(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】プラスチックレンズおよびプラスチック偏光レンズ
(51)【国際特許分類】
C08G 18/38 20060101AFI20220628BHJP
G02B 1/04 20060101ALI20220628BHJP
G02C 7/02 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
C08G18/38 076
G02B1/04
G02C7/02
(21)【出願番号】P 2021507315
(86)(22)【出願日】2020-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2020011205
(87)【国際公開番号】W WO2020189570
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2019048082
(32)【優先日】2019-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】松井 勇輔
(72)【発明者】
【氏名】古屋 政幸
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 伸介
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-214488(JP,A)
【文献】特開昭59-169820(JP,A)
【文献】国際公開第2008/018168(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00-18/87
G02B 1/04
G02C 7/00-7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリチオウレタンを含んでなり、IR分析法によるSH基濃度が0.30wt%以上3.0wt%以下である成形体(ただし、フォトクロミック化合物を含む場合を除く)
からなるプラスチックレンズ。
【請求項2】
ポリチオウレタンを含んでなり、IR分析法によるSH基濃度が0.30wt%以上3.0wt%以下である成形体(ただし、フォトクロミック化合物を含む場合を除く)からなる基材層と、
前記基材層の少なくとも一方の面上に形成された機能層と、
を含むプラスチックレンズ。
【請求項3】
前記ポリチオウレタンは、ポリイソシアネート化合物(A)由来の構成単位と、ポリチオール化合物(B)由来の構成単位と、からなり、
ポリイソシアネート化合物(A)は、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,5-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタン、2,6-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタン、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、およびジフェニルメタンジイソシアネートよりなる群から選択される1種以上であり、
ポリチオール化合物(B)は、5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、2,5-ビス(メルカプトメチル)-1,4-ジチアン、ビス(メルカプトエチル)スルフィド、1,1,3,3-テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、4,6-ビス(メルカプトメチルチオ)-1,3-ジチアン、2-(2,2-ビス(メルカプトメチルチオ)エチル)-1,3-ジチエタン、1,1,2,2-テトラキス(メルカプトメチルチオ)エタン、3-メルカプトメチル-1,5-ジメルカプト-2,4-ジチアペンタン、トリス(メルカプトメチルチオ)メタン、およびエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1
または2に記載の
プラスチックレンズ。
【請求項4】
偏光フィルムと、
前記偏光フィルムの少なくとも一方の面に形成された
、成形体からなる基材層と、を備え
、前記成形体(ただし、フォトクロミック化合物を含む場合を除く)はポリチオウレタンを含んでなり、IR分析法によるSH基濃度が0.30wt%以上3.0wt%以下であるプラスチック偏光レンズ。
【請求項5】
さらに、前記偏光フィルムの少なくとも一方の面上に形成された機能層を備える、請求項
4に記載のプラスチック偏光レンズ。
【請求項6】
前記ポリチオウレタンは、ポリイソシアネート化合物(A)由来の構成単位と、ポリチオール化合物(B)由来の構成単位と、からなり、
ポリイソシアネート化合物(A)は、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,5-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタン、2,6-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタン、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、およびジフェニルメタンジイソシアネートよりなる群から選択される1種以上であり、
ポリチオール化合物(B)は、5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、2,5-ビス(メルカプトメチル)-1,4-ジチアン、ビス(メルカプトエチル)スルフィド、1,1,3,3-テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、4,6-ビス(メルカプトメチルチオ)-1,3-ジチアン、2-(2,2-ビス(メルカプトメチルチオ)エチル)-1,3-ジチエタン、1,1,2,2-テトラキス(メルカプトメチルチオ)エタン、3-メルカプトメチル-1,5-ジメルカプト-2,4-ジチアペンタン、トリス(メルカプトメチルチオ)メタン、およびエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項4または5に記載のプラスチック偏光レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズは、無機レンズに比べ、軽量で割れ難く、染色が可能であることから、眼鏡レンズ、カメラレンズ等の光学素子に急速に普及してきている。
【0003】
その中でも代表的な例として、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートやジアリルイソフタレートから得られるアリル樹脂や、(メタ)アクリレートから得られる(メタ)アクリル樹脂、イソシアネートとチオールから得られるポリチオウレタン樹脂が挙げられる。なかでも、ポリチオウレタン樹脂は軽量でかつ、高屈折率、低分散で透明性に優れているためプラスチックレンズ用材料として極めて有用である。
