(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】燃料電池用電極、燃料電池および燃料電池用電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20220628BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20220628BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20220628BHJP
H01M 4/96 20060101ALI20220628BHJP
H01M 8/16 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M4/86 B
H01M4/90 B
H01M4/90 M
H01M4/90 Y
H01M4/92
H01M4/96 B
H01M4/96 M
H01M8/16
(21)【出願番号】P 2020534777
(86)(22)【出願日】2019-08-02
(86)【国際出願番号】 JP2019030524
(87)【国際公開番号】W WO2020027326
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2020-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2018145690
(32)【優先日】2018-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】岡部 晃博
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 豊明
(72)【発明者】
【氏名】井上 謙吾
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/175260(WO,A1)
【文献】特開2015-041477(JP,A)
【文献】特開2017-069019(JP,A)
【文献】特開2002-110177(JP,A)
【文献】特開2017-117584(JP,A)
【文献】特開2014-120338(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86- 4/98
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気極、燃料極、および、前記空気極と前記燃料極との間に配設される電解液を備える燃料電池に用いられる電極であって、
前記空気極が、導電性基材、電極触媒および酸素透過膜を含み、
(A)酸素透過膜層
(AB)酸素透過膜・導電性基材混在層
(B)導電性基材層
(C)電極触媒層
の順の積層構造であり、
前記(A)層が熱可塑性樹脂層であり、前記(A)層の厚さが、0.1μm以上、280μm以下であ
り、
前記(AB)層中の前記導電性基材の間隙の80面積%以上が酸素透過膜層成分を含む、燃料電池用電極。
【請求項2】
前記(AB)層中の前記導電性基材の間隙の90面積%以上が酸素透過膜層成分を含む、
請求項1に記載の燃料電池用電極。
【請求項3】
前記
(AB)層中の前記導電性基材の間隙の95面積%以上が酸素透過膜層成分を含む、請求項
1または2に記載の燃料電池用電極。
【請求項4】
前記空気極の前記導電性基材の材料が炭素材料である、請求項1
乃至3のいずれか1項に記載の燃料電池用電極。
【請求項5】
前記酸素透過膜が、示差走査熱量測定装置で決定される、融点およびガラス転移温度の少なくとも1つが100~300℃の範囲にある熱可塑性樹脂を含む、請求項1
乃至4のいずれか1項に記載の燃料電池用電極。
【請求項6】
前記空気極の前記酸素透過膜の材料が、ポリ4-メチル-1-ペンテン、ポリブテン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリジメチルシロキサンからなる群から選択されるいずれか1つの樹脂を含む、請求項1
乃至5
のいずれか1項に記載の燃料電池用電極。
【請求項7】
前記空気極の前記酸素透過膜の材料がポリ4-メチル-1-ペンテンを含む、請求項1
乃至6のいずれか1項に記載の燃料電池用電極。
【請求項8】
前記空気極の前記電極触媒の材料が、Ru、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、AgおよびAuからなる群から選択される1または2以上の金属を含む、請求項1
乃至7のいずれか1項に記載の燃料電池用電極。
【請求項9】
前記空気極の前記電極触媒の材料がPtを含む、請求項
8に記載の燃料電池用電極。
【請求項10】
前記空気極において、前記導電性基材の表面に、Ptを含む前記電極触媒の層が設けられている、請求項
9に記載の燃料電池用電極。
【請求項11】
前記燃料極が、発電菌が定着できる導電性基材を含む、請求項1
乃至10のいずれか1項に記載の燃料電池用電極。
【請求項12】
前記燃料極が、導電性基材と、電極触媒としての発電菌と、を含む、請求項1
1に記載の燃料電池用電極。
【請求項13】
前記燃料極が、炭素材料により構成された導電性基材を含む、請求項
11または12に記載の燃料電池用電極。
【請求項14】
前記燃料電池が家畜排泄物を燃料とする、請求項1
乃至13のいずれか1項に記載の燃料電池用電極。
【請求項15】
請求項1
乃至14のいずれか1項に記載の燃料電池用電極を備える燃料電池。
【請求項16】
構成要素としてプロトン伝導膜を含まない、請求項
15に記載の燃料電池。
【請求項17】
請求項1乃至14のいずれか1項に記載の燃料電池用電極の製造方法であって、
前記導電性基材と
前記酸素透過膜とが直接接する状態で圧着することにより、前記導電性基材と前記酸素透過膜とを接着する工程と、
前記導電性基材に
前記電極触媒を固定化する工程と、
を含む、燃料電池用電極の製造方法。
【請求項18】
導電性基材に電極触媒を固定化する前記工程が、前記導電性基材の表面に、スパッタ法または電極還元法により、Ptを含む前記電極触媒の層を形成する工程を含む、請求項1
7に記載の燃料電池用電極の製造方法。
【請求項19】
電極触媒の層を形成する前記工程が、前記スパッタ法によりPtを含む前記層を形成する工程である、請求項1
