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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】送風ダクト
(51)【国際特許分類】
   F24F 13/02 20060101AFI20220628BHJP
   D01F 6/62 20060101ALI20220628BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20220628BHJP
   D06M 15/564 20060101ALI20220628BHJP
   D06M 15/643 20060101ALI20220628BHJP
   D06M 15/248 20060101ALI20220628BHJP
   D06M 13/298 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
F24F13/02 E
F24F13/02 F
F24F13/02 Z
D01F6/62 302A
D01F6/62 306C
D03D1/00 Z
D06M15/564
D06M15/643
D06M15/248
D06M13/298
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020047492
(22)【出願日】2020-03-18
(65)【公開番号】P2021148345
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2020-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】特許業務法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】井上 誓吾
【審査官】杉山 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-004179(JP,A)
【文献】特表2019-513847(JP,A)
【文献】特開2018-138451(JP,A)
【文献】国際公開第2013/137263(WO,A1)
【文献】特開平04-232043(JP,A)
【文献】特開2005-291613(JP,A)
【文献】特開平10-160231(JP,A)
【文献】特開2002-309007(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0030176(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 13/02
D01F 6/62
D03D 1/00
D06M 15/564
D06M 15/643
D06M 15/248
D06M 13/298
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系繊維で形成された布帛を含むシート材により構成された送風ダクトであって、
前記送風ダクトは、内部への空気の供給によって筒状に膨らむように構成され、
前記シート材は、前記布帛に樹脂が被覆されることにより構成され、且つ、前記送風ダクトの内部に供給された空気を外部に吐出するための複数の通気孔が形成されており、
前記ポリエステル系繊維の固有粘度が、0.70dl/g以上であり、
前記ポリエステル系繊維の繊度が、0.5dtex以上3.5dtex以下であり、
前記布帛を構成する糸は、引張強さが4cN/dtex以上10cN/dtex以下であり、引張伸度が10%以上である、送風ダクト。
【請求項2】
前記ポリエステル系繊維が、ポリエチレンテレフタレート系繊維である、請求項1に記載の送風ダクト。
【請求項3】
前記シート材の目付が、20g/m以上100g/m以下である、請求項1又は2に記載の送風ダクト。
【請求項4】
前記シート材は、厚みに対する引張強さとして示される引張強度が80MPa以上である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の送風ダクト。
【請求項5】
前記シート材の厚みが、0.05~0.25mmである、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の送風ダクト。
【請求項6】
前記樹脂が難燃剤を含有している、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の送風ダクト。
【請求項7】