【0004】
特許文献1には、ポリイソシアネート化合物と、特定のポリチオール化合物と、特定のチオール化合物と、触媒と、を含む重合性組成物から得られた成形体が開示されている。当該レンズは、耐衝撃性や染色性に優れると記載されている。
【0005】
特許文献2には、ポリイソシアネート化合物と、ポリオール化合物と、ポリチオール化合物と、フォトクロミック化合物と、を含む重合性組成物から得られた成形体が開示されている。当該成形体は、IR分析法によるSH基濃度が1.0wt%未満であると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2015-504099号公報
【文献】国際公開第2017/47744号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の従来の技術においては、特定の化合物を組み合わせた場合において耐衝撃性や染色性に優れるものの、モノマー等の組み合わせに関わらず、これらの特性に優れた成形体を得る方法が求められていた。
なお、特許文献2には、耐衝撃性や染色性については記載されていない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討の結果、SH基濃度が所定の範囲にある成形体は耐衝撃性や染色性に優れることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下に示すことができる。
[1] ポリチオウレタンを含んでなり、IR分析法によるSH基濃度が0.30wt%以上3.0wt%以下である成形体(ただし、フォトクロミック化合物を含む場合を除く)。
[2] 前記ポリチオウレタンは、ポリイソシアネート化合物(A)由来の構成単位と、ポリチオール化合物(B)由来の構成単位と、からなり、
ポリイソシアネート化合物(A)は、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,5-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタン、2,6-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタン、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、およびジフェニルメタンジイソシアネートよりなる群から選択される1種以上であり、
ポリチオール化合物(B)は、5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、2,5-ビス(メルカプトメチル)-1,4-ジチアン、ビス(メルカプトエチル)スルフィド、1,1,3,3-テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、4,6-ビス(メルカプトメチルチオ)-1,3-ジチアン、2-(2,2-ビス(メルカプトメチルチオ)エチル)-1,3-ジチエタン、1,1,2,2-テトラキス(メルカプトメチルチオ)エタン、3-メルカプトメチル-1,5-ジメルカプト-2,4-ジチアペンタン、トリス(メルカプトメチルチオ)メタン、およびエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)からなる群から選択される少なくとも1種である、[1]に記載の成形体。
[3] [1]または[2]に記載の成形体からなる光学材料。
[4] [1]または[2]に記載の成形体からなるプラスチックレンズ。
[5] [1]または[2]に記載の成形体からなる基材層と、
前記基材層の少なくとも一方の面上に形成された機能層と、
を含む、[4]に記載のプラスチックレンズ。
[6] 偏光フィルムと、
前記偏光フィルムの少なくとも一方の面に形成された、[1]または[2]に記載の成形体からなる基材層と、を備えるプラスチック偏光レンズ。
[7] さらに、前記偏光フィルムの少なくとも一方の面上に形成された機能層を備える、[6]に記載のプラスチック偏光レンズ。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、離型性、耐衝撃性および染色性に優れる成形体、当該成形体からなる光学材料やプラスチックレンズを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明を実施の形態により説明する。
本実施形態の成形体は、ポリチオウレタンを含んでなり、IR分析法によるSH基濃度が0.10wt%以上3.0wt%以下、好ましくは0.30wt%以上3.0wt%である。なお、本実施形態の成形体は、フォトクロミック化合物を含まない。
本実施形態の成形体は、SH基濃度が所定の範囲にあることから離型性、耐衝撃性および染色性に優れる。
本実施形態の成形体は、ポリイソシアネート化合物(A)と、ポリチオール化合物(B)とを含む重合性組成物を用いて得ることができる。
【0011】
[(A)ポリイソシアネート化合物]
ポリイソシアネート化合物(A)は、本発明の効果を得ることができれば、従来公知のポリイソシアネート化合物から選択して用いることができる。
【0012】
本実施形態におけるポリイソシアネート化合物(A)としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアナトメチルエステル、リジントリイソシアネート、m-キシリレンジイソシアネート、p-キシリレンジイソシアネート、α,α,α′,α′-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)ナフタリン、1,3,5-トリス(イソシアナトメチル)ベンゼン、ビス(イソシアナトメチル)スルフィド、ビス(イソシアナトエチル)スルフィド、ビス(イソシアナトメチル)ジスルフィド、ビス(イソシアナトエチル)ジスルフィド、ビス(イソシアナトメチルチオ)メタン、ビス(イソシアナトエチルチオ)メタン、ビス(イソシアナトエチルチオ)エタン、ビス(イソシアナトメチルチオ)エタン等の脂肪族ポリイソシアネート化合物;
イソホロンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタン-4,4'-ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-2,4'-ジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ジシクロヘキシルジメチルメタンイソシアネート、2,5-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタン、2,6-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタン、3,8-ビス(イソシアナトメチル)トリシクロデカン、3,9-ビス(イソシアナトメチル)トリシクロデカン、4,8-ビス(イソシアナトメチル)トリシクロデカン、4,9-ビス(イソシアナトメチル)トリシクロデカン等の脂環族ポリイソシアネート化合物;
