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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】積層造形装置及び積層造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 10/85 20210101AFI20220628BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20220628BHJP
   B22F 10/31 20210101ALI20220628BHJP
   B22F 10/32 20210101ALI20220628BHJP
   B22F 10/368 20210101ALI20220628BHJP
   B22F 10/38 20210101ALI20220628BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20220628BHJP
   B23K 26/16 20060101ALI20220628BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20220628BHJP
   B23K 26/34 20140101ALI20220628BHJP
   B29C 64/153 20170101ALI20220628BHJP
   B29C 64/393 20170101ALI20220628BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20220628BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20220628BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20220628BHJP
【FI】
B22F10/85
B22F10/28
B22F10/31
B22F10/32
B22F10/368
B22F10/38
B23K26/00 Q
B23K26/16
B23K26/21 Z
B23K26/34
B29C64/153
B29C64/393
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/02
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020188797
(22)【出願日】2020-11-12
(65)【公開番号】P2022077794
(43)【公開日】2022-05-24
【審査請求日】2021-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】宮下 泰行
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 秀二
(72)【発明者】
【氏名】新家 一朗
(72)【発明者】
【氏名】川田 秀一
(72)【発明者】
【氏名】村中 勝隆
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-006214(JP,A)
【文献】特開2017-094728(JP,A)
【文献】特開2017-159534(JP,A)
【文献】特開2018-034514(JP,A)
【文献】特開2018-193586(JP,A)
【文献】特開2020-131500(JP,A)
【文献】特開2021-020319(JP,A)
【文献】国際公開第2019/239531(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03434393(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0177158(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0257766(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0189199(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/105
B22F 3/16
B22F 10/00 - 12/90
B29C 64/141 - 64/153
B33Y 10/00 - 50/02
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバと、造形テーブルと、不活性ガス供給装置と、ヒュームコレクタと、リコータヘッドと、レーザ照射装置と、データ取得部と、判定部とを備える積層造形装置であって、
前記チャンバは、造形領域を覆い、天井部にチャンバウィンドウが設けられ、且つ所定濃度の不活性ガスで充満され、
前記造形テーブルは、前記造形領域に配置されかつ上下方向に移動し、
前記リコータヘッドは、前記造形領域上に材料粉体を供給して材料層を形成し、
前記レーザ照射装置は、前記チャンバウィンドウを通して前記材料層の造形箇所にレーザ光を照射して固化層を形成し、
前記不活性ガス供給装置は、前記チャンバ内に新規の不活性ガスを供給し、
前記ヒュームコレクタは、前記固化層を形成する際に発生したヒュームと一緒に前記チャンバから排出された不活性ガスからヒュームを除去するとともにヒュームを除去したあとの不活性ガスを前記チャンバに再び戻し、
前記データ取得部は、前記レーザ光の照射状態を表す第1のデータ、不活性ガスの状態を表す第2のデータ、及び前記材料層の形成状態を表す第3のデータのうちの少なくとも1つと、前記造形箇所の状態を表す第4のデータとを各々計測により取得し、
前記判定部は、取得した第1から第3のデータのうちの少なくとも1つに基づき前記積層造形装置の運転状態の異常判定用の閾値又は許容範囲との比較を行い、運転状態の異常の有無を判定し、
前記判定部は、第4のデータに基づき前記固化層の造形状態の異常の有無を判定し、造形状態の異常があると判定した場合、取得した第1から第3のデータのうちの少なくとも1つに基づき造形状態の異常要因特定用の閾値又は許容範囲との比較を行い、前記積層造形装置の運転状態から前記固化層の造形状態の異常の要因を特定
造形状態の異常要因特定用の前記閾値又は前記許容範囲は、運転状態の異常判定用の前記閾値又は前記許容範囲よりも厳しい閾値又は許容範囲となるように設定される、積層造形装置。
【請求項2】
請求項1に記載の積層造形装置であって、
第1のデータは、前記チャンバウィンドウの温度、前記レーザ光のレーザパワー、前記レーザ光の走査速度、前記レーザ光のビーム径、及び前記レーザ光の照射タイミングのうちの少なくとも1つである、積層造形装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の積層造形装置であって、
第2のデータは、前記チャンバ内の不活性ガス中のヒューム濃度、前記チャンバ内の不活性ガスの風速、前記チャンバ内の不活性ガス中の酸素濃度、前記チャンバから排出された不活性ガス中のヒューム濃度、及び前記ヒュームコレクタから前記チャンバに戻される不活性ガス中のヒューム濃度のうちの少なくとも1つである、積層造形装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の積層造形装置であって、
第3のデータは、前記材料層の表面の均一性、前記材料層の積層厚さ、及び前記リコータヘッドの動作時の負荷のうちの少なくとも1つである、積層造形装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1つに記載の積層造形装置であって、
第4のデータは、前記造形箇所に形成された溶融池の温度、前記レーザ光の照射時に前記造形箇所に形成された照射スポットの外観性状、前記レーザ光の照射時に発生するスパッタの外観性状の画像データ、及び前記造形箇所に形成されたキーホールの深さのうちの少なくとも1つである、積層造形装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1つに記載の積層造形装置であって、
前記データ取得部は、第1のデータを取得し、
前記判定部は、前記レーザ光の照射中にリアルタイムで第4のデータに基づき所定の閾値又は所定の許容範囲との比較を行って造形状態の異常の有無を判定し、造形状態の異常があると判定した場合、さらに第1のデータに基づき造形状態の異常要因特定用の前記閾値又は前記許容範囲との比較を行い、前記レーザ光の照射状態の異常の有無を判定する、積層造形装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1つに記載の積層造形装置であって、
前記データ取得部は、第2のデータを取得し、
前記判定部は、前記レーザ光の照射中にリアルタイムで第4のデータに基づき所定の閾値又は所定の許容範囲との比較を行って造形状態の異常の有無を判定し、造形状態の異常があると判定した場合、さらに第2のデータに基づき造形状態の異常要因特定用の前記閾値又は前記許容範囲との比較を行い、前記不活性ガスの状態の異常の有無を判定する、積層造形装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1つに記載の積層造形装置であって、
前記データ取得部は、第3のデータを取得し、
前記判定部は、前記レーザ光の照射中にリアルタイムで第4のデータに基づき所定の閾値又は所定の許容範囲との比較を行って造形状態の異常の有無を判定し、造形状態の異常があると判定した場合、さらに第3のデータに基づき造形状態の異常要因特定用の前記閾値又は前記許容範囲との比較を行い、前記材料層の形成状態の異常の有無を判定する、積層造形装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1つに記載の積層造形装置であって、
前記積層造形装置は、前記判定部が特定した前記要因に基づいて、動作の停止、所定の動作、動作のやり直し、設定の補正、及び動作指令値の補正のうちの少なくとも1つを実行する、積層造形装置。
【請求項10】
請求項9に記載の積層造形装置であって、
前記動作指令値の補正は、前記第1から第3のデータのうちの少なくとも1つに基づいて前記積層造形装置の動作中にリアルタイムで実行される、積層造形装置。
【請求項11】
材料層形成工程と、固化層形成工程と、データ取得工程と、判定工程とを備える積層造形物の製造方法であって、