構造物の天井に吊り下げるためのワイヤーを挿入するための挿入口が形成されている、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の送風ダクト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送風ダクトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空調設備から排出される空気を拡散させるために、送風ダクトが用いられている。送風ダクトは、通常、内部に空気を導入するために筒状に形成されたダクト本体と、前記ダクト本体に供給された空気を吐出するための吐出部とを備えており、空調設備の空気排出部に前記ダクト本体の一端部が接続されて用いられる。
【0003】
上記のような送風ダクトとしては、施工性を向上させるために軽量化されたものが提案されている。例えば、特許文献1には、合成繊維などの繊維素材により形成された円筒状のダクト本体を備えた送風ダクトが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-96086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、送風ダクトは、イベント会場の仮設テントや仮設建築物などに一時的に設置されて用いられる場合がある。このような用途の送風ダクトは、施工性の向上のほか、仮設建築物などに対する負荷の低減や、輸送費の低減などのために、さらなる軽量化が求められている。しかしながら、軽量化にともない、送風ダクトの強度が不十分になるという問題点がある。また、強度が低下すると破損し易くなるため、かえって施工性が低下するといった問題点もある。
【0006】
上記問題点に鑑み、本発明は、比較的軽量でありながら優れた強度を有し、破損しにくい送風ダクトを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る送風ダクトは、
ポリエステル系繊維で形成された布帛を含むシート材により構成された送風ダクトであって、
前記シート材は、前記布帛に樹脂が被覆されることにより構成されており、
前記ポリエステル系繊維の固有粘度が、0.70dl/g以上であり、
前記ポリエステル系繊維の繊度が、0.5dtex以上3.5dtex以下であり、
前記布帛を構成する糸は、引張強さが4cN/dtex以上10cN/dtex以下であり、引張伸度が10%以上である。
【0008】
斯かる構成によれば、ポリエステル系繊維の固有粘度が0.70dl/g以上であることによって、該繊維を構成する樹脂の重合度が比較的高く、該繊維の強度を比較的高くすることが可能となるため、該繊維により形成された布帛の強度も比較的高いものとなる。また、該繊維の繊度が0.5dtex以上3.5dtex以下であることによって、布帛の目付を小さくすることが比較的容易となり、すなわち、布帛を軽量にすることが容易となる。よって、該繊維で形成された布帛は、目付が小さく軽量でありながら、比較的強度に優れたものとなる。
また、布帛を構成する糸の引張強さが4cN/dtex以上10cN/dtex以下であることによって、布帛の強度が比較的優れたものとなる。
さらに、布帛を構成する糸の引張伸度が10%以上であることによって、急な風圧を受けた場合や、施工時に急な引っ張りを加えられた場合などに、布帛が伸びてこれらに起因する力を吸収し得るため、送風ダクトの破損が抑制される。
従って、該布帛により構成された送風ダクトは、比較的軽量でありながら優れた強度を有し、破損しにくいものとなる。
【0009】
また、前記送風ダクトは、好ましくは、
前記ポリエステル系繊維が、ポリエチレンテレフタレート系繊維である。
【0010】
斯かる構成によれば、ポリエステル系繊維がポリエチレンテレフタレート系繊維であることによって、シート材がより軽量で優れた強度を有し、破損しにくいものとなる。
【0011】
前記送風ダクトは、好ましくは、
前記シート材の目付が、20g/m以上100g/m以下である。
【0012】
斯かる構成によれば、シート材の目付が20g/m以上100g/m以下であることによって、さらに軽量で且つ優れた強度を有するものとなる。
【0013】
前記送風ダクトは、好ましくは、
前記シート材は、厚みに対する引張強さとして示される引張強度が80MPa以上である。
【0014】
斯かる構成によれば、シート材の引張強度が80MPa以上であることによって、空調設備からの風圧や施工時の引っ張りなどの物理的に加わる力による破損が抑制される。
【0015】
前記送風ダクトは、好ましくは、
前記シート材の厚みが、0.05~0.25mmである。
【0016】
斯かる構成によれば、シート材の厚みが0.05~0.25mmという比較的小さい値であることによって、取り扱い易いものとなる。例えば、未使用時に折り畳み易いものとなり、これによって、コンパクトな収納や保管が可能となり、輸送が効率的となる。
【0017】
前記送風ダクトは、好ましくは、