ジフェニルスルフィド-4,4'-ジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート化合物;
2,5-ジイソシアナトチオフェン、2,5-ビス(イソシアナトメチル)チオフェン、2,5-ジイソシアナトテトラヒドロチオフェン、2,5-ビス(イソシアナトメチル)テトラヒドロチオフェン、3,4-ビス(イソシアナトメチル)テトラヒドロチオフェン、2,5-ジイソシアナト-1,4-ジチアン、2,5-ビス(イソシアナトメチル)-1,4-ジチアン、4,5-ジイソシアナト-1,3-ジチオラン、4,5-ビス(イソシアナトメチル)-1,3-ジチオラン等の複素環ポリイソシアネート化合物等を挙げることができる。ポリイソシアネート化合物(A)としては、これらから選択される少なくとも1種を用いることができる。
【0013】
ポリイソシアネート化合物(A)としては、単量体以外に、変性体および/または変性体との混合物も含み、イソシアネートの変性体としては、例えば、多量体、ビウレット変性体、アロファネート変性体、オキサジアジントリオン変性体、ポリオール変性体などが挙げられる。多量体としては、例えば、ウレットジオン、ウレトイミン、カルボジイミド等の二量体、イソシアヌレート、イミノオキサジアンジオン等の三量体以上の多量体が挙げられる。
【0014】
ポリイソシアネート化合物(A)としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,5-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタン、2,6-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタン、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、およびジフェニルメタンジイソシアネートよりなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
【0015】
[(B)ポリチオール化合物]
ポリチオール化合物(B)は、本発明の効果を得ることができれば、従来公知のポリチオール化合物から選択して用いることができる。
【0016】
本実施形態におけるポリチオール化合物(B)としては、例えば、メタンジチオール、1,2-エタンジチオール、1,2,3-プロパントリチオール、1,2-シクロヘキサンジチオール、ビス(2-メルカプトエチル)エーテル、テトラキス(メルカプトメチル)メタン、ジエチレングリコールビス(2-メルカプトアセテート)、ジエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、エチレングリコールビス(2-メルカプトアセテート)、エチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(2-メルカプトアセテート)、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、トリメチロールエタントリス(2-メルカプトアセテート)、トリメチロールエタントリス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ビス(メルカプトメチル)スルフィド、ビス(メルカプトメチル)ジスルフィド、ビス(メルカプトエチル)スルフィド、ビス(メルカプトエチル)ジスルフィド、ビス(メルカプトプロピル)スルフィド、ビス(メルカプトメチルチオ)メタン、ビス(2-メルカプトエチルチオ)メタン、ビス(3-メルカプトプロピルチオ)メタン、1,2-ビス(メルカプトメチルチオ)エタン、1,2-ビス(2-メルカプトエチルチオ)エタン、1,2-ビス(3-メルカプトプロピルチオ)エタン、1,2,3-トリス(メルカプトメチルチオ)プロパン、1,2,3-トリス(2-メルカプトエチルチオ)プロパン、1,2,3-トリス(3-メルカプトプロピルチオ)プロパン、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、テトラキス(メルカプトメチルチオメチル)メタン、テトラキス(2-メルカプトエチルチオメチル)メタン、テトラキス(3-メルカプトプロピルチオメチル)メタン、ビス(2,3-ジメルカプトプロピル)スルフィド、2,5-ジメルカプトメチル-1,4-ジチアン、2,5-ジメルカプト-1,4-ジチアン、2,5-ジメルカプトメチル-2,5-ジメチル-1,4-ジチアン、及びこれらのチオグリコール酸およびメルカプトプロピオン酸のエステル、ヒドロキシメチルスルフィドビス(2-メルカプトアセテート)、ヒドロキシメチルスルフィドビス(3-メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシエチルスルフィドビス(2-メルカプトアセテート)、ヒドロキシエチルスルフィドビス(3-メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシメチルジスルフィドビス(2-メルカプトアセテート)、ヒドロキシメチルジスルフィドビス(3-メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシエチルジスルフィドビス(2―メルカプトアセテート)、ヒドロキシエチルジスルフィドビス(3―メルカプトプロピネート)、2-メルカプトエチルエーテルビス(2-メルカプトアセテート)、2-メルカプトエチルエーテルビス(3-メルカプトプロピオネート)、チオジグリコール酸ビス(2-メルカプトエチルエステル)、チオジプロピオン酸ビス(2-メルカプトエチルエステル)、ジチオジグリコール酸ビス(2-メルカプトエチルエステル)、ジチオジプロピオン酸ビス(2-メルカプトエチルエステル)、1,1,3,3-テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、1,1,2,2-テトラキス(メルカプトメチルチオ)エタン、4,6-ビス(メルカプトメチルチオ)-1,3-ジチアン、トリス(メルカプトメチルチオ)メタン、トリス(メルカプトエチルチオ)メタン等の脂肪族ポリチオール化合物;
