量を放電できない実績が多い
(2)買い手の需要家について、充放電設備装置の充電時に、充放電確実度算出部11は、以下の傾向が強いほど、充放電確実度を低く算出する。
蓄電池の蓄電池残量が多すぎるために、約定電力量を充電できない実績が多い
及び/又は、
移動可能な蓄電池の場合、蓄電池が切り離されているために、約定電力量を充電できない実績が多い
【0052】
図6は、充放電確実度算出部のデータ構成を表す説明図である。
【0053】
図6によれば、所定期間の所定時間帯毎に、以下の情報が記録されている。尚、需要家ID、蓄電池IDは、
図4と同様である。
期間種別: 平日/休日
蓄電池動作: 充電/放電
充放電確実度: 過去の電力取引実績や充放電設備装置との接続実績を基に、
約定通り電力取引が実施される確率の推定値
充放電確実度算出部11は、約定電力量、実績電力量及び充放電確実度を、充電/放電と別々に区分している。また、約定電力量、実績電力量及び充放電確実度を、平日と休日に限らず、曜日毎に、月毎に又は季節毎に別々に区分したものであってもよい。
【0054】
充放電確実度の算出方法としては、以下のような様々な実施形態を適用することができる。例えば1ヶ月間(又は直近過去N日)について、平日(22日)と休日(8日)とに区分する。
(1)時間帯(30分コマ)毎に、約定電力量の総和に対する実績電力量の総和の割合を算出する(充放電確実度=Σ実績電力量/Σ約定電力量)
(2)時間帯毎に、過去の時間実績率及び/又は接続時間率の平均値を算出する。
(3)充放電確実度、時間実積率、接続時間率、時間帯、曜日、蓄電池残量割合、宅内消費電力量などを含む過去のデータを教師データとして、機械学習により、未来の時間帯毎の充放電確実度を予測するモデルを構築する。入札の約定処理を実行する時点までの過去のデータを当該予測モデルに入力し、電力取引対象の時間帯における充放電確実度の予測値を出力する。
(4)移動可能な蓄電池に対して、充放電設備装置との接続時間率と、電力取引の約定量に対する実績量の割合である時間実積率とを用いて算出する。例えば、接続時間率と時間実積率の乗算であってもよいし、接続時間率と時間実績率の加重平均であってもよい。
【0055】
[約定制御部12]
約定制御部12は、約定時に、「充放電確実度」が低い需要家の入札を、不利に操作する。
約定制御部12は、需要家の携帯端末から、電力取引の売買に基づく入札情報を受信する。入札情報には、例えば以下の情報が含まれる。
需要家ID: 需要家(世帯)毎の識別子
蓄電池ID: 需要家が保有する蓄電池毎の識別子(世帯毎の複数の蓄電池も識別)
取引種別: 売電/買電
日付時間帯(30分単位): 電力取引の対象とする日付時間帯
電力量: 例えば2kWh
入札価格: 例えば20.0円
尚、蓄電池IDは、電源種別として、電気自動車、定置用蓄電池、太陽光発電などが識別できるものであってもよい。
【0056】
約定制御部12は、売電入札と買電入札とを約定させるために、ザラ場寄せ方式の気配値板を用いる。これは、売り気配電力量と、売買価格及び/又は売買条件と、買い気配電力量とを並べたものである。
【0057】
【0058】
図7によれば、ザラ場寄せ方式の気配値板であって、オークション方式である。入札された売買注文を、「板」及び「気配値」によって表示する。そして、買い注文及び売り注文の価格や電力量が合致する毎に、電力取引を約定させる。
【0059】
図7によれば、需要家Aが、以下のような売電の入札情報を送信している。
需要家ID: 1001
蓄電池ID: 1001-1
取引種別: 売電
日付時間帯: 2019/7/1 18:00~18:30
電力量: 1kWh
入札価格:20.5円
一方で、需要家Cは、以下のような買電の入札情報を送信している。
需要家ID: 1003
蓄電池ID: 1003-1
取引種別: 買電
日付時間帯: 2019/7/1 18:00~18:30
電力量: 2kWh
入札価格: 20.0円
需要家Aの売り注文と、需要家Cの買い注文とは、18:00~18:30の板に反映される。
【0060】
【0061】
図8によれば、
図7の気配値板のとき、需要家Bが、以下のような売電の入札情報を送信したとする。
需要家ID: 1002
蓄電池ID: 1002-1
取引種別: 売電
日付時間帯: 2019/7/1 18:00~18:30
電力量: 1kWh
入札価格: 20.0円
【0062】
ここで、需要家B及び需要家Cは、充放電確実度が比較的高い需要家の入札であるとする。この場合、約定の成立を不利に操作することはない。
図8によれば、需要家Bの売り注文の入札価格は、需要家Cの買い注文の入札価格と同じになっている。このとき、「18:00~18:30に、需要家Bから需要家Cへ、電力量1kWhを、価格20円で売買する」とする約定を成立させる。
約定制御部12は、この約定情報を、需要家B及び需要家Cの需要家設備装置2へ送信すると共に、小売電気事業者システムを介して送配電設備装置3へ送信する。
これによって、18:00~18:30に、送配電設備装置3は、需要家Bから需要家Cへ、電力量1kWhを供給するように、電力系統を制御する。また、18:00~18:30に、需要家Cは、電力量1kWhを受電する。
【0063】
本発明によれば、約定制御部12は、電力取引の売買入札時に、約定すべき所定時間帯について、充放電確実度が低い需要家の入札ほど低い優先度となるように制御する。例えば充放電確実度が所定率以下である場合、以下のように約定を制御する。
【0064】
(1)売り注文と買い注文との入札価格が同じであっても、充放電確実度が低い需要家ほど入札順序が遅くなるように後方に並べる。一般的なザラ場寄せ方式では、注文順に約定処理が実行されるが、本発明によれば、充放電確実度が低い需要家が約定しにくく不利になるように、なるべく遅い順に約定処理を実行する。
このとき、充放電確実度が低い需要家ほど所定時間だけ、約定処理を時間的に遅くするものであってもよい。一般的なザラ場寄せ方式では、注文順にリアルタイムに約定処理が実行されるが、本発明によれば、充放電確実度が低い需要家が約定しにくく不利になるように、約定処理を遅延させる。
(2)充放電確実度が低い需要家が所望する売買の電力量を、所定条件で減少するように、入札情報を操作する。一般的なザラ場寄せ方式では、入札情報を操作することはあり得ないが、本発明によれば、充放電確実度が低い需要家は、少ない電力量の約定しか認めないようにする。
(3)充放電確実度が所定閾値以下となる需要家からの入札情報を棄却する。一般的なザラ場寄せ方式では、入札情報を棄却することはあり得ないが、本発明によれば、充放電確実度が所定閾値以下となる需要家には、入札を認めないようにする。
【0065】
以上、詳細に説明したように、本発明の電力取引制御装置、プログラム及び方法によれば、小売電気事業者からみて、電力の需給バランスにできる限り影響を与えないように、需要家の電力取引を約定させることができる。
【0066】
前述した本発明の種々の実施形態について、本発明の技術思想及び見地の範囲の種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。
【符号の説明】
【0067】
1 電力取引制御装置
10 充放電履歴データベース
11 充放電確実度算出部
12 約定制御部
2 需要家設備装置
21 充放電設備装置
22 HEMSゲートウェイ
23 ホームゲートウェイ
24 携帯端末
25 家庭用蓄電池
26 電気自動車
3 送配電設備装置