前記材料層形成工程では、造形領域を覆い、天井部にチャンバウィンドウが設けられ、且つ所定濃度の不活性ガスで充満されたチャンバ内において、リコータヘッドにより前記造形領域上に材料粉体を供給して材料層を形成し、
前記固化層形成工程では、前記チャンバウィンドウを通して前記材料層の造形箇所にレーザ光を照射して固化層を形成し、
前記データ取得工程では、前記レーザ光の照射状態を表す第1のデータ、前記不活性ガスの状態を表す第2のデータ、及び前記材料層の形成状態を表す第3のデータのうちの少なくとも1つと、前記造形箇所の状態を表す第4のデータとを各々計測により取得し、
前記判定工程は、運転状態判定工程と、造形状態判定工程とを備え、
前記運転状態判定工程では、取得した第1から第3のデータのうちの少なくとも1つに基づき運転状態の異常判定用の閾値又は許容範囲との比較を行い、積層造形装置の運転状態の異常の有無を判定し、
前記造形状態判定工程では、第4のデータに基づき前記固化層の造形状態の異常の有無を判定し、造形状態の異常があると判定した場合、取得した第1から第3のデータのうちの少なくとも1つに基づき造形状態の異常要因特定用の閾値又は許容範囲との比較を行い、積層造形装置の運転状態から前記固化層の造形状態の異常の要因を特定
造形状態の異常要因特定用の前記閾値又は前記許容範囲は、運転状態の異常判定用の前記閾値又は前記許容範囲よりも厳しい閾値又は許容範囲となるように設定される、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形装置及び積層造形物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
三次元造形物の積層造形においては、種々の方式が知られている。例えば、不活性ガスが充満されたチャンバ内において、造形テーブル上の造形領域に金属の材料粉体を供給して材料層を形成し、材料層の所定位置にレーザ光を照射することで材料層を溶融又は焼結させて固化層を形成する。そして、材料層及び固化層の形成を繰り返すことによって、固化層を積層して所望の三次元造形物を製造する。
【0003】
金属の積層造形は、従来は試作品の製作が主な用途であったが、近年その適応分野が拡大しつつある。例えば、医療分野や航空分野において、部品等を積層造形により製造する機会が増加している。このような適応分野の拡大に伴い、造形物の品質保証・品質管理がさらに重要となっている。
【0004】
品質保証を目的として、積層造形後に得られる造形物の検査が行われている。例えば、積層造形物に対してX線によるCTスキャンを実施することで、造形物の機械的強度に影響を与える内部の空隙の有無を調べることができる。一方、製造段階においては、品質管理のために積層造形装置を安定的に運転する必要がある。特許文献1には、不活性ガス環境を維持しつつ、焼結不良の原因となり得るヒュームをレーザ光の照射経路から除去することが可能な積層造形装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5721887号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
空隙のような積層造形物の品質の異常の多くは、造形物の製造段階、つまり、積層造形の過程において発生する造形状態の異常に端を発して生じることが知られている。従って、固化層の造形状態の異常をリアルタイムで監視し発生段階において検知することができれば、製造段階において適切な対応を行って不良品の発生を抑制することが可能となる。
【0007】
一方、造形状態の異常を検知できたとしても、異常の要因としては様々な可能性があり、その特定には相当の時間を要する。従って、造形状態の異常の監視と並行して、異常の要因となり得る積層造形装置の運転状態を監視することができれば、異常が発生した際に早期に要因を特定し、適切な対応を行うことが可能となる。例えば適切な対応は、レーザ光を透過しレーザ照射装置をヒュームから保護するチャンバウィンドウの清掃及び交換、チャンバ内のヒュームを除去するヒュームコレクタの清掃、ヒュームコレクタに有するフィルタの交換、及び装置の各種動作指令の補正等である。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、積層造形の過程における造形状態及び積層造形装置の運転状態を監視し、造形状態の異常の有無の判定及び異常の要因の特定を行うことができる積層造形装置及び積層造形物の製造方法を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、チャンバと、造形テーブルと、不活性ガス供給装置と、ヒュームコレクタと、リコータヘッドと、レーザ照射装置と、データ取得部と、判定部とを備える積層造形装置であって、前記チャンバは、造形領域を覆い、天井部にチャンバウィンドウが設けられ、且つ所定濃度の不活性ガスで充満され、前記造形テーブルは、前記造形領域に配置されかつ上下方向に移動し、前記リコータヘッドは、前記造形領域上に材料粉体を供給して材料層を形成し、前記レーザ照射装置は、前記チャンバウィンドウを通して前記材料層の造形箇所にレーザ光を照射して固化層を形成し、前記不活性ガス供給装置は、前記チャンバ内に新規の不活性ガスを供給し、前記ヒュームコレクタは、前記固化層を形成する際に発生したヒュームと一緒に前記チャンバから排出された不活性ガスからヒュームを除去するとともにヒュームを除去したあとの不活性ガスを前記チャンバに再び戻し、前記データ取得部は、前記レーザ光の照射状態を表す第1のデータ、不活性ガスの状態を表す第2のデータ、及び前記材料層の形成状態を表す第3のデータのうちの少なくとも1つと、前記造形箇所の状態を表す第4のデータとを各々計測により取得し、前記判定部は、第4のデータに基づき前記固化層の造形状態の異常の有無を判定し、造形状態の異常があると判定した場合、取得した第1から第3のデータのうちの少なくとも1つに基づき前記積層造形装置の運転状態から前記固化層の造形状態の異常の要因を特定する、積層造形装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る積層造形装置及び積層造形物の製造方法においては、レーザ光の照射状態を表す第1のデータ、不活性ガスの状態を表す第2のデータ、及び材料層の形成状態を表す第3のデータのうちの少なくとも1つ、及び造形箇所の状態を表す第4のデータが各々計測により取得され、第4のデータに基づき固化層の造形状態の異常の有無が判定され、造形状態の異常があると判定された場合、取得した第1から第3のデータのうちの少なくとも1つに基づき積層造形装置の運転状態から前記固化層の造形状態の異常の要因が特定される。このような構成により、積層造形の過程における造形状態の異常を発生段階において検知するとともに、当該異常の要因を早期に特定することが可能となり、造形物の製造段階における品質管理が容易となる。
【0011】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
【0012】
好ましくは、第1のデータは、前記チャンバウィンドウの温度、前記レーザ光のレーザパワー、前記レーザ光の走査速度、前記レーザ光のビーム径、及び前記レーザ光の照射タイミングのうちの少なくとも1つである。
好ましくは、第2のデータは、前記チャンバ内の不活性ガス中のヒューム濃度、前記チャンバ内の不活性ガスの風速、前記チャンバ内の不活性ガス中の酸素濃度、前記チャンバから排出された不活性ガス中のヒューム濃度、及び前記ヒュームコレクタから前記チャンバに戻される不活性ガス中のヒューム濃度のうちの少なくとも1つである。
好ましくは、第3のデータは、前記材料層の表面の均一性、前記材料層の積層厚さ、及び前記リコータヘッドの動作時の負荷のうちの少なくとも1つである。
好ましくは、第4のデータは、前記造形箇所に形成された溶融池の温度、前記レーザ光の照射時に前記造形箇所に形成された照射スポットの外観性状、前記レーザ光の照射時に発生するスパッタの外観性状の画像データ、及び前記造形箇所に形成されたキーホールの深さのうちの少なくとも1つである。
好ましくは、前記データ取得部は、第1のデータを取得し、前記判定部は、前記レーザ光の照射中にリアルタイムで第4のデータに基づき所定の閾値又は所定の許容範囲との比較を行って造形状態の異常の有無を判定し、造形状態の異常があると判定した場合、さらに第1のデータに基づき所定の閾値又は所定の許容範囲との比較を行い、前記レーザ光の照射状態の異常の有無を判定する。
好ましくは、前記データ取得部は、第2のデータを取得し、前記判定部は、前記レーザ光の照射中にリアルタイムで第4のデータに基づき所定の閾値又は所定の許容範囲との比較を行って造形状態の異常の有無を判定し、造形状態の異常があると判定した場合、さらに第2のデータに基づき所定の閾値又は所定の許容範囲との比較を行い、前記不活性ガスの状態の異常の有無を判定する。
好ましくは、前記データ取得部は、第3のデータを取得し、前記判定部は、前記レーザ光の照射中にリアルタイムで第4のデータに基づき所定の閾値又は所定の許容範囲との比較を行って造形状態の異常の有無を判定し、造形状態の異常があると判定した場合、さらに第3のデータに基づき所定の閾値又は所定の許容範囲との比較を行い、前記材料層の形成状態の異常の有無を判定する。
好ましくは、前記積層造形装置は、前記判定部が特定した前記要因に基づいて、動作の停止、所定の動作、動作のやり直し、設定の補正、及び動作指令値の補正のうちの少なくとも1つを実行する。
好ましくは、前記動作指令値の補正は、前記第1から第3のデータのうちの少なくとも1つに基づいて前記積層造形装置の動作中にリアルタイムで実行される。
【0013】
本発明の別の観点によれば、材料層形成工程と、固化層形成工程と、データ取得工程と、判定工程とを備える積層造形物の製造方法であって、前記材料層形成工程では、造形領域を覆い、天井部にチャンバウィンドウが設けられ、且つ所定濃度の不活性ガスで充満されたチャンバ内において、リコータヘッドにより前記造形領域上に材料粉体を供給して材料層を形成し、前記固化層形成工程では、前記チャンバウィンドウを通して前記材料層の造形箇所にレーザ光を照射して固化層を形成し、前記データ取得工程では、前記レーザ光の照射状態を表す第1のデータ、前記不活性ガスの状態を表す第2のデータ、及び前記材料層の形成状態を表す第3のデータのうちの少なくとも1つと、前記造形箇所の状態を表す第4のデータとを各々計測により取得し、前記判定工程では、第4のデータに基づき前記固化層の造形状態の異常の有無を判定し、造形状態の異常があると判定した場合、取得した第1から第3のデータのうちの少なくとも1つに基づき積層造形装置の運転状態から前記固化層の造形状態の異常の要因を特定する、製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る積層造形装置1の概略構成図である。
