(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】硬組織補修用組成物及び硬組織補修用キット
(51)【国際特許分類】
A61L 24/06 20060101AFI20220628BHJP
A61L 24/00 20060101ALI20220628BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20220628BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20220628BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
A61L24/06
A61L24/00 210
A61L27/54
A61L27/50
A61L27/16
(21)【出願番号】P 2020508153
(86)(22)【出願日】2019-03-05
(86)【国際出願番号】 JP2019008554
(87)【国際公開番号】W WO2019181477
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2020-09-17
(31)【優先権主張番号】P 2018053013
(32)【優先日】2018-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018112503
(32)【優先日】2018-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018200808
(32)【優先日】2018-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 伸也
(72)【発明者】
【氏名】楊 晶晶
(72)【発明者】
【氏名】中川 亜弥
(72)【発明者】
【氏名】後藤 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】三浦 高
(72)【発明者】
【氏名】坂東 綾子
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/062227(WO,A1)
【文献】特開2007-054619(JP,A)
【文献】特表2013-535532(JP,A)
【文献】特開2008-013588(JP,A)
【文献】特開2014-237821(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 24/00
A61L 27/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノマー(A)、重合体粉末(B)及び重合開始剤(C)を含む硬組織補修用組成物であって、
モノマー(A)が、(メタ)アクリレート系単量体であり、
重合体粉末(B)が、アスペクト比が1.10以上の
(メタ)アクリレート系重合体粉末である重合体粉末(B-x)を含み、
硬組織補修用組成物に含まれる各成分のうち粉末粒子全体におけるアスペクト比が1.00以上1.10未満の粉末粒子の累積比率が75累積%以下である硬組織補修用組成物。
【請求項2】
硬組織補修用組成物に含まれる各成分のうち粉末粒子全体におけるアスペクト比が1.00以上1.10未満の粉末粒子の累積比率が2.5~65累積%である請求項1に記載の硬組織補修用組成物。
【請求項3】
重合体粉末(B)が、アスペクト比が1.10以上1.90以下の重合体粉末(B-x)を含み、重合体粉末(B)全体のアスペクト比が1.11以上1.80以下である請求項1に記載の硬組織補修用組成物。
【請求項4】
重合開始剤(C)が有機ホウ素化合物(c1)を含む請求項1に記載の硬組織補修用組成物。
【請求項5】
モノマー(A)10~45質量部、重合体粉末(B)54.9~80質量部、及び重合開始剤(C)0.1~10質量部(成分(A)~(C)の合計を100質量部とする)を含む請求項1に記載の硬組織補修用組成物。
【請求項6】
造影剤(X)をさらに含む請求項1に記載の硬組織補修用組成物。
【請求項7】
造影剤(X)の配合量が0.01~70質量部(成分(A)~(C)の合計を100質量部とする)である請求項8に記載の硬組織補修用組成物。
【請求項8】
抗菌薬粒子(Y)をさらに含む請求項1に記載の硬組織補修用組成物。
【請求項9】
抗菌薬粒子(Y)の配合量が0.01~30質量部(成分(A)~(C)の合計を100質量部とする)である請求項
8に記載の硬組織補修用組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の硬組織補修用組成物に含まれるモノマー(A)、重合体粉末(B)及び重合開始剤(C)の各成分が、任意の組合せで3つ以上に分割されて収容された部材を有する硬組織補修用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬組織補修用組成物に要求される諸特性(例えば、人工関節等の被着物との密着性、海綿骨等の被着物への侵入性、溶出モノマー量の低減)に優れた硬組織補修用組成物及び硬組織補修用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、骨、軟骨等の硬組織と人工関節との固定用の骨セメント、又は、骨粗しょう症治療用等の用途に用いる骨充填剤や人工骨材料として、様々な硬組織補修用組成物が検討されてきている。例えば、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート、及び過酸化ベンゾイル(重合開始剤)を含む組成物や、(メタ)アクリレート、リン酸カルシウム等の無機フィラー、及び有機過酸化物を含む組成物が検討されてきている(例えば特許文献1)。しかし、このような組成物は硬化時の発熱が大きく、患部組織に損傷を与える危険性が大きい。
【0003】
この点を改良した硬組織補修用組成物として、例えば特許文献2には、(メタ)アクリレート(A)、(メタ)アクリレート重合体(B)、及び特定の重合開始剤(C)を含む硬組織補修用組成物が開示されている。この組成物は硬化時の発熱が小さく、しかも作業性に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-224294号公報
【文献】国際公開第2011/062227号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
硬組織補修用組成物を例えば人工関節と骨との固定に使用する場合、硬化前の軟塊(生地)状態の硬組織補修用組成物を髄腔内に埋植し、加圧及び変形させ、その後完全に硬化(重合)させる。
【0006】
硬組織補修用組成物は、通常、使用の現場(例えば施術の現場)において、使用直前に複数の成分を混合することにより調製される。この混合直後の硬組織補修用組成物はスラリー状であり、使用者(例えば施術者)のラテックス製手袋に糸引き状に付着する。そして調製後しばらく経つと、硬組織補修用組成物は軟塊(生地)状態になる。この軟塊(生地)状態になる時点は、具体的には、使用者のラテックス製手袋に糸引き状に付着しなくなった時点として定性的に識別されている。この軟塊(生地)状態になった硬組織補修用組成物は、適度な粘度と流動性を有するので取扱い易く、埋植後も良好な固定力を発現する。
【0007】
硬組織補修用組成物は、以上説明した軟塊(生地)状態になった段階で使用されるのが一般的である。硬組織補修用組成物が軟塊(生地)状態になることは、通常、「生地化」と言われ、軟塊(生地)状態になるまでの時間は、通常、「生地化時間(dough time)」と言われている。
【0008】
生地化時間が長い硬組織補修用組成物は、作業効率の点で劣る。また、生地化していない状態の硬組織補修用組成物は、取扱いにくい。しかも、生地化していない状態の硬組織補修用組成物を例えば髄腔内に埋植した場合は、組成物が人工関節と骨との固定に好適な形状を保持できず、組成物と人工関節及び/又は骨組織との界面に隙間が生じ、その結果、人工関節の固定が不十分となる恐れがある。この不十分な固定によって人工関節の緩みや摩耗が生じ易くなり、患者の痛みや感染の要因になると考えられる。また、人工関節の再置換術が必要となる場合は、患者の身体的負担は大きい。したがって、生地化した硬組織補修用組成物と人工関節との密着性及び骨組織への侵入性が悪いことは、患者の安全確保や負担低減の点から好ましくない。
【0009】
また本発明者らは、骨組織とのマクロ的な密着性の点において、従来の硬組織補修用組成物は改善の余地があると考えた。例えば、骨セメント(硬組織補修用組成物)の海綿骨への侵入性が悪いと、骨との界面に隙間が生じて骨融解による痛みが発生し、悪化すると再置換術が必要になってしまう。
【0010】
さらに、硬組織補修用組成物に含まれる未重合のモノマー成分は、重合物中に残留し、生体内に溶出してしまう可能性が常にある。例えば、硬組織補修用組成物中の残留モノマーが生体内に溶出すると、これが生体の組織や細胞に為害性を示し、しかも血圧降下を引き起こすことが知られている。特に、施術時の別の原因に起因する血圧降下に加えて、生体内に溶出したモノマーに起因する血圧降下作用が生じると、不整脈や心筋の虚血を引き起こすおそれがある。このように溶出モノマー量が多いことは、使用時(施術時)及び使用後(施術後)の患者の安全確保の点から好ましくない。
【0011】
本発明の目的は、硬組織補修用組成物に要求される諸特性(例えば、人工関節等の被着物との密着性、海綿骨等の被着物への侵入性、溶出モノマー量の低減)に優れた硬組織補修用組成物及び硬組織補修用キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決する為に鋭意検討した結果、アスペクト比が特定範囲内にある重合体粉末を含む重合体粉末(B)を用い、硬組織補修用組成物の粒子全体のアスペクト比の累積比率を好適化することが非常に有効であることを見出し、本発明を完成した。すなわち本発明は、以下の事項により特定される。
【0013】
[1]モノマー(A)、重合体粉末(B)及び重合開始剤(C)を含む硬組織補修用組成物であって、
重合体粉末(B)が、アスペクト比が1.10以上の重合体粉末(B-x)を含み、
硬組織補修用組成物に含まれる各成分のうち粉末粒子全体におけるアスペクト比が1.00以上1.10未満の粉末粒子の累積比率が75累積%以下である硬組織補修用組成物。
【0014】
[2]硬組織補修用組成物に含まれる各成分のうち粉末粒子全体におけるアスペクト比が1.00以上1.10未満の粉末粒子の累積比率が2.5~65累積%である[1]に記載の硬組織補修用組成物。
【0015】
[3]重合体粉末(B)が、アスペクト比が1.10以上1.90以下の重合体粉末(B-x)を含み、重合体粉末(B)全体のアスペクト比が1.11以上1.80以下である[1]に記載の硬組織補修用組成物。
【0016】
[4]モノマー(A)が、(メタ)アクリレート系単量体である[1]に記載の硬組織補修用組成物。
【0017】
[5]重合体粉末(B)が、(メタ)アクリレート系重合体粉末である[1]に記載の硬組織補修用組成物。
【0018】
[6]重合開始剤(C)が有機ホウ素化合物(c1)を含む[1]に記載の硬組織補修用組成物。
【0019】
[7]モノマー(A)10~45質量部、重合体粉末(B)54.9~80質量部、及び重合開始剤(C)0.1~10質量部(成分(A)~(C)の合計を100質量部とする)を含む[1]に記載の硬組織補修用組成物。
【0020】
[8]造影剤(X)をさらに含む[1]に記載の硬組織補修用組成物。
【0021】
[9]造影剤(X)の配合量が0.01~70質量部(成分(A)~(C)の合計を100質量部とする)である[8]に記載の硬組織補修用組成物。
【0022】
[10]抗菌薬粒子(Y)をさらに含む[1]に記載の硬組織補修用組成物。
【0023】
[11]抗菌薬粒子(Y)の配合量が0.01~30質量部(成分(A)~(C)の合計を100質量部とする)である[10]に記載の硬組織補修用組成物。
【0024】
[12][1]に記載の硬組織補修用組成物に含まれるモノマー(A)、重合体粉末(B)及び重合開始剤(C)の各成分が、任意の組合せで3つ以上に分割されて収容された部材を有する硬組織補修用キット。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、硬組織補修用組成物に要求される諸特性(例えば、人工関節等の被着物との密着性、海綿骨等の被着物への侵入性、溶出モノマー量の低減)に優れた硬組織補修用組成物及び硬組織補修用キットを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[モノマー(A)]
本発明に用いるモノマー(A)は特に制限されず、後述する重合開始剤(C)により重合可能なモノマーであれば良い。モノマー(A)は、使用目的に応じて単官能モノマー、多官能モノマーの何れも使用できる。
【0027】
モノマー(A)としては、例えば、(メタ)アクリレート系単量体及びその他のビニル化合物を使用できる。中でも、人体への刺激が比較的低い点から(メタ)アクリレート系単量体が好ましい。本発明において「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートの総称である。また一般に、酸性基を有するモノマーは、硬組織への接着性が優れており、さらに後述する脱錯化剤として作用し、重合開始剤(C)としてアルキルボラン・アミン錯体を用いる場合に酸性基を有するモノマーを用いることで重合反応の開始を可能にすることもできる。したがって、例えば、酸性基を持たない(メタ)アクリレート系単量体に対して、酸性基を有するモノマーを適量併用して接着性を向上させることもできる。
【0028】