8に記載の燃料電池用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極、燃料電池および燃料電池用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物燃料電池(Microbial Fuel Cell:MFC)の電極に関する技術として、特許文献1および2に記載のものがある。
特許文献1(特表2015-525692号公報)には、MFCにおいて使用するための膜が記載されている。具体的には、同文献には、高い酸素透過性を有するポリマーの第1の層と、織材料または不織材料から製造された第2の支持層とを含む膜であって、両方の層が、接着剤を使用することによって一緒にドット積層またはパターン積層される、膜を用いることが記載されており、これにより、特にMFCの分野において使用するための、改良された電極構成およびそれと共に電子-ガス/収集-透過システムを提供することができるとされている。
【0003】
また、特許文献2(国際公開第2015/025917号)には、導電性が高く、耐腐食性が高く、かつ安価である微生物燃料電池用電極及び微生物燃料電池用電極の製造方法を提供するための技術として、微生物燃料電池に用いられ、導電性基材と、導電性基材の表面を被覆している被膜とを備え、被膜が、導電性カーボン材料及び樹脂を用いて形成されており、導電性基材が被膜で被覆されることで構成される微生物燃料電池用電極であって、抵抗率が特定の範囲にある微生物燃料電池用電極について記載されている。そして、この電極は、樹脂及び有機溶剤を含む導電性カーボン材料含有液を、導電性基材に塗布した後、有機溶剤を蒸発させて除去することにより得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2015-525692号公報
【文献】国際公開第2015/025917号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、微生物燃料電池をはじめとする電解液を備える燃料電池の空気極について検討をおこなったところ、簡便な構造で高い出力を得るという点において、改善の余地があることが明らかになった。
【0006】
そこで、本発明は、電解液を備える燃料電池の空気極に用いることができ、簡便な構造で高い出力を得ることができる電極を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下に示す燃料電池用電極、燃料電池および燃料電池用電極の製造方法が提供される。
[1] 空気極、燃料極、および、前記空気極と前記燃料極との間に配設される電解液を備える燃料電池に用いられる電極であって、
前記空気極が、導電性基材、電極触媒および酸素透過膜を含み、
(A)酸素透過膜層
(AB)酸素透過膜・導電性基材混在層
(B)導電性基材層
(C)電極触媒層
の順の積層構造であり、
前記(A)層が熱可塑性樹脂層であり、前記(A)層の厚さが、0.1μm以上、280μm以下である、燃料電池用電極。
[2] 空気極、燃料極、および、前記空気極と前記燃料極との間に配設される電解液を備える燃料電池に用いられる電極であって、
導電性基材、電極触媒および酸素透過膜を含み、
前記導電性基材と前記酸素透過膜とが直接接して圧着されている、燃料電池用電極。
[3] 前記酸素透過膜の膜厚が0.1μm以上1000μm以下である、[2]に記載の燃料電池用電極。
[4] 前記空気極の前記導電性基材の材料が炭素材料である、[1]または[2]に記載の燃料電池用電極。
[5] 前記酸素透過膜が熱可塑性樹脂を含む、[2]に記載の燃料電池用電極。
[6] 前記酸素透過膜が、示差走査熱量測定装置で決定される、融点およびガラス転移温度の少なくとも1つが100~300℃の範囲にある熱可塑性樹脂を含む、[1]または[5]に記載の燃料電池用電極。
[7] 前記空気極の前記酸素透過膜の材料が、ポリ4-メチル-1-ペンテン、ポリブテン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリジメチルシロキサンからなる群から選択されるいずれか1つの樹脂を含む、[1]または[5]に記載の燃料電池用電極。
[8] 前記空気極の前記酸素透過膜の材料がポリ4-メチル-1-ペンテンを含む、[1]または[5]に記載の燃料電池用電極。
[9] 前記空気極の前記電極触媒の材料が、Ru、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、AgおよびAuからなる群から選択される1または2以上の金属を含む、[1]または[2]に記載の燃料電池用電極。
[10] 前記空気極の前記電極触媒の材料がPtを含む、[9]に記載の燃料電池用電極。
[11] 前記空気極において、前記導電性基材の表面に、Ptを含む前記電極触媒の層が設けられている、[10]に記載の燃料電池用電極。
[12] 前記燃料極が、発電菌が定着できる導電性基材を含む、[1]または[2]に記載の燃料電池用電極。
[13] 前記燃料極が、導電性基材と、電極触媒としての発電菌と、を含む、[12]に記載の燃料電池用電極。
[14] 前記燃料極が、炭素材料により構成された導電性基材を含む、[12]に記載の燃料電池用電極。
[15] 前記燃料電池が家畜排泄物を燃料とする、[1]、[2]および[12]のいずれか1項に記載の燃料電池用電極。
[16] [1]、[2]、[12]および[15]のいずれか1項に記載の燃料電池用電極を備える燃料電池。
[17] 構成要素としてプロトン伝導膜を含まない、[16]に記載の燃料電池。
[18] 空気極、燃料極、および、前記空気極と前記燃料極との間に配設される電解液を備える燃料電池の空気極に用いられる電極の製造方法であって、
導電性基材と酸素透過膜とが直接接する状態で圧着することにより、前記導電性基材と前記酸素透過膜とを接着する工程と、
前記導電性基材に電極触媒を固定化する工程と、
を含む、燃料電池用電極の製造方法。
[19] 導電性基材に電極触媒を固定化する前記工程が、前記導電性基材の表面に、スパッタ法または電極還元法により、Ptを含む前記電極触媒の層を形成する工程を含む、[18]に記載の燃料電池用電極の製造方法。
[20] 電極触媒の層を形成する前記工程が、前記スパッタ法によりPtを含む前記層を形成する工程である、[19]に記載の燃料電池用電極の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電解液を備える燃料電池の空気極に用いることができ、簡便な構造で高い出力を得ることができる電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態における燃料電池の構成例を模式的に示す断面図である。
