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特許7096333プロテインキナーゼに対する阻害活性を有するチエノ[3,2-d]ピリミジン化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】プロテインキナーゼに対する阻害活性を有するチエノ[3,2-d]ピリミジン化合物
(51)【国際特許分類】
   C07D 495/04 20060101AFI20220628BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20220628BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220628BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220628BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220628BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220628BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20220628BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220628BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20220628BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20220628BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220628BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20220628BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20220628BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20220628BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20220628BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
C07D495/04 105Z
C07D495/04 CSP
A61K31/519
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K45/00
A61P29/00
A61P31/00
A61P25/00
A61P37/06
A61P11/06
A61P9/00
A61P13/12
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P17/06
A61P3/04
A61P3/10
A61P43/00 111
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020529675
(86)(22)【出願日】2018-11-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-15
(86)【国際出願番号】 KR2018014997
(87)【国際公開番号】W WO2019107987
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-08-12
(31)【優先権主張番号】62/592,679
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515182071
【氏名又は名称】ハンミ ファーム.カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HANMI PHARM.CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ペ, イン ファン
(72)【発明者】
【氏名】チョン, スン ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】アン, ヨン ギル
(72)【発明者】
【氏名】ソ, キー ヒョン
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-503553(JP,A)
【文献】特表2015-503576(JP,A)
【文献】国際公開第2011/062372(WO,A1)
【文献】特表2013-531018(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0014756(US,A1)
【文献】特表2015-522607(JP,A)
【文献】特表2013-518098(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 495/
A61K 31/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の化合物、またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物。
【請求項2】
少なくとも95.0%の純度を有する、請求項1に記載の式(I)の化合物、またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物。
【請求項3】
固体である、請求項1または請求項2に記載の式(I)の化合物、またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の式(I)の化合物、またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物と少なくとも1種の薬学的に許容される添加物とを含む薬学的組成物。
【請求項5】
1種または複数のプロテインキナーゼの異常な活性化によって引き起こされる疾患を予防または処置するための使用のための、請求項4に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前記1種または複数のプロテインキナーゼの少なくとも1種が、ALK、AMPK、オーロラA、オーロラB、オーロラC、Axl、Blk、Bmx、BTK、CaMK、CDK2/サイクリンE、CDK5/p25、CHK1、CK2、A-RAF、B-RAF、C-RAF、DDR1、DDR2、DMPK、EGFR1、Her2、Her4、EphA1、EphB1、FAK、FGFR2、FGFR3、FGFR4、Flt-1、Flt-3、Flt-4、FMS(CSF-1)、Fyn、GSK3β、HIPK1、IKKβ、IGFR-1R、IR、Itk、JAK2、JAK3、KDR、Kit、Lck、Lyn、MAPK1、MAPKAP-K2、MEK1、Met、MKK6、MLCK、NEK2、p70S6K、PAK2、PDGFRα、PDGFRβ、PDK1、Pim-1、PKA、PKBα、PKCα、Plk1、Ret、ROCK-I、Rsk1、SAPK 2a、SGK、Src、Syk、Tie-2、Tec、TrkおよびZAP-70から選択される、請求項5に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