前記樹脂が難燃剤を含有している。
【0018】
斯かる構成によれば、樹脂が難燃剤を含有していることによって、布帛が難燃性に優れたものとなり、火災時の延焼などの被害が抑制される。
【0019】
前記送風ダクトは、好ましくは、
構造物の天井に吊り下げるためのワイヤーを挿入するための挿入口が形成されている。
【0020】
斯かる構成によれば、ワイヤーを挿入するための挿入口が形成されていることによって、仮設建築物などの構造物の天井に容易に吊り下げることが可能となるため、施工性がより向上する。
【発明の効果】
【0021】
以上の通り、本発明によれば、比較的軽量でありながら優れた強度を有し、破損しにくい送風ダクトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、一実施形態に係る送風ダクトが仮設建築物内に設置された状態を示す図である。
図2図2は、図1におけるII部分の拡大図であり、円で囲まれた部分は布帛表面の拡大図である。
図3図3は、布帛の断面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る送風ダクトについて説明する。
【0024】
図1及び図2に示されるように、本実施形態の送風ダクト1は、テントや小屋などの仮設建築物Aにおける天井に水平方向に沿って吊るされて用いられるものである。送風ダクト1は、空調設備の空気排出部Bに接続されるために一端部が開口し且つ他端部が閉塞したダクト本体20と、ダクト本体20に供給される空気を外部に吐出するために先端部において開口した吐出部30であってダクト本体20の側面部に設けられた複数の吐出部30と、天井から吊るされたワイヤーCを挿入するための複数の挿入口41が形成された支持部40とを有している。送風ダクト1は、ダクト本体20と吐出部30とが連通していることによって、空気排出部Bから供給される空気を、ダクト本体20を経由させて吐出部30から吐出するように構成されている。
【0025】
本実施形態の送風ダクト1は、ダクト本体20、吐出部30及び支持部40がポリエステル系繊維で形成された布帛11を含むシート材10により構成されている。また、布帛11は、前記ポリエステル系繊維で形成された糸により構成されている。これによって、送風ダクト1は、未使用時においては容易に折り畳み可能な柔軟性を有するものとなっている。また、送風ダクト1は、使用時において、一般的に使用される空調設備からの風圧によって、ダクト本体20が筒状(本実施形態では円筒状)に膨らみ且つ吐出部30が先端に向かって先細りとなる三角錐状に膨らむように構成されている。なお、支持部40は、シート材10で形成されていなくてもよく、例えば、他の繊維材料で形成されていてもよい。
【0026】
ダクト本体20は、空調設備からの風圧を受けて筒状に膨らむことが可能な限りにおいて、内部に供給された空気を外部に吐出するための複数の通気孔21が形成されていてもよい。これによって、比較的効率的に空気を拡散させることが可能となる。また、通気孔21から吐出される空気によって、ダクト本体20の外側表面における結露の発生が抑制される。通気孔21は、ダクト本体20の全領域にわたって均一に形成されていてもよく、一部の領域に偏在するように形成されていてもよい。
【0027】
より詳しくは、複数の通気孔21は、ダクト本体20の長さ方向に一定間隔を空けて形成されている。複数の通気孔21は、長さ方向に並ぶ1つの列を構成する一群の通気孔21と、該一つの列と並行する他の列を構成する一群の通気孔21とを含んでいる。本実施形態では、複数の通気孔21が、複数の列(例えば、5以上の列)を構成するように周方向に沿って並んで配されており、隣り合う列の間隔が一定となるように配されている。また、本実施形態では、複数の通気孔21は、周方向にも一列に並ぶように配されている。すなわち、複数の通気孔21は、それぞれの中心を結ぶ直線が格子状となるように配されている。
【0028】
長さ方向及び周方向に隣り合う通気孔21の間隔(隣り合う前記直線の間隔)は、特に限定されないが、0.5~3.0cmであることが好ましく、1.0~2.0cmであることがより好ましい。なお、前記間隔は、送風ダクト1の未使用時における(送風ダクト1が平坦な状態における)隣り合う通気孔21の中心間距離を意味するものとする。
【0029】
本実施形態では、通気孔21は、パンチング加工により円形状に形成されている。通気孔21の直径は、0.5~3.0mmであることが好ましく、1.0~2.0mmであることがより好ましい。
【0030】
ダクト本体20の表面において、上記のような通気孔21が形成された領域の面積が、ダクト本体20の表面積全体に対して、90%以上であることが好ましい。
【0031】