図2】本発明の実施形態に係る積層造形装置1の概略構成図である。
図3】材料層形成装置3の斜視図である。
図4】リコータヘッド32の上方からの斜視図である。
図5】リコータヘッド32の下方からの斜視図である。
図6】レーザ照射装置7の概略構成図である。
図7】制御装置9の構成を示すブロック図である。
図8図8Aは実施形態に係る運転状態の監視時における第1のデータの許容範囲を、図8Bは実施形態に係る異常要因特定時における第1のデータの許容範囲を説明するための図である。
図9図9Aは実施形態に係る運転状態の監視時における第2のデータの許容範囲を、図9Bは実施形態に係る異常要因特定時における第2のデータの許容範囲を説明するための図である。
図10図10Aは実施形態に係る運転状態の監視時における第3のデータの許容範囲を、図10Bは実施形態に係る異常要因特定時における第3のデータの許容範囲を説明するための図である。
図11図11は、実施形態に係る第4のデータの許容範囲を説明するための図である。
図12】本発明の実施形態に係る積層造形物の製造方法、及び運転状態の監視の手順を示すフロー図である。
図13】本発明の実施形態に係る造形状態の監視、及び造形状態の異常の要因特定の手順を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴事項について独立して発明が成立する。
【0016】
1.積層造形装置
図1及び図2は、本実施形態に係る積層造形装置1の概略構成図である。積層造形装置1は、チャンバ2、材料層形成装置3、及びレーザ照射装置7を少なくとも備える。また積層造形装置1は、後述される固化層及び積層造形物に対して必要に応じて切削加工などの機械加工を行うための機械加工装置(不図示)をチャンバ2内に備えるようにしてもよい。機械加工装置は、例えば、切削工具などの機械加工を行うための工具(不図示)を取り付けた加工ヘッド(不図示)を移動させて固化層あるいは積層造形物に対して機械加工を行う。加工ヘッドは、例えば、固化層の上面に平行なX軸方向に構成されていてもよい。また、さらに加工ヘッドは、例えば、X軸方向に直交しかつ固化層の上面に平行なY軸方向に移動するように構成されていてもよい。また、さらに加工ヘッドは、例えば、固化層の上面に垂直なZ軸方向に移動するように構成されていてもよい。また、さらに加工ヘッドは、例えば、Z軸を回転軸とするスピンドルを備えるように構成されていてもよい。機械加工を行うための工具は、スピンドルに取り付けられて回転するように構成されていてもよい。
【0017】
1.1.チャンバ
チャンバ2は、所望の積層造形物が形成される領域である造形領域Rを覆い、内部は不活性ガス供給装置11から供給される所定濃度の不活性ガスで充満されている。本明細書において不活性ガスとは、材料層8や固化層と実質的に反応しないガスであり、成形材料の種類に応じて選択され、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、又はヘリウムガスを使用可能である。金属の積層造形においては、材料粉体の変質を抑制するとともに、レーザ光Lを安定して照射可能とするために、造形領域Rの周囲の酸素濃度を可能な限り低い状態に維持する必要がある。チャンバ2内に不活性ガスを充満させることで、酸素濃度を十分に低く保つことが可能となる。なお、チャンバ2から排出された不活性ガスは、後述されるヒュームコレクタ12へと送られヒュームが除去された後にチャンバ2へ供給され再び利用される。
【0018】
チャンバ2の天井部には、レーザ照射装置7から出力されるレーザ光Lが透過するチャンバウィンドウ21が設けられる。チャンバウィンドウ21は、レーザ光Lを透過可能な材料で形成され、レーザ光Lの種類に応じて、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、又はゲルマニウム、シリコン、ジンクセレン若しくは臭化カリウムの結晶等が材料として選択される。例えば、レーザ光Lがファイバレーザ又はYAGレーザの場合、チャンバウィンドウ21は石英ガラスで構成可能である。
【0019】
チャンバ2の天井部の内側には、チャンバウィンドウ21を覆うようにヒューム拡散部17がさらに設けられる。ヒューム拡散部17は、円筒状の筐体17aと、筐体17a内に配置された円筒状の拡散部材17cとを備える。筐体17aと拡散部材17cの間に不活性ガス供給空間17dが設けられる。また、筐体17aの底面には、拡散部材17cの内側に開口部17bが設けられる。拡散部材17cには多数の細孔17eが設けられており、不活性ガス供給空間17dに供給された清浄な不活性ガスが細孔17eを通じて清浄室17fに充満され、開口部17bを通じてヒューム拡散部17の下方に向かって噴出される。このような構成により、ヒュームのチャンバウィンドウ21への付着を防止し、レーザ光Lの照射経路からヒュームを排除することができる。
【0020】
1.2.材料層形成装置
材料層形成装置3は、チャンバ2の内部に設けられる。図1から図3に示すように、材料層形成装置3は、ベース31、及びベース31上に配置されるリコータヘッド32を備える。ベース31は、積層造形物が形成される造形領域Rを有し、造形領域Rには造形テーブル5が設けられる。造形テーブル5は、造形テーブル駆動機構51によって駆動され上下方向(図1の矢印V方向)に移動することができる。造形時には、造形テーブル5にベースプレート6が配置され、ベースプレート6の上面に材料層8が形成される。
【0021】
造形テーブル5の周りには、粉体保持壁26が設けられる。粉体保持壁26と造形テーブル5とによって囲まれる粉体保持空間には、未固化の材料粉体が保持される。粉体保持壁26の下側には、粉体保持空間内の材料粉体を排出可能な粉体排出部(不図示)が設けられ、積層造形の完了後に造形テーブル5を降下させることによって、未固化の材料粉体が粉体排出部から排出される。
【0022】
図1及び図3から図5に示すように、リコータヘッド32は、リコータヘッド駆動機構33によって水平1軸方向(矢印H方向)に往復移動可能に構成され、材料収容部32aと、材料供給口32bと、材料排出口32cとを備える。リコータヘッド駆動機構33は、リコータヘッド32を移動させるモータ33aを備え、後述されるリコータヘッド制御部94に制御される。
【0023】
材料供給口32bは、材料収容部32aの上面に設けられ、材料供給ユニット(不図示)から材料収容部32aに供給される材料粉体の受け口となる。材料排出口32cは、材料収容部32aの底面に設けられ、材料収容部32a内の材料粉体を排出する。材料排出口32cは、材料収容部32aの長手方向に延びるスリット形状を有する。リコータヘッド32の両側面には、ブレード32fb,32rbが設けられる。ブレード32fb,32rbは、材料排出口32cから排出される材料粉体を平坦化して、材料層8を形成する。
【0024】
1.3.レーザ照射装置
図1及び図2に示すように、レーザ照射装置7は、チャンバ2の上方に設けられる。レーザ照射装置7は、造形領域R上に形成される材料層8の所定箇所にレーザ光Lを照射して、照射位置の材料層8を溶融又は焼結させ、固化させる。図6に示すように、レーザ照射装置7は、レーザ発振器72、及びガルバノユニット73を備え、後述するレーザ制御部93に制御される。
【0025】
レーザ発振器72は、レーザ光源となるレーザ素子が取り付けられ、レーザ光Lを出力する。レーザ光Lは、材料粉体を溶融又は焼結可能であればよく、例えば、ファイバレーザ、COレーザ、又はYAGレーザを用いることができる。
【0026】
ガルバノユニット73は、コリメータ73a、フォーカス制御ユニット73b、及び走査装置73cを備える。コリメータ73aは、コリメータレンズ73a1を内部に備え、レーザ発振器72から出力されたレーザ光Lを平行光に変換する。フォーカス制御ユニット73bは、内部に可動レンズ73b1、及び集光レンズ73b2を備える。可動レンズ73b1は、レンズアクチュエータ(不図示)によりレーザ光Lの光軸方向に移動することで、コリメータ73aにより平行光に変換されたレーザ光Lの焦点位置を所定の焦点位置に調整する。また可動レンズ73b1は、レーザ光Lの焦点位置を調整することで、材料層8の表面におけるレーザ光Lのビーム径を所定のビーム径に調整する。可動レンズ73b1は、レンズアクチュエータ(不図示)によりレーザ光Lの光軸方向に移動可能であり、これによりレーザ光Lの焦点位置を調整することができる。集光レンズ73b2は、可動レンズ73b1を通過したレーザ光Lを集光する。なお、本実施形態においては、可動レンズ73b1は、レーザ発振器72からのレーザ光Lの進路に沿って上流側が凹面で下流側が平面の拡散レンズであるが、レンズの種類は用途によって適宜選択可能であり、集光レンズであってもよい。
【0027】
走査装置73cは、第1ガルバノミラー73c1,第2ガルバノミラー73c2、第1ガルバノミラー73c1を所望の角度に回転させる第1アクチュエータ(不図示)、及び第2ガルバノミラー73c2を所望の角度に回転させる第2アクチュエータ(不図示)を備え、フォーカス制御ユニット73bを通過したレーザ光Lを制御可能に造形領域R内の材料層8の上面に2次元走査する。つまり、フォーカス制御ユニット73bを通過したレーザ光Lは、材料層8の上面に照射される際に、第1ガルバノミラー73c1で第1方向に走査されるとともに第2ガルバノミラー73c2で第2方向に走査される。第1ガルバノミラー73c1及び第2ガルバノミラー73c2に反射されたレーザ光Lは、チャンバウィンドウ21を透過して造形領域R内の材料層8の所定箇所に照射され、これにより、固化層が形成される。なお、例えば、第1ガルバノミラー73c1及び第2ガルバノミラー73c2は、造形領域R内の材料層8の上面が互いに直交するX軸とY軸とで構成される平面であるとき、一方がレーザ光Lの照射位置をX軸の方向に走査し、他方がレーザ光Lの照射位置をY軸の方向に走査するとよい。また、レーザ照射装置7は、上述の形態に限定されず、例えば、フォーカス制御ユニット73bに変えてfθレンズを用いる構成としてもよい。
【0028】
2.不活性ガス供給系統及びヒューム排出系統
次に、チャンバ2への不活性ガス供給系統と、チャンバ2からのヒューム排出系統について説明する。
【0029】