前記1種または複数のプロテインキナーゼの少なくとも1種が、A-RAF、B-RAF、C-RAF、DDR1、DDR2およびFMSから選択される、請求項6に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
前記疾患が、血管新生によって引き起こされる胃がん、肺がん、肝がん、結腸直腸がん、小腸がん、膵がん、脳がん、骨がん、メラノーマ、乳がん、硬化性腺症、子宮がん、子宮頸がん、頭頸部がん、食道がん、甲状腺がん、副甲状腺がん、腎がん、肉腫、前立腺がん、尿道がん、膀胱がん、血液がん、リンパ腫、線維腺腫、炎症、糖尿病、肥満症、乾癬、関節リウマチ、血管腫、急性および慢性腎疾患、冠状動脈再狭窄、自己免疫疾患、喘息、神経変性疾患、急性感染症ならびに眼疾患からなる群から選択される、請求項5から7のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
細胞シグナル伝達阻害剤、有糸分裂阻害剤、アルキル化剤、代謝拮抗物質、抗生物質、成長因子阻害剤、細胞周期阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤、生体反応修飾物質、抗ホルモン剤、抗アンドロゲン物質、細胞分化/増殖/生存阻害剤、アポトーシス阻害剤、炎症阻害剤およびP-糖タンパク質阻害剤からなる群から選択される薬物をさらに含む、請求項4から8のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
薬物が、細胞シグナル伝達阻害剤である、請求項9に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
細胞シグナル伝達阻害剤が、MEK阻害剤である、請求項10に記載の薬学的組成物。
【請求項12】
経口組成物である、請求項4に記載の薬学的組成物。
【請求項13】
錠剤、丸剤、散剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤またはマイクロエマルジョン剤の形態である、請求項4から12のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項14】
治療活性物質としての使用のための、請求項1から3のいずれか一項に記載の式(I)の化合物、またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物、あるいは請求項4に記載の薬学的組成物。
【請求項15】
1種または複数のプロテインキナーゼの異常な活性化によって媒介される疾患を予防または処置するための、請求項1から3のいずれか一項に記載の式(I)の化合物、またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物、あるいは請求項4に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロテインキナーゼに対する阻害活性を有するチエノ[3,2-d]-ピリミジン化合物、4-アミノ-N-(1-((3-クロロ-2-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)アミノ)-6-メチルイソキノリン-5-イル)チエノ[3,2-d]ピリミジン-7-カルボキサミド、およびその薬学的に許容される塩、ならびに異常細胞成長によって引き起こされる疾患を処置するための有効成分と同じものを含む薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プロテインキナーゼは、チロシン、セリンまたはスレオニン残基中に存在するヒドロキシル基のリン酸化によりシグナル伝達を媒介する際に鍵となる役割を果たし、したがって細胞成長、分化、および増殖の制御に関与する酵素である。
【0003】
周知のように、細胞内シグナル伝達経路の「オン状態」と「オフ状態」のバランスは、細胞のホメオスタシス維持に不可欠である。例えば、主に細胞内シグナルの「オン状態」の継続の正常な細胞内シグナル伝達経路が、特定のプロテインキナーゼの過剰発現または突然変異のために中断されるとき、がん、炎症性疾患、代謝疾患および脳疾患などの様々な疾患の激増を引き起こすことがある。ヒトゲノムは、すべてのヒト遺伝子の約1.7%を構成する518種のプロテインキナーゼを含むと推定されている[Manningら、Science、298、(2002)、1912]。プロテインキナーゼは、チロシンプロテインキナーゼ(90以上のタイプ)とセリン/スレオニンプロテインキナーゼに分けることができる。チロシンプロテインキナーゼは、20のサブタイプにさらに分類することができる異なる58種のキナーゼを含めて受容体型チロシンキナーゼと、10のサブタイプにさらに分類することができる異なる32種のキナーゼを含めて細胞質型/非受容体型チロシンキナーゼに分けることができる。受容体型チロシンキナーゼは、成長因子と結合することができる表面上のキナーゼドメインと、チロシン残基のリン酸化が行われる活性部位を有する。成長因子と受容体の細胞外ドメインとの結合により、受容体型チロシンキナーゼはポリマーを形成することができ、細胞質内ドメインにおいて特定のチロシン残基が自己リン酸化することができる。これは、細胞内タンパク質のリン酸化を介して、細胞外シグナルを最終的に核に伝達し、それによって、細胞成長、分化、増殖などに関与しうる様々な遺伝子の転写および合成を引き起こす事象カスケードの引き金となりうる。
【0004】
様々な細胞質キナーゼのうち、RAFは、成長因子によって活性化される受容体プロテインキナーゼによって惹起される線状Ras-RAF-MEK-ERKマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)経路に関与するキナーゼの1つである[Solit, D. B.ら、Nature、439、(2006)、358]。A-RAF、B-RAFおよびC-RAF(RAF-1)という3種のRAFアイソフォームが知られている[Jansen HWら、EMBO J、2、(1983)、1969;Marais R.ら、Cancer Surv、27、(1996)、101]。MAPK経路における異常な活性化が、ヒトがん組織の約30%で認められ、異常な活性化を示すB-RAFおよびC-RAFの遺伝子変異が、がん組織において確認されたので、RAFは、がん組織のMAPK経路において非常に重要な役割を果たすと一般に受け入れられている。
【0005】