吐出部30は、ダクト本体20を介して供給される空気を外部に排出させるために、先端部に開口31が形成されている。吐出部30は、送風ダクト1の長さ方向に沿って並ぶように設けられている。吐出部30は、ダクト本体20に供給された空気をダクト本体20の径方向外方に向かって吐出するように配されている。本実施形態では、吐出部30は、水平方向に沿って空気を吐出するように配されている。吐出部30は、開口31の開口径を調節するための調節部32を有しており、それによって、空気の吐出量を調節可能となっている。本実施形態の調節部32は、コードロックを有している。
【0032】
支持部40は、ダクト本体20の径方向外方に向かってダクト本体20から延出するように帯状に形成されており、送風ダクト1を天井に吊り下げるためのワイヤーCを挿入するための複数の挿入口41が形成されている。支持部40は、樹脂製のテープなどにより補強されていてもよい。本実施形態では、支持部40は、挿入口41の周囲部分の補強のために、挿入口41にハトメ加工がなされている。
【0033】
本実施形態の送風ダクト1は、さらに、各パーツを分離可能にするための接合部材50を有している。具体的には、送風ダクト1は、ダクト本体20を長さ方向において分離可能とするための第1の接合部材51と、ダクト本体20から吐出部30を分離可能とするための第2の接合部材52とを有している。接合部材50としては、例えば、各パーツの境界に沿って設けられたファスナーが挙げられる。第1の接合部材51により、送風ダクト1の長さの調節が容易となる。また、第2の接合部材52により、ダクト本体20と吐出部30とが分離可能となるため、未使用時において、送風ダクト1がコンパクトになり、保管し易いものとなる。
【0034】
送風ダクト1は、上記のような、空調設備からの風圧による形状変化が可能な軽量性、及び、風圧や施工時の引っ張りなどの物理的に加わる力に起因する破損が抑制されるような強度を有していることが好ましい。かかる観点から、シート材10の目付は、20g/m以上100g/m以下であることが好ましく、30g/m以上80g/m以下であることがより好ましい。
【0035】
また、送風ダクト1の施工時や保管時の取り扱い易さを向上させるために、シート材10の厚みは、0.05~0.25mmであることが好ましく、0.10~0.20mmであることがより好ましい。
【0036】
シート材10は、厚みに対する引張強さとして示される引張強度が、80MPa以上であることが好ましく、90MPa以上であることがより好ましい。これによって、送風ダクト1の破損がより確実に抑制される。
また、シート材10の引張伸度は、10%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましい。また、シート材10の引張伸度は、35%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましい。
通常、布帛により構成されたシート材は、引張強度が高くなるにつれて、引張伸度が低下する傾向を示す。よって、シート材10の引張伸度が上記値以上(言い換えれば、シート材10の引張強度が上記値以下)であることによって、空調設備からの風圧が急激に高くなった場合や、施工時に急な引っ張りが生じた場合、布帛がこれらに起因する力を吸収し易くなる。従って、送風ダクト1の破損、特に、ダクト本体20及び吐出部30の破損が抑制される。また、シート材10の引張伸度が上記値以下(言い換えれば、シート材10の引張強度が上記値以上)であることによって、ダクト本体20が不用意に伸びることに起因する、吐出部30の位置ずれが抑制される。
【0037】
なお、シート材10の目付、厚み、引張強さ及び引張伸度は、JIS L 1096:2010に規定された試験方法により測定された測定値が採用される。引張強さ及び引張伸度の試験方法は、A法(ストリップ法)とする。また、引張強度は、引張強さ及び厚みから換算された値とする。具体的には、引張強度は、引張強さ(N/5cm)を試験片の体積(試験片の幅0.05m×厚み(mに換算))で除し、単位をMPaに変換することによる求めることができる。
【0038】
また、シート材10は、風圧を受けて上記のような形状の変化が可能なように、通気性が0.05cm/cm/s以下であることが好ましく、0.04cm/cm/s以下であることがより好ましい。また、シート材10は、通気性が0.01cm/cm/s以上であることが好ましく、0.015cm/cm/s以上であることがより好ましい。これによって、結露水となり得る水分が屋内に排出され易くなり、仮設建築物A内の調湿の効果がある。また、送風ダクト1内の空気が抜けやすくなるため、未使用時に折り畳んでコンパクトにする際の作業性が向上する。
なお、シート材10の通気性は、JIS L 1096:2010に規定されたA法(フラジール形法)により測定された測定値が採用されるものとする。また、試験片は、通気孔21が形成されていない部分から採取するものとする。