酸性基を持たない単官能(メタ)アクリレート系単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5-ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、1,2-ジヒドロキシプロピルモノ(メタ)アクリレート、1,3-ジヒドロキシプロピルモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル;ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;エチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート等の(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート;パーフルオロオクチル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステル;γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリ(トリメチルシロキシ)シラン等の(メタ)アクリロキシアルキル基を有するシラン化合物;テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等の複素環を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0029】
酸性基を持たない多官能(メタ)アクリレート系単量体の具体例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、へキシレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等のアルカンポリオールのポリ(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等のポリオキシアルカンポリオールポリ(メタ)アクリレート;下記一般式(1)で表される脂環系又は芳香族ジ(メタ)アクリレート
【0030】
【化1】
(式(1)中、Rは水素原子又はメチル基であり、m及びnは各々独立して0~10の数であり、R
1は、
【0031】
【0032】
下記一般式(2)で表される脂環系又は芳香族エポキシジ(メタ)アクリレート
【0033】
【化3】
(式(2)中、R、n及びR
1は、前記式(1)中のR、n及びR
1と同じである);
【0034】
下記式(3)で表される分子中にウレタン結合を有する多官能(メタ)アクリレート
【0035】
【化4】
(式(3)中、Rは前記式(1)中のRと同じであり、R
2は、
【0036】
【0037】
以上の例示化合物のうち、単官能(メタ)アクリレート系単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸アルキル;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、1,3-ジヒドロキシプロピルモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル;トリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0038】
以上の例示化合物のうち、多官能(メタ)アクリレート系単量体としては、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の分子内にエチレングリコール鎖を有するジ(メタ)アクリレート;下記式(1)-aで表される化合物
【0039】
【化6】
(式(1)-a中、R、m及びnは、前記式(1)中のR、m及びnと同じである);
【0040】
下記式(2)-aで表される化合物
【0041】
【化7】
(式(2)-a中、Rは、前記式(1)中のRと同じである);
【0042】
下記式(3)-aで表される化合物
【0043】
【化8】
(式(3)-a中、Rは、前記式(1)中のRと同じである);
が好ましい。
【0044】
これら(メタ)アクリレート系単量体は2種以上を併用しても良い。
【0045】
酸性基を有するモノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸及びその無水物、1,4-ジ(メタ)アクリロキシエチルピロメリット酸、6-(メタ)アクリロキシエチルナフタレン1,2,6-トリカルボン酸、N-(メタ)アクリロイル-p-アミノ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-o-アミノ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-m-アミノ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-5-アミノサリチル酸、N-(メタ)アクリロイル-4-アミノサリチル酸、4-(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸及びその無水物、4-(メタ)アクリロキシブチルトリメリット酸及びその無水物、4-(メタ)アクリロキシヘキシルトリメリット酸及びその無水物、4-(メタ)アクリロキシデシルトリメリット酸及びその無水物、2-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレエート、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、11-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸、p-ビニル安息香酸等のカルボン酸基又はその無水物基を有するモノマー;(2-(メタ)アクリロキシエチル)ホスホリック酸、(2-(メタ)アクリロキシエチルフェニル)ホスホリック酸、10-(メタ)アクリロキシデシルホスホリック酸等の燐酸基を有するモノマー;p-スチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸基を有するモノマーが挙げられる。中でも、4-メタアクリロキシエチルトリメリット酸及びその無水物が好ましい。
【0046】
これら酸性基を有するモノマーは2種以上を併用しても良い。また、酸性基を有するモノマーはカルシウム塩としても使用できる。
【0047】
モノマー(A)の配合量は、好ましくは10~45質量部、より好ましくは20~45質量部、より好ましくは25~36質量部(成分(A)~(C)の合計を100質量部とする)である。上記各範囲の下限値は、塗布の容易性や操作性、骨組織内への侵入性等の特性の発現の点で意義がある。上限値は、接着強度、機械物性、靭性等の特性の発現の点、及び/又は、残留モノマー量及び/又は溶出モノマー量を低減できる点で意義がある。モノマー(A)が酸性基を有するモノマーを含む場合、酸性基を有するモノマーの量は、モノマー(A)合計100質量%に対して好ましくは0.005~30質量%、より好ましくは0.01~25質量%である。ただし、この酸性基を有するモノマーの使用は任意であり、本発明の硬組織補修用組成物は酸性基を有するモノマーを含んでいても良いし、含んでいなくても良い。
【0048】
[重合体粉末(B)]
【0049】
本発明に用いる重合体粉末(B)の種類は特に限定されないが、重合体粉末(B)を構成する単量体単位の一部又は全部が、先に説明したモノマー(A)中の一部のモノマー又は全部のモノマーと同じ種類のモノマーに起因する単量体単位であることが好ましい。本発明において「重合体」は、単独重合体及び共重合体の総称である。重合体粉末(B)としては、例えば、(メタ)アクリレート系重合体及びその他のビニル系重合体を使用できる。中でも、(メタ)アクリレート系重合体が好ましい。
【0050】
(メタ)アクリレート系重合体の具体例としては、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート・エチル(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート・ブチル(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート・スチレン共重合体等の非架橋重合体;メチル(メタ)アクリレート・エチレングリコールジ(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート・トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート共重合体、(メタ)アクリル酸メチルとブタジエン系モノマーとの共重合体等の架橋重合体及び部分的にカルシウム塩を形成している重合体が挙げられる。また、金属酸化物又は金属塩が非架橋重合体又は架橋重合体で被覆された有機・無機複合体であっても良い。
【0051】
重合体粉末(B)は1種の重合体粉末を単独で用いても良いし、複数種の重合体粉末の混合物を用いても良い。
【0052】
本発明においては、重合体粉末(B)がアスペクト比が1.10以上の重合体粉末(B-x)を含み、硬組織補修用組成物に含まれる各成分のうち粉末粒子全体におけるアスペクト比が1.00以上1.10未満の粉末粒子の累積比率が75累積%以下である。本発明における諸特性(例えば、人工関節等の被着物との密着性、海綿骨等の被着物への侵入性、溶出モノマー量の低減)についての効果は、主として、これらに起因して発現する。
【0053】
本発明において「密着性」とは、人工関節や骨組織等の被着物に対する硬組織補修用組成物の接着力及び/又は密着力を意味する。例えば人工関節等の被着物が金属から成る場合であっても、本発明の硬組織補修用組成物は優れた密着性を発現する。ただし、被着物の種類はこれに限定されない。本発明の硬組織補修用組成物は、例えば、硬組織同士の接着、硬組織内への充填、硬組織と金属製人工物との接着及び/又は密着、硬組織と軟組織等の他の組織との接着及び/又は密着、骨、軟骨等の硬組織と人工関節との固定用に用いる骨セメント、骨の欠損部への充填材、骨補填材、人工骨等の用途においても優れた密着性を発現する。以下、本発明の効果が得られる理由について説明する。
【0054】
(人工関節等の被着物との密着性)
一般に、重合体粉末(B)の分子構造は、モノマー(A)の分子構造と類似しているので、重合体粉末(B)がモノマー(A)に一部溶解する。したがって、その混合液は、重合反応に伴う増粘のみの場合と比較して早く増粘する。また、一般に混合液の粘性が高くなると成長ラジカル種同士の停止反応が起こりにくくなり、重合速度が速くなることが知られている。これは、かご効果(Trommsdorff効果)と呼ばれている。
【0055】
そして、本発明において用いるアスペクト比が大きい(アスペクト比が1.10以上の)重合体粉末(B-x)は、アスペクト比が小さい(アスペクト比が1.00以上1.10未満の)重合体粉末(B-y)に比べてモノマー(A)に溶解し易いので、組成物が速く増粘するとともに、かご効果による重合速度の加速効果によって生地化時間が短くなる傾向にある。
【0056】
さらに本発明においては、粉末粒子全体におけるアスペクト比が1.00以上1.10未満の粉末粒子の累積比率(%)が適度に低い。すなわち、アスペクト比が大きい粉末粒子(アスペクト比が1.10以上の粉末粒子)の割合が適度に高い。アスペクト比が大きい粉末粒子のうち、特にアスペクト比が大きい重合体粉末(B-x)は、先に述べた通り、生地化時間を短くする効果を発現する。さらにアスペクト比が大きい粉末粒子は、モノマー(A)にたとえ溶解しない材質のものであってもその形状に起因して、アスペクト比が小さい粉末粒子と比べて組成物の粘度を高める傾向にある。したがって、このアスペクト比が大きい粉末粒子の割合が高いと生地化時間が短くなる傾向にある。
【0057】
生地化時間が短いということは、所望の組成で各成分が均一に混合されて均質な軟塊状態になるまでの時間が短いことを意味する。そして、均質性に優れた硬組織補修用組成物においては、均質性に劣る組成物と比べると、操作性に優れ、人工関節等の被着物との実質的な接触面積の低下が抑制される傾向にある。しかも均質性に優れた硬組織補修用組成物は、何れの箇所においても所望の組成(各特性の観点から最適な配合比率)の状態にある。これらの点から、組成物の重合反応に伴う投錨(アンカリング)効果が十分発現し、軟塊(生地)状態における人工関節等の被着物との密着性向上効果が得られると考えられる。
【0058】
(海綿骨等の被着物への侵入性)
硬組織補修用組成物は、調製直後においては重合反応がまだ十分に進行していないスラリー状の組成物(粉末と液体を含むスラリー)である。そして、このスラリー状の組成物の流動特性は、海綿骨等の被着物への侵入性に対して大きな影響を与える。一般に、スラリー状の流体には、ずり応力(剪断応力)の影響を受けず流動特性(粘性)が変化しないニュートン流体と、その影響を受けて流動特性が変化する非ニュートン流体があり、さらに非ニュートン流体の中には、ダイラタンシーを示す流体があることが知られている。ダイラタンシーとは、ずり応力が増すほど流体の粘性も増すという特性である。例えば、スラリー状の組成物を海綿骨等の被着物へ侵入させる場合は、流体と被着物との接触面でずり応力が発生する。したがって、ダイラタンシーを顕著に示す流体は、被着物へ侵入の際に粘性が増してしまうので硬組織補修用組成物としては好ましくない。
【0059】
一方、本発明において用いるアスペクト比が大きい重合体粉末(B-x)は、アスペクト比が小さい重合体粉末と比較して外部から応力が加えられても粒子同士に隙間が生じにくい傾向にあり、このような隙間が生じにくい流体はダイラタンシーを発現しにくいと考えられる。さらに重合体粉末(B-x)以外のアスペクト比が大きい粉末粒子も同様に、粒子同士に隙間が生じにくい傾向にあり、その流体はダイラタンシーが発現しにくいと考えられる。その結果、スラリー状の組成物の粘性の増大が抑制され、海綿骨等の被着物への侵入性が向上するのである。
【0060】
(溶出モノマー量の低減)
先に説明した通り、一般に、重合体粉末(B)とモノマー(A)の混合液は、重合反応に伴う増粘のみの場合と比較して速く増粘する。また、かご効果により重合速度も速くなる。この結果、通常は、未重合のまま硬組織補修用組成物の表面から溶出するモノマー量が低減される。
【0061】
しかしながら、生体内に水分が過剰に存在する場合は、重合開始剤(C)の重合活性が低下し易く、重合反応そのものが阻害され易く、しかも重合体粉末(B)と分子構造の大きく異なる水分の影響により重合体粉末(B)のモノマー(A)に対する溶解性が低下してかご効果が十分に発現しない傾向にある。この場合、溶出モノマー量を十分に低減できない。