【
図2】実施形態における燃料電池用電極の構成例を模式的に示す断面図である。
【
図3】実施形態における燃料電池用電極の製造方法の例を説明する断面図である。
【
図4】実施形態における空気極の断面構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には共通の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。また、数値範囲を示す「α~β」は、断りがなければ、α以上β以下を表す。
【0011】
図1は、本実施形態における燃料電池の構造の一例を模式的に示す断面図である。本実施形態に対応する燃料電池の基本構成を
図1に示した。
図1において、燃料電池10は、空気極13、燃料極11、および、空気極13と燃料極11との間に配設される電解液12を備える。本実施形態は、この電極の構造に特徴を有するものである。即ち、かかる燃料電池10の空気極13に用いられる電極が、(B)導電性基材15、電極触媒(
図2(a)および
図2(b)の(C)電極触媒層19)ならびに(A)酸素透過膜14を含み、
図2(b)に示すように(A)酸素透過膜14と(B)導電性基材15とが混在する(AB)酸素透過膜・導電性基材混在層145をも有する。
本実施形態において(AB)酸素透過膜・導電性基材混在層145の厚みは、(B)導電性基材15と(AB)酸素透過膜・導電性基材混在層145との厚みの合計を100%として0.1~60%であることが好ましい。より好ましい下限値は0.3%以上、より好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは0.7%以上、さらにより好ましくは0.8%以上である。一方、より好ましい上限値は50%以下、より好ましくは45%以下、さらに好ましくは40%以下である。
本実施形態に係る空気極13は、具体的には
図2(b)に示す積層構造を有する。
図2(b)においては、(A)酸素透過膜14の材料と(B)導電性基材15の材料とが混在する(AB)酸素透過膜・導電性基材混在層145が設けられている。
図2(b)に示した積層構造は、たとえば、
図2(a)に示すように、(A)酸素透過膜14、(B)導電性基材15および(C)電極触媒層19をこの順に積層し、(A)酸素透過膜14と(B)導電性基材15とを圧着することにより得られる。空気極13を得る方法の詳細については後述する。
本実施形態の空気極13では、(AB)酸素透過膜・導電性基材混在層145は、密な構造を持ち、空隙が少ないことが好ましい。具体的には(AB)酸素透過膜・導電性基材混在層145は、電極の断面を縦横それぞれ数μm~10μmのスケールに拡大した走査型電子顕微鏡写真で観察することが出来る。尚、前記の断面観察を行う試料作製の為には、上記の電極に形状保持用の樹脂等の材料(包埋材料や包埋樹脂と言うことがある。)を好ましくは、(C)電極触媒層19の側に塗布などの方法で定着させてから、電極を切削することが好ましい。その他、公知の方法で、断面観察用資料を作成することが出来る。
図4は、空気極13の断面構造の一例を示す図である。
図4には、空気極13の構成例として、Pt/カーボンペーパー/酸素透過膜(TPX(登録商標、以下同じ。)膜:三井化学社製)の積層体を作成し、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察した結果が示されている。
図4の例において、(B)導電性基材15であるカーボンぺーバーと(A)酸素透過膜14であるTPX膜との混在領域では、カーボン繊維間のほぼ100%がTPXで占められていることがわかる。即ち、空隙が殆ど無い。
この(AB)酸素透過膜・導電性基材混在層145中の(B)導電性基材15と、(A)酸素透過膜14を構成する樹脂とは、後述する様な圧着方法によって実現できるような混在状態にあることが好ましい。
本実施形態の(AB)酸素透過膜・導電性基材混在層145の好ましい態様は下記の様に設定することが出来る。
本実施形態の(AB)酸素透過膜・導電性基材混在層145は、本実施形態の空気極13の断面を観察することによって、その構成を把握できる。具体的には、本実施形態の空気極13を、常法で切削して得た断面が電子顕微鏡観察される。前記切削加工の際、状況に応じて、公知の形状保持用の樹脂やカーボン膜などの成分を空気極13の表面部に付着させるなどの方法で、空気極13を予め補強することも出来る。
本実施形態の(AB)酸素透過膜・導電性基材混在層145は、縦*横が、それぞれ数μm~10μmのスケールとなるように拡大した本実施形態の空気極断面の走査型電子顕微鏡写真(日立製作所社製、S-4800型走査電子顕微鏡を使用)において、隣り合うたとえば10以上、好ましくは20以上、更に好ましくは30以上の(B)導電性基材15成分(例えばカーボン繊維)の間隙の好ましくは80面積%以上、より好ましくは90面積%以上、さらに好ましくは95面積%以上に(A)酸素透過膜14の成分が存在している領域を含む態様を有することが好ましい。前記の隣り合う間隙とは、例えば
図4において、10本以上のカーボン繊維間(例えば、縦*横が3本*4本の領域)の間隙である。
図4の態様は、以下の様に記述することが出来る。
図4には、上記の10本以上のカーボン繊維間のほぼすべてにTPXが存在する態様となっている領域が見える。よって、
図4の態様は、(B)導電性基材15の間隙の約100面積%に(A)酸素透過膜14の成分が存在する態様となる。
上記のような条件を満たすことで、外部より取り込んだ空気(酸素)を効率よく電極触媒に供給しつつ、且つ、安定した積層構造を維持することが出来ると考えられる。この為、本実施形態の電極を用いた燃料電池は、高い出力を実現することが出来ると本発明者らは考えている。
(AB)酸素透過膜・導電性基材混在層145は、例えば(B)導電性基材15と(A)酸素透過膜14とが直接接して圧着されている形態である。この様な圧着工程によって得られる(AB)酸素透過膜・導電性基材混在層145は、後述するようなプレス法や多層押し出し法などによって実現することが出来る。
本実施形態の空気極を含む電極を用いた燃料電池は、高い出力を発現する。これは、従来の接着材による接着法や塗装法に比して、(B)導電性基材15と(A)酸素透過膜14とが、比較的薄い(A)酸素透過膜14の状態で、好ましくは密に、且つ、強固に接触した状態を形成させることが出来るので、効率よく、高い出力を実現するのに役立っているのだろうと考えられる。
【0012】
また、