1,2-ジメルカプトベンゼン、1,3-ジメルカプトベンゼン、1,4-ジメルカプトベンゼン、1,2-ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3-ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,4-ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2-ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,3-ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,4-ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,3,5-トリメルカプトベンゼン、1,3,5-トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3,5-トリス(メルカプトメチレンオキシ)ベンゼン、1,3,5-トリス(メルカプトエチレンオキシ)ベンゼン、2,5-トルエンジチオール、3,4-トルエンジチオール、1,5-ナフタレンジチオール、2,6-ナフタレンジチオール等の芳香族ポリチオール化合物;
2-メチルアミノ-4,6-ジチオール-sym-トリアジン、3,4-チオフェンジチオール、ビスムチオール、4,6-ビス(メルカプトメチルチオ)-1,3-ジチアン、2-(2,2-ビス(メルカプトメチルチオ)エチル)-1,3-ジチエタン等の複素環ポリチオール化合物;等を挙げることができる。ポリチオール化合物(B)としては、これらから選択される少なくとも1種を用いることができる。
【0017】
ポリチオール化合物(B)としては、5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、2,5-ビス(メルカプトメチル)-1,4-ジチアン、ビス(メルカプトエチル)スルフィド、1,1,3,3-テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、4,6-ビス(メルカプトメチルチオ)-1,3-ジチアン、2-(2,2-ビス(メルカプトメチルチオ)エチル)-1,3-ジチエタン、1,1,2,2-テトラキス(メルカプトメチルチオ)エタン、3-メルカプトメチル-1,5-ジメルカプト-2,4-ジチアペンタン、トリス(メルカプトメチルチオ)メタン、およびエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0018】
[その他の成分]
本実施形態においては、上記(A)および(B)成分に加えて、重合触媒、内部離型剤、樹脂改質剤等をさらに含んでいてもよい。
重合触媒としては、3級アミン化合物およびその無機酸塩または有機酸塩、金属化合物、4級アンモニウム塩、または有機スルホン酸を挙げることができる。
【0019】
内部離型剤としては、酸性リン酸エステルを用いることができる。酸性リン酸エステルとしては、リン酸モノエステル、リン酸ジエステルを挙げることができ、それぞれ単独または2種類以上混合して使用することできる。このような内部離型剤の市販品としては、例えば、STEPAN社製のZelecUN、三井化学社製のMR用内部離型剤、城北化学工業社製のJPシリーズ、東邦化学工業社製のフォスファノールシリーズ、大八化学工業社製のAP、DPシリーズ等を用いることができる。
【0020】
樹脂改質剤としては、例えば、エピスルフィド化合物、アルコール化合物、アミン化合物、エポキシ化合物、有機酸及びその無水物、(メタ)アクリレート化合物等を含むオレフィン化合物等が挙げられる。
【0021】
ポリイソシアネート化合物(A)とポリチオール化合物(B)との好ましい組み合わせとしては、
キシリレンジイソシアネート、および5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンと、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンと、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンとの混合物の組み合わせA、
ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、および5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンと、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンと、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンとの混合物の組み合わせB、
2,5-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタンと2,6-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタンとの混合物、および4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタンとの組み合わせC、
を挙げることができる。
【0022】
<重合性組成物の製造方法>
本実施形態における重合性組成物は、ポリイソシアネート化合物(A)と、ポリチオール化合物(B)と、必要に応じてその他の成分とを従来公知の方法で混合して、調製することができる。なお、本実施形態における重合性組成物は、フォトクロミック化合物を含まない。
【0023】
前記組成物において、ポリチオール化合物(B)に含まれるSH基に対する、ポリイソシアネート化合物(A)に含まれるNCO基のモル比(NCO基/SH基)は、0.8~1.2、好ましくは0.9~1.15、より好ましくは0.95~1.1の範囲内である。当該モル比の範囲であれば、IR分析法によるSH基濃度を好適に調整することができる。
【0024】
ポリイソシアネート化合物(A)と、ポリチオール化合物(B)と、その他の成分を混合して重合性組成物を調製する場合の温度は通常25℃以下で行われる。重合性組成物のポットライフの観点から、さらに低温にすると好ましい場合がある。ただし、触媒、内部離型剤、添加剤のモノマーへの溶解性が良好でない場合は、あらかじめ加温して、モノマー、樹脂改質剤に溶解させることも可能である。
【0025】
組成物中の各成分の混合順序や混合方法は、各成分を均一に混合することができれば特に限定されず、公知の方法で行うことができる。公知の方法としては、例えば、添加剤を所定量含むマスターバッチを作製して、このマスターバッチを溶媒に分散・溶解させる方法などがある。
【0026】
本実施形態において、重合性組成物を重合硬化することにより成形体を得ることができる。成形体のSH基濃度はIR分析法により求めることができる。例えば、PERKIN-ELMER社製IR分析装置Spectrum Oneを用いて厚さ0.30mmに切削、研磨加工したサンプル(成形体)のIRスペクトルを測定し、NCOは2257cm-1、SHは2550cm-1の吸収を用いてベースライン法で吸光度を求め、あらかじめ作成した検量線から下記式の計算により求めることができる。
【0027】
【0028】