【0062】
一方、本発明において、アスペクト比が大きい重合体粉末(B-x)は、モノマー(A)に溶解し易いので、たとえ生体内に水分が過剰に存在する場合であっても、重合体粉末(B)のモノマー(A)に対する溶解性の低下が抑制される傾向にある。この結果、かご効果が十分に発現し、重合反応が促進し、溶出モノマー量が低減されると考えられる。
【0063】
さらに重合開始剤(C)として、例えば、後述する有機ホウ素化合物(C1)を用いた場合は、埋植された硬組織補修用組成物が直接接触する生体組織に含まれる体液や髄液との界面から重合反応が進行するので、未重合モノマー量がさらに少なくなり、溶出モノマー量が低減されると考えられる。界面から重合反応が進行する理由は、体液や髄液との界面に存在する水に含まれる溶存酸素によって重合活性能が増加又は維持するためであると推測される。
【0064】
(その他の特性1:生地化時間(dough time)の短縮)
先に説明した通り、一般に、重合体粉末(B)とモノマー(A)の混合液は、重合反応に伴う増粘のみの場合と比較して速く増粘する。また、かご効果により重合速度も速くなる。その結果、先に述べた通り、生地化時間が短くなる傾向にある。
【0065】
(その他の特性2:残留モノマー量の低減)
先に説明した通り、アスペクト比が大きい重合体粉末(B-x)は、モノマー(A)に溶解し易いので、たとえ生体内に水分が過剰に存在する場合であっても、重合体粉末(B)のモノマー(A)に対する溶解性の低下が抑制される傾向にある。この結果、かご効果が十分に発現し、重合反応が促進し、残留モノマー量が低減されると考えられる。
【0066】
(その他の特性3:充填器具からの吐出性)
例えば、スラリー状の流体を吐出ノズルからの吐出させる場合は、流体と被密着体との接触面でずり応力が発生し、この結果、圧力損失(エネルギー損失)を生じる。特に、整形外科用セメント混合器、整形外科用セメント注入器、整形外科用セメントディスペンサ、セメントガン等の一般的な充填器具においては、シリンジ部分(大径部)から吐出ノズル部分(小径部)に至る箇所で内径(断面積)が著しく縮小しているので、硬組織補修用組成物がダイラタンシーを顕著に示す場合は、断面積が縮小する箇所における圧力損失(エネルギー損失)が大きくなり、吐出性が低下してしまう。一方、先に説明した通り、本発明に用いるアスペクト比が大きい重合体粉末(B-x)やそれ以外のアスペクト比が大きい粉末粒子は粒子同士に隙間が生じにくい傾向にあり、その流体はダイラタンシーを発現しにくいと考えられる。その結果、スラリー状の組成物の粘性の増大が抑制され、吐出性が向上する傾向にある。
【0067】
(その他の特性4:靭性)
一般に、硬化後の硬組織補修用組成物の破壊は、組成物に含まれる欠陥において生じる応力集中に起因して発生する。その欠陥としては、例えば、モノマー(A)、重合体粉末(B)、重合開始剤(C)等の各成分に含まれる不純物に依る欠陥、造影剤(X)、着色剤等の添加成分に依る欠陥、硬組織補修用組成物を調製する為の混合作業において発生する空隙、ボイド、ウェルドライン等の不均一構造に依る欠陥、硬化後の組成物に含まれる高分子量成分の不均一な高次構造に依る欠陥がある。なお、組成物の破壊の開始や進展に対する抵抗の指標となる物性値としては、例えば破壊靭性値がある。また一般に、樹脂材料の破壊靭性を向上させる方法として、ゴム粒子、熱可塑性樹脂、無機フィラー等の様々な成分を添加する方法がある。これら添加成分と樹脂材料との界面は強固に接着及び/又は密着していることが重要である。添加成分と樹脂材料の物性が大きく異なる場合は、その界面の接着及び/又は密着が不十分となる傾向にあり、界面剥離が生じ易く、その結果として破壊靭性値が低下する傾向にある。一方、本発明においては、重合体粉末(B)の種類をモノマー(A)の種類に合わせて選択する、すなわち同一又は類似の基本的分子構造を有する重合体粉末(B)を選択することが簡単である。そして、基本的分子構造が同一又は類似であれば、硬組織補修用組成物の調製後の界面の均一性も優れているので、界面剥離が生じにくい。さらに、アスペクト比が大きい重合体粉末(B-x)を用いれば、たとえ組成物に亀裂が生じたとしても、物理的な楔(Wedging)及び/又は架橋(Bridging)に依る効果が、アスペクト比が小さい重合体粉末のみを用いた組成物よりも発現し易いので、亀裂の進展が抑制される傾向にある。靱性の向上効果は、この亀裂進展の抑制によって発現すると考えられる。
【0068】
重合体粉末(B)は、例えば、アスペクト比が1.10以上の重合体粉末(B-x)のみを含むものであっても良いが、特に、アスペクト比が1.10以上の重合体粉末(B-x)、及び、アスペクト比が1.00以上1.10未満の重合体粉末(B-y)を含んでなることが、硬組織補修用組成物に要求される諸特性(例えば、以上説明した諸特性)を向上する点で好ましい。以下、重合体粉末(B-x)と重合体粉末(B-y)の配合量について説明する。
【0069】
被着物(例えば人工関節)との密着性等の諸特性を考慮すると、重合体粉末(B-x)と重合体粉末(B-y)を混合して重合体粉末(B)100質量%を調製する場合、重合体粉末(B-x)の配合量は、好ましくは3.0質量%以上、より好ましくは4.0~70質量%、より好ましくは5.0~60質量%である。重合体粉末(B-y)の配合量は、好ましくは97.0質量%以下、より好ましくは30~96.0質量%、より好ましくは40~95.0質量%である。アスペクト比が大きい重合体粉末(B-x)をこのような特定の量以上で用いることは、重合体粉末(B)のモノマー(A)に対する溶解性を適切に保ち、十分な増粘効果及びかご効果(Trommsdorff効果)を発現させ、生地化時間を短くして、硬組織補修用組成物の操作性等の諸特性を向上する点で好ましい。また、アスペクト比が大きい重合体粉末(B-x)をこのような特定の量以下で用いることは、著しい増粘を抑制して均質な硬組織補修用組成物の調製を可能とし、被着物との実質的な接触面積の低減に伴う投錨(アンカリング)効果の低下を抑制し、被着物(例えば人工関節)との密着性等の諸特性を向上する点で好ましい。
【0070】
また、被着物(例えば海綿骨)への侵入性等の諸特性を考慮すると、重合体粉末(B-x)と重合体粉末(B-y)を混合して重合体粉末(B)100質量%を調製する場合、重合体粉末(B-x)の配合量は、好ましくは1.0~45質量%、より好ましくは6.0~45質量%、より好ましくは10~45質量%である。重合体粉末(B-y)の配合量は、好ましくは55~99.0質量%、より好ましくは55~94.0質量%、より好ましくは55~90質量%である。アスペクト比が大きい重合体粉末(B-x)をこのような特定の量以上で用いることは、ダイラタンシーの発現を抑制し、被着物(例えば海綿骨)への侵入性等の諸特性を向上する点で好ましい。また、アスペクト比が大きい重合体粉末(B-x)をこのような特定の量以下で用いることは、著しい増粘を抑制し、被着物(例えば海綿骨)への侵入性等の諸特性を向上する点で好ましい。
【0071】
また、溶出モノマー量の低減等の諸特性を考慮すると、重合体粉末(B-x)と重合体粉末(B-y)を混合して重合体粉末(B)100質量%を調製する場合、重合体粉末(B-x)の配合量は、好ましくは1.0~70質量%、より好ましくは5.0~60質量%、特に好ましくは10~55質量%である。重合体粉末(B-y)の配合量は、好ましくは30~99.0質量%、より好ましくは40~95.0質量%、より好ましくは45~90質量%である。アスペクト比が大きい重合体粉末(B-x)をこのような特定の量以上で用いることは、十分なかご効果(Trommsdorff効果)を発現させ、溶出モノマー量の低減等の諸特性を向上する点で好ましい。また、アスペクト比が大きい重合体粉末(B-x)をこのような特定の量以下で用いることは、著しい増粘を抑制することによって均質な硬組織補修用組成物の調製を可能とし、硬化物表面及び/又は内部の不均一構造の増加を抑制し、溶出モノマー量の低減等の諸特性を向上する点で好ましい。
【0072】
本発明の硬組織補修用組成物は、重合体粒子(B)全体、又は粉末粒子全体におけるアスペクト比が1.00以上1.10未満の粒子の累積比率が所定の範囲内にあることが、硬組織補修用組成物に要求される諸特性(例えば、以上説明した諸特性)を向上する点で好ましい。以下、それらの累積比率について説明する。
【0073】
被着物(例えば人工関節)との密着性等の諸特性を考慮すると、重合体粉末(B)全体(100累積%)におけるアスペクト比が1.00以上1.10未満の重合体粉末粒子(B-y)の累積比率は、好ましくは86累積%以下、より好ましくは3.5~80累積%である。アスペクト比が小さい重合体粉末粒子(B-y)の累積比率をこのような特定の比率以上にすることは、著しい増粘を抑制して均質な硬組織補修用組成物の調製を可能とし、被着物との実質的な接触面積の低減に伴う投錨(アンカリング)効果の低下を抑制し、被着物(例えば人工関節)との密着性等の諸特性を向上する点で好ましい。また、アスペクト比が小さい重合体粉末粒子(B-y)の累積比率をこのような特定の比率以下にすることは、重合体粉末(B)のモノマー(A)に対する溶解性を適切に保ち、十分な増粘効果及びかご効果(Trommsdorff効果)を発現させ、生地化時間を短くして、硬組織補修用組成物の操作性等の諸特性を向上する点で好ましい。
【0074】
また、被着物(例えば海綿骨)への侵入性等の諸特性を考慮すると、重合体粉末(B)全体(100累積%)におけるアスペクト比が1.00以上1.10未満の重合体粉末粒子(B-y)の累積比率は、好ましくは15~55累積%、より好ましくは20~50累積%である。アスペクト比が小さい重合体粉末粒子(B-y)の累積比率をこのような特定の比率以上にすることは、著しい増粘を抑制し、被着物(例えば海綿骨)への侵入性等の諸特性を向上する点で好ましい。また、アスペクト比が小さい重合体粉末粒子(B-y)の累積比率をこのような特定の比率以下にすることは、ダイラタンシーの発現を抑制し、被着物(例えば海綿骨)への侵入性等の諸特性を向上する点で好ましい。
【0075】
また、溶出モノマー量の低減等の諸特性を考慮すると、重合体粉末(B)全体(100累積%)におけるアスペクト比が1.00以上1.10未満の重合体粉末粒子(B-y)の累積比率は、好ましくは15~55累積%、より好ましくは20~50累積%である。アスペクト比が小さい重合体粉末粒子(B-y)の累積比率をこのような特定の比率以上にすることは、著しい増粘を抑制することによって均質な硬組織補修用組成物の調製を可能とし、硬化物表面及び/又は内部の不均一構造の増加を抑制し、溶出モノマー量の低減等の諸特性を向上する点で好ましい。また、アスペクト比が小さい重合体粉末粒子(B-y)の累積比率をこのような特定の比率以下にすることは、十分なかご効果(Trommsdorff効果)を発現させ、溶出モノマー量の低減等の諸特性を向上する点で好ましい。
【0076】
本発明の硬組織補修用組成物は、重合体粉末(B)以外の粉末粒子を含む場合がある。その場合は、硬組織補修用組成物に含まれる各成分のうち、粉末粒子全体におけるアスペクト比が1.00以上1.10未満の粉末粒子の累積比率(%)についても考慮することが好ましい。重合体粉末(B)以外の粉末粒子としては、例えば、後述する造影剤(X)、抗菌薬粒子(Y)、重合開始剤(C)がある。後述のとおり、重合開始剤(C)は液体状であっても良いし、固体状(例えば粉末状)であっても良い。粉末状の重合開始剤は、重合体粉末(B)へ混合され、あるいは重合体粉末(B)に担持される。したがって、粉末状の重合開始剤は、重合体粉末(B)以外の粉末粒子に該当する。すなわち、硬組織補修用組成物に含まれる「粉末粒子全体」とは、重合体粉末(B)及び以上例示したような重合体粉末(B)以外の粉末粒子の全てを含むことを意味する。
【0077】
被着物(例えば人工関節)との密着性等の諸特性を考慮すると、硬組織補修用組成物に含まれる各成分のうち粉末粒子全体(重合体粉末(B)及びそれ以外の粉末粒子の合計100累積%)におけるアスペクト比が1.00以上1.10未満の粉末粒子の累積比率は、75累積%以下であり、好ましくは70累積%以下、より好ましくは2.5~65累積%、より好ましくは3.0~60累積%である。アスペクト比が1.00以上1.10未満の粉末粒子の累積比率をこのような特定の比率以上にすることは、著しい増粘を抑制して均質な硬組織補修用組成物の調製を可能とし、被着物との実質的な接触面積の低減に伴う投錨(アンカリング)効果の低下を抑制し、被着物(例えば人工関節)との密着性等の諸特性を向上する点で好ましい。また、アスペクト比が1.00以上1.10未満の粉末粒子の累積比率をこのような特定の比率以下にすることは、重合体粉末(B)のモノマー(A)に対する溶解性を適切に保ち、十分な増粘効果及びかご効果(Trommsdorff効果)を発現させ、生地化時間を短くして、硬組織補修用組成物の操作性等の諸特性を向上する点で好ましい。
【0078】
また、被着物(例えば海綿骨)への侵入性等の諸特性を考慮すると、硬組織補修用組成物に含まれる各成分のうち粉末粒子全体(重合体粉末(B)及びそれ以外の粉末粒子の合計100累積%)におけるアスペクト比が1.00以上1.10未満の粉末粒子の累積比率は、75累積%以下であり、好ましくは2.5~55累積%、より好ましくは3.0~40累積%、より好ましくは3.0~35累積%である。アスペクト比が1.00以上1.10未満の粉末粒子の累積比率をこのような特定の比率以上にすることは、著しい増粘を抑制し、被着物(例えば海綿骨)への侵入性等の諸特性を向上する点で好ましい。また、アスペクト比が1.00以上1.10未満の粉末粒子の累積比率をこのような特定の比率以下にすることは、ダイラタンシーの発現を抑制し、被着物(例えば海綿骨)への侵入性等の諸特性を向上する点で好ましい。
【0079】
また、溶出モノマー量の低減等の諸特性を考慮すると、硬組織補修用組成物に含まれる各成分のうち粉末粒子全体(重合体粉末(B)及びそれ以外の粉末粒子の合計100累積%)におけるアスペクト比が1.00以上1.10未満の粉末粒子の累積比率は、75累積%以下であり、好ましくは70累積%以下、より好ましくは2.5~65累積%、より好ましくは2.5~55累積%、より好ましくは4.0~40累積%、より好ましくは4.0~35累積%である。アスペクト比が1.00以上1.10未満の粉末粒子の累積比率をこのような特定の比率以上にすることは、著しい増粘を抑制することによって均質な硬組織補修用組成物の調製を可能とし、硬化物表面及び/又は内部の不均一構造の増加を抑制し、溶出モノマー量の低減等の諸特性を向上する点で好ましい。また、アスペクト比が小さい重合体粉末粒子(B-y)の累積比率をこのような特定の比率以下にすることは、十分なかご効果(Trommsdorff効果)を発現させ、溶出モノマー量の低減等の諸特性を向上する点で好ましい。