図1において、燃料極11と空気極13とは、外部抵抗17を含む外部回路により接続されている。
また、燃料極11および空気極13は容器18に収容されるとともに、空気極13の(A)酸素透過膜14は容器18の外壁の一部を構成しており、(A)酸素透過膜14の(B)導電性基材15との接触面と反対側の面において、空気極13が大気16に接する構成となっている。
電解液12は、たとえばMFCの場合、燃料となる有機物を含み、好ましくは燃料有機物の水懸濁液である。
MFCの場合、燃料有機物の水懸濁液の具体例として、家畜排泄物を含む家畜農家における廃水や家庭廃水等が挙げられる。また電解液12には発電を促進するための添加物を加えてもよく、添加物には制限はないが、たとえば酸化鉄や水酸化鉄などの鉄化合物類が挙げられる。勿論、MFC以外の状態であれば従来の水素(炭化水素を改質して得られる水素を含む。)を溶解、もしくはバブリングさせた態様の液を併用することも出来る。
また、燃料電池10は、好ましくは構成要素としてプロトン伝導膜を含まない。
【0013】
このように構成された燃料電池10において、燃料極11には、電解液12中の燃料、具体的には有機物が供給され、有機物が分解して水素イオンが生じると共に電子が放出される。
燃料極11にて生じた水素イオンは電解液12中を移動して空気極13に到達する。燃料極11から放出された電子は、外部回路を通じて空気極13に移動する。空気極13には、大気16すなわち(酸素を含む)空気が供給される。そして、空気極13においては、水素イオンおよび空気中の酸素から水が生成する。
以上の結果、外部回路では、燃料極11から空気極13に向かって電子が流れ、電力が取り出される。
【0014】
燃料電池10は、たとえば微生物燃料電池である。以下、燃料電池10が微生物燃料電池である場合を例に挙げて説明する。
【0015】
微生物燃料電池である燃料電池10は、たとえば家畜排泄物や食品廃棄物を燃料とする。また、電解液12として、家畜排泄物等の有機物を含む廃水、汚泥、その他のバイオマス懸濁液等が挙げられる。また、電解液12として、例えば農場において発生する収穫後の葉や茎などをたい肥化した後、その一部または全部を水に溶解や懸濁させる態様を挙げることも出来る。また、電解液12が発電菌を含むものが好ましい。
そして、燃料極11において、微生物の作用により有機物から水素イオンおよび電子が生じる。具体的には、燃料極11は、導電性基材および導電性基材に担持された微生物を含み、好ましくは、導電性基材と電極触媒としての発電菌とを含む。発電菌として、たとえば、細胞外電子伝達機構を有する細菌が挙げられる。
また、微生物は、燃料に含まれる有機物を酸化して電子を生成するものであればよく、1種および2種以上のいずれとしてもよい。微生物の具体例として、Shewanella属、Geobacter属、Geothrix属、Aeromonas属に属するものが挙げられる。所望の微生物を添加し導電性基材に担持させてもよいが、廃水中に含まれる微生物を利用して担持させてもよい。微生物の担持方法について制限はないが、燃料極11として微生物を担持していない導電性基材と微生物を含む電解液を用いて発電を開始し、発電に伴い導電性基材に微生物を付着させる方法等が挙げられる。
【0016】
燃料極11での反応を効率良く生じさせる観点から、燃料極11の導電性基材は、発電菌が定着できる導電性材料により構成されていることが好ましい。
導電性材料の具体例として、炭素、導電性の金属が挙げられる。
また、発電菌を担持できるとともに、燃料が導電性基材内を移動できる形状とする観点から、導電性基材として、たとえば、フェルト、織布、不織布、網状体、焼結体、発泡体等の多孔質基材が挙げられる。同様の観点から、燃料極11が、カーボンクロス、カーボンペーパー、カーボンフェルト等の炭素材料やステンレス等の金属材料により構成された導電性基材を含むことが好ましく、中でも炭素材料がさらに好ましい。また、燃料極11の導電性基材は表面処理されていてもよい。
【0017】
燃料極11がシート状であるとき、燃料極11の厚さは、発電菌を安定的に担持する観点から、好ましくは0.1mm以上であり、より好ましくは1mm以上である。また、燃料極11の小型化の観点から、燃料極11の厚さは好ましくは20mm以下であり、より好ましくは10mm以下である。
ここで、燃料極11の厚さは、燃料極11の導電性基材の厚さであってもよい。
【0018】
次に、空気極13についてさらに説明する。
本実施形態において、空気極13は、好ましくは(A)酸素透過膜14、(AB)酸素透過膜・導電性基材混在層145、(B)導電性基材15、(C)電極触媒層19がこの順に位置する積層構造を有する。好ましくは、(AB)酸素透過膜・導電性基材混在層145は、その厚さが特定の範囲にある。前述の通り、(AB)酸素透過膜・導電性基材混在層145では、(A)酸素透過膜14の材料(樹脂)と(B)導電性基材15とが密に存在することが好ましい。
空気極13においては、前述のとおり、(B)導電性基材15と(A)酸素透過膜14とが直接接して圧着されているのが好ましい態様である。さらに具体的には、(B)導電性基材15および(A)酸素透過膜14は接着剤を用いずに圧着接合されているのが好ましい態様となる。また、空気極13は、好ましくは(B)導電性基材15と(A)酸素透過膜14との間に、前述の酸素透過膜・導電性基材混在層145、導電性基材15および酸素透過膜14以外の層(介在層)を有しない。
【0019】
本実施形態の(A)酸素透過膜14は、好ましくは熱可塑性樹脂を含み、より好ましくは熱可塑性樹脂の膜である。(A)酸素透過膜14は、酸素透過性に優れるとともに、大気16への電解液12の漏れを抑制できる材料により構成されていることが好ましい。後述するように、(A)酸素透過膜14は電解液12を通さないことが好ましい。この点、(A)酸素透過膜14の材料は、たとえば酸素透過性を有する樹脂である。好ましくは、(A)酸素透過膜14は、示差走査熱量測定装置で決定される、融点およびガラス転移温度の少なくとも1つが、100~300℃の範囲にある。また、酸素透過性を有する樹脂は、熱可塑性樹脂であることが好ましいが、溶融流動性が低くても、たとえば後述するプレス成型等が適用できる材料であれば採用することが出来る。
前述の融点の好ましい下限値は110℃以上、より好ましくは120℃以上である。一方、その上限値は290℃以下、より好ましくは280℃以下、さらに好ましくは270℃以下である。
また、前述のガラス転移温度についても、好ましい下限値は110℃以上、より好ましくは120℃以上である。一方、その上限値は290℃以下、より好ましくは280℃以下、さらに好ましくは270℃以下である。