図1に示すように、チャンバ2への不活性ガス供給系統には、不活性ガス供給装置11と、ヒュームコレクタ12が接続されている。不活性ガス供給装置11は、不活性ガスを供給する機能を有し、例えば、ガスボンベである。ヒュームコレクタ12は、不活性ガス中のヒュームを除去する機能を有し、例えば、乾式電気集塵機、フィルタを備える濾過式集塵機を用いることができる。チャンバ2から排出された不活性ガス(ヒュームを含む不活性ガス)は、ヒュームコレクタ12の上流に接続されたダクトボックス13を通じてヒュームコレクタ12に送られ、ヒュームが除去された不活性ガスがヒュームコレクタ12の下流に接続されたダクトボックス14を通じてチャンバ2へ送られる。このような構成により、不活性ガスの再利用が可能になっている。なお、ヒュームコレクタ12を複数台設け、積層造形の過程において切り替え可能に構成してもよい。
【0030】
チャンバ2には、不活性ガス供給装置11から供給される新規の不活性ガスの供給口、ヒュームコレクタ12から供給されて再利用される不活性ガスの供給口、及びチャンバ2からヒュームコレクタ12への不活性ガスの排出口が、それぞれ1つ以上設けられる。本実施形態において、不活性ガス供給装置11からの不活性ガスは、ヒューム拡散部17の上部に設けられた第1の供給口2a、リコータヘッド32の一方の側面に設けられた第2の供給口32fs、ベース31の端面上の配管に設けられた第3の供給口2bを通じて供給される。ここで、当該配管は、第2の供給口32fsが設けられた側と反対側のベース31の端面上に敷設される。そして、第2の供給口32fs及び第3の供給口2bへの不活性ガスの供給は、積層造形の過程におけるリコータヘッド32の位置に応じて、択一的に行えるように構成される。つまり、不活性ガスを、レーザ光Lの照射領域と第2の供給口32fsとが対向する位置にあるときは第2の供給口32fsを通じて供給し、レーザ光Lの照射領域と第2の供給口32fsとが対向しない位置にあるときは第3の供給口2bを通じて供給することができる。ヒュームコレクタ12からの不活性ガスは、チャンバ2の側壁に設けられた第4の供給口2cを通じて供給される。
【0031】
このような構成とすることで、チャンバウィンドウ21へのヒュームの付着を防止するために設けられるヒューム拡散部17、及びレーザ光Lの照射領域付近には不活性ガス供給装置11から新規の不活性ガスが供給される。一方、チャンバ2内において不活性ガスを循環供給するための第4の供給口2cからはヒュームコレクタ12でヒュームが除去された不活性ガスが供給されるため、新規の不活性ガスの消費量が抑えられる利点がある。
【0032】
チャンバ2からのヒューム排出系統は、排気ファン(不図示)が設けられた第1の排出口2d、及びリコータヘッド32の第2の供給口32fsとは反対側の側面に設けられた第2の排出口32rsに接続される。チャンバ2の造形空間2e内のヒュームを含む不活性ガスが第1の排出口2dを通じて排出されることによって、造形空間2e内に第4の供給口2cから第1の排出口2dに向かう不活性ガスの流れが形成される。また、レーザ光Lの照射領域と第2の排出口32rsとが対向する位置にあるときに、造形領域Rで発生したヒュームを第2の排出口32rsを通じて吸引することができる。
【0033】
3.制御装置
次に、積層造形装置1を制御するための制御装置9について説明する。図7は、制御装置9の構成を示すブロック図である。
【0034】
図7に示すように、制御装置9は、数値制御部91、表示部92、積層造形装置1を構成する各装置の制御部93,94,95,96、及びデータ取得部97を備える。制御装置9は、積層造形装置1の動作を制御するとともに、積層造形装置1の運転状態、及び固化層の造形状態を監視する役割を果たす。
【0035】
制御装置9の外部には、CAD装置41及びCAM装置42が設置される。CAD装置41は、造形対象の積層造形物の形状及び寸法を示す三次元形状データ(CADデータ)を作成するためのものである。作成されたCADデータは、CAM装置42に出力される。
【0036】
CAM装置42は、CAD装置41により作成されたCADデータに基づき、積層造形物を造形する際の積層造形装置1を構成する各装置の動作手順データ(CAMデータ)を作成するためのものである。CAMデータには、例えば、各材料層におけるレーザ光Lの照射位置のデータ及びレーザ光Lのレーザ照射条件のデータなどが含まれる。作成されたCAMデータは、数値制御部91に出力される。
【0037】
数値制御部91は、CAM装置42により作成されたCAMデータに対して数値制御プログラムによる演算を行い、積層造形装置1に対する動作指令を行うためのものである。数値制御部91は、記憶部91a、演算部91b、及び判定部91cを備える。演算部91bは、記憶部91aに記憶されている数値制御プログラムを用いてCAMデータに対して演算を行い、積層造形装置1を構成する各装置の制御部93,94,95,96に対して動作指令を信号又は動作指令値のデータの形式で出力する。
【0038】
レーザ制御部93は、動作指令に基づいてレーザ照射装置7の動作を制御する。具体的には、レーザ制御部93は、レーザ発振器72を制御し、所定のレーザパワー及び照射タイミングでレーザ光Lを出力させる。また、レーザ制御部93は、レンズアクチュエータを制御し、可動レンズ73b1を移動させ、これによりレーザ光Lが所定のビーム径に調整される。また、レーザ制御部93は、第1アクチュエータ及び第2アクチュエータを制御し、第1ガルバノミラー73c1及び第2ガルバノミラー73c2をそれぞれ所望の角度に回転させる。さらに、レーザ制御部93は、レーザ照射装置7の実際の動作情報を数値制御部91へとフィードバックする。
【0039】
リコータヘッド制御部94は、動作指令に基づいてリコータヘッド駆動機構33を制御し、当該制御の下でリコータヘッド駆動機構33がモータ33aを回転させてリコータヘッド32を水平1軸方向に往復移動させる。また、リコータヘッド32の実際の動作情報を数値制御部91へとフィードバックする。
【0040】
造形テーブル制御部95は、動作指令に基づいて造形テーブル駆動機構51を制御し、当該制御の下で造形テーブル駆動機構51がモータ(不図示)を回転させて造形テーブル5を上下方向に移動させる。また、造形テーブル5の実際の動作情報を数値制御部91へとフィードバックする。
【0041】
不活性ガス系統制御部96は、動作指令に基づいて不活性ガス供給装置11及びヒュームコレクタ12の運転を制御する。また、不活性ガス供給・排出系統の実際の運転情報を数値制御部91へとフィードバックする。
【0042】
データ取得部97は、積層造形装置1の運転状態を表すデータ、及び材料層8上においてレーザ光Lが照射され固化層が形成される造形箇所の状態を表すデータを各計測装置から取得し、判定部91cに出力する。運転状態を表すデータとして、レーザ光Lの照射状態を表す第1のデータ、不活性ガスの状態を表す第2のデータ、及び材料層8の形成状態を表す第3のデータのうちの少なくとも1つが、第1から第3の計測装置10,20,30により各々計測され、データ取得部97に出力される。また、造形箇所の状態を表す第4のデータが、第4の計測装置40により計測され、データ取得部97に出力される。なお、データ取得部97が取得する第1から第4のデータの詳細については、後述する。
【0043】
判定部91cは、データ取得部97から送られた第1から第3のデータのうちの少なくとも1つに基づき積層造形装置1の運転状態を監視するとともに、第4のデータに基づき固化層の造形状態を監視する。さらに、造形状態の異常があると判定した場合に第1から第3のデータのうちの少なくとも1つに基づき運転状態から当該異常の要因を特定する。判定部91cの詳細については、後述する。
【0044】
記憶部91aは、CAMデータ、数値制御プログラム、データ取得部97から判定部91cに入力されたデータ、及び判定部91cが異常の判定及び要因の特定の際に利用する閾値又は許容範囲を記憶する。
【0045】
表示部92は、数値制御部91の演算部91bが出力する動作指令、及び判定部91cによる異常の判定及び要因の特定の結果等を表示する。
【0046】
4.監視データ
次に、積層造形装置1の運転状態、及び固化層の造形状態の監視に用いられる第1から第4のデータ、及びその計測方法について説明する。
【0047】
4.1.第1のデータ
レーザ光Lの照射状態を表す第1のデータについて、造形状態に特に大きな影響を与え得るものとして、レーザ光Lが透過するチャンバウィンドウ21の温度、レーザ光Lのレーザパワー、レーザ光Lの走査速度、レーザ光Lのビーム径、及びレーザ光Lの照射タイミングが例示される。レーザ光Lの照射が好ましい状態を外れると、材料粉体の溶融又は焼結の不良による造形状態の異常が起こりやすくなる。なお、例示されるこれらのデータは、単一で第1のデータとして用いられてもよいし、複数を第1のデータとして用いてもよい。本実施形態においては、第1のデータとしてチャンバウィンドウ21の温度T1を用いる。
【0048】
レーザ照射装置7から照射されたレーザ光Lは、チャンバウィンドウ21を通して材料層8に照射される。このとき、チャンバウィンドウ21へのヒュームの付着、チャンバウィンドウ21の劣化(例えば、コーティングの剥離)、清掃不良による白濁等の原因により、チャンバウィンドウ21においてレーザ光Lのエネルギーの一部が吸収されて局所的な昇温が起こることがある。昇温に伴い屈折率等が変化する熱レンズ効果が発生すると、レーザ光Lの焦点が当初の位置よりも上方に移動する、所謂フォーカスシフトが起こる。その結果、材料層8の表面におけるレーザ光Lのビーム径が大きくなり、エネルギー密度が低下することで、造形状態の異常が発生する可能性がある。
【0049】
図2に示すように、本実施形態に係る積層造形装置1は、チャンバウィンドウ21の温度T1を計測するための第1の計測装置10を備える。第1の計測装置10は、例えば、赤外線サーモグラフィである。第1の計測装置10は、積層造形の過程において必要に応じて固化層の切削加工などの機械加工を行う機械加工装置(不図示)の加工ヘッドやレーザ照射装置7から照射されるレーザ光L等に干渉しない、任意の位置に設けられる。第1の計測装置10は、所定の位置に固定されてもよいし、駆動装置(不図示)で移動可能に設けられてもよい。本実施形態においては、チャンバ2の内側に収納ボックス(不図示)が配置され、収納ボックス内に第1の計測装置10と、第1の計測装置10をチャンバ2内で移動させるための駆動装置(不図示)が収納されている。チャンバウィンドウ21の温度T1を計測する際には、収納ボックスが開放され、第1の計測装置10が駆動装置によりチャンバ2内の所定位置に配置される。
【0050】
