(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】高炭素軸受鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 8/06 20060101AFI20220628BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20220628BHJP
C22C 38/26 20060101ALI20220628BHJP
C21D 9/40 20060101ALN20220628BHJP
【FI】
C21D8/06 A
C22C38/00 301Y
C22C38/26
C21D9/40 A
(21)【出願番号】P 2021014109
(22)【出願日】2021-02-01
【審査請求日】2021-02-01
(31)【優先権主張番号】202010489419.3
(32)【優先日】2020-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521046837
【氏名又は名称】セントラル アイアン アンド スティール リサーチ インスティテュート
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カオ、ウェンチュワン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ユチン
(72)【発明者】
【氏名】シュー、ハイフェン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、チュンユー
(72)【発明者】
【氏名】ユー、フェン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、フイ
(72)【発明者】
【氏名】シ、ジーユエ
(72)【発明者】
【氏名】シュー、ダ
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-001931(JP,A)
【文献】特開2013-001930(JP,A)
【文献】特開昭62-063650(JP,A)
【文献】特開2002-275584(JP,A)
【文献】特開2012-132094(JP,A)
【文献】特開平06-299240(JP,A)
【文献】特開2002-220638(JP,A)
【文献】特開2007-113034(JP,A)
【文献】国際公開第2004/067790(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0145702(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106636942(CN,A)
【文献】大和久重雄,JIS鉄鋼材料入門,2版3刷,日本,株式会社大河出版,1981年05月29日,第88-90頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 1/26 - 1/32
C21D 8/00 - 8/10
C21D 9/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炭素軸受鋼であって、その化学組成は、C:0.80~1.20wt%、Cr:0.40~2.0wt%、Mn:0.15~0.75wt%、Si:0.15~0.75wt%、Nb:0~0.20wt%、Mo:0~0.20wt%、V:0~0.20wt%、P≦0.015wt%、S≦0.01wt%、残りはFeと避けられない不純物であり、前記Nb、Mo、Vの含有量が同時にゼロではないこと
を特徴とする高炭素軸受鋼
の製造方法であって、
高炭素軸受鋼を製造するための原材料を製錬して、高炭素軸受鋼の前記化学組成に対応する鋼インゴットを得るステップと、
前記鋼インゴットを均質化した後、棒材に加工されるステップと、
前記棒材に対して順次球状化焼きなまし、焼入れ、焼戻しを行い、高炭素軸受鋼を得るステップと、
を含み、
前記球状化焼きなましプロセスには、前記棒材を800~860℃で0.5~12時間保温した後、680~740℃まで冷却して0.5~12時間保温し、最後に室温まで空冷することが含まれることを特徴とする、
高炭素軸受鋼の製造方法。
【請求項2】
前記高炭素軸受鋼には、Nb、Mo、Vの少なくとも2種が含まれていることを特徴とする請求項1に記載の高炭素軸受鋼
の製造方法。
【請求項3】