また、酸素透過性を有する樹脂は、その軟化温度の上限値が、好ましくは290℃以下、より好ましくは280℃以下、さらに好ましくは270℃以下である。また、本実施形態に用いられる(A)酸素透過膜14の材料(樹脂)は、電解液に不溶性であることが好ましい。例えば、電解液が水系である場合、非水溶性の樹脂であることが好ましい。
本実施形態の酸素透過膜を形成する樹脂には、公知の熱可塑性の酸素透過性樹脂を制限なく用いることが出来る。前記の酸素透過性樹脂の好ましい23℃酸素透過度は、1.0*10-15mol/m/(m2・s・Pa)以上である。
上記の酸素透過性樹脂の具体例として、ポリ4-メチル-1-ペンテン、ポリブテン等のポリオレフィン;ポリテトラフルオロエチレン等のフッ化炭素樹脂;ポリジメチルシロキサン等のシリコーンが挙げられる。ここで、例えば、ポリ4-メチル-1-ペンテンの市販品である三井化学社製TPX(登録商標)(銘柄名MX002)の酸素透過度は、同社の製品パンフレットによれば9.40*10-15mol/m/(m2・s・Pa)である。
(A)酸素透過膜14の材料は、好ましくはポリ4-メチル-1-ペンテン、ポリブテン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリジメチルシロキサンからなる群から選択されるいずれか1つの樹脂を含み、より好ましくは4-メチル-1-ペンテンを含む。
【0020】
(A)酸素透過膜14の膜厚は、電解液12の漏れを抑制する観点から、好ましくは0.1μm以上であり、より好ましくは1μm以上であり、さらに好ましくは10μm以上である。
また、酸素透過性を向上させる観点から、(A)酸素透過膜14の膜厚は薄いことが好ましい。本実施形態の(A)酸素透過膜14の厚さは、280μm以下であることが好ましい。(A)酸素透過膜14の厚さは、より好ましくは250μm以下、さらに好ましくは200μm以下であり、さらにより好ましくは100μm以下、殊に好ましくは50μm以下である。(A)酸素透過膜14の厚さは、とりわけ40μm以下であることが好ましい。
前述の通り、(A)酸素透過膜14には電解液12を通さないことが好ましい特性として求められる。これは薄膜化とはトレードオフの関係にある性能である。
従来、一般的に用いられる技術の塗布法を用いて得られる膜では、ワニスを形成する溶媒の乾燥時に、収縮が併発する可能性が有ることなどにより、ピンホール等が発生する場合がある。この為、膜厚をある程度厚くする必要があるとされる。また、(B)導電性基材15のミクロレベルの形状によっては、ワニスの濃度を下げることで、(B)導電性基材15の表面に浸透させやすくする必要が生じる。この場合、溶媒の蒸発によるピンホールの発生の確率が高まる場合もある。
これに対し、本実施形態の(A)酸素透過膜14は、具体的には熱可塑性樹脂膜であるので、予め薄いフィルムを作成することが可能である。これを(B)導電性基材15と圧着したり、融着させることにより、薄くても電解液12の漏れが生じない積層体(空気極)を得ることが出来る。さらに圧着などの手法は、(AB)酸素透過膜・導電性基材混在層145を(A)酸素透過膜14の材料と(B)導電性基材15とが密に存在する態様を形成する上でも好適であると考えられる。
これらの理由で、熱可塑性樹脂膜を(A)酸素透過膜14とする態様は、本実施形態の燃料電池の空気極13の材料として有利である。
この様な(A)酸素透過膜14は、必要に応じて強度を付与するなどの目的で、外枠などの支持材などを併用することも出来る。
一方、強度などを必要とする態様においては、(A)酸素透過膜14が厚い態様が必要となる場合もある。従来の塗布の手法では、ある程度以上の厚みのみの膜を得るには、ワニスを調製するのに必要な溶媒の除去が困難となる場合がある。溶媒の種類によっては、電解液の性能に悪影響を及ぼす場合も生じることが懸念される。この為、塗布工程を複数回行い、厚くする工程が必要となる場合がある。この方法は、工数と時間とがかかり、品質管理が難しくなる可能性が考えられる。
本実施形態の熱可塑性樹脂膜を(A)酸素透過膜14とする態様では、圧着という方法を用いる場合、厚い(A)酸素透過膜14を有する空気極を製造することも容易であるのは自明であろう。
この様な場合の(A)酸素透過膜14の厚さとしては、たとえば1000μm以下であり、好ましくは500μm以下であり、より好ましくは200μm以下であり、さらに好ましくは100μm以下であり、さらにより好ましくは50μm以下である。
一方、厚さの好ましい下限値は、前述の通り、好ましくは0.1μm以上であり、より好ましくは1μm以上である。
【0021】
(B)導電性基材15の材料としては、燃料極11の導電性基材の材料として前述したものが挙げられる。
(B)導電性基材15は、燃料極11の導電性基材と同じ材料により形成されていてもよいし、異なる材料により形成されていてもよい。
(B)導電性基材15は、酸素透過性および水に対する浸透性に優れる材料により構成されていることが好ましく、カーボンクロス、カーボンペーパー、カーボンフェルト等の炭素材料により構成されていることが好ましい。
【0022】
(B)導電性基材15がシート状であるとき、(B)導電性基材15の厚さは、電極触媒を安定的に担持する観点から、好ましくは10μm以上であり、より好ましくは100μm以上である。また、空気極13の小型化の観点から、(B)導電性基材15の厚さは好ましくは5mm以下であり、より好ましくは1mm以下である。
【0023】
また、空気極13において、電極触媒は、たとえば(B)導電性基材15に担持される。電極触媒は、好ましくは(C)電極触媒層19として設けられる。
図2(a)および
図2(b)は、空気極13として用いられる電極の構成例を示す断面図である。
図2(a)および
図2(b)に示したように、空気極13は(C)電極触媒層19を有する。(C)電極触媒層19は、好ましくは、(B)導電性基材15の表面すなわち(A)酸素透過膜14との接合面の裏面に設けられており、電極触媒が層状に配設されてなる。
(C)電極触媒層19は、(B)導電性基材15の上記裏面の全体に形成されていてもよいし、一部に形成されていてもよい。好ましくは上記裏面の全体に形成されている。また、(C)電極触媒層19は、シート状、薄膜状の触媒から形成される層であってもよいが、粒子状の触媒から形成される層であってもよい。粒子状の触媒は互い接していなくても全体として層を形成していればよい。また層の形成の際には、例えばバインダー樹脂を併用するなど公知の技術を採用することが出来る。