第1の計測装置10を用いて、チャンバウィンドウ21の造形空間2e側の表面の温度を計測し、当該表面のうちレーザ光Lが通過する領域における最高温度を第1のデータとして取得する。なお、温度T1の計測は、積層造形中常時行われてもよいし、材料層8に対してレーザ光Lの照射が行われている間のみ行われてもよい。
【0051】
なお、第1の計測装置10は、上述の構成に限定されるものではなく、第1のデータの種類に応じた計測方法に適合するように構成されるものである。また、第1のデータとして複数のデータを用いる場合、それに応じた数の計測装置が配置される。第1のデータとしてレーザ光Lのレーザパワーを用いる場合、例えば、レーザ発振器72の出力モニタ端子から出力される信号を取得してレーザパワーを特定する、又はビームスプリッタを利用してレーザ光Lの一部を受光してレーザパワーを検出するといった方法を用いることができる。第1のデータとしてレーザ光Lの走査速度を用いる場合、例えば、第1アクチュエータ及び第2アクチュエータに取り付けられたエンコーダからの信号を取得して実際の走査速度を算出することができる。第1のデータとしてレーザ光Lのビーム径を用いる場合、例えば、第1アクチュエータ及び第2アクチュエータに取り付けられたエンコーダからの信号を取得してレーザ光Lの光路長を算出し、さらにレンズアクチュエータに取り付けられたエンコーダからの信号を取得してレーザ光Lの焦点距離を算出し、光路長及び焦点距離から実際に造形を行っているときのビーム径を算出することができる。さらに、実際に造形を行っているときのビーム径は、前述のビーム径の算出方法にフォーカスシフトの情報を加えて算出するようにしてもよい。また、第1のデータとしてレーザ光Lの照射タイミングを用いる場合、レーザ制御部93からレーザ発振器72の制御入力端子に送られるレーザ光Lを照射するか(ON)否か(OFF)を示す信号、及びレーザ発振器72の出力モニタ端子から出力されるレーザ光Lを照射したか(ON)否か(OFF)を示す信号に基づき、レーザ光Lが所定の照射タイミングで照射されているか(ON)否か(OFF)のデータを取得することができる。
【0052】
4.2.第2のデータ
不活性ガスの状態を表す第2のデータについて、造形状態に特に大きな影響を与え得るものとして、チャンバ2内の不活性ガス中のヒューム濃度、チャンバ2内の不活性ガスの風速、チャンバ2内の不活性ガス中の酸素濃度、チャンバ2から排出された不活性ガス中のヒューム濃度、及びヒュームコレクタ12からチャンバ2に戻される不活性ガス中のヒューム濃度が例示される。不活性ガスが好ましい状態を外れると、材料粉体の変質や、レーザ光Lの照射時の材料粉体の溶融又は焼結の不良による造形状態の異常が起こりやすくなる。なお、例示されるこれらのデータは、単一で第2のデータとして用いられてもよく、複数を第2のデータとして用いてもよい。本実施形態においては、第2のデータとしてチャンバ2内の不活性ガス中のヒューム濃度Cを用いる。
【0053】
材料層8へのレーザ光Lの照射時に発生するヒュームが光路上に多く存在すると、レーザ光Lが遮蔽され、造形箇所に到達するエネルギーが低下し、これにより造形状態の異常が発生する可能性がある。
【0054】
図2に示すように、本実施形態に係る積層造形装置1は、チャンバ2内の不活性ガス中のヒューム濃度Cを計測するための第2の計測装置20を備える。第2の計測装置20はチャンバ2内の造形物の上方に設けられた吸気口20a及びチャンバ2外部に配置された粉塵計20bを備える。吸気口20aから採取された不活性ガスは、チューブを通して粉塵計20bへと送られ、ヒューム濃度Cの計測が行われる。ここで、不活性ガスの採取を行うための吸気口20aの位置は、レーザ光Lの光路付近のヒューム濃度Cを計測するために、光路になるべく近く、且つ光路と干渉しない位置に設けることが好ましい。なお、不活性ガスを採取するための吸気口は1箇所でもよいし、チャンバ2内の複数箇所に吸気口を設け、それに応じた数の粉塵計を導入して計測を行ってもよい。また、ヒューム濃度Cの計測は、積層造形中常時行われてもよいし、積層造形が開始される前の準備段階から行われてもよいし、材料層8に対してレーザ光Lの照射が行われている間のみ行われてもよい。
【0055】
なお、第2の計測装置20は、上述の構成に限定されるものではなく、第2のデータの種類に応じた計測方法に適合するように構成されるものである。また、第2のデータとして複数のデータを用いる場合、それに応じた数の計測装置が配置される。第2のデータとしてチャンバ2内の不活性ガスの風速を用いる場合、チャンバ2及び不活性ガス供給系統における1つ又は複数の箇所(例えば、第4の供給口2cの付近)に風速計を配置し、チャンバ2に供給される不活性ガスの風速を計測することができる。第2のデータとしてチャンバ2内の不活性ガス中の酸素濃度を用いる場合、例えば、チャンバ2内の1つ又は複数の箇所において、酸素濃度計を配置して計測を行う、又は不活性ガスの濃度計を配置して計測結果から相対的に酸素濃度を算出することができる。第2のデータとしてチャンバ2から排出された不活性ガス中のヒューム濃度を用いる場合、例えば、第1の排出口2d付近に不活性ガスの吸気口を設けて不活性ガスを採取し、粉塵計によりヒューム濃度を計測することができる。また、第2のデータとして、ヒュームコレクタ12から前記チャンバ2に戻される不活性ガス中のヒューム濃度を用いる場合、例えば、ダクトボックス14から第4の供給口2cへと送られる不活性ガスを採取してヒューム濃度を計測することができる。
【0056】
4.3.第3のデータ
材料層8の形成状態を表す第3のデータについて、造形状態に特に大きな影響を与え得るものとして、材料層8の表面の均一性、材料層8の積層厚さ、及びリコータヘッド32の動作時の負荷が例示される。
【0057】
材料層8の形成が好ましい状態を外れると、空隙等の造形状態の異常が起こりやすくなる。なお、例示されるこれらのデータは、単一で第3のデータとして用いられてもよく、複数を第3のデータとして用いてもよい。本実施形態においては、第3のデータとして材料層8の表面の均一性を用いる。
【0058】
図2に示すように、本実施形態に係る積層造形装置1は、材料層8の表面の均一性を計測するための第3の計測装置30を備える。第3の計測装置30は、例えば、カメラである。本実施形態では、チャンバ2の天井部にCCDカメラ30a及びLEDライト(不図示)を配置し、材料層8にLEDライトを用いて照明を当てた状態で、CCDカメラ30aにより材料層8の表面を撮像して画像データを得る。画像データは、適宜補正を行った後に、材料層8の表面において材料粉体が存在する箇所と材料粉体が不足し材料層直下の固化層の金属面が露呈している箇所とを識別するための2値化処理を行う。2値化処理により材料粉体が存在する箇所を黒色、金属面が露呈している箇所を白色でラベリングし、白色にラベリングされた金属面の露呈箇所の数Nを材料層8の表面の均一性を表す第3のデータとして用いる。具体的には、2値化処理は、例えば、画像データのピクセル単位または画像データを格子状に分割したセル単位で行われるとよい。セルは、複数のピクセルの集合である。金属面の露呈箇所の数Nは、白色にラベリングされたピクセルまたはセルをカウントして得られる。また、金属面の露呈箇所の数Nに1つのピクセルの面積または1つセルの面積を乗じて、白色にラベリングされた金属面の露呈箇所の総面積を表面の均一性を表す第3のデータとして用いるようにしてもよい。
【0059】
金属面の露呈箇所の数Nは、材料層8が1層形成される毎に画像データを取得して計測することが好ましい。画像データは、材料層8の表面全体に対して取得されてもよいし、当該表面のうち特定の領域を対象として取得されてもよい。また、積層造形の過程において撮像領域を適宜変更してもよい。
【0060】
なお、第3の計測装置30は、上述の構成に限定されるものではなく、第3のデータの種類に応じた計測方法に適合するように構成されるものである。また、第3の計測装置30は、例えば、材料層8の上面に平行なX軸方向に移動するように構成されていてもよい。また、さらに第3の計測装置30は、例えば、X軸方向に直交しかつ材料層8の上面に平行なY軸方向に移動するように構成されていてもよい。また、さらに第3の計測装置30は、例えば、材料層8の上面に垂直なZ軸方向に移動するように構成されていてもよい。第3の計測装置30は、積層造形装置1が機械加工装置を備えている場合には機械加工装置の加工ヘッドに取り付けられていてもよい。
【0061】
また、第3のデータとして複数のデータを用いる場合、それに応じた数の計測装置が配置される。第3のデータとして材料層の積層厚さを用いる場合、例えば、2次元レーザ変位計を用いて、材料層の形成前後における表面の位置を各々検出し、差分を取ることにより厚みを算出可能である。また、第3のデータとして、リコータヘッド32の動作時の負荷を用いる場合、例えば、リコータヘッド駆動機構33のモータ33aを流れる電流値、又はリコータヘッド32とリコータヘッド駆動機構33との間に発生する圧力値を計測することができる。
【0062】
材料層8にレーザ光Lを照射して固化層を形成する際に、レーザ光Lのフォーカスシフトの影響、チャンバ内におけるレーザ光Lの光路上を漂うヒュームの影響などが原因で固化層の表面に突起部が形成される場合がある。リコータヘッド32が固化層の上方を移動しながら固化層上に材料粉体を供給するとともにリコータヘッド32のブレード32fb,32rbにより材料粉体を平坦化することで固化層上に所定の厚みの材料層8を形成する際に、固化層の表面に形成された大きな突起部と当該ブレード32fb,32rbが接触すると材料層8の表面の均一性が低下する場合がある。固化層の表面に形成された大きな突起部とリコータヘッド32のブレード32fb,32rbが接触するとリコータヘッド32の動作時の負荷が接触しないときに比べて大きくなるため、このように計測された電流値又は圧力値を材料層8の形成状態を表す第3のデータとして用いることができる。
【0063】
4.4.第4のデータ
造形箇所の状態を表す第4のデータについて、造形箇所に形成された溶融池の温度、レーザ光Lの照射時に造形箇所に形成された照射スポットの外観性状、レーザ光Lの照射時に発生するスパッタの外観性状の画像データ、及び造形箇所に形成されたキーホールの深さが例示される。造形箇所の状態が好ましい状態を外れると、固化層の形成不良が起こりやすくなる。従って、第4のデータを監視することで、造形状態の異常に端を発する不良を抑制することが可能となる。なお、例示されるこれらのデータは、単一で第4のデータとして用いられてもよく、複数を第4のデータとして用いてもよい。本実施形態においては、第4のデータとして造形箇所に形成された溶融池の温度T4を用いる。
【0064】