【0080】
重合体粉末(B-x)のアスペクト比は1.10以上であり、硬組織補修用組成物に要求される諸特性を向上する点から、好ましくは1.10以上1.90以下、より好ましくは1.15以上1.80以下である。重合体粉末(B-x)のアスペクト比をこのような特定の比率以上にすることは、例えば、モノマー(A)に対する重合体粉末(B-x)の所望の溶解性を発現し易くして、諸特性を向上する点で好ましい。また、重合体粉末(B-x)のアスペクト比をこのような特定の比率以下にすることは、例えば、モノマー(A)に対する重合体粉末(B-x)の所望の溶解性が過度に高くなってしまうことを抑制し、あるいは、重合体粉末(B)又は粉末粒子全体の凝集性が過度に高くなってしまうことを抑制し、それらの結果として硬組織補修用組成物の操作性等の諸特性を向上する点で好ましい。
【0081】
重合体粉末(B-y)のアスペクト比は1以上1.10未満であり、硬組織補修用組成物に要求される諸特性を向上する点から、好ましくは1.00以上1.05以下である。重合体粉末(B-y)のアスペクト比を1.05以下にすることは、例えば、モノマー(A)に対する重合体粉末(B-y)の所望の溶解性が過度に高くなってしまうことを抑制し、あるいは、重合体粉末(B)又は粉末粒子全体の凝集性が過度に高くなってしまうことを抑制し、それらの結果として硬組織補修用組成物の操作性等の諸特性を向上する点で好ましい。
【0082】
重合体粉末(B)が重合体粉末(B-x)及び重合体粉末(B-y)を含む場合、重合体粉末(B)全体のアスペクト比は、硬組織補修用組成物に要求される諸特性を向上する点から、好ましくは1.11以上1.80以下、より好ましくは1.15以上1.80以下、より好ましくは1.15以上1.75以下である。重合体粉末(B)全体のアスペクト比をこのような特定の範囲内にすることは、例えば、モノマー(A)に対する重合体粉末(B)の溶解性を適正なレベルに維持し、あるいは、重合体粉末(B)又は粉末粒子全体の凝集性を適正なレベルに維持し、それらの結果として硬組織補修用組成物の操作性等の諸特性を向上する点で好ましい。
【0083】
以上説明したアスペクト比及び累積比率(%)の測定方法は、後述する実施例の欄に記載のとおりである。
【0084】
重合体粉末(B)の重量平均分子量(すなわち一種の重合体を単独で用いた場合はその重合体の重量平均分子量、また2種以上の重合体の混合物を用いた場合は混合物全体の重量平均分子量)は、硬組織補修用組成物に要求される諸特性を向上する点から、好ましくは4万~600万、より好ましくは5万~500万、より好ましくは7.5万~200万、より好ましくは7.5万~88万、より好ましくは10万~40万である。重合体粉末(B)の重量平均分子量をこのような特定の範囲内にすることは、例えば、モノマー(A)に対する重合体粉末(B)の溶解性を適正なレベルに維持して増粘効果及びかご効果(Trommsdorff効果)を制御し、その結果として硬組織補修用組成物の操作性を向上する点で好ましい。しかも、その操作性が向上すれば、均質性に優れた硬組織補修用組成物が得られ易くなり、その結果として、被着物との密着性、被着物への侵入性、溶出モノマー量の低減、硬化後の硬組織補修用組成物の曲げ弾性率、引張り強さ、圧縮強度、曲げ強さ、靭性(表面散逸エネルギー限界値)等の諸特性が向上する傾向にある。
【0085】
重合体粉末(B)の体積平均粒径(すなわち一種の重合体粉末を単独で用いた場合はその重合体粉末の体積平均粒径、また2種以上の重合体粉末の混合物を用いた場合は混合物全体の体積平均粒径)は、硬組織補修用組成物に要求される諸特性を向上する点から、好ましくは7~120μm、より好ましくは10~118μm、より好ましくは15~77μmである。重合体粉末(B)の体積平均粒径をこのような特定の範囲内にすることは、例えば、モノマー(A)に対する重合体粉末(B)の溶解性を適正なレベルに維持して増粘効果及びかご効果(Trommsdorff効果)を制御し、その結果として硬組織補修用組成物の操作性を向上する点で好ましい。しかも、その操作性が向上すれば、均質性に優れた硬組織補修用組成物が得られ易くなり、その結果として、被着物との密着性、被着物への侵入性、溶出モノマー量の低減、硬化後の硬組織補修用組成物の曲げ弾性率、引張り強さ、圧縮強度、曲げ強さ、靭性(表面散逸エネルギー限界値)等の諸特性が向上する傾向にある。
【0086】
重合体粉末(B)の配合量は、硬組織補修用組成物に要求される諸特性を向上する点から、好ましくは54.9~80質量部、より好ましくは56.7~73.7質量部、より好ましくは59.7~70.7質量部(成分(A)~(C)の合計を100質量部とする)である。重合体粉末(B)の配合量をこのような特定の範囲内にすることは、例えば、モノマー(A)に対する重合体粉末(B)の溶解性を適正なレベルに維持して増粘効果及びかご効果(Trommsdorff効果)を制御し、その結果として硬組織補修用組成物の操作性を向上する点で好ましい。しかも、その操作性が向上すれば、均質性に優れた硬組織補修用組成物が得られ易くなり、その結果として、被着物との密着性、被着物への侵入性、溶出モノマー量の低減、硬化後の硬組織補修用組成物の曲げ弾性率、引張り強さ、圧縮強度、曲げ強さ、靭性(表面散逸エネルギー限界値)等の諸特性が向上する傾向にある。
【0087】
[重合開始剤(C)]
本発明に用いる重合開始剤(C)としては特に限定されず、公知の各種化合物を使用できる。中でも、有機ホウ素化合物(c1)、有機過酸化物が好ましく、有機ホウ素化合物(c1)がより好ましい。有機ホウ素化合物(c1)は、他の重合開始剤と比べて生地化時間を短くする傾向がある。その理由は、重合反応が、硬組織補修用組成物が直接接触する周辺の空気との界面から進行し、早期に糸引きがなくなって軟塊(生地)状態になるからと考えられる。さらに、硬組織補修用組成物組成物が水分を含んでいても水中の溶存酸素によって重合活性能が増加又は維持されるからとも考えられる。
【0088】
有機過酸化物として、例えば、ジアセチルパーオキサイド、ジイソブチルパーオキサイド、ジデカノイルパーオキサイド、過酸化ベンゾイル(BPO)、スクシン酸パーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジアリルパーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート類;tert-ブチルパーオキシイソブチレート、tert-ブチルパーオキシネオデカネート、クメンパーオキシネオデカネート等のパーオキシエステル類;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド等の過酸化スルホネート類が挙げられる。
【0089】
有機過酸化物は、第3級アミン、又は、スルフィン酸もしくはそのアルカリ金属塩類及び第3級アミンと組み合わせてレドックス開始剤として使用しても良い。中でも、過酸化ベンゾイル(BPO)とN,N-ジメチル-p-トルイジン、過酸化ベンゾイル(BPO)とN,N-ジヒドロキシエチル-p-トルイジンが好適に使用される。
【0090】
N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジヒドロキシエチル-p-トルイジン等の第3級アミンは、モノマー(A)にあらかじめ添加して使用することが好ましい。その添加量は、好ましくは5.0質量部以下、より好ましくは0.1~3.0質量部、より好ましくは0.25~2.6質量部である(モノマー(A)と第3級アミンとの合計を100質量部とする)。第3級アミンを使用すると室温下においても電子移動によってラジカル種が発生するので、加熱しなくても重合反応を容易に開始できる。
【0091】
有機ホウ素化合物(c1)としては、例えば、トリアルキルホウ素、アルコキシアルキルホウ素、ジアルキルボラン、部分酸化トリアルキルホウ素、アルキルボラン・アミン錯体を使用できる。
【0092】
トリアルキルホウ素の具体例としては、トリエチルホウ素、トリプロピルホウ素、トリイソプロピルホウ素、トリブチルホウ素、トリ-sec-ブチルホウ素、トリイソブチルホウ素、トリペンチルホウ素、トリヘキシルホウ素、トリヘプチルホウ素、トリオクチルホウ素、トリシクロペンチルホウ素、トリシクロヘキシルホウ素等の炭素数が2~8のアルキル基を有するトリアルキルホウ素が挙げられる。アルキル基は、直鎖状アルキル基、分岐状アルキル基、シクロアルキル基のいずれであっても良く、トリアルキルホウ素に含まれる3つのアルキル基は同一であっても異なっていても良い。
【0093】
アルコキシアルキルホウ素の具体例としては、ブトキシジブチルホウ素等のモノアルコキシジアルキルホウ素、ジアルコキシモノアルキルホウ素が挙げられる。アルコキシアルキルホウ素が有するアルキル基と、そのアルコキシ基のアルキル部とは同一であっても異なっていても良い。
【0094】
ジアルキルボランの具体例としては、ジシクロヘキシルボラン、ジイソアミルボランが挙げられる。ジアルキルボランが有する2つのアルキル基は同一であっても異なっていても良い。また、ジアルキルボランに含まれる2つのアルキル基は結合して単環構造あるいはビシクロ構造を形成していても良い。このような化合物としては、例えば9-ボラビシクロ[3.3.1]ノナンがある。
【0095】
部分酸化トリアルキルホウ素とは、トリアルキルホウ素の部分酸化物である。中でも、部分酸化トリブチルホウ素が好ましい。トリアルキルホウ素1モルに対して付加する酸素の量は、好ましくは0.3~0.9モル、より好ましくは0.4~0.6モルである。
【0096】
アルキルボラン・アミン錯体の具体例としては、トリエチルボラン・ジアミノプロパン(TEB-DAP)、トリエチルボラン・ジエチレントリアミン(TEB-DETA)、トリ-n-ブチルボラン・3-メトキシプロピルアミン(TnBB-MOPA)、トリ-n-ブチルボラン・ジアミノプロパン(TnBB-DAP)、トリ-sec-ブチルボラン・ジアミノプロパン(TsBB-DAP)、メチルアミノエトキシジエチルボラン(MAEDEB)、メチルアミノエトキシジシクロヘキシルボラン(MAEDCB)及びこれらから誘導された誘導体が挙げられる。これらアルキルボラン・アミン錯体は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0097】
アルキルボラン・アミン錯体が重合開始剤(C)として使用される場合、さらにモノマー(A)と共に脱錯化剤を使用することが好ましい。明細書中で用いられる用語の「脱錯化剤」とは、アルキルボラン・アミン錯体からアルキルボランを遊離できる化合物を称し、そのアルキルボランの遊離によって重合反応の開始を可能にする。
【0098】
適切な脱錯化剤としては、例えば、任意の酸、又は酸性基を有するモノマー(前述のモノマー(A)として使用される酸性基を有するモノマー)を使用できる。好適な酸としては、ルイス酸(例えば、SnCl4、TiCl4)、ブレンステッド酸(例えば、カルボン酸類、HCl、H2SO4、H3PO4、ホスホン酸、ホスフィン酸、ケイ酸)が挙げられる。好適なカルボン酸類としては、一般式R-COOHで示されるものが挙げられ、この式中、Rは、水素原子、炭素数1~8のアルキル基(好ましくは炭素数1~4のアルキル基)、炭素数2~8のアルケニル基(好ましくは炭素数2~4のアルケニル基)、炭素数2~8のアルキニル基(好ましくは炭素数2~4のアルキニル基)、又は炭素数6~10のアリール基(好ましくは炭素数6~8のアリール基)を示す。Rにおけるアルキル基、アルケニル基、アルキニル基は、直鎖状であっても良く、又は分枝状であっても良い。Rにおける脂肪族基は飽和であっても良く、又は不飽和であっても良い。Rにおけるアリール基は、アルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子等の置換基で置換されていても良く、無置換であっても良い。上記一般式で表されるカルボン酸の例示となる酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、酢酸、安息香酸及びp-メトキシ安息香酸が挙げられる。酸性基を有するモノマーの具体例としては、前述のモノマー(A)の項で述べたとおりであるが、中でも、4-メタアクリロキシエチルトリメリット酸及びその無水物が好ましい。
【0099】
これら有機ホウ素化合物(c1)の中でも、トリブチルホウ素あるいは部分酸化トリブチルホウ素が好ましく、部分酸化トリブチルホウ素がより好ましい。トリブチルホウ素、部分酸化トリブチルホウ素を有機ホウ素化合物(c1)として用いた場合には、操作性が良くなるだけでなく、水分を有する生体に対して適切な反応性を有する傾向にある。また、トリブチルホウ素、部分酸化トリブチルホウ素を有機ホウ素化合物(c1)として用いた場合には、生体の様に水分が多い場所でも反応が開始し、反応が進むために、組成物と生体との界面においてモノマーが残存しにくく、そのため生体への為害性が極めて少ない。これら有機ホウ素化合物(c1)は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0100】
有機ホウ素化合物(c1)は、さらに非プロトン性溶媒を含んでも良い。非プロトン性溶媒により、有機ホウ素化合物(c1)が希釈されると、発火性を有する有機ホウ素化合物(c1)の発熱性がより穏やかになり、発火性を抑制し、搬送時、保存時、混合時の取扱いが容易になる。また、急激な発熱を抑制できるので、極めて多量の硬組織補修用組成物を使用する場合でも、硬組織補修用組成物と接する組織へのダメージが少なくなる傾向にある。非プロトン性溶媒の1気圧における沸点は、通常30℃~150℃であり、好ましくは50℃~120℃である。非プロトン性溶媒の沸点をこのような特定の温度以上にすることは、搬送時又は保存中に重合開始剤からの非プロトン性溶媒の揮発又は飛散を抑制し、有機ホウ素化合物(c1)の発熱性及び発火性を十分抑制する点で好ましい。また、非プロトン性溶媒の沸点をこのような特定の温度以下にすることは、硬組織補修用組成物から得られる硬化物中の非プロトン性溶媒の残存量を低減し、硬化物の患部に対する接着強さ及び曲げ弾性率、引張り強さ、圧縮強度、曲げ強さ等の諸特性を向上する点で好ましい。