(C)電極触媒層19の厚さは、空気極13での比表面積を広げ、反応効率を高める観点から、薄いことが好ましい。好ましくは1nm以上であり、より好ましくは10nm以上である。一方、好ましい上限値は1000nm以下、より好ましくは500nm以下であり、さらに好ましくは100nm以下である。また、同様の観点から、単位電極表面積当たりの触媒物質量は0.01~10μmol/cm
2であることが好ましく、0.1~5μmol/cm
2であることがより好ましい。
【0024】
(C)電極触媒層19に用いられる電極触媒の具体例として、金属触媒が挙げられる。また、電極触媒の材料として、空気極13にて触媒反応を進行させる観点から、たとえばRu、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、AgおよびAuからなる群から選択される1または2以上の金属を含み、好ましくはRu、Rh、Pd、PtまたはAgを含み、より好ましくはPtを含む。このとき、少ない触媒量で高い出力を得る観点から、(B)導電性基材15の表面に、Ptを含む(C)電極触媒層19が設けられているとより好ましい。また、(C)電極触媒層19は薄膜状であることが好ましく、Ptを含む電極触媒のスパッタ層が設けられているとさらに好ましい。
【0025】
空気極13全体の形状がシート状であるとき、空気極13の厚さは、強度維持の観点から、好ましくは20μm以上であり、より好ましくは100μm以上である。また、空気極13の小型化の観点から、空気極13の厚さは好ましくは7mm以下、より好ましくは5mm以下、さらに好ましくは2mm以下、さらにより好ましくは1mm以下である。
【0026】
次に、空気極13として用いる燃料電池用電極の製造方法を説明する。
本実施形態において、空気極13として用いる電極は、たとえば
(工程1)(B)導電性基材15と(A)酸素透過膜14とが直接接する状態で圧着することにより、(B)導電性基材15と(A)酸素透過膜14とを接着する工程、および
(工程2)(B)導電性基材15に電極触媒を固定化する工程
を含む。
工程1および工程2の順序に制限はないが、電極触媒を(B)導電性基材15に安定的に固定化する観点から、好ましくは、工程1をおこなった後、工程2をおこなう。
圧着の方法としては、プレス成型、(共)押出成形、スタンピングモールド成形、圧空成形、真空成型等の圧着状態を実現できる公知の成形方法を制限なく用いることが出来る。その中でも樹脂の適用範囲の広さからはプレス成型(溶融プレス成型や固相プレス成型)、生産性の高さの観点からは、(共)押出成形が好適な例である。以下、プレス成型を例として説明する。
【0027】
図3(a)および
図3(b)は、工程1の例を説明する断面図である。
具体的には、
図3(a)に示したように、まず、対向して配置された加熱板21aおよび加熱板21bの間に(A)酸素透過膜14および(B)導電性基材15を直接重ねて配置する。そして、重ね合わせた(A)酸素透過膜14および(B)導電性基材15を加熱板21aおよび加熱板21bで挟み、熱圧着により一体化することにより、(A)酸素透過膜14および(B)導電性基材15の積層体が得られる。他にも、(A)酸素透過膜14を押出成形機から排出しながら(B)導電性基材15に圧着する押出ラミネート加工を用いてもよい。
熱圧着の条件に制限は無い。圧着時の温度については(A)酸素透過膜14の原料樹脂の融点より10~80℃低い範囲の温度が好ましく、10~60℃低い範囲の温度がさらに好ましい。殊に、(A)酸素透過膜14の原料樹脂としてポリ4-メチル-1-ペンテンを熱圧着させる場合には140~210℃の温度が好ましく、160~210℃の温度がより好ましく、170℃~200℃の温度がさらに好ましい。圧着時の圧力については0.1~10MPaの圧力が好ましく、0.5~5MPaの圧力がより好ましく、0.5~2MPaの圧力がさらに好ましい。
一方、樹脂を融点やガラス転移温度以上の温度で溶融させて導電性基材と接触させた後、冷却プレスする方法もある。この場合、樹脂を溶融させる温度は、前記の融点やガラス転移温度より10~50℃高い温度で樹脂を溶融、流動させ、導電性基材と接触させた状態でプレスし、室温~前記の融点やガラス転移温度より10℃以上低い温度で冷却する方法が挙げられる。この際の圧力は、前記の圧力よりも低くすることが出来る。
また、(B)導電性基材15と(A)酸素透過膜14とを、(共)押出成形で積層させる場合、押出段階では樹脂温度は前記の融点やガラス転移温度以上であるが、(B)導電性基材15と(A)酸素透過膜14とを接触させる段階での樹脂温度は、前記の融点やガラス転移温度より10~80℃低い範囲の温度が好ましく、10~60℃低い範囲の温度がさらに好ましい。その上で、前記(B)導電性基材15と(A)酸素透過膜14とをダブルロールなどを用いて圧着させる方法が好ましい。
【0028】
また、工程2は、たとえば、(B)導電性基材15の表面に、スパッタ法や電極還元法等により、Ptを含む(C)電極触媒層19を形成する工程を含み、好ましくはスパッタ法によりPtを含む(C)電極触媒層19を形成する工程である。
スパッタの条件には制限は無く、温度、時間等の条件についてスパッタが可能でかつ材料(基材)の劣化が起こらない範囲内で実施すればよい。
【0029】
また、工程2の別の方法として、電極触媒を炭素粒子に担持させて得られる触媒担持粒子と高分子電解質とを含む塗布液を調製し、これを(B)導電性基材15に塗布し、乾燥することにより、(B)導電性基材15に電極触媒を固定化する方法が挙げられる。
【0030】
以上により、空気極13として用いられる電極が得られる。
そして、たとえば、微生物(発電菌等)を担持させた燃料極11および空気極13を容器18の所定の位置に配置して外部抵抗17を介して接続し、容器18内に電解液12を供給することにより、燃料電池10を得ることができる。
【0031】
(燃料電池)
本実施形態により得られる燃料電池10においては、空気極13は、(A)酸素透過膜14および(B)導電性基材15と、その間に位置する特定の要件を満たす(AB)酸素透過膜・導電性基材混在層145を有する構造を持つ。また、燃料電池10の空気極13は、(A)酸素透過膜14と(B)導電性基材15とが直接接して圧着されている形態が好ましい。このため、簡便な構造で高い出力を得ることができる。