前記Nb、Mo、Vの合計量は0.10~0.30wt%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高炭素軸受鋼
の製造方法。
【請求項4】
前記製錬の方法は、エレクトロスラグ製錬、二重真空製錬、炉外精製または真空誘導炉製錬であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記均質化処理の温度は1100~1250℃、保温時間は2~6時間であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記焼入れの温度は、820~860℃、保温時間は、0.10~1.0時間であり、前記焼入れの冷却方法は油焼入れであることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記焼戻しの温度は130~200℃、保温時間は0.5~3.5時間、前記焼戻しの冷却方法は空冷であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記棒材の加工方法は熱間鍛造または熱間圧延であり、前記熱間鍛造または熱間圧延の温度は1150~1200℃であることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受鋼の組織微細化と均質化の技術分野、特に高炭素軸受鋼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受はほぼすべての伝動装置にとって不可欠な重要な基本部品であり、その疲労寿命レベルが機械や装置の耐用年数の長さと信頼性を決定する。現在、完全硬化性の高炭素クロム軸受鋼(GCr15、GCr15SiMn、GCr15SiMo、GCr18Moなど)やステンレス軸受鋼9Cr18Mo等の民間用軸受鋼及び8Cr4Mo4Vなどの軍用軸受鋼が国内外で広く使用されている。国内外の航空宇宙、鉱山機械、交通輸送及び海洋船舶などのハイエンド機器分野においてすべて、軸受の長寿命と高信頼性の要件を提唱している。しかしながら、軸受の製造に使用される軸受鋼、特に完全硬化性を有する高炭素軸受鋼は、接触疲労寿命が一般に短くてハイエンド機器の、長寿命と高信頼性の要件を満たすことができない。
【0003】
軸受鋼の疲労寿命を延長するために、軸受鋼についてその介在物の含有量を減らし、介在物のサイズを小さくし、介在物の種類と分布を制御することによって、軸受鋼の接触疲労寿命を延長するための多くの研究が国内外で行われている。この考えに基づき、軸受鋼の酸素含有量を30~50ppmから現在の3~5ppmに低減することにより、国内外の商品化軸受鋼GCr15の接触疲労寿命は、1950年代の大気精錬鋼のL10≧105回から1990年代の炉外精製鋼のL10≧107回に増加し、世紀を超えて30年近く発展した後、現在では、炉外で精製された高炭素軸受鋼GCr15の疲労寿命はL10≧1~2×107回にとどまり、それ以上の進歩はなく、ハイエンド機器の長寿命と高信頼性能要件を満たすことができない。したがって、炉外での精製プロセスにより、酸素含有量および介在物のサイズと含有量をさらに減少するのは、コストが大幅に増加して生産効率が低下するけど、接触疲労寿命を大幅に延長することができなくなる。したがって、鉄道、シールド、機械工具などのハイエンド軸受は、接触疲労寿命が比較的長い高価なエレクトロスラグGCr15(L10≧3.0×107回)と二重真空GCr15(L10≧4.5×107回)を使用する必要がある。しかしながら、1000万トンを超える軸受鋼の生産・販売量では、エレクトロスラグ軸受鋼と二重真空軸受鋼は生産要件を満たすことができないだけでなく、コストも大幅に増加する(炉外の精製軸受鋼のコストよりもそれぞれ2~4倍高い)。
【0004】
国内外の研究結果によると、軸受鋼の接触疲労寿命は、介在物の影響を受けるだけでなく、軸受鋼マトリックス組織の厚さ、炭化物のサイズと分布、および鋼中の残留オーステナイトの含有量にも依存する。研究によると、全体的な二重精製熱処理により、通過整体双細化熱処理,軸受鋼GCr15の結晶粒サイズと炭化物を1倍微細化でき、それによって軸受鋼の疲労寿命が5倍以上長くなる。表面硬化熱処理により、軸受鋼の表面のオーステナイト含有量を15~30%に増やすことができ、それにより軸受鋼の接触疲労寿命を5~10倍に延ばすことができる。軸受鋼GCr15を表面浸炭し、軸受鋼の表面硬度を改善し、炭化物を制御することにより、軸受鋼の接触疲労寿命を10倍以上延ばすことができることが示されている。ただし、上記の熱処理により、軸受の製造難度を上げ、軸受の精度を低下するだけでなく、軸受の製造コストも大幅に増加する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、特別な熱処理なしにマイクロアロイ元素を使用するだけで疲労寿命を延長でき、長寿命、高信頼性、低コストのためのハイエンド機器の包括的な性能要件を満たす高炭素軸受鋼およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記の目的を達成するために、本発明は、以下の技術的解決手段を提供する。