したがって、RAFキナーゼの異常な活性に対する阻害効果を有する化合物をがんの処置のために使用する方法が示唆されている。したがって、いくつかのRAFおよび修飾RAFキナーゼ阻害剤が現在開発中であり、または進行中の臨床研究で試験中である。そのようなRAFキナーゼ阻害剤の例としては、肝がんの処置に使用されるソラフェニブ(Nexavar(登録商標)、Bayer)、およびメラノーマの処置のために認可されたベムラフェニブ(ZELBORAF(登録商標)、PLX-4032、RG7204、Roche)が挙げられる。臨床治験で現在試験中であるRAFキナーゼ阻害剤の他の例としては、BayerによるレゴラフェニブおよびRDEA119;NovartisによるRAF265;Advan ChemによるE3810;Deciphera Pharma.によるDCC2036;Chugai Pharma.によるCKI-27;ならびにRocheによるRO-5126766が挙げられる。
【0006】
しかし、そのような薬物が一定期間にわたって投与されたとき、初期の良好な成績にもかかわらず、薬物の初回投与後約7か月で、薬物耐性が一部の患者において認められたので、薬物の有効性が疑問視された。
【0007】
そのような分解は、K-Ras、N-RasおよびH-Rasサブタイプからなる、シグナル伝達カスケードにおいて使用される鍵となるタンパク質であるRasの異なる経路の活性化の結果として、RAFの変化に起因するMAPK経路の異常な活性化、異なるRAFアイソフォーム間の相補的シグナル伝達系の活性化、またはMAPK以外の様々な受容体キナーゼの活性化によって引き起こされるB-RAF阻害剤の薬物耐性に起因することがあると想定されている。
【0008】
RAFキナーゼを必要としないシグナル伝達経路の1つは、コロニー刺激因子1受容体(CSF-1R)としても知られているC-FMS(細胞性ネコMcDonough肉腫)であり、ネコ肉腫ウイルスのSusan McDonough株から元々単離された遺伝子ファミリーのメンバーである。FMSは、C-FMSがん原遺伝子によってコードされるマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)の受容体であり、Kit、Flt-3およびPDGFRと共にクラスIII RTKに属する。FMSチロシンキナーゼはがん転移に関与すると報告されている。
【0009】
別の例は、ジスコイジンドメイン受容体(DDR)と呼ばれる受容体型タンパク質チロシンキナーゼであり、レクチンのジスコイジンに関連した細胞外ドメインを有する受容体型チロシンキナーゼのサブファミリーである。ヒトなどの動物の場合、DDRタンパク質には、DDR1タイプとDDR2タイプの2つのタイプがあり、これらは同様のアミノ酸配列を有するが、異なる遺伝子によってコードされる。DDRタンパク質をがん成長および転移のプロセスと関係付けることができると報告されている。さらに、DDRの発現の増加ががん成長に関係付けられることが知られているMMP-1およびMMP-2の発現を高めたという報告に加えて、一部の腫瘍細胞においてDDRの発現の増加が認められた。したがって、そのようなキナーゼを阻害すると、様々なタイプのがんに対する治療的効果を招くことができると考えられる。
【0010】
改善されたプロテインキナーゼ阻害活性を有する化合物が、国際公開第2013/100632号に開示されている。
【発明の概要】
【0011】
RAF、FMS、ならびにDDR1およびDDR2キナーゼに対する阻害活性を有し、通常のRAFキナーゼ阻害剤に比べて、薬物耐性がんを含めて、様々ながんの処置を改良する化合物が、当該技術分野で継続して求められている。
【0012】
それに応じて、本発明は、RAF(細胞成長、分化および増殖の鍵となる制御因子)、FMS、ならびにDDR1およびDDR2キナーゼを阻害することによって、薬物耐性がんを含めて、難治性がんを予防または処置するのに有効な薬物動態および薬力学特性を有する化合物およびそれを含む薬学的組成物を提供する。
【0013】
本発明の一実施形態は、式(I)の化合物4-アミノ-N-(1-((3-クロロ-2-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)アミノ)-6-メチルイソキノリン-5-イル)チエノ[3,2-d]ピリミジン-7-カルボキサミド、またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物に関する。
【0014】
式(I)の化合物に関して本明細書で用いられる「その塩または水和物」という用語およびその変形は、式(I)の化合物の塩、式(I)の化合物の水和物、および式(I)の化合物の塩の水和物を包含する。
【0015】
一部の実施形態において、式(I)の化合物、またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物は、少なくとも95.0%の純度を有する。
【0016】
様々な実施形態のいずれにおいても、式(I)の化合物、ならびにその薬学的に許容される塩および水和物は、プロテインキナーゼに対する阻害活性を有する。
【0017】
一実施形態において、阻害活性は、A-RAF、B-RAF、C-RAF、DDR1、DDR2およびFMSの1つまたは複数に対する阻害活性である。
【0018】
一実施形態において、式(I)は、pan-RAF阻害剤である。そのような実施形態において、阻害活性は、A-RAF、B-RAFおよびC-RAFに対する阻害活性である。
【0019】
別の実施形態において、阻害活性は、FMSに対する阻害活性である。
【0020】
さらに別の実施形態において、活性は、DDR1およびDDR2キナーゼに対する活性である。
【0021】
本発明の別の態様は、式(I)の化合物、またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物を含む薬学的組成物にも関する。
【0022】
本発明の別の態様は、1種または複数のプロテインキナーゼの異常な活性化によって媒介される疾患を予防または処置する方法であって、それを必要とする哺乳動物に本発明の化合物または前記化合物を含む組成物のいずれかを投与することを含む、方法にも関する。
【0023】
発明の効果