材料層8にレーザ光Lが照射されると、照射された箇所の材料粉体が溶融して溶融池が形成される。溶融池の温度T4は、材料粉体等の条件に応じた適正な範囲が存在し、当該範囲を上回る(溶融過多)、又は下回る(溶融不足)と固化層の形成不良が起こりやすくなる。
【0065】
図2に示すように、本実施形態に係る積層造形装置1は、溶融池の温度T4を計測するための第4の計測装置40を備える。第4の計測装置40として、例えば、2色法に基づく温度計測装置を用いることができる。本実施形態では、2色法温度計測装置を第4の計測装置40として導入し、材料層8にレーザ光Lを照射して材料粉体が溶融して溶融池が形成される際に発生する光がガルバノユニット73を経由してフォトダイオードまたはフォトディテクタと言ったフォトセンサ(不図示)に入力することで溶融池の温度T4を検出する。このとき、ガルバノユニット73には、コリメータ73aとフォーカス制御ユニット73bの間にレーザ光Lを透過しかつ溶融池から発生した光をガルバノユニット73の外部に向けて反射するビームスプリッタ(不図示)などの第4の計測装置の一部を構成する光学素子が設けられている。第4の計測装置40は、ガルバノユニット73の中のビームスプリッタで反射させた溶融池の光を別のビームスプリッタ(不図示)で2つに分岐する。2つに分岐した溶融池の光は、一方が第1バンドパスフィルタを経由して第1フォトセンサに入力し、他方が第2バンドパスフィルタを経由して第2フォトセンサに入力する。第1バンドパスフィルタと第2バンドパスフィルタは、それぞれ所定の波長の光のみを透過する。また別の実施形態(不図示)では、測定対象の溶融池に上方から所定の波長の温度計測用レーザ光(不図示)を照射した際の異なる2波長における放射を検出し、その強度に基づき溶融池の温度T4を算出する。なお、温度T4の計測は、レーザ光Lの照射が行われ溶融池が形成されている間リアルタイムで行われることが好ましい。
【0066】
なお、第4の計測装置40は、上述の構成に限定されるものではなく、第4のデータの種類に応じた計測方法に適合するように構成されるものである。また、第4のデータとして複数のデータを用いる場合、それに応じた数の計測装置が配置される。第4のデータとして、レーザ光Lの照射時に発生するスパッタの外観性状の画像データを用いる場合、例えば、チャンバ2の天井部にカメラを配置して照射時に溶融池の周辺に発生するスパッタを撮像することができる。
【0067】
5.判定部
次に、本実施形態に係る判定部91cによる積層造形装置1の運転状態の監視、固化層の造形状態の監視、及び造形状態の異常の要因の特定について説明する。
【0068】
5.1.運転状態の監視
第1から第4の計測装置10,20,30,40を用いた計測により得られた第1から第4のデータは、データ取得部97により取得されて判定部91cへと送られる。判定部91cは、第1から第3のデータに基づき積層造形装置1の運転状態の監視を行う。この際、記憶部91aに記憶されている第1から第3のデータに係る所定の閾値又は所定の許容範囲が利用される。当該閾値又は許容範囲は、材料粉体の種類、レーザ照射条件等の積層造形に必要な各種条件に応じて、例えば、積層造形の事前調査として行われる試験造形により決定することができる。
【0069】
図8A及び図8Bは、本実施形態に係る第1のデータの許容範囲を説明するための図である。チャンバウィンドウ21の温度T1は、低いほどフォーカスシフトが起こりにくく、レーザ光Lの照射状態として好ましい。従って、記憶部91aには、温度T1の許容範囲に対応する少なくとも上限値が閾値として記憶されるとよい。ここで、当該上限値は2段階で設定されている。具体的には、第1の上限値T1,max1及び第2の上限値T1,max2がT1,max1<T1,max2となるようにそれぞれが所定の値に設定され、記憶されている。判定部91cが上限値と温度T1を比較する際、第1の上限値T1,max1は、第2の上限値T1,max2よりも厳しい上限値となる。第2の上限値T1,max2は、例えば、運転状態の監視において、通常用いられる上限値である。ここで、図8A及び図8B図11は、図8A及び図8Bに示すチャンバウィンドウ21の温度T1と後述の図11で示す溶融池の温度T4が同じタイミングで取得されるので、同じ時間軸で示されている。
【0070】
データ取得部97から第1のデータとしてチャンバウィンドウ21の温度T1が判定部91cへと送られると、運転状態の監視を目的として、判定部91cは温度T1と記憶部91aに記憶されている上限値との比較を行う。ここで用いられる上限値は、図8Aに示すように、2段階のうちの第2の上限値T1,max2である。第2の上限値T1,max2は、例えば、運転状態の監視で通常用いられている上限値である。温度T1がT1≦T1,max2(正常値)である場合、判定部91cはレーザ光Lの照射状態の異常はないと判定する。一方、温度T1がT1,max2<T1(異常値)である場合、判定部91cは、後述される造形状態の監視とは関係なく、レーザ光Lの照射状態の異常があると判定する。
【0071】
図9A及び図9Bは、本実施形態に係る第2のデータの許容範囲を説明するための図である。チャンバ2内の不活性ガス中のヒューム濃度Cは、低いほどレーザ光Lの遮蔽が起こりにくく、不活性ガスの状態として好ましい。従って、記憶部91aには、ヒューム濃度Cの許容範囲に対応する少なくとも上限値が閾値として記憶されるとよい。ここで、当該上限値は2段階で設定されている。具体的には、第1の上限値Cmax1及び第2の上限値Cmax2がCmax1<Cmax2となるようにそれぞれが所定の値に設定され、記憶されている。判定部91cが上限値とヒューム濃度Cを比較する際に、第1の上限値Cmax1は、第2の上限値Cmax2よりも厳しい上限値となる。第2の上限値Cmax2は、例えば、運転状態の監視において、通常用いられる上限値である。ここで、図9A及び図9B図11は、図9A及び図9Bに示す不活性ガス中のヒューム濃度Cと後述の図11で示す溶融池の温度T4が同じタイミングで取得されるので、同じ時間軸で示されている。
【0072】
データ取得部97から第2のデータとしてチャンバ2内の不活性ガス中のヒューム濃度Cが判定部91cへと送られると、運転状態の監視を目的として、判定部91cはヒューム濃度Cと記憶部91aに記憶されている上限値との比較を行う。ここで用いられる上限値は、図9Aに示すように、2段階のうちの第2の上限値Cmax2である。第2の上限値Cmax2は、例えば、運転状態の監視で通常用いられている上限値である。ヒューム濃度CがC≦Cmax2(正常値)である場合、判定部91cは不活性ガスの状態の異常はないと判定する。一方、ヒューム濃度CがCmax2<C(異常値)である場合、判定部91cは、後述される造形状態の監視とは関係なく、不活性ガスの状態の異常があると判定する。
【0073】
図10A及び図10Bは、本実施形態に係る第3のデータの許容範囲を説明するための図である。材料層8の表面の均一性については、金属面の露呈箇所の数Nが少ないほど、材料層8の形成状態として好ましい。従って、記憶部91aには、金属面の露呈箇所の数Nの許容範囲に対応する少なくとも上限値が閾値として記憶されるとよい。ここで、当該上限値は2段階で設定されている。具体的には、第1の上限値Nmax1及び第2の上限値Nmax2がNmax1<Nmax2となるようにそれぞれ所定の値に設定され、記憶されている。判定部91cが上限値と金属面の露呈箇所の数Nを比較する際に、第1の上限値Nmax1は、第2の上限値Nmax2よりも厳しい上限値となる。第2の上限値Nmax2は、例えば、運転状態の監視において、通常用いられる上限値である。ここで、図10A及び図10Bは、金属面の露呈箇所の数Nが固化層の形成を開始するまでに取得されるので、後述の図11で示す溶融池の温度T4と異なる時間軸で示されている。
【0074】
データ取得部97から第3のデータとして金属面の露呈箇所の数Nが判定部91cへと送られると、運転状態の監視を目的として、判定部91cは金属面の露呈箇所の数Nと記憶部91aに記憶されている上限値との比較を行う。ここで用いられる上限値は、図10Aに示すように、2段階のうち第2の上限値Nmax2である。第2の上限値Nmax2は、例えば、運転状態の監視で通常用いられている上限値である。金属面の露呈箇所の数NがN≦Nmax2(正常値)である場合、判定部91cは材料層8の形成状態の異常はないと判定する。一方、金属面の露呈箇所の数NがNmax2<N(異常値)である場合、判定部91cは、後述される造形状態の監視とは関係なく、材料層8の形成状態の異常があると判定する。
【0075】
上述の積層造形装置1の各運転状態の異常の判定結果は、表示部92において表示されるとともに、数値制御部91の演算部91bへと送られる。
【0076】
5.2.造形状態の監視
判定部91cは、上述の運転状態の監視と並行して、第4のデータに基づき固化層の造形状態を監視する。この際、記憶部91aに記憶されている第4のデータに係る所定の閾値又は許容範囲が利用される。当該閾値又は許容範囲は、材料粉体の種類、レーザ照射条件等の積層造形に必要な各種条件に応じて、例えば、積層造形の事前調査として行われる試験造形により決定することができる。
【0077】
図11は、実施形態に係る第4のデータの許容範囲を説明するための図である。溶融池の温度T4は、高すぎても低すぎても固化層の形成不良が起こりやすくなる。従って、記憶部91aには、温度T4の許容範囲に対応する上限値及び下限値が記憶される。ここで、当該上限値及び下限値は、各々1つ設定されてもよいし、各々2段階で設定されてもよい。本実施形態においては、上限値として第1の上限値T4,max1及び第2の上限値T4,max2がT4,max1<T4,max2となるように設定され、下限値として第1の下限値T4,min1及び第2の下限値T4,min2がT4,min1>T4,min2となるように設定され、記憶されている。このような2段階のうちの第1の上限値T4,max1及び第1の下限値T4,min1としては、例えば、T4,min1≦T4≦T4,max1である場合、溶融池の温度T4が適正であり、このまま造形を継続しても固化層の形成不良が起こる可能性が十分に低いとみなせる上限値及び下限値を設定し得る。第2の上限値T4,max2及び第2の下限値T4,min2としては、例えば、T4<T4,min2、又はT4,max2<T4である場合、溶融池の温度T4が適正ではなく、固化層の形成不良が起こる可能性が高いとみなせる上限値及び下限値を設定し得る。
【0078】
温度T4がT4,min1≦T4≦T4,max1(正常値)である場合、判定部91cは、造形状態の異常は無いと判定する。また、温度T4が、T4<T4,min2、又はT4,max2<T4(異常値)である場合、判定部91cは、造形状態の異常があると判定する。
