(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】エンジンの電子制御スロットル装置
(51)【国際特許分類】
G01B 7/30 20060101AFI20220628BHJP
G01D 5/20 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
G01B7/30 M
G01D5/20 K
(21)【出願番号】P 2020537978
(86)(22)【出願日】2018-08-23
(86)【国際出願番号】 JP2018031216
(87)【国際公開番号】W WO2020039564
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2020-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000177612
【氏名又は名称】株式会社ミクニ
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】河本 義信
【審査官】眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-247323(JP,A)
【文献】特開2005-048671(JP,A)
【文献】特開2012-247279(JP,A)
【文献】特開2007-198217(JP,A)
【文献】実開平03-037241(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/00-7/34
G01D 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの回転を被動ギヤに伝達し、該被動ギヤに連結されたスロットル軸を介してバルブボディに形成されたスロットルボア内のスロットル弁を開閉駆動する一方、前記スロットル軸と共に回転する励起導体と相対向するように励磁導体及び信号検出導体が設けられた基板を配設してなるスロットルセンサを備えたエンジンの電子制御スロットル装置において、
前記被動ギヤは、芯金が埋設されると共に一側面に前記励起導体が露出するように、前記芯金及び前記励起導体を合成樹脂材料によりインサート成型してなり、
前記スロットル軸は、前記芯金に貫設された軸孔に挿入・固定され
、
前記被動ギヤの合成樹脂材料からなるギヤ本体の中心に第1開口部が形成され、
前記励起導体の中心に、前記ギヤ本体の第1開口部に対応して第2開口部が形成されると共に、該第2開口部の内周縁に、前記ギヤ本体内に埋め込まれて該ギヤ本体の一側面からの前記励起導体の剥離を防止するかえし部が形成されている
ことを特徴とするエンジンの電子制御スロットル装置。
【請求項2】
前記励起導体の第2開口部の内周縁に、前記被動ギヤに対する前記励起導体の位相を定めるための係合部が形成され、
前記励起導体のかえし部は、前記第2開口部の内周縁の前記係合部を避けた領域に形成されている
ことを特徴とする請求項
1に記載のエンジンの電子制御スロットル装置。
【請求項3】
単一の前記バルブボディの一側に前記スロットルセンサが配設され、
前記スロットル軸の端部が前記被動ギヤの芯金の軸孔に挿入されて、該軸孔からの突出箇所がカシメ加工により固定されている
ことを特徴とする請求項1
または2に記載のエンジンの電子制御スロットル装置。
【請求項4】
一対の前記バルブボディの間に前記スロットルセンサが配設され、
前記スロットル軸が一方のバルブボディから前記被動ギヤの芯金の軸孔を貫通して他方のバルブボディへと延設され、前記被動ギヤ及び前記スロットル軸にピンが貫通して圧入・固定されている
ことを特徴とする請求項1
または2に記載のエンジンの電子制御スロットル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータによりスロットル弁を開閉駆動する一方、スロットル開度をインダクティブ式のスロットルセンサにより検出する電子制御スロットル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のアクセルワイヤーを介してスロットル弁を機械的に開閉駆動するスロットル装置では、アクセル操作量とスロットル開度との関係が一義的に決定されるため、エンジン性能や排ガス特性の面で改良の余地があった。そこで、アクセル操作量等から算出した目標スロットル開度に基づき、モータによりスロットル弁を開閉駆動する電子制御スロットル装置が実用化されている。この種のスロットル装置を機能させるには、目標スロットル開度を実際のスロットル開度と比較する必要があるため、例えば特許文献1に記載のスロットル装置では、スロットル開度の検出のためにインダクティブ式のスロットルセンサが備えられている。