本実施形態の燃料電池10は、前述の通り、特定の電極構造を有するので、たとえば-50℃以上、室温を含む300℃以下の温度環境下で使用することが出来る。本実施形態の燃料電池10は、このような温度領域で稼働する用途の電源として好適に用いることが出来る。例えば、一般的な固定型の電源の他、車両などのモビリティー分野の電源として使用できる可能性も有る。
以下、本実施形態の燃料電池の好適な活用態様を例示する。
本実施形態の燃料電池は水素を含む燃料物質が有れば発電出来るので、大規模な発電設備や送電線などの建設などが不要である。この為、郊外や荒野等に設けられることが多い(大規模)農場や(大規模)牧場の(補助)電源として好適と考えられる。中でも、MFCの形態をとった場合は以下のような活用法を例示出来る。
牧場においては、電灯や搾乳機、飼料の配送システムの動力源、その他生活用電源などに好適に、また、昼夜を選ばず適時に利用することが出来る。MFCの燃料としては、家畜の排泄物を活用することが出来るので、燃料の一部あるいは全部を家畜から得ることも可能である。
農場においては、水や養液の送液、循環システムの動力源や、収穫装置や電灯等の(補助)電源としての活用を挙げることができる。また、植物の収穫後などに発生する非可食部(葉や茎など)を、例えばたい肥化させた後、その一部あるいは全部を燃料電池の燃料とすることも出来る。また、農場と牧場とを連携して運営した場合、前記の植物の非可食部を家畜に与え、その排泄物を燃料電池の燃料として活用することも可能となるであろう。この様に、全体としてのエネルギー効率の高い畜産システム、植物栽培システム、それらの複合システムを構築できる可能性が有ると考えられる。
【0032】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
はじめに、空気極および燃料極の作製例を以下に示す。
【0035】
(空気極作製例1)
導電性基材としてカーボンクロス(AvCarb社製、HCB1071、厚さ350μm)、酸素透過膜としてポリ4-メチル-1-ペンテン(三井化学社製TPX、MX002O)のフィルム(厚さ27μm)を用い、それぞれ1枚ずつを重ねて熱プレス(180℃、3MPa)により圧着し、ポリ4-メチル-1-ペンテン/カーボンクロス圧着フィルムを得た。
得られた圧着フィルムを縦130mm×横60mmに切り取り、5wt%のNafion Perfluorinated resin溶液(SIGMA Aldrich社製)1.2mLに蒸留水1.8mLとPt/C(Pt 37.5wt%、田中貴金属社製TEC10E40E)105mgを加えた懸濁液をカーボンクロス側の表面に塗布し、2.56μmol/cm2となるよう付着させた。室温で12時間乾燥した後、導線を接続して空気極aを作製した。
空気極aの表面をカーボン膜で補強してから切削加工した断面の日立製作所社製S-4800型走査型電子顕微鏡での観察により、導電性基材とTPX樹脂の密に混在する層(TPXの間隙占有率:100%)が確認される。
【0036】
(空気極作製例2)
空気極作製例1で得られた縦130mm×横60mmのカーボンクロス/ポリ4-メチル-1-ペンテン圧着フィルムを用い、カーボンクロス側の表面にスパッタリングによりPtを0.26μmol/cm2となるよう層状に付着させた。その後導線を接続することで空気極bを作製した。
空気極bの空気極作成例1と同様の方法による走査型電子顕微鏡での観察により、導電性基材とTPX樹脂の密に混在する層(TPXの間隙占有率:100%)が確認される。
【0037】
(空気極作製例3)
スパッタリング条件を調整してPtを0.03μmol/cm2となるよう付着させた以外は、空気極作製例2に準じて空気極cを作製した。
空気極cの空気極作成例1と同様の方法による走査型電子顕微鏡での観察により、導電性基材とTPX樹脂の密に混在する層(TPXの間隙占有率:100%)が確認される。
【0038】
(空気極作製例4)
導電性基材としてカーボンクロスに代えてカーボンペーパー(AvCarb社製P50、厚さ170μm)を用いた以外は、空気極作製例1に準じて空気極dを作製した。
空気極dの空気極作成例1と同様の方法による走査型電子顕微鏡での観察により、導電性基材とTPX樹脂の密に混在する層(TPXの間隙占有率:100%)が確認される。
【0039】
(空気極作製例5)
導電性基材としてカーボンクロスに代えてカーボンペーパー(AvCarb社製P50、厚さ170μm)を用いた以外は、空気極作製例2に準じて空気極eを作製した。
空気極eの空気極作成例1と同様の方法による走査型電子顕微鏡での観察により、導電性基材とTPX樹脂の密に混在する層(TPXの間隙占有率:100%)が確認された(前述の
図4)。
【0040】
(空気極作製例6)
Ptを0.03μmol/cm2となるよう付着させた以外は、空気極作製例5に準じて空気極fを作製した。
空気極fの空気極作成例1と同様の方法による走査型電子顕微鏡での観察により、導電性基材とTPX樹脂の密に混在する層(TPXの間隙占有率:100%)が確認される。
【0041】
(空気極作製例7)
導電性基材としてカーボンクロス(AvCarb社製、HCB1071、厚さ350μm)を用い、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の60%水懸濁液(SIGMA Aldrich社製)にカーボンブラック(Valcan XC-72、Cabot社製)を加えた懸濁液をワニスとして片面に塗布し、酸素透過膜としてポリテトラフルオロエチレンを塗布したカーボンクロス/ポリテトラフルオロエチレン塗布フィルムを作製した。
得られた塗布フィルムを縦130mm×横60mmに切り取り、空気極作製例1に準じてカーボンクロス側の表面にPt/Cを塗布し、Ptが2.56μmol/cm2となるよう付着させた。室温で12時間乾燥した後、導線を接続して空気極jを作製した。酸素透過膜の厚さは300μmであった。
【0042】
(空気極作製例8)
Ptを0.26μmol/cm2となるようPt/Cを付着させた以外は、空気極作製例7に準じて空気極kを作製した。酸素透過膜の厚さは300μmであった。
【0043】
(空気極作製例9)
導電性基材としてカーボンクロスに代わりカーボンペーパー(AvCarb社製P50、厚さ170μm)を使用した以外は、空気極作製例7に準じて空気極lを作製した。酸素透過膜の厚さは300μmであった。
【0044】
(空気極作製例10)
導電性基材としてカーボンクロス(AvCarb社製、HCB1071、厚さ350μm)を縦130mm×横60mmに切り取り、片面にのみスパッタリングによりPtを0.26μmol/cm2となるよう層状に付着させた後、導線を接続した。カーボンクロスのPtを付着させていない側の面に、酸素透過膜として縦130mm×横60mm×厚さ27μmのポリ4-メチル-1-ペンテンのフィルムを全面にエポキシ接着剤を塗布して接着して空気極mを作製した。