【0007】
本発明は、高炭素軸受鋼を提供し、その化学組成は、C:0.80~1.20wt%、Cr:0.40~2.0wt%、Mn:0.15~0.75wt%、Si:0.15~0.75wt%、Nb:0~0.20wt%、Mo:0~0.20wt%、V:0~0.20wt%、P≦0.015wt%、S≦0.01wt%、残りはFeと避けられない不純物、前記Nb、Mo、Vの含有量は同時にゼロではない。
【0008】
好ましくは、前記高炭素軸受鋼には、Nb、Mo、Vの少なくとも2種類が含まれている。
【0009】
好ましくは、前記Nb、Mo、Vの合計量は0.10~0.30wt%である。
【0010】
本発明は、
高炭素軸受鋼を製造するための原材料を製錬して、化学組成が上記手段に記載の高炭素軸受鋼の化学組成に対応する鋼インゴットを得るステップと、
前記鋼インゴットを均質化した後、棒材に加工するステップと、
前記棒材に対して順次球状化焼きなまし、焼入れ、焼戻しを行い、高炭素軸受鋼を得るステップと、を含む、
上記の手段に記載の高炭素軸受鋼の製造方法を提供する。
【0011】
好ましくは、前記製錬の方法は、エレクトロスラグ製錬、二重真空製錬、炉外精製または真空誘導炉製錬である。
【0012】
好ましくは、前記均質化処理の温度は1100~1250℃、保温時間は2~6時間である。
【0013】
好ましくは、前記球状化焼きなましプロセスには、前記棒材を800~860℃で0.5~12時間保温した後、680~740℃まで冷却して0.5~12時間保温し、最後に室温まで空冷することが含まれる。
【0014】
好ましくは、前記焼入れの温度は、820~860℃、保温時間は、0.10~1.0時間であり、前記焼入れの冷却方法は油焼入れである。
【0015】
好ましくは、前記焼戻しの温度は130~200℃、保温時間は0.5~3.5時間、前記焼戻しの冷却方法は空冷である。
【0016】
好ましくは、前記棒材の加工方法は熱間鍛造または熱間圧延であり、前記熱間鍛造または熱間圧延の温度は1150~1200℃である。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、高炭素軸受鋼を提供し、その化学組成は、C:0.80~1.20wt%、Cr:0.40~2.0wt%、Mn:0.15~0.75wt%、Si:0.15~0.75wt%、Nb:0~0.20wt%、Mo:0~0.20wt%、V:0~0.20wt%、P≦0.015wt%、S≦0.01wt%、残りはFeと避けられない不純物、前記Nb、Mo、Vの含有量は同時にゼロではない。本発明は、他の元素組成と組み合わせるようにマイクロアロイ元素であるNb、Mo、Vを高炭素軸受鋼に添加することにより、軸受鋼のマトリックスの組織及び軸受鋼における炭化物を効果的に微細化し、多数のナノカーバイドの析出を促進し、さらに高炭素軸受鋼の機械的性質及び接触疲労寿命を延長させることができる。実施例の結果は、Nb、MoおよびVを添加した本発明の軸受鋼は、Nb、マイクロアロイ元素を添加しない軸受鋼よりも疲労寿命が3~14倍長く延長されることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1:焼戻し後の実験用製鋼MA5のSEM図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、高炭素軸受鋼を提供し、その化学組成は、C:0.80~1.20wt%、Cr:0.40~2.0wt%、Mn:0.15~0.75wt%、Si:0.15~0.75wt%、Nb:0~0.20wt%、Mo:0~0.20wt%、V:0~0.20wt%、P≦0.015wt%、S≦0.01wt%、残りはFeと避けられない不純物、前記Nb、Mo、Vの含有量は同時にゼロではない。
【0020】
本発明によって提供される高炭素軸受鋼は、C:0.80~1.20wt%、好ましくは0.9~1.1wt%、より好ましくは0.95~1.05wt%を含む。