【0003】
特許文献1の技術を説明すると、バルブボディのスロットルボア内に配設されたスロットル弁にはスロットル軸が連結され、スロットル軸の一端は被動ギヤの軸孔を貫通してナットにより固定されている。被動ギヤには中間ギヤを介してモータの駆動ギヤが噛合し、モータの回転が各ギヤを介して減速されつつスロットル軸に伝達される。結果として、モータの回転方向に対応してスロットル弁が開閉駆動され、スロットルボア内を流通するエンジンへの吸入空気が調整される。
【0004】
全体としてインダクティブ式のスロットルセンサは、励起導体が設けられたロータと、励磁導体及び信号検出導体が設けられた基板とからなる。スロットル軸の一端は被動ギヤから突出してロータが固定され、このロータの一側面に励起導体が設けられている。ロータは合成樹脂材料により製作され、励起導体と共にスロットル軸の端部にインサート成型されている。このようなロータの励起導体に対して、励磁導体及び信号検出導体を相対向させるように基板が配設されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように特許文献1のスロットル装置は構成されているが、製造工程においてスロットル軸の端部に被動ギヤ及びロータを組み付ける際の作業性が良好とは言い難かった。
即ち、スロットル軸の端部に対して被動ギヤ及びロータは個別に固定されると共に、その固定方法も全く相違する。このため組付作業では、まず、スロットル軸の端部に被動ギヤを嵌め込んでナットにより固定する。次いで、被動ギヤから突出したスロットル軸の端部に、予め成型しておいた励起導体と共にロータをインサート成型する。
【0007】
結果としてスロットル軸の端部に対して、手作業による被動ギヤの組付とロータのインサート成型とを相前後して実施することになり、非常に煩雑な作業内容になる。しかもインサート成型作業では、既に被動ギヤが固定されたスロットル軸の端部を対象として実施する必要があるため、金型の構造が複雑になる上に、成型作業時に部材を取り扱い難くなり、この点も作業性を低下させる要因になる。
【0008】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、スロットル軸の端部に対して、モータからの回転を伝達する被動ギヤとスロットルセンサを構成する励起導体とを効率的に組み付けることができるエンジンの電子制御スロットル装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明のエンジンの電子制御スロットル装置は、モータの回転を被動ギヤに伝達し、被動ギヤに連結されたスロットル軸を介してバルブボディに形成されたスロットルボア内のスロットル弁を開閉駆動する一方、スロットル軸と共に回転する励起導体と相対向するように励磁導体及び信号検出導体が設けられた基板を配設してなるスロットルセンサを備えたエンジンの電子制御スロットル装置において、被動ギヤは、芯金が埋設されると共に一側面に励起導体が露出するように、芯金及び励起導体を合成樹脂材料によりインサート成型してなり、スロットル軸が、芯金に貫設された軸孔に挿入・固定され、被動ギヤの合成樹脂材料からなるギヤ本体の中心に第1開口部が形成され、励起導体の中心に、ギヤ本体の第1開口部に対応して第2開口部が形成されると共に、第2開口部の内周縁に、ギヤ本体内に埋め込まれてギヤ本体の一側面からの励起導体の剥離を防止するかえし部が形成されていることを特徴とする(請求項1)。
【0011】
その他の態様として、励起導体の第2開口部の内周縁に、被動ギヤに対する励起導体の位相を定めるための係合部が形成され、励起導体のかえし部が、第2開口部の内周縁の係合部を避けた領域に形成されていることが好ましい(請求項2)。
【0012】
その他の態様として、単一のバルブボディの一側にスロットルセンサが配設され、スロットル軸の端部が被動ギヤの芯金の軸孔に挿入されて、軸孔からの突出箇所がカシメ加工により固定されていることが好ましい(請求項3)。
【0013】
その他の態様として、一対のバルブボディの間にスロットルセンサが配設され、スロットル軸が一方のバルブボディから被動ギヤの芯金の軸孔を貫通して他方のバルブボディへと延設され、被動ギヤ及びスロットル軸にピンが貫通して圧入・固定されていることが好ましい(請求項4)。
【発明の効果】
【0014】