プロテインキナーゼに対する阻害活性を有する本発明の化合物4-アミノ-N-(1-((3-クロロ-2-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)アミノ)-6-メチルイソキノリン-5-イル)チエノ[3,2-d]ピリミジン-7-カルボキサミドは、RAFを含めて、様々なプロテインキナーゼを効果的に阻害することができ、したがってRASタンパク質の突然変異もしくは過剰発現またはその関連プロテインキナーゼの過剰活性化によって引き起こされる異常細胞成長に関連した疾患の予防および処置のために単独でまたは組合せで使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明のいくつかの実施形態について詳述し、それらの例を付随する構造および式で説明する。本発明を列挙する実施形態に関連して説明するが、本発明をそれらの実施形態に限定するものではないことが理解されよう。一方、本発明は、特許請求の範囲によって定められる本発明の範囲内に含めることができるすべての代替形態、変更形態、および均等形態をカバーするものである。当業者は、本明細書に記載されるものと同様または同等な多くの方法および材料を認識する。これらの方法および材料は本発明の実施において使用することができる。本発明は、記載の方法および材料に決して限定されない。定義された用語、用語の語法、記載された技法などを含むが、これらに限定されない、組み込まれた文献、特許、および同様の材料の1つまたは複数が、本出願と異なるまたは矛盾する場合、本出願が優先する。別段の定義がない限り、本明細書で用いられるすべての科学技術用語は、当該本発明が属する技術分野の当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと同様または同等な方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができるが、好適な方法および材料を後述する。本明細書に述べるすべての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、それらの全体として参照により組み込まれる。
【0025】
本開示は、式(I)の化合物4-アミノ-N-(1-((3-クロロ-2-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)アミノ)-6-メチルイソキノリン-5-イル)チエノ[3,2-d]ピリミジン-7-カルボキサミド、またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物に関する。
【0026】
本開示の化合物は、プロテインキナーゼに対する阻害活性を有する。一実施形態において、化合物は、A-RAF、B-RAFおよびC-RAFアイソフォームの少なくとも1つに対する阻害活性を有するRAF阻害剤である。一実施形態において、化合物は、A-RAF、B-RAFおよびC-RAFアイソフォームの1つより多くに対する阻害活性を有するpan-RAF阻害剤である。別の実施形態において、阻害活性は、FMSに対する阻害活性である。別の実施形態において、活性は、DDR1およびDDR2キナーゼに対する活性である。別の実施形態において、活性は、pan-RAFに対する活性、DDR1およびDDR2キナーゼに対する活性、ならびにFMSに対する活性である。
【0027】
一部の実施形態において、本発明の式(I)の化合物、ならびにその薬学的に許容される塩および水和物は、固体形態である。
【0028】
一部の実施形態において、本発明の式(I)の化合物、ならびにその薬学的に許容される塩および水和物は、薬学的担体において溶液状態である。一部のそのような実施形態において、溶液状態の式(I)の濃度は、少なくとも0.01mg/mL、少なくとも0.05mg/mL、少なくとも0.1mg/mL、少なくとも0.5mg/mL、少なくとも1mg/mL、少なくとも2mg/mL、少なくとも3mg/mL、少なくとも4mg/mL、または少なくとも5mg/mLである。
【0029】
様々な実施形態のいずれにおいても、式(I)の化合物、またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物の純度は、HPLCによって測定して、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%である。様々な実施形態のいずれにおいても、式(I)の化合物、またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物のアッセイは、HPLCによって測定して、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%である。
【0030】
本発明の化合物は、薬学的に許容される塩も形成することができる。そのような塩は、アニオンを含む薬学的に許容される無毒性酸付加塩とすることができるが、これに限定されない。例えば、塩としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸などの無機酸;酒石酸、ギ酸、クエン酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、グルコン酸、安息香酸、乳酸、フマル酸、マレイン酸などの有機炭酸;およびメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などのスルホン酸によって形成される酸付加塩を挙げることができる。具体的な実施形態において、酸付加塩は、硫酸、メタンスルホン酸またはハロゲン化水素酸(例えば、塩酸)によって形成される酸付加塩である。一実施形態において、式(I)の塩は、ビス塩酸塩である。
【0031】
さらに、式(I)の化合物の水和物が、本発明の範囲内に包含される。
【0032】
本発明の化合物は、以下に示す一般スキーム1で得られた中間体、またはそれぞれ市販の出発物質もしくは中間体を使用することによって、一般スキーム1を経て得ることができる。さらに、得られた4-アミノ-N-(1-((3-クロロ-2-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)アミノ)-6-メチルイソキノリン-5-イル)チエノ[3,2-d]ピリミジン-7-カルボキサミドの質量分析は、MicroMass ZQ(商標)(Waters)を使用することによって行うことができる。
【0033】
有効成分として4-アミノ-N-(1-((3-クロロ-2-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)アミノ)-6-メチルイソキノリン-5-イル)チエノ[3,2-d]ピリミジン-7-カルボキサミド、またはその塩もしくは水和物を含む薬学的組成物を、1種または複数のプロテインキナーゼの異常な活性化によって引き起こされる異常細胞成長疾患の予防または処置のために使用することができる。
【0034】
さらに、本発明は、1種または複数のプロテインキナーゼの異常な活性化によって媒介される疾患を予防または処置する方法であって、それを必要とする対象に本発明の化合物を投与することを含む、方法に関する。例えば、対象は哺乳動物である。
【0035】