【0039】
シート材10は、火災時の延焼などによる被害を低減させるために、JIS A 1322:1966に規定された難燃性試験における炭化長が10cm以下であることが好ましく、5cm以下であることがより好ましい。また、上記難燃性試験における残炎が5秒以下であることが好ましく、3秒以下であることがより好ましい。このようなことから、シート材10は、難燃剤を含有する樹脂により被覆されていることが好ましい。より具体的には、図3に示されるように、シート材10は、ポリエステル系繊維で形成された布帛11と、布帛11の両面(図3(a))又は片面のいずれか一方(図3(b))を被覆する被覆層12であって、難燃剤を含有する熱硬化性樹脂により形成された被覆層12を有していることが好ましい。なお、熱硬化性樹脂の一部は、布帛11を構成する糸の間に含浸していてもよい。
【0040】
難燃剤を含有する熱硬化性樹脂の塗布量は、シート材10に難燃性を付与させつつ、シート材10の厚みが過度に大きくならないように、1~20g/mであることが好ましく、2~15g/mであることがさらに好ましい。
【0041】
熱硬化性樹脂としては、ポリウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂及びポリ塩化ビニル系樹脂などが挙げられ、なかでもポリウレタン系樹脂が好ましい。
【0042】
難燃剤としては、例えば、トリ(β-クロロエチル)フォスフェート、トリブチルフォスフェート、トリ(ジクロロプロピル)フォスフェート、トリフェニルフォスフェート、トリ(ジブロモプロピル)フォスフェート、クロロフォスフォネート、ブロモフォスフォネート、ジエチル-N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノメチルフォスフェート、ジ(ポリオキシエチレン)ヒドロキシメチルフォスフォネートなどの有機リン系化合物、三塩化リン、五塩化リン、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、有機リン系アルミ化合物、ホスファゼン化合物等のリン化合物などのリン原子含有化合物が好ましい。また、熱硬化性樹脂の質量に対する難燃剤の含有量は、10~50質量%であることが好ましく、20~40質量%であることがさらに好ましい。
【0043】
上記のように、布帛11は、ポリエステル系繊維で形成されている。布帛11を形成する繊維は、ポリエステル系繊維以外の繊維を含んでいてもよいが、布帛11を形成する繊維全体に対するポリエステル系繊維の割合は、60~100質量%であることが好ましく、80~100質量%であることがより好ましい。
【0044】
また、布帛11は、前記ポリエステル系繊維で形成された糸により構成されている。布帛11は、該糸が平織されることにより構成されていることが好ましい。また、経糸密度又は緯糸密度が50~300本/インチでありことが好ましく、70~250本/インチであることがさらに好ましい。経糸密度と緯糸密度との差が大きいと、布帛11がバイアス方向に延びてしまうおそれがあるため、大きい方の糸密度を小さい方の糸密度で除して求められる比率が2.0以下であることが好ましく、1.8以下であることがより好ましい。また、経糸密度と緯糸密度は同じ値(前記比率が1.0)であってもよい。
【0045】
前記糸は、通常、前記樹脂が溶融紡糸されて形成されたマルチフィラメントである。また、前記糸は、引張強さを向上させるために、延伸処理及び熱処理されていることが好ましい。より具体的には、前記糸は、溶融押出機にて溶融された樹脂を、フィラメント数に対応した数の細孔を有するステンレス製の口金から吐出し、空冷後、引取りローラで350~1700m/分の速度で巻き取り、2.0~5.0の倍率で延伸処理し、さらに、110~240℃の温度で樹脂が結晶化するように熱処理することにより取得されることが好ましい。
前記糸のフィラメント数は、10以上であることが好ましく、15以上であることがより好ましい。また、前記糸のフィラメント数は、40以下であることが好ましく、30以下であることがより好ましい。
なお、糸のフィラメント数は、JIS L 1013:2010に規定された試験方法によって測定されるものとする。
【0046】
前記糸の繊度は、150dtex以下であることが好ましく、100dtex以下であることがより好ましい。これによって、糸の柔軟性が向上し、延いてはシート材10の柔軟性が向上する。さらに、布帛11の表面積が向上することによって、熱硬化性樹脂の接着性が向上するという利点がある。また、前記糸の繊度は、20dtex以上であることが好ましく、30dtex以上であることがより好ましい。これによって、布帛11の摩耗に対する強度が優れたものとなる。