これにより測定した成形体のSH基濃度は、0.10wt%以上3.0wt%以下、好ましくは0.30wt%以上3.0wt%以下、より好ましくは0.40wt%以上2.8wt%以下、特に好ましくは0.50wt%以上2.5wt%以下である。当該範囲にある成形体は、離型性、耐衝撃性および染色性に優れる。本実施形態の成形体は光学材料として用いることができる。
【0029】
ポリイソシアネート化合物(A)とポリチオール化合物(B)との好ましい組み合わせAから得られた成形体のSH基濃度は、上記範囲であれば本発明の効果を得ることができるが、0.10wt%以上3.0wt%以下、好ましくは0.30wt%以上3.0wt%、より好ましくは0.40wt%以上2.5wt%以下、特に好ましくは0.50wt%以上2.2wt%以下であることが望ましい。
一方、好ましい組み合わせBから得られた成形体のSH基濃度は、上記範囲であれば本発明の効果を得ることができるが、0.20wt%以上3.0wt%以下、好ましくは0.30wt%以上2.8wt%以下、より好ましくは0.50wt%以上2.8wt%以下、特に好ましくは0.50wt%以上2.5wt%以下である。
また、好ましい組み合わせCから得られた成形体のSH基濃度は、上記範囲であれば本発明の効果を得ることができるが、0.20wt%以上3.0wt%以下、好ましくは0.50wt%以上2.5wt%以下、さらに好ましくは1.00wt%以上2.0wt%以下、特に好ましくは1.50wt%以上2.0wt%以下である。
【0030】
本実施形態において、成形体の染色性は、波長600nm光に対する透過率および染色均一性により評価され、本実施形態の成形体これらの特性のバランスに優れており、結果として染色性に優れる。
波長600nm光に対する透過率は、90℃に加熱した水に色素を2%濃度となるように加え、撹拌後、中心厚2mmの成形体(例えば、4カーブのプラノレンズ)を1時間浸漬・着色させ、染色された成形体に波長600nm光を照射し、透過率を測定することで得ることができる。
本実施形態の成形体の染色後の透過率は、成形体のSH基濃度や成形体を構成するモノマーの種類によって異なるものの、10%以上90%以下、好ましくは15%以上85%以下、より好ましくは20%以上70%以下、特に好ましくは30%以上60%以下とすることができる。
【0031】
上述の方法により測定した成形体のNCO基濃度は、0.01wt%以上3.0wt%以下、好ましくは0.02wt%以上2.0wt%以下、さらに好ましくは0.03wt%以上1.5wt%以下である。当該範囲にある成形体は、離型性、耐衝撃性および染色性にさらに優れる。
ポリイソシアネート化合物(A)とポリチオール化合物(B)との好ましい組み合わせAから得られた成形体のNCO基濃度は、0.01wt%以上2.5wt%以下、好ましくは0.02wt%以上1.5wt%以下、さらに好ましくは0.03wt%以上1.0wt%以下である。当該範囲にある成形体は、離型性、耐衝撃性および染色性により優れる。
また、好ましい組み合わせCから得られた成形体のNCO基濃度は、0.5wt%以上2.5wt%以下、好ましくは1.0wt%以上2.0wt%以下である。当該範囲にある成形体は、離型性、耐衝撃性および染色性により優れる。
【0032】
本実施形態において、光学材料の製造方法は、特に限定されないが、好ましい製造方法として注型重合が挙げられる。はじめに、ガスケットまたはテープ等で保持された成型モールド間に重合性組成物を注入する。この時、得られるプラスチックレンズに要求される物性によっては、必要に応じて、減圧下での脱泡処理や加圧、減圧条件下での濾過処理等を行うことが好ましい場合が多い。
【0033】
重合条件については、重合性組成物の組成、触媒の種類と使用量、モールドの形状等によって大きく条件が異なるため限定されるものではないが、およそ、-50~150℃の温度で1~50時間かけて行われる。場合によっては、10~150℃の温度範囲で保持または徐々に昇温して、1~25時間で硬化させることが好ましい。
重合条件を上記範囲で調整することにより、所望のSH基濃度である成形体を得ることができる。すなわち、離型性、耐衝撃性および染色性に優れた成形体を好適に得ることができる。
【0034】
ポリイソシアネート化合物(A)とポリチオール化合物(B)との好ましい組み合わせAにおいては、上述の重合条件でも所望のSH基濃度である成形体を得ることができるが、25~120℃の温度で24.5~50時間かけて重合を行うことが好ましい。
一方、組み合わせBにおいては、上述の重合条件でも所望のSH基濃度である成形体を得ることができるが、20~140℃の温度で39~55時間かけて重合を行うことが好ましい。
また、組み合わせCにおいては、上述の重合条件でも所望のSH基濃度である成形体を得ることができるが、20~120℃の温度で20.5~50時間かけて重合を行うことが好ましい。
【0035】
光学材料は、必要に応じて、アニール等の処理を行ってもよい。処理温度は通常50~150℃の間で行われる。
【0036】
本実施形態において、成形体を調製する際には、上記「その他の成分」に加えて、目的に応じて公知の成形法と同様に、鎖延長剤、架橋剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、ブルーイング剤、油溶染料、充填剤、密着性向上剤などの種々の添加剤を加えてもよい。
【0037】
<用途>
本実施形態の重合性組成物は、注型重合時のモールドの種類を変えることにより種々の形状の成形体として得ることができる。成形体は、高い屈折率及び高い透明性を備え、プラスチックレンズ等の各種光学材料に使用することが可能である。特に、プラスチック眼鏡レンズやプラスチック偏光レンズとして好適に用いることができる。
なお、本実施形態における重合性組成物は、フォトクロミック化合物を含まないことから、当該重合性組成物から得られる成形体やプラスチックレンズにはフォトクロミック化合物を含まない。
【0038】
[プラスチック眼鏡レンズ]
本実施形態の成形体からなるレンズ基材を用いたプラスチック眼鏡レンズは必要に応じて、片面又は両面に機能層を設けてもよい。
【0039】
機能層として、具体的には、プライマー層、ハードコート層、反射防止層、防曇コート層、防汚染層、撥水層等が挙げられる。これらの機能層はそれぞれ単独で用いることも複数の機能層を多層化して使用することもできる。両面に機能層を施す場合、それぞれの面に同様な機能層を施しても、異なる機能層を設けてもよい。
【0040】
これらの機能層はそれぞれ、紫外線からレンズや目を守る目的で紫外線吸収剤、赤外線から目を守る目的で赤外線吸収剤、レンズの耐候性を向上する目的で光安定剤や酸化防止剤、レンズのファッション性を高める目的で染料や顔料、フォトクロミック化合物、帯電防止剤、その他、レンズの性能を高めるための公知の添加剤を併用してもよい。塗布によるコーティングを行う層に関しては塗布性の改善を目的とした各種レベリング剤を使用してもよい。
【0041】