【0101】
非プロトン性溶媒としては、有機ホウ素化合物(c1)と反応するヒドロキシ基、メルカプト基等の活性水素を含有する基を有さず、有機ホウ素化合物(c1)と均一な溶液を形成しうる溶媒が好ましい。
【0102】
非プロトン性溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素;フルオロベンゼン、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、いわゆるフロン等のハロゲン化炭化水素;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル等のエステルが挙げられる。これらの中でもペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の飽和脂肪族炭化水素、エーテル、及びエステルが好ましく、ヘキサン、ジイソプロピルエーテル、酢酸エチルがより好ましい。これら非プロトン性溶媒は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0103】
非プロトン性溶媒の含有量は、有機ホウ素化合物(c1)100質量部に対し、好ましくは30~80質量部である。非プロトン性溶媒の含有量をこのような特定の範囲以上にすることは、有機ホウ素化合物(c1)を十分に希釈し、有機ホウ素化合物(c1)の発熱性及び発火性を十分抑制する点で好ましい。また、非プロトン性溶媒の含有量をこのような特定の範囲以下にすることは、有機ホウ素化合物(c1)の重合開始能の低下を抑制する点で好ましい。
【0104】
有機ホウ素化合物(c1)は、非プロトン性溶媒に加えて、又は非プロトン性溶媒に替えてアルコールを含んでも良い。有機ホウ素化合物(c1)にアルコールを添加することにより、有機ホウ素化合物(c1)による反応が重合活性を低下させることなくさらに穏やかになり、空気中で紙等の部材に触れても焦げや発火を抑制し易くなる傾向にある。
【0105】
アルコールの1気圧における沸点は、通常60℃~180℃であり、好ましくは60℃~120℃である。アルコールの沸点をこのような特定の温度以上にすることは、搬送時又は保存中に重合開始剤からのアルコールの揮発又は飛散を抑制し、有機ホウ素化合物(c1)の発熱性及び発火性を十分抑制する点で好ましい。また、アルコールの沸点をこのような特定の温度以下にすることは、硬組織補修用組成物から得られる硬化物中のアルコールの残存量を低減し、硬化物の患部に対する接着強さ及び曲げ弾性率、引張り強さ、圧縮強度、曲げ強さ等の諸特性を向上する点で好ましい。
【0106】
アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール及びその異性体、n-ブタノール及びその異性体、n-ペンタノール及びその異性体、n-ヘキサノール及びその異性体、n-ヘプタノール及びその異性体が挙げられる。中でも、炭素数4以下のアルコール、すなわちメタノール、エタノール、n-プロパノール及びその異性体、並びにn-ブタノール及びその異性体が好ましく、エタノール及びn-プロパノールがより好ましい。これらアルコールは、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0107】
アルコールの含有量は、有機ホウ素化合物(c1)100質量部に対し、通常0.01~40質量部、好ましくは0.1~30質量部、より好ましくは0.5~20質量部である。
【0108】
アルコールと非プロトン性溶媒とを併用する場合には、非プロトン性溶媒の含有量は、有機ホウ素化合物(c1)100質量部に対し、望ましくは5~40質量部であり、好ましくは10~30質量部、より好ましくは10~25質量部である。
【0109】
重合開始剤(C)の配合量は、モノマー(A)、重合体粉末(B)、及び重合開始剤(C)の合計100質量部に対して、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは1.0~7.0質量部、より好ましくは2.1~4.3質量部である。重合開始剤(C)の配合量が一定の含有量以上含まれる場合には、重合開始剤の所望の重合開始能が発現することで未重合のモノマー(A)の成分が組成物中に残留及び/又は組成物から溶出してしまうことを低減できるため、生体組織に対する安全性が確保し易い点から好ましい。また一定の含有量以下で含まれる場合には、急激な重合進行及び/又は発熱を抑制でき、速やかに重合硬化物が形成されることを防ぐことができる点から好ましい。また、重合開始剤(C)が液体である場合、過度な粘度低下による操作性の悪化を抑制できる点からも好ましい。
【0110】
[造影剤(X)]
本発明の硬組織補修用組成物は、造影剤(X)を含んでも良い。造影剤(X)の体積平均粒径は、好ましくは0.15~25.1μm、より好ましくは0.45~18.0μmである。造影剤(X)の体積平均粒径が一定の範囲内であることは、造影剤(X)及び/又は粉末粒子全体(重合体粉末(B)及びそれ以外の粉末粒子の合計100累積%)の凝集性を適正に保ち、硬組織補修用組成物の所望の操作性を発現しやすくなる観点で好ましい。。
【0111】
造影剤(X)の種類は特に限定されないが、硫酸バリウム、ジルコニア、炭酸ビスマス、タングステン酸カルシウム、イットリビウム、ヨウ素化合物が挙げられる。中でも、硬組織用途、特に骨セメントとしての使用実績がある点から、硫酸バリウム、ジルコニアが好ましい。
【0112】
造影剤(X)の配合量は、モノマー(A)、重合体粉末(B)及び重合開始剤(C)の合計100質量部に対して、好ましくは0~70質量部、より好ましくは0.01~70質量部、より好ましくは0.01~45質量部、より好ましくは2.5~33.8質量部、より好ましくは4.5~22.5質量部である。
【0113】
[抗菌薬粒子(Y)]
本発明の硬組織補修用組成物は、抗菌薬粒子(Y)を含んでも良い。抗菌薬の具体例としては、抗生物質、元素ヨウ素、固体ポリビニルピロリドンヨウ素、ポリビニルピロリドンヨウ素;トリブロモフェノール、トリクロロフェノール、テトラクロロフェノール、ニトロフェノール、3-メチル-4-クロロフェノール、3,5-ジメチル-4-クロロフェノール、フェノキシエタノール、ジクロロフェン、o-フェニルフェノール、m-フェニルフェノール、p-フェニルフェノール、2-ベンジル-4-クロロフェノール、2,4-ジクロロ-3,5-ジメチルフェノール、4-クロロチモール、クロルフェン、トリクロサン、フェンチクロール、フェノール、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、4-エチルフェノール、2,4-ジメチルフェノール、2,5-ジメチルフェノール、3,4-ジメチルフェノール、2,6-ジメチルフェノール、4-n-プロピルフェノール、4-n-ブチルフェノール、4-n-アミルフェノール、4-tert-アミルフェノール、4-n-ヘキシルフェノール、4-n-ヘプチルフェノール、モノアルキルハロフェノール、ポリアルキルハロフェノール、芳香族ハロフェノール、並びにそれらのアンモニウム塩、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩等のフェノール化合物;硝酸銀、ヘキサクロロフェン、メルブロミンが挙げられる。中でも、抗生物質が好ましい。
【0114】
抗生物質とは、微生物が産生する物質又は化学的に合成した物質のうち他の微生物の発育を阻害する物質である。さらに、この抗生物質の定義には、微生物の産生物質又は化学的に合成した物質を化学的に変換したものも含まれる。
【0115】
抗生物質の具体例としては、ゲンタマイシン、ゲンタマイシン硫酸塩、トブラマイシン、トブラマイシン硫酸塩、アミカシン、アミカシン硫酸塩、ジベカシン、ジベカシン硫酸塩、バンコマイシン、バンコマイシン塩酸塩、ダプトマイシン、アルベカシン、アルベカシン硫酸塩、ホスホマイシン、セファゾリン、セファゾリンナトリウム塩、ミノサイクリン、クリンダマイシン、コリスチン、リネゾリド、テトラサイクリン塩酸塩、テトラサイクリン水和物、オキシテトラサイクリン及びエリスロマイシンが挙げられる。中でも、ゲンタマイシン、トブラマイシン、アミカシン、ジベカシン、バンコマイシン、ダプトマイシン、及びこれらの薬理学的に許容できる塩からなる群から選択される1種以上の抗生物質を含むことが好ましい。
【0116】
ダプトマイシン及びダプトマイシンの薬理学的に許容できる塩が抗菌薬粒子(Y)として使用される場合、さらに、後述の無機充填剤のうち、特にカルシウム徐放性を有するフィラーと共に使用することが望ましい。カルシウム元素又はイオンと結合したダプトマイシン誘導体が、細菌の細胞膜に侵入・結合することにより、細胞膜での脱分極が進行し、膜電位を喪失させることにより細菌を死に至らしめることから、抗菌性が向上する傾向がある。これらカルシウム徐放性フィラーは、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0117】
抗菌薬粒子(Y)の体積平均粒径は、好ましくは250μm未満、より好ましくは1.0~200μm、より好ましくは2.5~150μmである。
【0118】
抗菌薬粒子(Y)の配合量はその種類に応じて適宜決定すれば良いが、モノマー(A)、重合体粉末(B)及び重合開始剤(C)の合計100質量部に対して、好ましくは30質量部以下、より好ましくは0.01~30質量部、より好ましくは1.0~30質量部、より好ましくは1.2~25質量部、より好ましくは1.4~20質量部である。
【0119】
[多糖類(Z)]
本発明の硬組織補修用組成物は、多糖類(Z)を含んでも良い。多糖類(Z)の具体例としては、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、ツラノース、セロビオース、ラフィノース、メレジトース、マルトトリオース、アカルボース、スタキオース、デンプン、グリコーゲン、セルロース、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、グルカン、キシログルカン、フルクタン、キチン、キトサン、アガロース、カラギーナン、ヒアルロン酸、ペクチン、グルコマンナン、コンドロイチン硫酸、アルギン酸、プルラン及びこれらから誘導された誘導体及び/又は薬理学的に許容できる塩が挙げられる。これら多糖類は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。特に、前述の抗菌薬粒子(Y)及び/又は後述のカルシウム徐放性を有するフィラーと共に使用される場合、抗菌性が向上する傾向及び/又は生体への為害性を低減する傾向にある。
【0120】
多糖類(Z)の配合量はその種類に応じて適宜決定すれば良いが、モノマー(A)、重合体粉末(B)及び重合開始剤(C)の合計100質量部に対して、好ましくは40質量部以下、より好ましくは0.1~30質量部である。
【0121】
[その他成分]
本発明の硬組織補修用組成物は、必要に応じて、重合禁止剤を含んでも良い。重合禁止剤としては、ハイドロキノン、ジブチルハイドロキノン等のハイドロキノン化合物類や、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール等のフェノール類、カテコール、ピロガロール、ベンゾキノン、2-ヒドロキシベンゾキノン、p-メトキシフェノール、t-ブチルカテコール、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン及びt-ブチルヒドロキノンが挙げられる。中でも、ハイドロキノンモノメチルエーテルと2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールの混合物が好ましい。また、それ自体の安定性の点から、ハイドロキノンモノメチルエーテルが好ましい場合もある。重合禁止剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0122】
重合禁止剤の添加量は、硬組織補修用組成物全量に対して、好ましくは1~1500ppm、より好ましくは5~1000ppm、より好ましくは5~500ppmである。また、重合禁止剤の添加量は、モノマー(A)に対して、10~5000ppm、より好ましくは25~1000ppm、より好ましくは25~500ppmである。
【0123】