プロテインキナーゼの例としては、ALK、AMPK、オーロラA、オーロラB、オーロラC、Axl、Blk、Bmx、BTK、CaMK、CDK2/サイクリンE、CDK5/p25、CHK1、CK2、A-RAF、B-RAF、C-RAF、DDR1、DDR2、DMPK、EGFR1、Her2、Her4、EphA1、EphB1、FAK、FGFR2、FGFR3、FGFR4、Flt-1、Flt-3、Flt-4、FMS(CSF-1)、Fyn、GSK3β、HIPK1、IKKβ、IGFR-1R、IR、Itk、JAK2、JAK3、KDR、Kit、Lck、Lyn、MAPK1、MAPKAP-K2、MEK1、Met、MKK6、MLCK、NEK2、p70S6K、PAK2、PDGFRα、PDGFRβ、PDK1、Pim-1、PKA、PKBα、PKCα、Plk1、Ret、ROCK-I、Rsk1、SAPK 2a、SGK、Src、Syk、Tie-2、Tec、TrkまたはZAP-70が挙げられる。一部の実施形態において、1種または複数のプロテインキナーゼとしては、A-RAF、B-RAF、C-RAF、DDR1、DDR2およびFMSの1つまたは複数が挙げられる。一部の実施形態において、1種または複数のプロテインキナーゼとしては、A-RAF、B-RAFおよびC-RAFの1つまたは複数が挙げられる。一部の実施形態において、1種または複数のプロテインキナーゼとしては、DDR1および/またはDDR2が挙げられる。一部の実施形態において、プロテインキナーゼはFMSである。本発明による薬学的組成物は、上記のキナーゼに対する阻害活性を有する。
【0036】
本発明の薬学的組成物が効果的である、1種または複数のプロテインキナーゼの異常な活性化によって引き起こされる異常細胞成長疾患の例としては、血管新生によって引き起こされる胃がん、肺がん、肝がん、結腸直腸がん、小腸がん、膵がん、脳がん、骨がん、メラノーマ、乳がん、硬化性腺症、子宮がん、子宮頸がん、頭頸部がん、食道がん、甲状腺がん、副甲状腺がん、腎がん、肉腫、前立腺がん、尿道がん、膀胱がん、血液がん、リンパ腫、線維腺腫、炎症、糖尿病、肥満症、乾癬、関節リウマチ、血管腫、急性および慢性腎疾患、冠状動脈再狭窄、自己免疫疾患、喘息、神経変性疾患、急性感染症ならびに眼疾患が挙げられる。一部の実施形態において、がんは、メラノーマまたは肝がんである。
【0037】
本開示の薬学的組成物は、細胞シグナル伝達阻害剤、有糸分裂阻害剤、アルキル化剤、代謝拮抗物質、抗生物質、成長因子阻害剤、細胞周期阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤、生体反応修飾物質、抗ホルモン剤、抗アンドロゲン物質、細胞分化/増殖/生存阻害剤、アポトーシス阻害剤、炎症阻害剤およびP-糖タンパク質阻害剤からなる群から選択される薬物を含むことができる。本発明の薬学的組成物を製剤に展開する場合、前記薬物と組み合わせて使用することができ、または前記薬物との組合せ製剤に展開させることができる。
【0038】
一部の実施形態において、薬物は、細胞シグナル伝達阻害剤である。一部のそのような態様において、細胞シグナル伝達阻害剤はMEK阻害剤である。MEK阻害剤薬物は限定されるものではないが、例えば以下が挙げられる。COTELLIC(登録商標)(コビメチニブ);(GDC-0973;Genentech);[3,4-ジフルオロ-2-(2-フルオロ-4-ヨードアニリノ)フェニル]-[3-ヒドロキシ-3-[(2S)-ピペリジン-2-イル]アゼチジン-1-イル]メタノン;CAS番号934660-93-2。GDC-0623(Genentech);5-((2-フルオロ-4-ヨードフェニル)アミノ)-N-(2-ヒドロキシエトキシ)イミダゾ[1,5-A]ピリジン-6-カルボキサミド;CAS番号1168091-68-6。RO4987655(Hoffman-La Roche);CH4987655;3,4-ジフルオロ-2-(2-フルオロ-4-ヨードアニリノ)-N-(2-ヒドロキシエトキシ)-5-[(3-オキソオキサジナン-2-イル)メチル]ベンズアミド;CAS番号874101-00-5。RO5126766(Hoffman-La Roche);3-[[2-[(メチルアミノスルホニル)アミノ]-3-フルオロピリジン-4-イル]メチル]-4-メチル-7-[(ピリミジン-2-イル)オキシ]-2H-1-ベンゾピラン-2-オン;CAS番号946128-88-7。トラメチニブ(GlaxoSmithKline);GSK1120212;N-[3-[3-シクロプロピル-5-[(2-フルオロ-4-ヨードフェニル)アミノ]-3,4,6,7-テトラヒドロ-6,8-ジメチル-2,4,7-トリオキソピリド[4,3-d]ピリミジン-1(2H)-イル]フェニル]-アセトアミド;CAS番号871700-17-3。ピマセルチブ(Array BioPharmaおよびAstraZeneca);AS-703026;Merck。セルメチニブ;AZD6244;6-(4-ブロモ-2-クロロアニリノ)-7-フルオロ-N-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルベンズイミダゾール-5-カルボキサミド;CAS番号606143-52-6。レファメチニブ(Bayer);RDEA119;Bay86-9766;N-[3,4-ジフルオロ-2-(2-フルオロ-4-ヨードアニリノ)-6-メトキシフェニル]-1-[(2S)-2,3-ジヒドロキシプロピル]シクロプロパン-1-スルホンアミド;CAS番号923032-37-5。PD184352(Pfizer);CI-1040;(2-クロロ-4-ヨードフェニルアミノ)-N-シクロプロピルメトキシ-3,4-ジフルオロベンズアミド;CAS番号212631-79-3。ビニメチニブ(Array BioPharmaおよびNovartis);MEK162;5-((4-ブロモ-2-フルオロフェニル)アミノ)-4-フルオロ-N-(2-ヒドロキシエトキシ)-1-メチル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-6-カルボキサミド;CAS番号606143-89-9。PD0325901(Pfizer);N-[(2R)-2,3-ジヒドロキシプロポキシ]-3,4-ジフルオロ-2-[(2-フルオロ-4-ヨードフェニル)アミノ]-ベンズアミド;CAS番号391210-10-9。AZD8330(AstraZeneca);2-(2-フルオロ-4-ヨードフェニルアミノ)-N-(2-ヒドロキシエトキシ)-1,5-ジメチル-6-オキソ-1,6-ジヒドロピリジン-3-カルボキサミド;CAS番号869357-68-6。TAK-733(Millennium Pharmaceuticalおよび武田薬品工業株式会社);(R)-3-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-6-フルオロ-5-(2-フルオロ-4-ヨードフェニルアミノ)-8-メチルピリド[2,3-d]ピリミジン-4,7(3H,8H)-ジオン;CAS番号1035555-63-5。WX-554(Wilex,AG)。HL-085(Binjiang Pharma)。レゴラフェニブ(Bayer);4-(4-(3-(4-クロロ-3-(トリフルオロメチル)フェニル)ウレイド)-3-フルオロフェノキシ)-N-メチルピコリンアミド;CAS番号755037-03-7。RAF265(Novartis);CHIR-265;1-メチル-5-[2-[5-(トリフルオロメチル)-1H-イミダゾール-2-イル]ピリジン-4-イル]オキシ-N-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]ベンゾイミダゾール-2-アミン;CAS番号927880-90-8。ルシタニブ(Advan Chem);E3810;6-((7-((1-アミノシクロプロピル)メトキシ)-6-メトキシキノリン-4-イル)オキシ)-N-メチル-1-ナフトアミド;CAS番号1058137-23-7。レバスタニブ(Rebastanib)(Deciphera Pharm);DCC2036;4-[4-[[[[3-(1,1-ジメチルエチル)-1-(6-キノリニル)-1H-ピラゾール-5-イル]アミノ]カルボニル]アミノ]-3-フルオロフェノキシ]-N-メチル-2-ピリジンカルボキサミド;CAS番号1020172-07-9。CK-127(Chugai Pharma);RG7304;(E)-5-(2-ベンジリデン-1-メチルヒドラジニル)ピリダジン-3(2H)-オン;CAS番号213406-50-9。一部の実施形態において、薬物はコビメチニブである。