プライマー層は通常、後述するハードコート層とレンズとの間に形成される。プライマー層は、その上に形成するハードコート層とレンズとの密着性を向上させることを目的とする機能層であり、場合により耐衝撃性をさらに向上させることも可能である。プライマー層には得られたレンズに対する密着性の高いものであればいかなる素材でも使用できるが、通常、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、メラニン系樹脂、ポリビニルアセタールを主成分とするプライマー組成物などが使用される。プライマー組成物は組成物の粘度を調整する目的でレンズに影響を及ぼさない適当な溶剤を用いてもよい。無論、無溶剤で使用してもよい。
【0042】
プライマー層は塗布法、乾式法のいずれの方法によっても形成することができる。塗布法を用いる場合、プライマー組成物を、スピンコート、ディップコートなど公知の塗布方法でレンズに塗布した後、固化することによりプライマー層が形成される。乾式法で行う場合は、CVD法や真空蒸着法などの公知の乾式法で形成される。プライマー層を形成するに際し、密着性の向上を目的として、必要に応じてレンズの表面は、アルカリ処理、プラズマ処理、紫外線処理などの前処理を行っておいてもよい。
ハードコート層は、レンズ表面に耐擦傷性、耐摩耗性、耐湿性、耐温水性、耐熱性、耐候性等機能を与えることを目的とした機能層である。
【0043】
ハードコート層は、一般的には硬化性を有する有機ケイ素化合物とSi,Al,Sn,Sb,Ta,Ce,La,Fe,Zn,W,Zr,In及びTiの元素群から選ばれる元素の酸化物微粒子の1種以上および/またはこれら元素群から選ばれる2種以上の元素の複合酸化物から構成される微粒子の1種以上を含むハードコート組成物が使用される。
【0044】
ハードコート組成物には上記成分以外にアミン類、アミノ酸類、金属アセチルアセトネート錯体、有機酸金属塩、過塩素酸類、過塩素酸類の塩、酸類、金属塩化物および多官能性エポキシ化合物の少なくともいずれかを含むことが好ましい。ハードコート組成物にはレンズに影響を及ぼさない適当な溶剤を用いてもよいし、無溶剤で用いてもよい。
【0045】
ハードコート層は、通常、ハードコート組成物をスピンコート、ディップコートなど公知の塗布方法で塗布した後、硬化して形成される。硬化方法としては、熱硬化、紫外線や可視光線などのエネルギー線照射による硬化方法等が挙げられる。干渉縞の発生を抑制するため、ハードコート層の屈折率は、レンズとの屈折率の差が±0.1の範囲にあるのが好ましい。
【0046】
反射防止層は、通常、必要に応じて前記ハードコート層の上に形成される。反射防止層には無機系および有機系があり、無機系の場合、SiO2、TiO2等の無機酸化物を用い、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビ-ムアシスト法、CVD法などの乾式法により形成される。有機系の場合、有機ケイ素化合物と、内部空洞を有するシリカ系微粒子とを含む組成物を用い、湿式により形成される。
【0047】
反射防止層は単層および多層があり、単層で用いる場合はハードコート層の屈折率よりも屈折率が少なくとも0.1以上低くなることが好ましい。効果的に反射防止機能を発現するには多層膜反射防止膜とすることが好ましく、その場合、低屈折率膜と高屈折率膜とを交互に積層する。この場合も低屈折率膜と高屈折率膜との屈折率差は0.1以上であることが好ましい。高屈折率膜としては、ZnO、TiO2、CeO2、Sb2O5、SnO2、ZrO2、Ta2O5等の膜があり、低屈折率膜としては、SiO2膜等が挙げられる。
【0048】
反射防止層の上には、必要に応じて防曇層、防汚染層、撥水層を形成させてもよい。防曇層、防汚染層、撥水層を形成する方法としては、反射防止機能に悪影響をもたらすものでなければ、その処理方法、処理材料等については特に限定されずに、公知の防曇処理方法、防汚染処理方法、撥水処理方法、材料を使用することができる。例えば、防曇処理方法、防汚染処理方法では、表面を界面活性剤で覆う方法、表面に親水性の膜を付加して吸水性にする方法、表面を微細な凹凸で覆い吸水性を高める方法、光触媒活性を利用して吸水性にする方法、超撥水性処理を施して水滴の付着を防ぐ方法などが挙げられる。また、撥水処理方法では、フッ素含有シラン化合物等を蒸着やスパッタによって撥水処理層を形成する方法や、フッ素含有シラン化合物を溶媒に溶解したあと、コーティングして撥水処理層を形成する方法等が挙げられる。
【0049】
[プラスチック偏光レンズ]
本実施形態のプラスチック偏光レンズは、偏光フィルムと、前記偏光フィルムの少なくとも一方の面に形成された、本実施形態における重合性組成物を硬化させた成形体からなる基材層と、を備える。
【0050】
本実施形態における偏光フィルムは、熱可塑性樹脂から構成することができる。熱可塑性樹脂としては、熱可塑性ポリエステル、熱可塑性ポリカーボネート、熱可塑性ポリオレフィン、熱可塑性ポリイミド等を挙げることができる。耐水性、耐熱性および成形加工性の観点から、熱可塑性ポリエステル、熱可塑性ポリカーボネートが好ましく、熱可塑性ポリエステルがより好ましい。
【0051】
熱可塑性ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、及びポリブチレンテレフタレート等を挙げることができ、耐水性、耐熱性および成形加工性の観点からポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0052】
偏光フィルムとして、具体的には、二色性染料含有熱可塑性ポリエステル偏光フィルム、ヨウ素含有ポリビニルアルコール偏光フィルム、二色性染料含有ポリビニルアルコール偏光フィルム等が挙げられる。
偏光フィルムは乾燥、安定化のため加熱処理を施したうえで使用してもよい。
【0053】
さらに、偏光フィルムは、アクリル系樹脂との密着性を向上させるために、プライマーコーティング処理、薬品処理(ガス又はアルカリ等の薬液処理)、コロナ放電処理、プラズマ処理、紫外線照射処理、電子線照射処理、粗面化処理、火炎処理などから選ばれる1種又は2種以上の前処理を行った上で使用してもよい。このような前処理のなかでも、プライマーコーティング処理、薬品処理、コロナ放電処理、プラズマ処理から選ばれる1種又は2種以上が特に好ましい。
【0054】
本実施形態のプラスチック偏光レンズは、このような偏光フィルムの少なくとも一方の面上に、本実施形態における重合性組成物を硬化させて得られる基材層を設けることにより得ることができる。
プラスチック偏光レンズの製造方法は、特に限定されないが、好ましくは注型重合法を挙げることできる。
本実施形態のプラスチック偏光レンズの製造方法は、例えば、
偏光フィルムを、モールドから離隔した状態でレンズ注型用鋳型内に固定する工程と、
前記偏光フィルムと、前記モールドとの間に形成される空隙の少なくとも一方に前記重合性組成物を注入する工程と、
前記重合性組成物を重合硬化して、前記偏光フィルムの少なくとも一方の面に基材層を積層する工程と、を含むことができる。
【0055】