【0021】
本発明によって提供される高炭素軸受鋼は、Cr:0.40~2.0wt%、好ましくは0.5~1.8wt%、より好ましくは1.0~1.6wt%を含む。
【0022】
本発明によって提供される高炭素軸受鋼は、Mn:0.15~0.75wt%、好ましくは0.20~0.60wt%、より好ましくは0.3~0.5wt%を含む。
【0023】
本発明によって提供される高炭素軸受鋼は、Si:0.15~0.75wt%、好ましくは0.20~0.70wt%、より好ましくは0.30~0.60wt%を含む。
【0024】
本発明によって提供される高炭素軸受鋼は、P≦0.015wt%、好ましくは0.001~0.015wt%を含む。
【0025】
本発明によって提供される高炭素軸受鋼は、S≦0.01wt%、好ましくは0.001~0.01wt%を含む。
【0026】
本発明によって提供される高炭素軸受鋼は、Nb:0~0.20wt%、好ましくは0.03~0.20wt%、より好ましくは0.05~0.15wt%を含む。
【0027】
本発明によって提供される高炭素軸受鋼は、Mo:0~0.20wt%、好ましくは0.03~0.20wt%、より好ましくは0.05~0.15wt%を含む。
【0028】
本発明によって提供される高炭素軸受鋼は、V:0~0.20wt%、好ましくは0.03~0.20wt%、より好ましくは0.05~0.10wt%を含む。
【0029】
本発明において、前記Nb、Mo、Vの含有量が同時にゼロではなく、即ち本発明の高炭素軸受鋼には、少なくともNb、Mo、Vの1種が含まれ、本発明は、好ましくは、少なくともNb、Mo及びVの2種が含まれている。本発明において、前記Nb、Mo、Vの合計量は、好ましくは0.10~0.30重量%、より好ましくは0.15~0.30重量%、さらにより好ましくは0.25~0.30重量%である。
【0030】
本発明は、他の元素組成と組み合わせるようにマイクロアロイ元素であるNb、Mo、Vを高炭素軸受鋼に添加することにより、軸受鋼のマトリックスの組織及び軸受鋼における炭化物を効果的に微細化し、多数のナノカーバイドの析出を促進し、さらに高炭素軸受鋼の機械的性質及び接触疲労寿命を延長させることができる。
【0031】
本発明は、
高炭素軸受鋼を製造するための原材料を製錬して、化学組成が上記手段に記載の高炭素軸受鋼の化学組成に対応する鋼インゴットを得るステップと、
前記鋼インゴットを均質化した後、棒材に加工されるステップと、
前記棒材に対して順次球状化焼きなまし、焼入れ、焼戻しを行い、高炭素軸受鋼を得るステップと、を含む、
上記の手段に記載の高炭素軸受鋼の製造方法を提供する。
【0032】
本発明は、高炭素軸受鋼を製造するための原材料を製錬して鋼インゴットを得る。本発明において、前記製錬の方法は、好ましくは、エレクトロスラグ製錬、二重真空製錬、炉外精製または真空誘導炉製錬である。本発明は、前記製錬プロセスについて特別な要件がなく、当技術分野で周知のエレクトロスラグ製錬、二重真空製錬、炉外精錬または真空誘導炉製錬を使用すればよい。本発明の前記製錬は、転炉、電気炉または誘導炉に適している。本発明において、前記鋼インゴットの化学組成は、上記手段に記載の高炭素軸受鋼の化学組成に対応する。本発明は、それらが鋼インゴットの組成要件を満たすことができる限り、前記各製造用原材料の種類および供給源に関して特別な要件がない。本発明は、製錬により軸受鋼中の酸素含有量が20ppm以下であり、大粒子介在物サイズ(DS)が≦40ミクロンであることを実現している。
【0033】
鋼インゴットが得られた後、本発明は、前記鋼インゴットを均質化した後、棒材に加工する。
【0034】
本発明において、前記均質化処理の温度は、好ましくは1100~1250℃、より好ましくは1150~1200℃であり、保温時間は好ましくは2~6時間、より好ましくは3~5時間である。前記均質化処理を完了した後、本発明は、得られたブランクを棒材に加工する。本発明において、前記加工方法は、好ましくは熱間鍛造または熱間圧延であり、前記熱間鍛造または熱間圧延の温度は好ましくは1150~1200℃である。本発明は、前記棒材のサイズについて特別な要件がなく、それは、軸受鋼の要件に従って設定される。本発明の実施例において、前記棒材のサイズは、Φ60mmである。本発明では、好ましくは、加工された棒材を室温まで空冷し、次に次のステップに進む。
【0035】
棒材が得られた後、本発明は、前記棒材に対して球状化焼きなましを実行して、焼きなまし棒材を得る。
【0036】