本発明のエンジンの電子制御スロットル装置によれば、スロットル軸の端部に対して、モータからの回転を伝達する被動ギヤとスロットルセンサを構成する励起導体とを効率的に組み付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態のエンジンの電子制御スロットル装置を示す斜視図である。
【
図2】カバー及び基板を取り外した電子制御スロットル装置を示す分解斜視図である。
【
図3】電子制御スロットル装置を示す
図2のIII-III線断面図である。
【
図4】電子制御スロットル装置を示す
図3のIV-IV線断面図である。
【
図5】スロットル軸、被動ギヤ及び励起導体の関係を示す
図2に対応する分解斜視図である。
【
図7】被動ギヤに対する芯金及び励起導体のインサート状態を示す
図5のVII-VII線断面図である。
【
図9】一対のバルブボディの間にギヤ収容室及びスロットルセンサを配設した別例を示す
図5に対応する分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を単一のスロットルボアを有する二輪車用エンジンの電子制御スロットル装置(以下、単にスロットル装置と称することもある)に具体化した一実施形態を説明する。
【0017】
図1は本実施形態のエンジンの電子制御スロットル装置を示す斜視図、
図2はカバー及び基板を取り外した電子制御スロットル装置を示す分解斜視図、
図3は電子制御スロットル装置を示す
図2のIII-III線断面図、
図4は電子制御スロットル装置を示す
図3のIV-IV線断面図である。
【0018】
図2に示すように、スロットル装置1のケーシング2は、筒状のスロットルボア3aが形成されたバルブボディ3と内部にギヤ列が収容されるギヤ収容室4とからなり、これらの部材3,4がアルミダイキャストにより一体成型されている。なお、ケーシング2の材質はこれに限ることなく任意に変更可能である。
【0019】
図3,4に示すように、バルブボディ3のスロットルボア3aの周囲にはボルト孔3cが貫設された4つのフランジ3bが形成され、各ボルト孔3cを介して図示しないボルトによりスロットル装置1がエンジンのマニホールドに組み付けられる。また、バルブボディ3の他端は筒状のホース接続部3dとして一側方(
図4の下方)に突出し、図示しないエアクリーナからのホースが接続される。エンジンへの組付状態ではスロットルボア3aが吸気通路の一部として機能し、エンジンへの吸入空気を吸気流通方向に沿って案内する。
【0020】
バルブボディ3には、スロットルボア3a内を横切るようにスロットル軸6が配設され、スロットル軸6の両端はベアリング7により回転可能に支持されている。以下、スロットル軸6の軸線L1に沿った方向をスロットル軸線方向と称する。スロットルボア3a内においてスロットル軸6にはスロットル弁8がビス9により連結され、スロットル軸6の回転に伴ってスロットル弁8の開度が変更され、スロットルボア3a内を流通する吸入空気が調整される。
【0021】
図2,3に示すように、スロットル軸6の一端はバルブボディ3に隣接して形成されたギヤ収容室4内に突出し、ギヤ収容室4は一側方に向けて開放された略長方形状をなし、四隅に形成されたフランジ4aには雌ネジ4bが形成されている。ギヤ収容室4の開口部には略長方形状のカバー10が配設され、四隅に貫設されたボルト孔10aを介してボルト11がギヤ収容室4の雌ネジ4bにそれぞれ螺合している。これによりカバー10が締結され、ギヤ収容室4が密閉されている。
【0022】
ギヤ収容室4内にはスロットル軸6を取り巻くように捩りバネ13が配設され、スロットル軸6の端部には被動ギヤ14が固定されている。
図2に示すように被動ギヤ14は、スロットル弁8の開閉に要求される角度領域と対応する扇状をなし、その回動に伴ってギヤ収容室4内に設けられた図示しない全開ストッパ及び全閉ストッパにそれぞれ当接し、これによりスロットル弁8の開度が全開位置と全閉位置との間で規制される。
【0023】
図示はしないが、捩りバネ13の一端は被動ギヤ14に掛止され、捩りバネ13の他端はケーシング2に掛止され、これによりスロットル弁8が全開位置と全閉位置との間の所定開度に付勢されている。後述するモータ15の故障等によりスロットル弁8を駆動不能に陥った場合、捩りバネ13によりスロットル弁8が所定開度に保持され、リンプホームモードによる車両走行に必要な吸入空気量、ひいてはエンジン出力が確保される。
但し、捩りバネ13の付勢状態はこれに限らず、例えばスロットル弁8の全閉位置に付勢するようにしてもよい。
【0024】
図3に示すように、バルブボディ3の一側にはスロットルボア3aに隣接してモータ15が内装され、モータ15の出力軸15aはギヤ収容室4内に突出して駆動ギヤ16が固定されている。ギヤ収容室4内において駆動ギヤ16と被動ギヤ14との間には中間ギヤ17が配設され、軸線L2に沿ったギヤ軸18により回転可能に支持されている。