レンズ注型用鋳型は、ガスケットで保持された2個の略円盤状のガラス製のモールドから構成されるものが一般的である。このレンズ注型用鋳型の空間内に、偏光フィルムを、フィルム面が対向するフロント側のモールド内面と平行となるように設置する。偏光フィルムとモールドとの間には、空隙部が形成される。なお、偏光フィルムは予め附形されていてもよい。
【0056】
重合性組成物の重合条件は、重合性組成物の組成、触媒の種類と使用量、モールドの形状等によって条件が異なるが、5~140℃の温度で1~50時間かけて行われる。場合によっては、5~130℃の温度範囲で保持または徐々に昇温して、1~25時間で硬化させることが好ましい。
重合条件を上記範囲で調整することにより、所望のSH基濃度である成形体を得ることができる。すなわち、離型性、耐衝撃性および染色性に優れた成形体を好適に得ることができる。
【0057】
重合により硬化した積層体を鋳型より離型して、本実施形態のプラスチック偏光レンズを得ることができる。
本実施形態において、重合・離型後の積層体は、必要に応じて、アニール等の加熱処理を行ってもよい。処理温度は、本発明の効果の観点から、90~150℃の間で行われるが、110~130℃で行うことが好ましく、115~125℃で行うことがより好ましい。処理時間は、本発明の効果の観点から、1~10時間、好ましくは2~5時間の範囲である。
【0058】
なお、偏光フィルムの少なくとも一方の面上には、プラスチック眼鏡レンズと同様な前記機能層を形成してもよい。
【0059】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の様々な構成を採用することができる。
【実施例】
【0060】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例および比較例において、評価に用いた方法は以下のとおりである。
【0061】
・IR測定による残存官能基分析:
PERKIN-ELMER社製IR分析装置Spectrum Oneを用いて厚さ0.30mmに切削、研磨加工したサンプル(成形体)のIRスペクトルを測定した。NCOは2257cm-1、SHは2550cm-1の吸収を用いてベースライン法で吸光度を求め、あらかじめ作成した検量線から下記式の計算により求めた。
【0062】
【0063】
・離型性
レンズを15枚作製して、ガラスモールドからの成形体の離型性を以下の基準で判定した。
(基準)
○:離型可能であったレンズ枚数:15~14枚
△:離型可能であったレンズ枚数:13~10枚
×:離型可能であったレンズ枚数:9~0枚
【0064】
・染色性(透過率、染色均一性)
90℃に加熱した水に色素としてBPI(R) Gray(BPI社製)を2%濃度となるように加え、撹拌後、中心厚2mmの4カーブのプラノレンズを1時間浸漬・着色させた。得られた染色されたレンズを以下の方法で波長600nm光の透過率(%)を測定し、さらに染色均一性を以下の基準で判定した。
(透過率の測定方法)
測定機器として島津製作所製 島津分光光度計 UV-1800を用いて、上記のように染色されたレンズの紫外-可視光スペクトルを測定し、波長600nm光の透過率(%)を算出した。
(染色均一性の判定基準)
○:染色にムラなし
×:染色にムラあり
【0065】
・耐衝撃性:
高さ127 cm(50インチ)の位置から中心厚1.1mmのレンズの中心部に8.35g、16.33g、28.13g、32.63g、44.85g、66.82g、95.01g、111.78g、173.58g、225.5gの10種類の重量の違う鉄球を軽い順に落下させ、レンズが割れるか試験した。評価は、5枚のレンズについて試験を行ない、レンズが割れなかった最大重量の平均値を耐衝撃性の値とした。
【0066】
[比較例1]
撹拌羽根、温度計、圧力計を備えた調合容器に触媒であるジメチル錫(II)ジクロリドを0.050重量部、内部離型剤として三井化学社製MR用内部離型剤を1重量部、紫外線吸収剤としてTinuvin329、Seesorb706をそれぞれ6重量部、m-キシリレンジイソシアネート507重量部を仕込み、25℃で1時間攪拌して完全に溶解させることにより、混合溶液を作製した。この混合溶液を25℃で1時間攪拌して完全に溶解させた。その後、この調合液に、5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンと、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンと、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンとの混合物493重量部を仕込み、これを25℃で30分攪拌し、均一溶液とした。この溶液を400Paにて1時間脱泡を行い、1μmPTFEフィルターにて濾過を行った後、ガラスモールドに注入した。このガラスモールドを20℃から120℃まで、24時間かけて昇温した。室温まで冷却させて、ガラスモールドから外し、成形体を得た。
成形体は無色透明であった。次に、成形体の残存-NCO基、-SH基の定量をIR分析法によって行った。また、これら成形体の離型性、染色性および耐衝撃性(ドロップボールテスト)を評価した。これらの結果を表-1に示す。
【0067】
[実施例1~3、比較例2]
重合時間を表-1に記載のように変化させた以外は比較例1と同様に成形体を調製した。
成形体は無色透明であった。次に、成形体の残存-NCO基、-SH基の定量をIR分析法によって行った。また、これら成形体の離型性、染色性および耐衝撃性(ドロップボールテスト)を評価した。これらの結果を表-1に示す。
【0068】
【0069】
表-1に記載の化合物は以下のとおりである。
a1:m-キシリレンジイソシアネート
b1:5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンと、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンと、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンとの混合物
【0070】
[比較例3]
撹拌羽根、温度計、圧力計を備えた調合容器に触媒であるジブチル錫(II)ジクロリドを1.8重量部、内部離型剤として三井化学社製MR用内部離型剤を1.2重量部、紫外線吸収剤としてTinuvin326を6.4重量部、Eversorb109を15重量部、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート589重量部を仕込み、25℃で1時間攪拌して完全に溶解させることにより、混合溶液を作製した。この混合溶液を25℃で1時間攪拌して完全に溶解させた。その後、この調合液に、5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンと、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンと、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンとの混合物411重量部を仕込み、これを25℃で30分攪拌し、均一溶液とした。この溶液を400Paにて1時間脱泡を行い、1μmPTFEフィルターにて濾過を行った後、ガラスモールドに注入した。このガラスモールドを20℃から140℃まで、38.5時間かけて昇温した。室温まで冷却させて、ガラスモールドから外し、成形体を得た。