本発明の硬組織補修用組成物は、必要に応じて、紫外線吸収剤を含んでも良い。紫外線吸収剤の具体例としては、2-(2'-ヒドロキシ-5'-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3',5'-ジ-tert-ブチル-2'-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(5'-tert-ブチル-2'-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-5'-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3',5'-ジ-tert-ブチル-2'-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(3'-tert-ブチル-2'-ヒドロキシ-5'-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(3'-sec-ブチル-5'-tert-ブチル-2'-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-4'-オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3',5'-ジ-tert-アミル-2'-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3',5'-ビス(α,α-ジメチルベンジル)-2'-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3'-tert-ブチル-2'-ヒドロキシ-5'-(2-オクチルオキシカルボニルエチル)フェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(3'-tert-ブチル-5'-[2-(2-エチルヘキシルオキシ)カルボニルエチル]-2'-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(3'-tert-ブチル-2'-ヒドロキシ-5'-(2-メトキシカルボニルエチル)フェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(3'-tert-ブチル-2'-ヒドロキシ-5'-(2-メトキシカルボニルエチル)フェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3'-tert-ブチル-2'-ヒドロキシ-5'-(2-オクチルオキシカルボニルエチル)フェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3'-tert-ブチル-5'-[2-(2-エチルヘキシルオキシ)カルボニルエチル]-2'-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3'-ドデシル-2'-ヒドロキシ-5'-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3'-tert-ブチル-2'-ヒドロキシ-5'-(2-イソオクチルオキシカルボニルエチル)フェニル)ベンゾトリアゾールと2,2'-メチレン-ビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-ベンゾトリアゾール-2-イルフェノール]との混合物、2-[3'-tert-ブチル-5'-(2-メトキシカルボニルエチル)-2'-ヒドロキシフェニル]ベンゾトリアゾールとポリエチレングリコール300とのエステル交換反応生成物、[[R-CH2CH2-COOCH2]3]2-(式中、R=3'-tert-ブチル-4'-ヒドロキシ-5'-2H-ベンゾトリアゾール-2-イルフェニル)等のベンゾトリアゾール化合物;
2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-デシルオキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-ドデシルオキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-ベンジルオキシベンゾフェノン、2,2',4,4'-テトラヒドロキシベンゾフェノン及び2,2'-ジヒドロキシ-4,4'-ジメトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン化合物;
サリチル酸4-tert-ブチルフェニル、サリチル酸フェニル、サリチル酸オクチルフェニル、ジベンゾイルレゾルシノール、ビス(4-tert-ブチルベンゾイル)レゾルシノール、ベンゾイルレゾルシノール、2,4-ジ-tert-ブチルフェニル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、ヘキサデシル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、オクタデシル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、及び安息香酸2-メチル-4,6-ジ-tert-ブチルフェニル、及び3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート;
セバシン酸ビス(2,2,6,6-テトラメチルピペリジル)、コハク酸ビス(2,2,6,6-テトラメチルピペリジル)、セバシン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジル)、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジル)n-ブチル-3,5-ジ-第三-ブチル-4-ヒドロキシベンジルマロネート、1-ヒドロキシエチル-2,2,6,6-テトラメチル-4-ヒドロキシピペリジンとコハク酸との縮合生成物、N,N'-ビス-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ヘキサメチレンジアミンと4-第三-オクチルアミノ-2,6-ジクロロ-1,3,5-s-トリアジンとの縮合生成物、トリス-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ニトリロトリアセテート、テトラキス-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラオエート、1,1'-(1,2-エタンジイル)ビス(3,3,5,5-テトラメチルピペラジノン)、4-ベンゾイル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ステアリルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)2-n-ブチル-2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-第三-ブチルベンジル)マロネート、3-n-オクチル-7,7,9,9-テトラメチル-1,3,8-トリアザスピロ[4.5]デカン-2,4-ジオン、セバシン酸ビス(1-オクチルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジル)、コハク酸ビス(1-オクチルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジル)、N,N'-ビス-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ヘキサメチレンジアミンと4-モルホリノ-2,6-ジクロロ-1,3,5-トリアジンとの縮合生成物、2-クロロ-4,6-ジ-(4-n-ブチルアミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジル)-1,3,5-トリアジンと1,2-ビス(3-アミノプロピルアミノ)エタンとの縮合生成物、2-クロロ-4,6-ジ-(4-n-ブチルアミノ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジル)-1,3,5-トリアジンと1,2-ビス(3-アミノプロピルアミノ)エタンとの縮合生成物、8-アセチル-3-ドデシル-7,7,9,9-テトラメチル-1,3,8-トリアザスピロ[4.5]デカン-2,4-ジオン、及び3-ドデシル-1-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ピロリジン-2,5-ジオン、及び3-ドデシル-1-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)ピロリジン-2,5-ジオン等のヒンダードアミン化合物;
4,4'-ジオクチルオキシオキサニリド、2,2'-ジエトキシオキサニリド、2,2'-ジオクチルオキシ-5,5'-ジ-tert-ブチルオキサニリド、2,2'-ジドデシルオキシ-5,5'-ジ-tert-ブチルオキサニリド、2-エトキシ-2'-エチルオキサニリド、N,N'-ビス(3-ジメチルアミノプロピル)オキサルアミド、2-エトキシ-5-tert-ブチル-2'-エチルオキサニリドと2-エトキシ-2'-エチル-5,4'-ジ-tert-ブチルオキサニリドとの混合物、o-及びp-メトキシ-、並びにo-及びp-エトキシ-二置換オキサニリドの混合物等のオキサルアミド化合物;
2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシフェニル)-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-プロピルオキシフェニル)-6-(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシフェニル)-4,6-ビス(4-メチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-(2-ヒドロキシ-4-ドデシルオキシフェニル)-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-[2-ヒドロキシ-4-(2-ヒドロキシ-3-ブチルオキシプロピルオキシ)フェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-[2-ヒドロキシ-4-(2-ヒドロキシ-3-オクチルオキシプロピルオキシ)フェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、及び2-[4-ドデシル/トリデシルオキシ-(2-ヒドロキシプロピル)オキシ-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン等の2-(2-ヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン化合物;
例えば、トリフェニルホスフィット、ジフェニルアルキルホスフィット、フェニルジアルキルホスフィット、トリス(ノニルフェニルホスフィット)、トリラウリルホスフィット、トリオクタデシルホスフィット、ジステアリルペンタエリスリチルジホスフィット、トリス-(2,4-ジ-第三-ブチルフェニル)ホスフィット、ジイソデシルペンタエリスリチルジホスフィット、ビス-(2,4-ジ-第三-ブチルフェニル)ペンタエリスリチルジホスフィット、ビス-(2,6-ジ-第三-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリチルジホスフィット、ビス-イソデシルオキシペンタエリスリチルジホスフィット、ビス-(2,4-ジ-第三-ブチル-6-メチルフェニル)ペンタエリスリチルジホスフィット、ビス(2,4,6-トリ-第三-ブチルフェニル)ペンタエリスリチルジホスフィット、トリステアリルソルビチルトリホスフィット、テトラキス(2,4-ジ-第三-ブチルフェニル)4,4'-ビフェニレンジホスホナイト、6-イソオクチルオキシ-2,4,8,10-テトラ-第三ブチル-12H-ジベンゾ[d、g]-1,3,2-ジオキサホスホシン、6-フルオロ-2,4,8,10-テトラ-第三-ブチル-12H-メチルジベンゾ[d,g]-1,3,2-ジオキサホスホシン、ビス-(2,4-ジ-第三-ブチル-6-メチルフェニル)メチルホスフィット及びビス(2,4-ジ-第三-ブチル-6-メチルフェニル)エチルホスフィット等のホスフィット化合物又はホスホナイト化合物が挙げられる。中でも、ベンゾトリアゾール化合物が好ましい。
【0124】
紫外線吸収剤の添加量は、モノマー(A)に対して、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは800ppm以下、より好ましくは500ppm以下である。このように紫外線吸収剤を添加することにより、モノマーを含む液の着色が抑制され、モノマー自体の保存安定性が向上する傾向にある。
【0125】
その他成分の例としては、さらに軟質剤、可塑剤が挙げられる。
【0126】
軟質剤としては、例えば、天然ゴム、合成ゴム等のゴム、熱可塑性エラストマー等のエラストマーが挙げられる。このような軟質剤により硬組織補修用組成物の柔軟性を高めることができる。合成ゴムとしては、例えば、EPT(エチレン・プロピレン・ターポリマー)が挙げられる。熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、及びウレタン系エラストマーが挙げられる。エラストマーの分子量は、通常1000~100万、好ましくは2000~50万である。また上記エラストマーのガラス転移点(Tg)は、通常20℃以下、好ましくは0℃以下である。
【0127】
可塑剤としては、例えば、クエン酸エステル、イソクエン酸エステル、酒石酸エステル、リンゴ酸エステル、乳酸エステル、グリセリン酸エステル及びグリコール酸エステル等のヒドロキシカルボン酸エステル;トリメリト酸トリメチル、ジ安息香酸ジエチレングリコール、マロン酸ジエチル、O-アセチルクエン酸トリエチル、フタル酸ベンジルブチル、ジ安息香酸ジプロピレングリコール、アジピン酸ジエチル、O-アセチルクエン酸トリブチル、セバシン酸ジメチル、アルキレングリコールジエステルが挙げられる。
【0128】
軟質剤及び可塑剤の添加量は、材料の種類によって適宜選択されるが、通常、硬組織補修用組成物全体の中で、通常0~30質量%、好ましくは0~20質量%、より好ましくは0~10質量%である。
【0129】
その他成分の例としては、さらに保存剤が挙げられる。保存剤の具体例としては、メチルパラベン、メチルパラベンナトリウム、エチルパラベン、プロピルパラベン、プロピルパラベンナトリウム、ブチルパラベン;クレゾール、クロロクレゾール;レゾルシノール、4-n-ヘキシルレゾルシノール、3a,4,7,7a-テトラヒドロ-2-((トリクロロメチル)チオ)-1H-イソインドール-1,3(2H)-ジオン;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンザルコニウムナトリウム、塩化ベンゼトニウム;安息香酸、ベンジルアルコール、塩化セチルピリジニウム、クロロブタノール、デヒドロ酢酸、o-フェニルフェノール、フェノール、フェニルエチルアルコール、安息香酸カリウム、ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、ソルビン酸、チメロサール、チモール、ホウ酸フェニル水銀や硝酸フェニル水銀や酢酸フェニル水銀等のフェニル水銀化合物、ホルムアルデヒドが挙げられる。
【0130】