【0025】
中間ギヤ17は大径の入力ギヤ17aと小径の出力ギヤ17bとを一体形成してなる。中間ギヤ17の入力ギヤ17aは駆動ギヤ16と噛合し、中間ギヤ17の出力ギヤ17bは被動ギヤ14と噛合している。結果としてギヤ収容室4内で各ギヤ14,16,17がギヤ列方向に列設され、このギヤ列方向、吸気流通方向及びスロットル軸線方向は互いに直交する関係にある。そして、モータ15の回転は駆動ギヤ16、中間ギヤ17及び被動ギヤ14を介して減速されつつスロットル軸6に伝達され、モータ15の回転方向に対応してスロットル弁8が開閉駆動される。
【0026】
以上のように構成されたスロットル装置1には、スロットル弁8の開度を検出するためにインダクティブ式のスロットルセンサ20が設けられている。例えば特許文献1に記載されている一般的なスロットルセンサは、励起導体が設けられたロータと、励磁導体及び信号検出導体が設けられた基板とからなる。そして、[発明が解決しようとする課題]で述べたように、スロットル軸の端部に対して被動ギヤ及びロータが個別に固定されると共に、その固定方法も全く相違することから、組付作業性が良好とは言い難かった。
【0027】
このような不具合を鑑みて本発明者は、被動ギヤ14にロータの機能を兼用させる対策を見出した。即ち、モータ15からの回転をスロットル弁8に伝達する被動ギヤ14は、スロットル軸6に固定すべき必須の部材である。そして、バルブボディ3への組付完了後の被動ギヤ14はスロットル軸6と共に回転するため、ロータとしての機能を兼ね備えている。
【0028】
そこで、予め励起導体21を設けた被動ギヤ14をインサート成型により製作した上で、この被動ギヤ14をスロットル軸6に固定する構成とすれば、スロットル軸6に対する固定は被動ギヤ14のみとなり、その固定方法も手作業による単一のものとなる。しかもインサート成型作業は、スロットル軸6とは関係なく被動ギヤ14単体で実施できるため、金型の構造が簡素化される上に、成型作業時に部材を取り扱い易い。
【0029】
以上の知見に基づき、被動ギヤ14に励起導体21をインサート成型して、スロットル軸6の端部に固定するようにしたものが本発明であり、その構成を以下に説明する。
図5はスロットル軸6、被動ギヤ14及び励起導体21の関係を示す
図2に対応する分解斜視図、
図6は励起導体21を単体で示す斜視図、
図7は被動ギヤ14に対する芯金及び励起導体21のインサート状態を示す
図5のVII-VII線断面図、
図8は
図7の部分拡大断面図である。
【0030】
被動ギヤ14は、円盤状をなす芯金25が埋設されると共に一側面に励起導体21が露出するように、合成樹脂材料によりインサート成型されてなり、以下、合成樹脂材料の部分をギヤ本体26と称する。芯金25の中心には、回転規制のための二面幅に対応する形状をなす軸孔25aが貫設され、ギヤ本体26の一側面の中心には、芯金25の軸孔25aよりも大きな円形状をなす第1開口部26aが形成されて軸孔25aの周囲を露出させている。このような被動ギヤ14の構成は本発明の要旨と密接に関連するため、その詳細については後述する。
【0031】
被動ギヤ14が固定されるスロットル軸6の端部には、芯金25の軸孔25aと対応する二面幅を有するカシメ部6aが形成されている。スロットル軸6のカシメ部6aは被動ギヤ14の芯金25の軸孔25a内に挿入され、カシメ部6aの基端の段差が被動ギヤ14の側面に当接すると共に、二面幅により被動ギヤ14との相対回転が規制されている。
【0032】
図5,7に示すように、スロットル軸6のカシメ部6aは芯金25の軸孔25aから突出し、この突出箇所がギヤ本体26の第1開口部26aを介してハイスピンカシメが施されて潰されている。結果として芯金25の軸孔25aからのカシメ部6aの離脱が規制され、被動ギヤ14にスロットル軸6の端部が固定されている。このハイスピンカシメが、本発明のカシメ加工に相当する。
【0033】
また
図2,7に示すように、基板22はギヤ収容室4内でカバー10の内側面に固定され、基板22の被動ギヤ14側の面に励磁導体23及び信号検出導体24が設けられている。結果として、被動ギヤ14側の励起導体21と基板22側の励磁導体23及び信号検出導体24とが微小ギャップを介して相対向している。
【0034】
なお
図2において、22aは、カバー10に対して基板22を位置決めするための位置決め孔である。また、28,29は、電力供給及び信号出力端子であり、カバー10との協調により構成されるコネクタ30に車体側からのコネクタが接続されて、電力の供給やスロットル開度信号の出力等が行われる。