【0079】
上述のように上限値及び下限値を設定した場合、T4,min2≦T4<T4,min1(警告範囲)、又はT4,max1<T4≦T4,max2(警告範囲)である状態は、溶融池の温度T4を取得した時点での当該溶融池の温度T4は適正であり、当該取得した時点で固化層の形成不良が起きていないものの、このまま造形を継続すると固化層の形成不良が起こる可能性がある状態といえる。このような場合における造形状態の異常の有無の判定については、品質管理の方針に応じて様々な態様が考えられ、それに応じて判定部91cを適宜構成することができる。例えば、積層造形物に対してより信頼性の高い品質管理を行うために、温度T4が警告範囲にある場合も造形状態の異常があると判定するように判定部91cを構成してもよい。或いは、時系列に取得した温度T4が警告範囲にある状態が複数回連続した場合または所定時間連続した場合に造形状態の異常があると判定するように判定部91cを構成してもよい。或いは、警告範囲においては造形状態の異常は無いと判定し、表示部92に判定結果とともに警告を表示させるように判定部91cを構成してもよい。或いは、第4のデータとして先に例示したデータのうち2つ以上を用いる場合、第4のデータのうち1つのみが警告範囲にありそれ以外が正常範囲にある場合には造形状態の異常は無いと判定し、第4のデータのうち複数が警告範囲にありそれ以外が正常範囲にある場合には造形状態の異常があると判定するように判定部91cを構成してもよい。
【0080】
後述される造形状態の異常の要因を特定して得られた結果に基づき、例えば、1つの固化層の形成が完了したあと、動作をして保護ガラスの交換作業などを行う場合がある。温度T4が警告範囲にある場合も造形状態の異常があると判定するように判定部91cを構成すれば、固化層を形成している途中に温度T4が警告範囲にあったとしても、温度T4が異常範囲になる前に固化層の形成を完了することもできる。なお後述される造形状態の異常の要因を特定して得られた結果に基づき、例えば、動作指令値などのように固化層の形成途中でも補正が可能なものであれば、警告範囲を省略することも可能である。
【0081】
上述の固化層の造形状態の異常の判定結果は、表示部92において表示されるとともに、数値制御部91の演算部91bへと送られる。
【0082】
5.3.造形状態の異常の要因の特定
判定部91cは、造形状態の異常があると判定した場合、第1から第3のデータのうちの少なくとも1つに基づき、積層造形装置1の運転状態から当該異常の要因を特定する。本実施形態においては、第1から第3のデータ全てに基づき、要因の特定を行う。
【0083】
判定部91cは、第1のデータに基づき、レーザ光Lの照射状態が造形状態の異常の要因となり得るかどうかの判定を行う。この際、チャンバウィンドウ21の温度T1と記憶部91aに記憶されている上限値との比較が行われ、図8Bに示すように、2段階のうちのより厳しい上限値である第1の上限値T1,max1が用いられる。温度T1がT1≦T1,max1(正常値)である場合、チャンバウィンドウ21の温度T1が造形状態の異常の要因である可能性は低く、判定部91cは、レーザ光Lの照射状態の異常は無いと判定する。一方、温度T1がT1,max1<T1(異常値)である場合、チャンバウィンドウ21の温度T1が造形状態の異常に寄与している可能性が高く、判定部91cは、レーザ光Lの照射状態の異常があると判定する。
【0084】
さらに、判定部91cは、第2のデータに基づき、不活性ガスの状態が造形状態の異常の要因となり得るかどうかの判定を行う。この際、不活性ガス中のヒューム濃度Cと記憶部91aに記憶されている上限値との比較が行われ、図9Bに示すように、2段階のうちのより厳しい上限値である第1の上限値Cmax1が用いられる。ヒューム濃度CがC≦Cmax1(正常値)である場合、不活性ガス中のヒューム濃度Cが造形状態の異常の要因である可能性は低く、判定部91cは、不活性ガスの状態の異常は無いと判定する。一方、ヒューム濃度CがCmax1<C(異常値)である場合、不活性ガス中のヒューム濃度Cが造形状態の異常に寄与している可能性が高く、判定部91cは、不活性ガスの状態の異常があると判定する。
【0085】
さらに、判定部91cは、第3のデータに基づき、材料層8の形成状態が造形状態の異常の要因となり得るかどうかの判定を行う。この際、金属面の露呈箇所の数Nと記憶部91aに記憶されている上限値との比較が行われ、図10Bに示すように、2段階のうちのより厳しい上限値である第1の上限値Nmax1が用いられる。金属面の露呈箇所の数NがN≦Nmax1(正常値)である場合、表面の均一性が造形状態の異常の要因である可能性は低く、判定部91cは、材料層8の形成状態の異常は無いと判定する。一方、金属面の露呈箇所の数NがNmax1<N(異常値)である場合、表面の均一性が造形状態の異常に寄与している可能性が高く、判定部91cは、材料層8の形成状態の異常があると判定する。
【0086】
異常があると判定された運転状態は、造形状態の異常の要因である可能性が高いものとして表示部92に表示されるとともに、判定結果が数値制御部91の演算部91bへと送られる。
【0087】
上述のように、本実施形態に係る判定部91cは、運転状態の監視においては、2段階で設定された閾値又は許容範囲のうちの通常用いられる閾値又は許容範囲を用いて第1から第3のデータとの比較を行い運転状態の異常の有無を判定する。また、このような運転状態の監視と並行して、第4のデータに基づき造形状態の監視が行われる。造形状態の異常があると判定された場合、2段階で設定された閾値又は許容範囲のうちのより厳しいものを用いて第1から第3のデータとの比較を行い、造形状態の異常の要因としての観点から運転状態の異常の有無を判定し、要因である可能性が高い運転状態を特定する。
【0088】
積層造形の過程においては、各運転状態における変化が組み合わさることで造形状態の異常が発生する、又は異常の程度が増大する場合がある。例えば、チャンバウィンドウ21の昇温に伴ってレーザ光Lのビーム径が大きくなることでフォーカスシフトが起こり、さらに、チャンバ2内の不活性ガス中のヒュームの一部によりレーザ光Lが遮蔽されてレーザパワーが減衰することで、材料層8の表面に照射されるレーザ光Lのエネルギー密度が低下して当該エネルギー密度が不十分となり溶融又は焼結の不良が発生する可能性がある。つまり、各運転状態(上述の例においては、チャンバウィンドウ21の温度T1及び不活性ガス中のヒューム濃度C)に着目すると変化が小さく正常とみなせても、当該変化が組み合わさり結果として造形状態の異常が発生する可能性がある。
【0089】
運転状態の監視のみに基づく制御においては、各運転状態の異常の判定に用いる閾値又は許容範囲をより厳しくすることで、上述のような事態を回避することが可能である。一方、閾値又は許容範囲を厳しくし過ぎると、造形状態の異常が実際には発生していないのに運転状態が異常と判定される事象が頻発し、異常対応のための積層造形の中断等により生産効率が低下するおそれがある。
【0090】
本実施形態に係る積層造形装置1においては、運転状態の監視と並行して造形状態の監視を行う。これにより、各運転状態の変化が唯一の要因として発生する造形状態の異常に加え、当該変化が組み合わさることで発生する造形状態の異常を検知することができる。このように、造形状態において実際に発生した異常が検知可能となることで、より確実に不良品の発生を抑制可能となるとともに、運転状態の監視において異常の判定に用いる閾値又は許容範囲を必要以上に厳しく設定する必要がないため、生産効率の低下を回避することができる。
【0091】
また、本実施形態に係る積層造形装置1においては、造形状態の異常があると判定された場合に、運転状態に係るデータに基づき当該異常の要因を特定する。これにより、要因特定における試行錯誤が軽減され、早期に適切な対応を行うことが可能となる。この際、運転状態の監視のために用いる閾値又は許容範囲よりも厳しい閾値又は許容範囲を用いて比較を行うことで、造形状態の異常の要因について、運転状態における変化が組み合わさることで異常が発生している場合も考慮に入れた検討が可能となる。
【0092】
なお、判定部91cによる積層造形装置1の運転状態の監視、固化層の造形状態の監視、及び造形状態の異常の要因の特定の態様は上述の実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が想定される。上述の実施形態では、判定部91cにおいて、各計測装置から取得した第1から第4のデータをそのまま用いて閾値又は許容範囲との比較を行った。判定部91cの構成はこれに限定されるものではなく、例えば、判定部91cにおいて必要に応じて所定の数式を用いてデータから他のデータを算出するなどのデータの処理を行ってから、算出したデータを閾値又は許容範囲と比較するように構成してもよい。例えば、第1のデータとしてレーザ光Lのレーザパワー、レーザ光Lの走査速度、及びレーザ光Lのビーム径を取得する場合、これらのデータから材料層8の表面におけるレーザ光Lのエネルギー密度を算出し、算出したエネルギー密度を記憶部91aに記憶される閾値又は許容範囲と比較し、レーザ光Lの照射状態の異常の有無を判定してもよい。
【0093】
6.積層造形物の製造方法
次に、本実施形態に係る積層造形装置1を用いた積層造形物の造形方法について説明する。
【0094】
図12に示すように、積層造形物の製造と並行して、第1から第3のデータに基づく運転状態の監視が行われる。積層造形装置1が積層造形を開始すると、ベースプレート6が載置された造形テーブル5が下降して適切な位置に調整される(ステップS1-1)。この状態で、図1のように造形領域Rの右側で待機しているリコータヘッド32を矢印H方向に造形領域Rの右側から左側に移動させたあと、図2に示すように再び造形領域Rの左側で待機させるようにすることにより、材料層8が形成される(ステップS1-2)。さらに、材料層8の所定の箇所にレーザ光Lを照射することによって材料層8を固化させる(ステップS1-3)。
【0095】
このような積層造形物の製造と並行して、積層造形装置1運転状態の監視が行われる。第1の計測装置10は、積層造形物を製造している間、第1のデータに係るチャンバウィンドウ21の温度T1の計測を行う。或いはステップS1-3と並行して、第1の計測装置10は、第1のデータに係るチャンバウィンドウ21の温度T1の計測を行うようにしてもよい(不図示)。データ取得部97は、第1のデータをリアルタイムで取得する(ステップS2-1)。第1のデータは判定部91cへと送られ、判定部91cは、温度T1を第2の上限値T1,max2と比較し、レーザ光Lの照射状態の異常の有無を判定する(ステップS2-2)。