その他成分の例としては、さらに鎮痛薬、鎮痛薬の配合物、食欲抑制薬、抗蠕虫薬、抗関節炎薬、抗喘息薬、抗痙攣薬、抗鬱薬、抗利尿薬、下痢止め薬、抗ヒスタミン薬、抗炎症薬、抗偏頭痛薬剤、制嘔吐剤、抗新生物薬、抗パーキンソン病薬、止痒薬、抗精神病薬、解熱薬、鎮痙薬、抗コリン作用薬、交感神経興奮剤、心臓血管用薬剤、抗不整脈薬、抗高血圧薬、利尿薬、血管拡張剤、免疫抑制薬、筋弛緩剤、副交感神経遮断薬、覚醒薬、鎮静剤、精神安定剤、コリン作用薬、化学療法薬、放射性医薬品、骨誘導性薬、膀胱静止性のヘパリン中和剤、凝血原、止血剤、キサンシン誘導体、ホルモン、天然由来又は遺伝子工学によって合成されたタンパク質、糖蛋白質、リポ蛋白質、オリゴヌクレオチド、抗体、抗原、バソプレシン、バソプレシン類似体、エピネフリン、セレクチン、凝血促進性の毒物、プラスミノゲン活性化因子阻害剤、血小板活性剤、骨形成因子、骨成長因子、止血作用を有する合成ペプチド、及びその他の薬学的又は治療的成分が挙げられる。なお、これら成分を含むことにより、本発明の硬組織補修用組成物は、ドラッグ・デリバリー・システムや再生医療用途にも用いることができる。
【0131】
硬組織補修用組成物には、例えば組織修復の促進を目的として、さらに骨形成因子、骨成長因子、及びその他の薬学的又は治療的成分を含ませても良い。
【0132】
その他成分の例としては、さらに、オレンジ油、グレープフルーツ油、レモン油、ライム油、丁子油、ウインターグリーン油、ペパーミント油、ペパーミントスピリット、バナナ留出物、キュウリ留出物、蜂蜜留出物、ローズウオータ、メントール、アネトール、サリチル酸アルキル、ベンズアルデヒド、グルタミン酸一ナトリウム、エチルバニリン、チモール、及びバニリン等の香料が挙げられる。
【0133】
その他成分の例としては、例えば、周辺の骨組織との視覚的な区別の明瞭化、密着性の向上、圧縮強度等の特性の強化、活性ラジカル種の補足による周辺の骨組織への為害性の低減の目的で、さらに無機充填剤(ただし、前述のX線造影剤を除く)、有機充填剤、有機複合フィラー、着色剤が含まれていても良い。
【0134】
無機充填剤としては、例えば、ビスマス酸化物、チタン酸化物、酸化亜鉛、酸化アルミニウム粒子等の金属酸化物粉末;リン酸ジルコニウム等の金属塩粉末;シリカガラス、アルミニウム含有ガラス、バリウム含有ガラス、ストロンチウム含有ガラス、ジルコニウムシリケートガラス等のガラスフィラー;銀徐放性を有するフィラー、カルシウム徐放性を有するフィラー:及びフッ素徐放性を有するフィラーが挙げられる。硬化後の無機充填剤とモノマー(A)との間で強固な結合を形成する観点からは、シラン処理、ポリマーコート等の表面処理を施した無機充填剤を使用することが好ましい。これら無機充填剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0135】
カルシウム徐放性を有するフィラーとしては、例えば、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム一水和物、リン酸水素カルシウム、リン酸水素カルシウム二水和物、リン酸三カルシウム、リン酸八カルシウム、水酸アパタイト、フッ素アパタイト、塩素アパタイト、炭酸含有水酸アパタイト、グルコン酸カルシウム、グルクロン酸カルシウム、乳酸カルシウム、酢酸カルシウム、ソルビン酸カルシウム、硫酸カルシウム二水和物、硫酸カルシウム半水塩、α-リン酸三カルシウム、β-リン酸三カルシウムが挙げられる。これらカルシウム徐放性を有するフィラーは、単独で又は2種以上組み合わせて使用でき、前述のダプトマイシン及びダプトマイシンの薬理学的に許容できる塩が抗菌薬粒子(Y)として使用され、これらカルシウム徐放性を有するフィラーと共に使用される場合、抗菌性が向上する傾向がある。さらに、前述の抗菌薬粒子(Y)及び/又は前述の多糖類(Z)と共に使用される場合、抗菌性が向上する傾向及び/又は生体への為害性を低減する傾向にある。
【0136】
着色剤としては、例えば、赤色2号及びそのアルミニウムレーキ、赤色3号及びそのアルミニウムレーキ、赤色102号及びそのアルミニウムレーキ、赤色104号の(1)及びそのアルミニウムレーキ、又はバリウムレーキ、赤色105号の(1)及びそのアルミニウムレーキ、赤色106号及びそのアルミニウムレーキ、黄色4号及びそのアルミニウムレーキ、又はバリウムレーキ、又はジルコニウムレーキ、黄色5号及びそのアルミニウムレーキ、又はバリウムレーキ、又はジルコニウムレーキ、緑色3号及びそのアルミニウムレーキ、青色1号及びそのアルミニウムレーキ、又はバリウムレーキ、又はジルコニウムレーキ、青色2号及びそのアルミニウムレーキ、赤色201号、赤色202号、赤色203号、赤色204号、赤色205号、赤色206号、赤色207号、赤色208号、赤色213号、赤色214号、赤色215号、赤色218号、赤色219号、赤色220号、赤色221号、赤色223号、赤色225号、赤色226号、赤色227号及びそのアルミニウムレーキ、赤色228号、赤色230号の(1)及びそのアルミニウムレーキ、赤色230号の(2)及びそのアルミニウムレーキ、赤色231号及びそのアルミニウムレーキ、赤色232号及びそのアルミニウムレーキ、だいだい色201号、だいだい色203号、だいだい色204号、だいだい色205号及びそのアルミニウムレーキ、又はバリウムレーキ、又はジルコニウムレーキ、だいだい色206号、だいだい色207号及びそのアルミニウムレーキ、黄色201号、黄色202号の(1)及びそのアルミニウムレーキ、黄色202号の(2)及びそのアルミニウムレーキ、黄色203号及びそのアルミニウムレーキ、又はバリウムレーキ、又はジルコニウムレーキ、黄色204号、黄色205号、緑色201号及びそのアルミニウムレーキ、緑色202号、緑色204号及びそのアルミニウムレーキ、緑色205号及びそのアルミニウムレーキ、又はジルコニウムレーキ、青色201号、青色202号及びそのバリウムレーキ、青色203号、青色204号、青色205号及びそのアルミニウムレーキ、褐色201号及びそのアルミニウムレーキ、紫色201号、赤色401号及びそのアルミニウムレーキ、赤色404号、赤色405号、赤色501号、赤色502号及びそのアルミニウムレーキ、赤色503号及びそのアルミニウムレーキ、赤色504号及びそのアルミニウムレーキ、赤色505号、赤色506号及びそのアルミニウムレーキ、だいだい色401号、だいだい色402号及びそのアルミニウムレーキ、又はバリウムレーキ、だいだい色403号、黄色401号、黄色402号及びそのアルミニウムレーキ、黄色403号の(1)及びそのアルミニウムレーキ、黄色404号、黄色405号、黄色406号及びそのアルミニウムレーキ、黄色407号及びそのアルミニウムレーキ、緑色401号、緑色402号及びそのアルミニウムレーキ、又はバリウムレーキ、青色403号、青色404号、紫色401号及びそのアルミニウムレーキ、黒色401号及びそのアルミニウムレーキ、クロロフィル、クロロフィリン、マラカイトグリーン、クリスタルバイオレット、ブリリアントグリーン、コバルトフタロシアニン、カロテン、ビタミンB12及びこれらから誘導された誘導体が挙げられる。これら着色剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0137】
着色剤の添加量はその種類によって適宜選択されるが、通常、硬組織補修用組成物全体の合計100質量%、すなわちモノマー(A)、重合体粉末(B)、重合開始剤(C)、及び造影剤(X)及び/又は抗菌薬粒子(Y)及びその他必要に応じて含まれる成分の合計100質量%に対して、通常0~5質量%、好ましくは0~2質量%、より好ましくは0~1質量%である。
【0138】
[硬組織補修用組成物]
本発明の硬組織補修用組成物は、モノマー(A)、重合体粉末(B)、重合開始剤(C)及びその他必要に応じて含まれる成分を混合して調製される。その組成物は患部に適用することにより使用できる。なお、本発明において「硬組織補修用組成物」とは、硬組織同士の接着、硬組織内への充填、硬組織とチタン、セラミックス、ステンレス等の人工物との接着、硬組織と軟組織等の他の組織との接着に用いられるものであって、歯と充填物との接着(即ち、歯科用途)は含まない。
【0139】
これら各成分を混合する際には、混合される順序は限定されないが、得られる硬組織補修用組成物の安定性がより優れるという点では、まずモノマー(A)及び重合開始剤(C)を混合し、続いて造影剤(X)と抗菌薬粒子(Y)が配合された重合体粉末(B)を混合することが好ましく、モノマー(A)、重合開始剤(C)、及び、造影剤(X)と抗菌薬粒子(Y)が配合された重合体粉末(B)を同時に混合することがより好ましい。
【0140】
本発明の硬組織補修用組成物が重合禁止剤を含む場合は、得られる組成物の安定性がより優れるという点から、まずモノマー(A)と重合禁止剤の混合物、及び重合開始剤(C)を混合し、続いて造影剤(X)と抗菌薬粒子(Y)が配合された重合体粉末(B)を混合することが好ましく、モノマー(A)と重合禁止剤の混合物、重合開始剤(C)、及び造影剤(X)と抗菌薬粒子(Y)が配合された重合体粉末(B)を同時に混合することがより好ましい。
【0141】
本発明の硬組織補修用組成物を硬化する前、ドライ・ヒート、スチーム、エチレンオキサイド(EO)、過酸化水素等のガス、濾過、液体等による処理により、滅菌しても良い。また、硬組織補修用組成物を患部に充填する前に、あらかじめ患部表面をアルコール等の消毒液で消毒しても良い。さらに、硬組織補修用組成物を患部に充填する前に、例えば患部との密着性を改善することを目的として、前処理を行っても良い。前処理用の液としては、例えば、生理食塩水が挙げられる。
【0142】
[硬組織補修用キット]
本発明の硬組織補修用組成物が長期にわたり形態や性能が変化し、本発明の効果を損なう恐れがある場合には、モノマー(A)、重合体粉末(B)、重合開始剤(C)及びその他必要に応じて含まれる成分からなる硬組織補修に用いる全成分を、単独であるいは任意の組合せで分割して3つ以上の部材に収納した硬組織補修用キットとして保存し、使用前に混合して硬組織補修用組成物とすることができる。収納用の部材としては、モノマー(A)や重合開始剤(C)の揮散、飛散を防ぐために、例えば、ガスバリヤー性がある密閉可能な樹脂容器、あるいはガラスアンプルがある。重合体粉末(B)の収納用の部材としては、吸湿を防ぐための密閉の良好な樹脂及びガラス製容器、又はエチレンオキサイド(EO)、過酸化水素等のガスによる滅菌を行うための樹脂製不織布や滅菌紙が挙げられる。
【0143】
上記成分を保存する方法としては、例えば、モノマー(A)及びその他必要に応じて含まれる成分の混合物、造影剤(X)と抗菌薬粒子(Y)が配合された重合体粉末(B)及びその他必要に応じて含まれる成分の混合物、重合開始剤(C)及びその他必要に応じて含まれる成分の混合物の3つに分割して保存する方法が好ましい。それ以外にも、例えば、モノマー(A)及びその他必要に応じて含まれる成分の混合物、重合体粉末(B)及びその他必要に応じて含まれる成分の混合物、造影剤(X)及びその他必要に応じて含まれる成分の混合物、抗菌薬粒子(Y)及びその他必要に応じて含まれる成分の混合物、重合開始剤(C)及びその他必要に応じて含まれる成分の混合物の5つに分割して保存する方法、モノマー(A)、造影剤(X)、抗菌薬粒子(Y)及びその他必要に応じて含まれる成分の混合物、重合体粉末(B)及びその他必要に応じて含まれる成分の混合物、重合開始剤(C)及びその他必要に応じて含まれる成分の混合物の3つに分割して保存する方法も可能である。
【0144】
これら分割された成分は別々の部材、例えばアンプル等の容器等に入れられ、硬組織補修用キットに収容されて製品として提供できる。
【0145】
硬組織補修用キットは、保管により形態や性能が変化し、本発明の効果を損なう恐れがない限りその構成に特に制限はないが、モノマー(A)、造影剤(X)と抗菌薬粒子(Y)が配合された重合体粉末(B)及びその他必要に応じて含まれる成分の混合物、及び重合開始剤(C)がそれぞれ別個に収納されており、まずモノマー(A)と重合開始剤(C)とが混合され、続いて造影剤(X)と抗菌薬粒子(Y)が配合された重合体粉末(B)及びその他必要に応じて含まれる成分の混合物が混合される構成を有することが好ましく、モノマー(A)と造影剤(X)と抗菌薬粒子(Y)が配合された重合体粉末(B)及びその他必要に応じて含まれる成分の混合物、並びに、重合開始剤(C)が同時に混合される構成を有することがさらに好ましい。このような構成とすることで、より安定した性能を有する硬組織補修用組成物が得られ易い。
【0146】
硬組織補修用キットとしては、例えば、モノマー(A)、造影剤(X)と抗菌薬粒子(Y)が配合された重合体粉末(B)、及び重合開始剤(C)がそれぞれ別個に収納された部材(例えば、樹脂製容器、ガラス製アンプル)と、これらを収納された部材から取り出し混合するための部材(例えば、整形外科用セメント混合器、整形外科用セメント注入器、整形外科用セメントディスペンサ、セメントガン、混合容器、混合皿、シリンダー)とを有するキットが挙げられる。
【0147】
硬組織補修用キットとしては、例えば、モノマー(A)、造影剤(X)と抗菌薬粒子(Y)が配合された重合体粉末(B)、及び重合開始剤(C)が、一つの混合容器内の隔壁又はスペーサーにより3以上に分離されたチャンバー内にそれぞれ別個に収納され、隔壁の破壊、移動、又はスペーサーの除去により混合容器にあらかじめ設計されたバイパスをモノマー(A)及び重合開始剤(C)が通過し、造影剤(X)と抗菌薬粒子(Y)が配合された重合体粉末(B)と接触し、あらかじめ設置された撹拌翼を操作することで混合が可能な撹拌ユニットを有するキットが挙げられる。
【0148】
3以上に分離されたチャンバー内に各成分が収納された一つの混合容器からなるキットは、本発明の組成物を二つ以上の部材、典型的には各容器に分割して使用直前に混合して使用する方法と比較して煩雑さが低減し、さらに、混合容器から直接組成物を注入できるセメントガン等の治具により患部に直接充填することができ、手技的かつ経済的に有用である。
【0149】
また、重合開始剤(C)成分の一部又は全部を、あらかじめ、硬組織補修用組成物を骨、軟骨等の硬組織等の患部や軟組織、その他チタン、セラミックス、ステンレス等の人工物に塗布する際に使用する治具に含有させ、使用直前にモノマー(A)又はモノマー(A)と重合禁止剤とを含む混合物、重合体粉末(B)、及びその他必要に応じて含まれる成分と治具とを接触させて、本発明の硬組織補修用組成物をその場で調製し、そのまま患部に充填することもできる。