【0035】
インダクティブ型のスロットルセンサ20の原理は、例えば特許文献1或いは特許第4809829号明細書等により周知であるため、概略のみを述べる。外部からの給電により基板22の励磁導体23には交流電流が流され、それに応じて被動ギヤ14の励起導体21に電流が励起される。励起された電流により基板22の信号検出導体24には交流電流が励起され、この交流電流に基づき、被動ギヤ14の回転角度ひいてはスロットル開度と相関するスロットル開度信号が生成される。
【0036】
一方、被動ギヤ14にインサートされる芯金25及び励起導体21は、予め被動ギヤ14とは別個に製作される。スロットル軸線方向から見て芯金25は円盤状をなし、
図7に示すように、その一側には、ギヤ収容室4の全開及び全閉ストッパに当接する一対のストッパ部25bが突設されている。
【0037】
また、
図6に示すように励起導体21は、全体として薄板状をなすと共に、スロットル軸線方向から見て、軸線L1を中心とした等分3箇所(120°間隔)を外周方向に略楕円状に膨出させた形状をなしている。但し、励起導体21の形状はこれに限るものではなく任意に変更可能であり、例えば等分2箇所(180°間隔)、或いは等分4箇所(90°間隔)を外周方向に膨出させた形状としてもよい。
【0038】
励起導体21の外周全体には、被動ギヤ14側に向けて直角に屈曲した断面形状をなす外周鍔部21aが形成されている。また、励起導体21の中心には、被動ギヤ14の第1開口部26aと対応する円形状の第2開口部21bが形成され、第2開口部21bの内周縁の軸線L1を中心とした等分3箇所には、それぞれ周方向に所定長さを有する内周鍔部21cが形成されている。各内周鍔部21cは、上記した外周鍔部21aと同じく被動ギヤ14側に向けて直角に屈曲した断面形状をなし、各内周鍔部21cの間の領域は、それぞれ係合部21dとして切り欠かれている。
【0039】
図7,8に示すように、各内周鍔部21cからはかえし部21eが延設されている。各かえし部21eは、励起導体21の外周側(軸線L1から離間方向)に向けて直角に屈曲した断面形状をなし、ギヤ本体26上に露出している励起導体21の本体21fとの間に間隙Gを形成している。
【0040】
以上のように構成された芯金25及び励起導体21をインサート成型して被動ギヤ14が製作され、以下、インサート成型作業の手順について述べる。
インサート成型に適用される金型には、基本的に
図7に示す被動ギヤ14のギヤ本体26の外形と対応する形状のキャビティが形成されており、キャビティ内に芯金25及び励起導体21が配設されて、合成樹脂材料が射出されることにより被動ギヤ14が成型される。
【0041】
芯金25及び励起導体21をキャビティ内の所定位置に配設するために、金型には多数の位置決めピン等が設けられている。これらの位置決めピンはインサート成型の金型に適用される周知の構成であるため、概略のみを述べる。
例えば
図7において、芯金25に貫設された複数の位置決め孔25c(1つのみ図示)内に図中の右方より位置決めピンが挿入されることにより、被動ギヤ14に対する軸線L1を中心とした芯金25の位相が定められる。同時に、位置決めピンの先端が励起導体21に当接することにより、スロットル軸線方向の励起導体21の位置が定められ、成型後には励起導体21が被動ギヤ14の一側面に露出する。なお、スロットル軸線方向の芯金25の位置に関しても、図示しない位置決めピンにより定められる。
【0042】
また、励起導体21の第2開口部21bの内周縁に形成された3箇所の係合部21dと対応するように、図示はしないが金型の内側面には3つの係合部が突設されている。キャビティ内において金型の各係合部に対して励起導体21の係合部21dがそれぞれ係合することにより、被動ギヤ14に対する軸線L1を中心とした励起導体21の位相が定められる。
以上のようにして芯金25及び励起導体21がキャビティ内の所定位置に配設された上で、合成樹脂材料の射出により被動ギヤ14の成型が完了する。
【0043】
図7,8に示すように、成型完了後の被動ギヤ14では、合成樹脂製のギヤ本体26が所定の形状をなすと共に、ギヤ本体26に芯金25が埋設されて各ストッパ部25bが外部へと突出している。また、ギヤ本体26の一側面に励起導体21が露出すると共に、励起導体21の外周鍔部21a及び3箇所の内周鍔部21cが合成樹脂製のギヤ本体26に埋め込まれ、各内周鍔部21cと共に3箇所のかえし部21eもギヤ本体26内に埋め込まれている。
【0044】