【0045】
(燃料極作製例1)
導電性基材としてカーボンフェルト(綜合カーボン社製)を用い、これを縦130mm×横60mmに切り取り、燃料極aとした。
【0046】
(実施例1~6、比較例1~4)
以上により作製した空気極および燃料極を用いて
図1に示した構成の燃料電池10を作製し、出力を測定した。各例で用いた電極の構成および出力の測定結果を表1に示す。尚、いずれの燃料電池においても、空気極からの電解液の漏れは見られなかった。
【0047】
(実施例1)
牛糞を蒸留水に懸濁させ、懸濁液中の固形分が20g/Lとなるように電解液を調製し、1.0Lを発電用の電解液として用いた。
空気極aを、Ptが付着しているカーボンクロス側の面が電解液に接触し、酸素透過膜側の面が空気に接触するように設置し、燃料極aを電解液に浸漬するように設置して、
図1に示した構成の燃料電池を作製した。空気極aと燃料極aを150Ωの外部抵抗を通して接続することにより発電試験を開始し、発電に伴い電解液中に含まれる発電菌を燃料極aに付着させた。発電菌付着後の出力最高値として0.39mWを記録した。
【0048】
(実施例2)
空気極aに代わり空気極bを使用した以外は、実施例1に準じて発電試験を実施し、出力最高値として0.48mWを記録した。
【0049】
(実施例3)
空気極aに代わり空気極cを使用した以外は、実施例1に準じて発電試験を実施し、出力最高値として0.39mWを記録した。
【0050】
(実施例4)
空気極aに代わり空気極dを使用した以外は、実施例1に準じて発電試験を実施し、出力最高値として0.83mWを記録した。
【0051】
(実施例5)
空気極aに代わり空気極eを使用した以外は、実施例1に準じて発電試験を実施し、出力最高値として0.80mWを記録した。
【0052】
(実施例6)
空気極aに代わり空気極fを使用した以外は、実施例1に準じて発電試験を実施し、出力最高値として0.60mWを記録した。
【0053】
(比較例1)
空気極aに代わり空気極jを使用した以外は、実施例1に準じて発電試験を実施し、出力最高値として0.30mWを記録した。
【0054】
(比較例2)
空気極aに代わり空気極kを使用した以外は、実施例1に準じて発電試験を実施し、出力最高値として0.27mWを記録した。
【0055】
(比較例3)
空気極aに代わり空気極lを使用した以外は、実施例1に準じて発電試験を実施し、出力最高値として0.30mWを記録した。
【0056】
(比較例4)
空気極aに代わり空気極mを使用した以外は、実施例1に準じて発電試験を実施し、出力最高値として0.05mWを記録した。
【0057】
【0058】
上記の結果から、本実施例に係る特定構成の空気極を含む燃料電池を用いると、相対的に高い出力の電力を得ることが出来る。これは、酸素透過膜が相対的に薄く、且つ、導電性基材と好適な混在層を形成するため、空気中の酸素が空気極中で効率的に水素イオンと反応した結果であると考えられる。
【0059】
以下、参考形態の例を付記する。
1.空気極、燃料極、および、前記空気極と前記燃料極との間に配設される電解液を備える燃料電池の前記空気極に用いられる電極であって、
導電性基材、電極触媒および酸素透過膜を含み、
前記導電性基材と前記酸素透過膜とが直接接して圧着されている、燃料電池用電極。
2.前記酸素透過膜の膜厚が0.1μm以上1000μm以下である、1.に記載の燃料電池用電極。
3.前記燃料極が、発電菌が定着できる導電性基材を含む、1.または2.に記載の燃料電池用電極。
4.前記燃料極が、導電性基材と、電極触媒としての発電菌と、を含む、1.~3.いずれか1項に記載の燃料電池用電極。
5.前記空気極の前記導電性基材の材料が炭素材料である、1.~4.いずれか1項に記載の燃料電池用電極。
6.前記燃料極が、炭素材料により構成された導電性基材を含む、1.~5.いずれか1項に記載の燃料電池用電極。
7.前記空気極の前記酸素透過膜の材料が、ポリ4-メチル-1-ペンテン、ポリブテン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリジメチルシロキサンからなる群から選択されるいずれか1つの樹脂を含む、1.~6.いずれか1項に記載の燃料電池用電極。
8.前記空気極の前記酸素透過膜の材料がポリ4-メチル-1-ペンテンを含む、7.に記載の燃料電池用電極。
9.前記燃料電池が家畜排泄物を燃料とする、1.~8.いずれか1項に記載の燃料電池用電極。
10.前記空気極の前記電極触媒の材料が、Ru、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、AgおよびAuからなる群から選択される1または2以上の金属を含む、1.~9.いずれか1項に記載の燃料電池用電極。
11.前記空気極の前記電極触媒の材料がPtを含む、10.に記載の燃料電池用電極。
12.前記空気極において、前記導電性基材の表面に、Ptを含む前記電極触媒の層が設けられている、11.に記載の燃料電池用電極。
13.1.~12.いずれか1項に記載の燃料電池用電極を備える燃料電池。
14.構成要素としてプロトン伝導膜を含まない、13.に記載の燃料電池。
15.空気極、燃料極、および、前記空気極と前記燃料極との間に配設される電解液を備える燃料電池の空気極に用いられる電極の製造方法であって、
導電性基材と酸素透過膜とが直接接する状態で圧着することにより、前記導電性基材と前記酸素透過膜とを接着する工程と、
前記導電性基材に電極触媒を固定化する工程と、
を含む、燃料電池用電極の製造方法。
16.導電性基材に電極触媒を固定化する前記工程が、前記導電性基材の表面に、スパッタ法または電極還元法により、Ptを含む前記電極触媒の層を形成する工程を含む、15.に記載の燃料電池用電極の製造方法。
17.電極触媒の層を形成する前記工程が、前記スパッタ法によりPtを含む前記層を形成する工程である、16.に記載の燃料電池用電極の製造方法。
【0060】
この出願は、2018年8月2日に出願された日本出願特願2018-145690号を基礎とする優先権を主張し、その開示のすべてをここに取り込む。
【符号の説明】
【0061】
10 燃料電池
11 燃料極
12 電解液
13 空気極
14 酸素透過膜
145 酸素透過膜・導電性基材混在層
15 導電性基材
16 大気
17 外部抵抗
18 容器
19 電極触媒層
21a 加熱板
21b 加熱板