【0047】
また、前記糸の引張強さは、4.0cN/dtex以上であることが好ましく、4.5cN/dtex以上であることがより好ましく、5.0cN/dtex以上であることがさらに好ましい。また、前記糸の引張強さは、10cN/dtex以下であることが好ましく、9.5cN/dtex以下であることがより好ましく、9.0cN/dtex以下であることがさらに好ましい。さらに、前記糸の引張伸度は、10%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましい。また、前記糸の引張伸度は、40%以下であることが好ましく、35%以下であることがより好ましい。上記した布帛の傾向と同様、通常、糸は、引張強度が高くなるにつれて、引張伸度が低下する傾向を示す。よって、前記糸の引張伸度が上記値以上であることによって、空調設備からの風圧が急激に高くなった場合や、施工時に急な引っ張りが生じた場合、シート材10がこれらに起因する力をより吸収し易くなる。従って、送風ダクト1の破損、特に、ダクト本体20及び吐出部30の破損がさらに抑制される。また、前記糸の引張伸度が上記値以下であることによって、ダクト本体20が不用意に伸びることに起因する、吐出部30の位置ずれがさらに抑制される。
【0048】
なお、糸の引張強さ及び引張伸度は、JIS L 1013:2010に規定された試験方法によって測定された測定値を採用するものとする。また、糸の繊度は、JIS L 1013:2010に規定されたA法によって測定された測定値を採用するものとする。
【0049】
ポリエステル系繊維としては、ポリエチレンテレフタレート系繊維であることが好ましい。前記ポリエチレンテレフタレート系繊維は、機械的特性の面ではポリエチレンテレフタレート単独からなる繊維が好ましいが、付与される機能や物性に応じて、主たる繰り返し成分のエチレンテレフタレートに、その他の成分が単数又は複数共重合されて形成されていてもよい。ポリエチレンテレフタレート系繊維を構成する樹脂は、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とし、1つ以上の他の成分が共重合されたものであってもよい。前記樹脂中のエチレンテレフタレート単位の割合は、90モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることがより好ましい。他の成分としては、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、オキシ安息香酸、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメリット酸、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。また、前記樹脂は、安定剤、着色剤、制電剤などの添加剤が含有されていてもよい。
【0050】
前記樹脂は、固有粘度が通常0.75~1.20dl/gであり、0.80~1.10dl/gであることがより好ましい。
【0051】
前記樹脂により構成された前記ポリエステル系繊維の固有粘度は、0.70dl/g以上であることが好ましく、0.75dl/g以上であることがより好ましい。これによって、前記ポリエステル系繊維を構成する樹脂の重合度が比較的高く、前記ポリエステル系繊維の強度が比較的高くなっているため、前記ポリエステル系繊維で形成された布帛11の強度も比較的高いものとなる。また、前記ポリエステル系繊維の固有粘度は、1.10dl/g以下であることが好ましく、1.00dl/g以下であることがより好ましい。これによって、溶融樹脂の曳糸性が良好なものとなり、比較的繊度が小さく且つ高強度な前記ポリエステル系繊維を製造し易くなる。前記ポリエステル系繊維による紡糸の際、糸毛羽や糸切れの発生が抑制されるため、製糸性が向上する。
【0052】
上記固有粘度の測定方法は、35℃の温度条件における、前記樹脂又は前記ポリエステル系繊維1.2gのオルトクロロフェノール100mL溶液についてのオストワルド式粘度管を用いた測定方法が採用される。前記固有粘度を測定するための試料は、送風ダクト1のダクト本体20を構成する前記ポリエステル系繊維を、常温(20~35℃)のエタノール浴中で十分洗浄した後に乾燥して調製する。測定は3回行い、3回の算術平均値を前記固有粘度の値とする。
【0053】
前記ポリエステル系繊維の繊度、すなわち単糸繊度は、3.5dtex以下であることが好ましく、3.0dtex以下であることがより好ましい。これによって、前記ポリエステル系繊維で形成された布帛11が比較的柔軟性に優れたものとなり、送風ダクト1の取り扱い性が向上する。また、前記ポリエステル系繊維の繊度は、0.5dtex以上であることが好ましく、1.0dtex以上であることがより好ましい。これによって、前記ポリエステル系繊維で形成された前記糸の摩耗に対する強度が優れたものとなる。なお、前記ポリエステル系繊維の単糸繊度は、前記糸の繊度を前記フィラメント数で除して算出される値とする。