成形体は無色透明であった。次に、成形体の残存-SH基の定量をIR分析法によって行った。また、これら成形体の離型性、染色性および耐衝撃性(ドロップボールテスト)を評価した。これらの結果を表-2に示す。
【0071】
[実施例4~7、比較例4]
重合時間を表-2に記載のように変化させた以外は比較例3と同様に成形体を調製した。
成形体は無色透明であった。次に、成形体の残存-SH基の定量をIR分析法によって行った。また、これら成形体の離型性、染色性および耐衝撃性(ドロップボールテスト)を評価した。これらの結果を表-2に示す。
【0072】
[比較例5]
ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート589重量部、Tinuvin326を6.4重量部、Eversorb109を15.0重量部、ZelecUN0.8重量部、ポリエーテル変性シロキサン化合物(KL-100:共栄社化学株式会社製)を5.0重量部仕込んで混合溶液を作製した。この混合溶液を20℃窒素雰囲気下にて完全溶解させたのち、さらにジブチル錫(II)ジクロリド1.5重量部と、5,7(または4,7または4,8)-ジメルカプトメチル-1,11-メルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンの混合物であるポリチオール化合物411重量部との混合液を投入し20℃において20分間撹拌混合してから更に400Paの減圧下で30分間脱泡を行い、1μmPTFEフィルターにて濾過を行った後、ガラスモールドに注入した。このガラスモールドを20℃から140℃まで、50時間かけて昇温した。室温まで冷却させて、ガラスモールドから外し、成形体を得た。その後120℃で2時間アニール処理を行った。
成形体は無色透明であった。成形体の残存-SH基の定量をIR分析法によって行ったところ0.24%であった。また、これら成形体の離型性、染色性および耐衝撃性(ドロップボールテスト)を評価した。これらの結果を表-2に示す。
【0073】
【0074】
表-2に記載の化合物は以下のとおりである。
a2:ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート
b1:5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンと、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンと、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンとの混合物
【0075】
[比較例6]
触媒であるジブチル錫(II)ジクロリドを0.35重量部、内部離型剤として三井化学社製MR用内部離型剤を1.0重量部、紫外線吸収剤としてTinuvin326を15重量部、2,5-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタンと2,6-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタンとの混合物を50.6重量部仕込んで混合溶液を作製した。この混合溶液を25℃で1時間攪拌して完全に溶解させた。その後、この調合液に、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン434重量部を仕込み、これを25℃で30分攪拌し、均一溶液とした。この溶液を400Paにて1時間脱泡を行い、1μmPTFEフィルターにて濾過を行った後、ガラスモールドに注入した。このガラスモールドを20℃から140℃まで、19.2時間かけて昇温した。室温まで冷却させて、ガラスモールドから外し、成形体を得た。
成形体は無色透明であった。次に、成形体の残存-NCO基、-SH基の定量をIR分析法によって行った。また、これら成形体の離型性、染色性および耐衝撃性(ドロップボールテスト)を評価した。これらの結果を表-3に示す。
【0076】
[実施例8~11、比較例7~9]
重合時間を表-3に記載のように変化させた以外は比較例6と同様に成形体を調製した。
成形体は無色透明であった。次に、成形体の残存-NCO基、-SH基の定量をIR分析法によって行った。また、これら成形体の離型性、染色性および耐衝撃性(ドロップボールテスト)を評価した。これらの結果を表-3に示す。
【0077】
[実施例12]
撹拌羽根、温度計、圧力計を備えた調合容器に触媒であるジブチル錫(II)ジクロリドを0.015重量部、内部離型剤として三井化学社製MR用内部離型剤を0.1重量部、紫外線吸収剤としてTinuvin329を0.15重量部、m-キシリレンジイソシアネートを52重量部仕込み、25℃で1時間攪拌して完全に溶解させた。その後、この調合液に、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタンを48重量部仕込み、これを25℃で30分攪拌し、均一溶液とした。この溶液を400Paにて1時間脱泡を行い、1μmPTFEフィルターにて濾過を行った後、ガラスモールドに注入した。このガラスモールドを25℃から120℃まで昇温した。室温まで冷却させて、ガラスモールドから外し、成形体を得た。成形体は無色透明であった。次に、成形体の残存-SH基の定量をIR分析法によって行った結果、残存SH基濃度は1wt%であった。また、これら成形体の離型性、染色性および耐衝撃性(ドロップボールテスト)の評価結果は良好であった。
【0078】
【0079】
表-3に記載の化合物は以下のとおりである。
a3:2,5-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタンと2,6-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタンとの混合物
b2:4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン
【0080】
表-1~表-3に記載の結果から、成形体中のSH基の残存量が0.30wt%以上3.0wt%以下であると、離型性、耐衝撃性および染色性のバランスに優れることが確認された。
なお、プラスチック偏光レンズにおいても、同様の結果が得られることが推定された。
【0081】
この出願は、2019年3月15日に出願された日本出願特願2019-048082号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。