本発明において、前記球状化焼きなましプロセスには、好ましくは、前記棒材を800~860℃で0.5~12時間保温した後、680~740℃に冷却して0.5~12時間保温し、最後に室温まで空冷することが含まれる。本発明は、球状化焼きなましにより、均一で微細な炭化物を得る。
【0037】
焼きなまし棒材を得た後、本発明は、前記焼きなまし棒材を焼入れて、焼入れた棒材を得る。本発明において、前記焼入れ温度は好ましくは820~860℃、より好ましくは840℃であり、保温時間は好ましくは0.1~1.0時間、より好ましくは0.5時間である。前記焼入れの冷却方法は、好ましくは油焼入れである。本発明は、前記油焼入れプロセスに関して特別な要件がなく、当技術分野で周知の油焼入れを使用すればよい。
【0038】
焼入れ棒材が得られた後、本発明は前記焼入れ棒材を焼戻し、高炭素軸受鋼を得る。本発明において、前記焼戻しの温度は、好ましくは130~200℃、より好ましくは170℃、保温時間は、好ましくは0.5~3.5時間、より好ましくは3時間であり、前記焼戻しの冷却方法は、好ましくは空冷である。本発明は、焼入れおよび焼戻しを利用して、超微細なオリジナルオーステナイト構造および炭化物粒子を取得し、ここで、オリジナルオーステナイトの結晶粒度は10グレード以上である。
【0039】
本発明により提供される高炭素軸受鋼およびその製造方法を、実施例と合わせて以下に詳細に説明するが、それらは、本発明の保護の範囲を制限するものとして理解することはできない。
【0040】
実施例1:
本発明の鋼は、実験用真空誘導炉で製錬され、キャストインゴットタイプは50kgの丸型インゴットであり、棒状サンプルを鍛造するために合計10個炉の鋼が製錬され、その化学組成を表1に示す。MA1-MA10鋼は、本発明のマイクロアロイ軸受鋼で、C1-C3は比較としての軸受鋼であった(ここで、丸型インゴットの製造方法は、C1は実験用真空誘導炉で製錬されたGCr15であり、C2は炉外で精製されたGCr15であり、C3は二重真空GCr15)。
【0041】
実験室で真空誘導製錬によるGCr15丸型インゴットは、1200℃、5時間の高温均質化処理を経った後、鍛造でコギングして、鍛造初期温度は1150℃、初期断面サイズは120mmであり、鋳片を断面サイズ60mmの丸棒に放射状に鍛造し、鍛造した後に空冷した。直径60mmの丸棒を球状化焼きなまし処理(820℃で6時間保温した後、720℃に冷却した後にで6時間保温処理し、最後に室温まで空冷)焼入れ(840℃で0.5時間保温した後に油焼入れ空冷)及び低温焼戻し処理(170℃で3時間保温した後に空冷)を行い、高炭素軸受鋼を得た。
【0042】
MA1-MA10およびC1-C3について機械的性質、衝撃靭性測定および接触疲労試験を実施し(引張試験:引張速度は10-4/s、伸長速度はA5、衝撃試験:衝撃サンプルサイズは10mm×10mm×55mm U字型衝撃;接触疲労試験:最大ヘルツ応力4.5GPaのスラストピース試験)、結果を表2に示す。
【0043】
【0044】
【0045】
表2から、Nb、V、Moによるマイクロアロイにより、軸受鋼の引張強度(Rm)、伸長速度(A5)、衝撃靭性(Aku)が大幅に向上していることがわかる。これは主に超微細マトリックス組織と超微細炭化物サイズによるものである。
図1に示すように、高炭素軸受鋼における多くの炭化物が細かく均一に分布し、炭化物の平均サイズは0.28ミクロンで、従来のGCr15よりも約1倍微細化された。同時に、本発明の鋼の組織微細化および機械的性質の改善により、マイクロアロイ軸受鋼の接触疲労寿命L
10は、非マイクロアロイ実験用製錬軸受鋼(C1)のL
10より3~14倍長く延長された。同時に、工業用炉外精錬鋼GCr15(C2)と二重真空GCr15(C3)の接触疲労寿命よりも大幅に改善された。例えば、炉外で精製されたGCr15と比較して、疲労寿命は2~10倍延長し、二重真空GCr15の寿命と比較しても0.5~2.2倍に達した。同時に、表1と表2を比較すると、複合マイクロアロイの総量が0.10%~0.30%の場合、接触疲労性能がさらに向上することがわかる。本発明の鋼の低コストおよび長寿命特性は、ハイエンド機器の寿命および信頼性を大幅に改善し、航空宇宙、鉱山機械、交通輸送、および海洋船舶等の分野において巨大な市場用途の可能性を有する。
【0046】
上記は、本発明の好ましい実施形態にすぎない。本発明の原理から逸脱することなく、当業者にとって、いくつかの改善および修正を行うことができ、これらの改善および修正もまた本発明の保護範囲と見なされるべきであることを指摘すべきである。