【0054】
前記ポリエステル系繊維及び前記糸は、例えば、特許第2653919号明細書に記載の方法により製造される。
【0055】
以上のように、例示として実施形態を示したが、本発明に係る送風ダクトは、上記実施形態の構成に限定されるものではない。また、本発明に係る送風ダクトは、上記作用効果により限定されるものでもない。本発明に係る送風ダクトは、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例
【0056】
以下、実施例により本発明をさらに説明する。
【0057】
[実施例1]
表1に示すポリエステル系繊維により形成された糸(帝人フロンティア株式会社製、TFY P302B BHT 44T20)を平織することにより織物生機を構成した。この織物生機を、常法によって精錬、プリセットを行い、サーキュラー染色機を用いて染色処理後、乾燥し、布帛とした。この布帛の片面に、塗布量が6g/mとなるようにウレタンA(DIC株式会社製、難燃剤含有ポリエステル系共重合ポリウレタン樹脂)を塗布し、難燃性樹脂により形成された被覆層を有するシート材とした。このシート材を用いて、図2に示すような円筒状のダクト本体を有する送風ダクトを製造した。
【0058】
[実施例2]
布帛の両面にウレタンAを塗布したこと以外は、実施例1と同様にしてシート材及び送風ダクトを製造した。
【0059】
[実施例3]
表1に示すように、シート材を構成する経糸の密度及び緯糸の密度を同じ値となるように変更した以外は、実施例1と同様にしてシート材及び送風ダクトを製造した。
【0060】
[実施例4]
実施例1のシート材にパンチング加工を施し、直径1mmの円形状の通気孔を2cmの間隔で格子状に設けた。また、このようにして通気孔を設けたシート材をダクト本体に用い、実施例1と同様の送風ダクトを製造した。
【0061】
[実施例5]
直径2mmの通気孔を1cmの間隔で設けた以外は、実施例4と同様にしてシート材及び送風ダクトを製造した。
【0062】
[比較例1]
表1に示すポリエステル系繊維により形成された糸(帝人フロンティア株式会社製、TFY T600SB B 44T20)を用いる以外は、実施例1と同様にしてシート材を製造した。また、このシート材を用いて、実施例1と同様の送風ダクトを製造した。
【0063】
[比較例2]
表1に示すポリエステル系繊維により形成された糸(帝人フロンティア株式会社、TKY P603YB BHT 280T48)を経密度及び緯密度ともに24本/インチの織密度で平織することにより織物生機を構成した。次に、この布帛に、ポリ塩化ビニルを含浸・乾燥して目付が440g/mのシート材とした。また、このシート材を用いて、実施例1と同様の送風ダクトを製造した。
【0064】
[参考例1]
ポリウレタンAに代えて、ポリウレタンB(DIC株式会社製、難燃剤非含有ポリエステル系共重合ポリウレタン樹脂)を用いた以外は、実施例1と同様にしてシート材を製造した。また、このシート材を用いて、実施例1と同様の送風ダクトを製造した。
【0065】
【表1】
【0066】
実施例1~5の送風ダクトは、繊度が2.2dtexの細い繊維によって、シート材の目付(55~70g/m)が比較的小さく設定されており、また、このような細い繊維であっても、繊維の固有粘度が0.86dl/gであることによって、比較的引張強度(84~107MPa)が大きいものとなっており、比較的軽量であるとともに優れた強度を有することが認められる。さらに、実施例1~5の送風ダクトは、シート材の目付が比較的小さく設定されているため、一般的に使用されている空調設備が有する空気排出部からの風速によって、円筒状に容易に膨らむと考えられる。
これに対して、比較例1の送風ダクトは、ポリエステル系繊維の固有粘度が0.61dl/gであるため、シート材の引張強度が低く(68MPa)、強度が十分でないことが認められる。
また、比較例2の送風ダクトは、目付が比較的大きい割には(440g/m)、引張強度が小さく(54MPa)、強度が十分でないことが認められる。また、比較例2の送風ダクトは、目付が大きく軽さが十分ではないため、上記風速によっては円筒状に容易には膨らまないと考えられる。
【符号の説明】
【0067】
1:送風ダクト、
10:シート材、11:布帛、12:被覆層、
20:ダクト本体、21:通気孔、
30:吐出部、31:開口、32:調節部、
40:支持部、41:挿入口、
50:接合部材、51:第1の接合部材、52:第2の接合部材、
A:仮設建築物、B:空気排出部、C:ワイヤー
図1
図2
図3