【0150】
患部に充填する治具としては、例えば、整形外科用セメント混合器、整形外科用セメント注入器、整形外科用セメントディスペンサ、セメントガンが挙げられる。
【0151】
硬組織補修用キットには、例えば、上述したアルコール等の消毒液や、密着性を改善すること等を目的とした前処理の為の溶液が含まれていても良い。
【0152】
硬組織補修用キットで各成分を保存する場合には、好ましくは各成分が変質しない(例えば、モノマーが硬化しない)条件で、可視光等の電磁波により滅菌処理しても良い。
【実施例】
【0153】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する、ただし、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0154】
(1)アスペクト比の値(Ap値)及び累積比率(%)
Ap値及び累積比率(%)は、分散溶媒として2-プロパノール(大伸化学社製)を使用し、出力500Wの超音波バスで60秒間分散させ、サンプル液流量0.42μL/秒、キャリア液流量416.67μL/秒、観察倍率(レンズ倍率)10倍の条件において、PITA-3(セイシン企業社製、粒度・形状分布測定器)を用いて、動的画像解析法(湿式)の手法で測定した。観測粒子数は1測定当たり約1万個とした。Ap値は、この動的画像解析法(湿式)により得た投影画像に基づいて、以下の式で算出した。
Ap値 = L/W
L:長径(最大長)(μm)
W:短径(最大長垂直長)(μm)
【0155】
Ap値が1.00以上1.10未満の粉末粒子の累積比率は、測定によって得られた粉末粒子のAp値の分布を累積分布として図示し(粉末粒子のAp値の分布全体が100累積%)、Ap値が1.00以上1.10未満の範囲に該当する分布割合を算出することで求めた。
【0156】
(2)体積平均粒径D50
重合体粉末の体積平均粒径D50は、分散溶媒として試薬特級メタノール(溶媒屈折率1.33)(和光純薬工業社製)又は、0.2質量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液(溶媒屈折率1.33)(和光純薬工業社製)を使用し、装置内蔵超音波ホモジナイザーで5分間(出力25W)にて分散させ、装置Loading Index適量範囲内の濃度条件において、循環速度50%(100%時、65mL/秒)で、Microtrac MT3300EXII(Microtrac社製 粒度分布計)を用いて測定した。
【0157】
実施例及び比較例に使用した重合体粉末(B)の体積平均粒径D50の値は重合体粉末(B)全体における体積平均粒径の累積50%の値であり、重合体粉末(B-x)の体積平均粒径D50の値は重合体粉末(B-x)全体における体積平均粒径の累積50%の値であり、重合体粉末(B-y)の体積平均粒径D50の値は重合体粉末(B-y)全体における体積平均粒径の累積50%の値である。
【0158】
(3)溶出モノマー量(mg/g)
溶出モノマー量(mg/g)は、骨セメントに関する米国規格ASTM F451-16(Standard Specification for Acrylic Bone Cement)に規定の条件で測定した。溶出操作は、調製後の硬組織補修用組成物を0.8~0.9gの範囲で速やかに分取し、水(溶出液)との接触面積が約0.65cm2となるよう制御して行った。溶出温度は37℃とした。溶出期間は、硬組織補修用組成物の調製開始3分後から7日間(168時間)±15分とした。
【0159】
(4)模擬骨侵入性(mm)
模擬骨侵入性は、連通した気泡を有するポリウレタンフォームからなる海綿模擬骨(ヒューマンボディ社製、商品名SAW1522-507、空孔率95%)に生理食塩水(和光純薬工業製、商品名0.01mol/Lりん酸緩衝生理食塩水)を含浸させ、その上面に軟塊状となり糸引きがなくなってから5分後の組成物をのせ、75kPaの圧力で30秒間加荷重し、組成物が侵入した深さ(mm)を測定した。
【0160】
(5)金属との密着性(kPa)
金属との密着性は、鏡面加工したSUS304の上面に軟塊状となり糸引きがなくなってから30秒以内に組成物を載せ、150kPaの圧力で30分間加荷重し、その後、荷重を加えずに24±3時間静置した硬化物がSUS304との界面から剥離するのに要した抵抗値として測定した。抵抗値は硬化した組成物の一端をSUS304との密着界面に対して平行方向に(剪断的に)5mm/分の試験速度で押すときの測定値である。
【0161】
なお、SUS304の金属板は、白銅社製の鏡面SUS304板(品番304♯400研磨切板)を用い、操作及び/評価環境は23±2℃、相対湿度40%RH以上である。
【0162】
(6)生地化時間(分’秒”)
骨セメントに関する国際規格ISO5833:2002(外科用インプラント-アクリル樹脂セメント)に規定の条件で測定した。
【0163】
(7)残留モノマー量(%)
残留モノマー量(%)は、JIS T6501:2012「義歯床用アクリル系レジン(メタクリル酸メチルモノマー残留量)」に既定の測定法に従い測定した。モノマー液の抽出時間は、3時間±10分とした。
【0164】
(8)シリンジ吐出時の抵抗値(N)
シリンジ吐出時の抵抗値は、硬組織補修用組成物を充填したネオフィード(登録商標)シリンジ(トップ社製、規格20mL)の押子を100mm/分の試験速度で押すときの抵抗値として測定した。試験は、硬組織補修用組成物の調製を開始してから2分30秒経過後から開始した。抵抗値は、押子の変位(動いた距離)が、約5±3mm及び約50±5mmとなった時の2測定値の平均値である。
【0165】
(9)表面散逸エネルギー限界値(GIC値)(KJ/m2)
表面散逸エネルギー限界値(GIC値)は、プラスチック材料に関する米国規格ASTM D5045-14に規定のSENB(Single-edge-notch-bending)法により測定した。なお、SENB試験片の板厚Bは4.0mmとし、試験速度は10mm/分である。
【0166】
[実施例1~6及び比較例1~3]
実施例1、3、4、6及び比較例1、3において、モノマー(A)としてメタクリル酸メチル、重合開始剤(C)として、85質量%の部分酸化トリブチルホウ素と15質量%のエタノール混合物(三井化学社製、品番BC-S1i)(重合開始剤(C)の合計を100質量%とする)、造影剤(X)として硫酸バリウム(堺化学工業社製)を用いた。
【0167】
実施例2、5及び比較例2において、モノマー(A)として、99.5質量%のメタクリル酸メチルと0.5質量%の試薬一級N,N-ジメチル-p-トルイジン(和光純薬工業社製)の混合物(モノマー(A)の合計を100質量%とする)、重合開始剤(C)として過酸化ベンゾイル(BPO)(Aldrich社製、商品名Luperox(登録商標)A75)、造影剤(X)として硫酸バリウム(堺化学工業社製)を用いた。
【0168】
実施例3及び比較例3において、抗菌薬粒子(Y)として、硫酸ゲンタマイシン(和光純薬工業社製、力価=654μg/mg)を用いた。
【0169】
実施例1~6において、重合体粉末(B-x)として、ポリメチルメタクリレート(アスペクト比=1.30、重量平均分子量Mw=452000、体積平均粒径D50=18.7μm)、又は、ポリメチルメタクリレート(アスペクト比=1.72、重量平均分子量Mw=457000、体積平均粒径D50=21.7μm)を用いた。
【0170】
実施例1a~1d、実施例1h、実施例2a~2b、実施例4a及び比較例1~3において、重合体粉末(B-y)として、(1)ポリメチルメタクリレート(アスペクト比=1.04、重量平均分子量Mw=117000、体積平均粒径D50=8.2μm)、(2)ポリメチルメタクリレート(アスペクト比=1.04、重量平均分子量Mw=147000、体積平均粒径D50=40.5μm)を併用した(質量比(1):(2)=38.9:61.1)。
【0171】
実施例1e~1g、実施例1i~1k、実施例2c~2e、実施例3、実施例4b~4c及び実施例5において、重合体粉末(B-y)として、ポリメチルメタクリレート(アスペクト比=1.03、重量平均分子量Mw=139000、体積平均粒径D50=70.5μm)を用いた。
【0172】
実施例6において、重合体粉末(B-y)として、(1)ポリメチルメタクリレート(アスペクト比=1.04、重量平均分子量Mw=117000、体積平均粒径D50=8.2μm)、(2)ポリメチルメタクリレート(アスペクト比=1.04、重量平均分子量Mw=147000、体積平均粒径D50=40.5μm)を併用した(質量比(1):(2)=22.2:77.8)。
【0173】
そして、表1~3、表11~12、表18~19、表22、表25及び表28に示す配合比であらかじめ重合体粉末(B)及び造影剤(X)、並びに必要に応じて抗菌薬粒子(Y)を均一に分散させた混合物と、50mLガラス製サンプル管内で、表1~3、表11~12、表18~19、表22、表25及び表28に示す配合比であらかじめ混合しておいたモノマー(A)と重合開始剤(C)とを、ポリプロピレン製容器(松風社製、商品名トレーレジン混和器)及びシリコンゴム製のヘラを用いて混合し、先に説明した方法により各特性を測定した。なお、混合時間は60秒である。結果を表4~10、表13~17、表20~21、表23~24、表26~27及び表29~30に示す。
【0174】
表中の各成分の括弧書きで示す配合比は、成分(A)~(C)の合計100質量部を基準とする比率(質量部)である。また、成分(B―x)及び(B-y)の配合比は、重合体粉末(B)100質量%を基準とする比率(質量%)である。
【0175】
表中の重合体粉末(B)のAp値は重合体粉末(B)全体におけるアスペクト比の累積50%の値であり、重合体粉末(B-x)のAp値は重合体粉末(B-x)全体におけるアスペクト比の累積50%の値であり、重合体粉末(B-y)のAp値は重合体粉末(B-y)全体におけるアスペクト比の累積50%の値である。
【0176】
表中の「Ap値1.10未満の粉体粒子の累積比率(%)」の欄において、重合体粉末(B)の累積比率(%)は重合体粉末(B)全体におけるAp値1.10未満の粉体粒子の累積比率(%)の値であり、粉末粒子全体の累積比率(%)は重合体粉末(B)と造影剤(X)の混合物全体(つまり、組成物に含まれる粒子全体)におけるAp値1.10未満の粉体粒子の累積比率(%)の値である。
【0177】
【0178】
【0179】
【0180】
【0181】
【0182】
【0183】
【0184】
【0185】
【0186】
【0187】
【0188】
【0189】
【0190】
【0191】
【0192】
【0193】
【0194】
表4~10、表13~17に示すとおり、実施例1~2の硬組織補修用組成物は、様々な特性が優れていた。
【0195】
一方、比較例1~2の硬組織補修用組成物は、アスペクト比が1.10以上の重合体粉末(B-x)を含んでおらず、粉末粒子全体におけるアスペクト比が1.00以上1.10未満の粉末粒子の累積比率が大きいので、幾つかの特性が劣っていた。
【0196】
また、重合開始剤(C)として有機ホウ素化合物(c1)を使用した実施例1は、重合開始剤(C)として過酸化ベンゾイル(BPO)を使用した実施例2よりも、幾つかの特性がより優れていた。例えば、重合開始剤(C)以外の成分組成が略同じである実施例1aと実施例2a、実施例1dと実施例2bを各々直接比較すると、溶出モノマー量(表4及び13)、模擬骨侵入性(表5及び14)、金属との密着性(表6及び14)の何れについても、重合開始剤(C)として有機ホウ素化合物(c1)を使用した実施例1a及び1dの方がより優れていた。
【0197】
【0198】
【0199】
【0200】
【0201】
表20~21に示すとおり、実施例3の硬組織補修用組成物は、様々な特性が優れていた。
【0202】
一方、比較例3の硬組織補修用組成物は、アスペクト比が1.10以上の重合体粉末(B-x)を含んでおらず、粉末粒子全体におけるアスペクト比が1.00以上1.10未満の粉末粒子の累積比率が大きいので、幾つかの特性が劣っていた。
【0203】
【0204】
【0205】
【0206】
【0207】
【0208】
【0209】
表23~24及び表26~27に示すとおり、実施例4~5の硬組織補修用組成物は、様々な特性が優れていた。
【0210】
また、重合開始剤(C)として有機ホウ素化合物(c1)を使用した実施例4は、重合開始剤(C)として過酸化ベンゾイル(BPO)を使用した実施例5よりも、幾つかの特性がより優れていた。例えば、重合開始剤(C)以外の成分組成が略同じである実施例4bと実施例5bを比較すると、溶出モノマー量(表23及び26)、模擬骨侵入性(表23及び26)、残留モノマー量(表24及び27)の何れについても、重合開始剤(C)として有機ホウ素化合物(c1)を使用した実施例4bの方がより優れていた。
【0211】
【0212】
【0213】
【0214】
表29~表30に示すとおり、実施例6の硬組織補修用組成物は、様々な特性が優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0215】
本発明の硬組織補修用組成物は、例えば、硬組織同士の接着、硬組織内への充填、硬組織とチタン、セラミックス、ステンレス等の人工物との接着及び/又は密着、硬組織と軟組織等の他の組織との接着及び/又は密着、骨、軟骨等の硬組織と人工関節との固定用等に用いる骨セメント、骨の欠損部への充填材、骨補填材、人工骨に有用である。
【0216】
さらに、本発明の硬組織補修用組成物が抗菌薬粒子(Y)を含む場合は、医療用のセメントスペーサーやセメントビーズの成形材料としても有用である。例えば、人工関節手術後に患部の感染が生じてしまった場合、挿入した人工関節を抜去することがある。この抜去により生じた隙間を埋めるためには、通常、抗生薬入りのセメントスペーサーが用いられる。また、人工関節を抜去せずに、デブリードマン(壊死組織の除去及び洗浄)のみを行い、抗菌薬入りセメントビーズを埋め込む場合もある。さらに、屈曲可能なスペーサーを用いた報告もある。例えば、本発明の硬組織補修用組成物を成形型内で硬化することにより、所望の形状のセメントスペーサーやセメントビーズが得られる。