【0096】
レーザ光Lの照射状態の異常があると判定された場合、異常を解消するための対応を行う(ステップS2-3,S2-4)。当該対応は、例えば、レーザ光Lの照射中に行う対応(ステップS2-3)と、1層分の固化層の造形が完了したあとに行う対応(S2-4)がある。当該対応として、例えば、レーザ光Lの照射中に熱レンズ効果によるフォーカスシフトの程度に応じてレーザ照射装置7の可動レンズ73b1を移動させ、焦点位置を補正することも可能である(ステップS2-3)。また例えば、1層分の固化層の造形が完了した時点で造形を一時停止し、ヒュームの付着等により熱レンズ効果が発生しているチャンバウィンドウ21を交換することが可能である(ステップS2-4)。
【0097】
積層造形の開始と同時に、第2の計測装置20は、第2のデータに係るチャンバ2内の不活性ガス中のヒューム濃度Cの計測を開始する。データ取得部97は、第2のデータをリアルタイムで取得する(ステップS3-1)。第2のデータは判定部91cへと送られ、判定部91cは、ヒューム濃度Cを第2の上限値Cmax2と比較し、不活性ガスの状態の異常の有無を判定する(ステップS3-2)。
【0098】
不活性ガスの状態の異常があると判定された場合、異常を解消するための対応を行う(ステップS3-3,S3-4)。当該対応は、例えば、レーザ光Lの照射中に行う対応(ステップS3-3)と、1層分の固化層の造形が完了したあとに行う対応(S3-4)がある。当該対応として、チャンバ2内の不活性ガス中のヒューム濃度Cを低減するために、以下のことを行う。例えば、材料層8にレーザ光Lを照射して1つの固化層を形成する領域を複数の領域に分割し、当該分割した領域に順番にレーザ光Lを照射する中で、1つの分割した領域にレーザ光Lを照射したあとからつぎの分割した領域にレーザ光Lを照射するまでの間に所定の時間だけレーザ光Lの照射を一時休止させる(ステップS3-3)。また例えば、ヒュームコレクタ12として用いられる集塵機のフィルタが複数台設けられている場合には、レーザ光Lの照射中に自動でフィルタの切り替えを行う(ステップS3-3)。また例えば、ヒューム濃度Cの上昇により材料層8の表面に到達するレーザ光Lのエネルギーが低下するため、それを補うためにレーザ光Lの出力設定をレーザ光Lの照射中に調整することも可能である(ステップS3-3)。また例えば、1層分の固化層の造形が完了した時点で、ヒュームコレクタ12として用いられる集塵機のフィルタを交換する(ステップS3-4)。また例えば、ヒュームコレクタ12が複数台設けられている場合には、1層分の固化層の造形が完了した時点で切り替えを行うことも可能である(ステップS3-4)。
【0099】
ステップS1-2によって材料層8の形成が完了したあと、第3の計測装置30は、第3のデータに係る材料層8の表面における金属面の露呈箇所の数Nの計測を行う。データ取得部97は、第3のデータを取得する(ステップS4-1)。第3のデータは判定部91cへと送られ、判定部91cは、金属面の露呈箇所の数Nを第2の上限値Nmax2と比較し、材料層8の形成状態の異常の有無を判定する(ステップS4-2)。
【0100】
材料層8の形成状態の異常があると判定された場合、異常を解消するための対応を行う(ステップS4-3)。当該対応は、例えば、材料層8の形成が完了したあとに行われる(S4-3)。当該対応として、材料層8の形成状態の不良の再発を抑制するために所定の動作を行った後に、再度リコータヘッド32を移動させて材料層8を形成し直すことが可能である(ステップS4-3)。当該所定の動作として、例えば、材料粉体が湿気の吸収等により流動性が低下し材料排出口32cからの供給が滞っている場合には、リコータヘッド32を矢印H方向の前後に素早く移動させることで振動させ、これにより材料収容部32a内の材料粉体の凝集又は詰まりを解消して排出を促進させることが可能である。また、当該所定の動作として、例えば、2層目以降の材料層の形成時において、材料層直下の固化層の表面に突起等が存在することで材料層が不均一となっている場合には、固化層の切削加工などの機械加工を行う機械加工装置により突起等を削ることが可能である。
【0101】
図13に示すように、積層造形物の製造と並行して、固化層の造形状態の監視、及び造形状態の異常の要因の特定が行われる。ステップS1-3と並行して、第4の計測装置40は、第4のデータに係る溶融池の温度T4の計測を行う。データ取得部97は、第4のデータをリアルタイムで取得する(ステップS5-1)。第4のデータは判定部91cへと送られ、判定部91cは、溶融池の温度T4を上限値及び下限値で規定される許容範囲と比較し、リアルタイムで造形状態の異常の有無を判定する(ステップS5-2)。
【0102】
造形状態の異常があると判定された場合、判定部91cは、データ取得部97がステップS2-1,3-1,4-1で取得した第1から第3のデータに基づき、当該異常の要因の特定を行う。具体的には、チャンバウィンドウ21の温度T1を第1の上限値T1,max1と比較してレーザ光Lの照射状態の異常の有無を判定する(ステップS5-3)。レーザ光Lの照射状態の異常があると判定された場合、異常を解消するための対応を行う(ステップS5-4,S5-5)。当該対応としては、ステップS2-3,S2-4と同様のものが想定される。
【0103】
さらに、チャンバ2内のヒューム濃度Cを第1の上限値Cmax1と比較し、不活性ガスの状態の異常の有無を判定する(ステップS5-6)。不活性ガスの状態の異常があると判定された場合、異常を解消するための対応を行う(ステップS5-7,S5-8)。当該対応としては、ステップS3-3,S3-4と同様のものが想定される。
【0104】
さらに、金属面の露呈箇所の数Nを第1の上限値Nmax1と比較し、材料層8の形成状態の異常の有無を判定する(ステップS5-9)。材料層8の形成状態の異常があると判定された場合、異常を解消するための対応を行う(ステップS5-10)。当該対応としては、例えば、つぎの材料層8を形成するときから対応することになるが、積層造形装置1の運転状態の監視のうちの材料層8の形成状態の監視で通常用いられている上限値を厳しい値に補正して、材料層8の均一性を向上させることなどが想定される。例えば、第2の上限値Nmax2の値を低くするように補正するとよい。
【0105】
運転状態及び造形状態が正常である場合、又は上述のような対応を行って異常を解消した後に1層目の固化層の造形が完了した場合、造形テーブル5を材料層の1層分下降させる(ステップS1-1)。続いて、上述と同様の方法を繰り返して2層目以降の造形が行われる。なお、ステップS1-2における本実施形態のリコータヘッド32は、材料層8の形成を開始する際に造形領域Rの右側で待機している場合には造形領域Rの右側から左側に移動して材料層8を形成したあと造形領域Rの左側で再び待機し、材料層8の形成を開始する際に造形領域Rの左側で待機している場合には造形領域Rの左側から右側に移動して材料層8を形成したあと造形領域Rの右側で再び待機する。積層造形の完了後は、未固化の材料粉体及び切削屑を排出することによって、積層造形物を得ることができる。
【0106】
なお、図13においては説明の便宜上ステップS5-3,S5-6,S5-9をこの順で直列的に示したが、造形状態の異常の要因の特定の手順はこれに限定されるものではない。図13と異なる順序でこれらのステップを実行してもよいし、並列的に実行してもよい。
【0107】
また、異常があると判定された場合の対応として行われる、積層造形装置1を構成する各装置の動作の停止、所定の動作、動作のやり直し、設定の補正、及び動作指令値の補正は、レーザ光Lの照射による固化層の造形中に行っても、ある固化層の造形が完了したあと次の層の造形が開始するまでの間に行われてもよい。また、上述のような対応は、手動又は自動で行う場合の双方が想定される。手動の場合、表示部92に表示される運転状態の異常の判定結果、造形状態の異常の判定結果、及び造形状態の異常の要因の特定結果に基づき、積層造形装置1のオペレータが適宜対応を行う。自動の場合、判定部91cから送られる判定結果等、及びデータ取得部97から送られる第1から第3のデータのうちの少なくとも1つに基づき、数値制御部91の演算部91bが動作指令に係る補正値を算出するように構成してもよい。また、当該補正値の算出を積層造形装置1の動作中にリアルタイムで行い、積層造形装置1を構成する各装置の制御部に補正された動作指令を出力してもよい。また自動の場合、判定部91cから送られる判定結果に基づき、積層造形装置1を構成する各装置の動作の停止、所定の動作、動作のやり直しが行われてもよい。
【0108】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能なものである。
【符号の説明】
【0109】
1:積層造形装置、2:チャンバ、2a:第1の供給口、2b:第3の供給口、2c:第4の供給口、2d:第1の排出口、2e:造形空間、3:材料層形成装置、5:造形テーブル、6:ベースプレート、7:レーザ照射装置、8:材料層、9:制御装置、10:第1の計測装置、11:不活性ガス供給装置、12:ヒュームコレクタ、13:ダクトボックス、14:ダクトボックス、17:ヒューム拡散部、17a:筐体、17b:開口部、17c:拡散部材、17d:不活性ガス供給空間、17e:細孔、17f:清浄室、20:第2の計測装置、20a:吸気口、20b:粉塵計、21:チャンバウィンドウ、26:粉体保持壁、30:第3の計測装置、30a:CCDカメラ、31:ベース、32:リコータヘッド、32a:材料収容部、32b:材料供給口、32c:材料排出口、32fb:ブレード、32fs:第2の供給口、32rb:ブレード、32rs:第2の排出口、33:リコータヘッド駆動機構、33a:モータ、40:第4の計測装置、41:CAD装置、42:CAM装置、51:造形テーブル駆動機構、72:レーザ発振器、73:ガルバノユニット、73a:コリメータ、73a1:コリメータレンズ、73b:フォーカス制御ユニット、73b1:可動レンズ、73b2:集光レンズ、73c:走査装置、73c1:第1ガルバノミラー、73c2:第2ガルバノミラー、91:数値制御部、91a:記憶部、91b:演算部、91c:判定部、92:表示部、93:レーザ制御部、94:リコータヘッド制御部、95:造形テーブル制御部、96:不活性ガス系統制御部、97:データ取得部、L:レーザ光、R:造形領域
図1
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