【0039】
本発明の薬学的組成物は、担体、希釈剤、アジュバント、添加剤およびビヒクルを含めて通常の薬学的に許容される添加物を含むことができる。薬学的組成物を通常の方法に従って製剤化することができ、錠剤、丸剤、散剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、マイクロエマルジョン剤などの経口製剤、または筋肉内、静脈内もしくは皮下投与などの非経口製剤の形態で調製することができる。
【0040】
本発明による薬学的組成物を経口投与用の製剤として調製するとき、使用されるべき担体としては、例えば、制限なくセルロース、ケイ酸カルシウム、コーンスターチ、ラクトース、ショ糖、デキストロース、リン酸カルシウム、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ゼラチン、タルク、界面活性剤、懸濁化剤、乳化剤、希釈剤、およびそれらの組合せを挙げることができる。さらに、薬学的組成物を経口投与用の製剤として調製するとき、使用するべき希釈剤としては、例えば、制限なくラクトース、マンニトール、糖類、微結晶性セルロース、セルロース誘導体、コーンスターチ、およびそれらの組合せを挙げることができる。経口投与用の製剤は、例えば、制限なくポリマー(例えば、ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー)、抗酸化剤、防腐剤、湿潤剤、滑沢剤、流動促進剤、加工助剤、造粒剤、分散剤、着色剤、および香味剤も含むことができる。
【0041】
粉末または顆粒などの易流動性の形態の有効成分を好適な機械で、結合剤、潤滑剤、不活性希釈剤、防腐剤、表面活性剤または分散剤と場合によって混合して圧縮することによって、圧縮錠剤を調製することができる。不活性液体希釈剤で湿潤させた有効成分粉末の混合物を好適な機械で成形することによって、成形錠剤を作製することができる。錠剤に、場合によってコーティングまたは割線を付すことができる。錠剤は、非コーティング錠剤とすることができ、または消化管における崩壊および吸着を遅延させ、それによって作用をより長期にわたって持続させるためにマイクロカプセル化を含めて公知の技法によりコーティングすることができる。例えば、モノステアリン酸グリセリンまたはジステアリン酸グリセリンなどの時間遅延材料を単独でまたはワックスと共に使用することができ、場合によって、有効成分をそれからスローまたはコントロールドリリースするように製剤化する。
【0042】
本発明による薬学的組成物を注射用の製剤として調製するとき、使用するべき担体としては、例えば、制限なく水、生理食塩水/食塩水、水性グルコース溶液、水性糖様溶液、アルコール、グリコール(例えば、ポリエチレングリコール400)、エーテル、油、脂肪酸、脂肪酸エステル、グリセリド、界面活性剤、懸濁化剤、乳化剤、およびそれらの組合せを挙げることができる。
【実施例
【0043】
実施例1:化合物式(I)の調製
化合物式(I)を、工程1~4に従って以下の通り調製することができる。
【0044】
以下の調製例、調製方法および実施例において、以下の略語を使用する。
【0045】
本発明の式(I)の化合物は、以下に示す一般スキーム1で得られた中間体、またはそれぞれ市販の出発物質もしくは中間体を使用することによって、一般スキーム1を経て調製することができる。
【0046】
【0047】
上記の反応プロセスを以下の段階反応で例示する。
【0048】
工程1:1-クロロ-6-メチルイソキノリン-5-アミンの調製
15.1gの鉄粉末(0.27mol、3.0当量)および0.3mLの濃HCl(0.005mol、0.05当量)を、300mLのエチルアルコール/精製水の1:1混合溶液(15容量/重量)に添加した。反応混合物を90℃まで加熱し、次に1時間撹拌した。20.0gの1-クロロ-6-メチル-5-ニトロイソキノリン(0.09mol、1.0当量)を反応混合物に添加し、還流させながら5時間撹拌した。反応混合物を減圧下でセライト(登録商標)(珪藻土)パッドに通して濾過し、100mLのクロロホルム/イソプロピルアルコールの4:1混合溶液(5容量/重量)で洗浄した。濾液を減圧下でエバポレートし、残留物を200mLのクロロホルム/イソプロピルアルコールの4:1混合溶液(10容量/重量)に溶解させた。有機層を100mLの重炭酸ナトリウム水溶液(5容量/重量)、および100mLのブライン(5容量/重量)で洗浄した。得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水し、減圧下で濃縮した。濃縮した固体をオーブンで45℃にて12時間乾燥させて、所望の化合物を褐色固体(14.3g、83%)として得た。
1H-NMRスペクトル (300 MHz, DMSO-d6) δ 8.12 (m, 2H), 7.48 (q, 2H), 5.87 (s, 2H), 2.28 (s, 3H).
【0049】
工程2:4-アミノ-N-(1-クロロ-6-メチルイソキノリン-5-イル)チエノ[3,2-d]ピリミジン-7-カルボキサミドの調製
4-アミノチエノ[3,2-d]ピリミジン-7-カルボン酸28.5g(0.15mol、1.0当量)を300mLのN,N-ジメチルホルムアミド(10容量/重量)に溶解させ、続いて25.7gの4-クロロ-2,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン(0.15mol、1.0当量)および16.1mLの4-メチルモルホリン(0.15mol、1.0当量)を20~30℃で添加し、次に20分間撹拌した。次いで、28.1gの1-クロロ-6-メチルイソキノリン-5-アミン(0.15mol、1.0当量)を反応混合物に20~30℃で添加し、次に12時間撹拌した。反応混合物に、300mLの精製水(10容量/重量)を添加し、反応混合物を1時間撹拌した。反応混合物を減圧下で濾過し、90mLの精製水(3容量/重量)で洗浄した。得られた固体をオーブンで45℃にて12時間乾燥させて、所望の化合物を褐色固体(33.2g、61%)として得た。
1H-NMRスペクトル (300 MHz, DMSO-d6) δ 11.69 (s, 1H), 8.95 (s, 1H), 8.65 (s, 1H), 8.37 (m, 2H), 7.95 (s, 2H), 7.88 (m, 2H), 2.49 (s, 3H).