そして、ギヤ本体26の一側面に露出する励起導体21の本体21fに対して、ギヤ本体26内に埋め込まれた各かえし部21eが間隙Gを介して相対向し、間隙G内にはギヤ本体26を形成する樹脂が存在している。このため、ギヤ本体26の一側面から剥離する方向に励起導体21が位置変位するには、間隙G内に存在する樹脂を各かえし部21eが変形或いは破壊する必要が生じ、結果として励起導体21の剥離が各かえし部21eにより防止される。
【0045】
また、このような剥離防止の作用を奏する各かえし部21eは、励起導体21の第2開口部21bの内周縁に形成されている。詳しくは、励起導体21の第2開口部21bの内周縁には、被動ギヤ14に対する励起導体21の位相を定めるための係合部21dが形成されており、各係合部21dの間の領域、換言すると、各係合部21dを避けた領域に内周鍔部21cと共にかえし部21eが形成されている。即ち、第2開口部21bの内周縁の何ら利用されていない余剰領域を利用して、各かえし部21eが形成されている。
【0046】
基板22側の励磁導体23の通電に応じて励起導体21が所期の電流の励起作用を奏するには、特に励起導体21の外周縁の形状が重要であり、これに対して内周縁の形状による影響は少ない。上記のように第2開口部21bの内周縁の余剰領域にかえし部21eを形成することにより、励起導体21の所期の電流励起作用を確保した上で、励起導体21の剥離防止という全く別の効果も達成でき、これによりスロットルセンサ20の信頼性を大きく向上させることができる。
【0047】
また、以上の説明から明らかなように、インサート成型作業は被動ギヤ14単体で実施される。特許文献1のスロットル装置では、既に被動ギヤが組み付けられたスロットル軸の端部を対象としてインサート成型を実施するが、これに比較して、金型の構造を簡素化できると共に、成型作業時に部材が取り扱い易くなる。
【0048】
しかも、スロットル軸6への固定は被動ギヤ14のみとなる。特許文献1のスロットル装置では、スロットル軸の端部に対して、手作業による被動ギヤの組付とロータのインサート成型とを相前後して実施する必要があったが、これに比較して本実施形態では、手作業による被動ギヤ14の組付だけを実施すればよい。
以上の要因が相俟って製造工程での作業性が向上し、結果として本実施形態によれば、スロットル軸6の端部に対して、モータ15からの回転を伝達する被動ギヤ14とスロットルセンサ20を構成する励起導体21とを効率的に組み付けることができる。
【0049】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、単一のバルブボディ3を有する二輪車用エンジンの電子制御スロットル装置1に具体化したが、これに限るものではない。例えば、一対のバルブボディ3の間にギヤ収容室4及びスロットルセンサ20を配設したスロットル装置1に具体化してもよい。この場合には、スロットル軸6を介して両側のバルブボディ3のスロットル弁8を連結する構造になるため、被動ギヤ14を貫通するようにスロットル軸6を配置する必要が生じる。
【0050】
図9はこの別例を示す
図5と対応する斜視図である。上記実施形態と同じくスロットル軸6は一方のバルブボディ3のスロットル弁8に連結され、被動ギヤ14の芯金25の軸孔25aを貫通して、図示しない他方のバルブボディ3へと延設されてスロットル弁8に連結されている。この場合のスロットル軸6及び軸孔25aは共に断面円形状で回転規制されないため、図示はしないが、スロットル軸線方向と直交する方向からピンが被動ギヤ14及びスロットル軸6に貫通して圧入され、これによりスロットル軸6に被動ギヤ14が固定されている。
【0051】
このように構成したスロットル装置においても、予め励起導体21を設けた被動ギヤ14をインサート成型により製作した上で、スロットル軸6に固定する構成を採用できることから、重複する説明はしないが、上記実施形態と同様の作用効果を達成することができる。
【0052】
また上記実施形態では、励起導体21の第2開口部21bの内周縁に3つの内周鍔部21cを形成し、各内周鍔部21cから外周側に向けて直角に屈曲するかえし部21eを延設したが、これに限るものではない。例えば、かえし部21eの数を増減したり、かえし部21eの断面形状を変更したりしてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 電子制御スロットル装置
3 バルブボディ
3a スロットルボア
6 スロットル軸
8 スロットル弁
14 被動ギヤ
15 モータ
20 スロットルセンサ
21 励起導体
21b 第2開口部
21d 係合部
21e かえし部
22 基板
23 励磁導体
24 信号検出導体
25 芯金
25a 軸孔
26 ギヤ本体
26a 第1開口部