【0050】
工程3:4-アミノ-N-(1-((3-クロロ-2-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)アミノ)-6-メチルイソキノリン-5-イル)チエノ[3,2-d]ピリミジン-7-カルボキサミドジヒドロクロリドの調製
20gの4-アミノ-N-(1-クロロ-6-メチルイソキノリン-5-イル)チエノ[3,2-d]ピリミジン-7-カルボキサミド(54.1mmol、1.0当量)および17.4gの4-アミノ-2-クロロ-3-フルオロフェノール(108.2mmol、2.0当量)をシールド管に添加し、200mLのイソプロピルアルコール(10容量/重量)および13.5mLの濃HCl(162.2mmol、3.0当量)を反応混合物に20~25℃で添加した。反応混合物を130℃まで加熱し、次に12時間撹拌した。反応溶液を20~30℃に冷却した。固体を減圧下で濾過し、次に50mLのイソプロピルアルコール100mL(5容量/重量)で洗浄して、所望の化合物を暗褐色固体(23.5g、77%)として得た。
【0051】
工程4:4-アミノ-N-(1-((3-クロロ-2-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)アミノ)-6-メチルイソキノリン-5-イル)チエノ[3,2-d]ピリミジン-7-カルボキサミドの調製
23.5gの4-アミノ-N-(1-((3-クロロ-2-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)アミノ)-6-メチルイソキノリン-5-イル)チエノ[3,2-d]ピリミジン-7-カルボキサミドジヒドロクロリド(41.4mmol、1.0当量)を、1Lの丸底フラスコに添加し、470mLのメチルアルコール(20容量/重量)を添加した。12.7mLのトリエチルアミン(91.0mmol、2.2当量)を、反応混合物に20~25℃で添加し、次に2時間撹拌した。固体を減圧下で濾過し、次に100mLのメチルアルコール(5容量/重量)で洗浄した。濾過した固体をオーブンで45℃にて12時間乾燥させて、所望の化合物を褐色固体(11.7g、57%)として得た。
1H-NMRスペクトル (300 MHz, DMSO-d6) δ 11.53 (s, 1H), 10.48 (br, 1H), 8.97 (s, 1H), 8.92 (d, 1H), 8.50 (s, 1H), 8.32 (d, 1H), 7.94 (s, 2H), 7.79 (d, 1H), 7.55 (d, 1H), 7.20 (t, 1H), 7.04 (d, 1H), 6.82 (d, 1H), 2.41 (s, 3H).
【0052】
実施例2:化合物式(I)ビス-塩酸塩の調製
工程1:4-アミノ-N-(1-((3-クロロ-2-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)アミノ)-6-メチルイソキノリン-5-イル)チエノ[3,2-d]ピリミジン-7-カルボキサミドジヒドロクロリドの調製
11.7gの4-アミノ-N-(1-((3-クロロ-2-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)アミノ)-6-メチルイソキノリン-5-イル)チエノ[3,2-d]ピリミジン-7-カルボキサミド(23.6mmol、1.0当量)を、500mLの丸底フラスコに添加し、240mLの80%エチルアルコール(20容量/重量)を添加し、次に5.9mLの濃HCl(70.9mmol、3.0当量)を反応混合物に20~25℃で添加した。反応混合物を90℃まで加熱し、次に2時間撹拌した。反応溶液を20~30℃に冷却した。固体を減圧下で濾過し、次に58.5mLのエチルアルコール(5容量/重量)で洗浄した。濾過した固体をオーブンで45℃にて12時間乾燥させて、所望の化合物を褐色固体(10.9g、81%)として得た。
【0053】
工程2:4-アミノ-N-(1-((3-クロロ-2-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)アミノ)-6-メチルイソキノリン-5-イル)チエノ[3,2-d]ピリミジン-7-カルボキサミドジヒドロクロリドの精製
10.9gの4-アミノ-N-(1-((3-クロロ-2-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)アミノ)-6-メチルイソキノリン-5-イル)チエノ[3,2-d]ピリミジン-7-カルボキサミドジヒドロクロリドを、3Lの丸底フラスコに添加し、2Lのメチルアルコール(200容量/重量)を20~25℃で添加した。反応混合物を50℃まで加熱し、次に30分間撹拌した。反応混合物を20~30℃に冷却した。1.1gの活性炭を添加し、次に3時間撹拌した。反応混合物を減圧下でセライトパッドに通して濾過し、次に100mLのメチルアルコール(10容量/重量)で洗浄した。濾液を減圧下で(膜フィルター紙を使用して)濾過し、次に100mLのメチルアルコール(10容量/重量)で洗浄した。濾液を減圧下でエバポレートした。残留物にメチルアルコール(200mL)を添加し、次に2時間撹拌した。固体を減圧下で濾過し、次に50mLのメチルアルコール(5容量/重量)で洗浄した。濾過した固体をオーブンで45℃にて12時間乾燥させて、所望の化合物を薄褐色固体(7.7g、71%)として得た。
【0054】
工程3:4-アミノ-N-(1-((3-クロロ-2-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)アミノ)-6-メチルイソキノリン-5-イル)チエノ[3,2-d]ピリミジン-7-カルボキサミドジヒドロクロリドの精製
7.7gの4-アミノ-N-(1-((3-クロロ-2-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)アミノ)-6-メチルイソキノリン-5-イル)チエノ[3,2-d]ピリミジン-7-カルボキサミドジヒドロクロリド(13.6mmol、1.0当量)を、250mLの丸底フラスコに添加し、150mLの80%エチルアルコール(20容量/重量)および2.3mLの濃HCl(27.1mmol、2.0当量)を反応混合物に20~25℃で添加した。反応混合物を90℃まで加熱し、次に1時間撹拌した。反応溶液を20~30℃に冷却した。固体を減圧下で濾過し、次に38.5mLのエチルアルコール(5容量/重量)で洗浄した。得られた固体に、385mLのメチルアルコール(50容量/重量)を添加した。反応混合物を40℃まで加熱し、次に3時間撹拌した。固体を減圧下で濾過し、次に38.5mLのメチルアルコール(5容量/重量)で洗浄した。濾過した固体を45℃で12時間乾燥させた。次いで、固体化合物を25℃、90%RHで12時間乾燥させた。次いで、吸湿性固体を室温で6時間乾燥させて、所望の化合物を灰白色粉末(4.8g、62%)として得た。
純度:HPLCにより、97.0%
アッセイ:HPLCにより、96.8%
水分:4.7%
1H-NMRスペクトル (300MHz, DMSO-d6) δ 11.60 (s, 1H), 11.42 (s, 1H), 9.47 (s, 1H), 8.88 (d, 1H), 8.62 (s, 1H), 7.88 (d, 1H), 7.56 (d, 1H), 7.42 (t, 1H), 7.32 (d, 1H), 7.10 (d, 1H), 2.50 (s, 3H).
【0055】
実験例3:RAFキナーゼ活性の評価
キナーゼプロファイリングサービス(Thermo Fisher Scientific、以前はInvitrogen、U.S.A)を製造業者の指示書に従って使用して、実施例2で調製した式(I)ビス-塩酸塩(以降、「化合物・2HCl」と呼ぶ)を、RAFの3つのサブタイプ、すなわちRAF1(C-RAF)Y340D/Y341D、B-RAF野生型およびB-RAFV600Eに対する阻害活性について試験した。化合物の酵素阻害レベルを様々な濃度においてパーセント阻害として算出した。GraphPad Prismソフトウェアを使用して、パーセント阻害に基づいて、用量反応曲線をプロットした。化合物・2HClのC-RAFYY340D/Y341D、B-RAFWTおよびB-RAFV600Eに対するIC50値を表1に示す。コントロールとしては、ZELBORAF(登録商標)(ベムラフェニブ、PLX-4032、Roche)を使用した。
【0056】
実験例4:N-RASQ61K変異細胞株SK-MEL-30(ヒトメラノーマ細胞)の細胞成長に対する阻害の評価
本発明の化合物を、異常な細胞の増殖に対する阻害活性について以下の通り試験した。
【0057】
N-RASQ61K変異SK-MEL-30メラノーマ細胞株(ACC-151)を、DSMZ(Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH、GermanyのDeutsche Sammlung)から得た。SK-MEL30細胞は、野生型B-RAFおよび変異N-RAS(Q61K)を発現する。SK-MEL-30細胞を10%FBSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシンを補充添加したRPMI培地(Gibco BRL)中、37℃、5%COおよび95%空気下でインキュベートした。細胞を96-ウェルプレートに5,000細胞/ウェルの密度で播種し、18時間以上培養した。次いで、細胞を0.1~10μM(1/10段階希釈)の試験化合物で処置し、72時間インキュベートした。
【0058】
細胞生存率を評価するために、SK-MEL-30細胞株を10%TCA(トリクロロ酢酸)で固定し、SRB(スルホローダミンB)で染色し、540nmにおける吸光度を測定した。次いで、それからGI50、すなわちがん細胞の増殖を50%低減させる薬物の濃度を算出した。がん細胞の成長速度を方程式1または2により算出した。
方程式1
[(Ti-Tz)/(C-Tz)]×100(Ti=Tzの場合)
方程式2
[(Ti-Tz)/Tz]×100(Ti<Tzの場合)
【0059】
方程式1および2において、「Tz」は、無処置細胞の密度を指し、それは0%細胞成長群における吸光度である。「C」は、培地のみを添加することによって培養された細胞の密度を指し、「Ti」は、試験化合物で処置した細胞の密度を指す。
【0060】
GI50値は、方程式1の値が50であるときの試験化合物の濃度であり、がん細胞の成長を50%に低減するために必要とされる試験化合物の濃度を示す。各測定時に、試験化合物をベムラフェニブ(PLX-4032)コントロールと比較した。各化合物のGI50値を測定した。それを表2に示す。
【0061】
以上で明らかなように、プロテインキナーゼに対する阻害活性を有する本発明の化合物4-アミノ-N-(1-((3-クロロ-2-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)アミノ)-6-メチルイソキノリン-5-イル)チエノ[3,2-d]ピリミジン-7-カルボキサミドは、RAFを含めて、様々なプロテインキナーゼを効果的に阻害することができ、したがってRASタンパク質の突然変異もしくは過剰発現またはその関連プロテインキナーゼの過剰活性化によって引き起こされる異常細胞成長に関連した疾患の予防および処置のために単独でまたは組合せで使用することができる。